特許異議申立
2022-700123
ビールテイスト飲料
- 審判番号
- 2022-700123
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-012868
- 登録番号
- 6917488
- 請求日
- 2022年02月14日
- 審決日
- 2022年10月24日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】サッポロビール株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】坂西 俊明
- 【異議申立人】芦田 桂
- 審判長/審判官
- 審判長 大島 祥吾
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 三上 晶子
- 分類
- P1651.113-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6917488号発明「ビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6917488号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。
特許第6917488号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6917488号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、令和2年1月29日の出願であって、令和3年7月21日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年8月11日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年2月14日に特許異議申立人 芦田 桂(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし4)がされ、同年5月9日付けで取消理由が通知され、同年7月19日に特許権者 サッポロビール株式会社から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年8月15日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年9月21日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和4年7月19日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記エタノールの含有量が、0.005v/v%以上0.50v/v%未満である、」とあるのを、「前記エタノールの含有量が、0.005v/v%以上0.50v/v%未満であり、プロピレングリコールの含有量が0mg/L超9000mg/L以下である、」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2及び3についても同様の訂正をする。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「プロピレングリコール及びグリセリンの含有量が、それぞれ0mg/L以上9000mg/L以下である、」とあるのを、「グリセリンの含有量が0mg/L以上9000mg/L以下である、」に訂正する。
併せて、請求項2を引用する請求項3についても同様の訂正をする。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「プロピレングリコールの含有量が0mg/L超9000mg/L以下である、又はグリセリンの含有量が0mg/L超9000mg/L以下である、」とあるのを、「グリセリンの含有量が0mg/L超9000mg/L以下である、」に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「4-ビニルグアイアコール」及び「エタノール」に加え、「プロピレングリコール」を「0mg/L超9000mg/L以下」含有することを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2についての訂正について
訂正事項1による請求項2についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2による請求項2についての訂正は、請求項1についての訂正に伴い、請求項2の不要な記載を削除したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び2による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項3についての訂正について
訂正事項1による請求項3についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2による請求項3についての訂正は、請求項2についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3による請求項3についての訂正は、請求項1についての訂正に伴い、請求項3の不要な記載を削除したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1ないし3による請求項3についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし3による請求項1ないし3についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし3による請求項1ないし3についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし3は一群の請求項に該当するものである。
そして、訂正事項1ないし3による請求項1ないし3についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし4に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
4-ビニルグアイアコール及びエタノールを含有し、
前記4-ビニルグアイアコールの含有量が、80μg/L以上250μg/L以下であり、
前記エタノールの含有量が、0.005v/v%以上0.50v/v%未満であり、
プロピレングリコールの含有量が0mg/L超9000mg/L以下である、ビールテイスト飲料。
【請求項2】
グリセリンの含有量が0mg/L以上9000mg/L以下である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
グリセリンの含有量が0mg/L超9000mg/L以下である、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
ビールテイスト飲料に、4-ビニルグアイアコールを80μg/L以上250μg/L以下含有させること、及びエタノールを0.005v/v%以上0.50v/v%未満含有させること、を含む、ビールテイスト飲料の薬品味を低減させ、かつ香りの穏やかさを向上させる方法。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年2月14日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1及び4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第3号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(甲第4号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由5(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明におけるビールテイスト飲料は、例えば、原料を混合して製造してもよく(調合による方法)、酵母等による発酵を経て製造してもよいものである(本件特許明細書の【0041】)。
しかしながら、本実施例で本発明の効果が検証されているのは、各成分(原料)を調合した系(本件特許明細書の【0042】及び【0043】)での、4-ビニルグアイアコールとエタノールの水溶液における至適範囲である。そして、原料由来の香気成分を非常に多く含む、酵母等による発酵を経て製造された系(本件特許明細書の【0045】ないし【0054】)においても、4-ビニルグアイアコールとエタノールを本件特許発明1の範囲に設定することで同様の効果が得られるのか実証されていない。
そうすると、本実施例の結果が、発酵系のビールテイスト飲料においても同様の効果が得られるとは限らない。したがって、本件特許請求の範囲まで本件特許明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できない。
したがって、どのようなビールテイスト飲料であっても、4-ビニルグアイアコールとエタノールとグリセロール/プロピレングリコールの量を調整することで、本件実施例と同様の結果が達成できたのか不明であるため、本件特許発明1ないし4は、本件特許明細書に十分に支持されていない。
6 証拠方法
甲第1号証:Food Chemistry 4th revised and extended ed. p.892-906 2009年
甲第2号証:U.PORTO Master Thesis ”Alternative brewing organisms in wort fermentation for novel non-to-low alcoholic beverages with unique flavour profiles” 2017年6月
甲第3号証:BRAUINDUSTRIE 7/2015 p.12-15
甲第4号証:特開2018-148862号公報
甲第5号証:J.Inst.Brew., May-June, 1986, Vol.92, pp.225-228
甲第6号証:Handbook of Brewing,236-240 2009年
甲第7号証:特表昭62-500839号公報
甲第8号証:国際公開第2014/135673号
甲第9号証:醸造物の成分 P181-186,226-235 1999年12月10日 財団法人日本醸造協会
甲第10号証:エヌリブ 酒類総合研究所広報誌 第29号 2016年3月31日 独立行政法人 酒類総合研究所
甲第11号証:Beer in Health and Disease Prevention P61-75 “ Production of alcohol-free beer” 2009年 Elsevier Inc.Academic Press.
甲第12号証:Fermentation 2019,5,103 2019年12月17日
甲第13号証:ASBC Journal Vol.51,No.3, 114-118 (1993) American Society of Brewing Chemists,Inc.
