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特許異議申立

2018-700010

脱硫剤、溶銑脱硫方法および溶銑の製造方法

審判番号
2018-700010
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2016-570900
登録番号
特許第6156598号(P6156598)
請求日
2018年01月05日
審決日
2019年01月21日
公報発行日
2019年04月26日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】JFEスチール株式会社
  • 【権利者代理人】森 哲也
  • 【権利者代理人】田中 秀▲てつ▼
  • 【権利者代理人】廣瀬 一
  • 【権利者代理人】宮坂 徹
  • 【異議申立人】新日鐵住金 株式会社
  • 【異議申立人代理人】國分 孝悦
審判長/審判官
  • 審判長 板谷 一弘
  • 審判官 結城 佐織
  • 審判官 長谷山 健
分類
P1651.113-YAA(C21C) / P1651.121-YAA(C21C) / P1651.536-YAA(C21C) / P1651.537-YAA(C21C)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第2項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6156598号発明「脱硫剤、溶銑脱硫方法および溶銑の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6156598号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 特許第6156598号の請求項2~10に係る特許を維持する。 特許第6156598号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6156598号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)7月15日(優先権主張 平成27年7月24日)を国際出願日とする出願であって、平成29年6月16日に特許権の設定登録がされ、同年7月5日に特許掲載公報が発行され、その後、平成30年1月5日付けで請求項1~10(全請求項)に係る本件特許に対し、特許異議申立人である新日鐵住金株式会社(以下、「申立人」という。)によって特許異議の申立てがされ、同年3月20日付けで当審から取消理由が通知され、同年5月28日付けで特許権者から意見書の提出及び訂正請求がされ、同年6月11日付けで当審から申立人に対し訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をするとともに相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたところ、同年7月12日付けで申立人から意見書が提出され、同年8月27日付けで当審から取消理由(決定の予告)が通知され、同年10月26日付けで特許権者から意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年11月1日付けで当審から申立人に対し訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をするとともに期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人から意見書は提出されなかったものである。 なお、本件訂正請求がされたため、平成30年5月28日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 本件訂正の適否 1 本件訂正請求の趣旨 本件訂正請求の趣旨は「特許第6156598号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める。」というものである。 2 訂正事項 本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すために当審が付したものである。 (1)訂正事項1 請求項1を削除する。 (2)訂正事項2 請求項2を請求項1の記載を引用しない独立形式に訂正する。 (3)訂正事項3 請求項4及び5を請求項1の記載を引用しないものに訂正する。 (4)訂正事項4 請求項4の「フッ素、カリウムおよびナトリウムの少なくともいずれか一つが、不可避的な微量の混入を除いて、意図的な添加により含まれない」という記載を「フッ素、カリウムおよびナトリウムの3元素とも、不可避的な微量の混入を除いて、意図的な添加により含まれない」という記載に訂正する。 3 一群の請求項について 本件訂正前の請求項1~5は、請求項2~5が、本件訂正請求の対象である請求項1を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1~5について請求されたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 4 訂正要件の検討 (1)訂正の目的の適否,特許請求の範囲の拡張・変更の存否,新規事項追加の有無 ア 訂正事項1について 訂正事項1に係る本件訂正は、請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合し、本件特許の願書に添付された明細書及び図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 イ 訂正事項2について 