特許拒絶査定不服審判
2024-000901
慢性便秘症を治療するための医薬組成物
- 審判番号
- 2024-000901
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-104095外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2024年01月19日
- 審決日
- 2026年03月26日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-104095「慢性便秘症を治療するための医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 3月26日出願公開、特開2020- 45332〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和1年6月4日(優先権主張 平成30年6月11日及び平成30年9月12日)の出願であり、その主な手続の経緯は、以下のとおりである。
令和5年 3月16日付け 拒絶理由通知
同年 7月20日 手続補正書・意見書の提出(受付)
同年10月17日付け 拒絶査定
令和6年 1月19日 審判請求書の提出(受付)
令和7年 8月28日付け 拒絶理由通知(当審)
同7年10月27日 手続補正書・意見書の提出(受付)
第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1~12に係る発明は、令和7年10月27日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
1回又は複数回の投与期間を含む長期の治療期間にわたって、慢性便秘症の患者の治療に用いられることを特徴とする、
慢性便秘症を治療するための、1包の医薬組成物であって、
前記投与期間が合計して52週間以上であり、
前記治療期間が1回又は複数回の休薬期間を含み、各休薬期間が各投与期間の間に設けられており、
前記1包中に以下の成分を含む、
・マクロゴール4000(日本薬局方)(6.5625g)
・塩化ナトリウム(0.1754g)
・炭酸水素ナトリウム(0.0893g)
・塩化カリウム(0.0251g)
医薬組成物。」
以下、上記「1包」中に含まれる、「以下の成分」である、
「・マクロゴール4000(日本薬局方)(6.5625g)
・塩化ナトリウム(0.1754g)
・炭酸水素ナトリウム(0.0893g)
・塩化カリウム(0.0251g)」
の4種の成分を、「所定の4成分」ともいい、
所定の4成分中に含まれる電解質である、「塩化ナトリウム」、「炭酸水素ナトリウム」及び「塩化カリウム」を、「所定の3種の電解質」ともいう。
また、引用文献等の摘記も含め、一部を除き原則全角で記載した。さらに、下線は、原文に記載があるものを除き、強調のために合議体が付したものである。
第3 当審において通知した拒絶の理由
令和7年8月28日付けで当審において通知した拒絶の理由のうち、本願発明に対応する請求項1に係る発明に対する進歩性の拒絶理由(理由2)の要旨は、次のとおりである。
本願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1に記載された発明及び引用文献1~3、A~Gに記載の技術的事項(知見あるいは技術常識)に基いて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献>
1.Curr. Med. Res. Opin.,2006年,Vol.22,No.6,pp.1227~1235
2.モビコール配合内用剤に関する資料 [online],2018年09月,[令和5年3月16日検索],インターネット、<https://www.pmda.go.jp/drugs/2018/P2018092 8001/index.html>
3.Journal of Community Nursing,2015年,Vol.29, No.5,pp.77~82
A.COMPASS Therapeutic Notes on the Management of Chronic Constipation in Primary Care,January 2012、1~10頁)
B.日本内科学会雑誌、2016年、105巻3号、429~433頁
C.MOVICOL Plain 13.7g sachet,powder for oral solution、[online]、2016年1月10日(合議体注:協定世界時による)、取得日:2025年8月5日、internet archive、wayback machineによる検索、
<https://web.archive.org/web/20160110211239/
http://www.medicines.org.uk/emc/medicine/18976>)
D.MOVICOL Paediatric Plain 6.9 g sachet,powder for oral solution - Summary of Product Characteristics (SPC)-(eMC)、[online]、2016年4月3日(合議体注:協定世界時による)、取得日:2025年7月29日、internet archive、wayback machineによる検索、
<https://web.archive.org/web/20160403233040/
http://www.medicines.org.uk:80/emc/medicine/14165>
E.特表2013-5440726号公報
F.JPGN,Volume66,Number1,January2018,pp.10~15(DOI: 10.1097/MPG.0000000000001726)
G.日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会編集、「慢性便秘症診療ガイドライン 2017」2017年10月発行、南江堂、xiv~xv頁、3~6頁、42~46頁、66~67頁
上記の文献のうち、引用文献2は、本願の優先日である2018年6月11日より後の2018年9月28日に公開されたものであるが、本願優先日前である2015~2017年に知られていたMOVICOL(登録商標)製品についての情報が記載されており、本願の優先日前に知られていた知見の内容を示すものである。
第4 本願明細書に記載された事項
本願明細書には、本願発明について以下の事項が記載されている。
(1)背景技術、本願発明が解決しようとする課題、及び本願発明の効果に関する一般記載
「【背景技術】
・・・
【0003】
慢性便秘症の治療薬としてはMOVICOL(ノルジーン社製)が知られている。MOVICOLは、マクロゴール3350(欧州薬局方)、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及び塩化カリウムを含んでおり、結腸の水分を保持して水分を結腸内に貯留することにより便容積を増大させて効果を発揮する。MOVICOLの投与期間は通常2週間とされている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、長期的な投与にあっても慢性便秘症の治療に使用することのできる医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等が鋭意検討した結果、ポリエチレングリコール、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及び塩化カリウムを含む医薬組成物を使用し、極めて長期的な投与にあっても安定的に慢性便秘症に対する効果を発揮できることを見出し、本発明を完成するに至った。
・・・
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、長期的投与にあっても慢性便秘症の治療に使用することのできる医薬組成物を提供することができる。さらに患者の症状に応じて投薬を中止、再度投与することができる慢性便秘症の治療に使用する医薬組成物を提供するものである。」
「【0010】
これまで、ポリエチレングリコール製剤は慢性便秘症の治療薬として使用されてきたが、その投与期間は基本的に2週間であった。長期的な服用をする場合には医師と相談することが必要とされているだけであって、長期的な服用に関する具体的な検討は行われていなかった。なお、長期的な服用とは、一般的に、毎日継続して長期間服用することを意味するものであって、休薬期間を設けることや、休薬期間後に治療を再開すること、しかも同等な効果が得られること等はこれまで全く想定されていなかった。
【0011】
本実施形態に係る医薬組成物は、(休薬と再開を繰り返しながら)長期間にわたって投与されても、その効果が減衰することはない。また、長期的な投与にわたって高い安全性が確保される。更に、治療期間中に休薬期間を設けても、これによる悪影響が起こることはなく、投与再開により、休薬前と同等の効果及び安全性が引き続き得られる。すなわち、本実施形態に係る医薬組成物によれば、厳格な使用規則に縛られることなく、柔軟な方法で長期間にわたって効果的かつ安全に慢性便秘症の治療を行うことができる。
【0012】
本実施形態に係る医薬組成物に含まれるポリエチレングリコールは、好ましくはマクロゴールであり、より好ましくはマクロゴール3350(欧州薬局方)又はマクロゴール4000(日本薬局方)である。ただし、マクロゴール3350(欧州薬局方)とマクロゴール4000(日本薬局方)に基本的な違いはないため、これらは交換して使用することができる。」
「【0027】
・・・治療期間中に休薬期間を設けても、これによる悪影響が起こることはなく、投与再開により、休薬前と同等の効果及び安全性が引き続き得られる。・・・」
(2)「慢性便秘症」について
「【0031】
慢性便秘症としては、例えば、機能性慢性便秘症、症候性慢性便秘症、薬剤性慢性便秘症、器質性慢性便秘症等が挙げられる。本実施形態に係る医薬組成物は、機能性慢性便秘症を対象としてもよい。本実施形態に係る医薬組成物は、症候性慢性便秘症、便秘型過敏性腸症候群、薬剤性慢性便秘症、及び器質性慢性便秘症を対象外としてもよい。症候性慢性便秘症としては、例えば、パーキンソン病、多発性硬化症等に起因する慢性便秘症が挙げられる。薬剤性慢性便秘症としては、例えば、オピオイド、向精神薬等に起因する慢性便秘症が挙げられる。本実施形態に係る医薬組成物は、器質的疾患による便秘を対象外としてもよい。」
(3)「治療期間」、「投与期間」及び「休薬期間」について
ア 「治療期間」、「投与期間」及び「休薬期間」の定義
「【0020】
本明細書において「治療」とは、慢性便秘症の症状を抑えること、及び/又は慢性便秘症を治癒させることを意味する。
【0021】
本実施形態に係る医薬組成物は、長期の治療期間にわたって、慢性便秘症の患者の治療に用いられる。本明細書において「治療期間」とは、投与期間と、必要に応じて設ける休薬期間とを合わせた期間である。休薬期間を設ける必要がない場合には、治療期間は投与期間に一致する。本明細書において「投与期間」とは、本実施形態に係る医薬組成物を投与する期間である。本明細書において「休薬期間」とは、本実施形態に係る医薬組成物を投与しない期間である。」
イ 「投与期間」の上限についての記載
「【0023】
投与期間は、・・・特に好ましくは合計して52週間以上である。投与期間が長期間にわたっても、本実施形態に係る医薬組成物の効果が減衰することはない。すなわち、長期間にわたって安定的に効果が発揮される。また、投与期間が長期間にわたっても、高い安全性が確保される。
【0024】
本実施形態に係る医薬組成物は、慢性便秘症が治癒するまで投与することができる。成人の慢性便秘症を完全に治癒することは一般的に困難とされているため、投与期間の上限は存在しないが、例えば、50年、40年、30年、20年、10年、8年、6年、4年、2年、1年等を上限として設定してもよい。」
ウ 「投与期間」における「投与量の調整」と「休薬期間」の開始と終了に関する記載
(ア)7段階に分類した便の状態に応じた調整
「【0025】
本実施形態に係る医薬組成物の投与量は、以下に示す7段階に分類した便の状態に応じて、調整することが好ましい。
段階1:かたくコロコロしている便
段階2:短くコロコロ便がくっついた便
段階3:表面がひびわれている便
段階4:なめらかなバナナ状の便
段階5:やわらかく半固形状の便
段階6:どろどろしたかゆ状の便
段階7:水のような便
【0026】
本実施形態に係る医薬組成物の投与量は、上記段階が1又は2の場合に増量されることが好ましい。本実施形態に係る医薬組成物の投与量は、上記段階が6又は7の場合に減量されることが好ましい。
【0027】
休薬期間は、患者の症状に応じて、適宜設けられ、適宜日数が規定される。治療期間中に休薬期間を設けても、これによる悪影響が起こることはなく、投与再開により、休薬前と同等の効果及び安全性が引き続き得られる。休薬期間は、上記段階が6又は7の場合に開始されることが好ましい。休薬期間は、上記段階が1又は2の場合に終了されることが好ましい。また、休薬期間は、1日排便が無い場合に終了されることが好ましい。」
(イ)Bristol便形状スケールによる便の状態に応じた休薬の開始と終了
「【0029】
休薬期間は、Bristol便形状スケールが6又は7の場合に開始されることが好ましい。休薬期間は、Bristol便形状スケールが1又は2の場合に終了されることが好ましい。また、休薬期間は、1日排便が無い場合に終了されることが好ましい。
