特許異議申立
2023-700891
保護素子用ヒューズ素子およびそれを利用した保護素子
- 審判番号
- 2023-700891
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-198126
- 登録番号
- 7231527
- 請求日
- 2023年08月31日
- 審決日
- 2024年11月29日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ショット日本株式会社
- 【権利者代理人】西村 竜平
- 【権利者代理人】齊藤 真大
- 【権利者代理人】上村 喜永
- 【権利者代理人】中村 惇志
- 【異議申立人】横沢 聡
- 審判長/審判官
- 審判長 小川 恭司
- 審判官 内田 博之
- 審判官 中屋 裕一郎
- 分類
- P1651.121-YAA(H01H) / P1651.537-YAA(H01H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7231527号発明「保護素子用ヒューズ素子およびそれを利用した保護素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
7231527号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、〔5-10〕について訂正することを認める。
特許第7231527号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯の概略
特許第7231527号の請求項1~10に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和元年10月31日(優先権主張 平成30年12月28日)の出願であって、令和5年2月20日に特許権の設定登録がされ、同年3月1日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許について、特許異議申立人横沢聡(以下「異議申立人」という。)による特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 8月31日 :特許異議の申立て
同年10月25日付け:取消理由通知書
同年12月25日 :特許権者による意見書の提出
令和6年 1月30日 :異議申立人による上申書の提出
同年 3月29日付け:取消理由通知書<決定の予告>
同年 5月31日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 9月 5日 :異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者は、令和6年5月31日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めた(以下、「本件訂正」という。)。
本件訂正の内容は以下のとおりである。(下線は当審で付した。以下同様。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記第2の可溶金属は、Sn-Bi合金であり、そのBi含有量が40質量%以上70質量%以下で構成され」と記載されているのを、「前記第2の可溶金属は、Sn-Bi合金であり、そのBi含有量が40質量%以上、かつ共晶組成未満で構成され」に訂正する(請求項1を引用する請求項2~4も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に「前記第2の可溶金属は、60Sn-40Bi合金または30Sn-70Bi合金である」と記載されているのを、「前記第2の可溶金属は、60Sn-40Bi合金である」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「前記第2の可溶金属は、Sn-Bi合金であり、そのBi含有量が40質量%以上70質量%以下で構成され」と記載されているのを、「前記第2の可溶金属は、Sn-Bi合金であり、そのBi含有量が40質量%以上、かつ共晶組成未満で構成され」に訂正する(請求項5を引用する請求項6~10も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項10に「前記第2の可溶金属は、60Sn-40Bi合金または30Sn-70Bi合金である」と記載されているのを、「前記第2の可溶金属は、60Sn-40Bi合金である」に訂正する。
なお、訂正事項1及び2は、一群の請求項〔1-4〕に対して請求されたものであり、訂正事項3及び4は、一群の請求項〔5-10〕に対して請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1、3について
Sn-Bi合金の共晶組成のBi含有量は40質量%と70質量%の間にあることは技術常識(必要であれば、次の二元状態図参照。共晶組成のBi含有量は概略57質量%)である。
[図:0001420296000001.jpg]
(https://www.researchgate.net/publication/227013051より引用)
このため、「Sn-Bi合金」の「Bi含有量」が、訂正前の「40質量%以上70質量%以下」から「40質量%以上、かつ共晶組成未満」に変更する訂正事項1、3は、Bi含有量の範囲を限定する訂正であるから、訂正事項1、3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、明細書の段落【0014】に「一方、第2の可溶金属22では、第1の可溶金属21の溶解および拡散によりSnが第1の可溶金属21側に移動して平衡状態に近づくのでSn成分が減少し、Bi濃度も拡散により第1の可溶金属21に移行し減少する。その結果、第2の可溶金属22においては、相対的にBi濃度が増加し、液相線温度が固相線温度の139℃に向かって低下するようになる。」と記載されており、上記技術常識に照らせば、「Bi濃度が増加」するときに「液相線温度が固相線温度の139℃に向かって低下する」ことを期待できる範囲が「共晶組成未満」の範囲であることは、記載されているに等しいといえるから、訂正事項1、3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項1、3は、明細書等に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲の減縮をするものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
