特許異議申立
2021-700801
農業用フィルム、及び、農業用ハウス、農業用カーテン又は農業用トンネル
- 審判番号
- 2021-700801
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-063517
- 登録番号
- 6833585
- 請求日
- 2021年08月13日
- 審決日
- 2023年05月24日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住化積水フィルム株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 【異議申立人】藤下 万実
- 審判長/審判官
- 審判長 住田 秀弘
- 審判官 居島 一仁
- 審判官 西田 秀彦
- 分類
- P1651.113-YAA(A01G) / P1651.121-YAA(A01G) / P1651.536-YAA(A01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第36条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6833585号発明「農業用フィルム、及び、農業用ハウス、農業用カーテン又は農業用トンネル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6833585号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。
特許第6833585号の請求項1及び4~9に係る特許を維持する。
特許第6833585号の請求項2及び3に係る特許についての特許異議申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6833585号(以下「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成29年3月28日に出願され、令和3年2月5日にその特許権の設定登録がされ、令和3年2月24日に特許掲載公報が発行された。
そして、本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年 8月13日 : 特許異議申立人 藤下 万実(以下「申立人」という。)による請求項1~9に係る特許に対する特許異議の申立て
同年12月13日付け: 取消理由通知書
令和4年 2月18日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 4月 1日 : 申立人による意見書の提出
同年 8月 8日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
同年10月 6日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和4年11月25日 : 申立人による意見書の提出
令和5年 2月10日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
同年 3月29日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
なお、令和5年3月29日に訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされたので、令和4年2月18日にされた訂正の請求及び同年10月6日にされた訂正の請求のそれぞれは、特許法120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされる。
また、本件訂正請求は、すでに特許異議申立人に意見書の提出の機会が与えられている場合であって、訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、事件において提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても以下に示すとおり特許を維持すべきとの結論となると合議体が判断したため、申立人に意見書を提出する機会は与えない。
第2 本件訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年3月29日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲を訂正することを求めるものであり、次の(1)の本件訂正前の特許請求の範囲の記載を、後記(2)の本件訂正後の特許請求の範囲の記載のとおり訂正するものである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1) 本件訂正前の特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
少なくともA層及び流滴層を有する農業用フィルムであって、
(1)前記農業用フィルムの流滴層側の表面は、JIS B0601:2013に準拠して測定した算術平均粗さRaが0.1~3.0μmであり、
(2)前記流滴層は、親水性無機フィラーを含有し、
(3)乾燥時のヘイズ値(Hzd)と結露時のヘイズ値(Hzw)との差(Hzd-Hzw)が10%以上である、
ことを特徴とする農業用フィルム。
【請求項2】
前記A層は、メルトフローレートが異なる2種以上のポリオレフィン系樹脂を含有する、請求項1に記載の農業用フィルム。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂は、エチレン-酢酸ビニル共重合体、低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の農業用フィルム。
【請求項4】
前記流滴層は、前記親水性無機フィラー及びバインダー樹脂を含む、請求項1~3のいずれかに記載の農業用フィルム。
【請求項5】
前記乾燥時のヘイズ値(Hzd)が10~50%である、請求項4に記載の農業用フィルム。
【請求項6】
前記結露時のヘイズ値(Hzw)が20%未満である、請求項4又は5に記載の農業用フィルム。
【請求項7】
前記A層は、無機粒子を含有しない、請求項1~6のいずれかに記載の農業用フィルム。
【請求項8】
少なくとも前記流滴層、前記A層、B層及びC層をこの順に有し、
前記B層は、ポリオレフィン系樹脂を含む単層又は複数の層からなり、少なくとも1層に無機保温剤を含有し、
前記C層は、ポリオレフィン系樹脂を含む、
請求項1~7のいずれかに記載の農業用フィルム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の農業用フィルムを有する農業用ハウス、農業用カーテン又は農業用トンネル。」
(2) 本件訂正後の特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
少なくともA層及び流滴層を有する農業用フィルムであって、
(1)前記農業用フィルムの流滴層側の表面は、JIS B0601:2013に準拠して測定した算術平均粗さRaが0.1~3.0μmであり、
(2)前記流滴層は、親水性無機フィラーを含有し、
(3)乾燥時のヘイズ値(Hzd)と結露時のヘイズ値(Hzw)との差(Hzd-Hzw)が10%以上であり、
前記A層は、ポリオレフィン系樹脂を含有し、
前記ポリオレフィン系樹脂は、メルトフローレートが異なる2種のエチレン-酢酸ビニル共重合体又はメルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンであり、
