特許異議申立
2023-700375
ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及びビールテイスト飲料に良好な濃醇さと後味の質を付与する方法
- 審判番号
- 2023-700375
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-192928
- 登録番号
- 7152843
- 請求日
- 2023年04月13日
- 審決日
- 2023年12月28日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】サッポロビール株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】坂西 俊明
- 【権利者代理人】江守 英太
- 【権利者代理人】阿部 寛
- 【権利者代理人】田村 明照
- 【異議申立人】芦田 桂
- 審判長/審判官
- 審判長 淺野 美奈
- 審判官 中村 和正
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-YAA(C12C) / P1651.121-YAA(C12C) / P1651.537-YAA(C12C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7152843号発明「ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及びビールテイスト飲料に良好な濃醇さと後味の質を付与する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7152843号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、5及び6について訂正することを認める。
特許第7152843号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7152843号(以下、この通知において「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成28年9月30日の出願であって、令和4年10月4日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年同月13日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和5年4月13日に特許異議申立人 芦田 桂(以下、「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年6月22日付けで取消理由が通知され、同年8月10日に特許権者 サッポロビール株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに意見書の提出がされ、同年同月25日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年9月29日に特許異議申立人より意見書の提出があったものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 本件訂正請求の趣旨
本件訂正請求における請求の趣旨は、「特許第7152843号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1乃至6について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下であり、タンパク質含有量が0.41g/100ml以上であり、糖質含有量が1.3g/100ml以上2.0g/l00ml以下である、ビールテイスト飲料。」と記載されているのを、「原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下であり、原料としてコラーゲンを用いず、タンパク質含有量が0.51g/100ml以上であり、糖質含有量が1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下である、ビールテイスト飲料。」に訂正する。
請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項2ないし4も同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に「アルコール度数がlv/v%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。」と記載されているのを、「原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下(ただし、25質量%未満を除く)であり、タンパク質含有量が0.51g/100ml以上であり、糖質含有量が1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下であり、アルコール度数がlv/v%以上である、ビールテイスト飲料。」に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に「麦芽の比率が66.6質量%以下である原料を用い、ビールテイスト飲料のタンパク質含有量が0.41g/100ml以上、糖質含有量が1.3g/100ml以上2.0g/100ml以下となるように調整することを含む、ビールテイスト飲料の製造方法。」と記載されているのを、「麦芽の比率が66.6質量%以下である原料を用い、原料としてコラーゲンを用いず、ビールテイスト飲料のタンパク質含有量が0.5lg/100ml以上、糖質含有量が1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下となるように調整することを含む、ビールテイスト飲料の製造方法。」に訂正する。
(4) 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし5について、請求項2ないし5は請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定するものであるから、訂正前の請求項1ないし5に対応する訂正後の請求項1ないし5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
なお、訂正後の請求項5については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、別の訂正単位とする求めがある。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、ビールテイスト飲料の原料に「コラーゲン」を用いないことを特定するとともに、タンパク質含有量及び糖質含有量の上限をさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、本件特許の明細書の【0030】、【0031】、【0033】、【0055】ないし【0057】、【0059】ないし【0061】、【表1】及び【表2】の記載から見て、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項2ないし4も同様である。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項5の訂正は、訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、独立形式の請求項へ改めるとともに、ビールテイスト飲料の原料中の麦芽の比率に関し「ただし、25質量%未満を除く」ことを特定し、かつ、タンパク質含有量及び糖質含有量の上限をさらに限定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするとともに、特許請求の範囲の減縮をも目的とするものである。
