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特許異議申立

2022-701219

芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体フィルムとその製造方法

審判番号
2022-701219
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-501819
登録番号
7081770
請求日
2022年12月07日
審決日
2023年09月29日
公報発行日
2023年12月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】エルジー・ケム・リミテッド
  • 【権利者代理人】小野 誠
  • 【権利者代理人】重森 一輝
  • 【権利者代理人】市川 英彦
  • 【権利者代理人】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
  • 【異議申立人】石川 照子
審判長/審判官
  • 審判長 細井 龍史
  • 審判官 杉江 渉
  • 審判官 藤井 勲
分類
P1651.537-YAA(C08G) / P1651.536-YAA(C08G) / P1651.113-YAA(C08G) / P1651.121-YAA(C08G)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項
データ出所
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特許第7081770号発明「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体フィルムとその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7081770号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 特許第7081770号の請求項7、9に係る特許に対する申立てを却下する。 特許第7081770号の請求項1-6、8、10-13に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7081770号(請求項の数13。以下、「本件特許」という。)は、平成30年12月7日を国際出願日(優先権主張 平成30年1月3日 平成30年12月3日 いずれも韓国(KR))とする特許出願(特願2020-501819号)であって、令和4年5月30日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は、令和4年6月7日である。)。 その後、令和4年12月7日に、本件特許の請求項1~13に係る特許に対して、特許異議申立人である石川 照子(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。 1 特許異議申立以降の経緯 令和4年12月 7日 特許異議申立書 令和5年 3月17日付け 取消理由通知書 同年 6月20日 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年 6月26日付け 通知書(申立人あて) 同年 7月28日 意見書(申立人) 2 証拠方法 申立人が、特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は、以下のとおりである。 ・甲第1号証:特開2017-203984号公報 ・甲第2号証:特開2017-119868号公報 ・甲第3号証:特表2017-517582号公報 ・甲第4号証:米国特許出願公開第2015/0322218号明細書及びその抄訳 第2 訂正の適否についての判断 令和5年6月20日にした訂正請求は、以下の訂正事項を含むものである。 (以下、当該訂正請求を「本件訂正」という。また、設定登録時の本件願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を「本件明細書等」という。) 1 訂正の内容 (1)各訂正事項について 各訂正事項は、以下のとおりである。 ア 訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1において、 「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」との記載を 「2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2’-Hydroxy-5’-tert-octylphenyl)benzotriazole]および オクタデシルー3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-buty1-4-hydroxypheny1)-propionate] からなる群より選択された1種以上の芳香族化合物」 に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~13も同様に訂正する。) イ 訂正事項2 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1において、 「前記フィルムは、芳香族ジアミンモノマー、ジアンハイドライドモノマーおよび芳香族ジカルボニルモノマー間の芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体を含み、前記芳香族ジカルボニルモノマーに由来する繰り返し単位は、イソフタロイル繰り返し単位を10から50モル%含む、当該フィルム」の記載を追加する。 (請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~13も同様に訂正する。) ウ 訂正事項3 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4において、 「前記フィルムは、芳香族ジアミンモノマー、ジアンハイドライドモノマーおよび芳香族ジカルボニルモノマー間の芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体を含み、」との記載を削除する。 エ 訂正事項4 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7を削除する。 オ 訂正事項5 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項8において、 「請求項1から7のいずれか一項に記載のフィルム」との記載を、 「請求項1から6のいずれか一項に記載のフィルム」に訂正する。 カ 訂正事項6 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9を削除する。 キ 訂正事項7 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項10において、 「前記芳香族ジカルボニルモノマーは、イソフタロイルクロライド(isophthaloyl chloride)を10から50モル%含む」との記載を追加する。 ク 訂正事項8 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項10において、 「請求項1から9のいずれか一項に記載のフィルム」との記載を、 「請求項1から6、8のいずれか一項に記載のフィルム」に訂正する。 ケ 訂正事項9 本件訂正前の明細書の段落【0107】において、 「厚さ方向のリターデーション(Rth)は、各実施例および各比較例で製造した高分子フィルム・・・をそのまま測定試料とし、・・・それぞれの高分子フィルムの屈折率(前述した屈折率の測定により求められたフィルムの550nmの光に対する屈折率)の値をインプットした後、温度:25℃、湿度:40%の条件下、波長590nmの光を用い、厚さ方向のリターデーションを測定した後、・・・」 と記載されているのを、 「厚さ方向のリターデーション(Rth)は、各実施例および各比較例で製造した高分子フィルム・・・をそのまま測定試料とし、・・・それぞれの高分子フィルムの屈折率(前述した屈折率の測定により求められたフィルムの550nmの光に対する屈折率)の値をインプットした後、温度:25℃、湿度:40%の条件下、波長550nmの光を用い、厚さ方向のリターデーションを測定した後、・・・」 に訂正する。(下線は、訂正箇所について、当審で付与した。) (2)一群の請求項 本件訂正前の請求項2~13は、それぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正事項1~2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~13は一群の請求項である。 そして、明細書の訂正である訂正事項9は、前記明細書の訂正に係る請求項1を含む一群の請求項の全てについて請求されたものといえるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。 2 判断 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1における「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」との記載について、「2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2’-Hydroxy-5’-tert-octylphenyl)benzotriazole]およびオクタデシルー3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-buty1-4-hydroxypheny1)-propionate]からなる群より選択された1種以上の芳香族化合物」と訂正するものである。 これは、本件訂正前の本件発明1を引用する本件発明7の記載について、「前記ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物は、2-(2'-ヒドロキシ-5'-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2'-Hydroxy-5'-tert-octylphenyl)benzotriazole]およびオクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]からなる群より選択された1種以上の芳香族化合物を含む」と記載され、「オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]」は「ベンゾトリアゾール系」「芳香族化合物」及び「ベンゾフェノン系芳香族化合物」のいずれにも該当する化合物ではないため、明らかに不整合な記載が存在していたところ、令和5年3月17日付け取消理由通知書において、その点が不明確であるとの指摘を受けて、「芳香族化合物」について、本件訂正前の本件発明1及び本件発明7の「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」の記載と、本件訂正前の本件発明7の「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」ではない「オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]」の記載との不整合を解消したものである。 