2022-701222
光学ガラス、プリフォーム及び光学素子
- 審判番号
- 2022-701222
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-234492外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7089844
- 請求日
- 2022年12月08日
- 審決日
- 2023年03月28日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 維持
- 分類
- P1651.121-Y (C03C) / P1651.161-Y (C03C) / P1651.537-Y (C03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第184条の15第2項、特許法第29条の2、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 6項目
第1 手続の経緯
特許第7089844号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成28年12月1日(優先権主張 平成27年12月7日)に出願され、令和4年6月15日にその特許権の設定登録がされ、令和4年6月23日に特許掲載公報が発行された。
その後、請求項1~7に係る特許に対して、令和4年12月8日に特許異議申立人森一郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許請求の範囲の記載(本件特許発明)
本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件特許発明1」などという。)。
「【請求項1】酸化物換算組成の質量%で、SiO2成分を15.0~40.0%、Nb2O5成分を28.0~45.0%、続きを表示(全45行)Ta2O5成分を0~1.0%未満、Li2O成分を0~10.0%未満、Rn2O成分を10.0%超~20.0%、ZnO成分を0~1.38%、B2O3成分を0~6.0%未満、ZrO2成分を1.00~11.0%、TiO2成分を0~10.0%未満含有し、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の質量和が0~2.29%であり、質量比でSiO2/Rn2Oが4.0未満(RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)であり、(SiO2+B2O3)/Nb2O5が0.9以上2.0未満であり、屈折率(nd)が1.65~1.80であり、アッベ数(νd)が28~45であり、部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、(-0.00256×νd+0.637)≦(θg,F)≦(-0.00256×νd+0.689)の関係を満たす光学ガラス。【請求項2】酸化物換算組成の質量%で、WO3成分 0~10.0%、MgO成分 0~1.0%未満、SrO成分 0~2.29%、La2O3成分 0~10.0%、Gd2O3成分 0~10.0%、Y2O3成分 0~10.0%、Yb2O3成分 0~10.0%、Na2O成分 0~20.0%、K2O成分 0~10.0%、P2O5成分 0~10.0%、GeO2成分 0~10.0%、Al2O3成分 0~10.0%、Ga2O3成分 0~10.0%、Bi2O3成分 0~10.0%、TeO2成分 0~5.0%、及びSnO2成分 0~1.0%を含有しSb2O3成分 0~1.0%である請求項1に記載の光学ガラス。【請求項3】酸化物基準の質量%で、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が0~15.0%である請求項1又は2いずれか記載の光学ガラス。【請求項4】分光透過率が80%を示す波長(λ80)が450nm以下であり、分光透過率が5%を示す波長(λ5)が365nm以下である請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。【請求項5】請求項1から4のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。【請求項6】請求項1から4のいずれか記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。【請求項7】請求項5に記載の光学素子を備える光学機器。」
第3 特許異議の申立てについて
1 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証 国際公開第01/72650号
甲第2号証 特開2003-54983号公報
甲第3号証 特開昭52-45612号公報
甲第4号証 特開平1-219036号公報
甲第5号証 国際公開第2017/090646号
甲第6号証 実験成績証明書(1)
甲第7号証 実験成績証明書(2)
甲第8号証 実験成績証明書(3)
甲第9号証 実験成績証明書(4)
甲第10号証 実験成績証明書(5)
