特許拒絶査定不服審判
2023-001909
IBS感受性試験の組成物、デバイスおよび方法
- 審判番号
- 2023-001909
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-218294
- 請求日
- 2023年02月03日
- 審決日
- 2024年01月23日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】バイオメリカ・インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人R&C
- 審判長/審判官
- 審判長 三崎 仁
- 審判官 松本 隆彦
- 審判官 石井 哲
- 分類
- P18 .113-Z (G01N) / P18 .121-Z (G01N) / P18 .561-Z (G01N) / P18 .572-Z (G01N) / P18 .575-Z (G01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第17条の2第3項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-218294「IBS感受性試験の組成物、デバイスおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔令和3年4月1日出願公開、特開2021-51093〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)11月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年11月14日、米国)を国際出願日とする特願2017-537318号の一部を、平成31年3月20日に新たな特許出願である特願2019-53221号とし、さらに、その一部を令和2年12月28日に新たな特許出願としたものであって、以降の手続の経緯は次のとおりである。
令和3年 4月 5日 上申書及び手続補正書の提出
令和4年 1月12日付け 拒絶理由通知
同 年 6月17日 意見書及び手続補正書の提出
同 年 9月21日付け 拒絶査定
令和5年 2月 3日 審判請求書及び手続補正書の提出
第2 令和5年2月3日提出の手続補正書でした手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年2月3日提出の手続補正書でした手続補正(以下、「本件補正」ともいう。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1の記載を、次のとおりにするものである。なお、下線は補正箇所を示す。
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。
「 過敏性腸症候群(IBS)と診断される患者または過敏性腸症候群(IBS)が疑われる患者における異なる複数の食物調製物に対するIgG反応性を試験するための検査キットパネルであって、
前記異なる複数の食物調製物が固定化されている、個別にアドレス指定可能な固相担体、からなり、
ここで、前記固相担体に固定されている前記異なる複数の食物調製物のそれぞれが0.07以下の未処理p値を有する、または、0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値を有し、
ここで、
前記p値は、以下の工程、
過敏性腸症候群と診断される、または、過敏性腸症候群が疑われる第1の患者検査群からの異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値または中央値を、過敏性腸症候群と診断されていないか、または、過敏症腸症候群が疑われていない第2の患者検査群からの前記異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値または中央値の少なくとも90パーセンタイル順位と比較する工程、により決定され、
前記免疫アッセイが、ELISAまたは抗体捕捉酵素免疫アッセイであり、
前記異なる複数の食物調製物の少なくとも2種が、ココア、茶、オート麦、キャベツ、牛乳、タマネギ、ハチミツ、ライ麦、トウモロコシ、酵母、小麦、大豆、卵、マグロ、レモン、パイナップル、キュウリ、オレンジ、オヒョウ、クルミ、グレープフルーツ、甘蔗糖、鶏肉、ブルーベリーおよびエビからなる群から選択される、検査キットパネル。」(以下「補正発明」という。)
(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和4年6月17日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「 過敏性腸症候群(IBS)と診断される患者または過敏性腸症候群(IBS)が疑われる患者におけるIgG反応性を試験するための検査キットパネルであって、
異なる複数の食物調製物が固定化されている、個別にアドレス指定可能な固相担体、からなり、
ここで、前記異なる複数の食物調製物それぞれが0.07以下の未処理p値を有する、または、0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値を有し、
前記異なる複数の食物調製物の少なくとも2種が、ココア、茶、オート麦、キャベツ、牛乳、タマネギ、ハチミツ、ライ麦、トウモロコシ、酵母、小麦、大豆、卵、マグロ、レモン、パイナップル、キュウリ、オレンジ、オヒョウ、クルミ、グレープフルーツ、甘蔗糖、鶏肉、ブルーベリーおよびエビからなる群から選択される、検査キットパネル。」(以下「本願発明」という。)
2 補正の適否
(1)新規事項追加の有無
ア 本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ、本願発明を特定するために必要な事項である「p値」について、
「前記p値は、以下の工程、
