特許異議申立
2023-700033
ビール風味発酵アルコール飲料およびその製法
- 審判番号
- 2023-700033
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-235793
- 登録番号
- 7100573
- 請求日
- 2023年01月13日
- 審決日
- 2023年07月07日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】キリンホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
- 【権利者代理人】横田 修孝
- 【権利者代理人】榎 保孝
- 【権利者代理人】大森 未知子
- 【権利者代理人】赤羽 桃子
- 【権利者代理人】内山 尚和
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-Y (C12C) / P1651.121-Y (C12C) / P1651.537-Y (C12C) / P1651.536-Y (C12C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7100573号発明「ビール風味発酵アルコール飲料およびその製法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7100573号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7100573号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成30年12月17日の出願であって、令和4年7月5日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年同月13日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和5年1月13日に特許異議申立人 中川 賢治(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし9)がされ、同年3月20日付けで取消理由が通知され、同年5月22日に特許権者 キリンホールディングス株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出され、同年6月5日付けで特許異議申立人に対し審尋がされ、同年同月22日に特許異議申立人から回答書が提出されたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
麦芽使用比率が50%以上であるビール風味発酵アルコール飲料であって、該飲料が酢酸、酢酸エチルおよび酢酸イソアミルを含み、飲料中の酢酸の濃度が40~120mg/Lであり、飲料中の酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度の合計が7~30mg/Lであり、飲料中の糖質の濃度が0.5g/100mL未満である、ビール風味発酵アルコール飲料。
【請求項2】
飲料中の酢酸の濃度が60~120mg/Lである、請求項1に記載のビール風味発酵アルコール飲料。
【請求項3】
飲料中の酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度の合計が10~30mg/Lである、請求項1または2に記載のビール風味発酵アルコール飲料。
【請求項4】
麦芽使用比率が50%以上であるビール風味発酵アルコール飲料を製造する方法であって、該飲料が酢酸、酢酸エチルおよび酢酸イソアミルを含み、飲料中の酢酸の濃度が40~120mg/Lに調整され、飲料中の酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度の合計が7~30mg/Lに調整され、飲料中の糖質の濃度が0.5g/100mL未満に調整される、方法。
【請求項5】
飲料中の酢酸の濃度が60~120mg/Lに調整される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
飲料中の酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度の合計が10~30mg/Lに調整される、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
麦芽使用比率が50%以上であるビール風味発酵アルコール飲料に、味の厚みを付与するとともに酸味の突出による香味の不調和を低減する方法であって、該飲料が酢酸、酢酸エチルおよび酢酸イソアミルを含み、飲料中の酢酸の濃度が40~120mg/Lに調整され、飲料中の酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度の合計が7~30mg/Lに調整され、飲料中の糖質の濃度が0.5g/100mL未満に調整される、方法。
【請求項8】
飲料中の酢酸の濃度が60~120mg/Lに調整される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
飲料中の酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度の合計が10~30mg/Lに調整される、請求項7または8に記載の方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年1月13日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第7号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第7号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)ビールらしい香味バランスを良好にするためには、酢酸エチルと酢酸イソアミルのそれぞれに適切な濃度範囲があることが、本件特許の出願時の技術常識である。にもかかわらず、本件特許の発明の詳細な説明の実施例において、本件特許発明1ないし9の効果である味の厚み増強や酸味と突出抑制の効果が得られることが確認されているのは、酢酸エチル濃度と酢酸イソアミル濃度の組み合わせが、(酢酸エチル濃度、酢酸イソアミル濃度)=(3.0mg/L、0.4mg/L)、(6.2mg/L、0.8mg/L)、(17.6mg/L、2.4mg/L)、(26.5mg/L、3.5mg/L)及び(30.9mg/L、4.1mg/L)の5態様のみであり、本件特許の発明の詳細な説明の記載からは、実施例とは全く異なる濃度の組み合わせの場合に本件特許発明1ないし9の効果が奏されるか不明である。
