特許拒絶査定不服審判
2021-017100
クローン病感受性試験の組成物、デバイスおよび方法
- 審判番号
- 2021-017100
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-556293
- 請求日
- 2021年12月10日
- 審決日
- 2022年12月05日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】バイオメリカ・インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】特許業務法人R&C
- 審判長/審判官
- 審判長 石井 哲
- 審判官 松本 隆彦
- 審判官 渡戸 正義
- 分類
- P18 .121-Z (G01N) / P18 .537-Z (G01N) / P18 .561-Z (G01N) / P18 .575-Z (G01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第17条の2第3項、特許法第29条、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-556293「クローン病感受性試験の組成物、デバイスおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月 2日国際公開、WO2017/189335、令和 1年 6月 6日国内公表、特表2019-515274〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)4月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年4月26日、米国)を国際出願日とする出願であって、令和2年4月20日及び同年5月22日に手続補正書が提出され、令和3年2月22日付けの拒絶理由の通知に対し、同年6月2日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年8月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月10日に審判の請求がされると同時に手続補正がなされたものである。
第2 令和3年12月10日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年12月10日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由](補正の適否の判断)
1.本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所を明示するために当審で付したものである。)
「【請求項1】
クローン病と診断される患者またはクローン病が疑われる患者において食物感受性を試験するための検査キットパネルであって、
それぞれの食物調製物が個々にアドレス可能な固相担体に独立して固定された、複数の異なる食物調製物から実質的になり、
前記複数の異なる食物調製物が、それぞれ、0.07以下の未処理p値を有し、
前記検査キットパネルは、少なくとも6種の異なる食物調製物を含み、
前記食物調製物の少なくとも1種は、大麦、カンタロープ、カリフラワー、チリペッパー、ナス、カラシナ、および、ホタテガイからなる群から選択され、
前記p値が、クローン病と診断される、または、クローン病が疑われる第一の患者検査群からの異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値または中央値を、クローン病と診断されない、またはクローン病が疑われない第二の患者検査群からの前記異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値または中央値の少なくとも90パーセンタイル順位と比較することを含むプロセスによって決定され、
前記免疫アッセイは、ELISAまたは抗体捕捉免疫アッセイである、検査キットパネル。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和3年6月2日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
クローン病と診断される患者またはクローン病が疑われる患者において食物感受性を試験するための検査キットパネルであって、
それぞれの食物調製物が個々にアドレス可能な固相担体に独立して固定された、複数の異なるクローン病誘因食物調製物から実質的になり、
前記複数の異なるクローン病誘因食物調製物が、それぞれ、0.07以下の未処理p値、または、0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値を有し、
前記検査キットパネルは、少なくとも6種の異なるクローン病誘因食物調製物を含み、
前記クローン病誘因食物調製物の少なくとも1種は、大麦、カンタロープ、カリフラワー、チリペッパー、ナス、カラシナ、および、ホタテガイからなる群から選択される、検査キットパネル。」
2.補正の適否について
(1)新規事項追加の有無