訂正事項2に係る本件訂正は、本件訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用する形式で記載されていたところ、訂正事項1に係る本件訂正によって請求項1が削除されたことに伴い、請求項2を請求項1の記載を引用しない独立形式に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合し、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 訂正事項3について 訂正事項3に係る本件訂正は、本件訂正前の請求項3及び4が請求項1~3のいずれか1項の記載を引用するものであったところ、訂正事項1に係る本件訂正によって請求項1が削除されたことに伴い、請求項3及び4を請求項1の記載を引用しないものに訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合し、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 エ 訂正事項4について (ア)訂正の目的の適否,特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項4に係る本件訂正は、「不可避的な微量の混入を除いて、意図的な添加により含まれない」元素について、「フッ素、カリウムおよびナトリウムの少なくともいずれか一つ」が選択的に特定されていたのを、「フッ素、カリウムおよびナトリウムの3元素」全てを特定するように訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (イ)新規事項追加の有無 本件明細書等には、「本発明に係る脱硫剤は、フッ素、ナトリウムおよびカリウムのうち少なくとも1つの溶出元素を有する媒溶剤を含まない。」(【0032】)、「フッ素、カリウムおよびナトリウムの少なくともいずれか一つの元素が実質的に含まれない状態とは、少なくともいずれか一つの元素が、不可避的な微量の混入を除いて、意図的な添加により含まれていないことをいう。」(【0037】)と記載されており、これらの記載は、「フッ素、カリウムおよびナトリウムの3元素」の全てが「不可避的な微量の混入を除いて、意図的な添加により含まれない」元素である場合を包含するから、訂正事項4に係る本件訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 (2)独立特許要件 特許異議の申立ては、本件訂正前の請求項1~10の全請求項に対してされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。 5 小括 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第4項並びに、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 そして、本件訂正は、特定の請求項に係る訂正事項について別の請求単位とする求めもない。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 第3 当審の判断 1 本件発明 本件訂正が認められたので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~10に係る発明(以下、それぞれ順に、「本件発明1」~「本件発明10」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 溶銑脱硫に用いられる脱硫剤であって、 細孔径が0.5μm以上10μm以下となる細孔の容積の和である全細孔容積が0.1mL/g以上の生石灰を含み、 前記生石灰は、平均粒径が210μm以上500μm以下の粉状のものであり、 機械攪拌式溶銑脱硫法に用いられることを特徴とする脱硫剤。 【請求項3】 前記生石灰は、平均粒径が230μm以上500μm以下であることを特徴とする請求項2に記載の脱硫剤。 【請求項4】 フッ素、カリウムおよびナトリウムの3元素とも、不可避的な微量の混入を除いて、意図的な添加により含まれないことを特徴とする請求項2または3に記載の脱硫剤。 【請求項5】 前記生石灰のみからなることを特徴とする請求項2または3に記載の脱硫剤。 【請求項6】 機械攪拌式脱硫装置にて溶銑を脱硫処理する際に、 細孔径が0.5μm以上10μm以下となる細孔の容積の和である全細孔容積が0.1mL/g以上であり、平均粒径が210μm以上500μm以下の粉状の生石灰を含む脱硫剤を用いることを特徴とする溶銑脱硫方法。 【請求項7】 前記生石灰は、平均粒径が230μm以上500μm以下であることを特徴とする請求項6に記載の溶銑脱硫方法。 【請求項8】 前記機械攪拌式脱硫装置は、前記溶銑を攪拌する攪拌羽根と、前記溶銑の上方より前記溶銑の浴面に前記脱硫剤をキャリアガスと共に吹き付ける上吹きランスとを備え、 前記溶銑の脱硫処理をする際に、 前記攪拌羽根を用いて前記溶銑を攪拌し、 前記溶銑が攪拌された状態で、前記上吹きランスを用いて前記浴面に前記脱硫剤を吹き付けることを特徴とする請求項6または7に記載の溶銑脱硫方法。 【請求項9】 前記脱硫剤を前記浴面に吹き付ける際に、前記脱硫剤が吹き付けられる位置の前記浴面の水平方向の流速を、1.1m/s以上11.5m/s以下とすることを特徴とする請求項8に記載の溶銑脱硫方法。 【請求項10】 請求項6~9のいずれか1項に記載の溶銑脱硫方法を用いることを特徴とする溶銑の製造方法。」 2 取消理由通知に記載した取消理由について (1)取消理由通知の概要 本件訂正前の請求項1,4,5に対し、平成30年3月20日付けで当審から特許権者に通知した取消理由の内容は以下のとおりである。 また、同年8月27日付けで当審から特許権者に通知した取消理由(決定の予告)は、同年5月28日付けの訂正請求に係る訂正によっても、下記の取消理由1及び2が依然として解消していないことを通知したものである。 取消理由1(新規性欠如・進歩性欠如) 請求項1及び請求項1を引用する請求項5に係る本件特許は、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反してされたものである。 