特許異議申立
2022-700972
保護素子
- 審判番号
- 2022-700972
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-035079
- 登録番号
- 7050019
- 請求日
- 2022年10月04日
- 審決日
- 2023年06月05日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ショット日本株式会社
- 【権利者代理人】西村 竜平
- 【権利者代理人】齊藤 真大
- 【権利者代理人】上村 喜永
- 【異議申立人】横沢 聡
- 審判長/審判官
- 審判長 小川 恭司
- 審判官 内田 博之
- 審判官 平田 信勝
- 分類
- P1651.121-YAA(H01H) / P1651.537-YAA(H01H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7050019号発明「保護素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7050019号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔4~7〕、〔11~14〕、〔18~21〕について訂正することを認める。
特許第7050019号の請求項1ないし21に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7050019号の請求項1~21に係る特許についての出願は、平成31年2月28日に出願され、令和4年3月30日にその特許権の設定登録がされ、令和4年4月7日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1~21に係る特許に対し、特許異議申立人横沢聡(以下「異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年10月 4日 :異議申立人による特許異議の申立て
令和4年12月26日付け:取消理由通知書
令和5年 2月16日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和5年 4月28日 :異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年2月16日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1~3のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。
[訂正事項1]
特許請求の範囲の請求項4に、
「前記高融点金属材は、銀、銅またはこれらを含む合金の何れか1つの金属導体である」
と記載されているものを、
「前記高融点金属材は、少なくとも銀または銅の何れかまたは両方を含む合金の金属導体である」
に訂正する(請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5~7も同様に訂正する。)。
[訂正事項2]
特許請求の範囲の請求項11に、
「前記高融点金属材は、銀、銅またはこれらを含む合金の何れか1つの金属導体である」
と記載されているものを、
「前記高融点金属材は、少なくとも銀または銅の何れかまたは両方を含む合金の金属導体である」
に訂正する(請求項11の記載を直接又は間接的に引用する請求項12~14も同様に訂正する。)。
[訂正事項3]
特許請求の範囲の請求項18に、
「前記高融点金属材は、銀、銅またはこれらを含む合金の何れか1つの金属導体である」
と記載されているものを、
「前記高融点金属材は、少なくとも銀または銅の何れかまたは両方を含む合金の金属導体である」
に訂正する(請求項18の記載を直接又は間接的に引用する請求項19~21も同様に訂正する。)。
2 一群の請求項について
上記訂正事項1に係る訂正前の請求項4~7について、訂正前の請求項5~7は、訂正前の請求項4の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、上記訂正事項1によって記載が訂正される請求項4に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項4~7は一群の請求項である。
上記訂正事項2に係る訂正前の請求項11~14について、訂正前の請求項12~14は、訂正前の請求項11の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、上記訂正事項2によって記載が訂正される請求項11に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項11~14は一群の請求項である。
上記訂正事項3に係る訂正前の請求項18~21について、訂正前の請求項19~21は、訂正前の請求項18の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、上記訂正事項3によって記載が訂正される請求項18に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項18~21は一群の請求項である。
よって、訂正事項1~3は、いずれも一群の請求項に対して請求されたものである。
3 訂正の要件
(1)訂正の目的の適否
請求項1には「第2の低融点合金と第1および第2の低融点合金よりも固相線温度が高い高融点金属材との複合材からなり主電極と通電電極と拡張合金部の上に設けた無鉛錫系はんだ材からなるヒューズ素子とを有し」との記載があり、請求項8及び15には「前記第1および第2の低融点合金よりも固相線温度が高い無鉛錫系はんだ材からなる高融点金属材」との記載があり、これらの記載から、請求項1、8及び15には、「高融点金属材」が「無鉛錫系はんだ材からなる」ことが特定されているといえる。
そして、請求項4は請求項1の記載を引用し、請求項11は請求項8の記載を引用し、請求項18は請求項15の記載を引用している。
ところが、本件訂正1~3による訂正前の請求項4、11及び18には、「前記高融点金属材は、銀、銅またはこれらを含む合金の何れか1つの金属導体である」との記載があり、この特定事項には、「前記高融点金属材は、銀の金属導体である」ことや、「前記高融点金属材は、銅の金属導体である」ことが含まれると解する余地があり、そのように解した場合は、いずれも上記の「高融点金属材」が「無鉛錫系はんだ材からなる」ことと矛盾(以下、「高融点金属材に関する特定事項の矛盾」という。)」)するため、不明りょうであった。