ア 本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「0.07以下の未処理p値」について、「前記p値が、クローン病と診断される、または、クローン病が疑われる第一の患者検査群からの異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値または中央値を、クローン病と診断されない、またはクローン病が疑われない第二の患者検査群からの前記異なる食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコアの平均値または中央値の少なくとも90パーセンタイル順位と比較することを含むプロセスによって決定され、前記免疫アッセイは、ELISAまたは抗体捕捉免疫アッセイである」こと(以下「p値特定事項」という。)を特定することを含んでいる。
イ 特許法17条の2第3項の規定により、明細書、特許請求の範囲又は図面について、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、当該明細書を「本願当初明細書」といい、特許請求の範囲及び図面を含めて「本願当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内でない新規事項を追加する補正はできないところ、「p値特定事項」が、本願当初明細書等に記載したものであるか、以下、検討する。
ウ 請求人は、審判請求書において、「p値特定事項」を追加する補正は、本願当初明細書の段落【0031】、【0034】、【0035】及び実施例等の記載に基づくものであると主張する。
しかし、本願当初明細書の段落【0031】、【0034】には、それぞれ、クローン病と診断される患者またはクローン病が疑われる患者において食物不耐性を試験する方法に関する記載、及び、食物調製物が固相表面に固定化されるのが好ましいことに関する記載はあるが、未処理p値に関する記載はない。
また、本願当初明細書の段落【0035】には、既に診断されたクローン病患者または疑いのあるクローン病患者の中で誘因食品品目を特定することに関し、クローン病と診断される患者またはクローン病が疑われる患者の体液(例えば、血液、唾液、便懸濁液)、および、クローン病と診断されないコントロール群またはクローン病が疑われないコントロール群の体液に基づいて検査することについての記載はあるが、未処理p値に関する記載はない。
次に、本願当初明細書の実施例(段落【0038】以下)についての記載をみると、段落【0043】に「食物抗原調製物を、・・・それぞれのマイクロタイターウェルに固定化した。アッセイのために、食物抗原を患者の血清中に存在する抗体と反応させ・・・た。IgG抗体結合を検出するために、酵素標識された抗IgG抗体コンジュゲートを抗原-抗体複合体と反応させ・・・カップリングされた酵素と反応する基質の添加によって発色させた。・・・色の強度が、特定の食物抗原に対して特異的なIgG抗体の濃度に正比例している。」との記載があり、段落【0044】以下に「クローン病をコントロール被験者から識別するためのELISAシグナルの能力の順で順位づけされた食物リストを決定するための方法論」について記載され、段落【0045】に「試験した食物のそれぞれについて、残りのシグナルスコアが、比較的大きい再サンプリング回数(例えば、1,000回超・・・)による二標本t検定での並べ替え検定を使用してクローン病とコントロールとの間で比較される」との記載、「両側並び替えp値がそれぞれの食物についての未処理p値を表す」との記載があり、未処理p値に関する記載といえる。
しかし、「p値特定事項」は、「p値」の「決定」に関し、「クローン病と診断される、または、クローン病が疑われる第一の患者検査群」からの「食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコア」の「平均値または中央値」を、「クローン病と診断されない、またはクローン病が疑われない第二の患者検査群」からの「食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコア」の「平均値または中央値」の「少なくとも90パーセンタイル順位」と「比較」するプロセスが関係することを意味する。「二標本t検定」が、標本データからt値と呼ばれる統計量を計算し、t値を利用して、2つのグループ間の母平均に差があるかどうかを検定する方法であり、これが技術常識であることを踏まえても、本願当初明細書の上記実施例についての記載からは、「p値」の「決定」に際し、上記「第一の患者検査群」からの「食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコア」と上記「第二の患者検査群」からの「食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコア」について、当該2つの検査群におけるIgG免疫アッセイスコアの「平均値」を比較することは理解できるとしても、「p値特定事項」における「第一の患者検査群」における「平均値または中央値」と「第二の患者検査群」における「平均値または中央値」の「少なくとも90パーセンタイル順位」とを比較することまでは意味しないし、自明でもない。
さらに、本願当初明細書の段落【0048】以下に「それぞれの食物についてのカットポイント選択のための統計学的方法」について、段落【0053】以下に「クローン病の根底にある食物過敏性を有するクローン病患者のサブセットを決定するための方法論」についての記載があり、コントロールシグナルスコアの90パーセンタイルと比較することが記載されているものの、これは、クローン病の被験者が「陽性」として評価されるか否かのカットポイントについての記載であり、p値特定事項に関する記載ではない。また、段落【0063】以下に「「陽性」と宣言される食物の1人あたりの数の分布を決定するための方法」、段落【0065】以下に「診断成績を見積もるための方法」についての記載があるが、食物調製物のp値を決定することに関するものではなく、「p値特定事項」を記載するものではない。