過敏性腸症候群と診断される、または、過敏性腸症候群が疑われる第1の患者検査群からの異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値または中央値を、過敏性腸症候群と診断されていないか、または、過敏症腸症候群が疑われていない第2の患者検査群からの前記異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値または中央値の少なくとも90パーセンタイル順位と比較する工程、により決定され、
前記免疫アッセイが、ELISAまたは抗体捕捉酵素免疫アッセイであ」ること(以下「p値特定事項」という。)と特定することを含んでいる。
イ 特許法17条の2第3項の規定により、明細書、特許請求の範囲又は図面について、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、当該明細書を「本願当初明細書」といい、特許請求の範囲及び図面を含めて「本願当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内でない新規事項を追加する補正はできないところ、「p値特定事項」が、本願当初明細書等に記載したものであるか、以下、検討する。
ウ 請求人は、審判請求書において、「p値特定事項」を追加する補正は、本願当初明細書の段落【0036】、【0050】等の記載に基づくものであると主張する。
しかし、本願当初明細書の段落【0036】には、「食物調製物の成分に結合したIgGまたは他のタイプの抗体を測定する工程が、免疫アッセイ試験(例えば、ELISA試験、抗体捕捉酵素免疫アッセイ、他のタイプの抗体捕捉アッセイなど)によって行われること」が記載されているものの、p値に関する記載はない。
また、本願当初明細書の段落【0050】には、「それぞれの食物についてのカットポイント選択のための統計学的方法」についての記載があり、コントロールシグナルスコアの90パーセンタイルと比較することが記載されているものの、これは、IBS患者の被験者が「陽性」として評価されるか否かのカットポイントについての記載であり、p値特定事項に関する記載ではない。また、段落【0061】以下に「「陽性」と宣言される食物の1人あたりの数の分布を決定するための方法」、段落【0063】以下に「診断成績を見積もるための方法」についての記載があるが、食物調製物のp値を決定することに関するものではなく、「p値特定事項」を記載するものではない。
次に、本願当初明細書の実施例(段落【0040】以下)についての記載をみると、段落【0045】に「食物抗原調製物を、・・・それぞれのマイクロタイターウェルに固定化した。アッセイのために、食物抗原を患者の血清中に存在する抗体と反応させ・・・た。IgG抗体結合を検出するために、酵素標識された抗IgG抗体コンジュゲートを抗原-抗体複合体と反応させ・・・カップリングされた酵素と反応する基質の添加によって発色させた。・・・色の強度が、特定の食物抗原に対して特異的なIgG抗体の濃度に正比例している。」との記載があり、段落【0046】以下に「IBSをコントロール被験者から識別するためのELISAシグナルの能力の順で順位づけされた食物リストを決定するための方法論」について記載され、段落【0047】に「試験した食物のそれぞれについて、残りのシグナルスコアを、50,000回の再サンプリングによる二標本t検定での並べ替え検定を使用してIBSとコントロールとの間で比較した。」との記載、「両側並び替えp値がそれぞれの食物についての未処理p値であった」との記載があり、未処理p値に関する記載といえる。また、同段落には、「比較間の偽発見率(FDR)を、どのような統計学的手法であれ、許容される統計学的手法(例えば、Benjamini-Hochberg、ファミリーワイズ過誤率(Family-wiseErrorRate;FWER)、比較あたり過誤率(PerComparisonErrorRate;PCER)など)によって調整した。」との記載があり、偽発見率(FDR)多重度調整p値に関する記載と認められる。
しかし、「p値特定事項」は、「p値」の「決定」に関し、「過敏性腸症候群と診断される、または、過敏性腸症候群が疑われる第1の患者検査群」からの「食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコア」の「平均値または中央値」を、「過敏性腸症候群と診断されないか、または過敏性腸症候群が疑われない第2の患者検査群」からの「食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコア」の「平均値または中央値」の「少なくとも90パーセンタイル順位」と「比較」するプロセスが関係することを意味する。「二標本t検定」が、標本データからt値と呼ばれる統計量を計算し、t値を利用して、2つのグループ間の母平均に差があるかどうかを検定する方法であり、これが技術常識であることを踏まえても、本願当初明細書の上記実施例についての記載からは、「p値」の「決定」に際し、上記「第一の患者検査群」からの「食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコア」と上記「第二の患者検査群」からの「食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコア」について、当該2つの検査群におけるIgG免疫アッセイスコアの「平均値」を比較することは理解できるとしても、「p値特定事項」における「第一の患者検査群」における「平均値または中央値」と「第二の患者検査群」における「平均値または中央値」の「少なくとも90パーセンタイル順位」とを比較することまでは意味しないし、自明でもない。
また、本願当初明細書等のその他の箇所にも「p値特定事項」は記載されていない。
エ 以上のとおりであるから 、本件補正により追加された「未処理p値特定事項」は、本願当初明細書等文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものということはできないから、本件補正は、本願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
