特許異議申立
2022-701189
艶消しポリエステルフィルム及びその製造方法
- 審判番号
- 2022-701189
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-031316
- 登録番号
- 7080364
- 請求日
- 2022年11月30日
- 審決日
- 2023年02月03日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
- 【権利者代理人】弁理士法人南青山国際特許事務所
- 【異議申立人】石川 竜郎
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-Y (C08J) / P1651.121-Y (C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7080364号発明「艶消しポリエステルフィルム及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7080364号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7080364号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、令和3年3月1日(パリ条約の例による優先権主張 2020年4月28日、台湾)の出願であって、令和4年5月26日にその特許権の設定登録(請求項の数13)がされ、同年6月3日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年11月30日に特許異議申立人 石川 竜郎(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし13)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし13に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
再生ポリエステル材をリサイクルするための艶消しポリエステルフィルムの製造方法であって、
前記艶消しポリエステルフィルムの製造方法は、
前記再生ポリエステル材の一部分を物理的再生し、造粒を行うことにより、複数のメカニカルリサイクルポリエステルペレットを得るステップと、
前記再生ポリエステル材の他部分を化学的再生し、造粒を行うことにより、複数のケミカルリサイクルポリエステルペレットを得るステップであって、複数の前記ケミカルリサイクルポリエステルペレットに、金属塩である少なくとも一種の静電接着添加剤(pinning additives)を含むケミカルリサイクル静電付着ポリエステルチップがさらに含まれるステップと、
複数の前記メカニカルリサイクルポリエステルペレットと複数の前記ケミカルリサイクルポリエステルペレットとを互いに混合して、溶融押出し、ポリエステルフィルムとして形成させるステップと、
前記再生ポリエステル材の一部分を物理的再生するステップ及び/または前記再生ポリエステル材の他部分を化学的再生するステップにおいて、前記再生ポリエステル材にさらに艶消し用添加剤を加えることにより、最終的に形成された前記ポリエステルフィルムに前記艶消し用添加剤が含まれるようにするステップと、
を含み、
前記ポリエステルペレットの全使用量100重量部に基づいて、複数の前記ケミカルリサイクルポリエステルペレットにおいて、前記ケミカルリサイクル静電付着ポリエステルチップの使用量は、5重量部~35重量部である、ことを特徴とする艶消しポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記艶消し用添加剤は、シリカ粒子、炭酸カルシウム粒子、アルミナ粒子、及びタルク粒子からなる材料群から選択される少なくとも1種であり、
前記艶消し用添加剤の平均粒子サイズは、0.1μm~10μmであり、かつ、前記ポリエステルフィルムにおいて、前記艶消し用添加剤の含有量は、0.5wt%~10wt%であり、それにより、前記ポリエステルフィルムのヘイズが5%~95%となる、請求項1に記載の艶消しポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ポリエステルフィルムにおいて、複数の前記メカニカルリサイクルポリエステルペレットは、メカニカルリサイクルポリエステル樹脂として形成され、複数の前記ケミカルリサイクルポリエステルペレットは、前記メカニカルリサイクルポリエステル樹脂と混合したケミカルリサイクルポリエステル樹脂として形成され、