なお、異議申立人は、令和6年9月5日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)において、「仮に、本件発明1に係るメカニズムが訂正前と訂正後で変更されたのであれば、特許発明が実質的に変更されたものとなるため、訂正の要件を満たさない。」(第9頁13~15行参照。)旨主張しているが、訂正前後いずれであっても、本件特許の請求項1~10に係る発明の、液相線温度が固相線温度に向かって低下するメカニズムは、明細書の段落【0014】に記載されているものから変更されていないので、本件発明1に係るメカニズムが訂正前と訂正後で変更された旨の異議申立人の主張は根拠がなく、採用できない。
また、異議申立人は、意見書において、「上述したように、発明の詳細な説明には、上記課題を解決する手段として、第2の可溶金属であるSn-Bi合金のBi含有量が“40質量%以上、かつ共晶組成未満”であり、かつ、第1の可溶金属であるSn-Ag合金の「Ag含有量が20質量%を超え30質量%以下」とした実施例は記載されておらず、」とし「本件発明1に係る訂正は、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるとはいえない。」(第9頁18~24行参照。)旨主張しているが、明細書には、第1の可溶金属を「70Sn-30Ag合金」、第2の可溶金属を「60Sn-40Bi合金」とした実施例1(段落【0016】参照。)が記載されており、上記技術常識からみて、段落【0014】に記載された液相線温度が固相線温度に向かって低下するというメカニズムは、実施例1の第2の可溶金属について、40重量%から共晶組成未満のBi含有量まで拡張できることは、当業者であれば理解できる。よって、異議申立人の主張は採用できない。
(2)訂正事項2、4について
訂正事項2、4は、訂正前の「60Sn-40Bi合金または30Sn-70Bi合金」という2つの選択肢のうちの一方である「60Sn-40Bi合金」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、〔5-10〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正後の請求項1~10に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1」~「本件発明10」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
接合作業温度で成分の一部が溶解する第1の可溶金属と、前記第1の可溶金属よりも低い溶融温度を有し前記接合作業温度で少なくとも成分の一部が溶融する第2の可溶金属とを積層した複合金属材からなり、
前記第1の可溶金属は、Sn-Ag合金であり、そのAg含有量が20質量%を超え30質量%以下で構成され、
前記第2の可溶金属は、Sn-Bi合金であり、そのBi含有量が40質量%以上、かつ共晶組成未満で構成され、
前記第1の可溶金属と前記第2の可溶金属の共通元素であるSn成分の平衡移動と互いの側に異種元素であるAgとBiの相互拡散を利用して、互いの液相線温度と固相線温度の差を減少させて、ヒューズ動作温度範囲を自己調節するヒューズ素子。
【請求項2】
前記第2の可溶金属は、少なくとも第2の可溶金属の固相線温度を超え、かつ第1の可溶金属の液相線温度未満の所定接合作業温度で成分の一部または全部が溶融する錫または無鉛錫系はんだ材である請求項1に記載のヒューズ素子。
【請求項3】
前記第1の可溶金属は、70Sn-30Ag合金であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のヒューズ素子。
【請求項4】
前記第2の可溶金属は、60Sn-40Bi合金であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のヒューズ素子。
【請求項5】
絶縁基板と、この絶縁基板に設けた複数の電極と、該電極のうち所定の電極に電気接続したヒューズ素子と、このヒューズ素子を加熱して溶断させるために絶縁基板に設けられた発熱素子とを備え、前記ヒューズ素子は、接合作業温度で成分の一部が溶解する第1の可溶金属と、前記第1の可溶金属よりも低い溶融温度を有し前記接合作業温度で少なくとも成分の一部が溶融する第2の可溶金属とを積層した複合金属材からなり、
前記第1の可溶金属は、Sn-Ag合金であり、そのAg含有量が20質量%を超え30質量%以下で構成され、
前記第2の可溶金属は、Sn-Bi合金であり、そのBi含有量が40質量%以上、かつ共晶組成未満で構成され、
前記第1の可溶金属と前記第2の可溶金属の共通元素であるSn成分の平衡移動と互いの側に異種元素であるAgとBiの相互拡散を利用して、互いの液相線温度と固相線温度の差を減少させて、ヒューズ動作温度範囲を自己調節する保護素子。
【請求項6】
前記発熱素子は、前記ヒューズ素子が設けられた前記絶縁基板の基板面とは異なる基板面に設けたことを特徴とする請求項5に記載の保護素子。
【請求項7】
前記発熱素子は、前記ヒューズ素子が設けられた前記絶縁基板の基板面と同一の基板面に設けたことを特徴とする請求項5に記載の保護素子。
【請求項8】
前記第2の可溶金属は、少なくとも第2の可溶金属の固相線温度を超え、かつ第1の可溶金属の液相線温度未満の接合作業温度で成分の一部または全部が溶融する錫または無鉛錫系はんだ材である請求項5ないし請求項7の何れか1つに記載の保護素子。
【請求項9】
前記第1の可溶金属は、70Sn-30Ag合金であることを特徴とする請求項5ないし請求項8の何れか1つに記載の保護素子。
【請求項10】
前記第2の可溶金属は、60Sn-40Bi合金であることを特徴とする請求項5ないし請求項8の何れか1つに記載の保護素子。
第4 取消理由の概要
当審が令和6年3月29日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(サポート要件について)
本件発明1~10は、
「第1の可溶金属は、Sn-Ag合金であり、そのAg含有量が20質量%を超え30質量%以下で構成され、第2の可溶金属は、Sn-Bi合金であり、そのBi含有量が40質量%以上70質量%以下で構成され」との数値範囲が規定され、さらに「前記第1の可溶金属と前記第2の可溶金属の共通元素であるSn成分の平衡移動と互いの側に異種元素であるAgとBiの相互拡散を利用して、互いの液相線温度と固相線温度の差を減少させて、ヒューズ動作温度範囲を自己調節する」という事項が規定された発明である。
一方、一般的に知られているSn-Bi合金の二元状態図(第2 2(1)参照)から、第2の可溶金属が30Sn-70Bi合金であれば、液相線は139℃から約271℃に向かう右上がりの線の範囲が該当することとなるから、「相対的にBi濃度が増加」して二元状態図の右側に移行すれば、右上がりの液相線温度に沿って固相線温度の139℃から離れて上昇することとなる。
