特許異議申立
2023-700120
電解コンデンサ
- 審判番号
- 2023-700120
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-068757
- 登録番号
- 7113199
- 請求日
- 2023年02月03日
- 審決日
- 2024年01月29日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】パナソニックIPマネジメント株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人河崎特許事務所
- 【権利者代理人】鎌田 健司
- 【権利者代理人】野村 幸一
- 【異議申立人】ニチコン 株式会社
- 【異議申立人代理人】弁理士法人みのり特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 渡辺 努
- 審判官 畑中 博幸
- 分類
- P1651.113-ZC (H01G) / P1651.121-ZC (H01G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7113199号発明「電解コンデンサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7113199号の請求項1、3ないし10に係る特許を取り消す。
同請求項2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7113199号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)7月25日(優先権主張 平成27年7月29日)を国際出願日として出願した特願2017-531015号の一部を令和3年4月15日に新たな特許出願としたものであって、令和4年7月28日付けでその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日 令和4年8月5日)がされた。
これに対して、令和5年2月3日に特許異議申立人ニチコン株式会社より請求項1~10に対して特許異議の申立てがなされた。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和5年 6月12日 取消理由通知
同年 8月 9日 意見書提出(特許権者)
同年10月12日 取消理由通知(決定の予告)
なお、取消理由通知(決定の予告)に対する意見書の提出はなかった。
また、特許権者は、訂正の請求を行っていない。
第2 各請求項に係る発明
本件の請求項1~10に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明10」という)は、以下のとおりである。
なお、本件発明1の記号A~Iは分説するために当審にて付した。以下、「構成A」~「構成I」という。
【請求項1】(本件発明1)
A 誘電体層を有する陽極体と、前記陽極体の前記誘電体層に接触した固体電解質層と、電解液と、を備え、
B 前記電解液は、溶媒および溶質を含み、
C 前記溶媒は、グリコール化合物を含み、
D 前記溶質は、カルボン酸成分と、塩基成分とを含み、
E 前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の割合は、50質量%以上であり、
F 前記カルボン成分は、カルボキシル基を2個以上有する化合物であり、
G 前記塩基成分は、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンよりなる群から選択される少なくとも1種であり、
H 前記カルボン酸成分の前記溶質中での比率は、前記塩基成分100質量部に対して、200質量部以上である、
I 電解コンデンサ。
【請求項2】(本件発明2)
前記電解液のpHが4以下である、請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】(本件発明3)
前記グリコール化合物は、エチレングリコールを含む、請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】(本件発明4)
前記電解液に含まれる前記溶質の割合が、2~30質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】(本件発明5)
前記カルボン酸成分の一部が、前記塩基成分との塩に由来する、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項6】(本件発明6)
前記溶質が、更に、ヒドロキシル基を2個以上含む第1芳香族化合物を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項7】(本件発明7)
前記第1芳香族化合物が、カテコールおよびピロガロールよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項6に記載の電解コンデンサ。
【請求項8】(本件発明8)
前記カルボン酸成分が、カルボキシル基を2個以上有する第2芳香族化合物を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項9】(本件発明9)
前記第2芳香族化合物が、o-フタル酸およびピロメリット酸よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項8に記載の電解コンデンサ。
【請求項10】(本件発明10)
前記固体電解質層は、液状成分と、前記液状成分に分散する導電性高分子と、を含む高分子分散体を、前記誘電体層に含浸させ、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う膜を形成した後、前記膜から前記液状成分を揮発させることにより形成されたものである、請求項1~9のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
第3 取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由について
1 取消理由の概要
請求項1~10に係る特許に対して、当審が令和5年10月12日付けの取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
請求項1、3~5、8、10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献2(甲第2号証)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、3~5、8、10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
請求項1、3、4、8、10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献3(甲第4号証)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、3、4、8、10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
請求項6、7、9に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6、7、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1、3~10に係る特許は、特許法第113条第2号該当するから、取り消されるべきものである。
<引用文献一覧>
2.国際公開第2011/099261号(甲第2号証)
3.特開2015-2274号公報(甲第4号証)
2 引用文献2及び3について
(1)引用文献2(甲第2号証:国際公開第2011/099261号)