一方、本件訂正1~3による訂正後の請求項4、11及び18の「前記高融点金属材は、少なくとも銀または銅の何れかまたは両方を含む合金の金属導体である」との特定事項は、「前記高融点金属材は、少なくとも銀を含む合金の金属導体である」こと、「前記高融点金属材は、少なくとも銅を含む合金の金属導体である」こと又は「前記高融点金属材は、少なくとも銀と銅の両方を含む合金の金属導体である」ことが明らかとなり、いずれも上記の「高融点金属材」が「無鉛錫系はんだ材からなる」ことと矛盾しないため、上述した不明りょうな記載が明りょうになった。
そうすると、本件訂正1~3は、高融点金属材に関する特定事項の矛盾を解消するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1~3は、上記(1)のとおり、訂正前の請求項4、11及び18の、高融点金属材に関する特定事項の矛盾を解消して明瞭でない記載の釈明をするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)新規事項の有無
願書に添付した明細書の段落【0013】には、「高融点金属材は、銀または銅に替えて少なくとも銀、銅の何れかまたは両方を含む錫基合金を利用できる。」と記載されており、訂正事項1~3は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
4 小括
上述のとおり、訂正事項1~3に係る訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものであり、同条第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とし、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔4~7〕、〔11~14〕、〔18~21〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~21に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明21」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~21に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
絶縁基板に発熱素子と少なくとも一対の主電極と発熱素子の通電電極とが設けられており、第1の低融点合金からなり主電極と通電電極との間の隙間を埋めて低融点合金を増量する拡張合金部と、第2の低融点合金と第1および第2の低融点合金よりも固相線温度が高い高融点金属材との複合材からなり主電極と通電電極と拡張合金部の上に設けた無鉛錫系はんだ材からなるヒューズ素子とを有し、高融点金属材は主電極と通電電極および拡張合金部とに当接しないように設け、かつ前記拡張合金部は、前記第2の低融点合金と同一の組成からなり、少なくとも前記主電極と前記通電電極とを橋設した前記ヒューズ素子の電極橋設部において、第2の低融点合金の前記両電極間の下面全面に隙間なく接触させて設けたことを特徴とする保護素子。
【請求項2】
前記第1および第2の低融点合金は、溶融すると協働して前記高融点金属材を溶かして溶断する請求項1に記載の保護素子。
【請求項3】
前記高融点金属材は前記第1および第2の低融点合金に溶解する金属材で構成された請求項1または請求項2に記載の保護素子。
【請求項4】
前記高融点金属材は、少なくとも銀または銅の何れかまたは両方を含む合金の金属導体である請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載の保護素子。
【請求項5】
前記合金は、少なくとも銀、銅の何れかまたは両方を含む錫基合金である請求項4に記載の保護素子。
【請求項6】
前記第1および第2の低融点合金は、Agを3~4質量%含有し残部がSnからなるSn-Ag合金、Cuを0.5~0.7質量%さらに必要に応じてAgを0~1質量%含有し残部がSnからなるSn-Cu-Ag合金、Agを3~4質量%さらにCuを0.5~1質量%含有し残部がSnからなるSn-Ag-Cu合金、Biを10~60質量%含有し残部がSnからなるSn-Bi合金から選択された合金材である請求項1ないし請求項5の何れか1つに記載の保護素子。
【請求項7】
前記第1および第2の低融点合金は、96.5Sn-3.5Ag合金、99.25Sn-0.75Cu合金、96.5Sn-3Ag-0.5Cu合金、95.5Sn-4Ag-0.5Cu合金、42Sn-58Bi合金から選択された合金材である請求項6に記載の保護素子。
【請求項8】
絶縁基板の下面に設けた発熱素子と、前記絶縁基板の上面に設けた少なくとも一対の主電極と、前記絶縁基板の上面に設けられ前記発熱素子への通電に用いられる通電電極と、前記主電極と前記通電電極との電極間に設けた第1の低融点合金からなる拡張合金部と、前記主電極と前記通電電極と前記拡張合金部との上に設けた無鉛錫系はんだ材からなる第2の低融点合金と前記第1および第2の低融点合金よりも固相線温度が高い無鉛錫系はんだ材からなる高融点金属材との複合材からなるからなるヒューズ素子とを有し、前記高融点金属材は、前記主電極と前記通電電極および前記拡張合金部とに当接しないように設け、かつ前記拡張合金部は、前記第2の低融点合金と同一の組成からなり、少なくとも前記主電極と前記通電電極とを橋設した前記ヒューズ素子の電極橋設部において、第2の低融点合金の前記両電極間の下面全面に隙間なく接触させて設けられており、さらに前記ヒューズ素子を覆って塗布した動作用フラックスと、前記ヒューズ素子と前記動作用フラックスとを覆って前記絶縁基板に固着した蓋体とで構成されたことを特徴とする保護素子。
【請求項9】
前記第1および第2の低融点合金は、溶融すると協働して前記高融点金属材を溶かして溶断する請求項8に記載の保護素子。
【請求項10】
前記高融点金属材は前記第1および第2の低融点合金に溶解する金属材で構成された請求項8または請求項9に記載の保護素子。
【請求項11】
前記高融点金属材は、少なくとも銀または銅の何れかまたは両方を含む合金の金属導体である請求項8ないし請求項10の何れか1つに記載の保護素子。
【請求項12】
前記合金は、少なくとも銀、銅の何れかまたは両方を含む錫基合金である請求項11に記載の保護素子。
【請求項13】
前記第1および第2の低融点合金は、Agを3~4質量%含有し残部がSnからなるSn-Ag合金、Cuを0.5~0.7質量%さらに必要に応じてAgを0~1質量%含有し残部がSnからなるSn-Cu-Ag合金、Agを3~4質量%さらにCuを0.5~1質量%含有し残部がSnからなるSn-Ag-Cu合金、Biを10~60質量%含有し残部がSnからなるSn-Bi合金から選択された合金材である請求項8ないし請求項12の何れか1つに記載の保護素子。
【請求項14】
前記第1および第2の低融点合金は、96.5Sn-3.5Ag合金、99.25Sn-0.75Cu合金、96.5Sn-3Ag-0.5Cu合金、95.5Sn-4Ag-0.5Cu合金、42Sn-58Bi合金から選択された合金材である請求項13に記載の保護素子。
