特許異議申立
2020-700488
マルチホールプラグ
- 審判番号
- 2020-700488
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-069248
- 登録番号
- 特許第6640461号(P6640461)
- 請求日
- 2020年07月14日
- 審決日
- 2021年05月31日
- 公報発行日
- 2021年09月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】黒崎播磨株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人英和特許事務所
- 【権利者】日本製鉄株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人英和特許事務所
- 【異議申立人】小川 鐵夫
- 審判長/審判官
- 審判長 亀ヶ谷 明久
- 審判官 粟野 正明
- 審判官 土屋 知久
- 分類
- P1651.852-YAA(C21C) / P1651.537-YAA(C21C) / P1651.536-YAA(C21C) / P1651.121-YAA(C21C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6640461号発明「マルチホールプラグ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6640461号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第6640461号の請求項1~3、5に係る特許を維持する。
特許第6640461号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6640461号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願(特願2015-69248号。以下、「本願」という。)は、平成27年 3月30日の出願であって、令和 2年 1月 7日にその特許権の設定登録がされ、同年 2月 5日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~5に係る特許(全請求項)について、令和 2年 7月14日に特許異議申立人 小川 鐡夫(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
特許異議申立て後の手続きの経緯は、次のとおりである。
令和 2年10月 1日付け :取消理由通知
同年11月24日受付(書留番号072/503)
:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 3年 1月 8日付け :訂正拒絶理由通知
同年 2月12日受付(書留番号309/210)
:特許権者による意見書及び手続補正書の提出
同年 4月14日 :申立人による意見書の提出
第2 本件訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容について
令和 2年11月24日受付の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、令和 3年 2月12日受付の手続補正書によりその訂正事項5を削除する補正が上記訂正請求書の要旨を変更するものではないことを考慮すると、特許第6640461号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に複数本のステンレスからなるガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグであって、」と記載されているのを、「耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に37本以上のステンレスからなるガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグであって、」に訂正する。
(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に「プラグ本体は、黒鉛含有量が15質量%以下(0を含む)の耐火物からなる請求項1から請求項4のいずれかに記載のマルチホールプラグ。」と記載されているのを、「プラグ本体は、黒鉛含有量が15質量%以下(0を含む)の耐火物からなる請求項1から請求項3のいずれかに記載のマルチホールプラグ。」に訂正する。
(4)訂正事項4
本件訂正前の明細書の段落【0010】に「すなわち本発明のマルチホールプラグは、耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に複数本のステンレスからなるガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグであって、」と記載されているのを、「すなわち本発明のマルチホールプラグは、耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に37本以上のステンレスからなるガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグであって、」に訂正する。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に複数本のステンレスからなるガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグであって、」と記載されているのを、「耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に37本以上のステンレスからなるガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグであって、」と記載することにより、耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に埋設された、ステンレスからなるガス吹込管の本数を「複数本」から、より具体的な「37本以上」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
