特許拒絶査定不服審判
2023-009048
セペタプロストとRhoキナーゼ阻害剤との組み合わせ医薬
- 審判番号
- 2023-009048
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-560556外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年06月02日
- 審決日
- 2025年03月19日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-560556「セペタプロストとRhoキナーゼ阻害剤との組み合わせ医薬」拒絶査定不服審判事件〔令和元年6月27日国際公開、WO2019/124488〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)12月20日(優先権主張:2017年12月21日、2018年9月26日、いずれも(JP)日本国)を国際出願日とする特許出願であり、その主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和4年11月30日付け 拒絶理由通知書
令和5年 2月 2日 意見書及び補正書の提出
同年 2月27日付け 拒絶査定
同年 6月 2日 審判請求書の提出
令和6年10月 2日付け 拒絶理由通知書及び審尋
同年12月 3日 意見書及び回答書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~6に係る発明は、令和5年2月2日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「セペタプロストとリパスジルまたはその塩が組み合わされて投与されることを特徴とする緑内障若しくは高眼圧症の予防または治療剤。」
第3 当審において通知した拒絶の理由
令和6年10月2日付けで当審において通知した拒絶の理由のうち、本願発明(請求項1に係る発明に対応)についての理由の要旨は、次のとおりである。
本願発明は、優先日前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1、6に記載された発明に基いて、優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献一覧>
1.国際公開第2012/105674号
6.国際公開第2011/013651号
第4 引用文献及び参考文献の記載
1 引用文献1
引用文献1には、以下の事項が記載されている。なお、原文にない下線は強調のために合議体が付したものである。(以下同様。)
(摘記1a)「技術分野
[0001] 本発明は、緑内障若しくは高眼圧症の予防又は治療のための薬物療法に関する。」([0001])
(摘記1b)「発明が解決しようとする課題
[0011] 本発明は、眼圧下降作用が強力で且つその持続時間が延長された、緑内障若しくは高眼圧症の予防又は治療のための薬物療法を提供することに関する。
課題を解決するための手段
[0012] 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とプロスタグランジン類とを組み合わせて投与することにより、強力な眼圧下降作用が発揮され、且つその持続時間が延長されることを見出した。」([0011]~[0012])
(摘記1c)「発明の効果
[0014] 本発明によれば、眼圧下降作用が強力で、且つその持続時間が延長された緑内障若しくは高眼圧症の予防又は治療手段を提供することができる。」([0014])
(摘記1d)「[0017] (S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンの塩としては、例えば塩酸、・・・との塩が挙げられ、特に塩酸塩が好ましい。
[0018] (S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン又はその塩は、未溶媒和型のみならず水和物又は溶媒和物としても存在することができる。水和物が好ましいが、本発明においては、全ての結晶型及び水和若しくは溶媒和物を含むものである。」([0017]~[0018])
(摘記1e)「[0019] 一方、プロスタグランジン類としては眼圧下降作用を有して緑内障治療に有用なものであればよい。眼圧下降作用を有するプロスタグランジン類の具体例としては、・・・などが例示され、特に緑内障治療薬として販売されているラタノプロスト((+)-Isopropyl(Z)-7-[(1R,2R,3R,5S)-3,5-dihydroxy-2-[(3R)-3-hydroxy-5-phenylpentyl]cyclopentyl]-5-heptenoate)、・・・が好適に使用される。」([0019])
(摘記1f)「[0021] 本発明の緑内障若しくは高眼圧症の予防又は治療のための、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とプロスタグランジン類との組み合わせは、配合剤として、それぞれの有効量を適当な配合比において一の剤型に製剤化したものでも、またそれぞれの有効量を含有する薬剤を単独に製剤化したものを同時に又は間隔を空けて別々に使用できるようにしたキットであってもよい。」([0021])
(摘記1g)「[0029]実施例1
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンとプロスタグランジン類との組み合わせによる有用性を調べるため、実験動物に両薬物を単独又は併用投与した時の眼圧下降効果を比較検討した。
[0030]1.被験化合物溶液の調製
A.(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン溶液の調製
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン一塩酸塩・二水和物を生理食塩水に溶解した後、リン酸二水素ナトリウム、水酸化ナトリウムを加えて溶液を中和し(pH6.0)とし、所望の濃度の(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン溶液を調製した。
