特許異議申立
2023-700077
油ちょう食品用バッター液
- 審判番号
- 2023-700077
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-171043
- 登録番号
- 7106403
- 請求日
- 2023年01月25日
- 審決日
- 2023年12月04日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社日清製粉ウェルナ
- 【権利者代理人】弁理士法人翔和国際特許事務所
- 【異議申立人】増井 隆
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 池渕 立
- 審判官 相澤 啓祐
- 分類
- P1651.113-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7106403号発明「油ちょう食品用バッター液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7106403号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2について訂正することを認める。
特許第7106403号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7106403号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、平成30年 9月13日の出願であって、令和 4年 7月15日にその特許権の設定登録がされ、同年 7月26日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、その請求項1~3(全請求項)に係る特許について、令和 5年 1月25日に特許異議申立人である増井隆(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 5月22日付けで取消理由が通知され、同年 7月19日に特許権者から訂正請求書及び意見書が提出されたが、これに対して申立人から意見書が提出されなかったものである。
第2 本件訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容
令和 5年 7月19日に提出された訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に「穀粉類及び/又は澱粉類を40質量%以上含む、請求項1記載のバッター液。」と記載されているのを、「前記衣材組成物(ただし、パン粉を含有するものを除く)の全質量に対して、穀粉類及び/又は澱粉類を40質量%以上含む、請求項1記載のバッター液。」に訂正する。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項2に記載された「穀粉類及び/又は澱粉類を40質量%以上」を「前記衣材組成物(ただし、パン粉を含有するものを除く)の全質量に対して、穀粉類及び/又は澱粉類を40質量%以上」と訂正することによって、訂正前の「40質量%以上」が請求項2の「バッター液」の総重量を母数とした質量%であるのか、請求項2が引用する請求項1に記載された「衣材組成物」の総重量を母数とした質量%であるのか不明であったものを、「前記衣材組成物(ただし、パン粉を含有するものを除く)の全質量に対して」「40質量%以上」とすることにより、上記不明を解消したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について
訂正事項1による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当するとはいえない。
また、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の【0014】には、「本発明の油ちょう食品用衣材組成物における穀粉類及び/又は澱粉類の含有量は、上述の第二リン酸カルシウム及び/又は第三リン酸カルシウム並びに必要に応じて用いられる他の原料を除いた残部であり、該衣材組成物の全質量に対して、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。」との記載があるから(下線は当審が付した。)、訂正事項1による訂正は、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(2)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1に係る訂正について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項1~3に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明3」といい、総称して「本件特許発明」ということがある。なお、訂正された箇所に下線を付している。)。
「【請求項1】
第二リン酸カルシウム及び/又は第三リン酸カルシウムを0.05~5質量%含む衣材組成物(ただし、パン粉を含有するものを除く)と、液体とを含有する、油ちょう食品用バッター液。
【請求項2】
前記衣材組成物(ただし、パン粉を含有するものを除く)の全質量に対して、穀粉類及び/又は澱粉類を40質量%以上含む、請求項1記載のバッター液。