甲第14号証:特開2016-185140号公報
甲第15号証:特開2015-122970号公報
甲第16号証:Braz.Arch.Biol.Techno1.56 (6) 1018-1023, (2013)
甲第17号証:J.Inst.Brew.,102, 327-332 (1996)
甲第18号証:Brauindustrie,67 (17),1085-1094 (1982)
甲第19号証:Brauindustrie,67 (21),1425-1432 (1982)
甲第20号証:Brauindustrie,67 (23-24), 1551-1558 (1982)
甲第21号証:Brewer's journal(2017年8月)https://www.brewersjournal.info/bacteria-sour-beer-and-getting-the-results-you-want/
甲第22号証:三訂 食品添加物ハンドブック p216-219 1979年4月25日
甲第23号証:Whisky Science p.421-424、453、2019年、Springer Nature Switzerland AG
なお、甲第23号証は令和4年9月21日に提出された意見書に添付されたものである。証拠の表記は、特許異議申立書及び上記意見書に添付された証拠説明書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第5 取消理由の概要
令和4年5月9日付けで通知された取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要はおおむね次のとおりである。
1 取消理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由1は、申立理由1のうち請求項1に対する理由を包含する。
2 取消理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲2に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由2は、申立理由2のうち請求項1ないし3に対する理由とおおむね同旨である。
3 取消理由3(甲4に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、甲4に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由3は、申立理由4を包含する。
第6 取消理由についての当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲1は外国語文献のため訳文のみを摘記する。また、半角文字は人名等を除き全角で表記する。さらに、下線は予め付されたものと当審で付したものがある。他の文献についても同様。
・「20.1 ビール」(第892ページ左欄20.1の項)
・「20.1.7.1 エタノール
香りに非常に重要な影響を与えるエタノール含有量は、低発酵のエキスが豊富なビールで1.0~1.5重量%、弱いまたは薄いビールで1.5~2.0%、フルビールで3.5~4.5%であり、強いビールの場合は4.8~5.5%である。2-メチルブタノール、3-メチルブタノール、メチルプロパノール、2-フェニルエタノールなどの高級アルコールもごく少量存在する。」(第901ページ右欄20.1.7.1の項)
・「20.1.7.8 アロマ物質
匂い物質、たとえば、ピルスナービールの場合を表20.6に示す。炭酸でpHを4.3に調整した水に溶かしたこれらの物質の適切な混合物によって香りが再現される。これは、このタイプのビールの主要な匂い物質を分析的に特定できるという事実を強調する。(R)-リナロールとエチル-4-メチルペンタノエートはホップに由来し、麦汁を沸騰させるとビールに含まれる。匂いと味覚活性物質は本質的にビールの種類を決定する。ピルスナービールの苦味は、比較的高濃度のイソフムロンとフムレン(酸化生成物を含む)によって生成されるが、濃いビールのキャラメル香には大量のフラネオールが関与している。アルコールフリービールの製造では、重要な芳香物質の濃度が低下する(表20.7)。」(第902ページ頁右欄20.1.7.8の項)
・「
[図:0001393099000001.jpg]
」(第903ページ表20.6)
・「
[図:0001393099000002.jpg]
」(第903ページ表20.7)
・「20.1.8.4 アルコールフリービール
アルコールフリービールの製造では、通常のビール(上面または下面発酵、ライトまたはダークビール)のアルコール含有量は、逆浸透(18.2.10.3を参照)または約40℃の真空下での蒸留によって大部分が除去される(≦0.5体積%)。香りへの影響は20.1.7.8に示されている。」(第904ページ右欄20.1.8.4の項)
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「4-ビニルグアイアコール及びエタノールを含有し、
前記4-ビニルグアイアコールの含有量が、130μg/Lであり、前記エタノールの含有量は、通常のビール(上面または下面発酵、ライトまたはダークビール)からアルコールが逆浸透または約40℃の真空下の蒸留によって大部分が除去されて、0.5体積%以下に調製された、アルコールフリービール。」
(2)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲2は外国語文献のため訳文のみを摘記する。
・「ユニークなフレーバープロファイルを持つ、ノンアルコールから低アルコール飲料の麦汁発酵における代替醸造菌」(表紙タイトル)
・「2.1 ノンアルコールから低アルコールビール
ノンアルコールまたは低アルコールビールは、近年ますます人気が高まっている。ヨーロッパ諸国の大部分では、低アルコール含有量のビールは、アルコール度数(ABV)が0.5%以下のアルコールフリービール(AFB)と、ABVが最大1.2%の低アルコール(LA)ビールに分けられる(Michele et al.2016)。アメリカ合衆国では、より厳しい規則があるため、AFBの組成にはアルコールが含まれておらず、LAビールの上限は0.5%ABVである。対照的に、宗教によってアルコール飲料の飲酒が禁止されている国では、LAビールは一般に0.05%ABVを超えてはならない(Branyik et al.2012)。」(第2ページ2.1の項)
・「今日では、多くの相容れない活動や宗教上の理由は別として、食習慣や個人の体重の管理が非常に注目されているため、非アルコールビールの市場は健康問題のために広く成長している。栄養上の利点よりも風味を優先する消費者はまだたくさんおり、入手可能なノンアルコール飲料の多くはフレーバープロファイルが悪く受け入れられないため、ノンアルコール飲料のフレーバーを標準的なビールの特性に合わせようと、これらのタイプの飲料の製造技術が改善されている(Catarino and Mendes 2011)。」(第2ページ最終段落)
・「前に述べたように、多くの消費者は、非アルコールまたは低アルコールビールのビール風味の欠如について不満を持っている。この問題を解決するために、生物学的方法は、発酵(物理的プロセス)後にエタノール抽出を行う場合の一般的な問題であるフレーバ一化合物の不要な抽出を回避するため、有利であるといわれている(Basso、Alcarde、及びPortugal 2016)。」(第3ページ第2段落)
・「醸造に関しては、LAB(乳酸菌)は主な腐敗剤としてよく知られており、ビールの腐敗の全事例の60%から70%の原因となる可能性があることがいくつかの研究で示されいる(Garofalo et al.2015)。しかし釀造業界は、麦汁の特性、香りのプロファイル、風味の安定性を改善するためのプレーヤーとしてのLABの使用など、多くの発明を改善及び適用してきた(Lowe and Arendt 2004)。ドイツのベルリーナーヴァイセやいくつかのベルギースタイルの有名なビールは、酵母とLABの混合物で作られ、美味しくて特徴的な最終製品になる(Vriesekoop et al.2012) 。」(第4ページ第1段落)
