特許異議申立
2022-701296
繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグおよび成形体
- 審判番号
- 2022-701296
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-032769
- 登録番号
- 7095308
- 請求日
- 2022年12月23日
- 審決日
- 2023年09月21日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】田▲崎▼ 聡
- 【権利者代理人】君塚 哲也
- 【権利者代理人】大浪 一徳
- 【異議申立人】石川 竜郎
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 三上 晶子
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.536-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7095308号発明「繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグおよび成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7095308号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
特許第7095308号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7095308号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成30年2月27日を出願日とする特許出願であって、令和4年6月27日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年7月5日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和4年12月23日に特許異議申立人 石川 竜郎(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされ、令和5年2月10日に特許異議申立人から手続補正書が提出され、同年3月13日付けで取消理由が通知され、同年5月12日に特許権者 三菱ケミカル株式会社(以下、「特許権者」という。)より意見書の提出がされ、同年同月29日付けで取消理由<決定の予告>が通知され、同年7月26日に特許権者から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年8月3日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年同月30日に特許異議申立人より意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
(1)訂正事項
特許請求の範囲の請求項1に「強化繊維と結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物を含む繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法であって、該結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物は、下記式(1)の構造式の繰り返し単位からなるポリエーテルエーテルケトンからなり、濃硫酸を溶媒とした室温での固有粘度がISO 1628記載の測定方法で0.92以上であり、前記結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物からなる10~100μmの厚さのフィルムを強化繊維シートに重ねて加熱溶融含浸させる、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法。
【化1】
[図:0001404789000001.jpg]
・・・式(1)」とあるのを、「強化繊維と結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物を含む繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法であって、該結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物は、下記式(1)の構造式の繰り返し単位からなるポリエーテルエーテルケトンからなり、濃硫酸を溶媒とした室温での固有粘度がISO 1628記載の測定方法で0.92以上であり、前記結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物からなる10~100μmの厚さのフィルムを強化繊維シートに重ねて加熱溶融含浸させる、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ(ただし、複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられた補強繊維シート層を熱可塑性樹脂材料からなるマトリックス樹脂により一体形成したプリプレグシート材において、前記マトリックス樹脂は、少なくとも一部に特性の異なる熱可塑樹脂材料からなる複数の樹脂領域が前記補強繊維シート層の厚み方向に層状に形成されており、少なくとも1つの前記樹脂領域は、前記補強繊維シート層の内部に一部入り込んだ状態となっているプリプレグシート材を除く)の製造方法。
【化1】
[図:0001404789000002.jpg]
・・・式(1)」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2ないし5も同様に訂正する。
(2)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし5について、請求項2ないし5は請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、請求項1ないし5は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
・訂正事項による請求項1ないし5の訂正について
訂正事項による請求項1の訂正は、「繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ」について、「複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられた補強繊維シート層を熱可塑性樹脂材料からなるマトリックス樹脂により一体形成したプリプレグシート材において、前記マトリックス樹脂は、少なくとも一部に特性の異なる熱可塑樹脂材料からなる複数の樹脂領域が前記補強繊維シート層の厚み方向に層状に形成されており、少なくとも1つの前記樹脂領域は、前記補強繊維シート層の内部に一部入り込んだ状態となっているプリプレグシート材を除く」ものに減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項による請求項1についての訂正は、令和5年5月29日付けで通知された取消理由<決定の予告>において証拠から認定された発明を除くことを意図するものであり、本件特許の明細書の記載を統合することにより導かれる事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。また、訂正事項による請求項1の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2ないし5の訂正についても同様である。
なお、特許異議申立人は、令和5年8月30日に提出した意見書の3(1)において、本件訂正が適法でない旨を縷々主張するが、上記のとおり、訂正事項による請求項1ないし5の訂正は、本件特許の明細書の記載を統合することにより導かれる事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではないから、特許異議申立人の主張はいずれも採用できない。
3 むすび
