特許異議申立
2022-701300
溶鋼の製造方法
- 審判番号
- 2022-701300
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-210829
- 登録番号
- 7094259
- 請求日
- 2022年12月26日
- 審決日
- 2023年11月06日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社神戸製鋼所
- 【権利者代理人】小谷 昌崇
- 【権利者代理人】宇佐美 綾
- 【異議申立人】関 ▲隆▼春
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 池渕 立
- 審判官 土屋 知久
- 分類
- P1651.113-YAA(C21C) / P1651.121-YAA(C21C) / P1651.537-YAA(C21C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第126条第7項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7094259号発明「溶鋼の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7094259号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、請求項2について訂正することを認める。
特許第7094259号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7094259号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~2に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、令和 1年11月21日の出願であって、令和 4年 6月23日にその特許権の設定登録がされ、同年 7月 1日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~2(全請求項)に係る特許について、同年12月26日差出で特許異議申立人である関▲隆▼春(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和 5年 3月27日付けで取消理由が通知され、同年 5月25日に特許権者から訂正請求書及び意見書が提出され、これに対して、同年 7月28日差出で申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容
令和 5年 5月25日に提出された訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2について訂正することを求めるものであり、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(訂正箇所には、当審が下線を付した。)。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に
「 前記第1の炉において、アークにより前記固体還元鉄を溶融させ、
前記溶銑およびスラグをそれぞれ連続的に前記第1の炉から排出させる、請求項1に記載の溶鋼の製造方法。」と記載されているのを、
「 前記固体還元鉄を前記第1の炉に連続的に投入しながら、
前記第1の炉において、アークにより前記固体還元鉄を溶融させ、
前記スラグを連続的に前記第1の炉から排出させるとともに、前記溶銑を連続的に前記第1の炉から排出させる、請求項1に記載の溶鋼の製造方法。」に訂正する。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載されていた「それぞれ連続的に」なる文言が、次の(ア)、(イ)の二つの意味で解することができ、
(ア)溶銑を第1の炉から排出した後に連続してスラグを第1の炉から排出する、または、スラグを第1の炉から排出した後に連続して溶銑を第1の炉から排出するという意味。
(イ)固体還元鉄を第1の炉に連続的に投入しながら、スラグを連続的に排出すると同時に、溶銑も連続的に排出するという意味。
上記(ア)、(イ)のいずれの意味であるか、または、それ以外の意味であるか不明であった点について、上記(イ)を意味することを明確にしたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について
訂正事項1による訂正は、上述のとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当するとはいえない。
また、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)には次の記載がある(下線は当審が付した。)。
「【0050】
電極5に通電している間も本体11への固体還元鉄1、造滓材および外装加炭材の投入は継続して行われ、次第に溶銑2およびスラグ3の量が増加して液面が上昇する。溶銑2の液面が出滓孔11aより下の所定の高さに達した時点、またはスラグ3の液面が出滓孔11aより上の所定の高さに達した時点で、出滓孔11aを開口してスラグ3の排出を開始し、スラグ3の液面の高さを調整する。スラグ3の液面は、本体11内の雰囲気を維持するため、出滓孔11aの上端よりも上に維持する。また、スラグ3内でアーク5aを発生させることができるように、スラグ3の厚さを所定の厚さ以上に維持する。これにより、固体還元鉄1を連続的に本体11に投入しながら連続的に本体11からスラグ3を排出することができる。」
「【0052】
また、溶銑2の液面が出銑孔11bより上の所定の高さに達した時点で、溶銑2の排出を開始し、溶銑2の液面の高さを調整する。溶銑2の液面は、溶銑2とともにスラグ3が排出されないように、出銑孔11bよりも上に維持する。これにより、固体還元鉄1を連続的に本体11に投入しながら連続的に本体11から溶銑2を排出することができる。」
上記記載によれば、固体還元鉄を第1の炉に連続的に投入しながら、スラグを連続的に第1の炉から排出させるとともに、溶銑を連続的に第1の炉から排出させていることがわかるから、訂正事項1による訂正は、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(2)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1に係る訂正について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1~2に係る発明(以下、請求項1~2に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明2」といい、総称して「本件特許発明」ということがある。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
固体還元鉄を原料とする溶鋼の製造方法であって、
前記固体還元鉄は、SiO2およびAl2O3を合計で3.0質量%以上、炭素を1.0質量%以上含有し、
前記固体還元鉄に含有される全鉄分に占める金属鉄の割合が90質量%以上であり、
前記固体還元鉄に含有される前記炭素のうち、下記式(1)で規定する余剰炭素量Cxが0.2質量%以上であり、
第1の炉において、前記固体還元鉄のうち40~100質量%を溶融させて、炭素含有量が2.0~5.0質量%でありかつ温度が1350~1550℃の溶銑と、塩基度が1.0~1.4であるスラグと、に分離する工程と、
第2の炉において、前記固体還元鉄の残部を、前記第1の炉において分離された前記溶銑とともに溶融させ、当該溶融物に酸素を吹き付けて脱炭し、溶鋼とする工程と、を含む、溶鋼の製造方法。
Cx=[C]-[FeO]×12÷(55.85+16)÷0.947…(1)
式中、Cx:余剰炭素量(質量%)、[C]:固体還元鉄の炭素含有量(質量%)、[FeO]:固体還元鉄のFeO含有量(質量%)である。
【請求項2】
前記固体還元鉄を前記第1の炉に連続的に投入しながら、
前記第1の炉において、アークにより前記固体還元鉄を溶融させ、
前記スラグを連続的に前記第1の炉から排出させるとともに、前記溶銑を連続的に前記第1の炉から排出させる、請求項1に記載の溶鋼の製造方法。」
第4 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の出願前に日本国内で公開又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲第1号証~甲第4号証を特許異議申立書に添付して提出し、さらに、甲第5号証~甲第7号証を令和 5年 7月28日差出の意見書に添付して提出して、以下の理由により、本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。なお、ここ第4と次の第5において、本件特許発明1、2とは、本件訂正前の請求項1、2に係る発明を意味しており、本件請求項1、2とは、本件訂正前の請求項1、2を意味している。
1 申立理由1(新規性、取消理由として不採用)
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(進歩性、取消理由として不採用)
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて、または、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された事項に基いて、または、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(進歩性、取消理由として不採用)
本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明に基いて、または、甲第2号証に記載された発明と甲第1号証に記載された事項に基いて、または、甲第2号証に記載された発明と甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由4(進歩性、取消理由として採用)
本件特許発明1は、甲第3号証に記載された発明と甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
5 申立理由5(進歩性、取消理由として不採用)
本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された事項に基いて、または、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項に基いて、または、甲第2号証に記載された発明に基いて、または、甲第2号証に記載された発明と甲第3号証に記載された事項に基いて、または、甲第1号証に記載された発明と甲第4号証に記載された事項に基いて、または、甲第2号証に記載された発明と甲第4号証に記載された事項に基いて、または、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証及び甲第4号証に記載された事項に基いて、または、甲第1号証に記載された発明と甲第3号証及び甲第4号証に記載された事項に基いて、または、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された事項に基いて、または、甲第2号証に記載された発明と甲第3号証及び甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
6 申立理由6(サポート要件、取消理由として不採用)
(1)固体還元鉄の割合について
本件請求項1には、「第1の炉において、前記固体還元鉄のうち40~100質量%を溶融させて」と記載されているが、本件特許公報の発明例は、固体還元鉄の70質量%を第1の炉に投入した発明例しか存在しないので、固体還元鉄のうち40質量%前後を投入した場合に、溶鋼の歩留まりがどの程度になるか実験により示されておらず、発明例と同等の数値を示すのか不明である。
したがって、本件請求項1の発明は、固体還元鉄のうち40質量%前後を投入した場合に、70質量%を投入した場合と同様に、高い歩留まりで溶鋼を得られるか不明であるから、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、本件請求項1を引用する本件請求項2の発明も同様に発明の詳細な説明に記載されたものとはいえいない。
よって、本件特許の請求項1~2の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるので、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
7 申立理由7(明確性、下記(2)のみ取消理由として採用)
(1)請求項1の「固体還元鉄の残部」について
本件請求項1には「第1の炉において、前記固体還元鉄のうち40~100質量%を溶融させて」と記載されており、固体還元鉄のうち100質量%を溶融させる場合には残部は存在しないものとなるが、本件請求項1には「第2の炉において、前記固体還元鉄の残部を、前記第1の炉において分離された前記溶銑とともに溶融させ」と記載されており、残部が存在することを前提としているので、上記両記載が整合していない。
したがって、本件請求項1の記載は不整合な記載を含むから明確であるとはいえない。
(2)請求項2の「連続的」について
本件請求項2には「前記溶銑およびスラグをそれぞれ連続的に前記第1の炉から排出させる」と記載されており、当該記載から、溶銑を第1の炉から排出した後に続けてスラグを第1の炉から排出させるものと解釈することができる。
一方、本件特許公報の【0050】~【0053】の記載を参照すれば、「連続的に」とは、固体還元鉄を連続的に投入しながら連続的にスラグ(および溶銑)を排出するという意味にも解釈することができる。
したがって、本件請求項2の上記記載は上記二つの意味で解釈が可能であるから、明確であるとはいえない。
(3)よって、本件特許の請求項1~2の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
<証拠方法>
甲第1号証:特開2001-279315号公報
甲第2号証:特表2001-515138号公報
甲第3号証:特開2000-38612号公報
甲第4号証:特開2017-57431号公報
甲第5号証:第3版 鉄鋼便覧第II巻 製銑・製鋼、社団法人日本製鋼協会、昭和54年10月15日発行、p329~382
甲第6号証:特開2003-105415号公報
甲第7号証:特開昭50-134912号公報
(以下、甲第1号証~甲第7号証を、それぞれ「甲1」~「甲7」という。)
第5 取消理由の概要
当審は、上記第4の各申立理由のうち、申立理由4と申立理由7の(2)を採用し、以下の取消理由1、2を通知した。
取消理由1 本件特許発明1は、甲3に記載された発明と甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由2 本件請求項2の記載は、「連続的に」の意味が不明である点で、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 当審の判断
