特許異議申立
2023-700009
X線管、X線発生装置、及び窓部材の製造方法
- 審判番号
- 2023-700009
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-104652
- 登録番号
- 7097480
- 請求日
- 2023年01月06日
- 審決日
- 2023年09月07日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】浜松ホトニクス株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】和田 雄二
- 【権利者代理人】柴山 健一
- 【異議申立人】佐野 作兵衛
- 審判長/審判官
- 審判長 山村 浩
- 審判官 吉野 三寛
- 審判官 野村 伸雄
- 分類
- P1651.537-YAA(H01J) / P1651.113-YAA(H01J) / P1651.121-YAA(H01J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7097480号発明「X線管、X線発生装置、及び窓部材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7097480号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕及び〔10~12〕について訂正することを認める。
特許第7097480号の請求項2~9、11及び12に係る特許を維持する。
特許第7097480号の請求項1及び10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7097480号(以下「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、令和3年6月24日の出願であって、令和4年6月29日にその特許権の設定登録がされ、令和4年7月7日に特許掲載公報が発行された。
その後の本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年1月 6日 :特許異議申立人佐野作兵衛(以下、単に「申立 人」という。)による特許異議の申立て
同年3月27日付け:取消理由通知書
同年5月12日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以下、
この訂正請求書による訂正を「本件訂正」とい
う。)の提出
同年6月22日 :申立人による上申書の提出
なお、本件訂正は、下記第2の訂正の内容によれば、請求項1及び10を削除したこと、及び、それに伴う表現ぶりの調整にすぎないことから、実質的には、一部の請求項の削除のみの訂正といえる。よって、当審は、申立人に意見書の提出を求めないことにした。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所として特許権者が付したものである。)。
なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1~8〕、〔10~12〕について請求されたものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記単結晶ダイヤモンドの[010]方向及び[001]方向は、前記窓部材の前記厚さ方向に垂直な面と45度未満の角度で交わる関係にある、請求項1に記載のX線管。」とあるものについて、独立形式に改め、
「筐体と、
前記筐体内において電子ビームを出射する電子銃と、
前記筐体内において前記電子ビームの入射によってX線を発生させるターゲットと、
前記筐体の開口を封止しており、前記X線を透過させる窓部材と、を備え、
前記窓部材は、単結晶ダイヤモンドによって板状に形成されており、
前記単結晶ダイヤモンドの[100]方向は、前記窓部材の厚さ方向と45度未満の角度で交わる関係にあり、
前記単結晶ダイヤモンドの[010]方向及び[001]方向は、前記窓部材の前記厚さ方向に垂直な面と45度未満の角度で交わる関係にある、X線管。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2に記載」とあるのを、「請求項2に記載」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか一項に記載」とあるのを、「請求項2又は3に記載」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のいずれか一項に記載」とあるのを、「請求項2~4のいずれか一項に記載」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6のいずれか一項に記載」とあるのを、「請求項2~6のいずれか一項に記載」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7のいずれか一項に記載」とあるのを、「請求項2~7のいずれか一項に記載」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項11に「請求項9又は10に記載」とあるのを、「請求項9に記載」に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項12に「請求項9~11のいずれか一項に記載」とあるのを、「請求項9又は11に記載」に訂正する。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1を削除するものである。
そうすると、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1を削除するものであるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイに照らせば、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項1の小括
よって、訂正事項1は、訂正要件を満たす。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項2の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正である。
そうすると、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
イ 新規事項追加の有無
訂正事項2は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするものであるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイに照らせば、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項2の小括