ア 引用文献2に記載された事項
引用文献2には、以下の記載がある。なお、下線は、当審にて付した。
[請求項1] 表面に誘電体層を有する陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔と前記陰極箔との間に介在したセパレータと、前記陽極箔の前記誘電体層と前記陰極箔とに接触した固体電解質層と、を有するコンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子に含浸された電解液と、
前記コンデンサ素子を前記電解液と共に封じた外装体と、を備え、
前記電解液が、ポリアルキレングリコールとポリアルキレングリコールの誘導体との少なくとも一方である難揮発性溶媒を含む、
電解コンデンサ。
[0009] 電解液は、溶媒、溶質、添加剤から構成されており、液体の電解質のみを用いる従来の液体型の電解コンデンサに適用されてきた電解液に基づいている。なお液体型電解コンデンサは、定格電圧100W.V.以下の低い耐電圧かつ低ESRの電解コンデンサと定格電圧250W.V.、350W.V.、400W.V.といった高い耐電圧の電解コンデンサとに大別される。主に、前者は電源出力側の平滑回路や制御回路で適用され、後者は電源入力側の平滑回路で適用される。これらは、回路上の役割および材料組成が異なることでそれぞれの電解コンデンサに用いられる電解液の各種特性に大きな差があり、これらの電解液を相互に用途を置換して利用することはできない。
[0027] 電解液16は、溶媒に溶質を溶解して調製されている。溶質としては、無機酸アンモニウム塩、無機酸アミン塩、無機酸アルキル置換アミジン塩またはその4級化物、有機酸アンモニウム塩、有機酸アミン塩、有機酸アルキル置換アミジン塩またはその4級化物等が挙げられる。無機酸の化合物としては、ホウ酸化合物、リン酸化合物などが挙げられる。有機酸の化合物としては、アジピン酸などの脂肪族カルボン酸や、フタル酸、安息香酸、サリチル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの芳香族カルボン酸などの化合物が挙げられる。アンモニウム化合物としては、アンモニア、ジヒドロキシアンモニウム、アミン化合物としてはトリエチルアミン、メチルジエチルアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタンなどの化合物が挙げられる。アルキル置換アミジン塩またはその4級化物としては、1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウムの4級化物や1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリニウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムなどの化合物が挙げられる。
[0035] なお、ポリアルキレングリコールまたはその誘導体の含有上限としては、溶質・添加剤を除いた溶媒の全てを液状のポリアルキレングリコールまたはその誘導体としてもよい。しかしながら、コンデンサ素子12への電解液16の含浸性等を考慮して、γ-ブチロラクロン、エチレングリコール、スルホランといった揮発性を有し粘度の低い他の溶媒と混合して電解液16を調製してもよい。
[0040] また、電解液16には、ガス吸収、耐電圧の安定化、pH調整、酸化防止等を目的とした添加剤を適宜含むことができる。例えば、ポリアルキレングリコールおよび/またはその誘導体に酸化防止剤を含むようにしてもよい。この酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤がコンデンサ用途として効果的であり、ジフェニルアミンや、ナフトール、ニトロフェノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、ピロガロール等が挙げられる。中でもヒドロキノンまたはピロガロールは、OH基が複数個あり、酸化防止効果が高い。これらの添加剤は単独で用いても混合して用いてもよい。
[0058] 次に、そのコンデンサ素子12の陽極箔12Aと陰極箔12Bの間に、ポリ3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)からなる固体電解質層122を形成する。具体的には、PEDOTを水溶液に分散させた分散液にコンデンサ素子12を含浸した後引き上げ、110℃で30分間乾燥させる。なお、このPEDOTは、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を適用している。
[0060]
[図:0001409092000001.jpg]
[0062]
[図:0001409092000002.jpg]
[0070] (サンプルE4)
サンプルE4では、サンプルE1に用いた電解液Bの代わりに、(表1)に示した電解液Eを用いている。電解液Eは、フタル酸エチルジメチルアミン塩、ニトロ安息香酸を含んでおり、かつ溶媒としてポリエチレングリコール(分子量300)を50重量%含んでいる。これ以外はサンプルE1と同様にして、定格電圧35V、静電容量27μFの巻回型コンデンサ素子タイプのハイブリッド型電解コンデンサを作製する。
イ 引用文献2に記載された発明
(ア)[請求項1]の記載から、引用文献2の電解コンデンサは、表面に誘電体層を有する陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔と前記陰極箔との間に介在したセパレータと、前記陽極箔の前記誘電体層と前記陰極箔とに接触した固体電解質層と、を有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子に含浸された電解液と、前記コンデンサ素子を前記電解液と共に封じた外装体と、を備えたものである。
(イ)[0009]の記載から、引用文献2の電解液は、溶媒、溶質、添加剤から構成されているものである。
(ウ)[0060]の[表1]より、引用文献2の電解液Eは、ポリエチレングリコール(PEG)50wt%、スルホラン(SL)25wt%、フタル酸エチルジメチルアミン塩24wt%、ニトロ安息香酸1wt%を含むものである。
そして、[0035]、[0070]の記載より、ポリエチレングリコールとスルホランは溶媒である。
また、[0027]の記載から、有機酸アミン塩が溶質の例として挙げられ、有機酸の化合物としてフタル酸や安息香酸などの芳香族カルボン酸の化合物が例示されていること、電解液は、溶媒に溶質を溶解して調製されることから、フタル酸エチルジメチルアミン塩、ニトロ安息香酸は溶質である。
すなわち、引用文献2の電解液Eは、溶媒として、ポリエチレングリコール(PEG)50wt%、スルホラン(SL)25wt%を含み、溶質として、フタル酸エチルジメチルアミン塩24wt%、ニトロ安息香酸1wt%を含むものである。
(エ)[0058]の記載から、引用文献2の電解コンデンサは、ポリ3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を水溶液に分散させた分散液にコンデンサ素子を含浸した後引き上げ、110℃で30分間乾燥させ、コンデンサ素子の陽極箔と陰極箔の間に、ポリ3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)からなる固体電解質層を形成するものである。
(オ)そうすると、上記(ア)~(エ)より、引用文献2には「サンプルE4」として以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
なお、記号2a~2fは分説するために当審にて付した。以下、「構成2a」~「構成2f」という。
(以下の(2)イ(ウ)の記号についても同様である。)
(引用発明2)
