特許異議申立
2023-700221
静電チャック
- 審判番号
- 2023-700221
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-100807
- 登録番号
- 7140297
- 請求日
- 2023年02月27日
- 審決日
- 2024年04月26日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】TOTO株式会社
- 【権利者代理人】日向寺 雅彦
- 【異議申立人】清水 朋子
- 【異議申立人】鈴木 啓子
- 審判長/審判官
- 審判長 河本 充雄
- 審判官 恩田 春香
- 審判官 棚田 一也
- 分類
- P1651.536-Z (H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第44条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7140297号発明「静電チャック」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7140297号の請求項1~11に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7140297号の請求項1~11に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和2年3月23日(優先権主張 平成31年3月28日)に出願された特許出願(特願2020-51447号、以下、「原出願」という。)の一部を、令和3年12月9日に特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願(特願2021-200294号)とし、更にその一部を、令和4年6月23日に特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願(特願2022-100807号)としたものであって、令和4年9月12日にその特許権の設定登録がされ、令和4年9月21日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 5年 2月27日 : 特許異議申立人清水朋子による請求項1~11に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 5年 3月 9日 : 特許異議申立人鈴木啓子による請求項1~11に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 5年 6月16日付け: 取消理由通知書
令和 5年 8月18日 : 特許権者による意見書(以下、「意見書A」という。)の提出
令和 5年12月 6日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
令和 6年 2月 6日 : 特許権者による意見書(以下、「意見書B」という。)の提出
第2 本件発明
本件特許の請求項1~11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明11」という。)は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~11に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
セラミック誘電体基板と、
前記セラミック誘電体基板を支持する金属製のベースプレートと、
前記セラミック誘電体基板と前記ベースプレートとの間に設けられ、樹脂材料を含む接合層と、
を備え、
前記樹脂材料は、シリコーンを含み、
前記シリコーンは、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造を有し、
-60℃における前記接合層の接合強度β1は、0.4MPa以上10MPa以下であって、-60℃における前記接合層の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下であることを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
前記接合強度β1は、0.4MPa以上2.0MPa以下であることを特徴とする請求項1記載の静電チャック。
【請求項3】
セラミック誘電体基板と、
前記セラミック誘電体基板を支持する金属製のベースプレートと、
前記セラミック誘電体基板と前記ベースプレートとの間に設けられ、樹脂材料を含む接合層と、
を備え、
前記樹脂材料は、シリコーンを含み、
前記シリコーンは、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造を有し、
25℃における前記接合層の接合強度β2に対する-60℃における前記接合層の接合強度β1の比β1/β2は、0.6以上10以下であって、-60℃における前記接合層の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下であることを特徴とする静電チャック。
【請求項4】
前記比β1/β2は、0.8以上であることを特徴とする請求項3記載の静電チャック。
【請求項5】
前記シリコーンは、シロキサン骨格にフェニル基が結合した分子構造を有する、請求項1~4のいずれか1つに記載の静電チャック。
【請求項6】
25℃における前記接合層の弾性率γ2に対する-60℃における前記接合層の弾性率γ1の比γ1/γ2は、0.6以上30以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1つに記載の静電チャック。
【請求項7】
-60℃における前記接合層の伸び率α1は、120%以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1つに記載の静電チャック。
【請求項8】
25℃における前記接合層の伸び率α2に対する-60℃における前記接合層の伸び率α1の比α1/α2は、0.60以上であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1つに記載の静電チャック。
【請求項9】
-60℃における前記接合層の接合強度β1は、0.4MPa以上1.9MPa以下であることを特徴とする請求項3~8のいずれか1つに記載の静電チャック。
【請求項10】
前記セラミック誘電体基板は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、及び酸化イットリウムのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1~9のいずれか1つに記載の静電チャック。
【請求項11】
前記セラミック誘電体基板は、酸化アルミニウムを含むことを特徴とする請求項10記載の静電チャック。」
第3 取消理由の概要
請求項1~11に係る特許に対して、当審が令和6年12月6日付けの取消理由通知書(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1(実施可能要件)本件特許に係る願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明には、本件発明1~11について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、請求項1~11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、請求項1~11に係る特許は、取り消されるべきものである。
第4 当審の判断
1 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)本件発明1について
ア 判断手法
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が本件特許明細書の発明の詳細な説明及び本件特許に係る願書に添付した図面(以下、単に「図面」ともいう。)の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、その物を作れるように、かつ、使用できるように、具体的に記載されていることが必要であると解される。
イ 本件発明1は、「樹脂材料を含む接合層」を備え、「前記樹脂材料は、シリコーンを含み、前記シリコーンは、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造を有」するものであるところ、その他の組成等については特定されておらず、「-60℃における前記接合層の接合強度β1は、0.4MPa以上10MPa以下であって」、「-60℃における前記接合層の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下である」という2つの特性(パラメータ)により特定されている。
ウ 本件発明1が備える「接合層」の組成について、本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」ともいう。)には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
「【0045】
接合層60は、樹脂材料を含む。実施形態において、接合層60は、極低温下において柔軟性を保つことが可能に構成される。例えば、接合層60は、シリコーン系、アクリル系、変性シリコーン系、あるいはエポキシ系の高分子材料であって炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、ケイ素(Si)、及び酸素(O)の少なくとも1つを主成分とする高分子材料を含む。
ここで、本願明細書において、「極低温」とは、-60℃以下の低温環境をいう。具体的には、-60℃~-120℃をいう。
【0046】
接合層60は、シリコーンを含むことが好ましい。接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むことで、極低温の環境下において、接合層60の柔軟性が維持されやすい。これにより、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れをより確実に抑制できる。
【0047】
接合層60において、シリコーンとして、シロキサン骨格に種々の官能基が結合した分子構造を有するシリコーンを用いることができる。より具体的には、シロキサン骨格に結合した官能基は、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。接合層60にこのような官能基を含むシリコーンを用いることで、極低温の環境下において、接合層60の耐寒性、強度、伸び率等を高めることができる。」
エ 上記【0045】~【0047】には、「接合層」における樹脂材料については、シリコーンを含むことが好ましいこと、接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むことで、極低温の環境下において、接合層60の柔軟性が維持されやすいこと、さらに、シリコーンとして、シロキサン骨格に種々の官能基が結合した分子構造を有するシリコーンを用いることができること、より具体的には、シロキサン骨格に結合した官能基は、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つを含むことが好ましいこと、接合層60にこのような官能基を含むシリコーンを用いることで、極低温の環境下において、接合層60の耐寒性、強度、伸び率等を高めることができることが記載されている。
そうすると、発明の詳細な説明には、接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むことで、極低温の環境下において、接合層60の柔軟性が維持されやすいこと、また、接合層60に、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つの官能基が結合した分子構造を有するシリコーンを用いることで、極低温の環境下において、接合層60の耐寒性、強度、伸び率等を高めることができることは、一応記載されているといえる。