(2)特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか
ア 本件補正は、本願発明を特定するために必要な事項である「p値」について、上記(1)に示したp値特定事項を加えて、p値を限定するものを含んでいるところ、本願発明と補正発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するといえる。
そうすると、補正発明は同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合する(特許出願の際独立して特許を受けることができる)ものでなければならない。
イ 補正発明が「検査キットパネル」という物の発明であり、「異なる複数の食物調製物が固定化されている、個別にアドレス指定可能な固相担体、からな」るものであることに照らすと、補正発明に記載される「検査キットパネル」の発明が物の発明として明確であるというためには、「食物調製物」について、「0.07以下の未処理p値を有する、または、0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値を有」すると特定することで、「食物調製物」の構造又は特性を明確に特定しているといえるものでなければならない。
ウ そこで検討するに、「p値」とは、技術常識によれば、統計学的仮説検定における概念であり、帰無仮説のもとで検定統計量がその値となる確率を意味するところ、補正発明には、「0.07以下の未処理p値」とされているから、検定統計量が7%以下であれば帰無仮説を棄却して対立仮説を採択する(有意差がある)とするものである。
このようなp値の概念に照らすと、「0.07以下の未処理p値」との特定は、「食物調製物」の構造又は特性を直接特定するものとはいえないことは明らかである。
そして、検定統計量として周知のものであり、本願明細書の段落【0047】にも記載の「二標本t検定」におけるt値が、母平均に差があるかどうかを検定したい2つの各グループにおける標本データの標本平均、不偏標準偏差、サンプルサイズから算出されることが技術常識であることを踏まえると、t値は、標本データ(IgG免疫アッセイスコア)をどのような試料についてどのような試験方法により取得するのかによって影響を受けるし、サンプル数によっても影響を受けるものであると認められる。
そうすると、本件補正により、2つの患者検査群から無作為に抽出した「食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコア」をデータとして用いることが特定され、「ELISAまたは抗体捕捉免疫アッセイ」により求められることが特定されたとしても、ELISAによるのか、それ以外の抗体捕捉免疫アッセイによるかによっても算出される検定統計量は異なり得るし、ELISAに限ったとしても如何なる試料を用いるのか、すなわち、血清、血漿、尿、唾液等のいずれを用いるのかによって、「IgG免疫アッセイスコア」は異なり得るし、母集団の人種、年齢、性別、病歴等が異なればそれによっても異なり得るものと認められる。
以上によれば、補正発明の記載によっても、「0.07以下の未処理p値を有する、または、0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値」を有する「食物調製物」の技術的範囲は一義的に定まらないし、同じ食物調製物であっても、上記p値の範囲内になる場合とならない場合があり得るから、「食物調製物」について、「0.07以下の未処理p値を有する、または、0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値」を有すると特定する記載は、「食物調製物」の構造又は特性を明確に特定するものとはいえない。
エ また、上記(1)で新規事項の追加に当たると判断した「p値特定事項」の記載を考慮したとしても、「第一の患者検査群」の「平均値または中央値」と「第二の患者検査群」の「平均値または中央値」の「少なくとも90パーセンタイル順位」とを比較することの技術的意義を理解することができず、「未処理p値」又は「偽発見率(FDR)多重度調整p値」を決定するプロセスを理解することができない。
オ 以上のとおり、補正発明の「異なる複数の食物調製物のそれぞれが0.07以下の未処理p値を有する、または、0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値を有し、ここで、前記p値は、以下の工程、過敏性腸症候群と診断される、または、過敏性腸症候群が疑われる第1の患者検査群からの異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値または中央値を、過敏性腸症候群と診断されていないか、または、過敏症腸症候群が疑われていない第2の患者検査群からの前記異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値または中央値の少なくとも90パーセンタイル順位と比較する工程、により決定され」る「食物調製物」を明確に特定できないことから、「異なる複数の食物調製物の少なくとも2種が、ココア、茶、オート麦、キャベツ、牛乳、タマネギ、ハチミツ、ライ麦、トウモロコシ、酵母、小麦、大豆、卵、マグロ、レモン、パイナップル、キュウリ、オレンジ、オヒョウ、クルミ、グレープフルーツ、甘蔗糖、鶏肉、ブルーベリーおよびエビからなる群から選択される」「食物調製物」以外の、上記「0.07以下の未処理p値を有する、または、0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値を有」する「食物調製物」があるのか、あるいは、あるとするとそれらは具体的にいかなる「食物調製物」であるのか不明であるから、結局のところ、補正発明の「異なる複数の食物調製物」を明確に特定することはできない。