よって、訂正事項2は、訂正要件を満たす。
(3)訂正事項3~7について
ア 訂正の目的
訂正事項3~7は、本件訂正前の請求項3~7のそれぞれが引用していた請求項のうち、それぞれ請求項1を引用しないものとするものである。
そうすると、訂正事項3~7は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
訂正事項3~7は、本件訂正前の請求項3~7のそれぞれが引用していた請求項のうち、それぞれ請求項1を引用しないものとするものであるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項3~7は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項3~7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項3~7は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項3~7の小括
よって、訂正事項3~7は、訂正要件を満たす。
(4)訂正事項8について
ア 訂正の目的
訂正事項8は、本件訂正前の請求項10を削除するものである。
そうすると、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
訂正事項8は、本件訂正前の請求項10を削除するものであるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項8は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイに照らせば、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項8の小括
よって、訂正事項8は、訂正要件を満たす。
(5)訂正事項9及び10について
ア 訂正の目的
訂正事項9及び10は、本件訂正前の請求項11及び12のそれぞれが引用していた請求項のうち、それぞれ請求項10を引用しないものとするものである。
そうすると、訂正事項9及び10は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
訂正事項9及び10は、本件訂正前の請求項11及び12のそれぞれが引用していた請求項のうち、それぞれ請求項10を引用しないものとするものであるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項9及び10は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項9及び10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項9及び10は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項9及び10の小括
よって、訂正事項9及び10は、訂正要件を満たす。
3 訂正の適否の小括
以上のとおり、本件訂正は、訂正要件を満たす。なお、訂正後の請求項1~8及び10~12は、特許異議の申立てがなされた請求項であるから、当該各請求項についての訂正には、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は課されない。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~8〕、〔10~12〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明の認定
本件訂正は上記第2のとおり認められたところ、本件訂正後の請求項2~9、11及び12に係る発明(以下「本件訂正発明2」~「本件訂正発明9」、「本件訂正発明11」及び「本件訂正発明12」といい、これらを総称して「本件訂正発明」という。)は、次のとおりであると認められる。
<本件訂正発明2>
筐体と、
前記筐体内において電子ビームを出射する電子銃と、
前記筐体内において前記電子ビームの入射によってX線を発生させるターゲットと、
前記筐体の開口を封止しており、前記X線を透過させる窓部材と、を備え、
前記窓部材は、単結晶ダイヤモンドによって板状に形成されており、
前記単結晶ダイヤモンドの[100]方向は、前記窓部材の厚さ方向と45度未満の角度で交わる関係にあり、
前記単結晶ダイヤモンドの[010]方向及び[001]方向は、前記窓部材の前記厚さ方向に垂直な面と45度未満の角度で交わる関係にある、X線管。
<本件訂正発明3>
前記窓部材は、前記筐体の内部とは反対側の第1表面を有し、
前記単結晶ダイヤモンドの前記[100]方向は、前記第1表面に垂直な方向と45度未満の角度で交わる関係にある、請求項2に記載のX線管。
<本件訂正発明4>
前記窓部材は、前記筐体における前記開口の周囲の取付面に取り付けられており、
前記単結晶ダイヤモンドの前記[100]方向は、前記取付面に垂直な方向と45度未満の角度で交わる関係にある、請求項2又は3に記載のX線管。
<本件訂正発明5>
前記窓部材は、前記筐体の内部側の第2表面を有し、
前記ターゲットは、前記第2表面に形成されている、請求項2~4のいずれか一項に記載のX線管。
<本件訂正発明6>
前記単結晶ダイヤモンドの前記[100]方向は、前記ターゲットに前記電子ビームが入射する方向と45度未満の角度で交わる関係にある、請求項5に記載のX線管。
<本件訂正発明7>
前記単結晶ダイヤモンドの前記[100]方向は、前記窓部材の前記厚さ方向と0.1度以上7度以下の角度で交わる関係にある、請求項2~6のいずれか一項に記載のX線管。
<本件訂正発明8>
請求項2~7のいずれか一項に記載のX線管と、
前記電子銃に電圧を印加する電源部と、を備える、X線発生装置。
<本件訂正発明9>
エピタキシャル成長によって、(100)面を主面として有する単結晶ダイヤモンド基板を形成する第1形成工程と、
前記単結晶ダイヤモンド基板から板状の窓部材を取り出す取出し工程と、を備え、
前記取出し工程においては、単結晶ダイヤモンドの[100]方向が前記窓部材の厚さ方向と45度未満の角度で交わるように、前記単結晶ダイヤモンド基板から前記窓部材を取り出す、窓部材の製造方法。
<本件訂正発明11>
前記厚さ方向における前記窓部材の一方の表面に、電子ビームの入射によってX線を発生させるターゲットを形成する第2形成工程を更に備える、請求項9に記載の窓部材の製造方法。
<本件訂正発明12>
前記単結晶ダイヤモンドの[100]方向は、前記窓部材の前記厚さ方向と0.1度以上7度以下の角度で交わる関係にある、請求項9又は11に記載の窓部材の製造方法。
第4 取消理由の概要及び申立人が提出した証拠
1 令和5年3月27日付け取消理由通知書(以下「取消理由通知書」という。)により特許権者に通知した取消しの理由の要旨は、以下のとおりである。
