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特許異議申立

2016-700989

転炉における溶銑の脱燐処理方法

審判番号
2016-700989
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2014-151371
登録番号
特許第5904238号(P5904238)
請求日
2016年10月13日
審決日
2017年05月22日
公報発行日
2017年08月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】JFEスチール株式会社
  • 【権利者代理人】井上 茂
  • 【権利者代理人】磯村 哲朗
  • 【権利者代理人】森 和弘
  • 【異議申立人】新日鐵住金 株式会社
  • 【異議申立人代理人】國分 孝悦
審判長/審判官
  • 審判長 板谷 一弘
  • 審判官 長谷山 健
  • 審判官 河本 充雄
分類
P1651.536-YAA(C21C) / P1651.537-YAA(C21C) / P1651.113-YAA(C21C) / P1651.121-YAA(C21C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5904238号発明「転炉における溶銑の脱燐処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5904238号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 特許第5904238号の特許請求の範囲の請求項1、2に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第5904238号の特許請求の範囲の請求項1、2に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成26年 7月25日(優先権主張 平成25年 7月25日)に特許出願され、平成28年 3月25日に特許の設定登録がされ、その後、本件特許に対し、特許異議申立人である新日鐵住金株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年12月19日付けで当審から取消理由が通知され、平成29年 2月15日付けで特許権者から意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、平成29年 2月20日付けで当審から申立人に対し通知書を送付し期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人からは応答がなかった。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。 願書に添付した明細書の段落【0049】の「ここで、(1)式を用いて塩基度を計算する際には、(1)式中の添加CaO量を算出するのに、プリメルト脱燐用媒溶剤及び上吹きランスから吹き付け添加する燐用媒溶剤に含有されるCaO量のみを用いて算出することが望ましく、これらの迅速に滓化する媒溶剤のみからスラグ組成を計算することにより、液相スラグの組成をより正確に把握でき、より確実な脱燐反応の制御が可能となる。脱珪期における塩基度を算出する際には、(1)式中の添加CaO量を算出するのに、プリメルト脱燐用媒溶剤に含有されるCaO量、より望ましくは1300℃での液相比率が50%以上となるプリメルト脱燐用媒溶剤に含有されるCaO量のみを用いて算出することが望ましく、これにより炉内に残留していた前チャージスラグからの復燐をより確実に防止できる。」という記載を、「ここで、(1)式を用いて塩基度を計算する際には、(1)式中の添加CaO量を算出するのに、プリメルト脱燐用媒溶剤及び上吹きランスから吹き付け添加する燐用媒溶剤に含有されるCaO量のみを用いて算出することが望ましく、これらの迅速に滓化する媒溶剤のみからスラグ組成を計算することにより、液相スラグの組成をより正確に把握でき、より確実な脱燐反応の制御が可能となる。」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項、及び新規事項追加の有無 (1)訂正の目的の適否、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正前の願書に添付した明細書の段落【0048】では、「塩基度=[(算出時点までの添加CaO量(kg/溶銑-ton)]÷[(算出時点までの生成SiO2量(kg/溶銑-ton)+算出時点までの添加SiO2量(kg/溶銑-ton)]…(1)」と(1)式が定義されているところ、同明細書の段落【0049】の前半部分には、「ここで、(1)式を用いて塩基度を計算する際には、(1)式中の添加CaO量を算出するのに、プリメルト脱燐用媒溶剤及び上吹きランスから吹き付け添加する燐用媒溶剤に含有されるCaO量のみを用いて算出することが望ましく、これらの迅速に滓化する媒溶剤のみからスラグ組成を計算することにより、液相スラグの組成をより正確に把握でき、より確実な脱燐反応の制御が可能となる。」