特許拒絶査定不服審判
2022-012194
関節リウマチ患者の健康に関連した生活の質を改善するための組成物
- 審判番号
- 2022-012194
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-134315
- 請求日
- 2022年08月05日
- 審決日
- 2024年10月21日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】サノフィ・バイオテクノロジー
- 【請求人代理人】結田 純次
- 【請求人代理人】竹林 則幸
- 【請求人】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】結田 純次
- 【請求人代理人】竹林 則幸
- 審判長/審判官
- 審判長 冨永 みどり
- 審判官 伊藤 幸司
- 審判官 松波 由美子
- 分類
- P18 .113-WZ (A61K) / P18 .121-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-134315「関節リウマチ患者の健康に関連した生活の質を改善するための組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年11月19日出願公開、特開2020-186260〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)9月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年9月16日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願である特願2017-533746号の一部を2020年(令和2年)8月7日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は、以下のとおりである。
令和3年7月15日付け:拒絶理由通知書
令和3年10月20日 :意見書の提出
令和3年10月20日 :手続補正書の提出
令和4年3月24日付け:令和3年10月20日の手続補正についての補正の却下の決定
令和4年3月24日付け:拒絶査定
令和4年8月5日 :審判請求書
令和4年8月5日 :手続補正書の提出
令和4年9月22日 :審判請求書の手続補正書(方式)の提出
令和6年3月25日付け:拒絶理由通知書
令和6年7月26日 :意見書の提出
令和6年7月26日 :手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明1」という。)は、以下のとおりである。
「関節リウマチに罹患している被験体の倦怠感を減少する方法で使用するための、抗体を含む医薬組成物であって、
該抗体は、ヒトインターロイキン-6受容体(IL-6R)に結合し、配列番号1の配列の重鎖可変領域及び配列番号2の軽鎖可変領域配列を含み、
該方法は、2週毎に150mg又は200mgの量での抗体と、メトトレキサートとを投与することを含み、被験体は以前に、メトトレキサートを投与することによる関節リウマチの処置を受けたが効果がなかった者であり、
該被験体は、該抗体とメトトレキサートとの投与の少なくとも24週間後に、少なくとも6.5の、慢性疾患治療-倦怠感の機能的評価(FACIT-F)のベースライン(BL)からの変化を達成し、該変化は抗体とメトトレキサートとの処置後少なくとも52週まで維持される、
上記医薬組成物。」
第3 拒絶の理由の概要
令和6年3月25日付けで当審において通知した拒絶理由のうちの理由1及び2は、次のとおりのものである。
理由1(新規性)
本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2(進歩性)
本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献Aに記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1: 米国特許出願公開第2013/0149310号明細書
引用文献A: Lancet 2008 vol.371 p.987-997
第4 当審の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1(米国特許出願公開第2013/0149310号明細書)の記載
