特許異議申立
2023-700310
金属ベース基板
- 審判番号
- 2023-700310
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-134789
- 登録番号
- 7147313
- 請求日
- 2023年03月24日
- 審決日
- 2023年06月19日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三菱マテリアル株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】寺本 光生
- 【権利者代理人】細川 文広
- 【権利者代理人】大浪 一徳
- 【異議申立人】古川 慎二
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 井上 信一
- 審判官 篠原 功一
- 分類
- P1651.113-Y (H05K) / P1651.121-Y (H05K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7147313号発明「金属ベース基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7147313号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7147313号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成30年7月18日に出願され、令和4年9月27日にその特許権の設定登録がなされ、同年10月5日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1ないし5に係る特許に対して、令和5年3月24日に特許異議申立人 古川 慎二により特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件特許
特許第7147313号の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5にそれぞれ記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
金属基板と、絶縁層と、回路層とがこの順で積層された金属ベース基板であって、
前記絶縁層は、樹脂を含み、
前記回路層は、膜厚が10μm以上1000μm以下の範囲内にあって、単位がμmで表される平均結晶粒径と単位が質量%で表される純度とが下記の式(1)を満足することを特徴とする金属ベース基板。
平均結晶粒径/(100-純度)>5・・・(1)
【請求項2】
前記回路層は、前記平均結晶粒径と前記純度とが下記の式(2)を満足することを特徴とする請求項1に記載の金属ベース基板。
平均結晶粒径/(100-純度)>20・・・(2)
【請求項3】
前記回路層は、前記平均結晶粒径が0.3μm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属ベース基板。
【請求項4】
前記回路層は、前記純度が99.99質量%以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の金属ベース基板。
【請求項5】
前記回路層は、アルミニウムからなることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の金属ベース基板。」
第3 申立理由の概要
1.申立理由1(新規性)
請求項1ないし4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2.申立理由2(進歩性)
請求項1ないし5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
3.申立理由3(進歩性)
請求項1ないし5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第1号証:特開2009-289312号公報
甲第2号証:間瀬一夫,“銅箔”,サーキットテクノロジ,1993年,Vol.8,No.3,p.234-242
甲第3号証:特開2011-249606号公報
甲第4号証:特開平8-139420号公報
第4 甲第1号証ないし甲第4号証の記載事項
1.甲第1号証
甲第1号証(特開2009-289312号公報)には、「配線一体型サスペンション」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項1】
電解銅箔により形成された銅箔層、ポリイミド樹脂層及びステンレス箔層が、この順で積層された金属張積層体であって、