と記載されており、かかる前半部分の記載では、(1)式中の添加CaO量を算出する時期は何ら特定されていないから、脱珪期を含む全ての時期において、(1)式中の添加CaO量を算出するのに、プリメルト脱燐用媒溶剤及び上吹きランスから吹き付け添加する燐用媒溶剤に含有されるCaO量のみを用いて算出するものであるといえる。 一方、同明細書の段落【0049】の後半部分には、「脱珪期における塩基度を算出する際には、(1)式中の添加CaO量を算出するのに、プリメルト脱燐用媒溶剤に含有されるCaO量、より望ましくは1300℃での液相比率が50%以上となるプリメルト脱燐用媒溶剤に含有されるCaO量のみを用いて算出することが望ましく、これにより炉内に残留していた前チャージスラグからの復燐をより確実に防止できる。」と記載されるとおり、(1)式中の添加CaO量を算出する時期が脱珪期であることが特定されており、その上で、プリメルト脱燐用媒溶剤に含有されるCaO量のみを用いることが望ましいとされているから、かかる後半部分の記載によれば、脱珪期においては、(1)式中の添加CaO量を算出するのに、プリメルト脱燐用媒溶剤に含有されるCaO量のみを用いて算出するものであるといえる。 そうすると、脱珪期においては、(1)式中の添加CaO量を算出する方法が上記前半部分と後半部分の記載とでは異なるから、特許請求の範囲の請求項1に記載された「炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))」を一義的に特定することができず、請求項1及びこれを引用する請求項2の記載は明確でない。 本件訂正請求による訂正は、以上を踏まえてされたものであり、訂正前の願書に添付した明細書の段落【0049】の後半部分の記載を削除することで、(1)式中の添加CaO量を算出する時期にかかわらず、その算出に、プリメルト脱燐用媒溶剤及び上吹きランスから吹き付け添加する燐用媒溶剤に含有されるCaO量のみを用いることが望ましいことを明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、本件訂正請求による訂正によって、特許請求の範囲の請求項1に記載された「脱燐処理開始時点から脱燐処理終了時点までの炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))」の算出に際し、脱珪期においては、上吹きランスから吹き付け添加する燐用媒溶剤に含有されるCaO量を含めなくてもよいという解釈が排除されることになり、請求項1を引用する請求項2についても同様であるから、本件訂正請求による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、一群の請求項に対して請求されたものである。 (2)新規事項追加の有無 訂正前の願書に添付した明細書の段落【0044】には、「スラグ19の組成がSiO2の飽和領域にならないように、スラグ19の塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))を調整する方法としては、上吹きランス5から供給する脱燐用媒溶剤20の量を脱燐処理の初期(脱珪期)に多くし、脱珪期を超えた以降は少なくする方法・・・などを用いることができる。」と記載されるとおり、上記記載には、「脱珪期を超えた以降」においても、「スラグ19の塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))」の算出に「上吹きランス5から供給する脱燐用媒溶剤20」に含有されるCaO量を用いることが記載されている。 また、同明細書の段落【0060】には、本発明例である試験番号4の実施例について、「試験番号4では、脱燐精錬開始後に生石灰の吹き込み量を多くしたことと、処理前の溶銑中珪素濃度が比較的低かったことから、レススラグ精錬滓を使用しないにも拘わらず、炉内スラグの塩基度は脱燐処理期間の全期間で0.80以上であった。」と記載されており、上記「生石灰」については、「CaOを主成分とする脱燐用媒溶剤として生石灰(CaO純分=約95質量%)を使用し、この生石灰を上吹きランスを介して火点に添加し」(同明細書の段落【0053】)とあるとおり、上吹きランスを介して添加したものであるから、同明細書の段落【0060】には、スラグの塩基度の算出に際し、「脱燐処理期間の全期間」にわたって上吹きランスを介して添加された生石灰に含有されるCaO量を用いることが記載されている。 以上によれば、訂正前の段落【0049】の後半部分の記載を削除することで、脱燐処理期間の時期にかかわらず、スラグの塩基の算出に、プリメルト脱燐用媒溶剤及び上吹きランスから吹き付け添加する燐用媒溶剤に含有されるCaO量のみを用いることが望ましいことを明確にする本件訂正請求による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項の追加に該当するものではない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の段落【0049】について訂正を認める(以下、本件訂正請求によって訂正された明細書を「本件訂正明細書」という。)。