2a 表面に誘電体層を有する陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔と前記陰極箔との間に介在したセパレータと、前記陽極箔の前記誘電体層と前記陰極箔とに接触した固体電解質層と、を有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子に含浸された電解液と、前記コンデンサ素子を前記電解液と共に封じた外装体と、を備え、
2b 電解液は、溶媒、溶質、添加剤から構成されており、
2c 溶媒として、ポリエチレングリコール(PEG)50wt%、スルホラン(SL)25wt%を含み、
2d 溶質として、フタル酸エチルジメチルアミン塩24wt%、ニトロ安息香酸1wt%を含み、
2e ポリ3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を水溶液に分散させた分散液にコンデンサ素子を含浸した後引き上げ、110℃で30分間乾燥させ、コンデンサ素子の陽極箔と陰極箔の間に、ポリ3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)からなる固体電解質層を形成する
2f 電解コンデンサ。
(2)引用文献3(甲第4号証:特開2015-2274号公報)
ア 引用文献3に記載された事項
引用文献3には、以下の記載がある。なお、下線は、当審にて付した。
【0002】
導電性高分子は、その高い導電性により、例えば、タンタル固体電解コンデンサ、アルミニウム固体電解コンデンサ、ニオブ固体電解コンデンサなどの固体電解コンデンサの固体電解質として用いられている。
【0011】
本発明は、導電率(電気伝導度)が通常の電解液(通常、導電率が3mS/cm以上)より低い導電性の溶液(本発明では、この溶液を「導電性補助液」という)を導電性高分子と併用した電解コンデンサが上記課題を解決できることを見出すことによって完成されたものである。
【0023】
上記のような沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール(沸点:198℃)、γ-ブチロラクトン(沸点:203℃)、ブタンジオール(沸点:230℃)、ジメチルスルホキシド(沸点:189℃)、スルホラン(沸点:285℃)、N-メチルピロリドン(沸点:202℃)、ジメチルスルホラン(沸点:233℃)、ジエチレングリコール(沸点:244℃)、ポリエチレングリコールなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いることができるし、また、2種類以上を併用することもできる。なお、ポリエチレングリコールは、ポリエチレングリコール600やポリエチレングリコール1500(ポリエチレングリコールの後の数字は分子量を表す)などのように常圧下では沸点が存在しないものもあるが、どのようなポリエチレングリコールであっても、常圧下150℃未満で沸騰するものはないので、本発明では、このポリエチレングリコールも沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤の範疇に含めるものとする。
【0024】
このような沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤は、本発明における導電性補助液において、ニトロ基とカルボキシル基またはカルボキシエステル部とを有し且つヒドロキシル基を有しない芳香族系化合物を溶解させる溶媒として用いられているものであるが、本発明において、溶媒として、このような高沸点の有機溶剤を用いるのは、短期的には、電解コンデンサの製造時の溶接工程での内圧上昇を抑えるためであり、長期的には、有機溶剤の揮発を抑制するという理由に基づくものである。
【0030】
上記導電性補助液においては、沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤が溶媒となり、ニトロ基とカルボキシル基またはカルボキシエステル部とを有し且つヒドロキシル基を有しない芳香族系化合物が溶質となるが、このニトロ基とカルボキシル基またはカルボキシエステル部とを有し且つヒドロキシル基を有しない芳香族系化合物の導電性補助液中における濃度としては、0.1~30質量%が好ましく、その範囲内で、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましく、また、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。つまり、ニトロ基とカルボキシル基またはカルボキシエステル部とを有し且つヒドロキシル基を有しない芳香族系化合物の濃度が上記より低い場合は、電解コンデンサのESRが充分に低くならず、耐熱性も悪くなるおそれがあり、また、ニトロ基とカルボキシル基またはカルボキシエステル部とを有し且つヒドロキシル基を有しない芳香族系化合物の濃度が上記より高い場合は、それらの析出が起こりやすくハンドリングが難しくなるだけでなく、電解コンデンサのESRが悪くなるおそれがある。
【0031】
上記ニトロ基とカルボキシル基またはカルボキシエステル部とを有し且つヒドロキシル基を有しない芳香族系化合物の高沸点有機溶剤への溶解性は必ずしも良好ではないので、導電性補助液中の芳香族系化合物の濃度を高めようとする場合には、例えば、ジエチルアミン、ジメチルアミン、ジブチルアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、3-エトキシプロピルアミン、エチルヘキシルオキシプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、アンモニア、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、1-メチル-3-エチルイミダゾールなどの主として有機系のアルカリ剤を溶解補助剤として使用することが好ましい。
【0111】
調製例2
撹拌装置付き1Lビーカー内に入れたエチレングリコール500gに20gのニトロベンゼンジカルボン酸と30gのヒドロキシベンゼンカルボン酸エチルエステルと6gのジエチルアミンと5gのジグリセロールを添加した後、24時間撹拌することによって導電性補助液を調製した。
【0163】
実施例1
アルミニウム箔の表面をエッチング処理した後、化成処理を行ってアルミニウムの酸化被膜からなる誘電体層を形成した陽極にリード端子を取り付け、また、アルミニウム箔からなる陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を作製した。このコンデンサ素子は、ESRが15mΩ以下、静電容量が50μF以上、破壊電圧(耐電圧)が100V以上になるように設定したものである。
【0164】
上記コンデンサ素子を前記調製例(I)で調製した導電性高分子の分散液(I)に浸漬し、5分後に取り出し、150℃で30分間乾燥した。この操作を2回行って、コンデンサ素子の誘電体層上に導電性高分子を設けた。
【0165】
次に、上記のように導電性高分子を設けたコンデンサ素子を前記調製例1で調製した導電性補助液に浸漬し、コンデンサ素子に導電性補助液を含浸させ、5分後に取り出し、これを外装材で外装して、巻回型アルミニウム電解コンデンサを製造した。
【0166】
実施例2~14および比較例1~3
調製例1で調製した導電性補助液に代えて、調製例2~14で調製した導電性補助液および調製例15~17で調製した電解液をそれぞれ別々に用いた以外は、すべて実施例1と同様の操作を行って、巻回型アルミニウム電解コンデンサを製造した。
イ 引用文献3に記載された発明
(ア)【0163】、【0165】の記載から、引用文献3の巻回型アルミニウム電解コンデンサのコンデンサ素子は、誘電体層を形成した陽極にリード端子を取り付け、陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回して、作製されたものである。
