特許異議申立
2023-700307
電気化学素子、電気化学モジュール、固体酸化物形燃料電池、および製造方法
- 審判番号
- 2023-700307
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-510265
- 登録番号
- 7145844
- 請求日
- 2023年03月23日
- 審決日
- 2024年08月30日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大阪瓦斯株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人R&C
- 【異議申立人】馬場 資博
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 池渕 立
- 審判官 相澤 啓祐
- 分類
- P1651.537-YAA(H01M) / P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7145844号発明「電気化学素子、電気化学モジュール、固体酸化物形燃料電池、および製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7145844号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~18〕について訂正することを認める。
特許第7145844号の請求項1~10、12~18に係る特許を維持する。
特許第7145844号の請求項11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7145844号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~18に係る特許についての出願(特願2019-510265号。以下、「本願」という。)は、2018年(平成30年) 3月30日(優先権主張 平成29年 3月31日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和 4年 9月22日にその特許権の設定登録がされ、同年10月 3日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~18(全請求項)に係る特許について、令和 5年 3月23日差出で特許異議申立人である馬場資博(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 5年 3月23日差出 特許異議申立書
6月 5日付け 取消理由通知書
8月 2日提出 意見書、訂正請求書
10月 6日差出 意見書(申立人)
6年 1月15日付け 取消理由通知書(決定の予告)
3月18日提出 意見書、訂正請求書
5月13日提出 意見書(申立人)
なお、令和 5年 8月 2日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。
第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨
令和6年 3月18日提出の訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)によって特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、特許第7145844号の明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~18について訂正することを求める、というものである。
2 訂正事項
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は以下の訂正事項を含む。なお、訂正箇所には下線を付した。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「 電極層を有する電気化学素子であって、
前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、
前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、
前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、
前記小粒子および前記大粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質である電気化学素子。」と記載されているのを、
「 電極層及び電解質層を有する電気化学素子であって、
前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有し、
前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、
前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、
前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、
前記小粒子および前記大粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質である電気化学素子。」と訂正する。
請求項1を引用する請求項2~4、7~10、12~18も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に
「 電極層を有する電気化学素子であって、
前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、
前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、
前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、
前記小粒子と前記大粒子が、それぞれ別の材料からなり、
前記小粒子および前記大粒子の少なくともいずれか一方が、セリア系酸化物、ジルコニア系酸化物及びペロブスカイト型複合酸化物の少なくともいずれかである電気化学素子。」と記載されているのを、
「 電極層及び電解質層を有する電気化学素子であって、
前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有し、
前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、
前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、
前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、
前記小粒子と前記大粒子が、それぞれ別の材料からなり、
前記小粒子および前記大粒子の少なくともいずれか一方が、セリア系酸化物、ジルコニア系酸化物及びペロブスカイト型複合酸化物の少なくともいずれかである電気化学素子。」と訂正する。
請求項5を引用する請求項7~10、12~18も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に
「 電極層を有する電気化学素子であって、
前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、
前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、
前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、
前記大粒子がペロブスカイト型複合酸化物である電気化学素子。」と記載されているのを、
「 電極層及び電解質層を有する電気化学素子であって、
前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有し、
前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、
前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、
前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、
前記大粒子がペロブスカイト型複合酸化物である電気化学素子。」と訂正する。
請求項6を引用する請求項7~10、12~18も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項10に
「電解質層を有し、前記電極層は、」と記載されているのを、
「前記電極層は、」と訂正する。
請求項10を引用する請求項12~18も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項11を削除する。
(6)訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項12に
「電解質層を有し、前記電解質層に対して」と記載されているのを、
「前記電解質層に対して」と訂正するとともに、
「請求項1から11のいずれか1項に記載の電気化学素子。」と記載されているのを、
「請求項1から10のいずれか1項に記載の電気化学素子。」と訂正する。
請求項12を引用する請求項13~18も同様に訂正する。
(7)訂正事項7
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項13に
「請求項10から12のいずれか1項に記載の電気化学素子」と記載されているのを、
「請求項10又は12に記載の電気化学素子」と訂正する。
請求項13を引用する請求項14~18も同様に訂正する。
(8)訂正事項8
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項14に
「請求項1から13のいずれか1項に記載の電気化学素子。」と記載されているのを、
「請求項1から10、12及び13のいずれか1項に記載の電気化学素子。」と訂正する。
請求項14を引用する請求項15~18も同様に訂正する。
(9)訂正事項9
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項15に
「請求項1から14のいずれか1項に記載の電気化学素子。」と記載されているのを、
「請求項1から10及び12から14のいずれか1項に記載の電気化学素子。」と訂正する。
請求項15を引用する請求項16~18も同様に訂正する。
(10)訂正事項10
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項16に
「請求項1から15のいずれか1項に記載の電気化学素子」と記載されているのを、
「請求項1から10及び12から15のいずれか1項に記載の電気化学素子」と訂正する。
請求項16を引用する請求項17~18も同様に訂正する。
(11)訂正事項11
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項17に
「請求項1から15のいずれか1項に記載の電気化学素子」と記載されているのを、
「請求項1から10及び12から15のいずれか1項に記載の電気化学素子」と訂正する。
請求項17を引用する請求項18も同様に訂正する。
(12)訂正事項12
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項18に
「請求項1から15のいずれか1項に記載の電気化学素子」と記載されているのを、
「請求項1から10及び12から15のいずれか1項に記載の電気化学素子」と訂正する。
(13)訂正事項13
本件訂正前の、願書に添付した明細書の段落【0006】に
「上記目的を達成するための電気化学素子の特徴構成は、
電極層を有する電気化学素子であって、
前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、
前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、
前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、
前記小粒子および前記大粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質である点にある。」と記載されているのを、
「上記目的を達成するための電気化学素子の特徴構成は、
電極層及び電解質層を有する電気化学素子であって、
前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有し、
前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、
前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、
前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、
前記小粒子および前記大粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質である点にある。」と訂正する。
(14)訂正事項14
本件訂正前の、願書に添付した明細書の段落【0010】に
「前記小粒子および前記大粒子の少なくともいずれか一方がセリア系酸化物であると、前記電極層が、高い酸化物イオン導電性をもつ相を有する、高性能な電極層となるため、好適である。
また、電極層を有する電気化学素子において、前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、前記小粒子と前記大粒子が、それぞれ別の材料からなり、前記小粒子および前記大粒子の少なくともいずれか一方が、セリア系酸化物、ジルコニア系酸化物及びペロブスカイト型複合酸化物の少なくともいずれかであってもよい。」と記載されているのを、
「前記小粒子および前記大粒子の少なくともいずれか一方がセリア系酸化物であると、前記電極層が、高い酸化物イオン導電性をもつ相を有する、高性能な電極層となるため、好適である。
また、電極層及び電解質層を有する電気化学素子において、前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、前記小粒子と前記大粒子が、それぞれ別の材料からなり、前記小粒子および前記大粒子の少なくともいずれか一方が、セリア系酸化物、ジルコニア系酸化物及びペロブスカイト型複合酸化物の少なくともいずれかであってもよい。
さらに、電極層及び電解質層を有する電気化学素子は、前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有していてもよい。このようにすると、電極層の成分が電解質層へ拡散するのを反応防止層において抑制でき、電気化学素子の性能を高く維持できるようになるので好ましい。」と訂正する。
(15)訂正事項15
願書に添付した明細書の段落【0019】を削除する。
3 本件訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「電極層を有する電気化学素子」が「電解質層」を有しており、さらに「前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有し」ていることを限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、また、本件訂正前の請求項11に記載された事項を追加するものであるから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5の「電極層を有する電気化学素子」が「電解質層」を有しており、さらに「前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有し」ていることを限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、また、本件訂正前の請求項11に記載された事項を追加するものであるから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6の「電極層を有する電気化学素子」が「電解質層」を有しており、さらに「前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有し」ていることを限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、また、本件訂正前の請求項11に記載された事項を追加するものであるから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
エ 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項1~3によって特許請求の範囲の請求項1、5、6に追加された「電解質層を有する」との記載が、当該請求項1、5、6を引用する請求項10における「電解質層を有し」という記載と重複することとなったため、請求項10から当該重複した記載を削除する訂正であるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
