特許異議申立
2023-700378
保護素子
- 審判番号
- 2023-700378
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-186425
- 登録番号
- 7154090
- 請求日
- 2023年04月14日
- 審決日
- 2023年12月22日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ショット日本株式会社
- 【権利者代理人】西村 竜平
- 【権利者代理人】齊藤 真大
- 【権利者代理人】上村 喜永
- 【権利者代理人】中村 惇志
- 【異議申立人】横沢 聡
- 審判長/審判官
- 審判長 小川 恭司
- 審判官 吉田 昌弘
- 審判官 久島 弘太郎
- 分類
- P1651.121-YAA(H01H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7154090号発明「保護素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7154090号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕、〔3~4〕について訂正することを認める。
特許第7154090号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7154090号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成30年10月1日に出願され、令和4年10月6日にその特許権の設定登録がされ、令和4年10月17日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1~4に係る特許に対し、特許異議申立人横沢聡(以下「異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 4月14日 :異議申立人による特許異議の申立て
令和5年 6月30日付け:取消理由通知書
令和5年 9月 1日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和5年11月 2日 :異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和5年9月1日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1~2のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。
[訂正事項1]
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記電導手段は、前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極の電極間距離を他の電極間距離より広く設けたことにより、前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極間の電気抵抗を他の電極間の電気抵抗よりも大きくした」
と記載されているものを、
「前記電導手段は、前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極の電極間距離を他の電極間距離より広く設けたことにより、前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極間の電気抵抗を他の電極間の電気抵抗よりも大きくし、過電流印加時に前記所定の電極間の前記ヒューズ素子が、前記他の電極間の前記ヒューズ素子よりも先に溶断する」
に訂正する(請求項1の記載を直接的に引用する請求項2も同様に訂正する。)。
[訂正事項2]
特許請求の範囲の請求項3に、
「過電流時には、前記電導手段により、所定の前記ヒューズ素子が溶断する」
と記載されているものを、
「過電流時には、前記電導手段により、前記所定の電極間の前記ヒューズ素子が、前記他の電極間の前記ヒューズ素子よりも先に溶断する」
に訂正する(請求項3の記載を直接的に引用する請求項4も同様に訂正する。)。
2.一群の請求項について
上記訂正事項1に係る訂正前の請求項1~2について、訂正前の請求項2は、訂正前の請求項1の記載を直接的に引用するものであるから、上記訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~2は一群の請求項である。
上記訂正事項2に係る訂正前の請求項3~4について、訂正前の請求項4は、訂正前の請求項3の記載を直接的に引用するものであるから、上記訂正事項2によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項3~4は一群の請求項である。
よって、訂正事項1~2は、いずれも一群の請求項に対して請求されたものである。
3.訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び新規事項の有無
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載に「過電流印加時に前記所定の電極間の前記ヒューズ素子が、前記他の電極間の前記ヒューズ素子よりも先に溶断する」との事項を付加し、過電流印加時におけるヒューズ素子の溶断順序を限定するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項1は、上記(1)のとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、発明を特定する事項をより具体化するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
また、願書に添付した明細書の段落【0014】には、「例えば、中間電極を含むヒューズ電極のうち所定の電極間の電気抵抗を他の電極間の電気抵抗よりも大きくすることで、ヒューズ素子が接続する複数の電極間の過電流時における溶断順序を制御することができる。電気抵抗を高く設定したヒューズ電極のヒューズ素子が、それより電気抵抗が低いヒューズ電極のヒューズ素子より先に溶断するようにできる。」と記載されており、訂正事項1は段落【0014】の記載から導き出せる事項であるので、訂正事項1は願書に添付した明細書または特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項3の記載に「前記所定の電極間の前記ヒューズ素子が、前記他の電極間の前記ヒューズ素子よりも先に」との事項を付加し、過電流印加時におけるヒューズ素子の溶断順序を限定するものである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項2は、上記(2)のとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、発明を特定する事項をより具体化するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
また、願書に添付した明細書の段落【0017】には、「ヒューズ電極22aと中間電極23の電極間距離R1を広く設け、ヒューズ電極22bと中間電極23の電極間距離R2をR1よりも狭隘にして設けられた伝導手段を有する保護素子からなり、過電流時には、伝導手段によってヒューズ素子24aが先に溶断するように制御する」と記載されており、訂正事項2は段落【0017】の記載から導き出せる事項であるので、訂正事項2は願書に添付した明細書または特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
4.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件において、訂正前の全ての請求項1~4について特許異議の申立てがされているので、「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正事項1により訂正された訂正後の請求項1~2に係る発明、及び、「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正事項2により訂正された訂正後の請求項3~4に係る発明に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
5.小括
以上のとおりであるので、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕、〔3~4〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正により訂正された請求項1~4に係る発明(以下「本件発明1~4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
