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特許拒絶査定不服審判

2023-011430

PCSK9阻害剤の投与による糖尿病患者における高脂血症を治療する方法

審判番号
2023-011430
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-567608外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2023年07月07日
審決日
2025年06月04日
公報発行日
2025年11月28日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特願2019-567608「PCSK9阻害剤の投与による糖尿病患者における高脂血症を治療する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月13日国際公開、WO2018/225041、令和 2年 7月30日国内公表、特表2020-522544〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2018年(平成30年)6月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2017年6月9日、(US)アメリカ合衆国、2017年7月13日、(US)アメリカ合衆国、2018年5月4日、(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は、次のとおりである。 令和3年 6月 7日 手続補正書の提出 令和4年 6月24日付け 拒絶理由通知書 同年11月28日 意見書及び手続補正書の提出 令和5年 2月21日付け 拒絶査定 同年 7月 7日 審判請求書の提出 同年 8月 4日 手続補正書(方式)の提出 第2 本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項2に係る発明(以下、「本願発明2」という。)は、令和4年11月28日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された以下のとおりのものである。 「【請求項2】 高コレステロール血症を治療する方法において使用するための、ヒトプロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物であって、 該方法は、それを必要としている患者に、該抗体またはその抗原結合断片を、75mg、150mgまたは300mg投与する工程を含み、 該抗体またはその抗原結合断片は、配列番号2、3、および4に記載の3つの重鎖CDR、ならびに配列番号7、8、および10に記載の3つの軽鎖CDRを含み、ならびに 該患者は、(i)2型真性糖尿病(T2DM)および(ii)最大耐性のスタチン療法によっては適切に制御されない高コレステロール血症を有する、インスリン療法を受けている心血管リスクの高い患者である、 前記医薬組成物。」 第3 原査定の理由 原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。 本願の請求項1~18に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献一覧> 1.DIABETES, OBESITY AND METABOLISM,2017年02月16日,VOL:19, NR:7,PAGE(S):989 - 996, https://dom-pubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/dom.12909 第4 当審の判断 1 引用文献1の記載事項及び引用発明 (1)引用文献1の記載事項 原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に公開された引用文献1には、次の事項が記載されている(なお、引用文献1は英文のため、その記載事項は翻訳文で示す。下線は当審が付したものである。以下同様。)。 ・記載事項1(表題) 「糖尿病患者又は糖尿病ではない患者における、アリロクマブの脂質低下効果と安全性: ODYSSEY COMBO IIのサブ解析」 ・記載事項2(要旨) 「目的:このODYSSEY COMBO II試験のサブ解析では、糖尿病(DM)である又はそうではない、最大耐性量のスタチン治療を受けている心血管リスクの高い患者において、プロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害薬であるアリロクマブの効果を比較した。 方法:COMBO IIは104週間の二重盲検試験(n=720)であり、アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)が証明され、ベースラインのLDL-Cが70mg/dL(1.8mmol/L)以上の患者と、ASCVDが証明されておらず、LDL-Cが100mg/dL(2.6mmol/L)以上の心血管リスクの高い患者が登録された。最大耐性のスタチン治療を受けている患者を、アリロクマブ75mgを2週間ごとに投与する群(Q2W;1mL皮下注射)とエゼチミブ10mgを1日1回経口投与する群に無作為に割り付けた(2:1)。アリロクマブの用量は、第8週のLDL-Cが70mg/dL以上の場合、12週目に150mgを2週間ごとの投与に増量(同じく1mL)された。 結果:アリロクマブを服用している患者の31%(n = 148)とエゼチミブを服用している患者の32%(n = 77)に糖尿病の既往歴があった。24週時点で、アリロクマブはエゼチミブ群(それぞれ-18.4%及び-21.8%)よりも有意に高い程度まで、DM患者(-49.1%)及び非DM患者(-51.2%)においてベースラインから一貫してLDL-C値を低下させた。治療開始後に発生した有害事象の発生率は両群で類似していた。104週時点の有効性結果は24週時点の結果と類似していた。 結論:104週間の二重盲検試験期間において、アリロクマブはエゼチミブよりも一貫してLDL-Cを大きく低下させ、LDL-Cの低下はDMの有無にかかわらず同程度であった。アリロクマブの安全性はベースラインのDMの状態にかかわらず同様であった。」 ・記載事項3(989頁左下欄1段落~990頁左欄1段落) 「1 はじめに 糖尿病(DM)は、血漿トリグリセリド(TG)の増加と高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)の減少を特徴とする動脈硬化性脂質プロファイルと関連している1。