そして、訂正事項2に係る請求項5の訂正は、取消理由通知において通知した甲1発明を除くものであるとともに、本件特許の明細書の【0030】、【0031】、【0033】、【0055】ないし【0057】、【0059】ないし【0061】、【表1】及び【表2】の記載から見て、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(3) 訂正事項3について
訂正事項3に係る請求項6の訂正は、ビールテイスト飲料製造方法において、原料に「コラーゲン」を用いないことを特定するとともに、タンパク質含有量及び糖質含有量の上限をさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3に係る請求項6の訂正は、本件特許の明細書の【0030】、【0031】、【0033】、【0055】ないし【0057】、【0059】ないし【0061】、【表1】及び【表2】の記載から見て、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
4 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、5及び6について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、5及び6について訂正を認めるので、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、令和5年8月10日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下であり、原料としてコラーゲンを用いず、タンパク質含有量が0.51g/100ml以上であり、糖質含有量が1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下である、ビールテイスト飲料。
【請求項2】
原料中の麦芽の比率が50質量%未満である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
エキス分が2.0w/v%以上である、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
原料として食物繊維を用いない、請求項1~3のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下(ただし、25質量%未満を除く)であり、タンパク質含有量が0.51g/100ml以上であり、糖質含有量が1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下であり、アルコール度数がlv/v%以上である、ビールテイスト飲料。
【請求項6】
麦芽の比率が66.6質量%以下である原料を用い、
原料としてコラーゲンを用いず、
ビールテイスト飲料のタンパク質含有量が0.5lg/100ml以上、糖質含有量が1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下となるように調整することを含む、
ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項7】
ビールテイスト飲料のタンパク質含有量が0.41g/100ml以上、糖質含有量が1.3g/100ml以上2.0g/100ml以下となるように調整することを含む、原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下であるビールテイスト飲料に良好な濃醇さと後味の質を付与する方法。」
第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について
特許異議申立人が特許異議申立書において、請求項1ないし7に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨(下記1ないし10)は、次のとおりである。
1 申立理由1-1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由1-2(甲第2号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由1-3(甲第3号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 申立理由2-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
5 申立理由2-2(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
6 申立理由2-3(甲第3号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
7 申立理由2-4(甲第4号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
8 申立理由2-5(甲第5号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
9 申立理由3(明確性要件)
本件特許の請求項4及び5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由3の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
本件特許発明1は、「原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下」であることを特定しているのに対して、本件特許発明1を引用する本件特許発明4は、「原料として食物繊維を用いない」ことを特定している。麦芽に食物繊維が含まれることは当業者の技術常識である。そうすると、本件特許発明1の「麦芽」との関係において、本件特許発明4の「原料として食物繊維を用いない」という記載がどのような状況を特定するのか、例えば、麦芽を原料として用いないことを意味するのか、又はそれ以外のことを意味するのかを明確に把握できない。したがって、本件特許発明4は明確でない。本件特許発明4を引用する本件特許発明5も同様である。
10 申立理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由4の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
(1) 申立理由4-1
本件特許明細書には、「しかしながら、原料中の麦芽の比率が低い低糖質のビールテイスト飲料は、濃醇さと後味の質(後味がしっかりしたものであり、かつ渋味が少ないものであること)が不十分であった。」(段落0005)、「本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、低糖質でありながら、良好な濃醇さと後味の質を有するビールテイスト飲料を提供することを目的とする。」(段落0006)といった記載がある。これらの記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、低糖質でありながら、良好な濃醇さと後味の質(後味がしっかりしたものであり、かつ渋味が少ないものであること)を有するビールテイスト飲料を提供することであると認められる。
上記のような課題に対して、本件特許発明1、6、7は、原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下であること、ビールテイスト飲料のタンパク質含有量が0.41g/100ml以上であること、及びビールテイスト飲料の糖質含有量が1.3g/100ml以上2.0g/100ml以下であることを特定している。一方、本件特許発明1、6、7は、原料中の麦芽の比率の下限、麦芽以外の原料の種類及びその比率、タンパク質含有量の上限を特定していない。
原料中の麦芽の比率に関しては段落0027の記載があるものの、原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下に設定することで、ビールテイスト飲料の濃醇さ及び後味の質が良好になる理論的説明(作用機序)は、本件特許明細書に具体的に示されていない。