しかし、上記【0045】~【0047】には、「接合層」が含む「シリコーン」の具体的な成分やその配合、分子量、シロキサン骨格に結合する官能基の含有量、並びに、「シリコーン」を含む「接合層」について、その製造方法及び製造条件は全く記載されていない。
また、上記【0045】~【0047】には、「接合層」が含む「シリコーン」のシロキサン骨格に結合する官能基の種類が、「-60℃における前記接合層の接合強度β1」(以下、「接合強度β1」ともいう。)及び「-60℃における前記接合層の伸び率α1」(以下、「伸び率α1」ともいう。)にどのように寄与するのかについては何ら記載も示唆もされていない。
さらに、上記【0045】~【0047】には、「接合層」が含む「シリコーン」の成分やその配合、分子量、シロキサン骨格に結合する官能基の含有量、並びに、「シリコーン」を含む「接合層」の製造方法及び製造条件が、「接合強度β1」及び「伸び率α1」にどのように寄与するかについても何ら記載も示唆もされていない。
オ 次に、本件発明1の「接合層」の「接合強度β1」及び「弾性率γ1」について、発明の詳細な説明及び本件特許に係る願書に添付した図面には、以下の記載がある。
「【0096】
図5及び図6は、実施形態に係る静電チャックの接合層の一例の物性を表すグラフである。
図6は、図5のA部を拡大したグラフである。
図7は、実施形態に係る静電チャックの接合層の一例の物性を表す表である。
実施例1は、実施形態に係る静電チャック110の一例である。参考例1は、実施例1とは物性が異なる接合層60を有する静電チャックの一例である。
【0097】
図2(a)~図2(c)及び図3に示した測定・算出方法で測定・算出した実施例1及び参考例1の接合層60の伸び率α、接合強度β、及び弾性率γを図5~図7に示す。
【0098】
また、実施例1及び参考例1に対して、剥離/割れ試験を行った結果を図7に示す。剥離/割れ試験では、セラミック誘電体基板11とベースプレート50とを接合層60で接合したサンプルを作製し、サンプルを-60℃に少なくとも3000時間放置した後、室温に戻し、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離の有無、及び、セラミック誘電体基板11の割れの有無を評価した。接合層60の剥離の有無は、接合層60の断面を顕微鏡で観察しクラックなどの有無を評価する直接観察と、超音波を当てて接合層60の内部のクラックなどの有無を評価する超音波探傷と、で行った。直接観察及び超音波探傷の少なくともいずれかでクラックが見られたものを剥離「あり」、直接観察及び超音波探傷の両方でクラックが見られなかったものを剥離「なし」と評価した。また、セラミック誘電体基板11の割れの有無は、セラミック誘電体基板11を目視で観察し、割れが見られたものを割れ「あり」、割れが見られなかったものを割れ「なし」と評価した。
【0099】
図5~図7に表したように、参考例1において、伸び率α1は107%、伸び率α2は195%、伸び率αの比α1/α2は0.5である。参考例1においては、接合層60がこのような伸び率α(伸び率比)を有するため、室温(25℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していないものの、極低温(-60℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生している。
【0100】
これに対し、実施例1において、伸び率α1は225%、伸び率α2は190%、伸び率αの比α1/α2は1.2である。実施例1においては、接合層60がこのような伸び率α(伸び率比)を有するため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していない。
【0101】
このように、接合層60の伸び率α1を120%以上、または、伸び率αの比α1/α2を0.60以上にすることで、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制することができる。
【0102】
また、図5~図7に表したように、参考例1において、接合強度β1は29.8MPa、接合強度β2は0.56MPa、接合強度βの比β1/β2は53.2である。参考例1においては、接合層60がこのような接合強度β(接合強度比)を有するため、室温(25℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していないものの、極低温(-60℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生している。
【0103】
これに対し、実施例1において、接合強度β1は1.42MPa、接合強度β2は0.83MPa、接合強度βの比β1/β2は1.7である。実施例1においては、接合層60がこのような接合強度β(接合強度比)を有するため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していない。
【0104】
このように、接合層60の接合強度β1を0.4MPa以上10MPa以下にすることで、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制することができる。
【0105】
また、図5~図7に表したように、参考例1において、弾性率γ1は28MPa、弾性率γ2は0.29MPa、弾性率γの比γ1/γ2は96.6である。参考例1においては、接合層60がこのような弾性率γ(弾性率比)を有するため、室温(25℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していないものの、極低温(-60℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生している。
【0106】
これに対し、実施例1において、弾性率γ1は0.63MPa、弾性率γ2は0.44MPa、弾性率γの比γ1/γ2は1.4である。実施例1においては、接合層60がこのような弾性率γ(弾性率比)を有するため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していない。
【0107】
このように、接合層60の弾性率γ1を0.1MPa以上10MPa以下、または、弾性率γの比γ1/γ2を0.6以上30以下にすることで、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制することができる。
【0108】
図8は、実施形態に係る静電チャックの接合層の一例の物性を表す表である。
実施例2~14は、実施形態に係る静電チャック110の一例である。
実施例1及び参考例1と同様にして測定・算出した実施例2~14の接合層60の伸び率α、接合強度β、及び弾性率γを図8に示す。また、実施例1及び参考例1と同様にして剥離/割れ試験を行った結果を図8に示す。
【0109】
図8に表したように、実施例2~14において、伸び率α1は175%以上247%以下、伸び率α2は150%以上280%以下、伸び率αの比α1/α2は0.80以上1.17以下である。実施例2~14においては、接合層60がこのような伸び率α(伸び率比)を有するため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していない。
【0110】
このように、接合層60の伸び率α1を120%以上、または、伸び率αの比α1/α2を0.60以上にすることで、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制することができる。
【0111】
図8に表したように、実施例2~14において、接合強度β1は0.70MPa以上1.90MPa以下、接合強度β2は0.51MPa以上1.60MPa以下、接合強度βの比β1/β2は0.8以上1.9以下である。実施例2~14においては、接合層60がこのような接合強度β(接合強度比)を有するため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していない。
【0112】
このように、接合層60の接合強度β1を0.4MPa以上10MPa以下にすることで、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制することができる。
【0113】
図8に表したように、実施例2~14において、弾性率γ1は0.34MPa以上1.02MPa以下、弾性率γ2は0.19MPa以上0.81MPa以下、弾性率γの比γ1/γ2は0.9以上2.1以下である。実施例2~14においては、接合層60がこのような弾性率γ(弾性率比)を有するため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していない。
【0114】
このように、接合層60の弾性率γ1を0.1MPa以上10MPa以下、または、弾性率γの比γ1/γ2を0.6以上30以下にすることで、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制することができる。」
「【図5】
[図:0001412282000001.jpg]
【図6】
[図:0001412282000002.jpg]
【図7】
[図:0001412282000003.jpg]
【図8】
[図:0001412282000004.jpg]
」
カ 上記【0096】~【0114】及び【図5】~【図8】には、参考例1では、接合強度β1は29.8MPaであり、弾性率γ1は28MPaであるため、室温(25℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していないものの、極低温(-60℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生している(【0102】、【0105】、【図7】)のに対し、実施例1では、接合強度β1は1.42MPaであり、弾性率γ1は0.63MPaであるため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していないこと(【0103】、【0106】、【図7】)、実施例2~14では、接合強度β1は0.70MPa以上1.90MPa以下であり、弾性率γ1は0.34MPa以上1.02MPa以下であるため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していないこと(【0111】、【0113】、【図8】)、接合層60の接合強度β1を0.4MPa以上10MPa以下にすることで、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制することができること(【0112】)が記載されている。
また、上記【図7】、【図8】には、接合強度β1が0.4MPa以上10MPa以下であって、弾性率γ1が0.1MPa以上0.63MPa以下である実施例1~3、5、11~14が記載されている。
しかし、上記【0096】~【0114】及び【図5】~【図8】には、参考例1及び実施例1~3、5、11~14の「接合層」が含む「シリコーン」の具体的な成分やその配合、「接合層」の製造方法及び製造条件は全く記載されていないし、「接合強度β1」及び「弾性率γ1」をどのようにして調整したのかについても全く記載されていない。
また、上記【0096】~【0114】及び【図5】~【図8】には、上記のとおり、「接合層」が含む「シリコーン」の具体的な成分やその配合が記載されていないのであるから、参考例1及び実施例1~3、5、11~14の「接合層」における樹脂材料が、シリコーンを含むものであること、当該シリコーンとして、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造を有するものであることも記載されていない。
そうすると、上記エにおいて、発明の詳細な説明(上記【0045】~【0047】)に一応記載されているとした、「接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むことで、極低温の環境下において、接合層60の柔軟性が維持されやすいこと」、及び、「接合層60に、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つの官能基が結合した分子構造を有するシリコーンを用いることで、極低温の環境下において、接合層60の耐寒性、強度、伸び率等を高めることができること」は、いずれも上記実施例1~3、5、11~14において裏付けられているとはいえない。