前記銅箔層を構成する銅の結晶粒における粒径の平均値が0.5μm~3.0μmの範囲内にあり、
且つ前記結晶粒の中に、柱形をなす柱状粒が存在し、前記柱状粒における短径が2.0μm以下で、前記短径に対する長径の比が2以上9以下の範囲内にあり、
前記柱状粒における長径方向と、前記銅箔層の面方向とのなす角度が70°以上90°以下(又は90°以上110°以下)の範囲内であることを特徴とする金属張積層体。
・・・・(中 略)・・・・
【請求項6】
前記銅箔層の厚みが5~50μmの範囲内にあり、前記ポリイミド樹脂層の厚みが5~75μmの範囲内にあり、前記ステンレス箔層の厚みが10~50μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の金属張積層体。【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の金属張積層体からなることを特徴とするHDDサスペンション用金属張積層体。
【請求項8】
請求項7に記載のHDDサスペンション用金属張積層体を加工して得られることを特徴とする配線一体型HDDサスペンション。」
(2)「【0019】
本発明の金属張積層体は、電解銅箔により形成された銅箔層が柱状粒を有する特定の結晶構造を有していることにより、配線形成をした場合の十分な強度(例えば超音波耐性)と共に、エッチング時のアンダーカットの発生が少ない良好なエッチング特性を備えている。従って、この金属張積層体をHDDサスペンション用途に適用することにより、配線の微細回路化における細線の断線、例えばフライングリード状の配線の断線、の発生を効果的に防止・抑制できるとともに、エッチングの際のアンダーカットの生成を抑制できる。・・・・(以下、略)」
(3)「【0023】
本実施の形態の金属張積層体は、銅箔層、ポリイミド樹脂層及びステンレス箔層の順で積層されている。
【0024】
本実施の形態の金属張積層体における銅箔層は電解銅箔により形成されている。電解銅箔は、公知の方法に従い、硫酸銅を主成分とする電解液から電気分解によって銅箔を析出させることにより製造することが可能である。本発明の金属張積層体の銅箔層を構成する結晶粒における粒径の平均値(以下、「平均結晶粒径」という)は、0.5μm~3.0μmの範囲内、好ましくは0.5μm~2.5μmの範囲内、さらに好ましくは0.5μm~2.0μmの範囲内にあることがよい。本発明では、フライングリードを形成したときの配線(銅箔由来)の超音波耐性を向上させる検討を行う中で、銅箔の結晶粒に着目した。結晶粒の各々は単位セル構造とみなすことができる。この独立した単位セル構造は、超音波のキャビテーション効果による銅箔への衝撃によって生じる亀裂進展の障壁となり得る。したがって、単位面積あたりの単位セル構造は多い方が好ましく、言い換えれば平均結晶粒径が小さい方が好ましい。このような観点から平均結晶粒径を上記範囲に特定した。なお、本発明において定義する銅箔の平均結晶粒径は、後記実施例に記載する方法により得られる値をいう。」
(4)「【0032】
電解銅箔は、導体層として高導電率であるという利点に加えて、その厚みも自由に設定できるので有利である。銅箔層の厚みは5~50μmの範囲内が好ましく、より好ましくは7~30μmの範囲内、更に好ましくは8~12μmの範囲内とすることがよい。電解銅箔は高導電性のものが多く、特に、銅箔層の厚みが5~10μmの範囲内にある場合に生じる傾向にある電気抵抗による熱発散を低く抑えることができ、この結果としてインピータンスを制御しやすい。」
(5)「【0075】
実施例1
合成例1で得たポリイミド前駆体樹脂溶液Aを、ステンレス箔1(新日本製鐵株式会社製、SUS304、H-TA、厚み20μm、CTE17×10-6/K)にイミド化後の厚みが2μmとなるようにアプリケータを用いて塗布し、130℃で5分間乾燥した後、さらにその上に合成例2で得たポリイミド前駆体樹脂溶液Bを、イミド化後の厚みが25μmとなるように塗布し、130℃で5分間乾燥して、ポリアミド酸層を形成した。このポリアミド酸層の上に、合成例3で得たポリイミド前駆体樹脂液Cを、イミド化後の厚みが2μmとなるように塗布し、130℃で5分間乾燥し、15分かけて360℃まで昇温させてイミド化を完了し、ステンレス箔、ポリイミド樹脂層で構成されるポリイミド積層体1を得た。
得られたポリイミド積層体1の樹脂層側と、銅箔1(三井金属鉱業株式会社製、NS-VLP箔、銅箔厚み9μm、導電率100%、熱圧着前の平均結晶粒径1.2μm、SIMSによる炭素ピーク強度8.3、樹脂層側の表面粗度Rz1.0μm)とを重ね合わせ、真空プレス機を用いて、面圧150kgf/cm2、温度320℃、プレス時間100分の条件で熱圧着することで、金属張積層体1を得た。得られた金属張積層体1について、銅箔層の引張強度及び結晶粒を評価した。また、ポリイミド樹脂層としての線熱膨張係数及びそれぞれの金属箔層との接着強度を測定した。結果を表1に示す。