また、実施例で使用された原料中の麦芽の比率は、約25質量%及び約50質量%の2つのみであり、それ以外の麦芽の比率で製造されたビールテイスト飲料は評価されておらず、実際に製造されていない。
さらに、本件特許明細書(段落0025、0028)には、多数の麦原料及び麦原料以外の原料が例示されているが、実施例においては、原料として麦原料(麦芽及び粉砕大麦)のみが使用されており、それ以外の原料は使用されていない。原料中の麦芽の比率はもちろん、麦芽以外の原料の種類及びその比率によってビールテイスト飲料の風味が変わることは当業者の技術常識であるが、請求項1、6、7に記載された原料中の麦芽の比率(66.6質量%以下)の全範囲にわたって、許容されるあらゆる原料を用いた場合に、良好な濃醇さと後味の質が得られることを十分に裏付ける実験データ及び理論的説明は、本件特許明細書に具体的に示されていない。
これらの理由から、本件特許発明1、6、7の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。したがって、本件特許発明1、6、7は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし5も同様である。
(2) 申立理由4-2
本件特許発明1を引用する本件特許発明4は、「原料として食物繊維を用いない」ことを特定している。
原料としての食物繊維に関して、本件特許明細書には、「上記ビールテイスト飲料は、原料として食物繊維を用いないことが好ましい。これにより、後味の質がより良好なものとなる。」(段落0010)、「本実施形態に係るビールテイスト飲料においては、後味の質がより良好なものとなる観点から、原料として食物繊維を用いないことが好ましい。」(段落0035)といった記載がある。しかしながら、原料として食物繊維を用いないことで、後味の質がより良好になる理論的説明(作用機序)は、本件特許明細書に具体的に示されていない。
本件特許明細書(段落0047~0061)の記載によれば、実施例では、粉砕した麦原料(麦芽及び粉砕大麦)等を使用してビールテイスト飲料を製造し、官能評価を実施している。麦原料(麦芽及び粉砕大麦)は植物原料であり、このような植物原料に食物繊維が含まれることは当業者の技術常識である。したがって、原料として食物繊維を用いない場合に良好な濃醇さ及び後味の質が得られることを十分に裏付ける実験データは、本件特許明細書に具体的に示されていない。
以上の理由から、原料として食物繊維を用いていない場合に既述の課題を解決できることを当業者は認識できない。したがって、本件特許発明4は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。本件特許発明4を引用する本件特許発明5も同様である。
11 証拠方法
・甲第1号証:GNPD - Asahi SMART OFF, ID#3506931、Mintel、2015年10月
・甲第2号証:GNPD - Style ONE SHINE MALT, ID#2175652、Mintel、2013年9月
・甲第3号証:GNPD - SAPPORO CREAMY WHITE, ID#1428992、Mintel、2010年10月
・甲第4号証:特開2013-201976号公報
・甲第5号証:特開2010-130902号公報
・甲第6号証:特開平6-78740号公報
・甲第7号証:日本のビール・発泡酒・新ジャンルと税、ビール酒造組合・発泡酒の税制を考える会、2011年
・甲第8号証:JFRLニュース、一般財団法人日本食品分析センター、Vol.5 No.25 Oct. 2016、2016年10月10日
・甲第9号証:特開2013-255504号公報
また、特許異議申立人は、令和5年9月29日に提出した意見書(以下、単に「意見書」という。)に添付して、次の証拠を提出している。
・甲第10号証:特開2005-168441号公報
・甲第11号証:国際公開第2008/069027号
・甲第12号証:国際公開第2011/052483号
・甲第13号証:特開2012-157323号公報
なお、証拠の表記については、おおむね特許異議申立書及び意見書における記載にしたがった。
第5 令和5年6月22日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の概要
請求項1ないし6に係る特許に対して、当審が令和5年6月22日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。なお、取消理由には、申立理由1-1ないし1-3及び申立理由2-1ないし2-3が包含される。
1 取消理由1-1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 取消理由1-2(甲第2号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 取消理由1-3(甲第3号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 取消理由2-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
5 取消理由2-2(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
6 取消理由2-3(甲第3号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 当審の判断
1 令和5年6月22日付取消理由通知で通知した取消理由についての判断
(1) 取消理由1-1及び2-1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
ア 甲第1号証の記載事項等
(ア) 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、Mintel記録番号(ID#):3506931、Asahi SMART OFF について、次の記載がある。
「
[図:0001407832000001.jpg]
[図:0001407832000002.jpg]
[図:0001407832000003.jpg]
」
(イ) 甲第1号証に記載された発明
上記(ア)の記載から、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認める。
「原材料中の麦芽比率が25%未満であり、タンパク質含有量が0.6~1.2g/100ml、糖質含有量が1.0~1.8g/100ml、アルコール分が5%であり、
原材料が、麦芽、ホップ、大麦、大麦エキス、スターチ、糖類、コラーゲンペプチド(ゼラチン)、酵母エキスからなる、
発泡酒。」(以下、「甲1発明」という。)
また、甲第1号証に記載された「Asahi Smart Off」は、上市された製品、即ち製造されたものであるから、次の発明が記載されているものといえる。
「原材料中の麦芽比率が25%未満であり、タンパク質含有量が0.6~1.2g/100ml、糖質含有量が1.0~1.8g/100ml、アルコール分が5%であり、
原材料が、麦芽、ホップ、大麦、大麦エキス、スターチ、糖類、コラーゲンペプチド(ゼラチン)、酵母エキスからなる、
発泡酒の製造方法。」(以下、「甲1製法発明」という。)
イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「発泡酒」は、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲1発明における発泡酒は「原材料中の麦芽比率が25%未満」、「タンパク質含有量が0.6~1.2g/100ml」であるから、本件特許発明1における「原材料中の麦芽の比率が66.6質量%以下」、「タンパク質含有量が0.51g/100ml以上」との特定事項を満たす。
すると、両者は、
「原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下であり、タンパク質含有量が0.51g/100ml以上である、ビールテイスト飲料。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点1-1)