カ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書で、「本願の出願当初の明細書の教示に基づいて、「0.07以下の未処理p値を有する」、「0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値を有する」との用語の意味内容を当業者は理解することができ、かかる特性によって定義付けられた食物調製物を当業者は明確に理解できるものと思料します。」と主張している。しかし、「未処理p値」や「偽発見率(FDR)多重度調整p値」の一般的な用語としての意味は理解できるものの、上記ウ~オで説示したように、「未処理p値」や「偽発見率(FDR)多重度調整p値」を用いて特定される食物調整物を明確に特定することができないから、上記主張は採用することができない。
キ 小括
よって、補正発明は不明確であるから、特許法36条6項2号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に違反し、また、同条6項において準用する同法126条7項の規定にも違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和5年2月3日提出の手続補正書でした手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和4年6月17日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明である本願発明は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由の要旨
(1)原査定の拒絶の理由のうちの理由1は、請求項1のp値により特定される食物調製物に含まれるものを明確に特定できるとはいえず、請求項1の食物調製物を明確に特定できるとはいえないから、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない、という理由を含むものである。
(2)原査定の拒絶の理由のうちの理由3及び理由4は、本願発明は、本願の出願(優先日)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許受けることができない(理由3)、及び、引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(理由4)、という理由を含むものである。
引用文献1:国際公開第2004/099785号
3 理由1(明確性)について
本件補正前の請求項1の「0.07以下の未処理p値を有する、または、0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値を有」すると特定する記載が、「食物調製物」の構造又は特性を明確に特定するものとはいえないことは、上記第2[理由]2(2)で検討したとおりである。
4 理由3(新規性)及び理由4(進歩性)について
(1)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)引用文献1には、以下の事項が記載されている。(翻訳は当審による。)
a (明細書1頁4~6行)
「The invention relates to an immunoassay for the detection of antibodies which bind food allergens the presence of which is linked to food intolerance. The invention also relates to a substrate for use with said immunoassay.」
(翻訳:本発明は、その存在が食物不耐性にリンクされている食物アレルゲンに結合する抗体の検出のためのイムノアッセイに関する。本発明はまた、イムノアッセイでの使用のための基板に関するものである。)
b (明細書1頁16~26行)
「The following will illustrate conditions caused, at least in part, by food intolerance.
Irritable bowel syndrome (IBS) is a chronic bowel disorder resulting from abnormal contractions of the large intestine. These contractions lead to spasms in the colon causing abdominal pain and irregular bowel movements. The symptoms can last for several days or even months. Research into the causes of IBS have not discovered any anatomical or biochemical abnormalities in the bowel of sufferers of IBS nor are there any specific tests to determine whether a person, or animal, is susceptible to IBS. The condition is not life threatening but can cause debilitation resulting in hospitalisation and absenteeism from work. It is thought that diet has an influence on the severity of IBS and that stress can also contribute.」
(翻訳:以下は、少なくとも部分的には、食物不耐性によって引き起こされる状態を説明するものである。