(2)本件特許の発明の詳細な説明の実施例には、麦芽使用比率が10%程度の低糖質(糖質濃度が0.4g/100mL)ビール風味発酵アルコール飲料について、実際に酢酸、酢酸イソアミル、及び酢酸エチルを添加した場合に本件特許発明1ないし9の効果を確認しているのみであり、本件特許の発明の詳細な説明の記載からは、麦芽使用比率50%以上のビール風味発酵アルコール飲料について本件特許発明1ないし9の効果が奏されるか不明である。
(3)したがって、本件特許発明1ないし9は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明ではない。
4 申立理由4(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・上記3(1)及び(2)の点で、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし9の全範囲において当業者が実施できるように記載されていない。
5 証拠方法
甲第1号証:「BRAUINDUSTRIE」、第69巻、13号、Verlag W. Sachon GmbH 1984年、第982~第988ページ
甲第2号証:ビール純粋令、2021年3月18日掲載、[on line]、フリー百科事典「ウィキペディア」、〔2022年12月29日検索〕、インターネット、<URL:https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=ビール純粋令&oldid=82513334>
甲第3号証:炭水化物/糖質、e-ヘルスネット、2019年6月14日掲載、[on line]、厚生労働省、〔2022年12月27日検索〕、インターネット、<URL:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-018.html>
甲第4号証:吉田重厚、「英独和ビール用語辞典」、財団法人日本醸造協会、平成16年2月15日発行、第164~第165ページ
甲第5号証:国際公開第2009/051127号
甲第6号証:「麒麟ZERO(キリンゼロ)」の新発売に関するニュースリリース、2007年12月5日公開、[on line]、キリンビール株式会社、〔2022年2月28日検索〕、インターネット、<URL:https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2007/1205b_01.html>
甲第7号証:特開2009-131202号公報
甲第8号証:特開2017-216891号公報
甲第9号証:高橋豊三、「★醸造物の機能性★ ビールの機能性-I.風味と香り(1)」、日本醸造協会誌、第95巻、第1号、公益財団法人日本醸造協会、2000年、第29~35ページ、<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/95/1/95_1_29/_article/-char/ja/><DOI:https://doi.org/10.6013/jbrewsocjapan1988.95.29>
甲第10号証:宮地秀夫、「ビール醸造技術」、株式会社食品産業新聞社、1999年12月28日発行、第101~102ページ
甲第11-1号証:吉田重厚、「第1章 ビールの一般成分」、日本醸造協会雑誌、第71巻、第7号、公益財団法人日本醸造協会 1976年、第505~510ページ、<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/71/7/71_7_505/_article/-char/ja/><DOI:https://doi.org/10.6013/jbrewsocjapan1915.71.505>
甲第11-2号証:中路和子・渡邊智子、“ビール・新ジャンルビール・発泡酒・ノンアルコールビール 比較表【アルコール%・エネルギー kcal/350ml・糖質 g/350ml】”、2015年4月公開、[on line]、我孫子市、〔2022年12月29日検索〕、インターネット、<URL:https://www.city.abiko.chiba.jp/shisei/keikauhoushin/kenkofukushi/dai2kokoro_karada.files/beer.pdf>
甲第12号証:特開2018-186776号公報
甲第13号証:特開2018-186773号公報
甲第14号証:今堀和友ら(監修)、「生化学辞典 第4版」、2007年12月10日、株式会社東京化学同人、第759~760ページ
甲第15号証:財団法人日本醸造協会、「醸造物の成分」、平成11年12月10日、第191~195ページ
甲第16号証:日本バイオコン株式会社、「β-グルカン分析法(β-1,3:-1,6酵母キノコ型)」2021年、[on line]〔2023年 6月13日検索〕、インターネット<URL:http://www.biocon.co.jp/products/pdf/K-YBGL%20(0221).pdf >第1~9ページ
甲第17-1号証:キリンホールディングス株式会社、「「キリン一番搾り 糖質ゼロ」、10月6日(火)新発売!」、2020年8月27日、[on line]〔2023年6月13日検索〕インターネット<URL:https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2020/0827_01.html>第1~2ページ
甲第17-2号証:キリンホールディングス株式会社、「「キリン一番搾り 糖質ゼロ」大刷新して新発売」、2022年6月29日、[on line]〔2023年6月13日検索〕インターネット<URL:https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2022/0629_01.html>第1~3ページ