(イ)【0164】、【0165】の記載から、引用文献3の巻回型アルミニウム電解コンデンサは、コンデンサ素子を導電性高分子の分散液に浸漬し、5分後に取り出し、150℃で30分間乾燥し、コンデンサ素子の誘電体層上に導電性高分子を設け、導電性高分子を設けたコンデンサ素子を導電性補助液に浸漬しコンデンサ素子に導電性補助液を含浸させ、5分後に取り出し、これを外装材で外装して製造されたものである。
また、【0111】の記載から、引用文献3の巻回型アルミニウム電解コンデンサの導電性補助液は、エチレングリコール500gに20gのニトロベンゼンジカルボン酸と30gのヒドロキシベンゼンカルボン酸エチルエステルと6gのジエチルアミンと5gのジグリセロールを添加した後、24時間撹拌することによって調製されたものである。
そして、【0002】の「導電性高分子は、・・・固体電解コンデンサの固体電解質として用いられている。」、【0011】の「導電率(電気伝導度)が通常の電解液・・・より低い導電性の溶液(本発明では、この溶液を「導電性補助液」という)を導電性高分子と併用した電解コンデンサ」との記載から、引用文献3の「導電性高分子」、「導電性補助液」は、それぞれ「固体電解質」、「電解液」である。
さらに、【0023】の「沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤としては、・・・エチレングリコール(沸点:198℃)」、【0024】の「沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤は、本発明における導電性補助液において、・・・溶媒として用いられている」、【0030】の「上記導電性補助液においては、沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤が溶媒となり、ニトロ基とカルボキシル基またはカルボキシエステル部とを有し且つヒドロキシル基を有しない芳香族系化合物が溶質となる」、【0031】の「ジエチルアミン・・・などの主として有機系のアルカリ剤を溶解補助剤として使用する」との記載から見て、引用文献3の「エチレングリコール」は溶媒であって、「ニトロベンゼンジカルボン酸」と「ジエチルアミン」は溶質である。
そうすると、引用文献3の巻回型アルミニウム電解コンデンサは、
コンデンサ素子を導電性高分子(固体電解質)の分散液に浸漬し、5分後に取り出し、150℃で30分間乾燥し、コンデンサ素子の誘電体層上に固体電解質を設け、
固体電解質を設けたコンデンサ素子を電解液に浸漬し、コンデンサ素子に電解液を含浸させ、5分後に取り出し、これを外装材で外装して製造された巻回型アルミニウム電解コンデンサであって、
電解液は、エチレングリコール(溶媒)500gに20gのニトロベンゼンジカルボン酸(溶質)と30gのヒドロキシベンゼンカルボン酸エチルエステルと6gのジエチルアミン(溶質)と5gのジグリセロールを添加した後、24時間撹拌することによって調製されたものである。
(ウ)上記(ア)、(イ)より、引用文献3には、「調製例2で調製した導電性補助液を用いた実施例2」として以下の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。
(引用発明3)
3a 誘電体層を形成した陽極にリード端子を取り付け、陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を作製し、
3b コンデンサ素子を導電性高分子(固体電解質)の分散液に浸漬し、5分後に取り出し、150℃で30分間乾燥し、コンデンサ素子の誘電体層上に固体電解質を設け、
3c 固体電解質を設けたコンデンサ素子を電解液に浸漬し、コンデンサ素子に電解液を含浸させ、5分後に取り出し、これを外装材で外装して製造された巻回型アルミニウム電解コンデンサであって、
3d 電解液は、エチレングリコール(溶媒)500gに20gのニトロベンゼンジカルボン酸(溶質)と30gのヒドロキシベンゼンカルボン酸エチルエステルと6gのジエチルアミン(溶質)と5gのジグリセロールを添加した後、24時間撹拌することによって調製された
3e 巻回型アルミニウム電解コンデンサ。
3 新規性について
(1)引用文献2を主引例とした場合
ア 請求項1について
(ア)本件発明1と引用発明2との対比、検討
a 構成A、Iについて
引用発明2の構成2a、2fより、引用発明2の電解コンデンサは、誘電体層を有する陽極箔を備え、固体電解質層は誘電体層に接触している。また、構成2bより、引用発明2の電解コンデンサは、電解液を備えているといえる。
そして、引用発明2の「陽極箔」は、本件発明1の「陽極体」に相当する。
したがって、引用発明2は、本件発明1の「誘電体層を有する陽極体と、前記陽極体の前記誘電体層に接触した固体電解質層と、電解液と、を備え」た「電解コンデンサ」に相当する構成を有している。
b 構成B~Dについて
引用発明2の構成2b~2dより、引用発明2の電解液は、溶媒としてポリエチレングリコールを含み、溶質としてフタル酸エチルジメチルアミン塩を含むものである。
ここで、引用発明2の「ポリエチレングリコール」は、本件発明1の「グリコール化合物」に相当する。また、引用発明2の「フタル酸エチルジメチルアミン塩」において、フタル酸はカルボン酸成分であり、エチルジメチルアミンは、塩基成分である。
したがって、引用発明2は、本件発明1の「前記電解液は、溶媒および溶質を含み、前記溶媒は、グリコール化合物を含み、前記溶質は、カルボン酸成分と、塩基成分とを含み」に相当する構成を有している。
c 構成Eについて
引用発明2の構成2cより、溶媒中のポリエチレングリコールの割合は、50/(50+25)×100=66.7wt%であるから、引用発明2は、本件発明1の「前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の割合は、50質量%以上」に相当する構成を有している。
d 構成Fについて
引用発明2の「フタル酸エチルジメチルアミン塩」におけるフタル酸は、カルボキシル基を2個有する化合物であるから、引用発明2は、本件発明1の「前記カルボン成分は、カルボキシル基を2個以上有する化合物」に相当する構成を有している。
e 構成Gについて
引用発明2の「フタル酸エチルジメチルアミン塩」におけるエチルジメチルアミンは、第3級アミンの1種であるから、引用発明2は、本件発明1の「前記塩基成分は、」「第3級アミンよりなる」に相当する構成を有している。
f 構成Hについて
引用発明2のフタル酸エチルジメチルアミン塩に関して、フタル酸の分子量は166.14であり、エチルジメチルアミンの分子量は73.14であるから、塩基成分であるエチルジメチルアミン100gに対して、カルボン酸成分であるフタル酸は227gとなるので、引用発明2は、本件発明1の「前記カルボン酸成分の前記溶質中での比率は、前記塩基成分100質量部に対して、200質量部以上である」に相当する構成を有している。
(イ)まとめ
以上より、本件発明1と引用発明2との間に相違点は存在しない。
イ 請求項4について
引用発明2の構成2c、2dより、溶媒として、ポリエチレングリコール50wt%、スルホラン25wt%であり、溶質として、フタル酸エチルジメチルアミン塩24wt%であり、ニトロ安息香酸1wt%を含むことから、電解液に含まれる溶質の割合は、2~30質量%の範囲内である。
したがって、本件発明4と引用発明2との間に相違点は存在しない。
ウ 請求項5について
引用発明2の「フタル酸エチルジメチルアミン塩」は、カルボン酸成分の一部が、塩基成分との塩に由来するといえる。
したがって、本件発明5と引用発明2との間に相違点は存在しない。
エ 請求項8について
引用発明2の「フタル酸エチルジメチルアミン塩」は、カルボキシル基を2個有する第2芳香族化合物であるから、本件発明8と引用発明2との間に相違点は存在しない。
オ 請求項10について