【請求項3】
請求項1記載のバッター液を付着させた具材を油ちょうする、油ちょう食品の製造方法。」
第4 特許異議申立理由と取消理由について
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の出願前に日本国内で公開又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、後記する甲第1号証~甲第7号証を提出し、以下の理由により、本件請求項1~3に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1)申立理由1(新規性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第4号証~甲第6号証に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(新規性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(進歩性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と甲第4号証~甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由5(新規性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)申立理由6(進歩性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第3号証に記載された発明と甲第4号証~甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(7)申立理由7(明確性、取消理由として不採用)
請求項1には「衣材組成物(ただし、パン粉を含有するものを除く)」と記載されているところ、本件特許明細書の段落【0013】の記載を参照すると、衣材組成物にはその主成分として請求項2記載の「穀粉類及び/又は澱粉類」が含まれ得るものであるが、パン粉は一般的にその主成分として穀粉類及び/又は澱粉類を含むものである。
そうすると、請求項1の「衣材組成物」とは「パン粉を含有するものを除く」、すなわち、穀粉類及び/又は澱粉類を含むものを除くものと特定されているにもかかわらず、その一方で、「穀粉類及び/又は澱粉類」が含まれ得るものでもあるから、請求項1の「衣材組成物」に「穀粉類及び/又は澱粉類」が含まれるか否か不明である。
したがって、本件請求項1の記載は不整合な記載を含むから明確であるとはいえない。
また、本件請求項1を引用する請求項2~3についても同様である。
よって、本件特許の請求項1~3の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
<証拠方法>
甲第1号証:特開2004-57041号公報
甲第2号証:特開2002-65195号公報
甲第3号証:特開平10-309171号公報
甲第4号証:特開2015-144596号公報
甲第5号証:特開2015-57987号公報
甲第6号証:特開平7-79700号公報
甲第7号証:化学辞典、東京化学同人、1999年6月1日、1536~1537頁
(以下、甲第1号証~甲第7号証を、順に「甲1」~「甲7」という。)
2 取消理由の概要
上記申立理由1~7はいずれも採用できないが、職権によって以下の取消理由1を通知した。その概要は以下のとおりである。
(1)取消理由1(明確性)
請求項2に「穀粉類及び/又は澱粉類を40質量%以上含む」と記載されているところ、「40質量%」とは、「バッター液」の総重量を母数とした質量%であるのか、請求項2が引用する請求項1に記載された「衣材組成物」の総重量を母数とした質量%であるのか不明である。
したがって、請求項2の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
1 取消理由について
訂正前の請求項2の「穀粉類及び/又は澱粉類を40質量%以上含む」との記載について、「40質量%以上」とは、「バッター液」の総重量を母数とした質量%であるのか、請求項2が引用する請求項1に記載された「衣材組成物」の総重量を母数とした質量%であるのか不明であったが、本件訂正によって、「前記衣材組成物(ただし、パン粉を含有するものを除く)の全質量に対」するものであることが明らかになった。
したがって、明確性についての取消理由1は解消された。
2 採用されなかった申立理由について
(1)申立理由1、2(甲1を主たる引用文献とする新規性・進歩性)について
ア 甲1の記載及び甲1に記載された発明
(ア)甲1には、「バッター用ミックス粉」(発明の名称)に関して、次の記載がある(なお、下線は当審が付し、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。
「【発明の属する技術分野】
本発明は、油切れがよく、油ちょう直後の衣の食感が良好で、この食感の経時的変化が少なく、冷凍、冷蔵保存後に再加熱しても衣の食感が良好に維持されるバッター用ミックス粉に関する。」
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
このように、揚げ物の衣の食感を改善するために様々な技術が提案されているが、油ちょう後に時間が経過した場合や、電子レンジ等で再加熱した場合における衣の食感の劣化防止に対して、十分に満足できる技術は未だ見出されていないのが現状である。