[0031] B.プロスタグランジン類の調製
市販のラタノプロスト(ファイザー社、0.005%点眼液)をそのまま使用した。
[0032]2.試験方法
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンとラタノプロストとを併用投与した時の眼圧下降効果を検討した。比較対照として、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンを単独投与又はラタノプロストを単独投与した時の眼圧下降効果についても検討した。
[0033] A.試験に使用した薬剤及び動物
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン溶液:0.4%溶液(点眼量:20μl)
ラタノプロスト:0.005%点眼液(点眼量:20μl)
実験動物:カニクイザル(性別:雄性、一群5匹)
[0034] B.投与方法及び測定方法
(1)両薬剤の併用投与
1)4%塩酸オキシブプロカイン点眼液(商品名:ベノキシール0.4%液)を実験動物の両眼に一滴点眼し局所麻酔をした(データは点眼側のみ)。
2)被験化合物溶液投与直前に眼圧を測定し初期眼圧とした。
3)(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン溶液を実験動物の片眼に点眼し、続いてラタノプロスト溶液を同一眼に点眼した。
4)両薬剤点眼の1時間、2時間,4時間及び6時間後に0.4%塩酸オキシブプロカイン点眼液を一滴ずつ両眼に点眼し局所麻酔後、眼圧を測定した。
(2)(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンの単独投与
(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン単独点眼を行い,上記併用投与試験と同じ測定時間で試験をした。
[0035](3)ラタノプロストの単独投与
上記(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン単独投与の被検溶液をラタノプロストに代え、他は上記単独投与試験と同じ方法で試験をした。
[0036]3.結果及び考察
試験の結果を図1に示す。眼圧は初期眼圧からの変化値を示す。なお、統計処理には、Microsoft Excel 2000 SP-3、Paired t-testを用いた。
図1から明らかなように、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンとラタノプロストの併用群は、薬剤単独投与群、すなわち、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン投与群又はラタノプロスト投与群よりも優れた眼圧下降作用を示し、また、その作用の持続性の向上を示した。
以上から、ラタノプロストと(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンを組み合わせることにより、より強い眼圧下降効果、並びに持続効果の向上が得られることがわかった。」([0029]~[0036])
(摘記1h)「[請求項1] 緑内障予防又は治療のための、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とプロスタグランジン類との組み合わせ。
[請求項2] プロスタグランジン類が、ラタノプロストである請求項1に記載の組み合わせ。
[請求項3] 配合剤である請求項1又は2に記載の組み合わせ。
・・・
[請求項5] 高眼圧症予防又は治療のための、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とプロスタグランジン類との組み合わせ。
[請求項6] プロスタグランジン類が、ラタノプロストである請求項5に記載の組み合わせ。
[請求項7] 配合剤である請求項5又は6に記載の組み合わせ。」(請求の範囲)
(摘記1i)「
[図:0001421794000001.jpg]
」(図1)
2 引用文献6
引用文献6には、以下の事項が記載されている。
(摘記6a)「技術分野
[0001] 本発明は、一般式(I)
[化1]
[図:0001421794000002.jpg]
(式中、すべての記号は後記と同じ意味を表す。)で示される化合物、その塩またはその溶媒和物、またはそのプロドラッグ(以下、本発明化合物と略記することがある。)に関する。」([0001])
(摘記6b)「背景技術
[0002] 緑内障とは、一時的または永久的な視野欠損、視力低下を起こす視機能障害を特徴とする眼疾患である。眼房水の循環障害により眼房水が蓄積し、持続的に眼圧が上昇するため、視神経が圧迫されることに起因する。緑内障の治療は、眼圧を下げることが有効であり、眼圧を下げるために、例えば薬物治療(点眼薬、内服薬、点滴治療)、レーザー治療、手術治療が施される。
[0003] これまで、生理活性物質であるプロスタグランジン(PG)類のうち、眼圧を低下させるものとして、PGF類やPGI類が知られている。これらの誘導体を用いて緑内障や高眼圧症の治療薬としての開発が進められてきており、実際に市販されている薬物(例えば、ラタノプロスト等)もある。しかしながら、既存の緑内障治療薬では単独での眼圧下降作用や薬効の持続性が不十分なこともあり、緑内障治療の現場においては、より強い眼圧下降作用を求めて、頻回または高濃度の投与あるいは作用機序の異なる薬物の併用療法が行われているため、副作用の発現が懸念されている。そのため、より強力かつ持続的な眼圧下降作用を有し、かつ安全性の高い薬物が求められている。」([0002]~[0003])
(摘記6c)「発明が解決しようとする課題
[0011] 強力かつ持続的な眼圧下降作用を有し、さらに眼に対する副作用の懸念のない化合物が望まれている。」([0011])