また、「接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むこと」、又は、「接合層60に、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つの官能基が結合した分子構造を有するシリコーンを用いること」で、「-60℃における」「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」であって、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」である「接合層」が得られることは、いずれも上記実施例1~3、5、11~14において裏付けられているとはいえない。
キ 以上によれば、発明の詳細な説明及び図面には、「接合層」における好ましい樹脂材料としての「シリコーン」、及び「接合層」が「シリコーン」を含む場合のシロキサン骨格に結合する好ましい官能基の種類は例示されているものの、その具体的な成分やその配合、製造方法及び製造条件、分子量、シロキサン骨格に結合する官能基の含有量は全く記載されておらず、それらが、「接合強度β1」及び「弾性率γ1」にどのように寄与するのかについて、また、「接合強度β1」及び「弾性率γ1」をどのように調整するかについては何ら記載も示唆もされていない。
そうすると、発明の詳細な説明及び図面には、「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造を有」する「シリコーンを含み」、「-60℃における」「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」であって、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」である「接合層」を製造できるように、具体的に記載されているとはいえない。
そして、「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造を有」する「シリコーンを含み」、「-60℃における」「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」であって、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」である「接合層」を製造する方法が、本件特許に係る原出願の出願時において、技術常識であったとはいえない。
ク 意見書A・意見書Bにおける特許権者の主張
(ア)意見書Aにおける特許権者の主張
「乙1号証(実験成績証明書)に記載したように、追試験において、トーレシリコーン社製の「SE955U」の-60℃における接合強度及び弾性率を測定したところ、「SE955U」の-60℃における接合強度は「0.356MPa」、-60℃における弾性率は「0.1MPa」でした。」(意見書A4ページ18~21行)
「本件特許の出願以前に、-60℃における接合強度β1が0.4MPa以上10MPa以下であって、-60℃以上における弾性率γ1が0.1MPa以上0.63MPa以下であるシリコーン接着剤が入手可能であり、当業者であれば、本件明細書及び本件特許の出願当時の技術常識に沿って、請求項1に係る静電チャックを製造することができます。」(意見書A4ページ下から11行目~7行目)
(イ)意見書Bにおける特許権者の主張
「乙13号証(特開平10-213971号公報)には、「SE955U」が「メチルフェニルシリコーンエラストマー」であることが記載されています。つまり、「SE955U」は、「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造」を有するシリコーンを含む樹脂材料に相当します。すなわち、「SE955U」を含む接合層は、「当該接合層」に相当します。
そして、乙1号証には、「SE955U」の「接合強度β1」が「0.356MPa」であり、「弾性率γ1」が「0.1MPa」であることが記載されています。
本願明細書では、接合強度は、「0.4MPa」のように、小数第一位まで記載されています。数値の丸め方の規格であるJIS Z 8401:2019に基づいて、「0.356MPa」を丸めの幅:0.1で丸めると、「0.4MPa」になります。
なお、JIS Z 8401:2019には、数値の丸め方の規則として、以下の2つの規則があります
・規則A:丸めた数値として丸めの幅の偶数倍の方を選ぶ。
・規則B:丸めた数値として大きい整数倍の方を選ぶ。ただし、負の数値を対象とする場合は、その絶対値に適用する。
規則Aを適用して、「0.356MPa」を丸めの幅:0.1で丸めると、小数第一位が「3」(奇数)であるため、「0.4MPa」になります。
規則Bを適用して、「0.356MPa」を丸めの幅:0.1で丸めると、小数第一位が「3」であるため、「0.4MPa」になります。
このように、規則A、Bのいずれを適用した場合でも、「0.356MPa」を丸めの幅:0.1で丸めると、「0.4MPa」になります。
つまり、乙1号証には、「SE955U」の「接合強度β1」が「0.4MPa」であることが記載されています。
このことから、乙1号証は、「当該接合層」の「接合強度β1」が「0.4MPa」であり、「弾性率γ1」が「0.1MPa」であることを示すものであるといえます。
したがって、本件特許の明細書の記載と、乙1~乙14号証などの本件特許に係る原出願の出願時の技術常識と、に基づいて、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をすることなく、本件特許の請求項1に記載した物性値を満たす接合層を備えた静電チャックを製造することができると思料いたします。」(意見書B3ページ15行~4ページ5行)
ケ 意見書A・意見書Bにおける特許権者の主張について
(ア)a 本件発明1において、「-60℃における前記接合層の接合強度β1は0.4MPa以上10MPa以下」であるところ、本件特許明細書(特に、【0008】、【0066】、【0067】、【0104】、【0112】)には、「接合強度β1」について、「0.4MPa以上」が好ましい旨が記載されているものの、その下限値である「0.4MPa」の「0.4」について、JIS Z 8401:2019に基づいて、丸めの幅:0.1で丸めた値であることは、記載も示唆もされていないし、そのことが本件特許に係る原出願の出願時の技術常識であるともいえない。
b 一方、乙第1号証の「実験成績証明書」には、「SE955U」の「接合強度β1」が「0.356MPa」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」であることが示されているものの、「接合強度β1」の値について、JIS Z 8401:2019に基づいて、丸めの幅:0.1で丸めることが本件特許に係る原出願の出願時の技術常識であるともいえない。
そうすると、乙第1号証には、「SE955U」の「弾性率γ1」が「0.1MPa」であることが示されているといえるものの、「接合強度β1」が「0.4MPa」であることが示されているとはいえない。
c したがって、本件特許に係る原出願の出願時において、「接合強度β1」が「0.4MPa」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」であるシリコーンを入手可能であったとはいえない。
よって、乙第1号証を参酌しても、「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造」を有するシリコーンを含む樹脂材料を含む接合層の「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」、「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」の接合層を得られるとはいえない。
(イ)なお、仮に、乙第1号証には、乙第13号証に記載されている「SE955U」の「接合強度β1」が「0.4MPa」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」であることが示されているとして以下検討する。(下線は合議体が付与した。以下、同じ。)
a 乙第13号証の【0016】の「以上の条件に該当するシリコーン系ゴムの例としては、・・・、メチルフェニルシリコーンエラストマー(たとえば、東レシリコーン社製商品名;SE955U)」との記載によれば、東レシリコーン社製の「SE955U」は、本件特許に係る原出願の出願時において市販されていたものであり、かつ、メチルフェニルシリコーンエラストマーであるから、乙第1号証には、メチルフェニルシリコーンエラストマー、すなわち、「シロキサン骨格にメチル基及びフェニル基が結合した分子構造」を有するシリコーンを含む樹脂材料を含む接合層について、「接合強度β1」が「0.4MPa」であり、「弾性率γ1」が「0.1MPa」であることが記載されているといえるものの、それ以外の「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造」を有するシリコーンを含む樹脂材料を含む接合層の「接合強度β1」が「0.4MPa」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」であることが記載されているとはいえない。
b そうすると、「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造」を有するシリコーンを含む樹脂材料を含む接合層の、全ての分子構造を有するシリコーンを含む樹脂材料を含む接合層(以下、「全ての分子構造を有する当該接合層」ともいう。)について、「接合強度β1」が「0.4MPa」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」であるとはいえない。
c さらに、「全ての分子構造を有する当該接合層」の「接合強度β1」が「0.4MPa」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」であることが、本件特許に係る原出願の出願時の技術常識であるということもできない。
d したがって、本件特許に係る原出願の出願時において、「接合強度β1」が「0.4MPa」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」である「全ての分子構造を有する当該接合層」を入手可能であったとはいえない。
e また、上記aを参酌すると、乙第1号証等の記載から、本件特許に係る原出願の出願時において、「接合強度β1」が「0.4MPa」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」である「シロキサン骨格にメチル基及びフェニル基が結合した分子構造」を有するシリコーンは、入手可能であったといえるものの、乙第1号証には、「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」、「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」の全ての範囲を満たす「全ての分子構造を有する当該接合層」については記載されていない。
そして、図面の【図7】、【図8】に記載されている実施例1~14の測定結果から、「全ての分子構造を有する当該接合層」において、「接合強度β1」と「弾性率γ1」との間に特定の相関関係があるとはいえない。
また、「全ての分子構造を有する当該接合層」において、「接合強度β1」と「弾性率γ1」との間に特定の相関関係があることは、乙第1号証~乙第14号証には記載も示唆もされていないし、本件特許に係る原出願の出願時の技術常識であるともいえない。
そうすると、本件特許に係る原出願の出願時において、「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」、「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」の全ての範囲を満たす「全ての分子構造を有する当該接合層」を有するシリコーンを入手可能であったとはいえない。