オ 訂正事項5について
訂正事項5は、請求項11を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、また、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
カ 訂正事項6について
訂正事項6のうち、「電解質層を有し、」を削除する訂正は、訂正事項1~3によって特許請求の範囲の請求項1、5、6に追加された「電解質層を有する」との記載が、当該請求項1、5、6を引用する請求項12における「電解質層を有し」という記載と重複することとなったため、請求項12から当該重複した記載を削除する訂正であるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
また、訂正事項6のうち、引用する請求項から請求項11を削除する訂正は、訂正事項5によって請求項11が削除されたことにともなって、請求項12が引用する請求項から請求項11を削除する訂正であるから、当該訂正は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、請求項11との引用関係を解消する訂正であるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものでもある。
そして、上記両訂正は、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
キ 訂正事項7~12について
訂正事項7~12は、訂正事項5によって請求項11が削除されたことにともなって、それぞれ、請求項13~18が引用する請求項から請求項11を削除する訂正であるから、これらいずれの訂正事項も、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、請求項11との引用関係を解消する訂正であるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものでもある。
そして、上記いずれの訂正事項も、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
ク 訂正事項13について
訂正事項13は、訂正事項1によって請求項1が訂正されたことにともなって、願書に添付した明細書の段落【0006】の記載を訂正後の請求項1の記載に整合させるものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
ケ 訂正事項14について
訂正事項14のうち「電解質層を有する」ことを追加する訂正は、訂正事項2によって請求項5が「電解質層を有する」点で訂正されたことにともなって、願書に添付した明細書の段落【0010】の記載を訂正後の請求項5の記載に整合させるものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
また、訂正事項14のうち「さらに、電極層及び電解質層を有する電気化学素子は、前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有していてもよい。このようにすると、電極層の成分が電解質層へ拡散するのを反応防止層において抑制でき、電気化学素子の性能を高く維持できるようになるので好ましい。」ことを追加する訂正は、訂正事項2によって請求項5が「前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有し、」を追加する点で訂正されたことにともなって、願書に添付した明細書の段落【0010】の記載を訂正後の請求項5の記載に整合させるとともに、「反応防止層」の機能に関する同明細書の段落【0019】の記載を追加したものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
コ 訂正事項15について
訂正事項15は、訂正事項14において、願書に添付した明細書の段落【0010】の記載を訂正したことにともなって、重複した記載となる同明細書の段落【0019】を削除したものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
サ 小括
訂正事項1~15は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明、又は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
また、訂正事項1~15はいずれも、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~4、7~18は、請求項1を引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~4、7~18は一群の請求項を構成するものであり、本件訂正前の請求項7~18は、請求項5を引用するものであって、請求項5の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項5、7~18は一群の請求項を構成するものであり、本件訂正前の請求項7~18は、請求項6を引用するものであって、請求項6の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項6~18は一群の請求項を構成するものであり、このとき、共通する請求項7~18を有するこれらの「一群の請求項」は組み合わされて、請求項1~18が1つの「一群の請求項」となる。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めはないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~18〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
さらに、本件訂正請求は、本願の願書に添付した明細書の訂正に係る請求項1、5、6を含む一群の請求項の全てについて行われたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
(3)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~15について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の要件は課されない。
4 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
したがって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~18〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~18に係る発明は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~18(以下、「本件請求項1~18」という。)に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本件請求項1~18に係る発明を「本件特許発明1」等といい、総称して「本件特許発明」ということがある。
「【請求項1】
電極層及び電解質層を有する電気化学素子であって、
前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有し、
前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、
前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、
前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、
前記小粒子および前記大粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質である電気化学素子。
【請求項2】
前記小粒子と前記大粒子が、それぞれ別の材料からなることを特徴とする、請求項1に記載の電気化学素子。
【請求項3】
前記小粒子および前記大粒子の少なくともいずれか一方が、セリア系酸化物、ジルコニア系酸化物及びペロブスカイト型複合酸化物の少なくともいずれかである請求項2に記載の電気化学素子。
【請求項4】
前記大粒子がペロブスカイト型複合酸化物である請求項1から3のいずれか1項に記載の電気化学素子。
【請求項5】
電極層及び電解質層を有する電気化学素子であって、
前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有し、
前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、
前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、
前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、
前記小粒子と前記大粒子が、それぞれ別の材料からなり、
前記小粒子および前記大粒子の少なくともいずれか一方が、セリア系酸化物、ジルコニア系酸化物及びペロブスカイト型複合酸化物の少なくともいずれかである電気化学素子。
【請求項6】
電極層及び電解質層を有する電気化学素子であって、
前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有し、
前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、
前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、
前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、
前記大粒子がペロブスカイト型複合酸化物である電気化学素子。
【請求項7】
前記電極層に含有される前記大粒子のうち、5割以上の大粒子が、長手方向の長さを短手方向の長さで除したアスペクト比が2以上である請求項1から6のいずれか1項に記載の電気化学素子。
【請求項8】
前記電極層の気孔率が20%以上40%以下である請求項1から7のいずれか1項に記載の電気化学素子。
【請求項9】
前記電極層が複数の層を有して構成される請求項1から8のいずれか1項に記載の電気化学素子。
【請求項10】
前記電極層は、第1層と、前記第1層よりも前記電解質層に近い第2層とを有し、前記第1層における前記大粒子の含有率は、前記第2層における前記大粒子の含有率よりも大きい請求項1から9のいずれか1項に記載の電気化学素子。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
前記電解質層に対して前記電極層と反対側に配置された対極電極層を有する請求項1から10のいずれか1項に記載の電気化学素子。
【請求項13】
前記電極層の前記電解質層とは逆の面に、電子導電性を有する集電層を有する請求項10又は12のいずれか1項に記載の電気化学素子。
【請求項14】
前記電極層が空気極層である請求項1から10、12及び13のいずれか1項に記載の電気化学素子。
【請求項15】
金属支持体に支持されることを特徴とする請求項1から10及び12から14のいずれか1項に記載の電気化学素子。
【請求項16】
請求項1から10及び12から15のいずれか1項に記載の電気化学素子が複数集合した状態で配置される電気化学モジュール。
【請求項17】
請求項1から10及び12から15のいずれか1項に記載の電気化学素子を備え、前記電気化学素子で発電反応を生じさせる固体酸化物形燃料電池。
【請求項18】
請求項1から10及び12から15のいずれか1項に記載の電気化学素子を製造する製造方法であって、前記電極層の焼成が800℃以上1100℃未満の温度で行われる、製造方法。」
第4 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先日前に公知となった下記の甲第1号証~甲第9号証を提出し、以下の理由により、本件請求項1~18に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。なお、ここ第4及び次の第5において、本件請求項1~18とは、本件訂正前の請求項1~18を意味する。
1 申立理由1(明確性、取消理由として一部採用)
(1)本件請求項1~18の「粒径」について
本件請求項1には「粒径が200nm以下」、「粒径が500nm以上」と粒径の範囲が特定されているところ、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)には当該粒径がどのような方法で算出したものであるかについて何ら記載されていない。一方、甲第8号証の【0035】に記載されているように、粒径の算出方法には様々な方法があり、そのいずれを採用するかによって同一の粒子に対して異なる粒径が算出されることになる。
したがって、粒径の範囲について様々な解釈が可能である本件請求項1に係る発明は明確であるとはいえない。
また、本件請求項1と同様の記載がある請求項5、6やこれら請求項を引用する請求項2~4、7~18についても同様である。
(2)本件請求項1~18における「小粒子」及び「大粒子」以外の粒子の存否について
本件請求項1には「前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり」と記載されているところ、請求項1に明示的に記載されていない、粒径200nm超500nm未満の粒子(以下、「中粒子」という。)が、請求項1に係る電気化学素子に含有されることが許容されるのか否か不明である。
したがって、中粒子が含有されるか不明である本件請求項1に係る発明は明確であるとはいえない。
また、本件請求項1と同様の記載がある請求項5、6やこれら請求項を引用する請求項2~4、7~18についても同様である。
(3)よって、本件請求項1~18の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(サポート要件、取消理由として不採用)
(1)本件特許の請求項に係る発明の課題は、本件明細書の段落【0004】、【0005】の記載によれば、高温域での焼成による粒成長を抑制することによって微粒子の電極を実現し、その結果、十分な三相界面長を有する高性能な電極を得ることであると認められる。
(2)そして、本件明細書の段落【0082】~【0092】と図5~6に記載された実施例によれば、第2電極層6が、粒径が200nm以下の小粒子と、粒径が500nm以上である大粒子とを含有するものであれば、当該第2電極層6を備えた電気化学素子Eを製造すると、所定の開回路電圧が測定され、所定の出力が得られることが確認された。
しかしながら、実施例のSEM写真である図5を確認すると、第2電極層6には、数個の大粒子と多数の小粒子とから構成された形態(以下、「形態1」という。)が示されるのみであり、大粒子と小粒子が同程度の個数だけ含有される形態(以下、「形態2」という。)や、多数の大粒子と小数の小粒子とから構成された形態(以下、「形態3」という。)であっても形態1と同様に上記課題が解決されるのか不明である。
(3)また、本件請求項1に係る発明の電気化学素子は、小粒子や大粒子が含まれる形態以外に、上記1で言及した中粒子も含まれる形態(以下、「形態4」という。)を含み得るが、形態4であっても形態1と同様に上記課題が解決されるのか不明である。
(4)したがって、形態1であることを特定しておらず、形態2や形態3、形態4を含み得る本件請求項1に係る発明はサポート要件を満たすものであるとはいえない。
また、同様の理由で、本件請求項2~18に係る発明もサポート要件を満たすものであるとはいえない。
(5)よって、本件請求項1~18の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(新規性、進歩性、取消理由として一部採用)
本件請求項1~6、11~12、14、17~18に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由4(進歩性、取消理由として不採用)
本件請求項7~10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第5号証、甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
5 申立理由5(新規性、進歩性、取消理由として不採用)
本件請求項1~6、11~12、14、16~18に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
6 申立理由6(進歩性、取消理由として不採用)
本件請求項8~10に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と甲第1号証、甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