【0009】
したがって、本発明の目的は、油切れがよく、油ちょう直後の衣の食感が良好で、この食感の経時的変化が少なく、冷凍、冷蔵保存後に再加熱しても衣の食感が良好に維持されるバッター用ミックス粉を提供することにある。」
「【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明のバッター用ミックス粉は、(A)デキストリン及び/又はトレハロース及び/又はソルビトールと、(B)有機酸モノグリセリド及びショ糖脂肪酸エステルと、(C)アルカリ剤とを含むことを特徴とする。
…
【0015】
更にまた、前記(C)アルカリ剤は、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウムから選ばれた1種又は2種以上であることが好ましい。」
「【0028】
上記(C)成分のアルカリ剤としては、飲食品に使用できるものであれば特に限定されないが、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウムから選ばれた少なくとも1種又は2種以上が好ましく用いられる。
【0029】
本発明のミックス粉中における、(C)アルカリ剤の配合量は0.05~7質量%が好ましく、1~6質量%がより好ましい。アルカリ剤の配合量が少な過ぎると衣の食感がサクみに欠け、食感の経時的劣化を充分に改善することができず、多過ぎると衣の食感が硬くなる。
【0030】
本発明のミックス粉は、上記成分の他に、小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、とうもろこし粉、米粉等の穀粉類、コーンスターチ、米澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、ワキシー澱粉、サゴ澱粉等の澱粉類やそれらの化工澱粉、大豆油、菜種油、ショートニング等の油脂類、大豆蛋白、えんどう蛋白質、小麦蛋白、卵蛋白、乳蛋白等の蛋白素材、膨脹剤、食物繊維、増粘多糖類、糖類、調味料、香辛料、他の乳化剤、ビタミン類、ミネラル類等を含むことができる。
【0031】
本発明のミックス粉は、カラ揚げ、天ぷら、フリッター、コロッケ、トンカツ、エビフライ、魚フライ、カキフライ等の各種揚げ物のバッターとして使用することができ、中でも、コロッケ、トンカツ、エビフライ、魚フライ、カキフライ等の具材にバッターを付けた後、更にパン粉等を付着させた揚げ物、いわゆるフライ食品に好適に使用することができる。
【0032】
本発明のミックス粉を用いたバッター液は、通常、ミックス粉100質量部に対して、水120~400質量部を加えることにより調製され、具材に必要に応じて打粉を付着させた後、上記バッターを付着させ、その上から適宜パン粉等を付着させて油ちょうすることにより、揚げ物を得ることができる。」
「【0035】
実施例1、比較例1~6(エビフライ)
表1に示す配合組成のバッター用ミックス粉100質量部に、表1に示す量の冷水を加えて緩く撹拌してバッター液を調製した。このバッター液を、小麦粉(100%)の打粉を付けた25gのエビに付け、更に5メッシュのドライパン粉を付けた後、175℃で3分間油ちょうしてエビフライを作った。
【0036】
そして、油ちょう後室温(25℃、以下同じ。)にて10分間放置したもの(直後)、室温にて3時間放置したものについて、20名のパネラーにより、それぞれ食感を評価した。評価は、5点:油切れが非常によく、サクサクして歯もろさに富み、極めて良好、4点:油切れがよく、サクサクしており、良好、3点:油切れがやや悪く、ややサクサク感に欠ける、2点:油切れが悪く、ベタついており、サクサク感に乏しい、1点:油切れが非常に悪く、ベタつきが大きく、サクサク感がなく、不良、という基準で行ない、その平均点を求めた(以下の例においても同じ。)。その結果を表1に併せて示した。
【0037】
【表1】
[図:0001407812000001.jpg]
(当審注:表1は一部分(実施例1)のみの抜粋。)」
(イ)甲1に記載された発明
a 甲1の課題は、油切れがよく、油ちょう直後の衣の食感が良好で、この食感の経時的変化が少なく、冷凍、冷蔵保存後に再加熱しても衣の食感が良好に維持されるバッター用ミックス粉を提供することである(【0009】参照。以下、単に「課題」という。)。
b 上記課題を解決する甲1のバッター用ミックス粉は、(A)デキストリン及び/又はトレハロース及び/又はソルビトールと、(B)有機酸モノグリセリド及びショ糖脂肪酸エステルと、(C)アルカリ剤とを含むものであり(【0010】)、上記(C)成分のアルカリ剤としては、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等から選ばれた少なくとも1種又は2種以上が好ましく用いられる(【0015】)。また、甲1のバッターミックス粉は、上記成分の他に、穀粉類や澱粉類を含むことができ(【0030】)、天ぷらやフライ等の各種揚げ物のバッターとして使用することができるものである(【0031】)。
c 甲1のバッターミックス液の実施例1が表1に記載されており、次の成分を含むものである(表1の記載によれば、以下の各数値は質量部を表す。)。
バッター用ミックス粉100中に
小麦粉 70
馬鈴薯澱粉 10
コーンフラワー 5
炭酸カルシウム 3