また、本願当初明細書等のその他の箇所にも「p値特定事項」は記載されていない。
エ 以上のとおりであるから、本件補正により追加された「p値特定事項」は、本願当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものということはできないから、本件補正は、本願当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものではない。
(2)特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか
ア また、本件補正は、本件補正前の請求項1に「前記複数の異なるクローン病誘因食物調製物が、それぞれ、0.07以下の未処理p値、又は、0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値を有する、」と記載されていたのを、「0.07以下の未処理p値」を有する場合のみに限定することを含んでいるところ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するといえる。
そうすると、本件補正後の請求項1に記載される発明は同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合する(特許出願の際独立して特許を受けることができる)ものでなければならない。
イ 本件補正後の請求項1に記載される発明が「検査キットパネル」という物の発明であり、「複数の異なる食物調製物」からなるものであることに照らすと、本件補正後の請求項1に記載される「検査キットパネル」の発明が物の発明として明確であるというためには、「食物調製物」について、「0.07以下の未処理p値を有」すると特定することで、「食物調整物」の構造又は特性を明確に特定しているといえるものでなければならない。
ウ そこで検討するに、「p値」とは、統計学的仮説検定における概念であり、帰無仮説のもとで検定統計量がその値となる確率のことであるところ、本件請求項1には、「0.07以下の未処理p値」とされているから、検定統計量が7%以下であれば帰無仮説を棄却して対立仮説を採択する(有意差がある)とするものである。
このようなp値の概念に照らすと、「0.07以下の未処理p値」との特定は、「食物調製物」の構造又は特性を直接特定するものではないことは明らかである。
そして、検定統計量として周知のものであり、本願明細書の段落【0045】にも記載の「二標本t検定」におけるt値が、母平均に差があるかどうかを検定したい2つの各グループにおける標本データの標本平均、不偏分散、サンプルサイズから算出されることが技術常識であることを踏まえると、t値は、標本データ(免疫アッセイスコア)をどのような試料について、どのような試験方法により取得するのかによって影響を受けるし、サンプル数によっても影響を受けるものであると認められる。
そうすると、本件補正により、2つの患者検査群から無作為に抽出した「食物調製物に対するIgG免疫アッセイスコア」をデータとして用いることが特定され、「ELISAまたは抗体捕捉免疫アッセイ」により求められることが特定されているとしても、ELISAによるのか、それ以外の抗体捕捉免疫アッセイによるかによっても算出される検定統計量は異なり得るし、ELISAに限定したとしても如何なる試料を用いるか、すなわち、血清、血漿、尿、唾液等のいずれを用いるのかによって、「IgG免疫アッセイスコア」は異なり得るし、母集団の人種、年齢、性別等が異なれば、それによっても異なり得るものと認められる。
以上によれば、本件補正後の請求項1の記載によっても、「0.07以下の未処理p値」を有する「食物調製物」の技術的範囲は一義的に定まらないし、同じ食物調整物であっても「0.07以下の未処理p値」になる場合とならない場合があり得るから、「食物調製物」について、「0.07以下の未処理p値を有」すると特定する記載は、「食物調整物」の構造又は特性を明確に特定するものとはいえない。
エ また、上記(1)で新規事項の追記に当たると判断した「p値特定事項」の記載を考慮したとしても、「第一の患者検査群」の「平均値または中央値」と「第二の患者検査群」の「平均値または中央値」の「少なくとも90パーセンタイル順位」とを比較することの技術的意義を理解することができず、「未処理p値」を決定するプロセスを理解することができない。
オ 以上のとおり、請求項1に係る発明の範囲は不明確であるから、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
3.本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に違反し、また、同条6項において準用する同法126条7項の規定にも違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1.本願発明