7 申立理由7(新規性、進歩性、取消理由として不採用)
本件請求項1~6、11~14、16~17に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
8 申立理由8(進歩性、取消理由として不採用)
本件請求項8~10に係る発明は、甲第3号証に記載された発明と甲第1号証、甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
9 申立理由9(新規性、進歩性、取消理由として不採用)
本件請求項1~6、11~14、16~18に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
10 申立理由10(進歩性、取消理由として不採用)
本件請求項8~10、15に係る発明は、甲第4号証に記載された発明と甲第1号証、甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<証拠方法>
甲第1号証:特開2006-32132号公報
甲第2号証:特開2016-72037号公報
甲第3号証:特開2017-10709号公報
甲第4号証:特開2012-227142号公報
甲第5号証:特開2012-43801号公報
甲第6号証:特開2010-267631号公報
甲第7号証:特開2013-247006号公報
甲第8号証:特開2013-126651号公報
甲第9号証:特開2016-40323号公報
(以下、甲第1号証~甲第9号証を、それぞれ「甲1」~「甲9」という。)
第5 令和 5年 6月 5日付けで通知した取消理由の概要
1 取消理由1(明確性)
本件請求項1~18の記載は、「粒径」の測定方法が不明である点で、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 取消理由2(甲1を主たる引用例とする新規性・進歩性)
本件請求項1~6、12、14、17~18に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、また、本件請求項1~6、8、12~18に係る発明は、甲1に記載された発明と周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 令和 6年 1月15日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
1 取消理由3(明確性)
本件請求項1~18の記載は、令和 5年 8月 2日に提出された意見書の5.(4)の説明を参照しても、「粒径」の測定方法が依然として不明である点で、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。
したがって、本件請求項1~18の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
なお、この第6において、本件請求項1~18とは、令和 5年 8月 2日提出の訂正請求書によって訂正された特許請求の範囲の請求項1~18を意味する。
2 取消理由4(明確性、職権による)
令和 5年 8月 2日にされた訂正請求によって、請求項1、5、6に係る発明は、「(ただし、粒度がD10=0.285μm、D50=0.529μm、D90=1.021μmであるLSCF粉体の母粒子と、粒度がD10=0.169μm、D50=0.26μm、D90=0.554μmであるSDC粒子を混合して、粒度がD10=0.245μm、D50=0.44μm、D90=0.875μmである混合粉体とし、上記混合粉体を、他方の面に燃料極が形成された固体電解質の一方の面に塗布し、焼き付け温度900℃で4時間焼き付けることによって空気極が形成された特開2006-32132号公報に実施例2として記載されている電気化学素子を除く。)」との特定事項(以下、「除外事項」という。)を備えるものとなったが、上記除外事項において、「特開2006-32132号公報に実施例2として記載されている」との文言が何を意味するか不明であるため、請求項1、5、6に係る発明から何が除かれているか不明であるから、本件請求項1、5、6の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。また、これら請求項を引用する請求項2~4、7~18についても同様である。
したがって、本件の請求項1~18の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 取消理由5(甲1を主たる引用例とする進歩性)
本件請求項1~6、12~18に係る発明は、甲1に記載された発明と周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第7 当審の判断
1 取消理由1、3、4と申立理由1(明確性)について
(1)粒径について
ア 本件訂正前の請求項1、5、6に記載された「粒径」について
本件訂正前の請求項1、5、6には、小粒子について「粒径が200nm以下」、大粒子について「粒径が500nm以上」と粒径が特定されているところ、本件明細書にはこれら粒径の測定方法について何ら記載がないため、上記粒径がどのような測定方法によって算出されたものであるか不明であった。
イ 不明であると指摘した上記アの点について、令和 5年 8月 2日に提出された意見書の5.(4)において、本件特許発明の粒径は画像処理ソフトウエアImageJを用いて測定されたものであるとの説明がなされたが、ImageJによって測定される粒径は、例えば、
・粒子の平面視の形状を楕円で近似し、その楕円の短径を粒径とするもの(特開2023-027726号公報の段落【0015】参照。)、
・粒子の面積(A)を決定し、当該面積から
[図:0001417603000001.jpg]
によって算出する円相当面積粒径を粒径とするもの(特開2021-512036号公報の段落【0047】参照。)
など、複数の定義に基づいて算出することが可能であり、そのいずれの定義を採用するかによって、同一の粒子に対して異なる粒径が算出されるから、上記意見書の説明を参照しても、粒径の測定方法が依然として不明であることを、令和 6年 1月15日付け取消理由通知書(決定の予告)で指摘した。
ウ 依然として不明であると指摘された上記イの点について、令和 6年 3月18日に提出された意見書の5.(4)(4-1)において、本件特許発明の粒径は、本件明細書の段落【0092】に記載のとおり、電気化学素子の断面の電子顕微鏡写真(SEM画像)に写った粒子の粒径を測定したものであること、具体的には、米国国立衛生研究所(NIH)で開発されたオープンソースでパブリックドメインの画像処理ソフトウェアであるImageJを用いて測定したものであり、当該ImageJでは、上記SEM画像における粒子の面積Aを決定し、当該面積Aから、円相当面積粒径XC=(4A/π)1/2によって粒径が算出されたことが明らかになった。
エ そうすると、本件訂正後の請求項1、5、6とこれら請求項を引用する本件請求項2~4、7~10、12~18の記載は、粒径の測定方法が不明であるとはいえず、特許を受けようとする発明が明確であるから、特許法第36条第6項第2号に適合するものである。
(2)「小粒子」及び「大粒子」以外の粒子の存否について
ア 本件請求項1において、「前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し」と記載されているところ、当該記載によれば、電極層が小粒子と大粒子を含有することが特定されている一方で、小粒子と大粒子以外の粒子(以下、「中粒子」という。)について含有しないことが特定されていないため、電極層が中粒子を含有することが排除されていないものと解釈するのが相当である。
イ なお、この点について、本件明細書には、実施例として得られた電気化学素子Eの電子顕微鏡写真である図5と図6について、粒径が500nm以上の粒子(A51~A54、A61)の存在と多数の粒径200nm以下の粒子の存在が認められると記載されているところ(【0092】)、上記図6を参照すれば、上記電気化学素子Eは200nmよりも大きく500nmよりも小さい粒径の粒子を含有することが、次のとおり目視により直接確認することができる。
ウ 次に示す参考図は上記図6に、スケールバーと同じ長さである直径100nmの大きさの円を追加したものであり、電気化学素子Eは、粒径500nm以上の粒子であるA61及び多数の粒径200nm以下の粒子を含有することが確認できるところ、中粒子に該当する粒径300nmや粒径400nmの粒子を含有することも確認できる。
(参考図)
[図:0001417603000002.jpg]
エ そうすると、本件特許発明1の実施例である電気化学素子Eにおいて、電極層が小粒子と大粒子以外に中粒子を含有していることが確認できる点からも、本件請求項1の電極層は、小粒子と大粒子以外に中粒子を含有することが許容されていると解することが首肯される。
オ したがって、本件訂正後の請求項1、請求項1と同様の記載がある請求項5、6、さらにこれら請求項1、5、6を引用する本件請求項2~4、7~10、12~18の記載は、電極層が中粒子を含有し得るものである点について不明であるとはいえず、特許を受けようとする発明が明確であるから、特許法第36条第6項第2号に適合するものである。
(3)除外事項を含む発明について
ア 令和 6年 3月18日にされた訂正請求(本件訂正請求)によって、令和 5年 8月 2日にされた訂正請求(以下、「先の訂正請求」という。)は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされるから、先の訂正請求によって訂正された請求項1、5、6に含まれることになった除外事項において、意味が不明であると指摘した「特開2006-32132号公報に実施例2として記載されている」との文言が存在しないものとなった。
イ そうすると、本件請求項1、5、6とこれら請求項を引用する本件請求項2~4、7~10、12~18の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるから、特許法第36条第6項第2号に適合するものである。
(4)小括
以上のとおり、本件請求項1~10、12~18の記載は、特許を受けようとする発明が明確であり、特許法第36条第6項第2号に適合するものである。
したがって、取消理由1、3、4及び申立理由1によっては、本件特許の請求項1~10、12~18に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由2、5と申立理由3、4(甲1を主たる引用例とする新規性、進歩性)について
(1)甲1の記載事項
本願の優先日前に公知となった甲1には、「固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体、空気極及び固体電解質型燃料電池」(発明の名称)に関して、以下の記載がある(なお、下線は当審が付したものであり、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術のうち、特許文献1では、ペロブスカイト型複合酸化物粒子の粒度(平均粒径)を1μm以下と小さくして、固体電解質型燃料電池の分極を小さくしようとする点が記載されている。しかし、単に粒度(平均粒径)を小さくするだけでは空気極構造の微細化は不十分であり、空気極性能の向上には限界がある。
特許文献2では、平均結晶粒径が3.0μm以上と比較的大きく、また、空気極構造と分極との関係についても特に記載されていない。
特許文献3,4では、3~4μmのMn系ペロブスカイト型複合酸化物粒子の周囲を1μm程度のセリウム系材料が取り囲む構造であるため、構成粒子径が比較的大きく、空気極構造の微細化は不十分である。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、空気極の高性能化を実現するための空気極構造の微細化が可能となる空気極原料粉体、並びに、当該空気極原料粉体を用いて作製した空気極及び固体電解質型燃料電池を提供することにある。」
イ 「【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体の第一特徴構成は、一般式ABO3で表され、AがLa(ランタン)及び希土類元素の群から選ばれる1つ以上の元素と、Sr(ストロンチウム),Ca(カルシウム)及びBa(バリウム)の群から選ばれる1つ以上の元素とからなり、BがMn(マンガン),Co(コバルト),Fe(鉄),Ni(ニッケル)及びCu(銅)の群から選ばれる1つ以上の元素からなるペロブスカイト複合酸化物粉体であって、平均粒子径が1μm以下であり、且つ粒度分布の幅が所定範囲内に制限された点にある。
【0010】
上記組成のペロブスカイト複合酸化物粉体の平均粒子径が1μm以下と小さいと、当該粉体を空気極に形成した時に空気との接触面積が増加して空気中の酸素を取り込み易くなるとともに、酸素イオンを固体電解質に送る通路が増加して電極反応が活発化し、高い空気極性能が期待される。
同時に、粒度分布の幅を所定範囲内に制限することにより、上記ペロブスカイト複合酸化物粉体を焼成して空気極を形成するときの電極構造の不均一化による空気極性能の低下を回避させることが可能となる。すなわち、焼成温度を平均的な粒径の粒子に対して最適な温度に設定した場合、粒度分布の幅を所定範囲内に制限しなければ、大きい粒径の粒子では焼結性が弱くて粒子同士の結合が弱くなり、一方小さい粒径の粒子では焼結が進みすぎて密になる傾向にあり、その結果電極構造の不均一性が大きくなって空気極性能が低下する。本発明によれば、粒度分布の幅を上記のような各粉体粒子に対する焼結性の違いによる空気極構造の不均一化が抑制されるような範囲内に制限することが可能となる。
【0011】
従って、空気極の高性能化を実現するために不可欠な空気極構造の微細化と均一化が可能となる固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体が提供される。
【0012】
同第二特徴構成は、粒度分布の幅として、累積体積90%相当径D90と累積体積10%相当径D10の比D90/D10が所定値よりも小さい値に制限されるか、あるいは、累積体積90%相当径D90と累積体積50%相当径D50の比D90/D50が所定値より小さく、且つ累積体積50%相当径D50と累積体積10%相当径D10の比D50/D10が所定値より小さい値に制限された点にある。
【0013】
すなわち、粒度分布において粒径が大きい側の指標である累積体積90%相当径D90と、粒径が小さい側の指標である累積体積10%相当径D10を測定し、その比D90/D10を所定値よりも小さい値に制限するという簡単な処理によって、所望の粒度分布の幅に制限することができる。
あるいは、粒度分布において平均粒径に対応する累積体積50%相当径D50と、大きい側の指標である累積体積90%相当径D90と、粒径が小さい側の指標である累積体積10%相当径D10を測定し、累積体積50%相当径D50に対する累積体積90%相当径D90と累積体積10%相当径D10の各比D90/D50比、D50/D10を所定値よりも小さい値に制限するという簡単な処理によって、所望の粒度分布の幅に制限することができる。この場合、累積体積90%相当径D90と累積体積10%相当径D10の比D90/D10で粒度分布の幅を規定する場合に比べて、より正確な規定ができる。
…
【0016】
同第四特徴構成は、前記ペロブスカイト複合酸化物粉体に、安定化ジルコニア粉体及びドープセリア粉体のうち少なくとも一方を均質に混合した点にある。
【0017】
すなわち、安定化ジルコニア粉体又はドープセリア粉体、あるいはその両方を、前記のように粒度分布が制限されて極端な粗大粒子や微小粒子が少ない均一なペロブスカイト複合酸化物粉体に均質に混合させると、電極内部の場所による組成や構造のバラツキが少なく、均一性が高くより高性能な空気極が得られ、酸素イオン導通特性の向上や、電解質/空気極間の接着性を向上させて界面抵抗を低減させる等の効果を一層向上させることができる。
従って、電極特性が一層優れた固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体が得られる。」
ウ 「【0022】
本発明に係る固体電解質型燃料電池の特徴構成は、上記特徴構成の空気極を固体電解質の一方の面に形成し、固体電解質の他方の面に燃料極を形成した点にある。」
エ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に係る固体電解質型燃料電池の空気極原料粉体、及び当該空気極原料粉体を用いて作製した空気極の実施形態について、以下、図面に基づいて説明する。
【0025】
本発明に係る空気極原料粉体は、一般式ABO3で表され、AがLa(ランタン)及び希土類元素の群から選ばれる1つ以上の元素と、Sr(ストロンチウム),Ca(カルシウム)及びBa(バリウム)の群から選ばれる1つ以上の元素とからなり、BがMn(マンガン),Co(コバルト),Fe(鉄),Ni(ニッケル)及びCu(銅)の群から選ばれる1つ以上の元素からなるペロブスカイト複合酸化物粉体であって、平均粒子径が1μm以下であり、且つ粒度分布の幅が、後述のように所定範囲内に制限されている。上記平均粒子径は、具体的には0.6μm以下である。
