特許異議申立
2022-700036
電子線照射装置及び電子線照射装置の製造方法
- 審判番号
- 2022-700036
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-094442
- 登録番号
- 6912629
- 請求日
- 2022年01月14日
- 審決日
- 2022年12月28日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】浜松ホトニクス株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】柴山 健一
- 【権利者代理人】柴田 晃史
- 【異議申立人】藤本 拓也
- 【異議申立人】金田 綾香
- 審判長/審判官
- 審判長 瀬川 勝久
- 審判官 松川 直樹
- 審判官 吉野 三寛
- 分類
- P1651.121-ZAA(G21K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法113条2号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6912629号発明「電子線照射装置及び電子線照射装置の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6912629号の特許請求の範囲を、令和4年5月25日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、4、5、〔6-8〕、〔9-16〕について訂正することを認める。
特許第6912629号の請求項1、3ないし16に係る特許を取り消す。
特許第6912629号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6912629号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし16に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)5月29日を出願日とした特願2020-94442号であって、令和3年7月12日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人藤本拓也(以下「申立人1」という。)及び、特許異議申立人金田綾香(以下「申立人2」という。)により請求項1~16に対して特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。
令和4年 3月25日付け:取消理由通知
令和4年 5月25日 :意見書・訂正請求書(特許権者)
令和4年 7月11日 :意見書(申立人1及び2)
令和4年 9月22日付け:取消理由通知書(決定の予告)
なお、令和4年9月22日付けの取消理由通知(決定の予告)に対し、
応答期間内に特許権者からの応答はなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容について
(1)訂正事項の内容
訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下「本件訂正」といい、本件訂正に係る請求を「本件訂正請求」という。)は、本件特許の特許登録時の願書に添付した特許請求の範囲を、次のとおり訂正するものである(下線は、訂正箇所を示すものとして当審が付した。)。
ア 訂正前の請求項1に対してされた訂正
(ア)訂正前の請求項1において、「前記窓箔部材の厚さは、2×10-3mm以上且つ1×10-2mm以下であり」であった記載を、「前記窓箔部材の厚さは、3×10-3mm以上且つ5×10-3mm以下であり」に訂正する(以下「訂正事項1-1」という。)。
(請求項1を引用する請求項3も同様に訂正する。)
(イ)訂正前の請求項1において、「・・・を設定する、」であった記載を、「・・・を設定し、」に訂正するとともに、当該「・・・を設定し、」に続けて、「前記電流面密度は、前記電子線発生部の管電流を、前記窓箔部材における前記電子線の入射領域の面積で除算して得られる値である」との記載を加える(以下「訂正事項1-2」という。)。
(請求項1を引用する請求項3も同様に訂正する。)
(ウ)訂正前の請求項1において、「前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が40kV以上且つ150kV以下となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が5.3mA/mm2以下」であった記載を、「前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が40kV以上且つ150kV以下となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が5.3mA/mm2以下(ただし、前記開口部を通過して照射対象物に照射される前記電子線の照射幅である電子線有効照射幅でビーム電流を割った電流線密度が0.4mA/cm以下となる範囲を除く)」に訂正する(以下「訂正事項1-3」という。)。
(請求項1を引用する請求項3も同様に訂正する。)
イ 訂正前の請求項2に対してされた訂正
訂正前の請求項2を削除する(以下「訂正事項2」という。)。
ウ 訂正前の請求項3に対してされた訂正
訂正前の請求項3において、「請求項1又は2に記載の電子線照射装置」であった記載を、「請求項1に記載の電子線照射装置」に訂正する(以下「訂正事項3」という。)。
エ 訂正前の請求項4に対してされた訂正
訂正前の請求項4において、「前記制御部は、」であった記載を、「電子線を発生する電子線発生部と、
前記電子線発生部から発生した前記電子線を通過させる開口部が設けられた筐体部と、
前記開口部に配置され、前記開口部を通過した前記電子線を透過させる窓箔部材を有する電子線照射窓部と、
前記電子線発生部を制御する制御部と、を備え、
前記窓箔部材は、チタンを主成分として含む箔部材であり、
前記窓箔部材の厚さは、2×10-3mm以上且つ1×10-2mm以下であり、
前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が40kV以上且つ150kV以下となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が5.3mA/mm2以下となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定し、
前記制御部は、一種類の前記厚さの前記窓箔部材に対して、前記駆動電圧が小さくなるほど前記電流面密度が小さくなるように、前記駆動電流を制御し、
前記制御部は、」に訂正するとともに、「請求項3に記載の電子線照射装置」であった記載を、「電子線照射装置」に訂正する(以下「訂正事項4」という。)。
オ 訂正前の請求項5に対してされた訂正
訂正前の請求項5において、「前記制御部は、」であった記載を、「電子線を発生する電子線発生部と、
前記電子線発生部から発生した前記電子線を通過させる開口部が設けられた筐体部と、
前記開口部に配置され、前記開口部を通過した前記電子線を透過させる窓箔部材を有する電子線照射窓部と、
前記電子線発生部を制御する制御部と、を備え、
前記窓箔部材は、チタンを主成分として含む箔部材であり、
前記窓箔部材の厚さは、2×10-3mm以上且つ1×10-2mm以下であり、
前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が40kV以上且つ150kV以下となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が5.3mA/mm2以下となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定し、
前記制御部は、」に訂正するとともに、「請求項1~4の何れか一項に記載の電子線照射装置」であった記載を、「電子線照射装置」に訂正する(以下「訂正事項5」という。)。
カ 訂正前の請求項6に対してされた訂正
(ア)訂正前の請求項6において、「前記窓箔部材の厚さは、」であった記載を、「電子線を発生する電子線発生部と、
前記電子線発生部から発生した前記電子線を通過させる開口部が設けられた筐体部と、
前記開口部に配置され、前記開口部を通過した前記電子線を透過させる窓箔部材を有する電子線照射窓部と、
前記電子線発生部を制御する制御部と、を備え、
前記窓箔部材は、チタンを主成分として含む箔部材であり、
前記窓箔部材の厚さは、」に訂正するとともに、「請求項1~5の何れか一項に記載の電子線照射装置」であった記載を、「電子線照射装置」に訂正する(以下「訂正事項6-1」という。)。
(請求項6を直接的又は間接的に引用する請求項7~8も同様に訂正する。)
(イ)訂正前の請求項6において、「前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が130kV以下となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が5.3mA/mm2以下となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する、」であった記載を、「前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が40kV以上且つ90kV未満となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が2.6mA/mm2未満となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する、」に訂正する(以下「訂正事項6-2」という。)。
(請求項6を直接的又は間接的に引用する請求項7~8も同様に訂正する。)
キ 訂正前の請求項7に対してされた訂正
訂正前の請求項7において、「前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が130kV以下となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が4.7mA/mm2以下となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する、」であった記載を、「前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が90kV未満となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が1.9mA/mm2未満となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する、」に訂正する(以下「訂正事項7」という。)。
(請求項7を引用する請求項8も同様に訂正する。)
ク 訂正前の請求項8に対してされた訂正
訂正前の請求項8において、「前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が130kV以下となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が4.0mA/mm2以下となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する、」であった記載を、「前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が90kV未満となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が1.1mA/mm2未満となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する、」に訂正する(以下「訂正事項8」という。)。
ケ 訂正前の請求項9に対してされた訂正
訂正前の請求項9において、「・・・を備える、」であった記載を、「・・・を備え、
前記電流面密度は、前記電子線発生部の管電流を、前記窓箔部材における前記電子線の入射領域の面積で除算して得られる値である、」に訂正する(以下「訂正事項9」という。)。
(請求項9を直接的又は間接的に引用する請求項10~16も同様に訂正する。)
(2)本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1-8〕〔9-16〕について請求されたものである。
そして、訂正後の請求項4、5及び6~8については、別の訂正単位とする求めがなされている。
2 本件訂正についての当審の判断
本件訂正の内容は、上記1に示したとおりであって、各訂正事項について、訂正要件を判断する。
(1)訂正前の請求項1に対してされた訂正
ア 訂正事項1-1
(ア)訂正の目的について