ポリ3,4エチレンジオキシチオフェンは、導電性ポリマーであるといえるので、引用発明2の構成2eの「ポリ3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を水溶液に分散させた分散液」は、本件発明10の「液状成分と、前記液状成分に分散する導電性高分子と、を含む高分子分散体」に相当する。
また、引用発明2は、分散液にコンデンサ素子を含浸した後、コンデンサ素子を乾燥させることから、分散液を誘電体層に含浸させ、分散液の液状成分は揮発されることとなる。
そして、乾燥後のポリ3,4エチレンジオキシチオフェンからなる固体電解質層は、構成2aより、コンデンサ素子の陽極箔の誘電体層に接触されることから、分散液により、コンデンサ素子の誘電体層を覆う膜が形成されるといえる。
以上より、引用発明2は、本願発明10の「前記固体電解質層は、液状成分と、前記液状成分に分散する導電性高分子と、を含む高分子分散体を、前記誘電体層に含浸させ、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う膜を形成した後、前記膜から前記液状成分を揮発させることにより形成された」構成を有するものであり、本件発明10と引用発明2との間に相違点は存在しない。
(2)引用文献3を主引例とした場合
ア 請求項1について
(ア)本件発明1と引用発明3との対比、検討
a 構成A、Iについて
引用発明3の構成3a、3b、3eより、引用発明3の巻回型アルミニウム電解コンデンサは、誘電体層を形成した陽極を備え、固体電解質は誘電体層に接触している。また、構成3cより、引用発明3の巻回型アルミニウム電解コンデンサは、電解液を備えているといえる。
そして、引用発明3の「巻回型アルミニウム電解コンデンサ」、「陽極」は、本件発明1の「電解コンデンサ」、「陽極体」に相当する。
したがって、引用発明3は、本件発明1の「誘電体層を有する陽極体と、前記陽極体の前記誘電体層に接触した固体電解質層と、電解液と、を備え」た「電解コンデンサ」に相当する構成を有している。
b 構成B~Dについて
引用発明3の構成3dより、引用発明3の電解液は、エチレングリコール(溶媒)を含み、また、ニトロベンゼンジカルボン酸とジエチルアミン(溶質)を含むものである。
ここで、「エチレングリコール」は、グリコール化合物である。また、「ニトロベンゼンジカルボン酸」と「ジエチルアミン」は、それぞれ、カルボン酸成分と塩基成分である。
したがって、引用発明3は、本件発明1の「前記電解液は、溶媒および溶質を含み、前記溶媒は、グリコール化合物を含み、前記溶質は、カルボン酸成分と、塩基成分とを含み」に相当する構成を有している。
c 構成Eについて
引用発明3の構成3dより、溶媒中には、エチレングリコールのみが含まれていることから、引用発明3は、本件発明1の「前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の割合は、50質量%以上」に相当する構成を有している。
d 構成Fについて
引用発明3の「ニトロベンゼンジカルボン酸」は、カルボキシル基を2個有する化合物であるから、引用発明3は、本件発明1の「前記カルボン成分は、カルボキシル基を2個以上有する化合物」に相当する構成を有している。
e 構成Gについて
引用発明3の「ジエチルアミン」は、第2級アミンの1種であるから、引用発明3は、本件発明1の「前記塩基成分は、」「第2級アミン」に相当する構成を有している。
f 構成Hについて
引用発明3の構成3dの電解液は、20gのニトロベンゼンジカルボン酸と30gのヒドロキシベンゼンカルボン酸エチルエステルと6gのジエチルアミンと5gのジグリセロールを含むものである。
ここで、引用発明3の「20gのニトロベンゼンジカルボン酸」と「6gのジエチルアミン」とは、それぞれ、本件発明1の「(カルボキシル基を2個以上有する化合物)であるカルボン酸成分」と「(第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンよりなる群から選択される少なくとも1種である)塩基成分」に相当する。
そして、20gのニトロベンゼンジカルボン酸の前記溶質中での比率は、6gのジエチルアミン100質量部に対して、333質量部である。
したがって、引用発明3は、本件発明1の「前記カルボン酸成分の前記溶質中での比率は、前記塩基成分100質量部に対して、200質量部以上である」に相当する構成を有している。
(イ)まとめ
以上より、本件発明1と引用発明3との間に相違点は存在しない。
イ 請求項3について
引用発明3の構成3dより、溶媒中には、エチレングリコールが含まれていることから、本件発明3と引用発明3との間に相違点は存在しない。
ウ 請求項4について
引用発明3の構成3dより、引用発明3の電解液は、エチレングリコール500gに20gのニトロベンゼンジカルボン酸と30gのヒドロキシベンゼンカルボン酸エチルエステルと6gのジエチルアミンと5gのジグリセロールを添加したものである。
そうすると、電解液に含まれる溶質の割合は、2~30質量%の範囲内である。
したがって、本件発明4と引用発明3との間に相違点は存在しない。
エ 請求項8について
引用発明3の「ニトロベンゼンジカルボン酸」は、カルボキシル基を2個以上有する第2芳香族化合物である。
したがって、本件発明8と引用発明3との間に相違点は存在しない。
オ 請求項10について
引用発明3の「導電性高分子(固体電解質)の分散液」は、本願発明10の「液状成分と、前記液状成分に分散する導電性高分子と、を含む高分子分散体」に相当する。
また、引用発明3は、コンデンサ素子を分散液に浸漬し、乾燥させることから、分散液を誘電体層に含浸させ、分散液の液状成分は揮発されることとなる。
そして、乾燥後の導電性高分子(固体電解質)は、構成3bより、コンデンサ素子の誘電体層上に設けられることから、分散液により、コンデンサ素子の誘電体層を覆う膜が形成されるといえる。
以上より、引用発明3は、本願発明10の「前記固体電解質層は、液状成分と、前記液状成分に分散する導電性高分子と、を含む高分子分散体を、前記誘電体層に含浸させ、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う膜を形成した後、前記膜から前記液状成分を揮発させることにより形成された」構成を有するものであり、本件発明10と引用発明3との間に相違点は存在しない。
(3)新規性についてのまとめ
請求項1、4、5、8、10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献2(甲第2号証)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、4、5、8、10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
請求項1、3、4、8、10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献3(甲第4号証)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、3、4、8、10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
4 進歩性について
(1)引用文献2を主引例とした場合
ア 請求項6、7について
引用文献2の[0040]には、電解液に酸化防止剤として、カテコールやピロガロールを添加することが記載されていることから、引用発明2の電解液に酸化防止剤であるカテコールやピロガロールを添加し、「ヒドロキシル基を2個以上含む第1芳香族化合物を含む」構成、「前記第1芳香族化合物が、カテコールおよびピロガロールよりなる群から選択される少なくとも1種である」構成を有するものとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
イ 請求項9について