前記ポリエステルペレットの全使用量100重量部に基づいて、複数の前記メカニカルリサイクルポリエステルペレットの使用量は、50重量部~95重量部であり、複数の前記ケミカルリサイクルポリエステルペレットの使用量は、1重量部~40重量部であると共に、複数の前記メカニカルリサイクルポリエステルペレットと複数の前記ケミカルリサイクルポリエステルペレットとの使用量の和は、55重量部~100重量部である、請求項1に記載の艶消しポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記再生ポリエステル材の他部分を化学的再生するステップにおいて、前記再生ポリエステル材を解重合して、原料混合物を得るステップと、前記原料混合物を再重合して、造粒を行うことにより、複数の前記ケミカルリサイクルポリエステルペレットを得るステップと、を含む、請求項1に記載の艶消しポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記原料混合物を再重合するステップは、前記静電接着添加剤(pinning additives)を一部の前記原料混合物に添加して、さらに、前記静電接着添加剤が添加した前記原料混合物を再重合して、造粒を行うことにより、前記ケミカルリサイクル静電付着ポリエステルチップを得るステップをさらに含む、請求項4に記載の艶消しポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ケミカルリサイクル静電付着ポリエステルチップにおいて、前記静電接着添加剤の含有量は、0.01wt%~0.3wt%であり、それにより、前記ポリエステルフィルムにおいて、前記静電接着添加剤の含有量は、0.005wt%~0.1wt%となる、請求項5に記載の艶消しポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記原料混合物を再重合するステップにおいて、前記原料混合物の一部にスリップ剤(slipping agent)を添加するステップと、前記スリップ剤を添加した前記原料混合物を再重合して、造粒を行うことにより、ケミカルリサイクルスリップ剤ポリエステルチップを得るステップと、をさらに含み、
前記スリップ剤がシリカ粒子、炭酸カルシウム粒子、硫酸バリウム粒子、ポリスチレン粒子、シリコーン粒子、アクリル粒子からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
前記ポリエステルペレットの全使用量100重量部に基づいて、前記ケミカルリサイクルスリップ剤ポリエステルチップの使用量は、5重量部~10重量部である、請求項4に記載の艶消しポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記スリップ剤の粒子サイズは、5μm未満であり、前記ケミカルリサイクルスリップ剤ポリエステルチップにおいて、前記スリップ剤の含有量は、0.1wt%~20wt%であり、それにより、前記ポリエステルフィルムにおいて、前記スリップ剤の含有量は、0.5wt%~5wt%となり、それにより、前記ポリエステルフィルムでは、透明度が50%以上となる、請求項7に記載の艶消しポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記原料混合物を再重合するステップは、前記原料混合物の一部分に前記艶消し用添加剤を添加して、さらに、前記艶消し用添加剤を添加した前記原料混合物を再重合して造粒し、それにより、ケミカルリサイクル艶消しポリエステルチップを得るステップをさらに含む、請求項4に記載の艶消しポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記再生ポリエステル材の一部分を物理的再生する前記ステップにおいて、前記再生ポリエステル材を物理的に・機械的に粉砕して溶融し、さらに、前記艶消し用添加剤を、溶融された前記再生ポリエステル材に添加して、造粒を行うことにより、メカニカルリサイクル艶消しポリエステルチップを得るステップをさらに含む、請求項1に記載の艶消しポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項11】
複数の前記メカニカルリサイクルポリエステルペレット、及び複数の前記ケミカルリサイクルポリエステルペレットのいずれも、前記再生ポリエステル材をリサイクルし、さらに、前記再生ポリエステル材に対し造粒を行うことにより得られるものであり、
前記再生ポリエステル材は、リサイクルペットボトルチップ(r-PET)である、請求項1に記載の艶消しポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項12】
前記リサイクルペットボトルチップのポリエステル成分に、二酸単位としてイソフタル酸(IPA)が含まれ、それにより、最終的に形成した前記ポリエステルフィルムにも前記イソフタル酸が含まれ、
前記ポリエステルフィルムの総重量100mol%に基づいて、前記ポリエステルフィルムにおいて、前記イソフタル酸の含有量は、0.5mol%~5mol%である、請求項11に記載の艶消しポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項13】
前記リサイクルペットボトルチップのポリエステル成分に、グリコール単位としてエチレングリコールバイオマス由来のエチレングリコールが含まれ、それにより、最終的に形成した前記ポリエステルフィルムにも前記エチレングリコールバイオマス由来のエチレングリコールが含まれ、