【0030】
Bristol便形状スケールとは、便の状態を便の形状及び硬度で規定する指標であり、以下のように規定されている。
スケール1:硬くてコロコロの兎糞状の(排便困難な)便
スケール2:ソーセージ状であるが、でこぼこした(塊状の)便
スケール3:表面にひび割れのあるソーセージ状の便
スケール4:表面がなめらかで柔らかいソーセージ状、又は蛇のようなとぐろを巻く便
スケール5:はっきりとした断端のある柔らかい半分固形の(容易に排便できる)便
スケール6:端がほぐれて、ふにゃふにゃの不定形の小片便又は泥状の便
スケール7:水様で固形物を含まない液体状の便」
(ウ)その他の記載
「【0034】
・・・
本剤投与中は腹痛や下痢があらわれるおそれがあるので、症状に応じて減量、休薬又は中止を考慮し、本剤を漫然と継続投与しないよう、定期的に本剤の投与継続の必要性を検討することが好ましい。
上記用法用量において、1包は以下の成分を含むことが好ましい。
・マクロゴール4000(日本薬局方)(6.5625g)
・塩化ナトリウム(0.1754g)
・炭酸水素ナトリウム(0.0893g)
・塩化カリウム(0.0251g)」
(4)実施例の記載
「【実施例1】
【0039】
・・・
【0040】
<治療薬>
1包中に以下の成分を含む治療薬を準備した。
・マクロゴール3350(欧州薬局方)(6.5625g)
・塩化ナトリウム(0.1754g)
・炭酸水素ナトリウム(0.0893g)
・塩化カリウム(0.0251g)
【0041】
[実施例1]
<被験者>
慢性便秘症の患者153名(15歳以上)。
患者の約85%が機能性慢性便秘症を患い、残りの患者が便秘型過敏性腸症候群を患っていた。
【0042】
<用法用量>
1日1回2包の投与から開始し、被験者の状態により、以下の投与量調節基準を目安に投与量を調節した。投与量の増量及び減量は2包単位で行い、投与量の上限は1日6包とした。投与のタイミングは、以下のとおり投与量に応じて1日1回又は1日2回とし、1日2回の場合は朝及び夕に投与した。
2包の場合:2包×1回/日
4包の場合:2包×2回/日(朝・夕)
6包の場合:(2包×1回、4包×1回)/日(朝・夕)
【0043】
<投与量調節基準>
・Bristol便形状スケールが1若しくは2の場合又は1日排便が無い場合、Bristol便形状スケールが3又は4になるまで1日おきに増量する。
・Bristol便形状スケールが3、4又は5の場合、投与量を変更しない。
・Bristol便形状スケールが6又は7の場合、2包減量するか又は投与を休止する。投与休止後、1日排便が無い場合又は排便があってもBristol便形状スケールが1又は2の場合、開始時と同様に1日1回2包から再開する。Bristol便形状スケールが3以上の場合は投与休止を継続する。
【0044】
<臨床試験の進め方(休薬の基準)>
来院時の直前2週間の完全自発排便回数が6回以上の場合、2包減量するか、又は投与を休止する。投与休止後、1週間の自発排便回数が3回未満となった場合は休止前の投与量で投与を再開する。
【0045】
<結果>
治療薬を長期間投与した結果を以下の表に示す。なお、「自発排便」とは、下剤若しくは浣腸又は摘便なしに発現する排便を意味する。「完全自発排便」とは、残便感のない自発排便を意味する。「レスポンダー」とは、1週間当たりの排便回数が、治療薬の投与前より1回以上改善し、かつ3回以上である被験者を意味する。「救済薬」とは、ビサコジル坐剤(10mg)を意味し、連続して72時間以上排便が認められない場合に使用される。
【0046】
表1に示すとおり、第2週から第52週まで、安定した自発排便回数が確認された。
【表1】
[図:0001435530000001.jpg]
【0047】
表2に示すとおり、第2週から第52週まで、安定した総排便回数が確認された。
【表2】
[図:0001435530000002.jpg]
【0048】
表3に示すとおり、第1週から第52週まで、自発排便回数のレスポンダーの割合が高く維持されていることが確認された。
【表3】
[図:0001435530000003.jpg]
【0049】
表4に示すとおり、第2週から第52週まで、救済薬の使用率が低く維持されていることが確認された。
【表4】
[図:0001435530000004.jpg]
【0050】
表5及び表6に示すとおり、第1週から第52週まで、改善された便硬度が安定的に維持されていることが確認された。
【表5】
[図:0001435530000005.jpg]
【表6】
[図:0001435530000006.jpg]
【0051】
表7に示すとおり、第1週から第52週まで、治療薬の投与包数が安定していることが確認された。なお。(「。」は原文のママ)第52週での投与包数が他の週を比較して少ないが、これは第52週の7日目より前に来院した被験者に関して、来院後の投薬包数が含まれていないことに起因する。
【表7】
[図:0001435530000007.jpg]
【0052】
表8に示すとおり、治療期間中には、必要に応じて休薬期間が設けられていた。
【表8】
[図:0001435530000008.jpg]
【0053】
休薬期間の開始前第-8~-14日(2週前)及び開始前第-1~-7日(1週前)、並びに休薬期間の終了後第1~7日(1週後)、終了後第8~14日(2週後)及び終了後第15~21日(3週後)の治療薬の使用包数及び自発排便回数を表9に示し、治療薬1包当たりの自発排便回数を表10に示す。2週前の治療薬1包当たりの自発排便回数と1週前の治療薬1包当たりの自発排便回数との平均値に対する、1週後、2週後、及び3週後の治療薬1包当たりの自発排便回数の比率を表11に示す。当該比率が1に近似した値であると、休薬期間の前後で効力に変化がないことを示す。表11に示すとおり、1週後、2週後、及び3週後の当該比率はそれぞれ、0.95、1.08、及び1.21であり、1に近似した値であった。 【表9】
[図:0001435530000009.jpg]
【0054】
【表10】
[図:0001435530000010.jpg]
【0055】
【表11】
[図:0001435530000011.jpg]
【0056】
表12~14に示すとおり、第4週から第52週まで、ナトリウム(Na)、カリウム(K)及びクロル(Cl)の血中濃度が安定しており、脱水等の症状は認められず、安全性に優れることが確認された。なお、血中ナトリウム濃度の基準値は、136~147mEq/Lである。血中カリウム濃度の基準値は、3.6~5.0mEq/Lである。血中クロール濃度の基準値は、98~109mEq/Lである。 【表12】
[図:0001435530000012.jpg]
【表13】
[図:0001435530000013.jpg]
【表14】
[図:0001435530000014.jpg]
」
なお、実施例2(【0057】~【0059】)には、慢性便秘症の患者39名(2~14歳)を対象に12週間にわたる治療薬を投与した結果について記載されているが、実施例2は、投与期間が短く、また、休薬期間の記載もなく、本願発明の条件を満たしていない治療についてのものである。
(5)本願明細書に記載された事項の概要
ア 本願発明の課題と効果
上記(1)によれば、従来から、慢性便秘症の治療薬として、マクロゴール3350(欧州薬局方)、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及び塩化カリウムを含む製品が知られていた(【0003】)が、その投与期間は通常2週間とされており、長期的な服用に関する具体的な検討は行われていなかった(【0010】)。
これに対し、本願発明は、長期的な投与にあっても慢性便秘症の治療に使用することのできる医薬組成物を提供することを課題とし(【0004】)、マクロゴール3350(欧州薬局方)と基本的な違いがなく交換して使用できるポリエチレングリコールである(【0012】)マクロゴール4000(日本薬局方)、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及び塩化カリウム(所定の4成分)を含む医薬組成物からなり(【0005】)、治療期間中に休薬期間を設けても、その悪影響がなく、投与再開により、休薬前と同等の効果及び安全性が引き続き得られるものであり、(休薬と再開を繰り返しながら)長期間にわたって効果的かつ安全に慢性便秘症の治療を行うことができるという効果を奏するものである(【0007】、【0011】、【0027】)。
イ 便の状態に応じた投与期間と休薬期間の調整
上記(3)によれば、本願発明における「治療」とは、「慢性便秘症の症状を抑えること、及び/又は慢性便秘症を治癒させること」(【0020】)であり、実施形態に係る医薬組成物の「投与」は、「慢性便秘症が治癒するまで」続けることができるが、成人の慢性便秘症を完全に治癒することは一般的に困難とされているため、投与期間の上限は存在せず、例えば、50年を上限としてもよい(【0024】)。
また、本願発明の医薬組成物の「投与」は、「症状に応じて減量、休薬又は中止」が考慮されるものであり(【0034】)、「休薬期間」も、「患者の症状に応じて、適宜設けられ、適宜日数が規定され」る(【0027】)。
そして、実施形態においては、「投与量の調整」も「休止期間」の決定も、「便の状態に応じて」なされ、便の状態が「段階6:どろどろしたかゆ状の便」や「段階7:水のような便」の場合、つまり、一般的に「下痢」状態と考えられる便の場合は「減量」又は「中止」とされ、「段階1:かたくコロコロしている便」や「段階2:短くコロコロ便がくっついた便」となった場合、つまり、「便秘」に近い「排便が困難な便」の状態となった場合には、「増量」又は「休薬期間の終了」とするし、1日排便が無い場合(つまり、「便秘状態」)は、休薬期間は終了とされる((3)ウ(ア))。Bristol便形状スケールによる便の状態に応じた休薬についても同様であり、「スケール6」や「スケール7」のような「下痢」状態と考えられる便の場合は投薬が「中止」とされ、「スケール1」や「スケール2」ように「便秘」に近い「排便が困難な便」の状態となった場合や1日排便が無い場合(つまり、「便秘状態」)では、「休薬期間の終了」とされる((3)ウ(イ))。
ウ 臨床試験とその結果
上記(4)によれば、マクロゴールが本願発明のマクロゴール4000(日本薬局方)ではなくマクロゴール3350(欧州薬局方)ではあるが、1包中に、マクロゴール6.5625g、及び所定の3種の電解質を本願発明と同じ比率及び含有量で含有する治療薬(【0040】)を使用して、「慢性便秘症の患者(15歳以上)」を対象に実施された52週にわたる臨床試験(【0039】~【0056】)において、「Bristol便形状スケール」(上記(3)の【0030】)を基準とし、スケールが1若しくは2の場合又は1日排便が無い場合には、Bristol便形状スケールが3又は4になるまで1日おきに治療薬を増量し、Bristol便形状スケールが3~5の場合、投与量を変更せず、Bristol便形状スケールが6又は7の場合、2包減量するか又は投与を休止するようにし、投与休止後、1日排便が無い場合又は排便があってもBristol便形状スケールが1又は2の場合、開始時と同様に1日1回2包から再開し、Bristol便形状スケールが3以上の場合は投与休止を継続し(【0043】)、また、来院時の直前2週間の完全自発排便回数が6回以上の場合、2包減量するか又は投与を休止し、投与休止後、1週間の自発排便回数が3回未満となった場合は休止前の投与量で投与を再開するようにして(【0044】)、治療したところ、症状改善による休薬を含め、休薬期間は【0052】の表8に示すとおりであった。そして、治療開始から第52週まで、安定した自発排便回数が確認され(【0046】の表1)、救済薬の使用率が低く維持され(【0049】の表4)、改善された便硬度が安定的に維持され(【0050】の表5及び表6)、また、休薬2週前の治療薬1包当たりの自発排便回数と休薬1週前の治療薬1包当たりの自発排便回数との平均値に対する、1週後、2週後及び3週後の治療薬1包当たりの自発排便回数の比率を示す表11によれば、比率が1に近似した値であり、休薬期間の前後で効力に変化がなく(【0053】~(【0055】)、及び表12~14に示すとおり、第4週から第52週まで、ナトリウム(Na)、カリウム(K)及びクロル(Cl)の血中濃度が安定しており、脱水等の症状は認められず、安全性に優れることが確認された(【0056】)。
ここで、上記イのとおり、臨床試験の「休薬期間」は、「患者の症状に応じて」設けられ、「適宜日数が規定される」ものであり、具体的には、
・便秘状態から、(Bristol)便形状スケールが6又は7の場合、つまり、便がもはや半固形状を保てず、ふにゃふにゃの不定形の小片あるいは泥状、さらには液状となった、下痢状態に変化した場合、及び、場合により、直前2週間の完全自発排便回数が6回以上のような、通常便秘状態とは解されない排便回数に変化した場合には、休薬を開始し、
・(Bristol)便形状スケールが3以上の場合(つまり、通常の便の状態)は休薬を継続、
・(Bristol)便形状スケールが1又は2の場合、つまり、便が、硬くてコロコロした形状であるか、コロコロした形状の便が塊状となったでこぼこした便の場合、のように、排便が通常より困難な状態の場合や、1週間の自発排便回数が3回未満となり、排便回数が通常より少なくなった場合(場合によっては、1日排便が無い場合でもよい)のような、便秘状態に変化したと解される場合に、休薬期間を終えて、投薬を再開する、
