特許異議申立
2023-700129
塗料性状の予測方法、補正配合組成の予測方法、塗料性状の予測システム、補正配合補正の予測システム、及び塗料の製造方法
- 審判番号
- 2023-700129
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-577702
- 登録番号
- 7116266
- 請求日
- 2023年02月08日
- 審決日
- 2024年04月03日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本ペイントホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】杉村 憲司
- 【権利者代理人】塚中 哲雄
- 【権利者代理人】山口 雄輔
- 【異議申立人】根本 未果
- 審判長/審判官
- 審判長 樋口 宗彦
- 審判官 松本 隆彦
- 審判官 ▲高▼見 重雄
- 分類
- P1651.121-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D) / P1651.536-YAA(C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7116266号発明「塗料性状の予測方法、補正配合組成の予測方法、塗料性状の予測システム、補正配合補正の予測システム、及び塗料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7116266号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-17〕、〔18-23〕について訂正することを認める。
特許第7116266号の請求項1~23に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7116266号(以下「本件特許」という。)の請求項1~23に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)12月10日(優先権主張 令和2年12月14日)を国際出願日とする出願であって、令和4年8月1日に特許権の設定登録がされ、同月9日に特許掲載公報が発行された。
そして、本件特許の請求項1~23に係る特許に対して、令和5年2月8日に特許異議申立人 根本 未果(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後の経緯(提出書類等)は、概略、以下のとおりである。
令和 5年 5月 9日付け 取消理由通知
同年 7月10日 意見書(特許権者)及び訂正請求書
同年 8月31日 意見書(申立人)
同年10月24日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年12月15日 意見書(特許権者)及び訂正請求書
令和 6年 2月14日 意見書(申立人)
以下、令和5年12月15日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1)本件訂正請求における請求の趣旨は、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-17〕、〔18-23〕について訂正することを求めるものであり、その具体的内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す)。
・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3に、「・・・前記塗料性状予測工程では、複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成を入力し、・・・」と記載されているのを、「・・・前記塗料性状予測工程では、複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成のデータを入力し、・・・」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6~10、17も同様に訂正する)。
・訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に、「・・・前記塗料性状予測工程では、複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成を入力し、・・・」と記載されているのを、「・・・前記塗料性状予測工程では、複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成のデータを入力し、・・・」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5~17も同様に訂正する)。
・訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に、「前記所定の人工知能モデルは、入力として、前記塗料の製造条件に関するデータをさらに含み、・・・」と記載されているのを、「前記所定の人工知能モデルは、入力として、前記塗料の塗装条件に関するデータをさらに含み、・・・」に訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7~10、17も同様に訂正する)。
・訂正事項4
特許請求の範囲の請求項14に、「・・・予測した前記塗料性状調整用の原料の配合組成に所定の演算を行うことにより、あるいは、前記目標となる塗料性状を基準値としたギャップ目標値を用いて得られた前記塗料性状調整用の原料のギャップ配合組成に所定の演算を行うことにより、・・・」と記載されているのを、「・・・予測した前記塗料性状調整用の原料の配合組成に3~99%を乗じることにより、あるいは、前記目標となる塗料性状を基準値としたギャップ目標値を用いて得られた前記塗料性状調整用の原料のギャップ配合組成に1~33%を乗じることにより、・・・」に訂正する(請求項14の記載を直接的に引用する請求項17も同様に訂正する)。
・訂正事項5
特許請求の範囲の請求項16に、「前記関係データは、学習データとして機械学習することにより前記所定の人工知能モデルを作成するのに用いられる、」との事項を追加する(請求項16の記載を直接的に引用する請求項17も同様に訂正する)。
・訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1に、「・・・調整前の塗料性状のデータ及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力として含み、・・・」と記載されているのを、「・・・調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)を入力として含み、・・・」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3、6~10、17も同様に訂正する)。
・訂正事項7
特許請求の範囲の請求項2に、「・・・調整前の塗料性状のデータ及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力として含み、・・・」と記載されているのを、「・・・調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)を入力として含み、・・・」に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4~17も同様に訂正する)。
・訂正事項8
特許請求の範囲の請求項18に、「・・・調整前の塗料性状のデータ及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力として含み、・・・」と記載されているのを、「・・・調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)を入力として含み、・・・」に訂正する(請求項18の記載を直接的に引用する請求項20、23も同様に訂正する)。
・訂正事項9
特許請求の範囲の請求項19に、「・・・調整前の塗料性状のデータ及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力として含み、・・・」と記載されているのを、「・・・調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原粒の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)を入力として含み、・・・」に訂正する(請求項19の記載を直接的又は間接的に引用する請求項21~23も同様に訂正する)。
・訂正事項10
特許請求の範囲の請求項20に、「・・・複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成が入力され、・・・」と記載されているのを、「・・・複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成のデータが入力され、・・・」に訂正する(請求項20の記載を直接的に引用する請求項23も同様に訂正する)。
・訂正事項11
特許請求の範囲の請求項21に、「・・・複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成が入力され、・・・」と記載されているのを、「・・・複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成のデータが入力され、・・・」に訂正する(請求項21の記載を直接的に引用する請求項22、23も同様に訂正する)。
(2)訂正の単位について
本件訂正前の請求項1~17は、請求項17が請求項1~16のいずれか一項の記載を直接的又は間接的に引用していることから、一群の請求項である。そして、訂正事項1~7は、一群の請求項〔1-17〕についてされたものである。
また、本件訂正前の請求項18~23は、請求項23が、請求項18~22のいずれか一項の記載を直接的又は間接的に引用していることから、一群の請求項である。そして、訂正事項8~11は、一群の請求項〔18-23〕についてされたものである。
本件訂正は、特許法第120条の5第4項で規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。
2 当審の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項3には、「前記塗料性状予測工程では、複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成を入力し」と記載されている。訂正前の請求項3が引用する請求項1では、「塗料性状予測工程」で入力されるものは「調整前の塗料性状のデータ及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ」と特定されている。そのため、入力として特定されているものが、訂正前の請求項3では「補正配合組成」、請求項3が引用する請求項1では、「補正配合組成のデータ」であり、両者が同一のものであるのか否かが明確でないところ、訂正事項1に係る訂正により請求項1の記載と請求項3の記載の平仄を合わせ、入力されるものが、「補正配合組成のデータ」であることを明らかにするものであるから、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無
塗料性状予測工程において、「原料の補正配合組成のデータを入力」することは、本件訂正前の請求項1に記載されていることであり、上記アで判断したことを踏まえれば、本件の願書に添付された明細書、特許請求の範囲、又は図面等(以下、「本件明細書等」という。)に記載されているといえるから、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、上記アで述べたとおり、請求項3の記載を請求項3が引用する請求項1の記載と平仄を合わせるものであり、当該訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、すべての請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項4には、「前記塗料性状予測工程では、複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成を入力し」と記載されている。訂正前の請求項4が引用する請求項2では、「塗料性状予測工程」で入力されるものは「調整前の塗料性状のデータ及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ」と特定されている。そのため、入力として特定されているものが、訂正前の請求項4では「補正配合組成」、請求項4が引用する請求項2では、「補正配合組成のデータ」であり、両者が同一のものであるのか否かが明確でないところ、訂正事項2に係る訂正より請求項2の記載と請求項4の記載の平仄を合わせ、入力されるものが、「補正配合組成のデータ」であることを明らかにするものであるから、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無
塗料性状予測工程において、「原料の補正配合組成のデータを入力」することは、訂正前の請求項2に記載されていることであり、上記アで判断したことを踏まえれば、本件明細書等に記載されているといえるから、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、本件訂正の訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件訂正の訂正事項2に係る訂正は、上記アで述べたとおり、請求項4の記載を請求項4が引用する請求項2の記載と平仄を合わせるものであり、当該訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正の訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、すべての請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
(ア)訂正前の請求項6には、「前記所定の人工知能モデルは、入力として、前記塗料の製造条件に関するデータをさらに含み、
(a)前記塗料の粘度及び加熱残分のいずれか1つ以上、
(b)対象物に前記塗料を塗布する工程における、ロール周速、前記対象物への塗着圧、及び塗料の流量のいずれか1つ以上、
(c)焼き付け工程における焼き付け温度及び焼き付け時間のいずれか1つ以上、及び
(d)製造ラインの温度及び湿度のいずれか1つ以上、
の(a)~(d)うちのいずれか1つ以上を含む、」と記載されている。
(イ)前記訂正前の請求項6について、便宜上、
「前記所定の人工知能モデルは、入力として、前記塗料の製造条件に関するデータをさらに含み、」
の部分を以下「構成6A」といい、続く
「(a)前記塗料の粘度及び加熱残分のいずれか1つ以上、
(b)対象物に前記塗料を塗布する工程における、ロール周速、前記対象物への塗着圧、及び塗料の流量のいずれか1つ以上、
(c)焼き付け工程における焼き付け温度及び焼き付け時間のいずれか1つ以上、及び
(d)製造ラインの温度及び湿度のいずれか1つ以上、
の(a)~(d)うちのいずれか1つ以上を含む、」
の部分を以下「構成6B」ということにする。
(ウ)前記訂正前の請求項6の記載は、文章構造上、構成6Aにいう「塗料の製造条件」の内訳を構成6Bに列挙したものとも解される(以下「解釈1」という。)。また、「塗料の製造条件」については、本件特許明細書中において、請求項6(構成6A・6B)と同様の記載が【0047】にあるほかに、その定義や内訳と解される記載はない。しかし、前記解釈1に従う場合、構成6Bのうち少なくとも(b)及び(c)は塗料の製造条件ではないので、矛盾が生じる。
(エ)一方、前記訂正前の請求項6の記載は、構成6A・6Bが共に末尾が「・・・含み(む)」とされることから、文章構造上、「所定の人工知能」に含まれる「データ」を並列的に記載したものと解する(以下「解釈2」という。)ことも可能である。しかし、該解釈2によれば、構成6Bが「塗料の製造条件」の内訳でないこととなるから、「塗料の製造条件」の定義や内訳の記載が請求項6にも、本件特許明細書にもないこととなって不明確となるほか、構成6Bのうち少なくとも(d)は製造上の条件と推察され、同(a)もそうである可能性があることと矛盾を生じることにもなる。
(オ)また、「塗装条件データ」については、上記【0047】に具体的なデータ項目が列挙されており、明瞭に定義されているといえる。
(カ)以上(ウ)・(エ)のとおり、訂正前の請求項6はどのように解釈しても、不明確性や矛盾を内包するものであったところ、訂正事項3に係る訂正は、構成6Aの「製造条件」を「塗装条件」と訂正することで、上記のとおり定義や構成間の整合性(矛盾)に関し不明瞭であると共に、構成6Bの一部内容と重複もする「前記塗料の製造条件に関するデータをさらに含み、」なる特定事項を削除し、「前記塗料の塗装条件に関するデータをさらに含み、」を新たな特定事項として加えることを意図したものと理解することができる。
(キ)そうすると、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するとともに、同法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無
本件明細書等の段落【0047】に、
「予測に用いるデータとして塗装条件データを用いても良い。塗装条件データは、下地の種類や下地の色彩、表面張力、表面粗度が挙げられ、単なる商品名や物質をデータとして使用することができる。塗装条件データとしては、ロールコートであれば、ラインスピード、ロール周速、ニップ圧、塗着圧および塗料の流量、アプリケーターロールの状態、材質、硬さ、ピックアップロールの種類、焼き付け工程における焼き付け温度、焼き付け時間、温度及び湿度、板厚、塗装ライン、最高到達温度、下塗り・上塗り付着量、炉温、色差計、下塗りの種類や色、粗度、種類などの物性データ、化学的性質データ等などが挙げられる。スプレー塗装であれば吐出圧、吐出量、ガンのタイプ、焼き付け工程における焼き付け温度、焼き付け時間、温度及び湿度などが挙げられる。電着塗料であれば、塗装電圧、液温、通電時間、塗装方向(水平面か垂直面か)などが挙げられる。予測に用いるデータとして測定条件データを用いても良い。測定条件データは、色差計の機種、測定温度、機器通電からの時間、個別測定器名が挙げられる。」