(摘記6d)「[0123]実施例16(25):2-プロパニル 4-{(3S,5aR,6R,7R,8aS)-6-[(1E,3R)-4-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-3-ヒドロキシ-1-ブテン-1-イル]-7-ヒドロキシオクタヒドロ-2H-シクロペンタ[b]オキセピン-3-イル}ブタノアート
[化35]
[図:0001421794000003.jpg]
」([0123])
(摘記6e)「[0366](2)インビボ(in vivo)試験
インビボ(in vivo)試験においては、当業者には容易に理解できることではあるが、いずれの被験化合物についても、活性本体であるカルボン酸は角膜透過性が悪いことから、エチルエステル体、イソプロピルエステル体等のエステル体に変換した化合物を点眼投与することによって、活性本体の薬理作用を評価した。なお、本願化合物群において、エステル体は、下記で薬理作用を確認する実験動物(ウサギ、イヌ等)において、点眼投与した後、房水中におけるカルボン酸の薬物濃度を測定することによって、当該エステル体が速やかに相当するカルボン酸に変換されることを確認した。
[0367](2-1)眼圧下降作用
予め十分に馴化を行った雄性イヌ(TOYO Beagle)に、基剤(クエン酸緩衝液pH6.5、0.5%ポリソルベート80、1%プロピレングリコール、0.01%塩化ベンザルコニウム含)で0.01%(w/v)または0.001%(w/v)に調製した各被験化合物(実施例16(35)の化合物および実施例16(3)の化合物)を、それぞれ片眼に30μL点眼した。対眼は無処置とした。陽性対照化合物として、公知化合物であるラタノプロストを用いた。
その後、眼科用表面麻酔剤(ベノキシール点眼剤0.4%、参天製薬株式会社)を点眼して局所麻酔し、各被験化合物の点眼前および点眼2、4、6、8、24時間後の眼圧を測定した。眼圧は空圧式平式眼圧計(モデル30クラシック、ライカート社)を用いて測定した。眼圧下降率(%)は、以下の式により算出した。
[数1]
[図:0001421794000004.jpg]
各ポイントでの測定値のうち、最大作用を示した結果を表8に示す。実施例16(35)の化合物、実施例16(3)および実施例16(25)の化合物を点眼投与したイヌの眼圧は、陽性対照化合物であるラタノプロストと比較して強い眼圧下降作用を示した。
[表8]
[図:0001421794000005.jpg]
[0368](2-2)眼刺激性および房水タンパク質濃度評価
雄性ウサギ(NewZealandWhite、2.0~3.0kg)に、基剤(クエン酸緩衝液pH6.5、0.5%ポリソルベート80、1%プロピレングリコール、0.01%塩化ベンザルコニウム含)で0.1%(w/v)に調製した実施例16(35)、実施例16(3)および実施例16(25)の化合物を、それぞれ片眼に30μL点眼した。その後、点眼0、1、2、4、6および8時間後の前房中の眼房水を採取し、房水中のタンパク質濃度を測定した。比較化合物として、上記した特許文献2記載の実施例12の化合物のメチルエステル体(すなわち、特許文献2記載の実施例10の化合物)(以下、比較化合物Bと略記することがある。)を用いた。
眼一般状態の観察は、点眼0、1、2、4、6および8時間後に行い、角膜、虹彩および結膜の肉眼的所見を公知のドレーズ(Draize)法の判定基準に従い観察した。得られた各項目の評価点の合計点(=A1×B1×5+A2×5+(A3+B3+C3)×2)をDraize評点として評価した。Draize評点の分類基準は、「生物学的安全性試験の基本的な考え方に関する参考資料について、平成15年3月19日付け事務連絡医療機器審査No.36、医薬品医療機器総合機構」を参照に作成した。分類基準は、Draize評点0以上5以下を無刺激物、5より大きく15以下を軽度刺激物、15より大きく30以下を刺激物、30より大きく60以下を中等度刺激物、60より大きく80以下を中~強度刺激物、80より大きく110以下を強度刺激物とした。
いずれの被験化合物についても、溶解限界までの用量(150~1000μg/mL)を投与し、各活性本体の作用を評価した。
結果を以下の図1および図2に示す。比較化合物Bは、そのIP受容体に対するアゴニスト活性に基づき、Draize評点の最大値から軽度刺激物と分類され、さらに、房水中タンパク質濃度も上昇させることから、眼に対する副作用を誘発することがわかった。それに対して、本発明化合物である実施例16(35)、実施例16(3)および実施例16(25)の化合物はいずれも、Draize評点では無刺激物であり、かつ房水中タンパク質濃度を上昇させる作用もないことがわかった。
以上より、本発明化合物は、EP1受容体およびIP受容体に対するアゴニスト活性が低く、かつFP受容体に対する選択的なアゴニスト活性を有することから、強い眼圧下降作用を有することだけでなく、EP1受容体アゴニスト活性に基づく眼掻痒作用、かつIP受容体アゴニスト活性に基づく充血等の眼刺激性および房水タンパク質上昇等の眼に対する副作用を回避できることが示唆された。
[0369]
(2-3)覚醒下サルにおける眼圧下降作用
覚醒下の雄性サル(カニクイザル)の左眼に、被験物質を上記と同様の基剤を用いて調製した溶液と、右眼には対照として基剤のみの溶液をそれぞれ30μL点眼投与した。投与後の眼圧を経時的に投与開始から24時間後まで測定した。眼圧測定の際には、カニクイザルをモンキーチェアーに保定後、眼科用表面麻酔剤(ベノキシール点眼液0.4%、参天製薬株式会社)を点眼投与して麻酔した。開瞼器(株式会社はんだや)を装着後、空圧圧平式眼圧計(モデル30クラシック、ライカート社)を用いて、両眼の眼圧を測定した(各群5~8例)。対照眼と被験物質を投与した眼との眼圧値の差を、以下の式を用いて眼圧下降率として算出し、測定中の最大眼圧下降率と24時間後の眼圧下降率を用いて、眼圧下降作用の持続性を評価した。被験物質としては、比較化合物B、実施例16(3)、実施例16(25)および実施例16(35)の化合物を用い、投与用量はいずれも10μg/mLとした。
[数2]
[図:0001421794000006.jpg]
