特許異議申立
2023-700371
光触媒塗装体
- 審判番号
- 2023-700371
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-010990
- 登録番号
- 7151509
- 請求日
- 2023年04月12日
- 審決日
- 2023年12月12日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】TOTO株式会社
- 【権利者代理人】紺野 昭男
- 【権利者代理人】井波 実
- 【権利者代理人】伊藤 武泰
- 【権利者代理人】芳野 理之
- 【権利者代理人】田村 慶政
- 【異議申立人】末久 真弘
- 審判長/審判官
- 審判長 三崎 仁
- 審判官 金 公彦
- 審判官 松井 裕典
- 分類
- P1652.113-YAA(B01J) / P1652.121-YAA(B01J) / P1652.537-YAA(B01J) / P1652.851-YAA(B01J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の8第1項、特許法第135条、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7151509号発明「光触媒塗装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7151509号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第7151509号の請求項1、2、4~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7151509号の請求項1~7に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成31年1月25日(優先権主張 平成30年3月30日)の出願であって、令和4年10月3日にその特許権の設定登録がされ、同年同月12日に特許掲載公報が発行され、その後、令和5年4月12日に、請求項1、2、4~7に係る特許について、特許異議申立人 末久 真弘(以下、「申立人」という。)により、甲第1~5号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年6月27日付けで当審より取消理由が通知され、その指定期間内である同年8月17日に訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)及び意見書の提出がされたので、特許法第120条の5第5項の規定に従い、申立人に相当の期間を指定して意見を求めたが、申立人からは、当該期間内に何ら応答がなかったものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容及び一群の請求項
本件訂正請求(以下、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、請求の趣旨を「特許第7151509号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める。」とするものであって、その訂正の内容は、次のとおりである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記第1層が、酸化セリウム(CeO2)をさらに含んでなり、」
と記載されているのを、
「前記第1層が、酸化セリウム(CeO2)をさらに含んでなり、前記有機樹脂が、Siを含まないか、または含む場合にはSi濃度が2wt%未満の樹脂であり、」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2及び4~7も同様に訂正する。)。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1~3に記載の」
と記載されているのを、
「請求項1または2に記載の」
に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5~7も同様に訂正する。)。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1~4のいずれか一項に記載の」
と記載されているのを、
「請求項1、2または4に記載の」
に訂正する(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6~7も同様に訂正する。)。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に
「請求項1~5のいずれか一項に記載の」
と記載されているのを、
「請求項1、2、4または5に記載の」
に訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7も同様に訂正する。)。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に
「請求項1~6のいずれか一項に記載の」
と記載されているのを、
「請求項1、2、4~6のいずれか一項に記載の」
に訂正する。
(7) 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1の記載を請求項2~7が引用する関係にあるから、本件訂正前の請求項1~7は一群の請求項であり、訂正事項1~6に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項1~7について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件について
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1における「有機樹脂」を、本件特許の特許請求の範囲の請求項3、明細書の段落【0015】の記載に基づいて、「Siを含まないか、または含む場合にはSi濃度が2wt%未満の樹脂」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3) 訂正事項3~6について
訂正事項3~6は、それぞれ、訂正事項2による請求項3の削除に伴い、本件訂正前の請求項4~7において選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4) 独立特許要件について
本件特許異議の申立ては本件訂正前の請求項1、2、4~7についてされているので、訂正事項1及び3~6に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
また、本件訂正前の請求項3については特許異議の申立てはされていないが、訂正事項2は前記請求項3を削除するものであるから、訂正事項2に関しても、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件発明について
本件訂正が認められることは前記第2に記載したとおりであるので、本件訂正により訂正された請求項1、2、4~7に係る発明(以下、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4~7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
