特許拒絶査定不服審判
2023-002282
クロルヘキシジンを含有する医薬組成物
- 審判番号
- 2023-002282
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-534575外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年02月10日
- 審決日
- 2024年12月19日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-534575「クロルヘキシジンを含有する医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月 7日国際公開、WO2019/026992〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)8月2日(優先権主張 2017年8月3日)を国際出願日とする出願であり、その主な手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 4年 6月30日付け 拒絶理由通知
同年 7月29日 手続補正書・意見書の提出
同年11月14日付け 拒絶査定
令和 5年 2月10日 審判請求書・手続補正書の提出
同年 4月14日付け 前置報告
令和 6年 7月31日付け 拒絶理由通知(当審)
同年10月 1日 手続補正書・意見書の提出
第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1~11に係る発明は、令和6年10月1日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
クロルヘキシジン又はその塩を含有し、pHが7以下である医薬組成物がエチレンオキサイドガス滅菌容器に入れられた、医薬用製品(ただし、医薬組成物はエデト酸、ジクアホソルまたはそれらの塩のいずれも含有しない)。」
第3 当審拒絶理由
当審が、令和6年7月31日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうちの理由1は、以下の理由を含むものである。
本願の請求項1~2、6~11に係る発明は、引用文献8に記載された発明及び引用文献3~5、8~10の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、令和6年10月1日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲において、請求項1は補正されなかった。
<引用文献一覧>
3.特表2004-516099号公報
4.特表2009-533333号公報
5.特開2006-187602号公報
8.改訂 医薬品添加物ハンドブック,2007,p.283-289
9.医療現場における滅菌保証のガイドライン2015,p.82-98
10.第十六改正日本薬局方第二追補,2014,p. 175-177
第4 引用文献に記載された事項及び引用発明
1 引用文献8に記載された事項及び引用発明
(1)引用文献8には、以下の事項が記載されている。
(摘記8a)
「10.特性
抗菌活性:クロルヘキシジン及びその塩はグラム陽性及びグラム陰性の微生物に対して抗菌活性を示す.(1)保存剤や防腐剤として一般に使用される低濃度で,すばやい殺菌作用を示す.しかし,Proteus及びPseudomonasはクロルヘキシジンに敏感度が少なく,またクロルヘキシジンは抗酸性の杆状菌(bacilli,バチルス),細菌胞子及び若干の真菌類に対しても不活性である.クロルヘキシジンの塩類はいくらかの脂質性のウイルス,例えばアデノウイルス,ヘルペスウイルス及びインフルエンザウイルスに対して有効である.至適の抗菌活性はpH5-7である.pH8以上ではクロルヘキシジン塩基は水溶液から沈殿する.」(第284頁左欄下から第7行~右欄第8行)
(摘記8b)
「11.安定性及び貯法
クロルヘキシジンとその塩は,粉末系では普通の貯蔵温度では安定である.しかし,塩酸クロルヘキシジンは吸湿性で,温度37℃まで,相対温度80%までは本質的な水分量を吸収する.クロルヘキシジンとその塩は150℃まで加熱すると分解し,4-クロロアニリンをわずかに生じる.しかし,塩酸クロルヘキシジンは酢酸クロルヘキシジンよりも,より熱に対し安定で115℃で1時間加熱しても4-クロロアニリンの感知し得る生成はない.
クロルヘキシジン塩の水溶液は加水分解して4-クロロアニリンを形成する.グルコン酸クロルヘキシジンの0.02%w/v溶液を120℃で30分間加熱滅菌するとpH9では,もとのグルコン酸クロルヘキシジンの1.56%w/wの4-クロロアニリンが,pH6.3及びpH4.7では,それぞれ0.27%w/w及び0.13%w/wの4-クロロアニリンが生じた.(6)酢酸クロルヘキシジンの0.05%w/v緩衝溶液中での最も安定なpHは5.6である.
・・・
クロルヘキシジン溶液及び水溶性基剤の製品は遮光すればガラス及び高密度ポリエチレン又はポリプロピレンの容器に包装してもよい.
・・・
クロルヘキシジン塩及びその溶液は密閉容器中で,遮光して冷所,乾燥した場所に貯えるべきである.」(第285頁右欄第21行~第286頁左欄第3行、第286頁左欄第16~18行、第28~30行)
(摘記8c)
「14.安全性
クロルヘキシジン及びその塩は主として局所の消毒剤として広く用いられる.添加剤としてクロルヘキシジンの塩類は主として,眼科製剤中の抗菌保存剤として用いられる.
・・・
眼科製品ではクロルヘキシジン溶液の濃度が0.1%w/v以上で結膜への刺激が起こる.・・・.
粘膜と接する場合のクロルヘキシジン水溶液の濃度は通常0.05%w/vが望ましい.この濃度では軟組織への刺激作用がなく,また治療が遅れることもない.」(第286頁右欄下から第6行~第2行、第287頁左欄第16~17行及び第20~23行)
(2)(摘記8a)~(摘記8c)から、引用文献8には、「クロルヘキシジン及びその塩」の「至適の抗菌活性はpH5-7」であること(摘記8a)、「クロルヘキシジン溶液及び水溶性基剤の製品は・・・容器に包装してもよい」こと(摘記8b)、「クロルヘキシジン塩及びその溶液は密閉容器中で,・・・貯えるべきである」こと(摘記8b)、「クロルヘキシジンの塩類は主として,眼科製剤中の抗菌保存剤として用いられる」こと(摘記8c)が記載されており、「クロルヘキシジン塩の水溶液」(摘記8b)及び「クロルヘキシジン水溶液」(摘記8c)という記載から、「クロルヘキシジン及びその塩」は、「pH5-7」の「水溶液」の形態で用いられるものである。
そして、「容器に包装」及び「密閉容器中」(摘記8b)、並びに「眼科製剤中の抗菌保存剤」(摘記8c)という記載から、上記「水溶液」は「容器」に入れられた「眼科製剤」として用いられるものである。
そうすると、引用文献8には、次の発明が記載されていると認められる。
「クロルヘキシジン又はその塩を含有するpH5~7の水溶液が、容器に入れられた、眼科製剤。」(以下「引用発明」という。)
2 引用文献9の記載事項
引用文献9には、以下の事項が記載されている。
(摘記9a)
「(1)酸化エチレン(EO)の特性
酸化エチレンガス滅菌の滅菌剤は,酸化エチレンである.以下,化学物質としての酸化エチレンを「EO」,ガス状の酸化エチレンを「EOG」,また酸化エチレンガス滅菌(滅菌法)や滅菌器を「EOG滅菌またはEOG滅菌器(あるいは単に滅菌器)」と表記する.