と記載されていることから、人工知能モデルに入力するデータとして「塗装条件に関するデータ」は本件明細書に記載されているといえるので、訂正事項3は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、本件訂正の訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3に係る訂正は、上記アのとおり、発明特定事項に生じていた矛盾の解消をはかり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正の訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、すべての請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項14には、「・・・予測した前記塗料性状調整用の原料の配合組成に所定の演算を行うことにより、あるいは、前記目標となる塗料性状を基準値としたギャップ目標値を用いて得られた前記塗料性状調整用の原料のギャップ配合組成に所定の演算を行うことにより、・・・」と記載されており、「所定の演算」という演算内容を把握できない曖昧な記載内容であったところ、訂正事項4に係る訂正は「・・・予測した前記塗料性状調整用の原料の配合組成に3~99%を乗じることにより、あるいは、前記目標となる塗料性状を基準値としたギャップ目標値を用いて得られた前記塗料性状調整用の原料のギャップ配合組成に1~33%を乗じることにより、・・・」と具体的な演算内容を特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、「所定の演算」が、具体的な演算内容に訂正されることから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無
本件明細書等の段落【0080】~【0081】に
「 【0080】
また、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加える調整を複数回行い、目標を達成するために最適な塗料性状調整用の原料の配合組成の予測を複数回行い、補正配合予測工程で決定した最適な塗料性状調整用の原料の配合組成の3~99%の配合量の配合組成を用いることが好ましい。この方法によっても、ロット間のばらつきや予測誤差等に起因する入れ過ぎを防止することができる。
【0081】
さらには、大きな変動の予測精度が小さな変動の予測精度より高いことが事前にわかっている場合、目標変動値を目標との差より大きく設定することができる。例えばL*値の変動させたい量の300%の点にギャップ目標値を設定し、補正配合予測工程で決定した最適な塗料性状調整用の原料のギャップ配合組成の1~33%の配合組成を用いることもできる。」(下線は当審が付与。)という記載があり、訂正事項4は、上記摘記箇所の下線部に基づくものであり、本件明細書等に記載されているといえるから、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、本件訂正の訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は、上記アのとおり特許請求の範囲を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、本件訂正の訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、すべての請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項4に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項16には、「予測した前記補正配合組成、及び前記合否判定工程において測定された前記調整後の塗料性状の変動量のデータの関係を示す関係データを前記コンピュータに入力して前記関係データをアップデートする、関係データアップデート工程」と記載されている。「予測した前記補正配合組成、及び前記合否判定工程において測定された前記調整後の塗料性状の変動量のデータの関係を示す関係データ」が、塗料の調整において有用な情報であることは技術常識であり、明細書の段落【0087】には、
「本実施形態では、合否判定工程(ステップS307)の後、調整前の塗料の塗料性状のデータ、予測した補正配合組成、及び合否判定工程(ステップS307)において測定された調整後の塗料の塗料性状のデータの関係を示す関係データをコンピュータに入力して関係データをアップデートすることが好ましい。これにより、関係データをアップデートしてより多くのデータに基づく人工知能モデルの作成が可能となる。アップデートは、新たなデータが得られた直後に行うこともできるし、定期的又は適時に行うこともできる。」と記載されており、訂正前の請求項16の「関係データアップデート工程」は、「人工知能モデル」との関係において技術的意味を有することが説明されている。しかし、訂正前の請求項16の上記記載では、この「関係データ」を塗料の製造にどのように用いるのかは特定されておらず、「人工知能モデル」との関係についても特定されていないため、請求項16の「関係データアップデート工程」が明細書の段落【0087】に記載されているような役割を果たすものと限定的に解釈することはできない。
そうすると、「関係データアップデート工程」と「人工知能モデル」との関係を理解するための事項が不足していることは明らかである。したがって、訂正前の請求項16の記載から発明を明確に把握することができない。
このように訂正前の請求項16の記載で特定される事項が明確でないところ、訂正事項5は、「前記関係データは、学習データとして機械学習することにより前記所定の人工知能モデルを作成するのに用いられる、」という記載を追加することにより、「関係データ」と「人工知能モデル」との関係を新たに特定するものであるから、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するとともに、同法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する。
イ 新規事項の追加の有無
本件明細書等の請求項5には、
「前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成、及び調整後の塗料性状の変動量の関係を示す関係データを前記コンピュータに入力する、関係データ入力工程と、
前記所定の人工知能モデルを取得する、人工知能モデル取得工程と、をさらに含み、
前記人工知能モデル取得工程においては、前記コンピュータにより、前記関係データ入力工程において入力された前記関係データを学習データとして機械学習することにより前記所定の人工知能モデルを作成する、請求項2又は4に記載の方法。」
という記載があり、同段落【0087】には、
「本実施形態では、合否判定工程(ステップS307)の後、調整前の塗料の塗料性状のデータ、予測した補正配合組成、及び合否判定工程(ステップS307)において測定された調整後の塗料の塗料性状のデータの関係を示す関係データをコンピュータに入力して関係データをアップデートすることが好ましい。これにより、関係データをアップデートしてより多くのデータに基づく人工知能モデルの作成が可能となる。アップデートは、新たなデータが得られた直後に行うこともできるし、定期的又は適時に行うこともできる。ただし、この工程は必須ではなく省略することもできる。」
との記載がある(下線は当審が付与)。
訂正事項5は、上記摘記箇所の下線部に基づくものであり、本件明細書等に記載されているといえるから、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、本件訂正の訂正事項5に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5は、上記アのとおり特許請求の範囲を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、本件訂正の訂正事項5に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、すべての請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項5に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項6により、請求項1の「調整前の塗料性状のデータ」が、訂正前には「商品名のデータ」である場合と「品番のデータ」である場合とを含み得たものから、「商品名のデータ」である場合と「品番のデータ」である場合とが排除されたものに訂正されたので、請求項1における「調整前の塗料性状のデータ」なる特定事項からは、当該訂正により、含まれ得た具体的な択一的選択肢としての「商品名のデータ」及び「品番のデータ」が除外されたこととなる。
同様に、訂正事項6は、請求項1の「塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ」が、訂正前には「商品名のデータ」である場合と「品番のデータ」である場合とを含み得たものから「商品名のデータ」である場合と「品番のデータ」である場合とが排除されたものに訂正されたので、請求項1における「塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ」なる特定事項からは、当該訂正により、含まれ得た具体的な択一的選択肢としての「商品名のデータ」及び「品番のデータ」が除外されたこととなる。従属項についても同様である。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
なお、申立人は、令和6年2月14日提出の意見書において、「除かれる部分が明確でないことから、特許請求の範囲の減縮に相当するものではなく、訂正要件を満たさない補正です。」(3頁下から5~3行)と主張しているが、「調整前の塗料性状のデータ」及び「塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ」に具体的なデータの択一的選択肢として「商品名のデータ」及び「品番のデータ」なる両データが含まれることは本件明細書等の【0044】・【0046】の記載により裏付けられるとおりであるから、該両データが択一選択肢から除かれることにより、特許請求の範囲が減縮されていることは明らかであるので、このような主張は採用できない。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項6は、いわゆる「除くクレーム」に該当するものであるし、除かれた上記両データは上記アで説示したとおり本件明細書等に裏付けとなる記載を伴うものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項6は、いわゆる「除くクレーム」に該当するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
訂正事項6による訂正対象である請求項1、3、6~10、17に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項6に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項7により、請求項2の「調整前の塗料性状のデータ」が、訂正前には「商品名のデータ」である場合と「品番のデータ」である場合とを含み得たものから、「商品名のデータ」である場合と「品番のデータ」である場合とが排除されたものに訂正されたので、請求項2における「調整前の塗料性状のデータ」なる特定事項からは、当該訂正により、含まれ得た具体的な択一的選択肢としての「商品名のデータ」及び「品番のデータ」が除外されたこととなる。
同様に、訂正事項7は、請求項2の「塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ」が、訂正前には「商品名のデータ」である場合と「品番のデータ」である場合とを含み得たものから「商品名のデータ」である場合と「品番のデータ」である場合とが排除されたものに訂正されたので、請求項2における「塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ」なる特定事項からは、当該訂正により、含まれ得た具体的な択一的選択肢としての「商品名のデータ」及び「品番のデータ」が除外されたこととなる。従属項についても同様である。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項7は、いわゆる「除くクレーム」に該当するものであるし、除かれた上記両データは、上記アで説示したとおり、本件明細書等に裏付けとなる記載を伴うものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項7は、いわゆる「除くクレーム」に該当するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、すべての請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項7に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(8)訂正事項8について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項8により、請求項18の「調整前の塗料性状のデータ」が、訂正前には「商品名のデータ」である場合と「品番のデータ」である場合とを含み得たものから、「商品名のデータ」である場合と「品番のデータ」である場合とが排除されたものに訂正されたので、請求項18における「調整前の塗料性状のデータ」なる特定事項からは、当該訂正により、含まれ得た具体的な択一的選択肢としての「商品名のデータ」及び「品番のデータ」が除外されたこととなる。
同様に、訂正事項8は、請求項18の「塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ」が、訂正前には「商品名のデータ」である場合と「品番のデータ」である場合とを含み得たものから、「商品名のデータ」である場合と「品番のデータ」である場合とが排除されたものに訂正されたので、請求項18における「塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ」なる特定事項からは、当該訂正により、含まれ得た具体的な択一的選択肢としての「商品名のデータ」及び「品番のデータ」が除外されたこととなる。従属項についても同様である。
したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項8は、いわゆる「除くクレーム」に該当するものであるし、除かれた上記両データは、上記アで説示したとおり、本件明細書等に裏付けとなる記載を伴うものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項8は、いわゆる「除くクレーム」に該当するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、すべての請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項8に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(9)訂正事項9について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項9により、請求項19の「調整前の塗料性状のデータ」が、訂正前には「商品名のデータ」である場合と「品番のデータ」である場合とを含み得たものから、「商品名のデータ」である場合と「品番のデータ」である場合とが排除されたものに訂正されたので、請求項19における「調整前の塗料性状のデータ」なる特定事項からは、当該訂正により、含まれ得た具体的な択一的選択肢としての「商品名のデータ」及び「品番のデータ」が除外されたこととなる。
同様に、訂正事項9は、請求項19の「塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ」が、訂正前には「商品名のデータ」である場合と「品番のデータ」である場合とを含み得たものから「商品名のデータ」である場合と「品番のデータ」である場合とが排除されたものに訂正されたので、請求項19における「塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ」なる特定事項からは、当該訂正により、含まれ得た具体的な択一的選択肢としての「商品名のデータ」及び「品番のデータ」が除外されたこととなる。従属項についても同様である。
したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項9は、いわゆる「除くクレーム」に該当するものであるし、除かれた上記両データは、上記アで説示したとおり、本件明細書等に裏付けとなる記載を伴うものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項9は、いわゆる「除くクレーム」に該当するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、すべての請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項9に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(10)訂正事項10について
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項20には、「・・・複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成が入力され、・・・」と記載されている。訂正前の請求項20が引用する請求項18では、「塗料性状予測工程」で入力されるものは「調整前の塗料性状のデータ及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ」と特定されている。そのため、入力として特定されているものが、訂正前の請求項20では「補正配合組成」、請求項20が引用する請求項18では、「補正配合組成のデータ」であり、両者が同一のものであるのか否かが明確でないところ、訂正事項10に係る訂正により請求項20の記載と請求項18の記載の平仄を合わせ、入力されるものが、「補正配合組成のデータ」であることを明らかにするものであるから、訂正事項10に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無
