特許異議申立
2023-700351
イットリウム質保護膜およびその製造方法ならびに部材
- 審判番号
- 2023-700351
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-024103
- 登録番号
- 7154517
- 請求日
- 2023年04月07日
- 審決日
- 2023年10月31日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】AGC株式会社
- 【権利者代理人】伊東 秀明
- 【権利者代理人】蜂谷 浩久
- 【権利者代理人】三橋 史生
- 【権利者代理人】上西 浩史
- 【権利者】つばさ真空理研株式会社
- 【権利者代理人】伊東 秀明
- 【権利者代理人】蜂谷 浩久
- 【権利者代理人】三橋 史生
- 【権利者代理人】上西 浩史
- 【異議申立人】藤央 弁理士法人
- 【異議申立人】佐藤 徹
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 立木 林
- 審判官 増山 淳子
- 分類
- P1651.113-Y (C23C) / P1651.121-Y (C23C) / P1651.537-Y (C23C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7154517号発明「イットリウム質保護膜およびその製造方法ならびに部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7154517号の請求項1~14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7154517号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、令和4年2月18日に出願され、同年10月7日にその特許権の設定登録がされ、同年同月18日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1~14に係る特許について、令和5年4月7日に特許異議申立人 藤央弁理士法人(以下、「申立人1」という。)により特許異議の申立てがされ、同年同月17日に特許異議申立人 佐藤 徹(以下、「申立人2」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和 5年 7月26日付け 取消理由通知
同年 9月25日 特許権者による意見書の提出
第2 本件発明
本件特許の請求項1~14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
X線回折パターンにおけるY5O4F7のピーク強度比が80%以上であり、
気孔率が1.5体積%未満であり、
ビッカース硬さが500MPa以上である、イットリウム質保護膜。
【請求項2】
フッ素の含有量が35~60原子%である、請求項1に記載のイットリウム質保護膜。
【請求項3】
結晶子サイズが30nm以下である、請求項1または2に記載のイットリウム質保護膜。
【請求項4】
厚さが0.3μm以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のイットリウム質保護膜。
【請求項5】
Y5O4F7の(151)面のロッキングカーブの半値幅が40°以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のイットリウム質保護膜。
【請求項6】
基材と、
前記基材の表面である成膜面に配置された、請求項1~5のいずれか1項に記載のイットリウム質保護膜と、を有する部材。
【請求項7】
前記基材が、セラミックスおよび金属からなる群から選ばれる少なくとも1種で構成され、
前記セラミックスが、ガラス、石英、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムおよび酸窒化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記金属が、アルミニウムおよびアルミニウムを含有する合金からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載のイットリウム質保護膜と、を有する部材。
【請求項8】
前記成膜面の表面粗さが、算術平均粗さRaで、0.6μm以下である、請求項6または7に記載の部材。
【請求項9】
前記成膜面の最大長さが30mm以上である、請求項6~8のいずれか1項に記載の部材。
【請求項10】
前記基材と前記イットリウム質保護膜との間に、1層以上の下地層を有し、
前記下地層は、Al2O3、SiO2、Y2O3、MgO、ZrO2、La2O3、Nd2O3、Yb2O3、Eu2O3およびGd2O3からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を含有する、請求項6~9のいずれか1項に記載の部材。
【請求項11】
前記基材と前記イットリウム質保護膜との間に、2層以上の前記下地層を有し、
前記酸化物は、隣接する前記下地層どうしで互いに異なる、請求項10に記載の部材。
【請求項12】
前記基材が、前記成膜面として、最大長さを規定する第一成膜面と、前記第一成膜面とは異なる第二成膜面と、を有し、
前記第一成膜面と前記第二成膜面とのなす角が、20°~120°であり、
前記成膜面の全面積に対する前記第二成膜面の面積の割合が、60%以下である、請求項6~11のいずれか1項に記載の部材。
【請求項13】
プラズマエッチング装置またはプラズマCVD装置の内部で使用される、請求項6~12のいずれか1項に記載の部材。
【請求項14】
請求項1~5のいずれか1項に記載のイットリウム質保護膜を製造する方法であって、