糖尿病(DM)患者は、アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスクが高いとされており、ガイドラインでは、このような患者に対し、低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)のレベルを低下させる脂質低下療法が推奨されている2-4。さらに、非高密度リポタンパク質コレステロール(非HDL-C)のレベルは、DM患者における心血管リスクとより密接に関連しており、非HDL-Cの低下が代替治療目標として推奨されている5。しかし、DM患者の多くは、既存の脂質低下療法でLDL-C又は非HDL-Cの適切なコントロールを達成できず、ASCVDのリスクが高い状態が続いている。 アリロクマブは、プロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)を阻害する完全ヒト型モノクローナル抗体である。ODYSSEY第3相臨床試験プログラムでは、高脂血症とASCVDリスクが高い患者(そのうち31.0%が糖尿病(DM)を合併、n=223)を対象にアリロクマブを総合的に評価した結果、アリロクマブ75mg/150mgを2週間ごと(Q2W ; 75 mg/150 mgは、初回投与量75 mg Q2Wを、8週目のLDL-C値に応じて、12週目から150 mg Q2Wに増量したことを示す。)に投与した場合、LDL-Cの平均減少率は49%であり、アリロクマブ150 mg Q2Wでは61%のLDL-Cの平均減少率が認められた6, 7。104週間の第3相ODYSSEY COMBO II試験(n=720)では、以前に報告されたように、アリロクマブ75mg/150mg Q2Wは、バックグラウンドで最大耐性のスタチンを投与されている高リスク心血管疾患患者において、エゼチミブに比べてLDL-Cを有意に減少させた。ベースラインから24週後のLDL-Cの平均±標準誤差の減少率は、アリロクマブ群で50.6%±1.4%、エゼチミブ群で20.7%±1.9%であった(P<0.0001)8。COMBO II試験の患者のおよそ3分の1はベースライン時に糖尿病(DM)を有していた(n=225)が、24週後のデータでは、DMの有無にかかわらずLDL-Cの減少率は同様であった8。このサブ解析の目的は、COMBO II試験のデータを用いて、最大耐性のスタチンを投与されている患者において、アリロクマブの効果と安全性が、DMを有する患者とDMを有しない患者で長期的に異なるかどうかを詳細に調査することであった。」 ・記載事項4(990頁左下欄最終段落~右欄1段落) 「2.1 患者 患者は、皮下投与(SC)のアリロクマブ 75 mg を2週間ごとに投与する群と、経口投与のエゼチミブ 10 mg/日を投与する群に 2:1 の割合でランダムに割り当てられた。8 週目の LDL-C が 70 mg/dL(1.8 mmol/L)以上の場合、アリロクマブの投与量を 12 週目に150 mgを2週間ごとの投与に増量した(図 S1)。ベースライン時の糖尿病は、医療歴のCustom Medical Dictionary for Regulatory Activities(MedDRA)質問(CMQ)で「糖尿病」と報告された場合に存在するとみなされた。 すべての患者は、研究責任医師が承認した理由(例えば、高用量への不耐性など)がない限り、最大耐性のスタチン療法(アトルバスタチン40-80mg、ロズバスタチン20-40mg、又はシムバスタチン80mg)を併用していた。スタチン以外の他のバックグラウンドの脂質低下療法は認められなかった。患者は、National Cholesterol Education Program Adult Treatment Panel III 治療生活習慣変更食又は同等の食事療法を継続し、スタチンの同じ1日投与量を試験期間中維持するよう指示された9。」 ・記載事項5(990頁右下欄最終段落~992頁左欄1段落) 「3 結果 全体で720人の患者がランダム化され、そのうち225人(31%)がDM患者、495人(69%)がDM非患者であった。DM患者は、アリロクマブ群(n=148;31%)とエゼチミブ群(n=77;32%)に均等に割り付けられた。治療群及びDMサブグループ全体での平均年齢は60.4~63.2歳、平均体格指数の範囲は29.2~32.5 kg/m2であった(表1)。アリロクマブ群とエゼチミブ群のDM群と非DM群で、LDL-C、非HDL-C、アポB、Lp(a)、HDL-Cを含む脂質ベースライン値は同等であった(表1)。DM患者におけるベースラインのHbA1cの平均値は6.8%、DM非患者では5.7%であった。DMサブグループにおけるベースラインのFGの平均値は、アリロクマブ群で134.1 mg/dL(7.44 mmol/L;アリロクマブ)、エゼチミブ群で132.0 mg/dL(7.33 mmol/L;エゼチミブ)であった。非DMサブグループでは、アリロクマブ群で104. 0 mg/dL(5.77 mmol/L;アリロクマブ)で、エゼチミブ群で103.6 mg/dL(5.75 mmol/L;エゼチミブ)であった(表1)。DMコホートでは、両治療群のDMの平均罹患期間は9.5年であった。さらに、DM患者では、アリロクマブ群とエゼチミブ群でそれぞれ85.1%と81.8%の患者が、ランダム化時に少なくとも1つの血糖降下薬を服用していた。全体では、アリロクマブ群の22.3%とエゼチミブ群の16.9%が、ベースライン時にインスリン療法を受けていた。アリロクマブは、プロトコールに従って、8週目のLDL-Cが70mg/dL(1.8mmol/L)以上だった場合、12週目の投与時に75mgから150mgに増量された。これは、糖尿病の有無にかかわらず、それぞれ20%と18%の患者で実施された。」 ・記載事項6(表1) 「表 1. 糖尿病(DM)の有無による患者の人口統計学的特性、臨床的特徴、及び既往歴(無作為化集団) [図:0001428456000001.jpg] 略語:ACS、急性冠症候群;Apo、アポリポタンパク質;ASCVD、アテローム性動脈硬化性心血管疾患;BMI、体格指数;CHD、冠動脈疾患;FG、空腹時血糖;HbA1c、糖化ヘモグロビン;HDL-C、高密度リポタンパク質コレステロール;LDL-C、 低密度リポタンパク質コレステロール;Lp(a)、リポタンパク質(a);MI、心筋梗塞;PAD、末梢動脈疾患;SD、標準偏差;TG、トリグリセリド。 aアリロクマブ群に1型DM患者2例を含む。 b 急性MI、無症候性MI、不安定狭心症、冠動脈再建術又は他の臨床的に重要なCHDを含む。 