上記(ア)のとおり、訂正事項1に係る訂正は、ガス吹込管の本数を「複数本」から「37本以上」に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
また、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の【請求項4】には、「ガス吹込管の本数が37本以上である請求項1から請求項3のいずれかに記載のマルチホールプラグ」と記載され、段落【0022】には、「ガス吹込管の本数に特に制限はないが、37本以上であればより損傷抑制効果が高い。」と記載されていることから、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものとはいえない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的について
訂正事項3に係る訂正は、本件訂正前の請求項5が請求項1~4のいずれかの記載を引用する記載であるところ、訂正後の請求項4の削除(訂正事項2)に伴って、削除された請求項を引用しないようにする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
訂正事項3に係る訂正は、削除された請求項を引用しないようにするための訂正にすぎないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
エ 訂正事項4について
(ア)訂正の目的について
訂正事項4に係る訂正は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
訂正事項4に係る訂正は、特許請求の範囲の記載と、発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正にすぎないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)一群の請求項及び明細書の訂正に関係する請求項について
ア 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~5について、訂正前の請求項2~5はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1~5は、一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1~5〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
イ 明細書の訂正と関係する請求項について
訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項1~5に対応する明細書の記載を訂正するものであり、訂正前の請求項2~5は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しているから、訂正事項4に係る訂正と関係する請求項は、訂正前の請求項1~5である。
そうすると、本件訂正請求は、訂正事項4と関係する請求項の全てを請求の対象としているものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。
(3)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1ないし訂正事項4について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件訂正請求によって訂正された請求項1~5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明5」といい、総称して「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に37本以上のステンレスからなるガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグであって、
ガス吹込面となる上端面内において、ガス吹込管の中心位置どうしを結ぶ線分で囲まれる最大の領域をガス吹込管存在領域とし、このガス吹込管存在領域におけるガス吹込管の本数密度(本/mm2)の逆数(mm2/本)が100以下であり、当該ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値が10mm以上45mm以下であるマルチホールプラグ。
【請求項2】
ガス吹込管存在領域におけるガス吹込管の本数密度(本/mm2)の逆数(mm2/本)が50以下である請求項1に記載のマルチホールプラグ。
【請求項3】
ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値が10mm以上30mm以下である請求項1又は請求項2に記載のマルチホールプラグ。
【請求項4】 (削除)
【請求項5】
プラグ本体は、黒鉛含有量が15質量%(0を含む)の耐火物からなる請求項1から請求項3のいずれかに記載のマルチホールプラグ。」
第4 申立理由及び令和 2年10月 1日付け取消理由通知において通知した取消理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証及び甲第2号証を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~5に係る特許は取り消されるべきものであると主張している(なお、本件訂正請求に係る訂正前の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明を「本件特許発明1」~「本件特許発明5」といい、総称して、「本件特許発明」ということがある。)。
