特許異議申立
2023-700048
ポリウレタン樹脂水分散体、塗料、フィルム構成体、及び構造物
- 審判番号
- 2023-700048
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-211317
- 登録番号
- 7105177
- 請求日
- 2023年01月17日
- 審決日
- 2024年03月14日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大日精化工業株式会社
- 【権利者代理人】田口 昌浩
- 【異議申立人】高橋 和秀
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 藤井 勲
- 審判官 近野 光知
- 分類
- P1651.113-YAA(C08G) / P1651.121-YAA(C08G) / P1651.537-YAA(C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7105177号発明「ポリウレタン樹脂水分散体、塗料、フィルム構成体、及び構造物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7105177号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。
特許第7105177号の請求項1-9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7105177号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成30年11月9日に出願され、令和4年7月13日に特許権の設定登録がされ、令和4年7月22日に特許掲載公報が発行されたされたものである。
その後、その特許に対し、令和5年1月17日に、特許異議申立人である高橋和秀(以下「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~9)がされた。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和5年 3月30日付け 取消理由通知書
同年 5月26日提出 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 6月 5日付け 訂正請求があった旨の通知書(申立人宛て)
同年 6月27日提出 意見書(申立人)
同年 8月31日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年10月26日 面接、応対記録初回対応日
同年11月 2日提出 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年11月16日付け 訂正請求があった旨の通知書(申立人宛て)
同年12月18日提出 意見書(申立人)
なお、令和5年5月26日提出の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を表し、当審が付した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載のポリウレタン樹脂水分散体の不揮発分の下限(訂正前40質量%)を、「40.3質量%」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~9も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に記載のポリウレタン樹脂水分散体から、「分子量1,000の1,4-ブタンジオール/アジピン酸のポリエステル500部、トリメチロールプロパン14.7部、分子量1,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル40.8部と4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート256.8部をトルエン348部中で、NCO%が2.5%に達するまで80℃で反応させ末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得、このウレタンプレポリマーをポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=16)40.6部とポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=12)40.6部を溶解させた乳化剤水溶液894部と混合してホモミキサーで乳化分散させた後、無水ピペラジン26部を溶解させた鎖伸長剤水溶液260部を添加して鎖伸長を行わせ、次いで減圧下トルエンを留去して得られた固形分50%、平均粒子径1.5μm、感熱凝固温度62℃の水系ウレタン樹脂」を除くとともに、「有機溶媒存在下の反応により製造したポリウレタン樹脂を含む水分散体」を除く訂正をする。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~9も同様に訂正する。
(3)一群の請求項について
訂正事項1、2に係る訂正前の請求項1~9について、請求項2~9はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1、2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
よって、本件訂正は、一群の請求項1~9に対してされたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「不揮発分を40質量%以上含有」することから、訂正後の請求項1の「不揮発分を40.3質量%以上含有」することとしたことは、「不揮発分」の含有量の下限を上げるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件明細書の段落【0070】の表1には、「PUD8」の「不揮発分[質量%]」として、「40.3」と記載されているとおり、訂正事項1に係る「不揮発分」が「40.3」であることは、本件明細書に記載されていたものである。
したがって、訂正事項1は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載の「ポリウレタン樹脂水分散体」から、特定の「水系ウレタン樹脂」及び「有機溶媒存在下の反応により製造したポリウレタン樹脂を含む水分散体」を除くものである。
この訂正は、「ポリウレタン樹脂水分散体」を限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更にあたらない。
そして、訂正事項2は、訂正前の本件発明1の「ポリウレタン樹脂水分散体」から、特定の「水系ウレタン樹脂」及び「有機溶媒存在下の反応により製造したポリウレタン樹脂を含む水分散体」を除外するものであって、新たな技術的事項を導入するものでないから、本件明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当しない。
3 独立特許要件
訂正前の全ての請求項1~9について特許異議申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するものであるから、結論のとおり、本件訂正を認める。
第3 訂正後の特許請求の範囲の記載
本件訂正請求により訂正された請求項1~9に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定されるとおり以下のものである。
「【請求項1】
水中にポリウレタン樹脂粒子が分散してなるポリウレタン樹脂水分散体であって、
不揮発分を40.3質量%以上含有し、
界面活性剤を含み、
前記ポリウレタン樹脂粒子が、ポリオール成分、イソシアネート成分、及び1個以上の活性水素基を有し、かつアルキレンオキサイドを有する親水性アルキレンオキサイド成分を含み、
前記親水性アルキレンオキサイド成分のポリウレタン樹脂粒子に対する含有量が1~25質量%であり、
前記ポリウレタン樹脂粒子の体積平均粒子径が0.3~5μmである、ポリウレタン樹脂水分散体(ただし、分子量1,000の1,4-ブタンジオール/アジピン酸のポリエステル500部、トリメチロールプロパン14.7部、分子量1,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル40.8部と4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート256.8部をトルエン348部中で、NCO%が2.5%に達するまで80℃で反応させ末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得、このウレタンプレポリマーをポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=16)40.6部とポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=12)40.6部を溶解させた乳化剤水溶液894部と混合してホモミキサーで乳化分散させた後、無水ピペラジン26部を溶解させた鎖伸長剤水溶液260部を添加して鎖伸長を行わせ、次いで減圧下トルエンを留去して得られた固形分50%、平均粒子径1.5μm、感熱凝固温度62℃の水系ウレタン樹脂を除き、さらに、有機溶媒存在下の反応により製造したポリウレタン樹脂を含む水分散体を除く。)。
【請求項2】
25℃における粘度が3000mPa・s以下である請求項1に記載のポリウレタン樹脂水分散体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリウレタン樹脂水分散体を含む塗料。
【請求項4】
イソシアネート系、カルボジイミド系、オキサゾリン系架橋剤からなる群から選択される少なくとも一種を含む請求項3に記載の塗料。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の塗料のフィルム状物を含むフィルム構成体。
【請求項6】
請求項5に記載のフィルム構成体を、表皮層、中間層、及び接着層の少なくともいずれかとして含む構造物。
【請求項7】
請求項3又は4に記載の塗料を表面及び内部の少なくともいずれかに含む構造物。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の構造物を含む合成擬革。
【請求項9】
前記ポリウレタン樹脂粒子中の全成分の水酸基当量に対するポリイソシアネート成分のイソシアネート基当量の比(NCO/OH)が1.2~1.9である、請求項1又は2に記載のポリウレタン樹脂水分散体。」
以下では、本件訂正請求により訂正された請求項1~9に係る発明を、「本件発明1」~「本件発明9」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。
第4 特許異議申立書の申立理由及び当審が通知した取消理由
1 特許異議申立書(以下、「申立書」ということがある。)の申立理由