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1の発明特定事項である「窓箔部材の厚さ」について、「2×10-3mm以上且つ1×10-2mm以下であ」ったものを、範囲を「3×10-3mm以上且つ5×10-3mm以下であ」ると限定することで、特許請求の範囲を減縮するものであると解されるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の追加の有無
訂正事項1-1における「前記窓箔部材の厚さは、3×10-3mm以上且つ5×10-3mm以下であ」るとの特定事項は、本件明細書等の「窓箔9aの厚さは、2×10-3mm以上且つ1×10-2mm以下である。窓箔9aの厚さは、例えば、3×10-3mmであってもよいし、4×10-3mmであってもよいし、5×10-3mmであってもよい。」(【0043】)、及び、「例えば、窓箔9aの厚さが3×10-3mm以上5×10-3mm以下である場合、制御部50は、フィラメントユニット2の管電圧が130kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が5.3mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。」(【0096】)との記載に基づいて導き出される構成であるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
(ウ)実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1-1は、上記(ア)及び(イ)に照らせば、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
イ 訂正事項1-2
(ア)訂正の目的について
訂正事項1-2は、訂正前の請求項1の発明特定事項である「電流面密度」について、「前記電子線発生部の管電流を、前記窓箔部材における前記電子線の入射領域の面積で除算して得られる値である」と限定することで、特許請求の範囲を減縮するものであると解されるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の追加の有無
訂正事項1-2における「前記電流面密度は、前記電子線発生部の管電流を、前記窓箔部材における前記電子線の入射領域の面積で除算して得られる値である」との特定事項は、本件明細書等の「電流面密度は、フィラメントユニット2の管電流を、窓箔9aにおける電子線透過領域9f(電子線EBの入射領域)の面積で除算して得られる値である。」(【0056】)との記載に基づいて導き出される構成であるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
(ウ)実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1-2は、上記(ア)及び(イ)に照らせば、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
ウ 訂正事項1-3
(ア)訂正の目的について
訂正事項1-3は、訂正前の請求項1の発明特定事項である、電子線発生部の「駆動電圧」及び「駆動電流」に係り、「前記開口部を通過して照射対象物に照射される前記電子線の照射幅である電子線有効照射幅でビーム電流を割った電流線密度が0.4mA/cm以下となる範囲」(以下「特定事項A」という。)を除いたものであって、特許請求の範囲を減縮するものであると解されるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の追加の有無
上記のとおり、訂正事項1-3は、特定事項Aを除くものであって、除くことによって新たな技術的事項が導入されないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
(ウ)実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1-3は、上記(ア)及び(イ)に照らせば、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正前の請求項2に対してされた訂正
ア 訂正事項2について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2は請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の追加の有無
訂正事項2は請求項の削除であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
(ウ)実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、上記ア及びイに照らせば、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(3)訂正前の請求項3に対してされた訂正
ア 訂正事項3
(ア)訂正の目的について
訂正事項3は、請求項1、2のうち請求項2を引用しないものとするためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の追加の有無
上記訂正は、請求項1、2のうち請求項2を引用しないものとするためのものであるから、これによって、新たな技術的事項が導入されることはない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(ウ)実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(4)訂正前の請求項4に対してされた訂正
ア 訂正事項4
(ア)訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の請求項1又は2を引用する請求項3を引用する請求項4のうち、請求項1を引用する請求項3を引用するものを独立形式に改め、訂正後の請求項4とする訂正を行うものであるといえる。
上記訂正は、訂正前の請求項4が、直接又は間接的に引用する請求項の組合せを複数含むところ、そのうち訂正前の請求項1を引用する請求項3を引用するものについて独立形式に改めて訂正後の請求項4とする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることと、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の追加の有無
当該訂正に係る事項は、上記(ア)のとおり、直接又は間接的に引用する請求項の複数の組合せのうち請求項1を引用する請求項3を引用するものについて、独立形式に改める訂正であるから、この訂正により新たな技術的事項が導入されることはなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
(ウ)実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は、上記(ア)及び(イ)に照らせば、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(5)訂正前の請求項5に対してされた訂正
ア 訂正事項5
(ア)訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の、請求項1~4を引用する請求項5のうち、請求項1を引用するものを独立形式に改め、訂正後の請求項5とする訂正を行うものであるといえる。
上記訂正は、訂正前の請求項5が、直接又は間接的に引用する請求項の組合せを多数含むところ、そのうち訂正前の請求項1を引用するものについて独立形式に改めて訂正後の請求項5とする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることと、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の追加の有無
当該訂正に係る事項は、上記(ア)のとおり、直接又は間接的に引用する請求項の多数の組合せのうち請求項1を引用するものについて、独立形式に改める訂正であるから、この訂正により新たな技術的事項が導入されることはなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
(ウ)実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5は、上記(ア)及び(イ)に照らせば、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(6)訂正前の請求項6に対してされた訂正
ア 訂正事項6-1
(ア)訂正の目的について
訂正事項6-1は、訂正前の請求項1~5を引用する請求項6のうち、請求項1を引用するものを独立形式に改め、訂正後の請求項6とする訂正を行うものであるといえる。
上記訂正は、訂正前の請求項6が、直接又は間接的に引用する請求項の組合せを多数含むところ、そのうち訂正前の請求項1を引用するものについて独立形式に改めて訂正後の請求項6とする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることと、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の追加の有無
当該訂正に係る事項は、上記(ア)のとおり、直接又は間接的に引用する請求項の多数の組合せのうち請求項1を引用するものについて、独立形式に改める訂正であるから、この訂正により新たな技術的事項が導入されることはなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
(ウ)実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項6-1は、上記(ア)及び(イ)に照らせば、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
イ 訂正事項6-2
(ア)訂正の目的について
訂正事項6-2は、訂正前の請求項6の発明特定事項である「電子線発生部の管電圧」について、「40kV以上且つ130kV以下」であったものを、範囲を「40kV以上且つ90kV未満」と限定するとともに、「窓箔部材における電流面密度」について、「5.3mA/mm2以下」であったものを、範囲を「2.6mA/mm2未満」と限定することで、特許請求の範囲を減縮するものであると解されるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の追加の有無
訂正事項6-2における「前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が40kV以上且つ90kV未満となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が2.6mA/mm2未満となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する」との特定事項は、本件明細書等の「具体的な一例として、制御部50は、窓箔9aの厚さが3×10-3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が130kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が5.3mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。」(【0071】)、及び、「あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが3×10-3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が90kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が2.6mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。」(【0075】)との記載に基づいて導き出される構成であるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
(ウ)実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項6-2は、上記(ア)及び(イ)に照らせば、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(7)訂正前の請求項7に対してされた訂正
ア 訂正事項7
(ア)訂正の目的について
