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特許異議申立

2016-700479

電解コンデンサ

審判番号
2016-700479
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2013-140441
登録番号
特許第5824619号(P5824619)
請求日
2016年05月24日
審決日
2017年05月19日
公報発行日
2017年11月24日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【権利者】パナソニックIPマネジメント株式会社
  • 【権利者代理人】河崎 眞一
  • 【権利者代理人】藤井 兼太郎
  • 【権利者代理人】鎌田 健司
  • 【権利者代理人】前田 浩夫
  • 【異議申立人】ニチコン 株式会社
  • 【異議申立人代理人】特許業務法人みのり特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 酒井 朋広
  • 審判官 森川 幸俊
  • 審判官 國分 直樹
分類
P1651.537-ZC (H01G) / P1651.113-ZC (H01G) / P1651.121-ZC (H01G)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条6項1号特許法113条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5824619号発明「電解コンデンサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5824619号の請求項1に係る特許を取り消す。 同請求項2および3に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 1.手続の経緯 特許第5824619号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成16年10月12日に出願した特願2004-297404号の一部を平成24年3月13日に新たな出願とした特願2012-55546号の一部を平成25年7月4日に新たな出願としたものであって、平成27年10月23日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、特許異議申立人ニチコン株式会社により特許異議の申立てがなされ、当審において平成28年9月2日付けで取消理由を通知し、同年11月4日付けで意見書および乙第1号証(実験成績証明書(二))ないし乙第3号証が提出されたものである。 2.本件発明 特許第5824619号の請求項1ないし3に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項によって特定される次のとおりのもの(以下、それぞれ「本件特許発明1ないし3」という。)である。 「【請求項1】 表面に誘電体酸化皮膜を形成した陽極箔と陰極箔とがその間にセパレータを介在させて巻回された構成のコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子を駆動用電解液と共に収納した有底筒状の金属ケースと、この金属ケースの開口部を封止した封口部材とを備える電解コンデンサにおいて、 前記セパレータには、酸成分をドーパントとして含む導電性高分子が付着しており、 前記駆動用電解液は、酸成分と塩基成分とを含む溶質と、溶媒とを含み、 前記溶質は、三級アミンを前記塩基成分として含み、 前記溶質は、前記酸成分を前記塩基成分よりもモル比で過剰に含むことを特徴とする電解コンデンサ。 【請求項2】 前記溶質は、カルボン酸を前記酸成分として含み、 前記溶質は、前記カルボン酸を前記三級アミンよりもモル比で過剰に含むことを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ。 【請求項3】 前記溶質は、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、マレイン酸、サリチル酸、安息香酸、レゾルシン酸から選ばれる少なくとも1種を前記酸成分として含むことを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。」 3.取消理由の概要(平成28年9月2日付け当審取消理由通知) 当審において、請求項1ないし3に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 A.甲第1号証である刊行物1(特開平11-283874号公報)により、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反する。 B.甲第1号証である刊行物1(特開平11-283874号公報)および甲第2号証である刊行物2(特開平9-171943号公報)により、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反する。 C.