・「数年前まで、LAB(乳酸菌)によって発酵された穀物飲料の主要な芳香化合物に関する文献データはなかった。しかし、最近のいくつかの研究では、β-ダマセノン、フラネオール、フェニル酢酸、2-フェニルエタノール、4-ビニルグアイアコール、ソトロン、メチオナル、バニリン、酢酸、ノルフラネオール、グアイアコール、2-メチルブタン酸エチルが、LABで発酵させたモルトワート飲料のフレーバープロファイルへの主な貢献物質存在する12の主要な芳香化合物として特定された。また、アセトアルデヒドはアロマプロファイルに非常に重要であると述べられた。これらすべての化合物の中で、より魅力的で消費者に高い支持を得ていると考えられているのは、β-ダマセノン、アセトアルデヒド、フラネオール、フェニル酢酸、2-メチルブタン酸エチルである。ただし、アロマの排除と再結合に関するさらなる研究は、最終的なフレーバーへの各主要化合物の実際の貢献を実現するのに役立ち、おそらくそれらの相乗効果に関するいくつかの研究を開発することも興味深いことである(Nsogning Dongmo et al.2017)。」(第10ページ最終段落)
・「2.4. プロジェクトの目的
文献に記載され、以前に提示されたものに加えて、ノンアルコール、又は低アルコール飲料の製造のためのLAB及びいくつかの非従来型酵母の使用についての知識はまだほとんどない。したがって、この研究の主な目的は、穀物ベースの液体の発酵中のVOC生成の観点から、細菌と酵母菌株の生物多様性を評価し、それらが独自のフレーバープロファイルにどのように貢献できるかを評価することである。」(第15ページ第1段落)
・「すべてのLAB及び非従来型酵母の発酵に使用された培地は、高Fanファングルコース麦汁(HFGW)だった。これらの発酵を行った後、アロマプロファイルの点で最良の候補もマルトース麦汁(MW)に接種された。」(第16ページ第2段落)
・「3.3. 発酵とサンプル処理
発酵は、pH6のHFGWで満たされた250mLのガラスシリンダーで行われ、LAB株Lc.2、Lc.23、Lb.52、Leuc.2、Leuc.5、Pe.1、Pe.2は別として5°Pと7°Pの両方で実行される。その他はHFGW7°Pでテストされたばかりである。すべてのシリンダーに、2.5mL(1%v/v)の対応する細菌または酵母菌株(T0)を接種した。」(第20ページ第2段落)
・「3.4.分析
このプロジェクトでテストされたすべての菌株を十分に特徴づけるために可能な限り多くの情報を取得するために、いくつかの異なる分析が実行された。」(第21ページ頁3.4.の項)
・「3.4.3. エタノール含有量-アルコール度数
すべてのサンプルのエタノール含有量(%v/v)は、Anton Paar(Anton Paar 2017)のAlcolyzer Beer Analysis Systemで、各株について50mlのアリコートで分析された(付録C:ABV測定)。バクテリアと酵母の両方の候補の場合、サンプルが1:1に希釈されたため、装置で得られたABV値が重複していた。」(第22ページ3.4.3.の項)
・「3.4.5. アロマプロファイル-揮発性有機化合物分析
このプロジェクトでテストされた細菌と酵母菌株によって生成された揮発性有機化合物(VOC)は、Obernai(フランス)のカールスバーググループ開発センターの中央研究所で分析された。分析した化合物を表7に示す。」(第22ページ最終段落)
・「表7-すべてのサンプルでスクリーニングされた揮発性化合物
4-ビニルグアイアコール 4-VG」(第22ないし23ページ表7抜粋)
・「また、前述のように、4-ビニルグアイアコールの香りは、文献ではクローブのようなものとして分類されており、ビールのオフフレーバーと見なされることが多いため(Vanbeneden et. al.2008)、プロットではビネガーの分類の隣にあると予想された(強く、それほど心地よい香りではない);実際、それはモルト分類に近い。」(第30ページ下から4行目ないし最終行)
・「高レベルのアセトアルデヒドに関連する菌株の大部分は、Lb.プランタラム種に属しているが、4-ビニルグアヤコールは主にLc.ラクティス株によって生産された。文献では、アセトアルデヒドは新鮮でグリーン香を与えると記載されている。このプロジェク卜では、それに応じてフルーティーでフローラルなノートに関連付けられた。対照的に、4-ビニルグアイアコールは文献ではクローブのようなものとして定義されているが、この研究では麦芽臭(モルティ)として認識されていた。」(第41ページ3ないし7行)
・「
[図:0001393099000003.jpg]
[図:0001393099000004.jpg]
」(Annexes VIないしXXページから、4-ビニルグアイアコール(mg/L)とアルコール含有量(体積%)の情報を抜粋)
イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を、特に上記アのAnnexes VIないしXXページから、4-ビニルグアイアコール(mg/L)とアルコール含有量(体積%)の情報を抜粋した表のLc18株に関して整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明1」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明1>
「4-ビニルグアイアコール及びエタノールを含有し、前記4-ビニルグアイアコール含有量が、0.14mg/Lであり、前記エタノールの含有量が0.01体積%である、Lc18株で乳酸菌発酵させて得られたサンプル。」
また、甲2に記載された事項を、特に上記アのAnnexes VIないしXXページから、4-ビニルグアイアコール(mg/L)とアルコール含有量(体積%)の情報を抜粋した表のLb19株ないしFruc.13株に関して整理すると、4-ビニルグアイアコール及びエタノールの含有量に若干の違いがあるものの、甲2発明1と同様の発明を認定することができる。以下、これらの発明を順に「甲2発明2」ないし「甲2発明31」という。
(3)甲4に記載された事項等
ア 甲4に記載された事項
甲4には、「ビールテイスト飲料」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
4-ビニルグアイアコールと、
フルフリルアルコール、2-エチルピラジン及び2,3-ジメチルピラジンからなる群より選択される少なくとも1種の香気成分と、を含有し、
前記4-ビニルグアイアコールの含有量は、100μg/L以上500μg/L以下であり、
前記フルフリルアルコールを含有する場合は、前記フルフリルアルコールの含有量が、4mg/L以上12mg/L以下であり、
前記2-エチルピラジンを含有する場合は、前記2-エチルピラジンの含有量が、5μg/L以上40μg/L以下であり、
前記2,3-ジメチルピラジンを含有する場合は、前記2,3-ジメチルピラジンの含有量が、5μg/L以上40μg/L以下である、
ビールテイスト飲料。」
・「【0004】
本発明は、香味の中でも特にコーヒー感及び発酵感に優れたビールテイスト飲料の提供を目的とする。」
・「【0006】
本発明に係るビールテイスト飲料は、4-ビニルグアイアコール及び所定の香気成分を特定の含有量で含んでいるため、コーヒー感及び発酵感が優れたものとなっている。」
・「【0014】
ノンアルコールビールテイスト飲料は、実質的にアルコールを含有しないビールテイスト飲料である。ノンアルコールビールテイスト飲料のアルコール度数は、1v/v%未満であればよく、0.5v/v%以下であってよく、0.1v/v%以下であってよく、0.005v/v%未満(0.00v/v%)であってもよい。」
・「【0019】
本明細書において、「コーヒー感」とはコーヒー豆をローストしたような香ばしい特徴をいう。また、本明細書において、「発酵感」とは黒ビールを醸造した時の甘いアロマティックな特徴をいう。」
・「【0021】
4-ビニルグアイアコール(4-vinylguaiacol)は、4-ビニル-2-メトキシフェノールとも称される公知の化合物である。4-ビニルグアイアコールは、ビール等のビールテイスト飲料に含まれる香気成分である。また、4-ビニルグアイアコールはスモーキーな香味に寄与する成分であることが知られている。4-ビニルグアイアコールは、例えば、原料として大麦麦芽及び小麦麦芽等を用いて、上面発酵酵母による発酵を経てビールテイスト飲料を製造する際に、フェルラ酸が脱炭酸することにより生成する。4-ビニルグアイアコールは、市販されているものを用いてもよく、4-ビニルグアイアコールを含有する香料を用いてもよい。
【0022】