【0026】
図1に、ペロブスカイト複合酸化物の組成がLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3で表される空気極原料粉体の粒度分布の一例をグラフで示す。また、空気極原料粉体の粒度分布、BET値、及び、電極に形成した状態での粒度分布、分極電圧の値などの数値データを表1に示す。なお、実施例1と比較例1とは、同一の原料を用いて後述のように一部異なる製作工程によって作製したものである。
…
【0029】
【表1】
[図:0001417603000003.jpg]
(当審注:表1については一部のみ抜粋。なお、表1の左欄の上から2欄目に記載された「D10」は「D90」の誤記と認められる。)」
オ 「【0031】
次に、本発明に係る空気極原料粉体、空気極、及び固体電解質型燃料電池の実施例及び比較例について説明する。なお、空気極原料粉体、空気極、及び固体電解質型燃料電池の製作工程図については図3を参照のこと。また、実施例1以外の実施例2,3、及び、比較例1以外の比較例2,3,4の各データは表2に記載している。
【実施例】
【0032】
実施例1では、次の(1)~(6)の工程により空気極原料粉体を作製した。
(1)La,Sr,Co,Feの各硝酸塩を出発原料として、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8の割合となるように調整して水に溶解させる。
(2)中和剤にNH4OHを用いて、上記溶液から各元素を含む塩を共沈させる。
(3)得られた共沈塩を水洗し、80℃で乾燥する。
(4)さらに、1000℃で5時間仮焼を行う。
(5)仮焼物をホソカワミクロン(株)製のアクアマイザー(回転数:250rpm)を用いて3時間湿式粉砕後、乾燥した。
(6)乾燥物からホソカワミクロン(株)製ジェットミル(分級回転速度:22000rpm、圧空量:0.72Nm3/minの条件)を用いて粗大粒子を除去し、LSCFカソード原料粉体を得た。ここで、LSCFは(La1-xSrx)(Co1-yFey)O3の略、カソードは空気極の意味である。得られた粉体の粒度は、表1の実施例1の粉体の欄に示す通りである。
…
【0034】
実施例2では、実施例1で作製したLSCF粉体を母粒子として、これに対してSDC(サマリアドープセリア)粒子(粒度:D10=0.169μm、D50=0.26μm、D90=0.554μm)を混合比70/30vol%となるように混合し、ホソカワミクロン(株)製サイクロミックス(回転速度:800rpm、処理時間:30minの条件)を用いて均質混合処理を行った。得られた粉体の粒度は、表2の実施例2の欄に示す通りである。」
カ 「【0038】
次に、他方の面にNi-YSZ燃料極を焼き付けられている8YSZ(イットリア8%添加安定化ジルコニア)固体電解質の一方の面に、上記実施例1~3及び比較例1~4で得られた各LSCFカソード原料粉体をペースト状にしたものをスクリーン印刷により塗布し、実施例1及び比較例1,2では焼き付け温度850℃で、実施例2,3及び比較例3,4では焼き付け温度900℃で、4時間焼き付けてSOFC単セルを作製した。ここで、SDCは難焼結材料で最適な焼き付け温度が高くなるので、SDCを含有している実施例2,3及び比較例3,4の焼き付け温度は実施例1及び比較例1,2よりも高くしている。
【0039】
なお、上記のようにジルコニア系電解質に対してLSCFを空気極として用いる場合、通常は空気極/電解質間の反応によって界面に高抵抗物質:La2Zr2O7,SrZrO3等が生成されるのを防止するため、セリア系の中間層を設けることが行われているが、本発明では、余分な中間層を設けず、微細で均一な構造のLSCFを用いることで、界面の反応が顕著にならない850℃付近の低温条件で電極を焼き付けることができる点で有利である。
【0040】
作製した各実施例及び比較例のSOFC単セルについて、水素H2を燃料とし、酸化剤を空気として燃料電池特性評価装置を用いてカソード過電圧(分極電圧)の評価を行った。カソード過電圧の測定は、作動温度は700℃、電流密度0.5A/cm2の条件で前記カレントインターラプト法により行った。各実施例及び比較例のカソード過電圧は、表1、表2の分極電圧ηcの欄に示す通りである。
【0041】
【表2】
[図:0001417603000004.jpg]
」
キ 「【0045】
次に上記空気極原料粉体の平均粒子径と、粒度分布幅の制限について具体的に説明する。先ず、各実施例の空気極原料粉体は、上記データで示される通り、平均粒子径に対応する累積体積50%相当径D50は0.6μm以下である。また、上記空気極原料粉体の粒度分布の幅として、累積体積90%相当径D90と累積体積10%相当径D10の比D90/D10が所定値よりも小さい値に制限されるか、あるいは、累積体積90%相当径D90と累積体積50%相当径D50の比D90/D50が所定値より小さく、且つ累積体積50%相当径D50と累積体積10%相当径D10の比D50/D10が所定値より小さい値に制限されている。
【0046】
上記表1、表2のデータを参照して、実施例1~3では上記粒度分布の条件を全て満たす一方、比較例1~4では上記条件のいずれかを満たさないようにするには、D90/D10に対する上記所定値を、例えば3.7付近の値に設定し、D90/D50及びD50/D10に対する上記各所定値を、例えば2.0付近の値に設定するのが適当である。尚、上記各所定値は、空気極原料粉体の材料組成が異なる場合には、それに合わせて適切な値に変更される。
【0047】
次に、上記空気極原料粉体を電極に形成した場合にも、粉体状態での粒度分布と基本的に同じ傾向の粒度分布になる。但し、粒径の細かい粒子(微粉)は焼結し易いために焼き付け時に粒成長するか、あるいは他の粒子と合体焼結して単独の粒子としてカウントされ難くなる。そのため、電極状態での粒度分布は小径側が狭くなる。また、難焼結材料のSDCを含む実施例2,3の場合には、小径側が広くなる(下限値が小さくなる)。」
(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)アの段落【0008】によれば、甲1において発明が解決しようとする課題は、空気極の高性能化を実現するための空気極構造の微細化が可能となる空気極原料粉体を提供すること、また、当該空気極原料粉体を用いて作製した空気極を備えた固体電解質型燃料電池を提供することを含む(以下、単に「課題1」という。)。
イ 甲1において、上記課題1を解決し得る、実施例2の空気極原料粉体を原料として形成した空気極を備えたSOFC単セルに注目する。上記(1)オの段落【0034】によれば、実施例2の空気極原料粉体は、実施例1のLSCF粉体を母粒子とし、これに対してSDC(サマリアドープセリア)粒子(粒度:D10=0.169μm、D50=0.26μm、D90=0.554μm)を混合したものであり、上記(1)カの段落【0038】によれば、実施例2の原料粉体をペースト状にしたものを、他方の面に燃料極が形成された固体電解質の一方の面に塗布し、焼き付け温度900℃で4時間焼き付けることによって空気極を備えたSOFC単セルが作製される。
ウ ここで、上記(1)エの段落【0026】、オの段落【0032】によれば、実施例1のLSCF粉体とは、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3で表されるペロブスカイト複合酸化物であり、表1の実施例1の粉体のデータを参照するとその粒度は、D10=0.285μm、D50=0.529μm、D90=1.021μmであり、上記LSCF粉体にSDC粒子を混合した後の実施例2の混合粉体の粒度は、カの段落【0041】の表2によれば、D10=0.245μm、D50=0.44μm、D90=0.875μmである。
エ また、上記(1)イの段落【0017】によれば、SDC(サマリアドープセリア)粒子は、ドープセリア粉体であるから酸素イオン導通特性を向上させる物質である。
オ したがって、甲1には次の発明が記載されているものと認められる。
「粒度がD10=0.285μm、D50=0.529μm、D90=1.021μmであるLSCF粉体の母粒子と、
酸素イオン導通特性を向上させる、粒度がD10=0.169μm、D50=0.26μm、D90=0.554μmであるSDC粒子を混合して、
粒度がD10=0.245μm、D50=0.44μm、D90=0.875μmである混合粉体とし、
上記混合粉体をペースト状にしたものを、他方の面に燃料極が形成された固体電解質の一方の面に塗布し、焼き付け温度900℃で4時間焼き付けることによって空気極が形成されたSOFC単セル。」(以下、「甲1発明」という。)
「甲1発明のSOFC単セルを備えた固体電解質形燃料電池。」(以下、「甲1電池発明」という。)
「甲1発明のSOFC単セルを製造する製造方法。」(以下、「甲1製法発明」という。)
(3)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明との対比
(ア)甲1発明の「空気極」、「固体電解質」、「SOFC単セル」は、それぞれ、本件特許発明1の「電極層」、「電解質層」、「電気化学素子」に相当する。
(イ)甲1発明においては、焼き付け前の混合粉体の粒度分布が、「D10=0.245μm、D50=0.44μm、D90=0.875μm」であることが特定されているものの、焼き付け後の空気極における粒度分布は特定されておらず、本件特許発明1のように、粒径200nm以下の小粒子が含まれているか、また、粒径500nm以上の大粒子が含まれているか不明である。
しかしながら、上記1(1)で検討したように本件特許発明の粒径はSEM画像に写った粒子の面積から円相当面積粒径として算出されるものであることが明らかになったところ、甲1の【表1】の実施例1の粉体の粒度分布と電極の粒度分布に注目すると、実施例1の粉体(LSCF粉体)を焼き付けて電極を形成することにより、そのD90は1.021μm(レーザー回折散乱法により測定した粒径)から0.649μm(SEM画像から粒子長を読み取った粒径)となることが看取されるので、実施例1の粉体(LSCF粉体)を含む混合粉体を焼き付けることによって形成された甲1発明の空気極においても、SEM画像から読み取った粒径が0.649μm以上の粒子が含まれているものと推定されるから、甲1発明にはSEM画像から読み取った粒径が500nm以上の粒子が含まれているといえる。
また、甲1の段落【0047】によれば、空気極原料粉体を電極に形成した場合に、難焼結材料のSDCは小径側の下限値が小さくなると記載されていることから、D10=0.169μmであるSDC母粒子を含む混合粉体によって形成された甲1発明の空気極には、粒径が0.169μm以下の粒子が含まれているものと推定されるので、甲1発明には粒径が200nm以下の粒子が含まれているといえる。
したがって、甲1発明において、「混合粉体をペースト状にしたもの」を「焼き付けることによって」形成された「空気極」中に含まれる、「LSCF粉体の母粒子」由来の粒子のうち、粒径が略0.649μm(649nm)以上の粒子が存在することは、本件特許発明1の「前記電極層における粒径が500nm以上」の「大粒子」が含有されることに相当し、同空気極中に含まれる「SDC粒子」由来の粒子のうち、粒径が0.169μm(169nm)以下の粒子が存在することは、「前記電極層における粒径が200nm以下」の「小粒子」が含有されることに相当する。
(ウ)甲2の段落【0040】や甲3の【0023】に記載されているように、「LSCF粉体」は電子伝導性に加えてイオン伝導性も有するペロブスカイト型複合酸化物であることは技術常識であるから、甲1発明において、「空気極」が、「粒度がD10=0.285μm、D50=0.529μm、D90=1.021μmであるLSCF粉体の母粒子」と「酸素イオン導通特性を向上させる、粒度がD10=0.169μm、D50=0.26μm、D90=0.554μmであるSDC粒子を混合」した「混合粉体をペースト状にしたものを、他方の面に燃料極が形成された固体電解質の一方の面に塗布し、焼き付け温度900℃で4時間焼き付けることによって」形成されたものであることは、上記(イ)の検討も踏まえると、本件特許発明1の「前記電極層」が「小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、前記小粒子および前記大粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質である」ことに相当する。
(エ)以上の検討によれば、本件特許発明1と甲1発明との一致点と相違点は次のとおりである。
(一致点)
「電極層及び電解質層を有する電気化学素子であって、
前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、
前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、
前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、
前記小粒子および前記大粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質である電気化学素子」の点。
(相違点1)
本件特許発明1は、「前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有し」ているものであるのに対して、甲1発明は、反応防止層を有するものではない点。
イ 本件特許発明1が甲1に記載された発明ではないことについて
甲1発明は甲1の実施例2を発明の認定の基礎としているところ、上記(1)カの段落【0038】には、固体電解質の一方の面に実施例2で得られたカソード原料粉末をペースト状にしたものを塗布し、焼き付けてSOFC単セルを作製したことが記載されていることから、甲1発明において、反応防止層が形成されているとはいえない。したがって、相違点1は本件特許発明1と甲1発明の実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
ウ 相違点1の容易想到性について
甲1の段落【0039】には、ジルコニア系電解質に対してLSCFを空気極として用いる場合、通常は空気極/電解質間の反応によって界面に高抵抗物質:La2Zr2O7,SrZrO3等が生成されるのを防止するため、セリア系の中間層を設けることが行われているが、本発明すなわち実施例1、2では、余分な中間層を設けず、微細で均一な構造のLSCFを用いることで、界面の反応が顕著にならない850℃付近の低温条件で電極を焼き付けることができる点で有利であると記載されていることから理解されるとおり、甲1の実施例1、2については、通常空気極と固体電解質層の界面に高抵抗層が生成されるのを防止するために形成される中間層を設けないことが明記されている。
つまり、実施例2を発明の認定の基礎とする甲1発明において、空気極と固体電解質の間に高抵抗物質が生成されるのを防止するための中間層を設けることには、阻害要因が存在するところ、上記中間層とは本件特許発明1における「反応防止層」に相当するものであるから、甲1発明において、電極層と電解質層との間に反応防止層を配置すること、すなわち、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、ここウにおける判断は、甲5、6やその他の甲号証の記載を参照しても変更されない。
(4)本件特許発明5、6について
本件特許発明5、6も本件特許発明1と同様に「前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有し」ているものであるから、本件特許発明5、6と甲1発明とを対比すると、少なくとも、上記相違点1と同様の相違点で相違している。
そうすると、本件特許発明1について上記(3)で検討したのと同様の理由により、本件特許発明5、6は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明1、5、6を引用する本件特許発明2~4、7~10、12~18について
本件特許発明1を引用することによって、本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明2~4、7~10、12~18と、本件特許発明5、6を引用することによって、本件特許発明5、6の全ての特定事項を備えた本件特許発明7~10、12~18とを、甲1発明、甲1電池発明、又は甲1製法発明と対比すると、少なくとも、上記相違点1と同様の相違点で相違している。
そうすると、本件特許発明1について上記(3)で検討したのと同様の理由により、本件特許発明1、5、6を引用する本件特許発明2~4、7~10、12~18は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)小括
以上のとおり、本件特許発明1~10、12~18は、甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1に記載された発明と甲5及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、本件特許発明1~10、12~18は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものともいえないので、取消理由2、5と申立理由3、4によっては、本件特許の請求項1~10、12~18に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由2(サポート要件)について