・・・・(中 略)・・・・
【0080】
配線一体型サスペンションは、上記フライングリード積層体の製造と同様の方法で作製した。まず、金属張積層体1のステンレス箔層及び銅箔層上の両方の面に所定のレジストパターンを形成した。ここで、銅箔層の上には50μmピッチ{配線幅/配線間隔(L/S)=20/30}のレジストパターンを形成した。次に、塩化第二鉄水溶液を用いてステンレス箔と銅箔層を同時にエッチングして、それぞれの層を所定の形状とし、その後レジストを剥離することで、金属エッチング積層体1を得た。この積層体に所定の絶縁層加工レジストパターンを形成し、ポリイミドエッチング液にてポリイミド樹脂層をエッチングし、所定の形状とした後、絶縁層加工レジストパターンを剥離し、配線一体型サスペンション1を得た。このサスペンション1における配線部の腐食係数を算出した。結果を表1に示す。銅箔層のエッチング形状は良好であり、またサスペンション1は実用上問題となるような反りやうねりの発生は認められなかった。」
(6)「【0103】
[図:0001399418000001.jpg]
」
上記(1)ないし(6)から以下のことがいえる。
・甲第1号証に記載の「配線一体型サスペンション」は、上記(1)、(3)、(5)の記載によれば、電解銅箔により形成された銅箔層、ポリイミド樹脂層及びステンレス箔層が、この順で積層された金属張積層体を加工して得られるものであり、上記(2)、(3)、(5)の記載によれば、金属張積層体の加工(エッチング)によって銅箔層は配線形成されると解される。
・上記(1)の【請求項1】、(3)の記載によれば、銅箔層を構成する結晶粒の平均結晶粒径は0.5μm~3.0μmの範囲内にあり、上記(6)の表1によると、実施例1では1.7μmである。
・上記(1)の【請求項6】、(4)の記載によれば、銅箔層の厚みは5~50μmの範囲内にあり、上記(5)の記載によれば、実施例1では9μmである。
以上のことから、特に実施例1に係るものに着目し、上記記載事項を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「電解銅箔からなり配線形成された銅箔層、ポリイミド樹脂層及びステンレス箔層が、この順で積層された配線一体型サスペンションであって、
前記銅箔層は、厚みが9μmであり、
前記銅箔層を構成する結晶粒の平均結晶粒径は1.7μmである配線一体型サスペンション。」
2.甲第2号証
甲第2号証(間瀬一夫,“銅箔”,サーキットテクノロジ,1993年,Vol.8,No.3,p.234-242)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「1.1 日本工業規格の定義
JIS C 5603-1987プリント配線板用語は次のような定義をしている。
・銅箔:絶縁基板の片面または両面を覆い、導体パターンを形成するための銅の箔。
・銅張積層板:片面または両面を銅箔で覆ったプリント配線板用の積層板。
・プリント配線:回路設計に基づいて、部品間を接続するために導体パターンを絶縁基板の表面または表面とその内部に、プリントによって形成する配線またはその技術。
これらの定義を総合して理解されるように、銅箔はプリント配線板の導体を構成する基礎的な材料である。現在行われている最も一般的なプリント配線板は、銅箔と絶縁基板を張り合わせた銅張積層板に導体パターンをプリントし、不要部分をエッチングで除去して形成される。」(234頁左欄)
(2)「4.4 純度
銅箔は99.8%以上の純度をもつものとする。」(238頁左欄)
上記(1)及び(2)の記載を総合勘案すると、甲第2号証には、次の技術事項が記載されている。
「銅箔と絶縁基板を張り合わせた銅張積層板における銅箔に導体パターンを形成してなるプリント配線板において、銅箔の純度は99.8%以上であること。」
3.甲第3号証
甲第3号証(特開2011-249606号公報)には、「金属ベース回路基板」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項1】
金属基板と、
前記金属基板上に設けられ、液晶ポリエステルと50体積%以上の無機充填材とを含有し、前記無機充填材は窒化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方と窒化硼素とからなり、前記無機充填材に占める前記窒化硼素の割合は35乃至80体積%の範囲内にある絶縁層と、
前記絶縁層上に設けられた金属箔と