以上のとおり、本件訂正による請求項1ないし5の訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、本件訂正による請求項1ないし5についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし5に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、令和5年7月26日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
強化繊維と結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物を含む繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法であって、該結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物は、下記式(1)の構造式の繰り返し単位からなるポリエーテルエーテルケトンからなり、濃硫酸を溶媒とした室温での固有粘度がISO 1628記載の測定方法で0.92以上であり、前記結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物からなる10~100μmの厚さのフィルムを強化繊維シートに重ねて加熱溶融含浸させる、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ(ただし、複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられた補強繊維シート層を熱可塑性樹脂材料からなるマトリックス樹脂により一体形成したプリプレグシート材において、前記マトリックス樹脂は、少なくとも一部に特性の異なる熱可塑樹脂材料からなる複数の樹脂領域が前記補強繊維シート層の厚み方向に層状に形成されており、少なくとも1つの前記樹脂領域は、前記補強繊維シート層の内部に一部入り込んだ状態となっているプリプレグシート材を除く)の製造方法。
【化1】
[図:0001404789000003.jpg]
・・・式(1)
【請求項2】
前記強化繊維が炭素繊維である、請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項3】
前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグは、衝撃エネルギー6.7J/mmでの室温下CAI(衝撃後圧縮)強度(SACMA SRM 2Rに準拠)が300MPa以上の結果が得られる、請求項1または2に記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項4】
前記強化繊維シートが、0.04~0.7mmの厚さであり、繊維を一方向に引き揃えた繊維形態である、請求項1~3のいずれか1項に繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法で得られた繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを成形する、成形体の製造方法。」
第4 特許異議の申立ての理由の概要
令和4年12月23日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1、2、5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2、5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3-1(明確性)
本件特許の請求項3に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明3は、単に、本件特許の請求項1に記載の製造方法により得られた結果物のCAI強度を規定したものである。そのため、本件特許発明3は、本件特許発明1または2に対し、製造方法としてどのような要件を加味するものであるのか不明である。
仮に、本件特許発明3が、実質的に本件特許発明1または2を限定するものでないと解釈した場合、上述の通り請求項3に係る限定が製造方法としていかなる要件を加味するものであるかが不明であるため、本件特許発明3は明確でない。
4 申立理由3-2(明確性)
本件特許の請求項4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・強化繊維シートの「厚さ」が、強化繊維シートの平面内における縦方向、横方向、および平面の法線方向のいずれの長さを意味しているのか不明である。
また、一般的に、一方向に引き揃えた繊維形態である強化繊維シートは、シートの平面内において繊維が縦横方向に動く状態にある。このような状態の強化繊維シートでは、「厚さ」をどのように測定するか(強化繊維シートを圧縮した状態で厚さを測定するのか、あるいは強化繊維シートを圧縮せずにそのまま測定するのかなど)によって測定結果は変動する。しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の欄には、厚さの測定方法の記載は全く無い。
5 申立理由4(実施可能要件)
本件特許の請求項3に係る特許は、下記の点で本件明細書において当業者が実施できるように記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明3は、単に、本件特許の請求項1に記載の製造方法により得られた結果物のCAI強度を規定したものである。そのため、本件特許発明3は、本件特許発明1または2に係る発明に対し、製造方法としてどのような要件を加味するものであるのか不明である。
仮に、本件特許発明3が、実質的に本件特許発明1または2を限定するものであると解釈した場合、請求項1または2に記載の製造方法を用いて繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを製造した場合に、製造した繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグが本件特許発明3で規定されたCAI強度を達成するためにはどのようにすればよいのか、本件発明の明細書の発明の詳細な説明の欄の記載を参酌しても不明である。
6 申立理由5(サポート要件)
本件特許の請求項3に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許の発明の詳細な説明には、300MPa以上のCAI強度は、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの結果としてではなく、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグから得られる積層板の結果として記載されている。それにもかかわらず、本件特許発明3では、300MPa以上のCAI強度は、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの結果として規定されている。このように、本件発明においては、300MPa以上のCAI強度を有する主体に関して、本件特許発明3と発明の詳細な説明の記載との間で乖離が存在する。
積層板は、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを積層し圧縮することにより得られるものである。積層板のCAI強度は、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの積層数や圧縮の程度などにより変動し、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグのCAI強度とは異なるものであることは明らかである。
7 証拠方法
(1) 甲第1号証 特許第5920690号公報
(2) 甲第2号証 Jian-Wei Tseng et al., "Screw extrusion-based additive manufacturing of PEEK", Materials and Design 140 (2018) 209-221.
(3) 甲第3号証 Jordana Goncalves et al., "Electrically Conductive Polyetheretherketone Nanocomposite Filaments: From Production to Fused Deposition Modeling", Polymers 2018, 10(8), 925.