(1)特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるところ(知財高判平成17年11月11日(平成17年(行ケ)第10042号)、第6の1(1)参照)、以下、この判断基準に従って検討する。
(2)本件特許発明が解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0004】、【0005】によれば、十分な三相界面長を有する、高性能な電極層を有し、かつ、低コストな電気化学素子を提供することと認められる(以下、単に「課題」という。)。
(3)上記課題を解決し得る手段に関して、本件明細書の段落【0006】~【0009】には、電極層を有する電気化学素子であって、前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、前記小粒子および前記大粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質である電気化学素子であれば、電極層が、三次元的なガスの拡散パスが確実に形成され、三相界面長が長い高性能なものとなるので、これによって高性能な電気化学素子を低コストで実現することができることが示されている。
(4)そして、本件明細書の段落【0082】~【0092】に記載された実施例の電気化学素子Eは、GDC粉末とLSCF粉末とを混合し、有機バインダーと有機溶媒を加えて作製したペーストを用いて、反応防止層5の上に第2電極層6を形成し、900℃にて焼成して得られたものであり、図5の電子顕微鏡写真を参照すると、粒径が500nm以上の粒子(A51~A54)の存在と、多数の粒径200nm以下の粒子の存在が認められる。そして、当該電気化学素子Eの第1電極層2に水素ガス、第2電極層6に空気を供給して開回路電圧(OCV)を測定した結果、750℃で1.03Vであり、電子負荷装置を用いて電流を印加すると、0.80Vで0.30W/cm2という出力が得られたので、所定の電気性能の電気化学素子が得られたことが確認できる。なお、上記LSCF粉末が高い電子導電性とイオン伝導性を併せ持つ物質であり、上記GDC粉末はイオン伝導性を有する物質であることは、周知の技術事項である(例えば、甲2の段落【0040】、甲3の段落【0023】~【0024】を参照のこと)。
したがって、上記実施例の電気化学素子Eは、上記(3)に記載した課題を解決し得る手段を備えることによって上記課題を解決し得るものであるといえる。
(5)そうすると、本件特許発明1は、上記(3)に記載した課題を解決し得る手段である、電極層を有する電気化学素子であって、前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、前記小粒子および前記大粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質である電気化学素子であることが特定されているので、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、本件請求項1の記載はサポート要件に適合するものである。
また、本件特許発明1と同様の特定事項を備えた本件特許発明5、6、及び、これら本件特許発明1、5、6を引用する本件特許発明2~4、7~10、12~18も同様に、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、本件請求項2~10、12~18の記載はサポート要件に適合するものである。
(6)なお、申立人は特許異議申立書の第34~36頁のb)、c)において、電極層が数個の大粒子と多数の小粒子とから構成された形態(形態1)については、実施例として一定の性能を有することが示されているが、電極層が小粒子及び大粒子を同程度の個数だけ含有する形態(形態2)や電極層が数個の小粒子と多数の大粒子とを含有する形態(形態3)や中粒子も含まれる形態(形態4)については、上記課題を解決できることを理解できないと主張しているのでこの点について検討する。
電極層を形成する際に小粒子と大粒子、さらに場合によっては中粒子を混合すると、小粒子は隣接する大粒子間の隙間や隣接する大粒子と中粒子の隙間に入りやすいことは技術常識であり、そのため小粒子は大粒子と接触するようになるので、小粒子と大粒子が特定の粒径(小粒子の粒径が200nm以下、大粒子の粒径が500nm以上)であるとともに、当該小粒子と大粒子がイオン導電性または電子伝導性を有する物質であれば、小粒子と大粒子の多寡によらず、また、中粒子の有無によらず、当該小粒子と大粒子の接触箇所近傍には三次元的なガスの拡散パスが確実に形成されるとともに、長い三相界面長が形成されるので、上記形態2や形態3、形態4の場合においても上記形態1と同様に、上記課題は解決されるものと推定される。また、申立人は、上記形態2や形態3、形態4の場合に上記課題を解決できないことを立証するための、実験結果や理論等の具体的な根拠を示していない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(7)小括
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~10、12~18の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。
したがって、申立理由2によっては、本件特許の請求項1~10、12~18に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由5、6(甲2を主たる引用例とする新規性、進歩性)について
(1)甲2の記載事項
本願の優先日前に公知となった甲2には、「固体酸化物形燃料電池用単セルの製造方法、固体酸化物形燃料電池用カソード及び固体酸化物形燃料電池用単セル」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
ア 「【0003】
SOFCは、基本構造として、カソード(空気極)とアノード(燃料極)との間にセラミックからなる電解質層が配置された構造を有する。例えば平型のSOFCは、カソード、電解質層及びアノードを重ね合わせたものを単セルとし、この単セルがインターコネクタを挟んで複数積み重ねられることによって高出力を得る。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
…
【0009】
そこで、本発明は、カソードと電解質層との材料の熱膨張率差が大きい場合を考慮した上で、カソード形成時にカソードに発生するクラック及び剥離等の欠陥を低減することができ、さらに優れた発電性能(例えば、高いセル電圧及び低いASR(単位面積当たりの抵抗値))を有するSOFC用単セルをより簡便に提供することが可能な、SOFC用単セルの製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、カソードと電解質層との材料の熱膨張率差が大きい場合でも、カソードに発生するクラック及び剥離等の欠陥が低減され、さらに優れた発電性能(例えば、高いセル電圧及び低いASR)も実現できる、SOFC用カソード及びSOFC用単セルを提供することも目的とする。」
ウ 「【0040】
まず、カソード12を形成するためのカソード12用ペーストを作製する。カソード12用ペーストは、カソード材料からなるカソード粉末を含む。カソード材料としては、電解質層13の電解質材料、すなわち電解質層13用ペーストに用いられるセラミック粉末の材料と100~1000℃における平均線熱膨張係数の差が8.0×10-6/K以上である材料が用いられる。カソード材料としては、電子伝導性に優れ、イオン電導性を有し、酸化雰囲気下でも安定なペロブスカイト形酸化物が好適に用いられる。具体的には、La0.8Sr0.2MnO3、La0.6Sr0.4CoO3、La0.6Sr0.4FeO3、La0.6Sr0.4Co0.8Fe0.2O3及びLa0.6Sr0.4Co0.8Mn0.2O3等、のランタンの一部をストロンチウムで置換したランタンストロンチウムマンガナイト、ランタンストロンチウムコバルタイト及びランタンストロンチウムフェライト、並びに、ランタンストロンチウムコバルタイトのコバルトの一部を鉄やマンガン等で置換したランタンストロンチウムコバルトフェライト及びランタンストロンチウムコバルトマンガナイト等が好適に用いられる。これらの中でも、高い電子伝導性とイオン伝導性とを併せ持つ(La,Sr)CoO3(LSC)、(La,Sr)Co,FeO3(LSF)、(La,Sr)(Co,Fe)O3等の材料が、より好適な材料として挙げられる。また、カソード12にイオン伝導性を付与しつつ、電解質とカソード材料との平均線膨張係数の差を緩和させるために、Sc、Y及びCe等の希土類金属の酸化物やアルカリ土類金属酸化物を安定化剤として2.5~15モル%で含む安定化ジルコニアや、希土類元素酸化物等をドープしたセリアを適宜混合することも可能である。」
エ 「【0057】
<実施例1>
…
【0064】
(焼成)
上記バリア層用ペーストの乾燥後、上記で得たバリア層用グリーン層、電解質層用グリーン層、アノード層用グリーン層が塗布され積層されたアノード支持基板グリーンシートを焼成後の1辺が6cmの正方形になるように打ち抜いた。打ち抜いた後、1350℃、空気雰囲気下で3時間焼成して、アノード支持型ハーフセルを得た。
【0065】
(LSC粉末(カソード粉末)の調製)
LSC粉末を以下の通り調製した。市販の純度99.9%の酢酸ランタン1.5水和物(キシダ化学、99.5%)、酢酸ストロンチウム0.5水和物(和光純薬、和光特級)及び酢酸コバルト(II)四水和物(和光純薬、和光特級)を、元素比がLa0.6Sr0.4Co1.0Oxとなるように純水中に溶解させ、目視により溶解したのを確認してから30分間攪拌した。得られた水溶液を量論比の1.5倍の過剰のシュウ酸アンモニウム一水和物(和光純薬、試薬特級)水溶液に滴下させ、シュウ酸塩として共沈させた。その後、この溶液をロータリーエバポレーターと乾燥器とを使用して、蒸発・乾固させた。乾燥させたシュウ酸塩にエタノールを加え、乳鉢で湿式粉砕混合した後、電気炉により熱分解(330℃)、第1仮焼(750℃)、第2仮焼(950℃)、焼成(1100℃)を各3時間行って、焼成粉末を作製した。なお、各工程の間には、粒子の過剰な凝集を防ぐことを目的として、エタノールを溶媒に、乳鉢で湿式粉砕を行った。
次に、焼成粉末をボールミル解砕した後、乾燥させることにより、平均粒子径0.23μmのLSC粉末(A)、平均粒子径が1.19μmのLSC粉末(B)をそれぞれ調製した。具体的には、LSC粉末(A)及び(B)とも、ボールミル解砕は、焼成粉末、溶媒としてのエタノール及びジルコニアボール(ニッカトー製 YTZボール)をポリ容器に仕込んだ状態で行った。解砕処理時間はLSC粉末(A)及び(B)ともに20時間であるが、解砕処理時の回転数や使用するYTZボールを変えることにより、平均粒子径の異なる粉末を調製した。また、LSC粉末(A)及び(B)はいずれも、X線回折測定によって、ペロブスカイトからなる単一相であることが確認された。
なお、LSC粉末(A)及び(B)の平均粒子径は、体積基準の累積粒度分布から求められるメジアン径、すなわち体積累積が50%に相当する粒子径(D50)のことであり、レーザ回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製、製品名:LA-920)を用いて求められた値である。
【0066】
(LSCカソード層用ペーストの調製)
上記のLSC粉末(A)50質量部、LSC粉末(B)50質量部、バインダーとして市販のエチルセルロース3質量部及び溶剤として市販のα-テルピネオール30質量部を予備混合した。その後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M-80S」、ロール材質:アルミナ)を用いて混練し、カソード層用ペーストを得た。なお、このLSCカソード層用ペースト中のカソード粉末の体積基準の累積粒度分布におけるLSC粉末の平均粒子径(d50)は0.67μmであった。また、10%粒子径(d10)は0.41、90%粒子径(d90)は1.22μmであり、10%粒子径に対する90%粒子径の比(d90/d10)は3.0であった。なお、体積基準の累積粒度分布は、レーザ回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製、製品名:LA-920)を用いて求められた。
【0067】
(LSCカソード層の形成)
ハーフセルのバリア層の表面に、スクリーン印刷により、カソード層用ペーストを1cm×1cmの正方形に塗布し、100℃で30分間乾燥させ、カソード層用グリーン層を形成した。その後、カソード層用グリーン層を積層させたハーフセルを、1000℃で2時間焼成した。これにより、実施例1に係るSOFC用単セルを得た。」
オ 「【0080】
(カソード中の構成粒子の粒度分布)
実施例1のサンプルにおいて、得られた断面像よりカソードを構成する粒子100個について、Media Cybernetics社製 Image-Pro Plus ver4.0を用いて、それぞれの粒子の投影面積(断面積)を測定し、その値を用いて、面積相当直径を求めた。粒子100個の面積相当直径を用いて得られた個数基準の累積粒度分布を用いて求められた10%粒子径(D10)、50%粒子径(D50)及び90%粒子径(D90)は、それぞれ、0.32μm、0.60μm及び0.94μmであった。実施例2、3及び比較例1~3のサンプルについても同様にして、カソードを構成する粒子の10%粒子径(D10)、50%粒子径(D50)及び90%粒子径(D90)を求めた。結果を表2に示す。なお、粒子100個の粒子径を求めるに当たり、1視野では100個に満たないことがあった。この場合には、複数の視野に渡って計測を行い、合計で100個の粒子の粒子径を求めた。」
(2)甲2に記載された発明
ア 上記(1)イによれば、甲2において発明が解決しようとする課題は、カソード(空気極)と電解質層との材料の熱膨張率差が大きい場合でも、カソードに発生するクラック及び剥離等の欠陥が低減され、さらに優れた発電性能も実現できる、SOFC用カソード及びSOFC用単セルを提供することを含む(以下、単に「課題2」という。)。
イ 甲2において、上記課題2を解決し得る、実施例1のカソード層を備えたSOFC用単セルに注目する。上記(1)エの段落【0064】によれば、バリア層用グリーン層、電解質層用グリーン層、アノード層用グリーン層が積層されたアノード支持基板グリーンシートを打ち抜き、1350℃、空気雰囲気下で3時間焼成することにより、アノード支持型ハーフセルが得られたのであるから、当該ハーフセルは、バリア層、電解質層及びアノード層がこの順に積層されているものである。
ウ 上記(1)エの段落【0065】、【0066】によれば、平均粒子径が0.23μmのLSC粉末(A)、平均粒子径が1.19μmのLSC粉末(B)、バインダーと溶剤を予備混合してカソード層用ペーストを調整し、スクリーン印刷によりハーフセルのバリア層の表面に前記ペーストを塗布し、乾燥してカソード層用グリーン層を形成し、1000℃で2時間焼成することにより、実施例1に係るSOFC用単セルが得られたのであるから、当該SOFC用単セルは、カソード層、バリア層、電解質層及びアノード層が積層されている。
エ 上記(1)オによれば、実施例1の断面像よりカソード層を構成する粒子100個について求めた面積相当直径を用いて得られた、個数基準の累積粒度分布を用いて求められた10%粒子径(D10)、50%粒子径(D50)及び90%粒子径(D90)は、それぞれ、0.32μm、0.60μm及び0.94μmであった。
オ したがって、甲2には次の発明が記載されているものと認められる。
「カソード層、バリア層、電解質層、アノード層がこの順に積層されたSOFC用単セルであって、
上記カソード層は、平均粒子径が0.23μmのLSC粉末(A)、平均粒子径が1.19μmのLSC粉末(B)、バインダー及び溶剤を予備混合してペーストを調整し、ハーフセルのバリア層の表面に前記ペーストを塗布し、乾燥し、1000℃で2時間焼成することによって形成されたものであり、
上記カソード層は、10%粒子径(D10)、50%粒子径(D50)及び90%粒子径(D90)が、それぞれ、0.32μm、0.60μm及び0.94μmである、SOFC用単セル。」(以下、「甲2発明」という。)
「甲2発明のSOFC用単セルを備えた固体電解質形燃料電池。」(以下、「甲2電池発明」という。)
「甲2発明のSOFC用単セルを製造する製造方法。」(以下、「甲2製法発明」という。)
(3)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲2発明との対比