を具備した回路基板用積層板。
・・・・(中 略)・・・・
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の回路基板用積層板の前記金属箔をパターニングすることによって得られる金属ベース回路基板。」
(2)「【0014】
上記の通り、本発明者らは、液晶ポリエステルと無機充填材とを含んだ樹脂組成物を使用すると、絶縁層に占める無機充填材の割合を高めた場合に、必ずしも期待されるほどの性能を達成できない可能性があることを見出している。本発明者らは、その理由について鋭意検討した結果、液晶ポリエステルはエポキシ樹脂などの他の樹脂と比較して高粘度であるため、液晶ポリエステル溶液と無機充填材とを含んだ分散液は気泡を含み易く、この分散液から得られる塗膜から気泡を十分に除去することは難しいことを見出した。そして、本発明者らは、この塗膜から得られる絶縁層の気孔率が、回路基板用積層板及びこれから得られる金属ベース回路基板の性能、特には耐電圧に大きな影響を及ぼすことを見出した。
【0015】
そして、本発明者らは、無機充填材の少なくとも一部として窒化硼素を使用することによって絶縁層の気孔率を低減できることを見出した。更に、本発明者らは、無機充填材として窒化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方と窒化硼素との組み合わせを使用し且つ無機充填材に占める窒化硼素の割合を所定の範囲内とすると、十分なピール強度と、高い耐電圧と、低い熱抵抗とを同時に達成できることを見出した。本発明は、以上の知見に基いて発明されたものである。」
(3)「【0080】
金属箔4は、例えば、単体金属又は合金からなる。金属箔4の材料としては、例えば、銅又はアルミニウムを使用することができる。金属箔4の厚さは、例えば、10乃至500μmの範囲内にある。」
(4)「【0093】
次に、上述した回路基板用積層板1から得られる金属ベース回路基板1’について説明する。
図3は、図1及び図2に示す回路基板用積層板1から得られる金属ベース回路基板1’の一例を概略的に示す断面図である。
【0094】
図3に示す金属ベース回路基板1’は、金属基板2と、絶縁層3と、回路パターン4’とを含んでいる。回路パターン4’は、図1及び図2を参照しながら説明した回路基板用積層板1の金属箔4をパターニングすることにより得られる。このパターニングは、例えば、金属箔4の上にマスクパターンを形成し、金属箔4の露出部をエッチングによって除去することにより得られる。金属ベース回路基板1’は、例えば、先の回路基板用積層板1の金属箔4に対して上記のパターニングを行い、必要に応じて、切断及び穴あけ加工などの加工を行うことにより得ることができる。
【0095】
この金属ベース回路基板1’は、上述した回路基板用積層板1から得られるので、放熱性及び耐熱性に優れている。加えて、この金属ベース回路基板1’は、絶縁層3に占める無機充填材の割合が高いにも拘らず、回路パターン4’は十分なピール強度を有している。」
(5)「【図3】
[図:0001399418000002.jpg]
」
上記(1)ないし(5)から以下のことがいえる。
・甲第1号証に記載の「金属ベース回路基板」は、上記(1)、(4)の記載、及び(5)の図3によれば、金属基板と、金属基板上に設けられた絶縁層と、絶縁層上に設けられパターニングされた金属箔からなる回路パターンとを具備するものである。
・上記(1)、(2)の記載によれば、絶縁層は、十分なピール強度と、高い耐電圧と、低い熱抵抗とを同時に達成するために、液晶ポリエステルと、窒化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方と所定割合の窒化硼素とからなる無機充填材とを含有するようにしてなるものである。
・上記(3)の記載によれば、金属箔は、厚さが10乃至500μmの範囲内にあり、当該金属箔をパターニングして得られる回路パターンについても同様の厚さであると解される。
以上のことから、上記記載事項を総合勘案すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
「金属基板と、前記金属基板上に設けられた絶縁層と、前記絶縁層上に設けられパターニングされた金属箔からなる回路パターンとを具備した金属ベース回路基板において、
前記絶縁層は、十分なピール強度と、高い耐電圧と、低い熱抵抗とを同時に達成するために、液晶ポリエステルと、窒化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方と所定割合の窒化硼素とからなる無機充填材とを含有し、
前記回路パターンは、厚さが10乃至500μmの範囲内にある金属ベース回路基板。」