【請求項15】
絶縁基板の上面に設けた発熱素子と、前記絶縁基板の上面に設けた少なくとも一対の主電極と、前記絶縁基板の上面に設けられ前記発熱素子への通電に用いられる通電電極と、前記主電極と前記通電電極との電極間に設けた第1の低融点合金からなる拡張合金部と、前記主電極と前記通電電極と前記拡張合金部との上に設けた無鉛錫系はんだ材からなる第2の低融点合金と前記第1および第2の低融点合金よりも固相線温度が高い無鉛錫系はんだ材からなる高融点金属材との複合材からなるヒューズ素子とを有し、前記高融点金属材は、前記主電極と前記通電電極および前記拡張合金部とに当接しないように設け、かつ前記拡張合金部は、前記第2の低融点合金と同一の組成からなり、少なくとも前記主電極と前記通電電極とを橋設した前記ヒューズ素子の電極橋設部において、第2の低融点合金の前記両電極間の下面全面に隙間なく接触させて設けられており、さらに前記ヒューズ素子を覆って塗布した動作用フラックスと、前記ヒューズ素子と前記動作用フラックスとを覆って前記絶縁基板に固着した蓋体とで構成されたことを特徴とする保護素子。
【請求項16】
前記第1および第2の低融点合金は、溶融すると協働して前記高融点金属材を溶かして溶断する請求項15に記載の保護素子。
【請求項17】
前記高融点金属材は前記第1および第2の低融点合金に溶解する金属材で構成された請求項15または請求項16に記載の保護素子。
【請求項18】
前記高融点金属材は、少なくとも銀または銅の何れかまたは両方を含む合金の金属導体である請求項15ないし請求項17の何れか1つに記載の保護素子。
【請求項19】
前記合金は、少なくとも銀、銅の何れかまたは両方を含む錫基合金である請求項18に記載の保護素子。
【請求項20】
前記第1および第2の低融点合金は、Agを3~4質量%含有し残部がSnからなるSn-Ag合金、Cuを0.5~0.7質量%さらに必要に応じてAgを0~1質量%含有し残部がSnからなるSn-Cu-Ag合金、Agを3~4質量%さらにCuを0.5~1質量%含有し残部がSnからなるSn-Ag-Cu合金、Biを10~60質量%含有し残部がSnからなるSn-Bi合金から選択された合金材である請求項15ないし請求項19の何れか1つに記載の保護素子。
【請求項21】
前記第1および第2の低融点合金は、96.5Sn-3.5Ag合金、99.25Sn-0.75Cu合金、96.5Sn-3Ag-0.5Cu合金、95.5Sn-4Ag-0.5Cu合金、42Sn-58Bi合金から選択された合金材である請求項20に記載の保護素子。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
当審が令和4年12月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は取り消すべきものである。
記
「高融点金属材」は「無鉛錫系はんだ材からなる」ことが、請求項1、8及び15に特定されている。
ところが、請求項4、11及び18には「前記高融点金属材は、銀、銅またはこれらを含む合金の何れか1つの金属導体である」との記載があり、この記載のうち、「銀」及び「銅」は「無鉛錫系はんだ材」でないから、請求項4が引用する請求項1、請求項11が引用する請求項8及び請求項18が引用する請求項15の特定事項と矛盾する。
したがって、高融点金属材に関する特定事項に矛盾があるから、請求項4、11及び18に係る発明は明確でない。
第5 当審の判断
上記第2 2(1)のとおり、本件訂正により、請求項4、11及び18の記載は、請求項4が引用する請求項1、請求項11が引用する請求項8及び請求項18が引用する請求項15の「高融点金属材」が「無鉛錫系はんだ材からなる」との特定事項と矛盾しないものとなった。
したがって、本件発明4、11及び18に係る発明は明確であるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たす。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 異議申立人の主張について
異議申立人は、以下の甲第1~4号証を提出し、特許異議申立書及び令和5年4月28日付け意見書において、本件特許の請求項1~21に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1~4号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~21に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨主張する。
甲第1号証:国際公開第2019/026904号
甲第2号証:特開2013-229295号公報
甲第3号証:エコソルダー合金と形態、千住金属工業、
URL:https://www.senju.com/ja/products/ecosolder/alloy_form/
甲第4号証:特開2009-301964号公報
2 甲各号証等について
(1)甲第1号証及び甲1発明
甲第1号証には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)
ア「[0010] 上記保護素子において、上記絶縁基板の片面に発熱素子を設けてもよい。
上記保護素子において、上記電極充填材は、錫基合金、錫-鉛合金、錫-銅合金、錫-銀合金、および、錫-銀-銅合金の群から選択されたいずれかの合金で構成してもよい。
[0011] 上記保護素子において、上記電極充填材は、はんだペーストが充填形成された金属材、はんだボールが充填形成された金属材、および、部分メッキにより充填形成された金属材の群から選択されたいずれかの金属材で構成してもよい。
[0012] 上記保護素子において、上記ヒューズエレメントは、錫基合金、錫-鉛合金、錫-銅合金、錫-銀合金、および、錫-銀-銅合金の群から選択されたいずれかの合金で構成してもよい。
[0013] 上記保護素子において、上記ヒューズエレメントは、組成の異なる複数の金属材を組み合わせた複合材で構成してもよい。
[0014] 本発明の保護素子においては、電極充填材が、ヒューズエレメントが架橋する電極間の隙間を埋めるように設けられることにより、保護素子の内部抵抗が低減する。電極間の隙間は、対向する一対の電極の端面とその間の絶縁基板面から構成された溝状の部分である。電極充填材は、その溶融温度がヒューズエレメントと同等またはより低い金属ならばいずれの金属材を用いてもよい。電極充填材は、ヒューズエレメントよりも電気抵抗が小さい材料で構成することが好ましい。一例として錫または錫系はんだ材がある。