(1)申立理由1(甲第1号証に基づく新規性、進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1~3、5~9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、又は甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件訂正前の請求項1~9に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(甲第2号証に基づく新規性、進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1~9に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、又は甲第2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許受けることができないものであるから、本件訂正前の請求項1~9に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(甲第3号証に基づく新規性、進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1~3、5~9に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、又は甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許受けることができないものであるから、本件訂正前の請求項1~9に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(サポート要件違反)
本件特許の請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由の概要は以下のとおり。
ア 本件特許の請求項1に係る発明において、「界面活性剤」としてその種類が限定されていないし、非反応性のノニオン界面活性剤であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルを用いた場合には本件発明の課題を解決できることが具体的に記載されていたとしても、それ以外の界面活性剤であったとしても、本件発明の課題を解決することが認識できない。
イ 本件特許の請求項1に係る発明において、「親水性アルキレンオキサイド成分」が有する「アルキレンオキサイド」について限定されておらず、本件発明の課題を解決するものとして具体的に示されたのは炭素数が2のエチレンオキサイドを用いた場合のみであり、それ以外のアルキレンオキサイドであったとしても、本件発明の課題を解決することが認識できない。
2 証拠方法
(1)申立書とともに提出された証拠方法
申立人が、申立書に添付した証拠は、以下のとおりである。
・甲第1号証:特開平10-120757号公報
・甲第2号証:特開2000-297211号公報
・甲第3号証:特開2017-119755号公報
・甲第4号証:特開2018-70878号公報
・甲第5号証:特開2013-87228号公報
・甲第6号証:国際公開第2006/38466号
(以下、甲第1号証~甲第6号証をそれぞれ「甲1」~「甲6」という。)
(2)令和5年6月27日付け意見書とともに提出された証拠方法
申立人が、令和5年6月27日付け意見書とともに提出した証拠方法は、以下のとおりである。
・参考文献1:特開昭58-38723号公報
・参考文献2:特開平5-320361号公報
・参考文献3:特開平5-306317号公報
(3)令和5年11月2日付け意見書とともに提出された証拠方法
特許権者が、令和5年11月2日付け意見書とともに提出した証拠方法は、以下のとおりである。
・参考資料1:山城 誠一「セグメント化ポリエステルウレタン重合における交換反応及び重合条件とハード成分の分布の関係」、高分子論文集、Vol.45、No.6、pp.519~525(June,1988)
3 当審が通知した令和5年8月31日付け取消理由通知(決定の予告)の取消理由
当審で通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
(1)取消理由1(甲2に基づく新規性違反)
本件特許の請求項1~9に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2)取消理由2(甲2に基づく進歩性違反)
本件特許の請求項1~9に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第5 当審の判断
1 取消理由1(甲2に基づく新規性違反)及び取消理由2(甲2に基づく進歩性違反)について
申立理由2(甲2に基づく新規性、進歩性欠如)は、取消理由1及び2と主とする引用文献を同じくするものであるから、併せて検討する。
(1)甲2に記載された事項及び甲2発明
ア 甲2に記載された事項
「【請求項1】 (イ)感熱凝固温度が40~90℃である水系ウレタン樹脂と、(ロ)会合型増粘剤からなることを特徴とする多孔質形成用水系ウレタン樹脂組成物。
・・・
【請求項3】 水系ウレタン樹脂(イ)が、平均粒子径0.1~5μmの水系ウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の多孔質形成用水系ウレタン樹脂組成物。
【請求項4】 水系ウレタン樹脂(イ)が、HLB10~18のノニオン性乳化剤で分散された水系ウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1~3いずれか記載の多孔質形成用水系ウレタン樹脂組成物。
・・・
【請求項8】 水系ウレタン樹脂(イ)が、分子鎖中に(A)エチレンオキサイドの繰り返し単位を少なくとも50重量%以上含有するポリオキシアルキレングリコール及び/又は(B)エチレンオキサイドの繰り返し単位を少なくとも50重量%以上含有する片末端ポリオキシアルキレングリコールを含有するものであることを特徴とする請求項1~7いずれか記載の多孔質形成用水系ウレタン樹脂組成物。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、多孔質を形成する水系ウレタン樹脂組成物に関する。更に詳しくは、シャープな感熱凝固性を有し、特に繊維基材に含浸加工あるいはコーティング加工した場合に、マイグレーションもなく繊維基材中に均一に充填され、かつ乾燥後に均一な多孔質層を形成し、しかも溶剤系と同等の風合い、即ち充実感、腰のある風合いを与える繊維基材、特に人工皮革用に適した多孔質形成用水系ウレタン樹脂組成物に関する。」
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、常温では安定であって、感熱凝固、特にスチームによる感熱凝固によりシャープな感熱凝固性を有し、特に繊維基材に含浸加工あるいはコーティング加工した場合に、マイグレーションもなく繊維基材中に均一に充填され、かつ乾燥後に均一な多孔質層を形成し、しかも溶剤系と同等の風合い、即ち充実感、腰のある風合いを与える水系ウレタン樹脂組成物にある。」
「【0015】本発明の水系ウレタン樹脂の製造において用いられるイソシアネート基と反応し得る活性水素含有化合物は、好ましくは平均分子量300~10,000、より好ましくは500~5,000の高分子量活性水素含有化合物と、好ましくは平均分子量300以下の低分子量活性水素含有化合物に分けられる。
・・・
【0020】上記低分子量活性水素含有化合物としては、好ましくは分子量300以下の分子内に少なくとも2個以上の活性水素を含有する化合物で、例えば、ポリエステルポリオールの原料として用いたグリコール成分;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、ペンタエリスリトール等のポリヒドロキシ化合物等があり、この他に更にエチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2-メチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、アミノエチルエタノールアミン、ヒドラジン類、酸ヒドラジド類、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のポリアミンが挙げられる。
・・・
【0023】かかる軟化温度を有するウレタン樹脂の構造としては、リニヤー構造あるいは分岐構造を有するウレタン樹脂が使用できるが、本発明で特に好ましいのは、分岐構造を有するウレタン樹脂である。その分岐の濃度としては、ウレタン樹脂固形分1kg当たり0.01~0.8molが好ましい。分岐濃度が0.01molより小さい場合は、得られた多孔質層が水、溶剤、湿熱、光等により劣化しやすく、また分岐濃度が0.8molより大きいの場合は、多孔質層は形成されるものの粒子間の造膜性が極端に悪くなるため、皮膜としての機械的強度、耐久性が低下するため好ましくない。更に好ましくは、0.02~0.3molである。かかる分岐構造を得るために使用される原料としては、前記三官能以上のポリオール、ポリアミン、あるいは前記ジイソシアネートを公知の技術で変性して得られる多官能ポリイソシアネートが挙げられる。」
「【0028】本発明の水系ウレタン樹脂(イ)を得るために前記乳化剤以外に親水成分をウレタン樹脂中に導入することができる。かかる親水成分としては、ノニオン性親水基が特に好ましい。かかるノニオン性親水基を導入するために用いられる原料としては、分子内に少なくとも1個以上の活性水素原子を有し、かつエチレンオキサイドの繰り返し単位からなる基、エチレンオキサイドの繰り返し単位とその他のアルキレンオキサイドの繰り返し単位からなる基を含有するノニオン性の化合物が挙げられる。
【0029】本発明の水系ウレタン樹脂において、特に好ましいノニオン性親水基含有化合物としては、(A)エチレンオキサイドの繰り返し単位を少なくとも50重量%以上含有するポリオキシアルキレングリコール及び/又は(B)エチレンオキサイドの繰り返し単位を少なくとも50重量%以上含有する片末端ポリオキシアルキレングリコールである。
【0030】ポリオキシアルキレングリコール(A)及び片末端ポリオキシアルキレングリコール(B)としては、分子量200~6,000のポリエチレングリコール、又はブロックあるいはランダム型のポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体グリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシブチレン共重合体グリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシアルキレン共重合体グリコール、及びそれらのメチルエーテル、エチルエーテル、ブチルエーテル等のモノアルキルエーテル類が挙げられる。
【0031】またかかるポリオキシアルキレングリコール(A)及び片末端ポリオキシアルキレングリコール(B)の含有量は、本発明の水系ウレタン樹脂の固形分中にそれぞれ1~10重量%であることが好ましい。」