EOは高い微生物殺滅能から滅菌剤として有用であり,低温でもその効果が発揮されること,材料への負荷が少ないこと,浸透性に優れていること,といった特性からその適用範囲が広く,これまで多くの医療機器の滅菌に用いられている.」(第82頁第8行~第14行)
(摘記9b)
「(6)EOおよびその副生成物の残留
EOG滅菌において毒性を示すEOやその副生成物(主にエチレングリコールおよびエチレンクロルヒドリン)の滅菌物への残留は限度値以下でなければならない.
EOやその副生成物の残留性は滅菌物ならびに一次包装材の化学的,物理的な性質に依存するので,残留性に関する滅菌物の物性については医療機器製造業者ならびに包装材製造業者からの情報を得て適切な条件でエアレーションをおこなう.
EOの副生成物として生成されるエチレングリコールは,EOが酸,アルカリ条件下において水と反応し,またエチレンクロルヒドリンは遊離塩素とEOが結合して生成する.これらのことから滅菌器の配管中やチャンバーに何らかのトラブルで水がたまっている場合にエチレングリコールが多量に生成する可能性があり注意を要する.また,放射線滅菌されたポリ塩化ビニル製品は塩素の遊離があり,EOG滅菌で再滅菌するとエチレンクロルヒドリンが生成されるため,EOG滅菌で再滅菌すべきではない.
参考にこれらの残留限度について1978年に米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)が示した医療機器への残留限度についての勧告値を表6-2に示す.
また,EOG滅菌済みの医療機器における残留限度と測定方法については,JIS T 0993-7(ISO10993-7)が適用されてきており,参考とすることができる.JIS T 0993-7に規定される許容限度値を表6-3に,残留測定における抽出条件の例を表6-4に示す(詳細はJIS T 0993-7:2012参照).
残留限度値は,医療機器に残留するEOまたはその副生成物を抽出し,抽出されたそれらの質量で評価される.表6-2に示すFDAが示した限度値の単位(ppm)は,医療機器1g当たりに残留するEO,エチレンクロルヒドリンまたはエチレングリコールの質量(μg)を表したものである.また,JIS T0993-7に規定される許容限度値は,医療機器のカテゴリー(接触時間)に応じた表6-4に示すような抽出条件で医療機器から抽出されるEOやエチレンクロルヒドリンの質量を評価するものである.
[図:0001419639000001.jpg]
」(第84頁第1行~最終行、表6-2)
3 引用文献10の記載事項
引用文献10には、以下の事項が記載されている。
(摘記10a)
「2.2.1 酸化エチレン(EO)ガス滅菌法
EOガス滅菌は,微生物が持つタンパク質,核酸を変性させることにより,微生物を殺滅する方法である.EOガスは,爆発性があるため,通例,二酸化炭素などで10~30%に希釈して用いる.EOガスは,反応性の強いアルキル化剤であるので,EOガスと反応する製品又はEOガスを吸収しやすい製品の滅菌には適用できない.
滅菌工程はプレコンディショニング,滅菌サイクル及びエアレーションからなる.EOガスは,変異原性などの毒性があるので,被滅菌物については,エアレーションにより残留EOガスや他の二次生成有毒ガス(エチレンクロロヒドリンなど)の濃度を安全レベル以下に下げる必要がある.ガスは,法規制に適合する処理を施して排気する.EOガス滅菌における管理項目,ユーティリティ及び制御装置を,参考として表4に示した.
本法の重要パラメーターとしては,温度,湿度,ガス濃度(圧力)及び時間がある.したがって,通常の滅菌工程管理においては,温度,湿度,ガス濃度(圧力),及び時間を常時測定,監視すべきであり,そのための測定装置は滅菌設備の仕様として含まれていること.