結果を以下の表9に示す。比較化合物Bは最大眼圧下降率が不十分であることに加え、24時間後にはその下降率は10%未満に低下し、眼圧下降作用を十分に維持できないことがわかった。それに対して、本発明化合物はいずれも、最大眼圧下降率も高く、24時間後でも約15%以上の眼圧下降率を維持できる化合物であり、強力かつ持続的な眼圧下降作用を有することがわかった。
[表9]
[図:0001421794000007.jpg]
」([0366]~[0369])
3 参考文献1
令和6年12月3日に提出された回答書(以下、単に「回答書」という。)において提示され、本願優先日前に頒布された刊行物である参考文献1(PLoS One. 2016 Jul 6;11(7))には、以下の事項が記載されている。なお、参考文献1は外国語で記載された文献のため、図面を除き当審による日本語訳で示す。
(摘記7a)「要約
目的
眼圧(IOP)低下効果、眼薬物動態、眼表面毒性を測定し、固定用量タフルプロスト/チモロール配合剤(Taf/T-FDC)と固定用量ラタノプロスト/チモロール配合剤(Lat/T-FDC)の安全性と有効性を比較する。
方法
Taf/T-FDC及びLat/T-FDCの眼圧正常サルにおけるIOP低下効果を、試験Aでは点眼後4及び8時間、試験Bでは点眼後12、14、16、18時間、試験Cでは点眼後24、26、28、30時間で評価した。眼への薬物浸透は、Sprague DawleyラットにTaf/T-FDC又はLat/T-FDCを1回点眼した後、液体クロマトグラフィーとタンデム質量分析法を組み合わせて、チモロール、タフルプロスト酸(タフルプロストの活性代謝形態)、ラタノプロスト酸(ラタノプロストの活性代謝形態)の濃度を測定することで評価した。SV40形質転換ヒト角膜上皮細胞をTaf/T-FDC又はLat/T-FDCに1~30分間曝露した後の細胞毒性を、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウムアッセイを使用して分析した。各FDCの未希釈溶液と10倍希釈溶液を評価した。
結果
Taf/T-FDCの眼圧降下効果は、点眼後4~8時間ではLat/T-FDCとほぼ同等であった。Taf/T-FDCとLat/T-FDCの眼圧降下効果のピークは点眼後8時間で観察され、両者に差はなかった。両者の差は点眼後24~30時間で観察され、点眼後24~30時間ではTaf/T-FDCがLat/T-FDCよりも有意に高い眼圧降下効果を示した。Taf/T-FDCの眼圧降下効果は点眼後30時間まで持続したが、Lat/T-FDCは点眼後28時間でその効果はほぼ消失した。」(1/13頁~2/13頁「要約」)
(摘記7b)「
[図:0001421794000008.jpg]
図2.正常眼圧サルにおけるTaf/T-FDC及びLat/T-FDCの局所点眼による眼圧(IOP)への影響。生理食塩水(20μL)、Taf/T-FDC(20μL)、又はLat/T-FDC(20μL)を右眼に局所点眼し、左眼は未処置のままとした。IOPは空気圧式眼圧計を使用して測定した。IOPの変化は、0時間時点の点眼前IOP値との差として計算した。・・・」(6/13頁「図2」)
4 参考文献2
回答書において提示された参考文献2(Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 2018 Jan;59(1):145-153)には、以下の事項が記載されている。なお、参考文献2は外国語で記載された文献のため、図面を除き当審による日本語訳で示す。また、参考文献2は、本願優先日前に頒布された刊行物ではない。
(摘記8a)「目的 本研究の目的は、プロスタグランジンF受容体(FP)作動薬などの他のプロスタノイド受容体作動薬よりも優れた眼圧(IOP)制御と副作用の少ない新しい眼圧(IOP)低下剤として開発された化合物であるオミデネパグイソプロピル(OMDI)の薬理学的特性を調査することである。」(145頁「目的」)
(摘記8b)「
[図:0001421794000009.jpg]
図3.ウサギにおけるOMDI投与後のIOP変化
0.001%、0.01%、0.03%のOMDI、又は溶媒を、正常眼圧のウサギの片方の目に局所投与した。薬剤投与後のIOP変化をベースライン値と比較した。データは6つの目の平均6SEを表す。・・・」(149頁「図3」)
5 参考文献3
回答書において提示され、本願優先日前に頒布された刊行物である参考文献3(J. Ocul. Pharmacol. Ther. 2015 Nov;31(9):518-524)には、以下の事項が記載されている。なお、参考文献3は外国語で記載された文献のため、図面を除き当審による日本語訳で示す。
(摘記9a)「要約
目的:緑内障に対する0.0015%タフルプロストと0.5%チモロールの固定用量配合剤(TT-FDC)の有用性を評価するために、TT-FDCの眼圧降下作用及び房水中のタフルプロストとチモロールの濃度を適切な投与間隔の有無における0.0015%タフルプロストと0.5%チモロールの同時投与の場合と比較する。」
(摘記9b)「
[図:0001421794000010.jpg]
図1. 正常眼圧サルにおけるチモロール、タフルプロスト、0.0015%タフルプロストと0.5%チモロールの固定用量配合剤(TT-FDC)の局所投与による眼圧低下効果(IOP)の比較。・・・IOPの変化は、点眼前0時間時点でのIOP値との差により算出。・・・」(520頁「図1」)
6 参考文献4
本願優先日前の技術常識を示す文献である参考文献4(特表2017-534658号公報)には、以下の事項が記載されている。
(摘記10a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化窒素放出性イソマンニド誘導体とプロスタグランジンF2α類似体とを含む組成物に関する。より具体的には、本発明は、緑内障に又は他の眼疾患に関連する眼内圧を低下させるための組成物を開示する。」(【0001】)
(摘記10b)「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
予期しないことに、一酸化窒素放出性イソマンニド誘導体とプロスタグランジンF2α類似体とを組み合わせての投与は、同じ用量で2つの化合物の両方を別々に投与するのに対して、より強力な眼内圧の低下及びより長時間の眼内圧低下を発揮することが見出された。」(【0012】)
