特許拒絶査定不服審判
2022-003621
潰瘍性大腸炎感受性試験の組成物、デバイスおよび方法
- 審判番号
- 2022-003621
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-556307
- 請求日
- 2022年03月09日
- 審決日
- 2023年08月07日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】バイオメリカ・インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人R&C
- 審判長/審判官
- 審判長 石井 哲
- 審判官 松本 隆彦
- 審判官 渡戸 正義
- 分類
- P18 .537-WZ (G01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-556307「潰瘍性大腸炎感受性試験の組成物、デバイスおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月2日国際公開、WO2017/189338、令和元年6月6日国内公表、特表2019-515275〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)4月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年4月26日、米国)を国際出願日とする出願であって、令和2年4月20日及び同年5月22日に手続補正書が提出され、令和3年2月22日付けの拒絶理由の通知に対し、同年8月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、令和4年3月9日に審判の請求がされると同時に手続補正がなされ、その後、当審において同年11月15日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和5年5月22日に意見書及び手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。なお、下線は本件補正による補正箇所を示す。
「 【請求項1】
潰瘍性大腸炎と診断される患者または潰瘍性大腸炎が疑われる患者において食物感受性を試験するための検査キットパネルであって、
それぞれの食物調製物が個々にアドレス可能な固相担体に独立して固定された、複数の異なる食物調製物からなり、
前記固相担体に固定された複数の異なる食物調製物の全てが、潰瘍性大腸炎に関連する症状の誘因に関して、0.07以下の未処理p値を示し、
前記検査キットパネルは、少なくとも6種の異なる食物調製物を含み、
前記異なる食物調製物の少なくとも1種がグリンピース、カンタロープ、うずら豆、キュウリ、ニンジン、オレンジ、アーモンド、および、イワシからなる群から選択され、
前記未処理p値が、両側統計学的検定を用いて、潰瘍性大腸炎と診断される、または、潰瘍性大腸炎が疑われる第一の患者検査群からの異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値を、潰瘍性大腸炎と診断されない、または潰瘍性大腸炎が疑われない第二の患者検査群からの前記異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値と比較することを含むプロセスによって決定され、
前記免疫アッセイは、ELISAである、検査キットパネル。」
第3 当審拒絶理由の概要
1.(新規事項)令和4年3月9日付け手続補正書でした補正は、国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下「翻訳文等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(同法第184条の12第2項参照)。
理由1については、要すれば、「0.07以下の未処理p値」について、「前記p値が、潰瘍性大腸炎と診断される、または、潰瘍性大腸炎が疑われる第一の患者検査群からの異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値または中央値を、潰瘍性大腸炎と診断されない、または潰瘍性大腸炎が疑われない第二の患者検査群からの前記異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値または中央値の少なくとも90パーセンタイル順位と比較することを含むプロセスによって決定され、前記免疫アッセイは、ELISAまたは抗体捕捉免疫アッセイである」ことが、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものということはできないことを説示したものである。
2.(明確性)本件出願は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
・請求項1~5
理由2については、以下のとおり指摘している。
