特許拒絶査定不服審判
2024-009443
関節リウマチ患者の健康に関連した生活の質を改善するための組成物
- 審判番号
- 2024-009443
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-125220
- 請求日
- 2024年06月06日
- 審決日
- 2026年03月10日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】サノフィ・バイオテクノロジー
- 【請求人代理人】結田 純次
- 【請求人代理人】守安 智
- 【請求人】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】結田 純次
- 【請求人代理人】守安 智
- 審判長/審判官
- 審判長 冨永 みどり
- 審判官 伊藤 幸司
- 審判官 今村 明子
- 分類
- P18 .121-Z (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-125220「関節リウマチ患者の健康に関連した生活の質を改善するための組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年10月12日出願公開、特開2022-153653〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)9月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年9月16日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする特願2017-533746号の一部を令和2年8月7日に新たに特許出願した特願2020-134315号の一部をさらに令和4年8月5日に新たな特許出願としたものであって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年 8月 5日 :翻訳文提出
令和4年 8月 5日 :手続補正書の提出
令和5年 7月28日付け :拒絶理由通知
令和5年11月 8日 :意見書及び手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
令和6年 1月29日付け :拒絶査定
令和6年 6月 6日 :審判請求書の提出
令和6年 7月17日 :手続補正書(方式)の提出
第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
関節リウマチに罹患している被験体の睡眠の質を改善する方法で使用するための、抗体を含む医薬組成物であって、
ここで該抗体は、ヒトインターロイキン-6受容体(hIL-6R)に結合し、かつ配列番号1の配列の重鎖可変領域及び配列番号2の配列の軽鎖可変領域を含み、
該抗体は、2週ごとに1回、150mg又は200mgで投与され、
該抗体の投与は、睡眠の質を改善する、
前記医薬組成物。」
第3 原査定の拒絶の理由
令和6年1月29日付けの拒絶査定における拒絶の理由は、概略、次のとおりのものである。
(進歩性) この出願の請求項1~13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献1~3に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.米国特許出願公開第2013/0149310号明細書
2.J Rheumatol.,2012年,39,pp.60-62
3.Sleep Disorders,2014年02月17日,2014,ArticleID 962746, pp. 1-7
第4 当審の判断
1 引用文献等の記載事項及び引用文献1に記載された発明
(1)引用文献1の記載事項
原審の拒絶の理由で引用され、本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1(米国特許出願公開2013/0149310号明細書)には、以下の事項が記載されている(引用文献1は英文のため、当審合議体による訳で記載する。下線は、当審合議体が付した。「・・・」は、摘記の省略を表す。以下同様である。)。
・摘記事項1-1([0002])
「本発明は、関節リウマチの治療処置の分野に関する。より具体的には、本発明は、関節リウマチを治療するための、疾患修飾抗リウマチ薬と組み合わせた抗IL-6R抗体などのインターロイキン-6レセプター(IL-6R)アンタゴニストの使用に関する。」
・摘記事項1-2([0005])
「本開示は、それを必要とする被験体において慢性関節リウマチを治療する方法を提供する。この方法は、有効量のサリルマブ(SAR153191)、レフルノミド、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキンからなる群のメンバーを投与することを含む。・・・他の実施形態では、対象者は、以前、メトトレキサート投与による関節リウマチ治療が無効であった。」
・摘記事項1-3([0139])
「 図1は、メトトレキサート(MTX)併用療法とともにSAR153191又はプラセボを週1回皮下投与する6群の、国際的な多施設、二重盲検、並行群プラセボ対照、12週間の試験治療に関する試験デザインを示す。」
・摘記事項1-4([0142])
「図4は、プラセボと比較して、サリルマブ/MTX併用療法の5つの治療群のうちの1つを受けた患者における、12週間後のDAS28スコアの改善又はDAS28寛解の副次的評価項目に関する臨床試験結果を示す。・・・」
・摘記事項1-5([0144])
「図6は、プラシーボと比較したサリブマブ/MTX併用療法の5治療群のうちの1つを受けた患者における12週間後の健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)の向上、二次エンドポイントに関する臨床試験結果を示す。」
