特許異議申立
2023-700315
金属ベース基板
- 審判番号
- 2023-700315
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-134788
- 登録番号
- 7143659
- 請求日
- 2023年03月27日
- 審決日
- 2023年06月14日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三菱マテリアル株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】寺本 光生
- 【権利者代理人】細川 文広
- 【権利者代理人】大浪 一徳
- 【異議申立人】古川 慎二
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 井上 信一
- 審判官 篠原 功一
- 分類
- P1651.121-Y (H05K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7143659号発明「金属ベース基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7143659号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7143659号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成30年7月18日に出願され、令和4年9月20日にその特許権の設定登録がなされ、同年9月29日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1ないし3に係る特許に対して、令和5年3月27日に特許異議申立人 古川 慎二により特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件特許
特許第7143659号の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし3にそれぞれ記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
金属基板と、絶縁層と、回路層とがこの順で積層された金属ベース基板であって、
前記絶縁層は、絶縁性樹脂とセラミック粒子とを含む絶縁性樹脂組成物から形成され、
前記回路層は、膜厚が10μm以上1000μm以下の範囲内にあって、降伏応力が10MPa以上150MPa以下の範囲内にあることを特徴とする金属ベース基板。
【請求項2】
前記回路層の前記降伏応力が110MPa以下である請求項1に記載の金属ベース基板。
【請求項3】
前記回路層は、アルミニウムからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属ベース基板。」
第3 申立理由の概要
1.申立理由1(進歩性)
請求項1ないし3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2.申立理由2(進歩性)
請求項1ないし3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第1号証:国際公開第2016/093349号
甲第2号証:特開2008-4652号公報
甲第3号証:特開2011-249606号公報
第4 甲第1号証ないし甲第3号証の記載事項
1.甲第1号証
甲第1号証(国際公開第2016/093349号)には、「可撓性回路基板」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「[請求項1] Crを0.03質量%以上1.0質量%以下含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる銅板であり、銅板の厚さ方向と銅板面内の特定方向とが、それぞれ銅の結晶軸<100>と方位差15°以内の条件を満たす<100>優先配向領域が面積率で60.0%以上を占めるように<100>の主方位を有しており、かつ円相当径で4nm以上52nm以下のCr析出物が300個/μm 3 以上、12000個/μm 3 以下であることを特徴とする配向銅板。
・・・・(中 略)・・・・
[請求項5] 請求項1から4のいずれか1項に記載の配向銅板表面に形成された絶縁層を有することを特徴とする銅張積層板。
・・・・(中 略)・・・・
[請求項8] 請求項5~7のいずれか1項に記載の銅張積層板の配向銅板に形成された所定の配線を有し、さらに銅板面内の特定方向に対して直交するように、該配線の少なくとも一箇所に屈曲部を有することを特徴とする可撓性回路基板。」