さらに、「ベンゾトリアゾール系」「芳香族化合物」について「2-(2'-ヒドロキシ-5'-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2'-Hydroxy-5'-tert-octylphenyl)benzotriazole]」であると特定するものであると解される。 したがって、訂正事項1による訂正は、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると解される。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無について (ア)新規事項の追加の有無について 本件訂正後の本件発明1の「2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2’-Hydroxy-5’-tert-octylphenyl)benzotriazole]およびオクタデシルー3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-buty1-4-hydroxypheny1)-propionate]からなる群より選択された1種以上の芳香族化合物」については、本件訂正前の本件発明7、本件発明13のほか、本件訂正前の本件明細書等の段落【0055】、【0057】にも記載されていることから、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項の追加に該当しない。 (イ)実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無について 訂正事項1による、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1における「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」との記載を、「2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2’-Hydroxy-5’-tert-octylphenyl)benzotriazole]およびオクタデシルー3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-buty1-4-hydroxypheny1)-propionate]からなる群より選択された1種以上の芳香族化合物」とする訂正、特に、後者の「・・・オクタデシルー3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-buty1-4-hydroxypheny1)-propionate]」を特定する訂正は、 ・本件訂正前の本件発明7の「前記ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物は、 2-(2'-ヒドロキシ-5'-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2'-Hydroxy-5'-tert-octylphenyl)benzotriazole]およびオクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]からなる群より選択された1種以上の芳香族化合物を含む」との記載、 ・本件訂正前の本件発明13の「・・・コーティング液は、2-(2'-ヒドロキシ-5'-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2'-Hydroxy-5'-tert-octylphenyl)benzotriazole]およびオクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]からなる群より選択された1種以上の芳香族化合物をさらに含む」との記載、 ・本件訂正前の本件明細書等の段落【0055】の「ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系のうちの一つを利用することが好ましく、具体的には2-(2'-ヒドロキシ-5'-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2'-Hydroxy-5'-tert-octylphenyl)benzotriazole]およびオクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]からなる群より選択された1種以上の芳香族化合物をさらに含むことができる」との記載、 ・本件訂正前の本件明細書等の段落【0057】の「前記2-(2'-ヒドロキシ-5'-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2'-Hydroxy-5'-tert-octylphenyl)benzotriazole]およびオクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]からなる群より選択された1種以上の芳香族化合物は、前記芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体を含む高分子基材100重量部に対して0.001から10重量部で含まれてもよい」との記載、 ・本件訂正前の本件明細書等の段落【0083】~【0084】の「実施例1 前記比較例1で得たポリ(アミド-イミド)共重合体(Co-PAI #1)100重量部に対して芳香族化合物であるOctadecyl-3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate(Irganox 1076)5重量部をN,N-ジメチルプロピオンアミド(N,N-Dimethylpropionamide)に溶かして約15wt%の高分子溶液を製造した:との記載、 ・本件訂正前の本件明細書等の段落【0096】~【0097】の「実施例4 前記比較例2で得たポリ(アミド-イミド)共重合体(Co-PAI #2)100重量部に対して芳香族化合物であるOctadecyl-3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate(Irganox 1076)5重量部をN,N-ジメチルプロピオンアミド(N,N-Dimethylpropionamide)に溶かして約15wt%の高分子溶液を製造した。」 との記載からみて、本件訂正前の本件発明1の「芳香族化合物」について、「オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-buty1-4-hydroxypheny1)-propionate]」を選択肢の1つであることを意図していたことは、当業者であれば、直ちに理解できるといえる。 また、上記「ア 訂正の目的」で述べたとおり、訂正事項1による訂正は、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に該当するとまではいえない。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的 訂正事項2による訂正は、本件訂正前の請求項1の「フィルム」について、本件訂正前の本件発明4に記載されていた「前記フィルムは、芳香族ジアミンモノマー、ジアンハイドライドモノマーおよび芳香族ジカルボニルモノマー間の芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体を含み」との特定及び本件明細書等の段落【0038】の「前記芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体のうち、前記芳香族ジカルボニルモノマーに由来する繰り返し単位は、・・・;イソフタロイル繰り返し単位10から50モル%;・・・;を含むことができる」との記載及び段落【0040】の「前記イソフタロイルクロライド(IPC)は、前記芳香族ジカルボニルモノマーの総モルに対して10モル%以上、・・・;そして、50モル%以下含まれてもよい」との記載に基づき、本件訂正前の請求項1の「フィルム」を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無について 訂正事項2の本件訂正前の請求項1の「フィルム」の特定は、上記「ア 訂正の目的」で述べたとおり、本件訂正前の本件発明4及び本件明細書等の段落【0038】及び段落【0040】に記載されていたといえるから、新規事項の追加に該当しない。 そして、訂正事項2による請求項1の「フィルム」の特定は、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。 (3)訂正事項3について ア 訂正の目的 訂正事項3による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4において、「フィルム」について「前記フィルムは、芳香族ジアミンモノマー、ジアンハイドライドモノマーおよび芳香族ジカルボニルモノマー間の芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体を含み、」と特定されていたのを、上記訂正事項2により、当該特定事項が、請求項4が引用する請求項1において特定されたことに伴い、当該特定事項の記載を単に削除するものである。そして、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4を引用する請求項1は、訂正事項1~2により、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正がなされたといえるから、訂正事項3による訂正も、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると解される。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無について 訂正事項3による訂正は、上記「ア 訂正の目的」で述べたとおり、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4において、「フィルム」について「前記フィルムは、芳香族ジアミンモノマー、ジアンハイドライドモノマーおよび芳香族ジカルボニルモノマー間の芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体を含み、」との特定について、上記訂正事項2により、当該特定事項が、請求項4が引用する請求項1において特定されたことに伴い、当該特定事項の記載を単に削除するものであるから、上記「(2)訂正事項2について」「イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無について」で述べたとおり、新規事項の追加に該当せず、また、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。 (4)訂正事項7について ア 訂正の目的 訂正事項7による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項10の「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」を形成するための「モノマー」の1つである「芳香族ジカルボニルモノマー」について、「イソフタロイルクロライド(isophtha1oy1 ch1oride)を10から50モル%含む」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無について 訂正事項7による、「芳香族ジカルボニルモノマー」について、「イソフタロイルクロライド(isophtha1oy1 ch1oride)を10から50モル%含む」と特定する訂正は、上記「(2)訂正事項2について」「イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無について」で述べたとおり、本件明細書等の段落【0038】及び段落【0040】に記載されていたといえるから、新規事項の追加に該当しない。 