前記ポリエステルフィルムの総重量100wt%に基づいて、前記ポリエステルフィルムにおいて、前記エチレングリコールバイオマス由来のエチレングリコールの含有量は、1wt%~25wt%であり、かつ、前記ポリエステルフィルム中の全炭素量を基に、放射能(C14)で測定したバイオマス由来の炭素量は5%以下である、請求項11に記載の艶消しポリエステルフィルムの製造方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年11月30日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 証拠方法
甲第1号証:特開2007-2008号公報
甲第2号証:特開2004-168888号公報
甲第3号証:特許第6835214号公報
甲第4号証:特開2011-256328号公報
甲第5号証:特開2004-339390号公報
甲第6号証:特開2004-223735号公報
甲第7号証:特開2010-6962号公報
甲第8号証:特開2004-230893号公報
甲第9号証:特開2019-142091号公報
甲第10号証:特開2019-44292号公報
甲第11号証:ASTM D6866-16
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 申立理由(甲1に基づく新規性・進歩性)についての当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「PETボトル再生原料を使用した熱収縮性ポリエステル系フィルムおよびラベル」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。
・「【請求項1】
フィルム中にペットボトル再生原料を25重量%以上含有し、80℃の温水中に10秒浸漬して引き上げたときの主収縮方向の熱収縮率が30%以上で、主収縮方向と直交する方向の熱収縮率が10%以下であり、フィルムを温度30℃・相対湿度85%の雰囲気下で28日間保管した後の主収縮方向と直交する方向について引張り試験を行い、伸度5%以下で破断した試験片数の全試験片数に対する割合が25%以下であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。」
・「【0001】
本発明は、環境問題、資源の有効活用に対応した、ペットボトルのリサイクルに役立つ熱収縮性ポリエステル系フィルムに関するものである。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ペットボトルなどの再生原料を用いても印刷などの加工の際に切断が無く、テトラヒドロフランでの接着が可能であると共に、PETボトルリサイクル推奨マーク適用条件に適合した熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し得た本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、フィルム中にペットボトル再生原料を25重量%以上含有し、80℃の温水中に10秒浸漬して引き上げたときの主収縮方向の熱収縮率が30%以上で、主収縮方向と直交する方向の熱収縮率が10%以下であり、フィルムを温度30℃・相対湿度85%の雰囲気下で28日間保管した後の主収縮方向と直交する方向について引張り試験を行い、伸度5%以下で破断した試験片数の全試験片数に対する割合が25%以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、ペットボトルの再生原料を用いているにも関わらず、機械的強度が優れ、汎用溶剤での接着が可能で、PETボトルリサイクル推奨マーク適用条件に適合しており、環境問題や資源の有効活用の点からも有用である。」
・「【0012】
ここでいうペットボトル再生原料とは、ペットボトルなどのポリエチレンテレフタレート容器の再生原料をいい、マテリアル再生原料、ケミカル再生原料があるが一方のみを用いても混合して用いても構わない。」
・「【0022】
熱収縮性ポリエステル系フィルムを構成するポリエステルは常法により溶融重合することによって製造できるが、ジカルボン酸類とグリコール類とを直接反応させ得られたオリゴマーを重縮合する、いわゆる直接重合法、ジカルボン酸のジメチルエステル体とグリコールとをエステル交換反応させたのちに重縮合する、いわゆるエステル交換法等が挙げられ、任意の製造法を適用することができる。また、その他の重合方法によって得られるポリエステルであってもよい。重合触媒としては、慣用の種々の触媒が使用でき、例えばチタン系触媒(チタニウムテトラブトキシド等)、 アンチモン系触媒(三酸化アンチモン等)、 ゲルマニウム系触媒(二酸化ゲルマニウム等)、 コバルト系触媒(酢酸コバルト等)等があげられる。
【0023】
また、熱収縮性フィルムの易滑性を向上させるために、例えば、二酸化チタン、微粒子状シリカ、カオリン、炭酸カルシウムなどの無機滑剤、また例えば、長鎖脂肪酸エステルなどの有機滑剤を添加や塗布してもよい。また、必要に応じて、安定剤、着色剤、酸化防止剤、静電防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を添加または塗布してもよい。」