(2)「[0020] 配向銅板は完全に板状を呈していなくてもよく、例えば、スリット加工によって細くて長いテープ状の線材にしたものであってもよく、板状の平面を部分的にエッチングが施されて、回路状の複雑な形態をしたものであってもよい。一方、配向銅板の板厚については特に制限はなく、ある程度の厚みを有した板材から銅箔のような極めて薄いものまでを含むが、高度な立方体集合組織を得るためには実質的に3mm以下の銅板である必要がある。また、その厚みは銅板の用途によって適宜設定することができ、例えば、後述するプラスチックを基板とした可撓性回路基板の配線に用いる場合には、典型的な厚さは5μm以上、18μm以下であるのがよく、セラミックスを基板とした可撓性回路基板の配線に用いる場合には、典型的な厚さは100μm以上、500μm以下であるのがよい。一方、太陽電池用配線材料の平角銅線(インターコネクタ)のような場合には、典型的な厚さは100μm以上、300μm以下であるのがよい。なお、圧延加工やその後のプロセスのハンドリングの限界から、その厚みの下限は実質的に3μmである。」
(3)「[0042] 可撓性回路基板は銅板と絶縁層のプラスチックとが接合され、銅板に回路パターンが形成された形態である。このような可撓性回路基板は本発明に係る銅板の表面に絶縁層が形成された銅張積層板を用いることができ、このうち、典型的な銅板の厚さは5μm以上、18μm以下、絶縁層の厚さは5μm以上、75μm以下である。・・・・(以下、略)
[0043] 本発明における可撓性回路基板用の銅張積層板の絶縁層については樹脂を用いて形成されるのがよく、絶縁層を形成する樹脂の種類は特に制限されないが、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、液晶ポリマー、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン等を例示することができる。・・・・(以下、略)
[0045] また、銅張積層板がセラミックス基板を使用する場合、セラミックス基板を形成するセラミックスは、アルミナ、アルミナジルコニア、窒化アルミニウム、窒化ケイ素が典型的であり、その厚さは0.2mm以上、0.5mm以下である場合が多い。銅板の厚さも同程度であることが多く、セラミックス基板の両側に銅板が接合され、片側に回路パターンを形成し、もう片側をベタ面として放熱に利用する場合が多い。接合部分は直接接合されていてもよく、金属ろうが形成されていてもよい。」
(4)「[0058] 銅張積層板の絶縁層がセラミックスであってもプラスチックであっても、基板配線の幅、形状、パターン等については特に制限はなく、回路基板の用途、搭載される電子機器等に応じて適宜設計すればよい。回路は通常化学的なエッチングによって形成される。」
(5)「[0064][実施例1]
先ず、本発明の配向銅板におけるCrの析出強化を示すために、高純度の銅原料を使用して、他の成分の影響が小さい状態で本発明の効果を調べた。
[0065] 原料の銅とCrは、それぞれ純度99.9999質量%以上、99.99%以上の材料を使用した。・・・・(中 略)・・・・この銅板材を0.4mmまで冷間圧延して、スリット加工で幅40mmに整えた後、張力圧延機で最終板厚保である12μmまで冷間圧延を実施した。最終板厚まで圧延した配向銅板について、Crの濃度をICP発行分析にて分析を行った。
[0066] 上記のようにして作製した銅箔試料は12種類であり、Cr濃度は、0質量%(試料1、2)、0.019質量%(試料3)、0.03質量%(試料4)、0.1質量%(試料4~試料8)、0.19質量%(試料9)、0.29質量%(試料10)、1.0質量%(試料11)、1.1質量%(試料12)である。
・・・・(中 略)・・・・
[0070] 銅板の引張試験は圧延方向に平行に長さ150mm、幅10mmの試験片を切り出し、標点間距離100mm、引張速さ10mm/分で実施した。引張試験の結果得られた結果は、応力-歪み線図に表して、0.2%耐力値、強度、及び破断伸びを評価した。応力はロードセルにかかる荷重を銅板の引張試験前の断面積で除した値であり、歪みは、標点間距離に対する引張試験機のクロスヘッドの移動距離を百分率で表したものである。
[0071] 結果をまとめたものを表1に示した。
・・・・(中 略)・・・・
[0072][表1]
[図:0001399420000001.jpg]
」
(6)「[0080][実施例2]
実施例1で作製した試料1~試料12の銅箔試料(配向銅板)を使用して、可撓性回路基板を作製して、折り曲げ(はぜ折り)試験を実施した。
・・・・(中 略)・・・・
[0087] 次いで、銅板の圧延方向に沿って長さ250mm、圧延方向に対して直交する方向に幅40mmの長方形サイズとなるように切り出し、厚さ12μmの樹脂層(ポリイミド)と厚さ12μmの銅板層とを有した試験用片面銅張積層板を得た。そのときの樹脂層全体の引張弾性率は7.5GPaであった。