そして、訂正事項7による請求項10の「芳香族ジカルボニルモノマー」の特定は、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。 (5)訂正事項4、6について ア 訂正の目的 訂正事項4、6による訂正は本件訂正前の請求項7、9を削除するものであるから、訂正事項4、6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無について 訂正事項4、6による訂正は、単に特許請求の範囲を削除するものであるから、新規事項の追加、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。 (6)訂正事項5、8について ア 訂正の目的 訂正事項5、8による訂正は、上記の訂正事項4、6による訂正前の請求項7、9の削除に合わせて、本件訂正前の請求項8、10において、引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無について 訂正事項5、8は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (7)訂正事項9について ア 訂正の目的 訂正事項9による本件明細書等の段落【0107】の「高分子フィルム」の「厚さ方向のリターデーション」の測定条件について、「それぞれの高分子フィルムの屈折率(前述した屈折率の測定により求められたフィルムの550nmの光に対する屈折率)の値をインプットした後、温度:25℃、湿度:40%の条件下、波長590nmの光を用」(当審注:訂正箇所について、下線を当審で付与した。)いるとしていたのを、「・・・波長550nmの光を用」いると訂正するものである。 当該訂正について、本件訂正前の請求項1には「550nmの波長に対して厚さ方向のリターデーション(Rth)が3,000nm以上であり」と記載され、本件訂正前の本件明細書等の段落【0107】の「・・・波長590nmの光を用」いるとした記載が存在していたのは不整合な記載が存在していたといえるし、また、本件訂正前の本件明細書等の段落【0107】の「それぞれの高分子フィルムの屈折率(・・・フィルムの550nmの光に対する屈折率)の値をインプットした後、温度:25℃、湿度:40%の条件下、波長590nmの光を用」いるときの「インプット」される「波長」と、実施例の測定に用いられる「波長」とが異なるのも不整合な記載が存在していたといえる。 そして、訂正事項9による訂正は、元々存在していた不整合な記載を明確にするものであるといえるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると解される。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無について 上記「ア 訂正の目的」で検討したとおり、本件訂正前の本件明細書等の段落【0107】の「波長590nmの光を用」いるとの記載が、「波長550nmの光を用」いるとの記載の誤りであることは当業者であれば理解できるといえるから、訂正事項9による訂正は、新規事項の追加、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。 (8)まとめ 以上のとおりであるから、訂正事項1~9による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第4~6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。 第3 特許請求の範囲の記載 上記「第2 訂正の適否についての判断」のとおり、本件訂正は適法であるので、特許第7081770号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~13のとおりのものである(以下、請求項1~13に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」~「本件発明13」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、設定登録時の本件願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。 「【請求項1】 芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体100重量部と、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2’-Hydroxy-5’-tert-octylphenyl)benzotriazole]およびオクタデシルー3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecy1-3- (3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]からなる群より選択された1種以上の芳香族化合物0.001~10重量部と、を含み、 550nmの波長に対して厚さ方向のリターデーション(Rth)が3,000nm以上であり、下記一般式1による水分吸収率が3.6%以下である、 フィルムであって、 前記フィルムは、芳香族ジアミンモノマー、ジアンハイドライドモノマーおよび芳香族ジカルボニルモノマー間の芳香族ポリ(アミドーイミド)共重合体を含み、 前記芳香族ジカルボニルモノマーに由来する繰り返し単位は、イソフタロイル繰り返し単位を10から50モル%含む、当該フィルム。 [一般式1] 水分吸収率(%)=(W1-W2)*100/W2 (前記一般式1で、Wlは前記フィルムを超純水に24時間含浸して測定した重量であり、 W2は前記含浸以降、前記フィルムを150℃で30分間乾燥して測定した重量である。) 【請求項2】 前記フィルムは、550nmの波長に対して厚さ方向のリターデーション(Rth)が3,000nmから4,500nmであり、 前記一般式1による水分吸収率が2.0から3.6%である、請求項1に記載のフィルム。 【請求項3】 ASTM E424に準拠して25から55μmの厚さを有する試片に対して測定したUV-cut傾き(dT/dλ)が透過度10から80%範囲で2.80以上である、請求項1または2に記載のフィルム。 【請求項4】 前記ジアンハイドライドモノマーは、芳香族ジアンハイドライドモノマー又はシクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物である、 請求項1から3のいずれか一項に記載のフィルム。 【請求項5】 前記芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体のうち、 前記芳香族ジカルボニルモノマーに由来する繰り返し単位は、前記ジアンハイドライドモノマーおよび前記芳香族ジカルボニルモノマーに由来する繰り返し単位の総モルに対して51モル%以上含まれ、 前記芳香族ジカルボニルモノマーに由来する繰り返し単位は、4,4’-ビフェニルジカルボニル繰り返し単位10から60モル%;イソフタロイル繰り返し単位10から50モル%;およびテレフタロイル繰り返し単位20から70モル%;を含む、 請求項4に記載のフィルム。 【請求項6】 前記芳香族ジアミンモノマーは、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ビフェニルジアミン(2,2’-bis (trifluoromethyl)4,4’-biphenyldiamine)を含み、 前記芳香族ジアンハイドライドモノマーは、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(3,3’,4,4’-biphenyltetracarboxylic acid dianhydride)を含む、請求項4または5に記載のフィルム。 【請求項7】 (削除) 【請求項8】 前記フィルムは、未延伸状態で550nmの波長に対して3,000nm以上の厚さ方向のリターデーション(Rth)を有する、 請求項1から6のいずれか一項に記載のフィルム。 【請求項9】 (削除) 【請求項10】 芳香族ジアミンモノマー、ジアンハイドライドモノマーおよび芳香族ジカルボニルモノマーを反応させて芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体を形成する段階;および 前記芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体を炭素数3以上の脂肪族グループを含むアミド溶媒で溶解して形成されたコーティング液を基材にコーティングする段階を含み、 前記ジアンハイドライドモノマーは、芳香族ジアンハイドライドモノマー又はシクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物であり、 前記芳香族ジカルボニルモノマーは、イソフタロイルクロライド(isophtha1oy1 ch1oride)を10から50モル%含む、 請求項1から6,8のいずれか一項に記載のフィルムの製造方法。 【請求項11】 前記炭素数3以上の脂肪族グループを含むアミド溶媒は、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド(3-methoxy-N,N-dimethy1 propionamide)またはN,N-ジメチルプロピオンアミド(N,N-Dimethy1propionamide)である、請求項10に記載のフィルムの製造方法。 【請求項12】 前記芳香族ジカルボニルモノマーは、前記ジアンハイドライドモノマーおよび前記芳香族ジカルボニルモノマーの総モルに対して51モル%以上含まれ、 前記芳香族ジカルボニルモノマーは、4,4’-ビフェニルジカルボニルクロライド(4,4’-biphenyldicarbonyl chloride)10から60モル%;イソフタロイルクロライド(isophthaloyl chloride)10から50モル%;およびテレフタロイルクロライド(terephthaloyl chloride)20から70モル%;を含む、 請求項10または11に記載のフィルムの製造方法。 【請求項13】 前記芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体を炭素数3以上の脂肪族グループを含むアミド溶媒で溶解して形成されたコーティング液は、 2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2’-Hydroxy-5’-tert-octylphenyl)benzotriazo1e]およびオクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]からなる群より選択された1種以上の芳香族化合物をさらに含む、 請求項10から12のいずれか一項に記載のフィルムの製造方法。」 第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要 1 取消理由通知の概要 令和5年3月17日付け取消理由通知書に記載した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。 (1)取消理由A(明確性) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~13の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合するものではない。 