本件特許は、明細書、特許請求の範囲および図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号・第2号に規定する要件を満たしていない。 (1)本件特許の請求項1~請求項3における、発明特定事項である「酸成分」なる用語は、その技術的範囲が不明である。 (2)上記(1)における「酸成分」が全ての酸を意味するものとすると、本件特許明細書の【表1】に記載された範囲を超えて特許を受けたものである。 4.当審の判断 (1)本件特許発明1について 上記取消理由C(2)について、特許権者は意見書において、「本件特許発明は、導電性高分子のドーパントの酸成分と駆動用電解液中の酸成分との平衡状態を保つことにより、導電性高分子からのドーパントの脱ドープを抑制することを趣旨とするものである。そのためには、電解液中の「酸成分」が「塩基成分」よりも多く存在していることが必要であり、いかなる「酸成分」であっても、その種類によらず、同様に、相応の効果が得られることは、当業者であれば、発明の詳細な説明から認識できるはずである。 すなわち、本件特許明細書の【表1】の実施例1~11では、特定の種類および組み合わせの酸を使用した場合の効果を示しているが、これは優れた効果が顕著に表れた実施例を代表例として示したものに過ぎず、本件特許発明の範囲を【表1】の実施例1~11で示した材料に限定するものではない。」旨主張している。 しかしながら、特許権者の上記主張は下記の理由により採用できない。 本件特許の明細書には、【表1】とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。 「【0019】上記駆動用電解液は有機溶媒と溶質と添加剤からなり、上記溶質の酸成分が有機酸と無機酸とを有し、かつ酸成分が塩基成分よりもモル比で過剰に含有した構成からなる。 (中略) 【0022】上記駆動用電解液の溶質の酸成分としての有機酸はポリカルボン酸およびモノカルボン酸を用いることができる。 【0023】上記ポリカルボン酸としては、脂肪族ポリカルボン酸:([飽和ポリカルボン酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、1,6-デカンジカルボン酸、5,6-デカンジカルボン酸]、[不飽和ポリカルボン酸、例えばマレイン酸、フマル酸、イコタン酸])、芳香族ポリカルボン酸:(例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸)、脂環式ポリカルボン酸:(例えばシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸等)が挙げられる。 【0024】上記モノカルボン酸としては、脂肪族モノカルボン酸(炭素数1~30):([飽和モノカルボン酸、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸]、[不飽和モノカルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、オレイン酸])、芳香族モノカルボン酸:(例えば安息香酸、ケイ皮酸、ナフトエ酸)、オキシカルボン酸:(例えばサリチル酸、マンデル酸、レゾルシン酸)、これらの内で好ましいのは電導度が高く熱的にも安定な、マレイン酸、フタル酸、安息香酸、ピロメリット酸、レゾルシン酸である。 【0025】また、上記駆動用電解液の溶質の酸成分としての無機酸としては、炭素化合物、水素化合物、ホウ素化合物、硫黄化合物、窒素化合物、リン化合物が挙げられる。代表的な無機酸の例として、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、アルキル燐酸エステル、ホウ酸、ホウフッ酸、4フッ化ホウ酸、6フッ化リン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などが挙げられる。 【0026】また、酸成分として有機酸と無機酸の複合化合物を用いることができる。例えば、ボロジグリコール酸、ボロジ蓚酸、ボロジサリチル酸などが挙げられる。」 上記記載より、溶質の酸成分については、 ・溶質の酸成分が有機酸と無機酸とを有すること。 ・溶質の酸成分としての有機酸はポリカルボン酸およびモノカルボン酸を用いることができること。 ・溶質の酸成分としての無機酸としては、炭素化合物、水素化合物、ホウ素化合物、硫黄化合物、窒素化合物、リン化合物が挙げられること。 ・酸成分として有機酸と無機酸の複合化合物を用いることができること。 が規定されていると認められる(以下、「酸成分A」という。)。 そうすると、本件特許の明細書の【表1】の実施例1~11が、優れた効果が顕著に表れた実施例を代表例として示したものに過ぎず、本件特許発明の範囲を【表1】の実施例1~11で示した材料に限定するものではないとしても、本件特許の「酸成分」として想定しているのは、本件特許の明細書の全記載からみて、最も広くても上記「酸成分A」の範囲と解するのが相当である。 そして、本件特許の明細書の記載からは、いかなる「酸成分」であっても、その種類によらず、同様に、相応の効果が得られるとは認められないから、本件特許発明1は、本件特許明細書に記載された範囲を超えて特許を受けたものである。 