真空中において、酸素、アルゴン、ネオン、クリプトンおよびキセノンからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素のイオンを照射しながら、蒸発源を蒸発させて基材に付着させ、
前記蒸発源として、Y2O3およびYF3を用いる、イットリウム質保護膜の製造方法。」
第3 取消理由について
1 取消理由の概要
取消理由通知書で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
本件発明が明確といえるためには、計算の元となる「以下に示す結晶相のメインピーク強度の合計」及び「Y5O4F7のメインピーク強度」の測定方法が明確でなければならないところ、下記(1)、(2)の点で明確とはいえない。
(1) 「Y5O4F7のメインピーク強度」を求めるにあたり、当該「Y5O4F7のメインピーク」と重なる「YOF」及び「YF3」のピークを、(i)「Y6O5F8」、「Y7O6F9」と同様に、「全てY5O4F7のピークとして扱う」のか、又は(ii)何らかの手段により分離し、当該「YOF」及び「YF3」のピークによる寄与を減算するのか、明らかとはいえず、本件発明を一義的に把握することができない。
(2) 本件発明に係る「X線回折パターンにおけるY5O4F7のピーク強度比」の元となる「以下に示す結晶相のメインピーク強度の合計」を求める際に、(i)「YF3」のメインピークを、「全てY5O4F7のピークとして扱う」のか、又は(ii)何らかの手段でもって、「メインピークがY5O4F7と重なる」部分における「YF3」のメインピークによる寄与を減算するのか、明らかとはいえず、本件発明を一義的に把握することができない。
2 取消理由に対する当審の判断
特許権者の主張を踏まえ、改めて取消理由について検討する。
(1)本件明細書の記載事項
願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
「【0018】
Y5O4F7ピーク強度比は、保護膜のX線回折(XRD)パターンにおいて、以下に示す結晶相のメインピーク強度の合計を100とした場合における、Y5O4F7のメインピーク強度の割合(単位:%)である。
Y5O4F7のメインピーク位置には、Y6O5F8結晶のピークとY7O6F9結晶のピークとが重なって表れるため、微量のY6O5F8およびY7O6F9が生成している可能性も排除できないが、Y5O4F7のメインピーク位置にあるピークは、全てY5O4F7のピークとして扱う。
各結晶相のメインピークは、Y2O3は2θ=29.2°付近、YOFは2θ=28.1°付近、Y5O4F7は2θ=28.1°付近に表れる。
YF3は、メインピークがY5O4F7と重なることから、YF3結晶が存在する場合には、YF3結晶の第二メインピークである2θ=24.5°付近のピークの強度を1.3倍にしてメインピーク相当に換算し、これを、YF3のメインピーク強度とする。」
(2)判断
ア 本件発明が明確といえるためには、請求項1に記載された「X線回折パターンにおけるY5O4F7のピーク強度比」が一義的に把握できることを要する。
そして、上記(1)によれば、当該ピーク強度比は「以下に示す結晶相のメインピーク強度の合計」に対する「Y5O4F7のメインピーク強度」の割合であるから、本件発明が明確といえるには、当該「Y5O4F7のメインピーク強度」及び当該「以下に示す結晶相のメインピーク強度の合計」の両者が明らかでなければならない。
イ そこで、「以下に示す結晶相のメインピーク強度の合計」及び「Y5O4F7のメインピーク強度」の意義について、上記(1)の記載を検討する。
(ア)「Y5O4F7のメインピーク強度」について
上記(1)より、2θ=28.1°付近で、Y5O4F7、Y6O5F8、Y7O6F9、YOF及びYF3のメインピークが重なることが理解できる。
そして、上記(1)によれば、本件明細書【0018】における第2段落には、「Y5O4F7のメインピーク位置には、Y6O5F8結晶のピークとY7O6F9結晶のピークとが重なって表れるため、・・・Y5O4F7のメインピーク位置にあるピークは、全てY5O4F7のピークとして扱う。」と記載されているから、Y6O5F8、Y7O6F9のメインピークは、「Y5O4F7のピークとして扱う」ことが明らかである。
一方、同第2段落には、YOF、YF3が明記されておらず、一見すると、YOF、YF3の取扱いが不明である。しかしながら、本件明細書【0018】の記載が、全体として、「Y5O4F7のピーク強度比」の定義を記載した段落であることを踏まえると、「Y5O4F7のメインピーク位置にあるピークは、全てY5O4F7のピークとして扱う。」との記載は、Y6O5F8、Y7O6F9だけでなく、YOF、YF3にも及ぶと解するのが相当である。
したがって、本件発明において、「Y5O4F7のメインピーク強度」を得るにあたり、Y6O5F8、Y7O6F9のメインピークだけでなく、YOF、YF3のメインピークについても「全てY5O4F7のピークとして扱う」ことが明らかである。
(イ)「以下に示す結晶相のメインピーク強度の合計」について
上記(1)より、「以下に示す結晶相」とは、Y5O4F7、Y6O5F8、Y7O6F9、Y2O3、YOF及びYF3と理解できる。
そして、上記(ア)で検討したとおり、2θ=28.1°付近のピーク(Y6O5F8、Y7O6F9、YOF、YF3のメインピーク)は、「全てY5O4F7のピークとして扱う」ものと理解できる。
また、本件明細書【0018】の第3段落によれば、Y2O3のメインピークは2θ=29.2°付近であることが理解でき、同【0018】の第4段落によれば、YF3は2θ=24.5°付近のピーク強度を1.3倍にして換算することが理解できる。