f 以上によれば、本件特許に係る原出願の出願時において、「接合強度β1」が「0.4MPa」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」である「シロキサン骨格にメチル基及びフェニル基が結合した分子構造」を有するシリコーンが入手可能であったとしても、「全ての分子構造を有する当該接合層」であって、「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」、「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」の全ての範囲を満たす接合層を得られることが、本件特許に係る原出願の出願時の技術常識であるとはいえない。
(ウ)したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載並びに本件特許に係る原出願の出願時の技術常識に基づいて、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をすることなく、「全ての分子構造を有する当該接合層」であって、「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」、「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」の全ての範囲を満たす接合層を備えた静電チャックを製造できるとはいえない。
よって、特許権者の上記主張を採用することはできない。
コ 以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1について、当業者が明細書及び図面の記載並びに本件特許に係る原出願の出願時の技術常識に基づいて、その物を作れるように、かつ、使用できるように、具体的に記載されているとはいえない。
(2)本件発明2について
ア 請求項2は、請求項1の記載を引用するとともに、「前記接合強度β1は、0.4MPa以上2.0MPa以下である」との構成を更に限定するものであるところ、図面の【図7】、【図8】に示された実施例1~3、5、11~14は、接合強度β1が0.4MPa以上2.0MPa以下であって、弾性率γ1が0.1MPa以上0.63MPa以下である。
しかし、上記(1)で検討したのと同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明2について、当業者が明細書及び図面の記載並びに本件特許に係る原出願の出願時の技術常識に基づいて、その物を作れるように、かつ、使用できるように、具体的に記載されているとはいえない。
イ 意見書A・意見書Bにおける特許権者の主張
(ア) 意見書Aにおける特許権者の主張
「「請求項1について」で述べた通り、本件特許の出願日以前に接合強度β1が0.356MPaのシリコーンが実在していたため、当業者であれば請求項2に係る静電チャックを製造することができます。」(意見書A9ページ下から18行目~16行目)
(イ)意見書Bにおける特許権者の主張
「そして、「請求項1について」で述べた通り、乙1号証には、「SE955U」の「接合強度β1」が「0.4MPa」であることが記載されています。
このことから、乙1号証は、「当該接合層」の「接合強度β1」が「0.4MPa」であることを示すものであるといえます。」(意見書B4ページ12~15行)
ウ 意見書A・意見書Bにおける特許権者の主張について
上記(1)ケで検討したのと同様の理由により、特許権者の上記主張を採用することはできない。
(3)本件発明3について
ア 本件発明3は、独立形式請求項に係る発明であり、本件発明1における「-60℃における前記接合層の接合強度β1は、0.4MPa以上10MPa以下であって」との構成を、「25℃における前記接合層の接合強度β2に対する-60℃における前記接合層の接合強度β1の比β1/β2は、0.6以上10以下であって」との構成に替えたものであるところ、本件発明1と同様に、その他の成分等については特定されておらず、「25℃における前記接合層の接合強度β2に対する-60℃における前記接合層の接合強度β1の比β1/β2は、0.6以上10以下であって」、「-60℃における前記接合層の弾性率γ1は、0.1MPa以上0.63MPa以下である」という2つの特性(パラメータ)により特定されている。
イ そうすると、上記(1)エで検討したのと同様に、発明の詳細な説明の【0045】~【0047】には、「接合層」が含む「シリコーン」の具体的な成分やその配合、分子量、シロキサン骨格に結合する官能基の含有量、並びに、「シリコーン」を含む「接合層」について、その製造方法及び製造条件は全く記載されていない。
また、同【0045】~【0047】には、「接合層」における樹脂材料の種類、「接合層」が「シリコーン」を含む場合のシロキサン骨格に結合する官能基の種類が、「25℃における前記接合層の接合強度β2に対する-60℃における前記接合層の接合強度β1の比β1/β2」(以下、「接合強度の比β1/β2」ともいう。)及び「弾性率γ1」にどのように寄与するのかについては何ら記載も示唆もされていない。
さらに、同【0045】~【0047】には、「接合層」が含む「シリコーン」の成分やその配合、分子量、シロキサン骨格に結合する官能基の含有量、並びに、「シリコーン」を含む「接合層」の製造方法及び製造条件が、「接合強度の比β1/β2」及び「弾性率γ1」にどのように寄与するかについても何ら記載も示唆もされていない。
ウ 次に、本件発明3の「接合層」の「接合強度の比β1/β2」及び「弾性率γ1」について、発明の詳細な説明及び図面には、上記【0096】~【0114】、【図5】~【図8】(「接合強度の比β1/β2」については、【0102】~【0111】)の記載がある。
エ 上記【0096】~【0114】及び【図5】~【図8】には、参考例1では、接合強度の比β1/β2は53.2であり、弾性率γ1は28MPaであるため、室温(25℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していないものの、極低温(-60℃)の環境下では、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生している(【0102】、【0105】、【図7】)のに対し、実施例1では、接合強度の比β1/β2は1.7であり、弾性率γ1は0.63MPaであるため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していないこと(【0103】、【0106】、【図7】)、実施例2~14では、接合強度の比β1/β2は0.8以上1.9以下であり、弾性率γ1は0.34MPa以上1.02MPa以下であるため、室温(25℃)の環境下及び極低温(-60℃)の環境下のいずれでも、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れが発生していないこと(【0111】、【0113】、【図8】)が記載されている。
また、上記【図7】、【図8】には、接合強度の比β1/β2が0.6以上10以下であって、弾性率γ1が0.1MPa以上0.63MPa以下である実施例1~3、5、11~14が記載されている。
しかし、上記【0096】~【0114】及び【図5】~【図8】には、参考例1及び実施例1~3、5、11~14の「接合層」が含む「シリコーン」の具体的な成分やその配合、「接合層」の製造方法及び製造条件は全く記載されていないし、「接合強度の比β1/β2」及び「弾性率γ1」をどのようにして調整したのかについても全く記載されていない。
また、上記【0096】~【0114】及び【図5】~【図8】には、上記のとおり、「接合層」が含む「シリコーン」の具体的な成分やその配合が記載されていないのであるから、参考例1及び実施例1~3、5、11~14の「接合層」における樹脂材料が、シリコーンを含むものであること、当該シリコーンとして、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造を有するものであることも記載されていない。
そうすると、上記(1)エにおいて、発明の詳細な説明(上記【0045】~【0047】)に一応記載されているとした、「接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むことで、極低温の環境下において、接合層60の柔軟性が維持されやすいこと」、及び、「接合層60に、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つの官能基が結合した分子構造を有するシリコーンを用いることで、極低温の環境下において、接合層60の耐寒性、強度、伸び率等を高めることができること」は、いずれも上記実施例1~3、5、11~14において裏付けられているとはいえない。
また、「接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むこと」、又は、「接合層60に、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つの官能基が結合した分子構造を有するシリコーンを用いること」で、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」である「接合層」が得られることは、いずれも上記実施例1~3、5、11~14において裏付けられているとはいえない。
オ 以上によれば、発明の詳細な説明及び図面には、「接合層」における好ましい樹脂材料としての「シリコーン」、及び「接合層」が「シリコーン」を含む場合のシロキサン骨格に結合する好ましい官能基の種類は例示されているものの、その具体的な成分やその配合、製造方法及び製造条件、分子量、シロキサン骨格に結合する官能基の含有量は全く記載されておらず、それらが、「接合強度の比β1/β2」及び「弾性率γ1」にどのように寄与するのかについて、また、「接合強度の比β1/β2」及び「弾性率γ1」をどのように調整するかについては何ら記載も示唆もされていない。
そうすると、発明の詳細な説明及び図面には、「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造を有」する「シリコーンを含み」、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」である「接合層」を製造できるように、具体的に記載されているとはいえない。
そして、「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造を有」する「シリコーンを含み」、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」である「接合層」を製造する方法が、本件特許に係る原出願の出願時において、技術常識であったとはいえない。
カ 意見書A・意見書Bにおける特許権者の主張
(ア)意見書Aにおける特許権者の主張
「乙1号証(実験成績証明書)に記載したように、追試験において、トーレシリコーン社製の「SE955U」の-60℃における伸び率及び接合強度を測定したところ、「SE955U」の-60℃における接合強度は「0.356MPa」、-60℃における弾性率は「0.1MPa」でした。」(意見書A4ページ18~21行)
「流動点を調整して-60℃における接合強度β1を所定値とすることができれば、流動点以上である25℃の接合強度β2は所定の範囲に定まることになります。」(意見書A6ページ3~5行)
「乙1号証に示した通り、接合強度β1が0.356MPaのシリコーンが本件特許の出願日より前に実在していました。したがって、接合強度の比β1/β2が0.6以上10以下であるシリコーン接着剤が入手可能であったといえます。当業者であれば、「接合強度の比β1/β2が0.6以上10以下」であり、「-60℃における接合層の弾性率γ1が0.1MPa以上0.63MPa以下」の接合層を実施することができます。」(意見書A6ページ6~10行)
(イ)意見書Bにおける特許権者の主張
「そして、乙1号証には、「SE955U」の「弾性率γ1」が「0.1MPa」であることが記載されています。