c リスク因子には、高血圧;足首-上腕血圧比が0.90以下;微量アルブミン尿、大量アルブミン尿、又は尿検査でタンパク質が2+以上;前増殖期又は増殖期の網膜症、又は網膜症に対するレーザー治療;又は早期冠動脈疾患の家族歴が含まれる。」 ・記載事項7(992頁左欄2段落~993頁左欄1段落) 「3.1 有効性 24 週時点で、アリロクマブ投与群の糖尿病有無にかかわらず、LDL-C 値はベースラインからそれぞれ 49.1% と 51.2% 減少したのに対し、エゼチミブ群ではそれぞれ 18.4% と 21.8% の減少であった(P = 0.8052、糖尿病との相互作用による治療効果;図 1A)。アリロクマブとエゼチミブとの比較で同様の有益な効果は、糖尿病の有無にかかわらず、両群において12週時点の評価でも認められた(図 1A)。さらに、アリロクマブ治療によるLDL-Cの減少は、糖尿病の有無にかかわらず104週にわたって維持された(図 1B)。」 12週目には、DMのある患者の80%、DMのない患者の82%が、アリロクマブ75mgを2週間ごとに投与することで、LDL-C値が70mg/dL(1.8mmol/L)以下に達成できた(つまり、投与量を150mgに増やす必要はなかった)。24週目には、アリロクマブを投与されたDM患者の77.9%とDMではない患者の77.3%がLDL-C目標値≦(合議体注:原文の不等号はイコールが一本線であるもの。)70 mg/dL(1.8 mmol/L)を達成したのに対し、エゼチミブを投与された患者ではそれぞれ50.1%と45.1%だった。アリロクマブ治療は、非HDL-C、アポB、Lp(a)、HDL-C値に有益な効果を示し、24週時点でのTG値についてはエゼチミブと類似の効果を示した(図2A-E)。糖尿病の有無にかかわらず、アリロクマブとエゼチミブのLDL-C及びその他の脂質変化の効果を比較した相互作用のすべてのP値は有意ではなかった(図1及び2)。非HDL-C、総コレステロール、アポB、アポA1、Lp(a)、TG、及びHDL-Cの平均百分率変化は、DMの有無にかかわらず、ITT解析及びオントリートメント解析の両方で、104週間を通じておおむね維持された(それぞれ図S2及びS3)。 ・記載事項8(図1) 「 [図:0001428456000002.jpg] 図1 糖尿病(DM)の状態における計算された低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)レベルの平均変化率。A、12週目と24週目のLDL-Cサブグループ解析(ITT解析)。B、時間経過に伴うLDL-Cサブグループ解析(オントリートメント解析)†。C、時間経過に伴うLDL-Cサブグループ解析(ITT)。 †オントリートメントには、患者が研究治療を受けている期間中に収集されたすべての脂質データが含まれる。ITT、治療企図(治療遵守の有無に関わらず、すべての脂質データを含む);LS、最小二乗法;SE、標準誤差 」 ・記載事項9(図2) 「 [図:0001428456000003.jpg] 図2 糖尿病(DM)の有無別に、ベースラインから24週目までの非高密度リポタンパク質コレステロール(非HDL-C)、アポリポタンパク質(Apo)B、リポタンパク質(a)(Lp[a])、トリグリセリド(TG)、及びHDL-Cの平均変化率(ITT解析)。A、非HDL-C。DM有無による治療効果の相互作用P値、P=0.4004。B、アポB。DM有無による治療効果の相互作用P値、P=0.5016。C、Lp(a)。DM有無による治療効果の相互作用P値、P=0.5593。D、TG。DM有無による治療効果の相互作用P値、P = 0.3432。E、HDL-C。DM有無による治療効果の相互作用P値、P = 0.6232。LS、最小二乗法;SE、標準誤差」 ・記載事項10(図S2) 「補足図S2. 糖尿病(DM)状態別の、非高密度リポタンパク質コレステロール(非HDL-C)、総コレステロール、アポリポタンパク質(Apo)B、Apo-A1、リポタンパク質(a)(Lp[a])、トリグリセリド(TG)、及びHDL-Cの24週目におけるベースラインからの平均変化率(ITT解析) a) 非HDL-C [図:0001428456000004.jpg] b) 総コレステロール [図:0001428456000005.jpg] c) Apo-B [図:0001428456000006.jpg] d) Apo-A1 [図:0001428456000007.jpg] e) Lp(a) [図:0001428456000008.jpg] f) TGs [図:0001428456000009.jpg] g) HDL-C [図:0001428456000010.jpg] ITT、意図的治療(治療の順守の有無にかかわらず、すべての脂質データを含む);LS、最小二乗法;SE、標準誤差。」 ・記載事項11(図S3) 「補足図 S3. 糖尿病(DM)の状態による、ベースラインから 24 週目までの非高密度リポタンパク質コレステロール(非 HDL-C)、総コレステロール、アポリポタンパク質(Apo)B、Apo-A1、リポタンパク質(a)(Lp[a])、トリグリセリド(TG)、及び HDL-C の平均変化率(オントリートメント分析)† a) Non-HDL-C [図:0001428456000011.jpg] b) Total cholesterol [図:0001428456000012.jpg] c) Apo B [図:0001428456000013.jpg] d) Apo-A1 [図:0001428456000014.jpg] e) Lp(a) [図:0001428456000015.jpg] f) TG [図:0001428456000016.jpg] g) HDL-C [図:0001428456000017.jpg] †オントリートメント中は、患者が研究治療を受けている間に収集された、研究期間中のすべての脂質データが含まれる。LS は最小二乗法、SE は標準誤差。」 ・記載事項12(993頁右欄最終段落~994頁左欄1段落) 「3.2 安全性 104週間の治療期間中のFGとHbA1cの中央値は、治療群間でほぼ同じであった(図 3)。治療開始後104週間までの治療関連有害事象(TEAEs)の全体的な発生率は、糖尿病の有無にかかわらず、また治療群間でほぼ同じであった(表 2)。少なくとも1つのTEAEを経験した患者の割合は、80.5%から82.9%の範囲であった。死亡例は、アリロクマブ群の6例(479例中;1.3%)(DM有2例、DM無4例)と、エゼチミブ群の6例(241例中;2.5%)(DM有1例、DM無5例)で報告された。