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明の概要 本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明(以下、「本件発明1、2」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 転炉内の溶銑に上吹きランスから酸素ガスを吹き付けるとともに、CaOを主成分とする脱燐用媒溶剤を転炉内の溶銑に供給し、前記酸素ガスによって溶銑中の燐を酸化し、生成した燐酸化物を滓化した前記脱燐用媒溶剤中に取り込むことにより溶銑中の燐を除去する脱燐処理方法において、 前記脱燐用媒溶剤の少なくとも一部を前記上吹きランスから転炉内の溶銑浴面に向けて吹き付け添加し、且つ、脱燐処理開始時点から脱燐処理終了時点までの炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))の最小値を0.80以上1.20未満とし、炉内に供給される酸素ガスのうちで脱珪反応に使用される分を除いた酸素ガスを脱珪外酸素量(kg/溶銑-ton)と定義したとき、上吹きランスから溶銑浴面に吹き付け添加する脱燐用媒溶剤中のCaO量(kg/溶銑-ton)と、前記脱珪外酸素量との比(CaO量/脱珪外酸素量)が0.6以上0.9以下になるように、脱珪外酸素量に応じて上吹きランスから吹き付け添加する脱燐用媒溶剤の添加量を調整することを特徴とする、転炉における溶銑の脱燐処理方法。 【請求項2】 脱燐処理の開始後から、炉内の溶銑が、溶銑中珪素濃度が0.01質量%となるまで脱珪される以前に、炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))を高めるためのプリメルトの脱燐用媒溶剤を転炉内に供給することを特徴とする、請求項1に記載の転炉における溶銑の脱燐処理方法。」 2 取消理由の概要 平成28年12月19日付けで当審から特許権者に通知した取消理由の内容は以下のとおりである。 「第3 取消理由 (実施可能要件)この特許は、発明の詳細な説明の記載が下記(1)、(2)の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 (明確性要件)この特許は、特許請求の範囲の記載が下記(2)の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)請求項1、2について 本件特許の請求項1に係る発明において、「炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))の最小値を0.80以上1.20未満」とする方法が明確でないことから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。その理由は、特許異議申立書第5頁第18行から第13頁最終行までに記載のとおりである。 よって、請求項1及び請求項1を引用する請求項2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)請求項1、2について 本件特許の請求項1に係る発明において、「炉内スラグの塩基度」を計算する際のCaO量が明確でないことから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。また、本件特許の請求項1に係る発明における「炉内スラグの塩基度」は不明確である。その理由は、特許異議申立書第14頁第1行から第15頁第22行までに記載のとおりである。 よって、請求項1及び請求項1を引用する請求項2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。」 3 当審の判断 (1)取消理由通知に記載した取消理由(特許法第36条第4項第1号、同条第6項第2号)について ア 本件発明において、「脱燐処理開始時点から脱燐処理終了時点までの炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))の最小値を0.80以上1.20未満と」する方法が明確でない点(特許法第36条第4項第1号)について (ア)本件発明における「脱燐処理開始時点から脱燐処理終了時点までの炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))の最小値を0.80以上1.20未満と」する方法に関し、本件訂正明細書には以下の事項が記載されている。 「【0025】 ・・・このスラグ19の塩基度が最も低下する時期は、厳密には、CaO添加速度とSiO2生成速度との比が、脱珪反応の停滞に伴って増大し、スラグ19の塩基度と等しくなる時点となる。しかし、溶銑の脱燐処理では、溶銑18に含有される珪素が優先的に酸化されることから、つまり脱珪反応が優先的に起こることから、SiO2生成速度は脱珪反応が終了する直前に急激に低下するので、脱燐処理でスラグ19の塩基度が最も低下する時期は、溶銑中の珪素がおよそ0.01質量%まで酸化された時点となる。・・・」 「【0047】 脱燐処理中のスラグ19の塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))は、下記の(1)式に基づいて計算することができる。 