という投与がなされた。
エ 本願発明の実施態様
以上ア~ウによれば、従来から慢性便秘症の治療薬として使用されてきた、マクロゴール3350(欧州薬局方)、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及び塩化カリウムを含む製品では、長期的服用は医師と相談してなされていたのに対し、本願発明は、慢性便秘症の患者に対する臨床試験において、「便の状態」に基づき、休薬を含めた投与量の調整を行いながら、1回以上の休薬期間を含めた52週にわたる治療を行ったところ、治療薬1包当たりの自発排便回数の比率を基準とする薬の効力が休薬期間の前後で変化がなく、血中のナトリウム(Na)、カリウム(K)及びクロル(Cl)の血中濃度は52週にわたり安定し、脱水等の症状は認められず、安全性に優れることが確認されたことに基づいてなされたものである。
そして、成人の慢性便秘症を完全に治癒することは一般的に困難とされているところ、本願発明は、休薬と再開を繰り返しながら長期間、例えば52週にわたる治療に用いるものであり、投与期間の上限は存在しない。また、本願発明の医薬組成物の「投与」は、「症状に応じて」減量、休薬又は中止が考慮され、具体的には、実施形態において「便形状」を指標とした。下痢状態に変化した場合、及び、通常便秘状態とは解されない排便回数に変化した場合には、「休薬」を開始し、「便秘」又はこれに近い状態となった場合には、「増量」又は「休薬期間の終了」とされるという投与を含む投与が行われた。
第5 引用文献の記載、引用文献から認定される引用発明、技術常識等
1 引用文献1の記載及び引用文献1に記載された発明
引用文献1には、以下の事項が記載されている。なお、引用文献1は、外国語で記載された文献であるので、一部図面等、原文で記載した箇所を除き、合議体による訳文で記載する。この審決中における引用文献であって、外国語で記載されたものである引用文献3、A~D、Fについても同様に、訳文で記載する。
また、原文の参照文献番号の記載は省略した。
(1)引用文献1の記載
(1a)1227頁の表題、ABSTRACT及び欄外最下行(「Movicol」に関する注釈)
「慢性便秘におけるポリエチレングリコール3350と電解質の併用療法の長期的有効性と費用対効果:障害者集団を対象とした後ろ向き研究」
「要約
目的:重度知的障害患者における便秘治療の有効性と安全性、そして関連する費用対効果は、臨床診療において十分に調査されていない領域である。この課題に対処するため、本研究の目的は、精神科長期入院施設における安定した入所者集団に、ポリエチレングリコール3350と電解質(Movicol*;PEG+E)を投与する前後の臨床データを比較することにより、その有効性と忍容性を評価することであった。また、この施設におけるPEG+Eの使用に関する経済的評価も試みた。
研究デザインと方法:本研究は、フランス、ポワティエ(Poitiers)にあるラ・ミレトリー大学病院の専門病棟に入院し、便秘を定期的に経験していた重度の知的・身体障害を持つ入所者66名中のうちの54名を対象とした後ろ向き研究である。計54名の入所者が24か月間、PEG+E(1日1~3包)による治療を受けた。排便回数、下痢(必ずしも水様便ではない頻便と定義)、体重、血液生化学検査を記録した。便秘の緩和のために様々な他の介入を定期的に受けていた入居者54名中16名について、PEG+E導入前の21ヶ月間に記録されたデータと比較した。下剤、浣腸剤、坐剤の月間使用量と費用は病院薬局記録から入手し、PEG+E導入前後の総病院費用を算出した。
結果:患者1人当たりの月間排便回数の平均(±標準偏差)は、PEG+E導入後(24.9±6.3)、導入前(12.4±3.4)と比較して有意に増加した(p<0.001)。患者1人当たりの月間下痢回数の平均(±標準偏差)は、PEG+E導入前と導入後でそれぞれ0.1±0.1と6.3±2.9であった(p<0.001)。PEG+Eによる治療は、体重や血液生化学値への悪影響とは関連がなかった。PEG+Eの導入と使用増加により、病院の内科病棟における下剤費用は月額3,788ユーロから1,767ユーロに減少した。
結論:PEG+Eは、施設における便秘の臨床管理に有効である。さらに、PEG+Eによる長期強化治療は、体重や血液生化学値への悪影響とは関連がなかった。経済データと有効性・安全性データの収集期間は直接一致していないものの、本研究は、重度知的障害者の便秘管理におけるPEG+Eの使用は費用対効果が高く、病院の下剤費用を削減する可能性があることを示唆している。」
「*Movicolは、ノルジーン(Norgine)社の登録商標である。」
(1b)1228頁左欄~1229頁左欄の「Introduction」、「Materials and methods」、「Participants」、「Study design」及び「Outcome measures」の項目
「はじめに
身体障害、知的障害、あるいは何らかの精神疾患を患っている人は、便秘に悩まされることが多い。知的障害(IQ<50)のある215人を無作為に抽出した集団における便秘(週3回未満の排便、又は週3回以上の下剤の使用と定義)の有病率は70%であった。この集団において、便秘は寝たきりであること、脳性麻痺を患っていること、抗けいれん薬又はベンゾジアゼピン系薬剤、H2受容体拮抗薬あるいはプロトンポンプ阻害薬の使用、食事拒否、及びIQ<35と有意に相関していた。便秘は、長期入所施設や高齢者介護施設でよく見られる問題であり、精神疾患や神経疾患、及び/又は不動状態又は活動制限と関連している。さらに、慢性便秘に起因する腸閉塞による死亡が、精神障害者及び身体障害者において報告されている。
施設における便秘の管理は、看護スタッフによる理学療法(主に浣腸)に基づいていることが多く、かなりの作業負荷がかかる。浸透圧性下剤及び刺激性下剤も、この状況で広く使用されている。これらの介入にかかる総費用は相当な額になる可能性があり、下剤を長期使用すると、投与を受けた人の電解質バランスが崩れる可能性がある。ポリエチレングリコール3350+電解質(マクロゴール3350+電解質、Movicol、以下PEG+Eと略す。)は、非吸収性の等浸透圧性下剤で、大腸内視鏡検査前の腸管洗浄に高用量で広く使用されている。低用量のポリエチレングリコール(PEG)は、慢性便秘の治療に使用できる。しかし、PEG+Eの製剤は、長期使用、又は病気で電解質異常のリスクが高い患者に使用する場合、電解質バランスの崩れのリスクを最小限に抑える。特発性便秘の緩和に対するPEG+Eの有効性は、オープンラベル試験とランダム化比較試験の両方で実証されており、プラセボと比較して1日平均排便回数が有意に増加し、ラクツロースと比較して1日あたりの排便回数が有意に増加することが示された。他の試験では、オピオイド療法を受けている緩和ケア患者における有効性が示唆されており、オピオイド誘発性便秘患者57名を対象にPEG+Eとラクツロースを比較したランダム化比較試験では、両方の下剤は同等の効果を示し、プラセボよりも優れていることが示された。
便秘治療の有効性と安全性、そしてそれに伴う費用対効果は、臨床診療において十分に調査されていない分野である。この課題に対処するため、本研究は、施設に入所している重度の精神・身体障害のある人々の便秘に対するPEG+Eの有効性、安全性、及び費用対効果を長期にわたって評価することを目的として実施された。本研究は、詳細かつ包括的に収集された、経時的に比較的安定した集団から得られた、後ろ向き研究で収集されたデータに基づいて実施された。
材料と方法
本研究の目的は、長期入所精神保健施設の安定した入所者集団において、PEG+E導入前後の臨床データを比較することにより、PEG+Eの有効性と忍容性を評価することであった。また、本研究では、この施設におけるPEG+Eの使用に関する経済評価も行った。研究の治験責任医師は全員、病院の臨床医又は医療専門家(医師、看護師、薬剤師)であり、後ろ向き研究であるため倫理委員会の承認は不要であったものの、病院の倫理ガイドラインに従って承認され、実施された。
参加者
参加者は、フランス、ポワティエのラ・ミレトリー大学病院の病棟に入所している重度の知的・身体障害を持つ66名の入所者のデータベースから抽出された。本研究の参加資格は、48時間あたりの排便回数が1回未満であること、及び/又は排便に問題があり、下剤治療を受けていることであった。臨床データ又は血液化学データが定期的に測定されていない、又は信頼できない患者は、解析から除外された。このような除外は、主に、病院の他の部門への頻繁な移動、病院を離れる期間の長期化、又は長期間にわたる治療の中断の結果であった。
研究デザイン
対照期間(PEG+E治療前)は21か月であり、これは本研究に関連する臨床データが一貫して報告された最長期間であった。24か月の研究治療期間は、PEG+E治療の効果と費用を評価するのに十分な期間であると考えられた。
21か月の対照期間中、16名の居住者に関する関連臨床データは信頼性が高く完全であることが確認された。したがって、これらの患者のデータは本研究のPEG+E治療前フェーズに使用された。これらの入居者は、便秘の緩和のために、ラクツロース(デュファラック、ソルベイ・ファーマ、シュレーヌ)、リン酸浣腸(ノーマコール浣腸、ノルジン・ファーマ、パリ)、マイクロ浣腸(マイクロラックス坐剤、ファルマシア、サン・カンタン・アン・イヴリーヌ)、ヒマシ油、あるいはソルビトール3包、メトクロプラミド大さじ1杯(プリンペラン、サノフィ・シンテラボ・フランス、パリ)、ヒマシ油大さじ2杯、ラクツロース大さじ2杯を組み合わせた下剤「カクテル」など、様々な治療法による治療を定期的に受けていた。場合によっては、ぬるま湯1リットルと液体石鹸100mL(アンフォテーヌ、グループ・プロップ、パリ)を混ぜた浣腸も必要であった。これらの治療は必要に応じて処方され、週に少なくとも1回の排便が得られるように投与量が調整された。
その後24ヶ月間、66名の入居者全員(当初の対照期間の16名を含む)がPEG+Eによる治療を受けた。PEG+Eは1包(13.25g/1包)入りで、水(1包あたり125mLの水)で調製された。臨床的に推奨されているように、経口投与される用量は、3日ごとに1包から1日最大3包までの範囲で、24~48時間に1回の排便が得られるよう必要に応じて調整された。72時間以上排便が記録されなかった場合、通常の用量に24時間ごとにPEG+Eの1包を追加した。必要な排便頻度が達成されるまでこれを続け、その後、最初の用量を再開した。患者が下痢を起こした場合、通常の用量は24時間ごとに1包ずつ減量され、正常な便が再開された後、PEG+Eの初期用量が再開された。他の経口及び直腸用下剤は、臨床的に必要と判断された場合、PEG+Eと併用されたが、この追加療法は管理されておらず、事前に定められた治療プロトコルにも従っていなかった。
評価項目
研究期間中、毎日収集された有効性及び安全性のデータは、研修医の病院記録から得られた。主要な有効性変数は、患者1人当たり1か月当たりの平均排便回数であった。患者1人あたり1か月あたりの平均下痢回数(本研究では、必ずしも水様便ではなく、頻便と定義)も記録された。臨床記録では「排便の異常な頻度と流動性」という、より一般的な定義は認められず、そのような場合は薬物有害反応とはみなされなかった。主な安全性評価項目は、患者の体重、血液学的検査、血液生化学検査(具体的には、ヘマトクリット、血清ナトリウム、カリウム、クロル、クレアチニン、タンパク質)によって評価された長期的な臨床的及び生物学的耐性であった。」
(1c)1229頁右欄~1231頁左欄、「Results」の「Patient characteristics」、「Efficacy variables」及び「Safety variables」の項目
「結果
患者特性
・・・1つの病棟の16名はPEG+E導入前に21ヶ月間モニタリングされ、研究に参加した54名全員はPEG+E治療開始後24ヶ月間モニタリングされた。2つの治療群間で人口統計学的差異は認められなかった。54名(男性30名、女性24名)の平均年齢(±標準偏差)は36.1±11.9歳、平均体重は41.7±9.2kgであった。入居者のうち25名(46%)が神経弛緩薬を服用しており、8名(15%)が抗コリン薬(抗パーキンソン病薬)を服用していた。・・・
有効性変数
PEG+E導入前は、3つのユニットのうち1つのユニットでのみ毎月排便回数が測定されていた。すべてのデータは、PEG+E導入前に2ヶ月連続で23名の患者について収集された。PEG+E開始前の21ヶ月間の患者1人あたりの月間排便回数(±標準偏差)は12.4±3.4回、患者1人あたりの月間下痢回数(平均)は0.1±0.1回であった。PEG+E導入後24ヶ月間において、患者1人当たりの月間平均排便回数は24.9±6.3回、患者1人当たりの月間平均下痢回数は6.3±2.9回であった。どちらの場合も、治療間差は統計的に有意であった(p<0.001)(図1)。
[図:0001435530000015.jpg]
患者1人あたり1か月あたりの平均PEG+E包(sachets)の使用数は、追跡期間の最初の12ヶ月で37.3±14.1個、次の12ヶ月で38.0±14.2個、2年間全体では37.6±14.0個であった(図2)。患者1人あたり1か月あたりのPEG+E包の使用数は4~91個(最初の1か月は8~60包)の範囲であったが、ほとんどの患者は約30包使用していた。各患者は、ほとんど変動なく、ほぼ同数の包数を毎月使用する傾向があった。