(1) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
本件特許発明1~7は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、当該甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(2) 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
本件特許発明1~7は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、当該甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(3) 申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件特許発明1~7は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(4) 申立理由4(甲第4号証を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件特許発明1、3~7は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(5) 申立理由5(拡大先願要件違反)
本件特許発明1~3、5~7は、特許法第184条の15第2項の規定により読み替えて適用される同法第41条第3項の規定により、甲第5号証の国際公開がされた時に出願公開されたものとみなされる特願2015-229151号(以下、「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下、それぞれ「先願明細書」、「先願特許請求の範囲」といい、まとめて「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者が先願明細書等に記載された発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願時において、本件特許の出願人が先願の出願人と同一でもないので、その特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。
(6) 申立理由6(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が後記2(6)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
(1) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲第1号証に記載された発明
申立人は、甲第1号証の明細書第3頁第5~22行、第5頁第7行~9行の記載(請求の範囲の請求項1、4に対応する記載)等、及び、実施例5の記載等に基づき、甲第1号証に記載された2つの発明を特定して申立理由1を主張しているので、ここでは、当該記載から甲第1号証に記載された2つの発明を改めて認定する。
(ア) 甲1発明1について
甲第1号証には、請求の範囲の請求項1及び4に記載された「光学ガラス」に注目して整理すると、次の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されていると認められる。
「酸化物基準の質量%で、SiO2 30~55%、ZrO2 0.5~10%、Nb2O5 20~50%、続きを表示(全18行)Ta2O5 0~15%、Li2O 0~25%、Na2O 0~25%、K2O 0~25%、ただし、Li2O+Na2O+K2O 12~25%、MgO 0~ 5%未満、CaO 0~ 5%未満、SrO 0~ 5%未満、BaO 0~ 5%未満、ZnO 0~ 5%未満、ただし、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0~ 5%未満、Sb2O3 0~ 1%の範囲の各成分を含有し、屈折率(nd)が1.60~1.78、アッベ数(νd)が29~45の範囲の光学定数を有し、異常分散性を示すΔθg,Fの値が-0.0009以下である、光学ガラス。」
(イ) 甲1発明2について
甲第1号証には、実施例欄(明細書第9頁第5行~第20頁第5行)の実施例5(表2)の「光学ガラス」に注目して整理すると、次の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。
「SiO2が39.00質量%、ZrO2が3.00質量%、Nb2O5が44.00質量%、Ta2O5が0.50質量%、Li2Oが12.45質量%、Na2Oが1.00質量%、K2Oが0質量%、Sb2O3が0.05質量%で含有し、Li2O+Na2O+K2Oが13.45質量%であり、屈折率(nd)が1.75841、アッベ数(νd)が32.2の光学定数を有し、部分分散比(θg,F)が0.58739,異常分散性(Δθg,F)が-0.0020である、光学ガラス。」
イ 本件特許発明1について
(ア) 甲1発明1との対比、判断
a 本件特許発明1と甲1発明1の対比
本件特許発明1と甲1発明1とを対比すると、少なくとも以下の点で相違している。
(相違点1)