デキストリン(DE3) 7
グルタミン酸Na 1.2
膨張剤 0.8
食塩 1
ショ糖脂肪酸エステル 1
クエン酸モノグリセリド 1
が含まれており、上記バッター用ミックス粉に水150質量部を加えて撹拌したバッターミックス液。
d 実施例1のバッターミックス液は、エビフライの調理に使用されるものであり、表1によれば、食感は直後が4.7、3時間放置後が4.2であり、いずれも4点(油切れがよく、サクサクしており、良好)を超えるものであった。
e したがって、上記cの実施例1のバッターミックス液に注目すると、甲1には次のバッターミックス液が記載されている(以下、「甲1発明」という。)。
「エビフライ等の揚げ物に使用されるバッターミックス液であって、
小麦粉:70質量部、馬鈴薯澱粉:10質量部、コーンフラワー:5質量部、炭酸カルシウム:3質量部、デキストリン(DE3):7質量部、グルタミン酸Na:1.2質量部、膨張剤:0.8質量部、食塩:1質量部、ショ糖脂肪酸エステル:1質量部、クエン酸モノグリセリド:1質量部からなる、バッター用ミックス粉100質量部に、
水150質量部を加えて撹拌した、
油切れがよく、サクサク感に優れた、バッターミックス液。」
イ 本件特許発明1と甲1発明との対比
(ア)甲1発明の「小麦粉:70質量部、馬鈴薯澱粉:10質量部、コーンフラワー:5質量部」を含む「バッター用ミックス粉」は、本件特許発明1の「衣材組成物(ただし、パン粉を含有するものを除く)」に相当する。
(イ)甲1発明の「水」は、本件特許発明1の「液体」に相当する。
(ウ)甲1発明の「エビフライ等の揚げ物に使用されるバッターミックス液」は、本件の「油ちょう食品用バッター液」に相当する。
(エ)以上の検討によれば、本件特許発明1と甲1発明の一致点と相違点は次のとおりである。
(一致点)
「衣材組成物(ただし、パン粉を含有するものを除く)と、液体とを含有する、油ちょう食品用バッター液。」の点。
(相違点1)
本件特許発明1は「第二リン酸カルシウム及び/又は第三リン酸カルシウムを0.05~5質量%含む」ものであるのに対して、甲1発明は「第二リン酸カルシウム及び/又は第三リン酸カルシウム」を含まない点。
ウ 相違点の検討
(ア)本願出願当時の技術常識を考慮しても、甲1発明が「第二リン酸カルシウム及び/又は第三リン酸カルシウム」を含むものとはいえないから、上記相違点1は、実質的な相違点である。
そして、当該相違点1の容易想到性について検討するに、甲1発明には、アルカリ剤として炭酸カルシウムが3質量部含まれており、甲1の段落【0015】、【0028】の記載によれば、アルカリ剤には、炭酸カルシウムの他にリン酸カルシウムが利用可能であることが示されており、リン酸カルシウムが、本件特許発明1の「第三リン酸カルシウム」のことであることは技術常識である。
したがって、甲1発明において、3質量部含まれる炭酸カルシウムに代えて、同質量部の第三リン酸カルシウムを含有させる動機付けはあるといえる。
(イ)しかしながら、本件特許明細書には、試験例3とその結果を表した【表4】が記載されている。
「【0029】
(試験例3)
実施例1~5、比較例1~5の粉末状の衣材組成物100質量部に、100質量部の清水を加えて混合し、天ぷらの衣液(バッター液)をそれぞれ調製した。サツマイモを輪切りにし、1個当たり15gとなるように切り分けて成形した。サツマイモに、バッター液を1個あたり3g絡めて付着させた。得られた衣材付き具材を、170℃に熱したサラダ油で3分間油ちょうしてサツマイモ天ぷら(油ちょう食品)を製造した。各サツマイモ天ぷらの粗熱をとり(品温約50℃)、訓練された10人のパネラーにより上記の評価基準に従って評価し、平均値を求めた。結果を表4に示す。
【0030】
【表4】
[図:0001407812000002.jpg]
(ウ)上記表4によれば、第二リン酸カルシウム及び/又は第三リン酸カルシウムを含有している実施例1~5の天ぷらの衣液(バッター液)と、炭酸カルシウムを含有している比較例4の天ぷらの衣液(バッター液)の評価を比べると、衣のサクサク感の評価と衣の口溶けの評価のいずれにおいても、実施例1~5はいずれも4点台の高評価であるのに対して、比較例4は3点台と2点台であり、第二リン酸カルシウム及び/又は第三リン酸カルシウムを含有している実施例1~5が、炭酸カルシウムを含有している比較例4よりも食感において優れていることが理解できる。
(エ)そうすると、第二リン酸カルシウム及び/又は第三リン酸カルシウムを0.05~5質量%含む本件特許発明1は、衣のサクサク感及び衣の口溶け感の双方において、甲1発明に比べて優れた効果を奏するものであるということができる。そして、油ちょう食品用バッター液に含有させる第二リン酸カルシウム及び/又は第三リン酸カルシウムが与える、衣のサクサク感及び衣の口溶け感が、炭酸カルシウムが与えるものに比べて優れていることはいずれの甲号証にも記載も示唆もされていないのであるから、本件特許発明1の奏する上記優れた効果は、当業者といえども予測可能なものであるということはできない。
(オ)以上の検討から、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではないし、また、衣のサクサク感及び衣の口溶け感が優れているという優れた効果を奏するものであって、当該優れた効果については当業者にとって予測可能であるとはいえないから、甲1発明及び甲4~6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