1 甲号証の記載
(1)甲1の記載と甲1に記載された発明
ア 甲1には、「粒状金属鉄の製法および該金属鉄を用いた溶鋼の製法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。(なお、下線は当審が付与し、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。
(1ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 炭素質還元剤と酸化鉄含有物質を含む原料成形体を、還元溶融炉内で加熱して該成形体中の酸化鉄を固体還元し、該固体還元により生成する還元鉄に前記炭素質還元剤中の炭素を浸炭させることによって溶融させると共に、前記原料成形体中に含まれる脈石成分を分離し、溶融した金属鉄を凝集させて粒状の金属鉄を製造する方法において、前記浸炭・溶融時における成形体近傍の雰囲気ガスの還元度を0.5以上とすることを特徴とする粒状金属鉄の製法。
…
【請求項8】 前記固体還元末期における酸化鉄の還元率を80%以上、残留炭素分を3.5%(質量%を意味する:以下同じ)以上とする請求項1~7のいずれかに記載の製法。」
(1イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鉄鉱石等の酸化鉄をコークス等の炭素質還元剤により加熱還元して粒状の金属鉄を得る技術の改良に関し、簡単な処理で酸化鉄を金属鉄にまで効率よく還元すると共に、鉄鉱石等に脈石成分などとして混入しているスラグ形成成分をスラグとして金属鉄から効率よく分離し、高純度の粒状金属鉄を高収率で製造し得る様に改善された方法に関するものである。」
(1ウ)「【0002】
【従来の技術】…
【0005】ところが従来の方法によって得られる還元鉄には、原料として用いた鉄鉱石中の脈石成分や炭材中の灰分などとして含まれるSiO2,Al2O3,CaO等のスラグ成分が大量に混入してくるため、製品の鉄品位(金属鉄としての純度)が低くなる。
【0006】実用化に当たっては、次工程の精錬でこれらのスラグ成分は分離除去されるが、スラグ量の増加は精錬溶湯の歩留りを低下させるばかりでなく、電気炉の操業コストを高める原因になるので、鉄品位が高くスラグ成分含量の少ない還元鉄が求められるが、前述の如き従来の還元鉄の製法でこうした要求に応えるには、製造原料として鉄品位の高い鉄鉱石を使用しなければならず、実用可能な原料の選択幅を大幅に狭めることになる。
…
【0011】本発明者らはこうした状況に着目し、鉄分含有量の高い酸化鉄はもとより鉄分含有量の比較的低い鉄鉱石等からでも、鉄純度の高い金属鉄を簡単な処理で効率よく得ることのできる技術の開発を期してかねてより研究を進めており、その研究成果として下記の方法を開発し、先に特開平9-256017号として提案した。
【0012】この方法は、炭素質還元剤と酸化鉄を含む成形体を加熱還元して金属鉄を製造するに際し、加熱により酸化鉄を固体還元することにより金属鉄外皮を生成且つ成長させ、内部に酸化鉄が実質的に存在しなくなるまで固体還元を進め、更に加熱を続けて内部に生成するスラグを金属鉄外皮の外側へ流出させてから金属鉄とスラグを分離するところに特徴を有している。
【0013】上記方法を実施するに当たっては、金属鉄外皮の一部を溶融させることによって、内部の溶融スラグを金属鉄外皮外へ流出させればよく、この際、金属鉄外皮の一部もしくは全部を溶融させるには、金属鉄外皮内に存在する炭素質還元剤由来の炭素を金属鉄に溶解(固溶)させること(この現象を”浸炭”ということがある)によって当該金属鉄外皮の融点を降下させればよい。
【0014】この方法によって得られる高純度の金属鉄と生成スラグを冷却固化し、スラグを破砕すると共に粒状に固まった金属鉄を磁選あるいは篩によって分別採取し、あるいは加熱溶融して比重差により金属鉄とスラグを分離すると、金属鉄として95%程度以上、更には98%以上の高純度物を得ることができる。しかもこの公開発明によれば、固体還元によって酸化鉄の還元を進める方法であるから、生成スラグ中の溶融FeO量を可及的に少なくすることができ、溶融FeOに起因する処理炉耐火物の溶損も起こり難く、設備保全の観点からしても極めて実用性の高い技術としてその実用化が期待される。」
(1エ)「【0017】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、上記公開発明の一層の改善を期してその後も研究を続けているが、かかる改善技術の一つとして、特に固体還元後の浸炭・溶融時における酸化性ガス(CO2やH2O)による金属鉄の再酸化を抑えて金属鉄の純度および収率を更に高めるべく、浸炭・溶融時の条件制御を主体にして研究を進めた。
【0018】その結果、前記固体還元の進行時には原料成形体中に含まれる多量の炭素質還元剤と酸化鉄との反応によって発生する還元性ガス(主として一酸化炭素)によって当該成形体近傍は高い還元性ガス雰囲気が維持されるが、固体還元の末期、更にはその後の浸炭・溶融時点では、発生する一酸化炭素量が減少し、加熱のためのバーナ燃焼により排ガスとして生成する炭酸ガスや水分などの酸化性ガス濃度が相対的に高まり、生成した還元鉄が再酸化を受ける恐れが生じることが確認された。
【0019】従って本発明の目的は、酸化鉄と炭素質還元剤を含む混合物を加熱還元して金属鉄を製造する際に、固体還元の末期以降、特に浸炭・溶融時の金属鉄の再酸化を可及的に抑制し、金属化率が高くて鉄分純度の高い粒状の金属鉄を高歩留まりで効率よく製造することのできる技術を確立することにある。」
(1オ)「【0028】図1~3は本発明が適用される本発明者ら自身が開発した回転炉床型還元溶融炉の一例を示す該略説明図で、ドーナツ状の回転移動床を有するドーム型構造のものを示しており、図1は概略見取図、図2は図1におけるA-A線断面相当図、図3は、理解の便のため図1における回転炉床の回転移動方向に展開して示す概略断面説明図であり、図中1は回転炉床、2は該回転炉床をカバーする炉体であり、回転炉床1は、図示しない駆動装置により適当な速度で回転駆動できる様に構成されている。
【0029】炉体2の壁面適所には複数の燃焼バーナ3が設けられており、該燃焼バーナ3の燃焼熱およびその輻射熱を回転炉床1上の原料成形体に伝えることにより、該成形体の加熱還元が行われる。図示する炉体2は好ましい例を示したもので、炉体2内部は3枚の仕切壁K1,K2,K3で第1ゾーンZ1、第2ゾーンZ2、第3ゾーンZ3、第4ゾーンZ4に仕切られており、該炉体2の回転方向最上流側には回転炉床1を臨んで原料および副原料装入手段4が配置されると共に、回転方向最下流側(回転構造であるため、実際には装入手段4の直上流側にもなる)には排出手段6が設けられている。
【0030】この還元溶融炉を稼動するに当たっては、回転炉床1を所定の速度で回転させておき、該回転炉床1上に、鉄鉱石等と炭材を含む原料成形体を装入装置4から適当な厚さとなる様に供給していく。炉床1上に装入された原料成形体は、第1ゾーンZ1を移動する過程で燃焼バーナ3による燃焼熱及び輻射熱を受け、該成形体内の炭材およびその燃焼により生成する一酸化炭素により該成形体中の酸化鉄は固形状態を維持した状態で加熱還元される。その後、第2ゾーンZ2で更に加熱還元され、ほぼ完全に還元されて生成した還元鉄は、第3ゾーンZ3で更に還元性雰囲気下で加熱されることにより浸炭して溶融し、副生するスラグと分離しながら凝集して粒状の金属鉄となった後、第4ゾーンZ4で任意の冷却手段Cにより冷却されて固化し、その下流側に設けられた排出手段6によって順次掻き出される。この時、副生したスラグも排出されるが、これらはホッパーHを経た後、任意の分離手段(篩目や磁選装置など)により金属鉄とスラグの分離が行われ、最終的に鉄分純度が95%程度以上、より好ましくは98%程度以上でスラグ成分含量の極めて少ない金属鉄として得ることができる。」
(1カ)「【0034】図4は、酸化鉄源として鉄鉱石、炭素質還元剤として石炭を用いた原料成形体(直径が16~19mmのペレット)を、雰囲気温度が約1300℃(図中の直線)に制御された炉内へ装入し、還元率(原料成形体における酸化鉄中の酸素の除去率)がほぼ100%になるまで固体還元を行ない、得られる還元鉄を、図中の直線で示す時点で、約1425℃(直線)に制御された溶解ゾーンへ装入して溶解させた場合の反応状況を示すもので、図中には、予め原料成形体内へ装入した熱電対により連続的に測定される成形体の内部温度と、炉の雰囲気温度を示すと共に、還元過程で発生する二酸化炭素と一酸化炭素の経時変化も併せて示している。
【0035】この図からも明らかな様に、炉内に装入された原料成形体を、固体状態を保ちつつ、該原料成形体中に含まれるスラグ成分の部分的な溶融を引き起こすことなく、還元率(酸素除去率)で80%(図4のA点)以上、好ましくは95%(図4のB点)以上にまで還元を進めるには、炉内温度を1200~1500℃、より好ましくは1200~1400℃の範囲に保って固体還元を行ない、引き続いて炉内温度を1350~1500℃に高めて、一部残された酸化鉄を還元すると共に生成した金属鉄を浸炭溶融させて凝集させる2段加熱方式を採用すれば、粒状の金属鉄を安定して効率よく製造することができる。
…
【0037】また図4の横軸に示す時間は、原料成形体を構成する鉄鉱石や炭材の組成等によって若干の違いはあるが、通常は10分から13分程度で酸化鉄の固体還元と溶融および凝集を完了させることができる。
【0038】この時、原料成形体の固体還元を80%未満の還元率に止めてから加熱溶融を行なうと、前述した如く原料成形体から低融点スラグの滲み出しが起こり、炉床耐火物を溶損させる。ところが、固体還元末期で80%以上、より好ましくは95%以上の還元率を確保した上で次工程の浸炭・溶融・凝集を行なうと、原料成形体中の鉄鉱石等の銘柄や配合組成などに関わりなく、原料成形体中に一部残存しているFeOも成形体内部で還元が進行するため、スラグの滲み出しが最小限に抑えられ、炉床耐火物の溶損を生じることなく安定して連続操業を行なうことができる。
…
【0040】固体還元領域で目標の固体還元を終えた成形体は、炉内温度を1425℃に高めた溶融領域へ移送する。そうすると、図4に示す如く成形体の内部温度は上昇して行くが、C点で一旦降下した後再び昇温して設定温度の1425℃に達する。C点での上記温度降下は、還元鉄の溶融に伴う溶解潜熱で抜熱されるためと思われ、即ち該C点を溶融開始点と見ることができる。この溶融開始点は、還元鉄粒子内の残存炭素量によってほぼ決まり、該還元鉄粒子が該残存炭素やCOガスにより浸炭を受けて融点が降下することより急速に溶融する。従ってこの溶融を速やかに行なわせるには、固体還元を終えた還元鉄粒子内に上記浸炭に十分な量の炭素が残存していなければならない。この残留炭素量は、原料成形体を製造する際の鉄鉱石等と炭材の配合割合によって決まるが、本発明者らが実験によって確認したところによると、固体還元期における最終還元率がほぼ100%に達した状態、即ち金属化率が100%に達した状態で、該固体還元物中の残留炭素量(即ち余剰炭素量)が1.5%以上となる様に当初の炭材配合量を確保しておけば、還元鉄を速やかに浸炭させて低融点化させることができ、1300~1500℃の温度域で速やかに溶融させ得ることが確認された。ちなみに上記還元鉄中の残留炭素量が1.5%未満では、浸炭のための炭素量不足により還元鉄の融点が十分に降下せず、加熱溶融のための温度を1500℃以上に高めなねばならなくなる。」
(1キ)「【0049】ところで本発明の実施に用いられる還元溶融炉では、前述の如く原料成形体の加熱にバーナー加熱が採用される。そして固体還元期は、前記図4でも説明した様に、炉内に装入された原料成形体中の酸化鉄源と炭材との反応により大量のCOガスと少量のCO2ガスが発生するので、原料成形体近傍は自から放出する上記COガスのシールド効果によって十分な還元性雰囲気に保たれる。
【0050】ところが、固体還元期の後半から末期にかけては、上記COガスの発生量が急速に減少するため自己シールド作用が低下し、バーナ加熱によって生じる燃焼排ガス(CO2やH2O等の酸化性ガス)の影響を受け易くなり、折角還元された金属鉄が再酸化を受け易くなる。また、固体還元の終了後は、成形体中の残留炭素による還元鉄の浸炭による融点降下によって微小還元鉄の溶融と凝集が進行するが、この段階でも前記自己シールド作用は乏しいので、還元鉄は再酸化を受け易い。
【0051】従って、この様な再酸化を可及的に抑えつつ固体還元後の浸炭・溶融・凝集を効率よく進めるには、浸炭・溶融領域の雰囲気ガス組成を適切に制御することが重要となる。
【0052】そこで、固体還元終了後の浸炭・溶融時において、還元鉄の再酸化を防止しつつ浸炭・溶融を効率よく進めるための雰囲気条件について検討を進めた。
…
【0055】図8は、電気炉内の温度を徐々に上昇させた時の前記熱電対によって検知される原料成形体の温度と雰囲気ガス組成を経時的に測定した結果を示したもので、横軸は温度変化、縦軸は雰囲気ガスの簡易還元度を表わす(CO)/(CO+CO2)を示している。
…
【0058】そして、少なくとも浸炭・溶融・凝集の開始期において、雰囲気ガスの還元度が0.5以上、より好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.7以上、最も好ましくはFeO-Fe平衡曲線の上になる様に雰囲気ガスの還元度を制御してやれば、固体還元により生成した還元鉄の再酸化を招くことなくその浸炭・溶融・凝集を円滑に進めることができ、Fe純度の高い金属鉄を極めて効率よく製造し得ることが確認された。…
【0060】尚上記からも明らかな様に、雰囲気調整剤として石炭粉を使用する場合は、粒径を3mm以下、より好ましくは2mm以下に微細化して使用することにより、浸炭・溶融・凝集時の再酸化を一層確実に防止することができるので好ましい。また実操業時の炉内への歩留まりや操業性などを考慮すると、該石炭粉の粒径は0.3~1.5mmの範囲が最も好ましい。該石炭粉を敷き詰める厚さは特に制限されないが、薄すぎる場合は雰囲気調整剤としての絶対量が不足気味になるので、好ましくは2mm程度以上、より好ましくは3mm以上を確保することが望ましい。厚さの上限は特に存在しないが、過度に厚く敷いても雰囲気調整作用は自ずと飽和し、経済的に無駄になるので、好ましくは7mm程度以下、より好ましくは6mm程度以下に抑えるのが実際的である。尚該雰囲気調整剤としては、石炭以外にもコークスや木炭など、要はCO発生源となるものであれば何でもよく、勿論これらの混合物を使用することも可能である。」
(1ク)「【0081】しかし本発明で還元溶融炉から取り出される金属鉄は、融点以下の温度に冷却されているとはいえ依然として800~1200℃の高温状態にあり、これを更に常温にまで冷却してから製鋼炉などへ供給することは、熱エネルギー的に無駄が生じる。そこで、該高温状態の金属鉄の保有熱を有効に活用し、該高温の金属鉄をそのまま、或いは更に加熱溶融してから製鋼炉へ供給する一環製鉄・製鋼ラインを組めば、熱ロス低減の上でも極めて実用的となる。
…