そうすると、第2の可溶金属が30Sn-70Bi合金の場合には、明細書の段落【0014】の「その結果、第2の可溶金属22においては、相対的にBi濃度が増加し、液相線温度が固相線温度の139℃に向かって低下するようになる。」との記載と矛盾することとなるから、第2の可溶金属が30Sn-70Bi合金である場合に、上記のヒューズ動作温度範囲の自己調節に係る発明特定事項が実現できるとは認められない。したがって、出願時の技術常識に照しても、上記具体例を、「第2の可溶金属」に「30Sn-70Bi合金」を含む請求項1~10の数値範囲にまで拡張ないし一般化することはできないから、請求項1~10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。
第5 当審の判断
1 取消理由について
本件発明の課題について、【0006】には「保護素子の化学物質規制および抵抗低減と小型薄型化に対応したヒューズ素子およびそれを利用した電気・電子機器の保護素子を提供すること」と記載されている。
また、当該課題解決のメカニズムについて、【0014】には、第1の可溶金属21として80Sn-20Ag合金、第2の可溶金属22として60Sn-40Bi合金を例として、「第2の可溶金属22においては、相対的にBi濃度が増加し、液相線温度が固相線温度の139℃に向かって低下するようになる。つまり、ヒューズ素子を接合するともに、第1の可溶金属21と第2の可溶金属22の共通元素であるSn成分の平衡移動と互いの側に異種元素であるAgとBiの相互拡散を利用して、互いの液相線温度と固相線温度の差を減少させて、ヒューズ動作温度範囲を自己調節させる。上記構成のヒューズ素子は、従来ヒューズ素子の固体純銀被覆をSn系の無鉛はんだで溶食させるより速やかに溶断させることができ、また、銀被覆を使用しないため、硫化腐食や銀マイグレーション、銀被覆の残留による溶断不良の心配がない。」と記載されている。
一方、特許請求の範囲の記載は、本件訂正により、上記第3のとおり、請求項1~10に係る発明の複合金属材について、「前記第1の可溶金属は、Sn-Ag合金であり、そのAg含有量が20質量%を超え30質量%以下で構成され、前記第2の可溶金属は、Sn-Bi合金であり、そのBi含有量が40質量%以上、かつ共晶組成未満で構成され」ることが特定された。そして、当該複合金属材であれば、上記「第2 2(1)」で検討した通り当業者が出願時の技術常識に照らし、【0014】に記載されている、第1の可溶金属21として80Sn-20Ag合金、第2の可溶金属22として60Sn-40Bi合金とした場合と同様のメカニズムによって、本件発明の課題を解決できると認識できる。
よって、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
第6 取消理由通知において採用しなかった異議申立人の主張について
1 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)異議申立人の主張
異議申立人は、請求項1~10に係る発明は、以下の甲第1号証(主引用例)及び甲第2号証~甲第4号証(副引用例)に記載された発明、甲第5号証に記載された周知技術、並びに、甲第6号証及び甲第7号証に記載された自然法則そのもの又は技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである旨主張する。
(2)証拠方法
異議申立人の提出した証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証:特開2013-239405号公報
甲第2号証:特許第6336240号公報
甲第3号証:特開2007-165087号公報
甲第4号証:特開2017-73373号公報
甲第5号証:三光金属株式会社、同社ウェブサイト「材質紹介」「鉛フリーはんだの種類、等級及び記号」、[online],令和5年8月28日印刷、インターネット<URL:https://www.sanko-metal-industries.com/material/>
甲第6号証:実願昭53-142724号(実開昭55-59455号)のマイクロフィルム
甲第7号証:特開2016-66555号公報
(以下、「甲第1号証」~「甲第7号証」を、それぞれ「甲1」~「甲7」という。)
(3)甲1~7の記載事項等について
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
接合作業温度で溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも単層の高融点ベース材と、接合作業温度で溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも単層の低融点被覆材とを積層した複合金属材を用いたことを特徴とする保護素子用ヒューズ素子。
【請求項2】
前記複合金属材は、183℃以上280℃未満の接合作業温度において溶融しない可融性金属からなる前記高融点ベース材の表面に、該接合作業温度において溶融可能な可融性金属からなる前記低融点被覆材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の保護素子用ヒューズ素子。」
(イ)「【請求項4】
前記高融点ベース材は、20Sn-80Au合金、55Sn-45Sb合金、Pbを80質量%以上含有したPb-Sn合金の群から選択された少なくとも1つの可融性金属を用いたことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載の保護素子用ヒューズ素子。
【請求項5】
前記低融点被覆材は、Sn-Ag合金、Sn-Bi合金、Sn-Cu合金、Sn-Zn合金、Sn-Sb合金、Sn-Ag-Bi合金、Sn-Ag-Cu合金、Sn-Ag-In合金、Sn-Zn-Al合金、Sn-Zn-Bi合金または前記Sn基合金にAu、Ni、Ge、Gaをさらに添加した合金の群から選択された少なくとも1つの可融性金属を用いたことを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れか1つに記載の保護素子用ヒューズ素子。」
(ウ)「【請求項7】
絶縁基板と、該絶縁基板の表面に設けた複数のパターン電極と、このパターン電極に電気接続したヒューズ素子と、このヒューズ素子の上部を覆ったキャップ状蓋体とを備え、前記ヒューズ素子は、183℃以上280℃未満の接合作業温度において溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの高融点ベース材と、該接合作業温度において溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの低融点被覆材とを積層して成る複合金属材を用いたことを特徴とする回路保護素子。