訂正事項7は、訂正前の請求項7の発明特定事項である「電子線発生部の管電圧」について、「40kV以上且つ130kV以下」であったものを、範囲を「40kV以上且つ90kV未満」と限定するとともに、「窓箔部材における電流面密度」について、「4.7mA/mm2以下」であったものを、範囲を「1.9mA/mm2未満」と限定することで、特許請求の範囲を減縮するものであると解されるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の追加の有無
訂正事項7における「前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が90kV未満となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が1.9mA/mm2未満となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する」との特定事項は、本件明細書等の「あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが4×10-3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が130kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が4.7mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。」(【0071】)、及び、「あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが4×10-3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が90kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が1.9mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。」(【0075】)との記載に基づいて導き出される構成であるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
(ウ)実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項7は、上記(ア)及び(イ)に照らせば、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(8)訂正前の請求項8に対してされた訂正
ア 訂正事項8
(ア)訂正の目的について
訂正事項8は、訂正前の請求項8の発明特定事項である「電子線発生部の管電圧」について、「40kV以上且つ130kV以下」であったものを、範囲を「40kV以上且つ90kV未満」と限定するとともに、「窓箔部材における電流面密度」について、「4.0mA/mm2以下」であったものを、範囲を「1.1mA/mm2未満」と限定することで、特許請求の範囲を減縮するものであると解されるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の追加の有無
訂正事項8における「前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が90kV未満となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が1.1mA/mm2未満となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する」との特定事項は、本件明細書等の「あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが5×10-3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が130kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が4.0mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。」(【0071】)、及び、「あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが5×10-3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が90kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が1.1mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。」(【0075】)との記載に基づいて導き出される構成であるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
(ウ)実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項8は、上記(ア)及び(イ)に照らせば、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(9)訂正前の請求項9に対してされた訂正
ア 訂正事項9
(ア)訂正の目的について
訂正事項9は、訂正前の請求項9の発明特定事項である「電流面密度」について、「前記電子線発生部の管電流を、前記窓箔部材における前記電子線の入射領域の面積で除算して得られる値である」と限定することで、特許請求の範囲を減縮するものであると解されるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の追加の有無
訂正事項9における「前記電流面密度は、前記電子線発生部の管電流を、前記窓箔部材における前記電子線の入射領域の面積で除算して得られる値である」との特定事項は、本件明細書等の「電流面密度は、フィラメントユニット2の管電流を、窓箔9aにおける電子線透過領域9f(電子線EBの入射領域)の面積で除算して得られる値である。」(【0056】)との記載に基づいて導き出される構成であるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
(ウ)実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項9は、上記(ア)及び(イ)に照らせば、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(10)小括
よって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
なお、訂正後の請求項1ないし16は、特許異議の申立てがなされた請求項であるといえるから、当該各請求項についての訂正には、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 訂正の適否についての判断の小括
以上のとおり、本件訂正は、訂正要件を満たすものである。そして、本件訂正は、上記1(2)のとおり、一群の請求項である訂正後の請求項〔1-8〕、〔9-16〕について請求されたものであるが、訂正後の請求項4、5及び〔6-8〕のそれぞれについては、別の訂正単位とする求めがなされている。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、4、5、〔6-8〕、〔9-16〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正後の請求項1ないし16に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」ないし「本件発明16」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
電子線を発生する電子線発生部と、
前記電子線発生部から発生した前記電子線を通過させる開口部が設けられた筐体部と、
前記開口部に配置され、前記開口部を通過した前記電子線を透過させる窓箔部材を有する電子線照射窓部と、
前記電子線発生部を制御する制御部と、を備え、
前記窓箔部材は、チタンを主成分として含む箔部材であり、
前記窓箔部材の厚さは、3×10-3mm以上且つ5×10-3mm以下であり、
前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が40kV以上且つ150kV以下となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が5.3mA/mm2以下(ただし、前記開口部を通過して照射対象物に照射される前記電子線の照射幅である電子線有効照射幅でビーム電流を割った電流線密度が0.4mA/cm以下となる範囲を除く)となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定し、
前記電流面密度は、前記電子線発生部の管電流を、前記窓箔部材における前記電子線の入射領域の面積で除算して得られる値である、電子線照射装置。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記制御部は、一種類の前記厚さの前記窓箔部材に対して、前記駆動電圧が小さくなるほど前記電流面密度が小さくなるように、前記駆動電流を制御する、請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項4】
電子線を発生する電子線発生部と、
前記電子線発生部から発生した前記電子線を通過させる開口部が設けられた筐体部と、
前記開口部に配置され、前記開口部を通過した前記電子線を透過させる窓箔部材を有する電子線照射窓部と、
前記電子線発生部を制御する制御部と、を備え、
前記窓箔部材は、チタンを主成分として含む箔部材であり、
前記窓箔部材の厚さは、2×10-3mm以上且つ1×10-2mm以下であり、
前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が40kV以上且つ150kV以下となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が5.3mA/mm2以下となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定し、
前記制御部は、一種類の前記厚さの前記窓箔部材に対して、前記駆動電圧が小さくなるほど前記電流面密度が小さくなるように、前記駆動電流を制御し、
前記制御部は、前記電子線発生部の駆動電圧と前記窓箔部材の厚さとに基づいて、前記電子線発生部の駆動電圧を変数とする2次関数で近似した限界電流面密度近似値を算出し、算出した前記限界電流面密度近似値以下となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する、電子線照射装置。
【請求項5】
電子線を発生する電子線発生部と、
前記電子線発生部から発生した前記電子線を通過させる開口部が設けられた筐体部と、
前記開口部に配置され、前記開口部を通過した前記電子線を透過させる窓箔部材を有する電子線照射窓部と、
前記電子線発生部を制御する制御部と、を備え、
前記窓箔部材は、チタンを主成分として含む箔部材であり、
前記窓箔部材の厚さは、2×10-3mm以上且つ1×10-2mm以下であり、
前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が40kV以上且つ150kV以下となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が5.3mA/mm2以下となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定し、
前記制御部は、前記電子線発生部の駆動電圧と前記窓箔部材の厚さとに基づいて、前記窓箔部材の厚さを変数とする1次関数で近似した限界電流面密度近似値を算出し、算出した前記限界電流面密度近似値以下となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する、電子線照射装置。
【請求項6】
電子線を発生する電子線発生部と、
前記電子線発生部から発生した前記電子線を通過させる開口部が設けられた筐体部と、
前記開口部に配置され、前記開口部を通過した前記電子線を透過させる窓箔部材を有する電子線照射窓部と、
前記電子線発生部を制御する制御部と、を備え、
前記窓箔部材は、チタンを主成分として含む箔部材であり、
前記窓箔部材の厚さは、3×10-3mm以上5×10-3mm以下であり、
前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が40kV以上且つ90kV未満となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が2.6mA/mm2未満となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する、電子線照射装置。