【0084】ちなみに図12は、こうした一環生産方式の一例を示す説明図であり、工程Aは、還元溶融炉でし製造されたスラグフリーの金属鉄を一旦常温まで冷却してから電気炉などの製鋼炉に適量供給し製鋼原料として利用する製鋼方式、工程Bは、高温の金属鉄を、近接して設置した電気炉などの製鋼炉に高温状態(800~1200℃)を保ったままで供給し、熱補給のための電力原単位を低減可能にした方式、工程Cは、高温の金属鉄を、隣設した専用の金属鉄溶融炉へ全量送って加熱溶融し、これを製鋼炉へ溶融鉄として供給する方式、をそれぞれ示している。即ち本発明によって得られる金属鉄は、スラグフリーで鉄分純度が高く、更に塩基度調整により低S化を進めたものはS含有量も少ないので、これを製鋼原料として利用する一環システムを構築することにより、電気炉などの電力原単位を低減し、或いは脱硫負荷を軽減しつつ安定した品質の溶鋼を生産性良く製造することが可能となる。」
(1ケ)「【0086】実施例1
鉄源としてのヘマタイト系鉄鉱石と石炭および少量のバインダー(ベントナイト)を均一に混合して直径約19mmの原料成形体を製造し、これを用いて金属鉄の製造を行なった。即ちこの成形体を、前記図1~3に示した様な回転炉床型の還元溶融炉へ装入し、雰囲気温度を約1350℃に制御して金属化率が約90%となるまで固体還元を進める。その後、引き続いて雰囲気温度を1440℃に設定した浸炭・溶融・凝集ゾーンへ送って浸炭・溶融と凝集および副生スラグの分離を行ない、スラグフリーの金属鉄を製造した。
…
【0089】実施例2
鉄源としてマグネタイト系鉄鉱石を使用し、これを石炭と少量のバインダー(ベントナイト)およびスラグ塩基度調整のため5%のCaCO3と共に均一に混合し、造粒して直径約19mmの原料成形体を作製した。
【0090】この原料成形体を、雰囲気調整剤としての石炭粒(平均粒径:約3mm)を約3mmの厚さで敷き詰めた炉床上に装入し、前記実施例1と同様に雰囲気温度を約1350℃に維持しつつ金属化率がほぼ100%となるまで固体還元を進め、しかる後、1425℃に保った溶融領域へ送って浸炭・溶融と凝集および副生スラグの分離を行ない、スラグフリーの金属鉄を製造した。この時の原料配合、固体還元終了時の還元鉄組成、最終的に得られた金属鉄の成分組成、生成スラグの組成などを図15に示した。
【0091】溶融・凝集しスラグとほぼ完全に分離した金属鉄を冷却ゾーンに送り、1000℃まで冷却し凝固させてから排出機により炉外へ排出し、回収された金属鉄、副生スラグおよび余剰炭材の生成比率と夫々の組成分析を行なった。なお、還元溶融炉における浸炭・溶融直前の還元鉄を抜き出して組成分析を行なったところ、金属化率は約92.3%、残留炭素量は3.97%であった。上記原料成形体の装入から金属鉄として取り出すまでの時間は約8分と極めて短時間であり、得られた金属鉄のC含有量は2.10%、Si含有量は0.09%、S含有量は0.065%であった。即ちこの実験では低S化のためのCaO源の添加を行なっているため、前記実施例1よりも低S化が達成されている。
【0092】この実施例では、CaO源添加による副生スラグの低融点化によって固体還元の後半期に溶融スラグの滲み出しが懸念されたが、固体還元期の温度を1200~1400℃に設定し、固体還元により高い金属化率の還元鉄としてから1350~1500℃に昇温する2段加熱方式を採用し、且つ炉床面に石炭粉を雰囲気調整剤として敷き詰めておくことで、溶融スラグの滲み出しによる炉床耐火物溶損の問題は全く生じなかった。」
(1コ)「【0095】実施例3
石灰石を5.0%配合した粒径19~20mmの原料成形体を使用し、前記実施例2と同様の方法で固体還元および浸炭・溶融・凝集を行なって粒状の金属鉄を製造した。この金属鉄を800℃まで冷却して取り出し、その温度を保って直ちに電気炉の鉄源として約40%(それ以外は鉄スクラップ)配合して溶融した。
【0096】その結果、電気炉における消費電力は、スクラップ100%操業時の448kWh/tに比べて約68kWh/t(約15%)抑えられ、且つ溶融時間の短縮に伴なって生産性は約14%向上できることが確認された。更に、金属鉄のS含有量は0.018%で、目標溶鋼のS含有量とほぼ同レベルまで低減されているため、電気炉での脱硫負荷は大きく軽減され、安定して効率よく操業できることが確認された。またこの金属鉄は実質的にスラグが含まれていないので、得られる溶鋼の不純介在物量は少なく、高品質の溶鋼を得ることができる。」
(1サ)「【図1】
[図:0001406694000001.jpg]
【図2】
[図:0001406694000002.jpg]
」
(1シ)「【図3】
[図:0001406694000003.jpg]
」
(1ス)「【図4】
[図:0001406694000004.jpg]
」
(1セ)「【図12】
[図:0001406694000005.jpg]
」
(1ソ)「【図15】
[図:0001406694000006.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
(ア)上記(1ウ)、(1エ)によれば、甲1において解決しようとする課題とは、鉄分含有量の比較的低い鉄鉱石等からでも、鉄純度の高い金属鉄を簡単な処理で効率よく得ることのできる方法として、酸化鉄と炭素質還元剤を含む成形体を加熱還元して金属鉄を製造する方法が知られていたところ(【0011】、【0012】)、当該方法において、その固体還元の末期、更にはその後の浸炭・溶融時点に、発生する一酸化炭素量が減少し、加熱のためのバーナ燃焼により排ガスとして生成する炭酸ガスや水分などの酸化性ガス濃度が相対的に高まり、生成した還元鉄が再酸化を受ける恐れが生じることが確認されたことに鑑み(【0018】)、固体還元の末期以降、特に浸炭・溶融時の金属鉄の再酸化を可及的に抑制し、金属化率が高くて鉄分純度の高い粒状の金属鉄を高歩留まりで効率よく製造すること(【0019】)である(以下、単に「課題」という。)。
(イ)上記(1オ)によれば、上記(ア)の課題を解決するために使用される回転炉床型還元溶融炉(以下、「還元溶融炉」という。)が図1~3に示されており、還元溶融炉は回転炉床1と、壁面に燃焼バーナ3が設けられた炉体2を有し(【0028】、【0029】、図1、図2)、炉体2内部は3枚の仕切壁で第1ゾーンZ1、第2ゾーンZ2、第3ゾーンZ3、第4ゾーンZ4に仕切られており、炉体2の回転方向最上流側には装入装置4が配置されると共に、回転方向最下流側には排出手段6が設けられている(【0029】、図3)。
当該還元溶融炉において、鉄鉱石等と炭材を含む原料成形体は装入装置4から供給され、第1ゾーンZ1及び第2ゾーンZ2を移動する過程で、炭材の燃焼により生成する一酸化炭素により原料成形体中の酸化鉄は固形状態を維持した状態で加熱還元される。還元されて生成した還元鉄は、第3ゾーンZ3で更に還元性雰囲気下で加熱されることにより浸炭して溶融し、副生するスラグと分離しながら凝集して粒状の金属鉄となった後、第4ゾーンZ4で冷却されて固化し、排出手段6によって順次掻き出される(【0030】)。
(ウ)上記(1カ)によれば、炉内温度を1200~1500℃、より好ましくは1200~1400℃の範囲に保って固体還元を行ない、引き続いて炉内温度を1350~1500℃に高めて、一部残された酸化鉄を還元すると共に生成した金属鉄を浸炭溶融させて凝集させる2段加熱方式を採用することによって(【0035】)、固体還元末期で80%以上、より好ましくは95%以上の還元率を確保した上で、次工程の浸炭・溶融・凝集を行なうと、原料成形体中の鉄鉱石等の銘柄や配合組成などに関わりなく、原料成形体中に一部残存しているFeOも成形体内部で還元が進行するため、スラグの滲み出しが最小限に抑えられ、炉床耐火物の溶損を生じることなく安定して連続操業を行なうことができる(【0038】)。
(エ)上記(1ケ)によれば、実施例2の金属鉄の製造方法は、マグネタイト系鉄鉱石と石炭と少量のバインダーおよびスラグ塩基度調整のため5%のCaCO3と共に均一に混合し造粒した原料成形体を作製し(【0089】)、当該原料成形体を、雰囲気調整剤としての平均粒径約3mmの石炭粒を約3mmの厚さで敷き詰めた炉床上に装入し、雰囲気温度を約1350℃に維持しつつ金属化率がほぼ100%となるまで固体還元を進め、しかる後、1425℃に保った溶融領域へ送って浸炭・溶融と凝集および副生スラグの分離を行ない、スラグフリーの金属鉄を製造するというものである(【0090】)。
ここで、上記(1オ)に記載されているように、図1~3の還元溶融炉は、本発明が適用されるものであるから(【0028】)、実施例2の金属鉄の製造方法は、実施例1と同様に図1~3の還元溶融炉を用いていると認められるところ(【0086】)、上記(イ)の検討から、実施例2の固体還元は第1ゾーンZ1、第2ゾーンZ2で行われ、当該固体還元によって還元鉄が生成しており、実施例2の浸炭・溶融と凝集および副生スラグの分離は第3ゾーンZ3で行われており、粒状の金属鉄とスラグが分離されるものと認められる。
また、「浸炭・溶融と凝集」とは、請求項1の記載を参照すると、「固体還元により生成する還元鉄に前記炭素質還元剤中の炭素を浸炭させることによって溶融させると共に、前記原料成形体中に含まれる脈石成分を分離し、溶融した金属鉄を凝集させて粒状の金属鉄を製造する」ことを意味している。なお、実施例2において、炭素質還元剤とは原料中の石炭が該当する。
(オ)実施例2における、原料配合、固体還元終了時の還元鉄組成、最終的に得られた金属鉄の成分組成、生成スラグの組成の分析結果が図15に示されている(【0090】)。
原料配合は、図15の左部から、鉄鉱石72.87%、石炭-A20.48%、バインダー1.50%、CaO含有物質5.00%であることが読み取れる。
固体還元終了時の還元鉄の成分組成は、図15の中央下部から、FeO:8.05%、SiO2:3.94%、Al2O3:1.44%、C:3.97%を含んでおり、金属化率は90.0%であることが読み取れる。しかし、金属化率については、段落【0091】には約92.3%とも記載されており、90.0%と92.3%のいずれが正しいか不明であるので両値を併記することとする。
最終的に得られた金属鉄の成分組成は、図15の右上部から、Fe:97.35%、C:2.096%を含むことが読み取れる。
生成スラグの組成(成分)は、図15の右下部から、CaO:30.14%、SiO2:29.42%を含むことが読み取れる。
上記還元鉄の成分組成から、SiO2+Al2O3含有量が5.38%であるが、このSiO2+Al2O3は原料のマグネタイト系鉄鉱石に脈石成分として含有されていた不純物であることは明らかであり、実施例2で使用されている原料のマグネタイト系鉄鉱石は、上記(ア)で言及した鉄分含有量の比較的低い鉄鉱石に該当するものと考えられる。
(カ)また、実施例2において、雰囲気調整剤として平均粒径約3mmの石炭粒を炉床上に約3mmの厚さで敷き詰めている理由は、上記(1キ)によれば、固体還元期の後半から末期にかけてCOガスの発生量が急速に減少するため、折角還元された金属鉄が再酸化を受け易く、固体還元の終了後も還元鉄が再酸化を受け易いが(【0050】)、少なくとも浸炭・溶融・凝集の開始期において、雰囲気ガスの還元度が0.5以上になる様に雰囲気ガスの還元度を制御してやれば、固体還元により生成した還元鉄の再酸化を招くことなくその浸炭・溶融・凝集を円滑に進めることができ、Fe純度の高い金属鉄を極めて効率よく製造することができるからである(【0058】)。ここで、雰囲気ガスの還元度を0.5以上にするために雰囲気調整剤として石炭粉を使用する場合は、粒径を3mm以下、より好ましくは2mm以下に微細化して使用することが好ましく、石炭粉を炉床上に敷き詰める厚さは、好ましくは2mm程度以上、より好ましくは3mm以上を確保することが望ましい(【0060】)。
なお、上記還元度とは、段落【0055】を参照すると、(CO)/(CO+CO2)によって算出されているものと推定される。
(キ)以上の検討から、実施例2の金属鉄の製造方法に注目すると、次の発明が記載されているものと認められる。
「炭素質還元剤と酸化鉄含有物質を含む原料を均一に混合し造粒した原料成形体を作製し、
雰囲気調整剤として平均粒径約3mmの石炭粒を約3mmの厚さで敷き詰めた回転炉床型還元溶融炉の炉床上に、前記原料成形体を装入し、
回転炉床型還元溶融炉の第1ゾーンZ1と第2ゾーンZ2において、雰囲気温度を約1350℃に維持しつつ金属化率がほぼ100%となるまで前記原料成形体の固体還元を進めて還元鉄を製造し、
前記還元鉄を1425℃に保った溶融領域である第3ゾーンZ3に送って、前記還元鉄に炭素質還元剤中の炭素を浸炭させることによって溶融させると共に、前記原料成形体中に含まれる脈石成分をスラグとして分離し、溶融した金属鉄を凝集させて粒状の金属鉄を製造する、金属鉄の製造方法であって、
前記浸炭、溶融時における成形体近傍の雰囲気ガスの還元度を0.5以上とし、
前記炭素質還元剤と酸化鉄含有物質を含む原料は、マグネタイト系鉄鉱石72.87%、石炭A20.48%、バインダー1.50%、CaO含有物質5.00%を含み、
固体還元終了時の還元鉄は、FeO:8.05%、SiO2:3.94%、Al2O3:1.44%、C:3.97%を含み、金属化率は90.0%又は92.3%であり、
最終的に得られた金属鉄は、Fe:97.35%、C:2.096%を含み、
生成スラグは、CaO:30.14%、SiO2:29.42%を含む、金属鉄の製造方法。」
(以下、「甲1金属鉄製造方法」という。)
(ク)また、上記(1ク)によれば、還元溶融炉から取り出された金属鉄をそのままあるいは更に加熱溶融して製鋼炉へ供給する一環生産方式によって溶鋼を製造する3つの方法(工程A~C)が記載されており、上記3つの方法のうち工程Bの方法は次のものである。
工程B:還元溶融炉で製造された高温状体の金属鉄を、近接して設置した電気炉などの製鋼炉に高温状態(800~1200℃)を保ったままで供給し、溶鋼を製造する方法。
上記(1コ)によれば、実施例3の溶鋼の製造方法として、実施例2と同様の方法で固体還元、および浸炭・溶融・凝集を行なって粒状の金属鉄を製造した後に、工程Bを実施するものであって、工程Bとして、具体的には、金属鉄を800℃まで冷却して取り出し、その温度を保って直ちに電気炉の鉄源として鉄スクラップと配合して溶融し、溶鋼を得る方法が記載されている。
(ケ)したがって、実施例2によって金属鉄を製造した後に工程Bを行って溶鋼を製造する実施例3の方法に注目すると、甲1には次の溶鋼の製造方法が記載されているものと認められる。
「炭素質還元剤と酸化鉄含有物質を含む原料を均一に混合し造粒した原料成形体を作製し、
雰囲気調整剤として平均粒径約3mmの石炭粒を約3mmの厚さで敷き詰めた回転炉床型還元溶融炉の炉床上に、前記原料成形体を装入し、
回転炉床型還元溶融炉の第1ゾーンZ1と第2ゾーンZ2において、雰囲気温度を約1350℃に維持しつつ金属化率がほぼ100%となるまで前記原料成形体の固体還元を進めて還元鉄を製造し、
前記還元鉄を1425℃に保った溶融領域である第3ゾーンZ3に送って、前記還元鉄に炭素質還元剤中の炭素を浸炭させることによって溶融させると共に、前記原料成形体中に含まれる脈石成分をスラグとして分離し、溶融した金属鉄を凝集させて粒状の金属鉄を製造し、
高温状態の前記金属鉄を800℃まで冷却して取り出し、その温度を保って直ちに電気炉に供給し、鉄スクラップと配合して溶融することにより溶鋼を得る、