ビールテイスト飲料に関し、本件特許発明1は「原料としてコラーゲンを用いず」と特定するのに対し、甲1発明は原材料に「コラーゲンペプチド(ゼラチン)」を含むものである点。
(相違点1-2)
糖質含有量に関し、本件特許発明1は「1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下である」と特定するのに対し、甲1発明は「1.0~1.8g/100ml」である点。
上記相違点について検討する。
(相違点1-1について)
甲1発明は、原材料に「コラーゲンペプチド(ゼラチン)」を用いるものであるから、相違点1-1は実質的な相違点であることは明らかである。
してみれば、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明ではない。
また、甲1発明は上市された製品であり、かつ、コラーゲンを含むことをその特徴とするものであるから、その原材料から「コラーゲンペプチド(ゼラチン)」を除く動機付けはない。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(イ) 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1の全ての特定事項を有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明1の全ての特定事項を有する本件特許発明2ないし4もまた、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(ウ) 本件特許発明5について
本件特許発明5と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「発泡酒」は、本件特許発明5の「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲1発明における発泡酒は「タンパク質含有量が0.6~1.2g/100ml」、「アルコール分が5%」であるから、本件特許発明5における「タンパク質含有量が0.51g/100ml以上」、「アルコール度数がlv/v%以上である」との特定事項を満たす。
すると、両者は、
「タンパク質含有量が0.51g/100ml以上であり、アルコール度数がlv/v%以上である、ビールテイスト飲料。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点1-3)
原料中の麦芽の比率について、本件特許発明5は「66.6質量%以下(ただし、25質量%未満を除く)」と特定されるのに対し、甲1発明は「25%未満」である点。
(相違点1-4)
糖質含有量に関し、本件特許発明5は「1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下である」と特定するのに対し、甲1発明は「1.0~1.8g/100ml」である点。
上記相違点について検討する。
(相違点1-3について)
原料中の麦芽の比率に関して、本件特許発明5は「25質量%未満」のものを除外するから、甲1発明は明らかに相違するものである。
してみると、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明5は甲1発明ではない。
また、甲1発明は上市された製品であるから、その原材料において、麦芽の比率が大きくなるように変更する動機付けはない。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(特許異議申立人の主張について)
なお、この点について、特許異議申立人は、令和5年9月29日提出の意見書(以下、単に「意見書」という。)において、甲第7号証や甲第10号証を引用しつつ、酒税法上、発泡酒は麦芽比率が最大66.6%程度まで許容されていること、風味や泡特性の改善を期待して麦芽比率の変更が可能であることなどをあげ、甲1発明において、相違点1-3に係る本件特許発明5の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たことである旨主張する(意見書p.4-5)。
しかしながら、麦芽の比率を変更することは、味のバランス等を変更することに直結するものであるから、上市された製品において、原料組成を変更する動機付けがあるとはいえないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
また、仮に原料組成を変更できるとすると、タンパク質含有量、糖質含有量も定まらないこととなるから、この点からも、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(エ) 本件特許発明6について
本件特許発明6と甲1製法発明とを対比すると、上記(ア)と同様の相当関係・判断が成立する。
したがって、本件特許発明6は、甲1製法発明ではなく、また、甲1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 取消理由1-1及び2-1についてのまとめ
上記イのとおりであるから、取消理由1-1及び2-1の理由では、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
(2) 取消理由1-2及び2-2(甲第2号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
ア 甲第2号証の記載事項等
(ア) 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、Mintel記録番号(ID#):2175652、Style ONE SHINE MALTについて、次の記載がある。
「
[図:0001407832000004.jpg]
[図:0001407832000005.jpg]
[図:0001407832000006.jpg]
」
(イ) 甲第2号証に記載された発明
上記(ア)の記載から、甲第2号証には、次の発明が記載されているものと認める。
「たんぱく質含有量が0.1~0.5g/100ml、糖質含有量が1.7g/100ml、アルコール分が4.5%であり、
原材料が、発泡酒、スピリッツ(大麦)、炭酸ガス含有からなる、
リキュール(発泡性)。」(以下、「甲2発明」という。)
また、甲第2号証に記載された「Style ONE SHINE MALT」は、上市された製品、即ち製造されたものであるから、次の発明が記載されているものといえる。
「たんぱく質含有量が0.1~0.5g/100ml、糖質含有量が1.7g/100ml、アルコール分が4.5%であり、
原材料が、発泡酒、スピリッツ(大麦)、炭酸ガス含有からなる、
リキュール(発泡性)の製造方法。」(以下、「甲2製法発明」という。)
イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「リキュール(発泡性)」は、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲2発明における原材料に麦芽が含まれないこと及び「リキュール(発泡性)」は酒税法上麦芽比率が50%未満であること(必要であれば甲第7号証参照のこと)、「糖質含有量が1.7g/100ml」であるから、本件特許発明1における「原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下」、「糖質含有量が1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下」との特定事項を満たす。
さらに、甲2発明の原材料からみて、本件特許発明1の「原料としてコラーゲンを用いず」との特定事項を満たすことも明らかである。
してみると、両者は、
「原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下であり、原料としてコラーゲンを用いず、糖質含有量が1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下である、ビールテイスト飲料。」
で一致するもの、次の点で相違する。
(相違点2-1)
