2023-007258
n型超格子及びp型超格子を備える電子デバイス
- 審判番号
- 2023-007258
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-024285外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年05月02日
- 審決日
- 2024年07月18日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】シランナ・ユー・ブイ・テクノロジーズ・プライベート・リミテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人深見特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 13項目
1 手続の経緯
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本願は、2015年(平成27年)4月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年5月27日、オーストラリア、2014年5月27日、オーストラリア。以下、最先の優先権主張の日を「優先日」という。)を国際出願日とする特願2016-569627号の一部を令和3年2月18日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯の概略は次のとおりである。
同年 6月 6日 :意見書、手続補正書の提出
同年 8月16日付け:拒絶理由通知書(最後)
書でした補正の却下の決定、拒絶査定(以下
「原査定」という。)
2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和5年5月2日に提出された手続補正書による補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1の記載は、次のとおりである。
<本願発明>
「n型導電性を提供するn型超格子と、p型導電性を提供するp型超格子と、を備える電子デバイスであって、前記n型超格子が、ホスト層及びドナー不純物層を交互に備え、前記ホスト層が、III族窒化金属半導体材料からなり、前記ドナー不純物層が、対応するドナー原子の単一層からなり、前記p型超格子が、ホスト層及びアクセプタ不純物層を交互に備え、前記ホスト層が、前記III族窒化金属半導体材料からなり、前記アクセプタ不純物層が、対応するアクセプタ原子の単一層からなり、前記n型超格子の前記ホスト層の前記III族窒化金属半導体材料は、前記p型超格子の前記ホスト層の前記III族窒化金属半導体材料と同じである、前記電子デバイス。」
3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、以下の内容を含むものである。
本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である下記引用文献に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献 特表2005-526384号公報
4 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献に記載された事項
原査定で引用された引用文献(特表2005-526384号公報)には、次の記載がある。下線は当審が付した(以下同じ。)。
「【0007】発明の概要本発明は、ドープIII-V族窒化物材料、例えば窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)および窒化ガリウム(GaN)材料、このような材料の形成方法、ならびにこのような材料を含む超小型電子デバイスおよびデバイス前駆体構造に関する。【0008】一の態様における本発明は、III-V族窒化物、例えば、GaNおよび関連する窒化物のデルタドーピング、ならびにこのような材料の超格子ドーピングを図る。【0009】本明細書において用いる用語「III-V族窒化物」とは、窒素とAl、InおよびGaのうちの少なくとも1つとを含む半導体材料を指す。」
「【0015】上記超小型電子デバイス構造は、一例としてLED、レーザダイオード、AlGaN/GaN高電子移動度トランジスタ(HEMT)、コンタクト構造、分離構造、AlGaN FET、光電トランジスタ検出器、トンネルドープ構造、ドープベースへテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)および光学フィルタからなる群から選択されたデバイス構造を含むことができる。」