・摘記事項1-6([0148])
「本開示は、関節リウマチ(RA)の治療及びRAの少なくとも1つの症状の改善のためのこれらの組成物を使用する医薬組成物及び方法を提供する。これらの組成物は、ヒトインターロイキン-6レセプター(hIL-6R)に特異的に結合する少なくとも1つの抗体及び、任意選択で、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)などの少なくとも1つの追加の治療薬を含む。」
・摘記事項1-7([0149])
「抗hIL-6R抗体」
・摘記事項1-8([0158])
「他の特定の実施形態において、抗体は、サリルマブ(SAR153191)である。サリルマブの重鎖可変領域は、SEQ ID NO:2の配列を含む。」
・摘記事項1-9([0159])
「サリルマブの軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:3の配列を含む。」
・摘記事項1-10([0164]、[0165])
「DMARDs
疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)としては、メトトレキサート、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキン、レフルノミドが挙げられる。本開示の組成物及び方法によれば、DMARDsは、以下のように投与することができる。メトトレキサートは、1週間あたり10~25mgの経口投与又は筋肉内投与することができる。・・・」
・摘記事項1-11([0182]、[0183])
「組み合わせ治療
本発明は、抗hIL-6R抗体を、そのような治療を必要とする患者に投与することを含む、関節リウマチを治療する方法を含む。・・・別の実施態様において、抗hIL-6R抗体は、少なくとも1種の追加の治療剤と組み合わせて投与される。本発明の方法の実施において、抗hIL-6R抗体と組み合わせて投与することができるさらなる治療薬の例としては、限定されないDMARDs及びヒト被験体において慢性関節リウマチを処置、予防、または改善するために知られている任意の他の化合物に限定されるものではない。具体的に、本発明の方法の文脈において、hIL-6R抗体と共に投与することができるさらなる治療薬の非限定的な例としては、メトトレキサート、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキン、レフルノミドが挙げられるがこれらに限定されない。・・・」
・摘記事項1-12([0195]~[0199])
「本発明の開示は、以下のいずれかを含む、慢性関節リウマチと関連する症状を改善する方法を提供する。・・・
サリルマブ(SAR153191)100~200mgで2週間ごとに投与し、メトトレキサート6~25mgを1週間ごとに投与することを含む方法。」
・摘記事項1-13([0218]~[0220])
「・・・
実施例1 サリルマブ及びメトトレキサートの組合せは、メトトレキサート処置が無効である患者における関節リウマチの治療に有効である。
メトトレキサート(MTX)に対する反応が不十分な関節リウマチ患者を対象に、世界規模の二重盲検プラセボ対照無作為化試験が実施された。試験に組み入れられた患者は、以下の基準を有していた。少なくとも66関節中6関節が腫脹し、68関節中8関節に圧痛があり、hs―CRPが6mg/Lより大きいこと。患者はまた、メトトレキサート(MTX)10~25mg /週(又はアジア太平洋地域の患者は6~25mg/週)による治療を12週間継続する必要があった。
この試験には2つのパートがある。研究の最初の部分(パートA)は、有効性(徴候及び症状の軽減)及び安全性に基づいて2つの最良の用量レジメンを選択することを意図した12週間の6群間用量変更部分であった。第2部分(パートB)は、52週間の試験で、有効性、徴候・症状、構造的損傷の進行抑制、身体機能の改善、主要な臨床的反応の誘発を確認する。」
・摘記事項1-14([0224]、[0227]、[0228]、[0234]~[0236]、[0242])
「<パートA>
・・・
適格性が確認された後、患者は、この国際的な多施設、二重盲検、並行群プラセボ対照、12週間の試験において、MTXコセラピーと共に毎週皮下投与されるSAR153191又はプラセボの6群にバランスよく無作為に割り付けられた。投与量を図1に示す。
メトトレキサートは、試験前と同様に各患者に投与された。これは、10~25mg/週、又はアジア太平洋地域内の患者(台湾、韓国、マレーシア、フィリピン、タイ、及びインド)では6~25mg/週であった。
・・・
結果
標準的なRA治療であるメトトレキサート(MTX)と組み合わせてサリルマブ(REGN88/SAR153191)で処置されたヒト患者は、MTX単独で処置された患者と比較して、中等度から重度の関節リウマチ(RA)の徴候及び症状の有意かつ臨床的に意味のある改善を達成した。・・・
用量応答は、MTXとの併用でサリルマブを投与された患者において観察された。・・・
・・・
健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)の有意な改善(図6)。例えば、HAQ-DIスコアは、全ての治療群においてベースラインに対して少なくとも0.3減少し、150mg 2qw及び200mg 2qw治療群において少なくとも0.5減少した。」
・摘記事項1-15([0247]、[0256])
「 <パート B>
・・・
いずれのコホートにおいて、患者は、有効性及び安全性評価及び実験室試験のために、2週目、4週目、そして28週目まで4週毎、それから52週まで8週毎に評価する。」
・摘記事項1-16(図1)
「
