特許異議申立
2022-701266
(メタ)アクリル系トリブロック共重合体およびその製造方法、粘着剤組成物ならびに粘着シート
- 審判番号
- 2022-701266
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-531885
- 登録番号
- 7089471
- 請求日
- 2022年12月19日
- 審決日
- 2024年04月22日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】綜研化学株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人エスエス国際特許事務所
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 近野 光知
- 審判官 細井 龍史
- 審判官 松本 直子
- 分類
- P1651.121-YAA(C08F) / P1651.16 -YAA(C08F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条の2、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7089471号発明「(メタ)アクリル系トリブロック共重合体およびその製造方法、粘着剤組成物ならびに粘着シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7089471号の特許請求の範囲及び明細書を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
特許第7089471号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7089471号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成29年7月31日を国際出願日(優先日 平成28年8月3日)とする特願2018-531885号であって、令和4年6月14日にその特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月19日に特許異議申立人 中川 賢治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし3)がされたものである。
その後、令和5年3月30日付けで取消理由通知が通知され、同年6月2日に特許権者である綜研化学株式会社(以下、「特許権者」という。)により訂正請求がされると共に意見書が提出され、同年7月6日付けで特許法第120条の5第5項の通知がされ、申立人より同年8月8日に意見書が提出され、同年11月2日付けで取消理由通知(決定の予告)が通知され、同年12月26日に特許権者により訂正請求がされると共に意見書が提出され、令和6年1月5日付けで特許法第120条の5第5項の通知がされ、申立人より同年2月9日に意見書が提出された。
なお、令和5年6月2日付けの訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和5年12月26日付けの訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)ないし(3)のとおりである。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に、「工程1で用いる前記モノマーおよび工程2で添加する前記モノマーの少なくとも一方が、カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマーを含む」を追加する訂正をする。
(2)訂正事頃2
訂正前の請求項3において、「工程1および工程2で使用される前記重合性二重結合含有モノマーの少なくとも一方が、酸基、水酸基、アミノ基、アミド基、シアノ基、窒素系複素環から選ばれる反応性官能基を有する反応性官能基含有モノマーを含み、」を削除する訂正をする。
(3)訂正事項3
願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0107】、【0112】、【0117】および【0119】中に記載された「実施例A2」を「参考例A2」に、「実施例B2」を「参考例B2」に訂正する。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし3について、請求項2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1ないし3に対応する訂正後の請求項1ないし3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 明細書の訂正と関係する請求項について
訂正事項3は、請求項1に記載された「反応性官能基含有モノマー」に関係するものであり、請求項1及び同項を直接又は間接的に引用する請求項2及び3のすべてについて行うものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。
4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1による訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「工程1で用いる前記モノマーおよび工程2で添加する前記モノマーの少なくとも一方が、カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマーを含む」ものに限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0042】に、「酸基含有モノマーにおける酸基としては、例えば、カルボキシル基・・・が挙げられる。酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸β-カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸5-カルボキシペンチル、コハク酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸などのカルボキシル基含有モノマー・・・が挙げられる。」と記載され、実施例A1において、モノマーとして、カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマーである「アクリル酸(AA)」を用いたことが記載されていることから、本件特許の明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、また、特許請求の範囲の減縮を目的とすることからみて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2による訂正について
