特許異議申立
2023-700097
乳性飲料及びその製造方法
- 審判番号
- 2023-700097
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-105172
- 登録番号
- 7116532
- 請求日
- 2023年02月01日
- 審決日
- 2023年05月29日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】アサヒ飲料株式会社
- 【権利者代理人】田中 伸一郎
- 【権利者代理人】▲吉▼田 和彦
- 【権利者代理人】須田 洋之
- 【権利者代理人】山崎 一夫
- 【権利者代理人】服部 博信
- 【権利者代理人】松田 七重
- 【異議申立人】永井 望
- 審判長/審判官
- 審判長 平塚 政宏
- 審判官 磯貝 香苗
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.537-Y (A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7116532号発明「乳性飲料及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7116532号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7116532号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、
平成29年 5月29日に出願され、
令和 4年 8月 2日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、
令和 4年 8月10日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、当該特許に対し、
令和 5年 2月 1日に特許異議申立人 永井 望(以下、「特許異議申立人」という。)が特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)を行ったものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
乳成分を含有する、ストレート飲料である乳性飲料であって、
無脂乳固形分が1.2質量%以上、3.2質量%以下であり、
糖度(°Bx)が8以上12.2以下、又は、13以上であり、
大豆多糖類の含有量が0.1質量%以上であり、
還元糖及び/又は非還元糖を含有し、
糖度(°Bx)が8以上、11未満である場合、還元糖率が、0~77%であり、
糖度(°Bx)が11以上12.2以下である場合、前記還元糖率が、50~100%であり、
糖度(°Bx)が13以上である場合、前記還元糖率が、0~70%であり、
前記還元糖率は、還元糖と非還元糖との合計量に対する還元糖の含有率(質量%)を表す、
乳性飲料。
【請求項2】
乳成分を含有する、ストレート飲料である乳性飲料であって、
無脂乳固形分が1.2質量%以上、3.2質量%以下であり、
糖度(°Bx)が8以上であり、
大豆多糖類の含有量が0.1質量%以上であり、
還元糖及び/又は非還元糖を含有し、
糖度(°Bx)が8以上、11未満である場合、還元糖率が、0~77%であり、
糖度(°Bx)が11以上、13未満である場合、前記還元糖率が、50~100%であり、
糖度(°Bx)が13以上である場合、前記還元糖率が、0~70%であり、
前記還元糖率は、還元糖と非還元糖との合計量に対する還元糖の含有率(質量%)を表す、
乳性飲料(但し、無脂乳固形分の含有量B(質量%)に対する乳酸菌の菌体数A(個/100g)の比A/Bが5.0×109~1.0×1012であるものを除く)。
【請求項3】
還元糖と非還元糖との双方を含有する、
請求項1又は2に記載された乳性飲料
【請求項4】
前記還元糖が、果糖、ぶどう糖、及び乳糖を含み、
前記非還元糖が、ショ糖を含む、
請求項3に記載された乳性飲料。
【請求項5】
pHが4.2以下である、
請求項1乃至4のいずれかに記載された乳性飲料。
【請求項6】
クエン酸換算酸度が0.1~0.4質量%である、
請求項1乃至5のいずれかに記載された乳性飲料。
【請求項7】
非炭酸飲料である、
請求項1乃至6のいずれかに記載された乳性飲料。
【請求項8】
非アルコール飲料である、
請求項1乃至7のいずれかに記載された乳性飲料。
【請求項9】
乳性飲料を調製する工程と、
前記乳性飲料を熱殺菌する工程と、
前記熱殺菌する工程後に、フィルターに前記乳性飲料を通過させる工程とを有し、
前記乳性飲料を調製する工程が、メッシュ非通過率が30%未満になるように、還元糖率を決定する工程を有し、
前記還元糖率は、還元糖と非還元糖との合計量に対する、還元糖の含有率(質量%)を表し、
前記メッシュ非透過率が、下記の方法により測定される値である、ストレート飲料である乳性飲料の製造方法。
(メッシュ非透過率の測定方法)
容器に詰めた、熱殺菌前の乳性飲料を、110℃で300分間加熱する。加熱後、水冷して常温にしてから容器を10回転倒させ、均一化させる。その後、内容液全量(約200ml)を、目開き190μmのナイロン製メッシュをセットした底面の直径が50mmの円筒形の篩に移す。2時間経過後、篩を通過しなかった上部に残った内容液を、内容液全重量で除した値をメッシュ非通過率として求める。
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由について
令和 5年 2月 1日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
1.申立理由(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記(1)及び(2)の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)無脂乳固形分、糖度(°Bx)、還元糖率の数値範囲がいずれの時点の組成におけるものであるのか特定されていない点について