絶縁基板と、この絶縁基板に設けられた少なくとも一対のヒューズ電極と、前記絶縁基板に設けられ、前記ヒューズ電極の間に設けた中間電極と、前記ヒューズ電極と前記中間電極とに接合され、前記ヒューズ電極と前記中間電極に電気接続されたヒューズ素子と、前記絶縁基板に設けられ、前記中間電極と発熱電極に電気接続するように設けられた発熱体を備え、
前記ヒューズ素子は、前記ヒューズ電極および前記中間電極の電極間における前記ヒューズ素子の断面の寸法(または断面積)および材質が変わらず、
かつ、
前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち少なくとも一対の電極間の電導手段を他の電極間の電導手段と異なるように設け、前記電導手段は、前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極の電極間距離を他の電極間距離より広く設けたことにより、前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極間の電気抵抗を他の電極間の電気抵抗よりも大きくし、過電流印加時に前記所定の電極間の前記ヒューズ素子が、前記他の電極間の前記ヒューズ素子よりも先に溶断することを特徴とした保護素子。
【請求項2】
前記電導手段は、前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち一方の電極間R1の電極間距離を広く設け、他の電極間R2の電極間距離をR1より狭隘に設けることで、電極間R1の電気抵抗がR2より高くなるように設けられた請求項1に記載の保護素子。
【請求項3】
二次電池を過電流と過電圧から保護する電気回路であって、ヒューズ素子と発熱体を有する保護装置と、この保護装置の前記発熱体に電気接続され、前記二次電池の過電圧を検出し前記発熱体に流れる電流を制御する検知手段とを備え、
前記保護装置は、絶縁基板と、この絶縁基板に設けられた少なくとも一対のヒューズ電極と、該絶縁基板に設けられ該ヒューズ電極の間に設けた中間電極と、該ヒューズ電極と該中間電極に電気接続されたヒューズ素子と、該絶縁基板に設けられ該中間電極と発熱電極に電気接続して設けられた発熱体とを有し、
前記ヒューズ素子は、前記ヒューズ電極および前記中間電極の電極間における前記ヒューズ素子の断面の寸法(または断面積)および材質が変わらず、
かつ、
前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち少なくとも一対の電極間の電導手段を他の電極間の電導手段と異なるように設けられており、前記電導手段は、前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極の電極間距離を他の電極間距離より広く設けたことにより、前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極間の電気抵抗を他の電極間の電気抵抗よりも大きくなるように設けられた保護素子からなり、
過電流時には、前記電導手段により、前記所定の電極間の前記ヒューズ素子が、前記他の電極間の前記ヒューズ素子よりも先に溶断するとともに、
過電圧時には、前記検知手段により、前記二次電池の電圧が発熱体に印加され、前記発熱体が発熱し、前記ヒューズ素子が溶断して発熱体への印加を遮断することを特徴とした保護回路。
【請求項4】
前記電導手段は、前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち一方の電極間距離R1を広く設け、他の前記ヒューズ電極と前記中間電極との電極間距離R2をR1よりも狭隘にして設けられた請求項3に記載の保護回路。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
訂正前の請求項1~4に係る特許に対して、当審が令和5年6月30日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
〔進歩性〕本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~4に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
[引用文献等]
(1)甲第1号証:特開2008-311161号公報
(2)甲第2号証:特開2015-201313号公報
(3)甲第4号証:特開2016-21329号公報
第5 甲各号証に記載された事項及び引用発明
異議申立人は、特許異議申立書において、以下甲第1~5号証を提出している。
甲第1号証:特開2008-311161号公報
甲第2号証:特開2015-201313号公報
甲第3号証:特開2001-325868号公報
甲第4号証:特開2016-21329号公報
甲第5号証:特開平10-116549号公報
1.甲第1号証に記載された事項及び引用発明
甲第1号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(1)
「【0002】
過電流だけでなく過電圧も防止するために使用できる保護素子として、基板上に発熱抵抗体と低融点金属体(ヒューズエレメント)とを積層した保護素子が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2等参照。)。これら特許文献1及び特許文献2に記載された保護素子においては、異常時に発熱抵抗体に通電がなされ、当該発熱抵抗体が発熱することによってヒューズエレメントが溶融する。そして、この保護素子においては、溶融したヒューズエレメントが、当該ヒューズエレメントが載置されている電極表面に対する濡れ性のよさに起因して電極上に引き寄せられる。その結果、保護素子においては、ヒューズエレメントが溶断されて電流が遮断されることになる。」
(2)
「【0007】
このような事態は、例えば図7に示すように、ノートブック型のパーソナルコンピュータ等の電子機器本体に着脱されるバッテリーパックに搭載される保護素子110にみられる。すなわち、このようなバッテリーパックにおいては、通常はセル側と電子機器本体の充電器側との双方からの通電があることが想定されているが、バッテリーパックを電子機器本体から取り外した場合には、保護素子110に充電器が接続されていない状態となる。したがって、このような場合、保護素子110においては、充電器側からの通電がない状態となり、図6中2段目右側に示したような事態を招来することがあった。」
(3)
「【0015】
保護素子は、図1に平面図及び図2に断面図を示すように、所定の大きさのベース基板11上に、溶断によって電流を遮断するヒューズエレメント12と、異常時に発熱してヒューズエレメント12を溶融するための発熱抵抗体(ヒーター)13とが近接して配設されている。
【0016】
ベース基板11としては、絶縁性を有する材質のものであればいかなるものであってもよく、例えば、セラミックス基板やガラスエポキシ基板のようなプリント配線基板に用いられる基板の他、ガラス基板、樹脂基板、絶縁処理金属基板等を用いることができる。なお、これらの中で、耐熱性に優れ、熱良伝導性の絶縁基板であるセラミックス基板が好適である。
【0017】
また、ヒューズエレメント12としては、従来からヒューズ材料として使用されている種々の低融点金属体を用いることができ、例えば、特許第3067011号公報の表1に記載の合金等を用いることができる。具体的には、ヒューズエレメント12を形成する低融点金属としては、SnSb合金、BiSnPb合金、BiPbSn合金、BiPb合金、BiSn合金、SnPb合金、SnAg合金、PbIn合金、ZnAl合金、InSn合金、PbAgSn合金等を挙げることができる。また、ヒューズエレメント12の形状は、薄片状であってもよく、棒状であってもよい。
【0018】
さらに、発熱抵抗体13は、例えば、酸化ルテニウムやカーボンブラック等の導電材料と、水ガラス等の無機系バインダや熱硬化性樹脂等の有機系バインダとからなる抵抗ペーストを塗布し、必要に応じて焼成することによって形成される。また、発熱抵抗体13としては、酸化ルテニウムやカーボンブラック等の薄膜を、印刷、メッキ、蒸着、スパッタの工程を経て形成してもよく、これらフィルムの貼付や積層等によって形成してもよい。
【0019】
また、保護素子において、ベース基板11の表面には、ヒューズエレメント12と電気的に接続された3つのヒューズエレメント用電極14a,14b,14cと、発熱抵抗体13と電気的に接続された発熱抵抗体用電極15とが形成されている。これらヒューズエレメント用電極14a,14b,14c及び発熱抵抗体用電極15は、それぞれ、ガラス等の絶縁膜16を介して、発熱抵抗体13と絶縁された状態に配設されている。」
(4)
「【0026】