【請求項7】
前記窓箔部材の厚さは、4×10-3mm以上5×10-3mm以下であり、
前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が90kV未満となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が1.9mA/mm2未満となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する、請求項6に記載の電子線照射装置。
【請求項8】
前記窓箔部材の厚さは、5×10-3mmであり、
前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が90kV未満となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が1.1mA/mm2未満となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する、請求項7に記載の電子線照射装置。
【請求項9】
電子線を発生する電子線発生部と、
前記電子線発生部から発生した前記電子線を通過させる開口部が設けられた筐体部と、
前記開口部に配置され、前記開口部を通過した前記電子線を透過させる窓箔部材を有する電子線照射窓部と、
前記電子線発生部を制御する制御部と、を備える電子線照射装置の製造方法であって、
前記制御部による前記電子線発生部の駆動電圧の範囲を設定する第1ステップと、
前記窓箔部材における前記電子線の入射領域の面積を特定する第2ステップと、
前記入射領域の面積に基づいて、前記窓箔部材における電流面密度が所定の限界電流面密度以下となるように前記電子線発生部の駆動電流の範囲を設定する第3ステップと、を備え、
前記電流面密度は、前記電子線発生部の管電流を、前記窓箔部材における前記電子線の入射領域の面積で除算して得られる値である、電子線照射装置の製造方法。
【請求項10】
前記第2ステップは、前記窓箔部材に代えて蛍光部材を配置するステップと、前記蛍光部材において前記電子線の入射により発光する発光領域の面積を前記入射領域の面積として取得するステップと、前記発光領域の面積の取得後に前記蛍光部材を取り外して前記窓箔部材を配置するステップと、を含む、請求項9に記載の電子線照射装置の製造方法。
【請求項11】
厚さが2×10-3mm以上且つ1×10-2mm以下である前記窓箔部材を用意する第4ステップを備え、
前記第3ステップでは、一種類の前記厚さの前記窓箔部材に対して、前記第1ステップにおいて設定された前記駆動電圧の範囲の上限値が小さくなるほど、前記駆動電流の範囲の上限値を小さく設定する、請求項9又は10に記載の電子線照射装置の製造方法。
【請求項12】
前記第3ステップでは、前記電子線発生部の駆動電圧と前記窓箔部材の厚さとに基づいて、前記電子線発生部の駆動電圧を変数とする2次関数で近似した限界電流面密度近似値を算出し、算出した前記限界電流面密度近似値以下となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する、請求項11に記載の電子線照射装置の製造方法。
【請求項13】
前記第3ステップでは、前記電子線発生部の駆動電圧と前記窓箔部材の厚さとに基づいて、前記窓箔部材の厚さを変数とする1次関数で近似した限界電流面密度近似値を算出し、算出した前記限界電流面密度近似値以下となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する、請求項9~12の何れか一項に記載の電子線照射装置の製造方法。
【請求項14】
厚さが3×10-3mm以上5×10-3mm以下である前記窓箔部材を用意する第4ステップを備え、
前記第1ステップでは、前記電子線発生部の管電圧が130kV以下となるように前記制御部による前記電子線発生部の駆動電圧の範囲を設定し、
前記第3ステップでは、前記窓箔部材における電流面密度が5.3mA/mm2以下となるように前記駆動電流の範囲を設定する、請求項9~13の何れか一項に記載の電子線照射装置の製造方法。
【請求項15】
前記第4ステップでは、厚さが4×10-3mm以上5×10-3mm以下である前記窓箔部材を用意し、
前記第1ステップでは、前記電子線発生部の管電圧が130kV以下となるように前記制御部による前記電子線発生部の駆動電圧の範囲を設定し、
前記第3ステップでは、前記窓箔部材における電流面密度が4.7mA/mm2以下となるように前記駆動電流の範囲を設定する、請求項14に記載の電子線照射装置の製造方法。
【請求項16】
前記第4ステップでは、厚さが5×10-3mmである前記窓箔部材を用意し、
前記第1ステップでは、前記電子線発生部の管電圧が130kV以下となるように前記制御部による前記電子線発生部の駆動電圧の範囲を設定し、
前記第3ステップでは、前記窓箔部材における電流面密度が4.0mA/mm2以下となるように前記駆動電流の範囲を設定する、請求項15に記載の電子線照射装置の製造方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
特許請求の範囲の請求項1ないし16に係る特許(以下、それぞれ、「訂正前請求項1」ないし「訂正前請求項16」という。)に対して、当審が令和4年3月25日付けで特許権者に通知した取消理由)の要旨は、次のとおりである。
[理由1](進歩性)
(1)訂正前請求項1~16に係る発明は、出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲4に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前請求項1~16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
第5 甲号証及び甲号証に記載された発明
1 甲各号証
申立人1及び2が提出した甲各号証は次のとおりである。
(1)特開第5065362号公報(申立人1提出の甲第1号証。以下「甲1」という。)
(2)特開2005-17077号公報(申立人1提出の甲第2号証。以下「甲2」という。)
(3)特開平7-20295号公報(申立人1提出の甲第3号証。以下「甲3」という。)
(4)特開平6-317700号公報(申立人1提出の甲第4号証。以下「甲4」という。)
(5)特表2001-507800号公報(申立人2提出の甲第1号証。以下「甲5」という。)
(6)特開2015-127736号公報(申立人2提出の甲第2号証。以下「甲6」という。)
(7)浜松ホトニクス社のカタログ「低エネルギー電子線照射源 EB-ENGINE~性能・品質をさらなる高みへ~、浜松ホトニクス社ホームページ URL:https://www.hamamatsu.com/content/dam/hamamatsu-photonics/sites/documents/99_SALES_LIBRARY/etd/EB_ENGINE_TAPP1083J.pdf(申立人2提出の甲第3号証。以下「甲7」という。)
(8)特開2001-221896号公報(申立人2提出の甲第4号証。以下「甲8」という。)
(9)国際公開第2014/175065号(申立人2提出の甲第5号証。以下「甲9」という。)
2 甲4号証に記載された事項及び甲4号証に記載された発明
(1)本件特許出願の前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4には、下記の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同じ。)。
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、表面処理に利用されるものであって、特に、たとえば食品・薬品等を包装する包装材等の表面殺菌に利用される電子線照射装置に関するものである。・・・
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、現在の低エネルギータイプの電子線照射装置では、加速電圧の最小設定値は150kVであると認識されている。これは、加速電圧が150kVより小さいと、電子線の透過力が極めて弱く、電子線を発生する電子線発生部と電子線を被処理物に照射する処理室とを仕切る窓箔に大部分の電子線が吸収されるため、照射室内に効率よく電子線を取り出すことができず、しかも窓箔の温度がその耐熱温度以上に上昇するおそれがあるからである。このため、低エネルギー電子線を用いて表面処理を効率良く行うことができる電子線照射装置の実現が望まれている。」
イ 「【0015】本実施例の電子線照射装置は、表面処理、特に表面殺菌に利用されるものであり、図1に示すように、電子線発生部10と、照射室20と、照射窓部30とを備えるものである。
【0016】電子線発生部10は、電子線を発生するターミナル12と、ターミナル12で発生した電子線を真空空間(加速空間)で加速する加速管14とを有するものである。」
ウ 「【0019】照射窓部30は、金属箔からなる窓箔32と、窓箔32を冷却すると共に窓箔32を支持する窓枠構造体34とを有するものである。窓箔32は、電子線発生部10内の真空雰囲気と照射室20内の空気雰囲気とを仕切るものであり、また窓箔32を介して照射室20内に電子線を取り出すものである。殺菌処理等に電子線を応用する場合には、被処理物が電子線を照射される照射室20の内部は空気雰囲気であるので、電子線発生部10と照射室20との境界に設ける窓箔32には、ピンホールがなく、電子線発生部10内の真空雰囲気を十分維持できる機械的強度があり、しかも、電子線が透過しやすいように比重が小さく肉厚の薄い金属が望ましい。たとえば、窓箔32に使用される金属として厚さ約10μm程度のTiがある。通常は、窓箔32として、機械的な取扱いやすさから、厚さ約13μmのTi箔が最もよく使用されている。
【0020】加熱用電源16aによりフィラメント12aに電流を通じて加熱するとフィラメント12aは熱電子を放出し、この熱電子は、フィラメント12aとグリッド12cとの間に印加された制御用直流電源16bの制御電圧により四方八方に引き寄せられる。このうち、グリッド12cを通過したものだけが電子線として有効に取り出される。そして、このグリッド12cから取り出された電子線は、グリッド12cと窓箔32との間に印加された加速用直流電源16cの加速電圧により加速管14内の加速空間で加速された後、窓箔32を突き抜け、照射窓部30の下方の照射室20内を搬送される被処理物に照射される。尚、通常は、加熱用電源16aと加速用直流電源16cとを所定の値に設定し、制御用直流電源16bを可変にすることにより、ビーム電流の調整を行っている。
【0021】本実施例の電子線照射装置は、最大加速電圧が175kV、電子線有効照射幅、すなわち窓箔32を介して電子線発生部10から照射室20内に取り出し、被処理物に照射できる電子線の照射幅が15cm、最大ビーム電流が10mA、被処理物の移動速度が3?65m/min、最大照射量が60Mradであるものである。特に、本実施例の電子線照射装置は、加速電圧を90~150kVの範囲内でも設定可能であって、加速電圧をこの低い範囲内の値に設定したときには、ビーム電流を電子線有効照射幅で割った値である電流密度を0.01~0.40mA/cmの範囲内で設定できるように構成されている。尚、電流密度(mA/cm)は、ビーム電流(mA)÷電子線有効照射幅(cm)で与えられる。
【0022】ところで、従来の低エネルギータイプの電子線照射装置では、設定できる加速電圧の最小値は150kVであると認識されていた。これは、150kV以下の加速電圧で加速した電子線は透過力が弱いため、大部分のものが窓箔に吸収され、照射室内に効率よく電子線を取り出すことができず、しかも窓箔の温度がその耐熱温度以上に上がってしまうと考えられていたからである。したがって、従来の低エネルギータイプの電子線照射装置には、150kVより小さい加速電圧を設定できないように、ロック機構等が設けられていた。」
エ 「【0027】本発明者等は経験的に、電子線照射装置に使用されるTi箔の耐熱温度が約500°Cであると把握している。一般に、電子線照射装置を用いて行う処理に、樹脂の硬化、改質、架橋等があるが、これらの処理を行う場合には、3Mrad以上の線量を必要とし、コンベアスピードを50m/min以上、電流密度を0.7mA/cm以上に設定している。このため、かかる場合には、図4から、加速電圧を100kVとすると、Ti箔の温度がその耐熱温度以上に上がってしまうので、12.7μm厚のTi箔を使用できない。しかし、電子線照射装置を表面処理等に使用する場合には、加速電圧を100kVとしても、電流密度はあまり大きくする必要がないので、電流密度を0.4mA/cm以下の範囲で設定すれば、Ti箔の温度をその耐熱温度以下に抑えることができることがわかる。