甲第14ないし17-2号証は、令和5年6月22日に提出された回答書に添付されたものである。また、証拠の表記は、特許異議申立書及び上記回答書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 取消理由の概要
令和5年3月20日付けで通知された取消理由の概要は次のとおりである。なお、該取消理由は申立理由1とおおむね同旨である。
・取消理由(甲1に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第5 取消理由(甲1に基づく新規性・進歩性)についての当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1は、本件特許の出願前である1984年に発行された刊行物であって、当該刊行物の発行当時にドイツで上市されていた各種ダイエットビールの組成分析の結果が報告されているものであり、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲1は、外国語文献のため、必要箇所の訳文のみを摘記した。また、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。
・「26.ドイツのダイエットビール
[図:0001400489000001.jpg]
」(第984及び985ページ)
・「ビール番号251 マイゼルのエーデルホップダイエットピルスナー
・・・(略)・・・
100mLのダイエットピルスナーには、0.6gの負荷となる炭水化物が含まれている。」(第986ページ左欄第1ないし15行)
・「ビール番号255 プライベートダイエットピルス
・・・(略)・・・
100mLのダイエットピルスには、0.6gの負荷となる炭水化物が含まれている。」(第987ページ左欄第20行ないし中欄第7行)
・「ビール番号259 ウィックラーD-ピルス
・・・(略)・・・
100mLのD-ピルスには、平均0.65gの消化可能な炭水化物が含まれている。」(第988ページ右欄第24ないし37行)
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を整理すると、次の表のようになる。
[図:0001400489000002.jpg]
これを踏まえて、甲1に記載された事項を、特にNo.255のダイエットビールに関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1-No.255発明」及び「甲1-No.255製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1-No.255発明>
「ダイエットビールであって、
該飲料が酢酸、酢酸エチルおよび酢酸イソアミルを含み、
飲料中の酢酸の濃度が100mg/Lであり、
飲料中の酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度の合計が18.4mg/Lである、ダイエットビール。」
<甲1-No.255製法発明>
「ダイエットビールを製造する方法であって、
該飲料が酢酸、酢酸エチルおよび酢酸イソアミルを含み、
飲料中の酢酸の濃度が100mg/Lに調整され、
飲料中の酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度の合計が18.4mg/Lに調整される、方法。」
(2)甲3に記載された事項
甲3は、厚生労働省による生活習慣病予防のための健康情報サイトの「炭水化物/糖質」に関する項目のホームページであり、おおむね次の事項が記載されている。
・「炭水化物は炭素と水素の化合物で、たんぱく質、脂質と並ぶエネルギー産生栄養素のひとつです。食物として体内に取り入れられエネルギー源となる糖質と、体内の消化酵素では消化できない食物繊維があり、糖質は単糖類、少糖類、多糖類に分類されます。」(第1ページ第5ないし8行)
2 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲1-No.255発明を対比する。
本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0009】によると、本件特許発明1における「ビール風味発酵飲料」は「ビール(麦芽およびホップを原料として用い、ビール酵母による発酵によって得られるアルコール飲料)」又は「ビールと同様の風味を有する発酵アルコール飲料」であるから、甲1-No.255発明における「ダイエットビール」は本件特許発明1における「ビール風味発酵飲料」に相当する。
甲1-No.255発明における「飲料中の酢酸の濃度」は「100mg/L」であるから、甲1-No.255発明は本件特許発明1の「飲料中の酢酸の濃度が40~120mg/Lであり」という条件を満たす。
甲1-No.255発明における「飲料中の酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度の合計」は「18.4mg/L」であるから、甲1-No.255発明は本件特許発明1の「飲料中の酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度の合計が7~30mg/Lである」という条件を満たす。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ビール風味発酵アルコール飲料であって、該飲料が酢酸、酢酸エチルおよび酢酸イソアミルを含み、飲料中の酢酸の濃度が40~120mg/Lであり、飲料中の酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度の合計が7~30mg/Lである、ビール風味発酵アルコール飲料。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-1a>
本件特許発明1においては、「麦芽使用比率が50%以上である」と特定されているのに対して、甲1-No.255発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点1-1b>