「【0019】デルタドーピングは、高濃度のドーパント不純物を半導体結晶中の極小体積内に配置することができる二次元ドーピング技術である。デルタドープ層は、適正半導体サイトIIIまたはV上の母体半導体結晶内に配置されたドーパント不純物(n型またはp型)のたった一層のモノマー層により構成されていることが理想的である。通例、デルタドーピングは半導体結晶成長が中断されたときに生じ、高品質のデルタドープ層を形成する際にプレポーズ、ポーズ、ポストポーズ条件が不可欠である。本発明が意図するデルタドーピングは、半導体材料上または内のドーパント原子の単一層またはほぼ単一層を含む。以下にさらに詳細に説明するように「中断ドーピング」の好適な実施において、概してデルタドーピング層は中断ドーピング前後の半導体材料のエピタキシャル成長を含むステップにより内部の層として半導体材料に内在するため、ドーパント原子は半導体材料内で内部の層内に挿入される。【0020】デルタドープ層がコンタクト層に利用される場合には、このデルタドープ層はコンタクト層に直に露出されて、半導体材料には封入あるいは内在化されずに半導体材料とコンタクト要素を形成する金属化層との間に介挿される。【0021】そのため、デルタドーピングは単一層ドーピング技術であり、単一層厚さ層当量よりはるかに大きい半導体結晶材料の体積内に不純物を組み込むために用いられる、より一般的なバルクドーピング技術とは対照的である。本発明の一般的な実施において、ポーズ期間中に反応物内の残留成長成分のため成長がなお続くことがあり(特にプレポーズ期間により成長成分を完全に除去する十分な時間がない場合)、結局デルタドーピング層は厚さが一層または数層の原子層になる場合があり、このような変動は半導体材料内のドーパント原子の単一層を得る好適な実施に対して本発明によるデルタドーピングの全般的な範囲内にあると予想されることは理解できよう。【0022】本発明によるデルタドーピングは、有機金属化学気相成長(MOCVD)、分子線エピタキシ(MBE)、ハイドライド気相成長(HVPE)、プラズマエッチ化学成長(PECVD)等などのプロセスを利用してインサイチュドーピングにより行なわれ、ドーパント不純物が組込まれ、注入され、アニール処理され、さらに選択的に分離される。インサイチュドーピング技術を様々な実施形態において実施して、本発明の特定の用途での要求に応じてドーパントをIII族サイトまたはV族サイトまたはIII-V族材料の格子間サイト内に組込むことができる。」
「【0025】エピタキシャル成長、膜成長の休止、ドーピング、ドーピングの休止およびエピタキシャル成長の再開を含むこのような連続処理シーケンスが好ましいが、デルタドーピングを非連続的に行ってもよい。そのため、(Al、In、Ga)N材料の最初のエピタキシャル成長を行って得られた物品を蓄積してもよく、あるいはデルタドーピング作業の後続実行に対して中断してもよい。【0026】その後ドーピングが完了した時、ドープ半導体材料物品を蓄積してもよくあるいは最終的なエピタキシャル成長プロセスに対して遅延させて、デルタドープ層が含まれる半導体材料を形成してもよい。【0027】プレポーズからポストポーズまでのステップを多数回繰り返して所望の結果をもたらすこと、例えば、各々が他のデルタドーピング層に対して離間関係にある多数のデルタドープ層を形成することができる。」
「【0032】本発明によるデルタドーピングは、従来技術のドープIII-V族窒化物材料に比べて生成物III-V族窒化物材料の大幅な移動度の向上とシート抵抗低減を達成する。特定の実施例として、本発明によるAlGaNのデルタドーピングは対応するバルクドープAlGaN材料と比較して2倍を超える移動度の向上を達成した。」
「【0035】本発明による大幅な電子移動度の改善を、コンタクト抵抗率の改善、p型抵抗率の改善(例えばデルタドープベースヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)およびレーザデバイス構造での)、デバイス信頼度の向上およびデバイス動作特性の向上の実現、さらに新規の超小型電子デバイス構造の実現に適用できる。」