[0088] 次に、上記で得られた試験用片面銅張積層板の銅板層側に所定のマスクを被せ、塩化鉄/塩化銅系溶液を用いてエッチングを行い、線幅が100μmの長さが40mmの直線状の10本の配線の配線方向が、圧延方向に平行になるように、かつ、スペース幅が100μmとなるように配線パターンを形成して、試験用可撓性回路基板を得た。・・・・(以下、略)」
上記(1)ないし(6)から以下のことがいえる。
・甲第1号証に記載の「可撓性回路基板」は、上記(1)ないし(4)、(6)の記載によれば、基板(絶縁層)と、基板(絶縁層)の一方の面に接合され、回路パターン(配線パターン)が形成されたCrを含有する配向銅板とを有するものである。基板(絶縁層)としては、プラスチック(樹脂)あるいはセラミックスが用いられ、実施例(実施例2)ではポリイミドからなる樹脂が用いられてなるものである。
・上記(2)、(5)、(6)の記載によれば、配向銅板の厚さは、プラスチック(樹脂)を基板とする場合には5μm以上18μm以下であり、実施例(実施例1及び2)では12μmである。
・上記(5)の記載、特に表1によれば、例えばCr濃度が0.03質量%である試料4の銅箔(配向銅板)では、0.2%耐力が51.8MPaである。
以上のことから、特に実施例1の試料4に係る銅箔(配向銅板)を使用した実施例2に係る可撓性回路基板に着目し、上記記載事項を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「樹脂からなる基板と、前記樹脂からなる基板の一方の面に接合され、回路パターンが形成されたCrを含有する配向銅板とを有する可撓性回路基板であって、
前記配向銅板は、厚さが12μmであり、0.2%耐力が51.8MPaである可撓性回路基板。」
2.甲第2号証
甲第2号証(特開2008-4652号公報)には、「電力用半導体装置」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項1】
窒化珪素を主成分とする焼結体で構成された絶縁基板と、
前記絶縁基板の1主面上に形成された銅を主成分とする配線層と、
前記配線層上に搭載された電力用半導体素子とを有する電力用半導体装置において、
前記絶縁基板に接する部分に於ける前記配線層の降伏応力が100MPa以下であり、
前記配線層の絶縁基板に接する部分に於ける降伏応力が、前記配線層表面に於ける降伏応力より小さいことを特徴とする電力用半導体装置。
・・・・(中 略)・・・・
【請求項5】
請求項1に記載の電力用半導体装置において、
前記絶縁基板の厚さが0.5mm以下であり、
前記配線層の厚さが0.5mm以上であることを特徴とする電力用半導体装置。
・・・・(中 略)・・・・
【請求項12】
請求項1に記載の電力用半導体装置において、
前記絶縁基板の前記配線層を形成する主面とは反対側の主面に接続された金属板を有することを特徴とする半導体装置。」
(2)「【実施例1】
【0044】
本発明の第1の実施例について、図1~図6を参照して説明する。
・・・・(中 略)・・・・
【0050】
次に、本実施例による電力用半導体装置の内部について説明する。図1のハイサイドIGBTチップ113部で切断した断面図である図2を併用して説明する。なお、図2でも上蓋は表示していない。
【0051】
Cuベース121上にSiN絶縁配線基板212がCuベース上はんだ210で接着されている。SiN絶縁配線基板212は、芯材であるSiN基板107の片面にハイサイドアノード銅箔パターン108,ハイサイドカソードローサイドアノード銅箔パターン109,ローサイドカソード銅箔パターン110,ハイサイドゲート銅箔パターン111及びローサイドゲート銅箔パターン112からなる上面銅箔パターンを形成し、SiN基板107の逆の面に下面銅箔206(全面べた)を形成した複合部材である。
・・・・(中 略)・・・・
【0055】
SiN基板107に接する部分は、上面(半導体素子搭載)側が低降伏応力Cu203、下面側が低降伏応力Cu205であり、SiN絶縁配線基板212の銅箔表面は高降伏応力Cu202及び高降伏応力Cu204である。高降伏応力のCuは銅箔表面の熱膨張係数をCuに近づける機能を有し、低降伏応力のCuはCuパターンの端部(べたの下面にも端部は存在する)におけるCuとSiN界面の応力緩和の機能を有する。
・・・・(中 略)・・・・
【0058】
図3は、厚さ0.3mmのSiN基板の両面に同じ厚さ(0.6mm)のCuを張り合わせた場合のCu表面の熱膨張係数がCuの降伏応力とどのような関係になるかを示したグラフである。Cuの降伏応力が小さいと、SiNの小さい熱膨張係数(2.8~3.0ppm /K)の影響を受けやすく、Cuの表面の熱膨張係数は小さくなる。本発明が目指す半導体装置では、Cuの表面の熱膨張係数をCu(16~17ppm/K)或いはAl(23~24ppm/K)に近づける構成とするため、Cuの降伏応力は大きい方が良い。