当審の拒絶の理由で引用され、本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1には、以下の事項が記載されている(引用文献1は英文のため、当審合議体による訳で記載する。下線は、当審合議体で付した。以下同じ。)。
・摘記事項1-1
「本発明は、関節リウマチの治療処置の分野に関する。より具体的には、本発明は、関節リウマチを治療するための、疾患修飾抗リウマチ薬と組み合わせた抗IL-6R抗体などのインターロイキン-6レセプター(IL-6R)アンタゴニストの使用に関する。」([0002])
・摘記事項1-2
「・・・全身性の炎症は、貧血、赤血球沈降速度、フィブリノゲン、C反応性蛋白(CRP)の上昇などの検査値異常や、疲労、体重減少、罹患関節部の筋萎縮などの臨床症状によって特徴づけられる。・・・」([0003])
・摘記事項1-3
「本開示は、それを必要とする被験体において慢性関節リウマチを治療する方法を提供する。この方法は、有効量のサリルマブ(SAR153191)、レフルノミド、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキンからなる群のメンバーを投与することを含む。・・・他の実施形態では、対象者は、以前、メトトレキサート投与による関節リウマチ治療が無効であった。」([0005])
・摘記事項1-4
「 図1は、メトトレキサート(MTX)併用療法とともにSAR153191またはプラセボを週1回皮下投与する6群の、国際的な多施設、二重盲検、並行群プラセボ対照、12週間の試験治療に関する試験デザインを示す。」([0139])
・摘記事項1-5
「図4は、プラセボと比較して、サリルマブ/MTX併用療法の5つの治療群のうちの1つを受けた患者における、12週間後のDAS28スコアの改善又はDAS28寛解の副次的評価項目に関する臨床試験結果を示す。・・・」([0142])
・摘記事項1-6
「図6は、プラシーボと比較したサリブマブ/MTX併用療法の5治療群のうちの1つを受けた患者における12週間後の健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)の向上、二次エンドポイントに関する臨床試験結果を示す。」([0144])
・摘記事項1-7
「本開示は、関節リウマチ(RA)の治療およびRAの少なくとも1つの症状の改善のためのこれらの組成物を使用する医薬組成物及び方法を提供する。これらの組成物は、ヒトインターロイキン-6レセプター(hIL-6R)に特異的に結合する少なくとも1つの抗体および、任意選択で、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)などの少なくとも1つの追加の治療薬を含む。」([0148])
・摘記事項1-8
「抗hIL-6R抗体」([0149])
・摘記事項1-9
「他の特定の実施形態において、抗体は、サリルマブ(SAR153191)である。サリルマブの重鎖可変領域は、SEQ ID NO:2の配列を含む。([0158])
・摘記事項1-10
「サリルマブの軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:3の配列を含む。」([0159])
・摘記事項1-11
「DMARDs
疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)としては、メトトレキサート、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキン、レフルノミドが挙げられる。本開示の組成物および方法によれば、DMARDsは、以下のように投与することができる。メトトレキサートは、1週間あたり10~25mgの経口投与または筋肉内投与することができる。・・・」([0164]、[0165])
・摘記事項1-12
「組み合わせ治療
本発明は、抗hIL-6R抗体を、そのような治療を必要とする患者に投与することを含む、関節リウマチを治療する方法を含む。・・・別の実施態様において、抗hIL-6R抗体は、少なくとも1種の追加の治療剤と組み合わせて投与される。本発明の方法の実施において、抗hIL-6R抗体と組み合わせて投与することができるさらなる治療薬の例としては、限定されないDMARDs及びヒト被験体において慢性関節リウマチを処置、予防、または改善するために知られている任意の他の化合物に限定されるものではない。具体的に、本発明の方法の文脈において、hIL-6R抗体と共に投与することができるさらなる治療薬の非限定的な例としては、メトトレキサート、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキン、レフルノミドが挙げられるがこれらに限定されない。・・・」([0182]、[0183])