この後ろ向き研究では、追加療法の使用は対照としなかった。しかし、PEG+E導入前後の介入発生率の指標を図3に示した。PEG+E導入後、直腸性下剤の使用は減少し、また、経口性下剤の使用はごくわずかになった。
[図:0001435530000016.jpg]
安全性変数
解析対象者のPEG+E導入前期間の平均体重は40.3±9.0kgで、PEG+E治療期間中は41.9±8.0kgであった。
評価された血液生化学パラメータの変動は、研究期間中最小限であった(表2)。
[図:0001435530000017.jpg]
血液生化学異常値を示した入居者の数は、表3に年別にまとめられている。PEG+E治療期間終了時に14名の入居者に血清タンパク質の上昇が見られたが、これはヘマトクリット値の上昇や体重減少とは関連していなかった。2名の入居者には血清タンパク質とヘマトクリット値の上昇が見られ、体重増加も見られた。
[図:0001435530000018.jpg]
」
(1d)1233頁左欄~1234頁右欄の「Discussion」の項目
「考察
本解析に含まれる後ろ向き研究のデータは、安定した患者集団から長期間にわたり定期的に(毎日)収集された信頼性の高いデータである。したがって、これらのデータは、臨床試験という人工的な環境ではなく、臨床現場におけるPEG+Eの有効性に関する貴重な情報を提供する。本研究は、長期入所施設の重度知的障害及び身体障害のある入所者の慢性便秘に対するPEG+Eの臨床的有効性、安全性、及び経済的有効性を明確に示している。
本解析により、下剤の使用(それに伴う費用と職員の作業負荷の増加を伴う)にもかかわらず、便秘は施設の入所者にとって深刻な問題であることが確認された。PEG+Eで認められた腸機能の改善は、この治療で用いられたより積極的なレジメンに一部起因する。PEG+E治療は24~48時間ごとの排便を達成することを目的として行われたが、以前のレジメンは週1回の排便のみの達成を目標としていた。このより強力な治療にもかかわらず、臨床検査値及び体重のいずれにも悪化が見られなかったことは特筆に値する。血清タンパク質の増加はヘマトクリット値の上昇や体重減少とは関連がなく、したがってPEG+Eによる脱水症状に寄与するものではない。さらに、タンパク質レベルが上昇した入居者の割合は、PEG+E使用前と比較して、PEG+Eによる治療後に減少した(26~30% vs.38~50%)。下痢の発生率の増加は、「必ずしも水様便ではない、多数の便」という定義を用いて報告された。この定義では、便が軟便又は水様便である必要はなく、1日あたりの便数も規定されていないため、より具体的な定義と比較して、下痢の発生率は過剰に報告されている可能性がある。患者の主観的な忍容性は評価されていない。
・・・
この研究には、他にもいくつかの認識された限界がある。第一に、これらの入院患者の食事は類似していた可能性があるが、入院患者間の一貫性を確保するための具体的な措置が講じられていなかったことである。また、便秘の管理の改善は、研究治療に加えて他の下剤を使用したことによる部分もある可能性がある。入院患者の毎日のデータ収集と入院記録への報告方法は、研究実施時にもっと明確に定義されるべきだったかもしれない。これは遡及的に検討することができないからである。例えば、ある時間帯における排便回数を用いるのがより一般的である。
重度の知的障害及び身体障害のある人々の便秘の緩和又は管理のための介入の有効性を評価する研究はごくわずかである。あるランダム化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験では、重度の難治性便秘に苦しむ発達障害のある成人12名を対象にコルヒチンの有効性を検討した。評価対象となった11名のうち8名はコルヒチン治療から何らかの利益を得たように見えたが、プラセボと比較したコルヒチン投与群の排便回数は・・・増加したが、統計的に有意ではなかった(p=0.18)。
本研究と一致して、いくつかの試験でPEG+Eの有効性と忍容性が確認されている。・・・特発性便秘の緩和に対するPEG+Eの有効性は、23人の患者を対象とした無作為化プラセボ対照ダブルクロスオーバー試験で実証されている。PEG+Eを1日17g投与したところ、プラセボ投与群の0.5回と比較して、1日平均排便回数が1回に有意に増加した。自覚症状も、PEG+E群ではプラセボ群と比較して有意に改善した。
対照臨床試験の結果によると、低用量のポリエチレングリコール溶液はラクツロースよりも効果が高く副作用も少ないのに対し、高用量のポリエチレングリコールは糞便塞栓の治療に効果的であった。・・・慢性特発性便秘患者115名を対象とした別の無作為化比較試験では、ラクツロースと比較してPEG+Eの優れた有効性が示された。この研究では、PEG+E(13~39g/日)を4週間投与した後、1日あたりの排便回数はラクツロース投与群と比較してPEG+E投与群で統計的に有意に増加した(p=0.005)・・・さらに、段階的な投与計画を用いたPEG+電解質溶液の早期使用は、オピオイド療法を受けている緩和ケア患者の便秘治療に有効であることが示されている。オピオイド誘発性便秘患者57名を対象とした、PEG+Eとラクツロース(用量不明)を比較した無作為化対照試験では、どちらの下剤も同等の効果を示し、プラセボよりも優れていることが示された。過去数年間、PEGの様々な製剤が研究されてきた。1件のプラセボ対照試験では、緩徐通過性便秘の女性患者8名を対象に、PEG 4000を6週間投与したところ、プラセボ投与期間と比較して、結腸機能の主観的及び客観的パラメータの両方が有意に改善し、2件のプラセボ対照ランダム化試験では、機能性慢性便秘におけるPFM-100(PEG 4000+電解質+シメチコン)の有効性が検討された。両試験とも、PFM-100はプラセボよりも有意に有効であることが示され、プラセボ対照試験では、この治療レジメンにおいて、排便頻度(p<0.002)、排便時のいきみ(p<0.01)、便の硬さ(p<0.02)、及び下剤の使用(p<0.03)に対するPFM-100の効果がより高かったことが示された。予備的な知見では、PEG-4000は妊娠中の便秘治療に効果的な選択肢となる可能性も示唆されており、妊娠中に新たに便秘を発症した患者と妊娠前に便秘の既往歴のある患者の両方において、週あたりの排便回数が増加した。」
(1e)1234頁右欄の「Conclusion」の項目
「結論
施設環境で実施されたこの後ろ向き研究で確認されたPEG+Eの有効性は、文献で報告されたランダム化比較試験の結果を裏付けている。さらに、PEG+Eによる長期の強化治療は、体重や血液生化学値への悪影響とは関連していなかった。本研究は、重度知的障害のある人の便秘管理におけるPEG+Eの使用は費用対効果が高く、病院の下剤費用を削減する可能性があることを示唆している。」
(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)の(1a)~(1b)の引用文献1の記載、特に、(1a)の表題の「慢性便秘におけるポリエチレングリコール3350と電解質の併用療法の長期的有効性」なる記載、並びに、要約の「ポリエチレングリコール3350と電解質(Movicol*;PEG+E)」なる記載とこれに関係する1277頁欄外最下行の「Movicol」に関する注釈の記載、要約の「結果:患者1人当たりの月間排便回数の平均(±標準偏差)は、PEG+E導入後(24.9±6.3)、導入前(12.4±3.4)と比較して有意に増加した(p<0.001)。患者1人当たりの月間下痢回数の平均(±標準偏差)は、PEG+E導入前と導入後でそれぞれ0.1±0.1と6.3±2.9であった(p<0.001)。PEG+Eによる治療は、体重や血液生化学値への悪影響とは関連がなかった。」なる記載、及び「結論:PEG+Eは、施設における便秘の臨床管理に有効である。さらに、PEG+Eによる長期強化治療は、体重や血液生化学値への悪影響とは関連がなかった。」なる記載、(1b)の「はじめに」の2段落目(原文の9~11行及び15~18行)の「ポリエチレングリコール3350+電解質(マクロゴール3350+電解質、Movicol、以下PEG+Eと略す。)」、「PEG+Eの製剤は、長期使用、又は病気で電解質異常のリスクが高い患者に使用する場合、電解質バランスの崩れのリスクを最小限に抑える」なる記載、「研究デザイン」の3段落の「24ヶ月間、66名の入居者全員(当初の対照期間の16名を含む)がPEG+Eによる治療を受けた。PEG+Eは1包(13.25g/1包)入りで、水(1包あたり125mLの水)で調製された。臨床的に推奨されているように、経口投与される用量は、3日ごとに1包から1日最大3包までの範囲で、24~48時間に1回の排便が得られるよう必要に応じて調整された。72時間以上排便が記録されなかった場合、通常の用量に24時間ごとにPEG+Eの1包を追加した。必要な排便頻度が達成されるまでこれを続け、その後、最初の用量を再開した。患者が下痢を起こした場合、通常の用量は24時間ごとに1包ずつ減量され、正常な便が再開された後、PEG+Eの初期用量が再開された。」なる記載、及び「評価項目」の「主な安全性評価項目は、患者の体重、血液学的検査、血液生化学検査(具体的には、ヘマトクリット、血清ナトリウム、カリウム、クロル、クレアチニン、タンパク質)によって評価された長期的な臨床的及び生物学的耐性であった。」なる記載、及び、(1c)の「安全性変数」の項目のTable 2.の記載並びに「評価された血液生化学パラメータの変動は、研究期間中最小限であった」なる記載によれば、引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる。
「慢性便秘症の患者の治療のために、24か月の治療期間にわたり、経口投与されるポリエチレングリコール3350と電解質を含むMovicol(登録商標)(以下、PEG+Eと略す。)からなる治療薬であって、
1包(13.25g)あたり125mLの水で調製され、24~48時間に1回の排便が得られるよう、3日ごとに1包~1日最大3包までの範囲で調製され、72時間以上排便がなかった場合、通常の用量に24時間ごとに1包を追加し、必要な排便頻度が達成されるまでこれを続け、その後、最初の用量を再開し、患者が下痢を起こした場合には、通常の用量は24時間ごとに1包ずつ減量され、正常な便が再開された後、PEG+Eの初期用量で再開するように投与される、
患者の月間排便回数(平均)を有意に増加することができ、長期使用の場合でも、電解質バランスの崩れのリスクを最小限に抑えることができ、患者の体重及び血液生化学値(血清ナトリウム、カリウム、クロル、クレアチニン、タンパク質の濃度)に悪影響を与えない、治療薬。」
(以下、「引用発明」という。)
2 慢性便秘の治療に関する技術常識を示す文献である引用文献A及びBの記載
(1)引用文献Aの記載
引用文献Aは、「プライマリケアにおける慢性便秘の管理に関するCOMPASS Therapeutic Notes(治療メモ)」(1頁の冒頭)であり、以下の記載がある。
(Aa)3頁中程の「Drug used in the management of chronic constipation」なる項目名及び該項目中の4頁右欄「Stopping laxatives」の項目
「慢性便秘症の管理に使用される医薬」
「便秘薬の中断
便秘薬は突然中止すべきではありません。規則的な排便が問題なく行われるようになったら、便秘薬を徐々に中止する必要があります(例えば、排便が快適になり、軟らかく形の整った便を伴う規則的な排便パターンが確立されてから2~4週間後)。用量を減らす速度は、便の頻度と硬さに応じて決定する必要があります。再発性の糞便負荷に対する「救出療法」が必要になるリスクを最小限に抑えるために、用量を徐々に減らす必要があります。複数の便秘薬を組み合わせて使用している場合は、一度に1種類ずつ便秘薬を減らして中止します。可能であれば、まず刺激性便秘薬の用量を減らす必要があります。ただし、それを補うために、浸透圧性便秘薬の用量を調整する必要があるかもしれません。全ての便秘薬を完全に断ち切るには、数か月かかる場合があることを患者に説明する必要があります。再発がよくあり、その場合には、便秘薬の量を増やして早期に治療する必要があります。」
(Ab)5頁の右欄下から9~6行及び6頁の「Table TWO」の項目
「マクロゴール(ポリエチレングリコールとも称されます。)表2のマクロゴール製品は、非反応性、非吸収性、非代謝性のエチレングリコールポリマーです。マクロゴールの毎日の服用は慢性便秘症に有効です。」
「
[図:0001435530000019.jpg]
(表2:BNF2にリストされたマクロゴール便秘薬)
(成人の場合、便秘の治療期間は通常2週間を超えないですが、必要に応じてくり返すことができます。慢性便秘症の小児の治療は長期間(少なくとも6~12か月)行う必要があります。但し、Movicol(R)Pediatric Plainの安全性と有効性は最長3か月しか証明されていません。治療は徐々に中止し、便秘が再発した場合には再開する必要があります。)」
(上記「(R)」は、登録商標を意味し、原文では、○の中にRとして記載されたり、また上付き表記されているが、以下、他の文献にある登録商標のマークも含め、原文の記載にかかわらず、この通知では通常表記で「(R)」と記載する場合がある。)
(2)引用文献Bの記載
(Ba)タイトル
「慢性便秘の診断と治療」
(Bb)429頁「はじめに」の項目の3~4行
「ひとたび慢性便秘になれば完治することはない慢性疾患である.」
(Bc)432頁左欄「6.」の1~4行
「6.治療の基本戦略