本実施形態に係るビールテイスト飲料中の4-ビニルグアイアコールの含有量は、ビールテイスト飲料の全量を基準として、100μg/L以上500μg/L以下である。上記4-ビニルグアイアコールの含有量は、本発明による効果がより顕著に発揮されることから、100μg/L以上400μg/L以下であることが好ましく、150μg/L以上350μg/L以下であることがより好ましく、150μg/L以上300μg/L以下であることがさらに好ましい。また、上記4-ビニルグアイアコールの含有量は、100μg/L以上、150μg/L以上、180μg/L以上、又は200μg/L以上であってもよい。また、上記4-ビニルグアイアコールの含有量は、500μg/L以下、400μg/L以下、350μg/L以下、300μg/L以下、又は250μg/L以下であってもよい。」
・「【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0046】
〔試験例1:4-ビニルグアイアコールの効果〕
水に、乳酸(50%)(武蔵野化学研究所株式会社製)、アセスルファムカリウム(MCフードスペシャリティーズ株式会社製)及びイソα酸を含有する苦味料(三栄源エフエフアイ株式会社製)を表1に示す含有量となるように添加してベース液を調製した。
【0047】
【表1】
[図:0001393099000005.jpg]
【0048】
上記ベース液に、4-ビニルグアイアコールを表2に示す含有量となるように添加して調製したサンプル1-1~1-8のビールテイスト飲料について官能評価を行った。
【0049】
官能評価は、訓練された4名のパネルにより、スモーキー、コーヒー感及び発酵感について、以下に示す指標に基づき5段階で評価し、その平均値を評価スコアとした。結果を表2に示す。本明細書において、スモーキーとは木材を燻したときの焦げたような香味を意味する。
(スモーキー:評価基準)
4点:スモーキーな香味が非常に強い。
3点:スモーキーな香味が強い。
2点:スモーキーな香味がある。
1点:スモーキーな香味がわずかにある。
0点:スモーキーな香味がない。
(コーヒー感:評価基準)
4点:コーヒー感が非常に優れている。
3点:コーヒー感が優れている。
2点:コーヒー感がある。
1点:コーヒー感がわずかにある。
0点:コーヒー感がない。
(発酵感:評価基準)
4点:発酵感が非常に優れている。
3点:発酵感が優れている。
2点:発酵感がある。
1点:発酵感がわずかにある。
0点:発酵感がない。
【0050】
【表2】
[図:0001393099000006.jpg]
【0051】
4-ビニルグアイアコールの含有量が100μg/L以上500μg/Lであるサンプル1-3~1-7のビールテイスト飲料は、4-ビニルグアイアコールの含有量が100μg/L未満であるサンプル1-1~1-2のビールテイスト飲料及び500μg/L超えのサンプル1-8のビールテイスト飲料と比較して、スモーキーな香味を有しつつ、コーヒー感及び発酵感がより優れたものであった。」
イ 甲4に記載された発明
甲4に記載された事項を、特にサンプル1-4に関して整理すると、甲4には次の発明(以下、「甲4発明1」という。)が記載されていると認める。
<甲4発明1>
「4-ビニルグアイアコール含有量が200μg/Lであり、アセスルファムカリウム含有量が0.002w/v%であり、乳酸(50%)含有量が0.06w/v%であり、イソα酸を含有する苦味料含有量が0.06w/v%である、ノンアルコールビールテイスト飲料。」
また、甲4に記載された事項を、特に【請求項1】、【0014】及び【0022】に関して整理すると、甲4には次の発明(以下、「甲4発明2」という。)が記載されていると認める。
<甲4発明2>
「4-ビニルグアイアコールを含有し、
前記4-ビニルグアイアコールの含有量は、100μg/L以上250μg/L以下であり、
フルフリルアルコール、2-エチルピラジン及び2,3-ジメチルピラジンからなる群より選択される少なくとも1種の香気成分と、を含有し、
前記フルフリルアルコールを含有する場合は、前記フルフリルアルコールの含有量が、4mg/L以上12mg/L以下であり、
前記2-エチルピラジンを含有する場合は、前記2-エチルピラジンの含有量が、5μg/L以上40μg/L以下であり、
前記2,3-ジメチルピラジンを含有する場合は、前記2,3-ジメチルピラジンの含有量が、5μg/L以上40μg/L以下である、
アルコール度数が0.1v/v%以下のビールテイスト飲料。」
2 取消理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「4-ビニルグアイアコールの含有量」は「130μg/L」であるから、本件特許発明1における「前記4-ビニルグアイアコールの含有量が、80μg/L以上250μg/L以下」の条件を満たす。
甲1発明における「エタノールの含有量」は「0.5体積%以下」であるから、本件特許発明1における「前記エタノールの含有量が、0.005v/v%以上0.50v/v%未満」の条件と大部分で重複一致する。
甲1発明における「アルコールフリービール」は、ラガービールと同じ匂い物質を含有している(甲1の表20.7)「アルコールフリービール」であるから、本件特許発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲1発明は次の点で一致する。
<一致点>
「4-ビニルグアイアコール及びエタノールを含有し、
前記4-ビニルグアイアコールの含有量が、80μg/L以上250μg/L以下であり、
前記エタノールの含有量が、0.005v/v%以上0.50v/v%未満である、ビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明1においては、「プロピレングリコールの含有量が0mg/L超9000mg/L以下である」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
そこで、相違点1-1について検討する。
甲1には、甲1発明が相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有すると認められるような記載はないし、甲1を含め他の証拠をみても、甲1発明が該発明特定事項を有する蓋然性が高いともいえない。
したがって、相違点1-1は実質的な相違点である。
そして、甲1には、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「薬品味がより一層抑えられると共に、ビールテイスト飲料らしい香りの穏やかさが顕著に優れる。」(本件特許の発明の詳細な説明の【0027】)という効果は甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)取消理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由1によっては取り消すことはできない。
3 取消理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 甲2発明1との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明1と甲2発明1を対比する。
甲2発明1における「4-ビニルグアイアコールの含有量」は「0.14mg/L」、すなわち「140μg/L」であるから、本件特許発明1における「前記4-ビニルグアイアコールの含有量が、80μg/L以上250μg/L以下」の条件を満たす。
甲2発明1における「エタノールの含有量」は「0.01体積%」、すなわち「0.01v/v%」であるから、本件特許発明1における「前記エタノールの含有量が、0.005v/v%以上0.50v/v%未満」の条件を満たす。
甲2発明1における「サンプル」は、甲2の2.1の項の記載によると、低アルコールビールであるから、本件特許発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲2発明1は次の点で一致する。
<一致点>
「4-ビニルグアイアコール及びエタノールを含有し、
前記4-ビニルグアイアコールの含有量が、80μg/L以上250μg/L以下であり、
前記エタノールの含有量が、0.005v/v%以上0.50v/v%未満である、ビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点2-1>