溶鋼の製造方法であって、
前記炭素質還元剤と酸化鉄含有物質を含む原料は、マグネタイト系鉄鉱石72.87%、石炭A20.48%、バインダー1.50%、CaO含有物質5.00%を含み、
固体還元終了時の還元鉄は、FeO:8.05%、SiO2:3.94%、Al2O3:1.44%、C:3.97%を含み、金属化率は90.0%又は92.3%であり、
粒状の金属鉄は、Fe:97.35%、C:2.096%を含み、
分離されたスラグは、CaO:30.14%、SiO2:29.42%を含む、溶鋼の製造方法。」
(以下、「甲1発明」という。)
(2)甲2の記載、及び甲2に記載された発明
ア 甲2には、「製鉄・製鋼法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(2ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記方法からなることを特徴とする炭素含有量1.5~4.5%の溶融鉄を製造する製鉄法。
(a)酸化鉄と炭素質還元剤を準備し、
(b)前記炭素質還元剤と酸化鉄から成形体を製造し、
(c)該成形体から、金属化率が少なくとも60%で、比重が少なくとも1.7
以上であり、且つ、残存する酸化鉄を還元するのに必要な理論当量に対し50%以上の炭素を含む固形還元鉄を製造し、
(d)該固形還元鉄を実質的に冷却することなくアーク加熱式溶解炉で加熱し、
炭素含有量1.5~4.5%の溶融鉄を得る。
…
【請求項17】 前記請求項1によって得た溶融鉄を製鋼炉へ供給して鋼を製造する製鋼法。」
(2イ)「【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、鉄成分含有量の高い酸化鉄源はもとより、鉄成分含有量の比較的低い鉄鉱石などからであっても、耐火物の溶損を生じることなく且つ高いエネルギー効率および還元効率で、しかも簡単な設備および操作で効率よく溶融鉄を得ることのできる製鉄法、更にはこの方法によって得られる還元鉄を用いた製鋼法を提供することにある。」
(2ウ)「【0013】
上記本発明を実施するに当たっては、上記アーク加熱式溶解炉の内張り耐火物の溶損を最小限に抑えつつ溶融還元を効率よく進めるため、前記固形還元鉄を、前記アーク加熱式溶解炉内の溶融スラグ上へ装入して加熱溶解することとし、該溶融スラグの塩基度を1.0~1.8の範囲に制御するのがよく、且つ該溶融スラグ中の酸化鉄成分含量は、Fe換算で9%以下、更に好ましくは5%以下に抑えることが望ましい。」
(2エ)「【0018】
なお本発明の方法では、高炉製鉄法に比べて鉄鉱石等の酸化鉄源を還元する際の還元ポテンシャルが低く、脈石成分中のSiO2は還元を受けることなくSiO2としてスラグ化する。従って、得られる溶融鉄のSi含有量は低い(0.05%以下)ので格別の脱珪処理は必要とされない。しかも該溶融鉄中のSi含有量は低いので、予備脱珪等を全く要することなく、上記の様な脱燐処理によって容易に低P溶融鉄を得ることができるのである。」
(2オ)「【0021】
図1は、本発明に係る製鉄法および製鉄/製鋼一貫法を示す概略フロー図であり、図中において原料成形体製造部1、還元鉄製造設備2、アーク加熱式溶解炉3、製鋼炉4を夫々示す。矢印Aで示す一連の工程は、製鉄(還元鉄の製造)法に相当し、矢印Bで示す工程は、製鋼法に相当する。
【0022】
まず製鉄法においては、原料成形体製造部1で、鉄鉱石等の酸化鉄源と石炭粉やコークス粉等の炭素質還元剤の粉末を原料として、炭材内装酸化鉄含有成形体(ペレットやブリケットなど)の製造が行われ、そして製造された該成形体は逐次還元鉄製造設備2へ送り込まれる。該還元鉄製造設備2としては、要は炭材内装酸化鉄含有成形体(以下、単に成形体ということがある)を加熱し、実質的に固形状態を保ったままで内装炭材の還元力およびその燃焼によって生じるCOガスの還元力により成形体内の酸化鉄分の還元を進める機能を備えたものであればよい。例えばロータリーキルン型や回転炉床型など任意の構造の物を使用することができる。この設備2には上記成形体の移送手段が設けられる他、バーナ等の加熱源、燃焼用酸素供給部、必要によっては還元性ガス供給部、更には温度計や温度制御手段などを組み込んで還元進行状態を適宜制御できる様にした構造のものが用いられる。図1では、回転炉床型のもので、装入部2aから装入された成形体を回転炉床の移動に伴って移動させながら加熱還元し、所定の還元率に達した時点で逐次排出部2bから固形状態のままで排出する構成のものを示している。
【0023】
上記還元鉄製造設備2で還元を受けて排出される固形還元鉄は、実質的に冷却することなく引き続いてアーク加熱式溶解炉3へ送り込まれ、該溶解炉3において成形体中に未還元状態で残存する酸化鉄の加熱還元が進められると共に、還元鉄の溶解が同時に行われる。なお上記還元鉄製造設備2から排出される固形還元鉄は通常700~1300℃程度の熱を保有しており、この熱は実質的にそのままアーク加熱式溶解炉3の熱源として利用されるので、アーク加熱のための消費エネルギー低減に寄与できる。
【0024】
ここで用いられるアーク加熱式溶解炉3は、アーク熱を利用して溶融鉄を強制撹拌することなく加熱し、内張り耐火物の溶損を可及的に抑えつつ還元と溶解を効率よく進める機能を有しており、そしてアークには、溶解炉3内の溶鉄に浮上するスラグ内に電極3aを装入して通電することにより生じるサブマージアークが含まれる。そして、アーク加熱式溶解炉3へ装入される前記固形還元鉄がアーク熱を受けて速やかに還元され且つ溶解する様、アーク加熱部(即ち、電極3aの挿入部)付近に原料(固形還元鉄)装入部3bが設けられる。また炭素質還元剤の追加装入部3cは、固形還元鉄の装入位置に向けて設けられている。
【0025】
そして該アーク加熱式溶解炉3では、装入された固形還元鉄Aの還元と溶融によって溶融鉄(溶融金属または溶融鉄ということもある)が生成し、これは、その前に既に生成し滞留している溶融鉄に逐次取り込まれ、固形還元鉄A内に共存している脈石成分は、溶融スラグとなり湯面上に浮遊している溶融スラグに合流していく。従って、該アーク加熱式溶解炉3内に溶融鉄や溶融スラグが所定量溜った時点で、適宜該溶解炉3の側壁下方位置から溶融鉄を逐次抜き出すか、また溶融スラグと溶融鉄の界面位置よりやや上方から溶融スラグを適宜抜き出していけばよい。
【0026】
得られた溶融金属鉄は、必要により脱硫、脱燐等の清浄化処理を行った後、製鋼炉4へ製鋼原料として送り込まれる。製鋼炉4としては、EAF4aまたはBOF4b等が使用され、この部分で鉄スクラップや銑鉄等と混合して精錬処理が行われる。このとき、アーク加熱式溶解炉3に隣接して製鋼炉4を配置しておけば、高温の溶融還元鉄を実質的に降温させることなく製鋼炉4の原料として供給することができ、それにより溶融還元鉄の保有熱をそのまま精錬のための熱源として利用できるので熱効率上最も好ましい。場合によっては、アーク加熱式溶解炉3で得た溶融還元鉄を一旦鋳型等に受けて冷却固化し、中間製鋼原料として商品化したり、或は離れた位置の製鋼炉へ製鋼原料として送ることも可能である。」
(2カ)「【0051】
上記の様にして、アーク加熱式溶解炉3で還元し溶融することにより、炭素含有量が1.5~4.5%でSi含有量が0.05%程度以下の溶融鉄として得ることができ、これは、先に図1で説明した様に、溶融鉄中の[C]量によって若干異なるが、概1350℃程度以上の熱を保有した溶融状態のままでEAFやBOF等の製鋼炉へ供給し、あるいは一旦鋳型に取り出し冷却固化させてから、製鋼用の中間製品として利用することができる。しかしながら、上記で得られる溶融鉄の中には多量の硫黄や燐が含まれているので、好ましくは製鋼工程へ送るまでにこれらの硫黄や燐を除去しておくことが望ましい。」
(2キ)「【0061】
“該固形還元鉄内の炭素分含有量:FeO還元当量炭素量の50%以上に定めた根拠
図6は、様々の条件で製造された固形還元鉄について、該固形還元鉄中のFeO還元当量炭素量と溶融スラグ中の酸化鉄含有量の関係を調べた結果を示したグラフである。この実験では、固形還元鉄の金属化率が78~82%でFeO還元当量炭素量の異なるものを使用し、20トンのEAFを用いて溶解した時の、溶融スラグ中の酸化鉄含有量(T.Fe)を調べた。この図からも明らかである様に、固形還元鉄内にFeO還元当量炭素量(未還元酸化鉄を還元するのに必要な理論当量の炭素量)が含まれる場合は、溶融スラグ中の(T.Fe)は低レベルに抑えられるが、該炭素量がFeO還元当量炭素量の50%(即ち、FeO還元当量炭素量×0.5)を下回ると、溶融スラグ中の(T.Fe)が急増しており、ひいては内張り耐火物の溶損が著しくなることを確認できる。従って、内張り耐火物の溶損を最小限に抑えて安定操業を確保するには、固形還元鉄中の炭素分含有量を、FeO還元当量炭素量の50%以上にすべきである。」
(2ク)「【0073】
実施例
鉄鉱石と石炭の各粉砕物および少量のバインダ(ベントナイト)を使用し、これらを、鉄鉱石中の酸化鉄に対し石炭中の炭素が理論当量となる様に配合する。これらを造粒装置で直径約13~20mmの略球形に成形し、この炭材を含む酸化鉄含有成形体を原料成形体として使用した。用いた鉄鉱石と石炭の組成の一例を下記に示す。
【0074】
鉄鉱石の組成:
T・Fe=65%,FeO=0.7%,SiO2=2.5%
Al2O3=2.10%,CaO=0.04%
石炭の組成:
全炭素量=77.6%,固定炭素=71.2%,
揮発分=17.0%,灰分=11.8%
【0075】
上記成形体(生ペレット)を回転炉床型の還元鉄製造設備へ供給し、温度1250~1350℃、回転炉内での平均滞留時間7~9分間で加熱還元を行って固形還元鉄を製造した。得られる固形還元鉄中の未還元酸化鉄量と残留炭素量は上記加熱還元条件によって異なる。この実施例では、該固形還元鉄中の酸化鉄の金属化率がいずれも60%以上となる様に加熱還元条件を調整した。得られた固形還元鉄の金属化率と成分組成の一例を表1に示す。更に、同様の実験で得た固形還元鉄の重量と比重は例えば図10に示す通りであり、1ピース当たりの重量には殆ど関係なく、平均比重はいずれも1.7~2.5の範囲である。
【0076】
【表1】
[図:0001406694000007.jpg]
【0077】
上記還元鉄製造設備で得られる固形還元鉄は、可能な限り大気と接触しない様に、且つ高温を保った状態(本実験では1000℃)で、還元鉄製造設備に近接して設けられたアーク加熱式溶解炉に連続的に投入し、更なる還元と溶融を行う。このとき、溶解炉内には一定量の溶融鉄を保持させておくと共に、溶融鉄上に浮上する溶融スラグの塩基度を1.0~1.8の範囲に調整し、アーク加熱のための電極は該溶融スラグ内に突っ込んだ状態で通電し、サブマージアーク加熱方式を採用した。そして固形還元鉄は該アーク加熱部近傍に向けて投入すると共に、該固形還元鉄投入位置に向けて石炭を追加投入し、アーク加熱による還元と溶融を進めた。
【0078】
この還元・溶融工程中の固形還元鉄は、スラグ形成成分としてのSiO2が他の酸化物よりも多く含まれている。溶解炉内で還元鉄の溶解が進行するにつれて塩基度が低下してくるので、塩基度調整剤として主に焼石灰、必要により焼成ドロマイト等を含むフラックスを添加し、溶融スラグの塩基度を1.0~1.8の範囲に調整した。この方法により、前述の如く溶融スラグの塩基度が1.8を超えると、溶融スラグが粘稠になり固形還元鉄が該溶融スラグ内へ沈み込み難くなって加熱還元効率が低下し、また1.0未満になると内張り耐火物の溶損が著しくなることが確認された。
【0079】
この加熱還元・溶解工程で、溶融スラグ上に装入された固形還元鉄は、溶融スラグに接してアーク熱を受け、内部に残存する炭素分によって未還元酸化鉄の還元が進行し、固形還元鉄の表面にCOガスが放出されて該固形還元鉄は活発に動き回ると共に、該COガスによって溶融スラグは激しく発泡する。そして、該発泡に伴う比重の低下につれて固形還元鉄は溶融スラグ内へ沈み込んで更に加熱還元を受け、その周辺に追加投入される炭素質還元剤の作用で未還元鉄はほぼ完全に還元されると共に溶融し、下部の溶融鉄内に取り込まれていく。
【0080】
…
【0081】
更に、該固形還元鉄中の炭素分含有量が、該固形還元鉄中の未還元酸化鉄を還元するのに必要な理論炭素量に対して50%未満である場合は還元効率不足となり、該溶解炉内へ炭素質還元剤を追加装入したとしても還元速度が遅く、溶融スラグ中の酸化鉄含有量も多くなって内張り耐火物の溶損が著しくなる。
【0082】
また上記加熱還元工程では、溶融鉄を定期的にサンプリングすることによって炭素量を測定し、該炭素量が1.5~4.5%の範囲に納まる様に炭素質還元剤の追加投入量を調整した。
【0083】
こうした加熱還元・溶解工程を連続的に行い、該溶解炉内に所定量の溶融鉄が溜った時点で、炉底部に設けた出湯孔から取鍋へ溶湯を抜き出すと共に、該溶解炉の側壁に設けたスラグ排出孔から適量の溶融スラグを抜き出し、炉内に残留するスラグ量を調整する。」
(2ケ)「【0084】
こうした加熱還元・溶解を行う際の具体的な条件等および結果を例示すると次の通りである。
【0085】
(還元鉄の性状)
固形還元鉄の組成等:前記表1のNo.3(金属化率:80%)
アーク加熱式溶解炉への装入温度:1000℃
装入方法:連続装入
(アーク加熱式溶解炉の操業条件)
アーク加熱電極への電力原単位:約565KWh/tmi(mi:製造される溶融鉄)
(副原料の種類と投入量)
消石灰:92.2kg/tmi,焼成ドロマイト:21.5kg/tmi
石炭追加装入量:約20kg/tmi
還元鉄の使用原単位:1227kg/tmi
(得られる溶融鉄と生成スラグ組成)
溶融鉄:
C:2.0%,Si:0.03%以下,Mn:0.05%以下,
P:0.043%,S:0.137%,温度1550℃
生成スラグ:
CaO:36.5%,SiO2:26.1%,Al2O3:18.2%,
MgO:10.0%,T・Fe:6.3%,塩基度:1.4
【0086】
上記からも明らかである様に、溶融鉄のSi含有量は、上記還元・溶解工程で十分に低減しているが、製鋼原料としてはS含有量およびP含有量が多過ぎるので、取鍋により脱硫、脱燐処理を行ない、下記組成の溶湯を得た。
【0087】
脱硫剤(石灰系フラックス)
組成:CaO:83~90%、CaF2:6~10%、C:4.0%
使用量:約12kg/tmi
脱燐剤(石灰系フラックス+Fe2O3)
組成:CaO:44~45%、CaF2:7~8%、Fe2O3:47~48%
使用量:約20kg/tmi
脱硫・脱燐後の溶融鉄組成:
C:1.8~2.0%,Si:痕跡,Mn:0.02%,P:0.032%
S:0.038%.
【0088】
上記脱硫・脱燐処理を終えた溶融鉄(1450℃)を、鉄スクラップおよび銑鉄と下記の配合でEAFへ装入し、これに下記の副原料を添加すると共に少量の酸素を吹込みながら電気炉製鋼を行い、下記組成の溶鋼を製造した。
(電気炉装入原料)
脱硫・脱燐溶融鉄:40%部、
スクラップ:50%、銑鉄:10%
(副原料)
焼石灰:50.2kg/tmi,焼成ドロマイト:10kg/tmi,
珪石:15.1kg/tmi
吹込み酸素量:約18Nm3/tmi
(得られた溶鋼組成)
C:0.10%,Mn:0.06%,Si:痕跡,S:0.022%,
P:0.018%.