本件特許発明1においては、「飲料中の糖質の濃度が0.5g/100mL未満である」と特定されているのに対して、甲1-No.255発明においては、そのようには特定されていない点。
(2)判断
事案に鑑み、相違点1-1bについて検討する。
甲3によると、炭水化物は糖質と食物繊維の合計量である。
そして、甲1には、No.255のダイエットビールに関して、「100mLのダイエットピルスには、0.6gの負荷となる炭水化物が含まれている。」と記載されており、「負荷となる」という記載がある以上、「0.6gの負荷となる炭水化物」は、単なる「炭水化物」ではなく、「負荷」とならない「炭水化物」、すなわち「食物繊維」が除かれた「炭水化物」であると当業者は理解する。
そうすると、甲1-No.255発明の「糖質の濃度」は「0.6g/100mL」であるといえ、「0.5g/100mL未満」であるとはいえない。
したがって、相違点1-1bは実質的な相違点である。
なお、特許異議申立人は、令和5年6月22日に提出された回答書において、特許権者から同年5月22日に提出された意見書に添付された乙第1号証(D-グルコース測定キットの添付文書(D-Glucose UV-method for the determination of D-glucose in foodstuffs and other materials,Cat.No.10 716 251 035)、BOEHRINGER MANNHEIM/R-BIOPHARM社、検索・出力:2023年5月22日、公開URL:https://staging.r-biopharm.com/wp-content/uploads/2012/06/roche_ifu_glucose_en_10716251035_2017-11.pdf)によれば、ダイエットビール中の「belastende Kohlenhydrate(負荷となる炭水化物)」は、「酸加水分解後の総D-グルコース」を意味しており、酸加水分解の測定方法から、測定される炭水化物には食物繊維が含まれており、本件特許権者の主張は失当であり、甲1-No.255発明に含まれている「belastende kohlenhydrate(負荷となる炭水化物)」には、食物繊維も含まれている旨主張する(上記回答書第8及び9ページ)が、乙第1号証に記載されたものに食物繊維が含まれているかどうかは、甲1のNo.255のダイエットビールに関する「100mLのダイエットピルスには、0.6gの負荷となる炭水化物が含まれている。」という記載の理解とは関係がなく、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
また、甲1-No.255発明において、「十分な味の厚みを実現するとともに、酸味の突出による香味の不調和を低減する」ために、「糖質の濃度」を低下させて、相違点1-1bに係る本件特許発明1の発明特定事項とする動機付けとなる記載は甲1にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1-No.255発明において、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1-1bに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「低糖質」の「ビール風味発酵アルコール飲料において、十分な味の厚みを実現するとともに、酸味の突出による香味の不調和を低減することが可能となる。」(発明の詳細な説明の【0007】)という効果は、甲1-No.255発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
なお、特許異議申立人は、上記回答書において、甲1-No.255発明の糖質を低減させることは当業者にとって自明なことであり、そのような動機付けがあるといえる旨主張し(上記回答書第10ページ)、本件特許発明の効果は、市販のダイエットビールで既に達成されている程度の効果に過ぎず、格別な効果とはいえない旨主張する(上記回答書第11ページ)が、「十分な味の厚みを実現するとともに、酸味の突出による香味の不調和を低減する」ために、「糖質の濃度」を低下させることは、当業者にとって自明なことではないし、「低糖質」の「ビール風味発酵アルコール飲料において、十分な味の厚みを実現するとともに、酸味の突出による香味の不調和を低減することが可能となる。」ことを予測させるような記載は、甲1を含めいずれの証拠にもないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(3)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1-No.255発明であるとはいえないし、甲1-No.255発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
3 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1-No.255発明であるとはいえないし、甲1-No.255発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
4 本件特許発明4について
(1)対比
本件特許発明4と甲1-No.255製法発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明1と甲1-No.255発明の間と同様の相当関係が成り立つから、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ビール風味発酵アルコール飲料を製造する方法であって、該飲料が酢酸、酢酸エチルおよび酢酸イソアミルを含み、飲料中の酢酸の濃度が40~120mg/Lに調整され、飲料中の酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度の合計が7~30mg/Lに調整される、方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-4a>
本件特許発明4においては、「麦芽使用比率が50%以上である」と特定されているのに対して、甲1-No.255製法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点1-4b>