(ア)甲2発明の「カソード層」、「バリア層」、「電解質層」、「SOFC用単セル」は、それぞれ、本件特許発明1の「電極層」、「反応防止層」、「電解質層」、「電気化学素子」に相当する。したがって、甲2発明において「SOFC用単セル」が「カソード層、バリア層、電解質層、アノード層がこの順に積層された」ものであることは、本件特許発明1において「電極層及び電解質層を有する電気化学素子であって、前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有」することに相当する。
(イ)甲2発明の「10%粒子径(D10)、50%粒子径(D50)及び90%粒子径(D90)」は、上記(2)エで検討したように、実施例1の断面像よりカソード層を構成する粒子100個について求めた面積相当直径を用いて得られた、個数基準の累積粒度分布を用いて求められた粒子径を意味しており、他方、本件特許発明1の「粒径」は、上記1(1)ウで検討したように、SEM画像における粒子の面積Aを画像処理ソフトウェアImageJを用いて決定し、当該面積Aから、円相当面積粒径XC=(4A/π)1/2によって算出されたものであるから、甲2発明と本件特許発明1の粒径はいずれも円相当面積粒径という同じ方法によって算出されたものである。そして、甲2発明の「カソード層」の「90%粒子径(D90)」が「0.94μm」であることは、カソード層が粒子径940nm以上の粒子を含むので、粒径が500nm以上の大粒子を含むことを意味しており、「カソード層」の「10%粒子径(D10)」が「0.32μm」であることは、カソード層が粒子径320nm以下の粒子を含むので、上記粒径が500nm以上の大粒子よりも粒径の小さい粒子(以下、「小径の粒子」という。)を含むことを意味している。
したがって、甲2発明の「カソード層は、10%粒子径(D10)、50%粒子径(D50)及び90%粒子径(D90)が、それぞれ、0.32μm、0.60μm及び0.94μmである」ことと、本件特許発明1の「前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であ」ることとは、「前記電極層が小径の粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し」、「前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であ」る点で共通する。
(ウ)甲2発明の「LSC粉末」は、上記(1)ウによれば、高い電子伝導性とイオン伝導性とを併せ持つ材料であること、及び、上記(イ)で検討したとおり、カソード層が、大粒子と小径の粒子を含有するものであることを踏まえると、甲2発明の「カソード層」が「平均粒子径が0.23μmのLSC粉末(A)、平均粒子径が1.19μmのLSC粉末(B)、バインダー及び溶剤を予備混合してペーストを調整し、ハーフセルのバリア層の表面に前記ペーストを塗布し、乾燥し、1000℃で2時間焼成することによって形成された」ものであることと、本件特許発明1において「前記小粒子および前記大粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質である」こととは、「前記小径の粒子および前記大粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質である」点で共通する。
(エ)以上の検討によれば、本件特許発明1と甲2発明との一致点と相違点は次のとおりである。
(一致点)
「電極層及び電解質層を有する電気化学素子であって、
前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有し、
前記電極層が小径の粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、
前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、
前記小径の粒子および前記大粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質である電気化学素子。」の点。
(相違点2)
「電極層」が含有する「小径の粒子」の粒径について、本件特許発明1では「粒径が200nm以下」であるのに対して、甲2発明では、「粒径が200nm以下」の粒子が含まれるか不明である点。
イ 本件特許発明1が甲2に記載された発明ではないことについて
甲2発明のカソード層は、平均粒子径が0.23μmのLSC粉末(A)を含むペーストを塗布し、乾燥し、1000℃で2時間焼成することにより得られたものである。LSC粉末(A)の平均粒子径が0.23μmであることは、粒子径が230nm以下の粒子を含んでいることを意味しているが、小さい粒径の粒子は焼結し易いため焼結後に粒成長したり、他の粒子と合体焼結したりすることは技術常識であるから(例えば、甲1の段落【0047】参照のこと。)、上記ペーストを1000℃で2時間焼成した後に、10%粒子径(D10)が0.32μmであるカソード層に粒径200nm以下の粒子が含まれるか不明である。
したがって、相違点2は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえない。
ウ 相違点2の容易想到性について
甲2発明のSOFC用単セルのカソード層に含まれる焼成後のLSC粉末について、粒径が200nm以下の粒子を含有させる動機となる事項については、甲2に記載も示唆もされていない。また、カソード層に含まれる焼成後のLSC粉末について、粒径が200nm以下の粒子を含有させることが技術常識であるともいえない。
そうすると、甲2発明において、焼成後のカソード層に含まれる小径の粒子について、粒径が200nm以下の粒子が含まれるようにすること、すなわち、相違点2に係る本件特許発明1の特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の電気化学素子は、電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、小粒子の電極層における粒径が200nm以下であり、大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、小粒子および前記大粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質であることによって、電極層は、三次元的なガスの拡散パスが確実に形成されており、三相界面長が長い高性能なものとなるので、これによって高性能な電気化学素子を低コストで実現することができるという優れた効果を奏するものであり、このような効果について、甲2及びその他の甲号証から予測し得たものであるということもできない。
したがって、本件特許発明1は、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、ここウにおける判断は甲1、甲6やその他の甲号証の記載を参照しても変更されない。
(4)本件特許発明5、6について
本件特許発明5、6も本件特許発明1と同様に「小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であ」るとの特定事項を備えたものであるから、本件特許発明5、6と甲2発明とを対比すると、少なくとも、上記相違点2と同様の相違点で相違している。
そうすると、本件特許発明1について上記(3)で検討したのと同様の理由により、本件特許発明5、6は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明1、5、6を引用する本件特許発明2~4、7~10、12~18について
本件特許発明1を引用することによって、本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明2~4、7~10、12~18と、本件特許発明5、6を引用することによって、本件特許発明5、6の全ての特定事項を備えた本件特許発明7~10、12~18とを、甲2発明、甲2電池発明、又は甲2製法発明と対比すると、少なくとも、上記相違点2と同様の相違点で相違している。
そうすると、本件特許発明1、5、6を引用する本件特許発明2~4、7~10、12~18は、本件特許発明1について上記(3)で検討したのと同様の理由により、甲2に記載された発明であるといえず、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)小括
以上のとおり、本件特許発明1~10、12~18は、甲2に記載された発明であるとはいえず、甲2に記載された発明と甲1及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、本件特許発明1~10、12~18は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものともいえないので、申立理由5、6によっては、本件特許の請求項1~10、12~18に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由7、8(甲3を主たる引用例とする新規性、進歩性)について
(1)甲3の記載事項
本願の優先日前に公知となった甲3には、「燃料電池単セルおよび燃料電池スタック」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した中間層を含む燃料電池単セルでは、空気極を構成する材料であって、電子導電性を有する空気極材料と、中間層を構成する材料であって、イオン伝導性を有する中間層材料とが連結する連結箇所において、酸化剤ガスに含まれる酸素分子のイオン化反応が起きる。従って、この連結箇所の表面積が小さいと、そのイオン化反応による酸化物イオンの生成量が少なくなるため、燃料電池単セルの発電効率が低くなるという問題が生じる。
【0005】
本明細書では、上述した課題の少なくとも一部を解決することが可能な技術を開示する。」
イ 「【0006】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本明細書に開示される燃料電池単セルは、固体酸化物を含む電解質層と、前記電解質層を挟んで互いに対向する空気極および燃料極と、前記電解質層と前記空気極との間に配置される中間層と、を備える燃料電池単セルにおいて、前記空気極に含まれる材料であって、電子導電性を有する空気極材料の平均粒径は、0.2μm以上、0.7μm以下であり、前記中間層に含まれる材料であって、イオン伝導性を有する中間層材料の平均粒径は、0.4μm以上、1μm以下であり、前記空気極材料の平均粒径と前記中間層材料の平均粒径との差は、0.1μm以上、0.3μm以下であることを特徴とする。空気極材料の平均粒径と中間層材料の平均粒径との差が小さいほど、空気極材料と中間層材料とが連結する連結箇所の面積を大きくすることができる。一方、上記の差を小さくしても、空気極材料および中間層材料の平均粒径が大きすぎると、連結箇所の面積を大きくすることができない。この燃料電池単セルによれば、空気極材料の平均粒径は、0.2μm以上、0.7μm以下であり、中間層材料の平均粒径は、0.4μm以上、1μm以下であり、空気極材料の平均粒径と中間層材料の平均粒径との差は、0.1μm以上、0.3μm以下である。これにより、例えば、空気極材料の平均粒径が0.7μmより大きく、中間層材料の平均粒径が1μmより大きく、空気極材料の平均粒径と中間層材料の平均粒径との差が0.3μmより大きい場合に比べて、空気極材料と中間層材料とが連結する連結箇所の面積を大きくすることができるため、燃料電池単セルの発電効率を向上させることができる。」
ウ 「【0022】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで上下方向(発電単位102が並ぶ配列方向)に互いに対向する空気極(カソード)114および燃料極(アノード)116と、電解質層112と空気極114との間に配置される中間層300とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で電解質層112と中間層300と空気極114とを支持する燃料極支持形の単セルである。
【0023】
電解質層112は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物により形成されている。空気極114は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄))といった電子導電性を有する材料により形成されている。なお、LSCFは、電子導電性に加えてイオン伝導性をも有する酸化物イオン-電子混合導電性の空気極材料の一例である。燃料極116は、矩形の平板形状部材であり、例えば、Ni(ニッケル)、Niとセラミック粒子からなるサーメット、Ni基合金等により形成されている。このように、本実施形態の単セル110(発電単位102)は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
【0024】
図4および図5に示すように、中間層300は、電解質層112と空気極114との間に配置されている。中間層300は、空気極114と略同一の大きさの方形の平板形状部材であり、例えば、SDC、GDC、ペロブスカイト型酸化物といったイオン伝導性を有する固体酸化物により形成されている。仮に、電解質層112と空気極114との間に中間層300が無い場合、燃料電池スタック100の運転動作時のような高温条件下において、空気極114に含まれる金属の元素(例えばSrやLa(以下、「拡散元素」ともいう))と、電解質層112に含まれる遷移元素(例えばZr)とが反応して空気極114と電解質層112との境界付近に高抵抗層(例えばSrZrO3)が形成されることにより、単セル110の発電効率が低下することがある。」
エ 「【0034】
A-3.中間層の詳細構成:
図6には、単セル110の一部分(空気極114、中間層300)の上下方向(Z方向)に平行な断面構成(XZ平面に平行な断面構成)が示されている。図6に示すように、空気極114には、空気極材料310に加えて、イオン伝導性を有するイオン伝導性材料320が含まれており、中間層300には、中間層材料330が含まれている。空気極材料310は例えばLSCFであり、イオン伝導性材料320および中間層材料330は、同一材料でもよく、例えばGDCである。このように、空気極114に、中間層300と同一材料を含めることにより、空気極114と中間層300との熱膨張率の差が小さくなるため、熱膨張率の差に起因して空気極114と中間層300とが剥がれることを抑制することができる。また、空気極114におけるイオン伝導性材料320(GDC)の濃度は、90mol%未満であることが好ましく、50mol%未満であることがより好ましい。また、中間層300における中間層材料330(GDC)の濃度は、90mol%以上であることが好ましい。
【0035】
また、空気極114および中間層300は、次の3つの条件1-3の全てを満たす。
条件1:空気極材料310の平均粒径は、0.2μm以上、0.7μm以下である。
条件2:中間層材料330の平均粒径は、0.4μm以上、1μm以下である。
条件3:空気極材料310の平均粒径と中間層材料330の平均粒径との差は、0.1μm以上、0.3μm以下である。
また、空気極材料310の平均粒径は、中間層材料330の平均粒径より小さい。
【0036】
ここでいう空気極材料310の平均粒径とは、空気極114の内、機能層(実質的に空気極として機能する部分)、あるいは、三相界面を形成し得る空気極材料310の平均粒径をいう。より具体的には、空気極材料310の平均粒径とは、例えば、空気極114の内、空気極114と中間層300との境界Bから、空気極114と燃料極116との対向方向(Z方向)における空気極114の中央位置までの領域、あるいは、上記境界Bから、空気極114と燃料極116との対向方向(Z方向)に0.5μm離間した位置までの領域に存在する空気極材料310の平均粒径をいう。また、中間層材料330の平均粒径とは、中間層300の内、三相界面を形成し得る中間層材料330の平均粒径をいう。より具体的には、中間層材料330の平均粒径とは、例えば、燃料極116の内、上記境界Bから、空気極114と燃料極116との対向方向(Z方向)における中間層300の中央位置までの領域、あるいは、上記境界Bから、空気極114と燃料極116との対向方向に0.5μm離間した位置までの領域に存在する中間層材料330の平均粒径をいう。」
オ 「【0041】
(空気極114の形成)
La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3粉末と、イソプロピルアルコールとからなる混合液を作成した。作成した混合液を、中間層300が形成された上記積層体における中間層300の表面に噴霧塗布し、1100℃で焼成することによって空気極114を成形する。この際、空気極材料310の平均粒径が上記条件1を満たすように、空気極材料310の初期の原料粒度と、積層体の焼成温度とをそれぞれ調整する。例えばLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3粉末の粒度が高いほど、焼成後の積層体における空気極材料310の平均粒径を小さくすることができる。また、焼成温度を高くするほど、焼成後の積層体における空気極材料310の平均粒径を大きくすることができる。このようにして、上記条件1~3の全てを満たす単セル110を製造することができる。」