(1)(新規性欠如) 本件訂正前の請求項1、3~8及び10~12に係る特許は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、後記の甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)(進歩性欠如) 本件訂正前の請求項1、3~8及び10~12に係る特許は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、後記の甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第1号証)に基づいて、発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 申立人が提出した証拠は、以下のとおりである。以下、「第」及び「号証」を略する。
甲1:特開2014-137966号公報
甲2:特開2021-6501号公報
甲3:国際公開第2016/010028号
甲4:特開2016-20304号公報
甲5:国際公開第2017/014311号
甲6:特開2021-80153号公報
甲7:浜口智尋,電子物性入門,第15刷,丸善株式会社,2001年,p.17~27
第5 当審の判断
1 取消理由通知書で通知した取消理由について
(1)甲2に記載された発明に基づく新規性欠如・進歩性欠如
ア 本件訂正発明2について
(ア)甲2に記載された技術的事項及び発明
a 甲2の記載より、請求項2に係る半導体基板の製造方法により製造された半導体基板を窓部材として用いた応用製品(【0124】)について、以下の技術的事項が認められる。
(a)請求項2に記載された「種基板」は、単結晶ダイヤモンドであってよく、その主面は特定の面方位であり、当該面方位は、[001]であること。
すなわち、【0063】には、「種基板1は高い結晶性を有することが好ましい。…(中略)…。ダイヤモンドであれば、高温高圧合成法によって製造された単結晶であることが好ましい」、【0064】には、「種基板1の主面は特定の面方位であることが好ましい。例えば、シリコンやダイヤモンドでは、(001)面であることが好ましい。」と記載されており、(001)面の面方位は、[001]である。
(b)請求項2に記載された「半導体基板」は、半導体層および種基板の一部を含み、単結晶ダイヤモンドからなっており、板状であるといえること。
すなわち、【0063】及び【0088】に記載のとおり、種基板は、単結晶であるところ、これが板状であることは、「基板」である以上、自明である。そして、上記(a)のとおり、「種基板」は単結晶ダイヤモンドからなるところ、単結晶基板上にエピタキシャル成長される層が通常単結晶となることは技術常識であるから、当該種基板上にエピタキシャル成長された当該半導体層も単結晶になっていると解される。
よって、当該半導体層および当該種基板の一部を含む半導体基板は、板状の単結晶ダイヤモンドからなっていると理解できる。
(c)上記「応用製品」について、甲2には、X線管に用いられX線を透過させる「窓部材」、及び当該「窓部材」を用いた「透過型のX線管」が、実質的に記載されていること。
すなわち、【0124】には、半導体層がダイヤモンドの場合の(半導体基板の)応用製品として、「X線ターゲット」が記載されており、当該「X線ターゲット」が、「X線管」に用いられる部品であることは明らかといえるところ、光学的応用製品として「高出力用のレーザー用窓材料」が例示されていること、及び透過型X線管の窓部材にダイヤモンド基板が用いられることは技術常識であることに照らしてみれば、甲2には、当該「X線ターゲット」を用いた、X線管に用いられX線を透過させる「窓部材」、及び当該「窓部材」を用いた「透過型のX線管」も、記載されているに等しいということができる。
b 甲2に記載された発明
以上によれば、甲2には、請求項2に係る半導体基板の製造方法により製造された半導体基板を窓部材として用いた応用製品(透過型X線管)について、次の発明(以下「甲2物発明」という。)が記載されていると認められる。(なお、参考までに、甲2物発明の認定に用いた甲2の記載等に係る箇所等を括弧内に付してある。以下同様。)
<甲2物発明>
「半導体材料を含む種基板を準備する工程と、
前記種基板にイオン注入を行うことにより、前記種基板の主面の表面から一定深さにイオン注入層を形成する工程と、
前記種基板の主面上に、気相合成法により、半導体層を成長させる工程と、
前記半導体層および前記種基板の少なくともいずれかの主面の表面から光を照射することにより、前記半導体層および前記種基板の一部を含む半導体基板を分離する工程と、を含む半導体基板の製造方法により形成された半導体基板の応用製品であって、(請求項2・【0124】)
前記半導体層がダイヤモンドであり、前記種基板は、高温高圧合成法によって製造された単結晶ダイヤモンドからなっており、(【0063】)
前記種基板の主面は、特定の面方位に対するオフ角が1.5°以上10°以下であり、(【0064】)
前記特定の面方位は、[001]であり、(上記a(a))
前記半導体層の上面は、前記種基板の主面の面方位を引き継いでおり、(【0088】)
前記半導体基板は、板状の単結晶ダイヤモンドからなっており、(上記a(b))
前記半導体基板は、X線を透過させる窓部材であり、
前記応用製品は、透過型X線管である、(上記a(c))
半導体基板の応用製品。」
(イ)対比並びに一致点及び相違点の認定
甲2物発明の「半導体基板」及び「透過型X線管」は、それぞれ本件訂正発明2の「単結晶ダイヤモンドによって板状に形成され」ている「窓部材」及び「X線管」に相当し、甲2物発明は、「透過型X線管」であるから、透過型X線管が備えている基本的な構成(筐体、電子銃及びターゲット)を、当然に備えているものと解される。
また、甲2物発明は、その「半導体基板」(本件訂正発明2の「単結晶ダイヤモンド」に相当する。)の「厚さ方向」が、当該「半導体基板」を構成する「半導体層」の成長方向に相当すると解されるところ、当該「半導体層」は、[001]の面方位に対して「1.5°以上10°以下」傾いた「種基板の主面」に成長させた層であり、「種基板の主面の面方位を引き継いで」いるものであるから、甲2物発明の「半導体基板」の厚さ方向も、[001]の面方位に対して「1.5°以上10°以下」傾いていることになる。そうすると、甲2物発明は、本件訂正発明2の「前記単結晶ダイヤモンドの[100]方向は、前記窓部材の厚さ方向と45度未満の角度で交わる関係にある」ものといえる。
よって、本件訂正発明2と甲2物発明との一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。
<一致点>
「筐体と、
前記筐体内において電子ビームを出射する電子銃と、
前記筐体内において前記電子ビームの入射によってX線を発生させるターゲットと、
前記筐体の開口を封止しており、前記X線を透過させる窓部材と、を備え、