基材と、前記基材の表面に、有機樹脂を含む第1層と、当該第1層に接して設けられた光触媒を含む第2層とを備えてなり、
前記第1層が、酸化セリウム(CeO2)をさらに含んでなり、前記有機樹脂が、Siを含まないか、または含む場合にはSi濃度が2wt%未満の樹脂であり、
前記第2層が、JIS R 1703-2:2014に規定されたメチレンブルー分解活性測定法にて定められる光触媒活性値として5nmol/L/min以上30nmol/L/min以下を有するものである、光触媒塗装体。
【請求項2】
前記第2層が、JIS R 1703-2:2014に規定されたメチレンブルー分解活性測定法にて定められる光触媒活性値として10nmol/L/min以上23nmol/L/min以下を有するものである、請求項1に記載の光触媒塗装体。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記第1層における前記酸化セリウムの添加量が、前記有機樹脂の固形分に対し、0.3重量%~10重量%である、請求項1または2に記載の光触媒塗装体。
【請求項5】
前記第1層が、無機顔料または無機粒子をさらに含んでなる、請求項1、2または4のいずれか一項に記載の光触媒塗装体。
【請求項6】
前記光触媒が、酸化チタンである、請求項1、2、4または5に記載の光触媒塗装体。
【請求項7】
有機樹脂と、酸化セリウムとを含んでなる、請求項1、2、4~6のいずれか一項に記載の光触媒塗装体を製造するための、コーティング組成物。」
第4 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反(新規性,進歩性欠如)について
(1) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項所定の規定に違反してされたものであるので、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項所定の規定に違反してされたものであるので、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3) 本件訂正前の請求項1、2及び4~7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2及び4~7に係る発明の特許は、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものであるので、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4) 本件訂正前の請求項1、2及び4~7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証~甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2及び4~7に係る発明の特許は、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものであるので、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
本件特許明細書の実施例のうち、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の効果を示している「光触媒塗装体」は、段落【0042】【表4】に記載された試験体2、3、8、9、29、31、33~35、37~39と、段落【0046】【表6】に記載された試験体25である(下記第6の3(1))。
ところが、これらの試験体における「有機樹脂」は、ケイ素含有量がシリコーン変性樹脂の固形分に対して2質量%未満のシリコーン変性アクリル樹脂か、シリコーン成分を含まないアクリル樹脂であるのに、前記請求項1においては、単に「有機樹脂」と記載されているにすぎないから、前記請求項1に係る発明は、本件特許明細書に記載、開示された技術的事項の範囲を超えるので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。
更に、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2及び4~7に係る発明について検討しても事情は同じであるから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2及び4~7に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号所定の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 証拠方法
甲第1号証:特開平11-300880号公報
甲第2号証:国際公開第2006/025535号
甲第3号証:特開2011-110455号公報
甲第4号証:国際公開第2011/118781号
甲第5号証:揖斐敏夫 編,「JIS R 1703-2 ファインセラミックス-光触媒材料のセルフクリーニング性能試験方法- 第2部:湿式分解性能」,第1刷,平成26年2月20日,一般財団法人日本規格協会,目次,まえがき,p.1-26
第5 取消理由の概要
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2及び4~7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び本件特許の優先日当時の周知技術に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明、本件特許の優先日当時の周知技術及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2及び4~7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び本件特許の優先日当時の周知技術に基づいて、又は、甲第2号証に記載された発明、本件特許の優先日当時の周知技術及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2及び4~7に係る発明の特許は、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものであるので、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 取消理由及び特許異議申立理由についての当審の判断
1 はじめに
事案に鑑み、前記第5の取消理由及び第4の特許異議の申立て理由についてまとめて判断する。
なお、特許権者は、令和5年8月17日に提出した意見書において、選択的主張として、以下の理由により、本件特許異議の申立ての決定による却下を求める旨を主張している。
