特許異議申立
2022-701181
回転電機のロータ、永久磁石組立体、及び回転電機のロータの製造方法
- 審判番号
- 2022-701181
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-231845
- 登録番号
- 7079763
- 請求日
- 2022年11月29日
- 審決日
- 2024年01月10日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】本田技研工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人航栄事務所
- 【異議申立人】奥村 安記子
- 審判長/審判官
- 審判長 窪田 治彦
- 審判官 関口 哲生
- 審判官 西 秀隆
- 分類
- P1651.113-YAA(H02K) / P1651.121-YAA(H02K) / P1651.536-YAA(H02K) / P1651.537-YAA(H02K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7079763号発明「回転電機のロータ、永久磁石組立体、及び回転電機のロータの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7079763号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、〔5~6〕、〔7~10〕について訂正することを認める。
特許第7079763号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7079763号の請求項1~10に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」~「本件特許10」といい、総称して「本件特許」という。)についての出願は、令和元年12月23日の出願であって、令和4年5月25日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について、令和4年6月2日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である令和4年11月29日に、本件特許1~10に対し、特許異議申立人 奥村安記子(以下「異議申立人」という。)から、特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立ての、その後の手続等の概要は以下のとおりである。
令和5年 3月 8日付け:取消理由通知書
同年 5月12日 :意見書(特許権者)の提出及び訂正請求
同年11月 1日 :意見書(異議申立人)の提出
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の請求は、「特許第7079763号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求める。」というものであって、その訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「 前記永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間のみに、径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートを備え、」とあるのを、
「 前記永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間のみに、径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートのみを備え、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~4も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に
「 永久磁石と、該永久磁石の1つの側面のみに密着固定する発泡接着シートと、を備え、
略円環形状のロータコアに形成された磁石挿入孔に挿入される、永久磁石組立体であって、
前記磁石挿入孔は、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、該内径側壁面の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面と、を有し、」とあるのを、
「 永久磁石と、該永久磁石の1つの側面のみに密着固定する発泡接着シートと、を備え、
略円環形状のロータコアに形成された磁石挿入孔に挿入される、永久磁石組立体であって、
前記側面に密着固定するのは、前記発泡接着シートのみであり、
前記磁石挿入孔は、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、該内径側壁面の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面と、を有し、」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7に
「 前記永久磁石の前記外径面のみに、径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートを密着固定し、永久磁石組立体を形成する永久磁石組立体形成工程と、」とあるのを、
「 前記永久磁石の前記外径面のみに、径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートのみを密着固定し、永久磁石組立体を形成する永久磁石組立体形成工程と、」に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8~10も同様に訂正する。)。
2 本件訂正の適否について
(1)訂正事項1による訂正について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、永久磁石の外径面と磁石挿入孔の外径側壁面との間のみに備えるものに関し、「径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートのみを備え」るものに限定するものである。すなわち、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1により、永久磁石の外径面と磁石挿入孔の外径側壁面との間のみに備えるものに関し、「径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートのみを備え」るものに限定された。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 新規事項の追加の有無
願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件特許明細書」又は「本件特許図面」という。)には、以下の点が記載されている。(下線部は当審で付与した。)
(ア)「【0024】
永久磁石311の外径面311bには、発泡接着シート312が密着固定されている。すなわち、発泡接着シート312は、永久磁石311の外径面311bと第1磁石挿入孔221の外径側壁面221bとの間に配置されている。発泡接着シート312は、径方向に積層した発泡層312aと接着層312bとを有する。発泡層312aは、永久磁石311の外径面311bに密着固定されている。接着層312bは、第1磁石挿入孔221の外径側壁面221bと対向する。そして、発泡層312aが発泡して、永久磁石311の内径面311aが、第1磁石挿入孔221の内径側壁面221aに押し付けられており、接着層312bが、第1磁石挿入孔221の外径側壁面221bに押し付けられている。
【0025】