本件特許発明4においては、「飲料中の糖質の濃度が0.5g/100mL未満に調整される」と特定されているのに対して、甲1-No.255製法発明においては、そのようには特定されていない点。
(2)判断
相違点1-4a及び1-4bは、それぞれ、相違点1-1a及び1-1bと実質的に同じであるところ、相違点1-4bは上記2(2)と、同様に判断される。
すなわち、相違点1-4bは実質的な相違点である。
また、甲1-No.255製法発明において、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1-4bに係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明4の奏する「低糖質」の「ビール風味発酵アルコール飲料において、十分な味の厚みを実現するとともに、酸味の突出による香味の不調和を低減することが可能となる。」という効果は、甲1-No.255製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明4の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
(3)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は甲1-No.255製法発明であるとはいえないし、甲1-No.255製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
5 本件特許発明5及び6について
本件特許発明5及び6は、請求項4を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明4の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明4と同様に、甲1-No.255製法発明であるとはいえないし、甲1-No.255製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
6 No.251又は259として記載されたダイエットビールから甲1に記載された発明を認定した場合
甲1に記載された発明として、No.251又は259として記載されたダイエットビールから発明を認定して、本件特許発明1ないし6と対比・判断した場合も上記1ないし5と同様に判断される。
すなわち、本件特許発明1ないし6は、No.251又は259として記載されたダイエットビールから認定された発明であるとはいえないし、No.251又は259として記載されたダイエットビールから認定された発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
7 取消理由についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし6は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由によっては取り消すことはできない。
第6 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由について
取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由は、申立理由2(甲7に基づく進歩性)、申立理由3(サポート要件)及び申立理由4(実施可能要件)である。
そこで、検討する。
1 申立理由2(甲7に基づく進歩性)について
(1)甲7に記載された事項等
ア 甲7に記載された事項
甲7には、「低糖質ビール風味アルコール飲料の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は予め付されたものと当審で付したものがある。
・「【背景技術】
【0002】
メタボリックシンドロームに代表される生活習慣病に対する関心の高まりから、その予防や改善に対する食品への関心は年々高まっており、ビール風味アルコール飲料でもカロリーや糖質を抑えた商品が数多く市販されている。
【0003】
低糖質のビール風味アルコール飲料は、発酵前液中の糖源のほとんどを資化性糖質にして製造しているのが一般的である。しかし、資化性糖質でもグルコースの比率を極端に高めると発酵中の酵母の死滅率が増大してしまう現象が認められていた。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、醸造中の酵母の死滅率を抑制するとともに、味質・風味のバランスに優れた低糖質ビール風味アルコール飲料とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ビールや発泡酒などのビール風味アルコール飲料の製造において、グルコースやフルクトースといった資化性単糖類と、資化性二糖類であるスクロースを糖源として発酵前液に添加することにより、低糖質ビール風味アルコール飲料の製造でありながら、酵母の活性を高く保持するとともに、味質・風味のバランスが格別に優れた低糖質ビール風味アルコール飲料を安定的に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、単糖類と二糖類とから本質的になる糖化液を糖源として発酵前液に添加して発酵を行うことを特徴とする、ビール風味アルコール飲料の製造方法である。」
・「【0037】
実施例3:グルコースとスクロースの比率を変えた、麦芽を使用するビール風味アルコール飲料(発泡酒)の製造
表5に記載された組成に従って発酵前液(麦芽比率が全原料のうち10%の割合)を準備し、次いで10~18℃で10日間主発酵(下面発酵)を行い、得られた発酵液からろ過で酵母を取り除いて、麦芽を使用するビール風味アルコール飲料を製造した。得られたビール風味アルコール飲料の分析結果と官能評価結果は表5に記載される通りであった。
【表5】
[図:0001400489000003.jpg]
」
イ 甲7に記載された発明
甲7に記載された事項を、特に実施例3のNo.15に関して整理すると、甲7には、次の発明(以下、順に「甲7発明」及び「甲7製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲7発明>
「麦芽使用比率が10%である発酵させて得られるビール風味アルコール飲料であって、