塗料性状予測工程において、「原料の補正配合組成のデータを入力」することは、本件訂正前の請求項18に記載されていることであり、上記アで判断したことを踏まえれば、本件の願書に添付された明細書、特許請求の範囲、又は図面等(以下、「本件明細書等」という。)に記載されているといえるから、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、本件訂正の訂正事項10に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件訂正の訂正事項10に係る訂正は、上記アで述べたとおり、請求項20の記載を請求項20が引用する請求項18の記載と平仄を合わせるものであり、当該訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正の訂正事項10に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、すべての請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項10に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(11)訂正事項11について
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項21には、「・・・複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成が入力され、・・・」と記載されている。訂正前の請求項21が引用する請求項19では、「塗料性状予測工程」で入力されるものは「調整前の塗料性状のデータ及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ」と特定されている。そのため、入力として特定されているものが、訂正前の請求項21では「補正配合組成」、請求項21が引用する請求項19では、「補正配合組成のデータ」であり、両者が同一のものであるのか否かが明確でないところ、訂正事項11に係る訂正により請求項21の記載と請求項19の記載の平仄を合わせ、入力されるものが、「補正配合組成のデータ」であることを明らかにするものであるから、訂正事項11に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無
塗料性状予測工程において、「原料の補正配合組成のデータを入力」することは、本件訂正前の請求項19に記載されていることであり、上記アで判断したことを踏まえれば、本件の願書に添付された明細書、特許請求の範囲、又は図面等(以下、「本件明細書等」という。)に記載されているといえるから、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、本件訂正の訂正事項11に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件訂正の訂正事項11に係る訂正は、上記アで述べたとおり、請求項21の記載を請求項21が引用する請求項19の記載と平仄を合わせるものであり、当該訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正の訂正事項11に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、すべての請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項11に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正後の請求項1~23に係る発明(以下、当該請求項1~23に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明23」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~23に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料性状を予測する、塗料性状の予測方法であって、
調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)を入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、コンピュータにより、前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状を算出して予測する、塗料性状予測工程を含むことを特徴とする、塗料性状の予測方法。
【請求項2】
機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料性状の変動量を予測する、塗料性状の予測方法であって、
調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)を入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状の変動量を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、コンピュータにより、前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状の変動量を算出して予測する、塗料性状予測工程を含むことを特徴とする、塗料性状の予測方法。
【請求項3】
機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えて、目標となる塗料性状を有する塗料を調製する場合に、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成を予測する方法であって、
請求項1に記載の塗料性状の予測方法の前記塗料性状予測工程によって、前記調整後の塗料性状を算出して予測することを含み、
前記塗料性状予測工程では、複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成のデータを入力し、各々の前記補正配合組成に対応する複数の前記調整後の塗料性状を予測し、
予測した前記複数の前記調整後の塗料性状に基づいて得られる前記補正配合組成を、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、補正配合予測工程をさらに含むことを特徴とする、補正配合組成の予測方法。
【請求項4】
機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えて、目標となる塗料性状を有する塗料を調製する場合に、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成を予測する方法であって、
請求項2に記載の塗料性状の予測方法の前記塗料性状予測工程によって、前記調整後の塗料性状の変動量を算出して予測することを含み、
前記塗料性状予測工程では、複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成のデータを入力し、各々の前記補正配合組成に対応する複数の前記調整後の塗料性状の変動量を予測し、
予測した前記複数の前記調整後の塗料性状の変動量に基づいて得られる前記補正配合組成を、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、補正配合予測工程をさらに含むことを特徴とする、補正配合組成の予測方法。
【請求項5】
前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成、及び調整後の塗料性状の変動量の関係を示す関係データを前記コンピュータに入力する、関係データ入力工程と、
前記所定の人工知能モデルを取得する、人工知能モデル取得工程と、をさらに含み、
前記人工知能モデル取得工程においては、前記コンピュータにより、前記関係データ入力工程において入力された前記関係データを学習データとして機械学習することにより前記所定の人工知能モデルを作成する、請求項2又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記所定の人工知能モデルは、入力として、前記塗料の塗装条件に関するデータをさらに含み、
(a)前記塗料の粘度及び加熱残分のいずれか1つ以上、
(b)対象物に前記塗料を塗布する工程における、ロール周速、前記対象物への塗着圧、及び塗料の流量のいずれか1つ以上、
(c)焼き付け工程における焼き付け温度及び焼き付け時間のいずれか1つ以上、及び
(d)製造ラインの温度及び湿度のいずれか1つ以上、
の(a)~(d)うちのいずれか1つ以上を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記塗料性状は、少なくとも前記塗料の色彩を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記塗料性状は、前記色彩に加え、前記塗料の光沢及び/又は粘度をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記機械学習は、決定木、線形回帰、部分的最小二乗回帰、ラッソ回帰、リッジ回帰、多項式回帰、ガウス過程回帰、サポートベクターマシーン、ランダムフォレスト、勾配ブースティング、K近傍法、ニューラルネットワーク、ベイズ推定、又はこれらのアンサンブル学習による予測アルゴリズムを用いている、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記機械学習は、ニューラルネットワークによる予測アルゴリズムを用いている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記補正配合予測工程において、予測した前記複数の前記調整後の塗料性状の変動量の中から前記目標となる塗料性状との差が所定の基準値以下となる前記調整後の塗料性状の変動量に対応する前記補正配合組成を、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
前記補正配合組成の各原料に対し、それぞれ配合量の数値生成範囲を設定する工程をさらに含み、
前記塗料性状予測工程では、設定された前記数値生成範囲内で生成された各原料の配合量の数値を組み合わせてなる前記複数の前記補正配合組成を入力する、請求項4又は11に記載の方法。
【請求項13】
予測した前記補正配合組成に対する許容範囲を決定する工程をさらに含み、
前記補正配合予測工程において予測した前記補正配合組成の中から、前記許容範囲内のものを、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記調整前の塗料に前記塗料性状調整用の原料を加える調整を複数回行い、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成の予測を複数回行い、
予測した前記塗料性状調整用の原料の配合組成に3~99%を乗じることにより、あるいは、前記目標となる塗料性状を基準値としたギャップ目標値を用いて得られた前記塗料性状調整用の原料のギャップ配合組成に1~33%を乗じることにより、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、請求項4に記載の方法。
【請求項15】
前記調整前の塗料に、請求項4に記載の方法により予測した前記補正配合組成を有する原料を加えて、塗料を調整する、調整工程と、
調整後の塗料性状を測定して合否を判定する、合否判定工程と、をさらに含み、
前記合否判定工程における判定結果が合格となるまで、前記補正配合予測工程、前記調整工程、及び前記合否判定工程を繰り返す、塗料の製造方法。
【請求項16】
予測した前記補正配合組成、及び前記合否判定工程において測定された前記調整後の塗料性状の変動量のデータの関係を示す関係データを前記コンピュータに入力して前記関係データをアップデートする、関係データアップデート工程をさらに含み、
前記関係データは、学習データとして機械学習することにより前記所定の人工知能モデルを作成するのに用いられる、請求項15に記載の塗料の製造方法。
【請求項17】
前記塗料は、コイルコーティング用の塗料である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料の塗料性状を予測するシステムであって、
調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)を入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状を算出して予測する、塗料性状予測部を備えたコンピュータを備えていることを特徴とする、システム。
【請求項19】
機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料の塗料性状の変動量を予測するシステムであって、
調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)を入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状の変動量を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状の変動量を算出して予測する、塗料性状予測部を備えたコンピュータを備えていることを特徴とする、システム。
【請求項20】
機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えて、目標となる塗料性状を有する塗料を調製する際の、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成を予測するシステムであって、
請求項18に記載のシステムの前記塗料性状予測部によって、前記調整後の塗料性状を算出して予測するように構成され、
前記塗料性状予測部は、複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成のデータが入力され、各々の前記補正配合組成に対応する複数の前記調整後の塗料性状を予測するように構成され、
予測した前記複数の前記調整後の塗料性状に基づいて得られる前記補正配合組成を、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、補正配合組成予測部をさらに備えたコンピュータを備えていることを特徴とする、システム。
【請求項21】
機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えて、目標となる塗料性状を有する塗料を調製する際の、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成を予測するシステムであって、
請求項19に記載のシステムの前記塗料性状予測部によって、前記調整後の塗料性状の変動量を算出して予測するように構成され、
前記塗料性状予測部は、複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成のデータが入力され、各々の前記補正配合組成に対応する複数の前記調整後の塗料性状の変動量を予測するように構成され、
予測した前記複数の前記調整後の塗料性状の変動量に基づいて得られる前記補正配合組成を、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、補正配合組成予測部をさらに備えたコンピュータを備えていることを特徴とする、システム。
【請求項22】
前記コンピュータは、前記調整前の塗料に、予測した前記補正配合組成を有する原料を加えた、調整後の塗料性状を測定した結果から合否を判定する、合否判定部をさらに備えている、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記所定の人工知能モデルを取得する、人工知能モデル取得部をさらに備える、請求項18~22のいずれか一項に記載のシステム。」
第4 特許異議申立理由及び当審が通知した取消理由について
1 特許異議申立理由の概要
(1)申立人は、証拠として、(2)証拠方法に示す甲第1号~甲第15号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲15」という。)を提出し、以下の申立理由により請求項1~23に係る特許は、取り消されるべきものである旨を主張している。
ア 申立理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)
・請求項1~23について
本件発明1~23は、甲1~甲8に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~23に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 申立理由2(明確性要件)
本件特許の請求項1~23の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、請求項1~23に係る特許は、特許法第36条第6項第2項の規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものである。
ウ 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1~23の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、請求項1~23に係る特許は、特許法第36条第6項第1項の規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものである。
エ 申立理由4(実施可能要件)
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものである。
(2)証拠方法
甲1:国際公開第2012/177508号
甲2:特開2000-178483号公報
甲3:特表2019-500588号公報
甲4:国際公開第2018/062398号
甲5:特表2008-509486号公報
甲6:特許第6703639号公報
甲7:特開昭61-236865号公報
甲8:特表2005-539212号公報
甲9:“レタンPG80”、関西ペイント株式会社、[2023年8月21日印刷]、インターネット<https://www.kansai.co.jp/sites/default/fi1es/products/industrial/navi/pdf/042_002.pdf>