よって、本件特許発明1は、特許法第36条第6項第1号に違反したものである。 (2)本件特許発明2および3について ・取消理由A (刊行物1の記載) 甲第1号証である刊行物1の特開平11-283874号公報の「電解コンデンサ」(以下、「甲第1号証」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。 ア.「【特許請求の範囲】【請求項1】表面に誘電体酸化皮膜を形成した弁作用金属からなる陽極箔と、陰極箔と、上記陽極箔と陰極箔との間に設けられた固体有機導電材からなるコンデンサ素子と、このコンデンサ素子を駆動用電解液と共に収納する有底筒状の金属ケースと、この金属ケースの開口部を封止する封口部材からなる電解コンデンサ。 (中略) 【請求項9】電解質を構成する塩基がアルキル置換アミジン基を有する化合物、アルキル置換アミジン基を有する化合物の4級塩、三級アミン、アンモニウムより選ばれる1種以上である請求項8に記載の電解コンデンサ。 (中略) 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は固体有機導電材と駆動用電解液を併用して用いることにより、インピーダンス特性、漏れ電流特性、信頼性に優れた高耐電圧の電解コンデンサに関するものである。 【0002】【従来の技術】近年、電子機器のデジタル化、高周波化に伴って、電子部品である電解コンデンサについても従来品より大容量で高周波領域でのインピーダンス特性が優れているものが求められている。このような要求に応えるために、駆動用電解液(以下、電解液という)の伝導度の向上、あるいはセパレータの抵抗の低減、あるいは紙、布、不織布あるいは高分子フィルム等のシート状絶縁体を導電化して得られる導電性複合体をセパレータとして用いるという試みが数多く行われてきた。 (中略) 【0009】【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明の電解コンデンサは、表面に誘電体酸化皮膜を形成した弁作用金属からなる陽極と、陰極と、上記陽極と陰極との間に設けられた固体有機導電材と駆動用電解液からなるコンデンサ素子を用いた構成としたものである。この本発明により、インピーダンス特性、漏れ電流特性、信頼性に優れた、耐電圧の高い電解コンデンサを得ることができる。」 イ.「【0033】本発明の電解液に用いる有機酸の例としては、ポリカルボン酸(2~4価):脂肪族ポリカルボン酸[飽和ポリカルボン酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、1,6-デカンジカルボン酸、5,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸:不飽和ポリカルボン酸、例えばマレイン酸、フマル酸、イコタン酸];芳香族ポリカルボン酸、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸;脂環式ポリカルボン酸[例えばシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸等]、ヘキサヒドロフタル酸;これらのポリカルボン酸のアルキル(炭素数1~3)もしくはニトロ置換体、例えばシトラコン酸、ジメチルマレイン酸、ニトロフタル酸(3-ニトロフタル酸、4-ニトロフタル酸);および硫黄含有ポリカルボン酸、例えばチオプロピオン酸;モノカルボン酸;脂肪族モノカルボン酸(炭素数1~30)[飽和モノカルボン酸、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸:不飽和モノカルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、オレイン酸];芳香族モノカルボン酸、例えば安息香酸、o-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、ケイ皮酸、ナフトエ酸;オキシカルボン酸、例えばサリチル酸、マンデル酸、レゾルシン酸などであり、これらの内で好ましいのは、伝導度が高く熱的にも安定なマレイン酸、フタル酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、アジピン酸、安息香酸である。 【0034】電解液を構成する有機酸と塩基との比率は、電解液のpHにして通常4~11、好ましくは6~9である。この範囲外では電解液の火花電圧(耐電圧)が低下するので好ましくない。 【0035】電解質塩としては、電気化学的に安定な有機カルボン酸類;マレイン酸、フタル酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、アジピン酸、安息香酸のアルキル置換アミジン基を有する化合物の4級塩を用いることが望ましい。 【0036】本発明の電解コンデンサの電解液には、必要により種々の添加剤を混合しても良い。