すなわち、本件特許異議の申立てにおいては、特許請求の範囲の請求項3に係る発明については特許異議の申立てがされていないのに対して、本件訂正により、本件発明1は、前記請求項3が組み合わされて、当該請求項3に係る発明となったから、特許異議の申立てがされた請求項は全て削除されたので、本件特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しない不適法な申立てであり、かつ補正をすることができない申立てである。
このため、本件特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条所定の規定により決定をもって却下されるべきものである。
そこで、以下、前記選択的主張について検討すると、本件訂正により削除されたのは特許異議の申立てがされていない前記請求項3のみであり、特許異議の申立てがされた特許請求の範囲の請求項1、2及び4~7は削除されていないから、本件特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しない不適法な申立てであるとはいえない。
したがって、本件特許異議の申立てを、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条所定の規定により決定をもって却下することはできないから、前記選択的主張は採用できない。
よって、以下、前記第5の取消理由及び第4の特許異議の申立て理由について判断する。
2 特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について
(1) 甲各号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(ア) 甲第1号証には、以下のa、bの記載がある(当審注:「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 帯電半減時間が30秒以下、表面粗さRaが100nm以下、水の接触角が30度以下の光触媒膜を基材の表面に持つことを特徴とした建材。」
b 「【0009】バインダー中に含有する光安定化剤は、紫外線および光触媒より発生する電子と正孔の中和を目的とし、また紫外線吸収剤は表面の光触媒機能を有する酸化物によって吸収し切れなかった紫外線の吸収を目的としており、例えば有機系としてヒンダードアミン系光安定化剤、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾフェノン誘導体、サリチル酸誘導体、無機系として酸化セリウム、酸化鉄、酸化コバルト等が挙げられる。
・・・
【0017】(実施例2)アクリルシリコン樹脂系塗膜が形成された表面処理済みのサイディングを基材として用い、ポリシロキサン樹脂とアクリルシリコン樹脂を含む塗料を塗布し、乾燥機にて80℃で1分間乾燥を行った。次に酸化セリウムを含有させた有機変性ポリシロキサン樹脂系塗料を塗布し、乾燥機にて80℃で1分間乾燥を行った。この上に酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素の混合ゾル溶液を塗布し、乾燥機にて150℃で5分乾燥させた。硬化後の塗膜の表面粗さRaは80nmであった。水の接触角は15度であった。」
(イ) 前記(ア)aの記載によれば、甲第1号証には「建材」が記載されており、同b(段落【0017】)の記載によれば、前記「建材」は、アクリルシリコン樹脂系塗膜が形成された表面処理済みのサイディングを基材として用い、ポリシロキサン樹脂とアクリルシリコン樹脂を含む塗料を塗布し、乾燥機にて80℃で1分間乾燥を行い、次に酸化セリウムを含有させた有機変性ポリシロキサン樹脂系塗料を塗布し、乾燥機にて80℃で1分間乾燥を行い、この上に酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素の混合ゾル溶液を塗布し、乾燥機にて150℃で5分乾燥させたものであり、硬化後の塗膜の表面粗さRaは80nmであり、水の接触角は15度であるものである。
また、同b(段落【0009】)の記載によれば、前記酸化セリウムは、紫外線吸収剤として含有されるものである。
(ウ) 前記(イ)によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「アクリルシリコン樹脂系塗膜が形成された表面処理済みのサイディングを基材として用い、ポリシロキサン樹脂とアクリルシリコン樹脂を含む塗料を塗布し、
乾燥機にて80℃で1分間乾燥を行い、
次に酸化セリウムを含有させた有機変性ポリシロキサン樹脂系塗料を塗布し、乾燥機にて80℃で1分間乾燥を行い、
この上に酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素の混合ゾル溶液を塗布し、乾燥機にて150℃で5分乾燥させたものであり、硬化後の塗膜の表面粗さRaは80nmであり、水の接触角は15度であり、
前記酸化セリウムは、紫外線吸収剤として含有されるものである、建材。」(以下、「甲1発明」という。)
イ 甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明
(ア) 甲第2号証には以下のa~cの記載がある。
a 「請求の範囲
[1] (A)下記式(1)
R1nSi(OR2)4-n (1)
(式中、R1は、炭素数1~8の1価の有機基を示し、2個存在する場合には互いに同じであっても異なっていてもよい。R2は、それぞれ独立に、炭素数1~5のアルキル基または炭素数1~6のアシル基を示す。nは0~2の整数である。)
で表される少なくとも1種のオルガノシラン、該オルガノシランの加水分解物および該オルガノシランの縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のシラン化合物(a)と、加水分解性基および/または水酸基と結合したケイ素原子を含有するシリル基を有する重合体(b)との混合物であって、
該混合物中のシラン化合物(a)の完全加水分解縮合物換算の含有量(Wa)と重合体(b)の固形分換算の含有量(Wb)との重量比(Wa/Wb)が、5/95~50/50の範囲〔ただし、Wa+Wb=100とする。〕にある混合物に、
加水分解・縮合反応を促進する触媒(c)、および水(d)
を添加して調製された有機無機ハイブリッドポリマー、および
(B)平均組成式(2)
R3aSiOb(OH)c(OR4)d(Y)e (2)
(式中、R3は炭素数1~8個の有機基を表し、複数個存在する場合には互いに同じであっても異なっていてもよく、R4は炭素数1~6個のアルキル基、炭素数1~6個のアシル基およびフェニル基からなる群から選択される有機基を表し、複数個存在する場合には互いに同じであっても異なっていてもよく、R3およびR4は同じであっても異なっていてもよく、Yはハロゲンまたは水素を表し、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上4以下かつa+b/2+c+d+e=4である。)
で表され、重量平均分子量が800~50,000であるポリシロキサン
を含有するコーティング用組成物。
・・・
[7] 無機充填材(C)をさらに含有することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のコーティング用組成物。