よって、本件訂正前の請求項1~13に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 (a)本件訂正前の本件発明1の「550nmの波長に対して厚さ方向のリターデーション(Rth)」の記載について、本件発明1には、測定条件(波長、サンプルの厚さ)については特定されていない。 当該測定条件について、本件明細書の段落【0018】と【0107】とで異なるものとなっており、不明確である。 また、本件発明1には「550nmの波長に対して厚さ方向のリターデーション(Rth)」の測定の際の「フィルム」の厚さについて記載されていないところ、段落【0018】及び【0107】に記載のとおり、その値は、「厚さ13μm」のサンプルを用いて、「フィルムの厚さ10μm当たりリターデーション値に換算」したものとの理解でよいのか明らかでない。 本件訂正前の本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2~13の記載も同様に不明確である。 (b)本件訂正前の本件発明7の記載について、「前記ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物は、2-(2'-ヒドロキシ-5'-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2'-Hydroxy-5'-tert-octylphenyl)benzotriazole]およびオクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]からなる群より選択された1種以上の芳香族化合物を含む」と記載されているところ、「オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]」は「ベンゾトリアゾール系」「芳香族化合物」及び「ベンゾフェノン系芳香族化合物」のいずれにも該当する化合物ではないため、不明確である。 本件訂正前の本件発明7を直接的又は間接的に引用する本件発明8~13の記載も、同様の理由により、不明確である。 (c)本件訂正前の本件発明9の「98%以上の可視光線透光度を有する、・・・フィルム」の記載について、本件明細書には、「可視光線透光度」について、「可視光」は幅広い波長を有する領域であるところ、「可視光線透光度」の具体的な内容、及び、その測定方法が記載されていないため、明確でない。 本件訂正前の本件発明9を直接的又は間接的に引用する本件発明10~13の記載も、同様の理由により、不明確である。 (2)取消理由B(サポート要件) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~13の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものではない。 よって、本件訂正前の請求項1~13に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 本件発明の課題は、本件明細書の段落【0007】の記載からみて、「優れた耐スクラッチ性および機械的物性を示しながら、UV遮蔽機能が改善された芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体フィルムを提供すること」であると解される。 (a)本件訂正前の本件発明1は、「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」の化学構造について何ら特定されていないところ、本件明細書の段落【0028】、【0032】、【0034】、【0038】、【0039】、【0043】の記載及び段落【0077】~【0116】の実施例、比較例の記載からみて、特定の化学構造を有する「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」であると解され、本件訂正前の本件発明1は、本件発明の上記課題を解決し得ない態様をも包含していると解されるから、特許法第36条第6項第1号の規定される要件を満たすとはいえない。 本件訂正前の本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4、6~11、13についても同様である。 (b)本件訂正前の本件発明1は、「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」を「0.001~10重量部」を含むことを発明特定事項としているところ、本件明細書の段落【0077】~【0116】の実施例1~6では「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」を用いた例はないため、本件明細書の発明の詳細な説明の実施例によりサポートされているはいえない。 本件訂正前の本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2~13についても同様である。 (c)本件発明の課題は、本件明細書の段落【0077】~【0116】の実施例においては、「UV-cut傾き(dT/dλ)」の評価しかされておらず、本件発明の上記課題のうち「UV遮蔽機能」の改善については確認できるものの、「優れた耐スクラッチ性」および「機械的物性」に関する評価はされていないため、これらの課題を解決し得たものかどうかを確認することはできない。 したがって、本件訂正前の本件発明1~13は、本件明細書の発明の詳細な説明の実施例によりサポートされているとはいえない。 (3)取消理由C(実施可能要件) 本件訂正前の発明の詳細な説明の記載は、下記の点で、当業者が本件訂正前の請求項1~13に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、本件訂正前の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。 よって、本件訂正前の請求項1~13に係る発明の特許は、同法第36条第4項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 本件訂正前の本件発明1は、「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体100重量部と、ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物0.001~10重量部」とを含む「フィルム」について、「550nmの波長に対して厚さ方向のリターデーション(Rth)が3,000nm以上」であること、 「下記一般式1による水分吸収率が3.6%以下である・・・ [一般式1] 水分吸収率(%)=(W1-W2)*100/W2 (前記一般式1で、W1は前記フィルムを超純水に24時間含浸して測定した重量であり、 W2は前記含浸以降、前記フィルムを150℃で30分間乾燥して測定した重量である。)」ことを発明特定事項としている。 本件訂正前の本件発明1の「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」について、その化学構造やモノマー組成等について特定は何らないため、多様な重合体を含み得るものであり、また、「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」についても具体的な化合物の特定はなく、多様な化合物を含み得るものである。さらに、多様な「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」と多様な「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」の組み合わせを考慮すると、膨大な態様になるといえる。 一方、本件明細書の一般的記載には、本件訂正前の本件発明1に特定される「フィルム」の「リターデーション(Rth)」及び「水分吸収率」の値を有する「フィルム」を得るための「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」及び「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」の選択の指針、「フィルム」の製造の指針となる記載は何ら存在しない。 さらに、本件明細書の実施例には、「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」と「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」とを含む「フィルム」の例さえも示されていない。 そうすると、本件訂正前の本件発明1の発明特定事項を有する「フィルム」を得るためには、結局のところ、膨大な態様を有する「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」と「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」とを組み合わせて様々な条件で製造した「フィルム」1つ1つについて、本件発明1に特定される「フィルム」の「リターデーション(Rth)」及び「水分吸収率」の値を測定する必要があり、当業者に過度な試行錯誤を課すものであるといえる。 また、本件訂正前の本件発明2~3、8~9の特定の「550nmの波長に対して厚さ方向のリターデーション(Rth)」の値、「水分吸収率」の値、「透過度10から80%範囲」における「UV-cut傾き(dT/dλ)」の値、「未延伸状態で550nmの波長に対して3,000nm以上の厚さ方向のリターデーション(Rth)」、「ヘイズ」の値、「可視光線透光度」の値を有する「フィルム」の製造方法、製造条件についても、本件明細書には記載されておらず、本件明細書の実施例には、「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」と「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」とを含む「フィルム」の例さえも示されていない。 本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の本件発明1~3、8~9について、当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されているとはいえない。また、本件訂正前の本件発明1~3、8~9を直接的又は間接的に引用する本件発明4~7、10~13についても、同様である。 (4)取消理由D(新規性) 本件訂正前の請求項1~4、7~9に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (5)取消理由E(進歩性) 本件訂正前の請求項1~4、6~11、13に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明及び甲第2~3号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 2 特許異議申立理由の概要 申立人が特許異議申立書に記載した申立理由の概要は、以下に示すとおりである。 (1)申立理由1(新規性) 本件訂正前の請求項1~4、7~9に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (2)申立理由2(進歩性) 本件訂正前の請求項1~13に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明及び甲第2~3号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (3)申立理由3(サポート要件) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~13の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものではない。 