「【0038】本発明にかかわる水系ウレタン樹脂(末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを含む)は、従来公知の方法で製造され、例えば、前記ジイソシアネートと活性水素含有化合物(親水成分も含む)を、イソシアネート基と活性水素基の当量比をそれぞれウレタン樹脂の場合は、好ましくは0.8:1~1.2:1、より好ましくは0.9:1~1.1:1の比率で、また末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーの場合は、好ましくは1.1:1~3:1、より好ましくは1.2:1~2:1の比率で、好ましくは20~120℃、より好ましくは30~100℃にて反応する。
【0039】これらの反応は、無溶剤下にて行なうこともできるが、反応系の反応制御あるいは粘度低下等の目的で有機溶剤を使用することもできる。かかる有機溶剤はとくに限定されないが、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類が挙げられるが、蒸留除去が容易な比較的沸点が低いものを用いることが好ましい。
【0040】かくして得られた水系ウレタン樹脂(イ)(末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー)は、前記ノニオン性の乳化剤を使用して従来公知の方法で水に分散される。末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを使用した場合は、水に分散させた後に、引き続き前記ポリアミンあるいは水で鎖伸長される。またウレタン樹脂あるいは末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーに親水成分としてカルボキシル基を導入した場合は、ウレタン化反応の前、途中、反応後、あるいは水に分散させる際に前記中和剤を使用して中和され、水に分散される。
【0041】本発明の水系ウレタン樹脂(イ)は、繊維基材中への浸透性、会合型増粘剤との組み合わせによるシャープな感熱凝固性と、更に乾燥後に強靱な多孔質層を形成するためには、平均粒子径が少なくとも0.1μm以上である事が好ましい。平均粒子径が0.1μm未満の場合は、マイグレーションあるいは多孔質層の形成能が低下するため不適当である。更に好ましい範囲は、0.15~5μmある。ここで言う平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置であるLA-910((株)堀場製作所製)の体積基準で測定した場合のメジアン径を指す。」
「【0044】かくして有機溶剤を除去して得られた水系ウレタン樹脂は、固形分が約10~60重量%、好ましくは15~50重量%の実質的に無溶剤の水分散体である。しかしながらやむ終えず沸点100℃以上の有機溶剤を水系ウレタン樹脂の製造に使用しなければならない場合でも、水系分散体の全重量当たり20重量%までにそのような有機溶剤の使用量は止めるべきである。」
「【0059】更に着色を目的として水溶性あるいは水分散性の各種無機、有機顔料を配合することができ、また炭酸カルシウム、タルク、水酸化アルミ、シリカ、ガラス繊維等の無機フィラーや、セルロースパウダー、プロテインパウダー、シルクパウダー、有機短繊維等の有機フィラーを配合することもできる。また上記水分散体の耐光性、耐熱性、耐水性、耐溶剤性等の各種耐久性を改善する目的で酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤等の安定剤を水系ウレタン樹脂の製造工程中か、その製造後に添加することもできる。或いはまたエポキシ樹脂、メラミン樹脂、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、ポリカルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物等の架橋剤を配合して使用することもできる。」
「【0061】本発明の水系ウレタン樹脂組成物は、常温での安定性に優れ、かつシャープな感熱凝固性と多孔質形成性を有するので、天然繊維、合成繊維、無機繊維等の紙、不織布、あるいは編織布等の各種繊維基材に対して含浸あるいはコーティング等により加工され、従来の溶剤系ウレタン樹脂に匹敵する風合い、特に充実感と腰のある風合いを与えるものである。」
「【0062】本発明の水系ウレタン樹脂組成物の多孔質を形成させる方法としては、該水系ウレタン樹脂組成物を上記基材に加工した後、該水系ウレタン樹脂組成物の感熱凝固温度以上に、熱風、温水、スチーム、赤外線、電磁波、高周波等の手段によって加熱し、引き続き水分を蒸発させる事により得られる。本発明の水系ウレタン樹脂組成物の特徴を最大限に発揮させるには、特にスチーム、電磁波による感熱凝固法が好ましい。」
「【0063】かくして本発明の水系ウレタン樹脂組成物は、靴、鞄、衣料、椅子やソファ等の家具、車両シートやハンドル等の自動車用内装材、透湿防水素材等の各種合成皮革、人工皮革、あるいは研磨材、フェルトペンの芯材、各種注型製品等の処理剤として有用である。」
「【0064】
【実施例】以下に本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。実施例中の「部」は「重量部」を示す。
【0065】[水系ポリウレタン樹脂の合成例]
(合成例A)分子量1,000のポリテトラメチレングリコール500部、1,4-ブタンジオール10.0部、トリメチロールプロパン10.9部、分子量600のポリエチレングリコール48.2部とイソホロンジイソシアネート235.0部をメチルエチルケトン433部中でジブチル錫ジラウレート0.2部の存在下、NCO%が1.7%に達するまで70℃で反応させ末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得た。このウレタンプレポリマーをポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(HLB=14)48.2部を溶解させた乳化剤水溶液1254部と混合してホモミキサーで乳化分散させた後、無水ピペラジン20部を溶解させた鎖伸長剤水溶液206部を添加して鎖伸長を行わせた。次いで減圧下メチルエチルケトンを留去して固形分40%、平均粒子径0.3μm、感熱凝固温度48℃の水系ウレタン樹脂Aを得た。また、その乾燥皮膜の軟化温度は195℃であった。
【0066】(合成例B)分子量1,000の1,4-ブタンジオール/アジピン酸のポリエステル500部、トリメチロールプロパン14.7部、分子量1,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル40.8部と4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート256.8部をトルエン348部中で、NCO%が2.5%に達するまで80℃で反応させ末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得た。このウレタンプレポリマーをポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=16)40.6部とポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=12)40.6部を溶解させた乳化剤水溶液894部と混合してホモミキサーで乳化分散させた後、無水ピペラジン26部を溶解させた鎖伸長剤水溶液260部を添加して鎖伸長を行わせた。次いで減圧下トルエンを留去して固形分50%、平均粒子径1.5μm、感熱凝固温度62℃の水系ウレタン樹脂Bを得た。また、その乾燥皮膜の軟化温度は210℃であった。
【0067】[会合型増粘剤の合成例]
・・・
【0068】(実施例1)水系ウレタン樹脂A50部に対して、会合型増粘剤aを2部を予め水48部で希釈溶解した水溶液を配合し、ウレタン樹脂濃度が20%の水系樹脂組成物を調整した。この水系ウレタン樹脂組成物をポリエステル繊維からなる目付300g/m2の不織布に含浸し、マングルでウエットピックアップ250%となるよう絞った。次いで100℃の飽和水蒸気中に2分間静置し、その後100℃の乾燥機で20分乾燥した。また、この水系ウレタン樹脂組成物は常温で1ケ月静置しても安定であった。
・・・
【0070】(実施例3)水系ウレタン樹脂Bを使用した以外は実施例1と同様に水系ウレタン樹脂組成物を調整し、実施例1と同様に加工を行った。また、この水系ウレタン樹脂組成物は常温で1ケ月静置しても安定であった。
【0071】(実施例4)水系ウレタン樹脂Bを使用した以外は実施例2と同様に水系ウレタン樹脂組成物を調整し、実施例2と同様に加工を行った。また、この水系ウレタン樹脂組成物は常温で1ケ月静置しても安定であった。
・・・
【0074】・・・これらの評価結果を以下の表に示す。
【0075】
【表1】
[図:0001411263000001.jpg]
・・・
【0077】<評価方法>
マイグレーションの有無:加工布の断面の電子顕微鏡写真によりウレタン樹脂の充填状態を目視観察した。
〈判定〉○:マイグレーションも無く均一に充填された状態
×:マイグレーションが有り不均一な充填状態
【0078】多孔質層の形成:加工布の断面の電子顕微鏡写真により充填されたウレタン樹脂の表面が多孔質を形成しているか否かを目視観察した。
〈判定〉○:多孔質有り ×:多孔質無し
【0079】加工布風合:加工布を触感により評価した。
〈判定〉◎:腰感、充実感共に特に優れる
○:腰感があり、充実感有り優れる
△:腰感、充実感にやや劣る
×:腰感、充実感全く無し
【0080】以上の実施例・比較例より、本発明の水系ウレタン樹脂組成物が、静置安定性に優れ、感熱凝固によりマイグレーションもなく繊維間に均一充填され、乾燥後に多孔質層を形成し、しかも溶剤系と同等の風合い、即ち充実感、腰のある風合いを与える加工布が得られることを確認した。」
イ 甲2発明
甲2において、実施例の合成例Bに着目すると、次の発明が記載されているものと認める。
「分子量1,000の1,4-ブタンジオール/アジピン酸のポリエステル500部、トリメチロールプロパン14.7部、分子量1,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル40.8部と4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート256.8部をトルエン348部中で、NCO%が2.5%に達するまで80℃で反応させ末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得、このウレタンプレポリマーをポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=16)40.6部とポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=12)40.6部を溶解させた乳化剤水溶液894部と混合してホモミキサーで乳化分散させた後、無水ピペラジン26部を溶解させた鎖伸長剤水溶液260部を添加して鎖伸長を行わせ、次いで減圧下トルエンを留去して得られた固形分50%、平均粒子径1.5μm、感熱凝固温度62℃の水系ウレタン樹脂B。」(以下、「甲2発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明と対比する。