乳性飲料では、加熱殺菌時の組成と最終的な乳性飲料との組成において、無脂乳固形分、糖度(°Bx)、還元糖率等が大きく相違する場合があり(甲第1号証、図6.7)、例えば、生菌タイプの乳酸菌飲料のように、加熱殺菌時の組成では本件特許発明の範囲外であるが、最終的な乳性飲料としては、本件特許発明に特定される範囲内となるものも想定される。
しかしながら、本件特許発明においては、無脂乳固形分、糖度(°Bx)、還元糖率等の数値範囲がいずれの時点の組成におけるものかが特定されていないから、生菌タイプの乳酸菌飲料のように、加熱殺菌時の組成では本件特許発明の範囲外であるが、最終的な乳性飲料としては本件特許発明に特定される範囲内になるものまで包含される。このような場合には加熱殺菌時に凝集が発生してしまい、その後の工程においても凝集が減少することはなく、なお残存するものと認められる。
したがって、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が、本件特許発明に含まれる全ての範囲において、本件特許発明の課題を解決できると認識することはできない。
(2)果糖ぶどう糖由来還元糖率が特定されていない点について
本件特許明細書には、【図1】に示されているように、メッシュ非透過率は、果糖ブドウ糖由来還元糖率に応じて変化し、糖度(°Bx)を変えると、メッシュ非透過率と果糖ぶどう糖由来還元糖率との関係も変化することが記載されている(【0032】)。
しかしながら、本件特許発明においては、糖度(°Bx)に応じた還元糖率について特定するのみであり、果糖ぶとう糖由来還元糖率については何ら特定されていない。
本件特許明細書において、糖度(°Bx)が8~11の場合、凝集の発生が抑制されていることが具体的に裏付けられているのは、糖度(°Bx)8.8~9.6及び果糖ぶどう糖由来還元糖率20~66.5%範囲のみであり(【表1】中の実施例1~8)、また、【図1】には、果糖ぶどう糖由来還元糖率が75%のとき、糖度(°Bx)8~11の範囲で、メッシュ非透過率が30%を超えてしまうことが示されている。
したがって、当業者は、糖度(°Bx)8.8~9.6及び果糖ぶどう糖由来還元糖率20~66.5%の範囲外においても、本件特許発明の課題を解決できるとは認識できない。
同様に、糖度(°Bx)が13以上の場合、本件特許明細書において、凝集の発生が抑制できることが裏付けられている果糖ぶどう糖由来還元糖率の範囲は、0~35%のみであり(【表1】中の実施例16~24)、それ以外の範囲で凝集の発生が抑制される根拠は示されていないうえ、【図1】には、果糖ぶどう糖由来還元糖率が35%でも、糖度(°Bx)13付近では、メッシュ非透過率が30%を超える場合があることが示されている。
したがって、当業者は果糖ぶどう糖由来還元糖率について何ら制限のない本件特許発明において、加熱殺菌時の凝集を抑制するという課題を解決できるとは認識できない。
2 証拠方法
甲第1号証:ミルクの事典、上野川修一ら、2009年11月20日初版第1刷、150~151頁
甲第2号証:再公表特許2013-085009号
甲第3号証:食品成分データベース、文部科学省ウェブサイト、[online]、2022年12月27日検索、https://fooddb.mext.go.jp/result/result_top.pl?USER_ID=14551
第4 当審の判断
1 申立理由(サポート要件)について
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
(3)本件特許の発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明【0004】には、「本願発明者らは、無脂乳固形分濃度が高い(例えば、1.2質量%以上)乳性飲料を大量生産したところ、加熱殺菌工程において凝集が発生してしまい、異物混入防止フィルターが頻繁に目詰まりしてしまう、という問題があることを見出した。・・・(中略)・・・本発明の課題は、高い無脂乳固形分濃度を有しつつも、加熱殺菌工程においても凝集が発生しない、乳性飲料及びその製造方法を提供することにある。」と記載されている。
本件特許の発明の詳細な説明【0005】には、課題を解決するための手段として、乳性飲料中に含まれる還元糖と非還元糖との含有比率が、加熱殺菌工程における凝集に関連することを見出し、この含有比率を調整することにより、加熱殺菌工程における凝集を抑制することができることを見出した旨が記載され、本件特許発明の各特定事項に対応する事項が記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明【0008】には乳性飲料、糖度(°Bx)について記載され、同【0010】には無脂乳固形分について、同【0011】には、糖度(°Bx)について、同【0012】には還元糖及び非還元糖について、同【0021】には大豆多糖類について、同【0023】にはpHについて、同【0027】にはストレート飲料について、同【0030】にはメッシュ非透過率について、同【0031】には還元糖率決定方法について、同【0033】には乳性飲料の製造方法についてそれぞれ記載されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明【0034】以降には、これら乳性飲料のための複数の組成が異なる調合液を調製し、調合液を加熱殺菌した後、190mlの缶にホットパックし、室温まで水冷して容器詰め乳性飲料を得たこと、及び、この乳性飲料の無脂乳固形分、糖度(°Bx)、大豆多糖類の含有量、還元糖率とメッシュ非透過率が記載されている。
(4)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0004】から、本件特許発明1ないし9の解決しようする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「高い無脂乳固形分濃度を有しつつも、加熱殺菌工程においても凝集が発生しない、乳性飲料及びその製造方法を提供すること」である。