カ 「【0046】
(連結度の測定方法)
本実施形態では、単セル110(燃料電池スタック100)の発電効率を評価するパラメータとして、空気極114と中間層300との連結度を使用する。この連結度とは、境界Bにおける空気極材料310と中間層材料330との連結の程度を示す。なお、連結とは、空気極材料310と中間層材料330とが、隙間無しで、あるいは、若干の隙間を介して、対面していることをいう。この連結度が高いことは、空気極材料310と中間層材料330と酸化剤ガスOGとで形成される三相界面の長さが長いことを意味し、三相界面の長さが長いことは、イオン化反応による酸化物イオンの生成量が多く、燃料電池単セルの発電効率が高いことを意味する。従って、空気極114と中間層300との連結度は、単セル110の発電効率を評価するためのパラメータの1つとして使用することができる。なお、次の理由により、連結度は50%以上であることが好ましい。図8には、連結度とIR抵抗値との関係を表すグラフが示されている。このグラフによれば、連結度が50%未満になると、空気極114と中間層300との間のIR抵抗値が極端に大きくなり、単セル110の発電効率が低下することが分かる。
【0047】
また、三相界面の長さが長いことは、分析画像Mにおいて空気極材料310と中間層材料330との第1連結箇所R1の長さの合計が長いことを意味する。従って、空気極114と中間層300との連結度は、例えば、次の式(1)で表すことができる。
連結度(%)=((空気極材料310と中間層材料330との第1連結箇所R1の長さの合計)/(境界Bの長さ-イオン伝導性材料320と中間層材料330とが連結している第2連結箇所R2の長さの合計))×100 ・・・(1)
第1連結箇所R1は、単セル110の一部分(空気極114、中間層300)の上下方向(Z方向)に平行な少なくとも1つの断面(分析画像M)において、空気極材料310と中間層材料330とが連結している連結箇所であり、その連結箇所の長さが第1連結箇所R1の長さである。第2連結箇所R2は、単セル110の一部分(空気極114、中間層300)の上下方向(Z方向)に平行な少なくとも1つの断面(分析画像M)において、イオン伝導性材料320と中間層材料330とが連結している連結箇所であり、その連結箇所の長さが第2連結箇所R2の長さである。境界Bの長さは、分析画像Mにおいて境界Bであると推測される部分の長さである。」
キ 「【0051】
これに対して、本実施形態の単セル110の空気極114および中間層300は、上述した条件1~条件3を満たしており、図9および図10の結果によれば、連結度を50%以上にすることができる。なお、連結度を55%以上にするための条件4~6(第1パターンおよび第2パターンを含む条件)は次の通りである。
条件4:空気極材料310の平均粒径は、0.2μm以上、0.4μm以下である。
条件5:中間層材料330の平均粒径は、0.4μm以上、0.6μm以下である。
条件6:空気極材料310の平均粒径と中間層材料330の平均粒径との差は、0.1μm以上、0.25μm以下である。」
ク 「【図5】
[図:0001417603000005.jpg]
【図6】
[図:0001417603000006.jpg]
【図7】
[図:0001417603000007.jpg]
」
(2)甲3に記載された発明
ア 上記(1)ア、イによれば、甲3において発明が解決しようとする課題は、空気極を構成する材料であって、電子導電性を有する空気極材料と、中間層を構成する材料であって、イオン伝導性を有する中間層材料とが連結する連結箇所の面積を大きくすることによって、発電効率を向上させた燃料電池セルを提供することである(以下、単に「課題3」という。)。
イ 甲3において、上記課題3を解決し得る実施形態である、図5において110で示された単セルに注目する。上記(1)ウの段落【0022】によれば、単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで対向する空気極(カソード)114および燃料極(アノード)116と、電解質層112と空気極114との間に配置される中間層300とを備えている。
ウ 上記(1)エの段落【0034】によれば、図6に示されるように、空気極114には、空気極材料310に加えてイオン伝導性材料320が含まれており、空気極材料310は例えばLSCFからなり、イオン伝導性材料320は、中間層材料330と同一材料である、例えばGDCからなる。なお、上記(1)ウの段落【0023】によれば、上記LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)は、電子導電性に加えてイオン伝導性を有する材料である。
エ 上記(1)キの段落【0051】によれば、空気極114及び中間層300は、上記(1)エの段落【0035】の条件1~3を満たすものであるが、連結度を55%以上とするために、次の条件4~6を満たしている。
条件4:空気極材料310の平均粒径は、0.2μm以上、0.4μm以下である。
条件5:中間層材料330の平均粒径は、0.4μm以上、0.6μm以下である。
条件6:空気極材料310の平均粒径と中間層材料330の平均粒径との差は、0.1μm以上、0.25μm以下である。
なお、連結度については、上記(1)カの段落【0047】に記載された式(1)で定義されている。
オ したがって、甲3には次の発明が記載されているものと認められる。
「電解質層112と、電解質層112を挟んで対向する空気極114および燃料極116と、電解質層112と空気極114との間に配置される中間層300とを備えている単セル110であって、
空気極114には、電子導電性に加えてイオン伝導性を有するLSCFからなる空気極材料310と、イオン伝導性を有するGDCからなるイオン伝導性材料320が含まれており、
中間層300には、GDCからなる中間層材料330が含まれており、
条件4:空気極材料310の平均粒径は、0.2μm以上、0.4μm以下であり、
条件5:中間層材料330の平均粒径は、0.4μm以上、0.6μm以下であり、
条件6:空気極材料310の平均粒径と中間層材料330の平均粒径との差は、0.1μm以上、0.25μm以下である、単セル110。」(以下、「甲3発明」という。)
「甲3発明の単セルを備えた固体電解質形燃料電池。」(以下、「甲3電池発明」という。)
「甲3発明の単セルを製造する製造方法。」(以下、「甲3製法発明」という。)
(3)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲3発明との対比
(ア)甲3発明の「空気極114」、「中間層300」、「電解質層112」、「単セル110」は、それぞれ、本件特許発明1の「電極層」、「反応防止層」、「電解質層」、「電気化学素子」に相当する。したがって、甲3発明において「単セル110」が「電解質層112と、電解質層112を挟んで対向する空気極114および燃料極116と、電解質層112と空気極114との間に配置される中間層300とを備えている」ものであることは、本件特許発明1において「電極層及び電解質層を有する電気化学素子であって、前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有」することに相当する。
(イ)上記(2)ウに記載したように、イオン伝導性材料320は中間層材料330と同一材料であるから、甲3発明は「イオン伝導性材料320」に関して、次の条件5’を満たすものであるといえる。
条件5’:イオン伝導性材料320の平均粒径は、0.4μm以上、0.6μm以下である。
そうすると、甲3発明において、「条件4:空気極材料310の平均粒径は、0.2μm以上、0.4μm以下であり」、「条件5’:イオン伝導性材料320の平均粒径は、0.4μm以上、0.6μm以下であ」ることは、空気極材料310が平均粒径400nm以下の小径の粒子であるとともに、イオン伝導性材料320が平均粒径400nm以上の大径の粒子であることを意味している。
したがって、甲3発明において、「空気極114には、電子導電性に加えてイオン伝導性を有するLSCFからなる空気極材料310と、イオン伝導性を有するGDCからなるイオン伝導性材料320が含まれており」、「条件4:空気極材料310の平均粒径は、0.2μm以上、0.4μm以下であり」、及び「条件5’:イオン伝導性材料320の平均粒径は、0.4μm以上、0.6μm以下であ」ることと、本件特許発明1の「前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であ」ることとは、「前記電極層が小径の粒子と大径の粒子とをそれらが混合された状態で含有」する点で共通している。
(ウ)甲3発明の「空気極114には、電子導電性に加えてイオン伝導性を有するLSCFからなる空気極材料310と、イオン伝導性を有するGDCからなるイオン伝導性材料320が含まれて」いることは、上記(イ)の検討も踏まえると、本件特許発明1の「前記小粒子および前記大粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質である」ことに相当する。
(エ)以上の検討によれば、本件特許発明1と甲3発明との一致点と相違点は次のとおりである。
(一致点)
「電極層及び電解質層を有する電気化学素子であって、
前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有し、
前記電極層が小径の粒子と大径の粒子とをそれらが混合された状態で含有し、前記小径の粒子および前記大径の粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質である電気化学素子」の点。
(相違点3)
小径の粒子の電極層における粒径が、本件特許発明1では、「200nm以下であ」るのに対して、甲3発明では、「0.2μm以上、0.4μm以下であ」る点。
(相違点4)
大径の粒子の電極層における粒径が、本件特許発明1では、「500nm以上であ」るのに対して、甲3発明では、「0.4μm以上、0.6μm以下であ」る点。
イ 本件特許発明1が甲3に記載された発明ではないことについて
甲3発明において、「空気極材料310の平均粒径は、0.2μm以上、0.4μm以下であ」ることが、必ず粒径が200nm以下の空気極材料310が存在することを意味するとはいえないから、相違点3は、本件特許発明1との実質的な相違点である。
また、甲3発明において、「イオン伝導性材料320の平均粒径は、0.4μm以上、0.6μm以下であ」ることが、必ず粒径が500nm以上のイオン伝導性材料320が存在することを意味するとはいえないから、相違点4も、本件特許発明1との実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は、甲3に記載された発明であるとはいえない。
ウ 相違点3、4の容易想到性について
(ア)甲3発明において、空気極材料310の好ましい平均粒径を「0.2μm以上、0.4μm以下」の範囲から任意に選択し得るから、平均粒径の好ましい値として当該範囲から0.2μmを選択し得るところ、この場合には、必然的に空気極114に粒径200nm以下の空気極材料310が含まれることになるから、甲3発明において、「小径の粒子の前記電極層における粒径」を「200nm以下」とする動機は存在する。ただし、空気極材料310の好ましい平均粒径を0.2μm=200nmとした場合、条件6によって、イオン伝導性材料320の好ましい平均粒径は最大でも0.2μm+0.25μm=0.45μm=450nmしか選択することができないので、この場合、イオン伝導性材料320が必ず粒径500nm以上の粒子を含むとはいえない。
(イ)また、甲3発明において、イオン伝導性材料320の好ましい平均粒径を「0.4μm以上、0.6μm以下」の範囲から任意に選択し得るから、平均粒径の好ましい値として当該範囲から0.5μmを選択し得るところ、この場合には、必然的に空気極114に粒径500nm以上のイオン伝導性材料320が含まれることになるから、甲3発明において、「大径の粒子の前記電極層における粒径」を「500nm以上」とする動機も存在する。ただし、イオン伝導性材料320の好ましい平均粒径を0.5μm=500nmとした場合、条件6によって、空気極材料310の好ましい平均粒径は最小でも0.5μm-0.25μm=0.25μm=250nmしか選択することができないので、この場合、空気極材料310が必ず粒径200nm以下の粒子を含むとはいえない。
(ウ)そして、甲3発明は、「条件4:空気極材料310の平均粒径は、0.2μm以上、0.4μm以下である。」、「条件5:中間層材料330の平均粒径は、0.4μm以上、0.6μm以下である。」及び「条件6:空気極材料310の平均粒径と中間層材料330の平均粒径との差は、0.1μm以上、0.25μm以下である。」との条件を満たすことにより、連結度(段落【0047】の式(1)参照)を55%以上と高くしたものであり、「連結度が高いことは、空気極材料310と中間層材料330と酸化剤ガスOGとで形成される三相界面の長さが長いことを意味し、三相界面の長さが長いことは、イオン化反応による酸化物イオンの生成量が多く、燃料電池単セルの発電効率が高いことを意味する」(【0046】参照。)。つまり、甲3発明は、空気極114と中間層300の界面における、空気極材料310と中間層材料330と酸化剤ガスOGで形成される三相界面の長さ(図7における第1連結箇所R1の長さ)を長くすることによって、燃料電池セルの発電効率を上げるものである。
(エ)一方、本件特許発明1の電気化学素子は、電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し、小粒子の電極層における粒径が200nm以下であり、大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり、小粒子および前記大粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質であることによって、電極層は、三次元的なガスの拡散パスが確実に形成されており、三相界面長が長い高性能なものとなるので、これによって高性能な電気化学素子を低コストで実現することができるという優れた効果を奏するものである。
(オ)そうすると、甲3発明において、上記(ア)、(イ)に記載したように、甲3発明において、それぞれ別個に、「小粒子の前記電極層における粒径」を「200nm以下」とし、「大粒子の前記電極層における粒径」を「500nm以上」とする動機があるとしても、条件6を満たす必要があるためにこれら小粒子及び大粒子を同時に上記の粒径にすることはできない。そして、このように粒径を調整することによって、空気極114と中間層300の界面における三相界面の長さを長くすることによって、燃料電池セルの発電効率を上げることができることが予測されるに留まり、上記(エ)に記載したように、電極層を、三次元的なガスの拡散パスが確実に形成されており、三相界面長が長い高性能なものとすることができ、これによって高性能な電気化学素子を低コストで実現するという優れた効果を奏することについて予測可能であったということはできない。
(カ)したがって、本件特許発明1は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、ここウにおける判断は甲1、甲6やその他の甲号証の記載を参照しても変更されない。
(4)本件特許発明5、6について
本件特許発明5、6も本件特許発明1と同様に「小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり」及び「大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり」との特定事項を備えているから、本件特許発明5、6と甲3発明とを対比すると、少なくとも、上記相違点3、4と同様の相違点で相違している。
そうすると、本件特許発明1について上記(3)で検討したのと同様の理由により、本件特許発明5、6は、甲3に記載された発明であるとはいえず、また、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明1、5、6を引用する本件特許発明2~4、7~10、12~18について
本件特許発明1を引用することによって、本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明2~4、7~10、12~18と、本件特許発明5、6を引用することによって、本件特許発明5、6の全ての特定事項を備えた本件特許発明7~10、12~18とを、甲3発明、甲3電池発明、又は甲3製法発明と対比すると、少なくとも、上記相違点3、4と同様の相違点で相違している。
そうすると、本件特許発明1について上記(3)で検討したのと同様の理由により、本件特許発明1、5、6を引用する本件特許発明2~4、7~10、12~18は、甲3に記載された発明であるとはいえず、また、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)小括