多くの患者さんは排便回数の低下ではなく,排便困難症状で困っていることを認識すべきである.そのためには,便形状の正常化(多くは硬い便から軟便にすること)がポイントになる.」
(3)上記(1)及び(2)で示した引用文献A及びBの記載によれば、「慢性便秘症」は、再発が多い、完治が難しい疾患であること、治療は、便形状の正常化が基本戦略となり、便形状が正常化したら終了し、再発した場合に治療をくり返す治療が行われることは本願優先日前において技術常識であった。
3 Movicol(登録商標)製品に関する優先日前の公知の知見を示す引用文献2、C、D、及び3の記載
(1)引用文献2の記載
引用文献2は、本願優先日である2018年6月11日より後の2018年9月28日に公開されたものであるが、本願優先日前である2015~2017年に公開された製品情報概要について以下のとおり記載されており、当該記載によれば、本願の優先日前に、商品名に「MOVICOL(R)」という名称が付された商品が、ノルジーン社により慢性便秘症等の治療薬として開発されており、3頁の表1.6.1-1にあるように、2017年10月6日の時点でも既に多くの製品が存在していたことが理解できる。
(2a)3頁の項目「1.6.1」
「
[図:0001435530000020.jpg]
」
(2)引用文献Cの記載(訳文として引用文献2参照)
引用文献Cは、英国の「MOVICOL(R)Plain」の製品情報の添付文書(2015年10月改訂)であり、引用文献2に、MOVICOL(R)製品の代表的な添付文書としてその概要が和訳で記載されている(4~10頁項目1.6.2.1)ので、以下は、当該和訳による。
(Ca)全文
「
[図:0001435530000021.jpg]
・・・
4. 臨床的特性
4.1.効能・効果
慢性便秘症の治療
直腸や結腸の糞便貯留による難治性便秘として定義される便塞栓の解消にも有効
4.2.用法・用量
用量
慢性便秘症
便秘に対する1回の治療は通常2週間以内であるが、必要に応じてこの治療を繰り返すことができる。
他のすべての緩下剤と同様に、長期にわたる使用は一般に勧められない。ただし、重度の慢性便秘又は治療抵抗性の便秘、多発性硬化症やパーキンソン病に伴う二次性便秘、若しくは便秘を誘発する楽剤、特にオピオイド・抗ムスカリン薬の常用によって誘発された便秘の治療には長期使用が必要となることがある。
成人、青少年及び高齢者:患者の反応に応じて1日1~3包を分割して投与する。長期に使用する場合は、1日1~2包に減量してもよい。
小児(12歳未満):使用しないことが望ましい。小児用には本剤に代わるMOVICOL製品が市販されている。
・・・
用法
1包を125mlの水に溶解すること。・・・
・・・
4.4.特別な誓告及び使用上の注意
・・・
第4.8節に示すように、軽度の副作用が起こる可能性がある。体液/電解質の変化を示す症状(浮腫、息切れ、疲労増悪、脱水、心不全など)がみられた場合には直ちにMOVICOL Plainを中止して電解質を測定し、すべての異常を適切に治療すること。
・・・
[図:0001435530000022.jpg]
・・・
10.本文書の改訂日
2015年10月」
(3)引用文献Dの記載(訳文として引用文献2参照)
本願優先日前の文献である引用文献Dは、英国における小児用の製品である「MOVICOL(R)Paediatric Plain」の添付文書(2015年12月11日改訂)であり、引用文献2に、MOVICOL(R)製品の代表的な添付文書としてその概要が和訳で記載されている(15~21頁の1.6.2.3)ので、以下は、当該和訳による。
(Da)全文
「
[図:0001435530000023.jpg]
[図:0001435530000024.jpg]
4.2.用法・用量
用量
慢性便秘症
通常の開始用量は、2~6歳に対して1日1包、7~11歳に対しては1日2包。規則的に柔らかい便を生成するために必要に応じて増量又は減量すること。増量が必要な場合には、1日おきに行うこと。必要最大用量は通常1日4包を超えない。
慢性使秘症の小児の治療は長期間を必要とする(少なくとも6~12ヶ月)。ただし、MOVICOL Paediatric Plainの安全性及び有効性は最大3ヶ月間に対してのみ証明されている。治療は徐々に中止し、使秘が再発した場合に再開すること。
・・・
用法
1包を62.5ml(コップ4分の1)の水に溶解すること。・・・
・・・
4.4.特別な誓告及び使用上の注意
・・・
マクロゴール含有製剤を使用する場合、体液/電解質の変化を示す症状(浮腫、息切れ、疲労増悪、脱水、心不全など)は成人でほとんど報告されていない。このような症状が発現した場合には直ちにMOVICOL PaediatricPlainを中止して電解質を測定し、すべての異常を適切に治療すること。・・・
・・・
[図:0001435530000025.jpg]
[図:0001435530000026.jpg]
・・・
10.本文書の改訂日
2015年10月」
(4)引用文献3の記載
引用文献3の摘記においては、原文における下線は波線で記載し、読みやすいよう適宜改行した。また、上記のとおり、(R)は、原文では、○の中に「R」で記載されている。なお、この原文は上付き表記であるが文字修飾はせずに記載した。
(3a)77頁の下半分(右欄の「Licensing and legal category」の前までの部分)
「日常生活における便秘解消
MOVICOL(R)
マクロゴール3350、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム」
「MOVICOL(R),MOVICOL(R) Plain,MOVICOL(R) Chocolate,MOVICOL(R) Liquid Orange Flavour,MOVICOL(R)-Half,MOVICOL(R) Paediatric Plain及びMOVICOL(R) Paediatric Chocolate.
処方情報
・・・
内容:
MOVICOL 一包(Sachetサシェ)は白色粉末で、約125mlの水に溶けてレモン/ライム風味のドリンクになります。各包には、マクロゴール3350 13.125g、炭酸水素ナトリウム 178.5mg、塩化ナトリウム 350.7mg、塩化カリウム 46.6mgが含まれています。MOVICOL Plain 一包は白色粉末で、約125mlの水に溶けます。各包には、マクロゴール3350 13.125g、炭酸水素ナトリウム 178.6mg、塩化ナトリウム 350.8mg、塩化カリウム 50.2mgが含まれています。香料や甘味料は含まれていません。MOVICOL Chocolate・・・MOVICOL Liquid・・・MOVICOL-Half 一包は白色粉末で、約62.5mlの水に溶かすとレモンとライム風味のドリンクになります。各包には、マクロゴール3350 6.563g、炭酸水素ナトリウム 89.3mg、塩化ナトリウム 175.4mg、塩化カリウム 23.3mgが含まれています。MOVICOL Paediatric Plain 一包は白色の粉末で、約62.5mlの水に溶けます。各包には、マクロゴール3350 6.563g、炭酸水素ナトリウム89.3mg、塩化ナトリウム175.4mg、塩化カリウム25.1mgが含まれています。香料や甘味料は含まれていません。MOVICOL Paediatric Chocolate・・・。
用途:
MOVICOL、MOVICOL Plain、MOVICOL Chocolate及びMOVICOL-Half:成人、青年、高齢者の慢性便秘症及び糞便塞栓の治療。MOVICOL Liquid:慢性便秘症の治療。MOVICOL Paediatric Plain及びMOVICOL Paediatric Chocolate:2~11歳の小児の慢性便秘の治療。5歳以上の小児の糞便塞栓の治療。
用法・用量:
MOVICOL、MOVICOL Plain及びMOVICOL Chocolate 慢性便秘症:成人、青年、高齢者:個人の反応に応じて1日1~3包を分割して服用してください。長期服用の場合:1包又は2包に減らしてください。小児(12歳未満):推奨されません。小児向けには代替のMOVICOL製品があります。重度の慢性便秘症又は難治性便秘症、多発性硬化症又はパーキンソン病に起因する便秘、あるいは特にオピオイド系薬剤や抗ムスカリン薬などの便秘薬の服用により誘発される便秘の患者には、長期使用が必要となる場合があります。
MOVICOL、MOVICOL Plain又はMOVICOL Chocolateの治療は通常2週間を超えませんが、必要に応じて繰り返し服用できます。・・・
MOVICOL Liquid 慢性便秘症:・・・
MOVICOL-Half:慢性便秘:成人、青年、高齢者:個人の症状に応じて、1日2~6袋を分割して服用してください。長期服用の場合は、2袋又は4袋に減量してください。小児(12歳未満):推奨しません。小児用の代替MOVICOL製品があります。多発性硬化症又はパーキンソン病に起因する、あるいは便秘薬(特にオピオイド及び抗ムスカリン薬)の服用によって誘発される、重度の慢性又は難治性便秘の患者には、長期服用が必要となる場合があります。MOVICOL-Halfによる治療は通常2週間を超えませんが、必要に応じて繰り返すことができます。・・・
MOVICOL Paediatric Plain及びMOVICOL Paediatric Chocolate:慢性便秘症:通常の開始用量は、2~6歳の小児の場合は1日1包、7~11歳の小児の場合は1日2包です。定期的に軟便が出るように、必要に応じて用量を増減してください。用量を増やす必要がある場合は、1日おきに増やすのが最適です。必要な最大投与量は通常、1日4包を超えることはありません。
慢性便秘の小児の治療は長期間(少なくとも6~12ヶ月)行う必要があります。糞便塞栓症:・・
禁忌:腸壁の構造的または機能的障害による腸穿孔または腸閉塞、腸閉塞、クローン病、潰瘍性大腸炎、中毒性巨大結腸症などの腸管の重篤な炎症性疾患。マクロゴール又はいずれかの賦形剤に対する過敏症。
使用上の警告及び注意事項:糞便塞栓の診断を確認してください。水分/電解質の変化を示す症状が現れた場合は、直ちに使用を中止してください。・・・
相互作用:・・・
妊娠・授乳中:・・・
副作用:消化管関連の反応が最も多く見られ、腹痛、腹部膨満、吐き気、嘔吐、消化不良、下痢、鼓腸、腹鳴、肛門不快感などが挙げられます。アナフィラキシー反応、血管性浮腫、呼吸困難、皮膚反応などのアレルギー反応が起こる可能性があります。その他の副作用としては、電解質異常、頭痛、末梢浮腫などが挙げられます。」
4 慢性便秘症に使用されるポリエチレングリコールに関する引用文献E~Gの記載
(1)引用文献Eの記載
(Ea)請求項1、2及び6
「【請求項1】
慢性便秘治療用の医薬品であって、互いに物理的に分離した二つの構成Aと構成Bとを有しており、前記構成Aがポリエチレングリコール(PEG)を含んでおり、前記構成Bが少なくとも一つの電解質を含んでいることを特徴とする医薬品。
【請求項2】
前記ポリエチレングリコールが、その分子量を2000g/mol~6000g/mol特に3000g/mol~4000g/molとすることを特徴とする請求項1に記載の医薬品。」
「【請求項6】
前記電解質が、NaCl及び/又はKClを含み、必要に応じて炭酸水素ナトリウムを含み、更に必要に応じてクエン酸塩であるMg塩及び/又はCa塩、及び/又は必要に応じてイヌリンを含むことを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の医薬品。」
(Eb)【0036】~【0039】
「【0036】
このようなポリエチレングリコールは、その分子量が2000g/mol~6000g/mol、特に好ましくは、3000g/mol~4000g/molとりわけ3350g/molである。このようなポリエチレングリコールは、腸内において特に優れた浸透圧効果を発揮するが、これは便秘剤として機能するための主たる効能である。例えば、ある量のPEG2000(分子量2000g/molのポリエチレングリコール)は、同量のPEG4000(分子量4000g/molのポリエチレングリコール)に比べて、約2倍の浸透圧を生ぜさせる。
【0037】
PEGは、その分子量が小さ過ぎると、苦味を有する。そのため服薬遵守が損なわれるようになる。PEGは、その分子量が大き過ぎると、その浸透圧効果が低くなり過ぎる。この場合、もはや十分な下剤効果は期待できない。
・・・
【0039】
本発明の一態様においては、本発明の医薬品は、単位服用量として、構成A中にPEGを13.125g含んでいる。これは大人の標準的な一日服用量に対応している。もし、服用頻度を1回より多くするとき、一日に3倍の単位服用量まで、服用してもよい。
更に、構成Aに単一又は複数の風味量を含ませてもよく、これにより服薬遵守がさらに向上する。」
(2)引用文献Fの記載
(Fa)10頁タイトル
「便秘に対する電解質配合ポリエチレングリコール3350とポリエチレングリコール4000の比較:ランダム化比較試験」
(Fb)10頁ABSTRACT
「要約
目的:便秘児におけるポリエチレングリコール(PEG)の長期的な有効性と安全性は不明であり、異なるPEG製剤間の直接比較は行われていない。本研究では、電解質を添加したPEG3350(PEG3350+E)と電解質を添加しないPEG4000(PEG4000)の非劣性を検証することを目的とした。