前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種のエチレン-酢酸ビニル共重合体である場合、一方は、メルトフローレートが5.0g/10分以上50g/10分以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体(i)であり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上5.0g/10分未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(ii)であり、且つ、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(i)及び前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(ii)の合計量を100質量部としたとき、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(i)と前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(ii)との質量比が、エチレン-酢酸ビニル共重合体(i):エチレン-酢酸ビニル共重合体(ii)=15:85~75:25であり、
前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンである場合、一方は、メルトフローレートが1.7g/10分以上50g/10分以下の直鎖状低密度ポリエチレン(i)であり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上1.7g/10分未満の直鎖状低密度ポリエチレン(ii)であり、且つ、前記直鎖状低密度ポリエチレン(i)及び前記直鎖状低密度ポリエチレン(ii)の合計量を100質量部としたとき、前記直鎖状低密度ポリエチレン(i)と前記直鎖状低密度ポリエチレン(ii)との質量比が、直鎖状低密度ポリエチレン(i):直鎖状低密度ポリエチレン(ii)=75:25である、
ことを特徴とする農業用フィルム。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】 (削除)
【請求項4】
前記流滴層は、前記親水性無機フィラー及びバインダー樹脂を含む、請求項1に記載の農業用フィルム。
【請求項5】
前記乾燥時のヘイズ値(Hzd)が10~50%である、請求項4に記載の農業用フィルム。
【請求項6】
前記結露時のヘイズ値(Hzw)が20%未満である、請求項4又は5に記載の農業用フィルム。
【請求項7】
前記A層は、無機粒子を含有しない、請求項1及び4~6のいずれかに記載の農業用フィルム。
【請求項8】
少なくとも前記流滴層、前記A層、B層及びC層をこの順に有し、
前記B層は、ポリオレフィン系樹脂を含む単層又は複数の層からなり、少なくとも1層に無機保温剤を含有し、
前記C層は、ポリオレフィン系樹脂を含む、
請求項1及び4~7のいずれかに記載の農業用フィルム。
【請求項9】
請求項1及び4~8のいずれかに記載の農業用フィルムを有する農業用ハウス、農業用カーテン又は農業用トンネル。」
(3) 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、次の訂正事項1から訂正事項7である。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「 少なくともA層及び流滴層を有する農業用フィルムであって、
(1)前記農業用フィルムの流滴層側の表面は、JIS B0601:2013に準拠して測定した算術平均粗さRaが0.1~3.0μmであり、
(2)前記流滴層は、親水性無機フィラーを含有し、
(3)乾燥時のヘイズ値(Hzd)と結露時のヘイズ値(Hzw)との差(Hzd-Hzw)が10%以上である、
ことを特徴とする農業用フィルム。」とあるのを、
「 少なくともA層及び流滴層を有する農業用フィルムであって、
(1)前記農業用フィルムの流滴層側の表面は、JIS B0601:2013に準拠して測定した算術平均粗さRaが0.1~3.0μmであり、
(2)前記流滴層は、親水性無機フィラーを含有し、
(3)乾燥時のヘイズ値(Hzd)と結露時のヘイズ値(Hzw)との差(Hzd-Hzw)が10%以上であり、
前記A層は、ポリオレフィン系樹脂を含有し、
前記ポリオレフィン系樹脂は、メルトフローレートが異なる2種のエチレン-酢酸ビニル共重合体又はメルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンであり、
前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種のエチレン-酢酸ビニル共重合体である場合、一方は、メルトフローレートが5.0g/10分以上50g/10分以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体(i)であり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上5.0g/10分未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(ii)であり、且つ、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(i)及び前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(ii)の合計量を100質量部としたとき、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(i)と前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(ii)との質量比が、エチレン-酢酸ビニル共重合体(i):エチレン-酢酸ビニル共重合体(ii)=15:85~75:25であり、
前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンである場合、一方は、メルトフローレートが1.7g/10分以上50g/10分以下の直鎖状低密度ポリエチレン(i)であり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上1.7g/10分未満の直鎖状低密度ポリエチレン(ii)であり、且つ、前記直鎖状低密度ポリエチレン(i)及び前記直鎖状低密度ポリエチレン(ii)の合計量を100質量部としたとき、前記直鎖状低密度ポリエチレン(i)と前記直鎖状低密度ポリエチレン(ii)との質量比が、直鎖状低密度ポリエチレン(i):直鎖状低密度ポリエチレン(ii)=75:25である、
ことを特徴とする農業用フィルム。」に訂正する。
また、請求項1の記載を引用する請求項2~9についても同様に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれかに記載の」とあるのを、「請求項1に記載の」に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6のいずれかに記載の」とあるのを、「請求項1及び4~6のいずれかに記載の」に訂正する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7のいずれかに記載の」とあるのを、「請求項1及び4~7のいずれかに記載の」に訂正する。
キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8のいずれかに記載の」とあるのを、「請求項1及び4~8のいずれかに記載の」に訂正する。
2 本件訂正の適否についての判断
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、本件訂正前の「A層」について、「前記A層は、ポリオレフィン系樹脂を含有」するものに限定し、更に「ポリオレフィン系樹脂」について、