・・・・(中 略)・・・・
【0060】
図5は、図1及び図2に示したような、Cuの表面が高降伏応力、SiNとの界面が低降伏応力(100MPa以下)で、Cuの合計厚さを0.6mm にした場合の低降伏応力Cuの厚さとパターン端部の界面応力との関係を示している。なお、芯材のSiNセラミックスの厚さは0.3mmである。SiNセラミックスの厚さが0.5mmより厚くなるか、若しくはCuの厚さが0.5mm 未満になると、SiNの熱膨張係数の影響が大きくなり、Cu箔による熱膨張係数の増加が起こりにくくなる。すなわち、Cu表面の熱膨張係数を大きくするという、本特許で述べる構成が有効になるためには、SiNセラミックスの厚さが0.5mm以下で同時にCuの厚さが0.5mm以上であることが望ましい。」
(3)「【実施例3】
【0073】
本発明の第3の実施例について、図8を参照して説明する。
【0074】
図8は、第1の実施例の図2と同じ部分の断面を示している。ここで、第1の実施例との相違は、ハイサイドアノード銅箔パターン805及び下面Cuベース806の構成である。すなわち、本実施例ではCuを1層で形成し、後処理で表面のCuの降伏応力を大きくした。降伏応力を増すために加工硬化を利用した。表面のみ加工することでSiNとの界面における降伏応力よりCu表面における降伏応力を高くした。表面のみを加工するプロセスとして、本実施例では微細セラミックス粉末を高圧で照射する、サンドブラスト法を採用した。微細領域の圧延,球状物を投射するショットピーニング等、表面のみを加工する手立ては他にもあり、どの方法を使用しても同様の効果を得ることができる。その結果、降伏応力50MPaの低降伏応力Cu802の表面側に降伏応力150MPaの高降伏応力Cu801が形成された。
【0075】
また、下面については、第2の実施例と同じく低降伏応力のCu層を廃し、1層のCuとするとともに、さらにCuベースも一体化した。すなわち、下面Cuベース806とした。その結果、Cuベース一体SiN絶縁配線基板807となり、Cuベースの接着工程を省略できた。」
(4)「【図8】
[図:0001399420000002.jpg]
」
上記(1)ないし(4)から以下のことがいえる。
・甲第2号証に記載の「電力用半導体装置」は、上記(1)ないし(3)の記載、及び(4)の図8によれば、芯材であるSiN基板と、SiN基板の片面(上面)に形成された上面銅箔パターンからなる配線層と、SiN基板の逆の面(下面)に形成された下面銅箔(全面べた)とを備えるSiN絶縁配線基板、及びSiN絶縁配線基板上に搭載された電力用半導体素子とを有するものである。
・上記(1)の【請求項1】、(2)の段落【0055】、(3)の記載によれば、配線層は、SiN基板に接する部分(下面側)が100MPa以下の低降伏応力であり、電力用半導体素子搭載領域を除く表面側が高降伏応力とされてなるものである。そして、実施例3では、低降伏応力が50MPa、高降伏応力が150MPaである。
・上記(1)の【請求項5】、(2)の段落【0060】の記載によれば、配線層の厚さは0.5mm以上であり、上記(2)の段落【0058】及び【0060】、(3)の記載によれば、実施例3においても実施例1と同様、配線層は0.6mmであると解される。
・上記(3)の記載によれば、実施例3では、下面銅箔(全面べた)はCuベースと一体化され、SiN基板の逆の面(下面)には下面Cuベースが接着されてなるものである。
以上のことから、特に実施例3に係るものにおけるCuベース一体SiN絶縁配線基板に着目してこれを発明として捉え、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「芯材であるSiN基板と、SiN基板の片面に形成された上面銅箔パターンからなる配線層と、SiN基板の逆の面に接着された下面Cuベースとを備えるCuベース一体SiN絶縁配線基板であって、
前記配線層は、厚さが0.6mmであり、SiN基板に接する部分(下面側)が50MPaの低降伏応力であり、電力用半導体素子搭載領域を除く表面側が150MPaの高降伏応力であるCuベース一体SiN絶縁配線基板。」
3.甲第3号証
甲第3号証(特開2011-249606号公報)には、「金属ベース回路基板」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項1】
金属基板と、
前記金属基板上に設けられ、液晶ポリエステルと50体積%以上の無機充填材とを含有し、前記無機充填材は窒化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方と窒化硼素とからなり、前記無機充填材に占める前記窒化硼素の割合は35乃至80体積%の範囲内にある絶縁層と、
前記絶縁層上に設けられた金属箔と