・摘記事項1-13
「本発明の開示は、以下のいずれかを含む、慢性関節リウマチと関連する症状を改善する方法を提供する。」([0195])
「サリルマブ(SAR153191)100~200mgで2週間ごとに投与し、メトトレキサート6~25mgを1週間ごとに投与することを含む方法。」([0199])
・摘記事項1-14
「・・・
実施例1 サリルマブおよびメトトレキサートの組合せは、メトトレキサート処置が無効である患者における関節リウマチの治療に有効である。
メトトレキサート(MTX)に対する反応が不十分な関節リウマチ患者を対象に、世界規模の二重盲検プラセボ対照無作為化試験が実施された。試験に組み入れられた患者は、以下の基準を有していた。少なくとも66関節中6関節が腫脹し、68関節中8関節に圧痛があり、hs―CRPが6mg/Lより大きいこと。患者はまた、メトトレキサート(MTX)10~25mg/週(またはアジア太平洋地域の患者は6~25mg/週)による治療を12週間継続する必要があった。
この試験には2つのパートがある。研究の最初の部分(パートA)は、有効性(徴候および症状の軽減)および安全性に基づいて2つの最良の用量レジメンを選択することを意図した12週間の6群間用量変更部分であった。第2部分(パートB)は、52週間の試験で、有効性、徴候・症状、構造的損傷の進行抑制、身体機能の改善、主要な臨床的反応の誘発を確認する。」([0218]~[0220])
・摘記事項1-15
「<パートA>
・・・
適格性が確認された後、患者は、この国際的な多施設、二重盲検、並行群プラセボ対照、12週間の試験において、MTXコセラピーと共に毎週皮下投与されるSAR153191またはプラセボの6群にバランスよく無作為に割り付けられた。投与量を図1に示す。
メトトレキサートは、試験前と同様に各患者に投与された。これは、10~25mg/週、またはアジア太平洋地域内の患者(台湾、韓国、マレーシア、フィリピン、タイ、およびインド)では6~25mg/週であった。
・・・
結果
標準的なRA治療であるメトトレキサート(MTX)と組み合わせてサリルマブ(REGN88/SAR153191)で処置されたヒト患者は、MTX単独で処置された患者と比較して、中等度から重度の関節リウマチ(RA)の徴候および症状の有意かつ臨床的に意味のある改善を達成した。・・・
用量応答は、MTXとの併用でサリルマブを投与された患者において観察された。・・・
・・・
健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)の有意な改善(図6)。例えば、HAQ-DIスコアは、全ての治療群においてベースラインに対して少なくとも0.3減少し、150mg 2qw及び200mg 2qw治療群において少なくとも0.5減少した。」([0224]、[0227]、[0228]、[0234]~[0236]、[0242])
・摘記事項1-16
「
<パート B>
・・・
いずれのコホートにおいて、患者は、有効性及び安全性評価および実験室試験のために、2週目、4週目、そして28週目まで4週毎、それから52週まで8週毎に評価する。」([0247]、[0256])
・摘記事項1-17
「[図1]
[図:0001420621000001.jpg]
」
・摘記事項1-18
「[図6]
[図:0001420621000002.jpg]
」
・摘記事項1-19
「
[図:0001420621000003.jpg]
[図:0001420621000004.jpg]
」
「
[図:0001420621000005.jpg]
」
(2)引用文献A(Lancet 2008 vol.371 p.987-997)の記載
当審の拒絶の理由で引用され、本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献Aには、以下の事項が記載されている(引用文献Aは英文のため、合議体による訳で記載する。)。
・摘記事項A-1
「導入
関節リウマチは、進行する関節傷害、痛み、疲れ及び身体障害(disability)を伴う全身性自己免疫炎症性疾患である。関節リウマチの正確な原因はまだ知られていないが、病因の洞察では、例えばTNFα、IL-1、IL-6という、疾患経路における炎症性サイトカインの役割であることが確立されている。
現在の処置は、疾患修飾性抗リウマチ薬(例えば、メトトレキサートであるDMARDs)や生理学的薬剤により炎症システムを標的とするものである。・・・