重篤な有害事象は、アリロクマブ投与群の糖尿病患者で26.4%、非糖尿病患者で26.0%、エゼチミブ投与群の糖尿病患者で25.7%、非糖尿病患者で24.4%に発生した。治療中止を招いた有害事象(TEAEs)は、アリロクマブ群の糖尿病患者で10.1%、非糖尿病患者で9.1%、エゼチミブ群の糖尿病患者で8.8%、非糖尿病患者で7.3%に発生した。」 ・記載事項13(図3) 「 [図:0001428456000018.jpg] 図 3 104週間の治療における平均糖化ヘモグロビン(HbA1c)と空腹時血糖値(FG)。A、HbA1c。B、FG。」 ・記載事項14(表2) 「表 2. 104 週間までの安全性分析 [図:0001428456000019.jpg] 略語:DM、糖尿病;HLT、高次用語;SAE、重篤な有害事象;TEAE、治療開始後に発生した有害事象。 a 治療開始後、患者の最後のプロトコール訪問時まで発生したすべての死亡を含む。」 ・記載事項15(994頁左欄最終段落~右欄1段落) 「4 ディスカッション COMBO IIは、エゼチミブを対照とした二重盲検ランダム化試験で、バックグラウンドで最大耐性のスタチン療法を受けている心血管高リスク患者において、アリロクマブとエゼチミブの有効性と安全性を104週間評価した。アリロクマブ群(n=148;31%)とエゼチミブ群(n=77;32%)の患者のおよそ3分の1が、ベースライン時に糖尿病(DM)を有していた。このサブ解析の結果は、LDL-Cが十分にコントロールされていない患者において、アリロクマブは糖尿病を有する患者と糖尿病を有しない患者で長期的な有効性と安全性が同様であることを示している。本研究において、アリロクマブ投与時の24週時点のLDL-C減少率(ベースラインから49.1%~51.2%)は、エゼチミブ投与時(ベースラインから18.4%~21.8%)よりも有意に高かった。これらの減少は、DMの有無にかかわらず一貫しており、104週目まで維持された。さらに、このサブ解析の結果は、アリロクマブ治療が血糖値の指標に影響を与えないことを示しており、DMの有無にかかわらず、FGとHbA1cの中央値は類似しており、エゼチミブを投与された患者で観察された値と一致していた。さらに、DMを有する患者の80%及びDMを有しない患者の82%において、75mgのアリロクマブを2週間ごとに投与することで、リスクに基づくLDL-C目標を達成することができた。アリロクマブは一般的に良好に耐容され、有害事象の発生率はDMの有無にかかわらず類似していた。注射部位反応はアリロクマブ群でより頻繁に発生したが、DMを有する患者においてアリロクマブを投与された群ではより頻繁に発生しなかった。実際、アリロクマブでの注射部位反応の発生率は、DM患者(1例、0.7%)の方がDMなし患者(12例、3.6%)より低く、これは、DM患者が注射療法に慣れていた(アリロクマブ群の22%がインスリンを投与されていた)ことや、血糖自己測定を行っていたことに関連している可能性がある。この傾向はエゼチミブ群では見られなかったが、エゼチミブ治療を受けてプラセボ注射を受けた患者で注射部位反応を報告した患者数は少なかった(全体で3例)。」 ・記載事項16(995頁右欄最終段落~996頁左欄1段落) 「結論として、これまでに完了したPCSK9阻害薬を評価する無作為化二重盲検比較試験の中で最長の試験において、アリロクマブは、同様の安全性プロファイルで、エゼチミブで得られたLDL-Cの低下よりも臨床的に意義のある大きな低下をDM患者にもたらした。これらの低下は104週間の試験期間にわたって維持され、DMのない患者でも同等であった。さらに、アリロクマブの投与により、エゼチミブと比較して、DMの有無にかかわらず、より多くの患者がLDL-Cの目標を達成することができ、75mgQ2Wのアリロクマブ投与により、大多数の患者がリスクベースのLDL-C目標を達成するのに十分であった。現在、DM患者を対象としたアリロクマブの有効性と安全性に関する具体的な試験がさらに進行中であり(NCT02642159、NCT02585778)、心血管イベントの抑制を目的としたアリロクマブによる治療は、DM患者をかなりの割合で含む大規模な進行中のODYSSEY OUTCOMES試験(NCT01663402)で評価されている13。」 (2)引用文献1に記載された発明 引用文献1には、「糖尿病(DM)である又はそうではない、最大耐性量のスタチン治療を受けている心血管リスクの高い患者において、プロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害薬であるアリロクマブの効果を比較」することを目的とした「ODYSSEY COMBO II試験のサブ解析」(記載事項2)が記載され、「プロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシン型9(PCSK9)を阻害する完全ヒト型モノクローナル抗体である」、「アリロクマブ」(記載事項3)を、「アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)が証明され、ベースラインのLDL-Cが70mg/dL(1.8mmol/L)以上」又は「ASCVDが証明されておらず、LDL-Cが100mg/dL(2.6mmol/L)以上の心血管リスクの高い」「糖尿病患者」(記載事項2、記載事項5、記載事項6)であって「最大耐性のスタチン療法を受けている心血管リスクの高い患者」(記載事項2、記載事項4、記載事項15)に、「75mgを2週ごとに投与」し、「第8週のLDL-Cが70mg/dL以上の場合」、「12週目に150mgを2週間ごとの投与に増量」したところ(記載事項2、記載事項4、記載事項5)、「12週時点」と「24週時点」で「LDL-C目標値≦(合議体注:原文の不等号はイコールが一本線であるもの。)70 mg/dL(1.8 mmol/L)を達成し」、「非HDL-C、アポB、Lp(a)、HDL-C値に有益な効果を示し」たことが記載され(記載事項7)、このLDL-C目標値の達成は、「LDL-Cを大きく低下させ」たものであることが記載されている(記載事項2、記載事項15、記載事項16。その試験結果は記載事項8~記載事項12、記載事項14を参照。)。また、補足図S2(記載事項10)によれば、非HDL-C、アポB及びLp(a)値は低下し、HDL-C値は上昇したことが読み取れる。 一方で、引用文献1には、本試験に登録された糖尿病患者に2型糖尿病患者が含まれていたことについては明示されていないが、糖尿病患者の大半は2型糖尿病患者が占めるという本願優先日当時の技術常識(要すれば、「糖尿病学イラストレイテッド-発症機序・病態と治療学の作用機序」、2012年3月15日第1刷発行、株式会社羊土社、15ページの「3 糖尿病の成因と病態」を参照。)