このような保護素子の回路構成は、図3に示すように表現することができる。すなわち、保護素子は、3つのヒューズエレメント用電極14a,14b,14c間に、低融点金属体からなる2つのヒューズエレメント12a,12bが架け渡されるように配設され、中央のヒューズエレメント用電極14bと発熱抵抗体用電極15との間に発熱抵抗体13が接続されて構成される。すなわち、この保護素子は、両側のヒューズエレメント用電極14a,14cのいずれか又は両方から中央のヒューズエレメント用電極14bへと向かう2つの経路が通電経路とされる。
【0027】
したがって、この保護素子においては、2つの通電経路の双方から通電がなされ、発熱抵抗体13が発熱すると、ヒューズエレメント用電極14a,14b間のヒューズエレメント12aと、ヒューズエレメント用電極14b,14c間のヒューズエレメント12bとが溶断し、被保護装置への通電を遮断するとともに、発熱抵抗体13への通電も遮断する。
【0028】
さて、本発明においては、このような保護素子におけるヒューズエレメント12a,12bのそれぞれの溶断時間を制御することにより、2つの通電経路のうち特定の通電経路から通電があった場合には、全てのヒューズエレメント12a,12bを溶断した後に発熱抵抗体13の発熱を停止させる。特に、保護素子は、「必ず最後に溶断するヒューズエレメント」を特定することができる構成とし、少なくともそのヒューズエレメントが接続されている通電経路から通電があった場合には、その他の全てのヒューズエレメントを先に溶断する。
【0029】
ここで、ヒューズエレメント12a,12bのそれぞれの溶断時間は、これらヒューズエレメント12a,12bの特性が互いに異なるように構成したり、ヒューズエレメント12a,12bに作用する発熱抵抗体13の特性を変更したり、ヒューズエレメント12a,12bが溶融した場合に流れ込むこととなるヒューズエレメント用電極14a,14b,14cの特性を変更したりすることにより、制御することができる。具体的には、ヒューズエレメント12a,12bのそれぞれの溶断時間は、主に以下の6つの方法のいずれか又は組み合わせによって制御することができる。
【0030】
まず、第1の方法は、各ヒューズエレメント12a,12bの断面積(幅及び/又は厚み)等、物理的形状に差を設けることである。例えば、保護素子においては、ヒューズエレメント12bの断面積よりもヒューズエレメント12aの断面積を大きくすることにより、ヒューズエレメント12aの溶断時間を、ヒューズエレメント12bの溶断時間よりも長くすることができる。また、保護素子においては、ヒューズエレメント12aとヒューズエレメント12bとの形状そのものを異なるものとすることによっても、これらヒューズエレメント12a,12bのそれぞれの溶断時間を異なるものとすることができる。」
(5)
「【0036】
保護素子においては、このような6つの方法のいずれか又は組み合わせにより、ヒューズエレメント12a,12bのそれぞれの溶断時間を制御することができる。換言すれば、保護素子は、2つのヒューズエレメント12a,12bのうち、溶断時間が長いヒューズエレメント、すなわち、「必ず最後に溶断するヒューズエレメント」を特定可能な構成となる。そのため、保護素子においては、少なくとも「必ず最後に溶断するヒューズエレメント」が接続されている通電経路から通電があった場合には、その他の全てのヒューズエレメントを先に溶断することができる。これは、少なくとも「必ず最後に溶断するヒューズエレメント」が接続されている通電経路から通電があった場合には、当該「必ず最後に溶断するヒューズエレメント」が溶断すれば全ての通電経路を遮断することが可能であることを意味している。」
(6)
「【0038】
このような保護素子は、例えばノートブック型のパーソナルコンピュータ等の電子機器本体に着脱されるバッテリーパックに搭載して好適である。すなわち、バッテリーパックにおいては、セル側が「必ず通電がある側の通電経路」に相当する。この場合、バッテリーパックにおいては、「必ず最後に溶断するヒューズエレメント」をセル側に接続することにより、当該バッテリーパックを電子機器本体から取り外すことによって充電器側から通電がない状態であったとしても、動作時には全てのヒューズエレメントを確実に溶断することが可能となり、安全性を大幅に向上させることができる。」
上記記載事項及び図1~3の記載からみて、甲第1号証には以下の事項が記載されていると認められる。
(7)
図1~2から、ヒューズエレメント用電極14bがヒューズエレメント用電極14a、14cの間に設けられていることが看取される。
(8)
図1~2から、ヒューズエレメント12がヒューズエレメント用電極14a、14b、14cに接合されていることが看取される。
(9)
段落【0026】の「中央のヒューズエレメント用電極14bと発熱抵抗体用電極15との間に発熱抵抗体13が接続されて構成される。」との記載及び図3から、発熱抵抗体13はヒューズエレメント用電極14bと発熱抵抗体用電極15に電気接続するように構成されているといえる。
(10)
段落【0017】には「ヒューズエレメント12を形成する低融点金属としては、SnSb合金、BiSnPb合金、BiPbSn合金、BiPb合金、BiSn合金、SnPb合金、SnAg合金、PbIn合金、ZnAl合金、InSn合金、PbAgSn合金等を挙げることができる。また、ヒューズエレメント12の形状は、薄片状であってもよく、棒状であってもよい。」と記載され、図1~2からは、薄片状または棒状のヒューズエレメント12が、ヒューズエレメント用電極14a、14b、14c間に架け渡されることが看取されることから、甲第1号証において、薄片状または棒状のヒューズエレメント12は同じ材質によって構成されており、したがってその材質は、ヒューズエレメント用電極14a、14b、14c間において変わらないと理解することが自然である。
(11)
段落【0019】の「ヒューズエレメント12と電気的に接続された3つのヒューズエレメント用電極14a,14b,14c」との記載、段落【0026】の「3つのヒューズエレメント用電極14a,14b,14c間に、低融点金属体からなる2つのヒューズエレメント12a,12bが架け渡されるように配設され」との記載、及び、図2~3から、ヒューズエレメント用電極14bを含むヒューズエレメント用電極14a、14b、14cについて、ヒューズエレメント用電極14aとヒューズエレメント用電極14bとの間には、ヒューズエレメント12aを含めた電導手段が設けられ、ヒューズエレメント用電極14bとヒューズエレメント用電極14cとの間には、ヒューズエレメント12bを含めた電導手段が設けられているといえる。
段落【0028】~【0029】における「ヒューズエレメント12a,12bのそれぞれの溶断時間を制御する」方法として、段落【0030】には「ヒューズエレメント12bの断面積よりもヒューズエレメント12aの断面積を大きくする」ことが記載されている。そうすると、当該方法は、ヒューズエレメント用電極14bとヒューズエレメント用電極14cとの間のヒューズエレメント12bの断面積を、ヒューズエレメント用電極14aとヒューズエレメント用電極14bとの間のヒューズエレメント12aの断面積と異なるように設けるものであるから、上記方法は、ヒューズエレメント用電極14bを含むヒューズエレメント用電極14a、14b、14cのうちヒューズエレメント用電極14bとヒューズエレメント用電極14cとの間の電導手段をヒューズエレメント用電極14aとヒューズエレメント用電極14bとの間の電導手段と異なるように設け、前記電導手段は、ヒューズエレメント用電極14bを含むヒューズエレメント用電極14a、14b、14cのうちヒューズエレメント用電極14bとヒューズエレメント用電極14cとの間のヒューズエレメント12bの断面積をヒューズエレメント用電極14aとヒューズエレメント用電極14bとの間のヒューズエレメント12aの断面積より小さくした(小さくなるように設けられた)構成を採用することによるものであるといえる。
そして、段落【0015】の「異常時に発熱してヒューズエレメント12を溶融するための発熱抵抗体(ヒーター)13」との記載、段落【0027】の「2つの通電経路の双方から通電がなされ、発熱抵抗体13が発熱すると、ヒューズエレメント用電極14a,14b間のヒューズエレメント12aと、ヒューズエレメント用電極14b,14c間のヒューズエレメント12bとが溶断し」との記載、及び、段落【0030】の「ヒューズエレメント12bの断面積よりもヒューズエレメント12aの断面積を大きくすることにより、ヒューズエレメント12aの溶断時間を、ヒューズエレメント12bの溶断時間よりも長くすることができる。」との記載を踏まえれば、上記構成により、異常時、特に発熱抵抗体13が発熱した時に、ヒューズエレメント用電極14bとヒューズエレメント用電極14cとの間のヒューズエレメント12bが、ヒューズエレメント用電極14aとヒューズエレメント用電極14bとの間のヒューズエレメント12aよりも先に溶断するものであることは明らかである。