「【0053】改善光学特性SiまたはMgなどのドーパント種でGaNおよびAlGaN層をバルクドーピングすると、デバイス構造の光ルミネセンス特性によって明らかであるようにさらに深いレベルが生じる。これらの深いレベルは、一般に、III-V族窒化物材料で重要なエネルギー出射および伝達用途において所望されるよりはるかに少ないエネルギーであるため、その結果これらの深いレベルは、エミッタに対して非常に低い光取出し効率と、検出器に対して非常に遅い応答性と、フィルタに対して非常に悪い光伝達をもたらす恐れがある。デルタドーピングは選択実質的単一層等価体積のドープ材料を提供するため、本発明においてデルタドーピングを採用してこれらの光学的活性欠陥の影響を軽減することができる。またデルタドーピングは、半導体のバンドギャップより低いエネルギーの光に対する層またはデバイス構造感度を低減するのに有用であるため、対応する半導体デバイスのノイズ特性の改善をもたらす。」
「【0059】超格子構造超格子構造は、合金組成が材料厚さまたは材料厚さの一部分にわたって規則的または周期的に変化する構造である。合金組成は通常2つの組成間で変化し、その変化は通常急峻であり、さらに合金組成のその変化は、通例、図7に示すようにバンドギャップの変化をもたらす。急峻度は用いたデバイス製造技術の結果である。原則的に、超格子は図8に示すように3つ以上の合金を有することも可能であるが、説明を容易にするため超格子構造は以下に2つの領域、以下領域1および領域2として表示する領域を有するものとして例示的に説明する。」
「【0093】図30は、本発明のさらに他の実施形態によるエミッタ構造108の概略図である。エミッタ構造108は活性領域110を含み、下部n領域とデルタドープp型ドーパント層112および114を含む上部領域とを有する。図示のようにデバイスの動作の際にデバイス構造の活性領域にフォトンが生じる。」
「【0098】実施例1デルタドープHEMTデバイス構造サファイア基板をH2雰囲気で、100mbarの圧力で10分間1170℃に加熱した。デルタドーピング構造成長の他の部分に対して圧力を一定にした状態で、反応物を500℃まで冷却するとともに、低温AlN核生成バッファを従来の方法で堆積した。バッファ層をサファイア基板上に堆積した後、2.5slmのNH3および20slmのH2下で1220℃のサセプタ温度まで反応物を加熱して、温度を2分間安定させた。続きを表示(全20行)【0099】トリメチルガリウム(TMG)を十分なフラックスで反応物に導入して、およそ2.0μm/時の成長速度を90分間提供することにより、3ミクロンの厚さを有するGaN層を堆積した。トリメチルアルミニウム(TMA)を5.5秒間導入して30オングストロームの厚さのAl0.25Ga0.75Nスペーサ層を成長させた。【0100】次に反応物へのTMGおよびTMAを止めることによりプレポーズステップを開始して、界面は1220℃のサセプタ温度でNH3およびH2雰囲気下に置いた。プレポーズは10秒続いた。プレポーズステップの後、55ppmジシラン(H2に希釈したSi2H6)を75秒間シリコンのデルタドーピングをもたらすフラックスで反応物内に導入することによりポーズステップが開始された。【0101】ポーズテップの後、反応物へのジシランを止めると同時に、前述したプロセス条件(プレポーズAlGaN成長の)で31.2秒間反応物へのTMAおよびTMAを出してさらに170オングストロームのAl0.25Ga0.75Nを成長させることによりポストポーズステップを開始した。この構造内でのGaNおよびAlGaN層に対するV/III比はおよそ2500であった。反応物へのTMGおよびTMAを止めることにより材料の成長を止めた。成長した材料をNH3およびH2過剰圧力下で500℃未満に冷却するとともに、反応物圧力を900mbarまで傾斜させて、デルタドープHEMTデバイス構造を提供した。【0102】実施例2デルタドープ超格子構造サファイア基板をH2雰囲気で、100mbarの圧力で10分間1170℃に加熱した。デルタドーピング構造成長の他の部分に対して圧力を一定にした状態で、反応物を500℃まで冷却するとともに、低温AlN核生成バッファを従来の方法で堆積した。バッファ層をサファイア基板上に堆積した後、2.5slmのNH3および20slmのH2の流量下で1220℃まで基板を加熱して、温度を2分間安定させた。【0103】トリメチルガリウム(TMG)を適当なフラックスで反応物に導入して、およそ2.0μm/時の成長速度を90分間提供することにより、3ミクロンの厚さを有するGaN層を堆積した。トリメチルアルミニウム(TMA)を適当なフラックスで導入してAl0.2Ga0.8N層を成長させた。【0104】次に、反応物へのTMGおよびTMAを止めることによりプレポーズステップを開始した。界面は1220℃のサセプタ温度でNH3およびH2雰囲気下に置いた。プレポーズは10秒続いた。プレポーズの後、ビス-シクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を75秒間既に堆積された膜材料のMgデルタドーピングに適当なフラックスで反応物内に導入することによりポーズステップが開始された。【0105】ポーズテップの後、反応物へのCp2Mgを止めると同時に、AlGaN材料のプレポーズ成長に用いたものと同じ条件で反応物へTMAおよびTMAを出した。このようにしてさらに厚くAl0.2Ga0.8Nを堆積させた。その後TMAを止めてGaN層を再び成長させた。」