本件特許発明1においては、「プロピレングリコールの含有量が0mg/L超9000mg/L以下である」と特定されているのに対し、甲2発明1においては、そのようには特定されていない点。
(イ)判断
そこで、相違点2-1について検討する。
甲2には、甲2発明1が相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有すると認められるような記載はないし、甲2を含め他の証拠をみても、甲2発明が該発明特定事項を有する蓋然性が高いともいえない。
したがって、相違点2-1は実質的な相違点である。
そして、甲2には、甲2-1発明において、相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲2発明1において、相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「薬品味がより一層抑えられると共に、ビールテイスト飲料らしい香りの穏やかさが顕著に優れる。」という効果は甲2発明1並びに甲2及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
なお、特許異議申立人は、令和4年9月21日に提出された意見書において、「請求項1に記載の発明は、・・・(略)・・・本件訂正発明1は、甲2及び甲14に基づいて、あるいは甲2、甲13及び甲14に基づいて、あるいは甲2及び甲15に基づいて、あるいは甲2、甲13及び甲15に基づいて進歩性がない。」(意見書第8ページ第8行ないし第10ページ第9行)旨主張する。
そこで、該主張について検討する。
甲14には、3-メチル-1-ブタノール、アセスルファム及びスクラロースを含有する飲料に対して、プロピレングリコールをさらに含有させると、飲料に厚みが付与され、より醸造酒らしい舌触りになることが記載されている(甲14の【0069】)が、プロピレングリコールをさらに含有させることは、3-メチル-1-ブタノール、アセスルファム及びスクラロースをすでに含有していることを前提とするものであり、その目的も「飲料に厚みが付与され、より醸造酒らしい舌触り」にするためであって、甲2発明1の目的(甲2のタイトルの記載からみて、甲2発明1の目的は、代替醸造菌によるノンアルコールから低アルコール飲料の提供である。)とは異なることから、3-メチル-1-ブタノール、アセスルファム及びスクラロースを含有していることが特定されていない甲2発明1において、甲14に記載された事項を適用する動機付けがあるとはいえない。
また、甲15には、麦芽臭が抑制され、良好なビアテイストを奏し酸味の良好なエタノール低含有のビアテイスト飲料を提供するために、炭素数3ないし7のアルコール(その一例として、1,2-プロパンジオールが挙げられている。)を添加することは記載されている(甲15の【0008】、【0013】及び【0069】の【表1】)が、1,2-プロパンジオールの添加は、麦芽臭を抑制し、ビアテイスト及び酸味を良好にするためであって、甲2発明1の目的とは異なることから、甲2発明1において、甲15に記載された事項を適用する動機付けがあるとはいえない。
さらに、甲13には、市販のノンアルコールビールのプロピレングリコール含有量の記載があるものの、甲2発明1において、甲13に記載された事項を適用する動機付けがあるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「薬品味がより一層抑えられると共に、ビールテイスト飲料らしい香りの穏やかさが顕著に優れる。」という効果(「0mg/L超」という下限及び「9000mg/L」という上限でも多少は効果が奏されるといえるし、効果がないことを示す証拠もない。)は、甲2発明1及び甲13ないし15に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、該主張は採用できない。
(ウ)まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲2発明1であるとはいえないし、甲2発明1並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
イ 甲2発明2ないし31のいずれかとの対比・判断
本件特許発明1と、甲2発明2ないし31のいずれかとの対比・判断は、上記アと同様である。
すなわち、本件特許発明1は、甲2発明2ないし31のいずれかであるとはいえないし、甲2発明2ないし31いずれか並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(2)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明1ないし31のいずれかであるとはいえないし、甲2発明1ないし31のいずれか並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)取消理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由2によっては取り消すことはできない。
4 取消理由3(甲4に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲4発明1との対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲4発明1を対比する。
甲4発明1における「4-ビニルグアイアコールの含有量」は「200μg/L」であるから、本件特許発明1における「前記4-ビニルグアイアコールの含有量が、80μg/L以上250μg/L以下」の条件を満たす。
甲4発明1における「ノンアルコールビールテイスト飲料」は本件特許発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「4-ビニルグアイアコールを含有し、
前記4-ビニルグアイアコールの含有量が、80μg/L以上250μg/L以下である、ビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点4-1-1>
本件特許発明1においては、「エタノール」を含有し、「前記エタノールの含有量が0.005v/v%以上0.50v/v%未満」であることが特定されているのに対し、甲4発明1においては、「ノンアルコール」と特定されている点。
<相違点4-1-2>
本件特許発明1においては、「プロピレングリコールの含有量が0mg/L超9000mg/L以下である」と特定されているのに対し、甲4発明1においては、そのようには特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点4-1-2について検討する。
甲4には、甲4発明1において、相違点4-1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲4発明1において、相違点4-1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「薬品味がより一層抑えられると共に、ビールテイスト飲料らしい香りの穏やかさが顕著に優れる。」という効果は甲4発明1並びに甲4及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
(ウ)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲4発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲4発明1並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3については、甲4発明1からの進歩性の取消理由は通知されていない。
(2)甲4発明2との対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲4発明2を対比する。
甲4発明2における「4-ビニルグアイアコールの含有量」は「100μg/L以上250μg/L以下」であるから、本件特許発明1における「前記4-ビニルグアイアコールの含有量が、80μg/L以上250μg/L以下」の条件を満たす。