「前記ポリオレフィン系樹脂は、メルトフローレートが異なる2種のエチレン-酢酸ビニル共重合体又はメルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンであり、」
A 「前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種のエチレン-酢酸ビニル共重合体である場合、一方は、メルトフローレートが5.0g/10分以上50g/10分以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体(i)であり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上5.0g/10分未満のエチレン-酢酸ビニル共重合体(ii)であり、且つ、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(i)及び前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(ii)の合計量を100質量部としたとき、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(i)と前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(ii)との質量比が、エチレン-酢酸ビニル共重合体(i):エチレン-酢酸ビニル共重合体(ii)=15:85~75:25であり」(以下、「ポリオレフィン系樹脂の構成A」という。)、
B 「前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンである場合、一方は、メルトフローレートが1.7g/10分以上50g/10分以下の直鎖状低密度ポリエチレン(i)であり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上1.7g/10分未満の直鎖状低密度ポリエチレン(ii)であり、且つ、前記直鎖状低密度ポリエチレン(i)及び前記直鎖状低密度ポリエチレン(ii)の合計量を100質量部としたとき、前記直鎖状低密度ポリエチレン(i)と前記直鎖状低密度ポリエチレン(ii)との質量比が、直鎖状低密度ポリエチレン(i):直鎖状低密度ポリエチレン(ii)=75:25である」(以下、「ポリオレフィン系樹脂の構成B」という。)ものに限定したものである。
同様に、訂正後の請求項2~9は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、前記と同様の点を限定したものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加、特許請求の範囲の実質的拡張・変更
訂正事項1に係る「A層」が「ポリオレフィン系樹脂を含有」すること及び「ポリオレフィン系樹脂」が「ポリオレフィン系樹脂の構成A」であることは、本件特許の明細書の段落【0067】、【0070】、【0071】及び実施例1~4に記載され、同「ポリオレフィン系樹脂」が「ポリオレフィン系樹脂の構成B」であることは、本件特許の明細書の段落【0067】~【0069】及び実施例6に記載されている。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、本件特許についての出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであって、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(2) 訂正事項2及び3について
訂正事項2及び3は、それぞれ訂正前の特許請求の範囲の請求項2及び3を削除するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであって、 また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
(3) 訂正事項4~7について
訂正事項4~7は、訂正前の請求項4、7~9の記載が請求項2及び3の記載を引用する記載であるところ、前記訂正事項2及び3による訂正に伴い請求項2及び3を引用しないものとするための訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであって、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
(4) 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~9は、請求項2~9が、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正の対象となる請求項1~9は、特許法120条の5第4項に規定する「一群の請求項」を構成する。
(5) 小括
以上のとおりであるから、本件特許は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とし、同法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。
第3 本件特許に係る発明
前記第2において説示したとおり、本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1、4~9に係る発明(以下「本件特許発明1」等という。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲(前記第2の1(2)参照)の請求項1、4~9に記載されたとおりのものである。
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
1 取消理由(進歩性)について
当審が令和5年2月10日付けで、令和4年10月6日に提出された訂正の請求による訂正後の請求項1、4~9について特許権者に通知した取消理由(決定の予告)(以下「第2回決定の予告」という。)の要旨は、次のとおりである。
請求項1及び4~9に係る発明は、甲第2号証記載された発明及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第2号証: 特開2000-139244号公報
甲第3号証: 特開2016-54702号公報
以下、甲第2号証等を「甲2」等と略記する。
2 甲2について
(1) 甲2に記載された事項
ア 段落【0012】
「【0012】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明の課題は、太陽光の透過の仕方を調節することが可能で、太陽光の強い夏場においても日覆いを必要としない能率的な作物の栽培を可能とする作物栽培用被覆フィルムを提供するものである。」
イ 段落【0020】~【0025】
「【0020】
【発明の実施の形態】本発明の作物栽培に用いられる被覆フィルム1は、図1に示されるように透明フィルム層2に無機粉体が配合された無機粉体含有フィルム層3が積層されている。
【0021】透明フィルム層2および無機粉体含有フィルム層3に使用される透明樹脂としてはエチレン系重合体、プロピレン系重合体等のポリオレフィンおよび塩化ビニル等を用いることができる。中でも防汚性、耐久性、価格等の面から低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体が好ましい。
・・・中略・・・
【0023】無機粉体含有フィルム層3に添加される無機粉体としては、屈折率が1.37~1.63の範囲のものを使用できるが、透明樹脂として、低密度ポリエチレンやエチレン・酢酸ビニル共重合体を使用した場合には、無機粉体の屈折率は1.41~1.59の範囲が好ましい。屈折率が1.41~1.59の範囲を越えると、フィルム内での内部散乱が大きく、いわゆる白色化されたフィルムとなり、光透過を顕著に低下させ、特に冬場においての作物栽培に適さない欠点がる。