訂正事項2による請求項3についての訂正は、訂正事項1により請求項1で限定された「工程1で用いる前記モノマーおよび工程2で添加する前記モノマーの少なくとも一方が、カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマーを含む」との特定事項と重複する「工程1および工程2で使用される前記重合性二重結合含有モノマーの少なくとも一方が、酸基、水酸基、アミノ基、アミド基、シアノ基、窒素系複素環から選ばれる反応性官能基を有する反応性官能基含有モノマーを含み、」なる特定事項を削除して整合を図るものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、訂正事項2は、本件特許の明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3による訂正について
訂正事項3は、訂正事項1により請求項1で「工程1で用いる前記モノマーおよび工程2で添加する前記モノマーの少なくとも一方が、カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマーを含む」ものに限定されたことに伴い、請求項1に対応する実施例ではなくなった「実施例A2」及び「実施例B2」を、それぞれ「参考例A2」 及び「参考例B2」に訂正して整合を図るものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、訂正事項3は、本件特許の明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
5 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正すること、及び、本件特許の明細書を、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、一群の請求項である訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2で示したとおり、本件訂正は認められるため、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、本件特許発明1ないし3を総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
式(a1)に示すRAFT剤を用いて、重合性二重結合含有モノマーを重合する工程1と、工程1で得られた重合体に、工程1でのモノマー組成とは異なる重合性二重結合含有モノマーをさらに添加して重合する工程2とを有し、
工程1で用いる前記モノマーおよび工程2で添加する前記モノマーの一方または双方が(メタ)アクリル酸エステルを含み、
工程1で用いる前記モノマーおよび工程2で添加する前記モノマーの少なくとも一方が、カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマーを含む、(メタ)アクリル系トリブロック共重合体(A)の製造方法。
【化1】
[図:0001413288000001.jpg]
[式(a1)中、Rは、アシル基、アシルオキシ基またはアシルオキシアルキル基であり、2つあるRは相互に同一でも異なっていてもよい。]
【請求項2】
工程1で得られた重合体のGPC法により測定される重量平均分子量(Mw)が3,000~40,000である請求項1に記載の(メタ)アクリル系トリブロック共重合体(A)の製造方法。
【請求項3】
前記反応性官能基含有モノマー100質量%中、95質量%以上の前記反応性官能基含有モノマーを工程1で使用する請求項1または2に記載の(メタ)アクリル系トリブロック共重合体(A)の製造方法。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由、証拠方法等及び取消理由通知(決定の予告)の概要
1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法
令和4年12月19日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証に基づく拡大先願)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願であって、本件特許出願後に出願公開がされた下記の甲第1号証に示される出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、本件特許の上記請求項に係る特許は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲第3号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という 。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由3(甲第4号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 証拠方法
(1)申立書に添付された証拠
甲第1号証:特願2016-173263号(特開2017-66372号公報)