令和3年12月10日付け手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年6月2日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。また、その請求項13に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「クローン病と診断される患者またはクローン病が疑われる患者において食物感受性についての検査キットパネルを作成する方法であって、
複数の異なる食物調製物についての検査結果を得る工程であって、ここで、前記検査結果は、クローン病と診断される患者またはクローン病が疑われる患者からの体液と前記複数の異なる食物調製物を接触させること、および、クローン病と診断されないコントロール群またはクローン病が疑われないコントロール群からの体液と前記複数の異なる食物調製物を接触させること、とを含むプロセスから導かれ、
それぞれ0.07以下の未処理p値、または、0.10以下のFDR多重度調整p値を有する複数の異なるクローン病誘因食物調製物を選択する工程、
個々にアドレス可能な様式で固相担体上に選択した食物調製物を結合する工程であって、それによって、選択されたクローン病誘因食物調製物から実質的になる検査キットパネルを作成する工程、を含む方法。」
2.原査定における拒絶の理由の要旨
(1)原査定の拒絶の理由のうちの理由1は、請求項1の「0.07以下の未処理p値」及び「0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値」との記載が不明確であるから、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない、という理由を含むものである。
(2)原査定の拒絶の理由のうちの理由2は、本願発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2の教示内容に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用文献1:国際公開第2010/101255号
引用文献2:米国特許出願公開第2006/0013773号明細書
3.理由1(明確性)について
本件補正前の請求項1の「0.07以下の未処理p値」との記載で特定されるクローン病誘因食物調整物が明確でないことは、上記第2[理由]2(2)で検討したところからみて明らかである。さらに、「偽発見率(FDR)多重度調整p値」については、「0.07以下の未処理p値」について上記第2[理由]2(2)で検討した内容と同様の理由で、特定されるクローン病誘因食物調整物が明確でない上に、多重度の調整方法が具体的に特定されていないため、本願明細書の段落【0045】に挙げられるような複数の調整方法が含まれることになるが、調整方法によってもp値が異なることは技術常識であり、「0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値」を有するクローン病誘因食物調整物の範囲が一義的に定まらず、同じ食物調整物であっても「0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値」になる場合とならない場合があり得るから、「クローン病誘因食物調製物」について、「0.10以下の偽発見率(FDR)多重度調整p値を有」すると特定する記載は、この点においても「クローン病誘因食物調整物」の構造又は特性を明確に特定するものとはいえない。
4.理由2(進歩性)について
(1)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付加した。)。
a「[0009]・・・クローン病患者、UC患者及び健康人から採取した血清中の、種々の食餌成分に対する抗体価を測定、相互に比較した。その結果、クローン病患者由来の検体において特異的に血清抗体価の上昇が認められた食餌成分19品目を同定することに成功した。・・・」
b「[0016]・・・診断のための検体は、診断対象から単離可能であって、クローン病特異的な抗食餌成分抗体が存在する可能性のある対象由来の成分又は組織であれば、特に限定されず、例えば血液(全血、血清、血漿)、唾液、その他の体液、各種組織等が挙げられるが、特に血清又は血漿が好ましい。参考のための潰瘍性大腸炎患者及び/又は対照とする健康人の検体を用いる場合には、それらの検体についても同様である。」
c「[0017] 検体中の各抗体の測定方法は、免疫学的測定法として、抗体を検出し測定するために使用される方法であればいずれでもよく、酵素、蛍光物質、発光物質、放射性物質、着色物質などを標識物質とする慣用の測定方法がいずれも使用可能であるが、酵素免疫測定法、イムノクロマトグラフィー法などが好ましく、さらに、検体中の抗体量を着色量や吸光度によって容易に数値化できる点で酵素免疫測定法、例えばELISA法が特に好ましい。」
d「[0019] 例えば、ELISA法による本発明の抗食餌成分抗体の測定は、まず、検体を食餌成分の調製物と反応させて抗原-抗体複合体を生成させ、次いで、酵素標識した、抗食餌成分抗体と反応する物質を添加し、さらに酵素基質を添加して反応させ、反応生成物の標識量を酵素活性により測定することにより行うことができる。」
e「[0028] 好ましい一実施態様においては、食餌成分の調製物は、適当な固相(例えば、イムノアッセイ用マルチウェルプレート等)上に固定化される。固定化は、必要に応じて一般的なコーティング用緩衝液で希釈した該調製物を固相に添加し、一定時間インキュベートすることにより行うことができる。固相から液体を除去した後、該固相に検体を添加して抗原-抗体複合体を形成させ、目的の抗体を固相上に捕捉する。」