また、本件特許発明1を引用することによって、本件特許発明1の全ての特定事項を備えている本件特許発明2~3についても、同様の理由によって、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1発明及び甲4~6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、申立理由1~2によっては、本件特許発明1~3に係る特許を取り消すことはできない。
(2)申立理由3、4(甲2を主たる引用文献とする新規性・進歩性)について
ア 甲2の記載及び甲2に記載された発明
(ア)甲2には、「フライ用衣材及び該衣材を用いたフライ食品」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、油ちょう直後の食感がクリスピーでサクサク感があり、この食感の経時的変化が少なく、また、冷蔵・冷凍したフライ食品をレンジ(電子レンジ、オーブンレンジ)等で再加熱してもこの衣の食感の劣化の少ないフライ用衣材及び該衣材を用いたフライ食品に関する。」
「【0010】したがって、本発明の目的は、油ちょう直後の食感がクリスピーでサクサク感があり、この食感の経時的変化が少なく、また、冷蔵・冷凍保存後に再加熱しても衣の食感の劣化の少ないフライ用衣材及び該衣材を用いたフライ食品を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明のフライ用衣材は、80~115℃で処理した小麦粉及び115~140℃で処理した小麦粉を含むことを特徴とする。」
「【0021】本発明のフライ用衣材は、上記熱処理小麦粉の他に、澱粉類、アルカリ剤、乳化剤の少なくとも1種以上を含むことが好ましい。
【0022】澱粉類としては、タピオカ澱粉、ワキシー澱粉及びそれらの化工澱粉からなる群から選ばれた1種以上を含むことが好ましい。化工処理は、酸処理、α化処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、湿熱処理、熱処理、油脂化工処理及び複合化工処理などが挙げられる。上記澱粉類を配合することにより衣の食感をソフトにできる。
【0023】アルカリ剤としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、酸化カルシウム、リン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの食品に添加可能なものが挙げられる。アルカリ剤を配合することにより衣の食感をよりクリスピーにできる。」
「【0035】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
試験例1(エビ天ぷら)
20gのブラックタイガーに小麦粉で打粉をした後、表1に示す各種のフライ用衣材に水を加えて調製したバッターを付けて175℃のサラダ油中で2分間油ちょうした。
【0036】これらのエビ天ぷらを、油ちょう後5分間経過した状態、及び油ちょうしてから3時間経過した状態で、10名のパネラーに試食させて、衣の食感(サクサク感)を評価した。評価は、非常に良いものを10とし、逆に非常に悪いものを1として10段階で行い、10名のパネラーの平均値で表した(以下の試験例において同じ。)。この結果を表1に示す。」
「【0045】試験例3(野菜かき揚げ)
適当な大きさにカットしたタマネギ70質量部、ニンジン15質量部、ゴボウ5質量部、青野菜5質量部、乾燥桜エビ5質量部を混合したものに、表3に示す各種のフライ用衣材に水を加えて調製したバッターを同質量加え、野菜かき揚げの種を調製した。この種60gを170℃で2分30秒間油ちょうし、急速冷凍して、1ヶ月間冷凍保存(-20℃)した。
【0046】これらの冷凍野菜かき揚げを電子レンジで再加熱して各種の野菜かき揚げを得た。そして、再加熱直後に試験例1と同様に10名のパネラーに試食させて食感を評価した。この結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
[図:0001407812000003.jpg]
」
(イ)甲2に記載された発明
a 甲2の課題は、油ちょう直後の食感がクリスピーでサクサク感があり、この食感の経時的変化が少なく、また、冷蔵・冷凍保存後に再加熱しても衣の食感の劣化の少ないフライ用衣材及び該衣材を用いたフライ食品を提供することである(【0010】参照。以下、単に「課題」という。)。
b 上記課題を解決する甲2のフライ用衣材は、80~115℃で処理した小麦粉及び115~140℃で処理した小麦粉を含むものであり(【0011】)、さらに、アルカリ剤を含むことが好ましいものである(【0021】)。そして、アルカリ剤としては、炭酸カルシウムやリン酸カルシウムが挙げられ、アルカリ剤を配合することにより衣の食感をよりクリスピーにできる(【0023】)というものである。
c 甲2のフライ用衣材の試験例3が表3に記載されており、特に実施例8のバッターは、無処理小麦粉68、80~115℃で処理した小麦粉10、115~140℃で処理した小麦粉10、タピオカ澱粉5、アルカリ剤1、乳化剤(HLB4)1、膨張剤2、及び全卵粉末1からなるフライ用衣材100に、水120を加えて調整したものである。なお、段落【0045】に各材料の含有量が質量部で記載されていることから、表3においても各成分の数値は、質量部を意味するものと認められる。
