2023-700358
偏光板及びこれを含む液晶表示装置
- 審判番号
- 2023-700358
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-033198外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7152129
- 請求日
- 2023年04月10日
- 審決日
- 2023年10月31日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三星エスディアイ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
- 【異議申立人】真角 侑子
- 分類
- P1651.113-Y (G02B) / P1651.121-Y (G02B) / P1651.537-Y (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 11項目
第1 手続等の経緯
特許第7152129号(以下「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願(特願2016-33198号)は、平成28年2月24日(パリ条約による優先権主張2015年2月27日 韓国、2015年11月6日 韓国)の出願であって、令和4年10月3日にその特許権の設定登録がされ、令和4年10月12日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和5年4月10日に特許異議申立人 真角侑子(以下「特許異議申立人」という。)から請求項1~13に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~13に係る発明(以下、請求項に付す番号を使って、それぞれ、「本件特許発明1」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】偏光子、並びに前記偏光子の一面上に形成された、複数の陰刻パターンを有する高屈折層、及び前記陰刻パターンの少なくとも一部を充填する充填パターンを含む低屈折層を含むパターン層を含む偏光板であって、前記偏光板は第1の保護層をさらに含み、続きを表示(全37行)前記偏光板は、前記偏光子、前記低屈折層、前記高屈折層、及び前記第1の保護層が順次積層された構造であるか、前記偏光子、前記第1の保護層、前記低屈折層、及び前記高屈折層が順次積層された構造であり、前記第1の保護層は、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート、環状オレフィンポリマー(COP)、及びアクリル樹脂のうち一つ以上で形成された基材フィルムを含み、前記高屈折層の屈折率は前記低屈折層の屈折率より大きく、前記高屈折層と前記低屈折層の屈折率差は0.30以下であり、前記陰刻パターンのアスペクト比は1.0以下であり、前記パターン層は、前記偏光子から入射された偏光を拡散させるために前記偏光子の一面上に形成され、前記各陰刻パターンの間に平坦部がさらに形成され、前記低屈折層のうち前記充填パターン以外の部分は、前記平坦部と前記偏光子との間に位置し、前記平坦部の幅に対する前記陰刻パターンの最大幅の比は1.0以下である、偏光板。【請求項2】前記陰刻パターンは、曲面を含む光学パターンまたは断面がn角形(nは、4~10の整数)であるプリズムパターンを含む、請求項1に記載の偏光板。【請求項3】前記陰刻パターンは、断面が三角形であるプリズムの上部が切断された形態、またはレンチキュラーレンズパターンの上部が切断された形態である陰刻パターンを含む、請求項1に記載の偏光板。【請求項4】前記第1の保護層は、波長550nmにおいて面方向位相差(Re)が8,000nm以上である、ポリエチレンテレフタレート樹脂で形成されたものである、請求項1に記載の偏光板。【請求項5】前記第1の保護層は、前記基材フィルム、及び前記基材フィルムの少なくとも一面に形成されたプライマー層を含み、前記基材フィルムの屈折率に対する前記プライマー層の屈折率の比は1.0以下である、請求項1に記載の偏光板。【請求項6】前記第1の保護層は、波長550nmにおいて光透過率が90%以上である、請求項5に記載の偏光板。【請求項7】前記第1の保護層は、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂で形成された基材フィルムを1軸延伸したものである、請求項1に記載の偏光板。【請求項8】前記偏光子上に前記低屈折層、前記高屈折層及び前記第1の保護層が順次積層されたものである、請求項1に記載の偏光板。【請求項9】前記高屈折層と前記第1の保護層は直接接している、請求項8に記載の偏光板。【請求項10】前記偏光子と前記低屈折層の間に形成された接着層をさらに含む、請求項8に記載の偏光板。【請求項11】前記偏光子の他面上に形成された第2の保護層をさらに含む、請求項1に記載の偏光板。【請求項12】前記第2の保護層がトリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート、環状オレフィンポリマー(COP)、及びアクリル樹脂のうち一つ以上で形成されたフィルムを含む、請求項11に記載の偏光板。【請求項13】請求項1に記載の偏光板を含む液晶表示装置。」
第3 取消しの理由の概要
令和5年6月9日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由は、概略、次のとおりのものである。