【0024】無機粉体の粒径は、平均粒径が1.0~20μm、好ましくは、2~10μm、より好ましくは3~6μmのものが使用される。平均粒径が1.0μm未満では表面の粗さが小さくなり夏場においても被覆フィルムを不透明にす
ることが難しく梨地効果が低い。また、20μmを越えると、フィルム成形トラブルやフィルム強度等の品質トラブルを生じやすく、また冬場に透明な状態になり難くなる。
【0025】無機粉体を構成する無機物としては、透明樹脂として、低密度ポリエチレンやエチレン・酢酸ビニル共重合体を使用した場合には、石英、シリカゲル、ケイ藻土、等の酸化珪素、各種天然または合成の珪酸塩類、たとえばタルク、ゼオライト、長石、珪酸カルシウム、ガラス、天然または合成のハイドロタルサイト類化合物等を使用することができる。これらを任意に組み合わせて使用することもできる。なお、屈折率が2.0以上の酸化チタン、酸化亜鉛のような有名な白色顔料は本発明では適さない。また酸化アルミ、炭酸カルシウム、酸化マグネシウムなども屈折率が1.63を越えると、本発明では好ましくない。」
ウ 段落【0032】及び【0033】
「【0032】透明フィルム層2と無機粉体含有フィルム層3を積層することによって透明フィルム層2側の表面は平滑面となり、無機粉体含有フィルム層3側の表面は微小な凹凸のある梨地面が形成される。
【0033】本発明において、梨地面は、平均表面粗さRa(JIS B-0601-82準拠)が0.1~5.0μmの範囲であり、好ましくは0.1~3.0μm、より好ましくは0.1~1.0μmの範囲である。平均表面粗さRaが0.1μmより小さいときは夏場においても不透明ないし半透明とすることができなくなり、また、5.0μmより大きい時は、冬場においても透明性が悪くなる。」
エ 段落【0036】~【0039】
「【0036】無機粉体含有フィルム層3に混練する場合の防曇性付与剤としては、非イオン系、アニオン系あるいはカチオン系の界面活性剤が使用できる。これらの化合物としては、ポリオキシアルキレンエーテル、多価アルコールの部分エステル、多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物の部分エステル、高級アルコール硫酸エステルアルカリ金属塩、アルキルアリールスルホネート、四級アンモニウム、脂肪酸アミン誘導体が挙げられる。
【0037】中でも炭素数14~22の脂肪酸とソルビタン、ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコールとのエステルあるいはそのアルキレンオキサイド付加物を主成分とする非イオン系界面活性剤等が好ましい。
【0038】無機粉体含有フィルム層3に塗布して防曇性を付与する防曇剤としては、無機の微粒子と界面活性剤を含有するものが望ましく、無機の微粒子としては、平均粒径5~100nm程度の無機親水性コロイド物質を用いることができる。
【0039】具体的には、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、コロイド状の水酸化鉄、水酸化錫、酸化チタン、硫酸バリウム、リチウムシリケート等を用いることができる。」
オ 段落【0043】~【0048】
「【0043】なお、本発明被覆フィルム1においては、透明フィルム層2は単層であってもよく、また、積層フィルム層であってもよい。従って、本発明被覆フイルム1は、3層以上の構造とすることもできる。そして各層には各種の紫外線吸収剤、光安定剤(耐候性改良)、保温剤、赤外線吸収剤等を適宜添加し、各種機能を付与することもできる。
【0044】本発明被覆フイルム1を使用するときは、無機粉体含有フィルム層3面がトンネルあるいはハウスの内側となるように張設する他は従来と同様に使用され、構築されたトンネルあるいはハウスの骨組みに張設され、その内部で作物が栽培される。
【0045】本発明被覆フィルムを用いて栽培するときは、冬場等の保温を要するときはハウスあるいはトンネルを閉鎖した状態で栽培が行われる。ハウスあるいはトンネルを閉鎖して栽培するときは、保温され栽培温度を高くすることができると共に内部の湿度が上昇しその水分が被覆フイルム1の無機粉体含有フィルム層3面に付着する。付着した水は防曇剤の作用によって無機粉体含有フィルム層3の面に水膜となる。その結果、被覆フイルム1は透明となって直射日光が作物に照射される。
【0046】一方、春期の4~5月以降、特に夏場の気温が高く、太陽光線が強い時期には、被覆フイルム1を部分的に引上げて換気をさせて栽培を行う。トンネルあるいはハウス内が換気されると内部が乾燥し、被覆フイルム1の内面の水膜が消失する。その結果、被覆フイルム1は不透明ないし半透明となって直射日光が分散して柔らかい光となって作物に照射される。従って、作物に焼け等の高温障害が発生することを防止することができ、野菜、果実作物、花卉等多くの作物の栽培に使用することができる。
【0047】
【実施例】以下に本発明の実施例をについて挙げるが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0048】(使用したフィルム)
1.本発明1フィルム:積層フィルム下記無機粉体含有フィルム層に防曇剤(グリセリンモノステアレート)を混練した下記組成の積層フィルムを使用した。この積層フィルムの無機粉体含有フィルム層の表面粗さはRa=0.3(JIS B-0601-82準拠)であった。
【0049】(1)透明フィルム層 100μm
樹脂: エチレン・酢酸ビニル共重合体
MI=0.5、酢ビ含量=15%
(2)無機粉体含有フィルム層 30μm
樹脂: エチレン・酢酸ビニル共重合体
MI=0.5、酢ビ含量=15%
無機粉体:ケイ藻土
添加量:5wt%(エチレン・酢酸ビニル共重合体に対して)
屈折率:1.47
平均粒径:4.5μm」
(2) 甲2発明
上記(1)において「フィルム」及び「フイルム」との表記があるが、これらがいずれも「フィルム」を指すことは明らかであるから、上記(1)を総合すると、甲2には次の2の発明(以下、それぞれ「甲2発明」及び「甲2ハウス発明」という。)が記載されている。
<甲2発明>
「透明フィルム層に無機粉体が配合された無機粉体含有フィルム層が積層され、
透明フィルム層および無機粉体含有フィルム層に使用される透明樹脂としてはエチレン系重合体、プロピレン系重合体等のポリオレフィンおよび塩化ビニル等を用い、中でも低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体が好ましく、
無機粉体含有フィルム層に添加される無機粉体を構成する無機物としては、石英、シリカゲル、ケイ藻土、等の酸化珪素、各種天然または合成の珪酸塩類を使用することができ、
無機粉体含有フィルム層側の表面は微小な凹凸のある梨地面が形成され、
梨地面は、平均表面粗さRa(JIS B-0601-82準拠)が0.1~3.0μmの範囲であり、
透明フィルム層は積層フィルム層であってもよく、被覆フィルムは、3層以上の構造とすることもでき、各層には各種の紫外線吸収剤、光安定剤(耐候性改良)、保温剤、赤外線吸収剤等を適宜添加し、各種機能を付与することもでき、
無機粉体含有フィルム層面がトンネルあるいはハウスの内側となるように張設し、水分が無機粉体含有フィルム層面に付着する作物栽培に用いられる被覆フィルム。」
<甲2ハウス発明>
「甲2発明の被覆フィルムが張設されたトンネルあるいはハウス。」
3 甲3について
(1) 甲3に記載された事項
ア 【特許請求の範囲】【請求項1】
「【請求項1】
少なくとも、ポリフッ化ビニリデン系樹脂60~95質量部とポリメタクリル酸エステル系樹脂40~5質量部とからなる保護層(A)、紫外線吸収剤を含有しポリフッ化ビニリデン系樹脂0~40質量部とポリメタクリル酸エステル系樹脂100~60質量部とからなる紫外線吸収層(B)、接着層(C)、及びポリオレフィン系樹脂からなる基材層(D)を、この順序で含んでなり、算術平均粗さRaで表される表面粗度が0.8~3.2μmの前記基材層(D)側の表面に、シリカを主成分とする防滴層(E)が形成されている農業用フッ素含有多層フィルム。」