「請求項1に「前記複数の異なる食物調製物が、それぞれ、0.07以下の未処理p値を有し」との記載がある。
請求項1に記載される発明が「検査キットパネル」という物の発明であり、「複数の異なる食物調製物」からなるものであることに照らすと、請求項1に記載される「検査キットパネル」の発明が物の発明として明確であるというためには、「食物調製物」について、「0.07以下の未処理p値を有」すると特定することで、「食物調製物」の構造又は特性を明確に特定しているといえるものでなければならない。
そこで検討するに、「p値」とは、統計学的仮説検定における概念であり、帰無仮説のもとで検定統計量がその値となる確率のことであるところ、本件請求項1には、「0.07以下の未処理p値」とされているから、検定統計量が7%以下であれば帰無仮説を棄却して対立仮説を採択する(有意差がある)とするものである。このようなp値の概念に照らすと、「0.07以下の未処理p値」との特定は、「食物調製物」の構造又は特性を直接特定するものではないことは明らかである。
そして、検定統計量として周知のものであり、本願明細書の段落【0045】にも記載の「二標本t検定」におけるt値が、母平均に差があるかどうかを検定したい2つの各グループにおける標本データの標本平均、不偏分散、サンプルサイズから算出されることが技術常識であることを踏まえると、t値は、標本データ(免疫アッセイスコア)をどのような試料について、どのような試験方法により取得するのかによって影響を受けるし、サンプル数によっても影響を受けるものであると認められる。
そうすると、本件補正により、2つの患者検査群から無作為に抽出した「食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコア」をデータとして用いることが特定され、「ELISAまたは抗体捕捉免疫アッセイ」により求められることが特定されているとしても、ELISAによるのか、それ以外の抗体捕捉免疫アッセイによるかによっても算出される検定統計量は異なり得るし、ELISAに限定したとしても如何なる試料を用いるか、すなわち、血清、血漿、尿、唾液等のいずれを用いるのかによって、「IgG免疫アッセイスコア」は異なり得るし、母集団の人種、年齢、性別等が異なれば、それによっても異なり得るものと認められる。
以上によれば、請求項1の記載全体によっても、「0.07以下の未処理p値」を有する「食物調製物」の技術的範囲は一義的に定まらないし、同じ食物調製物であっても「0.07以下の未処理p値」になる場合とならない場合があり得るから、「食物調製物」について、「0.07以下の未処理p値を有」すると特定する記載は、「食物調製物」の構造又は特性を明確に特定するものとはいえない。」
3.(進歩性)本件出願の以下の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・請求項 1~7
・引用文献等 1~3
<引用文献等一覧>
1.CAI Chenwen et al., Serological Investigation of Food Specific Immunoglobulin G Antibodies in Patients with Inflammatory Bowel Diseases, 2014, PLOS ONE, Vol.9, No.11, e112154
2.国際公開第2010/101255号
3.米国特許出願公開第2006/0013773号明細書
第4 当審の判断
事案に鑑み、理由2について検討する。
1 本件補正について
本件補正は、請求項1について、以下の補正事項を有するものである。
(1)補正事項1
複数の異なる食物調製物のそれぞれについて、「前記固相担体に固定された複数の異なる食物調製物の全てが、潰瘍性大腸炎に関連する症状の誘因に関して0.07以下の未処理p値を示」すものとする。
(2)補正事項2
未処理p値について、「両側統計学的検定を用いて」決定されるとする。
(3)補正事項3
「・・・第一の患者検査群からの異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値または中央値を、・・・第二の患者検査群からの前記異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値または中央値の少なくとも90パーセンタイル順位と比較する」において、(「IgG免疫アッセイスコアの」)「中央値」と「少なくとも90パーセンタイル順位」を削除して、「・・・第一の患者検査群からの異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値を、・・・第二の患者検査群からの前記異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値と比較する」とする。
(4)補正事項4
免疫アッセイについて、「ELISAまたは抗体捕捉免疫アッセイ」から「抗体捕捉免疫アッセイ」を削除して、「ELISA」とする。
2 補正を踏まえた検討