以上のとおり、本件特許発明1~10、12~18は、甲3に記載された発明であるとはいえず、甲3に記載された発明と甲1及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、この点で、本件特許発明1~10、12~18は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものともいえないので、申立理由7、8によっては、本件特許の請求項1~10、12~18に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由9、10(甲4を主たる引用例とする新規性、進歩性)について
(1)甲4の記載事項
本件特許の優先日前に公知となった甲4には、「燃料電池用正極材料、これを含む燃料電池用正極および固体酸化物形燃料電池」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、正極の分極抵抗を低下させることができる燃料電池用正極材料を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、前記燃料電池用正極材料を含む燃料電池用正極を提供することである。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、前記燃料電池用正極材料を含む固体酸化物形燃料電池を提供することである。」
イ 「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、ペロブスカイト型金属酸化物と、互いに異なる少なくとも2種のランタノイド異種元素によってドーピングされ、前記ランタノイド異種元素の平均イオン半径が、0.90~1.02Åであるセリア系金属酸化物と、を含む燃料電池用正極材料素材が提供される。」
ウ 「【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】 一般的なペロブスカイト型化合物のABO3結晶構造を示す概略図である。
【図2】 正極の三相界面を示す概念図である。
【図3】 本発明の一実施形態による固体酸化物形燃料電池の構造を概略的に図示した断面図である。
…」
エ 「【0070】
前述のような本発明の一実施形態による燃料電池用正極材料は、固体酸化物形燃料電池の正極10(図2参照)に適用されれば、基本的に、ペロブスカイト型金属酸化物、セリア系金属酸化物、および酸素ガスの三相界面で、酸素ガスが酸素イオンに還元される正極反応が起こる。
【0071】
一般的に、正極での三相界面(図2参照)では、正極に供給された酸素(O2)が電子伝導体であるペロブスカイト型金属酸化物11を介して移動した電子と結合し、酸素陰イオン(O2-)に還元され、酸素陰イオンは、セリア系金属酸化物12を介して、電解質(または正極と電解質との間に介在する他の機能層)13に移動することになり、酸素、ペロブスカイト型金属酸化物11およびセリア系金属酸化物12が接する地点、すなわち、三相界面(TPB)がまさに酸素の還元反応が起こるところになる。前記燃料電池用正極材料の場合、ペロブスカイト型金属酸化物の非化学量論化によって、ペロブスカイト型金属酸化物が、電子伝導体の役割だけではなく、イオン移動およびイオン伝達というイオン伝導体の役割を同時に果たすことができ、これと共に使われる二重ドーピングされたセリア系金属酸化物が、高イオン伝導性を有しているために、燃料電池用正極材料のイオン伝導性向上に寄与し、これを介して、正極抵抗を低下させることができる。」
オ 「【0078】
図3は、一実施形態による固体酸化物形燃料電池の構造を図示した断面概略図である。図3を参照すれば、固体酸化物形燃料電池20は、固体酸化物電解質21を中心に、両側に正極22および負極23が配置される。
…
【0084】
前記正極(空気極)22は、酸素ガスが酸素イオンに還元され、正極22に空気を続けて流し、一定の酸素分圧を維持するように維持させる。前記正極22は、前述のように、金属サイトに欠陥が生じ、非化学量論化されたペロブスカイト型金属酸化物と、二重ドーピングされたセリア系金属酸化物とを含む燃料電池用正極材料と、を含む。前記燃料電池用正極材料については、上述と同様であるので、これに係わる具体的な説明は省略する。
【0085】
前記正極22の厚さは、通常1~100μmである。例えば、前記第1正極22の厚さは、5~50μmであることが好ましい。
【0086】
前記正極22は、酸素ガスが拡散して入っていくことができるように、多孔性を有することが好ましい。
【0087】
本発明の一実施形態によれば、前記正極22と固体酸化物電解質21との間には、機能層として反応防止層24をさらに含んでもよい。前記反応防止層24は、正極22と固体酸化物電解質21との反応を防止するかまたは抑制し、正極22と固体酸化物電解質21との間に不導体層が発生することを防止するかまたは抑制する。かような反応防止層24は、例えば、ガドリニウムドープされたセリア(GDC)、サマリウムドープされたセリア(SDC)およびイットリウムドープされたセリア(YDC)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。前記反応防止層24は、厚さが通常、1~50μmである。例えば、前記反応防止層24の厚さは、2~10μmであることが好ましい。」
カ 「【図2】
[図:0001417603000008.jpg]
【図3】
[図:0001417603000009.jpg]
」
(2)甲4に記載された発明
ア 上記(1)アによれば、甲4において発明が解決しようとする課題は、正極の分極抵抗を低下させることができる、燃料電池用正極材料(燃料電池用正極、固体酸化物形燃料電池も含む。)を提供することである(以下、単に「課題4」という。)。
イ 上記(1)イによれば、上記課題4は、ペロブスカイト型金属酸化物と、互いに異なる少なくとも2種のランタノイド異種元素によってドーピングされ、前記ランタノイド異種元素の平均イオン半径が、0.90~1.02Åであるセリア系金属酸化物と、を含む燃料電池用正極材料素材によって解決し得る。
ウ このような燃料電池用正極材料素材によって課題4が解決し得るのは、上記(1)エの段落【0071】によれば、ペロブスカイト型金属酸化物の非化学量論化によって、ペロブスカイト型金属酸化物が、電子伝導体の役割だけではなく、イオン移動およびイオン伝達というイオン伝導体の役割を同時に果たすことができ、これと共に使われる二重ドーピングされたセリア系金属酸化物が、高イオン伝導性を有しているために、燃料電池用正極材料のイオン伝導性向上に寄与し、これを介して、正極抵抗を低下させることができるからである。
エ 甲4の図3で示された一実施形態の固体酸化物形燃料電池20に注目する。上記(1)オによれば、固体酸化物形燃料電池20は、図3に示されるように、固体酸化物電解質21を中心に、両側に正極22および負極23が配置されており、正極22と固体酸化物電解質21との間に反応防止層24をさらに含んでいるものである。また、上記正極22は、金属サイトに欠陥が生じ、非化学量論化されたペロブスカイト型金属酸化物と、二重ドーピングされたセリア系金属酸化物とを含む燃料電池用正極材料とを含むものである。
オ 上記(1)ウ、エによれば、図2は、正極10の三相界面の状態を示す概念図であるところ、図3の正極22の三相界面の状態も図2と同様に説明されることは明らかである。そして、図2の正極10は、ペロブスカイト型金属酸化物11およびセリア系金属酸化物12を含んでおり、これらはいずれも、比較的大きい粒子と比較的小さい粒子を含むことが看取できる。ここで、上記ペロブスカイト型金属酸化物は、電子伝導性及びイオン伝導性を有する材料であり、二重ドーピングされたセリア系金属酸化物は高イオン伝導性を有する材料であるから、上記ウに記載したように、この正極10は、イオン伝導性が向上しており、そのため、正極抵抗が低下しているものである。
カ したがって、甲4には次の発明が記載されているものと認められる。
「固体酸化物電解質21を中心に、一方に正極22が配置され、他方に負極23が配置され、正極22と固体酸化物電解質21との間に反応防止層24をさらに含んでいる固体酸化物形燃料電池20であって、
上記正極22は、金属サイトに欠陥が生じ、非化学量論化されたペロブスカイト型金属酸化物と、二重ドーピングされたセリア系金属酸化物とを含む燃料電池用正極材料とを含んでおり、
上記ペロブスカイト型金属酸化物は、比較的大きい粒子と比較的小さい粒子を含み、
上記セリア系金属酸化物は、比較的大きい粒子と比較的小さい粒子を含み、
上記ペロブスカイト型金属酸化物は、電子伝導性及びイオン伝導性を有する材料であり、
上記セリア系金属酸化物は高イオン伝導性を有する材料である、
固体酸化物形燃料電池20。」(以下、「甲4発明」という。)
「甲4発明の固体酸化物形燃料電池20を製造する製造方法。」(以下、「甲4製法発明」という。)
(3)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲4発明との対比
(ア)甲4発明の「正極22」、「反応防止層24」、「固体酸化物電解質21」、「固体酸化物形燃料電池20」は、それぞれ、本件特許発明1の「電極層」、「反応防止層」、「電解質層」、「電気化学素子」に相当する。したがって、甲4発明において「固体酸化物形燃料電池20」が「固体酸化物電解質21を中心に、一方に正極22が配置され」、「正極22と固体酸化物電解質21との間に反応防止層24をさらに含んでいる」ものであることは、本件特許発明1において「電気化学素子」が「電極層及び電解質層を有」しており、「前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有」することに相当する。
(イ)甲4発明において、「上記正極22」が「金属サイトに欠陥が生じ、非化学量論化されたペロブスカイト型金属酸化物と、二重ドーピングされたセリア系金属酸化物とを含む燃料電池用正極材料とを含んでおり、上記ペロブスカイト型金属酸化物は、比較的大きい粒子と比較的小さい粒子を含み、上記セリア系金属酸化物は、比較的大きい粒子と比較的小さい粒子を含」んでいることと、本件特許発明1において、「前記電極層が小粒子と大粒子とをそれらが混合された状態で含有し」ていることとは、「前記電極層が小径の粒子と大径の粒子とをそれらが混合された状態で含有し」ている点で共通する。
(ウ)甲4発明において、「上記ペロブスカイト型金属酸化物は、電子伝導性及びイオン伝導性を有する材料であり、上記セリア系金属酸化物は高イオン伝導性を有する材料である」ことと、本件特許発明1において、「前記小粒子および前記大粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質である」こととは、「前記小径の粒子および前記大径の粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質である」点で共通する。
(エ)以上の検討によれば、本件特許発明1と甲4発明との一致点と相違点は次のとおりである。
(一致点)
「電極層及び電解質層を有する電気化学素子であって、
前記電極層と前記電解質層との間に配置された反応防止層を有し、
前記電極層が小径の粒子と大径の粒子とをそれらが混合された状態で含有し、
前記小径の粒子および前記大径の粒子は、イオン導電性または電子伝導性を有する物質である電気化学素子」の点。
(相違点5)
小径の粒子と大径の粒子の粒径について、本件特許発明1では、「前記小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり、前記大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であ」るのに対して、甲4発明では、「ペロブスカイト型金属酸化物」が含む「比較的大きい粒子と比較的小さい粒子」の粒径が特定されておらず、また、「セリア系金属酸化物」が含む「比較的大きい粒子と比較的小さい粒子」の粒径が特定されていない点。
イ 本件特許発明1が甲4に記載された発明ではないことについて
甲4発明において、正極に含まれるペロブスカイト型金属酸化物とセリア系金属酸化物の粒径が特定されておらず不明であるから、相違点5は本件特許発明1と甲4発明の実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は甲4に記載された発明であるとはいえない。
ウ 相違点5の容易想到性について
甲4の図2は、正極10の三相界面の状態を示す概念図に過ぎず、SEM像のように実際の正極の状態を示すものではないから、図2から当該正極10に含まれるペロブスカイト型金属酸化物及びセリア系金属酸化物のそれぞれが、比較的大きい粒子と比較的小さい粒子を含んでいることが看取できたとしても、それら粒子の実際の粒径がどの程度の大きさであるかは不明である。
そして、甲4において、上記比較的大きい粒子の粒径を500nm以上とし、上記比較的小さい粒子の粒径を200nm以下とすることを動機付けるような記載を発見することができず、そのような粒径とすることが技術常識であるともいえない。
したがって、本件特許発明1は、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、申立人は、特許異議申立書の第98~100頁のivにおいて、甲4の段落【0071】に記載された、三相界面によって正極抵抗が低下するとの作用効果が、本件明細書の段落【0007】、【0021】に記載された、電極層が、三次元的なガスの拡散パスを有する高性能なものであり、これによって高性能な電気化学素子を低コストで実現するという作用効果と同じであるから、甲4発明の正極に含まれる「ペロブスカイト型金属酸化物」及び「セリア系金属酸化物」が含む「比較的大きい粒子」の粒径が500nm以上であり、「比較的小さい粒子」の粒径が200nm以下である蓋然性が高いと主張しているが、甲4発明の正極が、三次元的なガスの拡散パスを有する高性能なものであることや、甲4発明の開回路電圧や出力が本件特許発明の実施例(本件明細書の段落【0091】参照)と同程度であることについて何ら検証しておらず、作用効果が本件特許発明と同じとはいえず、上記主張は前提を欠いているから採用できない。
また、ここウにおける判断は甲1、甲6やその他の甲号証の記載を参照しても変更されない。
(4)本件特許発明5、6について
本件特許発明5、6も本件特許発明1と同様に「小粒子の前記電極層における粒径が200nm以下であり」及び「大粒子の前記電極層における粒径が500nm以上であり」との特定事項を備えているから、本件特許発明5、6と甲4発明とを対比すると、少なくとも、上記相違点5と同様の相違点で相違している。
そうすると、本件特許発明1について上記(3)で検討したのと同様の理由により、本件特許発明5、6は、甲4に記載された発明であるとはいえず、また、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明1、5、6を引用する本件特許発明2~4、7~10、12~18について
本件特許発明1を引用することによって、本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明2~4、7~10、12~18と、本件特許発明5、6を引用することによって、本件特許発明5、6の全ての特定事項を備えた本件特許発明7~10、12~18とを、甲4発明又は甲4製法発明と対比すると、少なくとも、上記相違点5と同様の相違点で相違している。
そうすると、本件特許発明1について上記(3)で検討したのと同様の理由により、本件特許発明1、5、6を引用する本件特許発明2~4、7~10、12~18は、甲4に記載された発明であるとはいえず、また、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)小括
以上のとおり、本件特許発明1~10、12~18は、甲4に記載された発明であるとはいえず、甲4に記載された発明と甲1及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、この点で、本件特許発明1~10、12~18は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものともいえないので、申立理由9、10によっては、本件特許の請求項1~10、12~18に係る特許を取り消すことはできない。
第8 むすび
以上のとおり、令和 5年 6月 5日付けで通知した取消理由、令和 6年 1月15日付けで通知した取消理由(決定の予告)及び特許異議の申立ての理由のいずれによっても、本件特許の請求項1~10、12~18に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~10、12~18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正によって、請求項11は削除され、特許異議の申立ての対象となる請求項11は存在しないものとなったから、請求項11に係る特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700307