【0089】
上記実験では、アーク加熱式溶解炉で製造し、脱硫・脱燐処理した溶融鉄を溶融状態のまま、即ち高温を保った状態でEAFへ供給して製鉄原料として用いる例を示したが、同様にBOFへ製鋼原料として供給することもできるし、更にはこの溶融鉄を一旦鋳型に取り出して冷却凝固させ、製鋼用に中間原料として用いることも有効である。」
(2コ)「【図1】
[図:0001406694000008.jpg]
」
(2サ)「【図6】
[図:0001406694000009.jpg]
」
イ 甲2に記載された発明
(ア)上記(2イ)によれば、甲2で解決しようとする課題とは、鉄成分含有量の比較的低い鉄鉱石などからであっても、耐火物の溶損を生じることなく且つ高いエネルギー効率および還元効率で、しかも簡単な設備および操作で効率よく溶融鉄を得ることのできる製鉄法、更にはこの方法によって得られる還元鉄を用いた製鋼法を提供することである(以下、単に「課題」という。)。
(イ)上記課題を解決する製造方法は、上記(2オ)に記載の製造方法によって行われるものであり、図1のフロー図にも示されているように、概略として以下の工程を有する。
a.原料成形体製造部1で、鉄鉱石等の酸化鉄源と石炭粉やコークス粉等の炭素質還元剤の粉末を原料として成形体が製造され、該成形体は還元鉄製造設備2へ送り込まれる。
b.還元鉄製造設備2では、装入された成形体を加熱し、実質的に固形状態を保ったままで、内装炭材の還元力およびその燃焼によって生じるCOガスの還元力により成形体内の酸化鉄分の還元が進められて固形還元鉄が排出され、当該固形還元鉄は実質的に冷却することなく引き続いてアーク加熱式溶解炉3へ送り込まれる。
c.アーク加熱式溶解炉3では、装入された固形還元鉄はアーク熱を受けて還元され溶融されて溶融鉄が生成し、既に生成し滞留している溶融鉄に逐次取り込まれるとともに、固形還元鉄内に共存している脈石成分は、溶融スラグとなり湯面上に浮遊している溶融スラグに合流する。所定量溜った溶融鉄や溶融スラグは、溶解炉3から逐次抜き出され、得られた溶融鉄は、必要により脱硫、脱燐等の清浄化処理を行った後、製鋼炉4へ製鋼原料として送り込まれる。
d.製鋼炉4では、装入された製鋼原料を鉄スクラップや銑鉄等と混合して精錬処理が行われて溶鋼が製造される。
(ウ)上記(イ)の製造方法の実施例である上記(2ク)記載の製造方法では、段落【0074】記載の鉄鉱石と石炭を用い、加熱還元条件を変えることにより、表1のNo.1~6の固形還元鉄を製造するものであるところ、表1のNo.1、2の固形還元鉄について注目すると、次の事項が記載されている。
e.酸化鉄源である鉄鉱石は、SiO2を2.5%、Al2O3を2.10%含む(【0074】)。
f.炭素質還元剤である石炭は、石炭中の炭素が、鉄鉱石中の酸化鉄に対する理論当量となるように配合される(【0073】)。
g.No.1の固形還元鉄は、金属化率が92%、FeOを8.9%含有し、当該FeOを還元するために必要な炭素量Ceqが1.5%である(【表1】)。
h.No.2の固形還元鉄は、金属化率が90%、FeOを11.0%含有し、当該FeOを還元するために必要な炭素量Ceqが1.8%である(【表1】)。
i.アーク加熱式溶解炉3には一定量の溶融鉄を保持させておくと共に、溶融鉄上に浮上する溶融スラグの塩基度は1.0~1.8に調整されている(【0077】、【0078】)。
j.アーク加熱式溶解炉3に装入される固形還元鉄は、スラグ形成成分としてのSiO2が他の酸化物よりも多く含まれている(【0078】)。
k.固形還元鉄中の炭素含有量は、FeO還元当量炭素量(Ceq)の50%以上である(【0081】、【0061】)
l.溶融鉄中の炭素量は1.5~4.5%になるように調整されている(【0082】、【0051】)。
(エ)上記(2ケ)には、【表1】のNo.3の固形還元鉄を用いた場合について、加熱還元・溶解を行う際の具体的な条件が記載されているところ、当該No.3の固形還元鉄とNo.1、2の固形還元鉄では、FeO還元当量炭素量(Ceq)が異なっているため、石炭追加装入量等の条件は相違していると考えられるものの、アーク加熱式溶解炉から排出される溶融鉄については、いずれのNo.においても同等の品質が担保されていると推定されるから、段落【0085】の記載を参照すると、いずれのNo.も同程度の温度(1550℃)及び同程度の炭素含有率(2.0%)になっているものと認められ、また、アーク加熱式溶解炉3から排出される生成スラグについては、段落【0078】の記載も参照すると、いずれのNo.も同程度の塩基度(1.4)になっているものと認められる。したがって、アーク加熱式溶解炉3においてNo.1、2の固形還元鉄を用いて生成された溶融鉄の温度とスラグの塩基度は次のとおりと認められる。
m.溶融鉄の温度は1550℃、炭素含有率は2.0%である。
n.スラグの塩基度は1.4である。
なお、m.の炭素含有率はl.の炭素量の範囲内にあり、n.の塩基度はi.の塩基度の範囲内にあることが確認できる。
また、【0088】には、電気炉製鋼について次の事項が記載されている。
o.製鋼炉4(EAF)に装入された溶融鉄(製鋼原料)と鉄スクラップ、銑鉄に対して、酸素を吹込みながら電気炉製鋼を行う。
(オ)したがって、上記(イ)~(エ)のa.~o.の検討を総合すると、甲2には、表1のNo.1、2の固形還元鉄を製造した場合の、次の製造方法の発明が記載されているものと認められる。なお、下記甲2発明の記載において、( )内の数値は、No.2の固形還元鉄の場合の数値を表し、( )の直前の数値はNo.1の固形還元鉄の場合の数値を表す。
「原料成形体製造部1で、鉄鉱石と石炭を原料として成形体が形成され、前記成形体は還元鉄製造設備2へ送り込まれる工程であって、前記鉄鉱石はSiO2を2.5%、Al2O3を2.10%含み、前記石炭は、当該石炭中の炭素が、前記鉄鉱石中の酸化鉄に対する理論当量となるように配合されている工程と、
還元鉄製造設備2で、装入された成形体を加熱し、実質的に固形状態を保ったままで、内装炭材の還元力およびその燃焼によって生じるCOガスの還元力により成形体内の酸化鉄分の還元が進められて固体還元鉄が生成され、前記固形還元鉄が排出される工程であって、前記固形還元鉄は、金属化率が92%(90%)、FeOを8.9%(11.0%)含有し、当該FeOを還元するために必要な炭素量Ceqが1.5%(1.8%)であり、炭素含有量はFeO還元当量炭素量Ceqの50%以上であって、前記固形還元鉄は実質的に冷却することなく引き続いてアーク加熱式溶解炉3へ送り込まれる工程と、
アーク加熱式溶解炉3で、装入された固形還元鉄はアーク熱を受けて還元され溶融され、既に生成し滞留している溶融鉄に逐次取り込まれることによって、温度1550℃、炭素含有率2.0%の溶融鉄が生成されるとともに、固形還元鉄内に共存している脈石成分は溶融スラグとなり、湯面上に浮遊している溶融スラグに合流して、塩基度1.4の溶融スラグが生成され、所定量溜った溶融鉄や溶融スラグは、溶解炉3から逐次抜き出される工程と、
得られた溶融鉄は、必要により脱硫、脱燐等の清浄化処理を行った後、製鋼炉4へ製鋼原料として送り込まれる工程と、
製鋼炉4で、装入された製鋼原料を鉄スクラップや銑鉄等と混合し、酸素を吹込みながら精錬処理が行われて溶鋼が製造される工程と、を含む、溶鋼の製造方法。」
(以下、「甲2発明」という。)
(3)甲3の記載、及び甲3に記載された発明
ア 甲3には、「溶鋼製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(3ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、還元鉄を主原料としアーク式電気炉によって溶鋼を製造する溶鋼製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】還元鉄1を主原料として溶鋼を製造する方法としては、図3に示すように、アーク式電気炉2に還元鉄1を装入し、溶解製錬して溶鋼3を製造する方法が提供されている。この場合、原料となる還元鉄1は、Cu、Sn、Ni等の金属不純物をほとんど含まないことから、純粋なFeを入手するという目的においては原材料として優れたものであるということができる。
【0003】また、上記方法の応用例として、図4に示すように、上記還元鉄1に加えスクラップ4を併用して溶鋼3を製造する方法もある。このスクラップ4を混入する理由は、還元鉄1がスラグ分を形成する脈石成分(SiO2等)や未還元のFeOを多く含んでいるために、Feの歩留まり低下、スラグの発生量増大、溶解時間が長くかかることによる消費電力の増大、等の不具合を回避するためである。…」
(3イ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記各種方法においては、それぞれ以下のような問題があった。まず、還元鉄のみを使用して溶鋼を製造する方法は、すでに上述したように、その還元鉄に含まれているSiO2をはじめとする脈石成分や、5~10wt%程含まれているFeO等の存在によって、Feの歩留まり低下、スラグ発生量増大、大量の電力消費等の問題を招き、好ましいものとはいえない。
…
【0008】本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、還元鉄を利用することによって、純度に優れ加工性のよい鋼材を安価に得る溶鋼製造方法を提供することにある。」
(3ウ)「【0013】
【発明の実施の形態】以下では、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。図1は、本発明による溶鋼14の製造方法の一例を模式的に表した説明図である。図1に示されているもののうち、アーク式電気炉13は、よく知られているように、炉内に装入された原料と電極との間にアークを発生させ、その高温を利用して原料を溶解するものである。なお、本実施形態におけるアーク式電気炉13は、約130t/回の溶解能力を備えたものとなっている。
【0014】また、サブマージドアーク炉11は電極を装入物中に埋没させ、これに電気を通ずることによって、前記電極周囲の製錬帯(smelting zone)において製錬を行うようになっているものである。これは炭素による酸化物の還元を行う際に用いられる炉として一般に知られている。したがって、製錬中は多量のCOガスを連続的に発生することになるが、このCOガスは反応系から容易に除去可能であるので、反応は完全に進行しやすく生産性が高い。このようにサブマージドアーク炉11は、炉内が還元性雰囲気に維持されているものである。また、銑鉄の溶製が可能でるとともに、炉内溶融物温度が約1500℃程度と、アーク式電気炉13における操業温度(約1600~1700℃)に比べて低い温度での操業が可能となっている。ちなみに、操業温度が低いということは、炉内耐火材の消耗が殆どないという利点を有することを意味している。
【0015】上記アーク式電気炉13及びサブマージドアーク炉11は、図1に示すように、サブマージドアーク炉11から取り出される溶銑12がアーク式電気炉13へと流れるラインによって結ばれたものとなっている。なお、溶銑12を一時ストックするための溶銑鍋が、サブマージドアーク炉11とアーク式電気炉13の間には設けられている。また、原材料である還元鉄10は、これらアーク式電気炉13及びサブマージドアーク炉11の両方に装入可能なようになっており、それらのラインA、Bが設備として設けられている。
【0016】以下では、上記構成となる設備を用いて実際に溶鋼14を製造する方法について説明する。なお、本実施形態においては、溶鋼14を年間100万トン製造するとうい仮定の下に説明を行う。ただし、この数値限定が、本発明に関して本質的な意味を持つものでないことは言うまでもない。
【0017】まず、上記仮定から、本実施形態においては、還元鉄10を120万トン用意する。この120万トンの還元鉄10のうち、その一部をサブマージドアーク炉11に装入する。いま例えば、これを55万トンとする。すると、ここから溶銑12が50万トン製造されることになる。この溶銑12は、約1500℃という温度でサブマージドアーク炉11から間欠的に排出され、溶銑鍋に受け入れられる。また、この溶銑12のCu含有量は約3%となっている。なお、この場合の、サブマージドアーク炉11の容量は、電気容量にして約35MWである。
【0018】このように製造された溶銑12は、次にアーク式電気炉13へと搬送される。アーク式電気炉13内においては、この溶銑12のプールを形成せしめる。そしてこの後、電極をセットし通電を開始すると共に、原材料である還元鉄10を、図1におけるラインBを通して、前記プールに、すなわちアーク式電気炉13内に連続して装入し溶解させる。その量は、さきに全量で120万トンの還元鉄10のうち55万トンをサブマージドアーク炉11に装入したことにより、65万トンとなる。
【0019】ところで、還元鉄10を上記のように、一部をサブマージドアーク炉11に、また残りを直接アーク式電気炉13に、というように振り分ける場合においては、その割合について、ある適正な範囲が存在することを本願発明者らは確認している。それは、図2に示す製造コスト曲線図から導かれる。この図においては、横軸にアーク式電気炉13に直接装入する還元鉄10の、全原材料(還元鉄10全体)に対する割合をとり、縦軸に製造コストをとったものとなっている。なお、横軸に示される各ケースに対応した製造コストは、還元鉄100%を配合した原材料をアーク式電気炉13にすべて装入した場合にかかる製造コストを1としたときに、その1に対する比として表されている。
【0020】この図2から、製造コストの曲線は、下に凸な二次曲線様の曲線を描いていることがわかる。図における左軸においては、すべての還元鉄10をサブマージドアーク炉11に装入する場合であるが、この場合、当該サブマージアーク炉の容量を大きくしておく必要があり設備費が増大することや、続くアーク式電気炉13における製錬の際、脱炭(溶銑12中における炭素分の酸化除去)に時間が長くかかること等によって、製造コストが押し上げられるために図示のようになっている。また、図における右軸においては、還元鉄10すべてを直接アーク式電気炉13に投入する場合であって、その電力が大量に必要となることは「従来の技術」の項で既に説明した(図7(a)(b)参照)。結局、この製造コスト曲線から、アーク式電気炉13に直接装入する還元鉄10の、原材料全体(還元鉄10全体)に対する割合を、約30~70wt%とするときが最も製造コストが低くなることがわかる。
【0021】したがって、いま図1に示される本実施形態に係るケースに戻ると、この場合、アーク式電気炉13に直接装入される還元鉄10の、原材料全体の還元鉄10に対する比率は、65万トン/120万トンから、約57%となる。図2においては、符号Pによって示されている部分である。よって、この場合の溶鋼製造コストは、還元鉄10のみをアーク式電気炉13にて溶解・製錬して製造した場合の溶鋼製造コストに比して約77%となり、それに対応して約23%のコスト削減が成ったことがわかる。
【0022】アーク式電気炉13にて製錬された溶銑12及び還元鉄10は、やがて、約1650℃の溶鋼14として出鋼される。表1には、この製造された溶鋼14に関する組成を示した。
【0023】
【表1】
[図:0001406694000010.jpg]
【0024】この表1からわかるとおり、従来法により製造された溶鋼に比べ、本実施形態において製造された溶鋼14の方が、Cu、Sn、Niという不純物金属元素が極めて少なくなっていることがわかる。これらのCuやSn等は、鋼の加工性を著しく損なう不純物として知られているから、その点において本実施形態の溶鋼14は、従来法による溶鋼よりも、より高品位で清浄な鋼が製造されたといえる。
【0025】このように本実施形態における溶鋼製造方法は、要すれば、原材料の還元鉄10の一部をサブマージドアーク炉11に装入して溶銑12を製造し、これと残りの還元鉄10とをアーク式電気炉13にて溶解製錬することによって溶鋼14を得る方法であるといえる。そして、この方法によれば、上述してきたことから明らかなように、不純物等を殆ど含まない優れた性質の溶鋼14を安価に製造するという効果を得ることができる。