該飲料が酢酸および酢酸イソアミルを含み、
飲料中の酢酸の濃度が76mg/Lであり、
飲料中の酢酸イソアミルの濃度が1.9mg/Lであり、
飲料中の残糖質の濃度が0.37g/100mLである、ビール風味アルコール飲料。」
<甲7製法発明>
「麦芽使用比率が10%である発酵させて得られるビール風味アルコール飲料を製造する方法であって、
該飲料が酢酸および酢酸イソアミルを含み、
飲料中の酢酸の濃度が76mg/Lに調整され、
飲料中の酢酸イソアミルの濃度が1.9mg/Lに調整され、
飲料中の残糖質の濃度が0.37g/100mLに調整される、方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲7発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ビール風味発酵アルコール飲料であって、該飲料が酢酸および酢酸イソアミルを含み、飲料中の酢酸の濃度が40~120mg/Lであり、飲料中の糖質の濃度が0.5g/100mL未満である、ビール風味発酵アルコール飲料。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点7-1a>
本件特許発明1においては、「麦芽使用比率が50%以上である」と特定されているのに対して、甲7発明においては、「麦芽使用比率が10%である」と特定されている点。
<相違点7-1b>
本件特許発明1においては、「酢酸エチル」を「含み」と特定されているのに対して、甲7発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点7-1c>
本件特許発明1においては、「飲料中の酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度の合計が7~30mg/Lであり」と特定されているのに対して、甲7発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点7-1aについて検討する。
甲7発明において、「麦芽使用比率」を高めて、相違点7-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項とする動機付けとなる記載は甲7にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲7発明において、甲7及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点7-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「ビール風味発酵アルコール飲料において、十分な味の厚みを実現するとともに、酸味の突出による香味の不調和を低減することが可能となる。」という効果は、甲7発明並びに甲7及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、「低糖質のビール風味発酵アルコール飲料では、多くの場合、飲料自体の濃度が通常のビールよりも薄いことが多く、しばしばボディー感や香味が不十分である(記載事項5-1)。この不足するボディー感等を補うために、麦芽使用比率を比較的高めにすることは、当業者が通常行う設計事項に過ぎない。
実際に、本願出願時点においては、各種酵素を使用することにより、麦芽使用比率が50%以上でも低糖質(例えば糖質0.5g/100mL未満)のビール風味発酵アルコール飲料を製造できることが一般的に知られていた(記載事項12-1、記載事項12-3、記載事項13-1、記載事項13-3)。また、甲第1号証に記載されているように、麦芽使用比率100%の低糖質のダイエットビールも既に広く上市されていた。
このように、麦芽使用比率50%以上の糖質0.5g/100mL未満のビール風味発酵アルコール飲料を製造することは、本件特許の出願時において一般的に行われていた周知技術を適用することで容易になし得るものであり、甲7-1発明において、麦芽使用比率を50%以上とすることは、当業者が通常行う設計事項に過ぎず、相違点7-1及び相違点7-5によっては本件発明の進歩性は認められるべきではない。」(特許異議申立書第42ページ)旨主張する(当審注:「相違点7-1」は「相違点7-1a」のことである。)。
そこで、該主張について検討するに、「麦芽使用比率が50%以上でも低糖質(例えば糖質0.5g/100mL未満)のビール風味発酵アルコール飲料を製造できることが一般的に知られていた」としても、直ちには、甲7発明において、「麦芽使用比率」を高める動機付けとはならないし、「ビール風味発酵アルコール飲料において、十分な味の厚みを実現するとともに、酸味の突出による香味の不調和を低減することが可能となる。」という効果は予測できない。
したがって、甲7発明において、「麦芽使用比率を50%以上とすることは、当業者が通常行う設計事項に過ぎ」ないとはいえず、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲7発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲7発明並びに甲7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明4について
ア 対比
本件特許発明4と甲7製法発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ビール風味発酵アルコール飲料を製造する方法であって、該飲料が酢酸および酢酸イソアミルを含み、飲料中の酢酸の濃度が40~120mg/Lに調整され、飲料中の糖質の濃度が0.5g/100mL未満に調整される、方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点7-4a>
本件特許発明4においては、「麦芽使用比率が50%以上である」と特定されているのに対して、甲7製法発明においては、「麦芽使用比率が10%である」と特定されている点。
<相違点7-4b>
本件特許発明4においては、「酢酸エチル」「を含み」と特定されているのに対して、甲7製法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点7-4c>