理由1(進歩性)本件特許の請求項1~13に係る発明は、その最先の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1~13に係る特許は、同項の規定に違反してされたものである。
第4 当合議体の判断
1 引用文献の記載・引用発明
(1)甲1の記載
取消しの理由で引用された甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付した。
ア 「技術分野[0001]本発明はディスプレイ装置用光学フィルム及びこれを具備するディスプレイ装置に関することとして、さらに詳しくは、カラーシフト改善はもちろん透過率及び階調反転を改善することができるディスプレイ装置用光学フィルム及びこれを具備するディスプレイ装置に関する。・・・略・・・[0005]図20は液晶ディスプレイ装置の基本構造と駆動原理とを概念的に図示した概念図である。従来のVAモード液晶ディスプレイ装置を例であげると、二つの偏光フィルム(110、120)の光軸がお互いに垂直になるように付着している。透明電極(140)がコーティングされた二つの透明基板(130)の間に複屈折特性を見せる液晶分子(150)が挿入、配列される。駆動電源部(180)によって電場が印加されると、液晶分子が電場に垂直で動いて配列される。」
イ 「発明が解決しようとする課題[0025]本発明は、前述したような従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、カラーシフト改善はもちろん、透過率及び階調反転を改善することができるディスプレイ装置用光学フィルム及びこれを具備するディスプレイ装置を提供することである。課題解決手段[0026]このために、本発明は、ディスプレイパネルの前面に配置されるバックグラウンド層;前記バックグラウンド層に形成されるが、お互いに離隔されるように形成される複数の陰刻または彫り上げパターンで成り立って入射される光の出射方向を分散させるレンズ部;及び前記ディスプレイパネルと前記レンズ部及び前記バックグラウンド層の間空間に充填されるが、前記バックグラウンド層と違う屈折率を有する樹脂層を含むことを特徴とするディスプレイ装置用光学フィルムを提供する。・・・略・・・発明の効果[0059]本発明によると、観察角の増加によるカラーシフト現象を最小化し、ディスプレイ装置の視野角を確保して、画質を改善することができる。」
ウ 「実施例[0063]以下では添付された図面を参照して本発明の実施例によるディスプレイ装置用光学フィルム及びこれを具備するディスプレイ装置に対して詳細に説明する。・・・略・・・続きを表示(全29行)[0065]図1及び図2に図示したところのように、本発明の実施例による光学フィルム(10)は、ディスプレイ装置(1)のカラーシフト、透過率及び階調反転を改善するためのフィルムで、例えば、液晶ディスプレイ装置(1)に採用されることができる。すなわち、光学フィルム(10)は、お互いに向い合う二つの基板の間に介在されている液晶層を含む液晶ディスプレイパネル(5)の前面に配置されうる。また、本発明の実施例による光学フィルム(10)は、有機発光ディスプレイ装置(1)に採用されることができる。すなわち、光学フィルム(10)は、有機発光パネル(5)の前面、すなわち、有機発光素子から発光された光が出射される方向の有機発光パネル(5)の一面に配置される。・・・略・・・[0076]このように、液晶ディスプレイ装置、有機発光ディスプレイ装置など各種ディスプレイ装置(1)に採用される本発明の実施例による光学フィルム(10)は、バックグラウンド層(11)、レンズ部(12)及び樹脂層(13)を含んで形成される。[0077]バックグラウンド層(11)は、液晶ディスプレイパネル(5)の前面に配置される。そして、バックグラウンド層(11)には、レンズ部(12)がパターニングされて形成される。このようなバックグラウンド層(11)は、光を透過させる物質が層をなして形成され、光透過物質としては、透明高分子樹脂が用いられてよい。特に、バックグラウンド層(11)は、透明高分子樹脂のうち、紫外線硬化性透明樹脂から形成されうる。また、バックグラウンド層(11)は、樹脂層(13)と屈折率差を有する物質により形成されうるが、1.40~1.60の屈折率(n1)を有する物質により形成されうる。そしてバックグラウンド層(11)は、おおよそ100μm厚さに形成されうる。・・・略・・・[0079]これを解決するため、本発明の実施例ではディスプレイパネル(5)の前面に光学フィルム(10)が密着されて形成される。このとき、図示したように、バックグラウンド層(11)は、その屈折率(n1)と等しい屈折率を有する粘着剤(14)を介してディスプレイパネル(5)に粘着されうる。・・・略・・・[0080]レンズ部(12)は、入射される光を屈折させてカラーシフトを最小化する役割をする複数のパターン(12a)で定義される。このようなレンズ部(12)は、バックグラウンド層(11)に形成される。図示したように、レンズ部(12)は、ディスプレイパネル(5)を向かう面すなわち、バックグラウンド層(11)の背面に形成されていてよい。しかし、レンズ部(12)は、バックグラウンド層(11)の前面、すなわち、観察者に臨むバックグラウンド層(11)の一方の面に形成されていてもよく、バックグラウンド層(11)の両面、すなわち、前面と背面との両方に形成されていてもよい。[0081]そして、レンズ部(12)は、バックグラウンド層(11)に所定の深さを有する複数の陰刻パターン(12a)で形成されうる。しかし、レンズ部(12)は、バックグラウンド層(11)の一方の面から突設する複数の彫り上げパターンで形成されていてもよい。