を踏まえ、引用文献1の表1(記載事項6)を参照すると、「アリロクマブ(n=148)」及び脚注に「アリロクマブ群に1型DM患者2例を含む」と記載されていることからみて、アリロクマブを投与された残りの146人の糖尿病患者群に2型糖尿病患者が含まれていることは明らかである。 また、アリロクマブは上記用法用量にて実際に患者群においてLDL-Cを低下させる等の治療効果が認められていることから、引用文献1には、アリロクマブを含む「医薬組成物」が記載されているといえる。 以上のことから、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認める(以下これを「引用発明1」という。)。 (引用発明1) 「LDL-Cを大きく低下させ、非HDL-C、アポB及びLp(a)を低下させ、HDL-Cを上昇させる方法で使用するための、 プロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)を阻害する完全ヒト型モノクローナル抗体であるアリロクマブを含む医薬組成物であって、 該方法は、患者に、該抗体を、2週ごとに75mgを投与する工程、及び、第8週のLDL-Cが70mg/dL以上の場合、12週目に150mgを2週間ごとの投与に増量する工程を含み、 該患者は、(i)アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)が証明され、ベースラインのLDL-Cが70mg/dL(1.8mmol/L)以上、又はASCVDが証明されておらず、LDL-Cが100mg/dL(2.6mmol/L)以上の2型糖尿病患者および(ii)最大耐性のスタチン療法を併用していた、心血管リスクの高い患者である、 前記医薬組成物。」 2 本願優先日当時の技術常識 (1)技術常識を示すための文献 ・参考文献A 本願優先日前に頒布された参考文献A(Diabetes & Metabolism, 2017 March, Vol. 43, p. 453-459)には、次の事項が記載されている。 ・記載事項A1(表題) 「1型又は2型糖尿病で心血管リスクが高いインスリン治療患者におけるアリロクマブの有効性と安全性: ODYSSEY DM-INSULIN試験の根拠とデザイン」 ・記載事項A2(454頁左欄1行~7行) 「はじめに 心血管疾患(CVD)は、1型(T1)又は2型(T2)糖尿病(DM)患者における罹患率と死亡率の主な原因であり [1-3]、インスリン治療を受けている患者ではCVリスクがさらに高い [4]。さらに、アテローム性動脈硬化性CVD(ASCVD)を発症している患者の中にDMが併存していると、CVイベントのリスクが有意に上昇する [4,5]。 ・記載事項A3(454頁左欄8行~30行) 「一般人口と同様に、高脂血症はT1DM及びT2DMのいずれにおいてもCVDの危険因子である [2,6] 。高脂血症の発症は、T2DMの発症に先行するインスリン抵抗性と関連している。ひとたび高血糖が発症すると、インスリン感受性と血糖コントロールの同時的な低下により、肝遊離脂肪酸の流入と合成が亢進し、高脂血症はさらに悪化する [1,7] 。T2DMは通常、低HDL-Cとともに非高比重リポ蛋白コレステロール(non-HDL-C)及びトリグリセリド(TG)値の上昇を特徴とするが、低比重リポ蛋白コレステロール(LDLC)の上昇は変動しやすく、むしろ緩やかである [7] 。それにもかかわらず、他の質的な脂質の変化とともに、小さく高密度なLDL粒子が増加する: LDLは糖化・酸化されやすくなり、HDLは異化が進む [8] 。その結果、2つのシナリオがT2DMにおけるCVリスクの上昇に寄与していると考えられる: ・TG濃度が上昇すると、中比重リポ蛋白(IDL)及び超低比重リポ蛋白(VLDL)残渣の濃度が上昇し、これらは動脈硬化を引き起こす [8] ; ・より小さなLDL粒子(LDL-P)が個人レベルでよりアテローム性であるかどうかは、まだ十分に解明されていない;しかしながら、LDL-Cがどのレベルであっても、より小さなLDL-Pへの移行は、より多くのLDL粒子と関連し、それによってアテローム性リスクが増大する。」 ・記載事項A4(454頁左欄最終段落~右欄4行) 「アリロクマブは、プロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシン型9(PCSK9)を標的とするモノクローナル抗体であり、米国、欧州、日本を含む複数の地域で、スタチン療法の最大耐性量を受けている高コレステロール血症患者の管理に承認されている。第III相臨床試験において、アリロクマブはスタチン療法を受けている患者においてLDL-Cを最大61%減少させた[19]。アポリポプロテイン(Apo)B、非HDL-C、及びリポタンパク質(a)[Lp(a)]の有意な減少、トリグリセリド(TG)の減少傾向、及びHDL-CとApoA-Iの軽度な増加も観察された。これらの強力な脂質変化が心血管イベントの有意な減少に結びつくことが期待されている。実際、進行中のODYSSEY OUTCOMES研究(NCT01663402)では、急性冠症候群後4~52週の患者18,000例を対象に、アリロクマブの主要心血管イベントへの効果を評価しており、糖尿病患者も相当数含まれている[20]。」 ・参考文献B 本願優先日前に頒布された参考文献B(European Heart Journal, 2013, Vol. 34, p. 3035-3087)には、次の事項が記載されている。 ・記載事項B1(表題) 「EASDと共同で作成された、糖尿病、前糖尿病、及び心血管疾患に関するESCガイドライン 欧州心臓病学会(ESC)の糖尿病、前糖尿病、及び心血管疾患に関するタスクフォースが、欧州糖尿病学会(EASD)と共同で作成」 ・記載事項B2(3048頁左欄8行~10行) 「4.5 アテローム性高脂血症 インスリン抵抗性により、脂肪分解による肝臓へのFFA放出が増加する。そのため、基質の利用可能性の増加、アポリポ蛋白B-100(ApoB)の分解の低下、脂肪新生の亢進により、肝での超低比重リポ蛋白(VLDL)の産生が亢進する。T2DMとメタボリックシンドロームでは、このような変化が、高トリグリセリド(TG)、低高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)、残存リポ蛋白の増加、アポリポ蛋白B(ApoB)合成、小さく高密度なLDL粒子を特徴とする脂質プロファイルにつながる(図6)80。このLDLサブタイプはより酸化されやすく、アテローム形成に重要な役割を果たしている。