タンパク質含有量に関し、本件特許発明1は「0.51g/100ml以上」と特定されるのに対し、甲2発明は「0.1~0.5g/100ml」である点。
上記相違点2-1について検討する。
タンパク質含有量に関して、本件特許発明1は「0.51g/100ml以上」であるから、「0.1~0.5g/100ml」である甲2発明とは明らかに相違するものである。
してみると、本件特許発明5は甲2発明ではない。
また、甲2発明は上市された製品であるから、タンパク質含有量を大きくし、相違点2-1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとする動機付けがない。
よって、本件特許発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(特許異議申立人の主張について)
特許異議申立人は意見書において、甲第1号証、甲第3号証、甲第11号証及び甲第12号証をあげつつ、甲2発明においてタンパク質含有量を変更し、相違点2-1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たことである旨主張する(意見書p.6-14)。
しかしながら、全ての証拠の記載を見ても、上記検討のとおり、上市された製品において、その組成を変更する動機付けがあるとはいえないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
また、タンパク質含有量を増大させる方向で組成を変更しようとすると、当然原料に影響し、糖質含有量についても定まらないものとなることとなるから、この点からも、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(イ) 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1の全ての特定事項を有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明1は、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明1の全ての特定事項を有する本件特許発明2ないし4もまた、甲2発明ではなく、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(ウ) 本件特許発明5について
本件特許発明5と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「リキュール(発泡性)」は、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲2発明におけるリキュール(発泡性)は、「糖質含有量が1.7g/100ml」、「アルコール分が4.5%」であるから、本件特許発明5における「糖質含有量が1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下」、「アルコール度数がlv/v%以上」との特定事項を満たす。
してみると、両者は、
「糖質含有量が1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下であり、アルコール度数がlv/v%以上である、ビールテイスト飲料。
で一致し、次の点で相違する。
(相違点2-2)
原料中の麦芽の比率について、本件特許発明5は「66.6質量%以下(ただし、25質量%未満を除く)」と特定されるのに対し、甲2発明はそのような特定がない点。
(相違点2-3)
タンパク質含有量に関し、本件特許発明5は「0.51g/100ml以上」と特定されるのに対し、甲2発明は「0.1~0.5g/100ml」である点。
事案に鑑み、相違点2-3について検討する。
相違点2-3は、上記相違点2-1と同旨であり、上記(ア)と同様に判断される。
したがって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(エ) 本件特許発明6について
本件特許発明6と甲2製法発明とを対比すると、上記(ア)と同様の相当関係・判断が成立する。
したがって、本件特許発明6は、甲2製法発明ではなく、また、甲2製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 取消理由1-2及び2-2についてのまとめ
上記イのとおりであるから、取消理由1-2及び2-2の理由では、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
(3) 取消理由1-3及び2-3(甲第3号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
ア 甲第3号証の記載事項等
(ア) 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、Mintel記録番号(ID#):1428992、SAPPORO CREAMY WHITEについて、次の記載がある。
「
[図:0001407832000007.jpg]
[図:0001407832000008.jpg]
」
(イ) 甲第3号証に記載された発明
上記(ア)の記載から、甲第3号証には、次の発明が記載されているものと認める。
「タンパク質含有量が0.4~0.8g/100ml、糖質含有量が2.0~3.2g/100ml、アルコール分が5%であり、
原材料が、低麦芽ビール(もると、ホップ、大麦)、スピリッツ(大麦)からなる、
リキュール(発泡性)。」(以下、「甲3発明」という。)
また、甲第3号証に記載された「SAPPORO CREAMY WHITE」は、上市された製品、即ち製造されたものであるから、次の発明が記載されているものといえる。
「タンパク質含有量が0.4~0.8g/100ml、糖質含有量が2.0~3.2g/100ml、アルコール分が5%であり、
原材料が、低麦芽ビール(もると、ホップ、大麦)、スピリッツ(大麦)からなる、
リキュール(発泡性)の製造方法。」(以下、「甲3製法発明」という。)
イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「リキュール(発泡性)」は、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲3発明における原材料に麦芽が含まれないこと及び「リキュール(発泡性)」は酒税法上麦芽比率が50%未満であること(必要であれば甲第7号証参照のこと)、原材料にコラーゲンが含まれないことから、本件特許発明1における「原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下」、「原料としてコラーゲンを用いず」との特定事項を満たす。
してみると、両者は、
「原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下であり、原料としてコラーゲンを用いない、ビールテイスト飲料。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点3-1)
タンパク質含有量について、本件特許発明1は「0.51g/100ml以上」と特定されるのに対して、甲3発明は「0.4~0.8g/100ml」である点。
(相違点3-2)
糖質含有量について、本件特許発明1は「1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下」と特定されるのに対して、甲3発明は「2.0~3.2g/100ml」である点。
事案に鑑み、相違点3-2について検討する。
糖質含有量について、本件特許発明1は「1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下」であるのに対して、甲3発明は「2.0~3.2g/100ml」であるから、明らかに相違している。
してみると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲3発明ではない。