このようなレンズ部(12)のパターン(12a)は、バックグラウンド層(11)の背面に所定の周期にて離間して平行に配列されうる。・・・略・・・[0089]・・・略・・・よって、図2に図示したように、陰刻パターン(12a)の凹部に樹脂を充填して樹脂層(13)を形成するとともに、ディスプレイパネル(5)とバックグラウンド層(11)の間にも樹脂層(13)が層をなして形成されるようにすれば、樹脂層(13)の表面平坦化工程を省くことができる。・・・略・・・[0110]一方、図示しなかったが、本発明の実施例で、光学フィルム(10)はバッキング(backing)を具備することができる。このとき、バッキングは、バックグラウンド層(11)の前面に配置されてバックグラウンド層(11)を支持する役割をするようになる。このようなバッキングは、紫外線透過性を有する透明な樹脂フィルムまたはガラス基板により形成されうる。そして、バッキングの材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PolyEthylene Terephthalate、PET)、ポリカーボネート(PolyCarbonate、PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、TAC(TriAcetate Cellulose)などを用いることができる。・・・略・・・[0112]すなわち、本発明の実施例による光学フィルム(10)は、層を基準にした場合、バックグラウンド層(11)の単一層からなるフィルムにより形成されうるが、バックグラウンド層(11)、バッキング及び反射防止層が積層された多層フィルムでも形成されうる。そして、バックグラウンド層(11)が多層フィルムにより形成される場合、バッキングや反射防止層外にも、アンチフォグフィルム、偏光フィルム、位相差(phase retardation)フィルムなどの各種の機能性フィルムが相互積層されて形成されるものであってもよい。」
エ 「図2[図:0001404812000001.jpg]」
オ 「図20[図:0001404812000002.jpg]」
(2)甲1発明
ア 甲1の[0076]、[0079]、[0110]及び図2より、光学フィルム(10)は、観察者側から、バッキング、バックグラウンド層(11)、レンズ部(12)、樹脂層(13)及び粘着層(14)を含むと認められる。
イ 甲1の[0110]より、バッキングは、樹脂フィルムにより形成され、その材質は、ポリエチレンテレフタラート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル(PVC)、TAC(トリアセチルセルロース)などである。
ウ 甲1の[0080]、[0081]及び図2より、レンズ部(12)は、バックグラウンド層(11)の観測者側と反対の側に所定の深さを有する複数の陰刻パターン(12a)で形成されていると認められる。
エ 甲1の[0089]及び図2より、陰刻パターン(12a)の凹部に樹脂が充填されて樹脂層(13)が形成され、各陰刻パターン(12a)の間に平坦部が形成され、該平坦部と粘着剤(14)との間に樹脂層(13)が位置すると認められる。
オ 上記ア~エにより、甲1には、以下の光学フィルム(10)の発明が記載されていると認められる(以下「甲1発明」という。)。
「観察者側から、バッキング、バックグラウンド層(11)、レンズ部(12)、樹脂層(13)及び粘着層(14)を含む、光学フィルム(10)であって、バッキングは、樹脂フィルムにより形成され、その材質は、ポリエチレンテレフタラート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル(PVC)、TAC(トリアセチルセルロース)などであり、レンズ部(12)は、バックグラウンド層(11)の観測者側と反対の側に所定の深さを有する複数の陰刻パターン(12a)で形成され、陰刻パターン(12a)の凹部に樹脂が充填されて樹脂層(13)が形成され、各陰刻パターン(12a)の間に平坦部が形成され、該平坦部と粘着剤(14)との間に樹脂層(13)が位置する、光学フィルム(10)。」
カ 甲1発明の認定に関する、令和5年9月27日提出の上申書の主張について
特許異議申立人は、令和5年9月27日提出の上申書3頁において、「甲1には、偏光フィルム(110)及び光学フィルム(10)からなる偏光板が開示されていると評価できると考えます」、「甲1発明における偏光フィルム(110)及び光学フィルム(10)からなる部分は、本件特許発明1の「偏光板」に相当するものと評価できると考えます。」と主張する。
しかしながら、甲1において、「偏光フィルム(110)」と「光学フィルム(10)」は、別個独立した光学部材として扱われており、当業者が「偏光フィルム(110)」と「光学フィルム(10)」を組み合わせたものを一つの偏光板として観念することは通常しない。そうすると、甲1には、偏光フィルム(110)及び光学フィルム(10)からなる偏光板は記載されていないと認められる。
したがって、当該主張は採用できない。
2 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
ア パターン層
甲1発明の「レンズ部(12)は、バックグラウンド層(11)の観測者側と反対の側に所定の深さを有する複数の陰刻パターン(12a)で形成され」、「陰刻パターン(12a)の凹部に樹脂が充填されて樹脂層(13)が形成され、各陰刻パターン(12a)の間に平坦部が形成され」との構成を有する。