前記窓部材は、単結晶ダイヤモンドによって板状に形成されており、
前記単結晶ダイヤモンドの[100]方向は、前記窓部材の厚さ方向と45度未満の角度で交わる関係にある、X線管。」
<相違点>
・相違点1
「窓部材(単結晶ダイヤモンド)」について、本件訂正発明2は、「前記単結晶ダイヤモンドの[010]方向及び[001]方向は、前記窓部材の前記厚さ方向に垂直な面と45度未満の角度で交わる関係にある」と特定されるのに対し、甲2物発明は、そのような関係を満たしているか不明である点。
(ウ)相違点1についての判断
a 甲2物発明の「半導体基板」(板状の単結晶ダイヤモンド)における[100]方向は、当該「半導体基板」の「厚さ方向」より「1.5°以上10°以下」の角度傾いているが、そのことをもって、甲2物発明が、必然的に、相違点1に係る本件訂正発明2の構成を満たすわけではない。すなわち、上記の傾斜の結果、[010]方向が半導体基板の厚さ方向に垂直な面(以下「基板厚さ方向垂直面」という。)と45度未満の角度で交わるとしても、[001]方向が基板厚さ方向垂直面と交わらない、つまり平行となっている態様があり得る。したがって、相違点1は実質的でないとはいえない。
よって、本件訂正発明2は、甲2物発明であるとはいえない。
b そして、甲2物発明から相違点1に係る本件訂正発明2の構成に至ることが当業者にとって容易であるともいえない。
すなわち、甲2物発明の「窓部材」(板状の単結晶ダイヤモンド)における[100]方向は、当該「窓部材」の「厚さ方向」より「1.5°以上10°以下」の角度傾いているところ、この傾き(オフ角)は、結晶の均質性をより高めるためのものである(甲2の【0064】)。このような技術的意味からすると、その傾ける方向は、その結晶構造を踏まえてみれば、(100)面と等価な結晶面((010)面や(001)面など)の法線方向に向かっていく方向とすることが自然といえるところ、この場合、単結晶ダイヤモンドの[010]又は[001]方向の一方が、窓部材の厚さ方向に垂直な面と垂直(90度)に交わることになるから、相違点1に係る本件訂正発明2の構成は満たされない。また、甲2の記載をみても、上記「傾ける方向」を、あえて(010)面又は(001)面の法線方向に向かっていく方向以外とする動機があるとはいえないし、そのようなことが技術常識であるとする証拠もない。
よって、甲2物発明から出発した当業者は、相違点1に係る本件訂正発明2の構成に容易に至るとはいえない。
c そして、本件訂正発明2は、相違点1に係る構成を備えることにより、格別顕著な効果を奏するものである。
すなわち、本件訂正発明2の解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、単結晶ダイヤモンドによって板状に形成された窓部材は結晶面で割れやすいということ(【0004】)であり、その課題解決原理は、窓部材の厚さ方向に平行となる結晶面の数を少なくすることであると認められる(【0007】)。しかるに、結晶の面と方向の関係に係る技術常識に照らせば、相違点1に係る本件訂正発明2の構成は、上記課題解決原理を反映したものであることが明らかである。
このように、本件訂正発明2は、相違点1に係る構成を備えることにより、単結晶ダイヤモンドの割れやすい結晶面が、窓部材の厚さ方向に平行となる数を少なくし、窓部材が割れにくくなるという効果を有することになり、このようなことは、甲2には記載されておらず、出願時の技術常識から当業者が予測できたものともいい難い。
d この点、申立人は、一般に、単結晶ダイヤモンドの[100]方向に対して、[010]方向及び[001]方向がそれぞれ直角に交わる関係にあることから、相違点1に係る本件訂正発明2の構成である「[010]方向及び[001]方向は、前記窓部材の前記厚さ方向に垂直な面と45度未満の角度で交わる関係」とすることは、通常取り得る構成を特定したにすぎない旨主張する。
しかしながら、上記bで説示したとおり、甲2物発明から出発した当業者が上記構成に至ることが通常であるとはいえないし、上記cで説示したとおり、本件訂正発明2は、相違点1に係る構成を備えることにより、格別顕著な効果を奏するものであることから、申立人の主張する事情によって、進歩性を否定することはできない。
また、申立人は、一般に、単結晶ダイヤモンド基板のオフ角は任意の方向を基準にして定義され得る(甲6)ことから、甲2物発明の「オフ角」もそのように解されるべきである旨主張するが、「オフ角」がそのように解されることのみをもって、甲2物発明から出発した当業者が、上記bで説示したところの、上記「傾ける方向」を、あえて(010)面又は(001)面の法線方向に向かっていく方向以外とするとはいい難い。
e そして、甲2のその余の記載及び甲1、3~7の記載をみても、上記の説示を左右するものはない。
したがって、本件訂正発明2は、甲2に記載された発明とはいえないし、甲2に記載された発明及び甲1、3~7に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
イ 本件訂正発明3~8について
本件訂正発明2を引用する本件訂正発明3~8も、甲2物発明と相違点1で相違するものであるから、同様に判断される。
ウ 本件訂正発明10~12について
本件訂正により、請求項10が削除されたため、上記取消理由は、成り立たなくなった。
エ 小括
以上のとおりであるから、甲2に記載された発明に基づく進歩性欠如の取消理由は、成り立たない。
(2)甲3に記載された発明に基づく新規性欠如・進歩性欠如
ア 本件訂正発明2について
(ア)甲3に記載された技術的事項及び発明
a 甲3の記載より、請求項1を引用する請求項7を引用する請求項8に係る単結晶ダイヤモンドの製造方法により製造された単結晶ダイヤモンドを窓材として用いた製品([0065])について、以下の技術的事項が認められる。
(a)請求項8に記載された「単結晶ダイヤモンド」は、板状であること。
すなわち、【0063】に記載のとおり、単結晶ダイヤモンドは、エピタキシャル成長させた単結晶ダイヤモンドを基板から分離して得られるものであるところ、基板上にエピタキシャル成長させた単結晶ダイヤモンドは「層状」と理解できるから、基板から分離した「エピタキシャル成長させた単結晶ダイヤモンド」は、「板状」であるということができる。
(b)上記「製品」について、甲3には、X線管に用いられX線を透過させる「窓材」、及び当該「窓材」を用いた「透過型のX線管」が、実質的に記載されていること。
すなわち、【0065】には、単結晶ダイヤモンドを用いた部品として「X線窓材」が記載されており、当該「X線窓材」が「X線管」に用いられる部品であることは明らかといえるところ、「窓材」であるから、「透過型X線管」に用いられるものと理解することが自然といえる。そうすると、甲3には、当該「X線窓材」を用いた、X線管に用いられX線を透過させる「窓材」、及び当該「窓材」を用いた「透過型X線管」も、記載されているに等しいということができる。