4.甲第4号証
甲第4号証(特開平8-139420号公報)には、「回路基板」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項1】 セラミック基板の表面に銅回路が形成されてなるものであるか、又は該銅回路と共にセラミック基板の裏面に放熱銅板が形成されてなるものであって、上記銅回路と上記放熱銅板の銅の平均結晶粒子径が400μm以上で平均サブ粒界密度が20mm/mm2以下であることを特徴とする回路基板。」
(2)「【0007】本発明者らは、以上の問題を解消するために銅結晶の微構造に着目して種々検討した結果、銅の平均結晶粒子径とサブ粒界と呼ばれる欠陥密度とを制御することによって銅の降伏強度を低下させることができ、このような銅によって回路基板の回路部分又は放熱板を形成させると、回路基板の反り、耐久性、抗接強度等が改善され高信頼性の回路基板が得られることを見いだし、本発明を完成させたものである。」
(3)「【0017】銅の結晶粒子は、上記加熱接合によって大きくなるので接合前の銅板の結晶粒子の大きさには特別な配慮を払う必要はないが、不純物が多く含まれていると粒成長を阻害するので、本発明においては無酸素銅板等のように不純物の少ない銅板を使用することが好ましい。」
(4)「【0026】
【実施例】以下、本発明を実施例と比較例をあげて具体的に説明する。
・・・・(中 略)・・・・
【0029】ろう材ペーストの塗布された窒化アルミニウム基板の表裏両面に、銅の平均結晶粒子径と平均サブ粒界密度及び厚みの異なる各種の無酸素銅板を接触配置してから、真空度1×10-5Torr以下の真空下、温度900℃で30分加熱した後、1.6℃/分の降温速度で冷却を開始し、500~700℃の温度域を6時間で降下させてから1.0℃/分の速度で冷却して接合体を製造した。
【0030】接合体の銅板上にUV効果タイプのエッチングレジストをスクリーン印刷で塗布後、塩化第2銅溶液を用いてエッチング処理を行い図1に示される形状の銅回路及び図2に示される形状の放熱銅板を形成させ、更にエッチングレジストを5%苛性ソーダ溶液で剥離した。このエッチング処理後の基板には、銅回路間等に残留不要ろう材や活性金属成分と窒化アルミニウム基板との反応物があるので、それを除去するため、温度60℃、10%フッ化アンモニウム溶液に10分間浸漬して表1に示す回路基板を製作した。
・・・・(中 略)・・・・
【0032】
【表1】
[図:0001399418000003.jpg]
」
特に実施例に係るものに着目し、上記(1)ないし(4)の記載及び図面を総合勘案すると、甲第4号証には、次の技術事項が記載されている。
「セラミックス基板の表面に銅回路が形成されるとともに裏面に放熱銅板が形成された回路基板において、
上記銅回路及び上記放熱銅板には無酸素銅板が用いられ、
回路基板の反り、耐久性、抗接強度等を改善するために、上記銅回路及び上記放熱銅板の銅の平均結晶粒径を500μm~800μmとし、平均サブ粒界密度を14~18mm/mm2としたこと。」
第5 当審の判断
1.申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)金属ベース基板について
甲1発明における「配線一体型サスペンション」は、電解銅箔からなり配線形成された銅箔層、ポリイミド樹脂層及びステンレス箔層が、この順で積層されたものであるところ、甲1発明における「ステンレス箔層」は、その上面にポリイミド樹脂層を介して銅箔層からなる配線が形成された板状の金属部材であることから、本件発明1でいう「金属基板」に相当するとみることができる。また、甲1発明における「ポリイミド樹脂層」、電解銅箔からなり「配線形成された銅箔層」は、それぞれ本件発明1でいう「絶縁層」、「回路層」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「金属基板と、絶縁層と、回路層とがこの順で積層された金属ベース基板」である点で一致するといえる。
(イ)絶縁層について
甲1発明における「ポリイミド樹脂層」は樹脂からなるものである。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「前記絶縁層は、樹脂を含」むものである点で一致する。
(ウ)回路層について
まず、その膜厚が、本件発明1では「10μm以上1000μm以下」の範囲内にあるのに対し、甲1発明では9μmである点で相違する。
さらに、本件発明1では「単位がμmで表される平均結晶粒径と単位が質量%で表される純度とが下記の式(1)を満足する」ことを特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定を有していない点でも相違する。