[0015] 本発明に係る保護素子においては、電極充填材は、ヒューズエレメントが架橋された電極間の隙間(中空空間)を埋める。これによりヒューズエレメントの通電路の断面積を拡大させて、保護素子の内部抵抗を低減させることができる。電極充填材は、ヒューズエレメントの溶融温度以下の金属材で構成されるため、ヒューズエレメントの溶断動作を妨げることが無い。しかも電極充填材は、はんだ材など易融合金をそのまま使用でき、純銀や銀系合金(高銀含有率合金)などの貴金属材を用いなくてもよく経済的である。」
イ「[0020] 電極充填材13は、電極12aと電極12bの間の隙間および電極12bと電極12cとの間の間隙に充填形成でき、かつ溶融温度がヒューズエレメント14と同等またはより低い金属材であればいずれの材料、組成のものでもよい。電極充填材13としては、例えば、錫基合金、錫-鉛合金、錫-銅合金、錫-銀合金、錫-銀-銅合金からなるはんだペーストが充填形成された金属材、錫基合金、錫-鉛合金、錫-銅合金、錫-銀合金、錫-銀-銅合金からなるはんだボールが充填形成された金属材、錫基合金、錫-鉛合金、錫-銅合金、錫-銀合金、錫-銀-銅合金からなる部分メッキにより充填形成された金属材などが利用できる。
[0021] この電極充填材13は、保護素子10の表面実装に伴いヒューズエレメント14と一体化することができる。ヒューズエレメント14が溶断するときは、液相化したヒューズエレメント14と共に球状化するので、電極充填材13が溶断動作を妨げることはない。
[0022] ヒューズエレメント14は、易融性の金属材であれば何れの材料、組成のものでもよい。ヒューズエレメント14としては、例えば、錫基合金、錫-鉛合金、錫-銅合金、錫-銀合金、錫-銀-銅合金などが好適に利用できる。ヒューズエレメント14は、単一組成の金属材を用いても、組成の異なる複数の金属材を組み合わせて複合材にして用いてもよい。
[0023] 本実施の形態の保護素子10においては、絶縁基板11の片面に必要に応じて発熱素子を設けてもよい。(省略)」
ウ「[0025] 実施例1の電極充填材付きの保護素子20は、図2および図3に示すように、アルミナセラミックの絶縁基板21を有する。この絶縁基板21には複数の銀合金製の電極22a~22gが設けられている。絶縁基板21の下面には、電極22fおよび電極22hと電気的に接続された抵抗発熱素子26が設けられている。
[0026] この電極22a~22gのうち3つの電極22a,22b,22cの間、すなわち電極22aと電極22bの間および電極22bと電極22cの間には、96.5Sn-3Ag-0.5Cu合金の電極充填材23が充填されている。3つの電極22a,22b,22cの間を架橋しかつ電極充填材23の上部を覆うように、92Pb-Sn合金24aと99.3Sn-0.7Cu合金24bとのクラッド材からなるヒューズエレメント24が設けられている。
[0027] ヒューズエレメント24の表面に塗布した動作フラックス(図示せず)と、この動作フラックスおよびヒューズエレメント24の上部とを覆うように、液晶ポリマー製の蓋体25が設けられている。
[0028] 電極充填材23は、その溶融温度がヒューズエレメント24の液相線温度以下の金属材から構成されている。電極22aと電極22eの間、電極22bと電極22fの間、電極22cと電極22gの間、および、電極22dと電極22hの間は、それぞれ、銀合金のハーフスルーホールで電気的に接続されている。」
エ 「[図2]
[図:0001401657000001.jpg]
」
オ 上記ウの「電極22f(省略)と電気的に接続された抵抗発熱素子26」(段落[0025])及び「電極22bと電極22fの間(省略)電気的に接続されている」(段落[0028])との記載から、抵抗発熱素子26は、電極22bに電気的に接続されていると認められる。
カ [図2]からは、絶縁基板21の上面に電極22a~cを設けた構成と、電極22a、電極22b、電極22c及び電極充填材23の上部に99.3Sn-0.7Cu合金24bが隣接する構成とが見て取れる。
キ 上記のア~エの記載事項、上記オの認定事項及び上記カの図示内容から、甲1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲1発明]
「絶縁基板21の下面に抵抗発熱素子26が設けられ、絶縁基板21の上面に電極22a及び電極22cが設けられ、電極22a及び電極22cの間に設けられて抵抗発熱素子26に電気的に接続された電極22bが設けられ、
96.5Sn-3Ag-0.5Cu合金からなり電極22aと電極22bの間の隙間及び電極22cと電極22bの間の隙間に充填された電極充填材23が設けられ、
電極22a~cの間を架橋し電極充填材23の上部を覆い、電極22a、電極22b、電極22c及び電極充填材23の上部に99.3Sn-0.7Cu合金24bが隣接するように、92Pb-Sn合金24aと99.3Sn-0.7Cu合金24bのクラッド材からなるヒューズエレメント24が設けられ、
ヒューズエレメント24の表面に塗布した動作フラックスが設けられ、
動作フラックス及びヒューズエレメント24の上部を覆う蓋体25が絶縁基板21に設けられた電極充填材付きの保護素子20。」
(2)甲第2号証
甲第2号証には、次の事項が記載されている。
ア「【0022】 可溶導体13は、内層と外層とからなる積層構造体であり、好ましくは、内層として高融点金属層13a、外層として低融点金属層13bを有する。なお、後述するように、内層として低融点金属層13b、外層として高融点金属層13aを有するようにしてもよい。また、可溶導体13は、上層と下層の2層積層構造体としても良く、上層として高融点金属層13a、下層として低融点金属層13bを有するようにしてもよい。高融点金属層13aは、好ましくは、Ag若しくはCu又はこれらのうちのいずれかを主成分とする金属であり、リフロー炉によって基板実装を行う場合においても溶融しない高い融点を有する。低融点金属層13bは、好ましくは、Snを主成分とする金属であり、「Pbフリーハンダ」と一般的に呼ばれる材料である(たとえば千住金属工業製、M705等)。低融点金属層13bの融点は、必ずしもリフロー炉の温度よりも高い必要はなく、200℃程度で溶融してもよい。高融点金属層13aと低融点金属層13bとを積層することによって、リフロー温度が低融点金属層13bの溶融温度を超えて、低融点金属が溶融した場合であっても、可溶導体13として溶断するに至らない。高融点金属層13aに低融点金属層13bをメッキ技術を用いて成膜することによって可溶導体13を形成してもよく、他の周知の積層技術、膜形成技術を用いることによって高融点金属層13aに低融点金属層13bを積層した可溶導体13を形成することができる。また、逆の高融点金属層13aを外層とする場合も同様の成膜技術で形成することができる。なお、可溶導体13の発熱体引出電極16及び電極12(A1),12(A2)への接続は、低融点金属層13bを用いてハンダ接合することにより実現される。」
イ「【0044】