添加剤としてはリン系化合物[リン酸、リン酸エステルなど]、ホウ酸系化合物[ホウ酸、ホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物、ホウ酸と多価アルコール(エチレングリコール、グリセリンなど)]との錯化合物、ニトロ化合物[o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノール、p-ニトロアセトフェノンなど]が挙げられる。アルミニウム電解コンデンサの場合においては、これらの添加剤の混合はアルミ酸化皮膜の修復性を改善することができる。その結果、耐電圧の高い電解コンデンサを容易に構成することができるので好ましい。」 ウ.「【0042】 電解液B;γ-ブチロラクトン(50部)、エチレングリコール(50部) マレイン酸トリメチルアンモニウム(5部)[注釈:pH=9.5] フタル酸水素トリエチルアミン(5部)[注釈:pH=9.5] アジピン酸ジアンモニウム(3部)[注釈:pH=9.1] 硼酸(0.5部)、p-ニトロ安息香酸(1部)、リン酸(0.5部) 以上の化合物を混合、溶解したもの。火花電圧は180Vであり、電導度は3.3mS/cmであった。」 エ.「【0048】(実施の形態1)陽極アルミニウム箔と陰極アルミニウム箔との間にマニラ麻繊維を含有する電解紙(密度0.55g/cm3、厚さ50μm)を介在させて巻回した巻回形アルミニウム電解コンデンサ素子を温度300℃中で30分間放置することで電解紙を炭化処理した後、このコンデンサ素子をエチレンジオキシチオフェンと硫酸第2鉄を含む水-エタノール溶液に浸漬-引き上げ-乾燥重合(105℃で10分間)する工程を10回繰り返し、化学重合ポリエチレンジオキシチオフェンよりなる固体有機導電材層を電極箔上ならびに電極箔間に形成した後、コンデンサ素子を水洗-乾燥した。その後、このコンデンサ素子に電解液Aを含浸させ、定格電圧50V静電容量390μFのアルミニウム電解コンデンサ素子を得た。このコンデンサ素子を封口部材Aと共にアルミニウム製の金属ケースに封入した後、カーリング処理により開口部を封止し、アルミニウム電解コンデンサを構成した(サイズ:φ13mm×L20mm)。 【0049】(実施の形態2)ガラス繊維不織布(密度0.13g/cm3、厚さ50μm)と陽極アルミニウム箔と陰極アルミニウム箔を各々ピロールと過硫酸アンモニウムを含む水-エタノール溶液に浸漬-引き上げ-乾燥重合(105℃で10分間)乾燥する工程を3回繰り返し、化学重合ポリピロールを形成した後、水洗-乾燥することにより、化学重合ポリピロールで導電化されたセパレータおよび化学重合ポリピロールを表面に形成した陽極アルミニウム箔と陰極アルミニウム箔を作製した。その後、この導電化されたセパレータを介して、化学重合ポリピロールを表面に形成した陽極アルミニウム箔と陰極アルミニウム箔を巻回することによりコンデンサ素子を得、これを更に濃度10重量%の可溶性スルホン化ポリアニリン溶液に浸漬-減圧含浸-引き上げ-乾燥させることで乾燥残渣スルホン化ポリアニリンを化学重合ポリピロールを表面に形成した陽極アルミニウム箔と陰極アルミニウム箔との間に形成し、電極箔間の電気的接合を強めた。更に、このコンデンサ素子に電解液Aを含浸させ、定格電圧50V静電容量390μFのアルミニウム電解コンデンサ素子を得た。このコンデンサ素子を封口部材Aと共にアルミニウム製の金属ケースに封入した後、カーリング処理により開口部を封止し、アルミニウム電解コンデンサを構成した(サイズ:φ13mm×L20mm)。 (中略) 【0051】(実施の形態4)本発明の実施の形態1において、電解液に電解液Bを用いた以外は実施の形態1と同様にした。」 オ.「【0079】【発明の効果】以上のように本発明による電解コンデンサは、インピーダンス特性、漏れ電流、信頼性に優れた耐電圧の高い電解コンデンサを得ることができるものであり、その工業的価値は大なるものである。」 上記ア~オの記載によれば、甲第1号証には、 「表面に誘電体酸化皮膜を形成した陽極箔と陰極箔とがその間にセパレータを介在させて巻回された構成のコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子を駆動用電解液と共に収納した有底筒状の金属ケースと、この金属ケースの開口部を封止した封口部材とを備える電解コンデンサにおいて、 前記セパレータには、酸成分をドーパントとして含む導電性高分子が付着しており、 前記駆動用電解液は、酸成分と塩基成分とを含む溶質と、溶媒とを含み、 前記溶質は、三級アミンを前記塩基成分として含むことを特徴とする電解コンデンサ。」が記載されているが、上記ウに記載の「電解液B」に含まれる酸成分と塩基成分とのモル比については明示の記載がなされておらず、この点で請求項1に係る発明と相違する。 ここで、異議申立人が提出した甲第3号証である「実験成績証明書」によると、甲第1号証の「電解液B」に開示されたマレイン酸トリエチルアンモニウムは、電導度の測定結果よりマレイン酸-モノ-トリエチルアンモニウム(一塩基)であることが示されている。 しかしながら、特許権者が意見書とともに提出した乙第1号証である「実験成績証明書(二)」によると、甲1号証の「電解液B」に開示されたマレイン酸トリエチルアンモニウムは、電導度の測定結果よりマレイン酸-ジ-トリエチルアンモニウム(二塩基)である蓋然性が高いことが示されている。 