(4) 甲第4号証 「Victrex物性ガイド」 ビクトレックスジャパン株式会社発行
(5) 甲第5号証 特許第5528697号公報
(6) 甲第6号証 国際公開第2018/003694号
(7) 甲第7号証 特開2008-162154号公報
(以下、順に「甲1」のようにいう。)
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。
第5 取消理由通知<決定の予告>における取消理由の概要
当審が令和5年5月29日付けで特許権者に通知した取消理由通知<決定の予告>における取消理由の概要は、次のとおりであって、上記申立理由1及び2を包含する。
1 取消理由1(甲1に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし3、5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3、5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 取消理由2(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 取消理由<決定の予告>についての当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1の記載事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「プリプレグシート材及びその製造方法」に関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられた補強繊維シート層を熱可塑性樹脂材料からなるマトリックス樹脂により一体形成したプリプレグシート材において、前記マトリックス樹脂は、少なくとも一部に特性の異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂領域が前記補強繊維シート層の厚み方向に層状に形成されており、少なくとも1つの前記樹脂領域は、前記補強繊維シート層の内部に一部入り込んだ状態となっているプリプレグシート材。」
・「【0010】
そこで、本発明は、積層された複数の補強繊維シート層を一体形成するマトリックス樹脂に異なる熱可塑性樹脂材料からなる樹脂領域を形成することで高品質で優れた特性を備えるプリプレグシート材及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るプリプレグシート材は、複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられた補強繊維シート層を熱可塑性樹脂材料からなるマトリックス樹脂により一体形成したプリプレグシート材において、前記マトリックス樹脂は、少なくとも一部に特性の異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂領域が前記補強繊維シート層の厚み方向に層状に形成されており、少なくとも1つの前記樹脂領域は、前記補強繊維シート層の内部に一部入り込んだ状態となっている。さらに、複数の前記樹脂領域は、異なる種類の熱可塑性樹脂材料からなる。さらに、前記樹脂領域では、前記補強繊維シート層の補強繊維の間に前記熱可塑性樹脂材料が一部空間を残した状態で含浸した半含浸部分が少なくとも一部に形成されている。」
・「【0022】
上述した例では、補強繊維シート層を3層とし、層間及び表層に樹脂層が形成されているが、補強シート層は、2層以上であればよく特に限定されない。また、マトリックス樹脂に用いる熱可塑性樹脂材料は、2種類以上用いてもよく特に限定されない。なお、上述した例では、マトリックス樹脂は、複数種類の熱可塑性樹脂材料が層構成されるようになっているが、複数種類の熱可塑性樹脂材料が混在して明確な層構成となっていない場合でもよく、マトリックス樹脂の少なくとも一部に複数の樹脂領域が形成されていればよい。また、同じ種類の熱可塑性樹脂材料でも特性の異なるものを組み合せてマトリックス樹脂を構成するようにしてもよい。」
・「【実施例】
【0047】
[実施例1]
以下の材料を用いて、プリプレグシート材を製造した。
<使用材料>
(補強繊維シート材)
炭素繊維束;三菱レイヨン株式会社製(パイロフィルTR50S-15K、繊維直径約7μm、繊維本数15000本)
(熱可塑性樹脂シート材)
ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂フィルム(厚さ15μm)
市販のPPS樹脂ペレットを押出成形によりフィルム状にしたものを用いた。
ポリアミド6(PA6)樹脂フィルム;三菱樹脂株式会社製(厚さ20μm)
【0048】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
図5に示す製造装置を用いて、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPPS樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材を貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。まず、元幅約6mmの炭素繊維束を48mm間隔で7本配列して開繊処理した。最初の開繊部では、繊維束1本が24mmの幅まで開繊するように開繊幅を設定し、次の開繊部では24mmに開繊した開繊糸が48mmの幅まで開繊するように開繊幅を設定した。炭素繊維束に付与される初期張力を150gに設定し、炭素繊維束を搬送速度5m/分で搬送した。開繊部における吸引気流の流速(炭素繊維束のない開放状態)は20m/秒で、開繊される炭素繊維に吹き付けられる熱風の吹き出し温度は120℃とした。縦振動付与部は、振動回数600rpmで、炭素繊維束を押圧するロールのストローク量は10mmに設定した。横振動付与部は、振動回数が450rpmで、開繊糸を幅方向に振動させるストローク量は5mmに設定した。なお、縦振動付与部のロールの直径は10mm、横振動付与部のロールの直径は25mmで、それぞれ表面は梨地加工を施している。
【0049】
以上のように設定した開繊機構に炭素繊維束を搬送して、シート幅約340mmの補強繊維シート材を連続形成した。補強繊維シート材は、炭素繊維が幅方向に均一に分散されて隙間が生じておらず、その目付け量は約21g/m2であった。
【0050】
連続形成される補強繊維シート材をそのまま連続搬送しながらPPS樹脂フィルムを離型シートにとともに重ね合わせて挟み込み、加熱加圧ロール及び冷却加圧ロールの間を通過させた。離型シートとして、熱硬化性ポリイミド樹脂フィルム(製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)を使用した。加熱加圧ロールの温度は250℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分である。冷却加圧ロールから搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPPS樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0051】