[図:0001437756000001.jpg]
」
・摘記事項1-17(図6)
「
[図:0001437756000002.jpg]
」
・摘記事項1-18(配列番号2)
「
[図:0001437756000003.jpg]
[図:0001437756000004.jpg]
」
・摘記事項1-19(配列番号3)
「
[図:0001437756000005.jpg]
」
(2)引用文献2の記載事項
原審の拒絶の理由で引用され、本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2(The Journal of Rheumatology, 2012, 39, pp.60-62)は、「関節リウマチにおける睡眠障害とインターロイキン6受容体阻害」と題する学術論文であり、以下の事項が記載されている(引用文献2は英文のため、題目を含めすべて当審合議体による訳で記載する。)。
・摘記事項2-1(アブストラクト)
「目的
インターロイキン6(IL-6)を介する生物学的相互作用は、健常者における睡眠障害との関連が指摘されている。本研究では、関節リウマチ(RA)患者において、IL-6受容体拮抗薬トシリズマブの投与が睡眠障害に及ぼす影響を検討した。
方法
ベースライン時に睡眠障害を呈していたRA患者15例(女性13例)を対象とし、中等度又は高度の疾患活動性に対してトシリズマブ8mg/kgを月1回、計6回投与した。睡眠の質はピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)、日中の眠気はエプワース眠気尺度、疾患活動性は28-関節疾患活動正スコア-赤血球沈降速度(DAS28-ESR)、機能障害は健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)、疲労は慢性疾患治療機能評価- 疲労尺度(FACIT-疲労尺度;FFS)を用いて、ベースライン、1か月、2か月、3か月、6か月に評価した。登録前の薬物治療は追跡期間中変更しなかった。
結果
PSQIにより評価した睡眠の質は1か月時点で有意に改善し(p<0.00001)、日中の眠気も有意に減少した(p<0.004)。これらの改善は6か月にわたりさらに明確となった。疾患活動性は低下し、疲労は改善し、機能状態も有意に改善した。PSQIスコアの変化はDAS28-ESRの変化とは有意な関連を示さなかった(r = 0.37, p = 0.17)。一方、HAQ-DIの変化とは有意な相関を認め(r = 0.60, p = 0.02)、FFSの変化とは境界的な相関を示した(r = -0.46, p = 0.08)。
結論
RA患者におけるトシリズマブ投与後の睡眠の質の改善は、疾患活動性の低下によって直接説明されるものではないと考えられる。この知見は、IL-6の異常制御が睡眠障害と関連する可能性を支持するものである。」
・摘記事項2-2(60頁左欄1行~同頁右欄8行)
「睡眠の質は、関節リウマチ(RA)患者における健康関連QOLの中心的構成要素であり、疾患活動性、疼痛、心理的苦痛と相関することが知られている。炎症性サイトカインは、RAにおける睡眠障害の潜在的媒介因子として検討されてきた1。RA患者6例を対象としたパイロット研究では、抗腫瘍壊死因子(TNF)モノクローナル抗体インフリキシマブの初回投与後に、疾患状態とは独立して睡眠障害が改善したと報告されている2。さらに、閉塞性睡眠時無呼吸症患者に可溶性TNF受容体製剤エタネルセプトを投与した研究では、日中の眠気及びインターロイキン6(IL-6)濃度が著明に低下し、TNF及びIL-6が睡眠障害に関与する可能性が示唆されている3。
トシリズマブは、RA治療に用いられるヒト化抗IL-6受容体抗体である4。本研究は6か月間のパイロット研究として、RA患者においてトシリズマブ投与後に睡眠障害が改善するかを検討するとともに、睡眠の質の変化が疾患活動性、疲労、及び/又は機能状態の変化と関連するか否かを検証することを目的とした。」
・摘記事項2-3(60頁右欄9行~61頁左欄15行)
「材料と方法
予定されていたトシリズマブ8 mg/kg投与前に睡眠障害を有し、中等度又は高度の疾患活動性 [28-関節疾患活動性スコア-赤血球沈降速度(DAS28-ESR)>3.2] を示す連続症例を、本6か月間のパイロット研究の対象候補とした。主観的な睡眠の質は、過去1か月間についてピッツバーグ睡眠質問票(PSQI;範囲0-21、カットオフ値=5)を用いてベースラインで評価した5。抗うつ薬又は抗精神病薬を服用している患者は除外した。トシリズマブ6か月治療を完了し、かつベースライン時のPSQIスコアが5以上であった最初の15例を本研究対象とした。PSQI、日中の眠気はエプワース眠気尺度(ESS;範囲0-24)6、疾患活動性はDAS28-ESR、機能障害は健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)7、疲労はFACIT-疲労尺度(FFS;範囲0-2)7を用い、ベースライン、1か月、2か月、3か月、6か月時点で評価した。登録前に使用していた薬剤は、追跡期間中変更しなかった。
追跡期間中に縦断的に測定された各変数(PSQI、ESS、DAS28-ESR、HAQ-DI、FFS)の変化の有意性を検討するため、同一被験者内での反復測定による相関を考慮し、ランダム切片及びランダムスロープを含む線形混合モデルを適用した。また、PSQI及びESSのスコア変化率が、他の変数(DAS28-ESR、HAQ-DI、FFS)の対応する変化率と相関するか否かを解析するため、まず各変数について、各個人の経時的測定値に単回帰分析を適用し、変化率(スロープ)の推定値を算出した。各個人・各変数のスロープ推定値を得た後、Pearsonの相関係数を用いて各変数間のスロープの潜在的関連を検討した。トシリズマブ初回投与前後(ベースラインから初回評価時)におけるPSQI及びESSの変化の統計的有意性を検出するためには対応のあるt検定を用いた。p値 < 0.05 を統計学的有意水準とした。」