本願発明は「それぞれの食物調製物が個々にアドレス可能な固相担体に独立して固定された、複数の異なる食物調製物からな」る「検査キットパネル」の発明、つまり物の発明であることから、本願発明が明確であるというためには、未処理p値が明確であるかではなく、「個々にアドレス可能な固相担体に独立して固定」される「複数の異なる食物調製物」が明確に特定されなければならないことは明らかである。
補正事項1~4は、「個々にアドレス可能な固相担体に独立して固定」される「複数の異なる食物調製物」の特定に関係する事項であるから、補正事項1~4の記載を含む請求項1全体の記載をもって「個々にアドレス可能な固相担体に独立して固定」される「複数の異なる食物調製物」が明確であるかを以下に検討する。
(1)「前記固相担体に固定された複数の異なる食物調製物の全てが、潰瘍性大腸炎に関連する症状の誘因に関して、0.07以下の未処理p値を示し、」について
ア 補正事項1を含む「前記固相担体に固定された複数の異なる食物調製物の全てが、潰瘍性大腸炎に関連する症状の誘因に関して0.07以下の未処理p値を示し」という記載、特に、「潰瘍性大腸炎に関連する症状の誘因」に関する記載として、本願明細書に、以下のとおり記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。
「 【0004】
食物過敏性は、とりわけ食物過敏性が潰瘍性大腸炎(一種の炎症性腸疾患)に関連するような場合には、血液および粘液が混じる下痢を伴って現れることが多く、潰瘍性大腸炎の根本的原因が医療界では十分に理解されていない。最も典型的には、潰瘍性大腸炎は、炎症状態を特定するための血液検査または電解質検査ととともに内視鏡検査および放射線学的検査によって診断される。残念ながら、潰瘍性大腸炎の処置は多くの場合、有効といえるものはなく、免疫抑制的または免疫変調的な影響に起因する新たな困難が現れることがある。他の1つまたは複数の食物品目を除外することもまた、その症状の発生および/または重篤度を少なくとも低下させることにおいて有望であることが示されている。しかしながら、潰瘍性大腸炎は多くの場合、症状を誘発する食料品に関して極めて多様であり、誘因食品品目を妥当な程度の確実性で特定することを助けるための標準化された検査は何ら知られておらず、そのため、そのような患者は多くの場合、試行錯誤にゆだねられている。」
上記本願明細書の記載を踏まえると、本願発明の「潰瘍性大腸炎に関連する症状」は、「血液および粘液が混じる下痢」や「炎症状態」であると解さるので、「潰瘍性大腸炎に関連する症状の誘因に関して0.07以下の未処理p値を示」す「食物調製物」とは、このような症状(「血液および粘液が混じる下痢」や「炎症状態」)を誘因する可能性が高い食物調製物といえる。
一方、本願明細書の実施例では、潰瘍性大腸炎と診断される又は疑われる患者と潰瘍性大腸炎と診断されない又は疑われない健常者とで、複数種の異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値を比較し、p値を求めているだけであり、潰瘍性大腸炎と診断される患者が、どのような食物調製物で潰瘍性大腸炎の症状を呈するか否かのデータについては開示がないこと、及び、IgG免疫アッセイスコアが高ければ、潰瘍性大腸炎の症状を呈するとは必ずしもいえないことを考慮すると、実施例で開示されるデータから、潰瘍性大腸炎の症状を誘因する可能性が高い食物調製物を特定することはできない。
イ また、IgG免疫アッセイスコアであるELISAスコアについて、本願明細書に、
「 【0047】
以前の実験に基づいて(ここではデータは示されず、米国特許出願第62/327932号を参照のこと)、本発明者らは、試験した同じ食物調製物についてさえ、少なくともいくつかの食品品目についてはそれらのELISAスコアが劇的に変動するであろうことを意図する。例示的な未処理データを表3に示す。したがって、容易に理解されるはずであるように、性別によって階層化されていないデータは、同じカットオフ値が男性データおよび女性データについての未処理データに適用される場合には意味のある説明力を失うことになる。したがって、そのような短所を克服するために、本発明者らは、データを下記で記載されるように性別によって階層化することを意図する。」
と記載されており、この記載で引用される表3は、
「 【0073】
【表3-1】
[図:0001405195000001.jpg]
【0074】
【表3-2】
[図:0001405195000002.jpg]
・・・(途中省略)・・・
【0080】
【表3-8】
[図:0001405195000003.jpg]
【0081】
【表3-9】
[図:0001405195000004.jpg]
・・・(途中省略)・・・
【0087】
【表3-15】
[図:0001405195000005.jpg]
」である。
段落【0047】及び表3の記載から、男女別における各食物のELISAスコアの平均、SD、最小及び最大について記載されるとともに、診断(潰瘍性大腸炎、コントロール、差分)について記載されているが、潰瘍性大腸炎の症状を誘因する可能性が高い食物調製物と、0.07以下の未処理p値を示す食物調製物との関係が不明確であり、表3を参照しても、本願発明の「前記固相担体に固定され」、「潰瘍性大腸炎に関連する症状の誘因に関して0.07以下の未処理p値を示」す「複数の異なる食物調製物」が、明確に特定できるものではない。