取消理由2(進歩性欠如) 請求項1を引用する請求項4に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 取消理由3(明確性要件違反) 請求項4に係る本件特許は、特許法第36条第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)取消理由1(新規性欠如・進歩性欠如),取消理由2(進歩性欠如)について 本件訂正によって、請求項1に係る本件特許、請求項1を引用する請求項4に係る本件特許、及び請求項1を引用する請求項5に係る本件特許は、いずれも削除されたから、取消理由1,2の対象となる請求項は存在しないものとなった。 したがって、本件訂正によって、取消理由1,2は解消した。 (3)取消理由3(明確性要件違反)について 本件訂正によって、本件発明4では「フッ素、カリウムおよびナトリウムの3元素とも、不可避的な微量の混入を除いて、意図的な添加により含まれないこと」が特定されたため、「フッ素、カリウムおよびナトリウム」のいずれか一つの元素のみを「不可避的な微量の混入を除いて、意図的な添加により含まれない」ようにする一方で、その他の元素については、意図的に添加する場合が排除され、本件発明4は、本件明細書等の【0039】の記載と整合するようになった。 したがって、本件訂正によって、取消理由3は解消した。 3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由の概要 本件訂正前の請求項1~10に対する特許異議申立理由のうち、取消理由通知において採用しなかったものの概要は、以下のとおりである。 ア 申立理由1(実施可能要件違反)(異議申立書第7頁第15行~第8頁第14行) 本件特許の発明の詳細な説明には、請求項1~10に係る発明で特定された生石灰(細孔径が0.5μm以上10μm以下となる細孔の容積の和である全細孔容積が0.1mL/g以上)の製造方法に関し、【0029】に「生石灰は、キルン炉やメルツ炉、ベッケンバッハ炉などの、どのような炉で焼成されたものでも良い。」と記載されているのみで、具体的な製造方法は記載されていない。 しかし、どのような炉であっても、また、どのような産地の石灰石であっても、請求項1~10に係る発明の生石灰を焼成できる特別な方法が発明の詳細な説明に開示されないと、当業者は請求項1~10に係る発明を実施することはできないから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 イ 申立理由2(明確性要件違反)(異議申立書第8頁第22行~第9頁下から第2行) 請求項1には、「細孔径が0.5μm以上10μm以下となる細孔の容積の和である全細孔容積が0.1mL/g以上の生石灰を含む」と記載されているから、請求項1に係る発明の脱硫剤は、当該生石灰が全く含まれない場合を除けば、当該生石灰がごく少量でも(1粒であっても)含まれていればよいことになる。 しかし、請求項1に係る発明の脱硫剤において、当該生石灰がごく少量のみ含まれる場合には、一般に流通する生石灰でも同程度の効果が得られることになるから、請求項1及びこれを引用する請求項2~4の記載は明確であるとはいえない。同様の理由により、請求項6及びこれを引用する請求項7~10の記載も明確であるとはいえない。 ウ 申立理由3(進歩性欠如) (ア)請求項2,3に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(異議申立書第12頁第3行~第14頁第18行)。 (イ)請求項4に係る発明は、甲第1号証~甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(異議申立書第14頁第19行~第15頁第11行)。 (ウ)請求項5,6~10に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(異議申立書第15頁第12行~第18頁第14行)。 [証拠方法] 甲第1号証:無機マテリアル-セッコウ・石灰・セメント・地球環境の科学-(Inorganic Materials), Vol.1, No.252(1994), pp.12-19「高反応性造粒生石灰の性状」 甲第2号証:特開2011-149087号公報 甲第3号証:特許第4845078号公報 (2)申立理由1(実施可能要件違反)について ア 本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明2~10で特定された生石灰(細孔径が0.5μm以上10μm以下となる細孔の容積の和である全細孔容積が0.1mL/g以上)に関し、篩い分けによって平均粒径を測定することは記載されているものの(【0019】)、上記生石灰の製造方法に関しては、【0029】に「生石灰は、キルン炉やメルツ炉、ベッケンバッハ炉などの、どのような炉で焼成されたものでも良い。」と記載されているのみで、具体的な製造方法は記載されていない。 イ しかし、例えば、甲第1号証(1A~1M)には、岡山県北房町で産出され製鋼用に供される市販石灰石を原料石灰石とし、-100+145メッシュに粉砕・調粒した原料石灰石を円筒容器内に水とともに装入し、円筒容器を回転させて20mmφ程度の粉体球とした後、室温放置し、乾燥器で乾燥させ、中心部を厚さ約7mmに切断し、造粒石灰石を得た後、上記造粒石灰石を加熱炉による1100℃・3hの焼成過程に供して得た生石灰が、Fig.4(a)に示された細孔径分布を有することが記載されており、上記Fig.4(a)からは、細孔径が0.5~10μmの細孔の容積の和が、0.1mL/gを超えることが看取できる。 そして、甲第1号証は、本件特許(優先日:平成27年7月24日,出願日:平成28年7月15日)の出願日前の平成6年9月に石膏石灰学会の発行する学会誌に掲載された論文であるから、そのFig.4(a)に示された細孔径分布を有する生石灰を得るための方法として造粒石灰石を得た上で、これを焼成することは、本件特許の出願日の時点において、既に当業者の技術常識であったものと認められる。 