を具備した回路基板用積層板。
・・・・(中 略)・・・・
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の回路基板用積層板の前記金属箔をパターニングすることによって得られる金属ベース回路基板。」
(2)「【0014】
上記の通り、本発明者らは、液晶ポリエステルと無機充填材とを含んだ樹脂組成物を使用すると、絶縁層に占める無機充填材の割合を高めた場合に、必ずしも期待されるほどの性能を達成できない可能性があることを見出している。本発明者らは、その理由について鋭意検討した結果、液晶ポリエステルはエポキシ樹脂などの他の樹脂と比較して高粘度であるため、液晶ポリエステル溶液と無機充填材とを含んだ分散液は気泡を含み易く、この分散液から得られる塗膜から気泡を十分に除去することは難しいことを見出した。そして、本発明者らは、この塗膜から得られる絶縁層の気孔率が、回路基板用積層板及びこれから得られる金属ベース回路基板の性能、特には耐電圧に大きな影響を及ぼすことを見出した。
【0015】
そして、本発明者らは、無機充填材の少なくとも一部として窒化硼素を使用することによって絶縁層の気孔率を低減できることを見出した。更に、本発明者らは、無機充填材として窒化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方と窒化硼素との組み合わせを使用し且つ無機充填材に占める窒化硼素の割合を所定の範囲内とすると、十分なピール強度と、高い耐電圧と、低い熱抵抗とを同時に達成できることを見出した。本発明は、以上の知見に基いて発明されたものである。
・・・・(中 略)・・・・
【0017】
図1及び図2に示す回路基板用積層板1は、金属基板2と、絶縁層3と、金属箔4とを含んでいる。なお、図1及び図2において、X及びY方向は金属基板2の主面に平行であり且つ互いに直交する方向であり、Z方向はX及びY方向に対して垂直な厚さ方向である。図1には、一例として矩形状の回路基板用積層板1を描いているが、回路基板用積層板1は他の形状を有していてもよい。」
(3)「【図2】
[図:0001399420000003.jpg]
」
上記(1)ないし(3)の記載及び図面を総合勘案すると、甲第3号証には、次の技術事項が記載されている。
「金属基板と、前記金属基板上に設けられた絶縁層と、前記絶縁層上に設けられパターニングされた金属箔とを具備した金属ベース回路基板において、
十分なピール強度と、高い耐電圧と、低い熱抵抗とを同時に達成するために、前記絶縁層を、液晶ポリエステルと、窒化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方と所定割合の窒化硼素とからなる無機充填材とを含有するものとしたこと。」
第5 当審の判断
1.申立理由1(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)金属ベース基板について
甲1発明における「可撓性回路基板」は、樹脂からなる基板と、前記樹脂からなる基板の一方の面に接合され、回路パターンが形成されたCrを含有する配向銅板とを有するものであるところ、甲1発明における「樹脂からなる基板」は、本件発明1でいう「金属基板」に対応し、両者は「基板」である点で共通する。また、甲1発明における「回路パターンが形成されたCrを含有する配向銅板」は、本件発明1でいう「回路層」に相当する。
よって、本件発明1と甲1発明とは、「基板と、回路層とが積層された回路基板」である点で共通するということができる。
ただし、本件発明1では基板が「金属」基板であって、回路基板が「金属ベース」基板であり、また、金属基板と回路層との間に「絶縁層」が積層されてなるものであるのに対し、甲1発明では基板が樹脂からなる基板であり、樹脂ベースの基板といえるものであり、また、絶縁層も積層されていない点で相違する。
(イ)絶縁層について
絶縁層について、本件発明1では「絶縁性樹脂とセラミック粒子とを含む絶縁性樹脂組成物から形成され」ていることを特定するのに対し、甲1発明ではそもそも絶縁層を有していない点で相違する。
(ウ)回路層について
甲1発明における「回路パターンが形成されたCrを含有する配向銅板」の厚さは「12μm」であり、本件発明1で特定する「10μm以上1000μm以下」の範囲に含まれる。また、その0.2%耐力すなわち降伏応力は「51.8MPa」であり、本件発明1で特定する「10MPa以上150MPa以下」の範囲に含まれる。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「前記回路層は、膜厚が10μm以上1000μm以下の範囲内にあって、降伏応力が10MPa以上150MPa以下の範囲内にある」点で一致する。