(摘記10c)「【実施例】
【0061】
実施例1
正常眼圧のNew Zealand White(NZW)ウサギにおける眼内圧(IOP)低下活性
化合物(12)(0.1%)とトラボプロスト(0.004%)との組み合わせの眼内圧(IOP)低下活性を正常眼圧のウサギで評価した。
体重1.8~2.0Kgの成体NZWウサギ(オス)を実験に使用した。
局所適用前(基準)及びその後の様々な時点(30、60、120、180、240及び300分)において、ニューマトノメーター30クラシック(pneumatonometer 30 CLASSIC)(商標)を用いてIOPを測定した。化合物(12)(0.1%)又はビヒクル(上記と同じ)投与の5分前に、トラボプロスト(0.004%)又はビヒクル(PBS(pH6.0)中に5%クレモフォールEL;0.3% DMSO;0.2mg/ml BAC)を結膜ポケットに点眼剤として局所投与した。眼を様々な処置群に無作為に割り当てた。眼圧測定の各セットの直前に、0.4%オキシブプロカイン塩酸塩(Novesine、Sandoz)1滴を各眼に滴下した。
当該組み合わせの、化合物(12)の、及びトラボプロストの、眼圧降下作用を、ビヒクルに対する、及び基準でのIOPに対する、IOP変化(局所投与後30、60、120及び300分)として表す表に、結果を報告する(平均±標準誤差)。
化合物(12)(0.1%)又はトラボプロスト(0.004%)のいずれかの単独投与と比較して、化合物(12)(0.1%)とトラボプロスト(0.004%)との組み合わせは、IOP低下活性の増加をもたらす。更に、組み合わせの効果は、化合物(12)(0.1%)単独又はトラボプロスト(0.004%)単独のいずれよりも著しく長く持続する。
上述の結果より、式(I)で示される一酸化窒素放出性イソマンニド誘導体とプロスタグランジンF2α類似体とを組み合わせることにより、眼内圧低下作用の増強と眼内圧低下作用時間の改善が得られ得ることが判明した。眼内圧低下作用は、特により長時間の場合に、単なる相加よりも強力である。
【0062】
【表1】
[図:0001421794000011.jpg]
」(【0061】~【0062】)
第5 当審の判断
1 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、「緑内障若しくは高眼圧症の予防又は治療のための(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とプロスタグランジン類との組み合わせ。」が記載され(摘記1a、1hの請求項1、5)、具体的には、「(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン一塩酸塩・二水和物」(摘記1gの[0030])と「ラタノプロスト」(摘記1gの[0031])の組み合わせ(摘記1gの[0034]、[0036])が記載されている。
そうすると、引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる(以下「引用発明」という。)。
<引用発明>
「緑内障若しくは高眼圧症の予防又は治療のための(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン一塩酸塩・二水和物とラタノプロストとの組み合わせ。」
2 本願発明と引用発明の対比
(1)引用発明の「緑内障若しくは高眼圧症の予防又は治療のための」「組み合わせ。」は、本願発明の「組み合わされて投与されることを特徴とする緑内障若しくは高眼圧症の予防または治療剤。」に相当する。
(2)本願発明の「リパスジルまたはその塩」について、本願明細書の【0035】には、リパスジルは、「(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンともいう。」と記載され、同【0040】には、リパスジルの塩および水和物として、リパスジル一塩酸塩二水和物が最も好ましいと記載されているから、引用発明の「(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン一塩酸塩・二水和物」は、本願発明の「リパスジルまたはその塩」に相当する。
そして、本願発明の「セペタプロストとリパスジルまたはその塩」の組み合わせと引用発明の「(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン一塩酸塩・二水和物とラタノプロスト」との組み合わせは、「リパスジルまたはその塩が他の薬物と組み合わされて」いる限りにおいて一致する。
(3)以上によれば、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「リパスジルまたはその塩が他の薬物と組み合わされて投与されることを特徴とする緑内障若しくは高眼圧症の予防または治療剤。」
<相違点>
「リパスジルまたはその塩」と組み合わされて投与される他の薬物が、本願発明は「セペタプロスト」であるのに対し、引用発明は「ラタノプロスト」である点。
3 相違点の判断
(1)引用文献6には、プロスタグランジン類を用いた緑内障や高眼圧症の治療薬としての開発が進められており、実際に市販されているラタノプロスト等の薬物もあるが、単独での眼圧下降作用や薬効の持続性が不十分なため、より強い眼圧下降作用を求めて薬物の併用療法が行われ、より強力かつ持続的な眼圧下降作用を有し、安全性の高い薬物が求められていたことが記載されている(摘記6b)。
そして、強力かつ持続的な眼圧下降作用を有し、副作用の懸念のない化合物の具体例として、実施例16(25)の2-プロパニル 4-{(3S,5aR,6R,7R,8aS)-6-[(1E,3R)-4-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-3-ヒドロキシ-1-ブテン-1-イル]-7-ヒドロキシオクタヒドロ-2H-シクロペンタ[b]オキセピン-3-イル}ブタノアート
[図:0001421794000012.jpg]
が記載されている(摘記6c、6d)。