甲10:“塗料専門店ペンキのササキ本店 商品一覧”、佐々木塗料株式会社、[2024年2月8日印刷]、インターネット<http://penki-sasaki.com/shop/shopbrand.html>
甲11:“塗料専門店ペンキのササキ本店 【メーカー調色品】ニッペ パーフェクトトップ 淡彩色・ND標準色 艶消し・3分艶・5分艶 15kg”、佐々木塗料株式会社、[2024年2月8日印刷]、インターネット<http://penki-sasaki.com/shop/shopdetail/html?brandcode=000000001229&search=&sort=>
甲12:特開2009-41084号公報
甲13:特開2006-169268号公報
甲14:特開2017-71584号公報
甲15:特開2005-120259号公報
2 当審が通知した取消理由の概要
当審が通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は、以下のとおりである。
(1)令和5年5月9日付け取消理由通知書
理由1:(進歩性)本件発明1、3、7~10、17、18、20、23は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲6に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3、7~10、17、18、20、23に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2:(明確性)本件発明3~17は次の点で明確でないから、請求項3~17に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・請求項3、4(及び5~17)における「補正配合組成」と請求項3、4が引用する請求項1、2における「補正配合組成のデータ」の平仄の不一致。
・請求項6~10、17における「製造条件」と、(a)~(d)の特定事項の関係が明確でない。
・請求項14、17における「所定の演算」が不明確である。
・請求項16、17における「関係データアップデート工程」と「人工知能モデル」との関係が不明確である。
理由3:(サポート要件)請求項1~23に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、請求項1~23に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)令和5年10月24日付け取消理由通知書<決定の予告>
理由1(進歩性)は、令和5年5月9日付け取消理由通知書と同じである。
理由2(明確性)は、本件発明20~23は明確でないから、請求項20~23に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由3(サポート要件)は、令和5年5月9日付け取消理由通知書と同じである。
第5 当審の判断
1 取消理由1(進歩性)について
(1)証拠の記載事項
ア 甲6の記載事項
甲6には、以下の記載がある(下線は当審において付与した。以下同じ)。
「【請求項1】
1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データY及び対応する色彩データXが少なくとも登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備える装置を用いるコンピュータ調色に基づく塗料の製造方法であって、下記S101~S111工程を含む、前記塗料の製造方法。
(S101)前記データベースに登録されたデータを用い、学習用データを前記コンピュータに入力する工程
(S102)前記学習用データを機械学習させ、配合組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルの少なくとも1種を生成する工程
(S103)目標とする色彩の目標色彩データXtを得る工程
(S104)前記目標色彩データXtを、前記コンピュータに入力する工程
(S105)コンピュータを用いた検索により、前記目標色彩データXtに近似する検索色彩データXn1及び検索色彩データXn1に対応する近似配合組成データYn1を得るとともに、前記目標色彩データXtと前記検索色彩データXn1とを比較し合否を判定する工程
(S106)前記S105工程において合格しない場合に、コンピュータを用いて目標色彩データXtを与えると予測される候補配合組成データYniを得た後、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル及び/又は前記人工知能モデル以外の予測式を用いて、候補配合組成データYniから予測される予測色彩データXniを得るとともに、前記色彩データXtと前記予測色彩データXniとを比較し、合否を判定する工程
(S107)前記S106工程において合格しない場合に、コンピュータを用いて目標色彩データXtを与えると予測される候補配合組成データYniを得た後、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル及び/又は前記人工知能モデル以外の予測式を用いて、候補配合組成データYniから予測される予測色彩データXniを得るとともに、前記色彩データXtと前記予測色彩データXniとを比較し、合否を判定する工程を、合格するまで繰り返す工程
(S108)前記S105~S107工程のいずれかで合格した際の、合格配合組成データYC1を得る工程
(S109)前記合格配合組成データYC1に基づき、実候補塗料CMCiを調製し、該実候補塗料CMCiの塗装板を得て、実測色彩データXCiを取得する工程
(S110)前記色彩データXtと前記実測色彩データXCiとの比較、及び/又は、前記目標とする色彩と前記実候補塗料CMCiの塗装板の色彩との比較により、合否を判定する工程
(S111)前記S110工程において合格しない場合に、前記S106~S110工程を繰り返す工程」
「【請求項4】
1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データY及び対応する色彩データXが少なくとも登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備える装置を用いる塗膜の色彩データを予測する方法であって、下記S201~S209工程を含む、前記方法。
(S201)前記データベースに登録されたデータを用い、学習用データを前記コンピュータに入力する工程
(S202)前記学習用データを機械学習させ、配合組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルの少なくとも1種を生成する工程
(S203)塗膜の色彩データを予測する塗料CMtの配合組成データYCMを得る工程
(S204)前記配合組成データYCMを、前記コンピュータに入力する工程
(S205)必要に応じて、コンピュータを用いた検索により、前記配合組成データYCMに対応する検索色彩データXn1を取得する工程
(S206)前記S205工程で対応する検索色彩データXn1が検索されなかった場合、又は、前記S205工程を行わなかった場合において、前記配合組成データYCMから、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル、又は、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデルと前記人工知能モデル以外の予測式とを用いて、予測色彩データXm1を得る工程
(S207)必要に応じて、前記塗料CMtを塗装した塗装板の実測色彩データXCMを取得し、前記予測色彩データXm1と比較する工程」
「【請求項11】
1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データY及び対応する色彩データXが少なくとも登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備える装置を用いる塗膜の色彩データを予測するシステムであって、下記手段S401~S409を含む、前記システム。
(S401)前記データベースに登録されたデータを用い、学習用データを前記コンピュータに入力する手段
(S402)前記学習用データを機械学習させ、配合組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルの少なくとも1種を生成する手段
(S403)塗膜の色彩データを予測する塗料CMtの配合組成データYCMを得る手段
(S404)前記配合組成データYCMを、前記コンピュータに入力する手段
(S405)必要に応じて、コンピュータを用いた検索により、前記配合組成データYCMに対応する検索色彩データXn1を取得する手段
(S406)前記手段S405で対応する検索色彩データXn1が検索されなかった場合、又は、前記手段S405を行わなかった場合において、前記配合組成データYCMから、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル、又は、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデルと前記人工知能モデル以外の予測式とを用いて、予測色彩データXm1を得る手段
(S407)必要に応じて、前記塗料CMtを塗装した塗装板の実測色彩データXCMを取得し、前記予測色彩データXm1と比較する手段」
「【0021】
図1は、1つのデータベース1と、1つのコンピュータ2とが、互いにデータを送受信することができるように接続されている装置の例である。データベース1には、入力装置31、出力装置41、表示装置51、測色計61、撮像機器71及び(自動)調合機81のいずれか1つ以上の機器が接続されていてもよく、コンピュータ2にも、入力装置32、出力装置42、表示装置52、測色計62、撮像機器72及び(自動)調合機82のいずれか1つ以上の機器が接続されていてもよい。データベース1又はコンピュータ2と接続している測色計61、62、撮像機器71、72及び(自動)調合機81、82の1つ以上は、データベース1又はコンピュータ2からの指令により、測定や調合等を行うものである。また、測定したデータ等をデータベース1又はコンピュータ2に送信し、最終的にデータベースにデータを登録することができる。
図1の装置において、データベース1は、コンピュータ2内の記録装置に形成されたものでもよく、このような場合には、データベース1との通信を行うことなく、この装置単独で、独立してコンピュータ調色及び塗膜の色彩データの予測を行うことができる。また、必要に応じて、データベースに登録されたデータを適当なタイミングで更新(アップデート)することで、データベースのメンテナンスを行うことができ、これにより作業者は最新のデータに基づいて作業を行うことができる。」
「【0023】
図3は、配合組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルにおけるニューラルネットワーク9(脳の神経細胞の働きをプログラムで再現したもの)を示す概略構成図である。人工知能モデルは、データベースに登録されたデータを用い、学習用データをコンピュータに入力するとともに学習用データを機械学習させることで生成される。図3に示すように、ニューラルネットワーク9は、入力層91、隠れ層92及び出力層93の3つの処理層(3つのニューロン層)を含むものとして構成されている。」
「【0027】
(色彩データ)
本発明において、データベースに登録される色彩データは、色に係るデータや、質感、光輝感、光沢等の外観特性に係るデータを含む。これらのデータは、1種類以上の色材を含有する組成物から得られる塗膜を、測色計等の機器を用い測定して取得できる。また、測定により得られた各種の色彩データの少なくとも一部を、演算処理して算出されたものでもよい。なお、機器を用いて測定して得られたデータは、必要に応じて、測定機器間又は測定変動等に起因する誤差等を補正したものであってもよい。
また、組成物自体のK値(光吸収係数)及びS値(光散乱係数)を、色彩データとして用いてもよい。K値及びS値は、例えば、組成物及び組成物を薄めた色の測色データを数値処理して得ることができる。
色に係るデータ及び/又は外観特性に係るデータは、例えば、色彩計、多角度分光光度計、レーザー式メタリック感測定機器、変角分光光度計、光沢計、ミクロ光輝感測定器等の測定機器を用いた測定により直接取得されたものであるか、測定により取得されたデータから算出されたものである。
また、色に係るデータ及び/又は外観特性に係るデータは、1つ又は複数の照明角度、1つ又は複数の観察角度、又はこれらの組合せに関係したデータを含むことができる。」
「【0055】
(配合組成データ)
前記データベースには、1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データが登録されている。
配合組成データは、前記組成物に含有される1種類以上の色材、バインダー、添加剤等の各配合成分及びそれぞれの配合量に係るデータが含まれる。また、組成物として市販品を用いる場合等において、商品名(品番)を配合組成データとして用いることができる。例えば、配合組成データが不明の市販品を用いる場合や、組成物を品番で管理している場合等の場合に用いることができる。
本発明では、組成物に含有される1種類以上の色材、バインダー、添加剤等の各成分について、その形状、化学的特性等についても配合組成データとして登録することができる。形状としては、色材等の形状(球状、鱗片状、繊維状等)、平均一次粒子径、平均二次粒子径、平均分散粒子径、粒子径分布、アスペクト比、厚さ等があげられる。化学的特性としては、分子量、分子量分布、変色温度、反応性等があげられる。」
「【0063】
本発明においては、1種類以上の色材を含有する組成物であって光輝性顔料を含まない組成物の配合組成データ及び色彩データを用いた学習用データと、1種類以上の色材と1種類以上の光輝性顔料とを含有する組成物の配合組成データ及び色彩データを用いた学習用データとを、別々に作成するとともに、これらを別々に入力することが好ましい。
本発明者は、光輝性顔料の有無に基づいて、別々の学習用データを作成し、これらを別々に入力することで、コンピュータ調色における適合率が格段に向上することを見出した。
【0064】
本発明においては、1種類以上の色材と1種類以上の光輝性顔料とを含有する組成物の配合組成データを学習用データとする際、光反射性顔料の含有量、光干渉性顔料の含有量、配向制御剤の含有量及びそれらの一つ以上の合計から選ばれる1種類以上のデータを学習用データとして用いることが好ましい。
【0065】
本発明においては、1種類以上の色材と1種類以上の光輝性顔料とを含有する組成物の配合組成データを学習用データとする際、光輝性顔料の色相別の含有量のデータを学習用データとすることが好ましい。具体的には、組成物中の光反射性顔料の各色相別の含有量、光干渉性顔料の各色相別の含有量及び着色剤の各色相別の含有量から選ばれる1種類以上のデータを学習用データとして用いることが好ましい。
光輝性顔料の色の定義は、1976年に国際照明委員会で規定されJISZ 8729にも採用されている、L*a*b*表色系をベースに考案されたL*C*h表色系において行うことができる。
・・・
【0067】
本発明においては、1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データを学習用データとする際、組成物に含まれる色材の形状データを学習用データとすることが好ましい。具体的には、着色顔料や光輝性顔料等の色材の形状(球状、鱗片状、繊維状等)、色材の平均一次粒子径、平均二次粒子径、平均分散粒子径、粒子径分布、アスペクト比、厚さ等の形状データを学習用データとして用いることが好ましい。
・・・
【0069】
<S102工程>
S102工程は、前記学習用データを機械学習させ、組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルの少なくとも1種を生成する工程である。本発明における人工知能モデルとしては、例えば、勾配ブースティングを用いた決定木、線形回帰、ロジスティック回帰、単純パーセプトロン、MLP、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン、ランダムフォレスト、ガウス過程、ベイジアンネットワーク、k近傍法、その他機械学習で用いられるモデルで構成することができる。本発明においては、ニューラルネットワークを使用した人工知能モデルであることが好ましい。
本発明においては、ニューラルネットワークを構成し、S101工程で入力された学習用データを用いてニューラルネットワークを学習させることにより、組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルの少なくとも1種を生成することができる。」
「【0083】
S105工程において、目標色彩データXtと前記検索色彩データXn1とを比較して合否の判定を行う際には、検索色彩データXn1を構成する要素の1つ以上と、目標色彩データXtを構成する要素の1つ以上とに着目し、それぞれ対応する各構成要素を比較することで行うことができる。合否の判定に際しては、例えば、各構成要素における差分、一致度、誤差率等について閾値を設け、これを参考にして機器又は作業者により合否の判定を行うようにしてもよい。その際、熟練作業者の観点等を反映させて、各構成要素間で重みづけを行ってもよい。」
「【0098】
合否の判定は、例えば、色彩データXtを構成する各要素と、予測色彩データXniを構成する各要素とを、それぞれ個別に対比して行うことができる。例えば、色彩データXt及び予測色彩データXniがL*a*b*表色系を用いた要素及びそれから得られる要素を含む場合、L*、a*及びb*それぞれに加え、色差ΔEについても対比して、合否判定を行うことができる。その際、各構成要素における差分、一致度、誤差率等についての閾値を設け、これを参考にして合否判定を行うようにしてもよい。
本発明において、前記予測色彩データXniが光輝性に係る色彩データである場合には、多角度の分光反射率及び/又は光輝感パラメータを用い、合否判定を行うことが好ましい。
なお、合否の判定に際しては、必要に応じて、合否にかかわらず予測色彩データXniを目標色彩データXtに近いものとするための改良点等を作業者に報知するようにしてもよい。
【0099】
<S107工程>
S107工程は、前記S106工程において合格しない場合に、コンピュータを用いて目標色彩データXtを与えると予測される候補配合組成データYniを得た後、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル及び/又は前記人工知能モデル以外の予測式を用いて、候補配合組成データYniから予測される予測色彩データXniを得るとともに、前記色彩データXtと前記予測色彩データXniとを比較し、合否を判定する工程を、合格するまで繰り返す工程である。