本件特許発明4においては、「飲料中の酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度の合計が7~30mg/Lに調整され」と特定されているのに対して、甲7製法発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点7-4aないし7-4cはそれぞれ相違点7-1aないし7-1cと実質的に同じであるところ、相違点7-4aは上記(2)イと、同様に判断される。
すなわち、甲7製法発明において、甲7及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点7-4aに係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明4の奏する「ビール風味発酵アルコール飲料において、十分な味の厚みを実現するとともに、酸味の突出による香味の不調和を低減することが可能となる。」という効果は、甲7製法発明並びに甲7及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明4の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は甲7製法発明並びに甲7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明5及び6について
本件特許発明5及び6は、請求項4を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明4の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明4と同様に、甲7製法発明並びに甲7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件特許発明7ないし9について
甲7には、「醸造中の酵母の死滅率を抑制するとともに、味質・風味のバランスに優れた低糖質ビール風味アルコール飲料とその製造方法を提供することを目的とする」(甲7の【0007】)と記載されているが、「糖質を低減したビールおよびビール系飲料は、水っぽくうすい味となるため、飲み応えに乏しいという問題」があることは記載されておらず、当然上記問題を解決するために、「味の厚みを付与すること」及び「酸味の突出による香味の不調和を低減すること」も記載されていないから、甲7に記載された事項から、本件特許発明7ないし9と対比・判断可能な「味の厚みを付与するとともに酸味の突出による香味の不調和を低減する方法」の発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明7ないし9は、甲7に記載された発明並びに甲7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
2 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
発明の詳細な説明の【0002】、【0003】及び【0005】によると、本件特許発明1ないし3の解決しようとする課題は「十分な味の厚みを有するとともに、酸味の突出による香味の不調和が低減されたビール風味発酵アルコール飲料を提供すること」であり、本件特許発明4ないし6の解決しようとする課題は「十分な味の厚みを有するとともに、酸味の突出による香味の不調和が低減されたビール風味発酵アルコール飲料の製法を提供すること」であり、本件特許発明7ないし9の解決しようとする課題は「味の厚みを付与するとともに、酸味の突出による香味の不調和を低減する方法を提供すること」である(以下、総称して「発明の課題」という。)。
発明の詳細な説明の【0006】には本件特許発明1ないし9に対応する記載がある。
発明の詳細な説明の【0004】には「酢酸とエステルのバランスによって、味の厚みや香味の調和に影響する傾向が見られた。そして、この酢酸とエステルのバランスが香味印象に影響を与えるものと考えられた。」及び「ビール風味発酵アルコール飲料において、酢酸濃度、および酢酸エチルと酢酸イソアミルをあわせた濃度を所定の範囲に調整することにより、十分な味の厚みを付与するとともに、酸味の突出による香味の不調和を抑制することができることを見出した。」と記載され、同【0009】には「本発明のビール風味発酵アルコール飲料は、好ましくは麦芽使用比率50%以上の発酵麦芽飲料である。」と記載され、同【0010】には「本発明のビール風味発酵アルコール飲料中の酢酸濃度は、20~120mg/L、好ましくは40~120mg/L、さらに好ましくは60~120mg/L、さらに好ましくは80~120mg/Lとされる。」と記載され、同【0012】には「本発明のビール風味発酵アルコール飲料中の酢酸エチル濃度と酢酸イソアミル濃度の合計は、7~30mg/L、好ましくは10~30mg/L、より好ましくは20~30mg/Lとされる。」と記載され、同【0015】には「十分な味の厚みを実現するとともに、酸味の突出による香味の不調和を低減するという本発明の効果は、低糖質のビール風味発酵アルコール飲料において特に顕著である。・・・(略)・・・このような低糖質のビール風味発酵アルコール飲料における具体的な糖質濃度の数値は特に限定されるものではないが、例えば、1.5g/100mL以下、好ましくは1.5g/100mL未満、より好ましくは0.5g/100mL以下、さらに好ましくは0.5g/100mL未満とすることができる。」と記載され、同【0020】には「本発明のビール風味発酵アルコール飲料は、酢酸、酢酸エチルおよび酢酸イソアミルの濃度調整以外は、通常のビール風味発酵アルコール飲料の製造方法に従って製造することができる。」と記載され、同【0023】には「ビール風味発酵アルコール飲料に、味の厚みを付与するとともに酸味の突出による香味の不調和を低減する方法が提供され、該方法では、飲料中の酢酸の濃度が20~120mg/Lに調整され、飲料中の酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度の合計が7~30mg/Lに調整される。」と記載されている。