【0028】したがって、電子線照射装置を、加速電圧が90~150kV、電流密度が0.01~0.4mA/cmであるように設定すれば、電子線を照射室20に効率良く取り出すことができ、しかもTi箔の温度をその耐熱温度以下に抑えることができるので、本実施例の電子線照射装置を用いると、表面処理を効率良く行うことができる。ここで、電流密度が0.01mA/cmより小さいと、コンベアスピードをあまりにも遅く調整しなければならず、実用的な処理能力を得ることができない。このことから、上記電流密度の下限値0.01mA/cmが定められた。」
オ 図1は次のものである。
[図:0001398233000001.jpg]
カ 上記イの記載を踏まえて上記オの図1を見ると、加速管14には、電子線を発生するターミナル12で発生した電子線を通過させる開口部が設けられ、開口部には照射窓部30が設けられていることが見て取れる。
(2)したがって、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。(摘記の根拠段落も括弧内に示した。)
「電子線発生部10と、照射室20と、照射窓部30とを備える電子線照射装置であって(【0015】)、
前記電子線発生部10は、電子線を発生するターミナル12と、ターミナル12で発生した電子線を真空空間(加速空間)で加速する加速管14とを有し(【0015】)、
前記加速管14には、電子線を発生するターミナル12で発生した電子線を通過させる照射窓部30につながる開口部が設けられ(上記(1)カ)、
前記照射窓部30は、金属箔からなる窓箔32と、窓箔32を冷却すると共に窓箔32を支持する窓枠構造体34とを有し、前記窓箔32に使用される金属としては厚さ約10μm程度のTiであり(【0019】)、
前記電子線照射装置は、加速電圧を90~150kVの範囲内でも設定可能であって、加速電圧をこの範囲内の値に設定したときには、ビーム電流を電子線有効照射幅で割った値である電流密度(電流密度(mA/cm)は、ビーム電流(mA)÷電子線有効照射幅(cm)で与えられる。)を0.01~0.40mA/cmの範囲内で設定できるように構成されていて(【0021】)、
前記電子線照射装置を表面処理等に使用する場合には、加速電圧を100kVとしても、電流密度はあまり大きくする必要がないので、電流密度を0.4mA/cm以下の範囲で設定すれば、Ti箔の温度をその耐熱温度以下に抑えることができる(【0027】)、
電子線照射装置(【0001】)。」
(3)また、上記(1)を踏まえると、甲4には、甲4発明を製造する方法である次の発明(以下「甲4方法発明」という。)が記載されているとも認められる。(摘記の根拠段落も括弧内に示した。)
「電子線発生部10と、照射室20と、照射窓部30とを備える電子線照射装置であって(【0015】)、
前記電子線発生部10は、電子線を発生するターミナル12と、ターミナル12で発生した電子線を真空空間(加速空間)で加速する加速管14とを有し(【0015】)、
前記加速管14には、電子線を発生するターミナル12で発生した電子線を通過させる照射窓部30につながる開口部が設けられ(上記(1)カ)、
前記照射窓部30は、金属箔からなる窓箔32と、窓箔32を冷却すると共に窓箔32を支持する窓枠構造体34とを有し、前記窓箔32に使用される金属としては厚さ約10μm程度のTiであり(【0019】)、
前記電子線照射装置は、加速電圧を90~150kVの範囲内でも設定可能であって、加速電圧をこの範囲内の値に設定したときには、ビーム電流を電子線有効照射幅で割った値である電流密度(電流密度(mA/cm)は、ビーム電流(mA)÷電子線有効照射幅(cm)で与えられる。)を0.01~0.40mA/cmの範囲内で設定するステップと(【0021】)、
前記電子線照射装置を表面処理等に使用する場合には、加速電圧を100kVとしても、電流密度はあまり大きくする必要がないので、電流密度を0.4mA/cm以下の範囲で設定すれば、Ti箔の温度をその耐熱温度以下に抑えるステップからなる(【0027】)、
電子線照射装置の製造方法(【0001】)。」
第6 当審の判断
1 取消理由の[理由1]について
1-1 甲4発明を主引例とする場合(本件発明1~8に対して)
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲4発明の対比
(ア)甲4発明の「ターミナル12」は、本件発明1の「電子線を発生する電子線発生部」に相当する。
(イ)甲4発明の「電子線を発生するターミナル12で発生した電子線を通過させる照射窓部30につながる開口部が設けられ」た「加速管14」は、本件発明1の「前記電子線発生部から発生した前記電子線を通過させる開口部が設けられた筐体部」に相当する。
(ウ)甲4発明の「窓箔32」は、本件発明1の「窓箔部材」に相当するから、甲4発明の「前記加速管14には、電子線を発生するターミナル12で発生した電子線を通過させる開口部が設けられ、開口部には照射窓部30が設けられ」、「金属箔からなる窓箔32と、窓箔32を冷却すると共に窓箔32を支持する窓枠構造体34とを有し」た「照射窓部30」は、本件発明1の「前記開口部に配置され、前記開口部を通過した前記電子線を透過させる窓箔部材を有する電子線照射窓部」に相当する。
(エ)甲4発明の「窓箔32に使用される金属としては厚さ約10μm(=1×10-2mm)程度のTiであ」ることは、本件発明1の「前記窓箔部材は、チタンを主成分として含む箔部材であ」ることに相当する。
(オ)甲4発明の「前記電子線照射装置は、加速電圧を90~150kVの範囲内でも設定可能であって、加速電圧をこの範囲内の値に設定したときには、ビーム電流を電子線有効照射幅で割った値である電流密度を0.01~0.40mA/cmの範囲内で設定できるように構成されてい」ることは、本件発明1の「前記電子線発生部の管電圧が40kV以上且つ150kV以下となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が5.3mA/mm2以下(ただし、前記開口部を通過して照射対象物に照射される前記電子線の照射幅である電子線有効照射幅でビーム電流を割った電流線密度が0.4mA/cm以下となる範囲を除く)となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する」ことと、「前記電子線発生部の管電圧が90kV以上且つ150kV以下となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し」「前記電子線発生部の駆動電流を設定する」点で一致する。
(カ)甲4発明の「電子線照射装置」は、本件発明1の「電子線照射装置」に相当する。
(ク)したがって、本件発明1と甲4発明とは、
「電子線を発生する電子線発生部と、
前記電子線発生部から発生した前記電子線を通過させる開口部が設けられた筐体部と、
前記開口部に配置され、前記開口部を通過した前記電子線を透過させる窓箔部材を有する電子線照射窓部と、を備え、
前記窓箔部材は、チタンを主成分として含む箔部材であり、
前記電子線発生部の管電圧が90kV以上且つ150kV以下となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記電子線発生部の駆動電流を設定する、電子線照射装置。」
の点で一致し、
以下の各点で相違する。
(相違点1-1)
「窓箔部材」について、本件発明1は、「厚さは、3×10-3mm以上且つ5×10-3mm以下であ」ると特定するのに対して、甲4発明は、「厚さ約10μm(=1×10-2mm)程度」である点。
(相違点1-2)
本件発明1は、「電子線発生部を制御する制御部を備え」、また、電子線発生部の駆動電流を設定するに際して、当該「制御部」が「窓箔部材における電流面密度が5.3mA/mm2以下(ただし、前記開口部を通過して照射対象物に照射される前記電子線の照射幅である電子線有効照射幅でビーム電流を割った電流線密度が0.4mA/cm以下となる範囲を除く)となるように」設定するのに対し、甲4発明は、そのような制御部を備えるかどうか明らかではなく、また、そのように設定するとも特定されない点。
(相違点1-3)
「電流面密度」について、本件発明1は、「電子線発生部の管電流を、窓箔部材における電子線の入射領域の面積で除算して得られる値である」と特定するのに対して、甲4発明は、そのように特定されない点。
イ 判断
(ア)上記相違点1-1について
甲4発明の電子線照射装置の照射窓部30に使用されるTi金属箔からなる窓箔32は、甲4に「電子線発生部10と照射室20との境界に設ける窓箔32には、ピンホールがなく、電子線発生部10内の真空雰囲気を十分維持できる機械的強度があり、しかも、電子線が透過しやすいように比重が小さく肉厚の薄い金属が望ましい。」(【0019】)と記載されているように、「ピンホールがなく」、「真空雰囲気を十分維持できる機械的強度があ」るとの条件を満たす限り、「肉厚の薄い金属が望ましい」といえる。
また、電子線照射装置の照射窓部に使用されるTi金属箔からなる窓箔の厚さとして、3×10-3mm以上且つ5×10-3mm以下の範囲ものは周知の技術的事項であったといえる(例えば、特開2010-48823号公報(甲1の分割の基礎となった出願の公開公報)の【0029】「箔支持アセンブリの薄い箔がチタンまたはチタン合金で作られており・・・3~10マイクロメートルの範囲内の厚・・・である。」、特開2005-17077号公報(甲2)の【0008】「厚さ3μmのチタン箔で成る窓箔」、及び、国際公開第2014/175065号(甲9)の[0028]「薄膜3bには、例えば、チタン、タングステン、金のような金属の箔が用いられる。薄膜3bは、例えば、4~12.5μmの厚みを有する。」参照)。
したがって、甲4発明において、「肉厚の薄い金属が望ましい」ことを考慮しつつ、「ピンホールがなく」、「真空雰囲気を十分維持できる機械的強度があ」るとの条件を満たす下限として、上記周知の技術的事項を踏まえて3マイクロメートルと定めて、電子線照射装置の照射窓部に使用されるTi金属箔からなる窓箔の厚さとして、3×10-3mm以上且つ5×10-3mm以下の範囲のものとなし、上記相違点1-1に係る本件発明1の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
(イ)上記相違点1-2について
a 甲4発明の「電子線照射装置」は、「加速電圧を90~150kVの範囲内でも設定可能であって、加速電圧をこの範囲内の値に設定したときには、ビーム電流を電子線有効照射幅で割った値である電流密度を0.01~0.40mA/cmの範囲内で設定できるように構成されていて、前記電子線照射装置を表面処理等に使用する場合には、加速電圧を100kVとしても、電流密度はあまり大きくする必要がないので、電流密度を0.4mA/cm以下の範囲で設定すれば、Ti箔の温度をその耐熱温度以下に抑えることができる」ものであるから、「加速電圧」と「ビーム電流」を何らかの形で制御する手段を備えているといえる。
そうすると、甲4発明においても、「制御部」を備えているといえるし、また、そこまではいえないとしても、甲4発明において「制御部」を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
b(a)また、本件発明1は、「前記窓箔部材の厚さは、3×10-3mm以上且つ5×10-3mm以下であり、前記制御部は、前記電子線発生部の管電圧が40kV以上且つ150kV以下となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記窓箔部材における電流面密度が5.3mA/mm2以下(ただし、前記開口部を通過して照射対象物に照射される前記電子線の照射幅である電子線有効照射幅でビーム電流を割った電流線密度が0.4mA/cm以下となる範囲を除く)となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する」ことを発明特定事項とする。
(b)ここで、本件の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の段落【0056】には「電流面密度は、フィラメントユニット2の管電流を、窓箔9aにおける電子線透過領域9f(電子線EBの入射領域)の面積で除算して得られる値である。電流面密度の単位は、例えば(mA/mm2)である。限界電流面密度とは、冷却部100によって窓箔9aが冷却されていても、窓箔9aの温度が許容温度を超えて窓箔9aが熱によって破損する蓋然性が高い電流面密度を意味する。」と記載される。
(c)また、本件明細書等の特に図8、9は次のものである。
[図:0001398233000002.jpg]
(d)上記(b)の「限界電流面密度」の定義を踏まえて、上記(c)の図8及び9を見ると、「限界電流面密度」は、「窓箔部材の厚さ」と「管電圧」の両パラメータに応じて変化する値であって、「窓箔部材の厚さ」が大きくなるほど小さくなり、「管電圧」が大きくなるほど大きくなり、窓箔部材の厚さが、3×10-3mm、管電圧が130kVの場合に5.3mA/mm2となることが理解できる。