引用発明2は、フタル酸エチルジメチルアミン塩を含んでおり、当該フタル酸について、o-フタル酸、すなわち、2つの置換基が隣り合っている構成に限定することは、当業者が容易に想到し得るものである。
(2)進歩性についてのまとめ
請求項6、7、9に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6、7、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
5 まとめ
請求項1、4、5、8、10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献2(甲第2号証)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、4、5、8、10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
請求項1、3、4、8、10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献3(甲第4号証)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、3、4、8、10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
請求項6、7、9に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6、7、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1、3~10に係る特許は、特許法第113条第2号該当するから、取り消されるべきものである。
第4 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知(決定の予告)において、請求項2に係る特許についての特許異議申立理由は採用しなかった。
以下では、請求項2に係る特許についての特許異議申立理由について検討する。
1 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、本件発明2について、甲第1号証(特開2014-123685号公報)を主引例として概略以下のような主張をしている。(特許異議申立書21、22頁)
(1)甲第1号証の実施例18に記載される電解液のpH値は、甲第5号証の実験成績証明書に示されるように「3.54」、即ち、4以下であることから、甲1発明と実質的に同じであるか、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)甲2発明における「固体電解質層の周辺環境が電解液によって酸性側に維持され続けるので、好ましくは、酸と塩基の比率を酸過剰となるように構成する」に基づいて、電解液の最適pHを検討し、電解液のpHが4以下であることを想到することは容易であるから、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)甲3発明における「pHが2~7である電解コンデンサ用電解液」に基づいて、電解液の最適pHを検討し、電解液のpHが4以下であることを想到することは容易であるから、甲1発明及び甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 特許異議申立人の主張についての検討
本件発明2は本件発明1を引用する発明であるから、まず本件発明1について、甲第1号証を主引例とした取消理由について検討する。
(1)甲第1号証(特開2014-123685号公報)
ア 甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、以下の記載がある。なお、下線は、当審にて付した。
【請求項1】
陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に、導電性高分子の粒子と、ソルビトール又はソルビトール及び多価アルコールと、を含む導電性高分子化合物分散体を用いた固体電解質層であって前記ソルビトール又はソルビトール及び多価アルコールを60~92wt%含む前記固体電解質層を形成するとともに、該固体電解質層が形成されたコンデンサ素子内の空隙部に、エチレングリコールを含む電解液を充填させたことを特徴とする電解コンデンサ。
【0019】
(素子形成工程)
陽極箔としては、平板状の金属箔(例えば、アルミニウムなどの弁作用金属箔)をエッチング処理し、さらに化成処理により誘電体酸化皮膜を形成したエッチング箔を用いることができる。陰極箔としては、陽極箔と同様に平板状の金属箔をエッチング処理し、必要に応じて化成処理により薄い誘電体酸化皮膜(1~10V程度)を形成したエッチング箔を用いることができる。陽極箔及び陰極箔は、例えば、100μmのアルミニウム箔を交流エッチングにより微細な細孔(エッチングピット)を形成し、その後リン酸などの水溶液中で化成処理を行い、表面に誘電体酸化皮膜を形成する。
【0027】
(固体電解質形成工程)
コンデンサ素子に導電性高分子化合物分散体を含浸した後、所定温度でコンデンサ素子を乾燥する。乾燥温度は、100~160℃で0.5~3時間が好ましい。この乾燥工程を経ることで、導電性高分子と、ソルビトール又はソルビトール及び多価アルコールとを含む固体電解質層がコンデンサ素子中、特にエッチング箔のエッチングピット内の酸化皮膜層の上に形成される。なお、この導電性高分子化合物分散体の含浸工程及び乾燥工程は、必要に応じて複数回行っても良い。
【0029】
(電解液充填工程)
コンデンサ素子内に導電性高分子化合物と、ソルビトール又はソルビトール及び多価アルコールとを含む固体電解質層を形成した後、コンデンサ素子内に充填する電解液としては、電解コンデンサ用電解液を用いることができる。電解液に使用できる溶媒としては、溶媒の例としては、γ-ブチロラクトン、エチレングリコール、スルホラン、ジメチルホルムアミド、水及びそれらの混合溶媒等が挙げられるが、その沸点が、寿命試験温度である120℃以上の溶媒を用いることが好ましい。特に、エチレングリコールを用いると、初期のESR特性や耐電圧特性が良好となる。
【0032】
電解液としては、上記の溶媒と、有機酸、無機酸ならびに有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩等の溶質とからなる溶液を挙げることができる。上記有機酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸等のカルボン酸、フェノール類が挙げられる。また、無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸エステル、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸等が挙げられる。
【0033】
また、上記有機酸、無機酸、ならびに有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩として、アンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩等が挙げられる。4級アンモニウム塩の4級アンモニウムイオンとしてはテトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。アミン塩のアミンとしては、1級アミン、2級アミン、3級アミンが挙げられる。1級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンなど、2級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミンなど、3級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等が挙げられる。
[図:0001409092000003.jpg]