本件特許発明1の「酸化物換算組成」に対して、甲1発明1のガラス組成は、本件特許発明1の各成分の含有量範囲と一部重複するものの、当該含有量範囲から外れる範囲を含み、また、SiO2/Rn2O(RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)や(SiO2+B2O3)/Nb2O5の質量比も特定されていない点。
b 相違点1の検討
本件特許発明1は、「酸化物換算組成」を所定の範囲にしつつ、屈折率(nd)、アッベ数(νd)及び部分分散比(θg,F)を特定することで、「屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が所望の範囲内にありながら、部分分散比(θg,F)の小さい光学ガラスを、より安価に得ることができる」(本件特許明細書【0021】)との効果を奏するものといえる。
特に、本件特許発明1の「酸化物換算組成」は、「質量比でSiO2/Rn2Oが4.0未満(RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)」、「(SiO2+B2O3)/Nb2O5が0.9以上2.0未満」及び「Ta2O5成分を0~1.0%未満」と特定することで、それぞれ、「目的の光学恒数を得ることができ、且つ異常分散性を小さくすることができ、さらにガラスの液相温度を低くすることができる」(同【0028】)、「異常分散性を維持しつつ目的とする光学恒数まで調整することができる」(同【0029】)、及び、「希少鉱物資源であるTa2O5成分の使用量が減り、且つガラスがより低温で熔解し易くなるため、ガラスの生産コストを低減できる」(同【0043】)というものである。
他方、甲第1号証には、「SiO2成分は、ガラス形成酸化物であるとともに、ガラスの失透に対する安定性および化学的耐久性を向上させる成分であり、失透に対する安定性および化学的耐久性を維持するためには、30%以上必要であるが、その量が55%を超えるとガラスの粘性が高くなり溶融性が悪くなる。」(明細書第7頁第11~14行)、「Nb2O5成分は、所望の光学定数を維持するために欠くことができない成分であり、かつ、紫外線励起により生じるガラスのけい光(蛍光)の強さを低める効果を有する成分である。しかし、Nb2O5成分の量が20%未満では所望の光学定数を維持することが困難となり、また、50%を超えると光線透過性が悪化するとともに、ガラスが失透しやすくなる。」(同第7頁第21~25行)、「Li2O、Na2OおよびK2Oの各成分は、いずれも、ガラスの溶融を促進する効果があり、これらの成分を添加することにより、ガラス化範囲を拡大させることができる。さらに、これらの成分には、ガラスに負の異常分散性を与える効果があるが、これらの成分の1種または2種以上の合計量が12%未満であると、上記各効果が十分に得られなくなる。」(同第8頁第9~13行)、及び、「本発明のガラスに上記以外の成分、例えば、B2O3成分を負の異常分散性を大きくする目的で添加してもさしつかえないが、ガラスの化学的耐久性を損なわないために、B2O3成分の量を5%未満とすべきである。」(同第9頁第1~3行)との記載があるものの、SiO2/Rn2O(RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)や(SiO2+B2O3)/Nb2O5の質量比を特定の範囲に調整する技術的思想をうかがい知ることはできない。
また、甲第1号証には、「Ta2O5成分は、ガラスに含有させることによって、所望範囲の光学定数を維持しつつ、負の異常分散性を大きくし、かつ、光線透過性および化学的耐久性を向上させる効果があるが、その量が15%を超えると、溶融ガラス中に未溶融物を生じ、均質なガラスを得難くなる。また、上記効果を十分に得るためには、Ta2O5成分を1%以上含有させることがより好ましい。」(明細書第7頁第26行~第8頁第5行)ことが記載されている。
これらの事項を併せ考えれば、相違点1は実質的なものであるといえるし、また、甲1発明1において、相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
c 小括
したがって、その余について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明1であるといえないし、また、甲1発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(イ) 甲1発明2との対比、判断
a 本件特許発明1と甲1発明2の対比
本件特許発明1と甲1発明2とを対比すると、少なくとも以下の点で相違している。
(相違点2)
本件特許発明1では、「酸化物換算組成」について、「Li2O成分を0~10.0%未満」含有しているのに対して、甲1発明2では、「Li2Oが12.45質量%」で含有している点。
b 相違点2の検討
甲第1号証には、「本発明の目的」として、「大きな負の異常分散性を有し」た「光学ガラスを提供する」(明細書第2頁第17~22行)ことが記載され、さらに、「Li2O、Na2OおよびK2Oの各成分」には、「ガラスに負の異常分散性を与える効果があるが」、「これらの成分のうちLi2O成分は、特に負の異常分散性を大きくする効果が大きい」(同第8頁第9~18行)ことが記載されている。