そして、当審は、申立人が主張する申立ての理由のうち、下記申立理由2、及び申立理由3-2を採用して、令和 2年10月 1日付け取消理由通知において、以下の取消理由1、2として通知した。
1 申立理由1(進歩性:取消理由として不採用)
本件特許発明1~4は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、また、本件特許発明5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
2 申立理由2、取消理由1(サポート要件)
本件特許発明1~3、5は、マルチホールプラグの技術分野において通常設けられるガス吹込管の本数より著しく少ない態様(例えば、ガス吹き込み管が3本の想定例1、2)を技術的範囲に含むものであるが、このような態様は、本件特許発明が解決しようとする損傷を抑制するという課題を解決できないものである。
したがって、本件特許発明1~3、5の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件請求項1~3、5の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件:取消理由として一部採用)
(1)申立理由3-1(取消理由として不採用)
発明の詳細な説明に記載された実施例4は、本件特許発明1~5の技術的範囲に属さないものであり、このことから、本件特許の発明の詳細な説明には、ガス吹込管の本数密度の逆数を100以下と限定することと、そのことによって奏される有利な効果との関係が十分に示されているとはいえない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載、及び出願時の技術常識を参照しても、本件特許発明1~5をどのように実施するかを理解できないし、これを明らかにしようとしたときに、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要があるといえる。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1~5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)申立理由3-2、取消理由2
発明の詳細な説明に記載された実施例15は、マルチホールプラグの上端面の中央部分の直径1mmの領域に37本のガス吹込管を6.5mmの中心間距離を置いて設けるものであるが、このような構造を実現することは不可能である。
そして、本件特許発明1~5は、上記実施例15を一態様として含むものであるところ、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が(実施例15を一態様として含む)本件特許発明1~5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3-3(取消理由として不採用)
本件特許発明1~5は、ガス吹込管存在領域におけるガス吹き込み管の本数密度の逆数(mm2/本)を所定数以下と特定し、ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値を所定の範囲に特定するものであるが、ガス吹込管の本数は特定されておらず、当該本数を無限に増加させた態様も含むものである。
しかしながら、ガス吹き込み管の本数を無限に増加させることは、発明の詳細な説明の記載、及び出願時の技術常識を参照しても実施可能ではない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1~5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
<証拠方法>
甲第1号証:韓国登録実用新案第20-0461650号公報
甲第2号証:特開2010-1186号公報
第5 当審の判断
1 取消理由1(サポート要件)について
(1)本願の願書に添付され、本件訂正請求により訂正された明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)の【0008】の「本発明が解決しようとする課題は、マルチホールプラグにおいて、使用中の温度勾配を縮小し、温度勾配に起因する損傷を抑制することにある。」との記載からすると、本件発明が解決しようする課題は、マルチホールプラグにおいて、使用中の温度勾配を縮小し、温度勾配に起因する損傷を抑制することにあるといえる。
(2)そして、本件訂正明細書の【0009】、【0013】、【0014】、及び【表1】には、上記(1)の課題を解決するための手段に関し、以下の記載がある(なお、「・・・」は記載の省略を表す。)。
「【0009】
本発明者らは、プラグ本体のガス吹込管存在領域におけるガス吹込管の本数密度を高め、更にガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管非存在領域を小さくすることで、マルチホールプラグの使用中の温度勾配が小さくなり、しかも耐火物からなるプラグ本体全体が低温に保たれて高い機械的強度を維持でき、その結果、マルチホールプラグの損傷が大幅に抑制されて寿命が大幅に向上することを知見した。」
「【0013】
本発明では、ガス吹込管存在領域5におけるガス吹込管3の本数密度を表す指標として、その本数密度(本/mm2)の逆数S(mm2/本)を用いた。すなわち、本数密度の逆数の数値が小さいほど、本数密度が高いということであり、本発明では、この逆数S(mm2/本)が100以下であることを要件とした。この逆数S(mm2/本)が100以下であることにより、ガス吹込管存在領域5におけるガス吹込管3の本数密度が十分に高くなり、ガス吹込管3によるガス吹込管存在領域5の冷却効果が均一に発揮される。その結果、ガス吹込管存在領域5内の温度差(温度勾配)が小さくなって熱応力が小さくなるので、温度差(温度勾配)に起因するマルチホールプラグ1(プラグ本体2)の損傷を抑制することができる。更に、ガス吹込管存在領域5が十分に冷却されることで、ガス吹込管存在領域5(プラグ本体2)を構成する耐火物がかなりの低温(例えば300℃以下)になるので、その耐火物の機械的強度が高い状態で維持され、溶融金属流による摩耗に対する抵抗性も高くなる。・・・」