したがって、IL-6を標的化することは関節リウマチの魅力的な治療選択肢である。トシリズマブはIL-6受容体の両方の形に結合するヒト化モノクローナル抗体であり、関節性リウマチに関する日本での第2相試験で臨床効果を示している。・・・」(987頁左欄1行~同頁右欄下から3行)
・摘記事項A-2
「方法
患者
6ヶ月以上メトトレキサートに対して十分に応答しなかった中程度から重度の活性リウマチ関節を有する成人患者(ACR基準に従い診断)が集められた。」(988頁左欄6~12行)
「有効性の主要評価項目は、24週間後のACR基準(ACR20応答)に従った関節リウマチの徴候と症状が20%改善した患者の割合である。・・・患者の痛み及び患者と医師による疾患活性の概括評価は、0~100mmの水平の目視によるアナログ基準(スケール)(VAS)で評価された。・・・HAQ-DIが身体機能の評価に用いられた。
ベースライン、8週、16週、24週に項目記入されたSF36と、ベースラインと4週毎に行われたFACIT-疲労評価が、健康に関連したQOLの評価のために用いられた。・・・FACIT-疲労評価項目は0~52の範囲であり、・・・スコアが高い程疲労が少ないことを表す。」(989頁左欄26行~同頁右欄5行)
・摘記事項A-3
「
[図:0001420621000006.jpg]
図2・・・(F)FACIT-疲労スコア・・・」
・摘記事項A-4
「
[図:0001420621000007.jpg]
」
・摘記事項A-5
「
[図:0001420621000008.jpg]
」
・摘記事項A-6
「プラセボと比較して両用量のトシリズマブ投与において、HAQ-DIスコアの平均差により判定されるように、身体機能のベースラインからの大きな改善が見られた(表3)。・・・プラセボと比較して両用量のトシリズマブ投与において、経時的なFACIT-疲労スコアのベースラインからの大きな改善が見られた(図2と表4)。プラセボと比較して両用量のトシリズマブ投与において、24週までに、身体的及び精神的なSF36スコアの両方に、ベースラインからの大きな改善が見られた(表4)。」(992頁右欄17~31行)
・摘記事項A-7
「これらのデータは、IL-6に媒介される炎症性効果の阻害が、顕著かつ迅速に関節性リウマチの徴候と症状を改善するという証拠を提供する。」(995頁左欄9~12行)
(3)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、「関節リウマチを治療するための、疾患修飾抗リウマチ薬と組み合わせた抗IL-6R抗体などのインターロイキン-6レセプター(IL-6R)アンタゴニストの使用」に関し(摘記事項1-1)、「疾患修飾性抗リウマチ薬」として「メトトレキサート」が、「抗IL-6R抗体」として「配列番号2の配列の重鎖可変領域及び配列番号3の軽鎖可変領域配列を含むヒトインターロイキン-6受容体(hIL-6R)に結合する抗体(サリルマブ)」が用いられることについてそれぞれ記載されており(摘記事項1-4~1-12、1-19)、その具体的態様として、「メトトレキサート処置が無効である」「関節リウマチ」の「患者」あるいは「メトトレキサートに対する反応が不十分な関節リウマチ患者」、すなわち、関節リウマチを罹患しておりメトトレキサートを投与することで効果がなかった者に対して2週毎に150mg又は200mgの量のサリルマブ、1週毎に6~25mgのメトトレキサートを投与すると、健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)を向上させることについて記載されている(摘記事項1-3、1-13~1-15、1-17、1-18)。
そうしてみると、引用文献1には、
「関節リウマチに罹患している被験体の健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)を向上させるための、配列番号2の配列の重鎖可変領域及び配列番号3の軽鎖可変領域配列を含むヒトインターロイキン-6受容体(hIL-6R)に結合する抗体(サリルマブ)を含む医薬組成物であって、
2週ごとに150mg又は200mgの該抗体及び1週あたり6~25mgのメトトレキサートが該被験体に投与され、該被験体は以前に、メトトレキサートである疾患修飾性抗リウマチ薬を投与することによる関節リウマチの処置を受けたが効果がなかった者である、上記医薬組成物。」の発明(以下「引用発明」という。)
が記載されていると認められる。
2 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比する。