よって、上記(ア)ないし(ウ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「基板と、回路層とが積層された回路基板であって、
前記回路層は、膜厚が10μm以上1000μm以下の範囲内にあって、降伏応力が10MPa以上150MPa以下の範囲内にあることを特徴とする基板。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
本件発明1では基板が「金属」基板であって、回路基板が「金属ベース」基板であり、また、金属基板と回路層との間に「絶縁層」が積層されてなるものであるのに対し、甲1発明では基板が樹脂からなる基板であり、樹脂ベースの基板といえるものであり、また、絶縁層も積層されていない点。
[相違点2]
絶縁層について、本件発明1では「絶縁性樹脂とセラミック粒子とを含む絶縁性樹脂組成物から形成され」ていることを特定するのに対し、甲1発明ではそもそも絶縁層を有していない点。
イ.判断
上記相違点1及び2について検討する。
甲第3号証には「金属基板と、前記金属基板上に設けられた絶縁層と、前記絶縁層上に設けられパターニングされた金属箔とを具備した金属ベース回路基板において、十分なピール強度と、高い耐電圧と、低い熱抵抗とを同時に達成するために、前記絶縁層を、液晶ポリエステルと、窒化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方と所定割合の窒化硼素とからなる無機充填材とを含有するものとした」技術事項が記載され(上記「第4 3.」を参照)、金属基板とパターニングされた金属箔との間に絶縁層が積層され、当該絶縁層は液晶ポリエステルからなる絶縁性樹脂と、窒化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方からなるセラミック粒子とを含んだものが記載されているといえる。
しかしながら、甲1発明は基板が樹脂からなる基板であり、樹脂ベースの基板といえるものであって、「金属ベース」基板に係るものではなく、そもそも「絶縁層」を設ける必要性のないものである。してみると、たとえ甲第3号証に金属基板とパターニングされた金属箔との間に絶縁層が積層され、当該絶縁層が絶縁性樹脂とセラミック粒子とを含んだものが記載されているとしても、かかる技術事項を甲1発明に適用する動機がない。
したがって、甲1発明において相違点1及び2に係る構成を導き出すことはできない。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2及び3について
請求項2及び3は、請求項1を引用する請求項であり、本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2及び3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)特許異議申立書における記載に関して
特許異議申立人は特許異議申立書において、甲第1号証に記載の銅張積層板がセラミックス基板を使用する場合、セラミックス基板の片側にベタ面として接合された「銅板」が本件発明1でいう「金属基板」に相当し、「セラミックス基板」は本件発明1でいう「絶縁層」に相当すると述べている。
しかしながら、ベースとなる「基板」といえるのは「セラミックス基板」であり、当該「セラミックス基板」が本件発明1でいう「金属基板」に対応するものであって、ベタ面として接合された「銅板」が本件発明1でいう「金属基板」に相当するとはいえない。
以上の点において、たとえ甲第1号証に記載された「可撓性回路基板」に係る発明がセラミックス基板を用いる場合であっても、上記(1)で検討した甲1発明の場合と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、本件の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
2.申立理由2(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)金属ベース基板について
甲2発明における「Cuベース一体SiN絶縁配線基板」は、芯材であるSiN基板と、SiN基板の片面に形成された上面銅箔パターンからなる配線層と、SiN基板の逆の面に接着された下面Cuベースとを備えるものであるところ、甲2発明における芯材である「SiN基板」は、本件発明1でいう「金属基板」に対応し、両者は「基板」である点で共通する。また、甲2発明における上面銅箔パターンからなる「配線層」は、本件発明1でいう「回路層」に相当する。
よって、本件発明1と甲2発明とは、「基板と、回路層とが積層された回路基板」である点で共通するということができる。
ただし、本件発明1では基板が「金属」基板であって、回路基板が「金属ベース」基板であり、また、金属基板と回路層との間に「絶縁層」が積層されてなるものであるのに対し、甲2発明では基板がSiN基板であり、セラミックベースの基板といえるものであり、また、絶縁層も積層されていない点で相違する。