これらの記載によれば、Li2O成分、Na2O成分及びK2O成分は、置換可能な等価成分であるといえないし、また、Li2O成分の一部を、Na2O成分又はK2O成分に置換することは、負の異常分散性を与える効果を小さくすることにつながるため、光学ガラスの負の異常分散性を大きくするという上記甲第1号証記載の目的に反することになるから、甲1発明2において、Li2O成分の一部を他成分に置換して、その含有量を10.0質量%未満とすることは、甲第6号証の実験成績証明書(1)の結果に関わらず、当業者にとって容易想到の事項であるといえない。
c 小括
したがって、その余について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明2であるといえないし、また、甲1発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
ウ 本件特許発明2~7について
本件特許発明2~7は、本件特許発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件特許発明2~4、6は、甲1発明1及び甲1発明2であるといえないし、また、甲1発明1及び甲1発明2に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
エ 申立理由1についての結論
以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。
(2) 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲第2号証に記載された発明
申立人は、甲第2号証の発明の詳細な説明の【0008】、【0010】の記載(特許請求の範囲の請求項1に対応する記載)等、及び、実施例10の記載等に基づき、甲第2号証に記載された2つの発明を特定して申立理由2を主張しているので、ここでは、当該記載から甲第2号証に記載された2つの発明を改めて認定する。
(ア) 甲2発明1について
甲第2号証には、特許請求の範囲の請求項1に記載された「光学ガラス」に注目して整理すると、次の発明(以下、「甲2発明1」という。)が記載されていると認められる。
「屈折率(nd)が1.60~1.69及びアッベ数(νd)が35~45の範囲の光学定数を有する光学ガラスであって、ガラス転移温度(Tg)が400~500℃の範囲内にあり、Tg+100℃に30分保温の条件で失透せず、質量%で、SiO2 20~40%未満B2O3 5~20%Al2O3 0~ 5%続きを表示(全17行)ZrO2 3%より多く15%以下Nb2O5 10~30%MgO 0~ 5%未満CaO 0~ 5%未満ただし、MgO+CaO 0~ 5%未満SrO 0~10%BaO 0~10%ZnO 0~18%Li2O 1~15%Na2O 1~10%K2O 1~10%Sb2O3 0~ 1%の範囲の各成分を含有する光学ガラス。」
(イ) 甲2発明2について
甲第2号証には、発明の詳細な説明の実施例欄(【0029】~【0035】)の実施例10(表2)の「光学ガラス」に注目して整理すると、次の発明(以下、「甲2発明2」という。)が記載されていると認められる。
「SiO2が33.0質量%、B2O3が11.0質量%、Al2O3が0質量%、ZrO2が4.0質量%、Nb2O5が30.0質量%、MgOが0質量%、CaOが0質量%、SrOが0質量%、BaOが0質量%、ZnOが6.0質量%、Li2Oが8.0質量%、Na2Oが4.0質量%、K2Oが4.0質量%、Sb2O3が0質量%で含有するガラス組成であって、MgO+CaOが0質量%、Li2O+Na2O+K2Oが17.0質量%であり、屈折率(nd)が1.685、アッベ数(νd)が36.5である、光学ガラス。」
イ 本件特許発明1について
(ア) 甲2発明1との対比、判断
a 本件特許発明1と甲2発明1の対比
本件特許発明1と甲2発明1とを対比すると、少なくとも以下の点で相違している。
(相違点3)
本件特許発明1の「酸化物換算組成」に対して、甲2発明1のガラス組成は、本件特許発明1の各成分の含有量範囲と一部重複するものの、当該含有量範囲から外れる範囲を含み、また、SiO2/Rn2O(RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)や(SiO2+B2O3)/Nb2O5の質量比も特定されていない点。
b 相違点3の検討
甲第2号証には、SiO2成分、B2O3成分及びNb2O5成分の各含有量範囲、並びに、Li2O成分、Na2O成分及びK2O成分の合計含有量範囲の限定の理由や、Ta2O5を適量含有させることについて記載されているものの(【0013】、【0014】、【0017】、【0025】、【0027】)、SiO2/Rn2O(RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)や(SiO2+B2O3)/Nb2O5の質量比を特定の範囲に調整する技術的思想は記載も示唆もされていないため、前記(1)イ(ア)bで検討したのと同様の理由により、前記相違点3は実質的なものであるといえるし、また、甲2発明1において、相違点3に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