ウ さらに、本願明細書の表2は、
「【0070】
【表2-1】
[図:0001405195000006.jpg]
【0071】
【表2-2】
[図:0001405195000007.jpg]
【0072】
【表2-3】
[図:0001405195000008.jpg]
」
であり、これはFDR調整を伴う並び替えT検定p値に従う食物の順位付けについての表であって、そこには各食物における未処理p値及びFDR多重度調整p値について記載されており、そして、表2について本願明細書には、
「 【0036】
上記のように、また、発明の主題に限定することはないが、異なる食物調製物には、表2の食物1~食物58および/または表1の品目からなる群から選択される食品品目から調製される少なくとも2種(または6種または10種または15種)の食物調製物が含まれることが意図される。他方で、新しい食品品目を試験する場合、異なる食物調製物は、表2の食物1~食物58とは異なる食物品目から調製される食物調製物を含むことが理解されなければならない。しかしながら、食品品目の特定の選定にもかかわらず、異なる食物調製物は、未処理p値によって判定される場合には0.07以下(または0.05以下または0.025以下)の平均判別p値、または、FDR多重度調整p値によって判定される場合には0.10以下(または0.08以下または0.07以下)の平均判別p値を有することが一般に好ましい。例示的な様々な局面およびプロトコル、ならびに考察が、下記の実験説明において提供される。」と記載されている。
表2を参照すると、未処理p値が0.07以下の食物が58種類記載されているが、これらの58種類の食物の全てが潰瘍性大腸炎の症状を誘発する食物であるとの検証を本願明細書ではしておらず、また、これら未処理p値が0.07以下の58種類の食物が、潰瘍性大腸炎の症状を誘発する食物であるとの技術常識もない。
本願発明において、具体的な食物調製物については、「前記異なる食物調製物の少なくとも1種がグリンピース、カンタロープ、うずら豆、キュウリ、ニンジン、オレンジ、アーモンド、および、イワシからなる群から選択され、」と特定されるにとどまり、これらの食物調製物以外の食物調製物が含まれることを除外しておらず、表2のリスト中の食物調製物の範囲内に限定されることも特定されてないが、仮に、表2を参照して、58種類の「0.07以下の未処理p値を示」す食物調製物に限定され、その範囲内で選択できるにしても、それは(潰瘍性大腸炎の症状の誘因との関連が不明な)IgG免疫アッセイスコアに係る未処理p値に基づく選択であって、「潰瘍性大腸炎の症状を誘因」する食物とはいえず、本願発明の「潰瘍性大腸炎に関連する症状の誘因に関」するものではないから、表2を参照しても、本願発明の「前記固相担体に固定され」、「潰瘍性大腸炎に関連する症状の誘因に関して0.07以下の未処理p値を示」す「複数の異なる食物調製物」が、明確に特定できるものではない。
エ 以上のことから、補正事項1を含む「前記固相担体に固定された複数の異なる食物調製物の全てが、潰瘍性大腸炎に関連する症状の誘因に関して0.07以下の未処理p値を示し」という記載では、検査キットパネルを構成する「複数の異なる食物調製物」が何であるのか特定することはできない。
(2)未処理p値の決定に関する記載について
ア 補正事項2~4を含む「前記未処理p値が、両側統計学的検定を用いて、潰瘍性大腸炎と診断される、または、潰瘍性大腸炎が疑われる第一の患者検査群からの異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値を、潰瘍性大腸炎と診断されない、または潰瘍性大腸炎が疑われない第二の患者検査群からの前記異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値と比較することを含むプロセスによって決定され、
前記免疫アッセイは、ELISAまたは抗体捕捉免疫アッセイである」という記載は、未処理p値の決定方法を特定する記載である。
イ 未処理p値の決定に関する記載として、本願明細書に、以下のとおり記載されている。
「 【0045】
食物不耐性パネルのために最終的に選択される食物は特定の性について特異的ではないであろうから、性的中立な食物リストが必要である。認められたサンプルは少なくとも最初は性別によって不均衡であろうから(例えば、コントロール:40%が女性、潰瘍性大腸炎:55%が女性)、厳密に性別に起因するELISAシグナルの大きさにおける違いが、二標本t検定を使用し、かつ、残りをさらなる分析のために保存して、シグナルスコアを性別に対してモデル化することによって除かれるであろう。試験した食物のそれぞれについて、残りのシグナルスコアが、比較的大きい再サンプリング回数(例えば、1,000回超、より好ましくは10,000回超、一層より好ましくは50,000回超)による二標本t検定での並べ替え検定を使用して潰瘍性大腸炎とコントロールとの間で比較されるであろう。サッタースウェイト近似をその後、分散の等質性の欠如を説明するための分母自由度のために使用することができ、両側並び替えp値がそれぞれの食物についての未処理p値を表すであろう。比較間の偽発見率(FDR)が、どのような統計学的手法であれ、許容される統計学的手法(例えば、Benjamini-Hochberg、ファミリーワイズ過誤率(Family-wise Error Rate;FWER)、比較あたり過誤率(Per Comparison Error Rate;PCER)など)によって調整されるであろう。