[図:0001419639000002.jpg]
」(第177頁右欄第2行~第20行、表4)
4 引用文献3の記載事項
引用文献3には、以下の事項が記載されている。
(摘記3a)
「【請求項1】
酸化しやすい医薬組成物の安定性の改善方法であって、
・空のPE、PPおよび/またはPET容器を、エチレンオキシド(ETO)に、室温で、滅菌するのに十分な濃度および時間曝すこと、
・ETO量を1ppm未満にするのに十分な期間、該容器から無菌条件下で該ETOを除去すること、
・無菌条件下で、医薬組成物を該滅菌容器中に移すこと、および
・該医薬組成物を含む該容器を、密閉デバイスで密閉すること、
の工程を含む、方法。
・・・
【請求項10】
容器内で安定な医薬組成物の製造方法であって、
a)容器、特にPEおよび/またはPP容器を、エチレンオキシド(ETO)で、室温にて、滅菌するのに十分な濃度および時間滅菌すること、
b)ETO量を1ppm未満にするのに十分な期間、無菌条件下、例えば空気拡散条件下で該容器から該ETOを除去すること、
c)無菌条件下で、医薬組成物を該滅菌容器中に移すこと、および
d)該医薬組成物を含む該容器を、密閉デバイスで密閉すること、
の工程を含む、方法。」
(摘記3b)
「【0001】
本発明は、特にエチレンオキシド滅菌工程を含むポリマー製材料と医薬組成物を接触させることによる、特に該組成物の安定性を改善するための方法を記載する。
【0002】
医薬組成物、特に水性医薬組成物は、典型的に容器内に供給され、該容器は充填前に滅菌されていなければならない。容器がポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、および/またはポリエチレンテレフタレート(PET)のようなスクイズ可能な材料からなる場合、ある問題が起こる。というのは、これらの材料は、例えば熱で処理することができず、そして融け得るからである。代替的な滅菌処理法が先行技術として知られており、例えばエチレンオキシド(ETO)処理法およびガンマ線照射処理法である。
【0003】
我々は、先行技術において知られそして実施されてきたガンマ線照射処理法で前もって滅菌されたPE容器中に充填した場合、水性医薬組成物の安定性が典型的に許容されるものではないことを見出した。
【0004】
さらに我々は、空のPE、PPおよび/またはPET容器の滅菌を、該容器に水性医薬組成物を充填する前に、例えば従来技術として知られそして実施されてきたように、ETOで実施する場合に、該問題が解決され得ることを見出した。
【0005】
したがって、本発明は、水性医薬組成物の安定性を改善するための、特に酸化的分解を受けやすい組成物の安定性を改善するための、特にETO滅菌PE、PPおよび/またはPET容器の使用に関する。」
(摘記3c)
「【0034】
実施例1
ケトチフェンを含む点眼用組成物
【0035】
眼用溶液の製造を、典型例に関して記載する。すべての成分を注射用水に溶解し、そして溶液のpHを調節する。次いで、該溶液を最終重量にし、そしてバルク容器(bulkcontainer)中に滅菌濾過し、これを次いで滅菌容器中に製品を充填するために使用する。GMPガイドラインにしたがって製造する。
【0036】
該溶液を、無菌技術を用いる滅菌環境内で、前もって滅菌したボトルに充填し、栓をし、そして滅菌コンポーネントでキャップをする。
【0037】
開発のための研究により、蒸気滅菌(すなわち、最終滅菌)は、生成物および容器(PE-ボトル)の熱感受性のために許容されないことが示された。その後の滅菌容器への無菌的充填での滅菌濾過は、眼用溶液に関して通常の産業の慣例である。
【0038】
バルク溶液を、滅菌濾過前に生物に関して機械的操作によりに評価し、100mlあたり10生物のEU制限値を厳守する。滅菌等級のメンブランフィルターで完全性試験をし、そして適当な製造工程中のコントロールを提供するpH、オスモル濃度、におい、および物理的概観を調べる。
【0039】
ケトチフェン点眼液は、例えば:
【表1】
[図:0001419639000003.jpg]
を含む。
【0040】
実施例2
実施例1の組成物の安定性を、異なる滅菌方法で滅菌された容器(またはパッケージング・コンポーネント)における、それらの貯蔵寿命安定性に関して調査する。
【0041】
ケトチフェン0.025%点眼液のパッケージング・コンポーネントを、25kGy(サンプルIII)の最小投与量でガンマ線照射により滅菌する。10~400リットルの6つのバッチを、安定性試験のために製造する。これらのバッチからの放出結果は、バッチ間で有意なバラツキがなく、満足なものである。しかしながら、安定性試験の結果は有意な差を示す。あるバッチは比較的長期間安定であるのに対し、他のバッチは数ヵ月以内で既に活性化合物フマル酸ケトチフェンの有意な分解を示す。現在では、この現象はボトルのガンマ線照射に関係すると考えられている。よって、この仮説を試験するために、加速安定性試験を実施する。ケトチフェン0.025%点眼液を、未処理のボトル、ガンマ線照射済みボトル、およびエチレンオキシド滅菌済みボトル中に充填し、そしてすべてのサンプルを80℃で15時間貯蔵する。試験結果を、下記の表において比較する:
【0042】
これらのデータに基づき、エチレンオキシドによるLDPEボトルおよびドロッパー(dropper)の滅菌が、ケトチフェン0.025%点眼液に関して、より優れた処理であることが観察される。残存するエチレンオキシドが1ppmのレベル以下に低下した場合(例えば、ETO暴露(処理)後の約2週間、該容器の換気)にのみ、該容器が使用されることを強調すべきである。HDPEクロージャー(closure)は点眼液と接触しないので、ガンマ線照射により滅菌されてもよい。
【0043】
【表2】
[図:0001419639000004.jpg]
【0044】
説明:
サンプルI:未処理のボトルに充填された、新たに調製した点眼液
サンプルII:ガンマ線照射(40kGy)されたPEボトルに充填された、新たに調製した点眼液
サンプルIII:新たに調製され、その後5℃で数日間貯蔵され、ガンマ線照射(少なくとも25kGy)されたPEボトルに充填された点眼液
サンプルIV:ETO滅菌済みPEボトルに無菌的に充填された、新たに調製した点眼液
サンプルV:IVの繰り返し分解生成物IおよびIIは、それぞれ、ケトチフェンの酸化生成物であるケトチフェンN-オキシドを示す。それは、同じ化学量論式を有する2つのジアステレオマーの形態で存在する。