そうすると、本件発明において「以下に示す結晶相のメインピーク強度の合計」とは、2θ=28.1°付近及び2θ=29.2°付近のピーク強度に、さらに2θ=24.5°付近のピーク強度を1.3倍したものを加えることで得られることが理解できる。
ウ 上記ア、イで検討したとおり、「Y5O4F7のメインピーク強度」及び「以下に示す結晶相のメインピーク強度の合計」の意義が明確であるから、これらの比である本件発明に係る「X線回折パターンにおけるY5O4F7のピーク強度比」も一義的に把握できるといえる。
(3)小括
以上のとおりであるから、取消理由に理由はない。
第4 特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の概要
(1)申立人1による申立理由
ア 申立人1が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人1が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:特開2018-184657号公報
甲第2号証:特表2020-525640号公報
甲第3号証:特許第6976215号公報
甲第4号証:特開2019-19413号公報
甲第5号証:国際公開第2018/083854号
甲第6号証:特開2019-147995号公報
甲第7号証:特開2021-77899号公報
甲第8号証:登録実用新案第3224084号公報
甲第9号証:日本学術振興会薄膜第131委員会編,薄膜ハンドブック,
第2版第1刷,株式会社オーム社,p.336,平成20年
3月25日
甲第10号証:特願2022-24103号における令和4年7月21日
提出の意見書(請求項1の解釈のため)
以下、申立人1が提出した甲第1号証~甲第10号証をそれぞれ「甲1」~「甲10」という。
イ 申立理由1(甲1を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件発明1~14は、甲1に記載された発明及び甲2~9に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立人2による申立理由
ア 申立人2が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人2が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:特開2018-82155号公報
甲第2号証:明渡純,エアロゾルデポジション法の電子デバイスへの応用
展開,表面技術,56巻,10号,p.24~30,
2005年
甲第3号証:登録実用新案第3224084号公報
甲第4号証:韓国公開特許第10-2011-0118939号公報
甲第5号証:甲第4号証の翻訳文
以下、申立人2が提出した上記甲第1号証~甲第5号証をそれぞれ「甲1’」~「甲5’」という。また、申立人2が提出した甲3’は、申立人1が提出した甲8と同じ証拠である。
イ 申立理由2-1(サポート要件違反)
請求項1~13に係る特許は、イットリウム質保護膜の成膜方法について何ら特定しておらず、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ウ 申立理由2-2(甲1’を主たる証拠とした新規性、進歩性欠如)
本件発明1~4、6~8、10、13は、甲1’に記載された発明であるから、請求項1~4、6~8、10、13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
本件発明1~4、6~13は、甲1’に記載された発明及び甲2’、甲3’に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到することができたものであるから、請求項1~4、6~13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
エ 申立理由2-3(甲4’を主たる証拠とした新規性、進歩性欠如)
本件発明1は、甲4’に記載された発明であるか、又は甲4’に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項又は同条第2項の規定に違反してされたものである。
2 各甲号証の記載
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0009】
本発明のオキシフッ化イットリウム溶射膜は、X線回折法により得られる回折スペクトルにおいて、オキシフッ化イットリウムに帰属されるすべてのピーク強度の合計を100としたとき、フッ化イットリウム及び酸化イットリウムに帰属されるすべてのピーク強度の合計が10未満であることを特徴とする。
・・・
【0027】
本発明のオキシフッ化イットリウム溶射膜は、Y5O4F7以外の成分としては、YOF、Y7O6F9、Y6O5F8が挙げられる。」
イ 「【実施例】
・・・
【0070】
[実施例1]
オキシフッ化イットリウムを含み、酸素含有量が8.5質量%の粉末原料(粒径:25μm)を準備し、この原料に対し、X線回折装置((株)リガク製、MultiFlex)を用い、以下に示す条件でX線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルを図1(A)に示す。
・・・
【0072】
次に、基材(アルミニウム合金:A6061)に対して上記原料をプラズマ溶射して200μmの厚さのオキシフッ化イットリウム溶射膜を形成した。
・・・
【0074】
形成した溶射膜に対し、上述の原料と同様にしてX線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルを図1(B)に示す。図1(B)より、形成した溶射膜においては、Y5O4F7及びYOFの結晶相を含むことが分かる。