[8] 紫外線吸収剤(D1)および/または紫外線安定剤(D2)をさらに含有することを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のコーティング用組成物。
[9] 有機基材と、該有機基材上に設けられた、請求項1~8のいずれかに記載のコーティング用組成物から得られる塗膜とを有する積層体。
[10] 請求項1~8のいずれかに記載のコーティング用組成物である光触媒層用下塗り剤。
[11] 有機基材と、該有機基材上に設けた中間層と、該中間層上に設けた光触媒層からなる積層体であって、
前記中間層が、請求項10に記載の光触媒層用下塗り剤により形成された層であることを特徴とする積層体。」
b 「[0091] (C)無機充填材:
本発明に係るコーティング用組成物は、たとえば、塗膜の強度を高めるために、必要に応じて無機充填材(C)を含有することができる。無機充填材(C)としては、無機化合物の粉体、ゾル、コロイドが挙げられ、塗膜の所望の特性に応じて配合される。上記無機化合物としては、SiO2、Al2O3、・・・Srフェライトなどを挙げることができる。これらの無機化合物は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
・・・
[0097] 特に、無機充填材(C)としてコロイド状シリカを用いる場合には、塗膜からのブリードの防止および塗膜の劣化防止などの面から、無機系半導体の紫外線吸収剤を用いることが好ましい。
紫外線吸収剤(D1)および紫外線安定剤(D2)の使用量は、コーティング用組成 物の全固形分に対して、それぞれ固形分換算で1~90重量%、好ましくは5~80重量%である。」
c 「[0131] (5)耐候性
硬化膜について、JIS K5400に準拠して、サンシャインウエザーメーターで3,000時間の照射試験を実施し、目視により外観を観察して下記基準で評価した。また、ニチバン社製セロファンテープ (商品名:セロテープ (登録商標)No.405)を用いてテープ剥離試験を実施し、密着性を下記基準で評価した。
(外観)A:膜の剥がれは無く照射試験前と変化なし
C:膜の剥がれあり
(密着性)AA:テープを貼り付けた部分全てにおいて膜の剥がれなし
A:テープを貼り付けた部分のうち、膜が剥がれた箇所が5%未満
B:テープを貼り付けた部分のうち、膜が剥がれた箇所が5~50%
C :テープを貼り付けた部分のうち、膜が剥がれた箇所が50%超。
・・・
[0135] [実施例1]
撹拌機および還流冷却器を備えた反応器に、シラン化合物(a)としてメチルトリメトキシシラン13.5部とジメチルジメトキシシラン5.4部、特定シリル基含有重合体(b)として上記特定シリル基含有重合体(b1)257.1部、有機溶媒(e)としてi-プロピルアルコール2部、および加水分解・縮合反応触媒(c)としてジ-i-プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウムのi-プロピルアルコール75%希釈液2部を加えて混合し、攪拌しながら50℃に昇温した。これに水(d)を3.5部(シラン化合物(a)中の全てのOR2基1モルに対して0.50モルに相当)を30分間かけて滴下した後、60℃で4時間反応させ、有機無機ハイブリッドポリマー(A-1)溶液を得た。その後、安定性向上剤(f)としてアセチルアセトン1.5部を加えて1時間撹拌した後、室温まで冷却した。
[0136] 次いで、この有機無機ハイブリッドポリマー(A-1)溶液に、ポリシロキサン(B)としてGE東芝シリコーン社製のポリオルガノシロキサン(商品名:YR3370、Mw:8,000)124.7部、および溶媒(E)としてメチルイソブチルケトン1285部とi-プロピルアルコール 551部を、撹拌しながら加えた。その後、無機充填材(C)としてi-プロピルアルコール分散コロイダルシリカ(固形分濃度:10%)100部および紫外線吸収剤(D)としてメチルイソブチルケトン分散酸化セリウム(固形分濃度10%)300部を添加し、固形分濃度約10%のコーティング用組成物(I-1)を得た。このコーティング用組成物(I-1)について、上記評価方法により、貯蔵安定性、透明性および温水中での密着性を評価した。各組成と評価結果を表1に示す。
[0137] [実施例2~9]
各成分を表1に示す成分に変更した以外は、実施例1と同様にして、コーティング用組成物(I-2)~(I-9)を調製し、各物性を評価した。結果を表1および表1に示す。
[0138] [表1]
[図:0001407831000001.jpg]
[0139][表2]
[図:0001407831000002.jpg]
・・・
[0145] 〔光触媒層形成用コート剤の調製〕
<調製例4>
撹拌機および還流冷却器を備えた反応器に、固形分濃度約24%の水分散酸化チタン157部、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン8部、末端アルコキシシリル基/ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)基含有ジメチルジメトキシシランオリゴマー(Mw:約10,000)11部、i-プロピルアルコール22部を加えて混合し、室温で1時間撹拌した。その後、メチルトリメトキシシラン60部、特定シリル基含有重合体(b-2)23部を加えて、室温で1時間攪拌した。次いで、i-プロピルアルコール36部を加えて混合し、30℃で1時間撹拌した。その後、ジ-i-プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム2部をi-プロピルアルコール18部に溶解した溶液を20部加えて混合し、撹拌しながら60℃で4時間反応させた。室温に冷却した後、i-プロピルアルコール600部を加え、固形分濃度約10%の光触媒層形成用組成物(X-1)を得た。
・・・
[0147] [実施例19~30]
各コーティング用組成物(I-1)~(I-9)100部にジオクチルスズジマレエートエステルのi-ブチルアルコール溶液(固形分濃度約10%)をそれぞれ5部添加し、十分に撹拌した溶液を、それぞれアクリル板 (エンジニアリングテストサービス社製、商品名:アクリライト #001)上に乾燥膜厚が1μmとなるように塗布し、80℃で30分間乾燥した。
[0148] 次いで、表5に示すように、光触媒層形成用組成物(X-1)または(X-2)100部にジブチルスズジアセテートのi-プロピルアルコール溶液(固形分濃度10%)をそれぞれ3部添加し、十分に撹拌した溶液を乾燥膜厚が0.1μmとなるように塗布し、80℃で30分間乾燥して硬化膜を得た。
得られた硬化膜について、上記評価方法により、親水性および耐侯性を評価した。結果を表5に示す。
・・・
[0150][表5]
[図:0001407831000003.jpg]
」
(イ) 前記(ア)aによれば、甲第2号証には「積層体」が記載されており(請求項11)、前記「積層体」のうち、同cに記載された実施例19(段落[0147]~[0150][表5])に注目すると、前記実施例19による「積層体」は、コーティング用組成物(I-1)100部にジオクチルスズジマレエートエステルのi-ブチルアルコール溶液(固形分濃度約10%)を5部添加し、十分に撹拌した溶液を、アクリル板 (エンジニアリングテストサービス社製、商品名:アクリライト #001)上に乾燥膜厚が1μmとなるように塗布し、80℃で30分間乾燥し、次いで、光触媒層形成用組成物(X-1)100部にジブチルスズジアセテートのi-プロピルアルコール溶液(固形分濃度10%)を3部添加し、十分に撹拌した溶液を乾燥膜厚が0.1μmとなるように塗布し、80℃で30分間乾燥して硬化膜を得たものである。