d 実施例8のバッターを用いて調理したかき揚げは、再加熱直後に試験例1と同様に10名のパネラーに試食させて食感を評価したものであり(【0046】)、試験例1の記載を参照すると、当該評価は、衣の食感(サクサク感)について、非常に良いものを10とし、逆に非常に悪いものを1として10段階で行い、10名のパネラーの平均値で表したものであり(【0036】)、当該評価した結果が9.5と優れているものであった。
e したがって、上記c、dの実施例8のバッターに注目すると、甲2には次のバッターが記載されている(以下、「甲2発明」という。)
「かき揚げ等のフライ食品に使用されるバッターであって、
無処理小麦粉:68質量部、80~115℃で処理した小麦粉:10質量部、115~140℃で処理した小麦粉:10質量部、タピオカ澱粉:5質量部、アルカリ剤:1質量部、乳化剤(HLB4):1質量部、膨張剤:2質量部、及び全卵粉末:1質量部を含有しているフライ用衣材100質量部に、水120質量部を加えて調整した、
食感(サクサク感)が優れている、バッター。」
イ 本件特許発明1と甲2発明との対比
(ア)甲2発明の「無処理小麦粉:68質量部、80~115℃で処理した小麦粉:10質量部、115~140℃で処理した小麦粉:10質量部」を含有している「フライ用衣材」は、本件特許発明1の「衣材組成物(ただし、パン粉を含有するものを除く)」に相当する。
(イ)甲2発明の「水」は、本件特許発明1の「液体」に相当する。
(ウ)甲2発明の「かき揚げ等のフライ食品に使用されるバッター」は、本件特許発明1の「油ちょう食品用バッター液」に相当する。
(エ)以上の検討によれば、本件特許発明1と甲2発明の一致点と相違点は次のとおりである。
(一致点)
「衣材組成物(ただし、パン粉を含有するものを除く)と、液体とを含有する、油ちょう食品用バッター液。」の点。
(相違点2)
本件特許発明1は「第二リン酸カルシウム及び/又は第三リン酸カルシウムを0.05~5質量%含む」ものであるのに対して、甲2発明は「第二リン酸カルシウム及び/又は第三リン酸カルシウム」を含まない点。
ウ 相違点の検討
(ア)本願出願当時の技術常識を考慮しても、甲2発明が「第二リン酸カルシウム及び/又は第三リン酸カルシウム」を含むものか否かは不明であるから、上記相違点2は、実質的な相違点である。
そして、当該相違点2の容易想到性について検討するに、甲2の段落【0023】には、「アルカリ剤としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、酸化カルシウム、リン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの食品に添加可能なものが挙げられる。」と記載されているから、甲2発明において、アルカリ剤として、リン酸カルシウムを使用する動機付けはあるといえる。なお、ここで、リン酸カルシウムが、本件特許発明1の第三リン酸カルシウムを意味することは技術常識である。
(イ)しかしながら、上記(1)ウ(イ)~(ウ)で検討したように、本件特許明細書には、バッター液に含まれる添加物として、第二リン酸カルシウム及び/又は第三リン酸カルシウムを含有した場合に、炭酸カルシウムを添加した場合よりも、衣のサクサク感の評価と衣の口溶けの評価のいずれにおいても優れていることが記載されているが、甲2には、その段落【0023】に例示されたアルカリ剤の中で、リン酸カルシウム(第三リン酸カルシウム)が他のものよりも優れた食感を示すものであることは記載も示唆もされていない。甲2以外の甲号証についても同様である。
(ウ)したがって、本件特許発明1の「油ちょう食品用バッター液」が、第二リン酸カルシウム及び/又は第三リン酸カルシウムを含有することによって、衣のサクサク感の評価と衣の口溶けの評価のいずれにおいても優れているという優れた効果を奏することについては、いずれの甲号証にも記載も示唆もされておらず、当該優れた効果については当業者にとっても予測可能であるとはいえない。
(エ)以上の検討から、本件特許発明1は、甲2に記載された発明ではないし、また、衣のサクサク感及び衣の口溶け感が優れているという優れた効果を奏するものであって、当該優れた効果については当業者にとって予測可能であるとはいえないから、甲2発明及び甲4~6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
また、本件特許発明1を引用することによって、本件特許発明1の全ての特定事項を備えている本件特許発明2~3についても、同様の理由によって、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2発明及び甲4~6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、申立理由3~4によっては、本件特許発明1~3に係る特許を取り消すことはできない。
(3)申立理由5、6(甲3を主たる引用文献とする新規性・進歩性)について
ア 甲3の記載及び甲3に記載された発明
(ア)甲3には、「フライ食品及びその製造法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、フライした後、必要に応じて冷凍し、電子レンジやオーブン等で温め直して食べるのに適したフライ食品及びその製造法に関する。」