甲第2号証:特開2007-230947号公報
甲第3号証:特表2004-505165号公報
甲第4号証:特開2011-184678号公報
(2)令和5年8月8日付け意見書で示された証拠
甲第5号証:特開2015-174997号公報
甲第6号証:国際公開第2016/136982号
以下、上記「甲第1号証」等を「甲1」等という。
3 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
当審が令和5年11月2日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由1(甲1に基づく拡大先願)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願の出願前の特許出願であって、その出願後に公開がされた甲1に示される出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第5 当審の判断
1 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
申立理由1(甲1に基づく拡大先願)は、取消理由1(甲1に基づく拡大先願)と証拠を同じくするものであるから、当該理由と併せて検討する。
(1)取消理由1(甲1に基づく拡大先願)及び申立理由1(甲1に基づく拡大先願)について
ア 本件特許発明の技術的意義
本件特許発明1は、(メタ)アクリル系トリブロック共重合体(A)の製造方法に係る発明であるところ、「式(a1)(当審注:以下、構造式の記載は省略する。)に示すRAFT剤を用いて、重合性二重結合含有モノマーを重合する工程1と、工程1で得られた重合体に、工程1でのモノマー組成とは異なる重合性二重結合含有モノマーをさらに添加して重合する工程2とを有し、
工程1で用いる前記モノマーおよび工程2で添加する前記モノマーの一方または双方が(メタ)アクリル酸エステルを含み、
工程1で用いる前記モノマーおよび工程2で添加する前記モノマーの少なくとも一方が、カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマーを含む」ことを特徴とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0018】には、その効果として、「本発明によれば、各種被着体に対する粘着物性が優れた粘着剤組成物を提供することができ、また前記組成物の含有成分として好適な(メタ)アクリル系トリブロック共重合体を提供することができる。」と記載されている。
さらに、本件特許明細書の【実施例】によると、モノマーとして、水酸基を有する反応性官能基含有モノマーである「4-ヒドロキシブチルアクリレート」を用いた参考例B2の未架橋物の保持力試験結果(荷重付加開始から1時間後のもとの位置からのズレの距離(mm))が「1.0mm」であるのに対し、カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマーである「アクリル酸(AA)」を用いた実施例B1の未架橋物の保持力試験結果が「0.2mm」であり、参考例B2よりも短くなっている。このことから、本件特許発明1に係る、「カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマー」を含む(メタ)アクリル系トリブロック共重合体(A)の製造方法により得られる共重合体は、「水酸基を有する反応性官能基含有モノマー」を含む(メタ)アクリル系トリブロック共重合体(A)の製造方法により得られる共重合体よりも、粘着剤としての保持力が高くなること、すなわち粘着物性が優れることを読み取ることができる。
そうすると、本件特許発明1は、当該製造方法により、得られる共重合体の粘着物性が優れたものになる技術的意義を有するものである。
イ 引用発明の認定
甲1に示される出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書」という。)の段落【0058】~【0060】には、ポリマーセグメント(A)とポリマーセグメント(B)を有し(A)-(B)-(A)の構成を成すアクリル系樹脂を製造する方法が記載されているところ、その中間体として、ポリマーセグメント(A’)とポリマーセグメント(B)を有し(A’)-(B)-(A’)の構成を成すアクリル系樹脂を製造していることから、先願明細書には、以下の発明が記載されているといえる。
「(1)反応溶媒中に官能基含有モノマー(a1)と官能基非含有モノマー(a2)を含有する重合成分[I]及び下記RAFT剤を混合し、ラジカル重合開始剤を添加して重合成分[I]を重合することにより、官能基を有するポリマーセグメント(A’)-(A’)を得る工程、
(2)前記工程で得られたポリマーセグメント(A’)-(A’)を重合開始剤として、RAFT剤の存在下、重合成分[II]を重合して、ポリマーセグメント(A’)に繋げてポリマーセグメント(B)を製造し、(A’)-(B)-(A’)の構成を製造する工程、
を有するアクリル系樹脂の製造方法。
RAFT剤:トリチオ炭酸ビス[[4-[[エチル-(2-アセトキシエチル)アミノ]カルボニル]フェニル]メチル]エステル、トリチオ炭酸ビス[[4-[[エチル-(2-ヒドロキシエチル)アミノ]カルボニル]フェニル]メチル]エステル」(以下、「甲1先願発明A」という。)
ウ 対比・判断
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1先願発明Aとを対比する。
甲1先願発明Aの「RAFT剤」である「トリチオ炭酸ビス[[4-[[エチル-(2-アセトキシエチル)アミノ]カルボニル]フェニル]メチル]エステル」は、下記構造式で表される化合物であり、本件特許発明1における「(式a1)に示すRAFT剤」[Rがアシルオキシアルキル基]に相当する。
[図:0001413288000002.jpg]