以上説明した製造方法と同様の方法で、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPA6樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。次に、製造した熱可塑性樹脂補強シート材を熱可塑性樹脂シート材の代わりに用いて、同様の製造方法で補強繊維シート材を貼り合わせ、熱可塑性樹脂シート材の両面に補強繊維シート材を貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。いずれの製造方法においても、加熱加圧ロールの温度は220℃に、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。こうして、PA6樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材の両面に目付け21g/m2(片面の目付け、両面の合計42g/m2)の炭素繊維からなる補強繊維シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0052】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、図4に示すように重ね合わせて図6に示す製造装置によりプリプレグシート材を製造した。図6に示す製造装置では、予備加熱加圧部、成形加熱加圧部及び冷却加圧部の各ブロック部を幅1000mm、シート材の搬送方向長さ350mmに設定した。上下ブロック部及びシート材の間には、加圧部材として厚さ2mmのC/Cコンポジット(株式会社アクロス製)をそれぞれセットして、さらに、上下ブロック部とC/Cコンポジットとの間には膨張黒鉛シート(PERMA-FOIL、厚み0.5mm、東洋炭素株式会社製)をクッション部材としてセットした。
【0053】
4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PPS樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPPS樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PA6樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PPS樹脂フィルム(下側がPPS樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせ、加圧部材であるC/Cコンポジットの間に挟み込むように送給し、予備加熱加圧部、成形加熱加圧部及び冷却加圧部を順次通過させた。予備加熱加圧部では加熱温度150℃及び加圧力0.1MPaに設定し、成形加熱加圧部では温度320℃及び加圧力2MPaに設定し、冷却加圧部では水冷による冷却及び加圧力0.1MPaとした。加工処理では、停止時間つまり加圧時間を約4秒に設定し、加圧時間以外におけるシート材の移動速度は約2秒間で約340mm移動するように設定して、1分間で約3.4m製造する加工速度とした。冷却加圧部から搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、加工されたプリプレグシート材を得た。」
・「【0055】
[実施例2]
<使用材料>
補強繊維シート材及び熱可塑性樹脂シート材は、実施例1と同じものを用いた。
【0056】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
実施例1と同様の2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。
【0057】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、実施例1の場合と同様に重ね合わせ、図7に示す製造装置によりプリプレグシート材を製造した。4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PPS樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPPS樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PA6樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PPS樹脂フィルム(下側がPPS樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせて、加熱加圧ロールに供給した。
【0058】
加熱加圧ロールの加熱温度は320℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。冷却加圧ロールから搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、プリプレグシート材を得た。」
・「【0060】
[実施例3]
以下の材料を用いて、プリプレグシート材を製造した。
<使用材料>
(補強繊維シート材)
炭素繊維束;三菱レイヨン株式会社製(パイロフィルTR50S-15K、繊維直径約7μm、繊維本数15000本)
(熱可塑性樹脂シート材)
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム;ビクトレックス株式会社製(厚さ16μm)
ポリエーテルイミド(PEI)樹脂フィルム;三菱樹脂株式会社製(厚さ15μm)
【0061】
<熱可塑性樹脂材料の流動特性について>
PEEK樹脂及びPEI樹脂について、流動特性の違いについて検証した。JIS K7199 キャピラリーレオメータ及びスリットダイレオメータによるプラスチックの流れ特性試験方法に準じ、キャピラリーレオメータを用いて、PEEK樹脂(ビクトレックス社製グレード450G)及びPEI樹脂(SABIC社製Ultem1000)の見掛け粘度を測定した。温度370℃で見掛けせん断速度1.216×e2/秒の条件において、PEEK樹脂の見掛け粘度は1.447×e3Pa・s、PEI樹脂の見掛け粘度は1.006×e3Pa・sであった。この測定結果から、PEEK樹脂の方がPEI樹脂に比べて粘度が高く、流動性が低い特性を有していることがわかる。
【0062】
したがって、こうした所定温度状態で流動特性の異なる熱可塑性樹脂材料を用いることで、マトリックス樹脂の内部に異なる樹脂材料からなる複数の樹脂領域を形成することができる。なお、温度状態の設定については、成形圧力との関係で樹脂材料の流動する程度に応じて適宜設定すればよい。
・・・(略)・・・
【0064】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
実施例1と同様の製造装置を用いて製造した。実施例1と同様に、炭素繊維束を開繊して補強繊維シート材を形成し、熱可塑性樹脂シート材としてPEEK樹脂フィルムと重ね合わせて離型シートに挟み込み加熱加圧ロールに供給した。離型シートとして、熱硬化性ポリイミド樹脂フィルム(製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)を使用した。加熱加圧ロールの温度は 320℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。冷却加圧ロールから搬出した後上下両側の離型シートを巻き取り、目付け約21g/m2の炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPEEK樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0065】
以上説明した製造方法と同様の方法で、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPEI樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。次に、製造した熱可塑性樹脂補強シート材を熱可塑性樹脂シート材の代わりに用いて、同様の製造方法で補強繊維シート材を貼り合わせ、熱可塑性樹脂シート材の両面に補強繊維シート材を貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。いずれの製造方法においても、加熱加圧ロールの温度は300℃に、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。こうして、PEI樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材の両面に目付け約21g/m2(片面の目付け、両面の合計42g/m2)の炭素繊維からなる補強繊維シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0066】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、図4に示すように重ね合わせて実施例1と同様にプリプレグシート材を製造した。