「図30[図:0001417139000001.jpg]」
(2) 引用文献の記載より当業者が把握できる技術事項
ア 当業者は、図30に記載されたエミッタ構造108について、以下の技術事項を把握できると認められる。
(ア) エミッタ構造108(活性領域110、下部n領域及び上部領域)は、III-V族窒化物から構成されること。
すなわち、当該エミッタ構造108は、「本発明のさらに他の実施形態」(【0093】)に該当するところ、【0007】~【0009】に記載された「発明の概要」によれば、引用文献には、III-V族窒化物材料にデルタドーピングを図ることが記載されていることから、当該エミッタ構造108も同様に、III-V族窒化物材料にデルタドーピングを図るものといえる。
(イ) エミッタ構造108の上部領域は、III-V族窒化物層とデルタドープp型ドーパント層が交互に存在するp型の超格子構造であること。
そのようにいえる理由は、以下のとおりである。
a 上部領域は、デルタドープp型ドーパント層112及び114を含むものであるから、p型であるといえる。
b 引用文献の【0059】の記載によれば、超格子構造は、合金組成が材料厚さ又は材料厚さの一部分にわたって規則的または周期的に変化する構造であるところ、これをエミッタ構造108の上部領域についてみると、当該上部領域は、III-V族窒化物からなるものであって(前記(ア))、デルタドープp型ドーパント層112及び114を含むものであるから、当該III-V族窒化物が上部領域のホスト材料を構成しているとともに、当該ホスト材料内にデルタドープp型ドーパント層112及び114が離間して存在しているものである、すなわち、III-V族窒化物からなるホスト層とデルタドープp型ドーパント層からなる不純物層が交互に存在しているものであるといえる。そうすると、当該上部領域は、超格子構造であるといえる。
(ウ) エミッタ構造108は、発光ダイオード(LED)であること。
すなわち、引用文献の【0015】には、電子デバイス構造の一例としてLEDが例示されているところ、前記(ア)及び(イ)を踏まえると、エミッタ構造108は、活性領域110を含み、下部n領域とp型の上部領域を有するIII-V族窒化物(半導体)であり、デバイスの動作の際にデバイス構造の活性領域にフォトンが生じるものである。このような構造及び作用に鑑みれば、当該エミッタ構造108は、発光ダイオード(LED)であるといえる。
イ 当業者は、デルタドーピングによって電子移動度のみならず正孔移動度も向上し、その向上は、p型抵抗率の改善のみならずn型抵抗率の改善にも適用できることを把握できると認められる。
すなわち、引用文献の【0032】には、デルタドーピングは、生成物III-V族窒化物材料の大幅な移動度の向上を達成する旨記載されており、同【0035】には、本発明、つまりデルタドーピングによる大幅な電子移動度の改善をp型抵抗率の改善に適用できる旨記載されている。そして、同【0019】に記載されたとおり、「デルタドープ層は、適正半導体サイトIIIまたはV上の母体半導体結晶内に配置されたドーパント不純物(n型またはp型)のたった一層のモノマー層により構成されている」ものであり、デルタドーピングは、p型ドーパント又はn型ドーパントのどちらでも対象とされるから、当該【0032】に記載された「デルタドーピングによる大幅な移動度の向上」には、電子の移動度及び正孔の移動度の両方が含まれるものと理解できるのであり、そうである以上、当該【0035】の「電子移動度の改善を」「p型抵抗率の改善」に適用できるという記載内容は、「正孔移動度の改善を」「n型抵抗率の改善」に適用できることにも妥当することが、当業者にとって理解できる。
(3) 引用発明の認定
前記(1)及び(2)によれば、引用文献には、図30に係るエミッタ構造108について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考までに、引用発明の認定に用いた引用文献の記載に係る段落番号等を括弧内に付してある。