c 小括
したがって、その余について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明1であるといえないし、また、甲2発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(イ) 甲2発明2との対比、判断
a 本件特許発明1と甲2発明2の対比
本件特許発明1と甲2発明2とを対比すると、少なくとも以下の点で相違している。
(相違点4)
本件特許発明1では、「酸化物換算組成」について、「B2O3成分を0~6.0%未満」含有しているのに対して、甲2発明2では、「B2O3が11.0質量%」で含有している点。
(相違点5)
本件特許発明1では、「部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、(-0.00256×νd+0.637)≦(θg,F)≦(-0.00256×νd+0.689)の関係を満たす」のに対して、甲2発明2では、部分分散比(θg,F)は明示されておらず、当該関係を有することは明らかでない点。
b 相違点4、5の検討
甲第2号証には、「屈折率(nd)が1.60~1.69及びアッベ数(νd)が35~45の範囲の光学定数を有し、ガラス転移温度(Tg)が低く、かつ耐失透性に優れたモールドプレス用に好適な光学ガラスを提供することを目的とする」(【0008】)ことは記載されているものの、光学ガラスの部分分散比(θg,F)を調整することは記載も示唆もされていないから、光学ガラスの部分分散比(θg、F)が特定の範囲になるように、ガラス成分の含有量を調整する動機付けとなるような記載は存在しないというほかない。
したがって、甲2発明2において、「部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、(-0.00256×νd+0.637)≦(θg,F)≦(-0.00256×νd+0.689)の関係」を満たしつつ、B2O3含有量を「0~6.0%未満」に調整することは、甲第7号証の実験成績証明書(2)の結果に関わらず、当業者にとって容易想到の事項といえない。
c 小括
したがって、その余について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明2であるといえないし、また、甲2発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
ウ 本件特許発明2~7について
本件特許発明2~7は、本件特許発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件特許発明2~7は、甲2発明1及び甲2発明2であるといえないし、また、甲2発明1及び甲2発明2に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
エ 申立理由2についての結論
以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。
(3) 申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について
ア 甲第3号証に記載された発明(甲3発明)
申立人は、甲第3号証の実施例欄(第2頁左下欄第2行~末行)の実施例6(第一表)の記載等から、甲第3号証に記載された発明を特定して申立理由3を主張しているので、当該実施例6の「光学ガラス」に注目して整理すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「SiO2が30wt%、B2O3が0wt%、Nb2O5が30wt%、Ta2O5が0wt%、CaOが0wt%、BaOが0wt%、MgOが0wt%、ZnOが0wt%、Na2Oが0wt%、K2Oが20wt%、Li2Oが0wt%、TiO2が10wt%、ZrO2が0wt%、La2O3が10wt%、Al2O3が0wt%で含有する組成を有し、屈折率ndが1.71805、アッベ数νdが28.5である、光学ガラス。」
イ 本件特許発明1について
(ア) 本件特許発明1と甲3発明の対比
本件特許発明1と甲3発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違している。
(相違点6)
本件特許発明1では、「酸化物換算組成」について、「ZrO2成分を1.00~11.0%、TiO2成分を0~10.0%未満」含有しているのに対して、甲3発明では、「ZrO2が0wt%」、「TiO2が10wt%」で含有している点。
(相違点7)
本件特許発明1では、「部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、(-0.00256×νd+0.637)≦(θg,F)≦(-0.00256×νd+0.689)の関係を満たす」のに対して、甲3発明では、部分分散比(θg,F)は明示されておらず、当該関係を有することは明らかでない点。
(イ) 相違点6、7の検討