【0026】また、サブマージドアーク炉11を利用することによって、原材料の還元鉄10中に含まれる未還元のFeOは、同炉内の高温還元性雰囲気によって還元され、有用物である金属Feに転換されるので、Feの歩留まり(溶銑12中のFe分/還元鉄10中のFe分)が一挙に上昇する点は注目に値する。つまり、サブマージドアーク炉11を利用することは、この点においても有利であるといえる。さらに、ことその操業温度が、アーク式電気炉13に比べて低いことから、脈石成分の溶融除去に必要なエネルギ、すなわち電力量は小さくてもよいになる。これらのことは、上記効果を裏付ける重要な要因である。」
(3エ)「【図1】
[図:0001406694000011.jpg]
」
(3オ)「【図2】
[図:0001406694000012.jpg]
」
イ 甲3に記載された発明
(ア)上記(3ア)、(3イ)によれば、アーク式電気炉によって溶鋼を製造する際に、主原料とする還元鉄にはSiO2をはじめとするスラグ分を形成する脈石成分が含まれ、未還元のFeOが5~10wt%程含含まれているために、Feの歩留まりが低下する等の問題があったところ(【0003】、【0005】)、甲3において解決しようとする課題は、そのような還元鉄を利用することによって、純度に優れ加工性のよい鋼材を安価に得る溶鋼製造方法を提供すること(【0005】)である(以下、単に「課題」という。)。
(イ)上記(ア)の課題を解決するための方法とは、上記(3ウ)の実施の形態に注目すると、図1に模式的に表した製造方法であって、原料の還元鉄10を120万トン用意し、その一部である55万トンをサブマージドアーク炉11に装入して50万トンの溶銑12を製造し、1500℃で排出された当該溶銑12をアーク式電気炉13に搬送し、このアーク式電気炉13内に溶銑12のプールを形成し、原料である上記還元鉄10の残り65万トンを上記プールに装入して熔解させ、1650℃の溶鋼14を100万トン製造する方法である(【0017】、【0018】)。
(ウ)また、アーク式電気炉13における精錬の際に、脱炭、すなわち、溶銑12中における炭素分を酸化除去している(【0020】)。
(エ)したがって、甲3には、次の溶鋼の製造方法が記載されているものと認められる。
「還元鉄10を原料として溶鋼14を製造する方法であって、
上記還元鉄10は、SiO2をはじめとするスラグ分を形成する脈石成分が含まれ、未還元のFeOが5~10wt%程度含まれているものであり、
120万トンの上記還元鉄10の一部である55万トンをサブマージドアーク炉11に装入して1500℃の溶銑12を50万トン製造し、
排出された上記溶銑12をアーク式電気炉13に搬送し、このアーク式電気炉13内に溶銑12のプールを形成し、原料である上記還元鉄10の残りの65万トンを上記プールに装入して熔解させ、炭素分を酸化除去(脱炭)して、1650℃の溶鋼14を100万トン製造する、溶鋼の製造方法。」(以下「甲3発明」という。)
(4)甲4の記載
甲4には、「溶銑の製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(4ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾動可能な溶解炉本体及び当該溶解炉本体内の固体還元鉄をアーク加熱して溶解するための加熱装置を有する傾動式の溶解炉を用いて溶銑を製造する方法であって、
前記溶解炉本体内に前記溶銑を生成する溶銑生成工程と、
当該溶銑生成工程後に前記溶解炉本体を出銑方向に傾動させて当該溶解炉本体内の前記溶銑を当該溶解炉本体の側壁に設けられた出銑口を通じて排出する出銑工程と、を含み、
前記溶銑生成工程では、前記溶解炉本体内に固体還元鉄からなる塊成化物を投入するとともに前記加熱装置によって前記塊成化物をアーク加熱して溶解することにより前記溶解炉本体内に溶銑及びその上でスラグ層を形成する溶融スラグを生成する溶解工程と、当該溶解工程後、前記溶解炉本体を排滓方向に傾動させることにより、前記塊成化物の投入を止めた状態で前記溶融スラグを前記溶解炉本体から当該溶解炉本体の側壁に設けられた排滓口を通じて排出する排滓工程と、が交互に複数回繰り返され、
前記出銑工程では、前記複数回の溶解工程の繰り返しにより生成された前記溶銑が前記溶解炉本体の前記出銑方向の傾動により排出される、溶銑の製造方法。」
(4イ)「【0050】
(a)アーク加熱式溶解炉10の諸元
アーク加熱式溶解炉10の出銑量は30t、前ヒートのタップ後の通電開始時の塊成化物の溶解を促進すべく約9tの種湯を保持するために溶銑保持量は最大39tとなり、当該溶解炉10の内径は4.6mである。アーク加熱式溶解炉10は3相交流アーク炉であり、よって電極16の本数は3本である。」
(4ウ)「【図1】
[図:0001406694000013.jpg]
」
(5)甲5の記載
甲5には次の記載がある。
「
[図:0001406694000014.jpg]
」(第376頁上部)
(4)甲6の記載
甲6には、「溶融金属の製造方法および装置」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(6ア)「【0026】予備還元金属13は還元金属供給機構9を介して溶解炉に装入するが、予備還元金属を迅速に溶解するためには予備還元金属を溶解炉の電極PCD近傍に装入することが望ましい。また予備還元金属の装入は連続的、あるいは間欠的であってもよく特に限定されないが、本発明の方法によれば成分組成の均質化された溶融金属を効率的に製造することが可能であるので、連続的に予備還元金属を装入することが望ましい。…」
(6イ)「【0033】上記の如く、静置式非傾動型アーク加熱溶解炉内に還元金属供給装置9を介して連続的に固体還元鉄を電極PCD近傍に装入して操業した場合の代表的な炉内の溶融スラグ,溶融鉄の増減状態について図5を参照しながら説明する。図5中61,62,63は溶融鉄層、64,65は溶融スラグ層、66,68は溶融スラグを出滓した後の溶融スラグ層の減少、67は溶融鉄を出湯した後の溶融物の減少を示す。装入した固体還元鉄はアーク加熱によって順次溶解され、溶融スラグ層及び溶融鉄層の夫々の湯面レベルが上昇する(図5A参照。尚、65,63は夫々の増加分を示す。)。溶融鉄層の湯面(上表面)レベル(以下、溶融鉄層レベルという。)が出滓孔12より下の所定高さに達した時点、あるいは溶融スラグ層の湯面(上表面)レベル(以下、溶融スラグ層レベルという。)が所定の値(高さ)に達した時点で、出滓孔12より溶融スラグを排出し溶融スラグ層レベルの調節を開始する。…」
(6ウ)「【0034】同様に溶融鉄層についても、溶融鉄層の湯面レベル(以下、溶融鉄層レベルという)が、所定の値(高さ)に達した時点で出湯孔3より溶融鉄を排出し溶融鉄層レベルを調節すればよい。但し、溶融鉄層レベル下降後では、溶融スラグの排出ができないので、溶融鉄層レベルの調節に先立って上記手順による溶融スラグ層レベルの調節を実施することが推奨される。溶融鉄層レベルを低減させた場合の該溶融鉄層レベルの下限については特に限定されないが、該溶融鉄層レベルが出湯孔の孔径上位置を超えて低下すると、溶融鉄と共に溶融スラグが排出されることがある。したがって溶融鉄層レベルは出湯孔の孔径上位置より上となる様に調節することが望ましい。この様な条件を満足できる許容位置まで溶融鉄層レベルが降下した時点で出湯孔を閉じるなどして溶融鉄の排出を停止することが望ましい(図5(C))。」
(4)甲7の記載
ア 甲7には、「溶銑の製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(7ア)「
[図:0001406694000015.jpg]
[図:0001406694000016.jpg]
」(第2頁右上欄最下行~左下欄第9行)
(7イ)「
[図:0001406694000017.jpg]
…
[図:0001406694000018.jpg]
[図:0001406694000019.jpg]
」(第3頁左下欄第9行~右下欄第6行)
2 取消理由1と申立理由4(甲3を主たる引用文献とする進歩性)について
(1)本件特許発明1と甲3発明との対比
ア 甲3発明の「還元鉄10」、「溶鋼14」、「サブマージドアーク炉11」、「アーク式電気炉13」は、それぞれ本件特許発明1の「固体還元鉄」、「溶鋼」、「第1の炉」、「第2の炉」に相当する。
イ 甲3発明において、「120万トンの上記還元鉄10の一部である55万トンをサブマージドアーク炉11に装入して1500℃の溶銑12を50万トン製造」することは、55万トンの還元鉄は120万トンの還元鉄の45.8%であり、還元鉄10と溶銑12の重量の差分である5万トン分は、技術常識に照らして、装入される還元鉄に含まれる脈石成分(SiO2等)がサブマージドアーク炉11においてスラグとして分離されることを表していると解されるから、上記アの検討も勘案すると、本件特許発明1において、「第1の炉において、前記固体還元鉄のうち40~100質量%を溶融させて」「温度が1350~1550℃の溶銑」と「スラグと、に分離する」ことに相当する。
ウ 甲3発明において、「排出された上記溶銑12をアーク式電気炉13に搬送し、このアーク式電気炉13内に溶銑12のプールを形成し、原料である上記還元鉄10の残りの65万トンを上記プールに装入して熔解させ、炭素分を酸化除去(脱炭)して、1650℃の溶鋼14を100万トン製造する」ことは、上記アの検討も勘案すると、本件特許発明1において「第2の炉において、前記固体還元鉄の残部を、前記第1の炉において分離された前記溶銑とともに溶融させ、当該溶融物に酸素を吹き付けて脱炭し、溶鋼とする」ことに相当する。
エ 以上の検討によれば、本件特許発明1と甲3発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「固体還元鉄を原料とする溶鋼の製造方法であって、
第1の炉において、前記固体還元鉄のうち40~100質量%を溶融させて、温度が1350~1550℃の溶銑とスラグとに分離する工程と、
第2の炉において、前記固体還元鉄の残部を、前記第1の炉において分離された前記溶銑とともに溶融させ、当該溶融物に酸素を吹き付けて脱炭し、溶鋼とする工程と、を含む、溶鋼の製造方法。」
(相違点1)
原料である「固体還元鉄」が、本件特許発明1では、「SiO2およびAl2O3を合計で3.0質量%以上、炭素を1.0質量%以上含有し、前記固体還元鉄に含有される全鉄分に占める金属鉄の割合が90質量%以上であり、前記固体還元鉄に含有される前記炭素のうち、下記式(1)で規定する余剰炭素量Cxが0.2質量%以上」、「Cx=[C]-[FeO]×12÷(55.85+16)÷0.947…(1) 式中、Cx:余剰炭素量(質量%)、[C]:固体還元鉄の炭素含有量(質量%)、[FeO]:固体還元鉄のFeO含有量(質量%)である」のに対して、甲3発明では、「SiO2をはじめとするスラグ分を形成する脈石成分が含まれ、未還元のFeOが5~10wt%程度含まれているもの」ではあるが、還元鉄中のSiO2およびAl2O3の含有量、炭素の含有量、金属鉄の割合、余剰炭素量Cxが不明である点。
(相違点2)
第1の炉で分離される「溶銑」及び「スラグ」が、本件特許発明1では「炭素含有量が2.0~5.0質量%」及び「塩基度が1.0~1.4」であるのに対し、甲3発明では、サブマージドアーク炉11で製造される、溶銑12の炭素含有量とスラグの塩基度が不明である点。
(2)相違点についての検討
ア 初めに相違点1について検討する。甲3発明は、還元鉄10を原料として溶鋼14を製造する方法であって、原料の還元鉄10は、「SiO2をはじめとするスラグ分を形成する脈石成分が含まれ、未還元のFeOが5~10wt%程含含まれているもの」であるから、「脈石成分(SiO2等)や未還元のFeOを多く含んでいる」(甲3【0003】)低品位のものであるといえるが、上記還元鉄10の詳細な組成は甲3に記載されておらず不明である。
イ 一方、甲1金属鉄製造方法において、第1ゾーンZ1と第2ゾーンZ2に移動された原料成形体が固体還元されて製造される還元鉄(以下、「甲1還元鉄」という。)は、FeO:8.05%、SiO2:3.94%、Al2O3:1.44%を含むものであるから、上記アに記載した、「脈石成分(SiO2等)や未還元のFeOを多く含んでいる」との条件に該当するものであり、甲3発明の還元鉄10として採用され得る低品位の還元鉄であるといえる。
ウ そして、仮に、甲3発明の原料として甲1還元鉄を採用することが可能であれば、甲1還元鉄は、SiO2およびAl2O3の合計含有量が5.38%であり、炭素の含有量が3.97%であり、還元鉄に含有される全鉄分に占める金属鉄の割合すなわち金属化率が90.0%又は92.3%であり、還元鉄の炭素含有量[C]と還元鉄のFeO含有量[FeO]から求められる余剰炭素量Cxが2.55%と算出されるものであるから、本件特許発明1の「SiO2およびAl2O3を合計で3.0質量%以上、炭素を1.0質量%以上含有し、前記固体還元鉄に含有される全鉄分に占める金属鉄の割合が90質量%以上であり、前記固体還元鉄に含有される前記炭素のうち、下記式(1)で規定する余剰炭素量Cxが0.2質量%以上」との要件の全てを満たすものであり、したがって、相違点1に係る本件特許発明1の「固体還元鉄」に該当するものである。
エ しかしながら、甲1還元鉄は、図1の回転炉床型還元溶融炉の炉体2内部である第1、第2ゾーン(Z1、Z2)において、酸化鉄含有物質原料(鉄鉱石)と炭素質還元剤(石炭)を含む原料成形体を固体還元して得られる中間生成物としてのみ存在するものであり、当該中間生成物はそのまま回転炉床によって回転移動されて第3のゾーン(Z3)内で浸炭・溶融され、スラグと分離しながら凝集して粒状の金属鉄とされるものであるから、甲1還元鉄は、炉体2外部に取り出して利用されるものとはいえず、炉体2とは別の炉における原料の還元鉄として利用可能なものであるとはいえない。
オ したがって、甲3発明において、原料の還元鉄10として甲1還元鉄を採用すること、すなわち、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるとはいえない。
カ また、甲3発明の原料として甲1還元鉄を利用することができないのであれば、サブマージドアーク炉11(第1の炉に相当)において分離される溶銑とスラグが、甲1金属鉄製造方法において甲1還元鉄を原料としたときに得られる「Fe:97.35%、C:2.096%を含」む金属鉄と「CaO:30.14%、SiO2:29.42%を含む」生成スラグと同様のものになるということもできないから、甲3発明において、甲1の記載に基づいて、相違点2に係る本件特許発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるともいえない。
キ そして、本件特許発明1は、第1の炉でスラグと分離された銑鉄が「炭素含有量が2.0~5.0質量%」の条件を満たすものとすることにより、「スラグに含有可能な全鉄分の量を低減し、スラグに移行する鉄分量を低減できる。そのため、スラグとともに排出される全鉄分の量を低減することができ、溶銑の歩留まりの低下を抑制することができる。また、その結果、第2の炉で得られる溶鋼の歩留まりの低下をも抑制することができる。」(本件特許明細書【0033】)との格別な効果を奏するものである。なお、この点に関して、甲3には「サブマージドアーク炉11を利用することによって、原材料の還元鉄10中に含まれる未還元のFeOは、同炉内の高温還元性雰囲気によって還元され、有用物である金属Feに転換されるので、Feの歩留まり(溶銑12中のFe分/還元鉄10中のFe分)が一挙に上昇する点は注目に値する。」(【0026】)と記載されているにとどまり、サブマージドアーク炉11で分離・排出されるスラグに注目して当該スラグとともに排出される鉄分量を低減できることや、アーク式電気炉13において得られる溶鋼の歩留まりの低下をも抑制することができることについては記載されていないから、本件特許発明1の上記効果は、甲3の記載に基づいて当業者が予測可能なものであるということもできない。