【0067】
4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PEEK樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPEEK樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PEI樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PEEK樹脂フィルム(下側がPEEK樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせ、加圧部材であるC/Cコンポジットの間に挟み込むように送給し、予備加熱加圧部、成形加熱加圧部及び冷却加圧部を順次通過させた。予備加熱加圧部では加熱温度250℃及び加圧力0.1MPaに設定し、成形加熱加圧部では温度380℃及び加圧力2MPaに設定し、冷却加圧部では水冷による冷却及び加圧力0.1MPaとした。加工処理では、停止時間つまり加圧時間を約4秒に設定し、加圧時間以外におけるシート材の移動速度は約2秒間で約340mm移動するように設定して、1分間で約3.4m製造する加工速度とした。冷却加圧部から搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、加工されたプリプレグシート材を得た。
【0068】
<プリプレグシート材の評価>
CF目付け約126g/m2及び樹脂重量含有率約39%のプリプレグシート材が得られた。プリプレグシート材の断面を撮影した写真を確認したところ、図9に示す写真と同様に、表層にはPEEK樹脂層が形成され、内層にはPEI樹脂層が形成されて、それぞれ炭素繊維層の内部に含浸しており、その境界部分は炭素繊維層に入り込んで凹凸状に形成されていることが確認できた。
【0069】
得られたプリプレグシート材について、大型純曲げ試験機(KES-FBシリーズ(Kawabata’s Evaluation System for Fabrics)の1つ)を用いて曲げ特性を測定した。得られたプリプレグシート材から繊維方向に長さ100mmで幅50mmの長方形状の試験片及び繊維と直角方向に長さ100mmで幅50mmの長方形状の試験片を切断して取り出した。2枚の試験片を大型純曲げ試験機にセットして曲げ試験を実施した結果、繊維方向の曲げ剛性は119.5×10-4N・m2/m、繊維と直角方向の曲げ剛性は3.3×10-4N・m2/mであった。
【0070】
[実施例4]
<使用材料>
補強繊維シート材及び熱可塑性樹脂シート材は、実施例3と同じものを用いた。
【0071】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
実施例3と同様の2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。
【0072】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、実施例2の場合と同様に重ね合わせ、図7に示す製造装置によりプリプレグシート材を製造した。4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PEEK樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPEEK樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PEI樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PEEK樹脂フィルム(下側がPEEK樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせて、加熱加圧ロールに供給した。
【0073】
加熱加圧ロールの加熱温度は340℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。冷却加圧ロールから搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、プリプレグシート材を得た。
【0074】
<プリプレグシート材の評価>
CF目付け約126g/m2及び樹脂重量含有率約39%のプリプレグシート材が得られた。プリプレグシート材の断面を撮影した写真を確認したところ、図10に示す写真と同様に、PEEK樹脂領域及びPEI樹脂領域の境界部分が炭素繊維層の内部に入り込んで凹凸状に形成されていることが確認できた。また、炭素繊維層の内部には、実施例3に比べてサイズの大きいボイドが多数存在しており、半含浸状態であることが確認できた。」
・「【0076】
[実施例5]
実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を複数枚積層して図8に示す加熱加圧成型工程を行い、熱可塑性樹脂繊維補強積層板を製造した。実施例4において得られた半含浸状態のプリプレグシート材を用いて、繊維方向を0度として、[45度/0度/-45度/90度]2Sの構成となるようにプリプレグシート材を積層し、300mm×300mmのサイズの積層材を製造した。製造した積層材を平板状の成形型体の間にセットした。成形型体の表面には離型剤を塗布した。
【0077】
ここで、[45度/0度/-45度/90度]2Sという表記法は、積層材の構成を表わすもので、45度、0度、-45度、90度は繊維方向を示し、[ ]2Sは[ ]内の積層構造を2回繰り返し、厚さ方向に対称(Symmetry)となるように積層することを示している。例えば、[0度/90度]2Sは、0度、90度、0度、90度、90度、0度、90度、0度の構成で8枚のプリプレグシート材を積層した構造となる。
【0078】
シート片をセットした成形型体を加熱プレス装置に設置して、加熱温度370℃、圧力2MPaで15分間の加熱プレス成形を行った。その後、成形型体を冷却プレス装置に設置して、圧力2MPaで空気冷却した。約20分間室温まで冷却したところで、成形型体を取り出し、成形された熱可塑性樹脂繊維補強積層板を得た。
【0079】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の評価>
0度、90度、45度、-45度の方向に繊維補強された擬似等方で、厚さ約2.2mmの熱可塑性樹脂繊維補強積層板が歪み無く成形できた。図11は、積層板の断面を撮影した写真である。写真を見ると、半含浸状態のプリプレグシート材を用いて成形したが、ボイドの無い積層板が得られたことがわかる。なお、積層板全体の繊維体積含有率は、得られた積層板の厚み及び炭素繊維の目付け量に基づいて計算すると、約53%であった。」
・「【符号の説明】
【0092】
1A~1C・・・補強繊維シート層、2・・・樹脂層、3・・・樹脂層、4・・・熱可塑性樹脂補強シート材、5・・・補強繊維シート材、6・・・熱可塑性樹脂シート材、7・・・熱可塑性樹脂補強シート材、8・・・補強繊維シート材、9・・・熱可塑性樹脂シート材、10・・・給糸体、11・・・送給機構、12・・・ニップロール、13・・・開繊機構、101・・・シート供給機構、102・・・シート供給機構、103・・・シート巻取り機構、104・・・製品巻取り機構、105・・・加熱加圧ロール、106・・・冷却加圧ロール、201・・・シート供給機構、202・・・シート巻取り機構、203・・・製品巻取り機構、204・・・予備加熱加圧部、205・・・成形加熱加圧部、206・・・冷却加圧部、301・・・成形型体、302・・・加熱プレス機、303・・・加熱プレス型体、304・・・加熱プレス型体、305・・・冷却プレス機、306・・・冷却プレス型体、307・・・冷却プレス型体」