このことから、乙1号証は、「当該接合層」の「弾性率γ1」が「0.1MPa」であることを示すものであるといえます。
また、乙14号証(実験成績証明書)に記載したように、追試験において、トーレシリコーン社製の「SE955U」の25℃における接合強度β2に対する-60℃における接合強度β1の比β1/β2を測定したところ、「SE955U」の接合強度の比β1/β2は「2.8」でした。
このことから、本件特許に係る原出願の出願時において、「比β1/β2」が「0.6以上10以下」であり、「弾性率γ1」が「0.1MPa」以上0.63MPa以下」である接合層を入手可能であったといえます。
したがって、本件特許の明細書の記載と、乙1~乙14号証などの本件特許に係る原出願の出願時の技術常識と、に基づいて、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をすることなく、本件特許の請求項3に記載した物性値を満たす接合層を備えた静電チャックを製造することができると思料いたします。」(意見書B5ページ2~16行)
キ 意見書A・意見書Bにおける特許権者の主張について
(ア)a 乙第14号証の「実験成績証明書」は、乙第1号証の「実験成績証明書」と同じ条件で、α2、β2、γ2、α1/α2、β1/β2、γ1/γ2を追加で測定したものであるところ、上記(1)ケ(イ)aを参酌すると、乙第14号証には、「シロキサン骨格にメチル基及びフェニル基が結合した分子構造」を有するシリコーンを含む樹脂材料を含む接合層について、「接合強度の比β1/β2」が「2.8」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」であることが記載されているといえるものの、それ以外の「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造」を有するシリコーンを含む樹脂材料を含む接合層の「接合強度の比β1/β2」が「2.8」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」であることが記載されているとはいえない。
b そうすると、「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造」を有するシリコーンを含む樹脂材料を含む接合層の、全ての分子構造を有するシリコーンを含む樹脂材料を含む接合層(上記(1)ケ(イ)bの「全ての分子構造を有する当該接合層」)について、「接合強度の比β1/β2」が「2.8」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」であるとはいえない。
c さらに、「全ての分子構造を有する当該接合層」の「接合強度の比β1/β2」が「2.8」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」であることが、本件特許に係る原出願の出願時の技術常識であるということもできない。
d したがって、本件特許に係る原出願の出願時において、「接合強度の比β1/β2」が「2.8」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」である「全ての分子構造を有する当該接合層」を入手可能であったとはいえない。
e また、上記aを参酌すると、乙第14号証等の記載から、本件特許に係る原出願の出願時において、「接合強度の比β1/β2」が「2.8」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」である「シロキサン骨格にメチル基及びフェニル基が結合した分子構造」を有するシリコーンは、入手可能であったといえるものの、乙第14号証には、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」、「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」の全ての範囲を満たす「全ての分子構造を有する当該接合層」については記載されていない。
そして、図面の【図7】、【図8】に記載されている実施例1~14の測定結果から、「全ての分子構造を有する当該接合層」において、「接合強度の比β1/β2」と「弾性率γ1」との間に特定の相関関係があるということはできない。
また、「全ての分子構造を有する当該接合層」において、「接合強度の比β1/β2」と「弾性率γ1」との間に特定の相関関係があることは、乙第1号証~乙第14号証には記載も示唆もされていないし、本件特許に係る原出願の出願時の技術常識であるともいえない。
そうすると、本件特許に係る原出願の出願時において、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」、「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」の全ての範囲を満たす「全ての分子構造を有する当該接合層」を有するシリコーンを入手可能であったとはいえない。
(イ)以上によれば、本件特許に係る原出願の出願時において、「接合強度の比β1/β2」が「2.8」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」である「シロキサン骨格にメチル基及びフェニル基が結合した分子構造」を有するシリコーンは、入手可能であったとしても、「全ての分子構造を有する当該接合層」であって、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」、「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」の全ての範囲を満たす接合層を得られることが、本件特許に係る原出願の出願時の技術常識であるとはいえない。
(ウ)したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載並びに本件特許に係る原出願の出願時の技術常識に基づいて、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をすることなく、「全ての分子構造を有する当該接合層」であって、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」、「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」の全ての範囲を満たす接合層を備えた静電チャックを製造できるとはいえない。
よって、特許権者の上記主張を採用することはできない。
ク 以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明3について、当業者が明細書及び図面の記載並びに本件特許に係る原出願の出願時の技術常識に基づいて、その物を作れるように、かつ、使用できるように、具体的に記載されているとはいえない。
(4)本件発明4について
ア 請求項4は、請求項3の記載を引用するとともに、「前記比β1/β2は、0.8以上である」との構成を更に限定するものであるところ、図面の【図7】、【図8】に示された実施例1~3、5、11~14は、接合強度の比β1/β2が0.8以上10以下であって、弾性率γ1が0.1MPa以上0.63MPa以下である。
しかし、上記(3)で検討したのと同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明4について、当業者が明細書及び図面の記載並びに本件特許に係る原出願の出願時の技術常識に基づいて、その物を作れるように、かつ、使用できるように、具体的に記載されているとはいえない。
イ 意見書A・意見書Bにおける特許権者の主張
(ア)意見書Aにおける特許権者の主張
「「請求項3について」で述べた通り、当業者であれば、本件明細書及び本件特許の出願当時の技術常識に沿って、請求項4に係る静電チャックを製造することができます。」(意見書A9ページ下から16行目~14行目)
(イ)意見書Bにおける特許権者の主張
「また、乙14号証(実験成績証明書)に記載したように、追試験において、トーレシリコーン社製の「SE955U」の25℃における接合強度β2に対する-60℃における接合強度β1の比β1/β2を測定したところ、「SE955U」の接合強度の比β1/β2は「2.8」でした。
このことから、本件特許に係る原出願の出願時において、「比β1/β2」が「0.8以上」である接合層を入手可能であったといえます。」(意見書B5ページ下から13行目~8行目)
ウ 意見書A・意見書Bにおける特許権者の主張について
上記(3)キで検討したのと同様の理由により、特許権者の上記主張を採用することはできない。
(5)本件発明5について
ア 請求項5は、請求項1~4のいずれか1つの記載を引用するものであるところ、独立形式請求項である、請求項1又は3の記載を直接的又は間接的に引用するとともに、「前記シリコーンは、シロキサン骨格にフェニル基が結合した分子構造を有する」との構成を更に限定をするものである。
イ まず、本件発明5のうち、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5に記載された事項により特定される本件発明5について検討する。
本件発明5のうち、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5に記載された事項により特定される本件発明5は、請求項1の記載を引用するとともに、「前記シリコーンは、シロキサン骨格にフェニル基が結合した分子構造を有する」との構成を更に限定をするものであるから、本件発明5の「接合層」は、「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造」を有し、かつ、「シロキサン骨格にフェニル基が結合した分子構造」を有するシリコーンを含む樹脂材料を含む接合層である。
一方、上記(1)ケ(イ)を参酌すると、仮に、乙第1号証には、乙第13号証に記載されている「SE955U」の「接合強度β1」が「0.4MPa」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」であることが示されているとしても、それ以外の「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造」を有し、かつ、「シロキサン骨格にフェニル基が結合した分子構造」を有するシリコーンを含む樹脂材料を含む接合層の「接合強度β1」が「0.4MPa」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」であることが示されているとはいえない。
また、「前記シリコーンは、シロキサン骨格にフェニル基が結合した分子構造を有する」との構成を更に限定することによって、「接合層」の「接合強度β1」を「0.4MPa」、「弾性率γ1」を「0.1MPa以上0.63MPa以下」に調整することができるとはいえないし、また、そのような技術常識もない。
したがって、上記(1)で検討したのと同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明5のうち、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5に記載された事項により特定される本件発明5について、当業者が明細書及び図面の記載並びに本件特許に係る原出願の出願時の技術常識に基づいて、その物を作れるように、かつ、使用できるように、具体的に記載されているとはいえない。
ウ 次に、本件発明5のうち、請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5に記載された事項により特定される本件発明5について検討する。
本件発明5のうち、請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5に記載された事項により特定される本件発明5は、請求項3の記載を引用するとともに、「前記シリコーンは、シロキサン骨格にフェニル基が結合した分子構造を有する」との構成を更に限定をするものであるから、本件発明5の「接合層」は、「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造」を有し、かつ、「シロキサン骨格にフェニル基が結合した分子構造」を有するシリコーンを含む樹脂材料を含む接合層である。