<引用発明>
「活性領域110を含み、下部n領域とデルタドープp型ドーパント層112および114を含む上部領域とを有し、デバイスの動作の際にデバイス構造の活性領域にフォトンが生じるエミッタ構造108であって、(【0093】)デルタドーピングは単一層ドーピング技術であり、(【0021】)デルタドーピングは、従来技術のドープIII-V族窒化物材料に比べて生成物III-V族窒化物材料の大幅な移動度の向上とシート抵抗低減を達成し、(【0032】)デルタドーピングによる大幅な電子移動度の改善を、p型抵抗率の改善に適用でき、(【0032】、【0035】)エミッタ構造108(活性領域110、下部n領域及び上部領域)は、III-V族窒化物から構成されており、(前記(2)ア(ア))上部領域は、III-V族窒化物層とデルタドープp型ドーパント層が交互に存在するp型の超格子構造であり、(前記(2)ア(イ))エミッタ構造108は、発光ダイオード(LED)である、(前記(2)ア(ウ))エミッタ構造108。」
5 本願発明と引用発明の対比(一致点及び相違点の認定)
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりである。
(1) 本願発明の「n型導電性を提供するn型超格子と、p型導電性を提供するp型超格子と、を備える電子デバイスであって、」との特定事項について
ア 引用発明の「下部n領域」は、本願発明の「n型導電性を提供するn型超格子」とは、「n型導電性を提供する」n型層である点で共通する。
イ 引用発明の「上部領域」は、「III-V族窒化物」から構成されており、「p型の超格子構造」であるから、本願発明の「p型導電性を提供するp型超格子」に相当する。
ウ 引用発明の「エミッタ構造108」は、「発光ダイオード(LED)」である」から、本願発明の「電子デバイス」に相当する。
エ 以上より、本願発明の前記特定事項と引用発明は、「n型導電性を提供する」n型層と、「p型導電性を提供するp型超格子と、を備える電子デバイスであ」る点で共通する。しかしながら、n型層が、本願発明は「n型超格子」であるのに対し、引用発明は「下部n領域」である。
(2) 本願発明の「前記n型超格子が、ホスト層及びドナー不純物層を交互に備え、前記ホスト層が、III族窒化金属半導体材料からなり、前記ドナー不純物層が、対応するドナー原子の単一層からなり、」との特定事項について
引用発明の「下部n領域」が本願発明の前記特定事項を備えるかは、不明である。
(3) 本願発明の「前記p型超格子が、ホスト層及びアクセプタ不純物層を交互に備え、前記ホスト層が、前記III族窒化金属半導体材料からなり、前記アクセプタ不純物層が、対応するアクセプタ原子の単一層からなり、」との特定事項について
ア 引用発明の「上部領域」は、「III-V族窒化物層とデルタドープp型ドーパント層が交互に存在するp型の超格子構造」であるところ、前記4(2)ア(イ)にも照らせば、当該「III-V族窒化物層」及び「デルタドープp型ドーパント層」は、それぞれ、本願発明の「ホスト層」及び「アクセプタ不純物層」に相当する。そして、引用発明の当該「III-V族窒化物層」は、本願発明でいう「III族窒化金属半導体材料からな」るものといえる。
イ 引用発明の「デルタドープp型ドーパント層」は、「p型」であるから、本願発明でいう「対応するアクセプタ原子」を含んでいる。そして、当該「デルタドープp型ドーパント層」は、「デルタドーピングは単一層ドーピング技術であ」ることに照らせば、本願発明でいう「単一層」であるといえる。
ウ 以上より、本願発明と引用発明は、「前記p型超格子が、ホスト層及びアクセプタ不純物層を交互に備え、前記ホスト層が、」「III族窒化金属半導体材料からなり、前記アクセプタ不純物層が、対応するアクセプタ原子の単一層からな」る点で共通する。
他方、「III族窒化金属半導体材料」が、本願発明は、n型超格子が備えるホスト層を構成する「III窒化金属半導体材料」であるのに対し、引用発明は、そうであるか不明である。
(4) 本願発明の「前記n型超格子の前記ホスト層の前記III族窒化金属半導体材料は、前記p型超格子の前記ホスト層の前記III族窒化金属半導体材料と同じである、」との特定事項について
引用発明の「下部n領域」及び「上部領域」は、「III-V族窒化物」から構成されるが、材料として同じであるかは不明である。