また、甲3発明は上市された製品であるから、糖質含有量を小さくし、相違点3-2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとする動機付けがない。
よって、本件特許発明1は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(特許異議申立人の主張について)
特許異議申立人は意見書において、甲第13号証をあげつつ、甲3発明において、糖質含有量を減らして、相違点3-2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たものである旨主張する(意見書p.15-17)。
しかしながら、全ての証拠の記載を見ても、上記検討のとおり、上市された製品において、その組成を変更する動機付けがあるとはいえないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
また、糖質含有量を減少させる方向で組成を変更しようとすると、当然原料に影響し、タンパク質含有量についても定まらないものとなることとなるから、この点からも、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(イ) 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1の全ての特定事項を有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明1は、甲3発明ではなく、また、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明1の全ての特定事項を有する本件特許発明2ないし4もまた、甲3発明ではなく、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(ウ) 本件特許発明5について
本件特許発明5と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「リキュール(発泡性)」は、本件特許発明5の「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲3発明におけるリキュール(発泡性)は「アルコール分が5%」であるから、本件特許発明5における「アルコール度数がlv/v%以上」との特定事項を満たす。
してみると、両者は、
「アルコール度数がlv/v%以上である、ビールテイスト飲料。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点3-3)
原料中の麦芽の比率について、本件特許発明5は「66.6質量%以下(ただし、25質量%未満を除く)」と特定されるのに対して、甲3発明にはそのような特定がない点。
(相違点3-4)
タンパク質含有量について、本件特許発明5は「0.51g/100ml以上」と特定されるのに対して、甲3発明は「0.4~0.8g/100ml」である点。
(相違点3-5)
糖質含有量について、本件特許発明5は「1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下」と特定されるのに対して、甲3発明は「2.0~3.2g/100ml」である点。
事案に鑑み、相違点3-5について検討する。
相違点3-5は、上記相違点3-2と同旨であり、上記(ア)と同様に判断される。
したがって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲3発明ではなく、また、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(エ) 本件特許発明6について
本件特許発明6と甲3製法発明とを対比すると、上記(ア)と同様の相当関係・判断が成立する。
したがって、本件特許発明6は、甲3製法発明ではなく、また、甲3製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 取消理由1-3及び2-3についてのまとめ
上記イのとおりであるから、取消理由1-3及び2-3の理由では、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
2 令和5年6月22日付け取消理由通知で通知した取消理由において採用しなかった異議申立理由についての判断
令和5年6月22日付け取消理由通知で通知した取消理由において採用しなかった異議申立理由は、申立理由2-4、申立理由2-5、申立理由3及び申立理由4である。
以下、順に検討する。
(1) 申立理由2-4(甲第4号証を主たる証拠とする進歩性)について
ア 甲第4号証に記載された発明
甲第4号証の実施例3の記載を中心に整理すると、甲第4号証には、次の発明が記載されているものと認める。
「麦芽を15重量%(w/w)以下含有する穀物類をデンプン原料として用いて製造されたビール様アルコール飲料にビール凍結乾燥物を1.0g/100mlの割合で添加した、飲料中の全窒素量が352mg/Lであるビール様アルコール飲料。」(以下、「甲4発明」という。)
「麦芽を15重量%(w/w)以下含有する穀物類をデンプン原料として用いて製造されたビール様アルコール飲料にビール凍結乾燥物を1.0g/100mlの割合で添加した、飲料中の全窒素量が352mg/Lであるビール様アルコール飲料の製造方法。」(以下、「甲4製法発明」という。)
「麦芽を15重量%(w/w)以下含有する穀物類をデンプン原料として用いて製造されたビール様アルコール飲料にビール凍結乾燥物を1.0g/100mlの割合で添加することで、飲料中の全窒素量が352mg/Lであるビール様アルコール飲料の風味改善方法。」(以下、「甲4方法発明」という。)
イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「麦芽を15重量%(w/w)以下含有する」は、本件特許発明1の「原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下であり」との特定事項を満たす。
また、甲4発明の「ビール用アルコール飲料」は、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当する。
してみると、両者は、
「原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下である、ビールテイスト飲料。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点4-1)
原料に関して、本件特許発明1は「コラーゲンを用いず」と特定されるのに対して、甲4発明にはそのような特定がない点。
(相違点4-2)
タンパク質含有量に関して、本件特許発明1は「0.51g/100ml以上」と特定されるのに対して、甲4発明にはそのような特定がない点。
(相違点4-3)
糖質含有量に関して、本件特許発明1は「1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下」と特定されるのに対して、甲4発明にはそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点4-3について検討する。
甲第4号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲4発明における糖質含有量は不明であり、また、糖質含有量を調整することを示唆する記載もない。
この点について、特許異議申立人は、甲第1号証、甲第2号証の記載における糖質含有量や甲第9号証の低糖質のビールテイスト飲料の糖質含有量の好ましい上限などを参照しつつ、甲4発明の糖質含有量を調整することは容易である旨主張する(特許異議申立書p.48-49)が、そもそも、甲4発明において糖質含有量を調整する動機がない以上、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
よって、甲4発明において、相違点4-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