「【0014】
一方、ガス吹込管存在領域5の外側のガス吹込管非存在領域6は、使用中には、ガス吹込管存在領域5近くは低温となり、羽口周囲耐火物と接する外縁部は高温となるので、温度差(温度勾配)が発生する。このガス吹込管非存在領域6内の温度差(温度勾配)は、ガス吹込管非存在領域6の内縁部と外縁部との距離が大きいほど大きくなり、それに伴い熱応力も大きくなる。したがって、ガス吹込管非存在領域6内の温度差(温度勾配)を小さくして熱応力を低減するには、ガス吹込管非存在領域6の内縁部と外縁部との距離を小さくすることが有効である。ただし、マルチホールプラグ1の構造体としての強度を維持するためには、ある程度のガス吹込管非存在領域6が必要である。」
「【表1】
」
(3)ここで、本件発明1~3、5においては、マルチホールプラグに埋設された「ガス吹込管」が「37本以上」であることが特定されていることから、令和 2年10月 1日付け取消理由通知に記載した下記の想定例1、2のように、上記ガス吹込管が一辺26mmの正三角形の各頂点に配置された3本からなるものであって、ガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離(の平均値)が10mm以上45mm以下である態様は、その技術的範囲に含まれないものといえる。
<想定例1>(L=10mm)
<想定例2>(L=45mm)
(4)そうすると、上記(2)のとおりの【0013】、【0014】に記載された機序を踏まえれば、本件発明1~3、5に上記(1)の課題を解決し得ない態様が含まれるとの合理的疑いが生じるような具体的根拠を見いだすことはできない。
(5)したがって、本件発明1~3、5は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるとはいえない。
(6)よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3、5の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものといえるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。
2 取消理由2(実施可能要件)について
(1)本件訂正明細書の【表1】には、「実施例15」として、「ガス吹込管存在領域の面積 A(mm2)」が「988」、「ガス吹込管の本数 N(本)」が「37」、「ガス吹込管の本数密度の逆数(mm2/本)」が「27」、「上端面における、最短距離の平均値L(mm)」が「30」、「上端面の直径(mm)」が「61」、及び「隣接するガス吹き込み管どうしの中心位置間の距離(mm)」が「6.5」である例が記載されている。
(2)ここで、「実施例15」として記載された上記の構造が実現可能なものであるかについて、以下検討する。
ア 「実施例15」においては、上端面の直径が61mmであって、上端面における最短距離の平均値Lが30mmであるから、これらの数値からすると、ガス吹込管は平均してプラグ本体の外縁から30mm離間した位置、すなわち、上端面の中央部分の直径1mm(=61mm-30mm×2)の領域に集中的に設けられていることになる。
イ しかしながら、上記アの「直径1mmの領域」の面積は、「ガス吹込管存在領域の面積 A」として【表1】に記載される「988」mm2とは整合しない。
ウ また、上記アの「直径1mmの領域」に、「ガス吹込管の本数 N」として【表1】に記載される「37」本を配置するとともに、これらの間隔を「隣接するガス吹き込み管どうしの中心位置間の距離」として【表1】に記載される「6.5」mmにすることは、実現不可能である。
エ したがって、「実施例15」として記載された上記の構造は、実現不可能なものであるといえる。
(3)一方、上記(1)のとおりの、本件訂正明細書の【表1】の記載からすると、上記「実施例15」は、本件発明1~3、5の特定事項を形式上は全て備えたものである。
(4)この点につき、特許権者は、令和 3年 2月12日受付の意見書において、「すなわち、訂正拒絶理由でも指摘されているように、『実施例15』に係る数値をすべて満足する構造は、実現不可能なものであるといえますから、『実施例15』に係る数値には、何らかの誤記が存在することは当業者であれば容易に理解できます。」と説明しており、「実施例15」として記載された上記の構造が実現不可能なものであることを自認している。
(5)ここで、明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づいて、その物を生産でき、かつ、使用できるように具体的に記載されていることが必要であると解されるところ、請求項に係る物の発明の特定事項を形式上は全て充足する態様であるものの、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識を考慮してもその態様に係る物を生産することができず、実現不可能なものであることが客観的に明らかな態様については、その実施ができないのは当然のことであって、そのことをもって実施可能要件に適合しないとまでいうことはできないと解するのが相当である。
(6)まず、本件発明1~3、5に係る「マルチホールプラグ」(物の発明)について、発明の詳細な説明の【表1】の上記実施例15以外の実施例に関する記載等を参照すれば、その物を作ることができるといえる。