また、引用文献6に記載されたインビボ試験では、上記実施例16(25)の化合物を点眼投与したイヌの眼圧は、陽性対照化合物であるラタノプロストと比較して強い眼圧下降作用を示したこと(摘記6eの[0367])、実施例16(25)の化合物は、Draize評点では無刺激物であり、かつ房水中タンパク質濃度を上昇させる作用もないことがわかったため、強い眼圧下降作用を有するだけでなく、眼に対する副作用を回避できることが記載されている(摘記6eの[0368])。さらに、実施例16(25)の化合物は、覚醒下サルにおける最大眼圧下降率も高く、24時間後でも約15%以上の眼圧下降率を維持できる化合物であり、強力かつ持続的な眼圧下降作用を有することがわかったことが記載されている(摘記6eの[0369])。
ここで、本願明細書の【0023】には、「セペタプロスト」は「2-プロパニル 4-{(3S,5aR,6R,7R,8aS)-6-[(1E,3R)-4-(2,5-ジフルオロフェノキシ)-3-ヒドロキシ-1-ブテン-1-イル]-7-ヒドロキシオクタヒドロ-2H-シクロペンタ[b]オキセピン-3-イル}ブタノアートともいう。」と記載されているから、上記実施例16(25)の化合物はセペタプロストである。
そうすると、引用文献6には、セペタプロストが、ラタノプロストと比較して強い眼圧下降作用を示し、副作用を回避でき、24時間後でも眼圧下降率を維持できることが記載されているといえる。
(2)一方、引用文献1には、眼圧下降作用が強力で持続時間が延長された、緑内障若しくは高眼圧症の予防又は治療のための薬物療法を提供することを課題として、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルホニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物(リパスジル)とプロスタグランジン類とを組み合わせて投与することにより、強力な眼圧下降作用が発揮され、且つその持続時間が延長されることを見出したことが記載され(摘記1b)、プロスタグランジン類としては、眼圧下降作用を有して緑内障治療に有用なものであればよく、緑内障治療薬として販売されているラタノプロストが好適に使用されると記載されている(摘記1e)。
そうすると、引用発明において、より強力な眼圧下降作用と持続時間の延長を目的として、ラタノプロストよりも、眼圧下降作用が強力で持続的なプロスタグランジン類であるセペタプロストを用いることは、当業者が容易に行うことである。
4 本願発明の効果について
(1)本願明細書には、本願発明の効果について以下のとおり記載されている。
「【発明の効果】
【0019】
セペタプロストとRhoキナーゼ阻害剤とを組み合わせて眼に投与することで、眼圧下降作用が増強する。したがって、本発明は緑内障若しくは高眼圧症の予防または治療剤として有用である。さらに、本発明によれば、医薬品として十分な安全性が確保される。
・・・
【0089】
[薬理試験]
[実施例1]
セペタプロストとRhoキナーゼ阻害剤との組み合わせの有用性を調べるため、実験動物(正常眼圧サル)にセペタプロストとRhoキナーゼ阻害剤であるリパスジルを併用投与したときの眼圧下降効果を検討した。
【0090】
(被験化合物溶液の調製)
(1)セペタプロスト溶液の調製
セペタプロストを、可溶化剤を含む精製水に溶解した後、汎用される方法を用いて、所望の濃度のセペタプロスト溶液を調製した。
【0091】
(2)リパスジル溶液の調製
市販のリパスジル点眼液(興和株式会社、グラナテック(登録商標)点眼液0.4%)をそのまま使用した。
【0092】
(試験方法)
セペタプロストとリパスジルとを併用投与したときの眼圧下降効果を検討した。比較対象として、セペタプロストを単独投与またはリパスジルを単独投与したときの眼圧下降効果についても検討した。コントロールには、セペタプロスト溶液の基剤および生理食塩水を投与した。
【0093】
(試験に使用した薬剤および動物)
セペタプロスト溶液:0.0003%(w/v)セペタプロスト溶液(点眼量:20μL/eye)
リパスジル溶液:0.4%(w/v)リパスジル溶液(商品名:グラナテック(登録商標)点眼液0.4%、点眼量:20μL/eye)
実験動物:カニクイザル(性別:雄性、一群8匹)
【0094】
(投与方法および測定方法)
〔1〕セペタプロストとリパスジルとの併用投与
(1)0.4%塩酸オキシブプロカイン点眼液(商品名:ベノキシール(登録商標)点眼液0.4%)を実験動物の片眼に一滴点眼し局所麻酔をした。
【0095】
(2)被験化合物溶液投与直前に眼圧を測定し、投与前の眼圧値(0時間)とした。
【0096】
(3)セペタプロスト溶液を実験動物の片眼に点眼した(対側眼は無処置)。少し時間をおいて(約5分後)、リパスジル溶液を同一眼に点眼した。
【0097】
(4)セペタプロスト溶液点眼2、4、6、8および24時間後に0.4%塩酸オキシブプロカイン点眼液を一滴ずつ眼圧測定眼に点眼し局所麻酔後、眼圧を測定した。また、眼圧は各3回測定し、その平均値を算出した。眼圧変化値(mmHg)は各測定時点について投与前の眼圧値からの差を算出した。
【0098】
〔2〕セペタプロストの単独投与
リパスジル溶液を生理食塩水に代え、他は上記併用投与試験と同じ方法で試験をした。
【0099】
〔3〕リパスジルの単独投与
セペタプロスト溶液をセペタプロスト溶液の基剤に代え、他は上記併用投与試験と同じ方法で試験をした。
【0100】
〔4〕コントロール
セペタプロスト溶液をセペタプロスト溶液の基剤に、リパスジル溶液を生理食塩水に代え、他は上記併用投与試験と同じ方法で試験をした。
【0101】
(結果)
各投与群の経時的な眼圧下降幅の変化を図1及び表1に示す。眼圧値の変化量は、各個体の各測定時点について投与前の値(0時間)からの差を各群ともに8匹の平均値±SEMで示す。コントロール群とセペタプロスト群、リパスジル群、あるいはセペタプロスト/リパスジル併用群との比較、及びセペタプロスト/リパスジル併用群とセペタプロスト群あるいはリパスジル群との比較は、Bartlett検定を実施後、分散が均一である場合はDunnett検定、不均一である場合はSteel検定を用いた。コントロール群に対する有意水準は、Dunnett検定において、##:p<0.01で示し、Steel検定において、*:p<0.05、**:p<0.01で示した。セペタプロスト/リパスジル併用群に対する有意水準は、Dunnett検定において、†:p<0.05、††:p<0.01で示し、Steel検定において、$$:p<0.01で示した。