本件特許の発明の詳細な説明【0005】には、当該発明の課題を解決するための手段として、乳性飲料中に含まれる還元糖と非還元糖の含有比率を調整することにより加熱殺菌工程における凝集を抑制することができることが記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0010】には、飲料中の無脂固形分の含有量は1.2質量%以上3.2質量%以下であること、同【0011】には糖度(°Bx)が8以上であること、同【0013】ないし【0016】には還元糖率に関し、糖度(°Bx)が8以上、11未満である場合、還元糖率が、0~77%であり、糖度(°Bx)が11以上、13未満である場合、還元糖率が、50~100%であり、糖度(°Bx)が13以上である場合、還元糖率が0~70%とすることで、飲料の熱殺菌時における凝集によってフィルターの目詰まりが起こらないようにできることが記載されており、さらに、同【0034】~【0042】の【表1】~【表3】には、実施例1~24・比較例1~9の無脂乳固形分、糖度(°Bx)、大豆多糖類の含有量、還元糖率とメッシュ非透過率との関係が具体的に計測され、その効果が確認されている。
そうすると、当業者は、乳成分を含有する乳性飲料であって、無脂乳固形分が1.2質量%以上、3.2質量%以下であり、糖度(°Bx)8以上であり、大豆多糖類の含有量が0.1質量%以上の乳性飲料において、糖度に対する還元糖率が所定の領域を満たすように調整させることによって、発明の課題を解決することができると認識できる。
また、当業者は、乳性飲料の製造において、乳性飲料を熱殺菌する工程と、熱殺菌する工程後に、フィルターに乳性飲料を通過させる工程を有し、乳性飲料を調整する工程が、メッシュ非透過率が30%未満になるように、還元糖率を決定する工程を採用することで、発明の課題を解決することができると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし9は、上記発明の課題を解決することができる特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、当然発明の課題を解決することができるものである。
したがって、本件特許発明1ないし9は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、発明の詳細な説明により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1ないし9に関して、特許請求の範囲はサポート要件に適合する。
(5)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の主張について検討する。
ア 無脂乳固形分、糖度(°Bx)、還元糖率の数値範囲がいずれの時点の組成におけるものであるのか特定されていない点について
前記検討したとおり、本件特許発明の課題は、「高い無脂乳固形分濃度を有しつつも、加熱殺菌工程においても凝集が発生しない、乳性飲料及びその製造方法を提供すること」であり、当該発明の課題を解決するために、本件特許発明1ないし8においては、乳性飲料の糖度に対する還元糖率を所定の数値範囲とすることを特定事項としたものである。
してみると、本件特許発明1ないし8は、加熱殺菌の際には所定の糖度と所定の還元糖率を有した乳性飲料であると当業者は当然認識する。
また、特許異議申立人は、生菌タイプの乳性飲料では、加熱殺菌時の組成では本件特許発明1ないし8の範囲外であるが、最終的な乳性飲料としては本件特許発明1ないし8に規定する範囲内になるものがあり、このような生菌タイプの乳性飲料は本件特許の発明の詳細な説明にサポートされているものではないと主張している。
しかしながら、本件特許発明の課題における「加熱殺菌工程」は、乳性飲料を調製する工程の後、調製された乳性飲料に対して実施するものであり(本件特許の請求項9参照。)、最終的な乳性飲料となる前の中間工程での組成物に対する加熱殺菌を対象とするものではない。
甲1において提示される乳酸菌飲料のうち「生菌タイプ」の飲料の製造工程は、本件特許発明の課題でいうところの乳性飲料を調製する工程の後の「加熱殺菌工程」を有さない。
したがって、甲1において提示される「生菌タイプ」の乳酸菌飲料は、本件特許発明1ないし8の乳性飲料には含まれない。
なお、甲1は「乳酸菌飲料」に関するものであって、「乳性飲料」と同じものではない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用し得ない。
イ 果糖ぶどう糖由来還元等率が規定されていない点について
上記(4)で検討したとおり、本件特許の発明の詳細な説明から、無脂乳固形分が1.2質量%以上、3.2質量%以下であり、糖度(°Bx)が8以上であり、大豆多糖類の含有量が0.1質量%以上である、乳成分を含有する乳性飲料において、糖度に対する還元糖率が所定の数値範囲を満たすように調整した乳性飲料とすることで、あるいは、乳性飲料の製造工程において、乳性飲料を調整する工程が、メッシュ非透過率が30%未満となるように、還元糖率を決定する工程を採用することにより、発明の課題である加熱殺菌時の凝集を抑制し得ることが当業者において理解される。
特許異議申立人は果糖ぶどう糖由来還元糖率が所定の数値範囲を満たさない場合には、発明の課題を解決することができない旨主張するが、還元糖率に加えて果糖ぶどう糖由来還元糖率の特定がなければ発明の課題を解決することができないとする具体的根拠は示されておらず、また、果糖ぶとう糖由来還元糖率の特定が、加熱殺菌工程の凝集の抑制に必要な要素であるという技術常識もない。
したがって、特許異議申立人の主張から、果糖ぶとう糖由来還元糖率の特定がない本件特許発明1ないし9は、本件特許の発明の詳細な説明においてサポートされていない、とすることはできない。
(6)申立理由1についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものであるとはいえない。
第5 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立理由によって取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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