ウ そして、甲第1号証に接した当業者であれば、造粒石灰石を焼成することによって、本件発明2~10で規定する生石灰を製造できることを理解でき、さらに、原料として産地等が異なる原料石灰石を用いた場合であっても、造粒石灰石を得る際の粉砕・調粒の条件や、造粒石灰石の焼成条件を適宜調整することで、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明2~10で規定する生石灰を得ることが可能であることを理解できると認められ、このようにして得られた生石灰の平均粒径を篩い分けによって測定すればよいことは、【0019】に記載されているとおりである。 エ 以上のとおり、本件特許の出願時における当業者の技術常識を踏まえれば、当業者は、発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件発明2~10で規定する生石灰を製造することができたといえるから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明2~10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。 オ したがって、申立人の主張を採用することはできない。 (3)申立理由2(明確性要件違反)について 申立人の主張の要旨は、本件発明2~4,6~10の脱硫剤における生石灰(細孔径が0.5μm以上10μm以下となる細孔の容積の和である全細孔容積が0.1mL/g以上)がごく少量のみ含まれる場合には、一般に流通する生石灰と同程度の効果しか得られないことを根拠にして、請求項2~4,6~10の記載が明確ではないというものである。 しかし、従来技術と比較した効果の程度は、明確性要件を判断する際の根拠とはならないから、申立人の上記主張は、採用することができない。 そして、請求項2の「細孔径が0.5μm以上10μm以下となる細孔の容積の和である全細孔容積が0.1mL/g以上の生石灰を含む」という記載、及び請求項6の「細孔径が0.5μm以上10μm以下となる細孔の容積の和である全細孔容積が0.1mL/g以上であり、」「の生石灰を含む」という記載は、その記載どおり「細孔径が0.5μm以上10μm以下となる細孔の容積の和である全細孔容積が0.1mL/g以上の生石灰」を「含む」のであれば、その含有率に依存しないことは明らかであり、上記記載に不明確なところはない。 したがって、請求項2及びこれを引用する請求項3,4、並びに請求項6及びこれを引用する7~10の記載は明確である。 (4)申立理由3(進歩性欠如)について ア 本件発明2~5の進歩性について 甲第1号証~甲第3号証のいずれにも、溶銑脱硫に用いられる脱硫剤の平均粒径の範囲を「210μm以上500μm以下」又は「230μm以上500μm以下」とすることは記載も示唆もされていない。 そして、本件発明2,3は、「細孔径が0.5μm以上10μm以下となる細孔の容積の和である全細孔容積が0.1mL/g以上」という特定の性状を有する「生石灰を含む」「脱硫剤」を前提として、かかる性状の「生石灰」の平均粒径を「210μm以上500μm以下」(本件発明2),「220μm以上500μm以下」(本件発明3)とすることによって、「図3に示すように、脱硫剤の平均粒径が210μm以上、500μm以下の範囲で、脱硫率が著しく増加することが確認できた。さらに、上記の範囲において、脱硫剤の平均粒径が230μm以上となることで、脱硫率がより増加することが確認できた。」(本件明細書等の【0022】)という効果を奏するものであるから、本件発明2,3で特定された上記「生石灰」の平均粒径の上限値及び下限値にはいずれも臨界的意義があり、この臨界的意義は、甲第1号証~甲第3号証に接した当業者であっても予測することはできない。 したがって、本件発明2,3は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 また、本件発明4,5は、本件発明2,3を引用しているから、同様の理由により、本件発明4は、甲第1号証~甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件発明5は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件発明6~10の進歩性について 「溶銑脱硫方法」の発明である本件発明6についても、「細孔径が0.5μm以上10μm以下となる細孔の容積の和である全細孔容積が0.1mL/g以上であり、平均粒径が210μm以上500μm以下の粉状の生石灰を含む脱硫剤を用いること」が特定されており、本件発明7~10は、いずれも本件発明6を引用しているから、前記アで検討したのと同様の理由により、本件発明6~10は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第4 むすび 以上のとおり、本件発明2~10に係る本件特許については、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。 また、請求項1に係る本件特許は、本件訂正により削除され、請求項1に係る申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2018-700010

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  • 2023-009017拒絶査定不服審判 / 2024-11-29 / 原査定取消(特許/登録すべき)球状黒鉛鋳鉄の金型鋳造品
    共通の審決分類: 121・C21C、536・C21C、537・C21C

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