また、同c(段落[0136]、[0138][表1])によれば、前記コーティング用組成物(I-1)は、メチルトリメトキシシラン13.5部、ジメチルジメトキシシラン5.4部、特定シリル基含有重合体(固形分35%)257.1部、ジ-i-プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウムのi-プロピルアルコール75%希釈液2部、水3.5部、イソプロピルアルコール2部、アセチルアセトン1.5部、ポリオルガノシロキサン(YR3370、Mw=8,000)124.7部、IPA分散コロイド状シリカ(固形分濃度10%)100部、紫外線吸収剤としてメチルイソブチルケトン分散酸化セリウム(固形分濃度10%)300部、メチルイソブチルケトン1285部及びイソプロピルアルコール551部を含むものである。
更に、同c(段落[0145])によれば、前記光触媒層形成用組成物(X-1)は、撹拌機および還流冷却器を備えた反応器に、固形分濃度約24%の水分散酸化チタン157部、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン8部、末端アルコキシシリル基/ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)基含有ジメチルジメトキシシランオリゴマー(Mw:約10,000)11部、i-プロピルアルコール22部を加えて混合し、室温で1時間撹拌し、その後、メチルトリメトキシシラン60部、特定シリル基含有重合体23部を加えて、室温で1時間攪拌し、次いで、i-プロピルアルコール36部を加えて混合し、30℃で1時間撹拌し、その後、ジ-i-プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム2部をi-プロピルアルコール18部に溶解した溶液を20部加えて混合し、撹拌しながら60℃で4時間反応させ、室温に冷却した後、i-プロピルアルコール600部を加えて、固形分濃度約10%の光触媒層形成用組成物(X-1)としたものである。
(ウ) 前記(イ)によれば、甲第2号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「コーティング用組成物100部にジオクチルスズジマレエートエステルのi-ブチルアルコール溶液(固形分濃度約10%)を5部添加し、十分に撹拌した溶液を、アクリル板 (エンジニアリングテストサービス社製、商品名:アクリライト #001)上に乾燥膜厚が1μmとなるように塗布し、80℃で30分間乾燥し、次いで、光触媒層形成用組成物100部にジブチルスズジアセテートのi-プロピルアルコール溶液(固形分濃度10%)を3部添加し、十分に撹拌した溶液を乾燥膜厚が0.1μmとなるように塗布し、80℃で30分間乾燥して硬化膜を得た積層体であって、
前記コーティング用組成物は、メチルトリメトキシシラン13.5部、ジメチルジメトキシシラン5.4部、特定シリル基含有重合体(固形分35%)257.1部、ジ-i-プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウムのi-プロピルアルコール75%希釈液2部、水3.5部、イソプロピルアルコール2部、アセチルアセトン1.5部、ポリオルガノシロキサン(YR3370、Mw=8,000)124.7部、IPA分散コロイド状シリカ(固形分濃度10%)100部、紫外線吸収剤としてメチルイソブチルケトン分散酸化セリウム(固形分濃度10%)300部、メチルイソブチルケトン1285部及びイソプロピルアルコール551部を含むものであり、
前記光触媒層形成用組成物は、撹拌機および還流冷却器を備えた反応器に、固形分濃度約24%の水分散酸化チタン157部、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン8部、末端アルコキシシリル基/ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)基含有ジメチルジメトキシシランオリゴマー(Mw:約10,000)11部、i-プロピルアルコール22部を加えて混合し、室温で1時間撹拌し、その後、メチルトリメトキシシラン60部、特定シリル基含有重合体23部を加えて、室温で1時間攪拌し、次いで、i-プロピルアルコール36部を加えて混合し、30℃で1時間撹拌し、その後、ジ-i-プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム2部をi-プロピルアルコール18部に溶解した溶液を20部加えて混合し、撹拌しながら60℃で4時間反応させ、室温に冷却した後、i-プロピルアルコール600部を加えて、固形分濃度約10%の光触媒層形成用組成物としたものである、積層体。」(以下、「甲2発明1」という。)
(エ) また、同様に、前記(ア)cに記載された実施例22に注目すると、甲第2号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「コーティング用組成物100部にジオクチルスズジマレエートエステルのi-ブチルアルコール溶液(固形分濃度約10%)を5部添加し、十分に撹拌した溶液を、アクリル板 (エンジニアリングテストサービス社製、商品名:アクリライト #001)上に乾燥膜厚が1μmとなるように塗布し、80℃で30分間乾燥し、次いで、光触媒層形成用組成物100部にジブチルスズジアセテートのi-プロピルアルコール溶液(固形分濃度10%)を3部添加し、十分に撹拌した溶液を乾燥膜厚が0.1μmとなるように塗布し、80℃で30分間乾燥して硬化膜を得た積層体であって、
前記コーティング用組成物は、メチルトリメトキシシラン40.6部、ジメチルジメトキシシラン16.2部、特定シリル基含有重合体(固形分35%)200.0部、ジ-i-プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウムのi-プロピルアルコール75%希釈液4部、水9.4部、イソプロピルアルコール15部、アセチルアセトン3.5部、ポリオルガノシロキサン(YR3370、Mw=8,000)134.9部、紫外線吸収剤としてメチルイソブチルケトン分散酸化セリウム(固形分濃度10%)350部、メチルイソブチルケトン1155部及びイソプロピルアルコール770部を含むものであり、
前記光触媒層形成用組成物は、撹拌機および還流冷却器を備えた反応器に、固形分濃度約24%の水分散酸化チタン157部、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン8部、末端アルコキシシリル基/ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)基含有ジメチルジメトキシシランオリゴマー(Mw:約10,000)11部、i-プロピルアルコール22部を加えて混合し、室温で1時間撹拌し、その後、メチルトリメトキシシラン60部、特定シリル基含有重合体23部を加えて、室温で1時間攪拌し、次いで、i-プロピルアルコール36部を加えて混合し、30℃で1時間撹拌し、その後、ジ-i-プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム2部をi-プロピルアルコール18部に溶解した溶液を20部加えて混合し、撹拌しながら60℃で4時間反応させ、室温に冷却した後、i-プロピルアルコール600部を加えて、固形分濃度約10%の光触媒層形成用組成物としたものである、積層体。」(以下、「甲2発明2」という。)