よって、本件訂正前の請求項1~13に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 (a)本件訂正前の本件発明1には「550nmの波長に対して厚さ方向のリターデーション(Rth)」の測定の際の「フィルム」について、フィルムの厚さ10μm当たりリタデーション値に換算しない値とするならば、請求項1の「フィルム」には、例えば、フィルムの厚さが1000μmでRthが3000nm、すなわち、フィルム厚さ10μm当たりリタデーション値が30nmのフィルムが含まれることになる。 しかしながら、本件特許明細書の比較例1、2において、フィルムの厚さ10μm当たりのリタデーション値が3000nm未満のフィルムでは、UV遮蔽機能が低く、本件特許発明の課題を解決できないことが示されている。 そうすると、請求項1の厚さ方向のリターデーション(Rth)が、フィルムの厚さ10μm当たりのリタデーション値に換算しない値とするならば、課題を解決できない範囲が含まれることになる。 (b)本件訂正前の本件発明1の「フィルム」には、例えば、「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物を含まない芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体フィルム」と、「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物を含み、芳香族ポリ(アミド-イミド)共璽合体を含まない別の機能層」と、更にその他の機能層を含んでいてもよい積層体も、文言上含まれ得るが、本件明細書の発明の詳細な説明において、請求項1の特定のリターデーション(Rth)及び水分吸収率を達成しうること、及び課題を解決できることが明示されているのは、特定のポリ(アミド-イミド)共重合体100重量部に対して特定の芳香族化合物を5重量部含む芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体フィルムだけである。 したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 (c)本件訂正前の本件発明1は、「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」を「0.001~10重量部」を含むことを発明特定事項としているところ、本件明細書の段落【0077】~【0116】の実施例1~6では、Octadecy1-3-(3,5-di-tertbutyl-4-hydroxyphenyl)-propionate(Irganox 1076)、または、Pentaerythritol Tetrakis(3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)propionate(Irganox 1010)のみであり、「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」を用いた例はないため、本件明細書の発明の詳細な説明の実施例によりサポートされているはいえない。 (d)本件訂正前の本件発明1は、「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体100重量部と、ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物0.001~10重量部と、を含み、・・・フィルム」と特定されているが、本件明細書の段落【0077】~【0116】の実施例において、請求項1の特定のリターデーション(Rth)及び水分吸収率を達成しうること、及び課題を解決できることが明示されているのは、特定の構造を有する限られた芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体だけである。そして、芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体の特性は、ポリアミドイミドを構成するモノマーの種類や配合比に大きく依存することが出願時における技術常識であると認められる。さらに、本件訂正前の本件発明1において特定されるリターデーション(Rth)及び水分吸収率を満たせば、本件特許請求項1の極めて広範な芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体を含むフィルム全てにおいて、本件特許の課題を解決できることが出願時における技術常識であるとはいえない。 (e)本件訂正前の本件発明1は、「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体100重量部と、ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物0.001~10重量部と、を含み、・・・フィルム」と特定されているが、本件明細書の段落【0077】~【0116】の実施例において、請求項1の特定のリターデーション(Rth)及び水分吸収率を達成しうること、及び課題を解決できることが明示されているのは、特定の芳香族化合物を5重量部添加した芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体フィルムだけである。たとえ実施例で用いられたOctadecy1-3-(3,5-di-tertbutyl-4-hydroxyphenyl)-propionate(Irganox 1076)、または、Pentaerythritol Tetrakis(3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)propionate(Irganox 1010)であっても、極少量添加した場合に、請求項1で規定する特性を発揮するとは推認することができない。 (4)申立理由4(明確性) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~13の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合するものではない。 よって、本件訂正前の請求項1~13に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 (a)本件訂正前の本件発明1には「550nmの波長に対して厚さ方向のリターデーション(Rth)」の測定の際の「フィルム」の厚さについて記載されていないところ、段落【0018】及び【0107】に記載のとおり、その値は、「厚さ13μm」のサンプルを用いて、「フィルムの厚さ10μm当たりリターデーション値に換算」したものとの理解でよいのか明らかでない。 本件訂正前の本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2~13の記載も同様に不明確である。 (b)本件訂正前の本件発明7の記載について、「前記ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物は、2-(2'-ヒドロキシ-5'-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2'-Hydroxy-5'-tert-octylphenyl)benzotriazole]およびオクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]からなる群より選択された1種以上の芳香族化合物を含む」と記載されているところ、「オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]」は「ベンゾトリアゾール系」「芳香族化合物」及び「ベンゾフェノン系芳香族化合物」のいずれにも該当する化合物ではないため、不明確である。 本件訂正前の本件発明7を直接的又は間接的に引用する本件発明8~13の記載も、同様の理由により、不明確である。 (c)本件訂正前の本件発明9の「98%以上の可視光線透光度を有する、・・・フィルム」の記載について、本件明細書には、「可視光線透光度」について、「可視光」は幅広い波長を有する領域であるところ、「可視光線透光度」の具体的な内容、及び、その測定方法が記載されていないため、明確でない。 本件訂正前の本件発明9を直接的又は間接的に引用する本件発明10~13の記載も、同様の理由により、不明確である。 第5 当審の判断 特許異議の申立ての審理対象である請求項1~13のうち、上記「第2 訂正の適否の判断」及び「第3 特許請求の範囲の記載」で示したとおり、請求項7、9は、本件訂正により削除されているので、請求項7、9についての申立てを却下する。 当審は、当審が通知した取消理由A~E及び申立人がした申立理由1~4によっては、いずれも、本件発明1~6、8、10~13に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 その理由は以下のとおりである。 取消理由A(明確性)と申立理由4(明確性)は、同旨の理由であるから、以下の「1 取消理由A(明確性)及び申立理由4(明確性)について」において併せて検討する。 取消理由B(サポート要件)及び申立理由3(サポート要件)は同旨の理由を含むものであるから、以下の「2 取消理由B(サポート要件)及び申立理由3(サポート要件)について」において併せて検討する。 取消理由D(新規性)、取消理由E(進歩性)、申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)は、いずれも甲第1号証を主引用例とする新規性、進歩性の理由であるから、以下の「4 取消理由D(新規性)、取消理由E(進歩性)、申立て理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)について」において併せて検討する。 1 取消理由A(明確性)及び申立理由4(明確性)について (1)取消理由A(a)及び申立理由4(a)についての判断 取消理由A(a)及び申立理由4(a)は同旨であるため、併せて検討する。 本件明細書の段落【0105】~【0107】には、実施例における「試験例」の「(1)550nmの波長に対して厚さ方向のリターデーション(Rth)」として、「厚さ方向のリターデーションを測定した後、求められた厚さ方向のリターデーション測定値(測定装置の自動測定による測定値)を用い、フィルムの厚さ10μm当たりリターデーション値に換算することによって求めた」と記載され、また、令和5年6月20日提出の意見書の「(1-2)理由Aの(1)に対する反論」において、特許権者は「本件明細書には、「ポリアミドイミド樹脂フィルムの厚さ方向のリターデーションを測定し、求められた厚さ方向のリターデーション測定値(測定装置の自動測定(自動計算)による測定値)に基づき、フィルムの厚さ10μm当たりリターデーション値に換算することによって求めることができる。」と記載されていることから、実施例の記載のように「厚さ13μmのサンプルに対してリターデーションを測定し、フィルムの厚さ10μm当たりターデーション値に換算」したものである」と明確に述べており、さらに、その「換算」方法についても説明している。 さらに、特許権者は、上記「第2 訂正の適否についての判断」「2 判断」「(7)訂正事項9について」で確認したとおり、本件訂正の訂正事項9により、本件明細書の段落【0109】の「550nmの波長に対して厚さ方向のリターデーション(Rth)」の測定条件を明確にする訂正も行った。 