【0075】
さらに、形成した溶射膜に対し、大気雰囲気炉を用い、300℃で2時間のアニール処理を行った。次いで、アニール処理後の溶射膜に対し、上述の原料と同様にしてX線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルを図1(C)に示す。図1(B)及び図1(C)とで回折スペクトルに差異は認められず、プラズマ溶射後の溶射膜は安定していることが分かる。原料、溶射後、及びアニール後の各段階で含まれる結晶相を表1にも示す。」
ウ 「【図1】
[図:0001404811000001.jpg]
」
(2)甲2の記載事項
甲2には、常温噴射コーティング方法を用いて形成された、気孔率が0.01~1.0%のフッ化イットリウムオキシドコーティング膜が記載されている(【0078】~【0082】)。
(3)甲3の記載事項
甲3には、ALDにより第3のプラズマ耐性層形成することが記載され、当該第3のプラズマ耐性層は、Y2O3、YF3、Y-O-F(例えばY5O4F7)を含むセラミック化合物で構成されてもよいこと、多孔率1%未満を有してもよいことが記載されている(【0074】)。
(4)甲4の記載事項
甲4には、イットリウム系フッ化物溶射皮膜について、硬度を350~470HVとすることが好ましいことが記載されている(【0017】)。
(5)甲5の記載事項
甲5には、YOFを含みビッカース硬度が200HV0.01以上である皮膜が記載されている(【0029】)。
(6)甲6の記載事項
甲6には、実施例5として、主としてY5O4F7からなる膜であって、その最大結晶径が28.9nmであるものが記載されている(【0051】~【0054】)。
(7)甲7の記載事項
甲7には、耐プラズマ性が求められる膜の形成にあたり、良好な膜の形成のために基材表面のRaは0.2μm以下程度に平滑であることが好ましいこと、例えば、オキシフッ化イットリウムを主成分とするパーティクル層とすることが記載されている(【0003】、【0047】、【0051】)。
(8)甲8(甲3’)の記載事項
甲8には、希土類フッ化物を含有する耐プラズマ性コーティングと基材の間に、Al2O3、SiO2等又はそれらの組合せからなるバッファ層を設けることで、耐プラズマ性コーティングのより良好な付着性を得られることが記載されている(【0017】、【0024】~【0027】)。
(9)甲9の記載事項
甲9には、複数の蒸発源を有する蒸発方法(共蒸着法)が記載されている(336ページ右欄19~37行)。
(10)甲1’の記載事項
甲1’には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0037】
また、互いに隣接する結晶子同士の間隔は、好ましくは0nm以上10nm未満である。隣接する結晶子同士の間隔とは、結晶子同士が最も近接した間隔のことであり、複数の結晶子から構成される空隙を含まない。結晶子同士の間隔は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いた観察によって得られる画像から求めることができる。なお、図7に実施形態に係る構造物20の一例を観察したTEM像を示す。構造物20は複数の結晶子20c(結晶粒子)を含む。」
イ 「【0045】
以下、本願発明者らの検討について説明する。
図2は、構造物の原料を例示する表である。
本検討においては、図2に示した原料F1~F8の8種類の粉体が用いられる。これらの原料は、イットリウムオキシフッ化物の粉体であり、YOF、および1:1:2のYOF(例えばY5O4F7、Y7O6F9など)の少なくともいずれかを含む。また、各原料は、実質的にYF3及びY2O3を含まない。
・・・
【0047】
原料F1~F8は、図2に示すメジアン径(D50(μm))のように、粒径において互いに異なる。なお、メジアン径は、各原料の粒子径の累積分布における50%の径である。各粒子の径は、円形近似にて求めた直径が用いられる。
これらの原料と、製膜条件(キャリアガスの種類及び流量)と、の組み合わせを変化させて複数の構造物(層状構造物)のサンプルを作製し、耐プラズマ性の評価を行った。なお、この例では、サンプルの作製にはエアロゾルデポジション法を用いている。
【0048】
図3は、構造物のサンプルを例示する表である。・・・」
ウ 「【0053】
イットリウムのオキシフッ化物における、菱面体晶のピーク強度に関する割合γ1は、回折角2θ=13.8°付近のイットリウムのオキシフッ化物の菱面体晶に起因するピーク強度(r1)と、回折角2θ=36.1°付近のイットリウムのオキシフッ化物の菱面体晶に起因するピーク強度(r2)を用いて、r2/r1×100(%)により算出される。
・・・
【0055】
菱面体晶に対する斜方晶の割合γ2は、回折角2θ=13.8°付近のYOF等を含む菱面体晶のミラー面(003)に起因するピーク強度(r1)と、回折角2θ=16.1°付近のY7O6F9やY5O4F7等を含む斜方晶のミラー面(100)に起因するピーク強度(о)と、を用いて、斜方晶のピーク強度(о)/菱面体晶のピーク強度(r1)×100(%)により算出される。
【0056】
図4(a)、図4(b)及び図5は、構造物のサンプルにおけるX線回折を示すグラフ図である。
図4(a)、図4(b)及び図5のそれぞれにおいて、横軸は回折角2θを示し、縦軸は強度を示す。図4(a)及び図5に示すように、サンプル1~10は、菱面体晶のイットリウムオキシフッ化物(例えばYOFの多結晶)を含み、各サンプルにおいて回折角2θ=13.8°付近にピークPr1が検出される。また、図4(b)に示すように、サンプル3、4、6~10のそれぞれにおいて、回折角2θ=36.1°付近にピークPr2が検出される。サンプル1、2においては、回折角2θ=36.1°付近にはピークが検出されない。