b 甲3に記載された発明
以上によれば、甲3には、請求項1を引用する請求項7を引用する請求項8に係る単結晶ダイヤモンドの製造方法により製造された単結晶ダイヤモンドを窓材として用いた製品(透過型X線管)について、次の発明(以下「甲3物発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲3物発明>
「窒素原子を含む単結晶ダイヤモンドであり、
前記単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子数に対する、前記単結晶ダイヤモンド中の孤立置換型窒素原子数の割合は、0.02%以上40%未満である、単結晶ダイヤモンドを用いた製品であって、(請求項1・【0065】)
化学気相合成法による前記単結晶ダイヤモンドの製造方法は、
主面の表面粗さ(Ra)が0.006μm以上10μm以下の基板を準備する工程と、
前記基板上に単結晶ダイヤモンドを成長させる工程と、を含み、
前記単結晶ダイヤモンドを成長させる工程の気相中、水素ガス濃度に対するメタンガス濃度の割合は7%以上30%以下であり、前記メタンガス濃度に対する窒素ガス濃度の割合は0.02%以上10%以下であり、(請求項7)
前記基板の主面は、{001}面に対するオフ角が2°以上7°以下であり、(請求項8・【0057】)
前記単結晶ダイヤモンドは、基板から分離して得られるという製造方法であり、(【0063】)
前記単結晶ダイヤモンドは、板状であり、(上記a(a))
前記単結晶ダイヤモンドは、X線を透過させる窓材であり、
前記製品は、透過型X線管である、(上記a(b))
単結晶ダイヤモンドを用いた製品。」
(イ)対比並びに一致点及び相違点の認定
甲3物発明の「単結晶ダイヤモンド」及び「透過型X線管」は、それぞれ本件訂正発明2の「窓部材」及び「X線管」に相当し、甲3物発明は、「透過型X線管」であるから、透過型X線管が備えている基本的な構成(筐体、電子銃及びターゲット)を、当然に備えているものと解される。
また、甲3物発明は、その「窓材(単結晶ダイヤモンド)」の「厚さ方向」が、「単結晶ダイヤモンド」の成長方向に相当すると解されるところ、当該「単結晶ダイヤモンド」は、{001}面に対するオフ角が2°以上7°以下である基板の主面に成長させたものであるから、甲3物発明の「窓材」の厚さ方向も、<001>の面方位に対して「2°以上7°以下」傾いていることになる。そうすると、甲3物発明は、本件訂正発明2の「前記単結晶ダイヤモンドの[100]方向は、前記窓部材の厚さ方向と45度未満の角度で交わる関係にある」ものといえる。
よって、本件訂正発明2と甲3物発明との一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。
<一致点>
「筐体と、
前記筐体内において電子ビームを出射する電子銃と、
前記筐体内において前記電子ビームの入射によってX線を発生させるターゲットと、
前記筐体の開口を封止しており、前記X線を透過させる窓部材と、を備え、
前記窓部材は、単結晶ダイヤモンドによって板状に形成されており、
前記単結晶ダイヤモンドの[100]方向は、前記窓部材の厚さ方向と45度未満の角度で交わる関係にある、X線管。」
<相違点>
・相違点2
「窓部材(単結晶ダイヤモンド)」について、本件訂正発明2は、「前記単結晶ダイヤモンドの[010]方向及び[001]方向は、前記窓部材の前記厚さ方向に垂直な面と45度未満の角度で交わる関係にある」と特定されるのに対し、甲3物発明は、そのような関係を満たしているか不明である点。
(ウ)相違点2についての判断
相違点2は、上記(1)ア(イ)の相違点1と同様であるところ、甲3の記載をみても、その判断は、上記(1)ア(ウ)と同様といえる。
よって、本件訂正発明2は、甲3に記載された発明とはいえないし、甲3に記載された発明及び甲1、2、4~7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
イ 本件訂正発明3~8について
本件訂正発明2を引用する本件訂正発明3~8も、甲3物発明と上記相違点2で相違するものであるから、同様に判断される。
ウ 本件訂正発明10~12について
本件訂正により、請求項10が削除されたため、上記取消理由は、成り立たなくなった。
エ 小括
以上のとおりであるから、甲3に記載された発明に基づく進歩性欠如の取消理由は、成り立たない。
(3)まとめ
以上より、取消理由通知書に記載した取消理由は成り立たない。
2 取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)サポート要件違反
申立人の主張は、判然としないところがあるが、本件訂正発明に特定された角度の数値限定ないし上限及び下限の数値それ自体の技術的意味が発明の詳細な説明からは理解できないことをもって、本件訂正発明にサポート要件違反があることを主張しているようである。
しかしながら、本件訂正発明の課題(本件課題)は、上記1(1)ア(ウ)cで説示したとおり、単結晶ダイヤモンドによって板状に形成された窓部材は結晶面で割れやすいということ(【0004】)であり、その課題解決原理は、窓部材の厚さ方向に平行となる結晶面の数を少なくすること(【0007】)であって、特段の困難なく理解できるものである。そのため、当業者は、本件訂正発明が発明の詳細な説明の記載に基づいて本件課題を解決できると認識できる範囲を超えていないことを理解できるのであり、このことは、上記の数値それ自体の技術的意味が発明の詳細な説明に記載されているかどうかには左右されない。
よって、申立人が主張するサポート要件違反の理由は成り立たない。
(2)甲1に記載された発明に基づく進歩性欠如
申立人は、本件訂正発明2~8が、甲1に記載された発明に基づき進歩性を欠如する旨主張している。しかしながら、以下のとおりであるから、申立人が主張する理由は成り立たない。
ア 本件訂正発明2について
(ア)甲1に記載された発明
甲1には、請求項1を引用する請求項5を引用する請求項15に係る図2(a)に記載された放射線発生管について、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「一方の面と、それに対向する他方の面を有する平板状のダイアモンド基材と、前記一方の面の上に位置するターゲット層とを備え、前記一方の面は、前記他方の面に比べ残留応力が小さい、透過型X線ターゲットと、(請求項1)
前記ターゲット層と対向して位置する電子放出部を備えた電子放出源と、
前記ターゲット層と前記電子放出源とを電気的に絶縁する絶縁管と、
を備えた放射線発生管であって、(請求項15)
前記ダイアモンド基材は、単結晶ダイアモンドであり、(請求項5)
前記ダイアモンド基材は、任意の結晶方位を割り当て可能である、(【0060】)
放射線発生管。」
(イ)対比並びに一致点及び相違点の認定