甲1発明の上記構成からみて、「バックグラウンド層(11)」は、複数の陰刻パターン(12a)を有する層であるといえ、「各陰刻パターン(12a)の間に平坦部が形成され」ている。また、「樹脂層(13)」は、陰刻パターン(12a)の少なくとも一部を充填する充填樹脂を含む層であり、その充填樹脂はパターン状になっているといえる。そして、「バックグラウンド層(11)」及び「樹脂層(13)」を含む層は、陰刻パターン及び充填樹脂のパターンを含む層である。
そうすると、甲1発明の「バックグラウンド層(11)」及び「樹脂層(13)」と本件特許発明1の「パターン層」とは、「複数の陰刻パターンを有する層及び前記陰刻パターンの少なくとも一部を充填する充填パターンを含む層を含むパターン層」であり、「各陰刻パターンの間に平坦部がさらに形成される」点で共通する。
イ 第1の保護層
甲1発明の「光学フィルム(10)」は、「観察者側から、バッキング、バックグラウンド層(11)、レンズ部(12)、樹脂層(13)及び粘着層(14)を含」み、上記「バッキング」は、「樹脂フィルムにより形成され」たものである。上記積層構成からみて、甲1発明の「バッキング」は、「バックグラウンド層(11)」の観察者側にあるから、「バックグラウンド層(11)」を保護するものであるといえる。
そうすると、甲1発明の「バッキング」と本件特許発明1の「第1の保護層」は、「樹脂で形成されたフィルム保護層」である点で共通する。
ウ 偏光板
甲1発明の「光学フィルム(10)」と本件特許発明1の「偏光板」は、「光学積層体」である点で共通する。
また、上記ア及びイによれば、甲1発明の「光学フィルム(10)」と本件特許発明1の「偏光板」とは、「パターン層を含」み、「保護層をさらに含」む点で共通する。
(2)一致点
上記(1)によると、本件特許発明1と甲1発明は次の点で一致する。
「複数の陰刻パターンを有する層及び前記陰刻パターンの少なくとも一部を充填する充填パターンを含む層を含むパターン層を含む光学積層体であって、前記光学積層体は保護層をさらに含み、前記保護層は、樹脂で形成されたフィルムを含み、前記各陰刻パターンの間に平坦部がさらに形成される、光学積層体。」
(3)相違点
他方、本件特許発明1と甲1発明は次の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1は、「偏光板」であり、「偏光子」を含むのに対し、甲1発明は、偏光板でなく、偏光子を含まない点。
(相違点2)
本件特許発明1は、「前記偏光子の一面上に形成された、複数の陰刻パターンを有する高屈折層、及び前記陰刻パターンの少なくとも一部を充填する充填パターンを含む低屈折層を含むパターン層を含」み、「前記偏光子、前記低屈折層、前記高屈折層、及び前記第1の保護層が順次積層された構造であるか、前記偏光子、前記第1の保護層、前記低屈折層、及び前記高屈折層が順次積層された構造であり」、「前記高屈折層の屈折率は前記低屈折層の屈折率より大きく、前記高屈折層と前記低屈折層の屈折率差は0.30以下であり、前記陰刻パターンのアスペクト比は1.0以下であり、前記パターン層は、前記偏光子から入射された偏光を拡散させるために前記偏光子の一面上に形成され」、「前記低屈折層のうち前記充填パターン以外の部分は、前記平坦部と前記偏光子との間に位置し、前記平坦部の幅に対する前記陰刻パターンの最大幅の比は1.0以下である」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有しない点。
(相違点3)
本件特許発明1の「第1の保護層は、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート、環状オレフィンポリマー(COP)、及びアクリル樹脂のうち一つ以上で形成された基材フィルムを含」むのに対し、甲1発明の「バッキングは、樹脂フィルムにより形成され、その材質は、ポリエチレンテレフタラート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル(PVC)、TAC(トリアセチルセルロース)などであ」る点。
(4)判断
ア 新規性について
上記(3)により、本件特許発明1と甲1発明には、上記相違点1~相違点3がある。
そうすると、本件特許発明1は、甲1発明ではない。
イ 進歩性について
事案に鑑み、相違点1及び2をまとめて検討する。
甲1発明の「光学フィルム(10)」は、液晶ディスプレイ装置(パネル)又は有機発光ディスプレイ装置(パネル)に採用されるものである(甲1[0065]参照)。
まず、液晶ディスプレイ装置(パネル)に採用される場合について検討すると、液晶ディスプレイ装置(パネル)自体が偏光板(偏光子を含む。)を有しているので、甲1発明の「光学フィルム(10)」側にさらに偏光子を設ける動機付けはなく、甲1発明において、相違点1及び相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