・摘記事項2-4(61頁左欄16行~同頁右欄32行)
「結果
研究には15例(女性13例)が参加し、平均年齢は48±9歳(範囲34-65歳)、平均罹患期間は8.4±6.54年(範囲2-23年)であった。PSQIはベースラインから6か月で有意に改善し(7.5 ± 2.3 から 6.8 ± 2.5 へ、対応のある t 検定にて p = 0.005)、この改善はトシリズマブ初回投与後から明らかであった(図1A)。1か月時点では8例で睡眠の質が改善し、そのうち4例では6か月までにさらなる改善が認められた。初回投与後に改善を認めなかった残り7例のうち4例は、その後の経過で改善を示した。
ベースラインと比較すると、睡眠の質の有意な改善には日中の眠気の有意な減少が伴っており(図1B)、これは1か月時点で有意となった(ESSは6.9 ± 4.8 から 5.5 ± 4.5 へ;対応のある t 検定で p = 0.01)。1か月時点で日中の眠気は10例で減少し、1例で増加し、4例で不変であった。その後の経過では、初回時点で改善を認めた10例のうち7例でさらなる減少がみられ、初回時点でESSが不変であった4例のうち3例でも改善が認められた。
トシリズマブ治療期間の6か月にわたり、ベースラインと比較して疲労は経時的に減少し、機能状態は改善し、疾患活動性は低下した(表1)。さらに、ベースラインから1か月、1か月から2か月、2か月から3か月、3か月から6か月にかけてのPSQIスコアの個々の変化は、DAS28-ESRの対応する変化とは相関を示さなかったが、HAQ-DIの改善とは正の相関を示し、疲労の減少とは境界的な相関を示した(表2)。一方、日中の眠気の減少とDAS28-ESR、HAQ-DI、FFSの各変化との間には有意な相関は認められなかった。
なお、6か月間の治療期間におけるDAS28-ESRとHAQ-DIの個々の改善量の間には強い相関が認められた(r = 0.75, p = 0.001)。」
・摘記事項2-5(図1)
「
[図:0001437756000006.jpg]
図1.活動性関節リウマチに対してトシリズマブ 8mg/kgを月1回、計6回投与した15例のRA患者における、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)スコア(A)及びエプワース眠気尺度(ESS)スコア(B)の変化である。ボックスプロットは中央値および第25-75パーセンタイルを示し、黒点は外れ値を示す。p値は線形混合モデルによる有意性を示す。」
・摘記事項2-6(表1)
「表1.活動性関節リウマチ患者15例における、トシリズマブ(8mg/kg)治療のベースラインから6か月までの期間における、DAS28-ESRによる疾患活動性、健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)による機能状態及び機能障害、並びにFACIT-疲労尺度(FFS)による疲労スコアの変化である。データは平均値 ± SD で示した。
[図:0001437756000007.jpg]
*線形混合モデルで算出した。DAS28-ESR:28-関節疾患活動性スコア-赤血球沈降速度;FACIT:慢性疾患治療機能評価。 」
・摘記事項2-7(表2)
「表2.トシリズマブ治療期間における、PSQI及びESSとDAS28-ESR、HAQ-DI、並びにFFSとの相関である。関節リウマチ患者15例を対象に、トシリズマブ治療開始時から6か月までの期間において、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)及びエプワース眠気尺度(ESS)のスコア変化と、それぞれに対応するDAS28-ESR、健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)、FACIT-疲労尺度(FFS)のスコア変化との相関を、Pearsonの相関係数(r)により検討した。
[図:0001437756000008.jpg]
DAS28-ESR:28-関節疾患活動性スコア-赤血球沈降速度;FACIT:慢性疾患治療機能評価。 」
・摘記事項2-8(61頁右欄33行~62頁左欄下から14行)
「考察
パイロット研究としての制約及び症例数の少なさを踏まえる必要があるものの、本研究の結果は、トシリズマブ治療が疾患活動性の変化とは独立して、睡眠の質及び日中の眠気を速やかかつ有意に改善する可能性を示唆している。RAにおける睡眠の質の低下及びそれに関連した日中の眠気は一般的である1。疾患活動性や抑うつは睡眠障害のリスク増大と関連し、逆に睡眠障害がこれらを悪化させることも知られている8,9。
睡眠時無呼吸症患者ではTNF及びIL-6濃度の上昇が認められており10、また、がん患者における内因性IL-6の上昇又は外因性IL-6の投与は日中の眠気及び疲労と関連していた11。実験的に眠気を誘導した被験者でも炎症性サイトカインが上昇していた12。サイトカインは血液脳関門を通過する経路、末梢自律神経求心路13、さらには免疫系と内分泌系の連関14などを介して眠気を誘発し得る。抗サイトカイン療法の睡眠への影響を検討した研究は散発的にしか存在しないが、RA患者6例を対象とした研究では、抗TNF治療により疾患状態とは独立して睡眠及び覚醒度の改善が認められている2。また、ランダム化比較試験では、共刺激阻害薬アバタセプトがRA患者15及び特発性関節炎患者16において複数の睡眠指標を有意に改善したことが報告されている。
本研究の結果は、トシリズマブがRA患者における睡眠の質及び日中の眠気を改善する可能性を支持するものである。この作用がIL-6の睡眠制御における中枢的役割と直接関連するか、あるいは疾患活動性や機能状態の改善を介した間接的効果にすぎないのかについては、さらなる検討が必要である。RA患者の治療効果を評価する際には、睡眠障害の評価を含めるべきである。」