ク 以上の検討から、本件特許発明1は、甲3に記載された発明と、甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(3)申立人の意見書における主張について
ア 申立人は、令和 5年 7月28日提出の意見書において、「特許権者は、甲第1号証に記載されている固体還元鉄は密閉に近い状能で製造された中間的生成物に過ぎない点を強調していますが、甲第5号証(p.376の表6・40 (HyL Pellets,Midrex Pallets))に示すように、本件特許発明1に記載されている「固体還元鉄」の要件をすべて満たす固体還元鉄はありふれたものであります。」と主張しているところ、申立人の当該主張は、仮に甲1還元鉄を甲3発明の原料として採用できなかったとしても、ありふれた還元鉄である甲5に記載された銘柄の還元鉄を甲3発明の原料として利用することは当業者が容易になし得たことであるとの主張であると解されるので、この主張についても検討する。
イ 甲5の表6・40には、7種類の銘柄の還元鉄が記載されており、このうち次の(ア)~(エ)の4種の銘柄は、SiO2及びAl2O3の含有量の合計量から判断して、その他の2種の銘柄よりも脈石成分が多く含まれている還元鉄であると認められる。
(ア)SL/RN Hilton Pallets(5.48%)
(イ)Hammersley HI-met(4.04%)
(ウ)HyL Pellets(4.96%)
(エ)Midrex Pallets(3.30%)
なお、上記( )内の%はSiO2及びAl2O3の含有量の合計量を表す。
そして、上記4種の銘柄は、FeOの含有量は不明ながら、「脈石成分(SiO2等)や未還元のFeOを多く含」むもの(甲3の【0003】参照)もしくは「SiO2をはじめとする脈石成分や、5?10wt%程含まれているFeO等の存在」するもの(甲3の【0005】参照)であるとの甲3発明の還元鉄の条件を満たし得るものといえる。
ウ 申立人は、甲5の上記4種の銘柄の内(ウ)又は(エ)の還元鉄を選択することは当業者が容易になし得ることであると主張しているが、甲3発明において、上記(ウ)又は(エ)の還元鉄を選択する理由については特に説明しておらず、上記4種の銘柄の内、(ア)と(イ)を選択せず、(ウ)又は(エ)の還元鉄を選択する動機は不明である。
したがって、甲3発明において、甲5の記載に基づいて、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるとはいえない。
エ また、仮に、甲3発明の還元鉄として、上記4種の銘柄の内(ウ)又は(エ)の還元鉄を選択する動機があり、(ウ)又は(エ)の還元鉄を選択することが容易であるとしても、(ウ)又は(エ)の還元鉄を原料として甲3発明の製造方法を実施した場合に、甲3発明のサブマージドアーク炉(本件特許発明の第1の炉に相当する)で分離された銑鉄とスラグがそれぞれ「炭素含有量が2.0~5.0質量%」及び「塩基度が1.0~1.4」の条件を満たすものとなるか不明であるし、上記銑鉄とスラグをそれぞれ「炭素含有量が2.0~5.0質量%」及び「塩基度が1.0~1.4」のものとする動機付けもないから、甲3発明において、甲5の記載に基づいて、相違点2に係る本件特許発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるとはいえない。
オ したがって、本件特許発明1は、甲3発明と甲5の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできず、申立人の上記アの主張は採用できない。
(4)小括
以上の検討によれば、本件特許発明1は、甲3に記載された発明と、甲1及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件特許発明1を引用することにより本件特許発明1の発明特定事項の全てを備える本件特許発明2についても、同様の理由により、甲3に記載された発明と、甲1及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 取消理由2(明確性)と申立理由7(2)について
(1)請求項2の「連続的」について
ア 本件訂正前の請求項2に「前記第1の炉において、アークにより前記固体還元鉄を溶融させ、前記溶銑およびスラグをそれぞれ連続的に前記第1の炉から排出させる」と記載されているところ、「連続的に」は何が連続しているか不明であるため、少なくとも次の(ア)、(イ)の二つの意味で解することができ、そのいずれかの意味であるか、または、それ以外の意味であるか不明であった。
(ア)上記「溶銑およびスラグをそれぞれ連続的に前記第1の炉から排出させる」とは、溶銑を第1の炉から排出した後に連続してスラグを第1の炉から排出する、または、スラグを第1の炉から排出した後に連続して溶銑を第1の炉から排出するという意味。
(イ)上記「溶銑およびスラグをそれぞれ連続的に前記第1の炉から排出させる」とは、本件特許明細書の段落【0050】~【0053】の記載を参照すると、固体還元鉄を第1の炉に連続的に投入しながら、スラグを連続的に排出すると同時に、溶銑も連続的に排出するという意味。
イ しかしながら、本件訂正によって、請求項2は「前記固体還元鉄を前記第1の炉に連続的に投入しながら、前記第1の炉において、アークにより前記固体還元鉄を溶融させ、前記スラグを連続的に前記第1の炉から排出させるとともに、前記溶銑を連続的に前記第1の炉から排出させる、請求項1に記載の溶鋼の製造方法。」と訂正されたことによって、上記ア(イ)を意味することが明らかになった。
したがって、明確性についての取消理由2(申立理由7の(2))は解消された。
4 採用されなかった申立理由1、2、5(甲1を主たる引用文献とする新規性、進歩性)について
(1)本件特許発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明の「固体還元を進めて」「製造」された「還元鉄」は、本件特許発明1の「固体還元鉄」に相当する。
イ 甲1発明の「還元鉄」が「SiO2:3.94%、Al2O3:1.44%、C:3.97%を含」むことは、本件特許発明1の「固体還元鉄は、SiO2およびAl2O3を合計で3.0質量%以上、炭素を1.0質量%以上含有」することに相当する。
ウ 甲1発明の「還元鉄」が「金属化率は90.0%又は92.3%であ」ることは、本件特許発明1の「固体還元鉄に含有される全鉄分に占める金属鉄の割合が90質量%以上であ」ることに相当する。
エ 甲1発明の「還元鉄」が「FeO:8.05%」、「C:3.97%を含」むことは、式(1)で規定する余剰炭素量Cx=2.55%と算出されるから、本件特許発明1の「固体還元鉄に含有される前記炭素のうち、下記式(1)で規定する余剰炭素量Cxが0.2質量%以上であ」り、「Cx=[C]-[FeO]×12÷(55.85+16)÷0.947…(1) 式中、Cx:余剰炭素量(質量%)、[C]:固体還元鉄の炭素含有量(質量%)、[FeO]:固体還元鉄のFeO含有量(質量%)である」ことに相当する。
オ 甲1発明の「回転炉床型還元溶融炉」の「第3ゾーンZ3」と「電気炉」は、それぞれ、本件特許発明1の「第1の炉」と「第2の炉」に相当する。
カ 甲1発明の「回転炉床型還元溶融炉の第1ゾーンZ1と第2ゾーンZ2において」「製造」された「還元鉄」(の100%)を「1425℃に保った溶融領域である第3ゾーンZ3に送って」、「前記還元鉄に炭素質還元剤中の炭素を浸炭させることによって溶融させると共に、前記原料成形体中に含まれる脈石成分をスラグとして分離し、溶融した金属鉄を凝集させて粒状の金属鉄を製造」し、「粒状の金属鉄は、Fe:97.35%、C:2.096%を含」み、「分離されたスラグは、CaO:30.14%、SiO2:29.42%を含む」ことと、本件特許発明1の「第1の炉において、前記固体還元鉄のうち40~100質量%を溶融させて、炭素含有量が2.0~5.0質量%でありかつ温度が1350~1550℃の溶銑と、塩基度が1.0~1.4であるスラグと、に分離する」ことを対比すると、上記ア、オの検討を踏まえたうえで、甲1発明の生成スラグの塩基度が、CaO濃度÷SiO2濃度=30.14÷29.42=1.02と算出できることを勘案すれば、両者は、第1の炉において、前記固体還元鉄のうち40~100質量%を溶融させて、炭素含有量が2.0~5.0質量%である鉄と、塩基度が1.0~1.4であるスラグと、に分離する点で共通している。
キ 本件特許発明1の「固体還元鉄の残部」とは、「第1の炉において、前記固体還元鉄のうち」「100質量%を溶融させ」た場合に残部が0質量%であることも含むものであり、この場合、「第2の炉において、前記固体還元鉄の残部を、前記第1の炉において分離された前記溶銑とともに溶融させ」とは、第2の炉において、第1の炉において分離された溶銑のみを溶融させることを意味する(本件特許明細書【0036】、【0043】)から、甲1発明の「高温状体の前記金属鉄を800℃まで冷却して取り出し、その温度を保って直ちに電気炉に供給し」「溶融することにより溶鋼を得る」ことと、本件特許発明1の「第2の炉において、前記固体還元鉄の残部を、前記第1の炉において分離された前記溶銑ととともに溶融させ」「溶鋼とする」こととは、第2の炉において、前記固体還元鉄の残部を、前記第1の炉において分離された前記鉄ととともに溶融させ、溶鋼とする点で共通している。
ク 以上の検討によれば、本件特許発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「固体還元鉄を用いた溶鋼の製造方法であって、
前記固体還元鉄は、SiO2およびAl2O3を合計で3.0質量%以上、炭素を1.0質量%以上含有し、
前記固体還元鉄に含有される全鉄分に占める金属鉄の割合が90質量%以上であり、
前記固体還元鉄に含有される前記炭素のうち、下記式(1)で規定する余剰炭素量Cxが0.2質量%以上であり、
第1の炉において、前記固体還元鉄のうち40~100質量%を溶融させて、炭素含有量が2.0~5.0質量%である鉄と、塩基度が1.0~1.4であるスラグと、に分離する工程と、
第2の炉において、前記固体還元鉄の残部を、前記第1の炉において分離された前記鉄とともに溶融させ、溶鋼とする工程と、を含む、溶鋼の製造方法。
Cx=[C]-[FeO]×12÷(55.85+16)÷0.947…(1)
式中、Cx:余剰炭素量(質量%)、[C]:固体還元鉄の炭素含有量(質量%)、[FeO]:固体還元鉄のFeO含有量(質量%)である。」
(相違点3)
固体還元鉄は、本件特許発明1では「原料」として用いられるのに対して、甲1発明では原料は「炭素質還元剤と酸化鉄含有物質を含む原料を均一に混合し造粒した原料成形体」であって、「固体還元鉄」は当該原料成形体を回転炉床型還元溶融炉に装入し、第1ゾーンZ1と第2ゾーンZ2において、雰囲気温度を約1350℃に維持して固体還元を進めることによって得られる中間生成物である点。
(相違点4)
第1の炉においてスラグと分離され、第2の炉において固体還元鉄の残部と溶融される「鉄」が、本件特許発明1では「温度が1350~1550℃の溶銑」、すなわち炭素含有量が多い(2.0質量%以上の)溶融した鉄(本件特許明細書の段落【0032】参照。)であるのに対して、甲1発明では「還元鉄に炭素質還元剤中の炭素を浸炭させることによって溶融させる」ことにより得られた「溶融した金属鉄」を「凝集させ」た「粒状の金属鉄」である点。
(相違点5)
第2の炉において、固体還元鉄の残部を、第1の炉において分離された鉄とともに溶融させる際に、本件特許発明1では「当該溶融物に酸素を吹き付けて脱炭」するのに対して、甲1発明では第2の炉である電気炉において「鉄スクラップと配合して」単に「溶融する」だけであり、脱炭を行わない点。
(2)相違点についての検討
事案に鑑みて、相違点4について検討する。
上記1(1)イ(ア)で検討したように、甲1において解決しようとする課題は、固体還元の末期以降、特に浸炭・溶融時の金属鉄の再酸化を可及的に抑制し、金属化率が高くて鉄分純度の高い粒状の金属鉄を高歩留まりで効率よく製造することである。ここで、最終的に得られる粒状の金属鉄が固体であることは、甲1の記載(【0030】)から明らかである。
そして、溶鋼の製造方法である甲1発明は、当該課題を解決するために、回転炉床型還元溶融炉において固体である粒状の金属鉄を製造することを前提とするものであるから、回転炉床型還元溶融炉において固体である粒状の金属鉄を製造し、当該固体である粒状の金属鉄を電気炉に供給することに代えて、溶銑、すなわち液体である溶融した金属鉄を製造し、当該液体である溶融した金属鉄を電気炉に供給することが容易であるとはいえない。
なお、甲1の段落【0084】及び図12には、工程B以外に工程Cも採用可能であることが記載されているから、甲1発明において、電気炉で溶融する金属鉄の供給方法として、800℃に冷却した固体の粒状の金属鉄の供給方法(工程B)に代えて、当該固体の粒状の金属鉄を溶融炉で溶融した溶融鉄の供給方法(工程C)とすることは適宜なし得ることであるとはいえるが、この場合、溶融鉄は、回転炉床型還元溶融炉と溶融炉の2つの炉を用いて製造されることとなり、本件特許発明1のように単一の炉である第1の炉のみによって溶銑を得るものではなくなるから、この点で新たな相違点が生じてしまう。そして、回転炉床型還元溶融炉と溶融炉の2つの炉を一つの炉で置き換える動機付けを見出すことはできない。
また、甲2~甲3の記載を参照したとしても、甲1発明において相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることが当業者にとって容易になし得たことであるということはできない。
したがって、本件特許発明1は、相違点3、5について検討するまでもなく、甲1に記載された発明と甲2~甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)小括
以上のとおり、本件特許発明1は甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて、または、甲1に記載された発明と甲2に記載された事項に基いて、または、甲1に記載された発明と甲2及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件特許発明1を引用することにより本件特許発明1の発明特定事項の全てを備える本件特許発明2についても、甲4の記載を考慮したとしても、同様の理由により、甲1に記載された発明と甲2に記載された事項に基いて、または、甲1に記載された発明と甲2及び甲3に記載された事項に基いて、または、甲1に記載された発明と甲4に記載された事項に基いて、または、甲1に記載された発明と甲2及び甲4に記載された事項に基いて、または、甲1に記載された発明と甲3及び甲4に記載された事項に基いて、または、甲1に記載された発明と甲2、甲3及び甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、申立人の主張する申立理由1、2、5(甲1を主たる引用文献とする新規性、進歩性)を採用することはできない。
5 採用されなかった申立理由3、5(甲2を主たる引用文献とする進歩性)について
(1)本件特許発明1と甲2発明との対比
ア 甲2発明の「固形還元鉄」、「溶融鉄」、「アーク加熱式溶解炉3」、「製鋼炉4」、「溶鋼」は、それぞれ本件特許発明1の「固体還元鉄」、「溶銑」、「第1の炉」、「第2の炉」、「溶鋼」に相当する。