平均結晶粒径/(100-純度)>5・・・(1)
よって、上記(ア)ないし(ウ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「金属基板と、絶縁層と、回路層とがこの順で積層された金属ベース基板であって、
前記絶縁層は、樹脂を含むことを特徴とする金属ベース基板。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
回路層の膜厚について、本件発明1では「10μm以上1000μm以下」の範囲内にあるのに対し、甲1発明では9μmである点。
[相違点2]
回路層について、本件発明1では「単位がμmで表される平均結晶粒径と単位が質量%で表される純度とが下記の式(1)を満足する」ことを特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定を有していない点。
平均結晶粒径/(100-純度)>5・・・(1)
イ.判断
上記のとおり、相違点があるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
次に、事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
甲1発明における「配線形成された銅箔層」は、その結晶粒の平均結晶粒径が1.7μmであるが、その純度についての特定はなく、式(1)を満足するか否かは不明である。
ここで、特許異議申立人は特許異議申立書において、甲第2号証に記載のとおり、当該分野で使用の銅箔の純度は99.8%以上であることから、甲第1号証の実施例1で使用する銅箔は式(1)の左辺の値が1.7/(100-99.8)=8.5以上となり、式(1)を満たす旨主張している。
しかしながら、甲第2号証には「銅箔と絶縁基板を張り合わせた銅張積層板における銅箔に導体パターンを形成してなるプリント配線板において、銅箔の純度は99.8%以上である」技術事項が記載されているところ(上記「第4 2.」を参照)、甲1発明に係る「配線一体型サスペンション」はHDDのサスペンション用途のものであって、ステンレス箔層を基板(ベース)とするものであり、基板(ベース)が絶縁基板であるプリント配線板ではないから、甲第2号証を根拠に甲1発明における銅箔層の純度が99.8%以上であるとまではいえない。そしてさらに言えば、本件発明1における式(1)の左辺における分子が「平均結晶粒径」であること、及び本件特許明細書の段落【0032】に「回路層40を構成する金属は、平均結晶粒径が大きくなるにしたがって、転位のすべりを抑制する結晶粒界が減少するため、金属結晶粒同士がすべりやすくなる傾向がある。このため、回路層40は、平均結晶粒径が大きくなるにしたがって、変形しやすくなる。回路層40をより確実に変形しやすくするためには、回路層40の平均結晶粒径は、0.3μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましく、20μm以上1000μm以下の範囲にあることが特に好ましい。」と記載されていることからして、本件発明1は回路層の平均結晶粒径は大きいほどよいとするものであるのに対し、甲1発明は、甲第1号証の段落【0024】に「・・この独立した単位セル構造は、超音波のキャビテーション効果による銅箔への衝撃によって生じる亀裂進展の障壁となり得る。したがって、単位面積あたりの単位セル構造は多い方が好ましく、言い換えれば平均結晶粒径が小さい方が好ましい。」と記載されているように銅箔層の平均結晶粒径は本件発明1とは逆に小さいほどよいとするものであることも踏まえると、甲1発明における銅箔層について、式(1)を満たすものとすること、すなわち相違点2に係る構成を導き出すことはできない。
よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2ないし5について
請求項2ないし5は、請求項1を引用する請求項であり、本件発明2ないし5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし4は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、本件発明2ないし5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。
また、本件の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということもできない。
2.申立理由3(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)金属ベース基板について