方法:本二重盲検試験では、便秘(排便頻度が週3回未満と定義)を有する0.5歳から16歳までの小児を、PEG3350+E又はPEG4000のいずれかの投与群に無作為に割り付けた。主要評価項目は、ベースラインと比較した52週時点のTSS(合計スコア)の変化と、用量範囲の決定であった。TSSは、5つの便秘症状の重症度を4段階尺度(0~3)で評価した合計スコアであった。非劣性マージンは、95%信頼区間[CI]に基づくTSSの差が1.5以下であった。治療成功は、排便頻度が週3回以上で、便失禁が1回未満であることと定義した。
結果:97名の被験者が組み入れられ、そのうち82名が試験を完了した。TSSの平均減少量は、PEG3350+E群で-3.81(95%CI:-4.96~-2.65)、PEG4000群で-3.74(95%CI:-5.08~-2.40)であった。非劣性基準は満たされなかった(群間最大差:-1.81~1.68)。1日の使用頻度は包数は、PEG3350及びPEG4000それぞれで、0~2歳:0.4~2.3及び0.9~2.1、2~4歳:0.1~3.5及び1.2~3.2、4~8歳:1.1~2.8及び0.7~3.8、8~16歳:0.6~3.7及び1.0~3.7であった。52週後の治療成功率は、PEG3350及びPEG4000それぞれで、50%及び45%の小児で達成された(P=0.69)。有害事象発現率は両群間で同程度であり、薬剤関連の重篤な有害事象は認められなかった。
結論:長期便秘関連症状に関して、PEG3350はPEG4000と比較して非劣性は示されなかった。一方、副次的アウトカムの解析では、両薬剤の有効性と安全性は同程度であることが示唆されている。」
(Fc)10頁右欄の枠囲の中
「既知の情報
・ポリエチレングリコールは、小児の機能性便秘における便秘解消及び維持療法の両方において、第一選択の下剤として推奨されている。
・ポリエチレングリコール3350とポリエチレングリコール4000(それぞれ分子量3350及び4000g/mol)を電解質添加の有無にかかわらず使用した、様々なポリエチレングリコール製剤が開発されている。
最新情報
・非劣性基準は満たされなかったが、電解質添加のポリエチレングリコール3350と電解質無添加のポリエチレングリコール4000は、長期使用において同様に有効性と安全性を示すと考えられる。
・1年間の追跡調査後、全被験者の約半数で治療成功が達成された。」
(3)引用文献Gの記載
(Ga)66~67頁
「
[図:0001435530000027.jpg]
・・・
[図:0001435530000028.jpg]
」
第6 本願発明と引用発明との対比及び相違点についての判断
1 本願発明及び引用発明(再掲)
本願発明は上記第2で記載したとおりであり、引用発明は、上記第5の1(2)で記載したとおりであるが、以下に再掲する。
<本願発明>
1回又は複数回の投与期間を含む長期の治療期間にわたって、慢性便秘症の患者の治療に用いられることを特徴とする、
慢性便秘症を治療するための、1包の医薬組成物であって、
前記投与期間が合計して52週間以上であり、
前記治療期間が1回又は複数回の休薬期間を含み、各休薬期間が各投与期間の間に設けられており、
前記1包中に以下の成分を含む、
・マクロゴール4000(日本薬局方)(6.5625g)
・塩化ナトリウム(0.1754g)
・炭酸水素ナトリウム(0.0893g)
・塩化カリウム(0.0251g)
医薬組成物。
(なお、第2で記載したとおり、上記の「1包」中に含まれる4種の成分を「所定の4成分」ともいい、所定の4成分中に含まれる3種の電解質を「所定の3種の電解質」ともいう。)
<引用発明>
慢性便秘症の患者の治療のために、24か月の治療期間にわたり、経口投与されるポリエチレングリコール3350と電解質を含むMovicol(登録商標)からなる治療薬であって、
1包(13.25g)あたり125mLの水で調製され、24~48時間に1回の排便が得られるよう、3日ごとに1包~1日最大3包までの範囲で調製され、72時間以上排便がなかった場合、通常の用量に24時間ごとに1包を追加し、必要な排便頻度が達成されるまでこれを続け、その後、最初の用量を再開し、患者が下痢を起こした場合には、通常の用量は24時間ごとに1包ずつ減量され、正常な便が再開された後、PEG+Eの初期用量で再開するように投与される、
患者の月間排便回数(平均)を有意に増加することができ、長期使用の場合でも、電解質バランスの崩れのリスクを最小限に抑えることができ、患者の体重及び血液生化学値(血清ナトリウム、カリウム、クロル、クレアチニン、タンパク質の濃度)に悪影響を与えない、治療薬。
2 本願発明と引用発明との対比
ア 本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「治療薬」はポリエチレングリコール3350と電解質とを含むMovicol(登録商標)であり、複数の成分を含む「組成物」であることが明らかであるから、引用発明の「治療薬」は、本願発明の「医薬組成物」に相当する。また、本願発明の「1包の医薬組成物」は、本願明細書の実施例1(【0042】(第4(4))に「1日1回2包の投与から開始」と記載されるとおり、治療のために患者に投与する医薬組成物の投与量を調整する際の基本単位となる「1包」に含まれる医薬組成物を意味するところ、引用発明の「治療薬」の「1包」も、治療のために患者に投与する治療薬(医薬組成物)の投与量を調整する際の基本単位とされていることは明らかであるから、引用発明の「治療薬」の「1包」は、本願発明の「1包の医薬組成物」に相当する。
イ 本願明細書の【0012】(第4(1))に、「本実施形態に係る医薬組成物に含まれるポリエチレングリコールは、好ましくはマクロゴールであり、より好ましくはマクロゴール3350(欧州薬局方)又はマクロゴール4000(日本薬局方)である。」と記載されるとおり、本願発明の「マクロゴール4000(日本薬局方)」は、ポリエチレングリコールであるから、本願発明の「ポリエチレングリコール4000」と引用発明の「ポリエチレングリコール3350」とは、「ポリエチレングリコール」である限りにおいて一致している。
ウ 引用発明の治療薬は、「電解質」を含むところ、本願発明の医薬組成物に含まれる「塩化ナトリウム」、「炭酸水素ナトリウム」及び「塩化カリウム」が、いずれも、電解質に相当する成分であることは当業者に明らかであるから、両者は、「電解質」を含む医薬組成物である限りにおいて一致している。
エ 引用発明の治療薬は「24か月の治療期間」にわたり投与されるものであるところ、本願明細書の【0045】(第4(4))に、「治療薬を長期間投与した結果を以下の表に示す。」と記載され、【0046】(同左)の表1に、「治療期間」として第52週までが記載されていることからすると、治療期間が「52週」、つまり、1年の場合は、本願発明の「長期の治療期間」に相当するといえる。そうすると、「治療期間」が「24か月」、つまり2年である引用発明は、本願発明の「1回又は複数回の投与期間を含む長期の治療期間にわたって」「治療に用いられる」ものに相当するといえる。
したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
ポリエチレングリコール、電解質を含み、
1回又は複数回の投与期間を含む長期の治療期間にわたって、慢性便秘症の患者の治療に用いられることを特徴とする、
慢性便秘症を治療するための、1包の医薬組成物であって、
前記1包中に以下の成分を含む、
・ポリエチレングリコール
・電解質
医薬組成物。
<相違点1>
医薬組成物1包に含まれる成分について、本願発明では、ポリエチレングリコールが、「マクロゴール4000(日本薬局方)(6.5625g)」であり、電解質が「塩化ナトリウム(0.1754g)、炭酸水素ナトリウム(0.0893g)及び塩化カリウム(0.0251g)」を含むものであることが特定されているのに対し、引用発明では、治療薬が「Movicol(登録商標)」であり、これに含まれるポリエチレングリコールは「ポリエチレングリコール3350」であるし、「1包(13.25g)」とされるものの、「電解質」についての具体的な特定はされていない点。
<相違点2>
医薬組成物の治療期間について、本願発明では、「投与期間が合計して52週間以上」であり、「前記治療期間が1回又は複数回の休薬期間を含み、各休薬期間が各投与期間の間に設けられ」ていることが特定されているのに対し、引用発明では、「治療期間」が「24か月」であることが特定されているだけで、治療期間に「投与期間」と「休薬期間」が含まれていること、及び、「投与期間」が「合計して52週間以上」であることは特定されていない点。
3 相違点1及び2についての判断
(1)相違点1について検討する。
ア 本願優先日後に公開された引用文献2には、本願優先日前である2015~2017年に公開された製品情報概要について記載されており、当該記載によれば、本願の優先日前に、商品名に「MOVICOL(R)」という名称が付されたMOVICOL(R)製品がノルジーン社により慢性便秘症等の治療薬として開発されており、表1.6.1-1に示されるとおり、2017年10月6日の時点でも既に多くの製品が存在していたことが理解できる(第5の3(1)(2a))。以下、商品名に「MOVICOL(R)」という名が付された商品を含め、ノルジーン社により開発された、「MOVICOL」(大文字/小文字表記を含む)の名が付された一連の製品を、「MOVICOL製品」という場合がある。
イ また、本願優先日前の文献である引用文献C(英国の「MOVICOL(R)Plain」の製品情報の添付文書(2015年10月改訂))には、「MOVICOL(R)経口液剤粉末13.7g包」が、1包中に、ポリエチレングリコールであるマクロゴール(Macrogol)3350 13.1250g、塩化ナトリウム 0.3508g、炭酸水素ナトリウム 0.1786g及び塩化カリウム 0.0502gを含む製品であること(第5の3(2)(Ca)の「2.」)、成人、青少年及び高齢者には、患者の反応に応じて1日1~3包を分割して投与し、長期使用の場合には、1日1~2包に減量してもよいこと(同(Ca)の「4.2」の「用量」の項目)、慢性便秘症の治療のための用量に関し、便秘に対する1回の治療は通常2週間以内であるが、必要に応じてこの治療をくり返すことができ、重度の慢性便秘、多発性硬化症やパーキンソン病に伴う一次的便秘、便秘を誘発するオピオイドや抗ムスカリン薬の常用によって誘発された便秘の治療には長期使用が必要になることがあること(同左)、1包を125mLの水に溶解する用法であること(同(Ca)の「4.2」の「用法」の項目)が記載されている。
さらに、本願優先日前の文献である引用文献D(英国における小児用の製品である「MOVICOL(R)Paediatric Plain」の添付文書(2015年12月11日改訂))には、1包中に「ポリエチレングリコール(Macrogol)3350 6.563g、塩化ナトリウム 0.1754g、炭酸水素ナトリウム 0.0893g及び塩化カリウム 0.0251g」を含むことが記載され(第5の3(3)(Da)の「2.」)、2~11歳の小児の慢性便秘症治療薬であること(同(Da)の「4.1」)、通常の開始用量は、2~6歳に対して1日1包、7~11歳に対しては1日2包であり、規則的に柔らかい便を生成するために必要に応じて増量又は減量すること、慢性便秘症の小児の治療は長期間を必要とする(少なくとも6~12ヶ月)が、MOVICOL Paediatric Plainの安全性及び有効性は最大3ヶ月間に対してのみ証明されていること、治療は徐々に中止し、便秘が再発した場合に再開することが記載されている(同(Da)の「4.2」)。
加えて、本願優先日前の文献である引用文献3にも、上記引用文献C、Dに詳述されるMOVICOL製品の他、種々のMOVICOL製品の処方情報が記載されている(第5の4(3a))。
ウ 上記ア及びイに示される「MOVICOL製品」についての知見を参酌するに、引用発明の「経口投与されるポリエチレングリコール3350と電解質を含むMovicol(登録商標)からなる治療薬」は、ノルジーン社により開発された「MOVICOL製品」に含まれるものであって、ポリエチレングリコールであるマクロゴール3350の他に、電解質として、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及び塩化カリウムを含む製品であると解されるところ、これらの「MOVICOL製品」として、MOVICOL Plain等の、マクロゴール3350が13.125g含まれ、1包あたり125mLの水で調製するものの他に、MOVICOL-Halfのように、マクロゴール3350がMOVICOl Plainの約半量の6.563g配合され、電解質も概ね半量とされた製品が知られていた。また、小児向けの製品であるMOVICOL Paediatric Plainのような、一包に、マクロゴール3350がMOVICOl Plainの約半量の6.563g配合され、電解質も半量(炭酸水素ナトリウム89.3mg、塩化ナトリウム175.4mg、塩化カリウム25.1mgであり、1包に含まれる電解質は、本願発明の1包中の所定の3種の電解質の比率及び含有量に等しい。)とされた製品が本願の優先日前に知られていたことが理解できる。