【0048】 塩基度=[(算出時点までの添加CaO量(kg/溶銑-ton)]÷[(算出時点までの生成SiO2量(kg/溶銑-ton)+算出時点までの添加SiO2量(kg/溶銑-ton)]…(1) 尚、算出時点までの生成SiO2量は、脱燐処理前の溶銑中珪素濃度及び脱燐処理中の酸素供給量から、経験的に把握される脱珪酸素効率を用いて算出でき、算出時点までの添加SiO2量は、プリメルト脱燐用媒溶剤などの添加物に含まれるSiO2量から算出できる。 【0049】 ここで、(1)式を用いて塩基度を計算する際には、(1)式中の添加CaO量を算出するのに、プリメルト脱燐用媒溶剤及び上吹きランスから吹き付け添加する燐用媒溶剤に含有されるCaO量のみを用いて算出することが望ましく、これらの迅速に滓化する媒溶剤のみからスラグ組成を計算することにより、液相スラグの組成をより正確に把握でき、より確実な脱燐反応の制御が可能となる。」 (イ)上記(ア)の記載によれば、本件発明における「脱燐処理開始時点から脱燐処理終了時点までの炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))の最小値」は、溶銑中の珪素がおよそ0.01質量%まで酸化された時点であり(段落【0025】)、その時点における塩基度は(1)式で計算され(段落【0048】)、(1)式において、「算出時点までの添加CaO量」は、プリメルト脱燐用媒溶剤及び上吹きランスから吹き付け添加する燐用媒溶剤に含有されるCaO量のみを用いて算出することが望ましく(段落【0049】)、「算出時点までの生成SiO2量」は、脱燐処理前の溶銑中珪素濃度及び脱燐処理中の酸素供給量から、経験的に把握される脱珪酸素効率を用いて算出でき(段落【0048】)、「算出時点までの添加SiO2量」は、プリメルト脱燐用媒溶剤などの添加物に含まれるSiO2量から算出できる(段落【0048】)とされるところ、本件訂正明細書には、(i)溶銑中の珪素がおよそ0.01質量%まで酸化された時点をどのようにして見極めるのか、及び、(ii)「算出時点までの生成SiO2量」の算出に際し、どのようにして脱燐処理前の溶銑中珪素濃度及び脱燐処理中の酸素供給量から脱珪酸素効率を経験的に把握するのか、については、明示的な記載はされていない。 (ウ)上記(i)、(ii)に関し、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である特許第5386972号公報(乙第1号証。以下、「乙1」ということがある。)には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 溶銑の脱珪脱りん処理を行うに際し、粒径1mm以下の微粉CaO源を用い、上吹き酸素とともに吹き付けを行う方法と、直接溶銑中に吹き込む方法とを併用することにより前記CaOの供給量を制御して、脱りん処理後の塩基度を1.8~2.2とし、処理開始2分後の塩基度を1.0~1.4、処理開始5分後の塩基度を1.4~1.8とすることを特徴とする溶銑の脱珪脱りん方法。」 「【0017】 図1は、本願発明を実施するに好適な設備の概要を示す。転炉1に冷鉄源11を装入し、更に溶銑2を装入する。次に、酸素ガスを上吹きしながら、底吹き羽口よりCaO源を吹き込む。更に、上吹きランスからCaO源を上吹きする。脱りん中期以降、必要に応じて、炉上ホッパーからCaO源、あるいは鉄鉱石等の冷却材、精錬剤を投入する。 【0018】 脱珪速度は、一般に、溶銑側の物質移動律速であることが分かっているので、(2)式で表され、また、(2)式の脱珪速度定数KSiの値は、底吹き攪拌力と上吹き攪拌力が同一であれば、一定となるので、溶銑中の珪素濃度の経時変化を予め複数のチャージで調査すれば、KSiを求めることができる。一般には、底吹き攪拌力、上吹き攪拌力ともに、設備条件としてほぼ一定で行われるので、一度測定すれば、KSiが大きく変わることは無い。処理前の珪素濃度[%Si]initialは通常、分析されて既知であるので、(2)式で処理中の任意の時刻における珪素濃度[%Si]が推定できる。 [%Si]=[%Si]initial exp(-KSi t) (2) ここに、KSi:脱珪反応速度定数(1/min)、t:処理開始からの時間(min)、 [%Si]initial:処理前の溶銑中の珪素濃度(重量%)、[%Si]:処理開始後t分後の溶銑中の珪素濃度(重量%)である。」 「【図1】 」 (エ)上記(ウ)の記載によれば、転炉において溶銑の脱珪脱りん処理を行うに際し、処理開始後t分後の溶銑中の珪素濃度(重量%)である脱珪速度[%Si]は、溶銑側の物質移動律速であることが分かっているため、(2)式で表されるところ、一般には、底吹き攪拌力、上吹き攪拌力ともに、設備条件としてほぼ一定で行われ、このように、底吹き攪拌力と上吹き攪拌力が同一であれば、(2)式における脱珪速度定数KSiの値は一定となるため、溶銑中の珪素濃度の経時変化を予め複数のチャージで調査すれば、KSiの値を求めることができ、このようにしてKSiの値を求めることができれば、処理前の溶銑中の珪素濃度(重量%)である[%Si]initialは、通常、既知であるため、(2)式で任意の時刻tにおける溶銑中の珪素濃度(重量%)が推定できることになる。そして、以上のことは、本件特許の出願時において、当業者の技術常識であると認められ(申立人も争っていない。)、当業者であれば、本件発明に対しても同様に成り立つことを理解するものと認められる。 (オ)そうすると、当業者であれば、本件発明の実施に際し、転炉における底吹き攪拌力、上吹き攪拌力等の条件を脱燐処理に用いる一定値に設定した上で、溶銑中の珪素濃度の経時変化を予め複数のチャージで調査して、上記転炉及び条件における(2)式のKSiを経験的に算出することができ、そうすれば、(2)式に基づいて溶銑中の珪素濃度がおよそ0.01質量%となる時刻tを算出することができ、さらに、当該時刻tまでに消費された珪素量と供給された酸素量に基づいて脱珪酸素効率を算出することもできるから、上記技術常識によれば、上記(イ)の(i)、(ii)のいずれについても、実施可能であるものと認められる。 したがって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明における「脱燐処理開始時点から脱燐処理終了時点までの炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))の最小値を0.80以上1.20未満と」することについて、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものである。 (カ)申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書第5頁第18行~第13頁最終行において、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である特開平11-323420号公報(甲第2号証。以下、「甲2」ということがある。他の甲号証についても同様。)及び特開2013-136831号公報(甲3)に基づいて、転炉において溶銑の脱燐処理を行う場合、脱珪酸素効率や溶銑中の珪素濃度の変動幅は大きく、当業者は、どのようにして本件発明における「脱燐処理開始時点から脱燐処理終了時点までの炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))の最小値を0.80以上1.20未満と」するのかを理解できないから、発明の詳細な説明の記載は、本件発明における「脱燐処理開始時点から脱燐処理終了時点までの炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))の最小値を0.80以上1.20未満と」することについて、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものではないと主張するので、この点について検討する。 a 甲2の記載事項 甲2には、以下の事項が記載されている。 「【0003】製銑工程および/または製鋼工程の予備処理での溶銑脱珪技術は広く用いられているが、溶銑〔Si〕が低下するに従い反応効率が低下することは広く知られている。・・・」 「【0012】 【発明の実施の形態】本発明の脱珪反応について説明する。本発明者らは、多数の実験結果から、低Si域まで効率的に脱珪するには、スラグ塩基度を増大させることと、酸素供給速度を増大させることが重要であることを見出した。一般に、脱珪反応は下記(1)式で記載され、その反応速度:Kは(2)式で与えられる。また、脱珪をするために酸化鉄や酸素ガスを酸素源として溶銑に供給すると、脱珪と同時に脱炭反応が進行する。 【0013】 〔Si〕+2(FeO)=(SiO2)+2Fe      ……(1) K=d〔Si〕/dt=(kA/V)×(〔Si〕-〔Si〕0) ……(2) ここで、kは総括物質移動係数、Aは反応界面積、Vは溶鋼体積であり、〔Si〕0は溶銑中〔Si〕の平衡値であるが、脱珪反応の場合はゼロと近似できる。また、kはメタル側の物質移動係数;km、スラグ側の物質移動係数;ks、分配比;L(=(Si)0/〔Si〕0)を用いて(3)式で表わされる。ここで、(Si)0はスラグ中(Si)の平衡値である。 【0014】 1/k=1/km+1/(L×ks)           ……(3) 脱珪反応の初期の高Si域では・・・(3)式のLが大きく、kはメタル側の物質移動係数kmに支配されている。 【0015】しかし、低〔Si〕域になると・・・このkが小さくなる・・・。 【0016】本発明者らは、低〔Si〕域での総括物質移動係数kを増大せしめる方法として本発明をなし、塩基度と全酸素供給速度の適正制御によってこれを実現した。つまり、塩基度を適正に制御することで融点が低く、かつ、粘性の低いスラグとし、全酸素供給速度を制御することで、脱炭反応を適正に進行させ、脱炭時に発生するCOガスでスラグを攪拌してkを増大させるものである。図1、図2に実験結果を示す。・・・ 【0017】尚、図1、図2における脱珪効率は下記(4)式で示される脱珪酸素効率であり、この場合、処理前〔Si〕は0.35~0.45%、処理後〔Si〕は0.07~0.14%の処理としたものである。 脱珪効率=(処理前〔%Si〕-処理後〔%Si〕) ×11.42×100/酸素原単位(kg/t)  ……(4) ・・・」 「 」 b 上記aによれば、甲2の図1、2における脱珪効率(脱珪酸素効率)には、スラグ塩基度(図1)、全酸素供給速度(図2)が同一の値の場合であっても、10%程度のばらつきが生じていることが認められる。 