・「
[図:0001404789000004.jpg]
[図:0001404789000005.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に実施例4のプリプレグシート材の製造方法、及び、実施例5の熱可塑性樹脂繊維補強積層板の製造方法に関して整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。
<甲1プリプレグ製法発明>
「炭素繊維束を開繊して補強繊維シート材を形成し、熱可塑性樹脂シート材として厚さ16μmのPEEK樹脂フィルム(ビクトレックス社製グレード450G)と重ね合わせて離型シートに挟み込み加熱加圧ロールに供給して加熱加圧した後、冷却加圧ロールから搬出した後上下両側の離型シートを巻き取り、目付け約21g/m2の炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPEEK樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得、これと同様の方法で、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にポリエーテルイミド樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得、得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を用いて重ね合わせて加熱加圧することにより、PEEK樹脂及びポリエーテルイミド樹脂が炭素繊維層に半含浸した状態であるプリプレグシート材を製造する方法。」
<甲1積層板製法発明>
「甲1プリプレグ製法発明で得たプリプレグシート材を複数枚積層して加熱加圧成型工程を行い、熱可塑性樹脂繊維補強積層板を製造する方法。」
(2)甲5に記載された事項
甲5には、PEEKの溶融粘度及び固有粘度に関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願は、0.15kNsm-2の溶融粘度を有するICI Victrexの等級PEEKTM 150FPのポリエーテルエーテルケトンの使用について述べる。不都合なことに、特許文献3は、記述された特定の二つの特性を有する、異なる2種類のフィラーの使用への応用が制限されている。
・・・(略)・・・
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様によると、0.15kNsm-2以下の溶解粘度(溶融粘度)を有する一次高分子材料と液晶高分子(LCP)からなり、当該の一次高分子材料が当該一次材料の高分子骨格に非置換のフェニル部分、カルボニル部分、およびエーテル部分を含む種類である、組成が提供される。
【0010】
溶融粘度は、0.5x3.175mmのタングステンカーバイドの金型を用い、1000s-1の剪断速度で400℃で動作する毛管レオメータを用いて適切に測定する。
本発明は溶融粘度に関して述べるが、これは以下の図1に基づいて、ほぼ固有粘度(欧州特許第0001879Bに述べられたように測定される)と同等に扱うことができる。」
・「
[図:0001404789000006.jpg]
」
2 取消理由1及び2(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1プリプレグ製法発明とを対比する。
甲1プリプレグ製法発明の「炭素繊維」から形成された「補強繊維シート材」は、本件特許発明1の「強化繊維」に相当する。
甲1プリプレグ製法発明の「PEEK樹脂フィルム」の材料である「ビクトレックス社製グレード450G」のPEEK樹脂が結晶性であることは、甲4第2頁第1-4行の記載から明らかである。そうすると、甲1プリプレグ製法発明の「PEEK樹脂フィルム(ビクトレックス社製グレード450G)」は、本件特許発明1の「結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物」に相当する。
また、甲1プリプレグ製法発明の「PEEK樹脂フィルム(ビクトレックス社製グレード450G)」は、本件特許発明1の「下記式(1)の構造式の繰り返し単位からなるポリエーテルエーテルケトンからなり」「
[図:0001404789000007.jpg]
・・・式(1)」
との特定事項を満たす。
甲1プリプレグ製法発明の「厚さ16μmのPEEK樹脂フィルム(ビクトレックス社製グレード450G)」は、本件特許発明1の「前記結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物からなる10~100μmの厚さのフィルム」との特定事項を満たす。
甲1プリプレグ製法発明は「炭素繊維束を開繊して補強繊維シート材を形成し、熱可塑性樹脂シート材として厚さ16μmのPEEK樹脂フィルム(ビクトレックス社製グレード450G)と重ね合わせて離型シートに挟み込み加熱加圧ロールに供給して加熱加圧」して得られた「目付け約21g/m2の炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPEEK樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得、得られた熱可塑性樹脂補強シート材を用いて重ね合わせて加熱加圧することにより、PEEK樹脂が炭素繊維層に半含浸した状態であるプリプレグシート材を製造する方法」(下線は説明のために付した。以下同様。)であるから、甲1プリプレグ製法発明において、炭素繊維束を開繊した補強繊維シート材にPEEK樹脂フィルムを重ねて加熱溶融含浸させているものといえる。そうすると、甲1プリプレグ製法発明は、本件特許発明1の「強化繊維シートに重ねて加熱溶融含浸させる、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法」との特定事項を満たす。
本件特許発明1は、「強化繊維と結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物を含む繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法」であるから、本件特許発明1の「繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ」には、「下記式(1)の構造式の繰り返し単位からなるポリエーテルエーテルケトンからな」る「結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物」に加えて他の熱可塑性樹脂等が含まれていてもよい。
そして、甲1プリプレグ製法発明は、「PEEK樹脂及びポリエーテルイミド樹脂が炭素繊維層に半含浸した状態であるプリプレグシート材を製造する方法」であるから、本件特許発明1の「強化繊維と結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物を含む繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法」との特定事項を満たす。
してみると、本件特許発明1と甲1プリプレグ製法発明とは、
「強化繊維と結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物を含む繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法であって、該結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物は、下記式(1)の構造式の繰り返し単位からなるポリエーテルエーテルケトンを有し、前記結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物からなる10~100μmの厚さのフィルムを強化繊維シートに重ねて加熱溶融含浸させる、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法。