また、化学分野において、一塩基と二塩基などの記載がない場合には「正塩」と見なし、一塩基を意図する場合には「マレイン酸-モノ-トリメチルアンモニウム」のように、一塩基であることを明記することが一般的であることを考慮すると、甲1号証には「マレイン酸トリメチルアンモニウム」と記載されていて、「マレイン酸-モノ-トリメチルアンモニウム(一塩基)」とは記載されていないことから、特別の事情でもない限り「マレイン酸トリメチルアンモニウム」とは、「正塩」である「マレイン酸-ジ-トリメチルアンモニウム(二塩基)」であると考えるのが無理のない解釈と認められる。 そうすると、甲第1号証の「電解液B」に含まれる酸成分と塩基成分とのモル比について、電解液Bは、酸成分が塩基成分よりモル比で過剰に含まれているものと推認することはできないから、甲第1号証の「電解液B」に含まれる酸成分と塩基成分とのモル比については、明示の記載がなされていない点で相違点である。 したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と同一ではない。 そして、本件特許発明2および3は、本件特許発明1に更なる構成をそれぞれ付加したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明と同一ではない。 よって、本件特許発明2および3は、特許法第29条第1項第3号に違反したものではない。 ・取消理由B 刊行物1の記載および本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明との相違点については、上記「取消理由A」に記載のとおりである。そこで、上記相違点について検討する。 (刊行物2の記載) 甲第2号証である刊行物2の特開平9-171943号公報の「電解液およびそれを用いた電気化学素子」(以下、「甲第2号証」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。 カ.「【特許請求の範囲】【請求項1】有機化合物を塩基成分とした電解質を有機溶媒に溶解した電解液において、電解液中の塩基もしくは塩基カチオンとカルボン酸もしくはカルボン酸アニオンのモル比を1.00:1.03~1.00:3.00とした電解液。」 キ.「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、電解コンデンサや電気二重層コンデンサ、リチウム電池、電荷移動による充電/放電機構を有する電池、エレクトロクロミック表示素子などに使用する電解液およびそれを用いた電気化学素子に関するものである。 (中略) 【0004】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、電解液中の塩基もしくは塩基カチオンとカルボン酸もしくはカルボン酸アニオンのモル比が1:1である第四級アンモニウム塩や第三級アミン塩では、電解質の塩基成分である第四級アンモニウムや第三級アミンの電気化学的な変質により、塩基性物質が生成されるため、これらの電解液を電気化学素子に用いた場合、電気化学素子を構成する材料である封止パッキン樹脂、封止パッキンゴム、外装金属、リード接続用金属等を劣化させたり、腐食させる場合があった。 【0005】本発明はこのような課題を解決するもので、電導度が高く、電気化学的な変質時にも樹脂やゴム、金属を劣化させたり、腐食させたりすることなく、熱的にも安定性の高い電解液およびそれを用いた電気化学素子を提供することを目的とするものである。 【0006】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明の電解液は、有機化合物を塩基成分とした電解質を有機溶媒に溶解した電解液において、電解液中の塩基もしくは塩基カチオンとカルボン酸もしくはカルボン酸アニオンのモル比を1.00:1.03~1.00:3.00としたもので、さらに本発明の電気化学素子は前記電解液を用いるようにしたもので、この手段によれば、電導度が高く、電気化学的な変質時にも樹脂やゴム、金属を劣化させたり、腐食させたりすることなく、熱的にも安定性の高い電解液およびそれを用いた電気化学素子を提供することができるものである。」 ク.「【0032】本発明の電解液において、電解液のpHは、通常4~8で、好ましくは5~7である。この範囲外では、電解液の火花電圧が低下する。 【0033】本発明の電解液において、電解液中の塩基もしくは塩基カチオンとカルボン酸もしくはカルボン酸アニオンのモル比は1.00:1.03~1.00:3.00の範囲が必要であり、さらに好ましいのはモル比1.00:1.03~1.00:2.00の範囲である。塩基もしくは塩基カチオンが、上記比率より化学量論的に多い(モル比率が1.00:[1.03より小さい値]の場合)場合は、電解質塩基成分の電気化学的な変質により塩基性物質が生成された際に、反応できるカルボン酸やカルボン酸アニオンの化学量論量が十分でないため、電解液中のpHの上昇抑制効果が十分に得られない。