・「【0025】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを製造するには、以下の方法が望ましい。まず、チップ状のPETボトルリサイクル原料とそれ以外のポリエステル原料を用意し、これらをホッパドライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥する。その後、適宜混合して、押出機から、200~300℃の温度でフィルム状に押し出す。あるいは、未乾燥のチップをベント式押出機内で水分を除去しながら同様にフィルム状に押し出す。多層構成の積層フィルムにする方法には、共押出しすればよい。PETボトルリサイクル原料は、公知の方法で洗浄、粉砕されたチップ状のものを用いるとよい。」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に請求項1に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「フィルム中にペットボトル再生原料を25重量%以上含有し、80℃の温水中に10秒浸漬して引き上げたときの主収縮方向の熱収縮率が30%以上で、主収縮方向と直交する方向の熱収縮率が10%以下であり、フィルムを温度30℃・相対湿度85%の雰囲気下で28日間保管した後の主収縮方向と直交する方向について引張り試験を行い、伸度5%以下で破断した試験片数の全試験片数に対する割合が25%以下である熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。」
(2)甲2に記載された事項
甲2には、「ポリエステル樹脂組成物、ポリエステルフィルムおよびそれらの製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【0046】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法は、(1)テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとを、常圧~0.2MPaの加圧下で、全ジカルボン酸成分に対して30~120mmol%のアルカリ土類金属化合物を用いてエステル交換反応させる工程、(2)前記一般式(I)で表されるリン化合物を、アルカリ土類金属化合物に対して、0.4~1.5のモル比で反応系に添加してエステル交換反応を終了させる工程、および(3)ポリエチレンテレフタレートに可溶なチタン化合物を、全ジカルボン酸成分に対して、チタン金属元素量で2~20ミリモル%用いて重合反応させる工程からなる。
【0047】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、使用するエステル交換反応触媒であるアルカリ土類金属化合物、エステル交換反応失活剤である有機リン化合物、重合触媒であるポリマーに可溶性なチタン化合物の添加順序は、まずエステル交換反応開始前にテレフタル酸ジアルキルエステルとともにエステル交換反応触媒であるアルカリ土類金属化合物を存在させて徐々に昇温し、発生するアルコールを除去させながらエステル交換反応を実施し、エステル交換反応後にエステル交換反応失活剤であるリン化合物を添加して実質的にエステル交換反応を完了させる。その後反応生成物を減圧装置が設けられた重合反応器に移し替える前後に重合触媒であるポリマーに可溶性なチタン化合物を添加して高真空化での重合反応を行う。」
・「【0063】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール70部の混合物に、酢酸マグネシウム四水和物0.077部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを系外に留出させながら、エステル交換反応を行った。この際、反応器内の圧力は0.1MPaであった。その後、下記式(I-a)のリン化合物(ジエトキシホスホノ酢酸ヒドロキシエチルエステル。以下、リン化合物1と略記する。)を表1に記載した量を添加し、エステル交換反応を終了させた。」
(3)甲7に記載された事項
甲7には、「ポリエステルの製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
酸成分に対するエチレングリコールのモル比が1.3~2.0のビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/またはその低重合体を溶融状態で上部に精留塔を有する反応容器に存在させ、その反応容器にポリエステル屑とエチレングリコールを連続的に供給し、205~250℃で、かつ精留塔から実質的にエチレングリコールを留出させることなく、精留塔の塔頂温度がエチレングリコールの沸点より低い温度で解重合反応を行い、次いで該反応物を重縮合反応することを特徴とするポリエステルの製造方法。」
・「【0038】
本発明にかかるポリエステルは、重縮合触媒として、チタン化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、アルミニウム化合物などが用いられる。これらの重縮合触媒は単独、あるいは併用して、あるいはこれらにさらに、ナトリウム、カリウム、リチウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン等の化合物を併用しても良い。これらの重縮合触媒は、得られるポリエステルに対して金属原子換算で1~1000ppm添加することが好ましい。中でもチタン化合物を重縮合触媒として用いると、異物の発生が抑制されるため好ましい。」