イ 段落【0010】及び【0011】
「【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、従来のフッ素フィルムと同等レベルの耐候性及び長期展張性を有し、特に防滴性に優れ、かつ低コストな農業用フッ素含有多層フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】 本発明者等は、グリーンハウスでの使用において、展張初期の良好な防滴性能を維持しつつ長期使用可能な農業用多層フィルムの開発を鋭意検討し、本発明に至った。」
ウ 段落【0026】~【0028】
「【0026】
<基材層(D)> 基材層(D)にはポリオレフィン系樹脂が好適に使用できるが、ポリオレフィン系樹脂としては、α-オレフィン系の単独重合体、α-オレフィンを主成分とする異種単量体との共重合体、α-オレフィンを主成分とする共役ジエンまたは非共役ジエン等の多不飽和化合物との共重合体などがあげられ、例えば高密度、低密度または直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体等が挙げられる。これらのうち、密度が0.890~0.935の低密度ポリエチレンが、透明性や耐候性および価格の点から好ましい。また基材層(D)の厚みは、十分な強度及び柔軟性を与えるという観点から、30~120μmが好ましく、より好ましくは50~120μmである。
【0027】
基材層(D)には、必要に応じて安定化剤、分散剤、酸化防止剤、艶消し剤、界面活性剤、帯電防止剤、フッ素系表面改質剤、加工助剤及び紫外線吸収剤等の各種添加剤をそれらの分散性が損なわれない範囲で添加することも可能である。
【0028】
本発明の農業用フッ素含有多層フィルムは、以上説明してきた保護層(A)、紫外線吸収層(B)、接着層(C)及び基材層(D)を、この順序で配置した積層構成を有するが、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、この積層構成には他の層を含んでもよい。例えば、保護層(A)の表面に他の層を積層して、二層構成の保護層とすることもできるし、基材層(D)の表面に他の層を積層して、二層構成の基材層とすることもできる。また、例えば、層間接着性の向上を目的として、各層の間に他の層を挿入することもできる。なお、基材層(D)の表面に他の層を積層する場合には、後述する算術平均粗さRaで表される表面粗度=0.8~3.2μmが、他の層の表面に付与されることは言うまでもない。」
エ 段落【0031】
「【0031】
<防滴層(E)>
防滴層(E)に用いる防滴剤としては、例えば、アルコール可溶型もしくは水分散型のフッ素ポリマーにコロイダルシリカを主成分として配合したもの、親水性重合体にコロイダルシリカを主成分として配合したもの等が挙げられる。親水性重合体としては、ポリビニールアルコールや、-SO3H、-COOH、-NH2、-CN、-OCH2CH3等の一般に親水性の官能基を有する重合体が含まれる。また、これらの防滴剤には界面活性剤を含んでいてもよく、界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系のいずれの界面活性剤であってもよい。」
オ 段落【0036】
「【0036】
基材層(D)側の表面に、算術平均粗さRaで表される表面粗度=0.8~3.2μmを付与する方法としては、特に限定されず、例えば、上述した多層フィルムの製造方法において、ダイリップの吐出部から加熱溶融した多層樹脂を引き取り、冷却固化してフィルムを製膜する際、所定の表面粗度を付与できるように予め凹凸加工を施した金属冷却ロールで引き取る方法が一般的である。また、このときの金属冷却ロールの設定温度を50℃以上とすることで、保護層(A)において、下記(1)式によって定まるポリフッ化ビニリデン系樹脂のβ晶比率が40%以下とすることができる。
[図:0001400405000001.jpg]
」
カ 段落【0040】~【0042】
「【0040】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例において使用した原料と、作製したフィルムの評価方法は次の通りである。・・・中略・・・
【0041】
<使用原料>
(保護層(A)、紫外線吸収層(B))
ポリフッ化ビニリデン系樹脂:「カイナーK720」(アルケマ株式会社製)結晶性ポリマーでフッ素含有量約59%、融点約170℃のポリフッ化ビニリデン系樹脂,MFR(条件:230℃、3.8kg加重)5~29(g/10min)
ポリメタクリル酸エステル系樹脂:「ハイペットHBS000」(三菱レイヨン株式会社製)アクリル酸ブチル(n-BA)とメタクリル酸ブチル(BMA)のゴム成分を含むポリメタクリル酸エステル系樹脂。MFR(230℃,3.8kg加重)4~7(g/10min)
紫外線吸収剤:トリアジン系紫外線吸収剤「TINUVIN 1577 ED」(BASF社製)、酸化亜鉛「DIF-H3」(堺化学株式会社製)
(接着層(C))
熱可塑性エラストマー:SEBS系エラストマー「タフテックH1221」(旭化成ケミカルズ株式会社製)密度0.89g/cm3,MFR(条件:230℃、3.8kg加重)4.5(g/10min)
(基材層(D))
ポリオレフィン系樹脂:特殊LLDPE樹脂「NC566A」(日本ポリエチレン株式会社製)密度0.918g/cm3,MFR(条件:230℃、3.8kg加重)3.8(g/10min)
(防滴層(E))
防滴剤:シリカ懸濁液「エクセルピュア」(中央自動車工業株式会社製)
【0042】
<評価方法>
(表面粗度)
表面処理を施し、防滴層(E)を形成する前の基材層(D)側の表面について、超深度形状測定顕微鏡「VK-8510」(キーエンス株式会社製)を用いて、対物レンズ×20倍及び測定の間隔0.5μmの測定条件にて、多層フィルムの長手方向に沿って基準長さ(L)=900μmの粗さ曲線Y=f(X)を測定し、その曲線からJISB0601に規定された計算式(前記(2)式)に基づき算術平均粗さRaを測定した。なお、測定は基材層(D)側表面上の任意箇所10点について行い、算術平均粗さRaはその平均値で表示した。」
(2) 甲3技術的事項
上記(1)を総合すると、甲3には次の技術的事項(以下、「甲3技術的事項」という。)が記載されている。
<甲3技術的事項>
「MFR(条件:230℃、3.8kg加重)3.8(g/10min)の特殊LLDPE樹脂であるポリオレフィン系樹脂で農業用フッ素含有多層フィルムの基材層を構成すること。」
4 進歩性の判断
(1) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
(ア) 甲2発明の「透明フィルム層」及び「作物栽培に用いられる被覆フィルム」は、本件特許発明1の「A層」及び「農業用フィルム」にそれぞれ相当する。
(イ) 「流滴」はトンネルやハウスの内側に付着した水分が落下することで生じるところ、甲2発明の「無機粉体含有フィルム層」は、「無機粉体含有フィルム層面がトンネルあるいはハウスの内側となるように張設し、水分が無機粉体含有フィルム層面に付着する」ものであるから、本件特許発明1の「流滴層」に相当する。
(ウ) 甲2発明の「梨地面は、平均表面粗さRa(JIS B-0601-82準拠)が0.1~3.0μmの範囲であ」ることは、「梨地面」が「流滴面側の層であ」る「無機粉体含有フィルム層側の表面」に「形成され」るから、本件特許発明1の「前記農業用フィルムの流滴層側の表面は、JIS B0601:2013に準拠して測定した算術平均粗さRaが0.1~3.0μmであ」ることに相当する。