そして、発明の詳細な説明の【0024】ないし【0031】において、飲料中の酢酸の濃度が20~120mg/L及び飲料中の酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度の合計が7~30mg/Lの条件を満たす試験区7ないし9、12ないし14及び17ないし19が、上記条件を満たさない試験区1ないし6、10、11、15、16及び20ないし25と比較して、「十分な味の厚みが感じられ、かつ、酸味の突出による香味の不調和が十分に低減されていた」こと及び「エステル香が強すぎるために明らかに香味バランスを欠く」ものではないことを確認している。
そうすると、当業者は、「低糖質のビール風味発酵アルコール飲料であって、該飲料が酢酸、酢酸エチルおよび酢酸イソアミルを含み、飲料中の酢酸の濃度が20~120mg/Lであり、飲料中の酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度の合計が7~30mg/Lである、ビール風味発酵アルコール飲料」、その製造方法及び「低糖質のビール風味発酵アルコール飲料に、味の厚みを付与するとともに酸味の突出による香味の不調和を低減する方法であって、該飲料が酢酸、酢酸エチルおよび酢酸イソアミルを含み、飲料中の酢酸の濃度が20~120mg/Lに調整され、飲料中の酢酸エチルの濃度と酢酸イソアミルの濃度の合計が7~30mg/Lに調整される、方法。」は発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし3は、上記発明の課題を解決できると認識できる「低糖質のビール風味発酵アルコール飲料」をさらに限定したものであり、本件特許発明4ないし6は、上記発明の課題を解決できると認識できる「低糖質のビール風味発酵アルコール飲料」の「製造方法」をさらに限定したものであり、本件特許発明7ないし9は上記発明の課題を解決できると認識できる「低糖質のビール風味発酵アルコール飲料に、味の厚みを付与するとともに酸味の突出による香味の不調和を低減する方法」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし9は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1ないし9に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 3(1)及び(2)の主張について検討する。
ア 上記第3 3(1)の主張について
発明の詳細な説明の実施例において、本件特許発明1ないし9の効果である味の厚み増強や酸味と突出抑制の効果が得られることが確認されているのは、酢酸エチル濃度と酢酸イソアミル濃度の組み合わせが、(酢酸エチル濃度、酢酸イソアミル濃度)=(3.0mg/L、0.4mg/L)、(6.2mg/L、0.8mg/L)、(17.6mg/L、2.4mg/L)、(26.5mg/L、3.5mg/L)及び(30.9mg/L、4.1mg/L)の5態様のみであったとしても、当業者であれば、他の態様でも類似の挙動を示すと考えるし、そうでないとする具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、実施例とは全く異なる濃度の組み合わせの場合に本件特許発明1ないし9の効果が奏されるか不明であるとはいえず、上記第3 3(1)の主張は採用できない。
イ 上記第3 3(2)の主張について
発明の詳細な説明の【0026】の記載によると、希釈されているとしても、実施例の麦芽使用比率は100%であって、麦芽使用比率が10%程度のものではないから、上記第3 3(2)の主張は、その前提から誤っており、採用できない。
(4)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
3 申立理由4(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明1ないし3は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
本件特許発明4ないし6は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、その方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
本件特許発明7ないし9は方法の発明であるところ、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし9の各発明特定事項について、具体的に記載されている。
また、発明の詳細な説明の【0008】には、酢酸濃度、酢酸エチル濃度及び酢酸イソアミル濃度の調整方法が記載され、同【0020】には、酢酸濃度、酢酸エチル濃度及び酢酸イソアミルの濃度の調整以外は、通常のビール風味発酵アルコール飲料の製造方法に従って製造することができることが記載されている。
そして、発明の詳細な説明の【0025】ないし【0031】には、実施例についてその製造方法を含め具体的に記載されている。
すなわち、発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし9の各発明特定事項について具体的に記載され、製造方法に関する一般的な記載もあり、実施例についてもその製造方法を含め具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし3を生産し、使用をすることができる程度の記載があるといえるし、本件特許発明4ないし6の使用をし、その方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえるし、本件特許発明7ないし9の使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし9に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 4の主張について検討するに、上記2(3)のとおりであるから、上記第3 4の主張は採用できない。
(4)申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4によっては取り消すことはできない。
第7 結語
上記第5及び6のとおり、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700033