しかし、上記(ウ)の乙1の段落【0018】に記載されるとおり、脱珪速度は、溶銑側の物質移動律速であって、溶銑の撹拌条件に大きく影響を受けると考えられるところ、甲2には、図1、2の結果を導く際の溶銑の撹拌条件についての記載はなく、図1、2の結果が撹拌条件を一定にして導かれたものということはできないのに対し、本件発明では、上記(ウ)~(オ)で検討したとおり、本件特許の出願時における当業者の技術常識によれば、底吹き攪拌力、上吹き攪拌力ともに、設備条件としてほぼ一定で行われたものであると認められるから、甲2の図1、2における脱珪効率(脱珪酸素効率)に10%程度ののばらつきが生じることは、本件発明において「脱燐処理開始時点から脱燐処理終了時点までの炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))の最小値を0.80以上1.20未満と」することができないことの根拠とはならない。 c 甲3の記載事項 甲3には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 上吹きランスから酸素ガスを供給するとともに底吹き羽口から攪拌用ガスを吹き込んで予め脱珪処理されていない溶銑を転炉にて脱珪処理し、その後、脱珪処理で生成したスラグを転炉から排出し、スラグの排出後、引き続いて脱燐処理して溶銑を予備処理するにあたり、 脱珪処理中に、上吹きランスからの酸素ガス流量、精錬中の排ガスの組成、排ガスの流量、副原料投入量及び溶銑成分から酸素バランスを逐次計算することにより求められる不明酸素量に基づいて炉内スラグ中のFeO濃度を推定し、 推定したFeO濃度の推移に照らし合わせて、上吹きランスからの酸素ガス流量、上吹きランスのランス高さ、底吹き羽口からの攪拌用ガス流量の3種のうちの少なくとも何れか1種を調整し、この調整により、脱珪処理開始時から9分間経過する時点までに、炉内スラグのFeO濃度を3.0~30質量%の範囲に調整し、 その後、一旦前記上吹きランスからの酸素ガスの供給を中断して炉内スラグの少なくとも一部を転炉から排出し、炉内スラグの排出後、上吹きランスからの酸素ガスの供給を再開して脱燐処理を行うことを特徴とする、転炉における溶銑の予備処理方法。」 「【請求項5】 脱珪処理では、スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))が0.8~1.2となるように、粒径1mm以下のCaO含有物質を、炉内で生成するSiO2量に応じて、前記上吹きランスを介して酸素ガスとともに溶銑に吹き付け添加し、且つ、脱燐処理では、スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))が1.0~1.8の範囲内となるように、粒径1mm以下のCaO含有物質を、炉内で生成するSiO2量に応じて、前記上吹きランスを介して酸素ガスとともに溶銑に吹き付け添加することを特徴とする、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の転炉における溶銑の予備処理方法。」 「【0011】 ・・・脱珪処理後に中間排滓する場合には、脱珪処理の終了時点を正しく判定する必要があるが、脱珪処理時に供給される酸素ガスは、脱珪反応(Si+2O→SiO2)のみに供されるものではなく、溶銑中の炭素とも反応(C+O→CO)する。また、鉄鉱石などの固体酸素源も、脱珪反応以外に脱炭反応に寄与しており、従って、脱珪処理時に投入する酸素源の供給量だけからは、溶銑中の珪素濃度は推定できず、脱珪処理の終了時点を判定するのが困難である。」 「【0052】 試験では、CaO含有物質19として生石灰を使用し、生石灰の添加条件として以下の2水準で実施した。即ち、脱珪処理及び脱燐処理において、使用するCaO含有物質19の全量を副原料投入装置から上置き供給する場合(添加条件1)と、使用するCaO含有物質19の全量を上吹きランス2から吹き付け供給する場合(添加条件2)の2水準とした。」 「【0054】 脱珪処理及び脱燐処理の操業条件を表1に・・・示す。 【0055】 【表1】 」 「【0057】 図2に、添加条件1及び添加条件2において、中間排滓時でのスラグ中FeO濃度と中間排滓後の溶銑中珪素濃度との関係を調査した結果を示す。・・・」 「【0068】 上吹きランス2からの酸素ガス流量を増加すると所謂「ハードブロー」になり、供給する酸素ガスは溶銑中の珪素及び炭素との反応に費やされてFeOの生成が少なくなる・・・。逆に、上吹きランス2からの酸素ガス流量を低下すると所謂「ソフトブロー」になり、供給する酸素ガスと溶銑自体(鉄)との反応が起こりスラグ中のFeO濃度は上昇する。」 「【図2】 」 d 上記cによれば、甲3の図2における中間排滓後の溶銑中Si濃度(質量%)は、中間排滓時のスラグ中FeO濃度(質量%)が同一の値の場合であっても、最大で0.1%程度のばらつきが生じていることが認められる。 しかし、上記(ウ)の乙1の段落【0018】に記載されるとおり、脱珪速度は、溶銑側の物質移動律速であって、溶銑の撹拌条件に大きく影響を受けると考えられるところ、甲3の段落【0055】に記載の表1には、「上吹き送酸速度(Nm3/hr)」を「20000~60000」、「底吹きガス流量(Nm3/hr)」を「400~2000」と、撹拌条件を変動させた操業条件が記載されており、図2の結果が撹拌条件を一定にして導かれたものということはできないのに対し、本件発明では、上記(ウ)~(オ)で検討したとおり、本件特許の出願時における当業者の技術常識によれば、底吹き攪拌力、上吹き攪拌力ともに、設備条件としてほぼ一定で行われたものであると認められるから、甲3の図2における中間排滓後の溶銑中Si濃度に最大で0.1%程度のばらつきが生じることは、本件発明において「脱燐処理開始時点から脱燐処理終了時点までの炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))の最小値を0.80以上1.20未満と」することができないことの根拠とはならない。 