【化1】
[図:0001404789000008.jpg]
・・・式(1)」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1の結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物が「濃硫酸を溶媒とした室温での固有粘度がISO 1628記載の測定方法で0.92以上」であるのに対し、甲1プリプレグ製法発明の結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物の固有粘度が不明である点。
<相違点2>
繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグに関し、本件特許発明1は「複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられた補強繊維シート層を熱可塑性樹脂材料からなるマトリックス樹脂により一体形成したプリプレグシート材において、前記マトリックス樹脂は、少なくとも一部に特性の異なる熱可塑樹脂材料からなる複数の樹脂領域が前記補強繊維シート層の厚み方向に層状に形成されており、少なくとも1つの前記樹脂領域は、前記補強繊維シート層の内部に一部入り込んだ状態となっているプリプレグシート材を除く」のに対し、甲1プリプレグ製法発明は当該事項を満たすかが不明である点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲1プリプレグ製法発明のプリプレグシート材は、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面に、PEEK樹脂又はポリエーテルイミド樹脂からなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した、2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を重ね合わせて加圧することにより、PEEK樹脂及びポリエーテルイミド樹脂が炭素繊維層に半含浸した状態であるプリプレグシート材である。そうすると、甲1プリプレグ製法発明は「複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられた補強繊維シート層を熱可塑性樹脂材料からなるマトリックス樹脂により一体形成したプリプレグシート材において、前記マトリックス樹脂は、少なくとも一部に特性の異なる熱可塑樹脂材料からなる複数の樹脂領域が前記補強繊維シート層の厚み方向に層状に形成されており、少なくとも1つの前記樹脂領域は、前記補強繊維シート層の内部に一部入り込んだ状態となっているプリプレグシート材を除く」にあたるから、相違点2に係る本件特許発明1における特定事項を満たさない。
したがって、相違点2は実質的な相違点である。
してみると、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1プリプレグ製法発明であるとはいえない。
また、甲1及び他の証拠をみても、甲1プリプレグ製法発明のプリプレグシート材を「複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられた補強繊維シート層を熱可塑性樹脂材料からなるマトリックス樹脂により一体形成したプリプレグシート材において、前記マトリックス樹脂は、少なくとも一部に特性の異なる熱可塑樹脂材料からなる複数の樹脂領域が前記補強繊維シート層の厚み方向に層状に形成されており、少なくとも1つの前記樹脂領域は、前記補強繊維シート層の内部に一部入り込んだ状態となっているプリプレグシート材を除く」ものとする動機付けとなる記載はない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1プリプレグ製法発明並びに甲1及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、特許異議申立人は、令和5年8月30日付け意見書の3(2)及び(3)において、本件特許発明1が甲1の段落【0022】に記載の変形例に係るプリプレグシート材が、本件特許発明1の「複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられた補強繊維シート層を熱可塑性樹脂材料からなるマトリックス樹脂により一体形成したプリプレグシート材において、前記マトリックス樹脂は、少なくとも一部に特性の異なる熱可塑樹脂材料からなる複数の樹脂領域が前記補強繊維シート層の厚み方向に層状に形成されており、少なくとも1つの前記樹脂領域は、前記補強繊維シート層の内部に一部入り込んだ状態となっているプリプレグシート材を除く」において除外されるものではなく、本件特許発明1に該当すること等を縷々主張し、甲1に基づく取消理由1及び2が解消していない旨述べている。
しかしながら、甲1の段落【0022】の記載をふまえて甲1に記載された発明を認定したとしても、具体的な材料を特定した上での発明を認定することができないから、結果として、本件特許発明1の「濃硫酸を溶媒とした室温での固有粘度がISO 1628記載の測定方法で0.92以上であり」との特定事項を満たす発明を認定できないものであり、甲1の段落【0022】に記載の変形例に係るプリプレグシート材が本件特許発明1に該当するとの特許異議申立人の主張は採用できない。
また、特許異議申立人の、意見書の3(2)及び(3)におけるその余の主張は、上記判断に影響を及ぼすものではない。
(2)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1と同様に、甲1プリプレグ製法発明であるとはいえないし、甲1プリプレグ製法発明並びに甲1及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明5について
本件特許発明5と甲1積層板製法発明とを対比すると、少なくとも上記相違点2と同様の相違点があり、該相違点については上記(1)と同様に判断されるから、本件特許発明5は、甲1積層板製法発明であるとはいえないし、甲1積層板製法発明並びに甲1及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)まとめ
したがって、取消理由1及び2には理由がない。
第7 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由について
取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由は、申立理由3-1及び3-2(明確性)、申立理由4(実施可能要件)、申立理由5(サポート要件)である。
そこで、順に検討する。
1 申立理由3-1及び3-2(明確性)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項3ないし4の記載は、上記第3のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
したがって、本件特許発明3ないし4に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の申立理由3-1及び3-2における主張について検討するに、次のとおり採用できない。
ア 申立理由3-1の主張について
請求項3の「衝撃エネルギー6.7J/mmでの室温下CAI(衝撃後圧縮)強度(SACMA SRM 2Rに準拠)が300MPa以上の結果が得られる」との特定事項は、本件特許の請求項1に記載の製造方法により得られた結果物のCAI強度を規定したものであり、製造方法として新たな要件を加味するものでないことは明らかである。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。