(ア)甲2発明の「水系ウレタン樹脂B」は、甲2の実施例の合成例Bによれば、反応溶液であるトルエン中で重合して、分散媒である水を加え、乳化分散後減圧下でトルエンを留去することによって、分散質である平均粒子径1.5μmのウレタン樹脂が水中に分散している分散体であることが読み取れる。そうすると、甲2発明の「水系ウレタン樹脂B」は、本件発明1の「水中にポリウレタン樹脂粒子が分散してなるポリウレタン樹脂水分散体」に相当する。
(イ)甲2発明の「水系ウレタン樹脂B」中のポリウレタン樹脂粒子は、少なくとも「分子量1,000の1,4-ブタンジオール/アジピン酸のポリエステル」、「分子量1,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル」、「4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート」を反応させて得られたものだから、甲2発明の「分子量1,000の1,4-ブタンジオール/アジピン酸のポリエステル」、「分子量1,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル」、「4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート」は、本件発明1の「ポリオール成分」、「1個以上の活性水素基を有し、かつアルキレンオキサイドを有する親水性アルキレンオキサイド成分」、「イソシアネート成分」にそれぞれ相当する。
(ウ)甲2の段落【0064】における、「部は重量部を示す」との記載を踏まえると、「%」は「重量%」を示すと解される。そして、「固形部」は、水や溶剤などの揮発成分を除いた蒸発残分のことを意味するから、「不揮発分」と同義である。そうすると、甲2発明の「ポリウレタン水分散液」は、固形分50%(50重量%に相当)であるから、本件発明1の「不揮発分を40.3質量%以上含有」することに相当する。
(エ)甲2発明の「ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=16)とポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=12)」は乳化分散させるために用いていることから、本件発明1の「界面活性剤」に相当する。
(オ)甲2の段落【0064】における、「部は重量部を示す」との記載を踏まえると、甲2発明の「水系ウレタン樹脂B」中のポリウレタン樹脂粒子は、「分子量1,000の1,4-ブタンジオール/アジピン酸のポリエステル」500重量部、「トリメチロールプロパン」14.7重量部、「分子量1,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル」40.8重量部と「4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート」256.8重量部、「ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=16)」40.6重量部と「ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=12)」40.6重量部、「無水ピペラジン」26重量部を含むものであることから、その合計は919.5重量部であり、該「分子量1,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル」の含有量が40.8重量部であることから、ポリウレタン樹脂粒子に対する、該「分子量1,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル」の含有割合は、約4.4重量%となる。してみると、甲2発明の「分子量1,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル」は、ポリウレタン樹脂粒子中に約4.4重量%含有することになり、本件発明1の「親水性アルキレンオキサイド成分のポリウレタン樹脂粒子に対する含有量が1~25質量%であ」ることに相当する。
(カ)甲2発明の「水系ウレタン樹脂B」中のポリウレタン樹脂粒子の平均粒子径が1.5μmであるところ、甲2の段落【0041】には、水系ウレタン樹脂の平均粒子径がレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置であるLA-910((株)堀場製作所製)の体積基準で測定した場合のメジアン径を指すことが記載されている。してみると、甲2発明の「水系ウレタン樹脂B」中のポリウレタン樹脂粒子の平均粒子径が1.5μmであることは、本件発明1の「ポリウレタン樹脂粒子の体積平均粒子径が0.3~5μmである」点で重複一致する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「水中にポリウレタン樹脂粒子が分散してなるポリウレタン樹脂水分散体であって、
不揮発分を40.3質量%以上含有し、
界面活性剤を含み、
前記ポリウレタン樹脂粒子が、ポリオール成分、イソシアネート成分、及び1個以上の活性水素基を有し、かつアルキレンオキサイドを有する親水性アルキレンオキサイド成分を含み、
前記親水性アルキレンオキサイド成分のポリウレタン樹脂粒子に対する含有量が1~25質量%であり、
前記ポリウレタン樹脂粒子の体積平均粒子径が0.3~5μmである、ポリウレタン樹脂水分散体。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
ポリウレタン樹脂水分散体に関し、
本件発明1は「ただし、分子量1,000の1,4-ブタンジオール/アジピン酸のポリエステル500部、トリメチロールプロパン14.7部、分子量1,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル40.8部と4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート256.8部をトルエン348部中で、NCO%が2.5%に達するまで80℃で反応させ末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得、このウレタンプレポリマーをポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=16)40.6部とポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=12)40.6部を溶解させた乳化剤水溶液894部と混合してホモミキサーで乳化分散させた後、無水ピペラジン26部を溶解させた鎖伸長剤水溶液260部を添加して鎖伸長を行わせ、次いで減圧下トルエンを留去して得られた固形分50%、平均粒子径1.5μm、感熱凝固温度62℃の水系ウレタン樹脂を除き、さらに、有機溶媒存在下の反応により製造したポリウレタン樹脂を含む水分散体を除く。」ものであるのに対し、
甲2発明は「分子量1,000の1,4-ブタンジオール/アジピン酸のポリエステル500部、トリメチロールプロパン14.7部、分子量1,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル40.8部と4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート256.8部をトルエン348部中で、NCO%が2.5%に達するまで80℃で反応させ末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得、このウレタンプレポリマーをポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=16)40.6部とポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=12)40.6部を溶解させた乳化剤水溶液894部と混合してホモミキサーで乳化分散させた後、無水ピペラジン26部を溶解させた鎖伸長剤水溶液260部を添加して鎖伸長を行わせ、次いで減圧下トルエンを留去して得られた固形分50%、平均粒子径1.5μm、感熱凝固温度62℃の水系ウレタン樹脂」である点
イ 判断
<相違点1>について検討する。
(ア)甲2発明の「水系ウレタン樹脂」は、本件発明1のただし書きによって除かれた「水系ウレタン樹脂」であるから、<相違点1>は実質的な相違点である。
してみると、本件発明1と甲2発明とには、実質的な相違点が存在することから、本件発明1は甲2発明であるとはいえない。
(イ)ついで、<相違点1>の容易想到性について検討する。
甲2には、水系ウレタン樹脂(末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを含む)が従来公知の方法で製造されること(【0038】)、これらの反応は、無溶剤下にて行なうこともできるが、反応系の反応制御あるいは粘度低下等の目的で有機溶剤を使用することもできること(【0039】)、かくして有機溶剤を除去して得られた水系ウレタン樹脂は、固形分が約10~60重量%、好ましくは15~50重量%の実質的に無溶剤の水分散体であること(【0044】)が記載され、実施例では、有機溶剤として、合成例Aではメチルエチルケトン、合成例Bではトルエンを用いて、水系ウレタン樹脂を合成したことが開示されている。
これらの記載によると、水系ウレタン樹脂の製造にあたっては、無溶剤下でも有機溶剤下でも行えることが記載されているものの、有機溶剤を使用した合成例A及び合成例B(甲2発明)において、有機溶剤を使用しなくてもよいことは具体的に記載されていないし、無溶剤下で製造した場合であっても、甲2発明と同様に、不揮発分を40.3質量%以上含有した上で、ポリウレタン樹脂粒子の体積平均粒子径が0.3~5μmであるポリウレタン樹脂分散体が得られることは記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2発明の「水系ウレタン樹脂」は、有機溶剤を使用して製造することが前提となっていると解されるから、甲2発明において、「水系ウレタン樹脂」を有機溶剤下で製造することに代えて、無溶剤下で製造することが、甲2によって動機付けられているとはいえない。
また、本件発明1は、無溶剤下で反応させて、不揮発分の割合を40.3質量%以上で、ウレタン樹脂粒子の体積平均粒子径が0.3~5μmであるポリウレタン樹脂水分散体であっても、分散安定性と製膜性とを満足させるポリウレタン樹脂水分散体を提供するという、当業者が予測し得ない効果を有するものである。
したがって、<相違点1>に係る構成は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たことでない。
よって、本件発明1は、甲2発明であるといえないし、甲2発明、すなわち甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たことでない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和5年12月18日提出の意見書において、甲2には、水系ウレタン樹脂が従来公知の方法で製造されること(【0038】)、これらの反応が無溶剤下にて行うこともできるが、反応系の反応制御あるいは粘度低下等の目的で有機溶剤を使用することもできること(【0039】)が記載されていることから、無溶剤下で水系ウレタン樹脂を製造することも甲2に記載された発明であるといえ、(ア)本件発明1は甲2に記載された発明であるし、(イ)仮に甲2発明が除かれているとしても、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである旨主張している。