(12)
段落【0002】の「過電流だけでなく過電圧も防止するために使用できる保護素子」という記載を踏まえれば、図7は、セル側の電池を過電流と過電圧から保護する回路構成を表していると理解され、図7から、当該回路構成が、セル側の電池のカソード及びアノードに電気的に接続される集積回路(IC)と、前記集積回路と相互作用をなす電界効果トランジスタとを備え、電界効果トランジスタは保護素子の発熱抵抗体と電気接続されていることが看取される。
甲第1号証における前記集積回路は、セル側の電池のカソード及びアノードに電気的に接続されていることから、バッテリーパックに搭載される保護素子の技術常識を踏まえれば、当該集積回路が、回路構成における過電流、過電圧といった異常時のうち特に過電圧時に対応するため、前記セル側の電池の過電圧を検出し発熱抵抗体に流れる電流を制御する検知手段として機能するものであると理解することが自然であり、甲第1号証においては、過電圧時には、前記集積回路により、セル側の電池の電圧が発熱抵抗体に印加され、前記発熱抵抗体が発熱し、ヒューズエレメントが溶断して発熱抵抗体への印加を遮断するものであると理解される。
以上の記載事項及び認定事項からみて、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明(1)」、「甲1発明(2)」という。)が記載されていると認められる。
[甲1発明(1)]
「ベース基板11と、このベース基板11に形成されたヒューズエレメント用電極14a、14cと、前記ベース基板11に形成され、前記ヒューズエレメント用電極14a、14cの間に設けたヒューズエレメント用電極14bと、前記ヒューズエレメント用電極14a、14cと前記ヒューズエレメント用電極14bとに接合され、前記ヒューズエレメント用電極14a、14cと前記ヒューズエレメント用電極14bに電気的に接続されたヒューズエレメント12と、前記ベース基板11に形成され、前記ヒューズエレメント用電極14bと発熱抵抗体用電極15に電気接続するように構成された発熱抵抗体13を備え、
前記ヒューズエレメント12は、前記ヒューズエレメント用電極14a、14cおよび前記ヒューズエレメント用電極14bの電極間における前記ヒューズエレメント12の材質が変わらず、
かつ、
前記ヒューズエレメント用電極14bを含むヒューズエレメント用電極14a、14b、14cのうちヒューズエレメント用電極14bとヒューズエレメント用電極14cとの間の電導手段をヒューズエレメント用電極14aとヒューズエレメント用電極14bとの間の電導手段と異なるように設け、前記電導手段は、前記ヒューズエレメント用電極14bを含むヒューズエレメント用電極14a、14b、14cのうちヒューズエレメント用電極14bとヒューズエレメント用電極14cとの間のヒューズエレメント12bの断面積をヒューズエレメント用電極14aとヒューズエレメント用電極14bとの間のヒューズエレメント12aの断面積より小さくし、発熱抵抗体13が発熱した時に前記ヒューズエレメント用電極14bと前記ヒューズエレメント用電極14cとの間の前記ヒューズエレメント12bが、前記ヒューズエレメント用電極14aと前記ヒューズエレメント用電極14bとの間の前記ヒューズエレメント12aよりも先に溶断する保護素子。」
[甲1発明(2)]
「セル側の電池を過電流と過電圧から保護する回路構成であって、ヒューズエレメント12と発熱抵抗体13が配設された保護素子を含む構成と、この保護素子を含む構成の前記発熱抵抗体13に電気接続され、前記セル側の電池の過電圧を検出し前記発熱抵抗体13に流れる電流を制御する集積回路とを備え、
前記保護素子を含む構成は、ベース基板11と、このベース基板11に形成されたヒューズエレメント用電極14a、14cと、該ベース基板11に形成され該ヒューズエレメント用電極14a、14cの間に設けたヒューズエレメント用電極14bと、該ヒューズエレメント用電極14a、14cと該ヒューズエレメント用電極14に電気的に接続されたヒューズエレメント12と、該ベース基板11に形成され該ヒューズエレメント用電極14bと発熱抵抗体用電極15に電気接続するように構成された発熱抵抗体13とを備え、
前記ヒューズエレメント12は、前記ヒューズエレメント用電極14a、14cおよび前記ヒューズエレメント用電極14bの電極間における前記ヒューズエレメント12の材質が変わらず、
かつ、
前記ヒューズエレメント用電極14bを含むヒューズエレメント用電極14a、14b、14cのうちヒューズエレメント用電極14bとヒューズエレメント用電極14cとの間の電導手段をヒューズエレメント用電極14aとヒューズエレメント用電極14bとの間の電導手段と異なるように設けられており、前記電導手段は、前記ヒューズエレメント用電極14bを含むヒューズエレメント用電極14a、14b、14cのうちヒューズエレメント用電極14bとヒューズエレメント用電極14cとの間のヒューズエレメント12bの断面積をヒューズエレメント用電極14aとヒューズエレメント用電極14bとの間のヒューズエレメント12aの断面積より小さくなるように設けられた保護素子からなり、
発熱抵抗体13が発熱した時には、前記電導手段により、前記ヒューズエレメント用電極14bと前記ヒューズエレメント用電極14cとの間の前記ヒューズエレメント12bが、前記ヒューズエレメント用電極14aと前記ヒューズエレメント用電極14bとの間の前記ヒューズエレメント12aよりも先に溶断するとともに、
過電圧時には、前記集積回路により、前記セル側の電池の電圧が発熱抵抗体に印加され、前記発熱抵抗体が発熱し、前記ヒューズエレメント12が溶断して発熱抵抗体への印加を遮断する回路構成。」
2.甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(1)
「【0071】
また、上述したように、保護素子20は、可溶導体22によって構成される第1、第2のヒューズ13,14のうち、第2のヒューズ14が先に溶断することが好ましい。このため、保護素子20は、例えば発熱体15を第2のヒューズ14と重畳させ、より効率よく第2のヒューズ14が加熱されるようにしてもよい。また、保護素子20は、可溶導体が支持される長さが長いほど溶断しやすいことから、例えば発熱体引出電極18から第1の電極11までの距離よりも、発熱体引出電極18から第2の電極12までの距離を長く設けてもよい。さらに、保護素子20は、フラックスを第2のヒューズ14側に偏倚して設けるようにしてもよい。」
3.甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(1)
「【0024】図5の保護素子1Cは、図1の保護素子1Aにおいて、一つの低融点金属体5を3つの独立した金属体5a、5b、5cから形成し、さらにそのうちの中間の金属体5cを、両側の低融点金属体5a、5bよりも溶融温度の高い低融点金属体5c’に代えたものである。この保護素子1Cによれば、低融点金属体5aに比して低融点金属体5bの溶断までの時間が遅れるので、低融点金属体用電極7a、7bに接続する被保護回路側の2つの端子間で、回路が遮断されるまでの時間に差を設けたい場合に有効である。」
4.甲第4号証に記載された事項
甲第4号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(1)
「【0057】
[張出し部]
また、ヒューズ素子1は、図10(A)(B)に示すように、第1、第2の電極3,4の1つのエレメント部7が接続される部位が張り出す張出し部3a,4aを形成し、張出し部3a,4a間における電極間距離が、他のエレメント部7が接続される部位の電極間距離よりも短くしてもよい。
【0058】
張出し部3a,4a上にもエレメント部7を搭載することにより、当該エレメント部7は、第1、第2の電極3,4及び張出し部3a,4aとの接触面積が増える。このため、当該エレメント部7は、電流が流れて自己発熱した場合にも、第1、第2の電極3,4及びその張出し部3a,4aを介して放熱されることから、張出し部3a,4aが設けられていない部位に搭載された他のエレメント部7に比して冷めやすくなり、他のエレメント部7よりも遅れて溶断する。これにより、ヒューズ素子1は、ヒューズエレメント5のエレメント部7を順次溶断させることができる。
【0059】
また、張出し部3a,4aを設けることにより、電極間距離が他のエレメント部に比して短くなる。エレメント部7は、電極間距離が長くなるほど溶断しやすくなることから、張出し部3a,4a上に搭載されたエレメント部7は、他のエレメント部7よりも溶断されにくく、他のエレメント部7に遅れて溶断する。これによっても、ヒューズ素子1は、ヒューズエレメント5のエレメント部7を順次溶断させることができる。」
5.甲第5号証に記載された事項
甲第5号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(1)