S107工程において、コンピュータを用いて目標色彩データXtを与えると予測される候補配合組成データYniを得る方法は、S106工程におけるコンピュータを用いて目標色彩データXtを与えると予測される候補配合組成データYniを得る方法と同じものである。
また、S107工程において、合否を判定する方法は、S106工程における合否を判定する方法と同じものである。」
「【0115】
[塗膜の色彩データを予測する方法]
図7は、本発明の塗膜の色彩データを予測する方法を実行する際のフローチャートである。なお、図7に示されるフローは、本発明の一実施の形態にすぎない。
本発明の塗膜の色彩データを予測する方法は、1種類以上の色材を含有する組成物の色彩データX及び配合組成データYが少なくとも登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備えるコンピュータ調色装置を用い、下記S201~S209工程を含む方法である。
ここで、S201工程及びS202工程は、それぞれS101工程及びS102工程と同じものである。以下、S203~S209工程について、詳細に説明する。
【0116】
<S203工程>
S203工程は、塗膜の色彩データを予測する塗料CMtの配合組成データYCMを得る工程である。
塗膜の色彩データを予測する塗料CMtは、実際に塗料を調製することなくその色彩又は色彩データを取得したい塗料とすることができる。これにより、例えば、一度に多数の色彩を試作する等の場合において、塗料の調製、塗装による塗膜の調製及び塗膜の色彩データの測定という工程を行うことなく、容易に色彩又は色彩データを取得することができる。
配合組成データYCMは、塗料中に含まれるバインダー、着色顔料、添加剤成分等について、それぞれの種類(商品名、品番等)及び配合量に係るデータである。具体的には、データベースに登録される配合組成データを構成する、組成や配合量に係るデータと同様のものとすることができる。
【0117】
<S204工程>
S204工程は、前記配合組成データYCMを、前記コンピュータに入力する工程である。
データの入力は、前記S104工程において、目標色彩データXtをコンピュータに入力する手段と同様の手段を用いて行うことができる。
【0118】
<S205工程>
S205工程は、必要に応じて、コンピュータを用いた検索により、前記配合組成データYCMに対応する検索色彩データXn1を取得する工程である。
S205工程は、コンピュータカラーサーチ(CCS)と同様の工程とすることができ、データベースに登録されている多数の配合組成データの中から、前記配合組成データYCMと近似する配合組成データを検索し、得られた配合組成データに対応する色彩データを、検索色彩データXn1として取得するものである。
ここで、データベースに登録されている配合組成データは、例えば、市販の塗料の配合組成データ、過去作製した塗料の配合組成データ等で、いずれも配合組成データと対応する色彩データとが関連付けられている。したがって、配合組成データYCMに近似する配合組成データを得ることで、対応する色彩データを検索色彩データXn1として容易に得ることができる。
【0119】
配合組成データYCMと近似する配合組成データを、多数の配合組成データから検索する際には、配合組成データを構成する要素の1つ以上(例えば、特定の色の顔料の含有量等)のそれぞれについて、対応する要素と対比し、値の差分、一致度、誤差率等が一定の範囲内であるものを検索して得ることができる。前記一定の範囲は、作業者が経験等を踏まえて設定してもよく、また、コンピュータにより設定することもできる。
本発明において、S205工程は、必要に応じて行われるものであり、行われなくても何ら問題はない。
【0120】
<S206工程>
S206工程は、前記S205工程で対応する検索色彩データXn1が検索されなかった場合、又は、前記S205工程を行わなかった場合において、前記配合組成データYCMから、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル、又は、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデルと前記人工知能モデル以外の予測式とを用いて、予測色彩データXm1を得る工程である。
【0121】
本発明においては、少なくとも1種の人工知能モデルを用い、配合組成データYCMから、予測色彩データXm1を得ることができる。また、少なくとも1種の学習した人工知能モデルと人工知能モデル以外の予測式とを併用して、予測色彩データXm1を得ることができる。ここで、人工知能モデルを用いる方法等、人工知能モデル以外の予測式及びそれを用いる方法等は、前記S106工程において記載したのと同様のものとすることができる。
【0122】
<S207工程>
S207工程は、必要に応じて、前記塗料CMtを塗装した塗装板の実測色彩データXCMを取得し、前記予測色彩データXm1と比較する工程である。
S207工程を実施し、結果をフィードバックすることにより、より高精度に塗膜の色彩データを予測することが可能となる。
例えば、実測色彩データXCMと予測色彩データXm1とで乖離が大きい場合には、人工知能モデル以外の予測式のみを用い、改めて予測色彩データを得るとともに、実測色彩データXCMと比較して、フィードバックを行うことができる。
また、予測色彩データXm1と実測色彩データXCMとの差分Δを補正係数βとしてコンピュータに入力した後に、S205工程~S207工程を繰り返すこともできる。」
図7「
[図:0001412278000001.jpg]
」
イ 甲6に記載された発明
上記(1)の記載を総合すると、甲6には、次の2発明(以下「甲6発明1」、「甲6発明2」という。)が記載されていると認められる。
(甲6発明1)
「1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データY及び対応する色彩データXが少なくとも登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備える装置を用いる塗膜の色彩データを予測する方法であって、以下の工程を含み、色彩データは、色に係るデータや、質感、光輝感、光沢等の外観特性に係るデータを含む前記方法。
(工程1)前記データベースに登録されたデータを用い、学習用データを前記コンピュータに入力する工程
(工程2)前記学習用データを機械学習させ、配合組成データYから色彩データXを推定する、ニューラルネットワークで構成される人工知能モデルの少なくとも1種を生成する工程
(工程3)一度に多数の色彩を試作する等の場合において、塗料の調製、塗装による塗膜の調製及び塗膜の色彩データの測定という工程を行うことなく、容易に色彩又は色彩データを取得することができるように、実際に塗料を調製することなくその色彩又は色彩データを取得したい塗料である、塗膜の色彩データを予測する多数の塗料CMtの配合組成データYCMを得る工程であり、配合組成データYCMは塗料中に含まれるバインダー、着色顔料、添加剤成分等について、それぞれの種類(商品名、品番等)及び配合量に係るデータである、工程
(工程4)前記配合組成データYCMを、前記コンピュータに入力する工程
(工程5)前記配合組成データYCMから、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデルを用いて、予測色彩データXm1を得る工程
(工程6)必要に応じて、前記塗料CMtを塗装した塗装板の実測色彩データXCMを取得し、前記予測色彩データXm1と比較する工程」
(甲6発明2)
「1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データY及び対応する色彩データXが少なくとも登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備える装置を用いる塗膜の色彩データを予測するシステムであって、以下の手段を含み、色彩データは、色に係るデータや、質感、光輝感、光沢等の外観特性に係るデータを含む、前記システム。
(手段1)前記データベースに登録されたデータを用い、学習用データを前記コンピュータに入力する手段
(手段2)前記学習用データを機械学習させ、配合組成データYから色彩データXを推定する、ニューラルネットワークで構成される人工知能モデルの少なくとも1種を生成する手段
(手段3)一度に多数の色彩を試作する等の場合において、塗料の調製、塗装による塗膜の調製及び塗膜の色彩データの測定という工程を行うことなく、容易に色彩又は色彩データを取得することができるように、実際に塗料を調製することなくその色彩又は色彩データを取得したい塗料である、塗膜の色彩データを予測する多数の塗料CMtの配合組成データYCMを得る手段であり、配合組成データYCMは塗料中に含まれるバインダー、着色顔料、添加剤成分等について、それぞれの種類(商品名、品番等)及び配合量に係るデータである、手段
(手段4)前記配合組成データYCMを、前記コンピュータに入力する手段
(手段5)前記配合組成データYCMから、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデルを用いて、予測色彩データXm1を得る手段
(手段6)必要に応じて、前記塗料CMtを塗装した塗装板の実測色彩データXCMを取得し、前記予測色彩データXm1と比較する手段」
(2)本件発明1の進歩性の判断
ア 対比
本件発明1と甲6発明1を対比する。
(ア)塗料が調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えて調整されることは技術常識であり、甲6発明1が「一度に多数の色彩を試作する等の場合」を、想定していることを踏まえると、甲6発明1で予測対象とされる「実際に塗料を調製することなくその色彩又は色彩データを取得したい塗料」には、多数の色彩となるように着色顔料等を複数のバリエーションで含有するように調整した多数の塗料が少なくとも含まれるということができる。そして、そのバリエーションにおけるバインダー、着色顔料、添加剤成分等のうち共通する部分が、本件発明1の「調整前の塗料」に相当し、バインダー、着色顔料、添加剤成分等のうちバリエーションによって異なる部分が、本件発明1の「塗料性状調整用の原料」に相当するといえる。共通する部分と異なる部分を合わせたものが、「実際に塗料を調製することなくその色彩又は色彩データを取得したい塗料」であるから、甲6発明1で予測対象とされる「実際に塗料を調製することなくその色彩又は色彩データを取得したい塗料」は、本件発明1の「調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた」ものに相当する。
また、甲6発明1における「予測色彩データXm1」は、本件発明の「予測」される「調整後の塗料性状」に相当する。
そうすると、甲6発明1の「人工知能モデルを用いて、」「実際に塗料を調製することなくその色彩又は色彩データを取得したい塗料」の「予測色彩データXm1を得る」ことは、本件発明1の「機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料性状を予測する、塗料性状の予測方法」に相当する。
(イ)甲6発明1の「配合組成データYCMは塗料中に含まれるバインダー、着色顔料、添加剤成分等について、それぞれの種類(商品名、品番等)及び配合量に係るデータ」であり、(1)で対比したように、甲6発明1の「配合組成データYCM」の塗料、つまり、「実際に塗料を調製することなくその色彩又は色彩データを取得したい塗料」は、本件発明1の「調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた」「調整後の塗料」に相当するものである。
してみると、甲6発明1の「配合組成データYCM」と本件発明1の「調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」とは、「調整に用いる塗料に関するデータ」ということで共通するものである。
そして、甲6発明1の、「前記配合組成データYCMを、前記コンピュータに入力」し、「前記配合組成データYCMから、」「予測色彩データXm1を得る」「少なくとも1種の学習した人工知能モデル」により、「予測色彩データXm1を得る」ことは、本件発明1の「調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)を入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、コンピュータにより、前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状を算出して予測する、塗料性状予測工程」に対応する。
(ウ)以上から、本件発明1と甲6発明1とは、次のaの点で一致し、bの点で相違する。
a 一致点
「機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料性状を予測する、塗料性状の予測方法であって、
調整に用いる塗料に関するデータを入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、コンピュータにより、調整に用いる塗料に関するデータを入力することによって、前記調整後の塗料性状を算出して予測する、塗料性状予測工程を含む、塗料性状の予測方法。」
b 相違点
調整に用いる塗料に関するデータについて、本件発明1は、「調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」であるのに対して、甲6発明1は、「配合組成データYCMは塗料中に含まれるバインダー、着色顔料、添加剤成分等について、それぞれの種類(商品名、品番等)及び配合量に係るデータ」であるが、「調整前の塗料性状のデータ」と「塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ」とに分けて扱われていない点。(以下、「相違点1」という。)
イ 相違点の判断
上記相違点1について検討する。
甲6発明1において、「配合組成データYCMは塗料中に含まれるバインダー、着色顔料、添加剤成分等について、それぞれの種類(商品名、品番等)及び配合量に係るデータ」であり、このデータは、組成を示すデータであって、塗料の「性状」を示すデータではないので、本件発明1の「調整前の塗料性状データ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」とは異なるものである。また、本件発明1は、「調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」と「前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」という異なる種類のデータを入力するものである。塗料は、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えて調整されることが技術常識ではあるが、甲6には、調整前の塗料については、「塗料性状データ」を、塗料性状調整料の原料については、「補正配合組成のデータ」と、異なる種類のデータ用いることは、記載も示唆もされていない。
よって、相違点1として挙げた本件発明1の発明特定事項は、甲6に記載されたものとも、甲6の記載より当業者が容易に想到し得たものともいえない。
また、甲1~5、7、8の記載を参照しても、相違点1として挙げた本件発明1の発明特定事項を当業者に動機付ける記載は見当たらない。
したがって、本件発明1は、甲6発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和6年2月14日提出の意見書において、「依然として取消理由通知書の理由1が解消していません。」(8頁11~12行)と主張している。しかし、上記相違点について検討したように、相違点1として挙げた本件発明1の発明特定事項は、甲6に記載されたものとも、甲6の記載より当業者が容易に想到し得たものともいえないから、申立人の主張は首肯できない。
(3)本件発明3、7~10、17について
請求項3、7~10、17に対する取消理由1は、請求項1を引用しているものに対して、通知されたものであるが、請求項1については、上記(2)で検討したとおり、取消理由1は解消しているので、請求項1を引用する請求項3、7~10、17も、取消理由1を有さない。
(4)本件発明18について
本件発明18と甲6発明2を対比すると、次の点で一致し、次の点で相違する。
(システムの発明である本件発明18は、方法の発明である本件発明1に対応するものであるから、詳細な対比について(2)アを参照されたい。)
<一致点>
「機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料性状を予測するシステムであって、
調整に用いる塗料に関するデータを入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、コンピュータにより、調整に用いる塗料に関するデータを入力することによって、前記調整後の塗料性状を算出して予測する、塗料性状予測部を備えたコンピュータを備えているシステム。」
<相違点>
調整に用いる塗料に関するデータについて、本件発明18は、「調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」であるのに対して、甲6発明2は、「配合組成データYCMは塗料中に含まれるバインダー、着色顔料、添加剤成分等について、それぞれの種類(商品名、品番等)及び配合量に係るデータ」であるが、「調整前の塗料性状のデータ」と「塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ」とに分けて扱われていない点。(以下、「相違点2」という。)
上記相違点2について検討する。
甲6発明2において、「配合組成データYCMは塗料中に含まれるバインダー、着色顔料、添加剤成分等について、それぞれの種類(商品名、品番等)及び配合量に係るデータ」であり、このデータは、組成を示すデータであって、塗料の「性状」を示すデータではないので、本件発明18の「調整前の塗料性状データ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」とは異なるものである。また、本件発明18は、「調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」と「前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」という異なる種類のデータを入力するものである。塗料は、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えて調整されることが技術常識ではあるが、甲6には、調整前の塗料については、「塗料性状データ」を、塗料性状調整料の原料については、「補正配合組成のデータ」と、異なる種類のデータ用いることは、記載も示唆もされていない。