[図:0001409092000004.jpg]
EG:エチレングリコール
GBL:γ-ブチロラクトン
TMS:スルホラン
BSalA:ボロジサリチル酸
TMA:トリメチルアミン
[図:0001409092000005.jpg]
PhA:フタル酸
AzA:アゼライン酸
TEA:トリエチルアミン
【0050】
表3の結果より、多価アルコールとして、グリセリンやマンニトールを用いた実施例7及び実施例8の電解コンデンサにおいても、比較例2の電解コンデンサに比べてESR特性及び耐電圧特性が良好な結果となった。また、電解液の溶質として、フタル酸トリエチルアミンやアゼライン酸トリエチルアミンを用いた実施例9乃至実施例11の電解コンデンサにおいても、比較例7乃至比較例9の電解コンデンサに比べてESR特性及び耐電圧特性が良好な結果となった。
【0051】
次に、表4に、電解液に含まれるエチレングリコールの含有量を変化させたときの電解液組成における初期ESR特性、125℃、1500時間無負荷放置試験後のESR特性、-40℃での低温充放電試験後のESR特性を35WVで評価し、またリフロー前の耐電圧上昇率及びリフロー後の耐電圧下落率を63WVで評価しその結果を示す。
[図:0001409092000006.jpg]
【0052】
表4の結果より、エチレングリコールの含有量を増加させることにより、初期のESR特性および高温におけるESR特性が良好になることが分かった。特に、電解液の溶媒中のエチレングリコール含有量が10wt%以上である実施例13乃至実施例18の電解コンデンサでは、初期ESR特性、高温試験後のESR特性及び耐電圧特性が、エチレングリコールの含有量が5wt%である実施例12に比べて良好な結果となった。
イ 甲第1号証に記載された発明
(ア)【請求項1】の記載から、甲第1号証の電解コンデンサは、陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子を有するものであり、【0019】の記載から、陽極電極箔は、誘電体酸化皮膜を形成したエッチング箔を用いるものである。
すなわち、甲第1号証に記載された電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜を形成したエッチング箔を用いた陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子を有するものである。
(イ)【0027】の記載から、甲第1号証の電解コンデンサは、コンデンサ素子に導電性高分子化合物分散体を含浸した後、所定温度でコンデンサ素子を乾燥させて、導電性高分子を含む固体電解質層がコンデンサ素子中、特にエッチング箔のエッチングピット内の酸化皮膜層の上に形成されるものである。
(ウ)【請求項1】の記載から、甲第1号証の電解コンデンサは、該固体電解質層が形成されたコンデンサ素子内の空隙部に、エチレングリコールを含む電解液を充填させたものである。
(エ)【表4】の実施例18によれば、電解液組成として、エチレングリコール(EG)が100、ボロジサリチル酸(BSalA)7.44、トリメチルアミン(TMA)1.56である。
ここで、【0029】より、エチレングリコールは溶媒である。
また、【0032】、【0033】より、有機酸、無機酸ならびに有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩等は溶質であること、有機酸と無機酸との複合化合物の例として、ボロジサリチル酸が挙げられていること、アミン塩のアミンとして、1級アミン、2級アミン、3級アミンが挙げられ、3級アミンとしては、トリメチルアミンが挙げられている。
すなわち、甲第1号証に記載された実施例18の電解コンデンサは、電解液組成として、溶媒中のエチレングリコール(EG)が100、溶質中のボロジサリチル酸(BSalA)7.44、トリメチルアミン(TMA)1.56である。
(オ)そうすると、上記(ア)~(エ)より、甲第1号証には実施例18として以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
なお、記号1a~1eは分説するために当審にて付した。以下、「構成1a」~「構成1e」という。
1a 誘電体酸化皮膜を形成したエッチング箔を用いた陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子を有し、
1b コンデンサ素子に導電性高分子化合物分散体を含浸した後、所定温度でコンデンサ素子を乾燥させて、導電性高分子を含む固体電解質層がコンデンサ素子中、特にエッチング箔のエッチングピット内の酸化皮膜層の上に形成され、
1c 該固体電解質層が形成されたコンデンサ素子内の空隙部に、エチレングリコールを含む電解液を充填させ、
1d 電解液組成として、溶媒中のエチレングリコール(EG)100、溶質中のボロジサリチル酸(BSalA)7.44、トリメチルアミン(TMA)1.56である
1e 電解コンデンサ。
(2)請求項1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
(ア)構成A、Iについて
甲1発明の構成1a、1b、1eより、甲1発明の電解コンデンサは、誘
電体酸化皮膜(酸化皮膜層)を有する陽極電極箔を備え、固体電解質層は誘電体酸化皮膜(酸化皮膜層)に接触しているといえる。また、構成1cより、電解液を備えているといえる。
そして、甲1発明の「誘電体酸化皮膜(酸化皮膜層)」、「陽極電極箔」は、それぞれ、甲1発明の「誘電体層」、「陽極体」に相当する。
したがって、甲1発明は、本件発明1の「誘電体層を有する陽極体と、前記陽極体の前記誘電体層に接触した固体電解質層と、電解液と、を備え」た「電解コンデンサ」に相当する構成を有している。
(イ)構成B~Dについて
甲1発明の構成1c、1dより、甲1発明の電解液は、溶媒としてエチレングリコールを含み、溶質としてボロジサリチル酸とトリメチルアミンを含むものである。
ここで、甲1発明の「エチレングリコール」、「トリメチルアミン」は、それぞれ、本件発明1の「グリコール化合物」、「塩基成分」に相当する。
したがって、甲1発明は、本件発明1の「前記電解液は、溶媒および溶質を含み、前記溶媒は、グリコール化合物を含み、前記溶質は、」「塩基成分」を含む点で一致する構成を有している。
しかし、甲1発明のボロジサリチル酸は、カルボン酸成分とはいえないことから、本件発明1は、溶質として「カルボン酸成分」を含むのに対し、甲1発明は、その旨特定されていない点で相違する。
(ウ)構成Eについて
甲1発明の構成1dより、溶媒中には、エチレングリコールのみが含まれていることから、甲1発明は、本件発明1の「前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の割合は、50質量%以上」に相当する構成を有している。
(エ)構成Fについて
甲1発明の「ボロジサリチル酸」は、カルボキシル基を2個有する化合物でないから、本件発明1は「前記カルボン成分は、カルボキシル基を2個以上有する化合物」であるのに対し、甲1発明は、その旨特定されていない点で相違する。
(オ)構成Gについて
甲1発明の「トリメチルアミン」は、第3級アミンの1種であるから、甲1発明は、本件発明1の「前記塩基成分は、」「第3級アミン」に相当する構成を有している。
(カ)構成Hについて
上記(イ)より、甲1発明は、「カルボン酸成分」を含む構成ではないので、本件発明1は、「前記カルボン酸成分の前記溶質中での比率は、前記塩基成分100質量部に対して、200質量部以上である」のに対し、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。
イ 一致点・相違点
以上より、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
A 誘電体層を有する陽極体と、前記陽極体の前記誘電体層に接触した固体電解質層と、電解液と、を備え、