一方、最近のエビデンスによると、T2DM患者では、タンパク質の部位が変化するためにHDLの保護的な役割が失われ、酸化促進性、炎症性の表現型になる可能性が示唆されている81。T2DM患者では、アテローム性高脂血症は心血管リスクの独立した予測因子であり、単独の高トリグリセリドや低HDLコレステロールよりも強力である80。」 ・記載事項B3(3070頁左下欄下から7行~右欄下から4行) 「8.1 2型糖尿病における心不全の有病率と発生率、及び心不全における2型糖尿病の有病率と発生率 ・・・ T2DMにおける心不全発症の独立した危険因子としては、HbA1cの高値、肥満度の上昇、高齢化、CADの合併、網膜症、腎症、インスリン使用など、いくつかの臨床的相関がある。また、最近の研究では、末期腎疾患、腎症、蛋白尿やアルブミン尿、網膜症、T2DMの罹病期間が心不全やその進行と関連していた382。」 ・参考文献C 本願優先日前に頒布された参考文献C(Diabetes, Obesity and Metabolism, 2012, Vol. 14, p. 717-726)には、次の事項が記載されている。 ・記載事項C1(表題) 「2型糖尿病患者163121例における血糖降下治療と臨床成績:スウェーデン全国糖尿病登録からの観察研究」 ・記載事項C2(要旨) 「目的:非抽出の2型糖尿病(T2DM)患者を対象に、非薬物療法と最も一般的に用いられている薬物療法による血糖降下レジメンを用いて、日常臨床における臨床的特徴と治療成績を分析する。 方法 この集団ベースの横断研究では、Swedish National Diabetes Register(スウェーデン全国糖尿病登録)、Prescribed Drug Register(処方薬登録)、Patient Register(患者登録)から情報をリンクさせた。非薬物治療を受けているT2DM患者と、最も一般的な12種類の薬物治療レジメンを継続的に使用しているT2DM患者を対象とした(n=163121)。 結果 両群間の臨床的特徴には統計学的に有意な差がみられた。インスリンベースの治療レジメンを用いた患者は、一般的なT2DM患者よりも糖尿病罹病期間が最も長く、心血管危険因子が多かった。HbA1c≦7%に達した患者の割合は、薬物療法を受けた患者では70.1%(メトホルミン)から25.0%(PMI+SU)の間で変動した。非薬物療法を受けた患者の84.8%が目標値に達した。メトホルミン治療を受けている患者に比べて、他の薬物治療を受けている患者では、HbA1cが7%以下になる可能性が低く、そのハザード比は0.58;95%信頼区間(CI)0.54-0.63から0.97;0.94-0.99であった(共変量で調整)。インスリンベースの治療を受けている患者はその可能性が最も低かったが、非薬物療法はHbA1cが7%以下である可能性の増加と関連していた。 結論 この全国規模の研究では、すべての治療群においてヘモグロビンA1c(HbA1c)の治療目標に十分に達していないことが示された。インスリンベースの治療レジメンを受けた患者では、糖尿病罹病期間が最も長く、心血管危険因子が多く、HbA1cの目標値に達していない患者の割合が最も高かった。」 (2)本願優先日当時の技術常識 前記1(1)及び前記(2)の各文献の記載に基づけば、LDL-C、非HDL-C、アポB及びLp(a)を減少させ、HDL-C値を増加させることで高コレステロール血症が治療されること(記載事項A4)、及び、高コレステロール血症の発症には、インスリン抵抗性が関与し、高コレステロール血症を併発する2型糖尿病患者では心血管リスクが高く(記載事項3、記載事項A3、記載事項A4、記載事項B3及び記載事項C2)、特にインスリン治療を受けている糖尿病患者は、他の薬物療法を受ける患者と比べて、糖尿病罹病期間が長く、心血管リスクが高まること(記載事項A2、記載事項A3及び記載事項C2)は、本願優先日当時の技術常識であったものといえる。 3 対比・判断 (1)対比 本願発明2と引用発明1を対比する。 ・引用文献1には、「糖尿病(DM)患者は、アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスクが高」く、「このような患者に対し、低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)のレベルを低下させる脂質低下療法が推奨されている」ことが記載されており(記載事項3)、LDL-C、非HDL-C、アポB及びLp(a)を減少させ、HDL-C値を増加させることで高コレステロール血症が治療されることは、本願優先日当時の技術常識であるから(前記2(2))、引用発明1における「LDL-Cを大きく低下させ、非HDL-C、アポB及びLp(a)を低下させ、HDL-Cを上昇させる方法」は、本願発明2における「高コレステロール血症を治療する方法」に相当する。 ・本願明細書には、「本方法において使用される抗PCSK9抗体または抗原結合タンパク質は、配列番号2/3/4/7/8/10(mAb316P[「REGN727」または「アリロクマブ」とも呼ばれる))・・・から選択されるHCDR1/HCDR2/HCDR3/LCDR1/LCDR2/LCDR3アミノ酸配列を有」すること(段落【0101】)が記載されていることからみて、引用発明1の「アリロクマブ」は、本願発明2の「配列番号2、3、および4に記載の3つの重鎖CDR、ならびに配列番号7、8、および10に記載の3つの軽鎖CDRを含み」、「ヒトプロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片」(以下「本願発明の抗体」という。)に相当する。 ・抗体の投与について、引用発明1の「2週ごとに75mgを投与する工程、及び、第8週のLDL-Cが70mg/dL以上の場合、12週目に150mgを2週間ごとの投与に増量する工程」は、本願発明2の「75mg、150mgまたは300mg投与する工程」に相当する。 ・本願発明2の「2型真性糖尿病(T2DM)」について、本願明細書には、「しばしば単に糖尿病と呼ばれる真性糖尿病は、身体が十分なインスリンを産生しないため、または産生されるインスリンに細胞が応答しないために、ヒトが高い血糖値を有する一群の代謝疾患である。」(段落【0062】)と記載されるように、本願発明2における「真性糖尿病」は「糖尿病」と同義であるから、引用発明1の「2型糖尿病患者」は、本願発明2の「2型真性糖尿病(T2DM)」に相当する。 ・本願発明2における「最大耐性のスタチン療法によっては適切に制御されない高コレステロール血症」について、どのような場合に「適切に制御されない」と判断されるのか、その記載のみからでは直ちに明らかではないところ、本願明細書には、「患者の血清LDL-C濃度が」、「(患者の冠状動脈心疾患の相対的リスクを考慮して)70mg/dL未満に減少しない場合、高コレステロール血症はLMT(合議体注:「脂質修飾療法」の意。)