【請求項8】
前記絶縁基板は、さらに抵抗発熱素子を設けたことを特徴とする請求項7に記載の回路保護素子。」
(エ)「【0012】
本発明に係る保護素子用ヒューズ素子は、図1に示すように、接合作業温度で溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも単層の高融点ベース材11と、接合作業温度で溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも単層の低融点被覆材12とを積層した複合金属材を用いたことを特徴としている。この保護素子用ヒューズ素子には、高融点ベース材11として183℃以上280℃未満の接合作業温度において溶融しない可融性金属、例えば20Sn-80Au合金、55Sn-45Sb合金、Pbを80質量%以上含有したPb-Sn合金などの合金材が好適に利用できる。
そして平板状または棒状の前記高融点ベース材11の表面に、該接合作業温度において溶融可能な可融性金属、例えばSn-Ag合金、Sn-Bi合金、Sn-Cu合金、Sn-Zn合金、Sn-Sb合金、Sn-Ag-Bi合金、Sn-Ag-Cu合金、Sn-Ag-In合金、Sn-Zn-Al合金、Sn-Zn-Bi合金または前記Sn基合金にAu、Ni、Ge、Gaをさらに添加した合金材などの低融点被覆材12を固着した複合金属材によって本発明に係る保護素子用ヒューズ素子を構成する。高融点ベース材11が平板状の場合は、該ベース材板面の少なくとも片側に低融点被覆材12を層状に設け、高融点ベース材11が棒状の場合は、該ベース材の外周面に低融点被覆材12を設ける。なお、上述の高融点ベース材11の表面に低融点被覆材12を設ける手段は、特に限定されず高融点ベース材11に低融点被覆材12を固着できればよい。例えば、低融点被覆材12はクラッド、めっき、溶融コート、圧着、ロジンなどの可融性樹脂による接着などの手段で高融点ベース材11の表面に固着できる。また、本発明に係る保護素子用ヒューズ素子は、積層面に予め接合フラックスを内蔵させた複合金属材としてもよい。」
(オ)「【0014】
本発明に係る回路保護素子は、接合作業温度で溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの高融点ベース材と接合作業温度で溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの低融点被覆材とを積層して成る複合金属材を用いたヒューズ素子およびパターン電極を有する絶縁基板を準備する準備工程、絶縁基板に接合フラックスを塗布する接合フラックス塗布工程、接合フラックスを塗布した絶縁基板のパターン電極とヒューズ素子の低融点被覆材とを互いに接触させて絶縁基板に載置するマウント工程、ヒューズ素子を載置した絶縁基板を183℃以上280℃未満の接合作業温度で低融点被覆材を溶融させてパターン電極に一括接合させる接合工程、接合したヒューズ素子に動作用の溶断フラックスを塗布する溶断フラックス塗布工程、溶断フラックスを塗布した絶縁基板上のヒューズ素子をキャップ状蓋体で覆ってパッケージングするパッケージング工程により組み立てられる。例えば、該ヒューズ素子25は、予め接合フラックスを塗布した絶縁基板のパターン電極24とヒューズ素子25の低融点被覆材22とを互いに接触させて絶縁基板23に載置され、183℃以上280℃未満の温度プロファイルに設定されたリフロー炉に通し低融点被覆材22を溶融させることによりパターン電極24に一括接合される。溶融した低融点被覆材22は、高融点ベース材21およびパターン電極24に相互拡散され高融点ベース材21とパターン電極24とを接合させる。高融点ベース材21は、リフロー温度で溶融しないので形状を保ったままパターン電極24に接合される。その後、接合したヒューズ素子25に動作用の溶断フラックスを塗布し、絶縁基板上のヒューズ素子25をキャップ状蓋体26で覆ってパッケージングし回路保護素子とする。」
(カ)「【0021】
本発明に係る実施例4の回路保護素子は、前記実施例1ないし実施例3の何れかの保護素子用ヒューズ素子を利用した回路保護素子であり、図3に示すように、アルミナ・セラミックスの絶縁基板33と、この絶縁基板33の上下面に設けた複数のAg合金製パターン電極34と、該パターン電極34と電気接続され該絶縁基板33の下面に設けた抵抗発熱素子38と、該絶縁基板33の上面のパターン電極34に電気接続したヒューズ素子35と、このヒューズ素子35の上部を覆って該絶縁基板に固着した液晶ポリマー製のキャップ状蓋体36とを備え、ヒューズ素子35は、183℃以上ピーク温度280℃未満のリフロー温度において溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの高融点ベース材31と、該リフロー温度において溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの低融点被覆材32とを積層した複合金属材からなり、パターン電極34は、基板上下面のパターン電極34を電気接続するAg合金のハーフ・スルーホール37を有する。特に図示しないが、実施例4の抵抗発熱素子の表面はガラス材のオーバーグレーズを施している。」
(キ)「【図1】
[図:0001420296000002.jpg]
」
(ク)「【図3】
[図:0001420296000003.jpg]
」
イ 甲1発明等
上記アから、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」及び「甲1発明の2」という。)が記載されていると認められる、
[甲1発明]
「接合作業温度で溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる高融点ベース材11と、接合作業温度で溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる低融点被覆材12とを積層した複合金属材からなり、
高融点ベース材11は、20Sn-80Au合金、55Sn-45Sb合金、Pbを80質量%以上含有したPb-Sn合金のいずれかであり、
低融点被覆材12は、Sn-Ag合金、Sn-Bi合金、Sn-Cu合金、Sn-Zn合金、Sn-Sb合金、Sn-Ag-Bi合金、Sn-Ag-Cu合金、Sn-Ag-In合金、Sn-Zn-Al合金、Sn-Zn-Bi合金または前記Sn基合金にAu、Ni、Ge、Gaをさらに添加した合金のいずれかであり、