一方、上記(3)キ(ア)aを参酌すると、乙第14号証には、「シロキサン骨格にメチル基及びフェニル基が結合した分子構造」を有するシリコーンについて、「接合強度の比β1/β2」が「2.8」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」であることが記載されているといえるものの、それ以外の「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造」を有し、かつ、「シロキサン骨格にフェニル基が結合した分子構造」を有するシリコーンを含む樹脂材料を含む接合層の「接合強度の比β1/β2」が「2.8」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」であることが記載されているとはいえない。
また、「前記シリコーンは、シロキサン骨格にフェニル基が結合した分子構造を有する」との構成を更に限定することによって、「接合層」の「接合強度の比β1/β2」を「0.6以上10以下」、「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」に調整することができるとはいえないし、また、そのような技術常識もない。
したがって、上記(3)で検討したのと同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する本件発明5について、当業者が明細書及び図面の記載並びに本件特許に係る原出願の出願時の技術常識に基づいて、その物を作れるように、かつ、使用できるように、具体的に記載されているとはいえない。
(6)本件発明6について
ア 請求項6は、請求項1~5のいずれか1つの記載を引用するものであるところ、独立形式請求項である、請求項1又は3の記載を直接的又は間接的に引用するとともに、「25℃における前記接合層の弾性率γ2に対する-60℃における前記接合層の弾性率γ1の比γ1/γ2は、0.6以上30以下である」との構成を更に限定するものである。
イ 本件発明6の「接合層」の弾性率γ2に対する弾性率γ1の「比γ1/γ2」(以下、「弾性率の比γ1/γ2」ともいう。)について、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0082】
弾性率γ2に対する弾性率γ1の比γ1/γ2は、例えば、0.6以上30以下、好ましくは0.6以上10以下、より好ましくは0.6以上3以下である。また、比γ1/γ2は、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上である。また、比γ1/γ2は、好ましくは2.1以下である。
【0083】
弾性率γの比γ1/γ2が0.6以上であれば、室温でも極低温の環境下でも、接合層60が十分な復元性を維持するため、セラミック誘電体基板11とベースプレート50との間に応力が生じた際にも、セラミック誘電体基板11の反りを抑制しやすい。これにより、室温から極低温の環境下においた際に、対象物Wの面内温度均一性の悪化を抑制できる。
【0084】
弾性率γの比γ1/γ2が30以下であれば、室温でも極低温の環境下でも、接合層60が硬くなり過ぎることを抑制できる。これにより、室温から極低温の環境下においた際に、セラミック誘電体基板11にかかる応力を抑制し、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制できる。」
ウ しかしながら、上記(1)カ、(3)エで検討したように、発明の詳細な説明の【0096】~【0114】及び図面の【図5】~【図8】には、参考例1及び実施例1~14の「接合層」が含む「シリコーン」の具体的な成分やその配合、「接合層」の製造方法及び製造条件は全く記載されていないし、「接合強度β1」、「接合強度の比β1/β2」、及び「弾性率γ1」をどのようにして調整したのかについても全く記載されていない。
そして、発明の詳細な説明の【0046】の「接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むことで、極低温の環境下において、接合層60の柔軟性が維持されやすい。これにより、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れをより確実に抑制できる。」との記載、及び同【0047】の「接合層60に、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つの官能基が結合した分子構造を有するシリコーンを用いることで、極低温の環境下において、接合層60の耐寒性、強度、伸び率等を高めることができる。」との記載は、いずれも上記実施例1~14において裏付けられているとはいえない。
また、「接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むこと」、又は、「接合層60に、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つの官能基が結合した分子構造を有するシリコーンを用いること」で、「-60℃における」「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」、又は、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」であり、更に、「弾性率の比γ1/γ2」が「0.6以上30以下」である「接合層」が得られることは、いずれも上記実施例1~14において裏付けられているとはいえない。
エ 以上によれば、発明の詳細な説明及び図面には、「接合層」における好ましい樹脂材料としての「シリコーン」、及び、「接合層」が「シリコーン」を含む場合のシロキサン骨格に結合する好ましい官能基の種類は例示されているものの、その具体的な成分やその配合、製造方法及び製造条件、分子量、シロキサン骨格に結合する官能基の含有量は全く記載されておらず、それらが、「接合強度β1」、「接合強度の比β1/β2」及び「弾性率γ1」並びに「弾性率の比γ1/γ2」にどのように寄与するのかについて、また、「接合強度β1」、「接合強度の比β1/β2」及び「弾性率γ1」並びに「弾性率の比γ1/γ2」をどのように調整するかについては何ら記載も示唆もされていない。
そうすると、発明の詳細な説明又は図面には、「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造を有」する「シリコーンを含み」、「-60℃における」「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」又は「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」であり、更に、「弾性率の比γ1/γ2」が「0.6以上30以下」である「接合層」を製造できるように、具体的に記載されているとはいえない。
そして、「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造を有」する「シリコーンを含み」、「-60℃における」「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」又は「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」であり、更に、「弾性率の比γ1/γ2」が「0.6以上30以下」である「接合層」を製造する方法が、本件特許に係る原出願の出願時において、技術常識であったとはいえない。
オ 意見書A・意見書Bにおける特許権者の主張
(ア) 意見書Aにおける特許権者の主張
a 「乙1号証(実験成績証明書)に記載したように、追試験において、トーレシリコーン社製の「SE955U」の-60℃における接合強度及び弾性率を測定したところ、「SE955U」の-60℃における接合強度は「0.356MPa」、-60℃における弾性率は「0.1MPa」でした。」(意見書A4ページ18~21行)
b 「乙11号証(日本ゴム協会誌第62巻第12号「最近のミラブル型シリコーンゴム」)の図6には、・・・つまり、シリコーンでは、流動点以上の温度において、弾性率の変化が少ないことは、本件出願当時の技術常識といえます。
・・・
また、乙12号証(特開2000-258163号公報)には、シロキサン骨格にフェニル基やメチル基などの官能基が結合したシリコーンの流動点と弾性率との間に特定の相関関係があることが示されています。
・・・
つまり、乙12号証には、シロキサン骨格にフェニル基などの官能基が結合したシリコーンの流動点と弾性率との間に特定の相関関係があり、フェニル基の含有量を調整して流動点を調整することで低温環境における弾性率を調整できることが示されています。
以上述べた通り、乙3号証、乙11号証及び乙12号証には、流動点(ガラス転移点)を境に弾性率が大きく変わること、及び、シリコーンでは流動点以上において弾性率が大きく変化しないことが記載されています。つまり、シリコーンにおいて、弾性率の調整に重要なのは流動点であって、流動点を調整して-60℃における弾性率γ1を所定値とすることができれば、流動点以上である25℃の弾性率γ2は所定の範囲に定まることになります。
乙1号証に記載の通り、弾性率γ1が0.1MPaのシリコーンが本件特許の出願日より前に実在していました。したがって、本件特許出願以前に、弾性率の比γ1/γ2が0.6以上30以下であるシリコーン接着剤が入手可能であったといえます。
よって、当業者であれば、本件明細書及び本件特許の出願当時の技術常識に沿って、請求項6に係る静電チャックを製造することができます。」(意見書A10ページ14行~12ページ4行)
(イ)意見書Bにおける特許権者の主張
「また、乙14号証(実験成績証明書)に記載したように、追試験において、トーレシリコーン社製の「SE955U」の25℃における弾性率γ2に対する-60℃における弾性率γ1の比γ1/γ2を測定したところ、「SE955U」の弾性率の比γ1/γ2は「3.3」でした。
このことから、本件特許に係る原出願の出願時において、「比γ1/γ2」が「0.6以上30以下」である接合層を入手可能であったといえます。
したがって、本件特許の明細書の記載と、乙1~乙14号証などの本件特許に係る原出願の出願時の技術常識と、に基づいて、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をすることなく、本件特許の請求項6に記載した物性値を満たす接合層を備えた静電チャックを製造することができると思料いたします。」(意見書B6ページ下から18行目~9行目)
カ 意見書A・意見書Bにおける特許権者の主張について
(ア)上記(1)ケ(イ)aを参酌すると、乙第14号証には、「シロキサン骨格にメチル基及びフェニル基が結合した分子構造」を有するシリコーンを含む樹脂材料を含む接合層について、「接合強度β1」が「0.356MPa」、「接合強度の比β1/β2」が「2.8」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」、「弾性率の比γ1/γ2」が「3.3」であることが示されているといえるものの、上記(1)ケ及び(3)キで検討したのと同様に、「全ての分子構造を有する当該接合層」であって、「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」、又は、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」であり、更に、「弾性率の比γ1/γ2」が「0.6以上30以下」の全ての範囲を満たす接合層を得られることが、本件特許に係る原出願の出願時の技術常識であるとはいえない。
(イ)したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載並びに本件特許に係る原出願の出願時の技術常識に基づいて、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をすることなく、「全ての分子構造を有する当該接合層」であって、「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」、又は、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」であり、更に、「弾性率の比γ1/γ2」が「0.6以上30以下」の全ての範囲を満たす接合層を備えた静電チャックを製造できるとはいえない。