してみると、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ) 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1の全ての特定事項を有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明1は、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明1の全ての特定事項を有する本件特許発明2ないし4もまた、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ) 本件特許発明5について
本件特許発明5と甲4製法発明とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。
(相違点4-4)
糖質含有量に関して、本件特許発明5は「1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下」と特定されるのに対して、甲4製法発明にはそのような特定がない点。
そこで検討するに、相違点4-4は、上記相違点4-3と同旨であり、上記(ア)のとおり判断される。
してみると、本件特許発明5は、甲4製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ) 本件特許発明6について
本件特許発明6と甲4製法発明とを対比すると、上記(ア)と同様の相当関係・判断が成り立つ。
してみると、本件特許発明6は、甲4製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(オ) 本件特許発明7について
本件特許発明7と甲4方法発明とを対比する。
甲4方法発明の「麦芽を15重量%(w/w)以下含有する」は、本件特許発明7の「原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下であり」との特定事項を満たす。
また、甲4方法発明の「ビール用アルコール飲料」は、本件特許発明7の「ビールテイスト飲料」に相当する。
さらに、甲4方法発明の「風味改善方法」は、本件特許発明7の「良好な濃厚さと後味の質を付与する方法」のうち、何らかの「風味を改善する方法」として対応する。
すると、両者は、
「減量中の麦芽の比率が66.6質量%以下であるビールテイスト飲料の風味を改善する方法。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点4-5)
タンパク質含有量に関して、本件特許発明7は「0.41g/100ml以上」と特定されるのに対して、甲4方法発明にはそのような特定がない点。
(相違点4-6)
糖質含有量に関して、本件特許発明7は「1.3g/100ml以上2.0g/100ml以下」と特定されるのに対して、甲4方法発明にはそのような特定がない点。
(相違点4-7)
本件特許発明7は「良好な濃厚さと後味の質を付与する方法」と特定されるのに対し、甲4方法発明は「風味を改善する方法」である点。
事案に鑑み、相違点4-6について検討する。
相違点4-6は、糖質の上限値が異なるものの、その意味するところは、上記相違点4-3と同旨であり、上記(ア)のとおり判断される。
してみると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明7は、甲4方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立理由2-4についてのまとめ
上記イのとおりであるから、申立理由2-4の理由では、本件特許発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
(2) 申立理由2-5(甲第5号証を主たる証拠とする進歩性)について
ア 甲第5号証に記載された発明
甲第5号証の実施例1の記載を中心に整理すると、甲第5号証には、次の発明が記載されているものと認める。
「麦芽、糖化スターチ、ホップ、及び水を含む液(麦芽比率48%)であり、糖質含有量が2.1g/100mlである、発酵飲料。」(以下、「甲5発明」という。)
「麦芽、糖化スターチ、ホップ、及び水を含む液(麦芽比率48%)であり、糖質含有量が2.1g/100mlである、発酵飲料の製造方法。」(以下、「甲5製法発明」という。)
「麦芽、糖化スターチ、ホップ、及び水を含む液(麦芽比率48%)であり、糖質含有量を2.1g/100mlとする、発酵飲料の香味改善方法。」(以下、「甲5方法発明」という。)
イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「麦芽比率48%」は、本件特許発明1の「原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下であり」との特定事項を満たす。
また、甲5発明の「発酵飲料」の原料から見て、本件特許発明1の「原料としてコラーゲンを用いず」との特定事項を満たす。
さらに、甲5発明の「発酵飲料」は、その原料・製法から見て、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当することは明らかである。
してみると、両者は、
「原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下であり、原料としてコラーゲンを用いない、ビールテイスト飲料。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点5-1)
タンパク質含有量に関して、本件特許発明1は「0.51g/100ml以上」と特定されるのに対して、甲5発明にはそのような特定がない点。
(相違点5-2)
糖質含有量に関して、本件特許発明1は「1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下」と特定されるのに対して、甲5発明は「2.1g/100ml」である点。
事案に鑑み、相違点5-2について検討する。
甲第5号証は、低糖質発酵飲料に関するものではあるものの、甲5発明において、糖質含有量のみを減少させ、相違点5-2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとする動機付けがあるとはいえない。
この点について、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲第5号証の記載、及び上記(1)イ(ア)と同旨の主張をするが、具体的な実施例である甲5発明において、糖質濃度を変更することは、原料そのものをも変更することにつながるため、麦芽の比率や、タンパク質含有量の算出がそもそもできなくなることとなる。
また、全ての証拠の記載を見ても、甲5発明において、他の成分・組成を変更することなく、糖質のみを減じることを動機づける記載があるともいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
よって、甲5発明において、相違点5-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
してみると、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ) 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1の全ての特定事項を有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明1は、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明1の全ての特定事項を有する本件特許発明2ないし4もまた、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ) 本件特許発明5について
本件特許発明5と甲5製法発明とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。
(相違点5-3)