%は全体の重量%を示す。
n.d.は:検出不能;検出限界以下、を意味する。
n.t.は:測定不能;検出限界以上であるが定量限界以下、を意味する。
【0045】
HPLC法により、下記のように点眼液において見出され得る下記のすべての既知の不純物と共に、フマル酸水素ケトチフェンに選択的であることが示された:
【0046】
貯蔵寿命安定性:
最終生成物である、ETO滅菌PE容器中に貯蔵された0.025%ケトチフェン点眼液は、ガンマ線照射されたPE容器中に貯蔵された0.025%ケトチフェン点眼液(サンプルIII)と比べて、改善された安定性を示す。この結果は、25℃までの温度で12ヵ月間貯蔵した場合の0.025%ケトチフェン点眼液の優れた安定性を示す。
【0047】
結論:
エチレンオキシドによる容器の滅菌は、ガンマ線照射が溶液の安定性に不利益を示すので、優れた方法である。」
5 引用文献4の記載事項
引用文献4には、以下の事項が記載されている。
(摘記4a)
「【請求項57】
製薬学的に許容できる包装材料から製造された容器内に含有されるアルカフタジン、その製薬学的に許容できる塩、そのN-オキシド、水和物、溶媒和物、多形、プロドラッグ若しくはそれらの混合物を含んでなる眼科用組成物を含んでなるキット。
【請求項58】
眼科用組成物が眼科用溶液若しくは懸濁液の形態にある、請求項57に記載のキット。
【請求項59】
眼科用溶液が、約0.1重量%と約0.4重量%の間のアルカフタジンを含んでなる、請求項57に記載のキット。
【請求項60】
製薬学的に許容できる包装材料が低密度ポリエチレン若しくは高密度ポリエチレンである、請求項59に記載のキット。
【請求項61】
前記容器が、前記眼科用溶液での充填の前にエチレンオキサイドで滅菌される、請求項59に記載のキット。」
(摘記4b)
「【0037】
充填前に、こうした瓶は、当業者に公知の方法により、γ線照射により若しくはエチレンオキサイドガスで慣例に滅菌する。発明者は、しかしながら、γ線照射で滅菌した瓶が有効成分の低下された安定性を表しうるため、LDPE瓶をγ線照射での代わりにエチレンオキサイドガスで滅菌することが好ましいことを、驚くべきことに見出した。」
(摘記4c)
「【実施例5】
【0071】
γ線照射での滅菌の影響
アルカフタジンは酸化に対し感受性であり、そして該主分解生成物は下のN-オキシド構造と同定されている。主酸化的分解ピークとしてのN-オキシド構造の存在は、合成で製造したN-オキシド構造と同一のHPLC相対保持時間を有するとして確認され、そして質量分析を使用してもまた確認された。
・・・
【0073】
LDPE瓶を滅菌するのに使用されるγ線照射方法の影響を検討するため、アルカフタジンの化学的安定性を、γ線照射若しくは未滅菌のいずれかの多様なロットの瓶を使用して試験した。
・・・
【0074】
・・・
結果:
未滅菌瓶(Rexam若しくはBunder Glas)またはγ線照射瓶(Bunder Glas)いずれか中に保存したアルカフタジン溶液についての化学的安定性の結果を表2に要約する。全サンプルは50℃で6および14日保存後にHPLCによりアッセイした。光曝露は保存の間制御しなかった。溶液はRexam瓶(滅菌を伴わない)、Bunder Glas瓶(γ線照射で滅菌若しくは滅菌を伴わない)のいずれかおよびガラスバイアル中で保存した。
【0075】
【表2】
[図:0001419639000005.jpg]
【0076】
結論:
γ線照射したBunder Glas瓶に保存したアルカフタジンは、ガラスバイアル、ならびに未滅菌RexamおよびBunder Glas瓶と比較して、有意に増大されたレベルのN-オキシド形成を示した。このデータは、γ線照射滅菌方法が、ポリエチレン瓶中で化学若しくは物理的変化を誘発することにより酸化の主原因となりうることを示唆する。
【実施例6】
【0077】
エチレンオキサイドでの滅菌の影響
エチレンオキサイドを使用して、未滅菌のRexamおよびBunder Glas双方の瓶を滅菌した。安定性試験を開始し、そして、AppTec(ジョージア州マリエッタ)による水抽出試験法(ANSI/AAMI/ISO:10993-7)を使用して、エチレンオキサイド濃度が1ppm未満(周囲条件下)であることが測定された。
材料および方法:
2.5mg/mlアルカフタジン溶液を本試験で使用した。瓶は表3に示されるプロトコルに従ってエチレンオキサイドを使用して滅菌した。
【0078】
【表3】
[図:0001419639000006.jpg]
【0079】
結果:
エチレンオキサイド滅菌したRexamおよびBunder Glas瓶に保存したアルカフタジンの化学的安定性の結果を表4に要約する。
【0080】
【表4】
[図:0001419639000007.jpg]
【0081】
結論:周囲光条件下50℃で14日の保存に基づけば、アルカフタジンは、γ線照射した瓶よりエチレンオキサイド滅菌したBunder Glas瓶中で有意により低いN-オキシド濃度を有する。本試験で、Rexam瓶中のN-オキシド形成の量は、50℃で14日保存後に、ガラスバイアル中で観察されたものに類似であり(それぞれ0.025%および0.028%)、ならびにBunder Glas瓶中でわずかにより高い(0.074%)。」
6 引用文献5の記載事項
引用文献5には、以下の事項が記載されている。
(摘記5a)
「【請求項1】
分子内にフッ素原子を有するプロスタグランジン誘導体またはその塩を含有する水性液剤を滅菌処理した樹脂製容器に保存した製品であって、同容器の滅菌処理をエチレンオキサイドガスで行うことにより水性液剤中の該プロスタグランジン誘導体またはその塩の含有率の低下を抑制することを特徴とするプロスタグランジン含有製品。」
(摘記5b)
「【背景技術】
【0002】
一般的に、水性液剤を保存する容器として、ポリプロピレン、プロピレン-エチレンコポリマー、ポリエチレンなどの合成樹脂を成形した樹脂製容器が用いられている。ここで、点眼液のような水性液剤は、人体における特に鋭敏な器官である目に直接投与されるために、点眼時まで無菌状態を保つことが厳しく求められている。そのため、点眼液を保存する容器は、無菌状態であることが求められ、滅菌処理を行う必要がある。該容器の滅菌方法としては、ガンマ線滅菌、電子線滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、過酸化水素水滅菌、高圧蒸気滅菌などが知られている。