【0057】
また、図4(a)及び図5に示すように、サンプル3~7は、斜方晶のイットリウムオキシフッ化物(例えばY5O4F7またはY7O6F9の少なくともいずれかの多結晶)を含み、回折角2θ=16.1°付近にピークPоが検出される。サンプル1、2、8~10においては、回折角2θ=16.1°付近にはピークが検出されない。
【0058】
各サンプルに関して、図4(a)及び図4(b)に示すデータにおいてバックグラウンドの強度を除いて前述のピーク強度(r1及びr2)を算出し、菱面体晶のピーク強度に関する割合γ1が求められる。また、各サンプルに関して、図5に示すデータにおいてバックグラウンドの強度を除いて前述のピーク強度(r1及びо)を算出し、菱面体晶に対する斜方晶の割合γ2が求められる。求められた割合γ1及び割合γ2を図3に示す。
【0059】
図3に示すように、割合γ1は、原料と成膜条件との組み合わせによって大きく変化する。本願発明者らは、菱面体晶のイットリウムオキシフッ化物の配向と耐プラズマ性との間に関連性があるという新たな知見を得た。
また、割合γ2も、原料と成膜条件との組み合わせによって大きく変化する。本願発明者らは、このように成膜条件等によって構造物中の化合物の割合が変化することを初めて発見した。例えば、原料F1~F5などの酸素含有量の多い原料粉体においては、菱面体晶に対する斜方晶の割合γ2は、50%以上100%以下である。これに対して、エアロゾルデポジション法での製膜により、割合γ2は、サンプル1、2において0%となり、サンプル7においては100%を超える。
なお、サンプル1~10の全てにおいて、回折角2θ=29.1°付近においては、強度のピークが検出されなかった。すなわち、バックグラウンドの強度を除くと、ピーク強度r1に対する、ピーク強度εの割合(ε/r1)は、0%であり、サンプル1~10は、Y2O3を含まなかった。」
エ 「【図3】
[図:0001404811000002.jpg]
」
オ 「【図7】
[図:0001404811000003.jpg]
」
(11)甲2’の記載事項
甲2’には、エアロゾルデポジション法により形成された膜に関し、XRDやEDXの分析からも、形成された膜は組成変動も少なく原料微粉の結晶構造を維持していることが記載されている(24ページ右欄15行~25ページ左欄24行)。
(12)甲4’の記載事項
甲4’には、和訳にして以下の事項が記載されている。なお、和訳については、申立人2が提出した甲5’を参考にした。
ア 「[0011]前記耐プラズマ結晶質セラミックスコーティング膜はX線回折パータンで2θが16°、28°又は32°でピークを示すイットリウム酸フッ素(Y6O5F8)膜を含むことができる。」
イ 「[0053]<実施例1>
[0054]原料粉末であるYF3粉末を準備してエアロゾル成膜装置のエアロゾル供給部(10)に装着した。前記YF3粉末は3.2μmの平均粒径を有するものを使用した。
[0055]YF3粉末粒子間の凝集が抑制されながら容易に浮遊され得るように振動子(18)を利用してYF3粉末を振動させた。この時、振動子(18)の回転数は200rpmに設定した。
[0056]キャリアガス供給部(30)からキャリアガスをエアロゾル供給部(10)に供給し、キャリアガスの流量は流量制御手段(MFC)を通じて調節しながら導管(34)を通じてエアロゾル供給部(10)に供給されるようにしてYF3粉末を浮遊させた。キャリアガスでは窒素(N2)ガスを使用し、キャリアガスの流量は5L/minで設定した。
・・・
[0060]エアロゾル成膜法を利用して成膜されたイットリア系セラミックスコーティング膜を800℃で空気(Air)雰囲気で1時間熱処理して酸フッ化処理(Oxy-Fluoride)した。
・・・
[0068]図2はガラス基板表面に実施例1によってYF3粉末をエアロゾル成膜法を利用して成膜後熱処理して酸フッ化処理(Oxy-Fluoride)したセラミックスコーティング膜のX線回折(X-ray Diffraction;XRD)パターンを示すグラフである。
[0069]図2を参照すると、熱処理前のYF3粉末は24°、27°、31°でX線回折ピークを形成するが、800℃で空気(Air)雰囲気で熱処理されて形成された結晶質セラミックスコーティング膜は16°、28°、32°付近で新しいピークの形成が見られるし、酸フッ化系(Oxy-Fluoride)であるイットリウム酸フッ化物(Y6O5F8;Yttriumu Oxide Fluoride)を含む膜が生成されたことを推測することができる。
[0070]図3はガラス基板表面に実施例2によって熱処理して酸フッ化処理したYF3粉末をエアロゾル成膜法を利用して成膜したセラミックスコーティング膜のX線回折(X-ray Diffraction;XRD)パターンを示すグラフである。
[0071]図3を参照すると、800℃で空気(Air)雰囲気でYF3粉末を熱処理して形成された結晶質セラミックスコーティング膜は28°付近で新しいピークの形成が見られるし、酸素フッ化系(Oxy-fluoride)であるイットリウムフッ化物(Y6O5F8;Yttriumu Oxide Fluoride)を含む膜が生成されたことを推測することができる。
[0072]図4はガラス基板表面に実施例2によって熱処理したYF3粉末をエアロゾル成膜法を利用して成膜してセラミックスコーティング膜を形成した場合の断面を示す走査型電子顕微鏡(Scannning Electron Microscope;SEM)写真である。
[0073]図4を参照すると、スキャニングを連続4回繰り返して4μm厚さで形成したナノ結晶質セラミックスコーテイング膜で、走査型電子顕微鏡を利用して断面と表面の状態を確認した結果、気孔がなく緻密化がよく成り立ったことが見られる。」
ウ 「図2