過敏性腸症候群(IBS)は、大腸の異常な収縮から生じる慢性的な炎症性腸疾患である。これらの収縮は結腸腹痛及び不規則な便通を引き起こす痙攣をもたらす。症状は、数日間または数ヶ月間継続することができる。IBSの原因に関する研究は、IBSの患者の腸のいずれかの解剖学的または生化学的異常を発見していないし、ヒトまたは動物は、IBSに感受性であるかどうかを決定するために、任意の特定の試験が存在する。この状態は、生命を脅かすものではないが、入院中に生じる衰弱と仕事を生じさせることができる。食餌は、IBSの重症度に影響を及ぼしているものと応力も寄与できるものと考えられる。)
c (明細書2頁25~29行)
「According to a first aspect of the invention there is provided a substrate to which is applied, coupled or cross-linked to at least one part of said substrate an allergen wherein said allergen is a protein derived from an extract selected from at least one of the following food groups: cereal, legume, cocoa bean, nut, fruit, vegetable, shellfish, fish, yeast, dairy product, egg and meat.」
(翻訳:本発明の第1の態様によれば、前記基板の少なくとも一部分にアレルゲンが適用、結合または架橋された基板が提供され、前記アレルゲンは、以下の食品群:穀類、豆類、ココア豆、ナッツ類、果実類、野菜類、貝類、魚類、酵母、乳製品、卵および肉類の少なくとも1つから選択される抽出物由来のタンパク質である。)
d (明細書2頁31~32行)
「The allergen may be selected from at least 2, 4, 6, 8, 10, or from all, of said food groups. In a preferred embodiment the allergen is a protein derived from an extract selected from each of cereal, legume, cocoa bean, nut, fruit, vegetable, shellfish, fish, yeast, dairy product, egg and meat.」
(翻訳:アレルゲンは、前記食品群の少なくとも2、4、6、8、10、または全てから選択され得る。好ましい実施形態では、アレルゲンは、穀類、豆類、ココア豆、ナッツ類、果物、野菜、貝類、魚類、酵母、乳製品、卵および肉類のそれぞれから選択される抽出物由来のタンパク質である。)
e (明細書5頁19~20行)
「In a preferred embodiment the allergen derived from each of the extracts is arranged as an array on said substrate. Preferably, the array is a microarray or a microdot.」
(翻訳:好ましい実施形態では、各抽出物由来のアレルゲンは、前記基板上にアレイとして配置される。好ましくは、アレイはマイクロアレイまたはマイクロドットである。)
f (明細書7頁11~27行)
「A preferred method according to the invention is the use of the so-called sandwich immunoassay. This involves mixing a body fluid sample with a biotin labelled food allergen and with gold-labelled avidin. The avidin has a high affinity for the biotinylated allergen. Bivalent antibodies which bind the biotin: avidin allergen complex present in the body fluid sample bind to the allergen present on the test substrate. The gold label serves as a visualisation agent. The sandwich method provides for a sensitive assay for the presence of allergen specific antibodies since only when the antibody forms a bridge between the biotin: allergen and the avidin: gold is a positive result obtained.
In a further preferred method of the invention said method detects an immunoglobulin. Preferably said immunoglobulin is selected from the following Ig isotypes: IgA, IgM, IgD, IgE and IgG.
In a yet further preferred method of the invention said immunoglobulin is IgG. Preferably said IgG is selected from the group consisting of: IgGl, IgG2, IgG3 or IgG4.」