よって、相違点2として挙げた本件発明18の発明特定事項は、甲6に記載されたものとも、甲6の記載より当業者が容易に想到し得たものともいえない。
また、甲1~5、7、8の記載を参照しても、相違点2として挙げた本件発明18の発明特定事項を当業者に動機付ける記載は見当たらない。
したがって、本件発明18は、甲6発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)本件発明20、23について
請求項20、23に対する取消理由1は、請求項18を引用しているものに対して、通知されたものであるが、請求項18については、上記(3)で検討したとおり、取消理由1は解消しているので、請求項18を引用する請求項20、23も、取消理由1を有さない。
2 取消理由2(明確性)について
・請求項20~23
取消理由2は、請求項20、21に「前記塗料性状予測部は、複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成が入力され」と記載されている。請求項20が引用する請求項18、及び、請求項21が引用する請求項19では、「塗料性状予測部」で入力されるものは「調整前の塗料性状のデータ及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ」と特定されている。そのため、入力として特定されているものが、請求項20、21では「補正配合組成」、請求項18、19では、「補正配合組成のデータ」であり、両者が同一のものであるのか否かが明確でないと指摘するものであった。しかし、訂正事項10、11のとおり、請求項20、21の「補正配合組成」が、「補正配合組成のデータ」と訂正されたので、両者が同一のものであることが明確となった。
したがって、請求項20、21に係る発明及び請求項20または21を引用する請求項22、23に係る発明は明確である。
3 取消理由3(サポート要件)について
本件発明1~23が解決しようとする課題は、「機械学習の手法により効率化を達成しつつも、予測精度の高い、塗料性状又は補正配合組成の予測方法、塗料性状又は補正配合組成の予測システムを提供すること、並びに、機械学習の手法により効率化を達成しつつも、塗料性状を所期したものに精度良く近づけることが可能な、塗料の製造方法を提供すること」(本件の明細書の段落0011)であり、本件明細書の段落0109~0122に開示される実施例により、全体配合比による予測より、「調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)を入力とする」「所定の人工知能モデル」が精度のよい予測を行えることが示されているので、本件発明1~23が解決しようとする課題を解決することができると当業者が認識し得ると解するのが相当である。
したがって、本件発明1~23は、発明の詳細な説明に記載されたものであると認められるから、取消理由3は成り立たない。
なお、申立人は、令和6年2月14日提出の意見書において、技術常識を踏まえても本件明細書の記載を、本件発明1の「調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」まで、拡張又は一般化し得るということはできない旨を主張している。しかし、「調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」及び「前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)にどのようなものが含まれるかは、段落0044、0046に示されており、これらの段落で挙げられている「調整前の塗料性状に関するデータ」、「前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ」は、調整後の塗料性状に影響を及ぼすことが十分予測されるものであるから、上記主張は首肯できない。
4 取消理由通知書で採用しなかった申立理由の検討
(1)申立理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)
ア 甲1~5、7、8の記載事項(甲1については、日本語訳を記載する。下線は当審が付与。)
(ア)甲1
a 甲1の記載事項
(甲1-ア)4頁28~31行
[22]「sparkle」、「sparkles」または「sparkle effect」という用語は、光学的異方性顔料の粒子上のハイライトの外観とその直近の周囲との間の視覚的コントラストを指す。sparkleは、例えばASTM E284-90及びその他の関連する標準的な方法によって定義することができる。
(甲1-イ)8頁14~25行
[36] 人工ニューラルネットワークは、以下のように構成することができる。色特性および塗料処方などの入力を受け取るための1つまたは複数の入力ノードを有する入力層;1つまたは複数の隠れノードを有する少なくとも1つの隠れ層;前記予測されたsparkle値などの出力を生成するための1つまたは複数の出力ノードを有する出力層;前記隠れ層の最初の隠れノードで前記入力ノードのそれぞれと前記隠れノードとを接続する個々の入力接続重み;前記出力ノードの各々
と前記隠れ層の最後の隠れノードの各々とを接続する個々の出力接続重み;ここで、前記隠れ層の最初と最後とは、隠れ層が1つしかない場合には同じであり、隠れ層が2つ以上ある場合には異なるものである、ことを特徴とする。ノードの出力は、そのノードに接続された入力の接続重みの総和とすることができる。
(甲1-ウ)10頁31行~11頁33行
[52] 測定された色特性、測定されたsparkle値、及び訓練塗料の各々に関連する個々の訓練塗料処方を、人工ニューラルネットワークに入力することができる。測定された色特性および個々の訓練用塗料処方は、入カノードに入力することができ、個々の訓練用塗料処方の各成分および測定された色特性の各々は、個々の対応する入力ノードを有することができる。教師付きバックプロパゲーション学習法を使用することができ、測定されたsparkle値は、ネットワーク接続重みの学習を指示するために使用することができる。最初に、小さなランダム値または以前に知られていた値を、入力接続重み、存在する場合には隠れ接続重み、および出力接続重みなどの接続重みの各々に割り当てることができ、人工ニューラルネットワークが、測定された色特性および個々の訓練塗料処方に基づく初期予測sparkle値を生成することができるようにすることができる。初期予測sparkle値は、測定されたsparkle 値と比較することができる。バックプロパゲーションアルゴリズムを適用して、測定されたsparkle値と初期予測されたsparkle 値との間の誤差を低減する方向に1つ以上の修正された接続重みを生成することができる。バックプロパゲーションアルゴリズムの例としては、米国特許第5,046,020号に記載されているものを挙げることができる。修正された接続重みは、例えば、Owens and Filkin (Efficient training of the back propagation network by solving a system of stiff ordinary differential equations, International Joint Conference on Neural Networks, Washington DC,2, 381 -386, June 1989) によって説明される方法を用いて生成することができる。このプロセスは、これ以上誤差を減らすことができなくなるまで繰り返し行うことができる。クロスバリデーション法は、トレーニングデータを初期トレーニングデータセットとテストデータセットに分割するために採用することができる。初期学習データセットは、ネットワーク重みの逆伝播学習で使用することができる。テストデータセットは、訓練されたネットワークが、独立した測定された色特性および塗料処方に基づく良好な予測を行うために一般化することを検証するために使用することができる。最良の接続重みは、訓練された入力接続重み、訓練された出力接続重み、および任意に、存在する場合には訓練された隠れ接続重みとして取られ、出力sparkle値を最もよく予測できる訓練された人工二ューラルネットワークを生成するために使用され得る。隠れ層の隠れノードの数およびネットワークの隠れ層の数は、訓練データ、テストデータ、または訓練データとテストデータの両方を使用して最適化することもできる。
(甲1-エ)12頁1~4行
[53] 予測される目標sparkle値は、入力ノードを介して目標塗料処方と目標塗料処方に関連する目標カラー特性を入力することにより、学習された人工ニューラルネットワークから生成することができる。
(甲1-オ)17頁11~15行
[70] 本明細書に開示されたプロセスから生成された予測された目標sparkle値を使用して、目標コーティング組成物は、所望の仕様を満たすように変更することができる。例えば、目標コーティング組成物は、車両の既存のコーティングの色及びsparkleに一致するように製造することができ、その車両のコーティングに対する1つ又は複数の損傷を修復するために使用することができる。
(甲1-カ)21頁31行~22頁17行
[87] コンピュータプログラム製品は、コンピューティングデバイス、または有線もしくは無線接続を介してコンピューティングデバイスに機能的に結合されたホストコンピュータに常駐させることができる。コンピュータプログラム製品は、1つ以上の関連するサブプログラム、関連しないサブプログラム、またはそれらの組み合わせから構成されることができる。1つ以上の関連サブプログラムまたは非関連サブプログラムは、順次に、並列に、またはそれらの組み合わせで
実行することができる。1つ以上の関連サブプログラムまたは無関係のサブプログラムは、実行時に自動的に順次または並行して実行することができ、手動で順次または並行して開始または停止することができ、またはそれらの組合せであることができる。一実施例では、訓練データは、Excelスプレッドシートに受信され、その後、人工ニューラルネットワークにエクスポートされ得る。別の例では、トレーニングデータの一部または全部をサブプログラムに受信して所望の形式に変換し、その後、人工ニューラルネットワークにエクスポートすることができる。さらに別の例では、1つまたは複数の訓練用塗料処方をサブプログラムで処理して、個々の成分を抽出し、次いで、個々の成分を人工ニューラルネットワークの個々の入力ノードにエクスポートすることができる。さらなる例では、訓練用塗料の色反射値をサブプログラムによって受け取り、L*, a*, b*色値に変換し、その後、人工ニューラルネットワークにエクスポートすることができる。さらに別の例では、サブプログラムを使用して、データベースから1つまたは複数の訓練用塗料の色データ値を取得し、その後、人工ニューラルネットワークに入力することができる。
(甲1-キ)24頁13~18行
学習済みニューラルネットワークの特性評価
複数のトレーニング用塗料からの3331個のデータ点を含むトレーニングデータセットを使用して、人工ニューラルネットワーク(ANN) をトレーニングし、塗料の色特性およびフォーミュレーションに基づいて照明角15゜におけるsparkle値を予測するための中間人工ニューラルネットワークを生成した。
(甲1-ク)24頁29~33行
複数の学習用塗料のデータ3321個を含む学習用データセットを用いて人工ニューラルネットワーク(ANN) を学習させ、塗料の色特性および配合に基づいて照明角45゜におけるsparkle値を予測するための中間人工ニューラルネットワークを作成した。
(甲1-ケ)25頁15行~26頁20行
実施例1
塗料実施例1の塗料製剤の各成分(表1) を、ノートパソコンにインストールされている学習済み人工ニューラルネットワークに入力した。
表1. 塗料実施例1の処方
[図:0001412278000002.jpg]
注:
1-8: 塗料バインダー及び顔料は、E. I. DuPont de Nemours and Company, Wilmington, DE, USAから入手可能である。
塗料実施例1の色特性は、色測定装置X-Rite MA68II Portable Multi-Angle Spectrophotometer、X-Rite、Grand Rapids、Ml 49512、USAから入手可能である。L*, a*, b* 値からなる測定色値(表2) は、同じラップトップコンピュータ上の学習済み人工ニューラルネットワークヘの入力として入力された。色彩値は、表2に規定された視野角(非球面角)で測定されたものである。
表2. 塗料実施例1の測定された色値
[図:0001412278000003.jpg]
塗料のsparkle値SG(SG予測値)は、2つの照明角度で、学習された人工ニューラルネットワークを使用して生成された。また、米国メリーランド州のBYK-Gardner USAから入手できるsparkle測定装置BYK-macを用いて、同じ塗料の測定されたsparkle値(SG測定値) を得た(表3)。予測されたsparkle値と測定されたsparkle値との間の差も表3に示されている。
表3.Sparkle値
[図:0001412278000004.jpg]
(甲1-コ)27頁3~16行
(1. 目標塗料組成物の1つ以上の予測された目標sparkle値を製造するためのプロセスであって、前記プロセスは以下のステップを含む。
(A) 複数の訓練用塗料の訓練データを得るステップであって、前記訓練データは、測定された色特性、測定されたsparkle値、および訓練用塗料の各々に関連する個々の訓練用塗料処方を含む、ステップ;および
(B) 前記訓練データを用いて人工ニューラルネットワークを訓練し、塗料処方および前記塗料処方に関連する色特性に基づいて予測されるsparkle値を生成することができる訓練された人工ニューラルネットワークを生成するステップであって、前記訓練された人工ニューラルネットワークは、前記訓練塗料のそれぞれに関連する前記測定された色特性、前記測定されたsparkle値および前記個々の訓練塗料処方に基づいて訓練されるステップと、を備える。
(甲1-サ)27頁18~24行
2. 以下のステップをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
(C) 前記目標塗料製剤及び前記目標塗料製剤に関連する目標色特性に基づいて、前記学習された人工ニューラルネットワークから予測目標sparkle値を生成するステップ;及び
(D) 前記予測された目標sparkle値を出カデバイスに出力するステップ。
(甲1-シ)28頁1~9行
5. 前記目標カラー特性が、前記目標塗料組成物から生成された目標塗料を測定することによって得られる測定目標カラー特性、塗料組成物に関連付けられたカラー特性を含むカラーデータベースから前記目標塗料組成物に基づいて検索された検索目標カラー特性、塗料組成物に基づいて塗料色を予測するカラー予測計算プログラム製品から前記目標塗料組成物に基づいて得られる予測目標カラー特性、又はこれらの組み合わせから選択される、請求項2に記載のプロセス。
(甲1-ス)29頁26行~30頁9行
(18. 請求項1記載のプロセスであって、前記学習された人工ニューラルネットワークが、以下を備えることを特徴とするプロセス。
a) 色特性及び塗料処方を受け取るための、1つ以上の入力ノードを有する入力層;
b) 1つ以上の隠れノードを有する少なくとも1つの隠れ層;
c) 前記予測されたsparkle値を生成するための1つ以上の出力ノードを有する出力層;
d) 前記隠れ層の第1において前記入力ノードのそれぞれと前記隠れノードとを接続する個々の学習された入力接続重み;
e) 前記出力ノードの各々と、前記隠れ層の最後の隠れノードの各々とを接続する、個別に訓練された出力接続重み;
ここで、前記隠れ層が1つしかない場合、前記隠れ層の最初と最後は同じであり、前記隠れ層が2つ以上ある場合、前記隠れ層の最初と最後は異なっている。
(甲1-セ)30頁14行~31頁13行
(20. 目標塗料組成物の1つ以上の予測目標sparkle値を生成するためのシステムであって、前記システムは、以下を含む。
(i)コンピューティングデバイス;
(ii) 前記コンピューティングデバイスまたは前記コンピューティングデバイスに機能的に結合されたホストコンピュータに常駐する人工ニューラルネットワークコンピューティングプログラム製品であって、前記人工ニューラルネットワークコンピューティングプログラム製品は、以下を含むことを特徴とする人工ニューラルネットワークコンピューティングプログラム製品:
a) 入力を受け取るための1つまたは複数の入力ノードを有する入力層;
b) 1つまたは複数の隠れノードを有する少なくとも1つの隠れ層;
c) 出力を生成するための1つまたは複数の出力ノードを有する出力層;
(iii) 前記コンピューティングデバイスに機能的に結合された入力デバイス及び出力デバイス; 及び
(iv) コンピューティングプロセスを実行するために前記コンピューティングデバイスに機能的に結合されたコンピューティングコードを含むコンピュータプログラム製品であって、前記コンピューティングプロセスは、以下のステップを含む、コンピュータプログラム製品:
(1) 複数の訓練用塗料の訓練データを前記人工ニューラルネットワークコンピューティングプログラム製品の前記1つ以上の入力ノードに受け取るステップであって、前記訓練データは、測定された色特性、測定されたsparkle値、および前記訓練用塗料の各々に関連する個々の訓練用塗料処方を含む、ステップと
(2) 前記訓練データを用いて前記人工ニューラルネットワークコンピューティングプログラム製品を訓練して、塗料配合および前記塗料配合に関連する色特性に基づいて前記出力ノードから予測sparkle値を生成することができる訓練済み人工ニューラルネットワークを生成し、前記訓練済み人工ニューラルネットワークが、前記訓練用塗料のそれぞれに関連する前記測定色特性、前記測定sparkle値および前記個々の訓練塗料配合に基づいて訓練されるステップ。
b 甲1発明の認定
上記aの記載を総合すると、甲1には、次の2発明(以下「甲1発明1」、「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。
甲1発明1:
「入力ノードを介して目標塗料処方と目標塗料処方に関連する目標カラー特性を入力とする(甲1-エ)、ノートパソコンにインストールされている学習済み人工ニューラルネットワーク(甲1-ケ)に、目標塗料処方と目標塗料処方に関連する目標カラー特性を入力することによって(甲1-エ)、塗料のsparkle値を予測する方法(甲1-エ、甲1-ケ)。」
甲1発明2:
「目標塗料組成物の1つ以上の予測目標sparkle値を生成するためのシステムであって、前記システムは、以下を含む。(甲1-セ)
(i)コンピューティングデバイス;(甲1-セ)
(ii) 入力ノードを介して目標塗料処方と目標塗料処方に関連する目標カラー特性を入力とする人工ニューラルネットワークコンピューティングプログラム製品;(甲1-エ、甲1-セ)
(iii) 前記コンピューティングデバイスに機能的に結合された入力デバイス(甲1-セ)。」
(イ)甲2
「【請求項1】 着色塗料のユーザーが、以下の(1)~(3)の条件を備えたもとで、自ら調色用顔料液を用いてベース塗料の調色を行うことを特徴とするユーザー調色システム。
(1)前記ユーザーが調色のための計量と混合とが可能な調色装置を備える。
(2)前記着色塗料のメーカーが、前記ユーザーに対して前記ベース塗料と必要な色彩の前記調色用顔料液とを提供する。
(3)前記着色塗料のメーカーが、前記ユーザーに対して、調色時のベース塗料の基準量と、これに対する1種又は2種以上の色彩の調色用顔料液の混合量とを指示したユーザー用調色データベースを任意の形態で提示する。」
(ウ)甲3
「【請求項1】
既知の塗料配分組成(1)を有する塗料の視覚的質感パラメータ(9)を予測するための方法であって、前記塗料の視覚的質感パラメータ(9)は、前記塗料配分組成(1)に使用される複数の色成分に基づく人工ニューラルネットワーク(7)によって決定され、少なくとも1つの光学特性を記述する少なくとも1つの特性変数(5)の値が前記既知の塗料配分組成(1)に対する物理モデル(3)によって決定され、該値は前記既知の塗料配分組成(1)に割り当てられ、また該値は前記視覚的質感パラメータ(9)を決定するための入力信号として前記人工ニューラルネットワーク(7)に伝送され、決定され且つ前記既知の塗料配分組成(1)に割り当てられた前記値は、前記塗料配分組成(1)の複数の色成分の少なくとも幾つかに対する少なくとも1つの光学特性を記述し、複数の色原本の夫々が既知の塗料配分組成と共に前記ニューラルネットワーク(7)の訓練のために使用され、その色原本の各々に対し、それら視覚的質感パラメータの夫々は、測定されると共に、対応する前記塗料配分組成の夫々に対して決定され且つその塗料配分組成の各々に対して少なくとも1つの光学特性を記述する、前記少なくとも1つの特性変数の値に割り当てられる、方法。」
「【請求項8】
前記個別の塗料配分組成の前記少なくとも1つの色成分の前記反射スペクトルから導出され、前記物理モデル(3)によって予測される色空間座標は、光学特性として選択される、請求項6に記載の方法。」
「【0033】
本発明に関して提供されるニューラルネットワークを訓練するために必要な全ては、何れの場合も、色原本の個々の色成分の夫々の特性変数に対する根拠を既知の塗料配分組成と共に提供する光学特性に関する情報であり、これらの色原本の夫々に対し、これらの個々の質感パラメータは、測定を受けると共に、特定の色原本に対して決定された個々の特性変数又は特性変数の夫々の値に割り当てられる。そして、考慮中の塗料配分組成の少なくとも1つの特性変数又は少なくとも1つの特性変数の値に関する情報を伴って、ニューラルネットワークによって、塗料配分組成の視覚的質感パラメータの予測又は決定が可能となる。もし、他の塗料配分組成の視覚的質感パラメータが既に既知であれば、視覚的質感パラメータの予測を可能な限り精密に達成するために、ニューラルネットワークの機能を繰り返して確認させ且つ必要形に適応させることもできる。」
「【0044】
本発明の方法の更なる可能な実施の形態では、以下の光学特性のリスト、即ち塗料又は塗料配分組成の分光反射、塗料の複数の色成分の少なくとも1つの色成分の光学定数、塗料の少なくとも1つの色成分に対する物理モデルによって予測される反射スペクトル、クベルカ-ムンク理論に係る吸収係数K、クベルカ-ムンク理論に係る散乱係数S、及び塗料の複数の色成分の夫々の光学定数から算出される光学特性変数、から選択された少なくとも1つの特性変数によって記述される少なくとも1つの光学特性が与えられる。光学定数は、例えば、吸収係数、伝送係数及び/又は散乱係数である。」
「【0055】
本発明のコンピュータプログラム製品は、特に、本発明の方法を実行するために機能し、そのコンピュータプログラムは、例えばコンピュータ可読データキャリアに記憶され得る。」
「【0062】
特徴的な物理特性、特に光学特性に基づいて質感パラメータが決定又は予測されるので、塗料配分組成1の色成分の個々の濃度を伴うニューラルネットワーク7の精密な訓練は必要ない。代わりに、質感パラメータを決定するために、既知の色又は塗料配分組成1の複数の色成分の特徴的な特性の情報で事足りる。これは、このニューラルネットワーク7が塗料配分組成1の色成分の変更に関して頑健であること、及び相応する質感パラメータ9を決定するために個々の特徴的で物理的な色成分-任意に新たに加えられた色成分-に関する情報のみが必要であることを意味する。」
「【0067】
操作ステップ13で決定される塗料配分組成の特性変数又はそれらの値は、入力信号又は入力変数として、ニューラルネットワークの形をした機械学習装置に、即ちニューラルネットワークに供給される。」
「【0070】
入力変数としてニューラルネットワークに伝達されるこの特性変数又はそれらの値は、塗料の光学特性を記述すると共に、例えば、個別の塗料配分組成に割り当てられた光学定数、及び/又は、それらから算出された吸収及び/又は散乱係数のような中間変数として物理モデルによって個別の塗料配分組成から決定される。光学特性に基づく特性変数に基づいてニューラルネットワークに伝達される入力値、即ち特性変数の個々の値は、使用される全ての色成分に基づいて塗料配分組成の個々の質感パラメータを入力変数として割り当てるニューラルネットワークのそれらに関する数を大幅に減少することが可能で、それ故に、相応するニューラルネットワークは、入力値に色成分又は色成分の濃度を用いるニューラルネットワークより、より簡潔で、それ故により効率的、即ちより迅速で頑健であり、それ故に例えば塗料配分組成の変化に対して寛容である。」
(エ)甲4
「[0047] なお、主要なアルミ合金は、アルミに対して、けい素、鉄、銅、マンガン、マグネシウム、クロム、亜鉛、チタン、ジルコニウム、および、ニッケルの少なくとも何れかを含んでいる。このため、ニューラルネットワーク112に入力するパラメータ群には、これらの元素の添加量を示すパラメータが含まれていることが好ましい。
[0049] 〔アルミ製品と製造工程の例〕
特性予測装置1により特性を予測することが可能なアルミ製品としては、例えば、アルミ鋳物材、アルミ板材(圧延材)、アルミ箔材、アルミ押出材、アルミ鍛造材等が挙げられる。これらのアルミ製品の製造工程には、下記のような工程が含まれるので、ニューラルネットワーク112に入力するパラメータとして、これらの製造工程の少なくとも何れか1工程における製造条件を示すパラメータを適用することが可能である。
<アルミ鋳物材>:溶解工程、脱ガス工程、連続鋳造工程、半連続鋳造工程、ダイキャスト工程
<アルミ板材(圧延材)>:溶解工程、脱ガス工程、鋳造工程、連続鋳造工程、均質化処理工程、熱間粗圧延工程、熱間仕上圧延工程、冷間圧延工程、溶体化処理工程、時効処理工程、矯正工程、焼鈍工程、表面処理工程
<アルミ箔材>:溶解工程、脱ガス工程、鋳造工程、連続鋳造工程、均質化処理工程、熱間粗圧延工程、熱間仕上圧延工程、冷間圧延工程、溶体化処理工程、時効処理工程、矯正工程、焼鈍工程、表面処理工程、箔圧延工程
<アルミ押出材>:溶解工程、脱ガス工程、鋳造工程、均質化処理工程、熱間押出工程、引き抜き工程、溶体化処理工程、時効処理工程、矯正工程、焼鈍工程、表面処理工程、切断工程
<アルミ鍛造材>:(アルミ鋳物材、アルミ圧延材、またはアルミ押出材を素材として)熱間鍛造工程、冷間鍛造工程、溶体化処理工程、時効処理工程、焼鈍工程
〔特定のアルミ製品において適用することが望ましいパラメータの例〕
特性を予測するアルミ製品が、熱処理型のアルミ合金である場合、溶体化処理後の室温保持時間を、ニューラルネットワーク112に入力するパラメータに含めることが好ましい。熱処理型のアルミ合金は、溶体化処理工程後の室温に応じて強度が変わるため、溶体化処理後の室温保持時間がパラメータとして重要であるからである。熱処理型のアルミ合金としては、例えば自動車ボディシート材として主に用いられる、Al-Mg-Si系合金が挙げられる。このAl-Mg-Si系合金(6000系アルミニウム合金)の他に、Al-Cu-Mg系合金(2000系アルミニウム合金)、Al-Zn-Mg-Cu系合金(7000系アルミニウム合金)等も熱処理型のアルミ合金である。
[0050] また、特性を予測するアルミ製品が、ジルコニウム、クロム、およびマンガンの少なくとも何れかを含む熱処理型のアルミ合金、または高強度鍛造材である場合、ジルコニウム添加量を示すパラメータ、均質化処理の熱履歴(時間、温度)を示すパラメータ、および溶体化処理の熱履歴(時間、温度、冷却速度)を示すパラメータを、ニューラルネットワーク112に入力するパラメータに含めることが好ましい。これらの組み合わせを誤ると、熱処理不適あるいは粗大結晶粒発生等により、製品の強度が低下する場合があるためである。高強度鍛造材としては、例えば航空機等に用いられるAl-Zn-Mg-Cu系合金が挙げられる。
[0051] また、特性を予測するアルミ製品が、純度99.9%以上の高純度アルミである場合、鉄の添加量を示すパラメータを、ニューラルネットワーク112に入力するパラメータに含めることが好ましい。高純度アルミでは、ppmオーダーの僅かな鉄の添加量の違いにより結晶粒径や外観品質等が大きく変わり得るためである。
[0052] 〔パラメータの集約〕
複数のパラメータ間に相関がある場合、それらのパラメータを集約してパラメータ数を減らしてもよい。例えば、何らかの加工プロセスにおけるパラメータの中に、加工前の寸法と加工後の寸法が含まれている場合、それらを加工度という一つのパラメータに集約してもよい。このような次元圧縮は、物理理論、経験則、およびシミュレーション計算などに基づいて行うことができる。
[0053] 次元圧縮により、パラメータをより上位の概念に置き換えることができる。これは、予測計算の結果を理論的、経験的に理解する際に役立つ。また、パラメータ数が少なくなるため、学習速度も向上する。」
「[請求項1] 所定の製造条件で製造された製品の特性を示す特性値を出力するアルミニウム製品の特性予測装置であって、
アルミニウム製品の製造条件を示す複数のパラメータを取得するデータ取得部と、
入力層と少なくとも1つの中間層と出力層とを含み、複数の上記パラメータを上記入力層への入力データとして、該パラメータが示す製造条件で製造されたアルミニウム製品の特性値を上記出力層から出力するニューラルネットワークと、を備えていることを特徴とするアルミニウム製品の特性予測装置。」
「[請求項4] 上記複数のパラメータには、
上記アルミニウム製品における、鉄、けい素、亜鉛、銅、マグネシウム、マンガン、クロム、チタン、ニッケル、およびジルコニウムの少なくとも何れかの添加量を示すパラメータと、
上記アルミニウム製品の製造工程における加工熱履歴を示すパラメータと、が含まれており、
上記特性値は、上記アルミニウム製品の材料組織により支配的に決定される特性値である、ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のアルミニウム製品の特性予測装置。
[請求項5] 上記アルミニウム製品は、熱処理型のアルミニウム合金であり、
上記複数のパラメータには、溶体化処理後の室温保持時間を示すパラメータが含まれることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のアルミニウム製品の特性予測装置。
[請求項6] 上記アルミニウム製品は、ジルコニウム、クロム、およびマンガンの少なくとも何れかを含む熱処理型のアルミニウム合金、または高強度鍛造材であり、
上記複数のパラメータには、ジルコニウム添加量を示すパラメータ、均質化処理の熱履歴を示すパラメータ、および溶体化処理の熱履歴を示すパラメータが含まれることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のアルミニウム製品の特性予測装置。
[請求項7] 上記アルミニウム製品は、純度99.9%以上の高純度アルミニウムであり、
上記複数のパラメータには、鉄の添加量を示すパラメータが含まれることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のアルミニウム製品の特性予測装置。」
図1
[図:0001412278000005.jpg]
(オ)甲5
「【請求項1】
化学混合物の色でない特性を予測する方法であって、
a)化学混合物成分量を含む化学混合物変数と、任意には、他の環境および適用プロセス変数と、これらの混合物の対応する測定された特性と、でできた履歴および/または較正データを収集する工程と、
b)前記化学混合物変数の前記混合物の測定された特性への寄与を関連づける能力を有するニューラルネットワークを作製する工程と、
c)履歴および/または較正データを用いて前記ニューラルネットワークを教師付き学習して、前記ネットワークが前記化学混合物変数と前記測定された特性との間の関係を予測するようにする工程と、
d)前記ニューラルネットワークを用いて、新たな化学混合物の特性測定の前方予測を行う工程と、を備えている、
ことを特徴とする方法。」
「【0009】
一実施形態において、ニューラルネットワークは、コーティング組成物に関係する入力データ(成分濃度)を受け取るノードを有する入力層を含む。重み付け結合部(weighted connection)は、入力層のノードを結合し、入力データに重みを付ける係数を有している。出力層は、隠れ層に含まれる重み付け結合部に直接的または間接的に結合されている。出力層は、コーティングの色でない特性に関係する出力データを生成する。入力層のデータ(成分濃度)と出力層(測定された特性)のデータは、ニューラルネットワークの非線形関係により相関しており、ニューラルネットワークを学習すると、コーティング組成物の測定された特性を予測するのに用いることができる。」
「【0027】
データ収集は、ネットワークを学習させるため、経験的情報を提供する。化学混合物成分量および混合物特性測定は、プロセス履歴または較正実験から得られる。環境条件や化学混合物適用条件などの追加のプロセス変数が、測定された特性値に影響する場合がある。これらの独立変数についてのデータは、プロセス入力と出力との間の関係をモデル化する際用いるために収集される。」
「【0046】
特に、これらの実施例は、入力変数(塗料成分量、適用プロセス条件)が変わったときに、自動車コーティング組成物の色特性以外の特性、例えば、物理特性(粘度、サグ)および外観(被覆、光沢、画像の明確さ)を予測することに関して本発明を例示するものである。当業者であれば、本発明の方法がまた、固体か液体に係らず、これらに限られるものではないが、他の種類の塗料およびコーティング、インクジェットインクをはじめとするインク、アルコール、ディーゼル燃料、オイル、プラスチック、ポリマーブレンド、フィルム等をはじめとする他の種類の化学混合物の特性を予測するのにも有用であることが分かるであろう。
【0047】
実施例1
ニューラルネットワークを作製して、コーティング組成物と自動車衝突修理コーティングシステムの基材被覆との間の関係を予測した。A、B、C、Dにコード化した4つの衝突修理コーティングシステムを用いた。4つのシステムは全て、組み合わせると、修理される自動車の色に適合する様々な色を作成できるように組合せ可能な単一顔料染料とバインダー成分の混合システムである。システムAおよびCは無地の自動車の色を修理するのに用い、システムBおよびDは、金属または真珠光沢のフレークを含有する自動車の色を修理するのに用いる。後者のタイプの色はさし色を意味する。修理に用いるコーティング混合物は、通常の体積の液体コーティングを作製する成分の質量を示す処方により定義される。例えば、ガロン体積とするのにグラムでの処方成分量を用いる。予測される特性は、黒色および白色基材全体の色の目視でのコントラストをなくすのに必要なフィルム厚さである。この特性は、黒色および白色被覆と呼ばれ、試験方法に記載した方法によりこの特性を測定する。被覆は、フィルム厚さとして測定され、この場合は、厚さをミル単位で測定する。」
(カ)甲7
「2.特許請求の範囲
(1)多価アルコール成分として3価および/または4価アルコールを樹脂固形分中0~10重量%含み他は2価アルコールであり、分子当りの水酸基数が1.8~2.2で数平均分子量が1000~5000のリニヤー型ポリエステル樹脂と、多価アルコール成分として3価および/または4価アルコールを樹脂固形分中3~40重量%含み、分子当りの水酸基数が2.3~4.5である分岐型ポリエステル樹脂を、水酸基価40~90になる如く配合してなるポリエステル樹脂成分と、少なくとも一部分がメチロールメラミンメチルエーテルであるメラミン樹脂あるいはイソシアネート化合物からなる架橋成分とを含むことを特徴とするコイルコーティング用塗料組成物。」
(キ)甲8
「【0019】
本発明に従う方法は、例えば粉体塗料、コイルコーティング、航空機塗料、自動車塗料、修理用塗料、例えば自動車再仕上げ用、を含む、Do-it‐yourself (ユーザ自身で行う)塗料、プロ用塗料、産業用塗料の製造に使用することができる。用語「ベース塗料」は、顔料ペースト、トナー等をも包含する。さらに、本発明に従う方法は、インキ、プラスチック、または繊維もしくは織物染色用染料の分野においても使用できる。」
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1を甲1発明1と対比する。
a 甲1発明1において、「予測」される「塗料のsparkle値」は、目標塗料処方のとおりに調整した際のものであり、塗料が調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えて調整されることは技術常識であることを踏まえると、甲1発明1の「塗料のsparkle値」は、本件発明1の「整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料性状」に相当するものであるから、甲1発明1の「学習済み人工ニューラルネットワーク」によって「塗料のsparkle値を予測する方法」は、本件発明1の「機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料性状を予測する、塗料性状の予測方法」に相当する。