エ ここで、引用文献1には、慢性便秘症の治療に、ポリエチレングリコール4000(PEG 4000)を使用した臨床試験結果について言及され、また、PEG-4000が妊娠中の便秘治療に効果的な選択肢となる可能性も示唆されているし(第5の1(1)(1d))、慢性便秘症の治療用の医薬品であって、ポリエチレングリコールと電解質を含む医薬品に関する文献である引用文献Eには、慢性便秘症の治療に、分子量が3000~4000g/molのポリエチレングリコールが好適であること(請求項1、2)、便秘薬として機能するための浸透圧効果の発揮において、PEG2000は、同量のPEG4000の2倍の効果を発揮するが、PEGは分子量が小さいと苦みを生じる問題があること(【0036】、【0037】)、ポリエチレングリコールと電解質を含む医薬品の大人の標準的一日服用量がPEG13.125gであることも記載されている(【0039】)(上記第5の4(1)参照)。
さらに、小児便秘症の患者を対象に、52週という長期治療において、電解質を含むポリエチレングリコール3350と電解質なしのポリエチレングリコール4000との治療の有効性と安全性を確認した比較試験の結果を記載する引用文献F(これは、請求人が審判請求書に添付して提出した参考資料4である。)には、長期使用において、PEG4000が電解質を含むポリエチレングリコール3350と同等の安全性及び有効性を示したこと、ポリエチレングリコールは小児の機能性便秘の解消のための第一選択の下剤として推奨されており、PEG3350とPEG4000を使用した様々な配合が開発されていることが記載されている(第5の4(2)(Fa)~(Fc))。
オ そうすると、引用発明の、ポリエチレングリコール3350と電解質を含むMovicolからなる治療薬においてポリエチレングリコール3350に代えてポリエチレングリコール4000を用いること、その際に、小児にも適用しやすく、また、症状の変化に応じた用量調整が容易になるように、MOVICOL Plain((Ca)及び(3a))の一包の半量を一単位として含有する治療薬とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
そして、本願発明と同じ比率及び含有量で所定の3種の電解質を含む製品であって、MOVICOL Plain一包に含まれるマクロゴール3350の含有量が約半量にされた小児用の製品が、従来から知られていた(上記ウ参照。)のであるから、電解質を、本願発明の量で含有するものとすることに、格別の困難性があるとも解されない。
したがって、引用発明を、相違点1に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得ることである。
(2)相違点2について検討する。
ア 本願発明では、「投与期間が合計して52週間以上」である長期の治療期間が「1回又は複数回の休薬期間を含み、各休薬期間が各投与期間の間に設けられ」ることが特定されている。すなわち、本願発明は、「投与期間が合計して52週間以上」である長期の治療期間中に、「投与期間」の間の「休薬期間」が「少なくとも1回」含まれれば足りるものである。
イ そして、引用発明の治療薬は、24か月という長期の治療期間にわたり投与されるものであり、当該治療期間が、本願発明の投与期間の合計の下限として記載される52週の倍の期間であることに鑑みれば、引用発明は、本願発明の「投与期間が合計して52週間以上」との発明特定事項を満たす蓋然性が高いと解するのが自然であり、引用発明に係る解析の対象事例の全てにおいて、24か月の治療期間のうち半分以上が投薬しない期間であった、という事実があるとも認められない。
ウ 次に、治療期間が「1回又は複数回の休薬期間を含み、各休薬期間が各投与期間の間に設けられ」ている点、つまり、「治療期間」が「投与期間」の間の少なくとも1回の「休薬期間」を含む点について検討する。
(ア) 引用発明の治療薬は、24~48時間に1回の排便が得られるように、3日ごとに1包~1日最大3包までの範囲内で用量調製されて患者に投与されるものであり、患者が下痢を起こした場合には、24時間ごとに1包ずつ減量され、正常な便が再開された後に、PEG+Eの「初期用量で再開」するように投与されるものである。
ここで、本願明細書の【0021】には、
「本明細書において「投与期間」とは、本実施形態に係る医薬組成物を投与する期間である。本明細書において「休薬期間」とは、本実施形態に係る医薬組成物を投与しない期間である。」
と「投与期間」及び「休薬期間」の定義が記載されており(第4の(3)ア)、当該定義によれば、引用発明で想定されている投与用量である「3日ごとに1包」に調整して投与する場合における、3日間の内の医薬組成物を投与する1日間は「投与期間」に、医薬組成物を投与しない2日間は「休薬期間」に該当するとも解釈し得る。
しかしながら、請求人は、「投与期間」及び「休薬期間」に関し、令和7年10月27日提出の意見書(以下、単に「意見書」という。)の「4.」「(1)」「ウ/エ.」に、
「「投薬期間」も「休薬期間」も、医者の判断に基づくものである。例えば、投薬を開始してから、休薬又は治療の中止と医者が判断するまでの期間は、投薬期間である。また、休薬とは、治療の継続を前提とした一時的な休止状態であって、治療の継続を前提としていない治療の中止とは異なる。」
と記載するとともに、同意見書の「4.」「(2)」「ア.」において、
「引用文献1は、下痢発症時に用量を減らすことは開示しているが、投与を完全に中止する期間としての休薬期間は記載されていない。用量を減らすこととは、すなわち減薬を意味するのであって、休薬とは異なる。」
と記載し、引用発明の「3日ごとに1包」に調整しての投与は「用量を減らす」場合であって、「休薬」には当たらないと主張しているので、以下の合議体の検討も、これを踏まえて行う。
(イ)a 本願発明の「休薬期間」は「医薬組成物を投与しない期間」(【0021】)であり、これが、治療中に発生した投薬に起因する下痢等の副作用により投薬を中止する期間を含むものであることは明らかである(第4の(3)ウ(イ)及び(ウ)における本願明細書の記載参照)。
b 一方、引用発明は、「24か月の治療期間」が想定されており、「患者が下痢を起こした場合には、通常の用量は24時間ごとに1包ずつ減量され、正常な便が再開された後、PEG+Eの初期用量で再開するように投与される」ものであり、投薬により患者が下痢を起こした場合には、治療薬を「減量」すること及び最低の投与用量は「3日ごとに1包」であることは特定されているが、引用文献1には、「休薬」する点についての明示記載はない。
しかしながら、引用文献Dの項目4.8に、望ましくない作用である下痢や嘔吐、腹痛等の胃腸障害が高頻度であること(第5の3(3)(Da))や、引用文献3に副作用として、消化管関連の反応が最も多く見られ、腹痛、腹部膨満、吐き気、嘔吐、消化不良、下痢、鼓腸、腹鳴、肛門不快感などが挙げられることが記載されている(同3(4)(3a)の終わりの「副作用」の項目)とおり、Movicol(登録商標)の投与により下痢等の副作用が起こることが一般に知られていた。そして、引用発明においても、投薬の副作用で生じた下痢等の症状を改善するために、治療薬を「減量」するものとされているところ、引用文献Dの項目4.8に、投薬の副作用の症状の解消のために、治療薬の「減量」だけではなく、「休薬」する場合があることも言及されているのであるから(第5の3(3)(Da))、投薬による副作用症状が治まらない場合に、副作用症状が治まるまで投薬を休止することは、当業者が当然に想定することであると解される。
そうすると、患者が下痢を起こした場合に治療薬を「減量」することが特定される引用発明においても、治療薬がMovicol(登録商標)である以上、投与量を調整し、「3日ごとに1包」という最低の投与条件まで減量しても患者の下痢が治まらない場合には、下痢が治まるまで治療薬の投与を行わないようにすることも当然想定されていたといえ、当該、下痢が治まるまで治療薬の投与を行わないようにする期間は、本願発明の「休薬期間」に相当する。また、24か月という長い治療期間においては、体調の変動がみられるのが一般的であることを踏まえると、引用発明について、投薬に起因する副作用に基づく「休薬」が24か月という長い治療期間において「一例も生じない」と考えることは、むしろ非現実的である。
そうすると、引用発明の「24か月の治療期間」は、患者に下痢が起き、「減量」によっても治まらない場合に「休薬」する期間を含む場合も想定されていたといえ、「治療期間」が「休薬期間」を含む点は、実質的には相違点とはならない。
(ウ) 以上のとおりであるから、治療期間が「1回又は複数回の休薬期間を含み、各休薬期間が各投与期間の間に設けられ」ている点は実質的には相違点とはならない。
エ したがって、相違点2は、実質的には相違点ではない。
オ 上記第4(5)エで記載したとおり、本願発明の実施態様においては、「便形状」を指標とする「休薬」は、具体的には、下痢状態に変化した場合のみならず、通常便秘状態とは解されない排便回数に変化した場合にも行うものである。
本願発明は、単に「休薬期間を含」むことが特定されているのみで、その原因についての特定はなく、上記ウ~エに示したとおり、相違点2は、実質的には相違点ではないが、以下に、実施態様のように、「休薬」を、通常便秘状態とは解されない排便回数に変化した場合にも行うものとする点についても検討する。
(ア) 上記第5の2(3)に記載したとおり、「慢性便秘症」が、再発が多い、完治の難しい疾患であること、治療は、便形状の正常化が基本戦略となり、便形状が正常化したら終了し、再発した場合に治療をくり返す治療が行われることは本願優先日前において技術常識であった。また、そのことは、引用文献D(「MOVICOL(R)Paediatric Plain」の添付文書)において、慢性便秘症の小児の治療は長期間(少なくとも6~12ヶ月)が必要であること、及び、安全性の観点から病状がよくなったら治療を徐々に中止し、便秘が再発した場合に再開するとされていること(第5の3(3)(Da)の4.2の慢性便秘症の項目)、並びに、引用文献3に、多くのMOVICOL製品において、治療は通常2週間を超えないが、必要に応じて繰り返し服用されることが記載されていること(同3(4)(3a)の「用法・用量」の項目)からも理解できる。
(イ) 加えて、引用文献3には、重度の慢性便秘症や難治性便秘症、多発性硬化症等に起因する便秘、あるいはオピオイド系薬剤等の便秘薬の服用により誘発される便秘の患者には、長期使用が必要となる場合があることも記載されている(第5の3(4)(3a)の「用法・用量」の項目)。
(ウ) さらに、慢性便秘症のガイドライン(引用文献G)によれば、ポリエチレングリコール自体は、24か月の症例集積研究で長期間の有効性が報告されているものであるし(第5の4(3)(Ga)の「3.」)、引用文献Fに記載のとおり、52週程度の長期投与において、PEG4000は、従来のPEG3350含有製品と同等の安全性と有効性であると考えられたもの(同4(2)(Fb))である。
(エ) そして、上記(ア)のとおり、慢性便秘症は再発の多い、完治の難しい疾患であり、治療は、便形状の正常化が基本戦略となり、便形状が正常化したら終了し、再発した場合に治療をくり返す治療が行われることが本願優先日前において技術常識であったのであるから、引用発明の、完治の難しい「慢性便秘症」の治療を、副作用が生じた場合に休薬するのみならず、従来の一般的な治療と同じく、便形状が正常化したら投薬を休止し、便秘状態が再発した場合には投薬を再開するという投薬をくり返すという、投薬の休止と再開をくり返す治療として、当該治療を、例えば、引用発明のように24か月程度行うこと、あるいは、慢性便秘症の原因や患者の便の状態を考慮して、患者が、慢性便秘症が完治した、あるいは、再発がおこりにくい状態になったと考えられる状態になるまで長期にわたって治療をするようにすることは、当業者が適宜なし得ることである。
そして、このような投与を行う治療は、本願明細書に実施形態として記載される、「便形状」に応じた「慢性便秘症」の治療、すなわち、副作用が生じた場合(下痢状態に変化した場合)に休薬し、「便秘」又はこれに近い状態となった場合には、投与を再開(休薬期間を終了)し、便形状が正常化したら投薬を休止するという治療(第4の2(5)エ)と、投薬及び休薬の開始条件及び終了条件は同様である。
(オ) したがって、引用発明を、治療期間を「投与期間」と「投与期間の間に設けられ」る「休薬期間」を含むものとすること、すなわち、引用発明を相違点2に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得ることである。
なお、上記の判断は、請求人が意見書において主張した「休薬」の定義を考慮して行ったが、上記ウ(ア)で記載したとおり、本願明細書の【0021】の記載によれば、本願発明の「休薬期間」は、薬を投与しない期間と定義されているのみであり、例えば、引用発明において投与用量を「3日ごとに1包」に減量して投与する場合、3日間の内の1日間は「投与期間」に、2日間は「休薬期間」に該当するとも解釈できる。そうすると、客観的にみると、【0021】に記載の定義を前提にした場合には、引用発明において、用量を調整し、頻繁な投与から間隔の空いた投与に投与頻度を変更する場合、変更前に投与していたタイミングで投与がない期間は、まさに、再開を前提とした「休薬」となんら変わらないことになることを付記する。
(3)本願発明の効果について
ア 本願明細書には、本願発明の効果に関し、上記第4(1)(【0007】、【0011】、及び【0027】)に記載したとおりの一般記載がある。