甲4発明2における「アルコール度数」、すなわちエタノールの含有量は「0.1v/v%以下」であるから、本件特許発明1における「前記エタノールの含有量が、0.005v/v%以上0.50v/v%未満」と重複一致する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「4-ビニルグアイアコール及びエタノールを含有し、
前記4-ビニルグアイアコールの含有量が、80μg/L以上250μg/L以下であり、
前記エタノールの含有量が、0.005v/v%以上0.50v/v%未満である、ビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点4-2-1>
本件特許発明1においては、「プロピレングリコールの含有量が0mg/L超9000mg/L以下である」と特定されているのに対し、甲4発明2においては、そのようには特定されていない点。
(イ)判断
そこで、相違点4-2-1について検討する。
甲4には、甲4発明2が相違点4-2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有すると認められるような記載はないし、甲4を含め他の証拠をみても、甲4発明2が該発明特定事項を有する蓋然性が高いともいえない。
したがって、相違点4-2-1は実質的な相違点である。
そして、甲4には、甲4発明2において、相違点4-2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲4発明2において、相違点4-2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「薬品味がより一層抑えられると共に、ビールテイスト飲料らしい香りの穏やかさが顕著に優れる。」という効果は甲4発明2並びに甲4及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
なお、特許異議申立人は、令和4年9月21日に提出された意見書において、「しかしながら、・・・(略)・・・本件訂正発明1は、甲4及び甲14に基づいて、あるいは甲4、甲13及び甲14に基づいて、あるいは甲4及び甲15に基づいて、あるいは甲4、甲13及び甲15に基づいて進歩性がない。」(意見書第4ページ下から13行ないし第7ページ第21行)旨主張する。
そこで、該主張について検討する。
甲14には、3-メチル-1-ブタノール、アセスルファム及びスクラロースを含有する飲料に対して、プロピレングリコールをさらに含有させると、飲料に厚みが付与され、より醸造酒らしい舌触りになることが記載されているが、プロピレングリコールをさらに含有させることは、3-メチル-1-ブタノール、アセスルファム及びスクラロースをすでに含有していることを前提とするものであり、その目的も「飲料に厚みが付与され、より醸造酒らしい舌触り」にするためであって、甲4発明2の「コーヒー感及び発酵感に優れたビールテイスト飲料の提供」という目的とは異なることから、3-メチル-1-ブタノール、アセスルファム及びスクラロースを含有することが特定されていない甲4発明2において、甲14に記載された事項を適用する動機付けがあるとはいえない。
また、甲15には、麦芽臭が抑制され、良好なビアテイストを奏し酸味の良好なエタノール低含有のビアテイスト飲料を提供するために、炭素数3ないし7のアルコール(その一例として、1,2-プロパンジオールが挙げられている。)を添加することは記載されているが、1,2-プロパンジオールの添加は、麦芽臭を抑制し、ビアテイスト及び酸味を良好にするためであって、甲4発明2の「コーヒー感及び発酵感に優れたビールテイスト飲料の提供」という目的とは異なることから、甲4発明2において、甲15に記載された事項を適用する動機付けがあるとはいえない。
さらに、甲13には、市販のノンアルコールビールのプロピレングリコール含有量の記載があるものの、甲4発明2において、甲13に記載された事項を適用する動機付けがあるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「薬品味がより一層抑えられると共に、ビールテイスト飲料らしい香りの穏やかさが顕著に優れる。」という効果は、甲4発明2及び甲13ないし15に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、該主張は採用できない。
(ウ)まとめ
したがって、本件特許発明1は甲4発明2であるとはいえないし、甲4発明2並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を直接又は引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲4発明2であるとはいえないし、甲4発明2並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲4発明2並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)取消理由3についてのむすび
したがって、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし3は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由3によっては取り消すことはできない。
第7 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由について
取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由は、申立理由(甲1に基づく新規性・進歩性)のうち請求項4に対する理由、申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)のうち請求項4に対する理由、申立理由3(甲3に基づく進歩性)及び申立理由5(サポート要件)である。
そこで、順に検討する。
1 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)のうち請求項4に対する理由について
(1)甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1製法発明>
「甲1発明を製造する方法。」
(2)対比・判断
ア 対比
本件特許発明4と甲1製法発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明1と甲1発明と同様の相当関係が成り立つから、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ビールテイスト飲料に、4-ビニルグアイアコールを80μg/L以上250μg/L以下含有させること、及びエタノールを0.005v/v%以上0.50v/v%未満含有させること、を含む、方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-4>
本件特許発明4においては、「ビールテイスト飲料の薬品味を低減させ、かつ香りの穏やかさを向上させる」と特定されているのに対し、甲1製法発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
そこで、相違点1-4について検討する。
甲1には、「ビールテイスト飲料の薬品味を低減させ、かつ香りの穏やかさを向上させる」という技術思想は何ら記載されていないから、甲1製法発明が相違点1-4に係る本件特許発明4の発明特定事項を有するとはいえないし、甲1を含め他の証拠をみても、該発明特定事項を有する蓋然性が高いともいえない。
したがって、相違点1-4は実質的な相違点である。
そして、甲1には、甲1製法発明において、相違点1-4に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1製法発明において、相違点1-4に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明4の奏する「ビールテイスト飲料の薬品味を低減させ、かつ香りの穏やかさを向上させる方法を提供することができる。」(本件特許の発明の詳細な説明の【0015】)という効果は甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明4は、甲1製法発明であるとはいえないし、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)申立理由1のうち請求項4に対する理由についてのむすび