甲第3号証には、光学ガラスの部分分散比(θg,F)を調整することは記載も示唆もされておらず、光学ガラスの部分分散比(θg、F)が特定の範囲になるように、ガラス成分の含有量を調整するという技術思想は存在しない。
したがって、甲3発明において、「部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、(-0.00256×νd+0.637)≦(θg,F)≦(-0.00256×νd+0.689)の関係」を満たしつつ、ZrO2含有量を「1.00~11.0%」、TiO2含有量を「0~10.0%未満」に調整することは、甲第8号証の実験成績証明書(3)の結果に関わらず、当業者にとって容易想到の事項といえない。
(ウ) 小括
したがって、その余について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
ウ 本件特許発明2~7について
本件特許発明2~7は、本件特許発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件特許発明2~7は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものともいえない。
エ 申立理由3についての結論
以上のとおりであるから、申立理由3に理由はない。
(4) 申立理由4(甲第4号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について
ア 甲第4号証に記載された発明(甲4発明)
申立人は、甲第4号証の実施例欄(第3頁左下欄第3行~第5頁右下欄第18行)の実施例9の記載等から、甲第4号証に記載された発明を特定して申立理由4を主張しているので、当該実施例9の「光学ガラス」に注目して整理すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「SiO2が26.0wt%、GeO2が0wt%、Na2Oが19.0wt%、K2Oが0wt%、P2O5が10.1wt%、Nb2O5が28.3wt%、TiO2が11.7wt%、Ta2O5が0wt%、B2O3が4.9wt%、Al2O3が0wt%、As2O3が0.2wt%で含有するガラス組成を有し、屈折率ndが1.71585、アッベ数νdが28.49である、光学ガラス。」
イ 本件特許発明1について
(ア) 本件特許発明1と甲4発明の対比
本件特許発明1と甲4発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違している。
(相違点8)
本件特許発明1では、「酸化物換算組成」について、「ZrO2成分を1.00~11.0%、TiO2成分を0~10.0%未満」含有しているのに対して、甲4発明では、「TiO2が11.7wt%」で含有し、「ZrO2成分」を含有してない点。
(相違点9)
本件特許発明1では、「部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、(-0.00256×νd+0.637)≦(θg,F)≦(-0.00256×νd+0.689)の関係を満たす」のに対して、甲4発明では、部分分散比(θg,F)は明示されておらず、当該関係を有することは明らかでない点。
(イ) 相違点8、9の検討
甲第4号証にも、光学ガラスの部分分散比(θg,F)を調整することについては記載も示唆もされていないから、甲第2、3号証と同様、甲第4号証の記載は、光学ガラスの部分分散比(θg、F)が特定の範囲になるように、ガラス成分の含有量を調整することを動機付けるものではない。
したがって、甲4発明において、「部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、(-0.00256×νd+0.637)≦(θg,F)≦(-0.00256×νd+0.689)の関係」を満たしつつ、ZrO2含有量を「1.00~11.0%」、TiO2含有量を「0~10.0%未満」に調整することは、甲第9号証の実験成績証明書(4)の結果に関わらず、当業者にとって容易想到の事項といえない。
(ウ) 小括
したがって、その余について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
ウ 本件特許発明3~7について
本件特許発明3~7は、本件特許発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件特許発明3~7は、甲4発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものともいえない。
エ 申立理由4についての結論
以上のとおりであるから、申立理由4に理由はない。
(5) 申立理由5(拡大先願要件違反)
ア 先願明細書等に記載された発明(先願発明)
申立人は、甲第5号証の明細書発明の詳細な説明の[0009]~[0011]の記載(請求の範囲の請求項1、3、5、6に対応する記載)等に基づき、先願明細書等に記載された発明を特定して申立理由5を主張しているので、ここでは、先願特許請求の範囲の請求項1、3、5(甲第5号証の請求の範囲の請求項1、3、5、6)に記載された「光学ガラス」に注目して整理すると、先願明細書等には、以下のとおりの発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