図5(B)に示すように、発熱体14の直上にある可溶導体13の外層の低融点金属層13bが溶融を開始して、溶融した低融点金属が内層の高融点金属層13aに拡散し、溶食現象を生じて、高融点金属層13aが浸食され、消失する。破線の円内では、高融点金属層13aが消失して、溶融した低融点金属層13bと混じり合った状態となっている。」
ウ「【0063】
[変形例4]
図11は、可溶導体13の構成をかえたものを用いた場合の変形例である。
【0064】
図11に示すように、保護素子80は、絶縁基板11と、絶縁基板11に積層され、絶縁部材15に覆われた発熱体14と、絶縁基板11の両端に形成された電極12(A1),12(A2)と、絶縁部材15上に発熱体14と重畳するように積層された発熱体引出電極16と、両端が電極12(A1),12(A2)に接続され、中央部が発熱体引出電極16に接続された可溶導体13とを備える。また、絶縁基板11の裏面には、電極12(A1),12(A2)と接続された外部端子が形成されている。
【0065】
可溶導体13は、下層が低融点金属層13b、上層が高融点金属層13aの2層積層構造である。低融点金属層13bには、上述と同様に、Snを主成分とするPbフリーハンダを用いることができ、高融点金属層13aには、Ag若しくはCu又はこれらのうちのいずれかを主成分とする金属を用いることができる。」
エ「【図6】
[図:0001401657000002.jpg]
」
オ「【図11】
[図:0001401657000003.jpg]
」
(3)甲第3号証
甲第3号証には、次の事項が記載されている。
ア「
[図:0001401657000004.jpg]
」
イ 上記アの「M705」の欄の記載から、合金の組成が「Sn-3.0Ag-0.5Cu」のものは、固相線温度は217℃、液相線温度は220℃であることが読み取れる。
(4)甲第4号証
甲第4号証には、次の事項が記載されている。
「【0022】
また、ヒューズエレメント15としては、従来からヒューズ材料として使用されている種々の低融点金属体を用いることができ、例えば、SnSb合金、BiSnPb合金、BiPbSn合金、BiPb合金、BiSn合金、SnPb合金、SnAg合金、PbIn合金、ZnAl合金、InSn合金、PbAgSn合金等を挙げることができる。特に、ヒューズエレメント15としては、無鉛化の要求の観点から、SnSb合金やSnCu合金等の無鉛半田を材料として用いてもよい。また、ヒューズエレメント15の形状は、薄片状や棒状、櫛歯状等、任意の形状とすることができる。なお、ヒューズエレメント15は、後述するように、溶融状態の低融点金属粒を所定のディスペンサを用いて射出又は滴下することによって1つの金属粒の集合体として形成されるが、ここでは、必要に応じて、ヒューズエレメント用電極端子13a,13cの間に跨って形成されている領域を、ヒューズエレメント15aと称し、ヒューズエレメント用電極端子13b,13cの間に跨って形成されている領域を、ヒューズエレメント15bと称するものとする。」
(5)当審が職権で調査した証拠について
ア 三光金属株式会社のインターネット上のサイトにおける「MATERIAL 材質紹介」のページ(http://www.sanko-metal-industries.com/material/)の「ハンダの種類」の欄に、以下の表が記載されている。
[図:0001401657000005.jpg]
[図:0001401657000006.jpg]
イ 上記アの表から、以下の事項が読みとれる。
(ア)合金の組成がPb90Sn10であるときの固相線温度は約268℃、液相線温度は約302℃であること。
(イ)合金の組成がPb95Sn5であるときの固相線温度は約300℃、液相線温度は約314℃であること。
(ウ)合金の組成がSn99.3Cu0.7であるときの固相線温度は約227℃、液相線温度は約228℃であること。
3 本件発明1についての検討
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「絶縁基板21」は本件発明1の「絶縁基板」に相当し、以下同様に、
「抵抗発熱素子26」は「発熱素子」に、
「電極22a及び電極22c」は「一対の主電極」に、
「抵抗発熱素子26に電気的に接続された電極22b」は「発熱素子の通電電極」に、それぞれ相当する。
上記2(3)イ(「Sn-3.0Ag-0.5Cu」と表記のものは「96.5Sn-3Ag-0.5Cu」と同じ組成のものと認める。)から、甲1発明の「96.5Sn-3Ag-0.5Cu合金」の固相線温度は217℃、液相線温度は220℃であるといえる。また、上記2(5)イ(ウ)から、甲1発明の「99.3Sn-0.7Cu合金」の固相線温度は227℃、液相線温度は228℃であることがわかり、上記2(5)イ(ア)及び(イ)から、甲1発明の「92Pb-Sn合金24a」の固相線温度は268℃と300℃の間であり、液相線温度は302℃と314℃の間であると認められる。
したがって、甲1発明の「96.5Sn-3Ag-0.5Cu合金」「92Pb-Sn合金24a」及び「99.3Sn-0.7Cu合金24b」の三者のうち、「92Pb-Sn合金24a」の固相線温度及び液相線温度が最も高いことから高融点の合金といえ、「96.5Sn-3Ag-0.5Cu合金」及び「99.3Sn-0.7Cu合金24b」は相対的に低融点の合金といえる。
甲1発明の「電極22aと電極22bの間の隙間」及び「電極22cと電極22bの間の隙間」は、本件発明1の「主電極と通電電極との間の隙間」に相当し、甲1発明の「隙間に充填」することは、本件発明1の「隙間を埋め」ることに相当する。そして、上記の甲1発明の3つの合金における融点の関係を加味すると、「96.5Sn-3Ag-0.5Cu合金からな」る「電極充填材23」は、本件発明1の「第1の低融点合金からな」る「拡張合金部」に相当する。また、甲1発明において電極間の隙間に電極充填材23を充填することは、低融点合金を増量していることといえる。
甲1発明の「92Pb-Sn合金24aと99.3Sn-0.7Cu合金24bのクラッド材」において、上記の融点の関係を加味すると、甲1発明の「99.3Sn-0.7Cu合金24b」及び「92Pb-Sn合金24a」は、本件発明1の「第2の低融点合金」及び「第1および第2の低融点合金よりも固相線温度が高い高融点金属材」にそれぞれ相当し、甲1発明の「クラッド材」は、本件発明1の「複合材」に相当する。
甲1発明の「電極22a~cの間を架橋し電極充填材23の上部を覆い、電極22a、電極22b、電極22c及び電極充填材23の上部に99.3Sn-0.7Cu合金24bが隣接する」構成は、本件発明1の「主電極と通電電極と拡張合金部の上に設けた」構成に相当する。
甲1発明の「92Pb-Sn合金24a」及び「99.3Sn-0.7Cu合金24b」と、本件発明1の「無鉛錫系はんだ材」とは、「錫系はんだ材」の限りで共通する。