したがって、本件特許発明4は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項4に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1のうち請求項4に対する理由によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)のうち請求項4に対する理由について
(1)甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2製法発明>
「甲2発明1ないし31のいずれかを製造する方法。」
(2)対比・判断
ア 対比
本件特許発明4と甲2製法発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明1と甲2発明1ないし31のいずれかと同様の相当関係が成り立つから、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ビールテイスト飲料に、4-ビニルグアイアコールを80μg/L以上250μg/L以下含有させること、及びエタノールを0.005v/v%以上0.50v/v%未満含有させること、を含む、方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点2-4>
本件特許発明4においては、「ビールテイスト飲料の薬品味を低減させ、かつ香りの穏やかさを向上させる」と特定されているのに対し、甲2製法発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
そこで、相違点2-4について検討する。
甲2には、「ビールテイスト飲料の薬品味を低減させ、かつ香りの穏やかさを向上させる」という技術思想は何ら記載されていないから、甲2製法発明が相違点2-4に係る本件特許発明4の発明特定事項を有するとはいえないし、甲2を含め他の証拠をみても、甲2製法発明が該発明特定事項を有する蓋然性が高いともいえない。
したがって、相違点2―4は実質的な相違点である。
そして、甲2には、甲2製法発明において、相違点2-4に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲2製法発明において、相違点2-4に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明4の奏する「ビールテイスト飲料の薬品味を低減させ、かつ香りの穏やかさを向上させる方法を提供することができる」という効果は甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明4は、甲2製法発明であるとはいえないし、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)申立理由2のうち請求項4に対する理由についてのむすび
したがって、本件特許発明4は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項4に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2のうち請求項4に対する理由によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(甲3に基づく進歩性)について
(1)甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には、おおむね次の事項が記載されている。
・「味わい深い魅力
適切な酵母で活力のあるノンアルコールビールを製造する」(第12ページのタイトル)
・「アルコール度数の低いビールの製造において、「原料」である酵母の重要性はますます高まっている。特殊な性質を持つ厳選された酵母を使用することで、どの醸造所も低コストで、ほとんど既存の伝統的な設備でアルコールフリービールの製品ポートフォリオを拡大し、新興国市場に参入することが可能になる。この記事では、ノンアルコール小麦ビールの製造と、マルトース陰性酵母株Saccharomycodes ludwigii(TUM SL17)を使用して期待されるアロマプロファイルを示す。」(第12ページの要約)
・「
[図:0001393099000007.jpg]
[図:0001393099000008.jpg]
」(第14ページ左上欄)
イ 甲3に記載された発明
甲3に記載された事項を整理すると、甲3には次の発明(以下、順に「甲3発明」及び「甲3製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲3発明>
「4-ビニルグアイアコールを0.1mg/l含有するビール4(7°P15℃)。」
<甲3製法発明>
「甲3発明を製造する方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明における「4-ビニルグアイアコール」の含有量は「0.1mg/l」、すなわち「100μg/L」であるから、本件特許発明1における「前記4-ビニルグアイアコールの含有量が、80μg/L以上250μg/L以下」の条件を満たす。
甲3発明は、甲3の図4に示すアルコール発酵度数の推移を示す「ビール」であるから、「エタノール」を含有するといえる。
甲3発明における「ビール4(7°P15℃)」は本件特許発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「4-ビニルグアイアコール及びエタノールを含有し、
前記4-ビニルグアイアコールの含有量が、80μg/L以上250μg/L以下である、ビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3-1-1>
本件特許発明1においては、「前記エタノールの含有量が、0.005v/v%以上0.50v/v%未満である」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点3-1-2>
本件特許発明1においては、「プロピレングリコールの含有量が0mg/L超9000mg/L以下である」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点3-1-1について検討する。
甲3の図4からは、甲3発明における「エタノールの含有量」が発酵日数に応じて高くなり、6日目で「0.5Vol.-%」を超えることがわかるだけで、結局、甲3発明における「エタノールの含有量」がどの程度であるかは不明である。むしろ、甲3発明における「エタノールの含有量」は「0.5Vol.-%」を超えている、すなわち「0.50v/v%未満」ではない蓋然性が高いともいえる。
そうすると、甲3には、甲3発明において、相違点3-1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載があるとはいえないし、他の証拠にもない。
したがって、甲3発明において、相違点3-1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「薬品味がより一層抑えられると共に、ビールテイスト飲料らしい香りの穏やかさが顕著に優れる。」という効果は甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明4について
ア 対比
本件特許発明1と甲3製法発明を対比するに、両者の間には本件特許発明1と甲3発明と同様の相当関係が成り立つから、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ビールテイスト飲料に、4-ビニルグアイアコールを80μg/L以上250μg/L以下含有させること、及びエタノールを含有させること、を含む、方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3-4-1>
本件特許発明1においては、「前記エタノールの含有量が、0.005v/v%以上0.50v/v%未満である」と特定されているのに対し、甲3製法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点3-4-2>