「表層部に強化層を有する光学ガラスであって、前記強化層の深さは前記光学ガラスの表面から1μm以上であり、前記光学ガラスの屈折率(nd)は1.73~2.10であって、前記光学ガラスは、ガラス内部において酸化物基準の質量%表示で、続きを表示(全22行)Li2O+Na2Oが5%以上、Li2O+Na2O+K2Oが5%~20%、Li2O/(Li2O+Na2O+K2O)またはNa2O/(Li2O+Na2O+K2O)が0.20以上、Nb2O5: 20%~75%、SiO2: 10%~50%、TiO2: 0%~20%、ZrO2: 0%~20%、Li2O: 0%~20%、Na2O: 0%~20%、K2O: 0%~10%、BaO: 0%~20%、ZnO: 0%~10%、Ln2O3: 0%~50%、La2O3: 0%~50%、Y2O3: 0%~20%、P2O5: 0%~20%、B2O3: 0%~20%、を含有する、光学ガラス。」
イ 本件特許発明1について
(ア) 本件特許発明1と先願発明の対比
本件特許発明1と先願発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違している。
(相違点10)
本件特許発明1の「酸化物換算組成」に対して、先願発明のガラス組成は、本件特許発明1の各成分の含有量範囲と一部重複するものの、当該含有量範囲から外れる範囲を含み、また、SiO2/Rn2O(RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)や(SiO2+B2O3)/Nb2O5の質量比も特定されていない点。
(イ) 相違点10の検討
先願明細書には、Nb2O5成分、SiO2成分、Li2O成分、Na2O成分、K2O成分及びB2O3成分の各含有量範囲の限定の理由について記載されているものの(先願明細書の【0049】、【0050】、【0053】~【0055】、【0059】(甲第5号証の明細書の[0048]、[0049]、[0052]~[0054]、[0058]))、SiO2/Rn2O(RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)や(SiO2+B2O3)/Nb2O5の質量比を特定の範囲に調整する技術的思想に関しては記載も示唆もされていないため、前記(1)イ(ア)bで検討したのと同様の理由により、相違点10は実質的なものであるし、具体化する際の微差程度の事項であるともいえない。
(ウ) 小括
したがって、その余(甲第10号証の実験成績証明書(5)の結果も含む)について検討するまでもなく、本件特許発明1は、先願発明と同一であるといえない。
ウ 本件特許発明2、3、5~7について
本件特許発明2、3、5~7は、本件特許発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件特許発明2、3、5~7は、先願発明と同一であるといえない。
エ 申立理由5についての結論
以上のとおりであるから、申立理由5に理由はない。
(6) 申立理由6(明確性要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
申立理由6は、要するに、本件特許発明1の「SiO2成分を15.0~40.0%」、「Nb2O5成分を28.0~45.0%」、「B2O3成分を0~6.0%未満」及び(SiO2+B2O3)/Nb2O5が0.9以上2.0未満」との特定事項において、SiO2成分、Nb2O5成分及びB2O3成分の各特定事項の含有量から、(SiO2+B2O3)/Nb2O5を算出したときの数値範囲が、「(SiO2+B2O3)/Nb2O5が0.9以上2.0未満」との特定事項と齟齬する範囲を含むことを論拠として、本件特許発明1~7に係る特許請求の範囲の記載は明確でない、というものである。
イ 明確性要件違反についての検討
本件特許発明1の「酸化物換算組成」は、特定された各成分の合計含有量が100質量%以内において、特定された成分の各含有量範囲、及び、特定された成分質量比の数値範囲の全てを満たす組成であることを、当業者であれば理解できる。
したがって、本件特許発明1の「SiO2成分を15.0~40.0%」、「Nb2O5成分を28.0~45.0%」、「B2O3成分を0~6.0%未満」及び(SiO2+B2O3)/Nb2O5が0.9以上2.0未満」との特定事項についても、これらの特定事項の各数値範囲のうち、全てを満たす数値範囲を示していることは明らかであるから、上記指摘事項は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどのものとはいえない。
したがって、申立人の論拠は採用できない。
ウ 申立理由6についての結論
以上のとおりであるから、申立理由6に理由はない。
第4 むすび
以上の検討のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に当該請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701222