甲1発明の「ヒューズエレメント24」は、本件発明1の「ヒューズ素子」に相当する。
甲1発明は「電極22a、電極22b、電極22c及び電極充填材23の上部に99.3Sn-0.7Cu合金24bが隣接する」構成であるから、ヒューズエレメント24を構成するクラッド材の92Pb-Sn合金24aは、電極22a、電極22b、電極22c及び電極充填材23と当接できない。そうすると、甲1発明は、本件発明1の「高融点金属材は主電極と通電電極および拡張合金部とに当接しないように設け」る構成を有する。
甲1発明は「電極充填材23の上部に99.3Sn-0.7Cu合金24bが隣接する」構成を有し、電極充填材23と99.3Sn-0.7Cu合金24bとの間に隙間は存在しないと解されるから、甲1発明は、本件発明1の「前記拡張合金部は、」「少なくとも前記主電極と前記通電電極とを橋設した前記ヒューズ素子の電極橋設部において、第2の低融点合金の前記両電極間の下面全面に隙間なく接触させて設けた」構成を有するといえる。
甲1発明の「電極充填材付きの保護素子20」は、本件発明1の「保護素子」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、以下の一致点1で一致し、相違点1及び2で相違する。
[一致点1]
「絶縁基板に発熱素子と少なくとも一対の主電極と発熱素子の通電電極とが設けられており、第1の低融点合金からなり主電極と通電電極との間の隙間を埋めて低融点合金を増量する拡張合金部と、第2の低融点合金と第1および第2の低融点合金よりも固相線温度が高い高融点金属材との複合材からなり主電極と通電電極と拡張合金部の上に設けた錫系はんだ材からなるヒューズ素子とを有し、高融点金属材は主電極と通電電極および拡張合金部とに当接しないように設け、かつ前記拡張合金部は、少なくとも前記主電極と前記通電電極とを橋設した前記ヒューズ素子の電極橋設部において、第2の低融点合金の前記両電極間の下面全面に隙間なく接触させて設けた保護素子。」
[相違点1]
錫系はんだ材に関し、本件発明1では「無鉛」錫系はんだ材であるのに対し、甲1発明では「92Pb-Sn合金24a」と「99.3Sn-0.7Cu合金24b」である点。
[相違点2]
本件発明1は「前記拡張合金部は、前記第2の低融点合金と同一の組成からな」る構成であるのに対し、甲1発明は、電極充填材23は96.5Sn-3Ag-0.5Cu合金からなり、クラッド材の低融点の合金24bは99.3Sn-0.7Cu合金からなる点。
(2)判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲第1号証には、「[0022]ヒューズエレメント14は、易融性の金属材であれば何れの材料、組成のものでもよい。ヒューズエレメント14としては、例えば、錫基合金、錫-鉛合金、錫-銅合金、錫-銀合金、錫-銀-銅合金などが好適に利用できる。ヒューズエレメント14は、単一組成の金属材を用いても、組成の異なる複数の金属材を組み合わせて複合材にして用いてもよい。」との記載があるが、「99.3Sn-0.7Cu合金24b」を「電極充填材23」と同じ組成のものにすることについて記載も示唆もされていないから、甲1発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて上記相違点2に係る本件発明1の構成に至らない。
甲第2号証には、「変形例4」として、上層が高融点金属層13a、下層が低融点金属層13bの2層積層構造の可溶導体13が記載されており、高融点金属としてAg若しくはCu又はこれらのうちのいずれかを主成分とする金属が例示され、低融点金属としてSnを主成分とするPbフリーハンダが例示されている。また、甲第2号証には、Snを主成分とするPbフリーハンダとして千住金属工業製のM705が例示されている。そして、甲第3号証から、千住金属工業製のM705は、96.5Sn-3Ag-0.5Cuの合金であることが理解できる。
しかしながら、甲第2号証の「変形例4」は、甲1発明の「電極充填材23」(本件発明1の「拡張合金部」)に相当する構成を備えておらず、「電極充填材23」の存在を前提とした甲1発明のヒューズエレメント24を甲第2号証の変形例4の可溶導体13に置き換える動機付けはないので、甲1発明のヒューズエレメント24の99.3Sn-0.7Cu合金24bを、甲2号証の可溶導体13の低融点金属層13bとして例示されたM705に変更することが容易であるとはいえない。
また、仮に甲1発明のヒューズエレメント24を甲第2号証の変形例4の可溶導体13に置き換えることができたとしても、甲1発明の92Pb-Sn合金24aを、無鉛錫系はんだ材ではない「Ag若しくはCu又はこれらのうちのいずれかを主成分とする金属」に置き換えることとなり、本件発明1の「ヒューズ素子」を「無鉛錫系はんだ材」とする構成に至らない。
そうであれば、甲1発明及び甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項に基いて上記相違点2に係る本件発明1の構成を想到することが容易であるとはいえない。
甲第4号証には、無鉛化の要求の観点に沿うものとして「BiSn合金」「SnAg合金」「SuCu合金」からなるヒューズエレメント15が例示されている。しかしながら、甲第4号証には、ヒューズエレメント15を高融点金属と低融点合金の2層構造とし、基板上の電極間にヒューズエレメントの低融点金属と同じ組成のものを充填することは、記載も示唆もされておらず、甲1発明のヒューズエレメント24を甲第4号証のヒューズエレメント15に置き換えたとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至らない。
以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第1~4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
4 本件発明2~7についての検討
本件発明2~7は、少なくとも本件発明1に係る構成を含む発明であるから、上記のとおり本件発明1について検討したのと同様に、本件発明2~7は、引用発明及び甲第1~4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5 本件発明8について
(1)対比
本件発明8と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「絶縁基板21」は本件発明8の「絶縁基板」に相当し、以下同様に、
「絶縁基板21の下面」は「絶縁基板の下面」に、
「抵抗発熱素子26」は「発熱素子」に、
「絶縁基板21の上面」は「絶縁基板の上面」に、
「電極22a及び電極22c」は「一対の主電極」に、