イ 甲2発明の製造方法の全工程における原料は鉄鉱石と石炭であるが、「アーク加熱式溶解炉3」における溶融鉄生成工程以降の製造方法に注目すると、「固形還元鉄」は溶融鉄生成工程の原料ともいえるから、甲2発明の「固形還元鉄」を「アーク加熱式溶解炉3へ送り込」む「溶鋼の製造方法」は、本件特許発明1の「固体還元鉄を原料とする溶鋼の製造方法」に相当する。
ウ 甲2の段落【0078】に「還元・溶融工程中の固形還元鉄は、スラグ形成成分としてのSiO2が他の酸化物よりも多く含まれている。」と記載されていることからも理解されるように、技術常識に照らして、甲2発明の「固形還元鉄」には、溶融スラグ形成成分としての「SiO2」及び「Al2O3」が含まれていると解され、これら「SiO2」及び「Al2O3」は鉄鉱石由来のものが含まれることは自明であるところ、鉄鉱石における「SiO2」及び「Al2O3」の含有量は既知であるが、「固形還元鉄」における「SiO2」及び「Al2O3」の含有量は記載されておらず不明である。また、甲2発明の「固形還元鉄」における「炭素」の含有量は、「FeO還元当量炭素量Ceqの50%以上」であるので、「FeO還元当量炭素量Ceq」である「1.5%(1.8%)」の50%以上、すなわち、0.75%(0.9%)以上含有されていることになる。他方、本件特許発明1の「固体還元鉄は、SiO2およびAl2O3を合計で3.0質量%以上、炭素を1.0質量%以上含有」されているから、両者は、「固体還元鉄は、SiO2およびAl2O3と炭素を含有」する限りにおいて共通している。
エ 甲2発明の「固体還元鉄は、金属化率が92%(90%)」であることは、本件特許発明1の「固体還元鉄に含有される全鉄分に占める金属鉄の割合が90質量%以上」であることに相当する。
オ 甲2発明の「固形還元鉄」が含有する炭素量([C]で表す。)は、「FeO還元当量炭素量Ceqの50%以上」であるから、[C]≧Ceq/2 と表現できることを踏まえて、本件特許発明1の(1)式の余剰炭素量Cxがどのような値になるか検討する。
(1)式のうち、「[FeO]×12÷(55.85+16)÷0.947」部分は、「固体還元鉄のFeOを全て固体還元鉄に還元するために必要な炭素量」を表すから(本件特許明細書の段落【0025】参照。)、甲2発明の「FeO還元当量炭素量Ceq」に相当する。したがって、甲2発明における「余剰炭素量Cx」は、以下の計算のとおり、「-0.75(0.9)%以上」であることがわかる。
Cx=[C]-[FeO]×12÷(55.85+16)÷0.947
=[C]-Ceq
≧ Ceq/2-Ceq=-Ceq/2=-0.75(0.9)%
カ 甲2発明において、「還元鉄製造設備2」から「排出され」た「固形還元鉄」は、「実質的に冷却することなく引き続いてアーク加熱式溶解炉3へ送り込まれ」「装入され」るところ、固体還元鉄の全量すなわち100%がアーク加熱式溶解炉3に装入されているといえるから、「アーク加熱式溶解炉3で、装入された固形還元鉄はアーク熱を受けて還元され溶解され」ていることは、本件特許発明1の「第1の炉において、前記固体還元鉄のうち40~100質量%を溶融させ」ることに相当する。
キ 甲2発明において、アーク加熱式溶解炉3で、「温度1550℃、炭素含有率2.0%の溶融鉄が生成されるとともに」、「塩基度1.4の溶融スラグが生成され」、「所定量溜った溶融鉄や溶融スラグは、溶解炉3から逐次抜き出され」ることは、本件特許発明1の「第1の炉において」、「炭素含有量が2.0~5.0質量%でありかつ温度が1350~1550℃の溶銑と、塩基度が1.0~1.4であるスラグと、に分離する」ことに相当する。
ク 本件特許発明1の「固体還元鉄の残部」とは、「第1の炉において、前記固体還元鉄のうち」「100質量%を溶融させ」た場合に残部が0質量%であることも含むものであり、この場合、「第2の炉において、前記固体還元鉄の残部を、前記第1の炉において分離された前記溶銑とともに溶融させ」とは、第2の炉において、第1の炉において分離された溶銑のみを溶融させることを意味するから、甲2発明の「所定量溜った溶融鉄や溶融スラグは、溶解炉3から逐次抜き出され、得られた溶融鉄は、必要により脱硫、脱燐等の清浄化処理を行った後、製鋼炉4へ製鋼原料として送り込まれ、製鋼炉4では、装入された製鋼原料を鉄スクラップや銑鉄等と混合し、酸素を吹込みながら精錬処理が行われて溶鋼が製造される」ことは、本件特許発明1の「第2の炉において、前記固体還元鉄の残部を、前記第1の炉において分離された前記溶銑ととともに溶融させ、当該溶融物に酸素を吹き付けて脱炭し、溶鋼とする」ことに相当する。
ケ 以上の検討によれば、本件特許発明1と甲2発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「 固体還元鉄を原料とする溶鋼の製造方法であって、
前記固体還元鉄は、SiO2およびAl2O3と炭素を含有し、
前記固体還元鉄に含有される全鉄分に占める金属鉄の割合が90質量%以上であり、
第1の炉において、前記固体還元鉄のうち40~100質量%を溶融させて、炭素含有量が2.0~5.0質量%でありかつ温度が1350~1550℃の溶銑と、塩基度が1.0~1.4であるスラグと、に分離する工程と、
第2の炉において、前記固体還元鉄の残部を、前記第1の炉において分離された前記溶銑とともに溶融させ、当該溶融物に酸素を吹き付けて脱炭し、溶鋼とする工程と、を含む、溶鋼の製造方法。」
(相違点6)
固体還元鉄が含有するSiO2およびAl2O3の含有量は、本件特許発明1では「合計で3.0質量%以上」であるのに対して、甲2発明では不明である点。
(相違点7)
固体還元鉄が含有する炭素の含有量は、本件特許発明1では「1.0質量%以上」であるのに対して、甲2発明では「FeO還元当量炭素量Ceqの50%以上」すなわち「0.75%(0.9%)以上」である点。
(相違点8)
固体還元鉄に含有される前記炭素のうち、下記式(1)で規定する「余剰炭素量Cx」が、本件特許発明1では「0.2質量%以上」であるのに対して、甲2発明では「-0.75(0.9)%以上」である点。
「Cx=[C]-[FeO]×12÷(55.85+16)÷0.947…(1)
式中、Cx:余剰炭素量(質量%)、[C]:固体還元鉄の炭素含有量(質量%)、[FeO]:固体還元鉄のFeO含有量(質量%)である。」
(2)相違点についての検討
事案に鑑みて、相違点8について検討する。
ア 甲2の図6及び【0061】【0081】には、固形還元鉄中の炭素含有量が、該固形還元鉄中の未還元酸化鉄を還元するのに必要な理論当量(Ceq)の炭素量が含まれる場合は、溶融スラグ中の酸化鉄含有量は低レベルに抑えられるが、該固形還元鉄中の未還元酸化鉄を還元するのに必要な理論当量の炭素量に対して50%未満になると、溶融スラグ中に含まれる酸化鉄含有量が増加して、内張り耐火炉の溶損が著しくなるので、固形還元鉄中の炭素分含有量を、未還元酸化鉄を還元するのに必要な理論当量(Ceq)の50%以上にすべきであることが記載されている。
イ つまり、甲2において解決しようとする課題は、上記1(2)イ(ア)に記載したように、「鉄成分含有量の比較的低い鉄鉱石などからであっても、耐火物の溶損を生じることなく且つ高いエネルギー効率および還元効率で、しかも簡単な設備および操作で効率よく溶融鉄を得ることのできる製鉄法を提供すること」であるところ、甲2の上記アの記載によれば、内張耐火炉の溶損を抑制するために、固形還元鉄中の炭素含有量は、固形還元鉄中の未還元酸化鉄を還元するのに必要な理論当量(Ceq)の50%以上とすべきであり、理論当量(Ceq)の100%あれば十分であることが示されているにすぎない。
ウ このことは、図6において、横軸の炭素含有量が「還元当量炭素量」(Ceqのこと)である3.5%より多くなっても、縦軸のスラグ中の酸化鉄量はほとんど変化しないことが見て取れることからも、炭素含有量を理論当量(Ceq)の100%を超えた量となすこと、ひいてはCxを0.2質量%以上とする動機付けを認めることはできない。
エ 甲2の段落【0073】の実施例においても、「鉄鉱石中の酸化鉄に対し石炭中の炭素が理論当量となる様に配合する。」と記載されているのみで、炭素含有量を理論当量(Ceq)の100%を超えた量となすことについては記載も示唆もされていない。
また、甲2の上記実施例において、固形還元鉄中の炭素が不足する分については、アーク加熱式溶解炉に石炭を追加装入することが記載されており(【0085】)、溶融鉄をサンプリングして炭素量を測定し、炭素量が1.5~4.5の範囲に収まるように炭素質還元剤の追加投入量を調整したとも記載されているので(【0082】)、甲2発明において、固形還元鉄中の不足する炭素については、固体還元鉄中の炭素を増加させることによってではなく、炭素質還元剤を追加装入することによって供給するものであるから、この点から検討しても、固体還元鉄中の炭素含有量を増加する動機付けはないといえる。
なお、固体還元鉄中の炭素含有量に関して、本件特許明細書には、「溶融した鉄中の炭素含有量を余剰炭素によって増加させることができるため、炭素含有量が2.0~5.0質量%の溶銑を得るために必要な外装加炭の割合を減らすことができる。・・・外装加炭は、内装加炭に比べて加炭効率が劣る・・・」(【0026】)と記載されており、当該記載によれば、余剰炭素量Cx≧0.2質量%とすることで、加炭効率が劣る外装炭素の割合を減らすことができるのであり、必要な炭素は、固体還元鉄内に含有させることで供給しており、外装炭素の使用については否定的である。
オ したがって、甲2やその他甲号証の記載を考慮したとしても、甲2発明において、相違点8に係る本件特許発明1の特定事項とすることが当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。
カ 相違点8に基づく効果の相違について検討する。
本件特許発明1は、固体還元鉄に含有される炭素のうち、余剰炭素量Cxを0.2質量%以上とし、第1の炉における溶銑の炭素含有量を2.0~5.0質量%とすることで、第1の炉で分離されるスラグとともに排出される鉄分を抑制し、第2の炉で生成するスラグ生成量も少なくなるので、スラグとともに排出される鉄分を抑制することができる、つまり、低品位の鉄鉱石を利用しても高品位の鉄鉱石を使用した場合と同等の高い歩留まりで溶鋼を得ることができるという効果を奏するものであるが、甲2発明の効果は、鉄成分含有量の比較的低い鉄鉱石であっても、「処理炉の内張り耐火物の溶損を最小限に抑えて炉寿命の延長を図ることができ、高純度溶融還元鉄の製造を、少ないエネルギーロスの下で効率よく実現できる」(【0011】、【0092】)ことであるから、本件特許発明1は甲2発明とは異質な効果を奏するものであり、本件特許発明1が奏する効果については、甲2やその他甲号証の記載から当業者といえども予測可能なものであるとはいえない。
キ 以上の検討によれば、相違点6、7について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2に記載された発明に基いて、または、甲2に記載された発明と甲1に記載された事項に基いて、または、甲2に記載された発明と甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件特許発明1を引用することにより本件特許発明1の発明特定事項の全てを備える本件特許発明2についても、甲4の記載を考慮したとしても、同様の理由により、甲2に記載された発明に基いて、または、甲2に記載された発明と甲3に記載された事項に基いて、または、甲2に記載された発明と甲4に記載された事項に基いて、または、甲2に記載された発明と甲3及び甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、申立人の主張する申立理由3、5(甲2を主たる引用文献とする進歩性)を採用することはできない。
6 採用されなかった申立理由6(サポート要件)について
本件特許発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落【0008】によれば、固体還元鉄の原料として低品位の鉄鉱石を利用しても高い歩留まりで溶鋼を得ることができる溶鋼の製造方法を提供することである。
そして、本件特許明細書には、本件特許発明が上記課題を解決することができる機序について次のように記載されている。
「【0058】
この構成によれば、第1の炉において、分離されるスラグに含有可能な全鉄分の量を低減することができ、スラグとともに排出される全鉄分の量を低減することができる。そのため、第1の炉において溶銑の歩留まりの低下を抑制することができ、第2の炉で溶銑から溶鋼を得ることができるため、固体還元鉄の原料として低品位の鉄鉱石を利用しても高い歩留まりで溶鋼を得ることができる。」
ここで、「この構成」とは、本件特許発明1において「第1の炉」に投入する「固体還元鉄」を「余剰炭素量Cxが0.2質量%以上」と十分な炭素を含有させることであると解されるが、上記記載を含む本件特許明細書の記載によれば、本件特許発明1はこの構成を採用することによって、第1の炉において固体還元鉄中に未還元のまま含有されていたFeOを十分に還元して低減することができるので、第1の炉で生成されるスラグに含有され当該スラグとともに排出される鉄分量(FeO量)を低減することができるとともに、第2の炉で生成されるスラグ及び当該スラグとともに排出される鉄分量(FeO量)も低減することができるので、低品位の鉄鉱石を利用しても高い歩留まりで溶鋼を得ることができるものである。
したがって、本件特許発明が高い歩留まりで溶鋼を得ることができるのは、「余剰炭素量Cxが0.2質量%以上」と十分な炭素を含有している「固体還元鉄」を「第1の炉」に投入することによるものであり、「第1の炉」にこのような「固体還元鉄」を投入する限り、「固体還元鉄」の投入量が、本件特許明細書において実施例として記載された、低品位の固体還元鉄A1のうち70質量%を第1の炉に投入する試験1の場合のみならず、「40質量%~100質量%」のいずれの量の固体還元鉄を投入した場合においても同様の機序により、高い歩留まりで溶鋼を得ることができるといえる。
したがって、本件特許発明1は上記課題を解決し得るものであるといえるから、申立人の主張する申立理由6を採用することはできない。
7 採用されなかった申立理由7(1)(明確性)について
本件特許明細書には次の記載がある(下線は当審が付した。)。
「【0036】
(第2の炉における工程)
第2の炉では、上記の固体還元鉄の残部を、第1の炉において分離された溶銑とともに溶融させ、当該溶融物に酸素を吹き付けて脱炭し、溶鋼とする。第1の炉で固体還元鉄のうち40~100質量%を溶融させるため、第2の炉で溶融させる固体還元鉄の残部は0~60質量%である。すなわち、第1の炉で固体還元鉄の全量(100質量%)を溶融させた場合、第2の炉で溶融させる固体還元鉄はない。」
「【0043】
(第1の炉において固体還元鉄の全量を溶融させる場合)
上述のように、第1の炉において固体還元鉄の全量(100質量%)を溶融させる場合、第1の炉を介さず直接第2の炉において溶融させる固体還元鉄はない。そのため、第2の炉では、第1の炉において分離された溶銑のみを脱炭することとなる。・・・」
上記記載によれば、本件特許発明1は、固体還元鉄の100質量%を第1の炉に投入すること、すなわち、残部は0%となり、第1の炉に固体還元鉄を投入しないことを許容していることが明らかであり、したがって、本件特許発明1の「残部」について何ら不明瞭な点は存在しない。
したがって、申立人の主張する申立理由7(1)を採用することはできない。
第6 まとめ
以上のとおり、令和 5年 3月27日付け取消理由通知書に記載した取消理由と、申立人が提出した特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件訂正後の請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件訂正後の請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-701300