・「【0051】
このビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/その低重合体を、フィルター(公称目開き40μm)を介して重縮合反応容器に移液し、リン酸を110g(得られるポリエステル中のリン酸濃度として55ppm)添加した後、6分間攪拌した。その後、三酸化アンチモンを600g(得られるポリエステル中の三酸化アンチモン濃度として300ppm)、酢酸コバルト340g(得られるポリエステル中の酢酸コバルト濃度として170ppm)、酸化チタンを6kg添加する(得られるポリエステル中の酸化チタンで0.3%)。その後、低重合体を30rpmで攪拌しながら、反応温度を240℃から290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。所定の攪拌トルクに到達したら反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させた。ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリマーのペレットを得た。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は2時間55分だった。得られたポリエステルのポリマーL値は60、ポリマーb値は8.5、ジエチレングリコールは1.9重量%だった。」
2 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「ペットボトル再生原料」は本件特許発明1における「再生ポリエステル材」に相当し、同様に「熱収縮性ポリエステル系フィルム」は「ポリエステルフィルム」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「再生ポリエステル材をリサイクルするためのポリエステルフィルムの製造方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1>
「ポリエステルフィルム」に関して、本件特許発明1においては、「艶消し」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点2>
本件特許発明1においては、「前記再生ポリエステル材の一部分を物理的再生し、造粒を行うことにより、複数のメカニカルリサイクルポリエステルペレットを得るステップ」を「含み」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点3>
本件特許発明1においては、「前記再生ポリエステル材の他部分を化学的再生し、造粒を行うことにより、複数のケミカルリサイクルポリエステルペレットを得るステップであって、複数の前記ケミカルリサイクルポリエステルペレットに、金属塩である少なくとも一種の静電接着添加剤(pinning additives)を含むケミカルリサイクル静電付着ポリエステルチップがさらに含まれるステップ」を「含み」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点4>
本件特許発明1においては、「複数の前記メカニカルリサイクルポリエステルペレットと複数の前記ケミカルリサイクルポリエステルペレットとを互いに混合して、溶融押出し、ポリエステルフィルムとして形成させるステップ」を「含み」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点5>
本件特許発明1においては、「前記再生ポリエステル材の一部分を物理的再生するステップ及び/または前記再生ポリエステル材の他部分を化学的再生するステップにおいて、前記再生ポリエステル材にさらに艶消し用添加剤を加えることにより、最終的に形成された前記ポリエステルフィルムに前記艶消し用添加剤が含まれるようにするステップ」を「含み」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点6>
本件特許発明1においては、「前記ポリエステルペレットの全使用量100重量部に基づいて、複数の前記ケミカルリサイクルポリエステルペレットにおいて、前記ケミカルリサイクル静電付着ポリエステルチップの使用量は、5重量部~35重量部である」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。
(2)判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
甲1の【0012】には、甲1発明における「ペットボトル再生原料」として「マテリアル再生原料」及び「ケミカル再生原料」の両方を用いることを示唆する記載があり、同じく【0022】には、「ポリエステル」を「溶融重合」する際に、「重合触媒」として「コバルト系触媒(酢酸コバルト等)」が使用できることが記載されているものの、当該箇所を含め、甲1には、「ケミカル再生原料」を得る過程において、「金属塩である少なくとも一種の静電接着添加剤(pinning additives)を含むケミカルリサイクル静電付着ポリエステルチップ」を含ませることは記載されていないから、相違点3が実質的な相違点であることは明らかである。