【0102】
【表1】
[図:0001421794000013.jpg]
【0103】
図1及び表1から明らかなように、セペタプロストとリパスジルの併用投与群は、薬剤単独投与群、すなわち、セペタプロスト投与群およびリパスジル投与群よりも優れた眼圧下降作用およびその作用の持続効果を示した。特に、投与後2、4及び8時間において、セペタプロストとリパスジルの併用投与群の眼圧値の変化量は、セペタプロスト投与群およびリパスジル投与群の眼圧値の変化量の和よりも大きく、眼圧下降作用の相乗的な効果が確認された。
【0104】
以上より、セペタプロストとRhoキナーゼ阻害剤を組み合わせることにより、より強い眼圧下降作用およびその作用の持続効果が得られることがわかった。」
「【図1】
[図:0001421794000014.jpg]
」
(2)上記(1)によれば、本願明細書には、本願発明は、セペタプロストとRhoキナーゼ阻害剤(リパスジル)とを組み合わせることで、眼圧下降作用が増強し、医薬品として十分な安全性が確保されること、作用の持続効果が得られることが記載されている(【0019】、【0104】)。
しかしながら、引用文献1には、リパスジルとプロスタグランジン類であるラタノプロストを組み合わせることにより、強力な眼圧下降作用が発揮され、且つその持続時間が延長されると記載され(摘記1b、1c、1gの[0036])、引用文献6には、セペタプロストは、ラタノプロストよりも強い眼圧下降作用を示し、副作用を回避でき、24時間後も眼圧下降作用を維持できることが記載されているから(摘記6e)、本願発明の上記効果は、引用文献1、6の記載から予測し得る効果である。
(3)そこで、さらに進んで、本願明細書に記載された具体的なデータについて検討する。
本願明細書の【表1】には、セペタプロストとリパスジルの併用投与群と、各薬剤単独投与群の眼圧下降値が記載されている。【表1】に記載された数値は、コントロールを考慮していない数値であるが、例えば、引用文献6においても、眼圧下降値を比較するにあたり、コントロールである対照眼の眼圧値との差を用いているように(摘記6e[0369][数2])、コントロール値を測定しているのであれば、眼圧下降値の比較は、対コントロール値で評価すべきである。
そして、本願明細書の【表1】に単独投与群の和、及び、併用投与群と単独投与群の差を追記するとともに、それぞれの対コントロール値を表にまとめると、以下のとおりとなる。
<表A> 本願明細書の【表1】の数値((1)~(4))に、単独投与群の和((5))と併用投与群と単独投与群の和の差((6))を追記。(注:当審作成)
[図:0001421794000015.jpg]
<表B> 表Aの数値の対コントロール値。(注:当審作成)
[図:0001421794000016.jpg]
本願明細書の【0103】には、併用投与群は、単独投与群よりも優れた眼圧下降作用およびその作用の持続効果を示したこと、投与後2、4及び8時間において、併用投与群は、単独投与群の和よりも大きく、眼圧下降作用の相乗的な効果が確認されたことが記載されている。
しかしながら、併用投与群の値(表Bの(9))が、単独投与群の値(表Bの(7)又は(8))より大きいという効果は、上記(2)のとおり、引用文献1、6の記載から予測し得る効果である。
また、併用投与群の値(表Bの(9))が、単独投与群の和の値(表Bの(10))より大きい時間があるとしても、その差(表Bの(11))は、せいぜい-0.2~-1.0にすぎない。一方、コントロールであっても-0.2まで眼圧は低下するから(表Aの(1))、-0.2~-1.0程度の差は、治療薬を投与しないコントロールであっても生じ得る程度の差にすぎないと認められる。そのうえ、24時間後には、併用投与群の値(表Bの(9))は、単独投与群の和(表Bの(10))に劣るものとなっており、この程度の差を以て、併用投与により、予測し得ないほどの顕著な効果を奏するということはできない。
さらに、対コントロール値ではなく、本願明細書の【表1】に記載された数値で検討しても、併用投与群と単独投与群の和の差(表Aの(6))は、+0.3~-0.8であり、この程度の差をもって、併用投与により、予測し得ないほどの顕著な効果を奏するということはできないことは同様である。
(4)以上によれば、上記(2)のとおり、引用文献1には、リパスジルとプロスタグランジン類であるラタノプロストを組み合わせることにより、強力な眼圧下降作用が発揮され、且つその持続時間が延長されると記載され、引用文献6には、セペタプロストは、ラタノプロストよりも強い眼圧下降作用を示し、副作用を回避でき、24時間後も眼圧下降作用を維持できることが記載されており、一方、上記(3)のとおり、本願発明は、併用投与群が単独投与群の和よりも大きい時間があっても、その差は、治療薬を投与しなくとも(コントロール)生じ得る程度の差にすぎず、併用投与により予測し得ないほどの顕著な効果を奏するということはできない。
したがって、本願発明が、引用文献1、6の記載から予測し得ないほど優れた効果を奏するとはいえない。
5 小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献1、6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 請求人の主張について
1 請求人の主張
請求人は、令和6年12月3日提出の意見書(以下、単に「意見書」という。)及び回答書において、概略以下の点を挙げて、本願発明は、引用文献1、6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと主張している。