f「[0029] 抗食餌成分抗体と反応する物質としては、例えば、抗免疫グロブリン抗体、プロテインA、プロテインG、ジャカリン等が挙げられ、抗免疫グロブリン抗体、特に抗IgG抗体又は抗IgA抗体が好ましい。」
g「[0031] 診断対象において調べられた抗食餌成分抗体が上昇しているか否かの判定は、例えば、健康動物における抗体価との比較において、統計学的に有意であるか否かによって行うことができる。例えば、健康動物における測定値の平均+SD(標準偏差)、平均+2SD、平均+3SDなどを陽性の基準とすることができるが、これらに限定されない。」
h「[0032] 本発明の診断方法の好ましい実施態様においては、上記19種のクローン病特異的な抗食餌成分抗体のうちの2種以上(例、2、3、4、5、6、8、10又は15種)の抗体が測定対象となる。」
i「[0036] 本発明はまた、本発明の試薬を含むクローン病の診断用キットを提供する。本発明のキットは、食餌成分調製物を単独で又は2種以上の組合せで含み、他の成分として、免疫学的測定方法の種類や採用される検出手段に応じて、必要とされる試薬類を任意に包含し得る。好ましくは、抗食餌成分抗体と反応する物質(例えば、抗IgG抗体、抗IgA抗体などの二次抗体)を含み得る。該物質は、酵素、蛍光物質、発光物質、放射性同位元素、着色物質などの標識物質で予め標識化されていてもよいし、別途、標識物質をキットの構成に含めることもできる。また、食餌成分調製物は予め固相に固定化されていてもよいし、別途、固相をキットの構成に含めることもできる。」
(イ)引用発明
引用文献1の上記a~iの記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)
「クローン病患者及び健康人から採取した血清中の種々の食餌成分に対する抗体価を測定、相互に比較してクローン病患者由来の検体において特異的に血清抗体価の上昇が認められた2種以上の食餌成分の調整物を固相上に固定化して、クローン病のELISA法による診断用キットを提供する方法。」
イ 引用文献2
(ア)引用文献2には、以下の事項が記載されている。(翻訳は当審による。)
a「[0036] (b) Generating immune response test scores on subjects to various foods, which are indicative of food allergies (IgE) or food hypersensitivities (IgG or T-Cell), and optionally to use these with known hypersensitivities to food lectins;」
(翻訳:(b) 食物アレルギー (IgE) 又は食物過敏症 (IgG 又は T 細胞) を示すさまざまな食物に対する被験者の免疫応答テストのスコアを生成し、必要に応じて食物レクチンに対する既知の過敏症でこれらを使用する。)
b「[0041] Subjects suffering from food allergies or hypersensitivities often exhibit elevated IgE and/or IgG levels.」
(翻訳:食物アレルギーまたは過敏症に苦しむ被験者は、しばしば IgE 及び/又は IgG レベルの上昇を示す。)
c「[0043] Statistical methods to be used in accordance with the invention include: the statistical correlation of blood types and gender to test scores for specific food allergens or food. hypersensitivities, which are determined by means of the antibody titers (IgE and IgG), and percentage of reactive subjects (T-Cell tests). Preferably, the presence or absence of said correlation is determined using ANOVA, MANOVA, or non-parametric methods to determine p values, which is known to persons skilled in the art of statistical analysis. The p value is set at <0.05, and optionally at <0.07. In the case of lectins, a positive haemagglutination reaction is required. [Sokal & Rohlf, Introduction to Biostatistics, Freeman, N.Y., 1987.]」