甲1発明の「絶縁管」、「電子放出部」、「ターゲット層」、「ダイアモンド基材」及び「放射線発生管」は、それぞれ本件訂正発明2の「筐体」、「電子銃」、「ターゲット」、「窓部材」及び「X線管」に相当し、本件訂正発明2と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。
<一致点>
「筐体と、
前記筐体内において電子ビームを出射する電子銃と、
前記筐体内において前記電子ビームの入射によってX線を発生させるターゲットと、
前記筐体の開口を封止しており、前記X線を透過させる窓部材と、を備え、
前記窓部材は、単結晶ダイヤモンドによって板状に形成されている、
X線管。」
<相違点>
・相違点3
「窓部材(単結晶ダイヤモンド)」について、本件訂正発明2は、「前記単結晶ダイヤモンドの[100]方向は、前記窓部材の厚さ方向と45度未満の角度で交わる関係にあり、前記単結晶ダイヤモンドの[010]方向及び[001]方向は、前記窓部材の前記厚さ方向に垂直な面と45度未満の角度で交わる関係にある」と特定されるのに対し、甲1発明は、「任意の結晶方位を割り当て可能であ」るにとどまる点。
(ウ)相違点3についての判断
a 申立人は、相違点3に係る本件訂正発明2の構成が、甲1発明の「ダイアモンド基材」(窓部材)に、(i)甲2に記載された半導体基板を適用するか、又は、(ii)甲3に記載された単結晶ダイヤモンドを適用することにより、当業者が容易に想到し得たことである旨主張するので、検討する。
b 甲1発明に記載された「任意の結晶方位」とは、その技術用語の一般的な意味に照らせば、例えば[100]、[110]及び[111]など、ダイヤモンドにおける主要な結晶方位を示すと解することが自然であり、この場合、上記相違点3は満たされない。他方、当該結晶方位として[123]などを選択すれば、結果として上記相違点3に係る本件訂正発明2の構成を満たすものとなるが、甲1の記載をみても、甲1発明の「ダイアモンド基材」の結晶方位をそのような結晶方位とする動機はないし、そのような技術常識があるとの証拠もない。
また、単結晶ダイヤモンドの結晶成長に際して、成長基板の成長面にオフ角を導入することは例示するまでもなく周知技術であるところ、甲1発明の「ダイアモンド基材」が、当該周知技術を適用して作製したものであり、結果として、当該「ダイアモンド基材」の[100]方向が、その厚さ方向と45度未満の角度で交わる関係を満たすものとなっていたとしても、さらに、当該「ダイアモンド基材」の[010]方向及び[001]方向が、その厚さ方向に垂直な面と45度未満の角度で交わるとの関係が、必ずしも満たされる訳ではないし、この関係を満たすようにオフ角を導入する動機があるともいえない。すなわち、成長基板の成長面にオフ角を導入する方向は、上記1(1)ア(ウ)bで説示したとおり、例えば、[010]又は[001]方向など、成長面と等価な結晶面方向に向かっていくように傾ければ足りるものであり、それ以外の特別な方向に傾ける動機はないし、そのように傾ける技術常識があるとの証拠もない。
この点、甲2には、半導体層(ダイヤモンド)の結晶の均質性をより高めるために、種基板の主面を、特定の面方位に対するオフ角が1.5°以上10°以下とすることが記載されており(【0064】)、甲3には、エピタキシャル成長させた単結晶ダイヤモンドを基板から分離して単結晶ダイヤモンドを得ること、及び基板の主面は{001}面に対するオフ角が0°以上15°以下であることが記載されている([0063]及び[0057])が、どちらについても、上記1(1)ア(ウ)及び(2)ア(ウ)で説示したとおり、相違点3に係る本件訂正発明2の構成が記載されているとはいえない。
c そして、本件訂正発明2は、相違点3に係る構成を備えることにより、上記1(1)ア(ウ)cで説示したとおり、格別顕著な効果を奏するものである。
d 申立人は、オフ角はばらつきを有する(甲5)ことから、甲1発明の「ダイアモンド基材」における[100]方向が窓部材の主面の法線に対してオフ角を有するように構成されれば、[010]方向及び[001]方向が窓部材の主面と交わらなくすることは困難であり、高い確率で、主面と交わることになるのであり、よって、甲1発明において相違点3に係る本件訂正発明2の構成を満たすことは、普通に達成されることにすぎない旨主張している。
しかしながら、甲5に記載された「オフ角のばらつき」について、「オフ角」は、オフ角を導入する方位とオフ角の大きさをもって特定されるものといえるところ、当該「オフ角のばらつき」という文言からは、オフ角を導入する方位を一定とした上で、オフ角の大きさにばらつきがあることと解するのが自然である。そうだとすると、オフ角がばらつくことをもって、相違点3に係る本件訂正発明2の構成が高い確率で満たされることにもならない。
e そして、甲1のその余の記載及び甲2~7の記載をみても、上記の説示を左右するものはない。
したがって、本件訂正発明2は、甲1に記載された発明及び甲2~7に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件訂正発明3~8について
本件訂正発明2を引用する本件訂正発明3~8も、甲1発明と上記相違点3で相違するものであるから、同様に判断される。
ウ 小括
以上のとおりであるから、甲1に記載された発明に基づく進歩性欠如の異議申立理由は、成り立たない。
(3)甲2に記載された発明に基づく進歩性欠如
申立人は、本件訂正発明9、11及び12が、甲2に記載された発明に基づき進歩性を欠如する旨主張している。しかしながら、以下のとおりであるから、申立人が主張する理由は成り立たない。
ア 本件訂正発明9について
(ア)甲2に記載された発明
上記1(1)ア(ア)を踏まえ、甲2には、次の発明(以下「甲2方法発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲2方法発明>
「半導体材料を含む種基板を準備する工程と、
前記種基板にイオン注入を行うことにより、前記種基板の主面の表面から一定深さにイオン注入層を形成する工程と、
前記種基板の主面上に、気相合成法により、半導体層を成長させる工程と、
前記半導体層および前記種基板の少なくともいずれかの主面の表面から光を照射することにより、前記半導体層および前記種基板の一部を含む半導体基板を分離する工程と、を含む半導体基板の製造方法であって、
前記半導体層がダイヤモンドであり、前記種基板は、高温高圧合成法によって製造された単結晶ダイヤモンドからなっており、
前記種基板の主面は、特定の面方位に対するオフ角が1.5°以上10°以下であり、
前記特定の面方位は、[001]であり、
前記半導体層の上面は、前記種基板の主面の面方位を引き継いでおり、
前記半導体基板は、板状の単結晶ダイヤモンドからなっており、
前記半導体基板は、X線を透過させる窓部材である、
半導体基板の製造方法。」
(イ)対比
本件訂正発明9と甲2方法発明とを対比すると、次のとおりである。