次に、有機発光ディスプレイ装置(パネル)に採用される場合について検討する。甲1の[0112]の「本発明の実施例による光学フィルム(10)は、層を基準にした場合、バックグラウンド層(11)の単一層からなるフィルムにより形成されうるが、バックグラウンド層(11)、バッキング及び反射防止層が積層された多層フィルムでも形成されうる。そして、バックグラウンド層(11)が多層フィルムにより形成される場合、バッキングや反射防止層外にも、アンチフォグフィルム、偏光フィルム、位相差(phase retardation)フィルムなどの各種の機能性フィルムが相互積層されて形成されるものであってもよい」という記載によると、甲1には、バックグラウンド層(11)に偏光フィルムを形成する技術的事項が記載されていると認められる。ここで、当該技術的事項において、バックグラウンド層(11)のどこに偏光フィルムを形成するのかが明らかでないが、バックグラウンド層(11)の構造からみて、バックグラウンド層(11)の樹脂層(13)側に偏光フィルムを形成することは考え難い。そして、当該技術的事項を甲1発明に適用するとき、[A]バックグランド層(11)のバッキング側に偏光フィルムを形成する場合、[B]バックグラウンド層(11)の陰刻パターン(12a)がない部分に偏光フィルムを形成する場合が考えられるが、いずれの場合にも、相違点2に係る本件特許発明1の積層順の構成(「前記偏光子、前記低屈折層、前記高屈折層、及び前記第1の保護層が順次積層された構造」又は「前記偏光子、前記第1の保護層、前記低屈折層、及び前記高屈折層が順次積層された構造」)にはならないから、甲1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
さらに、甲1発明のような構成の光学フィルムに偏光子を含ませ、偏光子、低屈折層、高屈折層及び保護層が順次積層された構造又は偏光子、保護層、低屈折層及び高屈折層が順次積層された構造を有する偏光板とする技術的事項は、特許異議申立人が提出した甲2~甲5のいずれにも記載されておらず、また、当該技術的事項が公知の技術又は周知慣用技術であることを示す証拠を発見することもできない。
そうすると、甲1発明において、相違点1及び2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2~甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)小括
本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。また、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲2~甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 本件特許発明2~13について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~13は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2~13は、いずれも、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。
そうすると、上記2(5)のとおり、本件特許発明1が、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲2~甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明2~13は、いずれも、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲2~甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 サポート要件について
(1)特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2)本件特許発明が解決しようとする課題について
本件特許明細書の【0006】等の記載から、本件特許発明が解決しようとする課題は、「側面明暗比と側面視野角を改善することができ、輝度均一度を高めることができ、輝度均一度の変化率を低下させ得る偏光板を提供すること」であると認められる。
(3)請求項1~13に係る発明について
本件特許の請求項1には、「前記高屈折層と前記低屈折層の屈折率差は0.30以下であり、前記陰刻パターンのアスペクト比は1.0以下であり」と記載されている。そして、前記屈折率差及びアスペクト比に関する、本件特許明細書の【0030】、【0036】及び【0164】【表1】の記載に接した当業者は、偏光板において、高屈折層と記低屈折層の屈折率差を0.30以下とし、陰刻パターンのアスペクト比を1.0以下とすれば、側面明暗比と側面視野角を改善し、輝度均一度を高め、輝度均一度の変化率を低下させ得ることを認識できるといえる。
そうすると、本件特許の請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する2~13に係る発明は、いずれも、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記(2)の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(4)請求項5及び6に係る発明について
本件特許の請求項5は請求項1を引用するから、上記(3)により、請求項5及び請求項5を引用する6に係る発明は、いずれも、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記(2)の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
2 小括
したがって、本件特許の請求項1~13に係る発明は、いずれも、発明の詳細な説明に記載されたものであり、本件特許の請求項1~13の記載は、特許法36条6項1号に適合するから、特許異議申立書に記載したサポート要件に係る取消しの理由を採用することはできない。
第6 むすび
請求項1~13に係る特許は、いずれも、取消理由通知書によって通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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