e 以上のとおり、甲2及び甲3に基づく申立人の上記主張は根拠を欠くものであるから、これを採用することはできない。 イ 本件発明において、「脱燐処理開始時点から脱燐処理終了時点までの炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))」を算出する際のCaO量が明確でない点(特許法第36条第4項第1号、同法同条第6項第2号)について 上記「第2」「2」「(1)」にあるとおり、訂正前の願書に添付した明細書の段落【0049】の記載によれば、脱珪期においては、(1)式中の添加CaO量を算出するのに、上吹きランスから吹き付け添加する燐用媒溶剤に含有されるCaO量を含めても含めなくてもよいということになるから、同明細書の段落【0049】の記載は不明瞭であった。 そのため、訂正前の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載では、本件発明における「脱燐処理開始時点から脱燐処理終了時点までの炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))」を算出する際のCaO量を特定することができず、また、これに伴って、本件発明の「脱燐処理開始時点から脱燐処理終了時点までの炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))」の記載内容も不明確であった。 しかし、本件訂正請求による訂正によって、段落【0049】の後半部分の記載が削除され、(1)式中の添加CaO量を算出する時期にかかわらず、その算出に、プリメルト脱燐用媒溶剤及び上吹きランスから吹き付け添加する燐用媒溶剤に含有されるCaO量のみを用いることが望ましいことが明確となったから、上記の記載不備は解消した。 したがって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明における「脱燐処理開始時点から脱燐処理終了時点までの炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))」を算出する際のCaO量について、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものであり、また、本件発明における「脱燐処理開始時点から脱燐処理終了時点までの炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))」という記載も明確である。 ウ 以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるということはできない。 (2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第29条第1項第3号、同条第2項)について ア 本件特許の出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2011-12286号公報(甲1)には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 上底吹き転炉型精錬容器においてCaF2含有物質を使用せずにCaO含有粉体をランスから酸素含有ガスとともに上吹きして溶銑に対して脱りん処理する、溶銑の脱りん方法において、 前記溶銑のSi濃度が0.3質量%以上であり、 前記CaO含有粉体中の純CaOとしての上吹き速度と前記酸素含有ガス中の純酸素ガスとしての質量流量の比を下記式で示す範囲内に調整することを特徴とする、溶銑の脱りん方法。 0.56+0.5×[Si]<CaO/O<0.56+1.5×[Si] ここで、上式中の各記号は下記の諸量を意味する。 CaO:溶銑1トンあたりの、CaO含有物質粉体中の純CaOとしての上吹き速度(kg/min) O:溶銑1トンあたりの、酸素含有ガス中の純酸素ガスとしての質量流量(kg/min) [Si]:処理前溶銑のSi濃度(質量%) 【請求項2】 脱りん吹錬前または脱りん吹錬開始時にAl2O3含有物質を添加し、脱りん吹錬処理後のスラグ中のAl2O3濃度を2.0質量%以上10.0質量%未満とすることを特徴とする、請求項1に記載の溶銑の脱りん方法。」 「【0007】 溶銑に吹き付けるCaO源と酸素源の混合比率については、特許文献2においてフラックスを構成する生石灰の重量と酸化鉄および/または酸素ガスの酸素換算重量の和の比であるCaO/Oとして記載され、特許文献3において気体酸素とCaOの供給速度の比として記載されている。」 「【0010】 ・・・特許文献2や特許文献3に記載されているCaO源と酸素源の吹き付け方法では、溶銑中Si濃度が高い場合には、脱珪反応が脱りん反応よりも優先され、脱珪反応が終了するまで脱りん反応が進みにくいという問題点があった。 【0011】 また、これまでは、溶銑の脱りん処理は、脱珪処理を行った後に行う方が良いと一般的に考えられてきた。