(翻訳:本発明に従って使用される統計的方法には、以下が含まれる:抗体力価(IgE及びIgG)によって決定される、特定の食物アレルゲン又は食物の過敏症の検査スコアに対する血液型及び性別の統計的相関、及び反応性の被験者の割合(T細胞検査)。好ましくは、前記相関の有無は、統計分析の当業者に知られているp値を決定するために、ANOVA、MANOVA、又はノンパラメトリック法を使用して決定される。p 値は <0.05 に設定され、オプションで <0.07 に設定される。レクチンの場合、陽性の赤血球凝集反応が必要である。(なお、上記摘記中の「food. hypersensitivities」は、「food hypersensitivities」の誤記であると認められるため、「food hypersensitivities」として翻訳した。))
d「[0044] The preferred method for interpreting the data includes:
[0045] (a) Identifying patterns in food allergies relative to blood types or gender is determined by the strength of the reactions (mean test scores) and by statistical significance (p values).」
(翻訳:データを解釈するための好ましい方法には以下が含まれる: (a) 血液型又は性別に関連する食物アレルギーのパターンの特定は、反応の強さ (平均テストスコア) 及び統計的有意性 (p 値) によって決定される。)
(イ)引用文献2の上記記載a~dを総合すると、引用文献2には、食物アレルゲンに対する免疫応答スコアである抗体力価に関する統計的手法として、統計的有意性をp値<0.07に設定することが記載されていると認められる。
(2)引用発明との対比
ア 本願発明と引用発明を対比する。
(ア)引用発明において「血清中の種々の食餌成分に対する抗体価を測定」するためには、血清と食餌成分を接触させることは当業者にとって自明である。そして、食餌成分に対する抗体価の測定には、引用文献1の上記c~eで摘記したような方法を採用することが技術常識であることを踏まえれば、血清と接触させる食餌成分は食物調整物であると認められる。そうすると、引用発明における「クローン病患者」「から採取した」「血清」、「健康人から採取した血清」が、本願発明の「クローン病と診断される患者」「からの体液」、「クローン病と診断されないコントロール群」「からの体液」にそれぞれ相当するので、引用発明の「クローン病患者及び健康人から採取した血清中の種々の食餌成分に対する抗体価を測定」することが、本願発明の「複数の異なる食物調製物についての検査結果を得る工程であって、ここで、前記検査結果は、クローン病と診断される患者またはクローン病が疑われる患者からの体液と前記複数の異なる食物調製物を接触させること、および、クローン病と診断されないコントロール群またはクローン病が疑われないコントロール群からの体液と前記複数の異なる食物調製物を接触させること、とを含むプロセスから導かれ」る工程に相当する。
(イ)引用発明は、「抗体価を測定、相互に比較してクローン病患者由来の検体において特異的に血清抗体価の上昇が認められた2種以上の食餌成分の調整物を固相上に固定化」する工程を有するものであるから、「クローン病患者由来の検体において特異的に血清抗体価の上昇が認められた2種以上の食餌成分」を、「抗体価の測定、相互に比較」することにより選択していることは明らかである。そして、本願発明の「クローン病誘因食物調製物」について、本願明細書では、クローン病を誘因することを裏付けるデータは示されておらず、段落【0044】~【0047】に記載されている「クローン病をコントロール被験者から識別するためのELISAシグナルの能力の順で順位づけされた食物リストを決定するための方法論:」中に、「調整p値が所望のFDR閾値と同等以下である食物を、コントロール被験者よりも有意に大きいシグナルスコアをクローン病被験者の中で有すると見なし、したがって、食物不耐性のパネルに含める候補物であると見なす。」(段落【0046】)と記載されているとおり、「クローン病誘因食物調製物」は、クローン病被験者とコントロール被験者に対するELISAのような免疫アッセイのシグナル強度の差により決定されるものと認められ、引用発明の「固相上に固定化」する「食餌成分」も「クローン病患者由来の検体において特異的に血清抗体価の上昇が認められた」ものであるから、引用発明の「食餌成分」は、「クローン病誘因食物調整物」に相当する。してみると、引用発明は、本願発明の「複数の異なるクローン病誘因食物調製物を選択する工程」に相当する工程を備えるものと認められる。
(ウ)引用発明において、各食餌成分の調整物の固定位置が、診断用キット使用時にそれぞれ把握できなければならないことは当業者にとって自明である。そうすると、「2以上の食餌成分の調整物を固相上に固定化」は、「個々にアドレス可能な様式」で行われると認められる。そして、「クローン病患者由来の検体において特異的に血清抗体価の上昇が認められた2種以上の食餌成分の調整物」が「固定化」された「固相」は、「選択されたクローン病誘因食物調製物から実質的になる検査キットパネル」に相当するから、引用発明の「クローン病患者由来の検体において特異的に血清抗体価の上昇が認められた2種以上の食餌成分の調整物を固相上に固定化」する工程は、本願発明の「個々にアドレス可能な様式で固相担体上に選択した食物調製物を結合する工程であって、それによって、選択されたクローン病誘因食物調製物から実質的になる検査キットパネルを作成する工程」に相当する。