(翻訳:本発明による好ましい方法は、いわゆるサンドイッチ免疫測定法の使用である。これは、体液試料をビオチン標識食物アレルゲンおよび金標識アビジンと混合することを含む。アビジンはビオチン標識アレルゲンに対して高い親和性を有する。体液サンプル中に存在するビオチン:アビジンアレルゲン複合体に結合する二価抗体は、検査基質上に存在するアレルゲンに結合する。金標識は可視化剤として機能する。抗体がビオチン:アレルゲンとアビジン:金の間に架橋を形成した場合にのみ陽性結果が得られるので、サンドイッチ法はアレルゲン特異的抗体の存在に対する高感度アッセイを提供する。
本発明のさらに好ましい方法では、前記方法は免疫グロブリンを検出する。好ましくは、前記免疫グロブリンは、以下のIgアイソタイプから選択される: IgA、IgM、IgD、IgEおよびIgG。
本発明のさらに好ましい方法では、前記免疫グロブリンはIgGである。好ましくは、前記IgGは、以下からなる群から選択される: IgGl、IgG2、IgG3またはIgG4。)
g (明細書9頁6~10行)
「The food allergens for inclusion in the panel were selected from an examination of the frequency of IgG positivity in preliminary experiments with a larger panel of food allergens. The following 29 food allergens were selected:
[図:0001411848000001.jpg]
」
(翻訳:パネルに含めるための食物アレルゲンは、食物アレルゲンのより大きなパネルを用いた予備実験で、IgG陽性の頻度の試験から選択した。以下の29種類の食物アレルゲンを選択した。
大麦、トウモロコシ、米、ライ麦、小麦、牛乳、牛肉、鶏肉、豚肉、キャベツ、セロリ、ハリマメ、エンドウ豆、ジャガイモ、大豆、トマト、リンゴ、オレンジ、イチゴ、アーモンド、ブラジルナッツ、カシューナッツ、ピーナッツ、クルミ、ココア豆、(ビール)酵母、貝類のミックス、白身魚のミックス、全卵)
(イ)引用発明
上記(ア)の摘記事項(特に下線部参照)によれば、引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる(以下「引用発明」という。)。
「食物不耐性にリンクされている食物アレルゲンに結合する抗体の検出のためのイムノアッセイでの使用のための基板であって、
少なくとも一部分にアレルゲンが適用、結合または架橋され、アレルゲンがアレイとして配置された基板アレルゲンは、以下の食品群:穀類、豆類、ココア豆、ナッツ類、果実類、野菜類、貝類、魚類、酵母、乳製品、卵および肉類の少なくとも2、4、6、8、10、または全てから選択され得る抽出物由来のタンパク質であり、
検出する抗体は、免疫グロブリンであり、IgGである、
基板。」
(2)対比、判断
ア 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明において「アレルゲンは、以下の食品群:穀類、豆類、ココア豆、ナッツ類、果実類、野菜類、貝類、魚類、酵母、乳製品、卵および肉類の少なくとも2、4、6、8、10、または全てから選択され得る抽出物由来のタンパク質」である複数種のアレルゲンであり、「アレイとして配置され」ることは、アドレス指定可能であるといえるから、複数種の「アレルゲンが適用、結合または架橋され、アレルゲンがアレイとして配置された「イムノアッセイでの使用のための基板」は、本願発明の「異なる複数の食物調製物が固定化されている、個別にアドレス指定可能な固相担体、からな」る「検査キットパネル」に相当する。
(イ)引用発明において、「基板」に「適用、結合または架橋され」る「アレルゲン」は、「以下の食品群:穀類、豆類、ココア豆、ナッツ類、果実類、野菜類、貝類、魚類、酵母、乳製品、卵および肉類の少なくとも2、4、6、8、10、または全てから選択され得る抽出物由来のタンパク質」と特定されることから、引用発明には、挙げられた食品群の2種以上の全ての組み合わせが含まれるものであり、例えば、ココア豆(本願発明の「ココア」に相当する。)、酵母及び卵の3つの食品群の組み合わせからなる「抽出物由来のタンパク質」が「アレルゲン」として、「適用、結合または架橋され」た「基板」が含まれる。
ここで、引用発明の一例である上記ココア豆、酵母及び卵の3つの食品群の組み合わせは、本願発明の「異なる複数の食物調製物の少なくとも2種が、ココア、茶、オート麦、キャベツ、牛乳、タマネギ、ハチミツ、ライ麦、トウモロコシ、酵母、小麦、大豆、卵、マグロ、レモン、パイナップル、キュウリ、オレンジ、オヒョウ、クルミ、グレープフルーツ、甘蔗糖、鶏肉、ブルーベリーおよびエビからなる群から選択される」ものにおける「異なる複数の食物調製物」として「ココア」、「酵母」及び「卵」を選択した場合に相当する。そして、上記第2 2(2)で述べたように、本願発明の「異なる複数の食物調製物」が「0.07以下の未処理p値を有する、または、0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値を有」することは不明確であるものの、食物調整物の組み合わせが同じである以上、引用発明の上記ココア豆、酵母及び卵の3つの食品群の組み合わせも本願発明の「0.07以下の未処理p値を有する、または、0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値を有」することを満たしうるものといえる。
(ウ)引用発明は、「IgG」を検出するためのものであるから、本願発明の「IgG反応性を試験するため」のものに相当するといえる。
(エ)そうすると、本願発明と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「IgG反応性を試験するための検査キットパネルであって、
異なる複数の食物調製物が固定化されている、個別にアドレス指定可能な固相担体、からなり、
ここで、前記異なる複数の食物調製物それぞれが0.07以下の未処理p値を有する、または、0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値を有し、
前記異なる複数の食物調製物が、ココア、酵母、卵である、検査キットパネル。」