「【0014】上記何れの本発明に係る保護素子においても、低融点可溶合金片Bは低融点可溶合金片Aに較べ抵抗Rから隔たっているので、溶断し難い。従って、低融点可溶合金片Bの融点を低融点可溶合金片Aの融点より低くすること、または低融点可溶合金片Bの電極間長さを低融点可溶合金片Aの電極間長さよりも長くして低融点可溶合金片Bの絶縁基板に対する接触面積を低融点可溶合金片Aの絶縁基板に対する接触面積より大にし上記したはじきを強くすることが有効である。」
第6 当審の判断
1.取消理由通知に記載した取消理由について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明(1)とを対比する。
(ア)
甲1発明(1)の「ベース基板11」は、甲第1号証の段落【0016】の「ベース基板11としては、絶縁性を有する材質のものであればいかなるものであってもよく」という記載に鑑みれば、絶縁性を有するものであるから、本件発明1の「絶縁基板」に相当する。
甲1発明(1)の「このベース基板11に形成された」という事項は、ベース基板に設けられることであるから、本件発明1の「この絶縁基板に設けらた」という事項に相当し、甲1発明(1)の「ヒューズエレメント用電極14a、14c」は、甲第1号証の図2~3から、ヒューズエレメント用電極14bに対して両側に一対形成されたものであるから、本件発明1の「一対のヒューズ電極」に相当する。そうすると、甲1発明(1)の「このベース基板11に形成されたヒューズエレメント用電極14a、14c」は、本件発明1の「この絶縁基板に設けられた少なくとも一対のヒューズ電極」に相当する。
甲1発明(1)の「前記ベース基板11に形成され」るという事項は、ベース基板に設けられることであるから、本件発明1の「前記絶縁基板に設けられ」るという事項に相当し、甲1発明(1)の「ヒューズエレメント用電極14b」は、甲第1号証の図3から、ヒューズエレメント用電極14a、14cの中間に形成されたものであるから、本件発明1の「中間電極」に相当する。そうすると、甲1発明(1)の「前記ベース基板11に形成され、前記ヒューズエレメント用電極14a、14cの間に設けたヒューズエレメント用電極14b」は、本件発明1の「前記絶縁基板に設けられ、前記ヒューズ電極の間に設けた中間電極」に相当する。
甲1発明(1)の「前記ヒューズエレメント用電極14a、14cと前記ヒューズエレメント用電極14bとに接合され、前記ヒューズエレメント用電極14a、14cと前記ヒューズエレメント用電極14bに電気的に接続されたヒューズエレメント12」は、本件発明1の「前記ヒューズ電極と前記中間電極とに接合され、前記ヒューズ電極と前記中間電極に電気接続されたヒューズ素子」に相当する。
甲1発明(1)の「前記ベース基板11に形成され、前記ヒューズエレメント用電極14bと発熱抵抗体用電極15に電気接続するように構成され」るという事項は、本件発明1の「前記絶縁基板に設けられ、前記中間電極と発熱電極に電気接続するように設けられ」るという事項に相当し、甲1発明(1)の「前記ベース基板11に形成され、前記ヒューズエレメント用電極14bと発熱抵抗体用電極15に電気接続するように構成された発熱抵抗体13」は、本件発明1の「前記絶縁基板に設けられ、前記中間電極と発熱電極に電気接続するように設けられた発熱体」に相当する。
(イ)
甲1発明(1)の「前記ヒューズエレメント12は、前記ヒューズエレメント用電極14a、14cおよび前記ヒューズエレメント用電極14bの電極間における前記ヒューズエレメント12の材質が変わら(ず)」ないという事項は、本件発明1の「前記ヒューズ素子は、前記ヒューズ電極および前記中間電極の電極間における前記ヒューズ素子の断面の寸法(または断面積)および材質が変わら(ず)」ないという事項に対して、「前記ヒューズ素子の材質が変わら」ないという限りにおいて一致する。
(ウ)
甲1発明(1)の「前記ヒューズエレメント用電極14bを含むヒューズエレメント用電極14a、14b、14c」は、本件発明1の「前記中間電極を含む前記ヒューズ電極」に相当し、甲1発明(1)の「ヒューズエレメント用電極14bとヒューズエレメント用電極14cとの間の電導手段」、「ヒューズエレメント用電極14aとヒューズエレメント用電極14bとの間の電導手段」及び「電導手段」は、本件発明1の「少なくとも一対の電極間の電導手段」、「他の電極間の電導手段」及び「電導手段」にそれぞれ相当するから、甲1発明(1)の「前記ヒューズエレメント用電極14bを含むヒューズエレメント用電極14a、14b、14cのうちヒューズエレメント用電極14bとヒューズエレメント用電極14cとの間の電導手段をヒューズエレメント用電極14aとヒューズエレメント用電極14bとの間の電導手段と異なるように設け」るという事項は、本件発明1の「前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち少なくとも一対の電極間の電導手段を他の電極間の電導手段と異なるように設け」るという事項に相当する。
甲1発明(1)の「前記電導手段は、前記ヒューズエレメント用電極14bを含むヒューズエレメント用電極14a、14b、14cのうちヒューズエレメント用電極14bとヒューズエレメント用電極14cとの間のヒューズエレメント12bの断面積をヒューズエレメント用電極14aとヒューズエレメント用電極14bとの間のヒューズエレメント12aの断面積より小さくし」たという事項は、本件発明1の「前記電導手段は、前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極の電極間距離を他の電極間距離より広く設けた」という事項に対して、「前記電導手段は、前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極の電極間における特性を他の電極間における特性と異ならせた」という限りにおいて一致する。
甲1発明(1)の「発熱抵抗体13が発熱した時に前記ヒューズエレメント用電極14bと前記ヒューズエレメント用電極14cとの間の前記ヒューズエレメント12bが、前記ヒューズエレメント用電極14aと前記ヒューズエレメント用電極14bとの間の前記ヒューズエレメント12aよりも先に溶断する」という事項は、本件発明1の「過電流印加時に前記所定の電極間の前記ヒューズ素子が、前記他の電極間の前記ヒューズ素子よりも先に溶断する」という事項に対して、「特定の条件下において前記所定の電極間の前記ヒューズ素子が、前記他の電極間の前記ヒューズ素子よりも先に溶断する」という限りにおいて一致する。
甲1発明(1)の「保護素子」は、本件発明1の「保護素子」に相当する。
(エ)
以上のとおりであるから、本件発明1と甲1発明(1)との一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点1]
「絶縁基板と、この絶縁基板に設けられた少なくとも一対のヒューズ電極と、前記絶縁基板に設けられ、前記ヒューズ電極の間に設けた中間電極と、前記ヒューズ電極と前記中間電極とに接合され、前記ヒューズ電極と前記中間電極に電気接続されたヒューズ素子と、前記絶縁基板に設けられ、前記中間電極と発熱電極に電気接続するように設けられた発熱体を備え、
前記ヒューズ素子は、前記ヒューズ電極および前記中間電極の電極間における前記ヒューズ素子の材質が変わらず、
かつ、
前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち少なくとも一対の電極間の電導手段を他の電極間の電導手段と異なるように設け、前記電導手段は、前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極の電極間における特性を他の電極間における特性と異ならせ、特定の条件下において前記所定の電極間の前記ヒューズ素子が、前記他の電極間の前記ヒューズ素子よりも先に溶断する保護素子。」
[相違点1]
本件発明1では、ヒューズ電極および中間電極の電極間におけるヒューズ素子の形状について、ヒューズ素子の「断面の寸法(または断面積)」が変わらないという構成を採用するとともに、ヒューズ電極の電導手段について、所定の電極の電極間と他の電極間において異ならせる特性に関し、本件発明1では、前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極の「電極間距離」を他の「電極間距離より広く設けた」ことにより、「前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極間の電気抵抗を他の電極間の電気抵抗よりも大きくし」たものであり、かつ、所定の電極間のヒューズ素子が、他の電極間のヒューズ素子よりも先に溶断する際の条件に関し、本件発明1では、「過電流印加時に」前記所定の電極間の前記ヒューズ素子が、前記他の電極間の前記ヒューズ素子よりも先に溶断するものであるのに対して、甲1発明(1)では、ヒューズ素子の形状及びヒューズ電極の電導手段について、ヒューズエレメント用電極14bとヒューズエレメント用電極14cとの間のヒューズエレメント12bの断面積をヒューズエレメント用電極14aとヒューズエレメント用電極14bとの間のヒューズエレメント12aの断面積より小さくしたものであり、かつ、先に溶断する際の条件に関して、発熱抵抗体13が発熱した時に前記ヒューズエレメント用電極14bと前記ヒューズエレメント用電極14cとの間の前記ヒューズエレメント12bが、前記ヒューズエレメント用電極14aと前記ヒューズエレメント用電極14bとの間の前記ヒューズエレメント12aよりも先に溶断するものである点。