a 本件訂正発明9の「エピタキシャル成長によって、(100)面を主面として有する単結晶ダイヤモンド基板を形成する第1形成工程と」との特定事項について
甲2方法発明は、「半導体層」を「種基板の主面上に、気相合成法により、」「成長させる工程」及び「前記半導体層および前記種基板の一部を含む半導体基板を分離する工程」を備えており、当該「半導体基板」は、「単結晶ダイヤモンド」であるから、甲2方法発明の「半導体層」は、「気相合成法」によりエピタキシャル成長している「単結晶ダイヤモンド」と理解できる。
そうすると、甲2方法発明の「半導体層」は、本件訂正発明9の「単結晶ダイヤモンド基板」に相当し、甲2方法発明は、本件訂正発明9の上記特定事項と「エピタキシャル成長によって、」「単結晶ダイヤモンド基板を形成する第1形成工程」を備える点で一致する。
b 本件訂正発明9の「前記単結晶ダイヤモンド基板から板状の窓部材を取り出す取出し工程と、前記取出し工程においては、単結晶ダイヤモンドの[100]方向が前記窓部材の厚さ方向と45度未満の角度で交わるように、前記単結晶ダイヤモンド基板から前記窓部材を取り出す」との特定事項について
(a)甲2方法発明は、「前記種基板の主面の表面から一定深さにイオン注入層を形成する工程」、「前記種基板の主面上に、気相合成法により、半導体層を成長させる工程」及び「前記半導体層および前記種基板の少なくともいずれかの主面の表面から光を照射することにより、前記半導体層および前記種基板の一部を含む半導体基板を分離する工程」を含むものであり、「表面から一定深さ」の「イオン注入層」で「半導体基板を分離する」との理解によれば、当該分離が行われる面(以下「分離面」という。)は、「半導体基板」の「厚さ方向に垂直な面」と解される。また、当該「半導体基板」は、「板状の単結晶ダイヤモンドからなっており」、「X線を透過させる窓部材」である。
そうすると、甲2方法発明の「半導体基板(窓部材)」は、本件訂正発明9の「板状の窓部材」に相当し、甲2方法発明の「半導体基板を分離する工程」は、本件訂正発明9の「板状の窓部材を取り出す取出し工程」に相当するといえる。
(b)上記(a)に説示のとおり、甲2方法発明の「半導体基板」の「分離面」は、「半導体基板」の「厚さ方向に垂直な面」であるから、「種基板の主面」及び「半導体基板(半導体層)の上面」と平行な面と理解できる。そして、当該「種基板の主面」は、「[001]」「面方位に対するオフ角が1.5°以上10°以下」であるから、甲2方法発明の「半導体基板」を構成する「単結晶ダイヤモンド」の[001]面方位は、「半導体基板」の厚さ方向と、「1.5°以上10°以下」」の角度で交わるものと理解でき、本件訂正発明9でいう上記「単結晶ダイヤモンドの[100]方向が前記窓部材の厚さ方向と45度未満の角度で交わる」との特定事項を満たすといえる。
(c)以上より、甲2方法発明は、本件訂正発明9の上記特定事項と「板状の窓部材を取り出す取出し工程と、前記取出し工程においては、単結晶ダイヤモンドの[100]方向が前記窓部材の厚さ方向と45度未満の角度で交わるように、」「前記窓部材を取り出す」点で一致するといえる。
c 本件訂正発明9の「窓部材の製造方法」との特定事項について
甲2方法発明は、「半導体基板の製造方法」であるところ、当該「半導体基板」は、「X線を透過させる窓部材」であるから、当該「半導体基板の製造方法」は、本件訂正発明9の「窓部材の製造方法」に相当するといえる。
d 以上より、本件訂正発明2と甲2方法発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「エピタキシャル成長によって、単結晶ダイヤモンド基板を形成する第1形成工程と、
板状の窓部材を取り出す取出し工程と、を備え、
前記取出し工程においては、単結晶ダイヤモンドの[100]方向が前記窓部材の厚さ方向と45度未満の角度で交わるように、前記窓部材を取り出す、窓部材の製造方法。」
<相違点>
・相違点4
単結晶ダイヤモンド基板を形成する第1形成工程における「単結晶ダイヤモンド基板」が、本件訂正発明9は、「(100)面を主面として有する」ものであるのに対し、甲2方法発明は、「[001]」「面方位に対するオフ角が1.5°以上10°以下」のものである点。
・相違点5
板状の窓部材を取り出す取出し工程が、本件訂正発明9は、「単結晶ダイヤモンド基板から」取り出すのに対し、甲2方法発明は、「種基板」及び「半導体層」から取り出す点。
(ウ)相違点4についての判断
甲2方法発明から出発した当業者が、相違点4に係る本件訂正発明9の構成に至るためには、甲2方法発明の「半導体層」(本件訂正発明9の「単結晶ダイヤモンド基板」に相当。)が、[001]面方位に対するオフ角が1.5°以上10°以下」のものであるのを、オフ角が0°のものに構成する必要があり、これを換言すれば、当該「半導体層」の主面が(100)面から1.5°以上10°以下傾いた面であるのを、その傾きをなくすように構成する必要がある。
しかしながら、そのように構成すると、上記(イ)において本件訂正発明9と甲2方法発明との一致点と認定された「前記取出し工程においては、単結晶ダイヤモンドの[100]方向が前記窓部材の厚さ方向と45度未満の角度で交わるように、前記窓部材を取り出す」ことが、一致点として維持されない。すなわち、上記一致点が一致点であった根拠は、上記(イ)b(b)のとおり、甲2方法発明の「半導体層」が[001]面方位に対するオフ角が1.5°以上10°以下」のものであったことにあるのであり、相違点4を解消するために、このオフ角を0°に構成すると、その根拠がもはや維持されない。
したがって、甲2方法発明から出発した当業者が、本件訂正発明9の構成に容易に至るとはいえない。
(エ)申立人の主張について
申立人は、本件訂正発明9の「(100)面を主面として有する単結晶ダイヤモンド基板を形成する第1形成工程」及び「単結晶ダイヤモンドの[100]方向が前記窓部材の厚さ方向と45度未満の角度で交わる」ことの双方が甲2方法発明との一致点である旨主張し、その根拠として、甲2には、種基板の主面として(001)面が好ましいこと、及び種基板はオフ角を有することが記載されていることを挙げている。
しかしながら、上記(ウ)に説示のとおり、種基板の主面が(100)面からオフ角を有する場合、当該種基板の主面は、(100)面ではないと解することが自然であるから、種基板の主面が(001)面であることと種基板がオフ角を有することとは両立せず、申立人の上記主張は採用できない。
(オ)小括
そして、甲2のその余の記載及び甲1、3~7の記載をみても、上記の説示を左右するものはない。
したがって、相違点5について検討するまでもなく、本件訂正発明9は、甲2に記載された発明及び甲1、3~7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件訂正発明11及び12について
本件訂正発明9を引用する本件訂正発明11及び12も、甲2方法発明と上記相違点4及び5で相違するものであるから、同様に判断される。
ウ 小括