(オ) 更に同様に、前記(ア)cに記載された実施例24に注目すると、甲第2号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「コーティング用組成物100部にジオクチルスズジマレエートエステルのi-ブチルアルコール溶液(固形分濃度約10%)を5部添加し、十分に撹拌した溶液を、アクリル板 (エンジニアリングテストサービス社製、商品名:アクリライト #001)上に乾燥膜厚が1μmとなるように塗布し、80℃で30分間乾燥し、次いで、光触媒層形成用組成物100部にジブチルスズジアセテートのi-プロピルアルコール溶液(固形分濃度10%)を3部添加し、十分に撹拌した溶液を乾燥膜厚が0.1μmとなるように塗布し、80℃で30分間乾燥して硬化膜を得た積層体であって、
前記コーティング用組成物は、メチルトリメトキシシラン54.1部、ジメチルジメトキシシラン21.6部、特定シリル基含有重合体(固形分35%)171.4部、ジ-i-プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウムのi-プロピルアルコール75%希釈液5部、水12.6部、イソプロピルアルコール17部、アセチルアセトン4部、ポリオルガノシロキサン(YR3370、Mw=8,000)100.0部、紫外線吸収剤としてメチルイソブチルケトン分散酸化セリウム(固形分濃度10%)300部、メチルイソブチルケトン886部、イソプロピルアルコール646部及びブチルセロソルブ83部を含むものであり、
前記光触媒層形成用組成物は、撹拌機および還流冷却器を備えた反応器に、固形分濃度約24%の水分散酸化チタン157部、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン8部、末端アルコキシシリル基/ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)基含有ジメチルジメトキシシランオリゴマー(Mw:約10,000)11部、i-プロピルアルコール22部を加えて混合し、室温で1時間撹拌し、その後、メチルトリメトキシシラン60部、特定シリル基含有重合体23部を加えて、室温で1時間攪拌し、次いで、i-プロピルアルコール36部を加えて混合し、30℃で1時間撹拌し、その後、ジ-i-プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム2部をi-プロピルアルコール18部に溶解した溶液を20部加えて混合し、撹拌しながら60℃で4時間反応させ、室温に冷却した後、i-プロピルアルコール600部を加えて、固形分濃度約10%の光触媒層形成用組成物としたものである、積層体。」(以下、「甲2発明3」という。)
ウ 甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、以下の(ア)~(ウ)の記載がある。
(ア) 「
[図:0001407831000004.jpg]
」(6ページ)
(イ) 「
[図:0001407831000005.jpg]
」(7ページ)
(ウ) 「
[図:0001407831000006.jpg]
」(8ページ1行~5行)
なお、甲第3号証及び甲第4号証の摘記は省略した。
(2) 対比・判断
ア はじめに
本件発明1の「光触媒活性値」の単位について、本件発明1においては、「JIS R 1703-2:2014に規定されたメチレンブルー分解活性測定法にて定められる光触媒活性値として5nmol/L/min以上30nmol/L/min以下を有する」と特定されており、前記「光触媒活性値」の単位は「nmol/L/min」とされている。
これに対して、本件特許明細書の記載(下記3(1)段落【0039】、【0042】、【表4】)によれば、メチレンブルー分解活性測定法(JIS R 1703-2:2014)に準拠して評価した光触媒活性評価試験の結果であるMB活性の単位は「μmol/L/min」とされており、本件発明1において特定された「光触媒活性値」の単位である「nmol/L/min」と合致していないのであるが、前記(1)ウ(ア)~(ウ)の甲第5号証の記載からみれば、JIS R 1703-2に基づいて求められた分解活性指数の単位は「nmol/L/min」であると解するのが妥当であるから、本件発明1における「光触媒活性値」の単位は、特定されたとおり「nmol/L/min」と解して判断する。
更に、本件発明2及び4~7についても同様である。
イ 甲第1号証を主引用例とした場合について
(ア) 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明において、「アクリルシリコン樹脂系塗膜が形成された表面処理済みのサイディングを基材として用い、ポリシロキサン樹脂とアクリルシリコン樹脂を含む塗料を塗布し、乾燥機にて80℃で1分間乾燥を行」ったものは、本件発明1における「基材」に相当する。
また、甲1発明において、「酸化セリウムを含有させた有機変性ポリシロキサン樹脂系塗料を塗布」して形成した層は、前記「有機変性ポリシロキサン樹脂」は「有機樹脂」といえるから、本件発明1における「基材の表面」の「有機樹脂を含む第1層」に相当し、甲1発明において、「この上に酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素の混合ゾル溶液を塗布」して形成した層は、本件発明1における「当該第1層に接して設けられた光触媒を含む第2層」に相当し、甲1発明において、「有機変性ポリシロキサン樹脂系塗料」が「酸化セリウムを含有」することは、本件発明1において「前記第1層が酸化セリウム(CeO2)をさらに含んで」なることに相当し、甲1発明における「建材」は、本件発明1における「光触媒塗装体」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「基材と、前記基材の表面に、有機樹脂を含む第1層と、当該第1層に接して設けられた光触媒を含む第2層とを備えてなり、
前記第1層が酸化セリウム(CeO2)をさらに含んでなる、光触媒塗装体。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:「前記第1層」に含まれる「前記有機樹脂」が、本件発明1では、「Siを含まないか、または含む場合にはSi濃度が2wt%未満の樹脂」であるのに対して、甲1発明では、「有機変性ポリシロキサン樹脂」である点。
・相違点2:本件発明1は、「前記第2層が、JIS R 1703-2:2014に規定されたメチレンブルー分解活性測定法にて定められる光触媒活性値として5nmol/L/min以上30nmol/L/min以下を有する」のに対して、甲1発明における「第2層」の「光触媒活性値」は明らかでない点。