また逆に、カルボン酸もしくはカルボン酸アニオンが、上記比率より化学量論的に多い(モル比率が1.00:[3.00より大きい値]の場合)場合は、カルボン酸の溶解性が著しく低下するため、低温域での使用時に電解液中の成分の析出が生じるので好ましくない。」 上記カ~クの記載によれば、甲第2号証には、 「電解コンデンサや電気二重層コンデンサ、リチウム電池などに使用する電解液およびそれを用いた電気化学素子において、電導度が高く、電気化学的な変質時にも樹脂やゴム、金属を劣化させたり、腐食させたりすることなく、熱的にも安定性の高い電解液およびそれを用いた電気化学素子を提供するために、電解液中の酸成分を塩基成分よりもモル比で過剰に含むものとすること(電解液中の塩基もしくは塩基カチオンとカルボン酸もしくはカルボン酸アニオンのモル比を1.00:1.03~1.00:3.00とした電解液)」が記載されている。 ここで、甲第1号証は、固体有機導電材と駆動用電解液を併用して用いることにより、インピーダンス特性、漏れ電流特性、信頼性に優れた高耐電圧の固液ハイブリッド型の電解コンデンサを得るものである。 それに対して、甲第2号証は、非固体型の電解コンデンサや電気二重層コンデンサに使用する電解液に関する発明であって、固体型の電解コンデンサや固液ハイブリッド型の電解コンデンサ、特に、導電性高分子と駆動用電解液とを併用する固液ハイブリッド型の電解コンデンサへの適用については開示も示唆もされていない。 そして、甲第1号証の電解液Bと甲第2号証の電解液とは、電解コンデンサの電解液である点で共通するものの、その解決しようとする課題および効果は、甲第1号証が、固液ハイブリッド型のコンデンサ素子を用いることにより、インピーダンス特性、漏れ電流特性、信頼性に優れた、耐電圧の高い電解コンデンサを得ようとしているのに対し、甲第2号証は、非固体型の電解コンデンサや電気二重層コンデンサに使用する電解液において、電導度が高く、電気化学的な変質時にも樹脂やゴム、金属を劣化させたり、腐食させたりすることなく、熱的にも安定性の高い電解液およびそれを用いた電気化学素子を提供するものであるから、発明が解決しようとする課題および効果の面で相違する。なお、「インピーダンス特性に優れた」や「導電度が高く」との課題および効果は、電子部品において共通する当然の課題および効果であるから、甲第1号証と甲第2号証の課題の共通性とは認められない。また、電解コンデンサの構成においても、甲第1号証は、固体有機導電材と駆動用電解液を併用して用いる固液ハイブリッド型であるのに対し、甲第2号証は、電解液を用いた非固体型の電解コンデンサである点で相違し、甲第2号証の非固体型の電解コンデンサの電解液を、甲第1号証の固液ハイブリッド型の駆動用電解液に適用することについては、開示も示唆もない。 そうすると、発明の解決しようとする課題および効果が異なり、電解コンデンサとしての構成も異なり、異なる構成における電解液の適用に開示も示唆もない、甲第1号証と甲第2号証とは、組み合わせる動機付けが認められない。 したがって、本件特許発明1は、甲第1号証と甲第2号証に記載された技術事項を組み合わせても当業者が容易になし得たものではない。 そして、本件特許発明2および3は、本件特許発明1に更なる構成をそれぞれ付加したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証と甲第2号証に記載された技術事項を組み合わせても当業者が容易になし得たものではない。 よって、本件特許発明2および3は、特許法第29条第2項に違反したものではない。 ・取消理由C (1)「酸成分」なる用語について 「酸成分」とは、「酸性」を示す成分であって、「水にとけて水素イオンH+を生じる物質」であることが特許権者の意見書により明確となった。 よって、本件特許発明2および3は、特許法第36条第6項第2号に違反したものではない。 (2)「酸成分」の技術的範囲について 本件特許発明2および3は、溶質の酸成分について、上記「4.(1)本件特許発明1について」で認定した「酸成分A」の範囲内の物質を、本件特許発明1に更なる構成としてそれぞれ付加したものであるから、本件特許明細書に記載された範囲を超えて特許を受けたものではない。 よって、本件特許発明2および3は、特許法第36条第6項第1号に違反したものではない。 5.むすび 以上のとおりであるから、本件特許の請求項1に係る発明(本件特許発明1)は、本件特許明細書に記載された範囲を超えて特許を受けたものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 また、本件特許の請求項2に係る発明(本件特許発明2)および本件特許の請求項3に係る発明(本件特許発明3)は、甲第1号証に記載された発明と同一ではなく、甲第1号証と甲第2号証に記載された技術事項を組み合わせても当業者が容易になし得たものではなく、特許請求の範囲の記載に不備も認められないから、取消理由によっては、請求項2および3に係る特許を取り消すことはできない。 さらに、他に本件請求項2に係る特許および本件請求項3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2016-700479

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