そうすると、「窓箔部材における電流面密度が5.3mA/mm2以下」にすることは、窓箔部材の厚さが、2×10-3mm以上且つ1×10-2mm以下であり、管電圧が40kV以上且つ150kV以下の(窓箔部材の厚さが2×10-3mm~3×10-3mm、かつ、管電圧が130kV~150kVであるわずかな部分を除く)大部分の場合における「限界電流面密度」の値以上のある特定の値以下にするということを意味するものと解される。
c(a)一方、甲4発明の「電子線照射装置」は、「ビーム電流を電子線有効照射幅で割った値である電流密度(電流密度(mA/cm)は、ビーム電流(mA)÷電子線有効照射幅(cm)で与えられる。)を0.01~0.40mA/cmの範囲内で設定できるように構成されてい」るところ、「Ti箔の温度をその耐熱温度以下に抑える」ために「電流密度を0.4mA/cm以下の範囲で設定す」るものである。ここで、甲4発明は、「Ti箔の温度をその耐熱温度以下に抑える」ための条件として、窓箔32における電流密度の上限値を定めているのであるから、電流面密度の上限値をも同時に定められていることは明らかである。
(b)そして、甲4発明において、電流面密度の上限値を、「Ti箔の温度をその耐熱温度以下に抑える」ための条件を満たすように設定する事に替えて、使用環境の大部分における限界となる値以上のある特定の値とすることは、単なる設計上の事項に過ぎない。
また、その際に、開口部を通過して照射対象物に照射される電子線の照射幅である電子線有効照射幅でビーム電流を割った電流線密度が0.4mA/cm以下となる範囲を除くことに格別の技術的意義はなく、単なる設計上の事項に過ぎない。
したがって、甲4発明において、上記相違点1-2に係る本件発明1の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
(ウ)上記相違点1-3について
「電流面密度」は、一般的に、単位面積に垂直な方向に単位時間に流れる電気量(電荷)のことを意味しており、電流面密度/厚み=電流線密度/断面積、が成立するから、これを具体的な電子線発生部の管電流と窓箔部材に適用して、電流線密度を電流面密度に換算して「電子線発生部の管電流を、窓箔部材における電子線の入射領域の面積で除算して得られる値」とすることは、当業者が発明を実施するに際して適宜なし得る設計的事項にすぎない。
(エ)よって、本件発明1は、甲4発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1に「前記制御部は、一種類の前記厚さの前記窓箔部材に対して、前記駆動電圧が小さくなるほど前記電流面密度が小さくなるように、前記駆動電流を制御する」との発明特定事項(を付加する発明である。
したがって、上記(1)で検討した本件発明1と甲4発明との相違点1-1、1-2及び1-3に加えて、本件発明3が「前記制御部は、一種類の前記厚さの前記窓箔部材に対して、前記駆動電圧が小さくなるほど前記電流面密度が小さくなるように、前記駆動電流を制御する」と特定されるのに対し、甲4発明はこのように特定されない点(以下、「相違点3 」という。)でも相違する。
これに対して、甲4には、「従来の低エネルギータイプの電子線照射装置では、設定できる加速電圧の最小値は150kVであると認識されていた。これは、150kV以下の加速電圧で加速した電子線は透過力が弱いため、大部分のものが窓箔に吸収され、照射室内に効率よく電子線を取り出すことができず、しかも窓箔の温度がその耐熱温度以上に上がってしまうと考えられていたからである。したがって、従来の低エネルギータイプの電子線照射装置には、150kVより小さい加速電圧を設定できないように、ロック機構等が設けられていた。」(【0022】)と記載されている。
したがって、甲4には、加速電圧(駆動電圧)が小さいほど窓箔の温度が耐熱温度以上に上がりやすくなるため、加速電圧(駆動電圧)を小さく、つまり、電流の密度を小さくなるように制御しなければならなくなることが示唆されているといえるから、甲4発明において、加速電圧(駆動電圧)が小さくなるほど電流密度が小さくなるように、前記加速電圧(駆動電圧)を制御して、上記相違点3に係る本件発明3の構成となすことは当業者が容易に想到し得たことである。
また、相違点1-1、1-2及び1-3については、上記(1)で検討したとおりである
よって[s1]、本件発明3は、甲4発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明4について
ア 本件発明4と甲4発明の対比
本件発明4と甲4発明は、上記(1)及び(2)での検討を踏まえると、
「電子線を発生する電子線発生部と、
前記電子線発生部から発生した前記電子線を通過させる開口部が設けられた筐体部と、
前記開口部に配置され、前記開口部を通過した前記電子線を透過させる窓箔部材を有する電子線照射窓部と、
を備え、
前記窓箔部材は、チタンを主成分として含む箔部材であり、
前記電子線発生部の管電圧が90kV以上且つ150kV以下となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記電子線発生部の駆動電流を設定する、電子線照射装置。
の点で一致し、
以下の各点で相違する。
(相違点4-1)
「窓箔部材」について、本件発明4は、「厚さは、2×10-3mm以上且つ1×10-2mm以下であ」ると特定するのに対して、甲4発明は、「厚さ約10μm(=1×10-2mm)程度」である点。
(相違点4-2)
本件発明4は、「電子線発生部を制御する制御部を備え」、また、電子線発生部の駆動電流を設定するに際して、当該「制御部」が「窓箔部材における電流面密度が5.3mA/mm2以下となるように」設定するのに対し、甲4発明は、そのような制御部を備えるかどうか明らかではなく、また、そのように設定するとも特定されない点。
(相違点4-3)
本件発明4は、「一種類の前記厚さの前記窓箔部材に対して、前記駆動電圧が小さくなるほど前記電流面密度が小さくなるように、前記駆動電流を制御」する「制御部」を備えると特定するのに対して、甲4発明は、そのような制御部を備えると特定されない点。
(相違点4-4)
本件発明4は、「前記電子線発生部の駆動電圧と前記窓箔部材の厚さとに基づいて、前記電子線発生部の駆動電圧を変数とする2次関数で近似した限界電流面密度近似値を算出し、算出した前記限界電流面密度近似値以下となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する」する「制御部」を備えると特定するのに対して、甲4発明は、そのような制御部を備えると特定されない点。
イ 判断
(ア)上記相違点4-1について
上記(1)イ(ア)における相違点1-1についての検討を踏まえると、相違点4-1は相違点1-1と比べて、「窓箔部材の厚さ」の特定範囲を3×10-3mm以上且つ5×10-3mm以下とするものから、2×10-3mm以上且つ1×10-2mm以下とするものに拡大したものであるところ、「窓箔部材の厚さ」の特定範囲を3×10-3mm以上且つ5×10-3mm以下とするものを含んでいる。
したがって、相違点1-1について検討した理由と同様の理由により、甲4発明において、「肉厚の薄い金属が望ましい」ことを考慮して、電子線照射装置の照射窓部に使用されるTi金属箔からなる窓箔の厚さとして、3×10-3mm以上且つ5×10-3mm以下の範囲を含む適宜の範囲のものとなし、上記相違点4-1に係る本件発明4の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
(イ)上記相違点4-2について
相違点4-2は、上記(1)イ(イ)で検討した相違点1-2と同じ相違点であるから、相違点1-2について検討した理由と同様の理由により、甲4発明において、上記相違点4-2に係る本件発明4の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
(ウ)上記相違点4-3について
相違点4-3は、上記(2)で検討した相違点3と同じ相違点であるから、相違点3について検討した理由と同様の理由により、甲4発明において、上記相違点4-3に係る本件発明4の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
(エ)上記相違点4-4について
相違点4-4に対して、甲4には、「加速電圧が150kVより小さいと、電子線の透過力が極めて弱く、電子線を発生する電子線発生部と電子線を被処理物に照射する処理室とを仕切る窓箔に大部分の電子線が吸収されるため、照射室内に効率よく電子線を取り出すことができず、しかも窓箔の温度がその耐熱温度以上に上昇するおそれがあるからである。」(【0007】)、「また、本発明者等は、100kVと150kVの加速電圧に対して電流密度と窓箔32の温度との関係を測定した。ここで、窓箔32として12.7μm厚のTi箔を用いた。この測定結果を図4に示す。加速電圧が100kVである場合には、加速電圧が150kVである場合に比べて、電流密度に対するTi箔の温度上昇率が大きい。これは、加速電圧により電子線の得るエネルギーが異なり、エネルギーの低い電子線ほど窓箔を透過できないので、加速電圧が低いときに窓箔温度が上昇しやすいためである。また、ビーム電流が大きいほど電子線の量が多いためである。(【0026】)及び「加速電圧を100kVとすると、Ti箔の温度がその耐熱温度以上に上がってしまうので、12.7μm厚のTi箔を使用できない。」(【0027】)と記載されている。
したがって、甲4には、加速電圧(駆動電圧)が小さいほど、また、窓箔の厚みが厚いほど、窓箔に電子線が吸収されて窓箔の温度が耐熱温度以上に上昇するため、窓箔の厚みを考慮しつつ加速電圧(駆動電圧)を所定より小さく、つまり、電流の密度を所定より小さく制御する必要があることが示唆されているところ、加速電圧(駆動電圧)と窓箔の厚みから電流の密度を求める式をどの程度まで(1次関数まで、2次関数まで等)近似するかは発明を実施するに際して当業者が適宜定める設計的事項にすぎないから、甲4発明において、加速電圧(駆動電圧)と窓箔の厚みから電流の密度を求める適宜の次数まで近似した式を用いて電流密度を求めて、当該電流密度が所定以下となるように、前記加速電圧(駆動電圧)を設定する構成となして、上記相違点4-4に係る本件発明4の構成となすことは当業者が容易に想到し得たことである。
(オ)よって、本件発明4は、甲4発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)本件発明5について
ア 本件発明5と甲4発明の対比
本件発明5と甲4発明は、上記(1)ないし(3)での検討を踏まえると、
「電子線を発生する電子線発生部と、
前記電子線発生部から発生した前記電子線を通過させる開口部が設けられた筐体部と、
前記開口部に配置され、前記開口部を通過した前記電子線を透過させる窓箔部材を有する電子線照射窓部と、
を備え、
前記窓箔部材は、チタンを主成分として含む箔部材であり、
前記電子線発生部の管電圧が90kV以上且つ150kV以下となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記電子線発生部の駆動電流を設定する、電子線照射装置。」
の点で一致し、
以下の各点で相違する。
(相違点5-1)
「窓箔部材」について、本件発明5は、「厚さは、2×10-3mm以上且つ1×10-2mm以下であ」ると特定するのに対して、甲4発明は、「厚さ約10μm(=1×10-2mm)程度」である点。
(相違点5-2)
本件発明5は、「電子線発生部を制御する制御部を備え」、また、電子線発生部の駆動電流を設定するに際して、当該「制御部」が「窓箔部材における電流面密度が5.3mA/mm2以下となるように」設定するのに対し、甲4発明は、そのような制御部を備えるかどうか明らかではなく、また、そのように設定するとも特定されない点。
(相違点5-3)
本件発明5は、「前記電子線発生部の駆動電圧と前記窓箔部材の厚さとに基づいて、前記窓箔部材の厚さを変数とする1次関数で近似した限界電流面密度近似値を算出し、算出した前記限界電流面密度近似値以下となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する」「制御部」を備えると特定するのに対して、甲4発明は、そのような制御部を備えると特定されない点。
イ 判断
(ア)上記相違点5-1について
相違点5-1は、上記(3)イ(ア)で検討した相違点4-1と同じ相違点であるから、相違点4-1について検討した理由と同様の理由により、甲4発明において、上記相違点5-1に係る本件発明5の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
(イ)上記相違点5-2について
相違点5-2は、上記(1)イ(イ)で検討した相違点1-2と同じ相違点であるから、相違点1-2について検討した理由と同様の理由により、甲4発明において、上記相違点5-2に係る本件発明5の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