よって、特許権者の上記主張を採用することはできない。
キ 以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明6について、当業者が明細書及び図面の記載並びに本件特許に係る原出願の出願時の技術常識に基づいて、その物を作れるように、かつ、使用できるように、具体的に記載されているとはいえない。
(7)本件発明7について
ア 請求項7は、請求項1~6のいずれか1つの記載を引用するものであるところ、独立形式請求項である、請求項1又は3の記載を直接的又は間接的に引用するとともに、「-60℃における前記接合層の伸び率α1は、120%以上である」との構成を更に限定するものである。
イ 本件発明7の「接合層」の「伸び率α1」について、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0059】
実施形態において、-60℃における接合層60の伸び率α1は、例えば、120%以上、好ましくは175%以上、より好ましくは200%以上、さらに好ましくは220%以上、さらに好ましくは240%以上である。
【0060】
伸び率α1が120%以上であれば、極低温の環境下において、接合層60が十分な伸び率αを有しているため、接合層60に十分な柔軟性を確保することができる。これにより、極低温の環境下において、セラミック誘電体基板11にかかる応力を抑制し、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制できる。なお、伸び率α1の上限は、特に限定されないが、例えば、1000%以下である。」
ウ しかしながら、上記(1)カ、(3)エで検討したように、発明の詳細な説明の【0096】~【0114】及び図面の【図5】~【図8】には、参考例1及び実施例1~14の「接合層」が含む「シリコーン」の具体的な成分やその配合、「接合層」の製造方法及び製造条件は全く記載されていないし、「接合強度β1」、「接合強度の比β1/β2」、及び「弾性率γ1」をどのようにして調整したのかについても全く記載されていないものであり、また、更に、同【0096】~【0114】及び同【図7】、【図8】には、参考例1及び実施例1~14の「接合層」の「伸び率α1」をどのようにして調整したのかについても全く記載されていない。
そして、発明の詳細な説明の【0046】の「接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むことで、極低温の環境下において、接合層60の柔軟性が維持されやすい。これにより、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れをより確実に抑制できる。」との記載、及び同【0047】の「接合層60に、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つの官能基が結合した分子構造を有するシリコーンを用いることで、極低温の環境下において、接合層60の耐寒性、強度、伸び率等を高めることができる。」との記載は、いずれも上記実施例1~14において裏付けられているとはいえない。
また、「接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むこと」又は、「接合層60に、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つの官能基が結合した分子構造を有するシリコーンを用いること」で、「-60℃における」「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」、又は、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」であり、更に、「-60℃における」「伸び率α1」が「120%以上」である「接合層」が得られることは、いずれも上記実施例1~14において裏付けられているとはいえない。
エ 以上によれば、発明の詳細な説明及び図面には、「接合層」における好ましい樹脂材料としての「シリコーン」、及び「接合層」が「シリコーン」を含む場合のシロキサン骨格に結合する好ましい官能基の種類は例示されているものの、その具体的な成分やその配合、製造方法及び製造条件、分子量、シロキサン骨格に結合する官能基の含有量は全く記載されておらず、それらが、「接合強度β1」、「接合強度の比β1/β2」、及び「弾性率γ1」、並びに「伸び率α1」にどのように寄与するのかについて、また、「接合強度β1」、「接合強度の比β1/β2」、及び「弾性率γ1」、並びに「伸び率α1」をどのように調整するかについては何ら記載も示唆もされていない。
そうすると、発明の詳細な説明又は図面には、「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造を有」する「シリコーンを含み」、「-60℃における」「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」、又は、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」であり、更に、「-60℃における」「伸び率α1」が「120%以上」である「接合層」を製造できるように、具体的に記載されているとはいえない。
そして、「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造を有」する「シリコーンを含み」、「-60℃における」「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」、又は、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」であり、更に、「-60℃における」「伸び率α1」が「120%以上」である「接合層」を製造する方法が、本件特許に係る原出願の出願時において、技術常識であったとはいえない。
オ 意見書A・意見書Bにおける特許権者の主張
(ア)意見書Aにおける特許権者の主張
a 「乙1号証(実験成績証明書)に記載したように、追試験において、トーレシリコーン社製の「SE955U」の-60℃における接合強度及び弾性率を測定したところ、「SE955U」の-60℃における接合強度は「0.356MPa」、-60℃における弾性率は「0.1MPa」でした。また、-60℃における伸び率は「356%」でした。」(意見書A4ページ18~21行)
「乙1号証に記載のとおり、-60℃における伸び率α1が356%のシリコーンが本件特許の出願以前から存在していました。よって、当業者であれば、本件明細書及び本件特許の出願当時の技術常識に沿って、請求項7に係る静電チャックを製造することができます。」(意見書A12ページ下から11行目~9行目)
(イ)意見書Bにおける特許権者の主張
「そして、乙1号証には、「SE955U」の「伸び率α1」が「356%」であることが記載されています。
このことから、乙1号証は、「当該接合層」の「伸び率α1」が「356%」であることを示すものであるといえます。」(意見書B6ページ下から2行目~7ページ2行)
カ 意見書A・意見書Bにおける特許権者の主張について
(ア)上記(1)ケ(イ)aを参酌すると、乙第14号証には、「シロキサン骨格にメチル基及びフェニル基が結合した分子構造」を有するシリコーンを含む樹脂材料を含む接合層について、「接合強度β1」が「0.356MPa」、「接合強度の比β1/β2」が「2.8」、「弾性率γ1」が「0.1MPa」、「伸び率α1」が「356%」であることが記載されているといえるものの、上記(1)ケ及び(3)キで検討したのと同様に、「全ての分子構造を有する当該接合層」であって、「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」、又は、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「弾性率γ1」が「0.1MPa以上10MPa以下」であり、更に、「伸び率α1」が「120%以上」の全ての範囲を満たす接合層を得られることが、本件特許に係る原出願の出願時の技術常識であるとはいえない。
(イ)したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載並びに本件特許に係る原出願の出願時の技術常識に基づいて、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をすることなく、「全ての分子構造を有する当該接合層」であって、「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」、又は、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「弾性率γ1」が「0.1MPa以上10MPa以下」であり、更に、「伸び率α1」が「120%以上」の全ての範囲を満たす接合層を備えた静電チャックを製造できるとはいえない。
よって、特許権者の上記主張を採用することはできない。
キ 以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明7について、当業者が明細書及び図面の記載並びに本件特許に係る原出願の出願時の技術常識に基づいて、その物を作れるように、かつ、使用できるように、具体的に記載されているとはいえない。
(8)本件発明8について
ア 請求項8は、請求項1~7のいずれか1つの記載を引用するものであるところ、独立形式請求項である、請求項1又は3の記載を直接的又は間接的に引用するとともに、「25℃における前記接合層の伸び率α2に対する-60℃における前記接合層の伸び率α1の比α1/αは、0.60以上である」との構成を更に限定するものである。
イ 本件発明8の「接合層」の伸び率α2に対するα1の「比α1/α2」(以下、「伸び率の比α1/α2」ともいう。)について、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0063】
また、伸び率α2に対する伸び率α1の比α1/α2は、例えば、0.60以上、好ましくは0.80以上、さらに好ましくは0.90以上である。
【0064】
伸び率αの比α1/α2が0.60以上であれば、室温から極低温の環境下においた際に、セラミック誘電体基板11とベースプレート50との間の熱膨張率差を緩和することができる。これにより、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れを抑制できる。なお、伸び率αの比α1/α2の上限は、特に限定されないが、例えば、1.5以下である。」
ウ しかしながら、上記(1)カ、(3)エで検討したように、発明の詳細な説明の【0096】~【0114】及び図面の【図5】~【図8】には、参考例1及び実施例1~14の「接合層」が含む「シリコーン」の具体的な成分やその配合、「接合層」の製造方法及び製造条件は全く記載されていないし、「接合強度β1」、「接合強度の比β1/β2」、及び「弾性率γ1」、並びに「伸び率の比α1/α2」をどのようにして調整したのかについても全く記載されていない。
そして、発明の詳細な説明の【0046】の「接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むことで、極低温の環境下において、接合層60の柔軟性が維持されやすい。これにより、極低温の環境下における、セラミック誘電体基板11のベースプレート50からの剥離や、セラミック誘電体基板11の割れをより確実に抑制できる。」との記載、及び同【0047】の「接合層60に、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つの官能基が結合した分子構造を有するシリコーンを用いることで、極低温の環境下において、接合層60の耐寒性、強度、伸び率等を高めることができる。」との記載は、いずれも上記実施例1~14において裏付けられているとはいえない。