そこで検討するも、上記イ(イ)に示したように、(ア)、(イ)の何れの主張も妥当でない。
まず、(ア)についてであるが、甲2に無溶剤下で反応することが記載されていることをもって、甲2に記載された発明が無溶剤下で反応して得られた水系ウレタン樹脂であるとするものである。しかしながら、甲2の上記記載を基にして、無溶剤下で反応した場合であっても、甲2発明と同様に、不揮発分を40.3質量%以上含有した上で、ポリウレタン樹脂粒子の体積平均粒子径が0.3~5μmであるポリウレタン樹脂分散体が得られるとまでいえないから、当該主張は妥当でない。
ついで、(イ)についてであるが、甲2発明において、有機溶剤下での反応から無溶剤下での反応に代えることに動機付けを有しないことは、上述のとおりである。
したがって、申立人の上記(ア)、(イ)の主張は採用できない。
(3)本件発明2~9について
本件発明2~9は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について述べたのと同じ理由により、本件発明2~9は、甲2発明でないし、本件発明2~9は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たことでない。
エ 小括
上述のとおり、本件発明1~9は、甲2に記載された発明ではない。
また、本件発明1~9は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
2 取消理由通知の取消理由に採用しなかった申立理由について
(1)申立理由1(甲1に基づく新規性、進歩性欠如)について
ア 甲1に記載された発明
甲1に、「実施例における部は重量部を、%は重量%を表す」(【0026】)と記載されていることから、この点を踏まえて、以下認定を行った。
(ア)甲1発明1
甲1において、実施例2に着目すると、次の発明が記載されているものと認める。
「攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(平均分子量1000)60.5重量部、ポリオキシエチレンプロピレンランダム共重合グリコール(平均分子量3000、オキシエチレン基含有量70重量%)9.1重量部、ネオペンチルグリコール1.1重量部、トリメチロールプロパン1.4重量部、ジブチルチンジラウレート0.001重量部およびメチルエチルケトン67重量部を採り、均一混合後、イソホロンジイソシアネート17.9重量部およびジフェニルメタンジイソシアネート10.1重量部を加え、75℃で90分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が2.7重量%のウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得、この溶液にりん酸二水素ナトリウム0.1重量部およびポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤(HLB=13)5重量部を添加し、均一混合後、別容器に移し、ディスパー羽根を用い、水150重量部を徐々に加えて乳化分散させ、これにピペラジンの20重量%水溶液14.2重量部(不揮発分で2.84重量部)を添加後90分間攪拌し、次いで、得られたポリウレタン分散液を減圧下に50℃で脱溶剤を行なうことにより得られた、不揮発分40.0重量%、粘度200mPa・s、平均粒子径1.3μmの安定なポリウレタン水分散液。」(以下、「甲1発明1」という。)
(イ)甲1発明2
甲1において、実施例4に着目すると、次の発明が記載されているものと認める。
「攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(平均分子量1000)36.0重量部、ポリオキシエチレングリコール(平均分子量600)8.6重量部、ポリエチレンブチレンアジペート(平均分子量2000)24.0重量部、エチレングリコール0.9重量部、トリメチロールプロパン1.3重量部、ジブチルチンジラウレート0.001重量部およびトルエン100重量部を採り、均一混合後、キシリレンジイソシアネート9.0重量部およびジシクロヘキシルメタンジイソシアネート20.1重量部を加え、75℃で120分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が2.2重量%のウレタンプレポリマーのトルエン溶液を得、この溶液にりん酸二水素ナトリウム0.1重量部およびポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤(HLB=13)5重量部を添加し、均一混合後、別容器に移し、ディスパー羽根を用い、水150重量部を徐々に加えて乳化分散させ、これにピペラジンの20重量%水溶液14.4重量部(不揮発分で2.88重量部)を添加後90分間攪拌し、次いで、得られたポリウレタン分散液を減圧下に50℃で脱溶剤を行なうことにより得られた、不揮発分40.1重量%、粘度80mPa・s、平均粒子径0.9μmの安定なポリウレタン水分散液。」(以下、「甲1発明2」という。)
イ 対比・判断
(ア)甲1発明1を引用発明とする場合
a 本件発明1について
(a)対比
本件発明1と甲1発明1を対比する。
i 甲1発明1の「ポリウレタン水分散液」は、平均粒子径1.3μmを有するものであるから、該「ポリウレタン水分散液」は、ポリウレタン樹脂粒子が水中に分散しているものである。そうすると、甲1発明1の「ポリウレタン水分散液」は、本件発明1の「水中にポリウレタン樹脂粒子が分散してなるポリウレタン樹脂水分散体」に相当する。
ii 甲1発明1の「ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(平均分子量1000)」、「ポリオキシエチレンプロピレンランダム共重合グリコール(平均分子量3000、オキシエチレン基含有量70重量%)」、「イソホロンジイソシアネートおよびジフェニルメタンジイソシアネート」は、本件発明1の「ポリオール成分」、「1個以上の活性水素基を有し、かつアルキレンオキサイドを有する親水性アルキレンオキサイド成分」、「イソシアネート成分」にそれぞれ相当する。そして、甲1発明1の「ポリウレタン水分散液」中のポリウレタン樹脂粒子は、少なくとも「ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(平均分子量1000)」、「ポリオキシエチレンプロピレンランダム共重合グリコール(平均分子量3000、オキシエチレン基含有量70重量%)」、「イソホロンジイソシアネートおよびジフェニルメタンジイソシアネート」を反応させて得られたものだから、本件発明1の「ポリウレタン樹脂粒子が、ポリオール成分、イソシアネート成分、及び1個以上の活性水素基を有し、かつアルキレンオキサイドを有する親水性アルキレンオキサイド成分を含」むことに相当する。
iii 甲1発明1の「ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤(HLB=13)」は、本件発明1の「界面活性剤」に相当する。
iv 甲1発明1の「ポリウレタン水分散液」中のポリウレタン樹脂粒子は、「ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(平均分子量1000)」60.5重量部、「ポリオキシエチレンプロピレンランダム共重合グリコール(平均分子量3000、オキシエチレン基含有量70重量%)」9.1重量部、ネオペンチルグリコール1.1重量部、トリメチロールプロパン1.4重量部、ジブチルチンジラウレート0.001重量部、「イソホロンジイソシアネート」17.9重量部および「ジフェニルメタンジイソシアネート」10.1重量部、りん酸二水素ナトリウム0.1重量部、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤(HLB=13)5重量部、ピペラジンの20%水溶液14.2重量部(不揮発分で2.84重量部)を含むものであることから、その合計は108.041重量部であり、該「ポリオキシエチレンプロピレンランダム共重合グリコール(平均分子量3000、オキシエチレン基含有量70重量%)」の含有量が9.1重量部であることから、ポリウレタン樹脂粒子に対する、該「ポリオキシエチレンプロピレンランダム共重合グリコール(平均分子量3000、オキシエチレン基含有量70重量%)」の含有割合は、約8.4重量%となる。してみると、甲1発明1の「ポリオキシエチレンプロピレンランダム共重合グリコール(平均分子量3000、オキシエチレン基含有量70重量%)」は、ポリウレタン樹脂粒子中に約8.4重量%含有されており、本件発明1の「親水性アルキレンオキサイド成分のポリウレタン樹脂粒子に対する含有量が1~25質量%であ」る点で重複一致する。
v 甲1発明1は、「分子量1,000の1,4-ブタンジオール/アジピン酸のポリエステル500部、トリメチロールプロパン14.7部、分子量1,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル40.8部と4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート256.8部をトルエン348部中で、NCO%が2.5%に達するまで80℃で反応させ末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得、このウレタンプレポリマーをポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=16)40.6部とポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=12)40.6部を溶解させた乳化剤水溶液894部と混合してホモミキサーで乳化分散させた後、無水ピペラジン26部を溶解させた鎖伸長剤水溶液260部を添加して鎖伸長を行わせ、次いで減圧下トルエンを留去して得られた固形分50%、平均粒子径1.5μm、感熱凝固温度62℃の水系ウレタン樹脂」に該当しない。
そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、
「水中にポリウレタン樹脂粒子が分散してなるポリウレタン樹脂水分散体であって、
界面活性剤を含み、
前記ポリウレタン樹脂粒子が、ポリオール成分、イソシアネート成分、及び1個以上の活性水素基を有し、かつアルキレンオキサイドを有する親水性アルキレンオキサイド成分を含み、