・・・
【0004】
ここで、プロスタグランジン誘導体の保存安定性に関しては、分子内にフッ素原子を有しないプロスタグランジン誘導体である13,14-ジヒドロ-17-フェニル-18,19,20-トリノル-プロスタグランジンF2α イソプロピルエステル(ラタノプロスト)は、例えば、ガンマ線や電子線によって滅菌処理した樹脂製容器に保存してもラタノプロストの含有率が経時的に低下しないのに対し、分子内にフッ素原子を有するプロスタグランジン誘導体ではガンマ線または電子線によって滅菌処理した樹脂製容器に保存するとその含有率が低下しやすいという特異性がある。
【0005】
従って、分子内にフッ素原子を有するプロスタグランジン誘導体を含有する水性液剤を樹脂製容器に保存する場合、水性液剤中の該プロスタグランジン誘導体の含有率の低下を抑制できる滅菌手段を見出すことは重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、分子内にフッ素原子を有するプロスタグランジン誘導体を含有する水性液剤をエチレンオキサイド滅菌処理した樹脂製容器に保存すれば、水性液剤中の分子内にフッ素原子を有するプロスタグランジン誘導体の含有率の低下を顕著に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。」
(摘記5c)
「【0017】
1 点眼液の調製
1-1 点眼液1の調製方法
本プロスタグランジン誘導体の代表例として、0.0005%(W/V)の16-フェノキシ-15-デオキシ-15,15-ジフルオロ-17,18,19,20-テトラノルプロスタグランジンF2αイソプロピルエステル(以下、本化合物という)を使用した。非イオン性界面活性剤としてポリソルベート80を0.05%(W/V)用いて本化合物を精製水に溶解し、エチレンジアミン四酢酸(適量)、濃グリセリン(適量)ならびに塩化ベンザルコニウム(適量)などの点眼液に通常用いられる添加剤等を配合して、浸透圧が約1で、pHが約6の点眼液1を得た。
【0018】
1-2 点眼液2の調製方法
本化合物の代わりに、分子内にフッ素原子を有しないプロスタグランジン誘導体であるラタノプロストを使用して、1)点眼液1の調整方法と同様の操作により点眼液2を得た。
【0019】
2.樹脂製容器の製造
プロピレン-エチレンランダムコポリマー(エチレン成分を3%含有)をインジェクションブローにて成形加工して、5ml点眼樹脂製容器を得た。
【0020】
3.試験方法
実施例1
「2.樹脂製容器の製造」で得た樹脂製容器にエチレンオキサイドガス滅菌処理(エチレンオキサイド濃度20%(V/V)、温度40℃、相対湿度50%、3時間滅菌)を施した後、同容器に「1.点眼液の調製」で得た点眼液1を入れた。この点眼液入り容器について、温度40℃、相対湿度75%で保存開始前および30日間保存した後、高速液体クロマトグラフィー法にて容器内の本化合物の濃度を測定し、保存開始時の濃度を基準(100%)として本化合物の含有率を算出した。その結果を表1に示す。なお、表1中の値は3例の平均値である。
【0021】
比較例1
エチレンオキサイドガス滅菌処理をガンマ線滅菌処理(32kGy)に変えた点を除いて、実施例1と同様の操作で本化合物の含有率を算出した。
【0022】
比較例2
エチレンオキサイドガス滅菌処理を電子線滅菌処理(23kGy)に変えた点を除いて、実施例1と同様の操作で本化合物の含有率を算出した。
【0023】
比較例3
容器として滅菌未処理の容器を用いた点を除いて、実施例1と同様の操作で本化合物の含有率を算出した。
【0024】
比較例4
点眼液1を点眼液2に変えた点を除いて、実施例1と同様の操作でラタノプロストの含有率を算出した。
【0025】
比較例5
点眼液1を点眼液2に変えた点およびエチレンオキサイドガス滅菌処理をガンマ線滅菌処理(32kGy)に変えた点を除いて、実施例1と同様の操作でラタノプロストの含有率を算出した。
【0026】
比較例6
点眼液1を点眼液2に変えた点およびエチレンオキサイドガス滅菌処理を電子線滅菌処理(23kGy)に変えた点を除いて、実施例1と同様の操作でラタノプロストの含有率を算出した。
【0027】
比較例7
点眼液1を点眼液2に変えた点および容器として滅菌未処理の容器を用いた点を除いて、実施例1と同様の操作でラタノプロストの含有率を算出した。
【表1】
[図:0001419639000008.jpg]
【0028】
4.試験結果および考察
表1から明らかなように、エチレンオキサイドガス滅菌処理を行ったプロピレン-エチレンランダムコポリマー製容器に本化合物を含有する点眼液を保存した場合、ガンマ線滅菌処理、電子線滅菌処理を行った容器に保存した場合に比べて、一定期間経過後における点眼液中の本化合物の含有率が高かった。また、実施例1および比較例3から明らかなように、エチレンオキサイドガス滅菌処理を行った容器に本化合物を含有する点眼液を保存した場合は、滅菌処理を施さない場合と比べても、一定期間経過後における点眼液中の本化合物の含有率は同程度であった。よって、エチレンオキサイドガス滅菌処理を行った樹脂容器に本化合物を保存した場合、水性液剤中の本化合物の低下を抑制することができることが確認された。
【0029】
さらに、比較例4~7から明らかなように、ガンマ線、電子線またはエチレンオキサイドガスでの滅菌処理を行った容器に、分子内にフッ素原子を有しないプロスタグランジン誘導体であるラタノプロストを含有する点眼液を保存しても、点眼液中のラタノプロストの含有率はいずれも低下せず、また、滅菌処理を施さない容器に保存した場合と比べても、点眼液中のラタノプロストの含有率は同程度であった。よって、ラタノプロストのような分子内にフッ素原子を有しないプロスタグランジン誘導体を含有する水性液剤は、どの滅菌処理を行った容器に保存しても安定であることが確認された。」
7 参考文献11の記載事項
参考文献11(点眼剤研究会,「点眼剤用プラスチック容器試験の解説書」,公益社団法人東京医薬品工業協会,平成26年2月,25頁)は、本願優先日当時の技術常識(以下「技術常識」という。)を示す文献である。
そして、参考文献11には、以下の事項が記載されている。
(摘記11a)
「1)電子線滅菌
主にPE,PETの滅菌に利用されている.