なお、特許異議申立人は特許異議申立書において、複合材料(SiN絶縁配線基板)の逆の面に形成された「下面銅箔(全面べた)」が本件発明1でいう「金属基板」に相当し、「絶縁基板(SiN基板)」は本件発明1でいう「絶縁層」に相当すると述べているが、ベースとなる「基板」といえるのは「SiN基板」であり、上述のように当該「SiN基板」が本件発明1でいう「金属基板」に対応するものであって、ベタ面として形成された「下面銅箔」が本件発明1でいう「金属基板」に相当するとはいえない。
(イ)絶縁層について
絶縁層について、本件発明1では「絶縁性樹脂とセラミック粒子とを含む絶縁性樹脂組成物から形成され」ていることを特定するのに対し、甲2発明ではそもそも絶縁層を有していない点で相違する。
(ウ)回路層について
甲2発明における上面銅箔パターンからなる「配線層」の厚さは「0.6mm」、すなわち600μmであり、本件発明1で特定する「10μm以上1000μm以下」の範囲に含まれる。また、その降伏応力は「SiN基板に接する部分(下面側)が50MPaの低降伏応力であり、電力用半導体素子搭載領域を除く表面側が150MPaの高降伏応力である」ことから、全体としてみても150MPa以下であり、本件発明1で特定する「10MPa以上150MPa以下」の範囲に含まれる。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、「前記回路層は、膜厚が10μm以上1000μm以下の範囲内にあって、降伏応力が10MPa以上150MPa以下の範囲内にある」点で一致する。
よって、上記(ア)ないし(ウ)によれば、本件発明1と甲2発明とは、
「基板と、回路層とが積層された回路基板であって、
前記回路層は、膜厚が10μm以上1000μm以下の範囲内にあって、降伏応力が10MPa以上150MPa以下の範囲内にあることを特徴とする基板。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
本件発明1では基板が「金属」基板であって、回路基板が「金属ベース」基板であり、また、金属基板と回路層との間に「絶縁層」が積層されてなるものであるのに対し、甲2発明では基板がSiN基板であり、セラミックベースの基板といえるものであり、また、絶縁層も積層されていない点。
[相違点2]
絶縁層について、本件発明1では「絶縁性樹脂とセラミック粒子とを含む絶縁性樹脂組成物から形成され」ていることを特定するのに対し、甲2発明ではそもそも絶縁層を有していない点。
イ.判断
上記相違点1及び2について検討する。
甲第3号証には「金属基板と、前記金属基板上に設けられた絶縁層と、前記絶縁層上に設けられパターニングされた金属箔とを具備した金属ベース回路基板において、十分なピール強度と、高い耐電圧と、低い熱抵抗とを同時に達成するために、前記絶縁層を、液晶ポリエステルと、窒化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方と所定割合の窒化硼素とからなる無機充填材とを含有するものとした」技術事項が記載され(上記「第4 3.」を参照)、金属基板とパターニングされた金属箔との間に絶縁層が積層され、当該絶縁層は液晶ポリエステルからなる絶縁性樹脂と、窒化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方からなるセラミック粒子とを含んだものが記載されているといえる。
しかしながら、甲2発明は基板がSiN基板であり、セラミックベースの基板といえるものであって、「金属ベース」基板に係るものでなく、そもそも「絶縁層」を設ける必要性のないものである。してみると、たとえ甲第3号証に金属基板とパターニングされた金属箔との間に絶縁層が積層され、当該絶縁層が絶縁性樹脂とセラミック粒子とを含んだものが記載されているとしても、かかる技術事項を甲2発明に適用する動機がない。
したがって、甲2発明において相違点1及び2に係る構成を導き出すことはできない。
よって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2及び3について
請求項2及び3は、請求項1を引用する請求項であり、本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2及び3は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、本件の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし3に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700315