そうすると、取消理由A(a)及び申立理由4(a)は、本件訂正及び令和5年6月20日提出の意見書における特許権者の説明により明確になり、解消されたといえる。 (2)取消理由A(b)及び申立理由4(b)についての判断 取消理由A(b)及び申立理由4(b)は同旨であるため、併せて検討する。 本件訂正の訂正事項1により、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1において、 「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」について、「2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2’-Hydroxy-5’-tert-octylphenyl)benzotriazole]およびオクタデシルー3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-buty1-4-hydroxypheny1)-propionate]からなる群より選択された1種以上の芳香族化合物」に訂正され、さらに、本件訂正の訂正事項4により、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7も削除されたため、不整合な記載が削除され、「芳香族化合物」が「2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2’-Hydroxy-5’-tert-octylphenyl)benzotriazole]およびオクタデシルー3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-buty1-4-hydroxypheny1)-propionate]からなる群より選択された1種以上」であることが明確なものとなった。 そうすると、取消理由A(b)及び申立理由4(b)は、本件訂正により不整合な記載が削除され、解消されたといえる。 (3)取消理由A(c)及び申立理由4(c)についての判断 取消理由A(c)及び申立理由4(c)は同旨であるため、併せて検討する。 本件訂正の訂正事項6により、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9が削除され、「可視光線透光度」の記載も削除された。 そうすると、取消理由A(c)及び申立理由4(c)は、本件訂正により解消されたといえる。 (4)令和5年7月28日提出の意見書における申立人の主張について ア 申立人の主張 令和5年7月28日提出の意見書において、申立人は、訂正後の請求項1の記載について以下の主張をしている。 「訂正後においても請求項1は、単に「550nmの波長に対して厚さ方向のリターデーション(Rth)が3,000nm以上」と記載されているため、請求項1のRthが、フィルムの厚さ10μm当たりのリタデーション値に換算することにより求める値なのか、フィルムの厚さ10μm当たりのリタデーション値に換算しない値なのか、不明確である。その結果、請求項1の発明の範囲が不明確である。」 イ 申立人の主張についての検討 上記「(1)取消理由A(a)及び申立理由4(a)についての判断」で検討したとおり、本件明細書の段落【0107】の記載、及び、令和5年6月20日提出の意見書における特許権者の主張により、本件発明1の「550nmの波長に対して厚さ方向のリターデーション(Rth)」の値は、「厚さ13μmのサンプルに対してリターデーションを測定し、フィルムの厚さ10μm当たりのリターデーション値に換算」したものであることが明確になったといえる。 したがって、上記申立人の主張を採用することはできない。 (5)まとめ 以上のとおりであるから、取消理由A及び申立理由4(明確性)の(a)~(c)によっては、本件発明1~6、8、10~13を取り消すことはできない。 2 取消理由B(サポート要件)及び申立理由3(サポート要件)について (1)取消理由B(a)及び申立理由3(d)についての判断 取消理由B(a)及び申立理由3(d)は同旨であるため、併せて検討する。 本件発明の課題は、本件明細書の段落【0007】の記載からみて、「優れた耐スクラッチ性および機械的物性を示しながら、UV遮蔽機能が改善された芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体フィルムを提供すること」であると解される。 本件訂正により、本件訂正前の本件発明1の「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」について「芳香族ジアミンモノマー、ジアンハイドライドモノマーおよび芳香族ジカルボニルモノマー間の芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体を含み、前記芳香族ジカルボニルモノマーに由来する繰り返し単位は、イソフタロイル繰り返し単位を10から50モル%含む」ことが特定され、本件明細書の段落段落【0004】~【0006】、【0028】、【0032】、【0034】、【0038】、【0039】、【0043】の記載からみて、本件発明の上記課題を解決し得ると認識できる範囲のものとなったといえるし、また、段落【0077】~【0116】の実施例においても、上記本件発明1の発明特定事項を満たす「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」を用いた「フィルム」が、「UV遮蔽機能」を改善し得たことが具体的に確認されている。 そうすると、取消理由B(a)及び申立理由3(d)については、本件訂正により、その理由は解消されたといえる。 (2)取消理由B(b)及び申立理由3(c)についての判断 取消理由B(b)及び申立理由3(c)は同旨であるため、併せて検討する。 本件訂正により、本件訂正前の本件発明1の「芳香族化合物」について、「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」との記載から、「2-(2'-ヒドロキシ-5'-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2'-Hydroxy-5'-tert-octylphenyl)benzotriazole]」および「オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]」の2種のみに特定された。 後者の「オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]」については、段落【0077】~【0116】の実施例の実施例1及び実施例4として、具体的に用いた例が示され、本件発明の課題である「UV遮蔽機能」を改善し得たことが具体的に確認されている。 前者の「2-(2'-ヒドロキシ-5'-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2'-Hydroxy-5'-tert-octylphenyl)benzotriazole]」については、段落【0077】~【0116】の実施例において具体的に用いた例が示されていないものの、本件明細書の段落【0055】~【0057】等の記載からみて、後者の「オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecyl-3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]」と同様に、本件発明の課題である「UV遮蔽機能」を改善し得ることが認識できるといえる。 そうすると、取消理由B(b)及び申立理由3(c)についても、本件訂正により、その理由は、解消されたといえる。 (3)取消理由B(c)について 本件発明の課題は、上記「(1)取消理由B(a)及び申立理由3(d)についての判断」でも述べたとおり、「優れた耐スクラッチ性および機械的物性を示しながら、UV遮蔽機能が改善された芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体フィルムを提供すること」であると解されるところ、取消理由B(c)は、本件明細書の段落【0077】~【0116】の実施例においては、「UV-cut傾き(dT/dλ)」の評価しかされておらず、本件発明の上記課題のうち「UV遮蔽機能」の改善については確認できるものの、「優れた耐スクラッチ性」および「機械的物性」に関する評価はされていないため、これらの課題を解決し得たものかどうかを確認することはできないとするものである。 この点について、令和5年6月20日提出の意見書の「(3)本件明細書の実施例における評価について」「(3-2)特許権者の反論」において、特許権者は、「本願発明は、本件明細書の段落【0005】~【0006】に記載の通り、ポリイミドの耐スクラッチ性を改善するためにポリアミド単位構造を導入した芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体が開発されたものの、耐スクラッチ性を改善したPAI(芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体)は、UV遮蔽機能の確保に限界があった。かかる従来技術の問題に鑑みて、本願発明の主要な課題は、UV遮蔽機能が改善されたPAI共重合体を提供することにある」と、そもそも「ポリイミドの耐スクラッチ性を改善するためにポリアミド単位構造を導入した芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」を採用したことにより、「耐スクラッチ性」を改善されたことを主張している。 この点について、本件明細書の記載を確認すると、段落【0004】~【0006】には「前記提案によるポリイミド樹脂は、曲げた構造または脂肪族環化合物により十分な耐熱性を示し難く、これを使用して製造されたフィルムは劣悪な機械的物性を示す限界が依然として存在する。そこで、最近はポリイミドの耐スクラッチ性を改善するためにポリアミド単位構造を導入した芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体が開発されている。しかし、ポリイミドにポリアミド単位構造を導入する場合、耐スクラッチ性は向上するが、UV遮蔽機能の確保には限界が存在してきた。したがって、耐スクラッチ性および機械的物性を向上させると同時に、UV遮蔽機能を改善することができる芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体の開発が依然として要求されている。」と記載されており、「耐スクラッチ性」および「機械的物性」の「向上」の課題については、特許権者の主張のとおり、「ポリアミド単位構造を導入した芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」の採用により、課題を解決し得たことが一応理解できる。 したがって、取消理由B(c)は、理由がない。 (4)申立理由3(a)について 上記「1 取消理由A(明確性)及び申立理由4(明確性)について」「(1)取消理由A(a)及び申立理由4(a)についての判断」で検討したとおり、本件明細書の段落【0107】の記載、及び、令和5年6月20日提出の意見書における特許権者の主張により、本件発明1の「550nmの波長に対して厚さ方向のリターデーション(Rth)」の値は、「厚さ13μmのサンプルに対してリターデーションを測定し、フィルムの厚さ10μm当たりのリターデーション値に換算」したものであることが明確になったといえる。 