また、甲1先願発明Aの「官能基含有モノマー(a1)と官能基非含有モノマー(a2)を含有する重合成分[I]」及び「重合成分[II]」は、ラジカル重合開始剤を添加して重合するものであり、先願明細書の段落【0019】~【0033】に例示される(メタ)アクリル酸エステル等、当該モノマーはいずれも重合性二重結合を含有するものであるから、本件特許発明1の「重合性二重結合含有モノマー」に相当する。
そして、甲1先願発明Aの「(1)反応溶媒中に官能基含有モノマー(a1)と官能基非含有モノマー(a2)を含有する重合成分[I]及び下記RAFT剤を混合し、ラジカル重合開始剤を添加して重合成分[I]を重合することにより、官能基を有するポリマーセグメント(A’)-(A’)を得る工程」は、本件特許発明1の「式(a1)に示すRAFT剤を用いて、重合性二重結合含有モノマーを重合する工程1」に相当し、甲1先願発明Aの「(2)前記工程で得られたポリマーセグメント(A’)-(A’)を重合開始剤として、RAFT剤の存在下、重合成分[II]を重合して、ポリマーセグメント(A’)に繋げてポリマーセグメント(B)を製造し、(A’)-(B)-(A’)の構成を製造する工程」は、本件特許発明1における「重合性二重結合含有モノマーをさらに添加して重合する工程2」に相当する。
さらに、甲1先願発明Aの「(A’)-(B)-(A’)」の構成のアクリル樹脂は、本件特許発明1の「(メタ)アクリル系トリブロック共重合体(A)」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
「式(a1)に示すRAFT剤を用いて、重合性二重結合含有モノマーを重合する工程1と、工程1で得られた重合体に、重合性二重結合含有モノマーをさらに添加して重合する工程2とを有し、
(メタ)アクリル系トリブロック共重合体(A)の製造方法。
[式(a1)中、Rは、アシルオキシアルキル基である。]」
<相違点1-1>
工程2で添加する重合性二重結合含有モノマーが、本件特許発明1は、「工程1でのモノマー組成とは異なる」のに対し、甲1先願発明Aは、そのような特定がされていない点
<相違点1-2>
本件特許発明1は、「工程1で用いる前記モノマーおよび工程2で添加する前記モノマーの一方または双方が(メタ)アクリル酸エステルを含」むのに対し、甲1先願発明Aは、そのような特定がされていない点
<相違点1-3>
本件特許発明1は、「工程1で用いる前記モノマーおよび工程2で添加する前記モノマーの少なくとも一方が、カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマーを含む」のに対し、甲1先願発明Aは、そのような特定がされていない点
そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、<相違点1-3>から検討する。
a 甲1先願発明Aは、上記イで示したように、ポリマーセグメント(A)とポリマーセグメント(B)を有し(A)-(B)-(A)の構成を成すアクリル系樹脂を製造する中間段階のポリマーセグメント(A’)とポリマーセグメント(B)を有し「(A’)-(B)-(A’)の構成を製造する工程、を有するアクリル系樹脂の製造方法。」を発明として認定したものである。
b まず、先願明細書には、「凹凸を有する被着体に対しても十分な粘着力を有し、かつ被着体からの剥離時においては円滑に剥離でき糊残りなく剥離可能な耐被着体汚染性に優れる粘着シートの粘着剤に用いることができるアクリル系樹脂、さらアクリル系粘着剤組成物、粘着シートを提供することを目的とする」(段落【0008】)こと、「再剥離型の粘着剤に用いられるアクリル系樹脂として、エチレン性不飽和基を有する(A)-(B)-(A)の構成を有するアクリル系樹脂を用い、エチレン性不飽和基を通常よりも多く導入し、かつポリマーセグメント(A)により多くのエチレン性不飽和基を含有させることにより、凹凸面を有する被着体への粘着力に優れ、被着体からの剥離時においては円滑に剥離でき、耐被着体汚染性にも優れる粘着シートが得られることを見出し、本発明を完成した。」(段落【0009】)ことが記載されている。
このように、先願明細書には、エチレン性不飽和基を有する(A)-(B)-(A)の構成を成すアクリル系樹脂を再剥離型の粘着剤に使用することは記載されているものの、甲1先願発明Aの製造方法により得られた(A’)-(B)-(A’)の構成を有する、中間体であるアクリル系樹脂そのものを粘着剤等の最終品として使用することは記載も示唆もされていない。すなわち、甲1先願発明Aの製造方法において用いられる官能基含有モノマー(a1)の官能基は、官能基含有エチレン性不飽和化合物(C)の官能基と反応して、エチレン性不飽和基を導入するためのものであって、中間体である(A’)-(B)-(A’)の構成を有するアクリル系樹脂の粘着特性に関与するものであることは何ら示されていない。
c そして、先願明細書の段落【0018】には、官能基含有モノマー(a1)としてカルボキシル基含有モノマーが記載されているが、上記bで述べたように、これはエチレン性不飽和化合物(C)と反応する、複数ある官能基含有モノマー(a1)の一つとして例示され、また、エチレン性不飽和化合物(C)との反応性の観点で、水酸基含有モノマーと共に列記されているにすぎないものであると解される。
さらに、先願明細書の段落【0040】においては、「なかでも、官能基含有モノマー(a1)として水酸基含有モノマーを使用し、官能基含有エチレン性不飽和化合物(C)としてイソシアネート基含有不飽和モノマーを用いることが、反応を制御しやすい点で好ましい。」と記載され、官能基含有モノマー(a1)として水酸基含有モノマーが好ましいことが示されているし、先願明細書の【実施例】においては、官能基含有モノマーとして、水酸基含有モノマーである2-ヒドロキシエチルアクリレートを使用した例しかなく、実際に、カルボキシル基含有モノマーを選択して利用した例は一切記載されていない。
d そうすると、先願明細書の段落【0018】に、官能基含有モノマー(a1)として、カルボキシル基含有モノマーを使用可能なことが一応記載されていても、カルボキシル基含有モノマーが、使用態様が具体的に記載された水酸基含有モノマーと置換可能な同等物であるとは直ちに認めることはできない。