(相違点)
「IgG反応性を試験するための検査キットパネル」の対象に関して、本願発明は、「過敏性腸症候群(IBS)と診断される患者または過敏性腸症候群(IBS)が疑われる患者」を対象としているのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。
イ 相違点の判断上記相違点について検討する。
上記4(1)ア(ア)bで摘記したように、引用文献1の明細書16~26行には、食物不耐性によって引き起こされるものとして、「過敏性腸症候群」が記載されており、引用文献1には、引用発明の基板(検査キットパネル)を使用する対象者として、過敏性腸症候群の患者であることが示されていることから、上記相違点は、実質的な相違点であるとはいえない。また、仮に、引用発明の基板を過敏性腸症候群の患者の検査に使用することが直接記載されているとはいえないとしても、少なくとも示唆されているとはいえるので、引用発明の基板を使用する対象者として、過敏性腸症候群(IBS)と診断される患者または過敏性腸症候群(IBS)が疑われる患者とすることは当業者が容易に想到しうることである。
なお、ココア、酵母、卵以外の食物を選択することについても以下のとおり当業者が容易に想到しうることである。
引用文献1の9頁10行(4(1)ア(ア)gの摘記参照。)には、引用発明で採用しうる食物群中の具体的な食物として、29種の食物が挙げられており、これらの食物の中から、適宜選択し、(本願発明の選択肢として特定されている)ココア豆、キャベツ、牛乳、ライ麦、トウモロコシ、酵母、小麦、大豆、卵、オレンジ、鶏肉のいずれか複数からなるものとすることは当業者が容易に想到しうることである。
ウ 本願発明の効果について
本願発明の効果として、本願明細書には、IBS患者においてIgG反応性を低減/排除するために当該患者の食事から排除できる食物調製物を特定できる(【0055】~【0056】)ことが記載されている。しかし、引用発明は「食物不耐性にリンクされている食物アレルゲンに結合する抗体の検出のため」のものであり、上記イで説示したように腸過敏性症候群の患者を対象とするものであるから、引用発明を用いた検査結果により、腸過敏性症候群の患者における食物不耐性である食物が特定できることは当業者が十分に予想しうることであるから、本願発明の上記効果が格別顕著であるとは認められない。
エ 請求人の主張について
(ア)請求人は、審判請求書で、以下の主張をしている。
主張1:(新規性)「引用文献1によって教示される29の食物調製物のうち、少なくとも34%の食物調製物(即ち、米、牛肉、豚肉、セロリ、ジャガイモ、トマト、リンゴ、アーモンド、カシューナッツ、および、ピーナッツ)は、本願発明で規定されたp値を満たしていないことから、本願発明の範囲内に含まれるものではありません。・・・引用文献1には、当該「固相担体に固定(連結)されている異なる複数の食物調製物のそれぞれが0.07以下の未処理p値を有する、または、0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値を有する」複数の食物調製物からなる検査キットパネルを教示していないことから、引用文献1の記載の発明は、本願発明とは相違するものであると思料します。」
主張2:(進歩性)「引用文献1は、本願発明によって解決された技術的課題、即ち、IBS患者においてIgG反応性を低減/排除するために当該患者の食事から排除できる食物調製物を正確かつ効率的な特定するための優れた予測力を備えた信頼性の高い分析ツールを提供するとの技術的課題を解決することを試みるものではないと思料します。審査官殿のご見解に反して、検査キットパネルに含める食物調製物を選択するために、IBS患者群(IBSと診断される患者またはIBSが疑われる患者群)と対照群(IBSと診断されていないか、または、過敏症腸症候群と疑われていない患者群)からの、異なる複数の食物調製物についてのIgGイムノアッセイスコアの平均または中央値を比較することについての教示または提案が引用文献1にはなされていないことから、当業者は、引用文献1の記載に基づいては本願発明を想到し得なかったものと思料します。」
(イ)上記主張について検討する。
a 主張1について
引用発明は、29種の食物調整物全てを含むものに限定されず、4(2)ア(イ)で説示したように、「前記異なる複数の食物調製物が、ココア、酵母、卵である」ものを含みうる、つまり、本願発明の「固相担体に固定(連結)されている異なる複数の食物調製物のそれぞれが0.07以下の未処理p値を有する、または、0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値を有する」という特定事項を満たす食物調整物のみからなるものを含むものであるから、請求人の主張1は採用することができない。
b 主張2について
上記主張2のうち、IgGイムノアッセイスコアに関する部分は、令和5年2月3日提出の手続補正書でした手続補正で限定された事項に関するものであり、この手続補正は、上記第2のとおり、却下された。そして、上記イで説示したように、引用文献1で挙げられている29種の食物調整物のうち適宜数種を選択し、(本願発明の選択肢として特定されている)ココア豆、キャベツ、牛乳、ライ麦、トウモロコシ、酵母、小麦、大豆、卵、オレンジ、鶏肉のいずれか複数からなるものとすることは当業者が容易に想到しうることであり、請求人の主張2は採用することができない。
オ 小括
よって、本願発明は、引用発明であるか、又は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法36条条6項2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
また、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許受けることができない。さらに、引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-001909