接合作業温度で溶融した前記低融点被覆材12は、前記高融点ベース材11と相互拡散する、
保護素子用ヒューズ素子。」
[甲1発明の2]
「絶縁基板33と、この絶縁基板33に設けた複数のパターン電極34と、該パターン電極34のうち所定のパターン電極34に電気接続した保護素子用ユーズ素子と、この保護素子用ユーズ素子を溶断するために発熱する絶縁基板33に設けられた抵抗発熱素子38とを備え、前記保護素子用ヒューズ素子は甲1発明に係る保護素子用ヒューズ素子である、回路保護素子。」
ウ 甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0007】
本発明は、少なくとも1つの高融点金属により形成される高融点金属層および少なくとも1つの低融点金属により形成される低融点金属層を有して成るヒューズエレメントを有するヒューズ素子であって、前記ヒューズエレメントの各金属層が積層され、各金属層の電流の流れ方向に沿った長さが実質的に等しいことを特徴とする、ヒューズ素子を提供する。
【0008】
本発明のヒューズ素子は、少なくとも1つの高融点金属により形成される高融点金属層および少なくとも1つの低融点金属により形成される低融点金属層が積層され、各金属層の電流の流れ方向に沿った長さが実質的に等しいヒューズエレメントを有する。本発明のヒューズ素子は、このようなヒューズエレメントを有していればその形態は特に限定されず、例えば管ヒューズ、平型ヒューズ、薄膜ヒューズ等の形態であってもよい。」
(イ)「【0010】
このうち、上記高融点金属としては、特に限定するものではないが、例えば、Ni、Cu、Ag、Au、Al、Zn、Sn、Rh、Ru、Ir、Pd、Pt、Ni-Au合金、Ni-P合金およびNi-B合金が挙げられ、特にNiが好ましい。
【0011】
また、上記の高融点金属を用いる場合、上記低融点金属としては、特に限定するものではないが、例えば、Sn、Sn-Ag合金、Sn-Cu合金、Sn-Ag-Cu合金、Sn-Ag-Cu-Bi合金、Sn-Ag-Cu-Bi-In合金、Sn-Ag-Bi-In合金、Sn-Ag-Cu-Sb合金、Sn-Sb合金、Sn-Cu-Ni-P-Ge合金、Sn-Cu-Ni合金、Sn-Ag-Ni-Co合金、Sn-Ag-Cu-Co-Ni合金、Su-Bi-Ag合金、Sn-Zn合金およびSn-Bi合金が挙げられ、特にSn、Sn-Cu合金またはSn-Bi合金が好ましい。
【0012】
なお、「高融点金属」における「高融点」および「低融点金属」における「低融点」とは、相対的なものであることに注意されたい。すなわち、本発明のヒューズ素子のヒューズエレメントの各層を形成する金属のうち、最も融点の高い金属が「高融点金属」に該当し、最も融点の低い金属が「低融点金属」に該当する。」
エ 甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
「【0022】
可溶体3の形状が維持される理由は必ずしも明確ではないが、焼成温度で溶融する金属粉と焼成温度で溶融しない金属粉との組合せとしてSn粉とAg粉とを用いた場合を例に挙げると、焼成工程においては、先ず、融点の低いSn粉(融点230℃)が溶融するが、溶融したSnにAg(融点961℃)が拡散することにより、Sn-Ag合金が形成される。得られるSn-Ag合金の融点は、450℃程度になる。このような現象が個々のSn粉において生じているため、全体としてみると可溶体3の形状は維持されるのである。これは、Sn粉とAg粉との組合せ以外も同様である。
【0023】
焼成温度で溶融する金属粉と焼成温度で溶融しない金属粉との比率は、焼成温度で溶融する金属粉及び前記焼成温度で溶融しない金属粉の合計に対する焼成温度で溶融する金属粉の比率を、10質量%以上、80質量%未満とすることが好ましい。Sn粉の含有比率が80質量%以上となる場合、チップ型ヒューズ素子1を実装するため等の熱処理により、可溶体3が断線するおそれがある。また、Sn粉の含有比率が10質量%未満である場合、溶断特性が低下するおそれがある。」
オ 甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0074】
低融点金属層2aは、好ましくは、Snを主成分とする金属であり、「Pbフリーハンダ」と一般的に呼ばれる材料である。低融点金属層2aの融点は、必ずしもリフロー温度よりも高い必要はなく、200℃程度で溶融してもよい。高融点金属層2bは、低融点金属層2aの表面に積層された金属層であり、例えば、Ag若しくはCu又はこれらのうちのいずれかを主成分とする金属からなり、ヒューズ素子1,20,30,40,50をリフロー炉によって外部回路基板上に実装する場合においても溶融しない高い融点を有する。」
(イ)「【0076】
また、ヒューズエレメント2は、所定の定格電流が流れている間は、自己発熱によっても溶断することがない。そして、定格よりも高い値の電流が流れると、自己発熱によって低融点金属層2aの融点から溶融を開始し、速やかに端子部5a,5b間の電流経路を遮断することができる。例えば、低融点金属層2aをSn‐Bi系合金やIn‐Sn系合金などで構成した場合、ヒューズエレメント2は、140℃や120℃前後という低温から溶融を開始する。このとき、ヒューズエレメント2は、例えば低融点金属としてSnを40%以上含ませる合金を用いることで、溶融した低融点金属層2aが高融点金属層2bを溶食することにより、高融点金属層2bが溶融温度よりも低い温度で溶融する。したがって、ヒューズエレメント2は、低融点金属層2aによる高融点金属層2bの溶食作用を利用して短時間で溶断することができる。」
カ 甲5の記載事項
甲5の鉛フリーはんだの種類、等級及び記号の表には、
(ア)「高温系」の「Sn-Ag」の欄の種類に「Sn95Ag5」との記載がある。
(イ)「低温系」の「Sn-Bi」の欄の種類に「Bi58Sn42」との記載がある。
キ 甲6の記載事項
甲6には、以下の事項が記載されている。
(ア)「ところで、銅,銀等の可溶導体は、一般に、その一部に低融点金属を付けると、それ自体の融点以下の温度で冶金学的理論に基づく反応(主として相互拡散)が起り、これに対応してその境界付近における融点が低下し、また同時に生ずる破断区域の抵抗値の増大により、可溶導体は加速度的に溶断されることが知られている。
本考案は、このような原理に着目してなされたものである。」(第5頁6~14行)
(イ)「素線4は、一般の銅,銀等の高融点の金属或はそれらの合金が使用され、またメッキ層5を形成する低融点金属としては、スズ,カドミウム,鉛,ビスマス,インジウム及びこれらの合金が好適である。」(第7頁2~6行)
ク 甲7の記載事項
甲7には、以下の事項が記載されている。