e これに対して、上記アで述べたように、本件特許発明1は、カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマーを用いることにより、水酸基を有する反応性官能基含有モノマーを用いるものと比べて、優れた粘着特性を有することが読み取れる。また、このことが、本件特許出願前に周知の事項であると解すべき事情も見当たらないから、相違点1-3が課題解決のための具体化手段における微差であるといえるものでもない。
f そうすると、甲1先願発明Aは、(A’)-(B)-(A’)の構成を有するアクリル系樹脂の物性には何ら着目していない、(A)-(B)-(A)の構成を有するアクリル系樹脂の中間体の製造方法にすぎず、先願明細書には、カルボキシル基含有モノマーを用いた(A’)-(B)-(A’)の構成を有するアクリル系樹脂の製造方法が記載されているとはいえないから、相違点1-1及び1-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1先願発明Aと同一ないし実質同一ではない。
(イ)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、上記(ア)で説示したのと同様の理由により、本件特許発明2及び3は、甲1先願発明Aと同一ないし実質同一ではない。
エ 申立人の主張について
申立人は、令和6年2月9日付けの意見書において、以下の主張をしている。
「先願明細書の段落【0018】には、官能基含有モノマーとして、「カルボキシル基含有モノマーが好ましい。」ことが記載されており、(当審注:本件特許明細書の)段落【0117】【表1】からは、実施例B1と参考例B2に係る(メタ)アクリル系ブロック共重合体を含む粘着剤組成物にそれぞれの共重合体が有する反応性官能基と反応する架橋剤(実施例B1については架橋剤E-50C、参考例B2については架橋剤L-45)を配合した場合を比較すると、反応性官能基含有モノマーとしてカルボシキル基含有モノマーを用いた実施例B1と水酸基含有モノマーを用いた参考例B2の両者の保持力は同等であることが読み取れる。そして、先願明細書の段落【0074】、【0075】に記載されているとおり、アクリル系樹脂を含む粘着剤組成物における架橋剤は、粘着剤層の保持力も考慮して必要に応じて配合されるものであることに鑑みれば、特許権者が主張する上記効果は、本件訂正発明1によって製造されるカルボキシル基含有モノマーを用いたトリブロック共重合体を未架橋用の粘着剤組成物として使用した場合の保持力について確認したにすぎず、架橋剤を含有させて用いる粘着剤組成物にも使用し得る上記トリブロック共重合体の製造方法に係る本件訂正発明1が奏する新たな効果とはいえない。」(第4ページ下から第5行~第5ページ第11行)
そこで、念のため、上記主張について、以下検討する。
架橋剤を用いた場合において、モノマーとして、水酸基を有する反応性官能基含有モノマーである「4-ヒドロキシブチルアクリレート」を用いた参考例B2のプローブタック試験結果が「12N/5mmΦ」であったのに対し、カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマーである「アクリル酸(AA)」を用いた実施例B1のプローブタック試験結果は「16N/5mmΦ」となっており、参考例B2よりも粘着力が高いことが示されている。
また、上記アで説示したように、水酸基を有する反応性官能基含有モノマーである「4-ヒドロキシブチルアクリレート」を用いた参考例B2の未架橋物の保持力試験結果(荷重付加開始から1時間後のもとの位置からのズレの距離(mm))が「1.0mm」に対し、カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマーである「アクリル酸(AA)」を用いた実施例B1の未架橋物の保持力試験結果が「0.2mm」と参考例B2よりも短くなっており、参考例B2よりも粘着力が高くなっている。
すなわち、本件特許発明1に係る、カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマーを含む(メタ)アクリル系トリブロック共重合体(A)の製造方法により得られる共重合体は、水酸基を有する反応性官能基含有モノマーを含む(メタ)アクリル系トリブロック共重合体(A)の製造方法により得られる共重合体よりも、粘着剤としての保持力が高くなる効果を奏していると読み取ることができる。
そして、当該効果は、発明特定事項として、「カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマー」を備えていることにより得られる効果であるところ、本件特許発明1に係る共重合体の「製造方法」の発明も、発明特定事項として、「カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマー」を備えている以上、当該「製造方法」が奏する効果でもあるといえる。
したがって、申立人の上記主張は首肯することができない。
オ 小括
よって、本件特許発明1ないし3は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、取消理由1及び申立理由1によっては取り消すことはできない。
2 取消理由通知(決定の予告)における取消理由として採用しなかった申立理由について
(1)申立理由2(甲3を主引用文献とする進歩性)について
ア 引用発明の認定
甲3(段落【0054】~【0058】)の実施例1に着目すると、以下の発明が記載されているといえる。
「500mlのSchlenk容器にアクリル酸を400ml、下記トリチオカーボネート(V)を3.47g(0.01172モル)、アクリル酸ブチルおよびアゾイソブチロニトリル(AIBN)を0.06g仕込んで、この容器を3回脱気した後、アルゴン下で、反応混合物を撹拌しながら65℃に加熱して重合開始後24時間重合を実施してトリチオカーボネート官能化ポリアクリル酸(Mn=40,200、Mw/n=1.24)を得る工程、