・引用発明の「配列番号2」及び「配列番号3」で示されるアミノ酸配列は、それぞれ、本願発明1の「配列番号1」及び「配列番号2」で示されるアミノ酸配列と一致するものであるから、引用発明の「配列番号2の配列の重鎖可変領域及び配列番号3の軽鎖可変領域配列を含むヒトインターロイキン-6受容体(hIL-6R)に結合する抗体(サリルマブ)」は、本願発明1の「ヒトインターロイキン-6受容体(IL-6R)に結合し、配列番号1の配列の重鎖可変領域及び配列番号2の軽鎖可変領域配列を含」む「抗体」に相当する。
・関節リウマチに罹患した被験体にとってHAQ-DIの向上が健康に関連した生活の質の改善を意味することは、本願優先日当時の技術常識であるものと認められるところ(参考文献1(日内会誌、2010年、99、2392~2400頁)の「日常生活機能は,HAQ-DI(the Health Assessment Questionare disability index)スコアーによって患者の視点から評価される。関節炎と関節破壊が加味された極めて有用な評価法である。リーチ機能など8カテゴリーに2~3の質問項目があり、何の不自由もない0点から全くできない3点までを点数化し、各カテゴリーの2~3の質問項目の最高点をそのカテゴリーの点数とする、この8カテゴリーを合算し、8で割ったもの(平均)が、HAQ-DIスコアーである。これが0.5以下であれば、日常生活はほぼ不自由のない機能的寛解と判断する。」(2396頁右欄下から3行~2398頁左欄1行)及び表3、参考文献2(日内会誌 2012年、101、2815~2817頁)の「関節炎に特化した日常機能を評価するHealth Assessment Questionnaire Disability Index(HAQ-DI)も広く用いられ今日に至っている。これらの評価、すなわち、疾患活動性、関節破壊進行度、日常生活動作は、それぞれ臨床的、構造的、機能的観点から関節リウマチの病態を反映する指標として使用されている(図)。」(2815頁右欄8~15行及び図))、引用発明の「関節リウマチに罹患している被験体の健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)を向上させるための」とは、関節リウマチに罹患している被験体の健康に関連した生活の質の改善をさせることに包含されるものであるといえる。他方、本願発明1における「関節リウマチに罹患している被験体の倦怠感を減少する方法で使用するための」とは、令和6年7月26日提出の手続補正により補正される前の(令和4年8月5日提出の手続補正書における)請求項1の「関節リウマチに罹患している被験体の健康に関連した生活の質を改善する方法において使用するための」を減縮したものであるし、また、疲労感の減少は、生活の質を改善するものといえる。よって、両者は、「関節リウマチに罹患している被験体の健康に関連した生活の質を改善する方法」という点で共通するものである。
・引用発明の「2週ごとに150mg又は200mgの該抗体及び1週あたり6~25mgのメトトレキサートが該被験体に投与」されることは、本願発明1の「2週毎に150mg又は200mgの量での抗体と、メトトレキサートとを投与する」に相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明との間の一致点及び一応の相違点は次のとおりである。
[一致点]
関節リウマチに罹患している被験体の健康に関連した生活の質を改善する方法で使用するための、抗体を含む医薬組成物であって、
該抗体は、ヒトインターロイキン-6受容体(IL-6R)に結合し、配列番号1の配列の重鎖可変領域及び配列番号2の軽鎖可変領域配列を含み、
該方法は、2週毎に150mg又は200mgの量の抗体と、メトトレキサートとを投与することを含み、被験体は以前に、メトトレキサートを投与することによる関節リウマチの処置を受けたが効果がなかった者である、上記医薬組成物。
[一応の相違点]
関節リウマチに罹患している被験体の健康に関連した生活の質の改善することが、本願発明1では、該被験体の「倦怠感を減少する」ことであって、倦怠感の減少の程度について「該抗体とメトトレキサートとの投与の少なくとも24週間後に、少なくとも6.5の、慢性疾患治療-倦怠感の機能的評価(FACIT-F)のベースライン(BL)からの変化を達成し、該変化は抗体とメトトレキサートとの処置後少なくとも52週まで維持される」と特定されているのに対し、引用発明では、「被験体の健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)を向上させる」と特定されている点(以下、「一応の相違点」という。)