そして、申立理由3(a)は、「請求項1の厚さ方向のリターデーション(Rth)が、フィルムの厚さ10μm当たりのリタデーション値に換算しない値とするならば、課題を解決できない範囲が含まれることになる」ことを前提とする理由であり、上述のとおり、本件明細書の段落【0107】の記載、及び、令和5年6月20日提出の意見書における特許権者の主張により、「厚さ13μmのサンプルに対してリターデーションを測定し、フィルムの厚さ10μm当たりターデーション値に換算」したものである点が明確になったので、申立理由3(a)は解消されたといえる。 (5)申立理由3(b)について 本件発明1は、1つの「フィルム」について、特定の「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」100重量部と、特定の「芳香族化合物0.001~10重量部」を含み、さらに、当該「フィルム」について「550nmの波長に対して厚さ方向のリターデーション(Rth)が3,000nm以上であり、下記一般式1による水分吸収率が3.6%以下である」ことを特定していることは明らかであり、また、本件明細書の実施例においても、本件発明1の発明特定事項を全て満たす「フィルム」が具体的に示されている。 そして、申立人が主張する、例えば、「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物を含まない芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体フィルム」と、「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物を含み、芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体を含まない別の機能層」と、更にその他の機能層を含んでいてもよい積層体」の態様については、本件明細書には一切記載がなく、そのような「積層体」の「フィルム」についても具体的に何ら記載されていない。 そうすると、申立理由3(b)は、本件明細書中の記載において何ら前提を見いだすことができないため、採用することはできない。 (6)申立理由3(e)について 本件発明1は「フィルム」中の特定の「芳香族化合物」について「0.001~10重量部」を含むと特定されているのもかかわらず、申立人の主張のとおり、本件明細書の実施例においては、特定の「芳香族化合物」について「5重量部」配合した例しか示されていない。 しかしながら、「オクタデシルー3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecy1-3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]」が配合された実施例1及び実施例4と、それが配合されていない比較例1、比較例2のデータを比較すると、段落【0114】の【表1】のデータでは、実施例1及び実施例4の方が明らかに、「厚さ方向のリターデーション」、「UV-cut傾き」が向上し、「水分吸収率」が下がっていることから、本件発明1の特定の「芳香族化合物」を少量でも添加すれば、添加しない場合に比べて、「UV遮蔽機能」が改善され得ることは当業者であれば理解できるといえる。 そうすると、申立理由3(e)についても、採用することはできない。 (7)令和5年7月28日提出の意見書における申立人の主張について 令和5年7月28日提出の意見書において、申立人は、上記の申立理由3(d)、(c)及び(b)と同様の理由を再度主張している。 しかしながら、申立理由3(d)については上記「(1)取消理由B(a)及び申立理由3(d)についての判断」、申立理由3(c)については上記「(2)取消理由B(b)及び申立理由3(c)についての判断」、申立理由3(b)については上記「(5)申立理由3(b)について」で検討したとおりであり、いずれも採用することはできない。 (8)まとめ 以上のとおりであるから、取消理由B(サポート要件)(a)~(c)及び申立理由3(サポート要件)の(a)~(e)によっては、本件発明1~6、8、10~13を取り消すことはできない。 3 取消理由C(実施可能要件)について (1)特許法第36条第4項第1号の考え方について 特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。 特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。 以下、この観点に立って検討する。 (2)判断 本件訂正前の本件発明1の「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」及び「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」については十分な特定はなく、「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」及び「ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物」との組合せを考慮すると、膨大な態様を包含するものであったところ、本件訂正により、「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」については「芳香族ジアミンモノマー、ジアンハイドライドモノマーおよび芳香族ジカルボニルモノマー間の芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体を含み、 前記芳香族ジカルボニルモノマーに由来する繰り返し単位は、イソフタロイル繰り返し単位を10から50モル%含む」と特定されるとともに、「芳香族化合物」については「2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2’-Hydroxy-5’-tert-octylphenyl)benzotriazole]」および「オクタデシルー3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecy1-3- (3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]」の2種のみに特定された。 そして、本件明細書の段落【0077】~【0116】の実施例においては、本件発明1の「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」及び「芳香族化合物」を用いた「フィルム」であって、本件発明1に特定される「フィルム」の「リターデーション(Rth)」及び「水分吸収率」の値を有する「フィルム」を製造できたことが具体的に示されているといえる。 そうすると、本件発明1において特定される「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」及び「芳香族化合物」を用いて、本件明細書に開示される「モノマー」等の原料や配合量を用いれば、本件発明1に特定される「フィルム」の「リターデーション(Rth)」及び「水分吸収率」の値を有する「フィルム」を、多少の試行錯誤は要するとしても、過度の試行錯誤を要することなく、製造できることは当業者であれば認識できるといえる。 (3)令和5年7月28日提出の意見書における申立人の主張について 令和5年7月28日提出の意見書において、申立人は、上記取消理由C(実施可能要件)と同様の理由を主張している。 しかしながら、上記「(2)判断」で検討したとおり、本件訂正により、「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」が特定され、及び、「芳香族化合物」についても2種のみに特定され、また、本件明細書の段落【0077】~【0116】の実施例においては、本件発明1の「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」及び「芳香族化合物」を用いた「フィルム」であって、本件発明1に特定される「フィルム」の「リターデーション(Rth)」及び「水分吸収率」の値を有する「フィルム」を製造できたことが具体的に示されていることから、本件発明1において特定される「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」及び「芳香族化合物」を用いて、本件明細書に開示される「モノマー」等の原料や配合量を用いれば、本件発明1に特定される「フィルム」の「リターデーション(Rth)」及び「水分吸収率」の値を有する「フィルム」を、多少の試行錯誤は要するとしても、過度の試行錯誤を要することなく、製造できることは当業者であれば認識できるといえる。 したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。 (4)まとめ 以上のとおりであるから、取消理由C(実施可能要件)によっても、本件発明1~6、8、10~13を取り消すことはできない。 4 取消理由D(新規性)、取消理由E(進歩性)、申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)について (1)甲第1号証に記載された発明 甲第1号証の段落【0077】~【0101】の製造例2及び実施例5に着目すると、 「窒素ガス雰囲気下、撹拌翼を備えた1Lセパラブルフラスコに、TFMB(2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル)52g(162.38mmol)およびDMAc(N,N-ジメチルアセトアミド)849.23gを加え、室温で撹拌しながらTFMBをDMAcに溶解させ、次に、フラスコに6FDA(4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物)14.45g(32.52mmol)を添加し、室温で3時間撹拌し、その後、OBBC(4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド))4.80g(16.26mmol)、次いでTPC(テレフタロイルクロリド)23.11g(113.84mmol)をフラスコに加え、室温で1時間撹拌し、次いで、フラスコにピリジン9.98g(126.20mmol)と無水酢酸13.28g(130.10mmol)とを加え、室温で30分間撹拌後、オイルバスを用いて70℃に昇温し、さらに3時間撹拌し、反応液を得て、得られた反応液を室温まで冷却し、大量のメタノール中に糸状に投入し、析出した沈殿物を取り出し、メタノールで6時間浸漬後、メタノールで洗浄し、次に、100℃にて沈殿物の減圧乾燥を行い、ポリアミドイミド樹脂(樹脂C)を得て、 ポリアミドイミド樹脂(樹脂C)をγ-ブチロラクトンで希釈して濃度16質量%のポリアミドイミドワニスを調整し、 そこに、ポリアミドイミドの100質量部に対して5質量部のSumisorb 340(2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール)のN,N-ジメチルアセトアミド溶液を混合した後、30分間攪拌して、ポリアミドイミドワニスを得て、 得られたポリアミドイミドワニスをガラス基板に塗布し、50℃で30分、140℃で10分の順で加熱することにより塗膜から溶媒を除去して、フィルムを形成し、ガラス基板から剥離したフィルムを金枠に取り付け、これを210℃で1時間加熱することで得た、Haze0.3%、YI2.0、厚み50μmのポリアミドイミドフィルム」(以下「甲1発明A」という。) が記載されているといえる。 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明Aとを対比する。 