(ウ)上記相違点5-3について
相違点5-3については、上記(3)イ(エ)における検討と同様の理由により、甲4(【0007】)、【0026】、【0027】)の記載を踏まえると、甲4発明において、加速電圧(駆動電圧)と窓箔の厚みから電流の密度を求める適宜の次数まで近似した式を用いて電流密度を求めて、当該電流密度が所定以下となるように、前記加速電圧(駆動電圧)を設定する構成となして、上記相違点5-3に係る本件発明5の構成となすことは当業者が容易に想到し得たことである。
(エ)よって、本件発明5は、甲4発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)本件発明6について
ア 本件発明6と甲4発明の対比
本件発明6と甲4発明は、上記(1)ないし(4)での検討を踏まえると、
「電子線を発生する電子線発生部と、
前記電子線発生部から発生した前記電子線を通過させる開口部が設けられた筐体部と、
前記開口部に配置され、前記開口部を通過した前記電子線を透過させる窓箔部材を有する電子線照射窓部と、
を備え、
前記窓箔部材は、チタンを主成分として含む箔部材であり、
前記電子線発生部の駆動電圧を設定し、前記電子線発生部の駆動電流を設定する、電子線照射装置。」
の点で一致し、
以下の各点で相違する。
(相違点6-1)
「窓箔部材」について、本件発明6は、「厚さは、3×10-3mm以上5×10-3mm以下であ」ると特定するのに対して、甲4発明は、「厚さ約10μm(=1×10-2mm)程度」である点。
(相違点6-2)
本件発明6は、「電子線発生部を制御する制御部を備え」、また、電子線発生部の駆動電流を設定するに際して、当該「制御部」が「前記窓箔部材における電流面密度が2.6mA/mm2未満となるように」設定するのに対し、甲4発明は、そのような制御部を備えるかどうか明らかではなく、また、そのように設定するとも特定されない点。
(相違点6-3)
本件発明6は、「前記電子線発生部の管電圧が40kV以上且つ90kV未満となるように前記電子線発生部の駆動電圧を設定」する「制御部」を備えると特定するのに対して、甲4発明は、そのような制御部を備えると特定されない点。
イ 判断
(ア)上記相違点6-1について
相違点6-1は、上記(1)イ(ア)で検討した相違点1-1と同じ相違点であるから、相違点1-1について検討した理由と同様の理由により、甲4発明において、上記相違点6-1に係る本件発明6の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
(イ)上記相違点6-2について
相違点6-2は、上記(1)イ(イ)で検討した相違点1-2において、電流面密度を5.3mA/mm2以下から2.6mA/mm2未満に限定したものであるところ、上記(1)イ(イ)b(c)の図8、9からは、電流面密度としての2.6mA/mm2は、想定されている使用環境の多くの範囲において限界となる値であることが見てとれる。
したがって、上記(1)イ(イ)で相違点1-2についての検討と同様に、上記甲4発明において、電流面密度の上限値を、「Ti箔の温度をその耐熱温度以下に抑える」ための条件を満たすように設定する事に替えて、使用環境の多くの範囲における限界となる値以上のある特定の値とすることは、単なる設計上の事項に過ぎないから、上記(1)イ(イ)で相違点1-2について検討した理由と同様の理由により、甲4発明において、上記相違点6-2に係る本件発明6の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
(ウ)上記相違点6-3について
甲4発明の「電子線照射装置」は、「加速電圧を90~150kVの範囲内でも設定可能であ」り、また、「前記窓箔32に使用される金属としては厚さ約10μm程度のTiであ」るところ、上記(3)イ(エ)で検討したように、甲4には、加速電圧(駆動電圧)が小さいほど、また、窓箔の厚みが厚いほど、窓箔に電子線が吸収されて窓箔の温度が耐熱温度以上に上昇するため、窓箔の厚みを考慮しつつ加速電圧(駆動電圧)を所定より小さく、つまり、電流の密度を所定より小さく制御する必要があることが示唆されているから、加速電圧(駆動電圧)と窓箔の厚みは互いにトレードオフの関係にあるといえる。
したがって、窓箔32に使用されるTiの厚みを薄くすることで、加速電圧を90kVより小さい範囲とすることできることは明らかであるところ、上記(1)イ(ア)に示したとおり、3~5μm程度の厚みのTiの窓箔は従来周知の素材であるから、甲4発明において、3~5μm程度の厚みのTiの窓箔を採用して加速電圧を90kVより小さい範囲となすことに格別の技術的困難性は認められない。
したがって、甲4発明において、加速電圧を40~90kVの範囲内となして、上記相違点6-3に係る本件発明6の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
(エ)よって、本件発明6は、甲4発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6)本件発明7及び8について
本件発明7は、本件発明6において、窓箔部材の厚さを「4×10-3mm以上5×10-3mm以下」とし、電子線発生部の管電圧を「90kV未満」とし、窓箔部材における電流面密度を「1.9mA/mm2未満」と限定する発明であり、また、本件発明8は、本件発明7において、窓箔部材の厚さを「5×10-3mm」とし、電子線発生部の管電圧を「90kV未満」とし、窓箔部材における電流面密度を「1.1mA/mm2未満」と限定する発明である。
したがって、上記(5)で検討した本件発明6と甲4発明との相違点6-1、6-2及び6-3に加えて、本件発明7が、窓箔部材の厚さを「4×10-3mm以上5×10-3mm以下」とし、電子線発生部の管電圧を「90kV未満」とし、窓箔部材における電流面密度を「1.9mA/mm2未満」と特定するのに対し、甲4発明はこのように特定されない点(以下、「相違点7」という。)でも相違するとともに、本件発明8が、窓箔部材の厚さを「5×10-3mm」とし、電子線発生部の管電圧を「90kV未満」とし、窓箔部材における電流面密度を「1.1mA/mm2未満」と限定するのに対し、甲4発明はこのように特定されない点(以下、「相違点8」という。)でも相違する。
これに対して、窓箔部材の厚さ、電子線発生部の管電圧及び窓箔部材における電流面密度については、相違点1-2(上記(1)イ(イ))、相違点4-1(上記(3)イ(ア))及び相違点6-3(上記(5)イ(ウ))で検討したとおりであり、甲4発明において、窓箔部材の厚さ、電子線発生部の管電圧及び窓箔部材における電流面密度を適宜の数値のものとなして、上記相違点7に係る本件発明7の構成、あるいは、上記相違点8に係る本件発明8の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
よって、本件発明7及び8は、甲4発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
1-2 甲4方法発明を主引例とする場合(本件発明9~16に対して)
(1)本件発明9について
ア 本件発明9と甲4方法発明の対比
上記1-1(1)アにおける本件発明1と甲4発明の対比を踏まえると、本件発明9と甲4方法発明とは、
「電子線を発生する電子線発生部と、
前記電子線発生部から発生した前記電子線を通過させる開口部が設けられた筐体部と、
前記開口部に配置され、前記開口部を通過した前記電子線を透過させる窓箔部材を有する電子線照射窓部と、を備える電子線照射装置の製造方法であって、
前記電子線発生部の駆動電圧の範囲を設定する第1ステップと、
前記窓箔部材における電流密度が所定の電流密度以下となるように前記電子線発生部の駆動電流の範囲を設定する第3ステップと、を備える、電子線照射装置の製造方法。」
の点で一致し、
以下の各点で相違する。
(相違点9-1)
本件発明9は、「電子線発生部を制御する制御部」を備えるとともに、当該「制御部」が前記電子線発生部の駆動電圧の範囲を設定するのに対し、甲4方法発明は、そのような制御部を備えると明記されない点。
(相違点9-2)
本件発明9は、「前記窓箔部材における前記電子線の入射領域の面積を特定する第2ステップ」を備え、「前記入射領域の面積に基づいて」、前記窓箔部材における「電流面密度」が所定の「限界電流面密度」以下となるように前記電子線発生部の駆動電流の範囲を設定するのに対し、甲4方法発明は、「ビーム電流を電子線有効照射幅で割った値である電流密度(電流密度(mA/cm)は、ビーム電流(mA)÷電子線有効照射幅(cm)で与えられる。)を0.01~0.40mA/cmの範囲内で設定」し、「電流密度を0.4mA/cm以下の範囲で設定す」る点
(相違点9-3)
「電流面密度」について、本件発明9は、「電子線発生部の管電流を、窓箔部材における電子線の入射領域の面積で除算して得られる値である」と特定するのに対して、甲4発明は、そのように特定されない点。
イ 判断
上記各相違点について検討する。
(ア)相違点9-1について
相違点9-1は、上記1-1(1)イ(イ)で相違点1―2について検討した理由と同じ理由により、甲4方法発明を実施するに際して、当該「加速電圧」を所定の範囲内で設定する具体的な手段として、「加速電圧」を制御する制御手段を備える構成となして、上記相違点9-1に係る本件発明9の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
(イ)相違点9-2について
甲4方法発明の「電子線照射装置」は、「ビーム電流を電子線有効照射幅で割った値である電流密度(電流密度(mA/cm)は、ビーム電流(mA)÷電子線有効照射幅(cm)で与えられる。)を0.01~0.40mA/cmの範囲内で設定できるように構成されてい」るところ、「Ti箔の温度をその耐熱温度以下に抑える」ために「電流密度を0.4mA/cm以下の範囲で設定す」るものである。
ここで、甲4方法発明では、「Ti箔の温度をその耐熱温度以下に抑える」ための条件を、「電流密度」で定めていて、「電流面密度」とはパラメータは異なるものの電流密度の上限値を設定している点において相違はない。また、「電子線有効照射」面積に基づいて定まる「電流面密度」は、電子線有効照射幅に基づいて定まる「電流密度」より、「電子線有効照射」領域を特定するものであって、より正確に「Ti箔の温度をその耐熱温度以下に抑える」ことができるパラメータであることは明らかである。
そして、甲4発明において、「Ti箔の温度をその耐熱温度以下に抑える」ための条件としてのパラメータを「電流密度」に変えて「電流面密度」とするに際して、電子線有効照射幅に変えて電子線有効照面積を特定する必要があることは技術常識であるから、電子線有効照面積を特定するために、窓箔32における電子線の入射領域の面積を特定することは当業者が当然なすことにすぎない。
したがって、甲4方法発明において、「Ti箔の温度をその耐熱温度以下に抑える」ための条件を、窓箔32における電子線の入射領域の面積を特定した上で、「電流密度」に変えて「電流面密度」となし、上記相違点3に係る本件発明9の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
(ウ)上記相違点9-3について
相違点9-3は、上記1-1(1)イ(ウ)で検討した相違点1-3と同じ相違点であるから、相違点1-3について検討した理由と同様の理由により、甲4方法発明において、上記相違点9-3に係る本件発明9の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
(エ)よって、本件発明9は、甲4方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明10について
本件発明10は、引用する本件発明9に、「前記第2ステップは、前記窓箔部材に代えて蛍光部材を配置するステップと、前記蛍光部材において前記電子線の入射により発光する発光領域の面積を前記入射領域の面積として取得するステップと、前記発光領域の面積の取得後に前記蛍光部材を取り外して前記窓箔部材を配置するステップと、を含む」との発明特定事項を付加する発明であるところ、電子線の入射範囲を特定するために蛍光部材を用い、当該蛍光部材の発光領域を電子線の入射範囲とみなして当該入射範囲を特定することは、例を挙げるまでもなく周知の技術的事項にすぎず、また、発光領域の面積を取得して電子線の入射範囲を特定した後に、窓箔部材を配置することは、「電子線照射装置の製造方法」として当然に行うことであるから、本件発明10は、甲4方法発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明11について