前記親水性アルキレンオキサイド成分のポリウレタン樹脂粒子に対する含有量が1~25質量%である、ポリウレタン樹脂水分散体(ただし、分子量1,000の1,4-ブタンジオール/アジピン酸のポリエステル500部、トリメチロールプロパン14.7部、分子量1,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル40.8部と4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート256.8部をトルエン348部中で、NCO%が2.5%に達するまで80℃で反応させ末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得、このウレタンプレポリマーをポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=16)40.6部とポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=12)40.6部を溶解させた乳化剤水溶液894部と混合してホモミキサーで乳化分散させた後、無水ピペラジン26部を溶解させた鎖伸長剤水溶液260部を添加して鎖伸長を行わせ、次いで減圧下トルエンを留去して得られた固形分50%、平均粒子径1.5μm、感熱凝固温度62℃の水系ウレタン樹脂を除く。)。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2>
不揮発分の含有量に関し、本件発明1は「40.3質量%以上」であるのに対し、甲1発明1は「40.0重量%」である点
<相違点3>
ポリウレタン樹脂粒子の平均粒子径について、本件発明1は「体積平均粒子径が0.3~5μm」であるのに対し、甲1発明1は「平均粒子径が1.3μm」である点
<相違点4>
ポリウレタン樹脂水分散体に関し、本件発明1は「有機溶媒存在下の反応により製造したポリウレタン樹脂を含む水分散体を除く。」ものであるのに対し、甲1発明1は「有機溶媒としてメチルエチルケトン下の反応により製造した」ものである点
(b)判断
<相違点2>から検討する。
i 甲1発明1の「ポリウレタン水分散液」は、不揮発分が40.0重量%であることから、<相違点2>は実質的な相違点である。
してみると、本件発明1と甲1発明1とには、実質的な相違点が存在することから、本件発明1は甲1発明1であるとはいえない。
ii ついで、<相違点2>の容易想到性について検討する。
甲1には、実施例1~5以外には、不揮発分の含有量に関する記載がなく、実施例1~5において、39.5~40.1重量%であることが開示されているだけである。
そうすると、甲1発明1の「ポリウレタン水分散体」において、不揮発分を「40.3質量%以上」に調整しようとすることは記載も示唆もされておらず、その動機付けがないものであるから、<相違点2>に係る構成は、当業者が容易に想到し得たことでない。
以上から、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1でないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
b 本件発明2~9について
本件発明2~9は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について述べたのと同じ理由により、本件発明2、3、5~9は、甲1発明1でないし、本件発明2~9は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たことでない。
(イ)甲1発明2を引用発明とする場合
a 本件発明1について
(a)対比
本件発明1と甲1発明2と対比すると、実質的に上記(ア)a(a)と同様の相当関係を有するから、
本件発明1と甲1発明2とは、
「水中にポリウレタン樹脂粒子が分散してなるポリウレタン樹脂水分散体であって、
界面活性剤を含み、
前記ポリウレタン樹脂粒子が、ポリオール成分、イソシアネート成分、及び1個以上の活性水素基を有し、かつアルキレンオキサイドを有する親水性アルキレンオキサイド成分を含み、
前記親水性アルキレンオキサイド成分のポリウレタン樹脂粒子に対する含有量が1~25質量%である、ポリウレタン樹脂水分散体(ただし、分子量1,000の1,4-ブタンジオール/アジピン酸のポリエステル500部、トリメチロールプロパン14.7部、分子量1,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル40.8部と4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート256.8部をトルエン348部中で、NCO%が2.5%に達するまで80℃で反応させ末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得、このウレタンプレポリマーをポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=16)40.6部とポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=12)40.6部を溶解させた乳化剤水溶液894部と混合してホモミキサーで乳化分散させた後、無水ピペラジン26部を溶解させた鎖伸長剤水溶液260部を添加して鎖伸長を行わせ、次いで減圧下トルエンを留去して得られた固形分50%、平均粒子径1.5μm、感熱凝固温度62℃の水系ウレタン樹脂を除く。)。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2’>
不揮発分の含有量に関し、本件発明1は「40.3質量%以上」であるのに対し、甲1発明2は「40.1重量%」である点
<相違点3’>
ポリウレタン樹脂粒子の平均粒子径について、本件発明1は「体積平均粒子径が0.3~5μm」であるのに対し、甲1発明2は「平均粒子径が0.9μm」である点
<相違点4’>
ポリウレタン樹脂水分散体に関し、本件発明1は「有機溶媒存在下の反応により製造したポリウレタン樹脂を含む水分散体を除く。」ものであるのに対し、甲1発明2は「有機溶媒としてトルエン下の反応により製造した」ものである点
(b)判断
<相違点2’>から判断するも、上記(ア)a(b)と同様の理由により、<相違点2’>は実質的な相違点であるし、当業者が容易に想到しうることでない。
よって、本件発明1は、甲1発明2であるといえないし、甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たことでない。
以上から、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明2でないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
b 本件発明2~9について
本件発明2~9は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について述べたのと同じ理由により、本件発明2、3、5~9は、甲1発明2でないし、本件発明2~9は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たことでない。
ウ 小括
上述のとおり、本件発明1~3、5~9は、甲1に記載された発明ではない。
また、本件発明1~9は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)申立理由3(甲3に基づく新規性、進歩性欠如)について
甲3に、「実施例・・・において、特に限定しない限り、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す」(【0056】)と記載されていることから、この点を踏まえて、以下認定を行った。
ア 甲3に記載された発明
(ア)甲3発明1
甲3において、実施例8に着目すると、次の発明が記載されているものと認める。
「攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、前記デカンジオール由来ポリカーボネートジオールとして数平均分子量3,000のデカンジオール由来ポリカーボネートジオール(三菱化学(株)製、商品名「BENEBiOLTM NL3010DB」)78.1質量部、前記ヒドロキシル基のみ含有する分子量400以下の多価アルコールとしてトリメチロールプロパン0.7質量部及び1,4-ブタンジオール1.1質量部、前記ポリエーテル系ポリオールとしてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合グリコール((株)ADEKA製、商品名「アデカポリエーテルPR-3007」、数平均分子量:3,000、オキシエチレン基含有量:70質量%)1.2質量部、溶媒としてメチルエチルケトン32.8質量部を量り取り、均一に混合した後、有機ポリイソシアネートとしてジシクロヘキシルメタンジイソシアネート17.3質量部、触媒としてビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)0.02質量部を加え、80±5℃で90分間反応させ、ウレタンプレポリマー中の遊離イソシアネート基含有量が1.69質量%の末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得、この溶液に反応抑制剤として燐酸二水素ナトリウム0.5質量部、乳化剤としてポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤4.4質量部を添加し、均一に混合した後、水138.6質量部を徐々に加えて攪拌し、前記末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを乳化分散させ、この乳化分散液に、1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ基を1分子中に2個以上含有するポリアミン化合物(鎖伸長剤)としてピペラジンの20質量%水溶液6.2質量部(ピペラジンとして1.24質量部)及びジエチレントリアミンの20質量%水溶液1.9質量部(ジエチレントリアミンとして0.38質量部)を添加し、40±5℃で90分間攪拌した後、減圧下に40℃で脱溶剤(脱メチルエチルケトン)を行って得られた、樹脂分:40.0質量%、粘度(20℃):50mPa・s、平均粒子径:0.8μmの安定な水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物。」(以下、「甲3発明1」という。)
(イ)甲3発明2
甲3において、実施例14に着目すると、次の発明が記載されているものと認める。
「攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、前記デカンジオール由来ポリカーボネートジオールとして数平均分子量3,000のデカンジオール由来ポリカーボネートジオール(三菱化学(株)製、商品名「BENEBiOLTM NL3010DB」)76.3質量部、前記ヒドロキシル基のみ含有する分子量400以下の多価アルコールとしてトリメチロールプロパン0.9質量部及び1,4-ブタンジオール0.9質量部、前記ポリエーテル系ポリオールとしてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合グリコール((株)ADEKA製、商品名「アデカポリエーテルPR-3007」、数平均分子量:3,000、オキシエチレン基含有量:70質量%)3.0質量部、溶媒としてメチルエチルケトン32.8質量部を量り取り、均一に混合した後、有機ポリイソシアネートとしてジシクロヘキシルメタンジイソシアネート17.3質量部、触媒としてビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)0.02質量部を加え、80±5℃で90分間反応させ、ウレタンプレポリマー中の遊離イソシアネート基含有量が1.69質量%の末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得、この溶液に反応抑制剤として燐酸二水素ナトリウム0.5質量部、乳化剤としてポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤0.5質量部を添加し、均一に混合した後、水142.5質量部を徐々に加えて攪拌し、前記末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを乳化分散させ、この乳化分散液に、1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ基を1分子中に2個以上含有するポリアミン化合物(鎖伸長剤)としてピペラジンの20%水溶液6.2質量部(ピペラジンとして1.24質量部)及びジエチレントリアミンの20質量%水溶液1.9質量部(ジエチレントリアミンとして0.38質量部)を添加し、40±5℃で90分間攪拌した後、減圧下に40℃で脱溶剤(脱メチルエチルケトン)を行って得られた、樹脂分:40.0質量%、粘度(20℃):60mPa・s、平均粒子径:0.7μmの安定な水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物。」(以下、「甲3発明2」という。)
イ 対比・判断
(ア)甲3発明1を引用発明とする場合
a 本件発明1について
(a)対比
本件発明1と甲3発明1と対比する。
i 甲3発明1の「水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物」は、平均粒子径0.8μmを有するものであるから、該「水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物」は、ポリウレタン樹脂粒子が水中に分散しているものである。そうすると、甲3発明1の「水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物」は、本件発明1の「水中にポリウレタン樹脂粒子が分散してなるポリウレタン樹脂水分散体」に相当する。
ii 甲3発明1の「数平均分子量3,000のデカンジオール由来ポリカーボネートジオール(三菱化学(株)製、商品名「BENEBiOLTM NL3010DB」)」、「ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合グリコール((株)ADEKA製、商品名「アデカポリエーテルPR-3007」、数平均分子量:3,000、オキシエチレン基含有量:70質量%)」、「ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート」は、本件発明1の「ポリオール成分」、「1個以上の活性水素基を有し、かつアルキレンオキサイドを有する親水性アルキレンオキサイド成分」、「イソシアネート成分」にそれぞれ相当する。そして、甲3発明1の「水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物」中のポリウレタン樹脂粒子は、少なくとも「数平均分子量3,000のデカンジオール由来ポリカーボネートジオール(三菱化学(株)製、商品名「BENEBiOLTM NL3010DB」)」、「ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合グリコール((株)ADEKA製、商品名「アデカポリエーテルPR-3007」、数平均分子量:3,000、オキシエチレン基含有量:70質量%)」、「ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート」を反応させて得られたものだから、本件発明1の「ポリウレタン樹脂粒子が、ポリオール成分、イソシアネート成分、及び1個以上の活性水素基を有し、かつアルキレンオキサイドを有する親水性アルキレンオキサイド成分を含」むことに相当する。
iii 甲3発明1の「ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤」は、本件発明1の「界面活性剤」に相当する。
iv 甲3発明1の「水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物」中のポリウレタン樹脂粒子は、「数平均分子量3,000のデカンジオール由来ポリカーボネートジオール(三菱化学(株)製、商品名「BENEBiOLTM NL3010DB」)」78.1質量部、「ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合グリコール((株)ADEKA製、商品名「アデカポリエーテルPR-3007」、数平均分子量:3,000、オキシエチレン基含有量:70%)」1.2質量部、トリメチロールプロパン0.7質量部、1,4-ブタンジオール1.1質量部、「ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート」17.3質量部、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)0.02質量部、リン酸二水素ナトリウム0.5質量部、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤4.4質量部、ピペラジンの20%水溶液6.2質量部(樹脂分で1.24質量部)、ジエチレントリアミンの20%水溶液(樹脂分で0.38質量部)を含むものであることから、その合計は104.94重量部であり、該「ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合グリコール((株)ADEKA製、商品名「アデカポリエーテルPR-3007」、数平均分子量:3,000、オキシエチレン基含有量:70%)」の含有量が1.2質量部を含むものであることから、ポリウレタン樹脂粒子に対する、該「ポリオキシエチレンプロピレンランダム共重合グリコール(平均分子量3000、オキシエチレン基含有量70重量%)」の含有割合は、約1.1質量%となる。してみると、甲3発明1の「ポリオキシエチレンプロピレンランダム共重合グリコール(平均分子量3000、オキシエチレン基含有量70重量%)」は、ポリウレタン樹脂粒子中に約1.1質量%含有することになり、本件発明1の「親水性アルキレンオキサイド成分のポリウレタン樹脂粒子に対する含有量が1~25質量%であ」る点で重複一致する。
v 甲3発明1の「水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物」中のポリウレタン樹脂粒子の平均粒子径が0.8μmであるところ、甲3の段落【0061】には、得られたポリウレタン樹脂組成物についてレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて積算体積粒度分布を測定し、積算体積から50%となる粒径(メジアン径)を求め、これを平均粒子径d(50)とすることが記載されていることから、甲3発明1の「水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物」中のポリウレタン樹脂粒子の平均粒子径が0.8μmであることは、本件発明1の「ポリウレタン樹脂粒子の体積平均粒子径が0.3~5μmである」点で重複一致する。
vi 甲3発明1は、「分子量1,000の1,4-ブタンジオール/アジピン酸のポリエステル500部、トリメチロールプロパン14.7部、分子量1,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル40.8部と4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート256.8部をトルエン348部中で、NCO%が2.5%に達するまで80℃で反応させ末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得、このウレタンプレポリマーをポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=16)40.6部とポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=12)40.6部を溶解させた乳化剤水溶液894部と混合してホモミキサーで乳化分散させた後、無水ピペラジン26部を溶解させた鎖伸長剤水溶液260部を添加して鎖伸長を行わせ、次いで減圧下トルエンを留去して得られた固形分50%、平均粒子径1.5μm、感熱凝固温度62℃の水系ウレタン樹脂」に該当しない。
そうすると、本件発明1と甲3発明1とは、
「水中にポリウレタン樹脂粒子が分散してなるポリウレタン樹脂水分散体であって、
不揮発分を40質量%以上含有し、
界面活性剤を含み、
前記ポリウレタン樹脂粒子が、ポリオール成分、イソシアネート成分、及び1個以上の活性水素基を有し、かつアルキレンオキサイドを有する親水性アルキレンオキサイド成分を含み、
前記親水性アルキレンオキサイド成分のポリウレタン樹脂粒子に対する含有量が1~25質量%であり、
前記ポリウレタン樹脂粒子の体積平均粒子径が0.3~5μmである、ポリウレタン樹脂水分散体(ただし、分子量1,000の1,4-ブタンジオール/アジピン酸のポリエステル500部、トリメチロールプロパン14.7部、分子量1,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル40.8部と4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート256.8部をトルエン348部中で、NCO%が2.5%に達するまで80℃で反応させ末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得、このウレタンプレポリマーをポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=16)40.6部とポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=12)40.6部を溶解させた乳化剤水溶液894部と混合してホモミキサーで乳化分散させた後、無水ピペラジン26部を溶解させた鎖伸長剤水溶液260部を添加して鎖伸長を行わせ、次いで減圧下トルエンを留去して得られた固形分50%、平均粒子径1.5μm、感熱凝固温度62℃の水系ウレタン樹脂を除く。)。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点5>
不揮発分の含有量に関し、本件発明1は「40.3質量%以上」であるのに対し、甲3発明1は「40.0質量%」である点
<相違点6>
ポリウレタン樹脂粒子の平均粒子径について、本件発明1は「体積平均粒子径が0.3~5μm」であるのに対し、甲3発明1は「平均粒子径が0.8μm」である点
<相違点7>
ポリウレタン樹脂水分散体に関し、本件発明1は「有機溶媒存在下の反応により製造したポリウレタン樹脂を含む水分散体を除く。」ものであるのに対し、甲3発明1は「有機溶媒としてメチルエチルケトン下の反応により製造した」ものである点
(b)判断
<相違点5>から検討する。