【0046】
その後、食物をそれらの両側FDR多重度調整p値に従って順位づけした。調整p値が所望のFDR閾値と同等以下である食物を、コントロール被験者よりも有意に大きいシグナルスコアを潰瘍性大腸炎の被験者の中で有すると見なし、したがって、食物不耐性のパネルに含める候補物であると見なす。この統計学的手法の成果を代表する代表的な結果を表2に示す。この場合、食物の順位づけは、FDR調整を伴う両側並び替えT検定p値に従っている。」
これらの記載を参照するに、t検定と並び替え検定は異なる検定であるが、共に母平均に関する検定であり、「両側並び替えp値」が、その名称から「並び替え検定」により求められたp値であると推測されることから、両側統計学的検定には、様々な検定方法が存在し、検定方法によりp値は異なるものの、未処理p値について「両側統計学的検定を用いて、潰瘍性大腸炎と診断される、または、潰瘍性大腸炎が疑われる第一の患者検査群からの異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値を、潰瘍性大腸炎と診断されない、または潰瘍性大腸炎が疑われない第二の患者検査群からの前記異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値と比較することを含むプロセスによって決定」するとは、潰瘍性大腸炎とコントロールの2群のシグナルスコアについて「並べ替え検定」を使用し、「両側並び替えp値」を未処理p値とすることをその決定方法の一つとして含むことが一応理解される。
しかしながら、補正事項4により試験方法が「ELISA」に限定されたものの、標本データをどのような試料について、取得するのかによって影響を受けることには変わりはないし、サンプル数や属性によっても影響を受けるものである。そうすると、未処理p値について「両側統計学的検定を用いて」決定されるものとしても、いかなる試料を用いるか、すなわち、血清、血漿、尿、唾液等のいずれを用いるのかによって、「IgG免疫アッセイスコア」は異なり得るし、想定する母集団の人種、年齢、性別等が異なれば、それによっても異なり得るものであることには変わりはない。
ウ また、本願発明は、表2における未処理p値が0.07以下の食物から食物調製物を選択することを特定するものではなく、一応、上記理解のもと、「食物不耐性のパネルに含める候補物であると見なす」食物調製物を決めるとしても、「食物不耐性」とは、本願明細書の【0002】に「本発明の分野は食物不耐性についての感受性試験であり、とりわけ、本発明の分野は、選択された食品品目を、潰瘍性大腸炎と診断される患者または潰瘍性大腸炎が疑われる患者のために誘因食物として試験すること、および、可能であれば除外することに関する。」と記載されていることからすると「食物不耐性のパネルに含める候補物」とは、上記(1)で述べた「潰瘍性大腸炎の症状を誘因する可能性が高い食物調製物」とも解されることになる。
そうすると、上記(1)で述べたとおり、本願明細書の実施例では、潰瘍性大腸炎と診断される又は疑われる患者と潰瘍性大腸炎と診断されない又は疑われない健常者とで、異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値を比較して、p値を求めているだけであり、これらの実施例の結果から、潰瘍性大腸炎の症状を誘発する食物調製物を特定することはできないのであるから、未処理p値について「両側統計学的検定を用いて」決定する手順は、統計学的には一応理解できるものの、これらの実施例の結果から、潰瘍性大腸炎の症状を誘発する食物調製物を特定することはできなし、上記イで検討したように未処理p値を決定する手順が定まるとしても、試料、サンプル数、母集団の属性などにより未処理p値が異なりうるものであるから、未処理p値によって決定される食物調製物の範囲が一義的に決まらないので、「食物不耐性のパネルに含める候補物」、つまり「潰瘍性大腸炎の症状を誘因する可能性が高い食物調製物」を明確に特定できない。
(3)小括
以上(1)~(2)で検討したように、本願発明の「検査キットパネル」における「前記固相担体に独立して固定された、複数の異なる食物調製物」は、請求項1の記載により明確に特定されるものではない。