イ 判断
上記相違点1について検討する。
甲第2号証には、保護素子20として、発熱体15によりヒューズを加熱することによってヒューズを溶断させるものにおいて、可溶導体22によって構成される第1のヒューズ13、第2のヒューズ14のうち、第2のヒューズ14を先に溶断させるために、発熱体引出電極18から第2の電極12までの距離を発熱体引出電極18から第1の電極11までの距離より大きくするという技術的事項が記載されている。
また、甲第4号証には、エレメント部7に電流が流れて自己発熱することによってエレメント部7を溶断させるものにおいて、所定のエレメント部を他のエレメント部よりも溶断しやすくするため、所定のエレメント部における電極間距離を他のエレメント部における電極間距離より長くするという技術的事項が記載されている。
甲第2号証に記載された技術的事項は、発熱体によりヒューズを加熱することを溶断のための手段とするものであって、電極間距離を変更することによりヒューズへの熱の伝達を調整し溶断の制御を行うという機能を実現するものである一方、甲第4号証に記載された技術的事項は、ヒューズが自己発熱することを溶断のための手段とするものであって、電極間距離を変更することによりヒューズの溶断容易性を調整し溶断の制御を行うという機能を実現するものであるから、両者はヒューズを溶断させるための手段、及び、溶断の制御を行うための機能が相違するものであるといえる。そうすると、溶断のための手段及び溶断の制御を行うための機能の相違を捨象し、甲第2号証に記載された技術的事項と甲第4号証に記載された技術的事項とを上位概念化して、溶断のための手段及び溶断の制御を行うための機能に関係なく、「ヒューズ素子の溶断時間を制御することを目的として、所定のヒューズ素子に対応するヒューズ電極の電極間距離を、他のヒューズ素子に対応するヒューズ電極の電極間距離より広く設けたことにより、所定のヒューズ素子に対応するヒューズ電極の電極間の電気抵抗を他のヒューズ素子に対応するヒューズ電極の電極間の電気抵抗よりも大きくした構成を採用すること」が周知技術であるとはいえない。
また、甲第2号証には、上記「第5 2.」で検討したとおり、第1のヒューズ13及び第2のヒューズ14について、両者の断面の寸法(または断面積)が変わらず、発熱体引出電極18から第2の電極12との間の電気抵抗を発熱体引出電極18から第1の電極11との間の電気抵抗より大きくしたことについては、記載も示唆もされていない。したがって、甲1発明(1)と甲第2号証とが、発熱抵抗体によりヒューズエレメントを溶断させるという点で機能、作用が共通し、甲1発明(1)に甲第2号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるとしても、甲第2号証に記載された技術的事項は、甲1発明(1)において、本件発明1の上記相違点1に係る、ヒューズ素子の「断面の寸法(または断面積)」が変わらないという構成、及び、「前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極間の電気抵抗を他の電極間の電気抵抗よりも大きくし」たという構成を採用することを示唆するものではない。
加えて、甲1発明(1)及び甲第2号証に記載された技術的事項は、発熱抵抗体によりヒューズエレメントを溶断させるものであるから、甲1発明(1)及び甲第2号証には、過電流時に所定の電極間のヒューズ素子が他の電極間のヒューズ素子よりも先に溶断することについて、記載も示唆もされていない。そうすると、甲1発明(1)及び甲第2号証に記載された技術的事項を踏まえても、本件発明1の上記相違点1に係る、「過電流時に」所定の電極間のヒューズ素子が、他の電極間のヒューズ素子よりも先に溶断するという構成を採用する動機付けがあるとはいえない。
さらに、甲1発明(1)は、発熱抵抗体によりヒューズエレメントを加熱することを溶断のための手段とするものであって、発熱抵抗体からヒューズへの熱の伝達を調整し溶断の制御を行うという機能を実現するものである一方、甲第4号証に記載された技術的事項は、ヒューズが自己発熱することを溶断のための手段とするものであって、電極間距離を変更することによりヒューズの溶断容易性を調整し溶断の制御を行うという機能を実現するものであり、両者はヒューズを溶断させるための手段、及び、溶断の制御を行うための機能が相違するものであるから、甲1発明(1)に甲第4号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1発明(1)及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲1発明(1)、及び甲第2号証、甲第4号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の事項をすべて含みさらに限定を付すものであるので、本件発明1と同様に、甲1発明(1)及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲1発明(1)、及び甲第2号証、甲第4号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明3について、
ア 対比
本件発明3と甲1発明(2)とを対比する。
(ア)
甲1発明(2)の「セル側の電池」は、甲第1号証の段落【0007】の「バッテリーパックに搭載される保護素子110」という記載に鑑みれば、バッテリーパックに搭載されるものであるから、本件発明3の「二次電池」に相当し、甲1発明(2)の「回路構成」は、本件発明3の「保護回路」に相当するから、甲1発明(2)の「セル側の電池を過電流と過電圧から保護する回路構成」は、本件発明3の「二次電池を過電流と過電圧から保護する電気回路」に相当する。
甲1発明(2)の「ヒューズエレメント12と発熱抵抗体13が配設された保護素子を含む構成」は、本件発明3の「ヒューズ素子と発熱体を有する保護装置」に相当し、甲1発明(2)の「集積回路」は、本件発明3の「検知手段」に相当する。
(イ)
以上のことと、上記「(1)ア(ア)~(ウ)」から、本件発明3と甲1発明(2)とは、以下の相違点2で相違し、その余の点で一致する。
[相違点2]
本件発明3では、ヒューズ電極および中間電極の電極間におけるヒューズ素子の形状について、ヒューズ素子の「断面の寸法(または断面積)」が変わらないという構成を採用するとともに、ヒューズ電極の電導手段について、所定の電極の電極間と他の電極間において異ならせる特性に関し、本件発明3では、前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極の「電極間距離」を他の「電極間距離より広く設けた」ことにより、「前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極間の電気抵抗を他の電極間の電気抵抗よりも大きくなるように設けられた」ものであり、かつ、所定の電極間のヒューズ素子が、他の電極間のヒューズ素子よりも先に溶断する際の条件に関し、本件発明3では、「過電流印加時には」前記所定の電極間の前記ヒューズ素子が、前記他の電極間の前記ヒューズ素子よりも先に溶断するものであるのに対して、甲1発明(2)では、ヒューズ素子の形状及びヒューズ電極の電導手段について、ヒューズエレメント用電極14bとヒューズエレメント用電極14cとの間のヒューズエレメント12bの断面積をヒューズエレメント用電極14aとヒューズエレメント用電極14bとの間のヒューズエレメント12aの断面積より小さくなるように設けられたものであり、かつ、先に溶断する際の条件に関して、発熱抵抗体13が発熱した時に前記ヒューズエレメント用電極14bと前記ヒューズエレメント用電極14cとの間の前記ヒューズエレメント12bが、前記ヒューズエレメント用電極14aと前記ヒューズエレメント用電極14bとの間の前記ヒューズエレメント12aよりも先に溶断するものである点。
イ 判断
上記相違点2について検討する。