[図:0001404811000004.jpg]
図3
[図:0001404811000005.jpg]
図4
[図:0001404811000006.jpg]
」
3 特許異議申立理由に対する当審の判断
(1)申立理由1(甲1を主たる証拠とする進歩性欠如)について
ア 甲1に記載された発明
上記2(1)イより、甲1の実施例1におけるオキシフッ化イットリウム溶射膜に着目して整理すると、甲1には以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)
「X線回折スペクトルが図1(B)である、
オキシフッ化イットリウム溶射膜。
【図1】
[図:0001404811000007.jpg]
」
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1が「気孔率が1.5体積%未満であり、ビッカース硬さが500MPa以上」であるのに対し、甲1発明は気孔率及びビッカース硬さが不明である点。
(イ)判断
上記相違点1について検討するに、甲1には気孔率及びビッカース硬さについて記載も示唆もない。また、甲2~甲9をみても、オキシフッ化イットリウム溶射膜において、気孔率を1.5体積%未満とすることは記載も示唆もない。
したがって、甲1~甲9を参酌しても、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項とはいえない。
ウ 本件発明2~14について
本件発明2~14は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記イの本件発明1についての検討と同様の理由により、甲1に記載された発明及び甲2~9に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
エ 申立人の主張について
申立人1は、「オキシフッ化イットリウムからなるプラズマ耐食性膜において、1%以下の低い気孔率とすることは、」「甲第2号証及び甲第3号証により周知技術といえる。したがって、甲1号証に記載のオキシフッ化物イットリウム溶射膜において、気孔率1%以下とすることは、当業者であれば容易に想到し得る。」と主張している(申立人1の特許異議申立書27ページ11~15行)。
しかしながら、甲2に記載されたフッ化イットリウムオキシドコーティング膜は、常温噴射コーティング方法によるものであり(上記2(2))、また甲3に記載されたプラズマ耐性層はALDによるものであって(上記2(3))、甲1発明における溶射膜とは製造方法が異なるから、甲1発明に甲2又は甲3に記載された技術的事項を適用することは、当業者であっても容易に想到し得たものとはいえず、上記主張は採用できない。
オ 小括
以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。
(2)申立理由2-1(サポート要件違反)について
ア 判断手法
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。
イ サポート要件適合性の判断
(ア) 本件明細書の【0007】には、「本発明は、・・・耐プラズマ性に優れるイットリウム質保護膜を提供することを目的とする。」と記載されていることから、本件発明の課題は、耐プラズマ性に優れるイットリウム質保護膜を提供することといえる。
(イ) そして、本件明細書の発明の詳細な説明には、「本実施形態のイットリウム質保護膜は、X線回折パターンにおけるY5O4F7のピーク強度比が60%以上であり、気孔率が1.5体積%未満であり、ビッカース硬さが500MPa以上である」こと(【0013】)が記載されており、詳細には、「本保護膜の耐プラズマ性が優れるという理由から、本保護膜のビッカース硬さは、500MPa以上であり、800MPa以上が好ましく、1000MPa以上がより好ましく、1100MPa以上が更に好ましく、1200MPa以上がより更に好ましく、1250MPa以上が特に好ましく、1300MPa以上が最も好まし」(【0020】)く、「ビッカース硬さを上記範囲にするためには、保護膜のY5O4F7ピーク強度比を上述した範囲にすることが好ましい」(【0021】)ことが記載され、当該Y5O4F7ピーク強度比の上述した範囲に関して、具体的には「60%以上であり、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上が更に好ましく、98%以上がより更に好ましく、99%以上が特に好ましく、100%が最も好ましい」(【0016】)ことが記載されている。
さらに、当該発明の詳細な説明には、「本保護膜の耐プラズマ性が優れるという理由から、本保護膜の気孔率は、1.5体積%未満であり、1.0体積%以下が好ましく、0.5体積%以下がより好ましく、0.3体積%以下が更に好ましく、0.2体積%以下が特に好ましく、0.10体積%以下が最も好ましい」こと(【0023】)も記載されている。
これらの記載を併せ考えると、本件明細書の発明の詳細な説明には、「Y5O4F7のピーク強度比が60%以上」であって、「気孔率は、1.5体積%未満であり」、「ビッカース硬さは、500MPa以上」の「イットリウム質保護膜」が記載されているといえる。
(ウ) さらに、上記(イ)で摘記した明細書【0020】、【0021】、【0023】の記載に照らせば、「Y5O4F7のピーク強度比が60%以上」、「気孔率は、1.5体積%未満」、「ビッカース硬さは500MPa以上」であるイットリウム質保護膜は、耐プラズマ性に優れることが理解でき、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