また、「潰瘍性大腸炎と診断される患者または潰瘍性大腸炎が疑われる患者において食物感受性を試験するための検査キットパネル」において、「潰瘍性大腸炎に関連する症状の誘因に関して、0.07以下の未処理p値を示」す食物調製物を特定できるという技術常識もなく、検査キットパネルを構成する「前記固相担体に固定された複数の異なる食物調製物」について、「グリンピース、カンタロープ、うずら豆、キュウリ、ニンジン、オレンジ、アーモンド、および、イワシ」以外に具体的に何が含まれるのか特定することはできないことから、第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがあるものである。
よって、本件補正により補正された請求項1に係る「検査キットパネル」の発明は、依然として明確なものではない。
3 請求人の主張について
請求人は、上記第3の理由2について、令和5年5月22日提出の意見書において、以下の主張をしている。
「本願の出願当初の明細書等は、
(i)個人の特性による相違に対する制御
(ii)IgG応答データの正規化、
の両方によって、必要に応じて、免疫アッセイの読み取り値の変動に対して如何に対処するかに関する十分なガイダンスを提供するものであると思料します。」
(1)上記(i)の主張について検討する。
請求人は、同意見書において「本願の出願当初の明細書等は、追加的な個人の特性を制御するプロセスを詳細に説明しています。例えば、本願の出願当初の明細書の段落[0045]には、性別に対して如何に対処するかについてのプロセスを詳細に説明します。このような性別による階層化の代表的な例は、少なくとも出願当初の明細書の表4および出願当初の図1~5において確認することができます。」と主張しており、明細書の段落【0045】には、「食物不耐性パネルのために最終的に選択される食物は特定の性について特異的ではないであろうから、性的中立な食物リストが必要である。認められたサンプルは少なくとも最初は性別によって不均衡であろうから(例えば、コントロール:40%が女性、潰瘍性大腸炎:55%が女性)、厳密に性別に起因するELISAシグナルの大きさにおける違いが、二標本t検定を使用し、かつ、残りをさらなる分析のために保存して、シグナルスコアを性別に対してモデル化することによって除かれるであろう。」と記載されている。
しかし、請求項1においては、「両側統計学的検定を用いて」と特定されているものの、段落【0045】で言及されている「モデル化」については特定されておらず、明細書においても「モデル化」については具体的に説明されていない。そして、本願明細書の表4において、性別により90パーセンタイル値、95パーセンタイル値が異なることが示されているように、IgG免疫アッセイスコアは性別により差があるものである。統計処理において、取得される標本において属性に大きな偏りがあれば、再サンプリング(サンプリングした標本から、更に標本を抽出すること)多数回を行ったとしても、偏りの影響はなくならないことを踏まえれば、上記第3の理由2で述べたように、母集団や取得した標本の属性等により、「0.07以下の未処理p値を示」す「食物調製物」の範囲は異なりうるものである。
また、請求人は、同意見書において「かかる階層化の方法論は、出願当初の明細書の段落[0028]に示めされている人種又年齢等を含めた個人の特性を制御することに適用できることは、本願の特許請求の範囲および出願当初の明細書等に記載に基づいて当業者は理解できるものと思料します。」とも主張しているが、階層化の「方法論」としては、人種又は年齢等を含めた個人の特性を制御することに適用できる可能性があることは否定しきれないが、結局のところ、上記2(1)で述べたように、本願明細書の実施例の結果から、潰瘍性大腸炎の症状を誘因する可能性が高い食物調製物を特定することはできず、「複数の異なる食物調製物のそれぞれが、「潰瘍性大腸炎に関連する症状の誘因に関して、0.07以下の未処理p値を示」す「複数の異なる食物調製物」が明確に特定できないことには変わりはない。
よって、上記(i)の主張を採用することはできない。
(2)上記(ii)の主張について検討する。
上記(ii)の主張については、IgG応答データの正規化については、個人間のELISAによる免疫アッセイへの応答感度のばらつきを抑制するための処理であるとは認められるが、サンプルの属性(性別、年齢、人種)に起因するアッセイスコアそのものの影響が抑制されるものではない。そのため、母集団や取得した標本の属性等により、「0.07以下の未処理p値を示」す「食物調製物」の技術的範囲は異なりうるものである。
よって、上記(ii)の主張を採用することはできない。
4 まとめ
したがって、令和5年5月22日に提出の意見書の内容を考慮しても、依然として、本願発明は明確でない。
よって、本願発明は、明確でない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は明確でないから、他の請求項の明確性について検討するまでもなく、本願の特許請求の範囲の記載は特許法36条条6項2号に規定する要件を満たしていないから、本願は特許を受けることができない。
したがって、理由1及び3について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-003621