(主張1)「本願発明によれば、セペタプロストとリパスジルを組み合わせて投与することで、眼圧下降作用が相乗的に増強されるという顕著な効果を奏する。このことは、本願明細書の実施例1で実証されている。特に、投与後2、4及び8時間において、併用投与群の眼圧値の変化量は、単独投与群の眼圧値の変化量の和よりも大きく、眼圧下降作用の相乗的な効果が確認された。」(意見書1頁下から6行~2頁2行)
(主張2)「眼圧下降作用を評価する場合に対コントロール値ではなく得られた測定値(ベースラインからの変化)で評価することは、参考文献1~3に記載されるとおり通常の方法である。一つの測定点のみ(ピンポイント)での比較であればともかく、経時的な変化を追う際に、各時点のTime matchコントロールとの比較をするのは一般的ではない。その理由は、以下の(i)、(ii)のとおりである。
(i)眼圧は日内変動もあり、コントロール群も変動するので、眼圧変動パターンを捉えるうえでコントロール群の動きは重要である(そのためにコントロールを測定している)。コントロール群の動きが見えなくなる「差分を取る対コントロール値」の比較は、経時的な変化を見る場合は一般的では無い。
(ii)サルを覚醒下で眼圧測定しているが、サルは非常に繊細な動物であり、通常の日内変動に加え、ストレスによる影響もあり、コントロール群の動きを把握していないと、試験の状態が測れない。サルの状態が悪く(ストレスを受けた場合など)、例えば4時間値だけコントロール群が異常に眼圧下降/上昇など急変動していた場合、コントロール群の動きが見られないとそれを見逃す恐れがある。実施試験が適切に実施されたことを示す観点からもコントロール群との差分で比較する手法は採用していない。
また、仮に、対コントロール値を用いて比較したとしても、点眼後24時間において単独投与の和を上回らないのみであって、一つの測定時間でも併用投与群の眼圧下降値が各単独投与群の眼圧下降値の和よりも大きければ相乗効果があると評価でき、全ての測定時間で各単独投与群の眼圧下降値の和を上回る必要はない。」(意見書2頁3行~13行、回答書2頁8行~3頁8行)
(主張3)「併用投与群の眼圧下降値が各単独投与群の眼圧下降値の和よりも大きい場合、たとえその差が小さくても相乗効果があると評価するのが技術常識である。
そもそも、薬物の投与量を増やしても、それと同じ割合で眼圧が下降するものではなく、例えば、参考文献2に示されているように、薬物の投与量を10倍に増やしても、眼圧が10倍下降するわけではない。また、参考文献3には、眼圧下降幅が単独投与の和に満たないことが示されている。
このように、作用機序の異なる緑内障治療薬を併用して眼圧下降作用が増強されることがあるとしても、その眼圧下降値は単独投与群の和ほどにはならないことが技術常識であり、単独投与群の和よりも大きければ、たとえその差が小さくても相乗効果があると評価される。
また、一つの測定時間でも併用投与群の眼圧下降値が各単独投与群の眼圧下降値の和よりも大きければ相乗効果があると評価でき、全ての測定時間で各単独投与群の眼圧下降値の和を上回る必要はない。」(意見書2頁下から13行~3頁9行、回答書3頁下から4行~4頁最下行)
2 請求人の主張に対する判断
上記主張1~3について検討する。
(1)主張1について
投与後2、4及び8時間において、併用投与群の値が、単独投与群の和の値より大きいとしても、その差は、治療薬を投与しないコントロールであっても生じ得る程度の差にすぎず、24時間後には、併用投与群の値は、単独投与群の和に劣るものとなっているから、併用投与により、予測し得ないほどの顕著な効果を奏するとはいえないことは、上記第5の4(3)のとおりである。
したがって、上記主張1は、採用することができない。
(2)主張2について
参考文献1~3には、眼圧下降値について、対コントロール値ではなく0時間時点での点眼前の眼圧から下降した値が記載されているが、単独投与群の和と併用投与群の眼圧下降作用を比較した例ではなく、0時間時点での点眼前の眼圧から下降した値であって、得られた測定値のままで評価した例でもないから(摘記7b、8b、9b)、参考文献1~3を考慮しても、単独投与群の眼圧下降作用の和と併用投与群の眼圧下降作用を比較するにあたり、対コントロール値ではなく、得られた測定値のままで比較することが通常であると理解することはできない。
また、請求人による(i)、(ii)の説明によれば、コントロールを測定する必要があることは理解できるが、単独投与群の眼圧下降作用の和と併用投与群の眼圧下降作用を比較するにあたり、対コントロール値ではなく得られた測定値のまま比較することが通常であると理解することはできない。
加えて、参考文献4には、単独投与群と併用投与群の眼圧低下作用の経時的な変化を追う際に、ビヒクルに対する眼圧変化(IOP)、すなわち、対コントロール値を確認して評価していることが記載されているから(摘記10c)、経時的な変化を追う際に、対コントロール値で評価することが一般的ではないなどということはない。
そして、対コントロール値ではなく、本願明細書の【表1】に記載された数値で検討したとしても、併用投与により顕著な効果がもたらされると評価できないことは、上記第5の4(3)のとおりである。
したがって、上記主張2は、採用することができない。
(3)主張3について
請求人は、回答書及び意見書において、併用投与群の眼圧下降値が各単独投与群の眼圧下降値の和よりも大きい場合、たとえその差が小さくても相乗効果があると評価するのが技術常識であると主張するが、技術常識であると理解できる客観的な根拠は何ら示されていない。
さらに、請求人は、併用投与により眼圧下降作用が増強されることがあるとしても、その眼圧下降値は単独投与群の和ほどにはならないことが技術常識であるとして、参考文献3を指摘するが、参考文献4には、併用投与により、単独投与の和よりも眼圧が低下する例が記載されているから(摘記10c)、併用投与により単独投与の和にはならないことが技術常識ということはなく、そして、上記第5の4(3)のとおり、本願発明は、引用文献1、6の記載から予測し得ないほど優れた効果を奏するとはいえない。
したがって、上記主張3は、採用することができない。
3 小括
よって、請求人の主張は、いずれも採用できない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-009048