(2)検討
ア 新規性について
上記一応の相違点について検討する。
本願の優先権主張日前において、一般に、関節リウマチが、進行する関節障害や痛みに加え、疲れや身体障害を伴う全身性自己免疫炎症性疾患であることは技術常識であったところ(摘記事項1-2、摘記事項A-1)、関節リウマチの治療の際には、被験体の関節障害や痛みといった臨床症状の改善効果だけでなく、倦怠感や身体機能といった患者の生活の質への影響について考慮する必要性があったことは、摘記事項A-3~A-5に示されるとおり、当然認識されていたことである。
この点を踏まえて一応の相違点に係る構成について検討すると、本願明細書には、本願が、「RA患者の臨床症状を改善することに加えて、RA患者の健康に関連した生活の質の改善における興味が高まってきた」(【0004】)という背景技術のもと、「関節リウマチに罹患している被験体の健康に関連した生活の質を改善する方法を提供する」(【0006】)べくなされた発明であって、【0045】には、「健康に関連した生活の質スコア」である「SF-36V2」について、「8つのドメイン」である「身体機能、日常役割機能(身体)、体の痛み、全体的健康感、活力、社会生活機能、日常役割機能(精神)、及び心の健康」が挙げられることが記載され、これに続けて【0057】に「FACIT-倦怠感」の評価指標が記載されており、これらの記載は、上記した本願優先日前の技術常識と符合するものである。
そして、本願明細書には、その実施例として、【0124】、【0125】に、関節リウマチ患者である「1282人の患者」に対して適用し、これらの患者全体について、SF36、FACIT-Fを含む指標で評価したことが記載されているのであり、関節リウマチ患者のうち、倦怠感を伴う患者群を、身体障害を伴う患者群と区別して適用したことなど示されていないのであるから、本願発明1が、関節リウマチ患者のうち、特に「倦怠感を伴う患者群」を選択して適用したものであると認めることはできない。
したがって、本願発明1と引用発明は、同一の有効成分の組み合わせを、同一の用法・用量で、同じ関節リウマチを罹患し、以前に、メトトレキサートを投与することによる関節リウマチの処置を受けたが効果がなかった者という同一の患者群に適用したものであるといえる。
そうすると、本願発明1における「該被験体は、該抗体とメトトレキサートとの投与の少なくとも24週間後に、少なくとも6.5の、慢性疾患治療-倦怠感の機能的評価(FACIT-F)のベースライン(BL)からの変化を達成し、該変化は抗体とメトトレキサートとの処置後少なくとも52週まで維持される」との発明特定事項は、関節リウマチに罹患した患者について引用発明と同一の有効成分を同一の用法及び用量で同一の患者群に適用した結果、観察される変化を記述したにすぎないものであって、一応の相違点に係る特定は、引用発明における身体機能の改善に加えて、その明示のない倦怠感をも改善するという未知の属性を見出したものだとしても、関節リウマチ患者の生活の質の改善という用途を超える新たな用途を提供するものと解することはできない。
イ 進歩性について
上記一応の相違点を実質的な相違点とする場合について検討する。
上記アで述べた本願の優先権主張日前の技術常識を参酌すると、関節リウマチの治療の際には、被験体の関節障害や痛みといった炎症症状に関する臨床症状の改善効果だけでなく、倦怠感や身体機能といった被験体の生活の質への影響についても考慮する必要性があることは当然認識されていたものと認められる。このような認識を有する当業者であれば、引用発明は、関節リウマチに罹患している被験体の「健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)」を向上させること、すなわち、身体機能の改善を通じて生活の質の改善を図るものであるが、引用文献1に明示の記載はなくとも、関節リウマチにおいて、進行する関節障害、痛みに付随して、「身体障害」とともにしばしば観察される「疲労感」の観点からも被験体の生活の質の改善について検討を行うことはごく自然に想定し得ることといえる。
この点、引用文献Aには、メトトレキサートに対して十分に応答しなかった中程度から重度の活性リウマチ関節を有する成人患者に対し、引用発明の「サリルマブ」と同じ抗IL-6受容体抗体であるトシリズマブを投与する際に、HAQ-DIスコアによる判定により経時的な身体機能のベースラインからの大きな改善が見られただけでなく、FACIT-疲労スコア(本願発明1の「慢性疾患治療-倦怠感の機能的評価(FACIT-F)」と同義)による判定においても経時的な倦怠感のベースラインからの大きな改善が見られ、身体障害や倦怠感を伴う関節リウマチに罹患した患者の生活の質の向上を図ることができたことが開示されている(摘記事項A-1~A-7)こととも符合する。