「本発明では、融解状態の低融点金属が高融点金属に拡散し、固体状態の高融点金属が融解状態の低融点金属に溶け出す「溶食」という現象を利用することで、低融点金属の融点付近の温度において高融点金属も含め導電材自体が溶断することで電流通電を遮断するものである。」(明細書段落【0012】)
(4)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
後者は「接合作業温度で溶融した低融点被覆材12は、高融点ベース材11と相互拡散」する構成を有し、接合作業温度では高融点ベース材11成分の一部が相互拡散するために溶解すると認められる。
したがって、後者の「接合作業温度で溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる高融点ベース材11」は、前者の「接合作業温度で成分の一部が溶解する第1の可溶金属」に相当する。
後者において「接合作業温度で溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる高融点ベース材11」と、「接合作業温度で溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる低融点被覆材12」とでは、明らかに、接合作業温度で溶融可能な「低融点被覆材12」の方が、溶融しない「高融点ベース材11」より溶融温度が低いと認められる。
したがって、後者の「接合作業温度で溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる低融点被覆材12」は、前者の「前記第1の可溶金属よりも低い溶融温度を有し前記接合作業温度で少なくとも成分の一部が溶融する第2の可溶金属」に相当する。
後者の「保護素子用ヒューズ素子」は、前者の「ヒューズ素子」に相当する。
したがって、両者は、次の一致点1で一致し、相違点1及び2で相違する。
[一致点1]
「接合作業温度で成分の一部が溶解する第1の可溶金属と、前記第1の可溶金属よりも低い溶融温度を有し前記接合作業温度で少なくとも成分の一部が溶融する第2の可溶金属とを積層した複合金属材からなるヒューズ素子。」
[相違点1]
本件発明1は、「第1の可溶金属は、Sn-Ag合金であり、そのAg含有量が20質量%を超え30質量%以下で構成され、第2の可溶金属は、Sn-Bi合金であり、そのBi含有量が40質量%以上、かつ共晶組成未満で構成され」るのに対し、
甲1発明は、「高融点ベース材11は、20Sn-80Au合金、55Sn-45Sb合金、Pbを80質量%以上含有したPb-Sn合金のいずれかであり、低融点被覆材12は、Sn-Ag合金、Sn-Bi合金、Sn-Cu合金、Sn-Zn合金、Sn-Sb合金、Sn-Ag-Bi合金、Sn-Ag-Cu合金、Sn-Ag-In合金、Sn-Zn-Al合金、Sn-Zn-Bi合金または前記Sn基合金にAu、Ni、Ge、Gaをさらに添加した合金のいずれかであ」る点。
[相違点2]
本件発明1は、「前記第1の可溶金属と前記第2の可溶金属の共通元素であるSn成分の平衡移動と互いの側に異種元素であるAgとBiの相互拡散を利用して、互いの液相線温度と固相線温度の差を減少させて、ヒューズ動作温度範囲を自己調節する」のに対し、
甲1発明は、「接合作業温度で溶融した低融点被覆材12は、高融点ベース材11と相互拡散する」ものの、互いの液相線温度と固相線温度の差を減少させて、ヒューズ動作温度範囲を自己調節することについては特定されていない点。
イ 検討
相違点1について検討する。
甲1には、高融点ベース材11として複数の合金が例示されており、低融点被覆材12については10種以上の合金が例示されているため、高融点ベース材11と低融点被覆材12との組合せは更に多くなるが、それら多くの組合せの中から、高融点ベース材11としてSn-Ag合金、低融点被覆材12としてSn-Bi合金の組合せを採用することは記載も示唆もされていない。そもそも、甲1においては、「Sn-Ag合金」は「低融点被覆材12」の1種として例示されているものの、「高融点ベース材11」としての例示はないことにかんがみれば、「高融点ベース材11」として「Sn-Ag合金」を採用することを想起すること困難である。仮に、甲1発明から、「高融点ベース材11」を「Sn-Ag合金」とし、「低融点被覆材12」を「Sn-Bi合金」としたヒューズ素子に想到し得たとしても、そこからさらに「Sn-Ag合金」と「Sn-Bi合金」における各金属の含有量を本件発明1のような含有量に調整することは、当業者が容易になし得たものではない。
甲2~7にも、「Sn-Ag合金」と「Sn-Bi合金」を組み合わせたヒューズ素子は記載ないし示唆されていない。
さらに、「Sn-Ag合金」と「Sn-Bi合金」を組み合わせることが、ヒューズ素子の技術常識であったとも認められない。
また、「Ag含有量が20質量%を超え30質量%以下で構成され」る「Sn-Ag合金」と、「Bi含有量が40質量%以上、かつ共晶組成未満で構成され」る「Sn-Bi合金」とを組み合わせることの従来技術に関する客観的な証拠はない。
そして、当該相違点1に係る本件発明1の構成によって、「隣接する2種類の金属層の相互拡散を利用して、互いの液相線温度と固相線温度の差を減少させて、ヒューズ動作温度範囲を自己調節する」という作用効果を奏すると認められる。
そうであれば、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲1~甲7に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の構成を全て含み、さらに限定した発明であるから、上記(4)に示した理由と同様の理由により、甲1発明、甲1~甲7に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と甲1発明の2とを対比する。
後者の「絶縁基板33」は前者の「絶縁基板」に相当し、以下同様に、
「パターン電極34」は「電極」に、
「甲1発明」は「ヒューズ素子」に、
「溶断するために発熱する」ことは「加熱して溶断させる」ことに
「抵抗発熱素子38」は「発熱素子」に、
「回路保護素子」は「保護素子」に、それぞれ相当する。
後者の甲1発明の「接合作業温度で溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる高融点ベース材11」は、前者の「接合作業温度で成分の一部が溶解する第1の可溶金属」に相当する。
後者の甲1発明の「接合作業温度で溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる低融点被覆材12」は、前者の「接合作業温度で成分の一部が溶解する第1の可溶金属と、前記第1の可溶金属よりも低い溶融温度を有し前記接合作業温度で少なくとも成分の一部が溶融する第2の可溶金属」に相当する。