通常の重合用反応槽にトリチオカーボネート官能化ポリアクリル酸を32g、アクリル酸n-ブチルを357gおよびアゾイソブチロニトリル(AIBN)を0.12g仕込み、この反応槽にアルゴンを20分間通しそして反応槽を2回脱気させた後、これを撹拌しながら65℃に加熱して、この温度で24時間保持してブロック共重合体(Mn=201,000、Mw/n=1.43)を得る工程、からなる
ブロック共重合体の製造方法。
[図:0001413288000003.jpg]
」(以下、「甲3発明」という。)
イ 対比・判断
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
甲3の段落【0039】には、「好適な変法としてRAFT方法[リバーシブルアディションフラグメンテーション(reversible addition fragmentaion)連鎖移動]を実施する。この方法はWO 98/01478およびWO 99/31144に詳述されている。ブロック共重合体を生成させる時に用いるにトリチオカーボネート[Macromolecules 2000、33、243-245]が特に有利に適切であり」と記載されていることから、甲3発明の「トリチオカーボネート(V)」は、本件特許発明1の「RAFT剤」に相当する。
また、甲3発明の「アクリル酸」、「アクリル酸(n-)ブチル」は、本件特許発明1の「重合性二重結合含有モノマー」に相当する。そして、甲3発明の「アクリル酸(n-)ブチル」は、本件特許発明1の「(メタ)アクリル酸エステル」に相当し、甲3発明の「アクリル酸」は、本件特許発明1の「カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマー」に相当する。そして、甲3発明の「ブロック共重合体」は、甲3の【請求項1】に、「各ブロック共重合体が1つの中央共重合体ブロックP(B)と2つの末端重合体ブロックP(A/C)で構成されている一般型P(A/C)-P(B)-P(A/C)で表されるブロック共重合体」と記載されているように、トリブロック構造を有するものであるから、本件特許発明1の「(メタ)アクリル系トリブロック共重合体」に相当する。
そうすると、甲3発明の「500mlのSchlenk容器にアクリル酸を400ml、下記トリチオカーボネート(V)を3.47g(0.01172モル)、アクリル酸ブチルおよびアゾイソブチロニトリル(AIBN)を0.06g仕込んで、この容器を3回脱気した後、アルゴン下で、反応混合物を撹拌しながら65℃に加熱して重合開始後24時間重合を実施してトリチオカーボネート官能化ポリアクリル酸(Mn=40,200、Mw/n=1.24)を得る工程」は、本件特許発明1の「RAFT剤を用いて、重合性二重結合含有モノマーを重合する工程1」に相当し、甲3発明の「通常の重合用反応槽にトリチオカーボネート官能化ポリアクリル酸を32g、アクリル酸n-ブチルを357gおよびアゾイソブチロニトリル(AIBN)を0.12g仕込み、この反応槽にアルゴンを20分間通しそして反応槽を2回脱気させた後、これを撹拌しながら65℃に加熱して、この温度で24時間保持してブロック共重合体(Mn=201,000、Mw/n=1.43)を得る工程」は、本件特許発明1の「工程1で得られた重合体に、工程1でのモノマー組成とは異なる重合性二重結合含有モノマーをさらに添加して重合する工程2」に相当し、さらに、甲3発明は、本件特許発明1の「工程1で用いる前記モノマーおよび工程2で添加する前記モノマーの一方または双方が(メタ)アクリル酸エステルを含み、工程1で用いる前記モノマーおよび工程2で添加する前記モノマーの少なくとも一方が、カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマーを含む」事項を備えているといえる。
してみると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
RAFT剤を用いて、重合性二重結合含有モノマーを重合する工程1と、工程1で得られた重合体に、工程1でのモノマー組成とは異なる重合性二重結合含有モノマーをさらに添加して重合する工程2とを有し、
工程1で用いる前記モノマーおよび工程2で添加する前記モノマーの一方または双方が(メタ)アクリル酸エステルを含み、
工程1で用いる前記モノマーおよび工程2で添加する前記モノマーの少なくとも一方が、カルボキシル基を有する反応性官能基含有モノマーを含む、(メタ)アクリル系トリブロック共重合体(A)の製造方法。
<相違点3>
RAFT剤が、本件特許発明1は、「式(a1)に示す」ものであるのに対し、甲3発明は、下記構造を有するトリチオカーボネート(V)である点
[図:0001413288000004.jpg]
そこで、上記相違点3について検討する。
甲2の【特許請求の範囲】には、以下の記載がある。
「【請求項1】
一般式(1):
【化1】
[図:0001413288000005.jpg]
[式中、Arはフェニレン基またはナフチレン基を表し、R1は(C1~C4)アルキル基を表し、R2は(C2~C4)アルキレン基を表す]で表される、ジベンジルトリチオカーボネート誘導体。
【請求項2】
前記誘導体が、前記一般式(1)において、Arがフェニレン基であり、R1がエチル基であり、R2がエチレン基である、次の式:
【化2】
[図:0001413288000006.jpg]
で表される、請求項1に記載のジベンジルトリチオカーボネート誘導体。
【請求項3】
一般式(6):
【化3】
[図:0001413288000007.jpg]
[式中、Ar、R1およびR2は上記で定義したとおりであり、R3はヒドロキシ基の保護基を表し、Xはハロゲン原子を表す]で表される化合物を、二硫化炭素と反応させて、一般式(7):
【化4】
[図:0001413288000008.jpg]
[式中、Ar、R1、R2およびR3は上記で定義したとおりである]で表される化合物を得、この化合物を脱保護して得られる一般式(1):
【化5】
[図:0001413288000009.jpg]
[式中、Ar、R1およびR2は上記で定義したとおりである]で表される、ジベンジルトリチオカーボネート誘導体の製造方法。