によって適切に制御されないと見なされる。特定の実施形態では、LMTは最大限に許容されるスタチン療法である。」(段落【0064】)と説明され、実施例においても「LDL-Cレベルが70mg/dL(1.81mmol/L)以上であり、」「スクリーニング来院前(-3週)の少なくとも4週間、患者が耐性であるスタチンの最大用量/レジメンによって適切に制御されていない患者」を試験対象患者としたこと(段落【0240】及び【0241】)が記載されていることからみて、本願発明2の「最大耐性のスタチン療法によっては適切に制御されない高コレステロール血症を有する」「患者」とは、最大耐性のスタチン療法によって血清LDL-C濃度が70mg/dL未満に減少しない高コレステロール血症を有する患者であると解される。 一方、引用発明1の患者は、「アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)が証明され、ベースラインのLDL-Cが70mg/dL(1.8mmol/L)以上、又はASCVDが証明されておらず、LDL-Cが100mg/dL(2.6mmol/L)以上の」、「最大耐性のスタチン療法を併用していた」患者であることから、最大耐性のスタチン療法によっては、血清LDL-C濃度が70mg/dL未満に減少していない高コレステロール血症を有する患者といえる。 そうすると、引用発明1の「アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)が証明され、ベースラインのLDL-Cが70mg/dL(1.8mmol/L)以上、又はASCVDが証明されておらず、LDL-Cが100mg/dL(2.6mmol/L)以上の」「最大耐性のスタチン療法を併用していた」「患者」は、本願発明2の「最大耐性のスタチン療法によっては適切に制御されない高コレステロール血症を有する」「患者」に相当する。 そうすると、本願発明2と引用発明1の一致点と相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 「高コレステロール血症を治療する方法において使用するための、ヒトプロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物であって、 該方法は、それを必要としている患者に、該抗体またはその抗原結合断片を、75mg、150mgまたは300mg投与する工程を含み、 該抗体またはその抗原結合断片は、配列番号2、3、および4に記載の3つの重鎖CDR、ならびに配列番号7、8、および10に記載の3つの軽鎖CDRを含み、ならびに 該患者は、(i)2型真性糖尿病(T2DM)および(ii)最大耐性のスタチン療法によっては適切に制御されない高コレステロール血症を有する、心血管リスクの高い患者である、 前記医薬組成物。」 <相違点> 本願発明2は、患者が「インスリン療法を受けている」と特定されているのに対して、引用発明1は、その特定がない点。 (2)判断 前記(1)で検討したとおり、本願発明の抗体は公知の化合物であって、「i)2型真性糖尿病(T2DM)および(ii)最大耐性のスタチン療法によっては適切に制御されない高コレステロール血症を有する、心血管リスクの高い患者」の「高コレステロール血症を治療する方法において使用するため」という用途についても公知であることを踏まえれば、本願発明2は、治療対象の「i)2型真性糖尿病(T2DM)および(ii)最大耐性のスタチン療法によっては適切に制御されない高コレステロール血症を有する、心血管リスクの高い患者」の中から特に「インスリン療法を受けている」患者群を選択したことに技術的特徴を有する選択発明であるといえる。 そこで、引用発明1に対する「選択発明」としての進歩性が認められるかどうかという観点で、以下、相違点について判断する。 ア 相違点について 引用文献1には「DM患者の多くは、既存の脂質低下療法でLDL-C又は非HDL-Cの適切なコントロールを達成できず、ASCVDのリスクが高い状態が続いている」(記載事項3)と記載されるように、引用発明1は、既存の脂質低下療法では適切に制御できない糖尿病患者において、心血管リスクの一つである「ASCVDのリスク」を低下させるという課題を認識したうえでなされた発明であるといえる。 そして、引用文献1には、糖尿病を有する患者について、「全体では、アリロクマブ群の22.3%」が、「ベースライン時にインスリン療法を受けていた」ことが記載されている(記載事項5)。また、表1(記載事項6)には、糖尿病を有する患者のアリロクマブ投与群の148人の22.3%に相当する33名がインスリン療法を受けていたことが記載され、脚注に、「アリロクマブ群に1型DM患者2例を含む」と記載されていること、及び糖尿病患者の大半は2型糖尿病患者が占めるという本願優先日当時の技術常識からみて、上記33名のインスリン療法を受けていた患者のうち大半は2型糖尿病患者であったことが理解できる。 ここで、上記2(2)で述べたとおり、高コレステロール血症の発症には、インスリン抵抗性が関与し、高コレステロール血症を併発する2型糖尿病患者では心血管リスクが高く、特にインスリン治療を受けている糖尿病患者は、他の薬物療法を受ける患者と比べて、糖尿病罹病期間が長く、心血管リスクが高まるという、本願優先日当時の技術常識を踏まえると、既存の脂質低下療法であるスタチン療法では適切に制御できず、心血管リスクが一層深刻な、「インスリン療法を受けている」2型糖尿病患者の高コレステロール血症を治療することは、当業者にとって強く動機付けられるものといえる。 そうすると、既存の脂質低下療法では適切に制御できない糖尿病患者において、ASCVDのリスクを低下させるという課題認識の下になされ引用発明1において、インスリン療法及びその他の治療を受けていた2型糖尿病患者が混在する中で、特に心血管リスクの高い「インスリン療法を受けている」2型糖尿病患者を治療対象として選択することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 イ 効果について 本願明細書の実施例2の臨床試験では(段落【0228】~【0367】)、最大耐性スタチン療法によってLDL-Cが適切に制御されていない、インスリンで治療された2型糖尿病患者に対して(段落【0241】)、アリロクマブを開始用量75mgで週2回皮下投与し、8週目の来院時にLDL-C値が70mg/dLを基準に、それ以上なら12週目から150mgに増量し、それ未満なら75mgを継続する、という投薬レジメンによって投与し、タンパク質を1mL容量の事前充填ペンとして添加することなく、アリロクマブと同じ製剤で調製されたプラセボを投与したプラセボ治療群と比較したところ(段落【0235】~【0254】)、有効性については、LDL-C、LDL-C粒子数(LS平均)、LDL-C粒子サイズ、非HDL-C、ApoB、総コレステロール、及びLp(a)の有意な減少と、HDL-Cの増加がプラセボと比較して有意に認められ(段落【0333】、【0344】、【0347】)、糖尿病関連の評価項目については、プラセボ群と比較して経時的に安定しており(段落【0350】)、安全性については、有害事象(TEAE)を有する患者の割合は、プラセボ群と比較して、治療群全体で類似していたことが記載されている(段落【0354】)。 