脱珪処理を行った溶銑に対して脱りん処理を行う脱りん方法は、例えば、特許文献4や特許文献5に記載されている。 【0012】 しかし、溶銑に脱珪処理を行った後に脱りん処理をすることとすると、溶銑から溶鋼への精錬工程におけるプロセス数が増えて製造コストが増加する問題が生じる。製造コストの増加を抑制するには、1プロセスで脱珪処理と脱りん処理を行うことが望まれる。」 「【0017】 本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、上底吹き転炉型精錬容器において、CaF2含有物質を用いず、広範なSi濃度の溶銑について、脱珪処理を行うと同時に高効率で脱りん処理を行うことが可能な溶銑の脱りん方法を提供することを目的とする。」 「【0053】 スラグによる脱りん効率を向上させるには、Al2O3含有物質を脱りん処理前、または脱りん処理開始時に溶銑の浴面上を覆っているスラグ中に添加し、脱りん処理後にスラグ中のAl2O3濃度を2.0質量%以上10.0質量%未満とすればよい。ここで、Al2O3含有物質とは、Al2O3を5質量%以上含有する物質を意味する。」 「【0060】 生石灰粉は、CaO濃度が約97質量%のものを用いた。生石灰粉の粒径は1mm以下であった。上吹きランスから吹き付ける純酸素の流量(溶銑1トンあたりの送酸速度)は、脱りん処理中は2.0~4.0Nm3/min/tの範囲で一定とした。上吹きランスから吹き付ける純酸素と生石灰粉のCaO/O比も、脱りん処理中は0.72~1.78の範囲で一定とした。脱りん処理時間は、4.5~12分の範囲とした。 【0061】 表1には試験番号1~17の試験について、脱りん処理前の溶銑のSi濃度およびP濃度、溶銑1トンあたりの送酸速度、CaO/O比、溶銑1トンあたりの造塊スラグの添加量、ならびに脱りん処理時間を示す。 【0062】 【表1】 」 「【0064】 また、本発明例の一部の試験(試験番号7~11)では、上吹きランスから純酸素と生石灰粉を共に溶銑に吹き付ける前に、転炉内の溶銑上に、造塊スラグとしてAl2O3含有物質を添加した。Al2O3含有物質としては、Al2O3を17質量%、CaOを44質量%、SiO2を9質量%含有する造塊スラグを用いた。」 イ 申立人は、特許異議申立書第15頁第23行~第22頁第25行において、甲1には、本件発明1における「脱燐処理開始時点から脱燐処理終了時点までの炉内スラグの塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))の最小値を0.80以上1.20未満と」すること(以下、「発明特定事項1」という。)、及び、「炉内に供給される酸素ガスのうちで脱珪反応に使用される分を除いた酸素ガスを脱珪外酸素量(kg/溶銑-ton)と定義したとき、上吹きランスから溶銑浴面に吹き付け添加する脱燐用媒溶剤中のCaO量(kg/溶銑-ton)と、前記脱珪外酸素量との比(CaO量/脱珪外酸素量)が0.6以上0.9以下になるように、脱珪外酸素量に応じて上吹きランスから吹き付け添加する脱燐用媒溶剤の添加量を調整すること」(以下、「発明特定事項2」という。)のそれぞれに相当する事項は、明示的には記載されていないものの、甲4の計算結果によれば、溶銑中の珪素濃度が0.01質量%となった時点を最小塩基度とした場合に、表1の試験番号1の本発明例では、脱酸素効率を50%、35%と仮定すると、最小塩基度が、それぞれ0.81、1.16となって発明特定事項1を充足し(ただし、脱酸素効率を65%、20%と仮定した場合は、発明特定事項1を充足しない。)、試験番号7の本発明例では、脱珪酸素効率を65%、50%と仮定すると、最小塩基度が、それぞれ0.83、1.00となって発明特定事項1を充足し(ただし、脱酸素効率を35%、20%と仮定した場合は、発明特定事項1を充足しない。)、試験番号8の本発明例では、脱珪酸素効率を65%、50%と仮定すると、最小塩基度が、それぞれ1.00、1.17となって発明特定事項1を充足し(ただし、脱酸素効率を35%、20%と仮定した場合は、発明特定事項1を充足しない。)、さらに、上記試験番号1、7、8の本発明例は、いずれも発明特定事項2を充足するから、本件発明1は新規性又は進歩性を欠き、本件発明2についても同様であると主張する。 ウ しかし、甲4の計算結果における65%、50%、35%、20%という脱珪酸素効率は仮定に基づくものであって、甲1の表1に記載された各発明例にそのまま妥当するとはいえないから、本件発明が新規性を欠くという申立人の主張を採用することはできない。 また、甲1には、上記イの本件特許発明における発明特定事項1、2に相当する事項については、記載も示唆もされていないから、本件発明は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。したがって、本件発明が進歩性を欠くという申立人の主張についても、これを採用することはできない。 エ 以上のとおり、申立人の主張はいずれも根拠を欠くものであるから、これを採用することはできない。 第4 結論 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2016-700989

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