イ 申立理由3-2の主張について
請求項4の「厚さ」が、シートにおける一般的な「厚さ」、すなわち、平面の法線方向の長さを意味すること、及び、当業者が認識できる通常の測定方法でシートの厚さを測定した値が「0.04~0.7mm」となれば、請求項4の「前記強化繊維シートが、0.04~0.7mmの厚さであり」との特定事項を満たすものであることは明らかである。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。
(4)まとめ
したがって、申立理由3-1及び3-2には理由がない。
2 申立理由4(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件特許発明3ないし5は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、その方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
発明の詳細な説明の【0005】、【0007】、【0008】、【0014】、【0015】、【0017】、【0018】、【0023】には、本件特許発明3ないし5の発明特定事項について具体的に記載され、同【0019】ないし【0029】には、本件特許発明3の「衝撃エネルギー6.7J/mmでの室温下CAI(衝撃後圧縮)強度(SACMA SRM 2Rに準拠)が300MPa以上の結果が得られる」との特定事項を含めた、本件特許発明3ないし5の特定事項を満たす繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法の実施例について、その製造方法を含め具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明3ないし5の使用をし、それにより生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえ、本件特許発明3ないし5に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件特許発明3は、本件特許発明1または2に係る発明に対し、製造方法としてどのような要件を加味するものであるのか不明であること、及び、仮に、本件特許発明3が、実質的に本件特許発明1または2を限定するものであると解釈した場合、請求項1または2に記載の製造方法を用いて繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを製造した場合に、製造した繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグが本件特許発明3で規定されたCAI強度を達成するためにはどのようにすればよいのか、本件発明の明細書の発明の詳細な説明の欄の記載を参酌しても不明であることを主張する。
しかしながら、上記1(3)アのとおり、本件特許発明3は、本件特許発明1または2に係る発明に対し、製造方法として新たな要件を加味するものではない。また、上記(2)のとおり、詳細な説明には、本件特許発明3で規定されたCAI強度を達成する熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法の実施例の記載があり、当該記載に基づけば、本件特許発明3で規定されたCAI強度を達成するためにはどのようにすればよいのかを当業者であれば過度の試行錯誤を要することなく認識できる。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。
(4)まとめ
したがって、申立理由4には理由がない。
3 申立理由5(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。他方、発明の詳細な説明の【0004】によると、本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「耐衝撃特性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ」の製造方法を提供することである。
そして、発明の詳細な説明の【0019】ないし【0029】には、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法において、ポリエーテルエーテルケトンからなる結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物として、濃硫酸を溶媒とした室温での固有粘度がISO 1628記載の測定方法で0.92以上であるものを使用した実施例1が、当該固有粘度が0.92未満であるものを使用した比較例1よりも、成形板の衝撃損傷面積が極めて小さく、それに起因する高いCAI強度が得られたことが記載されている。
そうすると、当業者は、「強化繊維と結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物を含む繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法であって、該結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物は、下記式(1)の構造式の繰り返し単位からなるポリエーテルエーテルケトンからなり、濃硫酸を溶媒とした室温での固有粘度がISO 1628記載の測定方法で0.92以上」(当審注:「下記式(1)」は請求項1に記載の化学式であり、その摘記は省略した。)である製造方法は、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明3は、上記発明の課題を解決できると認識できる「繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明3は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明3に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件特許の発明の詳細な説明には、300MPa以上のCAI強度は、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの結果としてではなく、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグから得られる積層板の結果として記載され、それにもかかわらず、本件特許発明3では、300MPa以上のCAI強度は、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの結果として規定されており、300MPa以上のCAI強度を有する主体に関して、本件特許発明3と発明の詳細な説明の記載との間で乖離が存在するから、本件特許発明3はサポート違反である旨主張する。
しかしながら、CAI強度とは、通常、積層板を測定した結果であるから、本件特許発明3に規定されるCAI強度が、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを測定した結果のものではなく、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグから得られる積層板を測定した結果のものであることは明らかである。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4)まとめ
したがって、申立理由5には理由がない。
第8 むすび
したがって、令和5年5月29日付けで通知した取消理由<決定の予告>、及び、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701296