(エ) 甲2発明の「石英、シリカゲル、ケイ藻土、等の酸化珪素、各種天然または合成の珪酸塩類」が一般に親水性であることは明らかであるから、甲2発明の「無機粉体含有フィルム層に添加される無機粉体を構成する無機物としては、石英、シリカゲル、ケイ藻土、等の酸化珪素、各種天然または合成の珪酸塩類を使用することができ」ることは、本件特許発明1の「前記流滴層は、親水性無機フィラーを含有」することに相当する。
(オ) 甲2発明の「透明フィルム層および無機粉体含有フィルム層に使用される透明樹脂としてはエチレン系重合体、プロピレン系重合体等のポリオレフィンおよび塩化ビニル等を用い、中でも低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体が好まし」いことは、本件特許発明1の「前記A層は、ポリオレフィン系樹脂を含有」することに相当する。
以上を総合すると、本件特許発明1と甲2発明は、
<一致点>
「少なくともA層及び流滴層を有する農業用フィルムであって、
(1)前記農業用フィルムの流滴層側の表面は、JIS B0601:2013に準拠して測定した算術平均粗さRaが0.1~3.0μmであり、
(2)前記流滴層は、親水性無機フィラーを含有し、
前記A層は、ポリオレフィン系樹脂を含有する、
農業用フィルム。」の点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は「乾燥時のヘイズ値(Hzd)と結露時のヘイズ値(Hzw)との差(Hzd-Hzw)が10%以上であ」るのに対し、甲2発明は乾燥時のヘイズ値(Hzd)と結露時のヘイズ値(Hzw)との差(Hzd-Hzw)が不明である点。
<相違点2>
「ポリオレフィン系樹脂」が、本件特許発明1は、「ポリオレフィン系樹脂の構成A」又は「ポリオレフィン系樹脂の構成B」であるのに対して、甲2発明は、ポリオレフィン系樹脂が「線状低密度ポリエチレン」である点。
イ 検討
事案に鑑み相違点2から検討する。
(ア) ポリオレフィン系樹脂をメルトフローレートが異なる2種以上のポリオレフィン系樹脂を含有することの技術的意義について
本件特許の明細書に次の記載がある。
「【0066】
A層は、JIS-K7210により測定されるメルトフローレートが異なる2種以上のポリオレフィン系樹脂を含有することが好ましい。当該構成とすることにより、A層の表面の算術平均粗さRaを調整し易くなり、上記A層の表面形状に追従するように流滴層を形成すれば、流滴層の表面のRaが上記範囲となり、本発明の農業用フィルムの流滴層側の表面のRaを0.1~3.0μmに容易に調整することができる。
【0067】
A層が、JIS-K7210により測定されるメルトフローレートが異なる2種以上のポリオレフィン系樹脂を含有する場合、上記ポリオレフィン系樹脂は、エチレン-酢酸ビニル共重合体、低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、エチレン-酢酸ビニル共重合体及び直鎖状低密度ポリエチレンから選択される少なくとも1種であることがより好ましい。当該構成とすることにより、A層の表面の算術平均粗さRaを調整し易くなり、上記A層の表面形状に追従するように流滴層を形成すれば、流滴層の表面のRaが上記範囲となり、本発明の農業用フィルムの流滴層側の表面のRaを0.1~3.0μmに容易に調整することができる。」
この記載からみて、A層をメルトフローレートが異なる2種以上のポリオレフィン系樹脂を含有することにより、A層の表面の算術平均粗さRaを調整し易くなり、上記A層の表面形状に追従するように流滴層を形成すれば、流滴層の表面のRaが上記範囲となり、本発明の農業用フィルムの流滴層側の表面のRaを0.1~3.0μmに容易に調整することができるものである。
(イ) 相違点2の判断について
a 甲3に記載された技術について
甲3には、MFR(条件:230℃、3.8kg加重)3.8(g/10min)の特殊LLDPE樹脂であるポリオレフィン系樹脂で農業用フッ素含有多層フィルムの基材層を構成すること(上記3(2)参照)が記載されている(ここで、「MFR」及び「LLDPE樹脂」の各々が「メルトフローレート」及び「直鎖状低密度ポリエチレン」の略表記であることは、技術常識である。)。
しかしながら、フィルムの表面の算術平均粗さRaを調整しやすいようにメルトフローレートの異なる2種以上のポリオレフィン系樹脂を含有するものでなく、それを示唆するものでもない。
b 申立人が申立書とともに提出した証拠に記載された技術について
申立人は申立書において、上記に示した甲2及び甲3とともに次の証拠を提出した。
甲1:特開2011-109991号公報
甲4:「ポリプロピレンシートの透明性に対する多層押出しの効果」、成形加工、第23巻、第5号、299~305頁(2011)
甲5:「原子間力顕微鏡によるポリオレフィンフィルム表面粗さの測定」、BUNSEKI KAGAKU、第45巻、第4号、347~351頁(1996)
甲6:特開平6-143509号公報
甲7:特開平11-60838号公報
甲8:特開平10-119213号公報
甲9:実験成績証明書
甲10:算術平均粗さRaと、乾燥時のヘイズ値(Hzd)と結露時のヘイズ値(Hzw)との差(Hzd-Hzw)との関係を示すグラフ図
甲11:スガ試験機株式会社のホームページ(https://www.sugatest.co.jp/function/ex2/)
甲12:JIS K7136:2000(https://www.kikakurui.com/k7/K7136-2000-01.html)
(a) 甲1には、「外層、中間層および内層の少なくとも3層からなる梨地状農業用ポリオレフィン系多層フィルムにおいて、該内層が、メルトフローレート1.2~10g/10分のエチレン-酢酸ビニル共重合体からなるポリオレフィン(A)75~95質量部と、該ポリオレフィン(A)よりメルトフローレートが0.2g/10分以上小さい高圧法低密度ポリエチレンおよび線状低密度ポリエチレンから選ばれる少なくとも一種からなるポリオレフィン(B)5~25質量部とからなり、前記内層の表面に、熱可塑性樹脂からなるバインダーと無機質コロイドゾルとからなる防曇性塗膜を有すること」(甲1の特許請求の範囲の請求項1参照)が記載されおり、本件特許発明1の「ポリオレフィン系樹脂の構成A」の一部と同じ構成のものである。
しかしながら、甲1には、メルトフローレートが異なる2つのエチレン-酢酸ビニル共重合体からなるポリオレフィンにより、フィルムの表面の算術平均粗さRaを調整しやすくすることについて記載も示唆もない。
(b) 甲6には、「最外層の少なくとも一層が、酢酸ビニル含有量が20~35重量%、メル トフローレート(MFR)が4~50g/10分のエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)及びMFRが0.04~2.0g/10分の低密度ポリエチレン(B)の混合物からなり、且つ(A)と(B)の混合割合が(A)/(B)=35~90/65~10(重量比)、該混合物の平均酢酸ビニル含有量が12~22重量%、及びそのMFR比((A)のMFR/(B)のMFR)=10~100である混合物層と、他のオレフィン系樹脂層とからなる多層構造をなし、全光線透過率が80%以上、トランスが10%以下である農業用フィルム」(特許請求の範囲の請求項1)が記載され、甲6の段落【0003】に従来技術として記載された特開昭59-145156号に「農業用フィルムにおいて、外層の少なくとも一層にメルトインデックスが0.01g/10分以上20g/10分以下の線状ポリエチレンと、樹脂とをブレンドして成る樹脂組成物から成る樹脂層を設け、フィルム加工時にタイ吐出直後のフィルムが、表面マット化されると同時に結晶化収縮に伴うごく微細な表面凹凸が付与されること」(2頁右下欄第13行~3頁右上欄5行、3頁左下欄7~下から2行、7頁右下欄9~17行を参照。)が記載されているが、これらには、メルトフローレートが異なる2種以上で構成することは記載されているものの、本件特許発明1の「ポリオレフィン系樹脂の構成A」又は「ポリオレフィン系樹脂の構成B」とは構成が異なり、上記のメルトフローレートが異なる2つのエチレン-酢酸ビニル共重合体からなるポリオレフィンにより、フィルムの表面の算術平均粗さRaを調整しやすくすることについて記載も示唆もない。