本件発明11は、直接的または間接的に引用する本件発明9または10に、「厚さが2×10-3mm以上且つ1×10-2mm以下である前記窓箔部材を用意する第4ステップを備え」との発明特定事項を付加する発明であるとともに、「前記第3ステップでは、一種類の前記厚さの前記窓箔部材に対して、前記第1ステップにおいて設定された前記駆動電圧の範囲の上限値が小さくなるほど、前記駆動電流の範囲の上限値を小さく設定する」との発明特定事項を付加する発明である。
したがって、本件発明9を引用する場合は、上記(1)で検討した本件発明9と甲4方法発明との相違点9-1、9-2及び9-3に加えて、また、本件発明10を引用する場合は、上記(1)で検討した本件発明9と甲4方法発明との相違点9-1、9-2、9-3、及び、上記(2)で検討した本件発明10と甲4方法発明との相違点に加えて、本件発明11が、「厚さが2×10-3mm以上且つ1×10-2mm以下である前記窓箔部材を用意する第4ステップを備え」と特定するのに対し、甲4発明はこのように特定されない点(以下、「相違点11-1」という。)、及び、本件発明11が、「前記第3ステップでは、一種類の前記厚さの前記窓箔部材に対して、前記第1ステップにおいて設定された前記駆動電圧の範囲の上限値が小さくなるほど、前記駆動電流の範囲の上限値を小さく設定する」と特定するのに対し、甲4発明はこのように特定されない点(以下、「相違点11-2」という。)で相違する。
しかしながら、相違点11-1は、上記1-1(3)イ(ア)で検討した相違点4-1と同じ相違点であり、また、相違点11-2は、上記1-1(2)で検討した相違点3と同じ相違点であるから、相違点4-1及び相違点3について検討した理由と同様の理由により、甲4方法発明において、上記相違点11-1及び11―2に係る本件発明11の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
(4)本件発明12について
本件発明12は、引用する本件発明11に、「前記第3ステップでは、前記電子線発生部の駆動電圧と前記窓箔部材の厚さとに基づいて、前記電子線発生部の駆動電圧を変数とする2次関数で近似した限界電流面密度近似値を算出し、算出した前記限界電流面密度近似値以下となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する」との発明特定事項を付加する発明である。
したがって、上記(3)で検討した本件発明11と甲4方法発明との各相違点に加えて、本件発明12が、「前記第3ステップでは、前記電子線発生部の駆動電圧と前記窓箔部材の厚さとに基づいて、前記電子線発生部の駆動電圧を変数とする2次関数で近似した限界電流面密度近似値を算出し、算出した前記限界電流面密度近似値以下となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する」と特定するのに対し、甲4発明はこのように特定されない点(以下、「相違点12」という。)で相違する。
しかしながら、相違点12は、上記1-1(3)イ(エ)で検討した相違点4-4と同じ相違点であるから、相違点4-4について検討した理由と同様の理由により、甲4方法発明において、上記相違点12に係る本件発明12の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
(5)本件発明13について
本件発明13は、直接的または間接的に引用する本件発明9ないし12に、「前記第3ステップでは、前記電子線発生部の駆動電圧と前記窓箔部材の厚さとに基づいて、前記窓箔部材の厚さを変数とする1次関数で近似した限界電流面密度近似値を算出し、算出した前記限界電流面密度近似値以下となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する」との発明特定事項を付加する発明である。
したがって、上記(4)で検討した本件発明12と甲4方法発明との各相違点に加えて、本件発明13が、「前記第3ステップでは、前記電子線発生部の駆動電圧と前記窓箔部材の厚さとに基づいて、前記窓箔部材の厚さを変数とする1次関数で近似した限界電流面密度近似値を算出し、算出した前記限界電流面密度近似値以下となるように前記電子線発生部の駆動電流を設定する」と特定するのに対し、甲4発明はこのように特定されない点(以下、「相違点13」という。)で相違する。
しかしながら、相違点13は、上記1-1(4)イ(ウ)で検討した相違点5-3と同じ相違点であるから、相違点5-3について検討した理由と同様の理由により、甲4方法発明において、上記相違点13に係る本件発明13の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
(6)本件発明14について
本件発明14は、直接的または間接的に引用する本件発明9ないし13に、「厚さが3×10-3mm以上5×10-3mm以下である前記窓箔部材を用意する第4ステップを備え」との発明特定事項、「前記第1ステップでは、前記電子線発生部の管電圧が130kV以下となるように前記制御部による前記電子線発生部の駆動電圧の範囲を設定し」との発明特定事項、及び、「前記第3ステップでは、前記窓箔部材における電流面密度が5.3mA/mm2以下となるように前記駆動電流の範囲を設定する」との発明特定事項を付加する発明である。
したがって、上記(1)ないし(5)で検討した本件発明9ないし13と甲4方法発明との各相違点に加えて、本件発明14が、「厚さが3×10-3mm以上5×10-3mm以下である前記窓箔部材を用意する第4ステップを備え」と特定するのに対し、甲4発明はこのように特定されない点(以下、「相違点14-1」という。)、本件発明14が、「前記第1ステップでは、前記電子線発生部の管電圧が130kV以下となるように前記制御部による前記電子線発生部の駆動電圧の範囲を設定し」と特定するのに対し、甲4発明はこのように特定されない点(以下、「相違点14-2」という。)、及び、本件発明14が、「前記第3ステップでは、前記窓箔部材における電流面密度が5.3mA/mm2以下となるように前記駆動電流の範囲を設定する」と特定するのに対し、甲4発明はこのように特定されない点(以下、「相違点14-3」という。)で相違する。
しかしながら、相違点14-1は、上記1-1(1)イ(ア)で検討した相違点1-1と同じ相違点であり、また、相違点14-2は、甲4方法発明に記載されている事項であり、さらに、相違点14-3は、上記1-1(1)イ(イ)で検討した相違点1-2と同じ相違点であるから、相違点1-1及び相違点1-2について検討した理由と同様の理由により、甲4方法発明において、上記相違点14-1ないし14―3に係る本件発明14の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
(7)本件発明15について
本件発明15は、引用する本件発明14に、「前記第4ステップでは、厚さが4×10-3mm以上5×10-3mm以下である前記窓箔部材を用意し」との発明特定事項、「前記第1ステップでは、前記電子線発生部の管電圧が130kV以下となるように前記制御部による前記電子線発生部の駆動電圧の範囲を設定し」との発明特定事項、及び、「前記第3ステップでは、前記窓箔部材における電流面密度が4.7mA/mm2以下となるように前記駆動電流の範囲を設定する」との発明特定事項を付加する発明である。
したがって、上記(6)で検討した本件発明14と甲4方法発明との各相違点に加えて、本件発明15が、「前記第4ステップでは、厚さが4×10-3mm以上5×10-3mm以下である前記窓箔部材を用意し」と特定するのに対し、甲4発明はこのように特定されない点(以下、「相違点15-1」という。)、本件発明15が、「前記第1ステップでは、前記電子線発生部の管電圧が130kV以下となるように前記制御部による前記電子線発生部の駆動電圧の範囲を設定し」と特定するのに対し、甲4発明はこのように特定されない点(以下、「相違点15-2」という。)、本件発明15が、「前記第3ステップでは、前記窓箔部材における電流面密度が4.7mA/mm2以下となるように前記駆動電流の範囲を設定する」と特定するのに対し、甲4発明はこのように特定されない点(以下、「相違点15-3」という。)で相違する。
しかしながら、相違点15-1は、上記1-1(1)イ(ア)で検討した相違点1-1に含まれる範囲で減縮するものであるから実質的に相違点1-1と同じ相違点であり、また、相違点15-2は、甲4方法発明に記載されている事項である。
さらに、相違点15-3は、上記1-1(1)イ(イ)で検討した相違点1-2において、電流面密度を5.3mA/mm2以下から4.7mA/mm2以下に限定したものであるところ、上記1-1(1)イ(イ)b(c)の図8、9からは、電流面密度としての4.7mA/mm2は、想定されている使用環境の多くの範囲において限界となる値であるとことが見てとれるから、上記1-1(1)イ(イ)で相違点1-2についての検討と同様に、上記甲4方法発明において、電流面密度の上限値を、「Ti箔の温度をその耐熱温度以下に抑える」ための条件を満たすように設定する事に替えて、使用環境の多くの範囲における限界となる値以上のある特定の値とすることは、単なる設計上の事項に過ぎず、上記1-1(1)イ(イ)で相違点1-2について検討した理由と同様の理由により、甲4方法発明において、上記相違点15-3に係る本件発明15の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
よって、本件発明15は、甲4方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(8)本件発明16について
本件発明16は、引用する本件発明15に、「前記第4ステップでは、厚さが5×10-3mmである前記窓箔部材を用意し」との発明特定事項、「前記第1ステップでは、前記電子線発生部の管電圧が130kV以下となるように前記制御部による前記電子線発生部の駆動電圧の範囲を設定し」との発明特定事項、及び、「前記第3ステップでは、前記窓箔部材における電流面密度が4.0mA/mm2以下となるように前記駆動電流の範囲を設定する」との発明特定事項を付加する発明である。
したがって、上記(7)で検討した本件発明15と甲4方法発明との各相違点に加えて、本件発明16が、「前記第4ステップでは、厚さが5×10-3mmである前記窓箔部材を用意し」と特定するのに対し、甲4発明はこのように特定されない点(以下、「相違点16-1」という。)、本件発明16が、「前記第1ステップでは、前記電子線発生部の管電圧と特定するのに対し、甲4発明はこのように特定されない点が130kV以下となるように前記制御部による前記電子線発生部の駆動電圧の範囲を設定し」(以下、「相違点16-2」という。)、及び、本件発明16が、「前記第3ステップでは、前記窓箔部材における電流面密度が4.0mA/mm2以下となるように前記駆動電流の範囲を設定する」と特定するのに対し、甲4発明はこのように特定されない点(以下、「相違点16-3」という。)で相違する。
しかしながら、相違点16-1は、上記1-1(1)イ(ア)で検討した相違点1-1に含まれる範囲で減縮するものであるから実質的に相違点1-1と同じ相違点であり、また、相違点16-2は、甲4方法発明に記載されている事項である。
さらに、相違点16-3は、上記1-1(1)イ(イ)で検討した相違点1-2において、電流面密度を5.3mA/mm2以下から4.0mA/mm2以下に限定したものであるところ、上記1-1(1)イ(イ)b(c)の図8、9からは、電流面密度としての4.0mA/mm2は、想定されている使用環境の多くの範囲において限界となる値であるとことが見てとれるから、上記1-1(1)イ(イ)で相違点1-2についての検討と同様に、上記甲4方法発明において、電流面密度の上限値を、「Ti箔の温度をその耐熱温度以下に抑える」ための条件を満たすように設定する事に替えて、使用環境の多くの範囲における限界となる値以上のある特定の値とすることは、単なる設計上の事項に過ぎず、上記1-1(1)イ(イ)で相違点1-2について検討した理由と同様の理由により、甲4方法発明において、上記相違点16-3に係る本件発明16の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
よって、本件発明16は、甲4方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 まとめ
以上によれば、請求項1、3~16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許を受けることができないものである。
したがって、本件訂正発明1、3ないし16に係る特許は、特許法第113条第2号及び同第4号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件訂正前の請求項2に係る特許は、上記のとおり、本件訂正請求により削除された。これにより、特許異議申立人藤本拓也及び金田綾香による特許異議の申立てについて、本件訂正前の請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700036