(3)本願の優先日当時における技術常識1
ア 本願の優先日当時における技術常識を示すために当審において引用する、本願優先日前に発行された参考文献A(日本内科学会雑誌、2010年、99巻、10号、2392~2400頁)には、以下の事項が記載されている。
・摘記事項A-1(2392頁左欄2~4行)
「関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)は,関節・滑膜に持続的炎症がおこり,そのために関節破壊,機能障害を来す自己免疫疾患である.」
・摘記事項A-2(2394頁左欄7行~同頁右欄16行)
「2.治療ゴール
従来の治療薬であれば,関節炎を50% 以下に抑制できれば治療目標が達成され,患者満足度も良好とされてきた.しかし,関節破壊抑制という観点からは,その治療目標は必ずしも適切ではなく,残存した関節炎には関節破壊が認められる事から,治療目標の見直しが急務となっていた.強力な抗リウマチ作用を有するメトトレキサート(MTX)を,早期から高用量用い,さらには生物学的製剤を併用する事によって,臨床的寛解を治療ゴールに設定しようという機運がヨーロッパを中心に高まって来た.我が国では,厚生労働省研究班『関節リウマチにおける寛解導入療法の体系化』から,関節リウマチ薬物治療の目標が示され,そこにおいて『速やかな臨床的寛解の導入とその維持』が明記された.その先には,関節破壊進行を抑止する『構造的寛解』,さらには日常生活機能を保持する『機能的寛解』を目標とした.その背景には,図2に示すように,関節リウマチの病態が,関節炎→関節破壊→日常生活動作低下→生命予後低下へと進展するため,この一連の流れを止めるためには,その最初のステップである関節炎を完全にコントロールするという考えが基本となっている.臨床的寛解,構造的寛解,機能的寛解の3つがそろえば,完全寛解と呼び,このような極めて高い目標も,いまや目指す事は不思議ではなくなって来ている.」
・摘記事項A-3(2395頁図2)
「
[図:0001437756000009.jpg]
」
・摘記事項A-4(2396頁右欄下から3行~2398頁左欄7行)
「日常生活機能は,HAQ-DI(the Health Assessment Questionare disability index)スコアーによって患者の視点から評価される.関節炎と関節破壊が加味された極めて有用な評価法である.リーチ機能など8カテゴリーに2~3の質問項目があり,何の不自由もない0点から全くできない3点までを点数化し,各カテゴリーの2~3の質問項目の最高点をそのカテゴリーの点数とする.この8カテゴリーを合算し,8で割ったもの(平均)が,HAQ-DIスコアーである.これが0.5以下であれば,日常生活はほぼ不自由のない機能的寛解と判断する.各カテゴリーの質問項目2~3を一つに減らしたmodifiedHAQ(mHAQ)は簡便であるため使用される事も多いが,HAQに比してmHAQはスコアーが低く出るため10),これを用いて機能的寛解を0.5以下とするのは不適切である.臨床的寛解,構造的寛解,機能的寛解がすべて達成されれば完全寛解とする.」
・摘記事項A-5(2396頁表3)
「
[図:0001437756000010.jpg]
」
イ 本願の優先日当時における技術常識を示すために当審において引用する、本願優先日前に発行された参考文献B(日本内科学会雑誌、2012年、101巻、10号、2815~2817頁)には、以下の事項が記載されている。
・摘記事項B-1(2815頁左欄1行~同頁右欄15行)
「関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)の治療は,メトトレキサート(MTX)や生物学的製剤によって,10 年前と比べると格段の進歩を遂げた.その背景には,疫学的研究による地道な自然経過に関する検討があった.関節リウマチが単に痛みだけが問題の疾患ではなく,機能予後も,生命予後も不良である事を示し,さらには,医療経済学的にもその社会的影響が大きい事を明らかにした.予後不良の要因として,関節破壊による機能障害や,様々な関節外症状,とりわけ,炎症に伴う心血管イベント,悪性リンパ腫などが次々に明らかにされたのである.この間に,臨床医学的研究手法は洗練され,バイオメトリーの進歩と相まって,疾患活動性,関節破壊の統一された評価法が確立されていった.疾患活動性は,薬剤介入による治療反応性を評価する目的のために開発されたACR20/ACR50/ACR70 responseが広く治験の有効性判定に用いられ,共通の基準によって薬剤の効果を判定する土壌が築かれた.日常診療において,抗リウマチ薬の開始あるいは変更の目安となる疾患活動性の指標として44 関節を評価するDisease Activity Score(DAS),その後より簡便な28関節評価のDAS28 が提唱され,盛んに臨床研究で用いられる様になった.一方,関節破壊に関しては,古くからSteinblockerのステージ分類が用いられて来たが,より詳細に関節破壊の進行度を知るための評価法として,van der Heijde modified Sharp Score(vdH-sharpスコアー)が,治験や臨床研究で使用され,それによって,薬剤の関節破壊進行抑制効果がより明確に示される様になった.関節炎に特化した日常機能を評価するHealth Assessment Questionnaire-Disability Index(HAQ-DI)も広く用いられ今日に至っている.これらの評価,すなわち,疾患活動性,関節破壊進行度,日常生活動作は,それぞれ臨床的,構造的,機能的観点から関節リウマチの病態を反映する指標として使用されている(図).」
・摘記事項B-2(2816頁の図)
「
[図:0001437756000011.jpg]
」