甲3発明における「金属ベース回路基板」は、金属基板と、前記金属基板上に設けられた絶縁層と、前記絶縁層上に設けられパターニングされた金属箔からなる回路パターンとを具備するものであるところ、甲3発明における「金属基板」、「絶縁層」、パターニングされた金属箔からなる「回路パターン」、これらを具備する「金属ベース回路基板」は、それぞれ本件発明1でいう「金属基板」、「絶縁層」、「回路層」、これらがこの順で積層された「金属ペース基板」に相当する。
よって、本件発明1と甲3発明とは、「金属基板と、絶縁層と、回路層とがこの順で積層された金属ベース基板」である点で一致する。
(イ)絶縁層について
甲3発明における「絶縁層」は、液晶ポリエステルと、窒化アルミニウム及び酸化アルミニウムの少なくとも一方と所定割合の窒化硼素とからなる無機充填材とを含有するものであるところ、このうちの「液晶ポリエステル」は樹脂である。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、「前記絶縁層は、樹脂を含」むものである点で一致する。
(ウ)回路層について
甲3発明における「回路パターン」の厚さは「10乃至500μm」であり、本件発明1で特定する「10μm以上1000μm以下」の範囲に含まれる。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、「前記回路層は、膜厚が10μm以上1000μm以下の範囲内」である点では一致する。
ただし、回路層について、本件発明1では「単位がμmで表される平均結晶粒径と単位が質量%で表される純度とが下記の式(1)を満足する」ことを特定するのに対し、甲3発明ではそのような特定を有していない点で相違する。
平均結晶粒径/(100-純度)>5・・・(1)
よって、上記(ア)ないし(ウ)によれば、本件発明1と甲3発明とは、
「金属基板と、絶縁層と、回路層とがこの順で積層された金属ベース基板であって、
前記絶縁層は、樹脂を含み、
前記回路層は、膜厚が10μm以上1000μm以下の範囲内にあることを特徴とする金属ベース基板。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
回路層について、本件発明1では「単位がμmで表される平均結晶粒径と単位が質量%で表される純度とが下記の式(1)を満足する」ことを特定するのに対し、甲3発明ではそのような特定を有していない点。
平均結晶粒径/(100-純度)>5・・・(1)
イ.判断
上記相違点について検討する。
甲第4号証には「セラミックス基板の表面に銅回路が形成されるとともに裏面に放熱銅板が形成された回路基板において、上記銅回路及び上記放熱銅板には無酸素銅板が用いられ、回路基板の反り、耐久性、抗接強度等を改善するために、上記銅回路及び上記放熱銅板の銅の平均結晶粒径を500~800μmとし、平均サブ粒界密度を14~18mm/mm2とした」技術事項が記載されている(上記「第4 4.」を参照)。ここで、無酸素銅板(JIS C1020)は通常、純度が99.96%以上である。したがって、甲第4号証に記載の回路基板における銅回路は式(1)の左辺の値が500/(100-99.96)=12500以上となり、式(1)を満たす。
しかしながら、甲3発明は基板が金属基板であり、当該金属基板と回路パターンとの間に絶縁層を備えた金属ベース基板に係るものであるのに対し、上記甲第4号証に記載の回路基板は、基板がセラミックス基板であって、「金属ベース」基板に係るものではなく、そもそも「絶縁層」を設ける必要性もないものである。そして、かかる構成上の違いに関連して解決しようとする課題も相違しており、甲3発明は、甲第4号証に記載のもののように回路基板の反りの改善などを解決すべき課題として含んでいるとは必ずしもいえない。
してみると、たとえ甲第4号証に銅回路として式(1)を満たす平均結晶粒径の値と純度とを有するものが記載されているとしても、かかる技術事項を甲3発明に適用すべき動機があるとまではいえない。
したがって、甲1発明において相違点る構成を導き出すことはできない。
よって、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2ないし5について
請求項2ないし5は、請求項1を引用する請求項であり、本件発明2ないし5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし5は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項1ないし5に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700310