(イ) 始めに、前記(ア)の相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、技術常識からみて、甲1発明における「有機変性ポリシロキサン樹脂」は、ケイ素と酸素との結合を主鎖とする樹脂であり、「Siを含まないか、または含む場合にはSi濃度が2wt%未満の樹脂」であるとはいえないから、前記相違点1は実質的な相違点である。
そうすると、前記(ア)の相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。
更に、本件発明2及び4~7について検討しても事情は同じである。
(ウ) 次に、前記相違点1の容易想到性について検討すると、甲1発明において、ケイ素と酸素との結合を主鎖とする樹脂である「有機変性ポリシロキサン樹脂」を「Siを含まないか、または含む場合にはSi濃度が2wt%未満の樹脂」とする動機付けは存在しない。
また、前記甲第2号証及び摘記を省略した甲第3号証及び甲第4号証には、「前記第1層」に含まれる「前記有機樹脂」を「Siを含まないか、または含む場合にはSi濃度が2wt%未満の樹脂」とすることは記載も示唆もされていないし、ほかに、このことを開示した証拠もないから、甲1発明において、「前記第1層」に含まれる「前記有機樹脂」である「有機変性ポリシロキサン樹脂」を、「Siを含まないか、または含む場合にはSi濃度が2wt%未満の樹脂」として、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らない。
そうすると、前記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2~4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明2及び4~7について検討しても事情は同じである。
(エ) したがって、本件発明1、2及び4~7は、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 甲第2号証を主引用例とした場合について
(ア) 本件発明1と甲2発明1とを対比すると、甲2発明1における「アクリル板」は、本件発明1における「基材」に相当する。
また、甲2発明1における「コーティング用組成物」は「ポリオルガノシロキサン(YR3370、Mw=8,000)」を含むものといえ、当該「ポリオルガノシロキサン(YR3370、Mw=8,000)」は、本件発明1における「有機樹脂」に相当する。
更に、甲2発明1において、「コーティング用組成物100部にジオクチルスズジマレエートエステルのi-ブチルアルコール溶液(固形分濃度約10%)を5部添加し、十分に撹拌した溶液を、アクリル板 (エンジニアリングテストサービス社製、商品名:アクリライト #001)上に乾燥膜厚が1μmとなるように塗布し、80℃で30分間乾燥」して形成した層は、本件発明1における「基材の表面」の「有機樹脂を含む第1層」に相当し、甲2発明1において、「光触媒層形成用組成物100部にジブチルスズジアセテートのi-プロピルアルコール溶液(固形分濃度10%)を3部添加し、十分に撹拌した溶液を乾燥膜厚が0.1μmとなるように塗布し、80℃で30分間乾燥」して形成した層は、本件発明1における「当該第1層に接して設けられた光触媒を含む第2層」に相当し、甲2発明1における「前記コーティング用組成物」が、「紫外線吸収剤としてメチルイソブチルケトン分散酸化セリウム(固形分濃度10%)300部」「を含む」ことは、本件発明1において「前記第1層が酸化セリウム(CeO2)を更に含んで」なることに相当し、甲2発明1における「積層体」は、本件発明1における「光触媒塗装体」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明1とは、
「基材と、前記基材の表面に、有機樹脂を含む第1層と、当該第1層に接して設けられた光触媒を含む第2層とを備えてなり、
前記第1層が酸化セリウム(CeO2)を更に含んでなる、光触媒塗装体。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1’:「前記第1層」に含まれる「前記有機樹脂」が、本件発明1では、「Siを含まないか、または含む場合にはSi濃度が2wt%未満の樹脂」であるのに対して、甲2発明1では、「ポリオルガノシロキサン(YR3370、Mw=8,000)」である点。
・相違点2’:本件発明1は、「前記第2層が、JIS R 1703-2:2014に規定されたメチレンブルー分解活性測定法にて定められる光触媒活性値として5nmol/L/min以上30nmol/L/min以下を有する」のに対して、甲2発明1における「第2層」の「光触媒活性値」は明らかでない点。
(イ) 始めに、前記(ア)の相違点1’が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、技術常識からみて、甲2発明1における「ポリオルガノシロキサン(YR3370、Mw=8,000)」は、ケイ素と酸素との結合を主鎖とする樹脂であり、「Siを含まないか、または含む場合にはSi濃度が2wt%未満の樹脂」であるとはいえないから、前記相違点1’は実質的な相違点である。
そうすると、前記(ア)の相違点2’について検討するまでもなく、本件発明1は甲2発明1であるとはいえない。
更に、本件発明2及び4~7について検討しても事情は同じである。
(ウ) 次に、前記相違点1’の容易想到性について検討すると、前記イ(ウ)に記載したのと同様の理由により、甲2発明1において、前記相違点1’に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らない。
そうすると、前記相違点2’について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明1、甲第3号証及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明2及び4~7について検討しても事情は同じである。
(エ) また、甲2発明2及び甲2発明3について検討しても事情は同じであるから、本件発明1、2及び4~7は、甲第2号証に記載された発明とはいえないし、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3) 小括
したがって、本件発明1、2及び4~7に係る特許は、特許法第29条第1項所定の規定に違反してされたものではないし、同法同条第2項所定の規定に違反してされたものでもないから、前記第5の取消理由及び前記第4の1(1)~(4)の特許異議の申立て理由はいずれも理由がない。
3 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1) 本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、今般、従来紫外線吸収剤として知られていた酸化セリウムが、それが有する紫外線吸収作用では説明できない現象として、光触媒塗装体の耐候性を向上させるとの知見を得た。本発明は係る知見に基づくものである。