上記「(1)イ」で検討したとおり、甲第2号証に記載された技術的事項と甲第4号証に記載された技術的事項とは、ヒューズを溶断させるための手段、及び、溶断の制御を行うための機能が相違するものであるから、溶断のための手段及び溶断の制御を行うための機能の相違を捨象し、甲第2号証に記載された技術的事項と甲第4号証に記載された技術的事項とを上位概念化して、溶断のための手段及び溶断の制御を行うための機能に関係なく、「ヒューズ素子の溶断時間を制御することを目的として、所定のヒューズ素子に対応するヒューズ電極の電極間距離を、他のヒューズ素子に対応するヒューズ電極の電極間距離より広く設けたことにより、所定のヒューズ素子に対応するヒューズ電極の電極間の電気抵抗を他のヒューズ素子に対応するヒューズ電極の電極間の電気抵抗よりも大きくした構成を採用すること」が周知技術であるとはいえない。
また、甲第2号証には、上記「第5 2.」で検討したとおり、第1のヒューズ13及び第2のヒューズ14について、両者の断面の寸法(または断面積)が変わらず、発熱体引出電極18から第2の電極12との間の電気抵抗を発熱体引出電極18から第1の電極11との間の電気抵抗より大きくしたことについては、記載も示唆もされていない。そうすると、上記「(1)イ」において検討したとおり、たとえ甲1発明(2)に甲第2号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるとしても、甲第2号証に記載された技術的事項は、甲1発明(2)において、本件発明3の上記相違点2に係る、ヒューズ素子の「断面の寸法(または断面積)」が変わらないという構成、及び、「前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極間の電気抵抗を他の電極間の電気抵抗よりも大きくなるように設けられた」という構成を採用することを示唆するものではない。
加えて、甲1発明(2)及び甲第2号証に記載された技術的事項は、発熱抵抗体によりヒューズエレメントを溶断させるものであるから、甲1発明(2)及び甲第2号証には、過電流時に所定の電極間のヒューズ素子が他の電極間のヒューズ素子よりも先に溶断することについて、記載も示唆もされていない。そうすると、上記「(1)イ」で検討したとおり、甲1発明(2)及び甲第2号証に記載された技術的事項を踏まえても、本件発明3の上記相違点2に係る、「過電流時に」所定の電極間のヒューズ素子が、他の電極間のヒューズ素子よりも先に溶断するという構成を採用する動機付けがあるとはいえない。
さらに、上記「(1)イ」で検討したとおり、甲1発明(2)に甲第4号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるとはいえない。
したがって、本件発明3は、甲1発明(2)及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲1発明(2)、及び甲第2号証、甲第4号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明3の事項をすべて含みさらに限定を付すものであるので、本件発明3と同様に、甲1発明(2)及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲1発明(2)、及び甲第2号証、甲第4号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)異議申立人の主張について
異議申立人は、上記甲第1~5号証を提出し、特許異議申立書において、本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証(主引用例1)記載の発明、甲第2号証(副引用例1)記載の発明、甲第3号証(副引用例2)記載の発明、甲第4号証(周知例1)の記載、甲第5号証(周知例2)の記載に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨主張する。
(2)甲各号証等について
甲第1~5号証に記載された事項については、上記「第5 1~5」に記載したとおりである。
(3)本件発明についての検討
本件発明1と甲1発明(1)との一致点及び相違点は、上記「1.(1)ア(エ)」にて述べたとおりである。
上記相違点1について検討する。
上記「1.(1)イ」で検討したとおり、たとえ甲1発明(1)に甲第2号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるとしても、甲第2号証に記載された技術的事項は、甲1発明(1)において、本件発明1の上記相違点1に係る、ヒューズ素子の「断面の寸法(または断面積)」が変わらないという構成、及び、「前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極間の電気抵抗を他の電極間の電気抵抗よりも大きくし」たという構成を採用することを示唆するものではない。
加えて、上記「1.(1)イ」で検討したとおり、甲1発明(1)及び甲第2号証に記載された技術的事項を踏まえても、本件発明1の上記相違点1に係る、「過電流時に」所定の電極間のヒューズ素子が、他の電極間のヒューズ素子よりも先に溶断するという構成を採用する動機付けがあるとはいえない。
甲第3号証には、上記「第5 2.」で検討したとおり、金属体の溶融温度に差を付けることによって、金属体用電極が溶融される時間に差異を設けることが記載されているといえる。
しかしながら、甲第3号証には、低融点金属体5a及び低融点金属体5bについて、両者の断面の寸法(または断面積)が変わらないこと、及び、低融点金属体用電極7cから低融点金属体用電極7aとの間の電気抵抗を低融点金属体用電極7cから低融点金属体用電極7bとの間の電気抵抗より大きくしたことについては、記載も示唆もされていない。そうすると、たとえ甲1発明(1)に甲第3号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるとしても、甲第3号証に記載された技術的事項は、甲1発明(1)において、本件発明1の上記相違点1に係る、ヒューズ素子の「断面の寸法(または断面積)」が変わらないという構成、及び、「前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極間の電気抵抗を他の電極間の電気抵抗よりも大きくし」たという構成を採用することを示唆するものではない。
加えて、甲第3号証に記載された技術的事項は、発熱体により低融点金属体を溶断させるものであるから、甲第3号証には、過電流時に所定の電極間のヒューズ素子が他の電極間のヒューズ素子よりも先に溶断することについて、記載も示唆もされていない。そうすると、甲1発明(1)及び甲第3号証に記載された技術的事項を踏まえても、本件発明1の上記相違点1に係る、「過電流時に」所定の電極間のヒューズ素子が、他の電極間のヒューズ素子よりも先に溶断するという構成を採用する動機付けがあるとはいえない。
上記「1.(1)イ」で検討したとおり、甲1発明(1)と甲第4号証とは、ヒューズを溶断させるための手段、及び、溶断の制御を行うための機能が相違するものであるから、甲1発明(1)に甲第4号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるとはいえない。
甲第5号証には、上記「第5 2.」で検討したとおり、低融点可溶合金片Bと抵抗Rとの距離を、低融点可溶合金片Aと抵抗Rとの距離より広く設けたことにより、低融点可溶合金片Bが低融点可溶合金片Aより遅く溶断するという技術的事項が記載されているといえる。
しかしながら、甲第5号証には、低融点可溶合金片A及び低融点可溶合金片Bについて、両者の断面の寸法(または断面積)が変わらないこと、及び、第3電極23から第2電極22を介した第1電極21との間の電気抵抗を第3電極23から第4電極24との間の電気抵抗より大きくしたことについては、記載も示唆もされていない。そうすると、たとえ甲1発明(1)に甲第5号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるとしても、甲第5号証に記載された技術的事項は、甲1発明(1)において、本件発明1の上記相違点1に係る、ヒューズ素子の「断面の寸法(または断面積)」が変わらないという構成、及び、「前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極間の電気抵抗を他の電極間の電気抵抗よりも大きくし」たという構成を採用することを示唆するものではない。
加えて、甲第5号証に記載された技術的事項は、抵抗の発熱により低融点可溶合金片を溶断させるものであるから、甲第5号証には、過電流時に所定の電極間のヒューズ素子が他の電極間のヒューズ素子よりも先に溶断することについて、記載も示唆もされていない。そうすると、甲1発明(1)及び甲第5号証に記載された技術的事項を踏まえても、本件発明1の上記相違点1に係る、「過電流時に」所定の電極間のヒューズ素子が、他の電極間のヒューズ素子よりも先に溶断するという構成を採用する動機付けがあるとはいえない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証記載の発明、甲第2号証記載の発明、甲第3号証記載の発明、甲第4号証の記載、甲第5号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