(5) 以上によれば、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「n型導電性を提供するn型層と、p型導電性を提供するp型超格子と、を備える電子デバイスであって、前記p型超格子が、ホスト層及びアクセプタ不純物層を交互に備え、前記ホスト層が、III族窒化金属半導体材料からなり、前記アクセプタ不純物層が、対応するアクセプタ原子の単一層からなる、電子デバイス。」
<相違点1>
n型層が、本願発明は、「n型超格子」であり、「前記n型超格子が、ホスト層及びドナー不純物層を交互に備え」、「前記ホスト層が、III族窒化金属半導体材料からなり」、「前記ドナー不純物層が、対応するドナー原子の単一層からなり」、「前記n型超格子の前記ホスト層の前記III族窒化金属半導体材料は、前記p型超格子の前記ホスト層の前記III族窒化金属半導体材料と同じである」のに対し、引用発明は、「下部n領域」であるが、そのような構成であるか不明である点。
<相違点2>
「p型超格子」のホスト層である「III族窒化金属半導体材料」が、本願発明は、「n型超格子」が備えるホスト層を構成する「III窒化金属半導体材料」であるのに対し、引用発明は、そうであるか不明である点。
6 相違点についての判断
(1)相違点2は、実質的には相違点1に吸収されることから、両者をまとめて判断する。
ア 引用発明の「エミッタ構造108」は、「発光ダイオード(LED)」であって、「上部領域」に「デルタドープp型ドーパント層112および114を含む」ものであるところ、「デルタドーピングによる大幅な電子移動度の改善を、p型抵抗率の改善に適用でき」ることから、引用発明に接した当業者は、当該「デルタドープp型ドーパント層」により、p型領域である「上部領域」のp型抵抗率が改善されること、要するに、「上部領域」の抵抗が低減されることを理解できる。しかるに、発光ダイオード(LED)の技術分野において、その素子抵抗を低減して発光効率を向上させることは通常求められる課題であるから、引用発明から出発した当業者は、このような電気的特性の課題の観点を踏まえて、その上部領域(p型層)の抵抗のみならず下部n領域(n型層)の抵抗をも低減し、発光効率を向上させることの動機を持つといえる。そして、前記4(2)イのとおり、デルタドーピングによって電子移動度のみならず正孔移動度も向上し、その向上は、p型抵抗率の改善のみならずn型抵抗率の改善にも適用できることに照らせば、前記の電気的特性の課題の解決手段は、デルタドーピングという技術そのものであることが、引用文献に接した当業者には理解できる。
また、引用文献の【0053】には、「SiまたはMgなどのドーパント種」でGaN及びAlGaN層をバルクドーピングすると、さらに深いレベルが生じ、これらの深いレベルは、エミッタに対して非常に低い光取出し効率をもたらす恐れがある一方、デルタドーピングを採用すると、光学的活性欠陥の影響を軽減することができる旨記載されている。しかるに、引用発明の「エミッタ構造」の「下部n領域」は、「n領域」である以上、何らかのn型ドーピングがされているはずであるから、引用発明から出発した当業者は、このような光学的特性の課題の観点を踏まえて、当該「下部n領域」においても、非常に低い光取出し効率がもたらされないようにするとの動機を持つといえる。そして、その課題の解決手段は、やはり、デルタドーピングという技術そのものであることが、引用文献に接した当業者には理解できる。
以上によれば、引用発明から出発した当業者は、「下部n領域」に対して、電気的特性の課題の観点を踏まえ、さらには光学的特性の課題の観点をも適宜踏まえて、デルタドーピングを採用することができるといえる。
イ そして、前記アのとおり「下部n領域」に対してデルタドーピングを採用したことによって、当業者は、以下のとおり、相違点1及び2に係る本願発明の構成に至るといえる。
すなわち、引用発明の「エミッタ構造108」においては、「上部領域」が「III-V族窒化物層とデルタドープp型ドーパント層が交互に存在するp型の超格子構造」となっているところ、当業者は、このような超格子構造も、前記の電気的特性や光学的特性の課題を解決することに資することを当然認識できる。そして、発光ダイオード(LED)においては、活性層を挟むn型層及びp型層において、その材料やその組成が同じとされることも通常にされることであると認められる。
そうすると、引用発明の「エミッタ構造108」から出発した当業者が、前記アのとおり、III-V族窒化物から構成される「下部n領域」に対してデルタドーピングを採用するに当たって、当該「下部n領域」を「上部領域」と同一の材料及び組成からなるIII-V族窒化物の層を用いたn型の超格子構造とすることは、適宜なし得たことであるといえる。そして、そのようにした構成は、相違点1及び2に係る本願発明の構成を満たしているといえる。