また、上記第4(4)及び(5)に記載したとおり、実施例1(【0039】~【0056】)には、慢性便秘症の患者を(【0041】)、1包中に、マクロゴール3350(欧州薬局方)を6.5625g、及び所定の3種の電解質を本願発明と同じ比率及び含有量で含有する治療薬(【0040】)を用いて治療し、「Bristol便形状スケール」を基準とし、スケールが1若しくは2の場合又は1日排便が無い場合には、便形状スケールが3又は4になるまで1日おきに治療薬を増量し、便形状スケールが3~5の場合、投与量を変更せず、便形状スケールが6又は7の場合、2包減量するか又は投与を休止し、投与休止後、1日排便が無い場合又は排便があっても便形状スケールが1又は2の場合、開始時と同様に1日1回2包から再開し、便形状スケールが3以上の場合は投与休止を継続し(【0043】)、また、来院時の直前2週間の完全自発排便回数が6回以上の場合、2包減量するか又は投与を休止し、投与休止後、1週間の自発排便回数が3回未満となった場合は休止前の投与量で投与を再開するように(【0044】)して、52週間にわたって投薬と休薬を含む治療をしたところ、治療開始から第52週まで、安定した自発排便回数が確認され(【0046】の表1)、救済薬の使用率が低く維持され(【0049】の表4)、改善された便硬度が安定的に維持され(【0050】の表5及び表6)、休薬2週前の治療薬1包当たりの自発排便回数と休薬1週前の治療薬1包当たりの自発排便回数との平均値に対する、1週後、2週後及び3週後の治療薬1包当たりの自発排便回数の比率を示す表11によれば、比率が1に近似した値であり、休薬期間の前後で効力に変化がなく(【0053】~(【0055】)、また、第4週から第52週まで、ナトリウム(Na)、カリウム(K)及びクロル(Cl)の血中濃度が安定しており、脱水等の症状は認められず、安全性に優れることが確認されたこと(【0056】表12~14)が記載されている。
イ そして、上記実施例1の治療薬は上記のとおりマクロゴール3350(欧州薬局方)を含むものであり、マクロゴールとしてマクロゴール4000(日本薬局方)を含む本願発明の医薬組成物とはその組成が完全に一致するものではなく、実施例1で確認されている上記アの効果を本願発明により奏される効果と同一視できるのかは疑問も残るが、本願明細書の【0012】の「マクロゴール3350(欧州薬局方)とマクロゴール4000(日本薬局方)に基本的な違いは無いため、これらは交換して使用することができる」(第4の(1))との記載や、本願発明の効果に関する【0011】や【0027】の一般記載を考慮して、本願発明により、上記アの本願明細書の実施例1で確認されている、休薬期間の前後で効力に変化がなく、長期間にわたって安定的に便秘症の改善効果が発揮され、また、投与期間が長期間にわたっても、ナトリウム(Na)、カリウム(K)及びクロル(Cl)の血中濃度が安定しており、脱水等の症状は認められず、安全性にも優れるという効果が発揮されるものと解して検討する。
引用発明の治療薬は、本願の実施例1の52週間の倍近い24か月の治療期間にわたり、経口投与されるものであるし、そのような長期の使用にもかかわらず、引用文献1では、「患者1人当たりの月間排便回数の平均」は、「有意に増加」する(第5の1(1)(1a)の結果の項目)と同時に、安全性評価項目である「患者の体重、血液学的検査、血液生化学検査(具体的には、ヘマトクリット、血清ナトリウム、カリウム、クロル、クレアチニン、タンパク質)によって評価された長期的な臨床的及び生物学的耐性」(同(1)(1b)の最終段落)に関し、「評価された血液生化学パラメータの変動は、研究期間中最小限」であり(同(1)(1c)の安全性変数の項目)、「治療は、体重や血液生化学値への悪影響とは関連がなかった」こと(同(1)(1a)の結果及び結論の項目)が記載されている。また、「慢性便秘症診療ガイドライン 2017」(引用文献G)の67頁の3.には、欧米では、ポリエチレングリコール(PEG)製剤が慢性便秘の治療に利用可能であること、24か月の長期間の有効性が報告されていることも記載されているし(第5の4(3))、引用文献Fにも、52週という長期治療において、PEG4000が電解質を含むポリエチレングリコール3350と同等の安全性及び有効性を示したことが記載されている(同4(2))。
そうすると、本願発明の、長期間にわたって安定的に便秘症の改善効果が発揮され、また、投与期間が長期間にわたっても、ナトリウム(Na)、カリウム(K)及びクロル(Cl)の血中濃度が安定しており、電解質変動に起因する脱水等の症状は認められず、安全性に優れるという効果は、上述の引用文献の記載から当業者が予測し得る範囲内の効果に過ぎない。
ウ 次に、休薬期間の前後で治療薬の効力に変化がない点の効果について検討する。
上記(2)ウ(イ)で記載したとおり、24か月という長期の治療期間にわたって使用される引用発明の治療薬の投与においては、副作用による休薬期間を設けることが当然想定されていると解されるし、そうとまではいえなくとも、上記(2)オで記載したとおり、慢性便秘症の治療を、副作用による休薬あるいは症状改善による休薬期間を設けながら、症状が再発した場合に投薬を再開するようにすることは、当業者が容易になし得ることであるところ、引用発明においては、患者が下痢を起こした場合には投薬用量が減量され、正常な便が再開された後の投薬は「初期用量」で再開されるのであり、引用文献1には、再開の場合には治療薬の効力が減少するという記載は見当たらない。また、慢性便秘症の治療において、症状の再発により治療を再開する際に、再開では有効性が低下するから用量を増やす必要がある等の事情をうかがわせる証拠は見当たらず、当業者が、再開での投薬では治療薬の効力が維持されないと認識していたとは解されないし、本願明細書に、従来既知の「Movicol」製品では、休薬すると休薬前よりも治療薬の効力が減少するという現象が生じていたことを示す試験結果が記載されているのでもない。
そうすると、本願明細書に、休薬期間の前後で治療薬の効力に変化がないことが具体的なデータで示されているとしても、そのことをもって、本願発明の効果が進歩性を認めるに足りる程に格別顕著な効果であるとすることはできない。
エ 以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び引用文献1~3、A~Gに記載の技術的事項(知見あるいは技術常識)から、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 請求人の主張について
1 請求人の主張
請求人は、意見書の4.(2)において、主に以下の主張をして、本願発明は引用文献に記載された発明に基づいて容易に発明できたものではないと主張している。
(主張1)
「イ.休薬期間の臨床的・薬理学的意義
本願発明は、長期治療において休薬期間を設けることで、患者の身体的・心理的負担を軽減し、服薬コンプライアンスを向上させることができる。
引用文献1は、「連続投与」による安全性・有効性を示しているが、休薬期間を挟んでも効果が維持されることは示されておらず、休薬期間を挟んでも効果が維持されるという本願発明の知見は、治療設計上の新たな価値を提供する。
特に慢性疾患においては、治療の継続性(adherence)が重要であり、休薬期間を設けることで治療継続率が向上する可能性がある。
ウ.治療設計の柔軟性と個別化医療への貢献
本願発明は、患者の状態に応じて投与・休薬を調整できる柔軟な治療設計を可能にする。これは、従来の「連続投与」モデルとは異なる個別化医療の観点から進歩性を有するものである」
(主張2)
「エ.顕著な効果と予測困難性
本願明細書では、休薬後も効果と安全性が維持されることが実施例で確認されており、これは引用文献や技術常識から予測することができない。特に、刺激性の便秘薬等は、投与し続けたり、休薬期間を設けると効果が減少又は消滅するが、本願発明の医薬組成物は、52週間投与しても効果が持続し、かつ休薬期間の前後で効力に変化がないものであって、このような効果は、当業者をして予想しえない有利な効果と言えるものである。
ポリエチレングリコール及び電解質の長期投与には副作用の懸念があり、休薬後の再投与による効果の持続性は、従来技術では示されていない。本願発明は、休薬期間を設けても効果が維持され、安全性も損なわれないという知見を実施例で示しており、これは引用文献から予測することができないものである。
特に、本願明細書の表12~14に示すとおり、ナトリウム(Na)、カリウム(K)及びクロル(Cl)等の電解質バランスの血中濃度が安定しており、脱水等の症状は認められず、休薬期間中も安定しているという点は、薬理学的に予測困難な効果である。」
2 請求人の主張についての検討
上記1の請求人の主張について検討する。
(1)主張1について
請求人による、項目「イ.」1~2段落の、引用文献1には休薬期間を挟んでも効果が維持されることが示されておらず、休薬期間を挟んでも効果が維持されるという本願発明の知見は、治療設計上の新たな価値を提供するとの主張については、上記第6の3(3)ウで記載したとおりである。すなわち、本願発明が、休薬期間の前後で治療薬の効力に変化がなく、効果が維持されるという知見を、初めて具体的なデータで示したという治療設計上の価値はあるとしても、引用発明における減量後の再開での投薬は「初期用量」でなされるのであって、引用文献1には、再開の場合には治療薬の効力が減少するという記載は見当たらない。また、慢性便秘症の治療において、症状の再発により投薬を再開する際に、再開では有効性が低下するために用量を増やす必要がある等の事情をうかがわせる証拠は見当たらず、当業者が、再開による投薬では治療薬の効力が維持されないと認識していたとは解されないのであるから、休薬期間後にも効力が維持されるとの効果を具体的なデータで示したことをもって、進歩性を認めるに足りる程の格別顕著な効果であるとすることはできない。
また、項目「イ.」の3段落及び「ウ.」の、本願発明は、休薬期間を設けることで治療継続率が向上する可能性があり、また、患者の状態に応じて投与・休薬を調整できる柔軟な治療設計を可能にし、従来の「連続投与」モデルとは異なる個別化医療が行えるという観点から進歩性を有する旨の主張については、まず、本願明細書には、「治療継続率」、「柔軟な治療設計」、「個別化医療」等の記載は無く、請求人の主張が本願明細書のどの記載に基づくものであるか不明である。
仮に、これらの主張が、本願発明の医薬組成物が、「患者の状態に応じて投与・休薬を調整」(【0007】)されるものであることで奏される具体的な効果についての主張であると解したとしても、本願発明の投与期間と休薬期間を含む治療は、本願明細書の実施例1によれば、上記第4(5)ウの最後に記載したとおり、便秘状態から、例えば(Bristol)便形状スケールが6又は7の場合、つまり、下痢状態に変化した場合、及び、通常便秘状態とは解されない排便回数に改善した場合には、休薬を開始し、(Bristol)便形状スケールが3以上の場合(つまり、通常の便の状態)では休薬を継続し、(Bristol)便形状スケールが1又は2の場合、つまり、排便が通常より困難な状態の場合や、便秘状態に変化したと解される場合には、休薬期間を終えて、投薬を再開するというものであり、これは、第6の3(2)オで記載したとおり、従来から行われていた、便形状の正常化を基本戦略とし、便形状が正常化したら終了し、再発した場合に治療をくり返す治療(この間、投薬により、便形状が正常化を超え、副作用で下痢状態が長引いた場合に休薬することは当然である)と、投薬及び休薬の開始条件及び終了条件は同様であると解されるし、従来の治療も、完治が難しく、症状が再発した時には投与を再開することを前提としており、「患者の状態に応じて投与・休薬(症状の再発まで投与を行わない)」を行う治療である点でも異ならない。
したがって、この点の請求人の主張も認められない。
(2)主張2について
主張2のうち、実施例で休薬後も効果と安全性が維持されることが確認された、という効果については、上記(1)で記載したとおり、当業者が、再開による投薬(休薬後の再投与)では治療薬の効力が維持されないと認識していたとは解されず、実施例で休薬後も効果と安全性が維持されることが確認されたことをもって、進歩性を認めるに足りる程に格別顕著な効果であるとすることはできない。
また、請求人が、ポリエチレングリコール及び電解質には長期投与による副作用の懸念があるが、実施例では、長期投与でも安全性が損なわれず、休薬中も電解質バランスが安定している点は予測困難な効果であると主張する点については、上記第6の3(3)イで記載したとおり、引用発明の治療薬は、本願の実施例1の52週間の倍近い24か月の治療期間で投与されたにもかかわらず、引用文献1によれば、「評価された血液生化学パラメータの変動は、研究期間中最小限」であり、「治療は、体重や血液生化学値への悪影響とは関連がなかった」のであるし、また、「慢性便秘症診療ガイドライン 2017」(引用文献G)によれば、ポリエチレングリコール製剤が24か月の長期間でも有効との報告がある。さらに、引用文献Fには、52週という長期治療において、PEG4000が電解質を含むポリエチレングリコール3350と同等の安全性及び有効性を示したことが記載されている。加えて、ポリエチレングリコールは腸内で水分泌を引き起こす浸透圧低下剤であり(引用文献G(第5の4(3)(Ga))、投与しなければ腸内での水分泌も引き起こされず、影響もなくなるのは当然であるし、電解質の投与により患者に悪影響が出た場合に、投与をやめることで投与に起因する悪影響がなくなることも自明である。
よって、休薬によりこれら治療薬の投与に起因する悪影響がなくなり安全性が維持されることは、当然に予測される効果にすぎない。
したがって、上記主張2も、採用することができない。
第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-000901