これは、発明の詳細な説明に記載された実施例(【0078】~【0087】)の例1~27にも裏付けられている。具体的には、例1~20では、Y5O4F7ピーク強度比が89.6~100%、ビッカース硬さが502~1320MPa、気孔率が0~0.68体積%であるイットリウム質保護膜に関して、耐プラズマ性を評価するエッチング量が73~197nmであることが記載されている(【0083】、【0086】【表1】表1(1/3)、同(2/3))。これに対し、例21~例27のイットリウム質保護膜は、各々Y5O4F7ピーク強度比が60%以上、気孔率が1.5体積%未満、ビッカース硬さが500MPa以上の何れかを満足しないものであり、これらのエッチング量は203~539MPaと、上記例1~20よりも耐プラズマ性で劣ることが見て取れる。
(エ) これに対して、本件発明1に係る請求項1の記載は、上記第2のとおりであるから、上記(イ)、(ウ)での検討を踏まえると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものである。本件発明2~14についても事情は同じである。
したがって、前記アの判断手法に従えば、本件発明1~14に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
ウ 申立人の主張
申立人2の主張は、要するに、成膜方法の特定がなく、IAD法以外の成膜方法で形成されたイットリウム質保護膜を包含する本件発明の範囲にまで拡張ないし一般化できると解することはできない、というものである(特許異議申立書の6ページ下から6行~9ページ末行)。
しかしながら、前記イで検討したとおり、IAD法により成膜されたことを特定せずとも、当業者であれば本件発明が上記課題を解決できることを認識できるから、当該主張は採用できない。
エ 小括
以上のとおりであるから、申立理由2-1に理由はない。
(3)申立理由2-2(甲1’を主たる証拠とする新規性、進歩性欠如)について
ア 甲1’に記載された発明
(ア)上記2(10)イの【0045】より、原料F1~F8の8種類の粉体には、YOF及び1:1:2のYOF(例えば、Y5O4F7、Y7O6F9など)の少なくともいずれかを含み、また、実質的にYF3及びY2O3を含まないことが理解できる。
(イ)上記2(10)イの【0047】、【0048】、及び同エの【図3】より、原料F1~F8を用いたエアロゾルデポジション法により、図3のサンプルが作製されることが理解できる。
図3
[図:0001404811000008.jpg]
(ウ)上記2(10)ウの【0053】より、γ1は菱面体晶のピーク強度に関する割合であり、r1(菱面体晶のイットリウムオキシフッ化物に起因するピーク。2θ=13.8°付近。)に対する、r2(菱面体晶のイットリウムオキシフッ化物に起因するピーク。2θ=36.1°付近。)の比r2/r1であることが理解できる。
(エ)上記(10)ウの【0055】より、γ2は菱面体晶に対する斜方晶の割合であって、r1(YOF等の菱面体晶を含むミラー面(003)に起因するピーク強度。2θ=13.8°付近。)に対するo(Y7O6F9やY5O4F7等を含む斜方晶のミラー面(100)に起因するピーク。2θ=16.1°付近。)の比o/r1であることが理解できる。
(オ)上記(ア)~(エ)を踏まえ、甲1’のサンプル1に注目して整理すると、甲1’には以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲1’発明」という。)。
「 γ1が0%、γ2が0%の構造物であって、
前記構造物は、Y2O3を含まず、
前記構造物は、YOF、及び1:1:2のYOF(例えばY5O4F7、Y7O6F9など)の少なくともいずれかを含み、実質的にYF3及びY2O3を含まない粉体を原料とし、エアロゾルデポジション法により作製されたものであり、
前記γ1は、菱面体晶のピーク強度に関する割合であって、回折角2θ=13.8°付近のイットリウムのオキシフッ化物の菱面体晶に起因するピーク強度(r1)と、回折角2θ=36.1°付近のイットリウムのオキシフッ化物の菱面体晶に起因するピーク強度(r2)を用いて、r2/r1×100(%)により算出されるものであり、
前記γ2は、菱面体晶に対する斜方晶の割合であって、回折角2θ=13.8°付近のYOF等を含む菱面体晶のミラー面(003)に起因するピーク強度(r1)と、回折角2θ=16.1°付近のY7O6F9やY5O4F7等を含む斜方晶のミラー面(100)に起因するピーク強度(о)と、を用いて、斜方晶のピーク強度(о)/菱面体晶のピーク強度(r1)×100(%)により算出されるものである、構造物。」
イ 本件発明1について
本件発明1と甲1’発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点2>
本件発明1が、「気孔率が1.5体積%未満であり、ビッカース硬さが500MPa以上である」のに対し、甲1’発明は気孔率及びビッカース硬さが不明である点。
当該相違点2について検討するに、甲1’には構造体の気孔率及びビッカース硬さについて記載も示唆もない。また、甲2’~甲4’をみても、エアロゾルデポジション法により作製されたイットリウムオキシフッ化物の気孔率及びビッカース硬さについて記載も示唆もない。
したがって、本件発明1は甲1’に記載された発明でなく、また甲1’に記載された発明及び甲2’~甲4’に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到することができたものともいえない。
ウ 本件発明2~14について
本件発明2~14は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記イの本件発明1についての検討と同様の理由により、甲1’に記載された発明でなく、また甲1’に記載された発明及び甲2’~甲4’に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到することができたものともいえない。