「【0007】したがって、本発明の目的は、フライした後、必要に応じて冷凍し、電子レンジやオーブン等で温め直して食べるフライ食品の衣の食感を、従来のものに比べてより顕著に改善できるフライ食品及びその製造法を提供することにある。」
「【0024】1次バッター液としては、少なくともアルカリ剤と油脂とを含有するものが用いられる。アルカリ剤としては、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム等の食品に添加できるものであれば特に限定されないが、衣の食感改善効果及び栄養的な見地からカルシウム塩が好ましく、特に炭酸カルシウムが好ましい。アルカリ剤の添加量は、1次バッター液の水以外の成分中で0.05~5.0 重量%とすることが好ましく、0.1~3.0 重量%とすることが更に好ましい。アルカリ剤の添加量が0.05重量%未満ではフライ後の時間が経過したときの衣の食感改善効果が十分に得られず、5.0重量%を超えると硬い食感となるという問題が生じる。」
「【0027】1次バッター液には、上記の他に、小麦粉、澱粉、植物蛋白素材、卵白、調味料、香料、香辛料、乳化剤、膨剤等を添加してもよい。」
「【0035】
【実施例】
(1)バッター液の調製
表1に示す配合の1次バッター液及び2次バッター液を調製し、これらを表1に示す組み合わせで以下の試験例に用いた。実施例1~4は、本発明によるバッター液の組み合わせであり、比較例1~4は、本発明に該当しないバッター液の組み合わせである。
【0036】
【表1】
[図:0001407812000004.jpg]
(当審注:表1は一部分(1次バッター)のみの抜粋。)
【0037】(2)試験例1(トンカツへの応用)
50gの豚肉に、小麦粉100%の打粉を付け、次いで1次バッターを付け、8メッシュのドライパン粉をまぶし、更に2次バッターを付け、3メッシュの生パン粉を付けた後、175℃のサラダ油中で6分間フライした。こうして得られたトンカツを常温で6時間放置し、電子レンジで温め直して15名のパネラーによって食感の評価を行った。
【0038】衣の食感の評価は、◎…非常にクリスピーでサクサク感あり、○…クリスピーでサクサク感あり、△…油っぽくやや硬い食感、×…油っぽくガミーな食感、という基準で行い、各パネラーの平均で表した。この結果を表2に示す。」
「【0045】
【表2】
[図:0001407812000005.jpg]
」
(イ)甲3に記載された発明
a 甲3の課題は、フライした後、必要に応じて冷凍し、電子レンジやオーブン等で温め直して食べるフライ食品の衣の食感を、従来のものに比べてより顕著に改善できるフライ食品及びその製造法を提供することである(【0007】参照。以下、単に「課題」という。)。
b 上記課題を解決する甲3のフライ食品を調理するために使用される1次バッター液は、少なくともアルカリ剤と油脂とを含有するものが用いられる。ここで、アルカリ剤としては、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム等が用いられるが、衣の食感改善効果及び栄養的な見地から炭酸カルシウムが特に好ましい(【0024】)。また、1次バッター液には、小麦粉や澱粉を添加してもよい(【0027】)。
c 甲3のフライ食品を調理する際に使用される1次バッター液の複数の実施例が表1に記載されており、これら実施例のうち実施例1の1次バッター液は次の成分からなるものである。なお、各成分の含有量は、段落【0024】で「重量%」が使用されていることから、「重量%」を単位とするものと認められる。
小麦粉:68重量%
澱粉:20重量%
食用油脂:10重量%
増粘剤:0.5重量%
炭酸カルシウム:0.5重量%
大豆繊維:1.0重量%
水:350重量%
d 実施例1の1次バッター液を用いて調理したトンカツは、表2によれば、調理後常温で6時間放置し、電子レンジで温め直して15名のパネラーによって食感の評価を行ったところ、「○…クリスピーでサクサク感あり」というものであった。
e したがって、上記cの実施例1の1次バッター液に注目すると、甲3には次の1次バッター液が記載されている(以下、「甲3発明」という。)。
「トンカツ等のフライ食品に使用される1次バッター液であって、
小麦粉:68重量%、澱粉:20重量%、食用油脂:10重量%、増粘剤:0.5重量%、 炭酸カルシウム:0.5重量%、大豆繊維:1.0重量%の合わせて100重量%に、水:350重量%を加えて調整した、
調理後放置し電子レンジで温め直しても、サクサク感が優れている、1次バッター液。」
イ 本件特許発明1と甲3発明との対比
(ア)甲3発明の「小麦粉:68重量%、澱粉:20重量%」を含有し「水:350重量%を加えて調整」するものは、本件特許発明1の「衣材組成物(ただし、パン粉を含有するものを除く)」に相当する。
(イ)甲3発明の「水」は、本件特許発明1の「液体」に相当する。
(ウ)甲3発明の「トンカツ等のフライ食品に使用される1次バッター液」は、本件特許発明1の「油ちょう食品用バッター液」に相当する。
(エ)以上の検討によれば、本件特許発明1と甲3発明の一致点と相違点は次のとおりである。
(一致点)
「衣材組成物(ただし、パン粉を含有するものを除く)と、液体とを含有する、油ちょう食品用バッター液。」の点。
(相違点3)
本件特許発明1は「第二リン酸カルシウム及び/又は第三リン酸カルシウムを0.05~5質量%含む」ものであるのに対して、甲3発明は「第二リン酸カルシウム及び/又は第三リン酸カルシウム」を含まない点。
ウ 相違点の検討