また、「接合層60が柔軟性に優れたシリコーンを含むこと」、又は、「接合層60に、シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つの官能基が結合した分子構造を有するシリコーンを用いること」で、「-60℃における」「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」、又は、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」であり、更に、「伸び率の比α1/α2」が「0.60以上」である「接合層」が得られることは、いずれも上記実施例1~14において裏付けられているとはいえない。
エ 以上によれば、発明の詳細な説明及び図面には、「接合層」における好ましい樹脂材料としての「シリコーン」、及び「接合層」が「シリコーン」を含む場合のシロキサン骨格に結合する好ましい官能基の種類は例示されているものの、その具体的な成分やその配合、製造方法及び製造条件、分子量、シロキサン骨格に結合する官能基の含有量は全く記載されておらず、それらが、「接合強度β1」、「接合強度の比β1/β2」、及び「弾性率γ1」、並びに「伸び率の比α1/α2」にどのように寄与するのかについて、また、「接合強度β1」、「接合強度の比β1/β2」、及び「弾性率γ1」、並びに「伸び率の比α1/α2」をどのように調整するかについては何ら記載も示唆もされていない。
そうすると、発明の詳細な説明又は図面には、「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造を有」する「シリコーンを含み」、「-60℃における」「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」、又は、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」であり、更に、「伸び率の比α1/α2」が「0.60以上」である「接合層」を製造できるように、具体的に記載されているとはいえない。
そして、「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造を有」する「シリコーンを含み」、「-60℃における」「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」、又は、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」であり、更に、「伸び率の比α1/α2」が「0.60以上」である「接合層」を製造する方法が、本件特許に係る原出願の出願時において、技術常識であったとはいえない。
オ 意見書A・意見書Bにおける特許権者の主張
(ア)意見書Aにおける特許権者の主張
a 「乙1号証(実験成績証明書)に記載したように、追試験において、トーレシリコーン社製の「SE955U」の-60℃における接合強度及び弾性率を測定したところ、「SE955U」の-60℃における接合強度は「0.356MPa」、-60℃における弾性率は「0.1MPa」でした。また、-60℃における伸び率は「356%」でした。」(意見書A4ページ18~21行)
b 「つまり、シリコーンにおいて、諸特性の調整に重要なのは流動点であって、流動点を調整して-60℃における伸び率α1を所定値とすることができれば、流動点以上である25℃の伸び率α2は所定の範囲に定まることになります。」(意見書A13ページ21~24行)
c 「乙1号証に示した通り、伸び率α1が356%のシリコーンが本件特許の出願日より前に実在していました。したがって、本件特許の出願以前に、伸び率の比α1/α2が0.6以上であるシリコーン接着剤が入手可能であったといえます。
よって、請求項3と同様に、当業者であれば、本件明細書及び本件特許の出願当時の技術常識に沿って、請求項8に係る静電チャックを製造することができます。」(意見書A13ページ25~29行)
(イ)意見書Bにおける特許権者の主張
「また、乙14号証(実験成績証明書)に記載したように、追試験において、トーレシリコーン社製の「SE955U」の25℃における弾性率γ2に対する-60℃における弾性率γ1の比γ1/γ2を測定したところ、「SE955U」の弾性率の比α1/α2は「0.88」でした。
このことから、本件特許に係る原出願の出願時において、「比α1/α2」が「0.60以上」である接合層を入手可能であったといえます。」(意見書B7ページ下から11行目~6行目)
カ 意見書A・意見書Bにおける特許権者の主張について
(ア)上記(1)ケ(イ)aを参酌すると、乙第14号証には、「シロキサン骨格にメチル基及びフェニル基が結合した分子構造」を有するシリコーンを含む樹脂材料を含む接合層について、「接合強度β1」が「0.356MPa」、「接合強度の比β1/β2」が「2.8」、「伸び率α1」が「356%」、「伸び率の比α1/α2」が「0.88」であることが記載されているといえるものの、上記(1)ケ及び(3)キで検討したのと同様に、「全ての分子構造を有する当該接合層」であって、「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」、又は、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」であり、更に、「伸び率の比α1/α2」が「0.60以上」の全ての範囲を満たす接合層を得られることが、本件特許に係る原出願の出願時の技術常識であるとはいえない。
(イ)したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載並びに本件特許に係る原出願の出願時の技術常識に基づいて、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をすることなく、「全ての分子構造を有する当該接合層」であって、「接合強度β1」が「0.4MPa以上10MPa以下」、又は、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」であり、更に、「伸び率の比α1/α2」が「0.60以上」の全ての範囲を満たす接合層を備えた静電チャックを製造できるとはいえない。
よって、特許権者の上記主張を採用することはできない。
キ 以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明8について、当業者が明細書及び図面の記載並びに本件特許に係る原出願の出願時の技術常識に基づいて、その物を作れるように、かつ、使用できるように、具体的に記載されているとはいえない。
(9)本件発明9について
ア 請求項9は、請求項3~8のいずれか1つの記載を引用するものであるところ、独立形式請求項である、請求項1の記載を間接的に引用する、又は、請求項3の記載を直接的又は間接的に引用するとともに、「-60℃における前記接合層の接合強度β1は、0.4MPa以上1.9MPa以下である」との構成を更に限定するものである。
イ まず、本件発明9のうち、請求項1の記載を間接的に引用する請求項9に記載された事項により特定される本件発明9について検討する。
図面の【図7】、【図8】に示された実施例1~3、5、11~14は、接合強度β1が0.4MPa以上1.9MPa以下であって、弾性率γ1が0.1MPa以上0.63MPa以下である。
しかし、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項1の記載を間接的に引用する本件発明9について、上記(1)で検討したのと同様の理由により、当業者が明細書及び図面の記載並びに本件特許の出願時の技術常識に基づいて、その物を作れるように、かつ、使用できるように、具体的に記載されているとはいえない。
ウ 次に、本件発明9のうち、請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9に記載された事項により特定される本件発明9について検討する。
上記(3)で検討したのと同様な理由により、発明の詳細な説明及び図面には、「接合層」における好ましい樹脂材料としての「シリコーン」、及び「接合層」が「シリコーン」を含む場合のシロキサン骨格に結合する好ましい官能基の種類は例示されているものの、その具体的な成分やその配合、製造方法及び製造条件、分子量、シロキサン骨格に結合する官能基の含有量は全く記載されておらず、それらが、「接合強度β1」、「接合強度の比β1/β2」、及び「弾性率γ1」にどのように寄与するのかについて、また、「接合強度β1」、「接合強度の比β1/β2」、及び「弾性率γ1」をどのように調整するかについては何ら記載も示唆もされていない。
そうすると、発明の詳細な説明及び図面には、「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造を有」する「シリコーンを含み」、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」であり、更に、「-60℃における」「接合強度β1」が「0.4MPa以上1.9MPa以下」である「接合層」を製造できるように、具体的に記載されているとはいえない。
そして、「シロキサン骨格にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、及びヘキシル基のうち少なくとも1つが結合した分子構造を有」する「シリコーンを含み」、「接合強度の比β1/β2」が「0.6以上10以下」であって、「-60℃における」「弾性率γ1」が「0.1MPa以上0.63MPa以下」であり、更に、「-60℃における」「接合強度β1」が「0.4MPa以上1.9MPa以下」である「接合層」を製造する方法が、本件特許に係る原出願の出願時において、技術常識であったとはいえない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する本件発明9について、当業者が明細書及び図面の記載並びに本件特許に係る原出願の出願時の技術常識に基づいて、その物を作れるように、かつ、使用できるように、具体的に記載されているとはいえない。
エ 意見書Bにおける特許権者の主張
「そして、「請求項1について」で述べた通り、乙1号証には、「SE955U」の「接合強度β1」が「0.4MPa」であることが記載されています。
このことから、乙1号証は、「当該接合層」の「接合強度β1」が「0.4MPa」であることを示すものであるといえます。」(意見書B8ページ17~20行)
オ 意見書Bにおける特許権者の主張について
上記(1)ケで検討したのと同様の理由により、特許権者の上記の主張を採用することはできない。
カ 以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明9について、当業者が明細書及び図面の記載並びに本件特許に係る原出願の出願時の技術常識に基づいて、その物を作れるように、かつ、使用できるように、具体的に記載されているとはいえない。
(10)本件発明10、11について
請求項10は、請求項1~9のいずれか1つの記載を引用するものであるところ、独立形式請求項である、請求項1又は3の記載を直接的又は間接的に引用するとともに、「前記セラミック誘電体基板は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化「ケイ素、窒化ケイ素、及び酸化イットリウムのうち少なくとも1つを含む」との構成を更に限定するものであり、請求項11は、請求項10の記載を引用するものである。
したがって、上記(1)又は(3)で検討したのと同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明10、11について、当業者が発明の詳細な説明の記載並びに本件特許に係る原出願の出願当時の技術常識に基づいて、その物を作れるように、かつ、使用できるように、具体的に記載されているとはいえない。
(11)まとめ
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~11について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当するから、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700221