したがって、関節リウマチに罹患している被験体の生活の質の改善について身体機能の観点から「健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)を向上させるために」の用途に適用する引用発明について、投与後の経時的な「FACIT-疲労スコア」による評価により倦怠感についても、その改善効果を期待して、「倦怠感の減少」について検証を行うことは当業者が容易に想到し得ることである。
その際、引用発明に対しFACIT-Fの評価を行う時期について、引用文献1には、有効性や安全性評価のために「2週目、4週目、そして28週目まで4週毎、それから52週まで8週毎に評価する。」と記載されており(摘記事項1-16)、引用文献Aにも「24週」まで「FACIT-疲労スコア」を評価する旨開示されているのであるから(摘記事項A-2~A-6)、「少なくとも24週間」後、「少なくとも52週」とすることは当業者が適宜なし得ることである。
そして、本願発明1の「該被験体は、該抗体とメトトレキサートとの投与の少なくとも24週間後に、少なくとも6.5の、慢性疾患治療-倦怠感の機能的評価(FACIT-F)のベースライン(BL)からの変化を達成し、該変化は抗体とメトトレキサートとの処置後少なくとも52週まで維持される」との効果についても、引用発明について倦怠感の指標としてFACIT-Fの評価を行うことで必然的に確認されるにすぎないものであるし、サリルマブと同じ抗IL-6受容体抗体であるトシリズマブを用いた関節リウマチの治療においてもHAQ-DIの改善だけでなく、FACIT-Fスコアについても投与後の24週で6.5を超える改善が見られることが示されていることも併せ鑑みれば(摘記事項A-3、A-5)、引用発明、引用文献1に記載された事項及び引用文献Aに記載された事項から当業者にとって予測困難な格別顕著なものとであるとは認められない。
(3)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和6年7月26日提出の意見書において、
(i)引用文献1は、FACIT-Fスコアを評価することによって倦怠感の変動(減少)を決定することを開示も示唆もしておらず、引用文献1を知る当業者に、FACIT-Fスコアを評価することによって倦怠感の変動(減少)を決定することを想起させる動機付けになる記載は引用文献1には存在しないこと、
(ii)FACIT-Fスコアによる評価は、引用文献1が示す健康評価アンケート障害指数(HAQ-DI)での評価と密接に関連するものとはいえないこと、
(iii)引用文献Aの995頁には、臨床的及び機能的改善の持続性を判断するために24週間を超える治療を実施しなかったことが研究の限界である報告されていること、
から、本願発明1に係る医薬組成物を用いる被験体は、「処置の少なくとも24週間後に、少なくとも3の(当審合議体注:「少なくとも6.5の」の誤記と思料する。)、慢性疾患治療-倦怠感の機能的評価(FACIT-F)の変化が維持され、該変化は抗体とメトトレキサートとの処置後少なくとも52週まで維持される」という本願発明1の効果は、当業者に予想外の格別顕著な効果といえる旨主張する。
上記主張を検討するに、(i)、(iii)については、関節リウマチに罹患している被験体の健康に関連した生活の質の改善の程度を計る指標としてHAQ-DIだけではなくFACIT-Fを用い、少なくとも24週間後や少なくとも52週までの期間評価を行うことの容易想到性やその際に本願発明1のFACIT-Fのスコアが得られることの必然性やその予測可能性については「(2)検討 イ 進歩性について」において検討したとおりである。また、(ii)については、HAQ-DI、FACIT-Fは、身体機能、疲れという別の指標ではあるものの、両者は共に慢性関節リウマチの進行に伴い被験体の心身に現れる症状をはかる指標として知られているのであるから、両者は密接に関連するものといえる。
よって、審判請求人の主張をもって、本願発明1が進歩性を有するとすることは妥当であるとは認められない。
(4)小括
よって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、引用文献1に記載された発明及び引用文献Aに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-012194