後者の甲1発明の「積層した複合金属材」は、前者の「積層した複合金属材」に相当する。
したがって、両者は、次の一致点2で一致し、相違点3及び4で相違する。
[一致点2]
「絶縁基板と、この絶縁基板に設けた複数の電極と、該電極のうち所定の電極に電気接続したヒューズ素子と、このヒューズ素子を加熱して溶断させるために絶縁基板に設けられた発熱素子とを備え、前記ヒューズ素子は、接合作業温度で成分の一部が溶解する第1の可溶金属と、前記第1の可溶金属よりも低い溶融温度を有し前記接合作業温度で少なくとも成分の一部が溶融する第2の可溶金属とを積層した複合金属材からなる保護素子。」
[相違点3]
本件発明5は「第1の可溶金属は、Sn-Ag合金であり、そのAg含有量が20質量%を超え30質量%以下で構成され、第2の可溶金属は、Sn-Bi合金であり、そのBi含有量が40質量%以上、かつ共晶組成未満で構成され」るのに対し、
甲1発明の2は、甲1発明の「高融点ベース材11は、20Sn-80Au合金、55Sn-45Sb合金、Pbを80質量%以上含有したPb-Sn合金のいずれかであり、低融点被覆材12は、Sn-Ag合金、Sn-Bi合金、Sn-Cu合金、Sn-Zn合金、Sn-Sb合金、Sn-Ag-Bi合金、Sn-Ag-Cu合金、Sn-Ag-In合金、Sn-Zn-Al合金、Sn-Zn-Bi合金または前記Sn基合金にAu、Ni、Ge、Gaをさらに添加した合金のいずれかであ」る点。
[相違点4]
本件発明5は「前記第1の可溶金属と前記第2の可溶金属の共通元素であるSn成分の平衡移動と互いの側に異種元素であるAgとBiの相互拡散を利用して、互いの液相線温度と固相線温度の差を減少させて、ヒューズ動作温度範囲を自己調節する」のに対し、
甲1発明の2は、「接合作業温度で溶融した低融点被覆材12は、高融点ベース材11と相互拡散する」ものの、互いの液相線温度と固相線温度の差を減少させて、ヒューズ動作温度範囲を自己調節することについては特定されていない点。
イ 検討
相違点3は、上記(4)アの相違点1と同じ内容であるから、上記(4)イで検討したことと同様の理由により、相違点4について検討するまでもなく、本件発明5は、甲1発明、甲1発明の2、甲1~甲7に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(7)本件発明6~10について
本件発明6~10は、本件発明5の構成を全て含み、さらに限定した発明であるから、上記(6)に示した理由と同様の理由により、甲1発明、甲1発明の2、甲1~甲7に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(8)小括
上記(4)~(7)のとおり、請求項1~10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反しないから、異議申立人の上記(1)の主張は採用しない。
2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件・委任省令要件)について
(1)特許異議申立書における主張について
異議申立人は、特許異議申立書の「(4-5)実施可能要件違反の理由」(第34ページ上から8行目~下から4行目)において、
「(ア)特許発明1は、第1の可溶合金であるSn-Ag合金のAg含有量および第2の可溶合金であるSn-Bi合金のBi含有量について特定の数値限定を伴うものであり、このような限定を付した構成を採用することにより、本件発明1の課題を解決するものと解される。
(イ)しかし、発明の課題解決との関係が明らかであるというためには、数値限定を付した場合の効果(実施例)と、このような数値限定を満足しない場合の効果(比較例)とを十分に記載しておく、あるいは実施例及び比較例の記載に替わって課題との関係で数値限定を付したことの技術的意義が理解できるような記載を設けるなどにより、技術上の意義を明確にしておくこと等が必要と考えられるところ、本件明細書の発明の詳細な説明をみても、このような記載は見当たらない。
(ウ)したがって、このような数値限定を伴う本件発明1において、かかる数値範囲を特定する技術的意義が十分に記載されているとはいえないことから、特許法36条第4項第1号の規定に適合するものとはいえない。特許発明1を引用する特許発明2~4、同様の構成を規定する特許発明5および特許発明5を引用する特許発明6~10についても同様である。」と主張する。
(2)実施可能要件につての当審の判断
本件発明1~10が実施可能であるというためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1~10に係る発明を実施することができることが要求されるところ、
明細書の記載から、「厚さ80μmの70Sn-30Ag合金(液相線温度415℃、固相線温度221℃)の合金板からなる第1の可溶金属11と、厚さ10μmの60Sn-40Bi合金(液相線温度175℃、固相線温度139℃)の合金板からなる第2の可溶金属12とをクラッドにより積層した複合金属材10」(段落【0016】参照)を用意し、
該ヒューズ素子を、「予め接合フラックスを塗布した絶縁基板の電極24aとヒューズ素子25の第2の可溶金属22とを互いに接触させて載置し、温度プロファイルが余熱温度110~130℃で滞留時間70秒、150℃以上の滞留時間が30秒、ピーク温度が170℃となるようにリフロー炉に通して、第1の可溶金属21の一部を溶解させ、第2の可溶金属22の一部または全部を溶融させて互いの共通元素のSn相を相互拡散させ平衡状態に漸近させるとともに、溶融した第2の可溶金属22によりヒューズ素子25を電極24aに接合させる」(段落【0018】)ことで、当業者であれば温度ヒューズ素子ないし保護素子を作ることが十分に可能であると認められる。
そうであれば、発明の詳細な説明は、請求項1~10に係る発明をその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、過度の試行錯誤を要することなく、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。
(3)委任省令要件についての当審の判断
明細書には、発明が解決しようとする課題として「本発明は、保護素子の化学物質規制および抵抗低減と小型薄型化に対応したヒューズ素子およびそれを利用した電気・電子機器の保護素子を提供することを目的とする。」(【0006】参照)との記載がある。