最終梱包形態での滅菌が可能であり,残留ガスの心配がなく,滅菌処理時間が短く,滅菌バリデーションが容易であるが,材質によっては劣化,着色,臭気などの問題が発生する場合がある.
2)EOG滅菌
PE,PP及びPETに使用可能である。しかしPETの場合,EOGの放出が非常にしにくいので,空気置換(エアレーション),残留濃度の確認に注意が必要である.
被滅菌物の材質劣化,着色,臭気などの問題の発生はほとんどなく,滅菌コストが比較的安価であるが,滅菌バリデーションが難しい,残留ガスへの注意等が必要といった問題がある.」(11行目~19行目)
8 参考文献12の記載事項
参考文献12(布施昌孝 外6名,「市販点眼薬の微生物汚染について」,1978年,Vol.4 No.2,p.70~73)は、技術常識を示す文献である。
そして、参考文献12には、以下の事項が記載されている。
(摘記12a)
「幸保13)は点眼薬の汚染は容器からも由来すると指摘し,プラスチック容器のように加熱滅菌のできないものはあらかじめガス滅菌した後,分注すべきであると示唆している.」(p.73右欄2段落3~6行)
第5 本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「クロルヘキシジン又はその塩」は、本願発明における「クロルヘキシジン又はその塩」に相当する。
引用発明の「pH5~7」は、本願発明における「pHが7以下」に相当する。
引用発明の「水溶液」及び「眼科製剤」は、それぞれ本願発明における「医薬組成物」及び「医薬用製品」に相当する。
また、引用発明の「水溶液」は、エデト酸、ジクアソホルまたはそれらの塩のいずれも含有しない。
そうすると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「クロルヘキシジン又はその塩を含有し、pHが7以下である医薬組成物が容器に入れられた、医薬用製品(ただし、医薬組成物はエデト酸、ジクアホソルまたはそれらの塩のいずれも含有しない)。」
<相違点1>
本願発明においては、容器が「エチレンオキサイドガス滅菌容器」であることが特定されているのに対し、引用発明においては、容器について、そのような特定がない点。
第6 判断
1 相違点1について
(1)眼科製剤の分野において、眼科用の医薬組成物を、微生物汚染を防ぐために滅菌した容器に入れることは、本願優先日当時の技術常識(以下「技術常識」という。)であるところ(摘記12a)、エチレンオキサイドガス滅菌(以下「EOG滅菌」ということがある。)が、点眼液を保存する容器等の医療機器の滅菌に広く用いられる滅菌法の一つであることも技術常識である(摘記5bの【0002】、摘記9a、9b、摘記10a)。
(2)そして、眼科用の医薬組成物をエチレンオキサイドガス滅菌容器に入れることについて、引用文献3~5には、それぞれ下記の記載がある。
ア 引用文献3には、「ETO滅菌PE容器中に貯蔵された0.025%ケトチフェン点眼液は、ガンマ線照射されたPE容器中に貯蔵された0.025%ケトチフェン点眼液(サンプルIII)と比べて、改善された安定性を示す。」ことが記載されている(摘記3cの【0046】)。
イ 引用文献4には、「周囲光条件下50℃で14日の保存に基づけば、アルカフタジンは、γ線照射した瓶よりエチレンオキサイド滅菌したBunder Glas瓶中で有意により低いN-オキシド濃度を有する。」ことが記載されている(摘記4cの【0081】)。
ウ 引用文献5には、「分子内にフッ素原子を有するプロスタグランジン誘導体を含有する水性液剤をエチレンオキサイド滅菌処理した樹脂製容器に保存すれば、水性液剤中の分子内にフッ素原子を有するプロスタグランジン誘導体の含有率の低下を顕著に抑制できることを見出し」たこと(摘記5bの【0006】)、「本プロスタグランジン誘導体の代表例として、0.0005%(W/V)の16-フェノキシ-15-デオキシ-15,15-ジフルオロ-17,18,19,20-テトラノルプロスタグランジンF2αイソプロピルエステル(以下、本化合物という)を使用した。」こと(摘記5cの【0017】)、「エチレンオキサイドガス滅菌処理を行った樹脂容器に本化合物を保存した場合、水性液剤中の本化合物の低下を抑制することができることが確認された。」こと(摘記5cの【0028】)、が記載されている
エ 上記ア~ウのとおり、引用文献3~5には、EOG滅菌は、ケトチフェン(引用文献3)、アルカフタジン(引用文献4)、16-フェノキシ-15-デオキシ-15,15-ジフルオロ-17,18,19,20-テトラノルプロスタグランジンF2αイソプロピルエステル(引用文献5)という構造の異なる3種類の化合物を安定化することが確認された実施例が記載されているので、有効成分の化学構造にかかわらず、有効成分の安定性を向上させ得る滅菌法として、エチレンオキサイドガス滅菌法を選択することは、本願優先日当時の周知技術(以下「周知技術」という。)であったといえる。
そして、引用文献3、4はケトチフェン及びアルカフタジンの酸化分解を抑制する安定化、引用文献5は分子内にフッ素原子を有するプロスタグランジン誘導体の安定化という、異なる作用機序による安定化であること、EOG滅菌が有効成分の加水分解を抑制しない又は加水分解を促進するという技術常識はないことから、当業者は、引用文献3~5に記載の化合物以外の化合物である「クロルヘキシジン」についても、EOG滅菌による安定化が得られる可能性があることを、期待するといえる。