「抵抗発熱素子26に電気的に接続された電極22b」は「発熱素子への通電に用いられる通電電極」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明において「絶縁基板21の上面に電極22a及び電極22cが設けられ」ているから、甲1発明の「電極22b」が「電極22a及び電極22cの間に設けられて」いる構成は、本件発明8の「通電電極」が「絶縁基板21の上面に」設けられている構成に相当する。
甲1発明の「電極22aと電極22bの間の隙間」及び「電極22cと電極22bの間の隙間」は、本件発明8の「前記主電極と前記通電電極との電極」に相当し、甲1発明の「隙間に充填」することは、本件発明8の「電極間に設けた」ことに相当する。そして、上記3(1)で述べた甲1発明の3つの合金における融点の関係を加味すると、「96.5Sn-3Ag-0.5Cu合金からな」る「電極充填材23」は、本件発明8の「第1の低融点合金からなる拡張合金部」に相当する。
甲1発明の「電極22a~cの間を架橋し電極充填材23の上部を覆い、電極22a、電極22b、電極22c及び電極充填材23の上部に」「隣接する」構成は、本件発明8の「前記主電極と前記通電電極と前記拡張合金部との上に設けた」構成に相当する。
甲1発明の「92Pb-Sn合金24aと99.3Sn-0.7Cu合金24bのクラッド材」において、上記の融点の関係を加味すると、甲1発明の「99.3Sn-0.7Cu合金24b」は本件発明8の「無鉛錫系はんだ材からなる第2の低融点合金」に相当し、甲1発明の「92Pb-Sn合金24a」は、本件発明8の「前記第1および第2の低融点合金よりも固相線温度が高い無鉛錫系はんだ材からなる高融点金属材」と、「前記第1および第2の低融点合金よりも固相線温度が高い錫系はんだ材からなる高融点金属材」の限りで共通する。
甲1発明の「クラッド材」は、本件発明8の「複合材」に相当する。
甲1発明の「ヒューズエレメント24」は、本件発明8の「ヒューズ素子」に相当する。
甲1発明は「電極22a、電極22b、電極22c及び電極充填材23の上部に99.3Sn-0.7Cu合金24bが隣接する」構成であるから、ヒューズエレメント24を構成するクラッド材の92Pb-Sn合金24aは、電極22a、電極22b、電極22c及び電極充填材23と当接できない。そうすると、甲1発明は、本件発明8の「前記高融点金属材は、前記主電極と前記通電電極および前記拡張合金部とに当接しないように設け」る構成を有する。
甲1発明は「電極充填材23の上部に99.3Sn-0.7Cu合金24bが隣接する」構成を有し、電極充填材23と99.3Sn-0.7Cu合金24bとの間に隙間は存在しないと解されるから、甲1発明は、本件発明8の「記拡張合金部は、」「少なくとも前記主電極と前記通電電極とを橋設した前記ヒューズ素子の電極橋設部において、第2の低融点合金の前記両電極間の下面全面に隙間なく接触させて設け」た構成を有するといえる。
甲1発明の「ヒューズエレメント24の表面に塗布した動作フラックス」は、本件発明8の「前記ヒューズ素子を覆って塗布した動作用フラックス」に相当する。
甲1発明の「動作フラックス及びヒューズエレメント24の上部を覆う」ことは、本件発明8の「前記ヒューズ素子と前記動作用フラックスとを覆」うことに相当し、甲1発明の「絶縁基板21に設けら」ることは、本件発明8の「前記絶縁基板に固着」することに相当するので、甲1発明の「蓋体25」は、本件発明8の「蓋体」に相当する。
甲1発明の「電極充填剤付きの保護素子20」は、本件発明8の「保護素子」に相当する。
したがって、本件発明8と甲1発明は、以下の一致点2で一致し、相違点3及び4で相違する。
[一致点2]
「絶縁基板の下面に設けた発熱素子と、前記絶縁基板の上面に設けた少なくとも一対の主電極と、前記絶縁基板の上面に設けられ前記発熱素子への通電に用いられる通電電極と、前記主電極と前記通電電極との電極間に設けた第1の低融点合金からなる拡張合金部と、前記主電極と前記通電電極と前記拡張合金部との上に設けた無鉛錫系はんだ材からなる第2の低融点合金と前記第1および第2の低融点合金よりも固相線温度が高い錫系はんだ材からなる高融点金属材との複合材からなるからなるヒューズ素子とを有し、前記高融点金属材は、前記主電極と前記通電電極および前記拡張合金部とに当接しないように設け、かつ前記拡張合金部は、少なくとも前記主電極と前記通電電極とを橋設した前記ヒューズ素子の電極橋設部において、第2の低融点合金の前記両電極間の下面全面に隙間なく接触させて設けられており、さらに前記ヒューズ素子を覆って塗布した動作用フラックスと、前記ヒューズ素子と前記動作用フラックスとを覆って前記絶縁基板に固着した蓋体とで構成された保護素子。」
[相違点3]
「前記第1および第2の低融点合金よりも固相線温度が高い錫系はんだ材からなる高融点金属材」に関し、本件発明8は、前記第1および第2の低融点合金よりも固相線温度が高い「無鉛」錫系はんだ材からなる高融点金属材であるのに対し、甲1発明では、92Pb-Sn合金24aであって無鉛錫系はんだ材でない点。
[相違点4]
本件発明8は「前記拡張合金部は、前記第2の低融点合金と同一の組成からな」る構成であるのに対し、甲1発明は、電極充填材23は96.5Sn-3Ag-0.5Cu合金からなり、クラッド材の低融点の合金24bは99.3Sn-0.7Cu合金からなる点。
(2)判断
事案に鑑み、相違点4について検討する。
相違点4は、上記3(1)の相違点2と実質的に同じであるから、上記3(2)において検討したことと同様の理由により、甲1発明及び甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項に基いて上記相違点4に係る本件発明8の構成を想到することが容易であるとはいえないし、甲1発明のヒューズエレメント24を甲第4号証のヒューズエレメント15に置き換えたとしても、上記相違点4に係る本件発明8の構成に至らない。
したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明8は、甲1発明及び甲第1~4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
6 本件発明9~14について
本件発明9~14は、少なくとも本件発明8に係る構成を含む発明であるから、上記のとおり本件発明8について検討したのと同様に、本件発明9~14は、引用発明及び甲第1~4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
7 本件発明15について
(1)対比
本件発明15は、本件発明8において発熱素子を「絶縁基板の下面に設けた」構成を、「絶縁基板の上面に設けた」構成としたものである。
そのため、本件発明15と甲1発明とを対比すると、両者は、上記一致点2の「絶縁基板の下面に設けた発熱素子と、」を「絶縁基板に設けた発熱素子と、」に改めた以下の一致点3で一致し、「発熱素子」を設ける位置に関する以下の相違点5と、上記相違点3及び4と同じ内容の、以下の相違点6及び7で相違する。