(7)また、上記(3)のとおり、上記実施例15は、形式上は、物の発明である本件発明1~3、5の特定事項を全て充足するものではあるが、上記(2)エのとおり、そのような態様が実現不可能なものであることは客観的に明らかであるし、しかも、上記(4)のとおり、特許権者もそのような態様が実現不可能なものであることを自認している。
(8)したがって、本件発明1~3、5が実現不可能な態様である「実施例15」を包含しているからといって、そのことをもって実施可能要件に適合しないとまでいうことはできない。
(9)よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、この点で、当業者が本件発明1~3、5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。
3 取消理由としなかった異議申立理由について
(1)申立理由1(進歩性)について
ア 甲各号証の記載事項、及び甲第1号証に記載された発明
(ア)甲第1号証の記載事項
本願の出願前に外国において頒布された刊行物である甲第1号証には、「ガス吹き込みプラグ」(発明の名称)に関し、次の記載がある。
a 「
」
(当審訳:
[0005]
上記の課題を解決するため、本考案は、プラグ本体の周縁部の損傷が少ないガス吹き込みプラグを提供する。)
b 「
」
(当審訳:
[0009]
本考案者らは、最外縁の貫通孔からプラグ本体の上面縁部までの距離dが約100mm以下であれば、プラグ本体の周縁部の損傷が抑制されることを実験的に見出した。
[0010]
本考案の請求項1に記載されたガス吹き込みプラグにおいて、ピッチがPであり、当該ピッチPがP0={(L/2)-100}/n以上であり、dが100mm以下であれば、プラグ本体の周縁部の損傷が好適に抑制される。
[0011]
貫通孔が等間隔のピッチで配置された同心六角形が6つ以上存在するので、プラグ本体の周縁部近傍まで貫通孔が分布しており、周縁部も冷却されるので、損傷が抑制される。)
c 「
」
(当審訳:
[0014]
(第1実施形態)
[0015]
本実施形態によるガス吹き込みプラグの構成を、図面1及び図面2を参照して説明する。本実施形態のガス吹き込みプラグは、ガス吹き込み方向(矢印A1方向)と交差する上面2aを有するプラグ本体2と、プラグ本体2に規則的に埋設された貫通孔1aを有するパイプ1とを含む。
[0016]
パイプ1は、プラグ本体2の上面2aの中心Oを中心にするn≧6の同心正六角形3上にピッチPに隔離されて配置されている。そして、最も内側の六角形の一辺の長さはピッチPに等価に対応する。)
d 「
」
(当審訳:
[0022]
本考案者らは、最外縁の貫通孔1a(最外縁の六角形3nの右側の角A)からプラグ本体2の上面2aの縁部までの距離dが約100mm以下であると、プラグ本体2の周縁部の損傷が抑制されることを実験的に見出した。
[0023]
したがって、d≦100mm (式(2))である。)
e 「
」
(当審訳:
[0027]
パイプ1は金属製であり、本実施形態では、ステンレス鋼製のパイプである。しかし、ステンレス鋼以外の他の金属製パイプを使用しうる。貫通孔1aの直径は2mmである。)
f 「
」
(当審訳:
[0029]
プラグ本体2は、公知のセラミックス粉末をプレスした規格レンガである。
[0030]
上述のように、本実施形態に係るガス吹き込みプラグにおいて、L=272mm、n=6、およびP=8mmであり、式(1)によればd=90mmである。すなわち、最外縁の貫通孔(最外縁の六角形3nの右側の角A)からプラグ本体2の上面2aの縁部までの距離dは、約100mm以下であり、プラグ本体2の周縁部の損耗は抑制される。)
g 「
」
(当審訳:
[0032]
(第2実施形態)
[0033]
本実施形態のガス吹き込みプラグは、貫通孔1aが離隔されるピッチがP=12mmであることを除き第1実施形態と等しい。すなわち、プラグ本体2の上面2aのサイズL=272mmで、正六角形3の個数n=6で、ピッチPが第1実施形態より大きくて、当然P0(=6mm)よりさらに大きい。
[0034]
したがって、式(1)によれば、最外縁の貫通孔(最外縁の六角形3nの右側の角A)からプラグ本体2の上面2aの縁部までの距離d=66mmである。
[0035]
本実施形態に係るガス吹込管はd=66mmであり、第1実施形態に係るガス吹込管のdより小さいので、プラグ本体2の周縁部の損耗がさらに抑制される。)
h 「
」(図面1)
i 「
」(図面3)
(イ)甲第1号証に記載された発明
上記(ア)a~iの摘記事項を総合勘案し、特に、第1実施形態の記載、及び図面1、3に着目すると、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「公知のセラミックス粉末をプレスした規格レンガであり、ガス吹き込み方向と交差する上面2aを有するプラグ本体2と、プラグ本体2に規則的に埋設された貫通孔1aを有するステンレス製のパイプ1と、を含むガス吹き込みプラグであって、
上記パイプ1は、プラグ本体2の上面2aの中心を中心にするn=6個の同心正六角形上にピッチP=8mmに離隔されて配置され、
最外縁の貫通孔1a(最外縁の六角形3nの右側の角A)からプラグ本体2の上面2aのエッジ部までの距離dを約100mm以下である90mmとすることにより、プラグ本体の周縁部の損傷が抑制される、
ガス吹き込みプラグ。」(以下、「甲1発明」という。)
(ウ)甲第2号証の記載事項
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第2号証には、「精錬炉用カーボン含有レンガ」(発明の名称)に関し、次の記載がある。
a 「【0001】
本発明は、転炉、及び、溶融還元炉等の溶融金属中に炉の底部よりガスを吹き込む羽口れんがとそれを囲む周囲れんが群の組合せを最適にし、羽口れんがの耐スポーリング性を向上させるための新規な改良に関するものである。」
b 「【0014】