(3)そうすると、引用発明の眼科製剤において、「クロルヘキシジン又はその塩を含有するpH5~7の水溶液」を入れる容器を滅菌する際に、上記(1)のとおり、点眼液を保存する容器等の医療機器に広く用いられる滅菌法の一つであることが技術常識であって、上記(2)のとおり、眼科用の医薬組成物に含まれる有効成分に対して、その化学構造にかかわらず、安定化が得られる可能性があることを期待できる周知技術である「エチレンオキサイドガス滅菌法」を選択して、引用発明の容器として「エチレンオキサイドガス滅菌容器」を用い、引用発明を相違点1に係る本願発明の構成を備えたものにすることは、当業者が容易になし得たことである。
2 本願発明の効果について
本願明細書には、エチレンオキサイドガス滅菌容器(EOG滅菌)に入れられた実施例1~26の製剤は、電子線照射滅菌された容器(EB滅菌)に入れられた比較例1~5の製剤より、熱及び光のいずれに対してもクロルヘキシジンの高い残存率を示したことが記載されていることについて検討する。
「クロルヘキシジンの残存率」が高くなったことは、有効成分である「クロルヘキシジン又はその塩」の安定性が向上したことを意味するものと解される。
そして、上記1で説示したとおり、エチレンオキシド滅菌容器に入れることによって、その化学構造にかかわらず有効成分の安定性が向上する可能性があることは、周知技術(上記1(2))であるから、本願発明において、「クロルヘキシジンの残存率」が高くなったこと、すなわち有効成分である「クロルヘキシジン又はその塩」の安定性が向上したことは、当業者が予測し得た程度の効果であって、当業者が予測し得ない格別顕著な効果又は異質な効果ではない。
なお、本願明細書には、防腐剤としてクロルヘキシジンを含む実施例27~29の製剤は、市販の防腐剤であるSofZia(登録商標)を含む比較例6の製剤に比べ、高い細胞生存率を示すことが記載されている。
しかしながら、実施例27~29及び比較例6ではいずれもEOG滅菌が用いられているから、実施例27~29が比較例6よりも細胞生存率が高かったという効果は、成分組成の違いに起因する効果であると解するのが自然であって、EOG滅菌に起因するものであるのかは不明である。そうすると、実施例27~29の製剤が比較例6の製剤よりも高い細胞生存率を示したという効果は、本願発明と引用発明とを比較した効果ではないため、引用発明と比較して当業者が予測できない格別顕著な効果であるとはいえない。
3 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和6年10月1日提出の意見書において、下記(1)~(3)の主張をしているので、順次検討する。
(1)
「しかしながら、まず、審判官殿が示された引用文献9にも記載されております通り、エチレンオキサイド(以下、EOという)は毒性、可燃性、爆発性があり、その取扱いや貯蔵には十分に注意を払う必要があり、滅菌物との適合性についても考慮する必要があります(引用文献9:p82, 6.1.2滅菌剤の特性 (1)酸化エチレン(EO)の特性)。更に、EOG滅菌は、小さな点眼容器一つ一つの内側までEOGを暴露させ確実に滅菌させるのに十分な時間が必要です。その後もEOGのフラッシングによるEOGの除去、エアレーションによるEOや副生成物の除去が必要です(引用文献9:p87, 6.1.4滅菌機と滅菌工程の選定 表6-5)。エアレーションの時間は引用文献9の89頁、表6-7に記載されています通り、数時間もの長い時間を要します。
一方、電子線滅菌は、点眼容器などの物質を透過して滅菌を行い、滅菌時間は数秒~数十秒で処理が済み、短時間で処理が完了することが知られております。この点、本意見書添付の参考文献1(隅谷尚一,「原子力利用の1つである「放射線滅菌」について」,日本原子力学会誌,Vol.53,No.2(2011))の103頁第1表をご参照ください。
以上のことから、点眼容器の滅菌では、短時間で処理が済む電子線滅菌が用いられることが多く、あえて取扱いに注意が必要であり、しかも滅菌に長い時間を要するEOG滅菌を選択する動機付けはありません。したがって、当業者が、そのような課題の多いEOG滅菌をあえて選択することは容易ではないと思料いたします。」(2頁下から14行目~3頁4行目)
以下、上記主張(1)について検討する。
引用文献9には、エチレンオキサイドは毒性、可燃性、爆発性があるので、その取り扱いや貯蔵には十分に注意を払う必要があること、滅菌物との適合性についても考慮する必要があることが記載されているが、これは、使用上の留意点を記載するにすぎず、エチレンオキサイドガス滅菌法の採用を一般に阻害するものではない。そのことは、実際に引用文献3~5において、点眼剤の滅菌にエチレンオキサイドガス滅菌が用いられていることからも明らかである。
一方、電子線滅菌には、「材質によっては劣化、着色、臭気などの問題が発生する場合がある」ことが知られている(摘記11a)が、これらの問題はEOG滅菌においては、ほとんどないとされている。
そうすると、当業者であれば技術常識として知られる滅菌法の中からそれぞれのメリット、デメリットを考慮して好適な滅菌法を選択することは通常に行う試行錯誤といえる。
したがって、上記1で説示したとおり、有効成分の化学構造にかかわらず、有効成分の安定性を向上させ得る滅菌法としてエチレンオキサイドガス滅菌法を選択して、引用発明の容器としてエチレンオキサイドガス滅菌容器を用いる動機付けは十分に存在するのであるから、請求人の上記(1)の主張を採用することはできない。
(2)
「しかしながら、まず、審判官殿が摘記8bで挙げられた通り、引用文献8の「11.安定性及び貯法」には、「クロルヘキシジン塩の水溶液は加水分解して4-クロロアニリンを形成」することが記載されております。