[一致点3]
「絶縁基板に設けた発熱素子と、前記絶縁基板の上面に設けた少なくとも一対の主電極と、前記絶縁基板の上面に設けられ前記発熱素子への通電に用いられる通電電極と、前記主電極と前記通電電極との電極間に設けた第1の低融点合金からなる拡張合金部と、前記主電極と前記通電電極と前記拡張合金部との上に設けた無鉛錫系はんだ材からなる第2の低融点合金と前記第1および第2の低融点合金よりも固相線温度が高い錫系はんだ材からなる高融点金属材との複合材からなるヒューズ素子とを有し、前記高融点金属材は、前記主電極と前記通電電極および前記拡張合金部とに当接しないように設け、かつ前記拡張合金部は、少なくとも前記主電極と前記通電電極とを橋設した前記ヒューズ素子の電極橋設部において、第2の低融点合金の前記両電極間の下面全面に隙間なく接触させて設けられており、さらに前記ヒューズ素子を覆って塗布した動作用フラックスと、前記ヒューズ素子と前記動作用フラックスとを覆って前記絶縁基板に固着した蓋体とで構成されたことを特徴とする保護素子。」
[相違点5]
本件発明15は、発熱素子を絶縁基板の「上面」に設けるのに対し、甲1発明は、抵抗発熱素子26を絶縁基板21の「下面」に設ける点。
[相違点6]
前記第1および第2の低融点合金よりも固相線温度が高いはんだ材からなる高融点金属材に関し、本件発明8は、前記第1および第2の低融点合金よりも固相線温度が高い「無鉛」錫系はんだ材からなる高融点金属材であるのに対し、甲1発明では、92Pb-Sn合金24aであって無鉛錫系はんだ材でない点。
[相違点7]
本件発明15は「前記拡張合金部は、前記第2の低融点合金と同一の組成からな」る構成であるのに対し、甲1発明は、電極充填材23は96.5Sn-3Ag-0.5Cu合金からなり、クラッド材の低融点の合金24bは99.3Sn-0.7Cu合金からなる点。
(2)判断
相違点7は、上記5(1)の相違点4と同じ内容であるから、相違点5及び6について検討するまでもなく、上記5(2)で検討したことと同様の理由により、本件発明15は、甲1発明及び甲第1~4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
8 本件発明16~21について
本件発明16~21は、少なくとも本件発明15に係る構成を含む発明であるから、上記のとおり本件発明15について検討したのと同様に、本件発明16~21は、引用発明及び甲第1~4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
9 異議申立人の主張について
異議申立人は特許異議申立書の「(4-3-1)特許発明1(ク)」(36頁参照)、「(4-3-8)特許発明8(カ)」(41~42頁)及び「(4-3-15)特許発明15(キ)」(47~48頁)において、甲1発明の99.3Sn-0.7Cu合金24bを甲第2号証のM705(96.5Sn-3.0Ag-0.5Cu合金に置き換えることは容易である旨主張している。
しかし、上記3(2)で検討したとおり、甲1発明の99.3Sn-0.7Cu合金24bを甲第2号証のM705に置き換える動機付けはない。また、仮に甲1発明のヒューズエレメント24を甲第2号証の変形例4の可溶導体13に置き換えることができたとしても、甲1発明の92Pb-Sn合金24aを、無鉛錫系はんだ材ではない「Ag若しくはCu又はこれらのうちのいずれかを主成分とする金属」に置き換えることとなり、本件発明1の「ヒューズ素子」を「無鉛錫系はんだ材」とする構成に至らない。
したがって、上記の主張は採用できない。
また、異議申立人は、令和5年4月28日付け意見書において、甲第1号証の段落[0010]、[0012]、[0020]、[0022]の記載事項を例示し、電極充填材とヒューズエレメントは同一の材料が選択可能であること、段落[0014]の記載事項を例示し、電極充填材の溶融温度とヒューズエレメントの溶融温度が同等であること、及び、段落[0021]の記載事項を例示し、電極充填材は保護素子の表面実装により加熱されるとヒューズエレメントと一体化すること、といった条件が把握でき、このような条件等に鑑みれば、電極充填材上を覆うヒューズエレメントを、下層を低融点金属、上層を高融点金属としたクラッド材として構成し、保護素子の表面実装に伴い電極充填材と一体化可能なように、ヒューズエレメントの下層の低融点金属として電極充填材と同一の材料を選択することは格別のことではない旨主張する。
しかし、段落[0010]、[0012]、[0020]、[0022]には「錫基合金、錫-鉛合金、錫-銅合金、錫-銀合金、および、錫-銀-銅合金の群」と記載されており、群だけでも5つ挙げられている。そして、溶融温度が同等であることと組成が同じであることは別のことであって、電極充填材とヒューズエレメントの溶融温度がリフロー温度より低ければ保護素子の表面実装により加熱されると電極充填材とヒューズエレメントが一体化されることに支障はないことを考慮すると、群だけでも5つ挙げられている中から、電極充填材及びヒューズエレメント双方に同一の材料を選択しなければならない必然性も、動機付けもなく、上記の条件等は、ヒューズエレメントの下層の低融点金属として電極充填材と同一の材料を選択する根拠とはならないので、上記の主張は採用できない。
さらにまた、異議申立人は、令和5年4月28日付け意見書に おいて、甲第1号証の段落[0021]を例示し、電極充填材とヒューズエレメントを異なる材料とすべき事情はなく、同一の材料を選択する阻害する要素はないとし、甲第1号証の段落[0015]を例示し、同一の材料を使用することは経済的であるとし、ヒューズエレメントの下層の低融点金属として電極充填材と同一の材料を選択することは格別のことではない旨主張する。
しかし、甲第1号証の段落[0014]には「電極充填材は、その溶融温度がヒューズエレメントと同等またはより低い金属ならばいずれの金属材を用いてもよい。電極充填材は、ヒューズエレメントよりも電気抵抗が小さい材料で構成することが好ましい。一例として錫または錫系はんだ材がある。」との記載があり、ヒューズエレメントの材料を、電極充填材と異なる材料とすることが推奨されているとも解釈でき、また、段落[0015]には「しかも電極充填材は、はんだ材など易融合金をそのまま使用でき、純銀や銀系合金(高銀含有率合金)などの貴金属材を用いなくてもよく経済的である。」と記載されており、ヒューズエレメントの下層の低融点金属を、電極充填材と同じ材料とすることが経済的であるとまでは記載されていないから、上記の主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおり、本件請求項1~21に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700972