ウ 本願の優先日当時における技術常識1
上記アの摘記事項A-1~A-3、上記イの摘記事項B-1、B-2に基づけば、関節リウマチは、関節・滑膜に持続的炎症がおこり痛みを伴い、その病態が関節炎、関節破壊、日常生活低下、生命予後低下と伸展する自己免疫疾患であって、関節リウマチの治療の際には、被験体の関節障害や炎症といった臨床症状の改善だけではなく、日常生活機能への影響について考慮する必要があったことは本願優先日当時の技術常識であった。
くわえて、上記アの摘記事項A-4、A-5、上記イの摘記事項B-1、B-2に基づけば、関節リウマチにおける日常生活機能を評価する指標として、健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)を用いることもまた、本願優先日当時の技術常識であった。
(4)本願の優先日当時における技術常識2
ア 本願の優先日当時における技術常識を示すために当審において引用する、本願優先日前に発行された参考文献C(The Journal of Rheumatology, 2006, 33(10), pp.1942-1951)は、「関節リウマチ患者における睡眠障害:Medical Outcomes Study及び視覚的アナログ睡眠スケールによる評価」と題する学術論文であり、以下の事項が記載されている(参考文献Cは英文のため、題目を含めすべて当審合議体による訳で記載する。)。
・摘記事項C-1(1942頁左欄1行~最終行)
「関節リウマチ(RA)は、他の疼痛疾患、慢性疾患、気分障害と同様に1-11、睡眠障害を伴うことが知られており12-17、リウマチ性疾患の患者は睡眠が重要な懸念事項であると指摘している12。さらに、エタネルセプトおよびインフリキシマブが日中の眠気を軽減するという報告18,19を受け、睡眠の問題はリウマチ専門医にとって新たに注目されるようになっている。RA 患者で睡眠が異常であること自体は驚くべきことではないものの、RA と睡眠障害については定量的な側面に関して不明な点が多く残されている。」
・摘記事項C-2(1942頁右欄18行~1943頁左欄6行)
「睡眠質問票は通常、睡眠の全体的な質の評価、特定の睡眠特性、睡眠に関連する行動、症状、および態度を扱う。こうした質問票は、総合的なテスト-再テスト信頼性が高く22、臨床試験、観察研究、日常診療における睡眠の質の評価において主流の手法である。Smith と Wegener は、リウマチ性疾患の患者に関連する質問票について最近レビューを行い23、その中には Medical Outcomes Study(MOS)睡眠質問票24,25 も含まれていた。しかしながら、最も簡便な質問票は、睡眠の全体的な質を評価する視覚的アナログスケール(VAS)である26-29。VAS は簡潔であり、非睡眠関連の質問票が併用される場合でも、患者やスタッフの負担を増すことなく、リウマチ疾患の臨床診療において使用できる。」
イ 本願の優先日当時における技術常識2
上記アの摘記事項C-1、C-2にくわえ、前記(2)の「睡眠の質は、関節リウマチ(RA)患者における健康関連QOLの中心的構成要素であり、疾患活動性、疼痛、心理的苦痛と相関することが知られている。」(摘記事項2-2)との記載、及び「RAにおける睡眠の質の低下」「は一般的であ」り、「RA患者の治療効果を評価する際には、睡眠障害の評価を含めるべきである。」(摘記事項2-8)との記載に基づけば、関節リウマチは睡眠障害を伴う疾患であって、睡眠の質は関節リウマチ患者の健康関連QOLの中心的構成要素であって、関節リウマチの治療の際には、被験者の睡眠の質への影響についても考慮する必要性があることは、本願優先日当時の技術常識であった。
くわえて、上記アの摘記事項C-2に基づけば、睡眠の全体的な質を評価する視覚的アナログスケール(VAS)は、リウマチ疾患の臨床診察において簡潔で負担なく使用できる睡眠質問票であることもまた本願優先日当時における技術常識であった。
(5)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、「関節リウマチを治療するための、疾患修飾抗リウマチ薬と組み合わせた抗IL-6R抗体などのインターロイキン-6レセプター(IL-6R)アンタゴニストの使用」に関し(摘記事項1-1)、「疾患修飾性抗リウマチ薬」として「メトトレキサート」が、「抗IL-6R抗体」として「配列番号2の配列の重鎖可変領域及び配列番号3の軽鎖可変領域配列を含むヒトインターロイキン-6受容体(hIL-6R)に結合する抗体(サリルマブ)」が用いられることについてそれぞれ記載されており(摘記事項1-3~1-11、1-18、1-19)、その具体的態様として、「メトトレキサート処置が無効である」「関節リウマチ」の「患者」あるいは「メトトレキサートに対する反応が不十分な関節リウマチ患者」、すなわち、関節リウマチを罹患しておりメトトレキサートを投与することで効果がなかった者に対して2週毎に150mg又は200mgの量のサリルマブ、1週毎に6~25mgのメトトレキサートを投与すると、健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)を向上させることについて記載されている(摘記事項1-2、1-12~1-14、1-16、1-17)。
そうしてみると、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる。
「関節リウマチに罹患している被験体の健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)を向上させるための、配列番号2の配列の重鎖可変領域及び配列番号3の軽鎖可変領域配列を含むヒトインターロイキン-6受容体(hIL-6R)に結合する抗体であるサリルマブを含む医薬組成物であって、2週ごとに150mg又は200mgの該抗体及び1週あたり6~25mgのメトトレキサートが該被験体に投与され、該被験体は以前に、メトトレキサートである疾患修飾性抗リウマチ薬を投与することによる関節リウマチの処置を受けたが効果がなかった者である、上記医薬組成物。」(以下「引用発明」という。)