甲1発明Aの「ポリアミドイミド樹脂(樹脂C)」は、「TFMB(2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル)」、「6FDA(4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物)」、「TPC(テレフタロイルクロリド)」の芳香族化合物及び「OBBC(4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド))」をモノマーとして構成単位を有するものであるから、本件発明1の「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体」であるといえる。 また、甲1発明Aの「TFMB(2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル)」は本件発明1の「芳香族ジアミンモノマー」に相当する。 甲1発明Aの「6FDA(4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物)」は、本件発明1の「ジアンハイドライドモノマー」であって「芳香族ジアンハイドライドモノマー」であるものに相当する。 甲1発明Aの「TPC(テレフタロイルクロリド)」は、本件発明1の「芳香族ジカルボニルモノマー」に相当する。 甲1発明Aの「Sumisorb 340(2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール)」は、本件発明1の「2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2’-Hydroxy-5’-tert-octylphenyl)benzotriazole]」に相当する。 また、甲1発明Aの「フィルム」を形成する「ポリアミドイミドワニス」において、「ポリアミドイミドの100質量部に対して5質量部のSumisorb 340(2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール)」を含むものであるから、甲1発明Aの「フィルム」は、本件発明1と同様に、「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体100重量部と、ベンゾトリアゾール系又はベンゾフェノン系芳香族化合物0.001~10重量部」含むといえる。 そうすると、本件発明1と甲1発明Aとは、 「芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体100重量部と、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール[2-(2’-Hydroxy-5’-tert-octylphenyl)benzotriazole]およびオクタデシルー3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[Octadecy1-3- (3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)-propionate]からなる群より選択された1種以上の芳香族化合物0.001~10重量部と、を含むフィルムであって、 前記フィルムは、芳香族ジアミンモノマー、ジアンハイドライドモノマーおよび芳香族ジカルボニルモノマー間の芳香族ポリ(アミド-イミド)共重合体を含む、 当該フィルム。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:「フィルム」の「550nmの波長に対して厚さ方向のリターデーション(Rth)」について、本件発明1では「3,000nm以上」であるのに対し、甲1発明Aでは、不明な点 相違点2:「フィルム」の「下記一般式1による水分吸収率」(当審注:式は省略する。)について、本件発明1では、「3.6%以下」であるのに対し、甲1発明Aでは、不明な点 相違点3:「フィルム」中の「芳香族ジカルボニルモノマーに由来する繰り返し単位」について、本件発明1では、「イソフタロイル繰り返し単位を10から50モル%含む」のに対し、甲1発明1Aでは、「イソフタロイル繰り返し単位」を含まない点 イ 判断 事案に鑑みて、上記相違点3について検討する。 本件発明1と甲1発明Aとは、上記相違点3の「フィルム」中の「芳香族ジカルボニルモノマーに由来する繰り返し単位」の構成の点で異なるから、相違点3は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 次に、本件発明1が、甲1発明A及び甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたか否かについて検討する。 甲第1号証には、「ポリイミド系高分子及びポリアミド」に関して、以下の事項が記載されている。 「【0037】 本実施形態に係るポリイミド系高分子は、後述するテトラカルボン酸化合物とジアミン化合物とを主な原料として製造することができ、式(10)で表される繰り返し構造単位を有する。 ・・・ 【0047】 ポリイミド系高分子の合成に用いられるテトラカルボン酸化合物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸化合物及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸化合物が挙げられる。テトラカルボン酸化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。テトラカルボン酸化合物は、二無水物の他、酸クロライド化合物等のテトラカルボン酸化合物類縁体であってもよい。 ・・・ 【0051】 本実施形態に係るポリイミド系高分子は、ポリイミド系高分子を含むフィルムの各種物性を著しく損なわない範囲で、上記のポリイミド系高分子の合成に用いられるテトラカルボン酸の無水物に加えて、テトラカルボン酸、トリカルボン酸及びジカルボン酸並びにそれらの無水物及び誘導体を更にジアミンと反応させて得られたものであってもよい。 【0052】 トリカルボン酸化合物としては、芳香族トリカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロライド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。具体例としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸の無水物;2,3,6-ナフタレントリカルボン酸-2,3-無水物;フタル酸無水物と安息香酸とが単結合、-O-、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-SO2-もしくはフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。 【0053】 ジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロライド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。具体例としては、テレフタル酸;イソフタル酸;ナフタレンジカルボン酸;4,4’-ビフェニルジカルボン酸;3,3’-ビフェニルジカルボン酸;炭素数8以下である鎖式炭化水素、のジカルボン酸化合物及び2つの安息香酸が単結合、-O-、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-SO2-もしくはフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。」 すなわち、甲第1号証には、「ポリイミド系高分子」の合成において、「テトラカルボン酸の無水物に加えて、テトラカルボン酸、トリカルボン酸及びジカルボン酸並びにそれらの無水物及び誘導体を更にジアミンと反応させて得られたものであってもよい」こと、「ジカルボン酸化合物」としては「テレフタル酸」、「イソフタル酸」等が用いられることが記載されているものの、甲1発明Aの「ポリアミドイミド樹脂(樹脂C)」において、例えば、甲第1号証の段落【0053】に列記されている「ジカルボン酸化合物」の例から、特に「イソフタル酸」を選択し、その繰り返し単位を「10から50モル%」含めようとする動機付けとなる記載は存在しない。 したがって、本件発明1は、甲1発明A及び甲第1号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 さらに、甲第2~3号証をみても、甲1発明Aの「ポリアミドイミド樹脂(樹脂C)」において、「ジカルボン酸化合物」として、特に「イソフタル酸」を選択し、その繰り返し単位を「10から50モル%」含めようとする動機付けとなる記載は存在しないから、本件発明1は、甲1発明A及び甲第2~3号証に記載された技術的事項からも当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 ウ 令和5年7月28日提出の意見書における申立人の主張について 令和5年7月28日提出の意見書において、申立人は、以下の主張している。 「甲1の段落0053には、芳香族ジカルボニルモノマーとして、イソフタル酸を用いてもよいことが記載されている。また、甲1発明AにおいてOBBC:TPCのmo1比は10:70であるから、OBBCは12.5モル%用いられている。甲1発明Aと同様に、UV遮蔽機能が改善されたPAI共重合体フィルムを得るために、OBBCの12.5モル%の代わりに、イソフタル酸12.5%を用いることは、甲1から当業者が容易に想到し得ることである。」(同意見書の「(5)理由E(進歩性)」の項目を参照。) しかしながら、甲第1号証の段落【0053】に「芳香族ジカルボニルモノマー」として「イソフタル酸」を用いてもよいことは記載されているものの、甲1発明Aにおいて「OBBC」に変えて直ちに「イソフタル酸」に積極的に置き換えようとする動機付けの記載もないし、また、その際に、「OBBC」と同程度の「12.5モル%」分をそのまま置き換えようとする動機付けも十分にあるとはいえない。 したがって、申立人の上記を主張を採用することはできない。 エ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~3号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。 (3)本件発明2~6、8、10~13について 本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2~6、8、10~13についても、上記「(2)本件発明1について」「イ 判断」で示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~3号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。 (4)まとめ 以上のとおり、取消理由D(新規性)、取消理由E(進歩性)、申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)により、本件発明1~6、8、10~13を取り消すことはできない。 第6 むすび 特許第7081770号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 特許第7081770号の請求項7、9に係る特許に対する申立てを却下する。 当審が通知した取消理由および申立人がした申立理由によっては、本件発明1-6、8、10-13に係る特許を取り消すことはできない。 また、ほかに本件発明1-6、8、10-13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-701219

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