(c) そして、甲4、5、7~12には、フィルムの表面の算術平均粗さRaを調整しやすいようにメルトフローレートの異なる2種以上のポリオレフィン系樹脂を含有することについて記載も示唆もない。
(d) よって、上記の各甲号証に、メルトフローレートが異なるポリオレフィンにより、フィルムの表面の算術平均粗さRaを調整しやすくすることが記載も示唆もなく、そのようなことが周知技術又は技術常識ともいえないから、甲2発明に対し、甲1、3~12に記載された技術を適用する動機付けがあるとはいえず、甲2発明に甲1、3~12に記載された技術を適用したとしても、相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ 本件特許発明1の進歩性についてのまとめ
相違点1を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明及び甲1、3~12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2) 本件特許発明4~8
本件特許発明4~8のそれぞれは、本件特許発明1で特定された事項を限定したものであるから、本件特許発明4~8のそれぞれと甲2発明を対比すると、少なくとも上記(1)の相違点2で相違するものである。
よって、上記(1)イと同様の理由により、本件特許発明4~8のそれぞれは、甲2発明及び甲1、3~12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 本件特許発明9
本件特許発明9と甲2ハウス発明を対比する。
甲2発明の「被覆フィルム」が農業用のものであることは明らかであるので、甲2発明の「ハウス」は、本件特許発明9の「農業用ハウス」に相当する。
そうすると、本件特許発明9と甲2ハウス発明を対比すると、少なくとも上記(1)の相違点2で相違するものである。
よって、上記(1)イと同様の理由により、本件特許発明9は、甲2ハウス発明及び甲1、3~12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5 取消理由(進歩性)の小括
本件特許発明1及び4~8は、甲2発明及び甲1、3~12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでなく、本件特許発明9は、甲2ハウス発明及び甲1、3~12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知書で採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由
申立人は、申立書において甲1~12を提出するとともに、次の取消理由を申し立てた。
(取消理由1) 本件特許発明1~9は、甲1~3の何れかに記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、本件特許発明1~9は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号の規定により取り消されるべきである(申立書2~48頁)。
(取消理由2) 本件特許発明1~9は、甲1、3のいずれかを主たる引用発明として、甲1~12の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号の規定により取り消されるべきである(申立書2~48頁)。
(取消理由3) 本件特許明細書にはRaを0.1~3.0μmにする方法が記載されておらず、明細書又は特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていないから、同法113条4号の規定により取り消されるべきである(申立書49及び50頁)。
2 申立書の特許異議申立理由についての判断
(1)取消理由1及び2について
ア 甲1に記載された発明を主たる引用発明とする場合について
(ア) 甲1に記載された発明
甲1には次の2つの発明が記載(以下、それぞれ「甲1発明」及び「甲1ハウス発明」という。)されている。
<甲1発明>
「少なくとも3層からなる梨地状農業用ポリオレフィン系多層フィルムにおいて、内層が、メルトフローレート1.2~10g/10分のエチレン-酢酸ビニル共重合体からなるポリオレフィン(A)75~95質量部と、該ポリオレフィン(A)よりメルトフローレートが0.2g/10分以上小さい高圧法低密度ポリエチレンおよび線状低密度ポリエチレンから選ばれる少なくとも一種からなるポリオレフィン(B)5~25質量部とからなり、前記内層の表面に、熱可塑性樹脂からなるバインダーと無機質コロイドゾルとからなる防曇性塗膜を有する梨地状農業用ポリオレフィン系多層フィルム。」(特許請求の範囲の請求項1)
<甲1ハウス発明>
「甲1発明の梨地状農業用ポリオレフィン系多層フィルムが張設された農業用ハウス。」(特許請求の範囲の請求項1、段落【0034】)
(イ)対比・判断
a 本件特許発明1
(a) 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、少なくとも次の点で相違する。
<相違点3>
本件特許発明1は、「前記農業用フィルムの流滴層側の表面は、JIS B0601:2013に準拠して測定した算術平均粗さRaが0.1~3.0μmであ」って、ポリオレフィン系樹脂が「ポリオレフィン系樹脂の構成A」又は「ポリオレフィン系樹脂の構成B」であるのに対して、甲1発明は、フィルムの表面の粗さが不明であり、ポリオレフィン系樹脂が「メルトフローレート1.2~10g/10分のエチレン-酢酸ビニル共重合体からなるポリオレフィン(A)75~95質量部と、該ポリオレフィン(A)よりメルトフローレートが0.2g/10分以上小さい高圧法低密度ポリエチレンおよび線状低密度ポリエチレンから選ばれる少なくとも一種からなるポリオレフィン(B)5~25質量部とからな」る点。
(b) 判断
上記相違点3は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲1発明ではない。
次に、相違点3について検討するに、甲1発明は、メルトフローレートが異なる2つのエチレン-酢酸ビニル共重合体からなるポリオレフィンにより、フィルムの表面の算術平均粗さRaを調整しやすくすることについて記載も示唆もなく、甲2~12も同様である(上記第4の4(1)イ(イ)を参照。)から、甲1発明に対し、甲2~12に記載された技術を適用する動機付けがあるとはいえず、甲1発明に甲2~12に記載された技術を適用したとしても、相違点3に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件特許発明1は、甲1発明でなく、甲1発明及び甲2~12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
b 本件特許発明4~8
本件特許発明4~8のそれぞれは、本件特許発明1で特定された事項を限定したものであるから、本件特許発明4~8のそれぞれと甲1発明を対比すると、少なくとも上記a(a)の相違点3で相違するものである。
よって、上記a(b)と同様の理由により、本件特許発明4~8のそれぞれは、甲1発明でなく、甲1発明及び甲2~12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
c 本件特許発明9
本件特許発明9と甲1ハウス発明を対比すると、少なくとも上記a(a)の相違点3で相違するものである。