2 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比する。
・引用発明の「配列番号2」、「配列番号3」で示されるアミノ酸配列は、それぞれ、本願発明1の「配列番号1」、「配列番号2」で示されるアミノ酸配列と一致するものであるから、引用発明の「配列番号2の配列の重鎖可変領域及び配列番号3の軽鎖可変領域配列を含むヒトインターロイキン-6受容体(hIL-6R)に結合する抗体であるサリルマブ」は、本願発明1の「ヒトインターロイキン-6受容体(IL-6R)に結合し、かつ配列番号1の配列の重鎖可変領域及び配列番号2の軽鎖可変領域配列を含」む「抗体」に相当する。
・引用発明の「関節リウマチに罹患している被験体の健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)を向上させるための」は、本願発明1の「関節リウマチに罹患している被験体の睡眠の質を改善する方法で使用するための」と、関節リウマチに罹患している被験体で使用するためである点で共通する。
・引用発明の「2週ごとに150mg又は200mgの該抗体及び1週あたり6~25mgのメトトレキサートが該被験体に投与」されることは、本願発明1の「該抗体は、2週ごとに1回、150mg又は200mgで投与」されることに包含される。
そうすると、本願発明1と引用発明との間の一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点]
関節リウマチに罹患している被験体で使用するための、抗体を含む医薬組成物であって、
ここで該抗体は、ヒトインターロイキン-6受容体(IL-6R)に結合し、かつ配列番号1の配列の重鎖可変領域及び配列番号2の配列の軽鎖可変領域配列を含み、
該抗体は、2週ごとに1回、150mg又は200mgで投与される、
前記医薬組成物。
[相違点]
本願発明1では、関節リウマチに罹患している被験体での使用の用途が、「被験体の睡眠の質を改善する方法で使用するため」であり、さらに、「該抗体の投与は、睡眠の質を改善する」と特定されているのに対し、引用発明では、そのような特定がない点。
(2)判断
ア 相違点について
上記相違点について検討する。
前記1(3)ウ、前記1(4)イで述べたように、関節リウマチが、進行する関節障害や痛みに加え、身体機能の障害や睡眠障害を伴う自己免疫炎症性疾患であって、関節リウマチの治療の際には、被験体の関節障害や痛みといった臨床症状の改善だけでなく、日常生活機能及び睡眠の質への影響について考慮する必要があるという、本願の優先日当時の技術常識を踏まえると、日常生活機能を評価する指標である「健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)」を向上させるための、サリルマブを含む医薬組成物に係る引用発明において、睡眠の質の改善についても考慮することは、当業者であれば、ごく自然に発想することである。
このように、関節リウマチにおいて、睡眠障害の観点も考慮するという発想を得た当業者が、引用文献2の、IL-6を介する生物学的相互作用は睡眠障害に関連する可能性がある旨の記載に接すれば(摘記2-1、2-2)、トリシズマブと同様に抗IL-6受容体抗体であるサリルマブについても、IL-6とIL-6受容体の結合による生物学的相互作用を阻害することにより、睡眠の質が改善することを認識し得るものである。
また、引用文献2では、睡眠障害を呈していた関節リウマチ患者に対して引用発明の「サリルマブ」と同様に抗IL-6受容体抗体であるトシリズマブを投与し、睡眠障害に及ぶ影響を検討したところ、「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)」により評価した睡眠の質が有意に改善しただけでなく(摘記事項2-1、2-4、2-5)、睡眠の質を評価するPSQIスコアの改善と「健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)の改善との間には有意な正の相関を認めたことが記載されている(摘記事項2-1、2-4、2-7)。
このように、PSQIとHAQ-DIの2つの指標の間に有意な正の相関がある旨の引用文献2の記載に当業者が接すれば、「健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)」「を向上させる」ための医薬組成物に係る引用発明についても、それと正の相関をする睡眠の質が改善することもまた認識し得ることでもあるといえる。
そうすると、引用発明の用途を、関節リウマチに罹患している被験体の「睡眠の質を改善する方法で使用するため」とし、「該抗体の投与は、睡眠の質を改善する」と特定することは、当業者が容易に想到し得ることである。
イ 本願発明1の効果について
本願明細書の実施例には、関節リウマチ患者におけるサリルマブの影響を検討した臨床研究において、睡眠の質を評価する睡眠VASスコアの改善を確認し、睡眠VASについてのMCID(最小重要差)は少なくとも4.1のBL(ベースライン)からの変化を示し臨床におけるMCIDを十分に超えていたことが記載されている(【0121】~【0127】)。
しかしながら、引用文献2における、サリルマブと同じ抗IL-6受容体抗体であるトシリズマブを睡眠障害を伴う関節リウマチ患者に投与すると、HAQ-DIと正の相関関係でPSQIによる睡眠改善効果が奏される旨の記載(摘記事項2-1、2-4、2-7)、及びIL-6を介する生物学的相互作用は睡眠障害に関連する可能性がある旨の記載(摘記2-1、2-2)、さらに前記1(4)イ述べたとおり、睡眠VASはリウマチ患者の臨床診断において簡潔で負担なく使用できる睡眠質問票であるという本願の優先日当時の技術常識を考慮すれば、上記の効果は、引用発明、引用文献1、2に記載された事項及び技術常識から当業者が予測し得るものであって、格別顕著なものとは認められない。