i 甲3発明1の「ウレタンプレポリマー」は、不揮発分が40.0質量%であることから、<相違点5>は実質的な相違点である。
してみると、本件発明1と甲3発明1とには、実質的な相違点が存在することから、本件発明1は甲3発明1であるとはいえない。
ii ついで、<相違点5>の容易想到性について検討する。
甲3には、実施例1~14以外には、不揮発分の含有量に関する記載がなく、実施例1~14において、40.0質量%であることが開示されているだけである。
そうすると、甲3発明1の「ウレタンプレポリマー」において、不揮発分を「40.3質量%以上」に調整しようとすることは記載も示唆もされておらず、その動機付けがないものであるから、<相違点5>に係る構成は、当業者が容易に想到しうることでない。
以上から、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明1でないし、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
b 本件発明2~9について
本件発明2~9は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について述べたのと同じ理由により、本件発明2、3、5~9は、甲3発明1でないし、本件発明2~9は、甲3発明1に基づいて、当業者が容易に想到し得たことでない。
(イ)甲3発明2を引用発明とする場合
a 本件発明1について
(a)対比
本件発明1と甲3発明2と対比すると、実質的に上記(ア)a(a)と同様の相当関係を有するから、
本件発明1と甲3発明2とは、
「水中にポリウレタン樹脂粒子が分散してなるポリウレタン樹脂水分散体であって、
不揮発分を40質量%以上含有し、
界面活性剤を含み、
前記ポリウレタン樹脂粒子が、ポリオール成分、イソシアネート成分、及び1個以上の活性水素基を有し、かつアルキレンオキサイドを有する親水性アルキレンオキサイド成分を含み、
前記親水性アルキレンオキサイド成分のポリウレタン樹脂粒子に対する含有量が1~25質量%であり、
前記ポリウレタン樹脂粒子の体積平均粒子径が0.3~5μmである、ポリウレタン樹脂水分散体(ただし、分子量1,000の1,4-ブタンジオール/アジピン酸のポリエステル500部、トリメチロールプロパン14.7部、分子量1,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル40.8部と4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート256.8部をトルエン348部中で、NCO%が2.5%に達するまで80℃で反応させ末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得、このウレタンプレポリマーをポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=16)40.6部とポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=12)40.6部を溶解させた乳化剤水溶液894部と混合してホモミキサーで乳化分散させた後、無水ピペラジン26部を溶解させた鎖伸長剤水溶液260部を添加して鎖伸長を行わせ、次いで減圧下トルエンを留去して得られた固形分50%、平均粒子径1.5μm、感熱凝固温度62℃の水系ウレタン樹脂を除く。)。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点5’>
不揮発分の含有量に関し、本件発明1は「40.3質量%以上」であるのに対し、甲3発明2は「40.0質量%」である点
<相違点6’>
ポリウレタン樹脂粒子の平均粒子径について、本件発明1で「体積平均粒子径が0.3~5μm」であるのに対し、甲3発明2は「平均粒子径が0.7μm」である点
<相違点7’>
ポリウレタン樹脂水分散体に関し、本件発明1は「有機溶媒存在下の反応により製造したポリウレタン樹脂を含む水分散体を除く。」ものであるのに対し、甲3発明2は「有機溶媒としてメチルエチルケトン下の反応により製造した」ものである点
(b)判断
<相違点5’>から判断するも、上記(ア)a(b)と同様の理由により、<相違点5’>は実質的な相違点であるし、当業者が容易に想到しうることでない。
よって、本件発明1は、甲3発明2であるといえないし、甲3発明2、すなわち甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たことでない。
以上から、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明2でないし、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
b 本件発明2~9について
本件発明2~9は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について述べたのと同じ理由により、本件発明2、3、5~9は、甲3発明2でないし、本件発明2~9は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たことでない。
ウ 小括
上述のとおり、本件発明1~3、5~9は、甲3に記載された発明ではない。
また、本件発明1~9は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)申立理由4(サポート要件違反)
ア 本件発明の課題について
本件明細書の段落【0009】に記載されているように、「不揮発分の割合を40質量%以上としながら、分散安定性と製膜性とを満足させるポリウレタン樹脂水分散体を提供すること」を本件発明の課題をしている。
イ 判断
(ア)申立理由4アについて
a 申立人は、本件発明1において、「界面活性剤」の種類が限定されていないため、実施例で非反応性のノニオン界面活性剤であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルを用いた場合には本件発明の課題を解決できることが確認できたとしても、それ以外の界面活性剤であったときに、本件発明の課題を解決することが認識できない旨主張している。
そこで検討する。
本件明細書には、界面活性剤に関して、非反応性のノニオン性界面活性剤が挙げられること、上記ノニオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル等のグリコールエーテル、及びアセチレングリコール等が挙げられることが記載されている(【0044】)。
他方、本件発明の課題解決に関して、ポリウレタン樹脂粒子を構成する種々の成分のうち、特定のアルキレンオキサイドを有する親水性アルキレンオキサイド成分を所定量含有させることで上記課題を解決できること(【0010】)、ポリウレタン樹脂粒子の構成成分として、1個以上の活性水酸基を有し、かつアルキレンオキサイドを有する親水性アルキレンオキサイド成分(以下、単に「親水性アルキレンオキサイド成分」ということがある)を有することで、ポリウレタン樹脂粒子の体積平均粒子径が0.3~5μmという比較的大きな粒径でも、分散安定性と製膜性を満足させることができること(【0015】)、親水性アルキレンオキサイド成分は樹脂粒子の表面でそのアルキレンオキサイドによる立体障害効果を発揮し、大粒径の樹脂粒子が沈降してもアルキレンオキサイドによる粒子同士の反発により凝集が防がれ、良好な分散安定性が得られること(【0016】、【0028】)、親水性アルキレンオキサイド成分のポリウレタン樹脂粒子に対する含有量が1~25質量%であることで、分散安定性、製膜性、機械物性、水分散体の粘度に好適であること(【0037】)が記載されている。
さらに、実施例において、ポリオール、鎖伸張剤、親水性アルキレンオキサイド成分となる化合物、イソシアネートを反応して末端にNCO基を有するウレタンプレポリマーを得、これに界面活性剤を添加して撹拌した後、イオン交換水とジアミンの混合液を添加して乳化しつつ、高分子量化することで、PUD1~12のポリウレタン樹脂水分散体を得たこと、表1では、上記PUD1~12は、不揮発分を40.3質量%~56.0質量%有し、粒子分散安定性、クラック抑制に優れることが開示されている。
これらの本件明細書の一般的記載及び実施例によると、親水性アルキレンオキサイド成分を好適な含有量で有するウレタンプレポリマーとすることで、水分散体となったときに該親水性アルキレンオキサイド成分が立体障害効果と粒子同士の反発をもたらして、本件発明の課題を解決し得るものと解される。
そうすると、界面活性剤は、水分散体を製造する際に、乳化剤として機能するものであって、本件発明の課題を解決することに直接関与しているとまではいえないから、該界面活性剤の種類について特定することは要さないといえる。
さらに、申立人は、界面活性剤の種類により本件発明の課題を解決できない可能性のあることを述べるのとどまり、具体的な根拠を提示して、本件発明の課題が解決できないことを立証しているわけではない。
よって、当該主張は採用できない。
(イ)申立理由4イについて
申立人は、本件発明1において、「親水性アルキレンオキサイド成分」が有する「アルキレンオキサイド」については限定されておらず、本件発明の課題を解決するものとして具体的に示されたのは炭素数が2のエチレンオキサイドを用いた場合のみであり、それ以外のアルキレンオキサイドであったとしても、本件発明の課題を解決することが認識できない旨主張している。
そこで検討する。
本件明細書には、上記(ア)における摘記事項に加えて、アルキレンオキサイドが親水性を示す親水基となり、ポリウレタン樹脂粒子の水分散性に寄与すること、このアルキレンオキサイドの炭素数は例えば2~12が好ましく、具体的には、エチレンオキサイド、1,2-又は1,3-プロピレンオキサイド、1,2-、2,3-又は1,3-ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、3-メチルテトラヒドロフラン、α-オレフィンオキサイド、スチレンオキサイド及びエピハロヒドリン(エピクロルヒドリン等)等が挙げられること、なかでも、アルキレンオキサイドとしてエチレンオキサイドを含むことが好ましいこと(【0030】)が記載されている。
これらの記載によると、「親水性アルキレンオキサイド成分」は、水分散体中での立体障害効果と粒子同士の反発をもたらすように、好適な炭素数の、つまり炭素数2~12のアルキレンオキサイドであることが理解できる。
そうすると、好適な炭素数を有するアルキレンオキサイドであれば、適度な親水性を有して、水中で立体障害効果と粒子同士の反発をもたらすと解されるから、エチレンオキサイドに限定されるものではなく、それ以外であっても、エチレンオキサイドと同様に機能すると認められる。
そして、申立人は、エチレンオキサイド以外の「親水性アルキレンオキサイド成分」であると本件発明の課題を解決できない可能性のあることを述べるのとどまり、具体的な根拠を提示して、本件発明の課題が解決できないことを立証しているわけではない。
よって、当該主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、本件特許に対する訂正は適法であるから、これを認める。
そして、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700048