このようにして、当業者は、相違点1及び2に係る本願発明の構成に容易に至る。
(2) 本願発明の効果について
本願発明の作用効果は、Al含有量の高いIII族窒化金属半導体材料に所望の導電型を提供して不純物活性のレベルが高くなることであるところ(【0011】)、引用文献に接した当業者は、前記4(2)イのとおり、デルタドーピングによって電子移動度のみならず正孔移動度も向上し、その向上は、p型抵抗率の改善のみならずn型抵抗率の改善にも適用できることを認識できる。そうすると、本願発明の効果は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明、引用文献に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が予測し得たものにすぎず、格別顕著なものということもできない。
(3) 審判請求人の主張について
ア 審判請求人は、引用発明から出発した当業者が「下部n領域」をデルタドープ層を備える超格子とすることを動機付けられることはない旨主張し、その根拠として、(i)引用文献には、n型のデルタドープ層及びp型のデルタドープ層の両方を1つのデバイスに適用することについて記載も示唆もないこと、(ii)引用文献の【0019】には、「デルタドープ層は、適正半導体サイトIIIまたはV上の母体半導体結晶内に配置されたドーパント不純物(n型またはp型)のたった一層のモノマー層により構成されている」と記載されており、当該「または」との記載は、n型又はp型のいずれか一方のみであることを意味すること、を挙げる。
しかしながら、(i)については、前記(1)で説示したとおりである。
(ii)については、審判請求人は、当該【0019】の記載を、一のデバイスに含まれるデルタドープ層については、n型のドーパント不純物とp型のドーパント不純物のいずれか一方のみを含むことを意味すると解しているようであるが、当該記載は、その文言に照らせば、一のデバイスに含まれるデルタドープ層がどのようなものかを説明しているのではなく、「デルタドープ層」それ自体がどのようなものであるのかを説明するものであると解される。そして、当該記載における「ドーパント不純物(n型またはp型)」の文言は、ある一の「デルタドープ層」についてみると、それに含まれるドーパント不純物には、n型のドーパント不純物とp型のドーパント不純物のいずれか一方が含まれており、両方は含まれてはいない、ということを意味しているにすぎないと解される。このように、審判請求人が挙げる記載は、せいぜい、一のデルタドープ層がp型とn型の双方のドーパント不純物を備えることを排除しているにすぎず、一のデバイスがp型のデルタドープ層とn型のデルタドープ層の双方を備えることを排除するものではないから、当該記載をもって、引用発明から出発した当業者が「下部n領域」をデルタドープ層を備える超格子とすることを動機付けられないことはない。
イ 審判請求人は、引用発明がその適格性を欠く旨主張し、その根拠として、引用文献には、n型とp型のデルタドープ層の両方を適用した1つのデバイスをどのように製造することができるかについて記載も示唆もない旨を挙げる。
しかしながら、引用発明は、前記4(3)のとおり、図30に係るエミッタ構造108について認定されているのであり、n型とp型のデルタドーピング層の両方を適用したデバイスとしては認定されていないから、審判請求人の主張は、もとより失当である。
それをさておくとしても、引用文献には、p型についてのデルタドープ超格子構造の実施例(【0102】~【0105】)などが記載されている。そして、優先日当時の技術常識に照らせば、p型について製造することができれば、n型についても同様に製造することができ、さらに、それらを1つのデバイスに適用することも可能であるといえる。そうすると、n型とp型のデルタドープ層の両方を適用した1つのデバイスであっても、当業者は、引用文献の記載及び技術常識に基づいてこれを製造することができると認められる。
ウ したがって、審判請求人の前記各主張は採用し得ないものである。
(4) 小括
以上によれば、本願発明は、引用発明、引用文献に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
7 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-007258