糖質含有量に関して、本件特許発明5は「1.3g/100ml以上1.82g/100ml以下」と特定されるのに対して、甲5製法発明にはそのような特定がない点。
そこで検討するに、相違点5-3は、上記相違点5-2と同旨であり、上記(ア)のとおり判断される。
してみると、本件特許発明5は、甲5製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ) 本件特許発明6について
本件特許発明6と甲5製法発明とを対比すると、上記(ア)と同様の相当関係・判断が成り立つ。
してみると、本件特許発明6は、甲5製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(オ) 本件特許発明7について
本件特許発明7と甲5方法発明とを対比する。
甲5方法発明の「麦芽比率48%」は、本件特許発明1の「原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下であり」との特定事項を満たす。
また、甲5方法発明の「発酵飲料」は、その原料・製法から見て、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当することは明らかである。
さらに、甲5方法発明の「香味改善方法」は、本件特許発明7の「良好な濃厚さと後味の質を付与する方法」のうち、何らかの「風味を改善する方法」として対応する。
してみると、両者は、
「原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下であるビールテイスト飲料の風味を改善する方法。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点5-4)
タンパク質含有量に関して、本件特許発明7は「0.41g/100ml以上」と特定されるのに対して、甲5方法発明にはそのような特定がない点。
(相違点5-5)
糖質含有量に関して、本件特許発明7は「1.3g/100ml以上2.0g/100ml以下」と特定されるのに対して、甲5方法発明は「2.1g/100ml」である点。
(相違点5-6)
本件特許発明7は「良好な濃厚さと後味の質を付与する方法」と特定されるのに対して、甲5方法発明は「香味改善方法」である点。
事案に鑑み、相違点5-5について検討する。
相違点5-5は、糖質の上限値が異なるものの、その意味するところは、上記相違点5-2と同旨であり、上記(ア)のとおり判断される。
してみると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明7は、甲5方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立理由2-5についてのまとめ
上記イのとおりであるから、申立理由2-5の理由では、本件特許発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
(3) 申立理由3(明確性要件)について
1 明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
2 特許請求の範囲の記載
上記第3に記載のとおりである。
3 明確性要件についての判断
本件特許の請求項4は、
「原料として食物繊維を用いない、請求項1~3のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。」
と記載されるものであって、引用形式で記載されている請求項1ないし3の記載も含め、その発明特定事項は明確である。
また、本件特許の請求項5についても、その発明特定事項は明確である。
4 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許発明4における「原料として食物繊維を用いない」との特定事項は、本件特許発明1の「麦芽」との関係において、どのような状況を特定するのか明確に把握できない旨主張する。
しかしながら、本件特許発明4における「原料として食物繊維を用いない」との特定事項は、「大麦」や「麦芽」とは別に、原料として「食物繊維」を用いないことを意味することは、当業者であれば明らかである。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
5 申立理由3についてのまとめ
上記3及び4のとおりであるから、申立理由3の理由によっては、本件特許発明4及び5に係る特許を取り消すことはできない。
(4) 申立理由4(サポート要件)について
1 サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
2 特許請求の範囲の記載
上記第3に記載のとおりである。
3 サポート要件についての判断
本件特許の発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「低糖質でありながら、良好な濃醇さと後味の質を有するビールテイスト飲料を提供すること」(【0006】)である。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下であり、タンパク質含有量が0.31g/100ml超であり、糖質含有量が2.5g/100ml以下である」(【0018】)と記載されるとともに、「本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料中の麦芽の比率が66.6質量%以下であればよく、50質量%未満、又は25質量%未満であってよい。原料中の麦芽の比率が上記範囲であると、ビールテイスト飲料の濃醇さと後味の質がより良好なものとなる」(【0027】)こと、「本実施形態に係るビールテイスト飲料は、タンパク質含有量が0.31g/100ml超である」(【0029】)こと、「タンパク質含有量が上記範囲であると、ビールテイスト飲料の濃醇さと後味の質がより良好なものとなる」(【0030】)こと、「本実施形態に係るビールテイスト飲料は、糖質含有量が2.5g/100ml以下である」(【0032】)こと、「糖質含有量が上記範囲であると、甘みのべとつきがより抑えられる」(【0033】)ことが記載され、これらのことを裏付ける具体的な実施例の記載もある。
してみると、当業者であれば、「ビールテイスト飲料」において、「原料中の麦芽の比率が66.6重量%以下」であり、「タンパク質含有量が0.31g/100ml超」であり、「糖質含有量が2.5g/100ml以下である」との特定事項を満たすことで、発明の課題を解決できるものと認識できる。
そして、本件特許発明1ないし7はいずれも、上記の発明の課題を解決できると認識できる特定事項を全て有し、さらに限定するものであるから、当然、発明の課題を解決するものと認識できる。
よって、本件特許発明1ないし7はいずれも、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合する。
4 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、原料中の麦芽の比率(66.6質量%以下)の全範囲にわたって、許容されるあらゆる原料を用いた場合に、良好な濃醇さと後味の質が得られることを十分に裏付ける実験データ及び理論的説明は、本件特許明細書に具体的に示されていないこと(申立理由4-1)、原料として食物繊維を用いない場合の効果の裏付けがないこと(申立理由4-2)を主張する。
しかしながら、申立理由4-1について、本件特許発明の効果は、他の条件が同じ場合における相対的なものであろうことは、本件特許の明細書の記載から当業者であれば理解できる。また、申立理由4-2について、本件特許発明は、原料として大麦や麦芽とは別に「食物繊維」を用いないことを特定するにすぎない。
そして、本件特許発明1ないし7はいずれも、発明の課題を解決するものと認識できるものであることは、上記3の検討のとおりである。
よって、特許異議申立人の上記主張は、いずれも採用できない。
5 申立理由4についてのまとめ
上記3及び4のとおりであるから、申立理由4の理由によっては、本件特許発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700375