(3)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和6年7月17日提出の手続補正書(方式)により補正された請求の理由において、概ね以下の主張をしている。
(i)引用文献1には睡眠について言及はなく、引用文献1でサリルマブとメトトレキサートの組合せ投与によってHAQ-DIが改善したことが記載されていても、HAD-QIスコアは日常生活に付随する作業に対する患者の対応能力の評価を反映するものであるから、睡眠の質の改善が達成されると理解されないし、抗IL-6R抗体を投与することによって関節リウマチの被験者の睡眠の質を改善できるとも予想しない。
(ii)引用文献1と引用文献2では使用する活性成分が異なる。また、引用文献1には、DAS28とACRスコアにより測定されるリウマチ患者の疾患活動性スコアが改善されていることが記載されているのに対して、引用文献2は、DAS28による疾患活動性スコアの改善を示すものではなく、疾患活動性についての結果が異なる。さらに、引用文献2は、「2週ごとに1回、150mg又は200mgで投与」という用法・用量が記載されていない。そうすると、引用文献1に記載された発明において、引用文献2の記載を考慮することはない。仮に考慮したとしても、特定の量の使用を想起することは容易になし得ることではない。
(なお、請求の理由において、審判請求人は、「本願明細書に記載の結果と引用文献2に示される結果の相違についても留意すべきである。すなわち、特定の後者を使用する前者では、HAQ-DIの改善と共にDAS28とACRスコアにより測定されるリウマチ患者の疾患活動性スコアが改善されているのに対して、トシリズマブを使用する後者では、DAS28により測定される同疾患活動性スコアの改善を示すものではなく、ピッツバーグ睡眠品質指数(PSQI)で評価された睡眠スコアとHAQ-DIの改善を示すものである。」と主張し、本願明細書に記載された結果と引用文献2に記載された結果が異なることを主張しているが、その記載内容からみて、引用文献1に記載された結果と引用文献2に記載された結果が異なることを主張していると当審合議体は理解した。)
(iii) 本願発明1の被験体は、「以前に、少なくとも1つの疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)/TNF-α拮抗薬を投与することによる関節リウマチの処置を受けたが効果がなかった患者」であって、引用文献2が取り扱う患者よりも、処置が難しい関節リウマチ患者であるから、本願発明1における睡眠の質を改善するという効果は、引用文献2の記載からは予測できない。
上記主張について検討する。
主張(i)について
引用文献1には睡眠の質についての記載はなくとも、引用文献2の記載を考慮すれば、睡眠の質が改善されることを当業者が認識し得ることは、上記(2)ア及びイに述べたとおりである。
主張(ii)について
審判請求人は、活性成分の違い、その結果の違い、用法・用量等を根拠にして、引用発明において、引用文献2の記載を考慮することはない旨主張するが、引用文献1と引用文献2の活性成分は、それぞれサリルマブ、トリシズマブという異なる抗体ではあるものの、両者ともに、ヒトIL-6受容体に結合する抗IL-6受容体抗体である点で一致するものである。そして、関節リウマチの治療において、睡眠の質についても考慮すべきであることは技術常識であったことを踏まえると、当業者であれば、抗IL-6受容体抗体であるサリルマブを含む引用発明において、引用文献2におけるIL-6を介する生物学的相互作用は睡眠障害に関連する旨の記載を考慮するものである。
また、引用文献1と引用文献2は、HAQ-DIを向上する作用を有するものである点で一致することからも、引用文献2におけるHAQ-DIと睡眠の質を評価するPSQIが正の相関する旨の記載を考慮するといえる。このことは、引用文献2に、生活の質とは異なる観点である疾患活動性について、HAQ-DIと別の指標について引用文献1と異なる結果が示されていることに影響を受けるものでもない。
主張(iii)について
審判請求人は、本願発明1の被験体は、「以前に、少なくとも1つの疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)/TNF-α拮抗薬を投与することによる関節リウマチの処置を受けたが効果がなかった患者」であることを前提に本願発明1の効果は予測できない旨主張しているが、本願発明1には、被験体についてそのような特定がされていないのであるから、審判請求人による当該主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
念のため、請求人が主張する効果を検討しておくと、引用発明における被験体は「以前に、メトトレキサートである疾患修飾性抗リウマチ薬を投与することによる関節リウマチの処置を受けたが効果がなかった者」であり、本願明細書の臨床試験における被験体と一致するものである。そうすると、本願明細書の臨床試験における被験体と引用文献2における患者が相違することをもって、本願明細書に示された効果が予測し得ないものであるとはいえない。
よって、審判請求人の主張はいずれも採用できない。
(4)小括
したがって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明、引用文献1、2に記載された事項及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-009443