b 甲1発明1の「目標塗料処方」、「目標カラー特性」、「学習済み人工ニューラルネットワーク」は、本件発明1の「配合組成のデータ」、「塗料性状のデータ」、「所定の人工知能モデル」にそれぞれ対応するものであるから、甲1発明1の「入力ノードを介して目標塗料処方と目標塗料処方に関連する目標カラー特性を入力とする」「塗料のsparkle値を予測する」「学習済み人工ニューラルネットワーク」と、本件発明1の「調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)を入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状を出力とする、所定の人工知能モデル」とは、「塗料性状のデータと配合組成のデータを入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状を出力とする、所定の人工知能モデル」で共通する。
c 甲1発明1において、「目標塗料処方と目標塗料処方に関連する目標カラー特性」が(「学習済み人工ニューラルネットワーク」がインストールされている)「ノートパソコン」に入力されることは自明であるから、甲1発明1の「目標塗料処方と目標塗料処方に関連する目標カラー特性を入力することによって、」「塗料のsparkle値を予測する」工程と、本件発明1の「前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状を算出して予測する、塗料性状予測工程」とは、「塗料性状のデータ及び配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状を算出して予測する、塗料性状予測工程」で共通する。
d 以上から、本件発明1と甲1発明1とは、次の各点で一致し相違する。
一致点
「機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料性状を予測する、塗料性状の予測方法であって、
塗料性状のデータ及び配合組成のデータを入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、コンピュータにより、塗料性状のデータ及び配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状を算出して予測する、塗料性状予測工程を含むことを特徴とする、塗料性状の予測方法。」
相違点
人工知能モデルに入力されるデータに関して、本件発明1が、「調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」であるのに対して、甲1発明1は、「目標塗料処方と目標塗料処方に関連する目標カラー特性」である点。
(イ)相違点についての判断
甲2~5、7、8には、上記ア(イ)~(キ)で摘記した記載は存在するものの、いずれの文献にも「人工知能モデル」を用いて「前記調整後の塗料性状を算出して予測する」工程において、「調整前の塗料」については、「塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」を入力し、「塗料性状調整用の原料」については、「補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」を入力することについては記載も示唆もされていない。
甲6においても、本件発明1の上記相違点に係る構成が記載も示唆もされていないことは、上記1.(2)イで説示したとおりである。
したがって、本件発明1の上記相違点に係る構成は、甲1~甲8に基づいて当業者が容易に想到しえたものではない。
よって、本件発明1は、甲1~甲8に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明2について
本件発明2についても、上記アの本件発明1についての判断と同様に、人工知能モデルに入力されるデータに関して、本件発明1のように「調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」とすることが、甲1~甲8に基づいて当業者が容易に想到しえたものではない。
よって、本件発明2は、甲1~甲8に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明3~17について
本件発明3~17は、請求項1又は2のいずれかを直接的又は間接的に引用し、本件発明1又は本件発明2の特定事項を全て含むものであるから、上記ア及びイの説示と同様に、本件発明3~17は、甲1~甲8に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明18について
(ア)対比
本件発明18を甲1発明2と対比する。
a 甲1発明2において、「生成」される「予測目標sparkle値」は、「目標塗料処方」のとおりに調整した際のものであり、塗料が調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えて調整されることは技術常識であることを踏まえると、甲1発明2の「予測目標sparkle値」は、本件発明18の「整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料性状」に相当するものである。また、甲1発明2は、「人工ニューラルネットワーク」を用いて予測を行うシステムであるから、甲1発明2と同じように「機械学習の手法により」「予測する」ものである。してみれば、甲1発明2の「人工ニューラルネットワーク」を用いる「目標塗料組成物の1つ以上の予測目標sparkle値を生成するためのシステム」は、本件発明18の「機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料性状を予測するシステム」に相当する。
b 甲1発明2の「目標塗料処方」、「目標カラー特性」、「人工ニューラルネットワークコンピューティングプログラム製品」は、本件発明18の「配合組成のデータ」、「塗料性状のデータ」、「所定の人工知能モデル」にそれぞれ対応するものであるから、甲1発明2の「入力ノードを介して目標塗料処方と目標塗料処方に関連する目標カラー特性を入力とする」「予測目標sparkle値を生成する」「人工ニューラルネットワーク」と、本件発明18の「調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)を入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状を出力とする、所定の人工知能モデル」とは、「塗料性状のデータと配合組成のデータを入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状を出力とする、所定の人工知能モデル」で共通する。
c 甲1発明2の「目標塗料処方と目標塗料処方に関連する目標カラー特性を入力する」ことによって、「予測目標sparkle値を生成する」「人工ニューラルネットワークコンピューティングプログラム製品」と、本件発明18の「前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状を算出して予測する、塗料性状予測部」とは、「塗料性状のデータ及び配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状を算出して予測する、塗料性状予測部」で共通する。
d 以上から、本件発明18と甲1発明2とは、次の各点で一致し相違する。
一致点
「機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料の塗料性状を予測するシステムであって、
塗料性状のデータ及び配合組成のデータを入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状を算出して予測する、塗料性状予測部を備えたコンピュータを備えていることを特徴とする、システム。」
相違点
人工知能モデルに入力されるデータに関して、本件発明18が、「調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」であるのに対して、甲1発明2は、「目標塗料処方と目標塗料処方に関連する目標カラー特性」である点。
(イ)相違点についての判断
甲2~5、7、8には、上記ア(イ)~(キ)で摘記した記載は存在するものの、いずれの文献にも「人工知能モデル」を用いて「前記調整後の塗料性状を算出して予測する」際に、「調整前の塗料」については、「塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」を入力し、「塗料性状調整用の原料」については、「補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」を入力することについては記載も示唆もされていない。
甲6においても、本件発明18の上記相違点に係る構成が記載も示唆もされていないことは、上記1.(2)イで説示したとおりである。
したがって、本件発明18の上記相違点に係る構成は、甲1~甲8に基づいて当業者が容易に想到しえたものではない。
よって、本件発明18は、甲1~甲8に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ 本件発明19について
本件発明19についても、上記エの本件発明18についての判断と同様に、人工知能モデルに入力されるデータに関して、本件発明18のように「調整前の塗料性状のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータ(ただし、商品名のデータである場合と品番のデータである場合とを除く。)」とすることが、甲1~甲8に基づいて当業者が容易に想到しえたものではない。
よって、本件発明19は、甲1~甲8に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
キ 本件発明20~23について
本件発明20~23は、請求項18又は19のいずれかを直接的又は間接的に引用し、本件発明18又は本件発明19の特定事項を全て含むものであるから、上記オ及びカの説示と同様に、本件発明20~23は、甲1~甲8に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)申立理由2(明確性)
ア 明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
イ 明確性要件の判断
本件特許の請求項1ないし5及び7ないし10の記載は、上記第3のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、本件特許の明細書の記載及び図面とも整合する。
したがって、本件特許発明1ないし5及び7ないし10に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
ウ 申立人の主張について
(ア)請求項1~23における「塗料性状調整用の原料の補正配合組成データ」は明確でないという主張について
段落【0046】の「塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータは、割合として表すこともでき、例えば、「個別原料添加量/調整前の塗料全量」や「個別原料添加量/調整前の塗料の原色全量」等とすることもできる。」や段落【0070】の「予測した複数の調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)に基づいて得られる補正配合組成を、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する」といった記載などを含む明細書全体の記載を参酌すれば、「塗料性状調整用の原料の補正配合組成データ」が「調整前の塗料」を調整するために用いられる「塗料性状調整用の原料」の配合組成のデータであることは明らかであるから、請求項1、2、18、19の上記記載は明確である。
(イ)請求項1~4、18~21における「調整前の塗料性状」、「調整前の塗料性状のデータ」の技術的意味が明確でないという主張について
請求項1~4、18~21における「調整前の塗料性状」、「調整前の塗料性状のデータ」について、含まれうるデータが段落【0044】に例示されており、例示されているものは塗料性状と関連を有するものであるから、当業者が請求項1~4、18~21の上記記載で特定されるものを明確に把握できるので、請求項1~4、18~21の上記記載は明確である。
(ウ)請求項3~17、21~23の「前記補正配合組成」の技術的意味が明確でないという主張について
「予測した前記複数の前記調整後の塗料性状に基づいて得られる前記補正配合組成」については、段落【0070】に「本実施形態では、次いで、予測した複数の調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)に基づいて得られる補正配合組成を、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する(補正配合予測工程:ステップS205)。
具体的には、一例としては、補正配合予測工程(ステップS205)において、予測した複数の調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)の中から目標となる塗料性状との(例えばE値の)差が所定の基準値以下(例えばΔEが0.1以下、光沢0.2以下など)調整後の塗料性状(又はその変動量)に対応する補正配合組成を、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する。一例としては、ΔEが最小となるように選択することができる。」と記載されており、どのようにして得るのかが説明されており、請求項3の「前記補正配合組成」の技術的意義を当業者が明確に把握することができる。
(エ)請求項5~10、17における「補正配合組成」が明確でないという主張について
請求項5の「補正配合組成」は、人工知能モデルを作成する工程において入力される「関係データ」を特定するものであり、請求項5が引用する請求項4における「補正配合組成」を指すものではない。そして、人工知能モデルの作成における学習データとしての「関係データ」を特定するものとして技術的意味は明確である。
(オ)請求項15~17の「前記合否判定工程における判定結果が合格となるまで、前記補正配合予測工程、前記調整工程、及び前記合否判定工程を繰り返す」ことの技術的意味が明確でないという主張について
判定結果が合格となるまで、補正配合予測工程において、入力する「補正配合組成のデータ」を変更して繰り返すことは、明細書の記載を参酌すれば明らかであるから、請求項15の上記記載の技術的意味は明確である。
ウ まとめ
したがって、本件発明1~23に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)申立理由4(実施可能要件)
ア 申立人の主張
申立人は、以下の点について、実施に際して当業者に過度の試行錯誤を強いるものであると主張する。
主張1:塗料の色彩、塗料の光沢及び塗料の粘度以外の塗料性状のデータの取得及び塗料性状の予測すること。
主張2:「調整前の塗料性状のデータ及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状を出力とする、所定の人工知能モデル」を構成すること。
主張3:少なくともギャップ目標値に係る特定がない本件発明の実施については、ギャップ目標値以外の考慮すべきパラメータを見出すこと
主張4:比較例2は、本件発明15、16に規定する要件を満たすものの、不合格とされており、本件発明の課題を解決することができず、所期の評価基準を満たす塗料の製造方法を選別しない限り、本件発明15、16の目的を達成することはできないので、その選別を行うこと。
主張5:本件発明1~14、17~23について、所期の目的を達成するための人工知能モデルを選別すること
イ 当審の判断
・主張1について
一般的に、人工知能モデルは、学習データから入力と出力の関係性をモデルとしたものであるから、塗料の色彩、塗料の光沢及び塗料の粘度以外についても、予測したい塗料性状に関連する塗料性状のデータを学習させた人工知能モデルであれば、塗料の色彩、塗料の光沢及び塗料の粘度と同様に予測できることは、本件明細書に接した当業者であれば、十分に認識しうることでるから、塗料の色彩、塗料の光沢及び塗料の粘度以外の塗料性状のデータの取得及び塗料性状の予測することに、過度の試行錯誤が強いられるとはいえない。
・主張2、5について
本件出願時において、様々な人工知能モデル及びその作成方法が知られていたので、公知な人工知能モデル作成方法を用いて本件発明における「調整前の塗料性状のデータ及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状を出力とする、所定の人工知能モデル」を作成することに過度の思考錯誤を強いられるとは認められない。
・主張3について
ギャップ目標値を用いない場合であっても、試行回数を増やせば「目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成」を決定することはできるものであるから、「ギャップ目標値以外に考慮すべきパラメータを見出す」ことが、必ずしも要求されるものではない。
・主張4について
本件明細書において、比較例2が不合格とは記載されておらず、段落【0122】の表3に比較例2の「推定精度(決定係数)平均」、「調色回数」、「製造量率」などが示されているだけである。そして、比較例2においても、全体配合比を予測に使用する比較例1より、推定精度、調色回数、製造量率において優れていることが示されていることから、本件発明が解決しようとする課題を解決するものであるといえ、比較例2の存在をもって、本件発明の実施に際して、過度の試行錯誤が強いられるとはいえない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとは認められない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由ならびに特許異議申立書に記載した申立理由及び証拠によっては、本件請求項1~23に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~23に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700129