以上のとおりであるから、甲2に記載された発明に基づく進歩性欠如の異議申立理由は、成り立たない。
(4)甲3に記載された発明に基づく進歩性欠如
申立人は、本件訂正発明9、11及び12が、甲3に記載された発明に基づき進歩性を欠如する旨主張している。しかしながら、以下のとおりであるから、申立人が主張する理由は成り立たない。
ア 本件訂正発明9について
(ア)甲3に記載された発明
上記1(2)ア(ア)より、甲3には、次の発明(以下「甲3方法発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲3方法発明>
「窒素原子を含む単結晶ダイヤモンドであり、
前記単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子数に対する、前記単結晶ダイヤモンド中の孤立置換型窒素原子数の割合は、0.02%以上40%未満である、化学気相合成法による単結晶ダイヤモンドの製造方法であって、
主面の表面粗さ(Ra)が0.006μm以上10μm以下の基板を準備する工程と、
前記基板上に単結晶ダイヤモンドを成長させる工程と、を含み、
前記単結晶ダイヤモンドを成長させる工程の気相中、水素ガス濃度に対するメタンガス濃度の割合は7%以上30%以下であり、前記メタンガス濃度に対する窒素ガス濃度の割合は0.02%以上10%以下であり、
前記基板の主面は、{001}面に対するオフ角が2°以上7°以下であり、
前記単結晶ダイヤモンドは、基板から分離して得られ、
前記単結晶ダイヤモンドは、板状であり、
前記単結晶ダイヤモンドは、X線を透過させる窓材である、
単結晶ダイヤモンドの製造方法。」
(イ)対比
本件訂正発明9と甲3方法発明とを対比すると、次のとおりである。
a 本件訂正発明9の「エピタキシャル成長によって、(100)面を主面として有する単結晶ダイヤモンド基板を形成する第1形成工程と」との特定事項について
甲3方法発明は、「基板上に単結晶ダイヤモンドを成長させる工程」を含み、当該「基板」の主面は、「{001}面に対するオフ角が2°以上7°以下」である。そうすると、甲3方法発明の「単結晶ダイヤモンド」は、本件訂正発明9の「単結晶ダイヤモンド基板」に相当し、甲3方法発明は、本件訂正発明9の上記特定事項と「エピタキシャル成長によって、」「単結晶ダイヤモンド基板を形成する第1形成工程」を備える点で一致するといえる。
b 本件訂正発明9の「前記単結晶ダイヤモンド基板から板状の窓部材を取り出す取出し工程と、前記取出し工程においては、単結晶ダイヤモンドの[100]方向が前記窓部材の厚さ方向と45度未満の角度で交わるように、前記単結晶ダイヤモンド基板から前記窓部材を取り出す」との特定事項について
(a)甲3方法発明は、「単結晶ダイヤモンド」を「基板から分離して得」る工程を含み、当該「単結晶ダイヤモンド」は、「板状であり」、「X線を透過させる窓材」である。そうすると、甲3方法発明の「窓材」は、本件訂正発明9の「窓部材」に相当し、甲3方法発明は、上記特定事項の「板状の窓部材を取り出す取出し工程」を含む点で一致するといえる。
(b)本件訂正発明9の「単結晶ダイヤモンド」は、「基板上に」「成長させる」ものであり、当該「基板」の主面は、「{001}面に対するオフ角が2°以上7°以下」であるから、当該「単結晶ダイヤモンド」の<001>方向は、「単結晶ダイヤモンド」の厚さ方向と、「2°以上7°以下」」の角度で交わるものと理解できる。よって、本件訂正発明9は、上記「単結晶ダイヤモンドの[100]方向が前記窓部材の厚さ方向と45度未満の角度で交わる」との特定事項を満たすといえる。
(c)以上より、甲3方法発明は、本件訂正発明9の上記特定事項と「板状の窓部材を取り出す取出し工程と、前記取出し工程においては、単結晶ダイヤモンドの[100]方向が前記窓部材の厚さ方向と45度未満の角度で交わるように、」「前記窓部材を取り出す」点で一致するといえる。
c 本件訂正発明9の「窓部材の製造方法」との特定事項について
甲3方法発明の「単結晶ダイヤモンド」は、「X線を透過させる窓材」であるから、甲3方法発明の「単結晶ダイヤモンドの製造方法」は、本件訂正発明9の「窓部材の製造方法」に相当するといえる。
d 以上より、本件訂正発明9と甲3方法発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「エピタキシャル成長によって、単結晶ダイヤモンド基板を形成する第1形成工程と、
前記単結晶ダイヤモンド基板から板状の窓部材を取り出す取出し工程と、を備え、
前記取出し工程においては、単結晶ダイヤモンドの[100]方向が前記窓部材の厚さ方向と45度未満の角度で交わるように、前記単結晶ダイヤモンド基板から前記窓部材を取り出す、窓部材の製造方法。」
<相違点>
・相違点6
単結晶ダイヤモンド基板を形成する第1形成工程における「単結晶ダイヤモンド基板」が、本件訂正発明9は、「(100)面を主面として有する」ものであるのに対し、甲3方法発明では、「{001}面に対するオフ角が2°以上7°以下」のものである点。
・相違点7
板状の窓部材を取り出す取出し工程が、本件訂正発明9は、「単結晶ダイヤモンド基板から」取り出すのに対し、甲3方法発明は、「基板」及び「単結晶ダイヤモンド」から取り出す点。
(ウ)相違点6についての判断
上記相違点6は、上記(3)ア(イ)dの相違点4と実質的に同じものであるから、その判断は、上記(3)ア(ウ)と同様といえる。
(エ)申立人の主張について
異議申立人の主張は、上記(3)ア(エ)と同じであるから、当該箇所の説示のとおりである。
(オ)小括
そして、甲3のその余の記載及び甲1、2、4~7の記載をみても、上記の説示を左右するものはない。
したがって、相違点7について検討するまでもなく、本件訂正発明9は、甲3に記載された発明及び甲1、2、4~7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件訂正発明11及び12について
本件訂正発明9を引用する本件訂正発明11及び12も、甲3方法発明と上記相違点6で相違するものであるから、同様に判断される。
ウ 小括
以上のとおりであるから、甲3に記載された発明に基づく進歩性欠如の異議申立理由は、成り立たない。
(5)まとめ
以上のとおりであるから、取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由は、理由がない。
第6 むすび
以上によれば、本件訂正発明2~9、11及び12に係る特許は、取消理由通知書に係る取消理由及び特許異議申立理由のいずれによっても取り消すことはできない。
そして、他に本件訂正発明2~9、11及び12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件訂正により、請求項1及び10が削除されたため、これらの請求項に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700009