【0007】
したがって、本発明は、耐候性に優れた光触媒塗装体の提供をその目的としている。」
「【0032】
材料
光触媒塗装体の調製のために、以下の材料を用意した。
第1層用コーティング組成物のための材料として以下のものを用意した。
(1)樹脂
樹脂1 ケイ素含有量が、シリコーン変性樹脂の固形分に対して2質量%未満のシリコーン変性アクリル樹脂
樹脂2 ケイ素含有量が、シリコーン変性樹脂の固形分に対して約30質量%のシリコーン変性アクリル樹脂
樹脂3 シリコーン成分を含まないアクリル樹脂
・・・
【0033】
第2層用コーティング組成物のための材料として以下のものを用意した。
(1)光触媒
酸化チタン水分散体(アナターゼ型、粒径:レーザ回折・散乱法(JIS Z 8825:2013)によりX90=72.5nm、塩基性)
(2)バインダー
水分散型コロイダルシリカ(日産化学工業社製、商品名:スノーテックスS、固形分含有率 30%)
(3)分散媒:イオン交換水
(4)添加剤:ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤
【0034】
第1層用コーティング組成物の調製
表1に記載の組成となるよう、(1)樹脂と、(2)金属酸化物と、(3)分散媒と、(4)~(9)の種々添加剤とを適宜混合して、第1層用コーティング組成物を調製した。・・・
【表1】
[図:0001407831000007.jpg]
【0035】
第2層用コーティング組成物の調製
表2に記載の組成となるよう、(1)酸化チタン水分散体と、(2)水分散型コロイダルシリカと、(3)分散媒:イオン交換水と、(4)添加剤:ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤とを混合して、光触媒コーティング液を得た。光触媒コーティング液中の光触媒およびバインダーの合計の固形分濃度は5.5質量%とした。ここで、固形分濃度とは、コーティング液を105~110℃で乾燥し恒量となったときの質量%を意味する。
【表2】
[図:0001407831000008.jpg]
・・・
【0039】
光触媒塗装体の評価試験
上で得た光触媒塗装体を、以下の方法により評価した。
(1)光触媒活性評価試験
メチレンブルー分解活性測定法(JIS R 1703-2:2014)に準拠して評価した。
(2)耐候性評価試験
(2-1)粘着テープ試験法(JIS Z 0237:2009を参考に次の1~6の手順で評価をした )
・・・
6.テープ密着率維持率の計算:メタリングウェザーメーター試験後の測定値が、試験前の測定値の何%であるかを計算する。なお、本評価試験によるテープ密着率維持率80%以上が、実用上、好ましい値である。
・・・
【0040】
評価結果
試験1
下記表3の第1層および第2層の組み合わせの塗装体を調製し、これらを試験体として上記耐候性評価試験を行った。その結果は、表3に示されるとおりであった。
【表3】
[図:0001407831000009.jpg]
【0041】
表3の結果は、Si含有量が小さな(2重量%未満)の樹脂であっても、酸化セリウムを含有させることにより、Si含有量が比較的大きな(約30重量%)樹脂と同等の耐候性を得ることが出来ることを示している。
【0042】
試験2
下記表4の第1層および第2層の組み合わせの塗装体を調製し、これらを試験体として上記光触媒活性評価試験および耐候性評価試験を行った。その結果は、表4に示されるとおりであった。
【表4】
[図:0001407831000010.jpg]
【0043】
表4の結果は、酸化セリウムの添加が、それを添加していない塗装体との対比において、耐候性の低下を有効に防いでいることを明確に示している。
・・・
【0046】
試験4
下記表6の第1層および第2層の組み合わせの塗装体を調製し、これらを試験体として上記耐候性評価試験を行った。その結果は、表6に示されるとおりであった。
【表6】
[図:0001407831000011.jpg]
【0047】
表6の結果は、紫外線吸収剤や光安定剤を添加した場合でも、耐候性を向上させる作用を備えるものは酸化セリウムのみであることを示している。本試験において紫外線吸収剤の添加量は、酸化セリウムの紫外線吸収能と同等以上になる量としている。よって、酸化セリウムの耐候性を向上させた作用は、それが有する紫外線吸収効果によるものではないことが示唆される。」
(2) サポート要件について
前記(1)の本件特許明細書の記載からみれば、本件発明の課題は、耐候性に優れた光触媒塗装体を提供することにあるといえる(段落【0007】。以下、「本件課題」という。)。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された試験体2、3、8、9、29、31、33~35、37~39及び試験体25は、テープ密着率維持率が80%以上であり、耐候性が向上することで、本件課題を解決するものといえるが(段落【0039】、【0042】、【表4】、【0046】、【表6】)、これらの試験体は、いずれも、「有機樹脂」として、樹脂1、すなわちケイ素含有量がシリコーン変性樹脂の固形分に対して2質量%未満のシリコーン変性アクリル樹脂か、樹脂3、すなわちシリコーン成分を含まないアクリル樹脂が用いられるものである。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件課題を解決する試験体として、「有機樹脂」にケイ素含有量がシリコーン変性樹脂の固形分に対して2質量%未満のシリコーン変性アクリル樹脂か、シリコーン成分を含まないアクリル樹脂を用いたものが記載されているといえる。
これに対して、本件発明1は、「前記有機樹脂が、Siを含まないか、または含む場合にはSi濃度が2wt%未満の樹脂であ」る、との発明特定事項を有するものであり、本件発明1における「有機樹脂」は、「Siを含まないか、または含む場合にはSi濃度が2wt%未満の樹脂であ」る点で、前記試験体2、3、8、9、29、31、33~35、37~39及び試験体25における「有機樹脂」と合致するものである。
そうすると、本件発明1において特定される「有機樹脂」が、本件特許明細書に記載、開示された技術的事項から、当業者において本件課題が解決できると認識できる範囲を超えるものとはいえないから、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は、サポート要件に適合するといえる。
更に、本件特許請求の範囲の請求項2及び4~7の記載について検討しても事情は同じであるから、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号所定の規定に適合するので、前記第4の2の特許異議の申立て理由は理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、2、4~7に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立て理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1、2、4~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700371