本発明による精錬炉用カーボン含有れんがは、精錬炉の底部に設けられ、精錬炉用ガスのガス通過孔を有するカーボン含有の羽口れんがと前記羽口れんがを囲むカーボン含有の羽口周囲れんが群からなる精錬炉用カーボン含有れんがにおいて、前記羽口れんが及び羽口周囲れんが群のカーボン含有量をそれぞれCt及びCbと表したとき、100質量%>Ct>0質量%及び100質量%>Cb>0質量%であって、以下の(1)式から求められるΔLが60を超え160以下であり、同時にCt<Cbを満たすCb及びCtの組み合わせからなる構成であり、また、カーボン含有量Ct及びCbが14.9質量%<Ct<22.5質量%かつ22.5質量%<Cb<27.5質量%である構成である。
ΔL=-225.921+15.951Ct+0.905Cb-0.304Ct2+0.189Cb2 …(1)」
c 「【0027】
次に、本発明による羽口れんが1及び羽口周囲れんが群10の実施例を表1、表2の第1表及び第2表に示す。第1表は本発明の実施例、第2表は比較である。第1、第2表中、羽口ライフは、使用回数(チャージ数)で羽口の損傷量(損傷長さ)を割った値(mm/ch)を求め、第2表中の比較品1を1にしたときのそれぞれの羽口ライフの程度を指数化した値である。指数の数字が大きいほど良好であることを示し、例えば、指数が2なら、比較品22に比べ2倍の耐用を示したことを表す。表より、本発明による羽口れんが1は比較品よりも2倍以上の耐用を示すことがわかる。」
d 「【表1】
」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
a 甲1発明の「公知のセラミックス粉末をプレスした規格レンガであり、ガス吹き込み方向と交差する上面2aを有するプラグ本体2」は、本件発明1の「耐火物からなるプラグ本体」に相当する。
b 甲1発明の「ガス吹き込みプラグ」は、本件発明1の「マルチホールプラグ」に相当する。
c 甲1発明の「プラグ本体2に規則的に埋設された貫通孔1aを有するステンレス製のパイプ1」は、本件発明1の「プラグ本体中に、上下方向に」「埋設された」「ステンレスからなるガス吹込管」に対応し、甲1発明において、「最も外側の貫通孔1a」が配置される「同心正六角形」の内側の領域は、本件発明1の「ガス吹込面となる上端面内において、ガス吹込管の中心位置どうしを結ぶ線分で囲まれた最大の領域」である「ガス吹込管存在領域」に相当する。
d 甲1発明の「上記パイプ1は、プラグ本体2の上面2aの中心を中心にするn=6個の同心正六角形上にピッチP=8mmに離隔されて配置され」る点について、甲第1号証の図面3を参照すると、「最も外側の貫通孔1a」が配置される「同心正六角形」の内側の領域の面積は、一辺の長さ8mm×6=48mmの正六角形の面積であるから、約5986mm2であり、その領域内に、1+6+12+18+24+30+36=127本の「貫通孔1a」が存在することになるから、上記貫通孔1a1本が占有する面積は、「5986÷127≒47mm2/本」であり、これは、本件発明1の「ガス吹込管」が「37本以上」である点、及び「ガス吹込管存在領域におけるガス吹込管の本数密度(本/mm2)の逆数(mm2/本)が100以下であ」る点に相当する。
e 甲1発明の「最も外側の貫通孔1a(最外縁の六角形3nの右側の角A)からプラグ本体2の上面2aのエッジ部までの距離dを約100mm以下である90mmとする」との特定事項から、最も外側に配列された複数の「貫通孔1a」と、「プラグ本体2の上面2aのエッジ部までの距離d」(最短距離)の平均値を概算すると、約93mmとなるから、本件発明1と甲1発明とは、「ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値」が所定の範囲の値である点で共通する。
f そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
<一致点>
「耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に37本以上のステンレスからなるガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグであって、
ガス吹込面となる上端面内において、ガス吹込管の中心位置どうしを結ぶ線分で囲まれる最大の領域をガス吹込管存在領域とし、このガス吹込管存在領域におけるガス吹込管の本数密度(本/mm2)の逆数(mm2/本)が100以下であり、当該ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値が所定の範囲の値であるマルチホールプラグ。」
の点で一致し、
<相違点>
ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値が、本件発明1では、「10mm以上45mm以下」であるのに対して、甲1発明では、約93mmである点、
で相違する。
(イ)相違点についての判断
そこで、上記相違点について検討する。
a 上記ア(ア)bに摘記した甲第1号証の[0010]、[0011]の記載事項からすると、甲第1号証には、dが100mm以下であれば、プラグ本体の周縁部近傍まで貫通孔が分布しており、周縁部も冷却されるので、プラグ本体の周縁部の損傷が好適に抑制されるとの効果が奏されることが記載されていると認められる。
b その観点からすると、甲1発明において、プラグ本体の周縁部近傍まで貫通孔を分布させること、すなわち、dを所定の値以下の小さい値とすることにより、周縁部がさらに冷却されるように変更することは、当業者であれば容易に想到し得たことといえる。
c 一方で、甲第1号証の記載や上記ア(ウ)に摘記した甲第2号証の記載からは、甲1発明におけるdの値を所定の値以上とする動機付けを見出すことはできず、また、本件訂正明細書の【0015】に「本発明では、この平均値Lが10mm以上45mm以下であることを要件とした。この平均値が45mmを超えると前記の温度差(温度勾配)に起因する熱応力が大きくなり、損傷抑制効果が低下する。また、10mm未満では構造体としての強度が不十分となり損傷が発生しやすくなる。」と記載されていることからすると、本件発明1は、「ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値」の下限値を「10mm以上」とすることにより、マルチホールプラグの構造体としての強度を十分なものとできるという格別の効果を奏しているといえる。そして、当該効果は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項から、当業者が予測できる範囲のものとはいえない。