一方、引用文献3は、その請求項1に記載の通り「酸化しやすい医薬組成物」の安定性の改善方法に関し、その段落0044には、具体的にケトチフェンの酸化生成物であるケトチフェンN-オキシドの生成を測定しております。また、引用文献4につきましても、その段落0071には、アルカフタジンは酸化に対し感受性であり、そして主分解生成物はN-オキシドであることが記載され、その段落0081には、EOG滅菌でN-オキシドの生成が抑制される旨が開示されています。そして、引用文献5は、分子内にフッ素原子を有するプロスタグランジン誘導体の安定化に係る文献であり、その段落0029には、フッ素原子を有しないラタノプロストに影響がないことが記されています。
これらからしてみれば、分解様式が加水分解でありフッ素原子を有さないクロルヘキシジンがEOG滅菌で安定化されることは、酸化分解に対する安定化を開示しているにすぎない引用文献3および4、フッ素原子を有することによりプロスタグランジン誘導体を安定化している引用文献5を参酌したとしても予期できない効果です。
酸化分解による分解メカニズムとフッ素原子を有することで安定化するメカニズムからは、フッ素原子を有さないクロルヘキシジンの加水分解メカニズムに関し何ら知見を得ることは不可能です。」(3頁16行目~33行目)
以下、上記主張(2)について検討する。
引用文献5には、分子内にフッ素原子を有するプロスタグランジン誘導体を含有する水性液剤を、エチレンオキサイド滅菌処理した樹脂製容器に保存すれば、水性液剤中の分子内にフッ素原子を有するプロスタグランジン誘導体の含有率の低下を顕著に抑制できること、すなわち安定化できることが記載されているのであって(特に摘記5bの【0006】)、請求人が上記(2)で主張する「フッ素原子を有することによりプロスタグランジン誘導体を安定化している」ことは記載されていない。
そして、上記1(2)で説示したとおり、引用文献3~5には、EOG滅菌は、ケトチフェン(引用文献3)、アルカフタジン(引用文献4)、16-フェノキシ-15-デオキシ-15,15-ジフルオロ-17,18,19,20-テトラノルプロスタグランジンF2αイソプロピルエステル(引用文献5)という構造の異なる3種類の化合物を安定化することが確認された実施例が記載されていること、引用文献3、4はケトチフェン及びアルカフタジンの酸化分解を抑制する安定化、引用文献5は分子内にフッ素原子を有するプロスタグランジン誘導体の安定化という、異なる作用機序による安定化であること、EOG滅菌が有効成分の加水分解を抑制しない又は加水分解を促進するという技術常識はないことから、当業者は、引用文献3~5に記載の化合物以外の化合物である「クロルヘキシジン」についても、EOG滅菌による安定化が得られる可能性があることを当業者は期待するといえる。
よって、請求人による上記(2)の主張を採用することはできない。
(3)
「さらに、審判官殿は、拒絶理由通知書の「イ 本願発明1の効果について(イ)」において、「pHを7以下とすることによる効果は、引用発明1において当然に奏されている効果」であり、「pH6.5、pH7.0の製剤においてクロルヘキシジンの残存率が高くなるという効果は引用文献8の記載から当業者が予測し得たことである」と述べておられます。
しかしながら、引用発明1に記載の眼科用製剤はEOG滅菌容器を使用しているものではないことから、当然に奏されている効果とはいえず、当業者が予測し得たともいえないと思料いたします。」(3頁34行目~41行目)(当審注:拒絶理由通知書の「引用発明1」は、上記第4の1(2)で認定した「引用発明」である。)
以下、上記主張(3)について検討する。
ア 引用発明は、「クロルヘキシジン又はその塩を含有するpH5~7の水溶液が、容器に入れられた、眼科製剤。」であって、引用発明の水溶液はpH7以下であるから、pH7以下である点は、本願発明との相違点ではない。
イ そして、引用文献8には、以下のとおり記載されている(摘記8b)。
「クロルヘキシジン塩の水溶液は加水分解して4-クロロアニリンを形成する.グルコン酸クロルヘキシジンの0.02%w/v溶液を120℃で30分間加熱滅菌するとpH9では,もとのグルコン酸クロルヘキシジンの1.56%w/wの4-クロロアニリンが,pH6.3及びpH4.7では,それぞれ0.27%w/w及び0.13%w/wの4-クロロアニリンが生じた.(6)酢酸クロルヘキシジンの0.05%w/v緩衝溶液中での最も安定なpHは5.6である.」
上記記載によれば、グルコン酸クロルヘキシジンは、pHが7より高いpH9よりも、pHが7より低いpH6.3、4.7の方が加水分解が抑制されて安定であり、酢酸クロルヘキシジンの最も安定なpHは5.6であるから、クロルヘキシジンの塩がpH7より低いpH領域で安定であることは、本願優先日当時に知られていた事項である。
ウ さらに、上記主張(2)についての検討で言及したとおり、EOG滅菌が有効成分の加水分解を抑制しない又は加水分解を促進するという技術常識はないことから、EOG滅菌容器に入れられた、「pH5~7」である引用発明の水溶液において、クロルヘキシジンが安定な状態で存在することは、引用文献8の記載(上記イ)を参酌した当業者が予測し得た程度の事項にすぎない。
エ また、本願明細書の実施例において、pHが7.5の製剤に比較し、pH6.5、pH7.0の製剤においてクロルヘキシジンの残存率が高くなったという効果も、引用文献8の記載(上記イ)から当業者が予測し得た効果にすぎず、「pH5~7」である引用発明の水溶液に比して、当業者が予測し得ない優れた効果であるとはいえない。
オ よって、請求人の上記(3)の主張を採用することはできない。
4 小括
以上のように、本願発明は、引用発明(引用文献8に記載された発明)、及び引用文献3~5、8~10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用文献8に記載された発明及び引用文献3~5、8~10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-002282