本願明細書の実施例3では、実施例2の臨床試験におけるアテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)を有する2型糖尿病の個体の分析が記載されており(段落【0368】~【0377】)、有効性について、アリロクマブは、非HDL-C、ApoB、LDL-PN、およびLDL-Cを対照(プラセボ)に対して減少させたこと(段落【0374】)、安全性について、アリロクマブの有害事象のパターンが対照(プラセボ)群と類似していたことが記載されている(段落【0375】)。 すなわち、これらの実施例では、最大耐性のスタチン療法によっては適切に制御されない高コレステロール血症を有する、インスリン療法を受けている心血管リスクが高い2型糖尿病患者や(実施例2)、さらにその中でもアテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)を有する患者群(実施例3)に対して、アリロクマブが有効かつ安全であることが確認されているが、その結果はいずれもプラセボ群と比較したものである。 一方、引用文献1には、最大耐性スタチン療法を受けていたもののLDL-Cが十分にコントロールされていない状態にあった高コレステロール血症を有する心血管リスクの高い、2型糖尿病患者を含む糖尿病患者にアリロクマブを投与した臨床試験の結論として、「DM(糖尿病)を有する患者の80%」において「75mgのアリロクマブを2週間ごとに投与することで、リスクに基づくLDL-C目標を達成することができた」、「アリロクマブは一般的に良好に耐容され、有害事象の発生率はDMの有無にかかわらず類似していた」と有効かつ安全に投与できたと結論づける記載があり(記載事項15)、インスリン療法の併用の有無による有効性や安全性の違いに言及する記載は特段見受けられない。また、糖尿病関連の評価項目についても、「このサブ解析の結果は、アリロクマブ治療が血糖値の指標に影響を与えないことを示している」と記載されている(記載事項15。その試験結果は記載事項12、記載事項13を参照。)。 このように、引用文献1の記載からは、アリロクマブはインスリン療法の有無によらず、高コレステロール血症を併発する2型糖尿病患者に対して有効かつ安全に投与できるものと理解することができる。 そうすると、本願明細書の実施例2と実施例3の臨床試験で示された、最大耐性のスタチン療法によっては適切に制御されない高コレステロール血症を有する心血管リスクの高い2型糖尿病患者の中で、さらにインスリン療法を受けている患者に対して、アリロクマブが有効かつ安全に投与できることは、引用文献1の記載から予測可能な効果にすぎない。 そして、本願明細書の実施例2及び実施例3の臨床試験で比較対象とされている患者群は、アリロクマブを含まない製剤が投与されたプラセボ群であって(段落【0254】)、インスリン療法を受けていない患者群ではないところ、インスリン療法の併用の有無による効果の違いは本願明細書では試験データによって示されていない。 そうすると、本願明細書に記載された臨床試験の結果は、インスリン療法を受けている患者群も含む2型糖尿病患者群に対し、アリロクマブを投与することを開示する引用発明1において、特にインスリン療法を受けている患者群を選択することによって優れた効果が奏されることを示すものではなく、本願発明2が引用文献1及び本願優先日当時の技術常識から予測できる効果と比較して、顕著な効果を有するものとは認められない。 ウ 請求人の主張について (ア)請求人の主張の概略 審判請求書において審判請求人は、本出願で開示された臨床試験のデザインが記載された参考資料1(合議体注:本審決で記載する参考資料A)によれば、本願出願時、抗PCSK9抗体が、併用してインスリン療法を受けている糖尿病患者においてLDL-Cを安全に低下させられるかどうかについては知られてなかったという本願出願当時の技術的状況のもと、引用文献1の試験は、糖尿病患者のうち22.3%のみがインスリン療法を受けている患者による試験であって、糖尿病患者に特化していないことから、本願発明のように全員がインスリン療法を受けている患者集団におけるアリロクマブの有効性や安全性についての合理的な期待は持てないとして、引用文献1は本願発明の進歩性を否定するものではない旨を主張している。 (イ)請求人の主張に対する判断 請求人も認めるとおり、引用文献1の試験にはインスリン療法を受けている患者も含まれており、前記イで述べたように、引用文献1の記載からは、アリロクマブはインスリン療法の併用の有無にかかわらず、高コレステロール血症を併発する2型糖尿病患者に対して有効かつ安全に投与できることが記載されているから、当業者であれば、2型糖尿病患者の中でインスリン療法を受けている患者に対してもアリロクマブが有効かつ安全に投与できるものと合理的に期待するものといえる。 そして、本願明細書の実施例において確認された、全員がインスリン療法を受けている患者集団におけるアリロクマブの有効性及び安全性が、糖尿病患者に特化されていない引用文献1の試験結果と比べて、予測できないほど顕著に高い有効性や安全性を示すものともいえない。 したがって、請求人の主張は採用できない。 (3)小括 以上のとおりであるから、本願発明2について、引用発明1に対して、「インスリン療法を受けている」患者群を選択したことによる「選択発明」としての進歩性を認めることはできない。 よって、本願発明2は、引用発明1及び引用文献1に記載された事項及並びに本願優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明2は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-011430

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