また、甲1には、甲1発明において、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、甲1発明において、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「艶消しポリエステルフィルムは、リサイクルポリエステル素材の割合が高いものを使用して製造することを可能にする。」(本件特許の発明の詳細な説明の【0027】)という効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、
「ア)相違点についての当業者の理解
相違点について検討するに、酢酸コバルト(0022)が記載されている。また、ケミカル再生原料(0012)とは、ジカルボン酸類とグリコール類のことであることは技術常識であるから、【0022】には、いわゆるバージンのポリエステルの重合についての他、ケミカルリサイクル原料を用いた溶融重合が記載されているに等しい。したがって、相違点は実質的には相違点とされるものではなく一致点とされるべきものである。
イ)相違点についての容易想到性
また、甲第2号証には、原料として使用されるテレフタル酸ジメチルは、ポリアルキレンテレフタレートを解重合することによってリサイクルされたテレフタル酸ジメチルが好ましい(【0039】)と記載され、本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法は、(1)テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとを、常圧~0.2MPaの加圧下で、全ジカルボン酸成分に対して30~120mmol%のアルカリ土類金属化合物を用いてエステル交換反応させる工程(【0046】)と記載され、酢酸マグネシウム(実施例1)が記載されている。これは、本件特許において静電接着添加剤とされるものである。甲第1号証に記載されたPETフィルムの製造方法において甲第2号証に記載された静電接着添加剤を適用することにより本件特許発明に当業者であれば想到することは明らかである。
さらに、甲第7号証にはc)ポリエステル屑とエチレングリコールを連続的に供給し、・・・解重合反応を行い、次いで該反応物を重縮合反応することを特徴とするポリエステルの製造方法(請求項1)が記載され、このビスヒドロキシエチルテレフタレート・・・酢酸コバルト340g(得られるポリエステル中の酢酸コバルト濃度として170ppm)・・・添加する(0051)と記載されているため、ポリエステル屑を再生原料としてケミカルリサイクルを行うにあたり、酢酸コバルトを添加する製造方法が記載されている。
したがって、本件特許発明1は甲1号発明と同一の発明であるか、甲1号発明から当業者が容易になした発明である。また、甲1号発明から容易になされた発明でない場合でも、甲第2号証、甲第7号証を適用すれば当業者が容易に想到できた発明である。」(第45ページ第15行ないし第46ページ第16行)と主張する。
そこで、上記主張について検討する。
<ア)の主張について>
甲1の【0022】に記載された「酢酸コバルト」は「重合触媒」であって、本件特許発明1で特定されるような「静電接着添加剤(pinning additives)」とは、その目的・機能が異なるものである。
したがって、相違点3は、実質的な相違点であって、一致点とされるべきものではないから、上記ア)の主張は採用できない。
<イ)の主張について>
甲2に記載された「酢酸マグネシウム」は「エステル交換反応触媒」であり、甲7に記載された「酢酸コバルト」は「重縮合触媒」であり、いずれも、本件特許発明1で特定されるような「静電接着添加剤(pinning additives)」とは、その目的・機能が異なるものである。
すなわち、甲2及び7のいずれにも、本件特許発明1で特定されるような「静電接着添加剤(pinning additives)」は記載されていない。
したがって、甲2及び7に記載された事項を考慮しても、甲1発明における「ペットボトル再生原料」を得る過程において、「ペットボトル再生原料」の一部を「ケミカル再生」により得るようにし、その際に、「金属塩である少なくとも一種の静電接着添加剤(pinning additives)を含むケミカルリサイクル静電付着ポリエステルチップ」を含ませることを想到することには、当業者といえども至らない。
したがって、上記イ)の主張も採用できない。
(4)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
3 本件特許発明2ないし13について
本件特許発明2ないし13は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
4 むすび
したがって、本件特許発明1ないし13は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないので申立理由によっては取り消すことはできない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701189