(ア)本願出願当時の技術常識を考慮しても、甲3発明が「第二リン酸カルシウム及び/又は第三リン酸カルシウム」を含むものとはいえないから、上記相違点3は、実質的な相違点である。
そして、当該相違点3の容易想到性について検討するに、甲3の段落【0024】には、「アルカリ剤としては、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム等の食品に添加できるものであれば特に限定されない」と記載されているから、甲3発明において、アルカリ剤として、炭酸カルシウムに代えてリン酸カルシウムを使用する動機付けはあるといえる。なお、ここで、リン酸カルシウムが、本件特許発明1の第三リン酸カルシウムを意味することは技術常識である。
(イ)そして、同段落には、「衣の食感改善効果及び栄養的な見地からカルシウム塩が好ましく、特に炭酸カルシウムが好ましい。」とも記載されているが、リン酸カルシウムを添加した場合に、炭酸カルシウムを添加した場合よりも衣の食感がよくなることは記載されていない。
(ウ)一方、本件特許明細書には、上記(1)ウ(イ)~(ウ)で検討したように、バッター液に含まれる添加物として、第二リン酸カルシウム及び/又は第三リン酸カルシウムを含有した場合に、炭酸カルシウムを添加した場合よりも、衣のサクサク感の評価と衣の口溶けの評価のいずれにおいても優れていることが記載されているが、甲3にはそのようなことは記載されておらず、甲3以外の甲号証についても同様である。
(エ)そうすると、甲3発明において、アルカリ剤として、炭酸カルシウムに代えてリン酸カルシウムを使用する動機付けがあるとはいえるが、リン酸カルシウムを用いた場合に、本件特許発明1の「油ちょう食品用バッター液」のように、衣のサクサク感の評価と衣の口溶けの評価のいずれにおいても優れているという優れた効果を奏することについては、甲3を始め、いずれの甲号証にも記載も示唆もされておらず、当該優れた効果については当業者にとって予測可能であるとはいえない。
(オ)以上の検討から、本件特許発明1は、甲3に記載された発明ではないし、また、衣のサクサク感及び衣の口溶け感が優れているという優れた効果を奏するものであって、当該優れた効果については当業者にとって予測可能であるとはいえないから、甲3発明及び甲4~6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
また、本件特許発明1を引用することによって、本件特許発明1の全ての特定事項を備えている本件特許発明2~3についても、同様の理由によって、甲3に記載された発明ではなく、また、甲3発明及び甲4~6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、申立理由5~6によっては、本件特許発明1~3に係る特許を取り消すことはできない。
(4)申立理由7(明確性)について
パン粉とは、パンを粉状に砕いた調理用加工食品のことであり、パンは小麦粉に水を加えてこねてドウにした後、加熱して製造したものである。そして、小麦粉に含まれる主なタンパク質であるグルテニンとグリアジンは水を加えてこねるとグルテンとなり、また小麦粉に含まれる澱粉は加熱により糊化及び膨化することは周知の事項である。また、小麦粉は澱粉を約70%、タンパク質(グルテニンとグリアジン)を約10%含むことも周知の事項である(以上、例えば、https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei1957/29/2/29_2_111/_pdf
を参照のこと)。
そうすると、パン粉は小麦粉を原料として製造されるものではあるが、小麦粉(穀粉類)は水と熱により別の物質に変化しているから、申立人が主張するように「パン粉は一般的にその主成分として穀粉類」「を含むものである」とはいえない。
また、本件特許明細書の段落【0013】に記載されているように、本件特許発明において、「澱粉類」には小麦澱粉(小麦粉から取り出した澱粉)は含まれるが小麦粉自体は含まれないものであるが、パン粉には、小麦粉由来の糊化及び膨化した澱粉が含まれているから、申立人が主張するように「パン粉は一般的にその主成分として澱粉類を含むものである」といえる余地があるところ、仮に、パン粉が「穀粉類及び/又は澱粉類」に含まれるものであるとしても、「穀粉類及び/又は澱粉類」には、パン粉以外に大麦粉や米粉等も含まれるものであるから(本件特許明細書段落【0013】参照)、請求項1に「衣材組成物(ただし、パン粉を含有するものを除く)」と記載されたことによりパン粉が排除されたことと、請求項1を引用する請求項2に「穀粉類及び/又は澱粉類を40質量%以上含む」と記載されたことの間には、何ら不整合な点はなく、不明確であるとはいえない。
したがって、申立理由7によっては、本件請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
第6 まとめ
以上のとおり、令和 5年 5月22日付け取消理由通知書に記載した取消理由と、申立人が提出した特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件訂正後の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件訂正後の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700077