本件特許発明1においては、「ビールテイスト飲料の薬品味を低減させ、かつ香りの穏やかさを向上させる」と特定されているのに対し、甲3製法発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
まず、相違点3-4-1について検討する。
相違点3-4-1は相違点3-1-1と実質的に同じであるから、相違点3-1-1と同様に判断される。すなわち、甲3製法発明において、相違点3-4-1に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
次に、相違点3-4-2について検討する。
甲3には、「ビールテイスト飲料の薬品味を低減させ、かつ香りの穏やかさを向上させる」という技術思想は何ら記載されていないから、甲3には、甲3製法発明において、相違点3-4-2に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲3製法発明において、相違点3-4-2に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明4の奏する「ビールテイスト飲料の薬品味を低減させ、かつ香りの穏やかさを向上させる方法を提供することができる」という効果は甲3製法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明4は、甲3製法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
4 申立理由5(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
他方、本件特許の発明の詳細な説明の【0001】ないし【0007】の記載によると、本件特許発明1ないし3の解決しようとする課題(以下、「発明の課題1」という。)は「薬品味が抑えられると共に、ビールテイスト飲料らしい香りの穏やかさが優れるビールテイスト飲料(ビールテイストノンアルコール飲料)」を提供することであり、本件特許発明4の解決しようとする課題(以下、「発明の課題2」という。)は「ビールテイスト飲料の薬品味が抑えると共に、ビールテイスト飲料らしい香りの穏やかさを向上する方法」を提供することである。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0009】及び【0011】ないし【0014】には本件特許発明1ないし4に対応する記載がある。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0010】には「本発明に係るビールテイスト飲料は、特定量の4-ビニルグアイアコール、及び特定量のエタノールを組み合わせて含有しているため、薬品味が抑えられると共に、ビールテイスト飲料らしい香りの穏やかさに優れる。」と記載され、同じく【0021】には「本実施形態に係るビールテイスト飲料の4-ビニルグアイアコール含有量は、・・・(略)・・・本発明による効果がより一層発揮される。同様の観点から、本実施形態に係るビールテイスト飲料の4-ビニルグアイアコール含有量は、・・・(略)・・・80μg/L以上250μg/L以下であってもよく」と記載され、同じく【0023】には「本実施形態に係るビールテイスト飲料のエタノール含有量(アルコール度数)は、0.005v/v%以上0.50v/v%未満であればよい。」と記載され、同じく【0027】には「本実施形態に係るビールテイスト飲料がプロピレングリコールを含有する場合は、プロピレングリコール含有量は、0mg/L超9000mg/L以下であることが好ましい。プロピレングリコール含有量がこの範囲内にあると、薬品味がより一層抑えられると共に、ビールテイスト飲料らしい香りの穏やかさが顕著に優れる。」と記載され、【0056】には「本実施形態に係るビールテイスト飲料は、薬品味が抑えられると共に、ビールテイスト飲料らしい香りの穏やかさが向上するという効果を奏する。したがって、本発明の一実施形態として、ビールテイスト飲料に、4-ビニルグアイアコールを10μg/L以上400μg/L以下含有させること、及びエタノールを0.005v/v%以上0.50v/v%未満含有させること、を含む、ビールテイスト飲料の薬品味を低減させ、かつ香りの穏やかさ(ビールテイスト飲料らしい香りの穏やかさ)を向上させる方法が提供される。」と記載されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0057】ないし【0066】において、「4-ビニルグアイアコール」の含有量が、「80μg/L以上250μg/L以下」であり、「エタノール」の含有量が、「0.005v/v%以上0.50v/v%未満」である、試験例2ないし4及び9のビールテイスト飲料は、薬品味が抑えられると共に、ビールテイスト飲料らしい香りの穏やかさに優れていたこと並びに「4-ビニルグアイアコール」及び「エタノール」に加えて、「プロピレングリコール」をさらに「含有」し、その含有量が「9000mg/L以下」である、試験例13及び14のビールテイスト飲料は、薬品味がより一層抑えられると共に、ビールテイスト飲料らしい香りの穏やかさが顕著に優れていることを確認している。
そうすると、当業者は、「4-ビニルグアイアコール及びエタノールを含有し、前記4-ビニルグアイアコールの含有量が、80μg/L以上250μg/L以下であり、前記エタノールの含有量が、0.005v/v%以上0.50v/v%未満である、ビアテイスト飲料」は発明の課題1を解決できると認識できるし、「ビアテイスト飲料に、4-ビニルグアイアコールを80μg/L以上250μg/L以下含有させること、及びエタノールを0.005v/v%以上0.50v/v%未満含有させること、を含む、ビールテイスト飲料の薬品味を低減させ、かつ香りの穏やかさを向上させる方法」は発明の課題2を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし3は、発明の課題1を解決できると認識できる上記「ビアテイスト飲料」をさらに限定したものであり、本件特許発明4は、発明の課題2を解決できると認識できる上記「ビールテイスト飲料の薬品味を低減させ、かつ香りの穏やかさを向上させる方法」である。
したがって、本件特許発明1ないし4は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1ないし4に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
なお、特許異議申立人の上記第4 5の主張について検討する。
本件特許の発明の詳細な説明において、各成分(原料)を調合した系でしか発明の課題1及び2が解決できていることを確認していないとしても、酵母等で発酵した系でも、成分及びその含有量が共通する以上、ある程度は、発明の課題1及び2が解決できると当業者は理解する。
また、本件特許発明1ないし4の発明特定事項、特に本件特許発明1又は4の発明特定事項を全て有していても、酵母等で発酵した系では、発明の課題1及び2を解決できていないことを示す証拠もない。
この点に関し、特許異議申立人は、令和4年9月21日に提出された意見書において、甲23を示した上で、「ここで、甲23には、・・・(略)・・・そうすると、発酵系のビールテイスト飲料において、同様の含有量で4-ビニルグアイアコールが含まれていたとしても、同様の効果が得られない場合があると考えられる。」(上記意見書第12ページ第14ないし25行)旨主張するが、甲23のアルコール成分(エタノール成分)の含有量は本件特許発明1ないし4のエタノール含有量と大きく異なるし、本件特許発明1ないし4の発明特定事項、特に本件特許発明1又は4の発明特定事項の全て有するものとはいえないので、「発酵系のビールテイスト飲料において、同様の含有量で4-ビニルグアイアコールが含まれていたとしても、同様の効果が得られない場合がある」ことを示す証拠とはいえず、該主張は採用できない。
したがって特許異議申立人の上記第4 5の主張は採用できない。
(3)申立理由5についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当しないので、申立理由5によっては取り消すことはできない。
第8 結語
上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700123