・・・
【請求項6】
請求項1または2に記載のジベンジルトリチオカーボネート誘導体の存在下に、ビニル基を有するモノマーを重合反応させることを特徴とする、RAFT重合体の製造方法。
【請求項7】
前記ビニル基を有するモノマーが、スチレン、アクリル酸エステル類、メタアクリル酸エステル類およびアクリルアミド類からなる群から選択される請求項6に記載の製造方法。」
甲2の請求項6によると、RAFT剤として使用されるジベンジルトリチオカーボネート誘導体は、請求項1または2に記載されるものであるところ、当該ジベンジルトリチオカーボネート誘導体の末端官能基は「水酸基」であって、本件特許発明1におけるRAFT剤の式(a1)のR(Rは、アシル基、アシルオキシ基またはアシルオキシアルキル基)ではない。
また、甲2の請求項3には、一般式(7)で示される末端基が「OR3」である化合物が示されているものの、当該化合物は、一般式(1)のRAFT剤を得る際の中間体であって、甲2には、当該化合物自体をRAFT剤として使用することについて何ら開示がされていないし、当該化合物を甲3発明におけるRAFT剤に用いることを動機付ける記載も示唆もない。
そうすると、甲3発明におけるRAFT剤として、トリチオカーボネート(V)に代えて、本件特許発明1の「式(a1)に示す」化合物を採用することは当業者が容易に想到し得たことではない。
そして、本件特許発明1は、本件特許明細書の段落【0023】及び【0024】に、「Rが上記列挙の官能基(水酸基、カルボキシル基およびアミノ基)を有しないことから、得られる共重合体もRAFT剤由来の分子末端において前記Rが上記列挙の官能基を有しないことになる。・・・これらの中でも、RAFT剤が常温で液体となる傾向にありハンドリング性に優れる点や、高極性または低極性の各種被着体に対する優れた粘着物性が得られる点で、アシル基、アシルオキシ基およびアシルオキシアルキル基が好ましい。」と記載されているように、ハンドリング性に優れる効果や、高極性または低極性の各種被着体に対する優れた粘着物性が得られる効果を奏するものであり、当該効果は、甲3に記載された発明及び甲2に記載された事項から予測し得るものではない。
よって、本件特許発明1は、甲3に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、上記(ア)で説示したのと同様の理由により、本件特許発明2及び3は、甲3に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、申立書において、甲2に記載された発明の認定として、「甲第2号証に接した当業者は、同文献には一般式(7)で表されるRAFT剤が記載されていることを理解する。」(第11ページ)とした上で、「してみると、甲3発明において、RAFT剤として甲第2号証に記載された、一般式(7)で表されるジベンジルトリチオカーボネート誘導体を用いることによって本件特許発明1とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。またかかる構成を採用することによる効果も上記文献の記載から当業者が予測し得る程度のものに過ぎない。」(第18ページ)と述べている。
しかしながら、上記イで説示したように、甲2の請求項3には、一般式(7)で示される末端基が「OR3」の化合物が示されているものの、当該化合物は、一般式(1)のRAFT剤を得る際の中間体であって、当該化合物自体をRAFT剤として使用することについて、甲2には何ら開示がされていない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 小括
したがって、本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、申立理由2によっては取り消すことはできない。
(2)申立理由3(甲4を主引用文献とする進歩性)について
ア 引用発明の認定
甲4の製造例3に着目すると、以下の発明が記載されているといえる。
「窒素置換した5L耐圧反応器に、臭化銅11.26g、n-ブチルアクリレート(BA)804.6g、アセトニトリル141.2g、2,5-ジブロモアジピン酸ジエチル5.65gを加えて攪拌し、75℃に昇温させ、その後、ペンタメチルジエチレントリアミン(以下トリアミン)1.36gを添加して重合を開始させ、BAの転化率が95%の時点で、トルエン950g、塩化銅7.77g、メチルメタアクリレート(MMA)328g、2-ヒドロキシエチルメタアクリレート(HEMA)22.44gを追加し、トリアミンを適宜追加し、反応速度を調整し、MMAの転化率が82%、HEMAの転化率が100%の時点で、トルエン1190gを追加するとともに冷却して反応を停止させた、水酸基含有アクリル系ブロック共重合体(P(MMA/HEMA)-b-PBA-b-P(MMA/HEMA))の重合方法」(以下、「甲4発明」という。)
イ 対比・判断
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「n-ブチルアクリレート(BA)」、「メチルメタアクリレート(MMA)」及び「2-ヒドロキシエチルメタアクリレート(HEMA)」は、本件特許発明1の「重合性二重結合含有モノマー」に相当する。また、甲4発明の「n-ブチルアクリレート(BA)」、「メチルメタアクリレート(MMA)」は、本件特許発明1の「(メタ)アクリル酸エステル」に相当し、甲4発明の「2-ヒドロキシエチルメタアクリレート(HEMA)」は、本件特許発明1の「反応性官能基含有モノマー」に相当する。