(エ)引用発明の「クローン病のELISA法による診断用キット」が、クローン病が疑われる患者を対象とするものであることは、自明である。
イ 以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
(一致点)
「クローン病が疑われる患者の検査キットパネルを作成する方法であって、
複数の異なる食物調製物についての検査結果を得る工程であって、ここで、前記検査結果は、クローン病と診断される患者またはクローン病が疑われる患者からの体液と前記複数の異なる食物調製物を接触させること、および、クローン病と診断されないコントロール群またはクローン病が疑われないコントロール群からの体液と前記複数の異なる食物調製物を接触させること、とを含むプロセスから導かれ、
複数の異なるクローン病誘因食物調製物を選択する工程、
個々にアドレス可能な様式で固相担体上に選択した食物調製物を結合する工程であって、それによって、選択されたクローン病誘因食物調製物から実質的になる検査キットパネルを作成する工程、を含む方法。」
相違点1:作成対象である検査キットパネルについて、本願発明は、「食物感受性を試験するための」ものであるのに対して、引用発明は、「クローン病の」「診断用キット」であり、文言上用途が異なる点。
相違点2:複数の異なるクローン病誘因食物調製物の選択について、本願発明は、「それぞれ0.07以下の未処理p値、または、0.10以下のFDR多重度調整p値を有する複数の異なるクローン病誘因食物調製物を選択する」のに対して、引用発明は、クローン病患者由来の検体において特異的に血清抗体価の上昇が認められた食餌成分を選択するものの、「特異的に上昇」の基準が特定されていない点。
(3)判断
ア 上記相違点1について検討する。
引用発明のクローン病のELISA法による診断用キットは、クローン病の診断が必要とされる患者、つまり、クローン病が疑われる患者を対象とするものであることは自明であり、ELISA法により、患者の検体について抗食餌成分抗体の測定を行うものであるから、クローン病が疑われる患者の食物感受性を測定することに他ならず、その測定結果の解釈として、クローン病であるか否かを診断するものである。してみれば、相違点1は実質的な相違点ではない。
イ 上記相違点2について検討する。
「それぞれ0.07以下の未処理p値、または、0.10以下のFDR多重度調整p値を有する複数の異なるクローン病誘因食物調製物」について、未処理p値やFDR多重度調整p値による(本件補正前の請求項1のような物の発明である)検査キットパネルのクローン病誘因食物調整物の特定としては、第3 3.で検討したように不明確である一方、本願発明は、「検査キットパネルを作成する方法」という製造方法の発明であり、「検査結果を得る工程」を含むものであって、(この工程で得られた検査結果を統計処理して得られる未処理p値またはFDR多重度調整p値を用いて)「それぞれ0.07以下の未処理p値、または、0.10以下のFDR多重度調整p値を有する複数の異なるクローン病誘因食物調製物を選択する工程」という工程は一義的に定まるものであるから、「検査キットパネルの作成する方法」の特定事項として明確である。
引用文献1の段落[0031](4.(1)ア(ア)gの摘記参照。)には、診断対象において調べられた抗食餌成分抗体が上昇しているか否かの判定について、統計学的に有意であるか否かによって行うことが示されている。統計学的に有意であるか否かの基準として、p値を用いることは分野を問わず広く行われていることである。4.(1)イ(イ)に記載したように、引用文献2には、食物に対する免疫応答の統計的有意性の基準としてp値を用いることが記載されており、その値として0.07が示されている。製造方法の発明である引用発明の複数の異なるクローン病誘因食物調製物を選択する工程においても、有意性の基準として引用文献2に記載されている上記事項のようにp値を採用し、その値として0.07を基準にして、食物を選択することは当業者が容易に想到しうることである。その際、0.07以下とするか未満とするかは当業者が適宜決定しうる設計的事項にすぎない。
また、本願発明の効果について検討すると、引用発明で作成される検査キットは、「食餌成分の調整物を固相上に固定化」したELISA法による検査キットであるから、本願発明と同様にクローン病が疑われる患者のIgG食物感受性を測定するので、本願発明と同様に被験者のクローン病と関連する可能性のある特定の食品品目の予測力をもたらす効果を奏すると認められる。そして、本願発明の「クローン病誘因食物調製物」の「選択」において「0.07以下の未処理p値、または、0.10以下のFDR多重度調整p値を有する」ものを選択することに臨界的意義は、本願明細書を参酌しても認めることはできない。
よって、本願発明は、引用発明及び引用文献2の教示内容に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび(結論)
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法36条条6項2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
また、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2の教示内容に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-017100