B 前記電解液は、溶媒および溶質を含み、
C 前記溶媒は、グリコール化合物を含み、
D’前記溶質は、塩基成分を含み、
E 前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の割合は、50質量%以上であり、
G 前記塩基成分は、第3級アミンである、
I 電解コンデンサ。
(相違点)
本件発明1の溶質は、カルボン酸成分を含み、前記カルボン成分は、カルボキシル基を2個以上有する化合物であり、前記カルボン酸成分の前記溶質中での比率は、前記塩基成分100質量部に対して、200質量部以上であるのに対し、甲1発明はその旨特定されていない点。
ウ 相違点についての検討
甲1発明は、溶質としてボロジサリチル酸を含むものであるが、ボロジサリチル酸は、化学構造も化学的性質もカルボン酸とは異なる化合物である。
そして、甲1発明におけるカルボン酸とは異なる化合物であるボロジサリチル酸について、カルボン酸成分であり、カルボキシル基を2個以上有する化合物に代える動機はない。
また、仮に、甲1発明のボロジサリチル酸を、カルボン酸成分であり、カルボキシル基を2個以上有する化合物に代えたとしても、その際に、ボロジサリチル酸とは化学的性質の異なるカルボン酸成分の溶質中での比率を、塩基成分100質量部に対して、200質量部以上と特定することが容易であると認めることはできない。
したがって、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
なお、甲第1号証には、実施例10としてフタル酸、実施例11としてアゼライン酸のようなカルボキシル基を2個有する化合物(カルボン酸成分)を含む実施例も記載されているので、本件発明1が、甲第1号証の実施例10として記載された発明若しくは実施例11として記載された発明であるか、更には、いずれかの発明に基づいて容易に発明できたものであるかについて、念のため検討する。
甲第1号証の実施例10として記載された発明は、電解液組成として、溶質中のフタル酸(PhA)とトリエチルアミン(TEA)とは、それぞれ、4と2.44とであるから、塩基成分であるトリエチルアミン100gに対して、カルボン酸成分であるフタル酸は、164gとなる。
甲第1号証の実施例11として記載された発明は、電解液組成として、溶質中のアゼライン酸(AzA)とトリエチルアミン(TEA)とは、それぞれ、4.5と2.42であるから、塩基成分であるトリエチルアミン100gに対して、カルボン酸成分であるアゼライン酸は、186gとなる。
そうすると、甲第1号証の実施例10として記載された発明及び実施例11として記載された発明のいずれについても、本件発明1のような「前記カルボン酸成分の前記溶質中での比率は、前記塩基成分100質量部に対して、200質量部以上である」構成ではなく、また、200質量部以上に代える動機もない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証の実施例10として記載された発明若しくは実施例11として記載された発明ではなく、甲第1号証の実施例10として記載された発明若しくは実施例11として記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)請求項2について
上記(2)で検討したように、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、特許異議申立人が主張するように、甲第1号証の実施例18に記載される電解液のpH値が甲第5号証の実験成績証明書に示されるように「3.54」であったとしても、本件発明1を引用する本件発明2は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)甲1発明及び甲2発明、甲3発明に基づく進歩性について
さらに、上記1(2)及び(3)のように、特許異議申立人は、甲1発明及び甲2発明、若しくは、甲1発明及び甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの主張をしているので、以下で当該主張について検討する。
甲2発明は、上記第3の2(1)イ(オ)の引用発明2である。
また、甲第2号証には、酸と塩基の比率が、酸過剰となるように構成することも記載されている。([0037])
甲第3号証(特開2006-108650号公報)には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
誘電体酸化皮膜を有する陽極化成箔と陰極箔からなる一対の電極対が、両面に、導電性高分子層を有している導電性セパレータを介して捲回され、(【0090】、【0105】、【図2】)
捲回された電極対を電解コンデンサ用電解液に浸漬させることにより形成されたコンデンサ素子がケースに内蔵された電解コンデンサであって、(【0090】)
電解液は溶媒に各種成分を溶解させることにより得られ、(【0082】)
酸成分、塩基成分等を溶解させる有機溶媒として、エチレングリコール等が挙げられ、(【0080】、【0081】)
酸成分として、芳香族カルボン酸(例えば、フタル酸)等の有機カルボン酸を用い、(【0066】、【0067】)
電解質成分である酸成分と塩基成分とのモル比において、酸成分を過剰にし、pHが2~7である(【0064】、【請求項6】)
電解コンデンサ。
甲2発明(引用発明2)及び甲3発明は、いずれも、カルボキシル基を2個以上有する化合物(フタル酸)を含み、酸と塩基の比率が酸過剰である電解コンデンサについての発明であるが、上記(2)ウで検討したように、甲1発明におけるカルボン酸とは異なる化合物であるボロジサリチル酸について、カルボン酸成分を含み、更に、カルボキシル基を2個以上有する化合物に代え、更には、電解液のpHを4以下とする動機はない。
また、仮に、甲1発明のボロジサリチル酸を、カルボン酸成分であり、カルボキシル基を2個以上有する化合物に代えたとしても、その際に、ボロジサリチル酸とは化学的性質の異なるカルボン酸成分の溶質中での比率を、塩基成分100質量部に対して、200質量部以上と特定することが容易であると認めることはできない。
したがって、甲第1号証を主引例とした請求項2についての特許異議申立理由を採用することはできない。
第4 むすび
請求項1、4、5、8、10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献2(甲第2号証)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、4、5、8、10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
請求項1、3、4、8、10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献3(甲第4号証)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、3、4、8、10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
請求項6、7、9に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6、7、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1、3~10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。
また、請求項2に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に請求項2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
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2023-700120