本件発明2は、本件発明1の事項をすべて含みさらに限定を付すものであるので、本件発明1と同様に、甲第1号証記載の発明、甲第2号証記載の発明、甲第3号証記載の発明、甲第4号証の記載、甲第5号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明3は、上記「1.(3)」で検討したとおり、甲1発明(2)と上記相違点2で相違する。
そうすると、上記「1.(3)」及び「2.(3)」で検討したのと同様に、本件発明3は、甲第1号証記載の発明、甲第2号証記載の発明、甲第3号証記載の発明、甲第4号証の記載、甲第5号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
本件発明4は、本件発明3の事項をすべて含みさらに限定を付すものであるので、本件発明3と同様に、甲第1号証記載の発明、甲第2号証記載の発明、甲第3号証記載の発明、甲第4号証の記載、甲第5号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3.異議申立人の主張について
異議申立人は、令和5年11月2日に提出した意見書において、「(2)取消理由通知書における周知技術の認定について」として、「令和5年9月1日付意見書では、・・・具体的な溶断動作機構の相違や、また、この相違に基づいて、溶断順序の制御の観点からどのように相違するのかについては記載されていない。したがって、令和5年9月1日付意見書の主張によっては、取消理由通知書における周知技術の認定に誤りがあるとはいえない。」(第3ページ第8~15行)との旨の主張(以下、「主張1」という。)、「甲2発明は、甲1発明と同様に過電圧時において発熱体を通電、発熱させて可溶導体を溶断するものであり、・・・甲2発明において、可溶導体22によって構成される第1、第2のヒューズ13,14のうち、第2のヒューズ14が先に溶断しやすいことから、発熱体引出電極18から第1の電極11までの距離よりも、発熱体引出電極18から第2の電極12までの距離を長く設けることが記載されている。すなわち、甲1発明と甲2発明とは課題ないし作用、機能の共通性を有し、また、甲第2号証には、甲1発明に甲2発明を適用する示唆が有る。・・・甲4の周知技術を踏まえ、所定の電極の電極間距離を他の電極間距離より広く設けたことにより、所定の電極間の電気抵抗が他の電極間の電気抵抗よりも大きく、過電流時において溶断順序が制御可能となるとの効果を奏することは、当業者において予測可能である。」(第3ページ第16~第4ページ第10行)との旨の主張(以下、「主張2」という。)、「甲1発明や本件特許発明のように、過電流モード及び過電圧モードという異なる溶断動作機構を兼ね備える保護素子においては・・・、発熱体に流れる電流をスイッチする電圧検知用ICとFETからなる検知手段を備え・・・、過電圧モードにおいてのみ発熱抵抗体が通電される。そして、甲1発明や本件特許発明においても、過電流モードでは、発熱体は溶断動作に関与しないため、甲4発明とその溶断動作機構に違いはない。」(第4ページ第15~22行)との旨の主張(以下、「主張3」という。)を行い、さらに「(3)甲1発明に甲2発明、甲4発明を組み合わせる動機付け」として、「甲1発明も本件特許発明と同様に通電経路上にヒューズエレメントが接続されるものであり、本件特許発明において過電流モード及び過電圧モードという異なる溶断動作機構を兼ね備える以上、同様の構成を備える甲1発明においても同様に過電流モード及び過電圧モードという異なる溶断動作機構を兼ね備えることは当然である。そして、溶断動作において、溶断順序の制御を行うという課題を有する甲1発明において、同じく溶断順序の制御を行う甲2及び甲4に係る構成を適用する動機付けがあるといえる。」(第4ページ第27行~第5ページ第7行)との旨の主張(以下、「主張4」という。)を行っている。
しかしながら、上記主張1について、上記「1.(1)イ」で検討したとおり、甲第2号証に記載された技術的事項と甲第4号証に記載された技術的事項とは、ヒューズを溶断させるための手段、及び、溶断の制御を行うための機能が相違するから、溶断のための手段及び溶断の制御を行うための機能の相違を捨象し、甲第2号証に記載された技術的事項と甲第4号証に記載された技術的事項とを上位概念化し、溶断のための手段及び溶断の制御を行うための機能に関係なく、「ヒューズ素子の溶断時間を制御することを目的として、所定のヒューズ素子に対応するヒューズ電極の電極間距離を、他のヒューズ素子に対応するヒューズ電極の電極間距離より広く設けたことにより、所定のヒューズ素子に対応するヒューズ電極の電極間の電気抵抗を他のヒューズ素子に対応するヒューズ電極の電極間の電気抵抗よりも大きくした構成を採用すること」が周知技術であるとはいえない。
また、上記主張2について、上記「1.(1)イ」及び「1.(3)イ」で検討したとおり、甲第2号証には、第1のヒューズ13及び第2のヒューズ14について、両者の断面の寸法(または断面積)が変わらず、発熱体引出電極18から第2の電極12との間の電気抵抗を発熱体引出電極18から第1の電極11との間の電気抵抗より大きくしたこと、及び、過電流時に所定の電極間のヒューズ素子が他の電極間のヒューズ素子よりも先に溶断することについて、記載も示唆もされていない。そうすると、たとえ甲1発明(1~2)に甲第2号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるとしても、甲第2号証に記載された技術的事項は、甲1発明(1~2)において、ヒューズ素子の「断面の寸法(または断面積)」が変わらないという構成、及び、「前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極間の電気抵抗を他の電極間の電気抵抗よりも大きくし」たという構成を採用することを示唆するものではないし、甲1発明(1~2)及び甲第2号証に記載された技術的事項を踏まえても、「過電流時に」所定の電極間のヒューズ素子が、他の電極間のヒューズ素子よりも先に溶断するという構成を採用する動機付けがあるとはいえない。したがって、甲1発明(1~2)、及び、甲第2号証、甲第4号証の記載に基いても、所定の電極の電極間距離を他の電極間距離より広く設けたことにより、所定の電極間の電気抵抗が他の電極間の電気抵抗よりも大きく、過電流時において溶断順序が制御可能となるとの効果を奏することは、当業者において予測可能であったとはいえない。
さらに、上記主張3について、上記「1.(1)イ」及び「1.(3)イ」で検討したとおり、甲1発明(1~2)は、発熱抵抗体によりヒューズエレメントを加熱することを溶断のための手段とするものであって、ヒューズへの熱の伝達を調整し溶断の制御を行うという機能を実現するものである一方、甲第4号証に記載された技術的事項は、ヒューズが自己発熱することを溶断のための手段とするものであって、電極間距離を変更することによりヒューズの溶断容易性を調整し溶断の制御を行うという機能を実現するものであり、両者はヒューズを溶断させるための手段、及び、溶断の制御を行うための機能が相違するものである。
これに併せて、上記主張4について、上記「1.(1)イ」及び「1.(3)イ」で検討したとおり、たとえ甲1発明(1~2)に甲第2号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるとしても、甲第2号証に記載された技術的事項は、甲1発明(1~2)において、ヒューズ素子の「断面の寸法(または断面積)」が変わらないという構成、及び、「前記中間電極を含む前記ヒューズ電極のうち所定の電極間の電気抵抗を他の電極間の電気抵抗よりも大きくし」たという構成を採用することを示唆するものではない。また、甲1発明(1~2)と甲第4号証に記載された技術的事項とは、ヒューズを溶断させるための手段、及び、溶断の制御を行うための機能が相違するものであるから、甲1発明(1~2)に甲第4号証に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲1発明(1)において、上記相違点1に係る本件発明1ないし2の構成となすこと、また、甲1発明(2)において、上記相違点2に係る本件発明3ないし4の構成となすことは当業者であっても容易に想到しうるものではなく、異議申立人の主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項1~4に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700378