そして、甲4発明の「窒素置換した5L耐圧反応器に、臭化銅11.26g、n-ブチルアクリレート(BA)804.6g、アセトニトリル141.2g、2,5-ジブロモアジピン酸ジエチル5.65gを加えて攪拌し、75℃に昇温させ、その後、ペンタメチルジエチレントリアミン(以下トリアミン)1.36gを添加して重合を開始させ、BAの転化率が95%の時点」までの工程は、本件特許発明1の「重合性二重結合含有モノマーを重合する工程1」に相当し、甲4発明のBAの転化率が95%後の「トルエン950g、塩化銅7.77g、メチルメタアクリレート(MMA)328g、2-ヒドロキシエチルメタアクリレート(HEMA)22.44gを追加し、トリアミンを適宜追加し、反応速度を調整し、MMAの転化率が82%、HEMAの転化率が100%の時点で、トルエン1190gを追加するとともに冷却して反応を停止させた」工程は、本件特許発明1の「工程1でのモノマー組成とは異なる重合性二重結合含有モノマーをさらに添加して重合する工程2」に相当する。
さらに、甲4発明の「水酸基含有アクリル系ブロック共重合体(P(MMA/HEMA)-b-PBA-b-P(MMA/HEMA))」は、トリブロック構造を有するから、本件特許発明1の「(メタ)アクリル系トリブロック共重合体」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
重合性二重結合含有モノマーを重合する工程1と、工程1で得られた重合体に、工程1でのモノマー組成とは異なる重合性二重結合含有モノマーをさらに添加して重合する工程2とを有し、
工程1で用いる前記モノマーおよび工程2で添加する前記モノマーの一方または双方が(メタ)アクリル酸エステルを含み、
工程1で用いる前記モノマーおよび工程2で添加する前記モノマーの少なくとも一方が、反応性官能基含有モノマーを含む、(メタ)アクリル系トリブロック共重合体(A)の製造方法。
<相違点4-1>
本件特許発明1は、「式(a1)に示すRAFT剤を用い」るのに対し、甲4発明はRAFT剤を用いていない点
<相違点4-2>
反応性官能基含有モノマーが、本件特許発明1は「カルボキシル基を有する」ものであるのに対し、甲4発明は「2-ヒドロキシエチルメタアクリレート(HEMA)」である点
そこで、上記相違点4-1について検討する。
甲4の段落【0111】には、「リビングラジカル重合法としては、たとえば、ポリスルフィドなどの連鎖移動剤を用いる重合法、コバルトポルフィルン錯体を用いる重合法、ニトロキシドを用いる重合法(WO2004/014926)、有機テルル化合物などの高周期ヘテロ元素化合物を用いる重合法(特許第3839829号)、可逆的付加脱離連鎖移動重合法(RAFT)(特許第3639859号)、原子移動ラジカル重合法(ATRP)(特許第3040172号)などが挙げられる。本発明において、これらのうちいずれの方法を使用するかは特に制約はないが、制御の容易さの点などから原子移動ラジカル重合法が好ましい。」と記載され、リビングラジカル重合法として、RAFT法を使用可能なことが記載されている。
一方、上記(1)のイ(ア)で説示したように、甲2の請求項3には、一般式(7)で示される末端基が「OR3」の化合物が示されているものの、当該化合物は、一般式(1)のRAFT剤を得る際の中間体であって、甲2には、当該化合物自体をRAFT剤として使用することについて何ら開示がされていないし、当該化合物を甲4発明におけるRAFT剤に用いることを動機付ける記載も示唆もない。
そうすると、甲4発明において、RAFT剤として「式(a1)に示す」化合物を採用することは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件特許発明1は、本件特許発明の段落【0023】及び【0024】に、「Rが上記列挙の官能基(水酸基、カルボキシル基およびアミノ基)を有しないことから、得られる共重合体もRAFT剤由来の分子末端において前記Rが上記列挙の官能基を有しないことになる。・・・これらの中でも、RAFT剤が常温で液体となる傾向にありハンドリング性に優れる点や、高極性または低極性の各種被着体に対する優れた粘着物性が得られる点で、アシル基、アシルオキシ基およびアシルオキシアルキル基が好ましい。」と記載されているように、ハンドリング性に優れる効果や、高極性または低極性の各種被着体に対する優れた粘着物性が得られる効果を奏するものであり、当該効果は、甲4に記載された発明及び甲2に記載された事項から予測し得るものではない。
よって、本件特許発明1は、相違点4-2を検討するまでもなく、甲4に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、上記(ア)で説示したのと同様の理由により、本件特許発明2は、甲4に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、申立書において、甲2に記載された発明の認定として、「甲第2号証に接した当業者は、同文献には一般式(7)で表されるRAFT剤が記載されていることを理解する。」(第11ページ)とした上で、「してみると、甲4発明に係る(メタ)アクリル系トリブロック共重合体の製造方法について、甲第2号証に記載された、一般式(7)で表されるジベンジルトリチオカーボネート誘導体をRAFT剤として用いたRAFT重合を重合性二重結合含有モノマーの重合方法として採用して本件特許発明1とすることは、当業者が容易に想到し得るところである。また、かかる構成を採用することによる効果も上記文献の記載から当業者が予測し得る程度のものに過ぎない。」(第21ページ)と述べている。
しかしながら、上記イで説示したように、甲2の請求項3には、一般式(7)で示される末端基が「OR3」の化合物が示されているものの、当該化合物は、一般式(1)のRAFT剤を得る際の中間体であって、当該化合物自体をRAFT剤として使用することについて、甲2には何ら開示がされていない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 小括
したがって、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、申立理由3によっては取り消すことはできない。
第6 むすび
上記第5のとおり、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、当審が通知した取消理由通知(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-701266