エ 申立人の主張について
(ア) 申立人2は、「甲第1号証(当審注:甲1’が対応)の図7(TEM像)を見る限り、構造物20の断面において気孔は確認されないことから、構造物20の気孔率は少なくとも1.5体積%未満と推認される」(特許異議申立書の15ページ下から5行~下から3行)と主張する。
しかしながら、上記イのとおり、甲1’には気孔率について記載も示唆もなく、高々1.5体積%の気孔の有無が、甲1’の図7から明らかということもできないから、当該主張は採用できない。
(イ) また、申立人2は、「Y5O4F7を原料に用いて形成されたイットリウムオキシフッ化物皮膜におけるビッカース硬さは、500MPaよりも遥かに高いのであるから、」ビッカース硬さが500MPa以上である点は「相違点にはなり得ない」(特許異議申立書の16ページ5~8行)とも主張する。
しかしながら、上記ア(オ)のとおり、甲1’発明に係る構造物は、「YOF、及び1:1:2のYOF(例えばY5O4F7、Y7O6F9など)の少なくともいずれかを含み、実質的にYF3及びY2O3を含まない粉体を原料とし、エアロゾルデポジション法により作製されたもの」であって、Y5O4F7は1:1:2のYOFの一例として挙げられるにすぎないから、甲1’発明に係る構造物の原料としてY5O4F7を用いているか否かは不明である。さらに、「Y5O4F7を原料に用いて形成されたイットリウムオキシフッ化物皮膜におけるビッカース硬さは、500MPaよりも遥かに高い」ことは、甲1’に記載されておらず、本件特許の出願時に技術常識であったことを示す証拠もない。
したがって、上記主張は採用できない。
オ 小括
以上のとおりであるから、申立理由2-2に理由はない。
(4)申立理由2-3(甲4’を主たる証拠とする新規性、進歩性欠如)について
ア 甲4’に記載された発明
上記2(12)の記載(特に[0068]、図2)によれば、甲4’の実施例1として、甲4’には以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲4’発明」という。)。
「 YF3粉末をエアロゾル成膜法を利用して成膜後熱処理して酸フッ化処理したセラミックスコーティング膜であって、
X線回折パターンが図2で示される、セラミックスコーティング膜。
図2
[図:0001404811000009.jpg]
」
イ 本件発明1について
本件発明1と甲4’発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点3>
本件発明1が「気孔率が1.5体積%未満であり、ビッカース硬さが500MPa以上である」のに対し、甲4’発明は気孔率及びビッカース硬さが不明である点。
当該相違点3について検討するに、甲4’にはセラミックスコーティング膜の気孔率及びビッカース硬さについて記載も示唆もない。また、甲1’~甲3’をみても、セラミックスコーティング膜の気孔率及びビッカース硬さについて記載も示唆もない。
したがって、本件発明1は甲4’に記載された発明でなく、また甲4’に記載された発明及び甲1’~甲3’に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到することができたものともいえない。
ウ 本件発明2~14について
本件発明2~14は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記イの本件発明1についての検討と同様の理由により、甲4’に記載された発明でなく、また甲4’に記載された発明及び甲1’~甲3’に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到することができたものともいえない。
エ 申立人の主張について
(ア) 申立人2は、甲4’の「段落0022には「前記結晶質セラミックスコーティング膜は平均表面粗度が1~500nm範囲を成す緻密な膜である。」と記載されているし」、甲4’の「図4には、エアロゾルデポジション法を用いて作成された他の実施例についてであるが、結晶質セラミックスコーティング膜の断面画像が示されており、当該画像には気泡が存在していない(段落0073)。」旨を主張する(特許異議申立書の28ページ下から11行~末行)。
しかしながら、甲4’の記載をみても、上記段落0022でいう「緻密な膜」が、たかだか1.5体積%の気泡も含まない程度の緻密さを意味するかは不明であるし、申立人2も自認するとおり、図4は甲4’における実施例2の断面を示すものであって(上記2(12)の[0072])、甲4’における実施例1の結果を示すものでないから、何れも甲4’発明に係るセラミックスコーティング膜の気孔率が1.5体積%未満であることを裏付けるものとはいえず、上記主張は採用できない。
(イ) また、申立人2は、「緻密なイットリウムオキシフッ化物皮膜におけるビッカース硬さは、500MPaより遥かに高いのであるから」、上記相違点3に係るビッカース硬さに関する点は、相違点にはなり得ない旨を主張する(特許異議申立書の29ページ5~8行)。
しかしながら、「緻密なイットリウムオキシフッ化物皮膜におけるビッカース硬さは、500MPaより遥かに高い」ことは、甲4’には記載されておらず、本件特許の出願時に技術常識であったことを示す証拠もない。
したがって、上記主張は採用できない。
オ 小括
以上のとおりであるから、申立理由2-3に理由はない。
第5 むすび
以上のとおり、申立人による特許異議の申立ての理由及び証拠、並びに取消理由通知書に記載した取消理由及び証拠によっては、請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700351