d したがって、甲1発明において、上記相違点に係る特定事項を備えることにより、本件発明1とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
e よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明2、3、5について
(ア)請求項2、3、5は請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明2、3、5は、本件発明1の発明特定事項を全て備えたものである。
(イ)ここで、本件発明1については、上記イ(イ)eのとおり、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえないから、本件発明1の発明特定事項を全て備えた本件発明2、3、5についても、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1~3、5は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
(2)申立理由3-1(実施可能要件)について
ア 本件訂正明細書の【表1】には、「実施例4」として、「ガス吹込管存在領域の面積 A(mm2)」が「9044」、「ガス吹込管の本数 N(本)」が「91」、「ガス吹込管の本数密度の逆数(mm2/本)」が「99」、「上端面における、最短距離の平均値L(mm)」が「20」、「上端面の直径(mm)」が「150」、「隣接するガス吹き込み管どうしの中心位置間の距離(mm)」が「12.0」、及び「ガス吹込管の配列」が「六角」である例が記載されている。
イ ここで、「隣接するガス吹き込み管どうしの中心位置間の距離(mm)」としての「12.0」が正しい値であるとすると、実施例4における「ガス吹込管存在領域」は、一辺の長さが60mmの正六角形であり、その面積は、【表1】に記載される「9044」mm2とは異なる9353mm2となるはずであり、この値から計算される「ガス吹込管の本数密度の逆数」は、【表1】に記載される「99」mm2/本とは異なる103mm2/本となり、本件発明1~3、5において規定される「100以下」に該当しないものとなる。
ウ なお、逆に、「ガス吹込管存在領域の面積 A(mm2)」が「9044」、「ガス吹込管の本数密度の逆数(mm2/本)」が「99」が正しい値であると解することも可能ではあるが、「隣接するガス吹き込み管どうしの中心位置間の距離(mm)」としての「12.0」が正しく、「ガス吹込管存在領域の面積 A(mm2)」が「9044」、「ガス吹込管の本数密度の逆数(mm2/本)」が「99」とした記載に何らかの誤記が存在すると解するのが自然である。
エ そうすると、上記イのとおり、上記実施例4は、本件発明1~3、5の発明特定事項を充足せず、その技術的範囲に属さないことが明らかなものであるから、本件発明1~3、5を実施することができるとはいえないことの根拠にはならない。
オ したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、この点で、当業者が本件発明1~3、5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。
(3)申立理由3-3(実施可能要件)について
ア 本件発明1~3、5は、ガス吹込管存在領域におけるガス吹込管の本数密度の逆数(mm2/本)を「100以下」又は「50以下」と特定し、ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値を「10mm以上45mm以下」又は「10mm以上30mm以下」に特定するものであるが、ガス吹込管の本数は「37本以上」としか特定されておらず、形式上は、当該本数を無限に増加させた態様も含むものである。
イ しかしながら、出願時の技術常識を考慮すれば、ガス吹込管の本数を無限に増加させることが技術的に不可能であることは、明らかであり、ガス吹込管として組み込み得る本数には当然に実現可能な数の上限が存在すると解される。
ウ ここで、上記2(5)に記載した観点から検討すると、上記2(6)のとおり、本件発明1~3、5に係る「マルチホールプラグ」(物の発明)について、発明の詳細な説明の【表1】の実施例15以外の実施例に関する記載等を参照すれば、その物を作ることができるといえるし、ガス吹込管の本数を無限に増加させた態様が、実現不可能なものであることは、上記イのとおり、客観的に明らかであるから、本件発明1~3、5が実現不可能な当該態様を包含しているからといって、そのことをもって実施可能要件に適合しないとまでいうことはできない。
エ したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、この点で、当業者が本件発明1~3、5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び異議申立理由によっては、本件請求項1~3、5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~3、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正によって特許異議の申立てがされた請求項4は削除され、特許異議の申立ての対象となる請求項4は存在しないものとなったから、請求項4に係る特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-700488