そして、明細書には、当該課題の解決手段に関連して「第1の可溶金属21におけるAg濃度は相対的に低下し、液相線温度が当初の370℃より固相線温度の221℃に向かって低下して行く。」(段落【0014】)との記載があり、本件発明1~10の第1の可溶金属(Sn-Ag合金)のAg含有量であれば、Ag濃度が低下した際、液相線温度が固相線温度に向かって低下するメカニズムが働くことは、当業者であれば理解できる。
また、「第2の可溶金属22においては、相対的にBi濃度が増加し、液相線温度が固相線温度の139℃に向かって低下するようになる。」(段落【0014】)とも記載されており、本件発明1~10の第2の可溶金属(Sn-Bi合金)のBi含有量であれば、Bi濃度が増加した際、液相線温度が固相線温度に向かって低下するメカニズムが働くことも、当業者であれば理解できる。
そして、第1可溶金属、第2可溶金属の双方で液相温度が低下するメカニズムが働くことにより、「ヒューズ動作温度範囲を自己調節させる。上記構成のヒューズ素子は、従来ヒューズ素子の固体純銀被覆をSn系の無鉛はんだで溶食させるより速やかに溶断させることができ、また、銀被覆を使用しないため、硫化腐食や銀マイグレーション、銀被覆の残留による溶断不良の心配がない。」(段落【0014】)との作用・効果が得られると認められる。
そうすると、本件明細書には、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているといえるから、委任省令要件を満たしている。
(4)小括
上記(2)及び(3)のとおり、明細書の発明の詳細な説明には、請求項1~10に係る発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていると認められるから、異議申立人の上記(1)の主張は採用しない。
3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)特許異議申立書における主張
異議申立人は、特許異議申立書の「(4-6)サポート要件違反の理由」(第34ページ下から3行目~第35ページ下から5行目)において、
「(ア)特許発明1にかかるヒューズ素子は、第1の可溶合金であるSn-Ag合金のAg含有量を20質量%を超え30質量%以下とし、第2の可溶合金であるSn-Bi合金のBi含有量を60質量%以上70質量%以下とした。
(イ)一方、本件明細書の発明の詳細な説明には、ヒューズ素子について以下の実施例が記載されている。
実施例1(段落[0016])
70Sn-30Ag合金/60Sn-40Bi合金
67Sn-33Ag合金/30Sn-70Bi合金
実施例2(段落[0017])
80Sn-20Ag合金/60Sn-40Bi合金
実施例3
記載なし
実施例4(段落[0019])
70Sn-30Ag合金/60Sn-40Bi合金
実施例5(段落[0020])
80Sn-20Ag合金/60Sn-40Bi合金
(ウ)上記実施例1~5のなかで、特許発明1に対応するヒューズ素子の実施例は実施例1、4に記載の「70Sn-30Ag合金/60Sn-40Bi合金」のみである。このような記載だけでは、本件出願時の技術常識を参酌して、当該数値範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載しているとはいえず、本件明細書の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する明細書のサポート要件に適合するということはできない。また、特許発明1を引用する特許発明2~4、同様の構成を規定する特許発明5および特許発明5を引用する特許発明6~10についても同様である。」
と主張する。
(2)サポート要件についての当審の判断
上記第5で検討したとおりであるから、上記(1)の異議申立人の主張は採用しない。
(3)意見書の主張と当審の判断
異議申立人は、意見書の3(2)(エ)において、第2の可溶金属として「30Sn-70Bi合金」を例示し、「本件発明1は、Sn-Bi二元状態図におけるBi含有量と液相線の関係では説明できない現象を利用している。」(第3頁6~9行)と主張している。
しかしながら、本件訂正により、第2の可溶金属の組成は「Bi含有量が40質量%以上、かつ共晶組成未満」とされ、Bi含有量が共晶組成以上の「30Sn-70Bi合金」は含まれないこととなったため、本件発明は、発明の詳細な説明の【0014】に記載されている、液相線温度と固相線温度の差が減少するメカニズムによって説明される発明となった。
そうであれば、異議申立人の上記の主張は本件発明1~10に基づかないものであるから、採用しない。
また、異議申立人は、意見書の3(2)(オ)において、「「共晶組成未満」には、共晶組成に限りなく近く共晶組成とほぼ同じ組成(例えばSn-56.99Bi)も含まれるが、このような組成においてはそもそも液相線温度と固相線温度の差が無く自己調節機能が働く余地がない。」(第4頁3-6行)と主張しているものの、Bi含有量が40質量%以上、かつ共晶組成未満の範囲であれば、程度の差こそあれ、液相線温度と固相線温度の差が残存し、自己調節機能が働く余地はあると認められるので、この異議申立人の主張は採用できない。
さらにまた、異議申立人は、意見書の3(2)(カ)において、
「【0014】には「第2の可溶金属22では、第1の可溶金属21の溶解および拡散によりSnが第1の可溶金属21側に移動して平衡状態に近づくのでSn成分が減少し、Bi濃度も拡散により第1の可溶金属21に移行し減少する。」とあるが、第1の可溶金属と第2の可溶金属の組成範囲全てにおいて「Snが第1の可溶金属21側に移動して平衡状態に近づくので」第2の可溶金属の「Sn成分が減少」する点が証明されてしかるべきだが、明細書に記載されておらず、またこのことが技術常識であるとも言えない。」(第4頁13-20行)、「溶融した第2の可溶金属に拡散混合される第1の可溶金属の成分は、固相を維持している第1の可溶金属へ拡散される第2の可溶金属の成分よりも多いと考えるのが自然である。すなわち、「平衡状態に近づく(【0014】【0015】)過程においては、主に第1の可溶金属のSn成分が全部が溶融された液相の第2の可溶金属へ移動していくと考えられるところ、訂正後の本件発明1に示す組成範囲において「Snが第1の可溶金属21側に移動して平衡状態に近づくので」第2の可溶金属の「Sn成分が減少」することはないと思われる。」(第6頁1-9行)と主張しているが、異議申立人は、本件発明1~10の数値範囲において、平行状態に近づく過程で、何故、第2の可溶金属から第1の可溶金属に移行するSn成分よりも、第1の可溶金属から成分が第2の可溶金属に移行するSn成分が多くなるのかについて、客観的な証拠を示してはいないので、この異議申立人の主張は採用できない。
第7 むすび
したがって、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700891