よって、上記a(b)と同様の理由により、本件特許発明9は、甲1ハウス発明でなく、甲1ハウス発明及び甲2~12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 甲2に記載された発明を主たる引用発明とする場合について
甲2には、上記第4の2(2)に記載された甲2発明及び甲2ハウス発明が記載されている。
本件特許発明1及び4~8と甲2発明を対比すると、少なくとも上記第4の4(1)のアの相違点2で相違し、相違点2は実質的である。
そして、本件特許発明9と甲2ハウス発明を対比すると、上記相違点2で相違し、相違点2は実質的である。
よって、本件特許発明1及び4~8は甲2発明ではなく、本件特許発明9は甲2ハウス発明ではない。
ウ 甲3に記載された発明を主たる引用発明とする場合について
(ア) 甲3に記載された発明
甲3には次の2つの発明が記載(以下、それぞれ「甲3発明」及び「甲3ハウス発明」という。)されている。
<甲3発明>
「少なくとも、ポリフッ化ビニリデン系樹脂60~95質量部とポリメタクリル酸エステル系樹脂40~5質量部とからなる保護層(A)、紫外線吸収剤を含有しポリフッ化ビニリデン系樹脂0~40質量部とポリメタクリル酸エステル系樹脂100~60質量部とからなる紫外線吸収層(B)、接着層(C)、及びポリオレフィン系樹脂からなる基材層(D)を、この順序で含んでなり、算術平均粗さRaで表される表面粗度が0.8~3.2μmの前記基材層(D)側の表面に、シリカを主成分とする防滴層(E)が形成され、(特許請求の範囲の請求項1)
基材層(D)のポリオレフィン系樹脂は、MFR(条件:230℃、3.8kg加重)3.8(g/10min)の特殊LLDPE樹脂である、(【0041】)
農業用フッ素含有多層フィルム。(特許請求の範囲の請求項1)」
<甲3ハウス発明>
「甲3発明の農業用フッ素含有多層フィルムが被覆材として使用されたグリーンハウス。」(特許請求の範囲の請求項1、段落【0038】)
(イ) 対比・判断
a 本件特許発明1
(a) 対比
本件特許発明1と甲3発明を対比すると、少なくとも次の点で相違する。
<相違点4>
本件特許発明1は、「前記農業用フィルムの流滴層側の表面は、JIS B0601:2013に準拠して測定した算術平均粗さRaが0.1~3.0μmであ」って、ポリオレフィン系樹脂が「ポリオレフィン系樹脂の構成A」又は「ポリオレフィン系樹脂の構成B」であるのに対して、甲3発明は、フィルムの表面の粗さが不明であり、ポリオレフィン系樹脂が「MFR(条件:230℃、3.8kg加重)3.8(g/10min)の特殊LLDPE樹脂である」点。
(b) 判断
上記相違点4は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲3発明ではない。
次に、相違点4について検討するに、上記第4の4(1)イ(イ)で検討したとおり、甲3発明は、フィルムの表面の算術平均粗さRaを調整しやすいようにメルトフローレートの異なる2種以上のポリオレフィン系樹脂を含有するものでなく、それを示唆するものでもなく、甲2~12も同様である(上記第4の4(1)イ(イ)を参照。)から、甲3発明に対し、甲1、2及び4~12に記載された技術を適用する動機付けがあるとはいえず、甲3発明に甲1、2及び4~12に記載された技術を適用したとしても、相違点4に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件特許発明1は、甲3発明でなく、甲3発明及び甲1、2及び4~12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
b 本件特許発明4~8
本件特許発明4~8のそれぞれは、本件特許発明1で特定された事項を限定したものであるから、本件特許発明4~8のそれぞれと甲3発明を対比すると、少なくとも上記a(a)の相違点4で相違するものである。
よって、上記a(b)と同様の理由により、本件特許発明4~8のそれぞれは、甲3発明でなく、甲3発明及び甲1、2及び4~12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
c 本件特許発明9
本件特許発明9と甲3ハウス発明を対比すると、少なくとも上記a(a)の相違点4で相違するものである。
よって、上記a(b)と同様の理由により、本件特許発明9は、甲3ハウス発明でなく、甲3ハウス発明及び甲1、2及び4~12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 取消理由1及び2の小括
上記ア~ウのとおり、本件特許発明1、4~8のそれぞれは、甲1発明、甲2発明、甲3発明のいずれではなく、甲1発明及び甲2~12に記載された事項、又は、甲3発明及び甲1、2及び4~12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
そして、本件特許発明9は、甲1ハウス発明、甲2ハウス発明、甲3ハウス発明のいずれではなく、甲1ハウス発明及び甲2~12に記載された事項、又は、甲3ハウス発明及び甲1、2及び4~12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)取消理由3について
1 実施可能要件の検討
ア 発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要するものであり、本件特許発明1及び4~9の「農業用フィルム」又は「農業用フィルムを有する農業用ハウス、農業用カーテン又は農業用トンネル」という物の発明については、発明の詳細な説明の記載が、当該記載及び出願時の技術常識に照らし、これを製造でき、かつ、使用できる程度の記載であれば、実施可能であるといえる。
以下、上記の観点から、本件明細書の発明の詳細な説明が実施可能要件に適合するか否かについて検討する。
イ 本件訂正により、本件特許発明1及び4~9は、「A層」が「ポリオレフィン系樹脂を含有」すること及び「ポリオレフィン系樹脂」が「ポリオレフィン系樹脂の構成A」又は「ポリオレフィン系樹脂の構成B」であることが特定された。
そして、本件特許明細書において「ポリオレフィン系樹脂」が「ポリオレフィン系樹脂の構成A」又は「ポリオレフィン系樹脂の構成B」の実施例1~4及び実施例6が記載されており、各々の実施例は本件特許発明1~9の「(1)前記農業用フィルムの流滴層側の表面は、JIS B0601:2013に準拠して測定した算術平均粗さRaが0.1~3.0μmであ」ること、及び、「(3)乾燥時のヘイズ値(Hzd)と結露時のヘイズ値(Hzw)との差(Hzd-Hzw)が10%以上であ」ることを満たすものであり、「ポリオレフィン系樹脂の構成A」又は「ポリオレフィン系樹脂の構成B」の条件を満たさない比較例1~3と比較すると、「ポリオレフィン系樹脂の構成A」又は「ポリオレフィン系樹脂の構成B」の構成により、「Ra」の数値範囲と「乾燥時のヘイズ値(Hzd)と結露時のヘイズ値(Hzw)との差(Hzd-Hzw)」の数値範囲の双方を満たす「農業用フィルム」又は「農業用フィルムを有する農業用ハウス、農業用カーテン又は農業用トンネル」を、当業者が過度の試行錯誤を要することなく製造することができる程度に記載されており、実施可能といえないものではない。
第6 むすび
したがって、第2回決定の予告に記載した取消理由又は申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1及び4~9に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許発明1及び4~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2及び3に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項2及び3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700801