これにより、発泡層312aが発泡して、永久磁石311の内径面311aが、第1磁石挿入孔221の内径側壁面221aに押し付けられ、接着層312bが第1磁石挿入孔221の外径側壁面221bに押し付けられて密着することによって、永久磁石311が第1磁石挿入孔221に固定されているので、第1磁石挿入孔221に永久磁石311を固定するための樹脂を注入することなく、永久磁石311を第1磁石挿入孔221に固定できる。」
(イ)「【0029】
本実施形態では、発泡接着シート312は、永久磁石311の外径面311bの略全面に配置されている。これにより、発泡接着シート312と第1磁石挿入孔221の外径側壁面221bとの密着性がより向上し、永久磁石311をより強固に第1磁石挿入孔221に固定することができる。」
(ウ)「【0048】
<永久磁石組立体形成工程>
図3に示すように、永久磁石組立体形成工程では、永久磁石311、321、331の外径面311b、321b、331bに、発泡層312a、322a、332aと接着層312b、322b、332bとが積層する発泡接着シート312、322、332を密着固定して、第1永久磁石組立体31、第2永久磁石組立体32及び第3永久磁石組立体33を形成する。このとき、発泡層312a、322a、332aが永久磁石311、321、331の外径面311b、321b、331bに密着固定するように、発泡接着シート312、322、332を接着する。発泡層312a、322a、332aは接着性を有しており、永久磁石311、321、331と発泡接着シート312、322、332とは強固に密着固定する。発泡層312a、322a、332aは加熱により発泡するが、永久磁石組立体形成工程において、発泡層312a、322a、332aは発泡しておらず、第1永久磁石組立体31、第2永久磁石組立体32及び第3永久磁石組立体33は、第1磁石挿入孔221、第2磁石挿入孔222及び第3磁石挿入孔223に容易に挿入可能な形状となっている。
【0049】
<永久磁石組立体挿入工程>
次に、図4に示すように、永久磁石組立体挿入工程では、第1永久磁石組立体31を第1磁石挿入孔221に挿入する。このとき、第1永久磁石組立体31の発泡接着シート312の接着層312bが、第1磁石挿入孔221の外径側壁面221bと対向し、第1永久磁石組立体31の永久磁石311の内径面311aが、第1磁石挿入孔221の内径側壁面221aと対向するように、第1永久磁石組立体31を第1磁石挿入孔221に挿入する。これにより、発泡接着シート312は、永久磁石311の外径面311bと第1磁石挿入孔221の外径側壁面221bとの間に配置される。」
(エ)「【図2】
[図:0001409083000001.jpg]
【図3】
[図:0001409083000002.jpg]
【図4】
[図:0001409083000003.jpg]
」
このように、本件特許明細書の段落0024には、発泡接着シート312は、永久磁石311の外径面311bと第1磁石挿入孔221の外径側壁面221bとの間に配置されていることが示されている。
また、本件特許明細書の段落0029には、発泡接着シート312は、永久磁石311の外径面311bの略全面に配置されていることが示されている。
さらに、本件特許図面の図2、4から、永久磁石の外径面311bと第1磁石挿入孔221の外径側壁面221bとの間のみに、径方向に積層した発泡層312aと接着層312bとを有する発泡接着シート312のみを備えることが看取される。
そうすると、訂正事項1は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
エ 独立特許要件について
本件においては、本件訂正前の請求項1~4について特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の請求項1~4に係る発明に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
(2)訂正事項2による訂正について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、永久磁石の1つの側面のみに密着固定するものに関し、「発泡接着シートのみ」に限定するものである。すなわち、訂正事項2は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2により、永久磁石の1つの側面のみに密着固定するものに関し、「発泡接着シートのみ」に限定された。
したがって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 新規事項の追加の有無
上記(1)ウで検討したように、本件特許明細書の段落0024には、発泡接着シート312は、永久磁石311の外径面311bと第1磁石挿入孔221の外径側壁面221bとの間に配置されていることが示されており、また、本件特許明細書の段落0029には、発泡接着シート312は、永久磁石311の外径面311bの略全面に配置されていることが示されており、更に、本件特許図面の図2、4から、永久磁石の外径面311bと第1磁石挿入孔221の外径側壁面221bとの間のみに、径方向に積層した発泡層312aと接着層312bとを有する発泡接着シート312のみを備えることが看取される。
そうすると、訂正事項2は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
エ 独立特許要件について
本件においては、本件訂正前の請求項5~6について特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の請求項5~6に係る発明に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
(3)訂正事項3による訂正について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、永久磁石の外径面のみに発泡接着シートを密着固定する、永久磁石組立体形成工程に関し、「発泡接着シートのみを密着固定する」ものに限定するものである。すなわち、訂正事項3は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3により、永久磁石の外径面のみに発泡接着シートを密着固定する、永久磁石組立体形成工程に関し、「発泡接着シートのみを密着固定する」ものに限定された。
したがって、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 新規事項の追加の有無
上記(1)ウで検討したように、本件特許明細書の段落0024には、発泡接着シート312は、永久磁石311の外径面311bと第1磁石挿入孔221の外径側壁面221bとの間に配置されていることが示されており、また、段落0029には、発泡接着シート312は、永久磁石311の外径面311bの略全面に配置されていることが示されており、更に、本件特許図面の図2、4から、永久磁石の外径面311bと第1磁石挿入孔221の外径側壁面221bとの間のみに、径方向に積層した発泡層312aと接着層312bとを有する発泡接着シート312のみを備えることが看取される。
そうすると、訂正事項3は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項3は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
エ 独立特許要件について
本件においては、本件訂正前の請求項7~10について特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の請求項7~10に係る発明に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~4は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係であるから、請求項1~4は、一群の請求項である。そして、本件訂正は、請求項1~4について訂正することを求めるものであるから、特許法第120条の5第4項で規定する一群の請求項ごとに訂正の請求をするものである。
また、本件訂正前の請求項6は、請求項5の記載を引用する関係であるから、請求項5~6は、一群の請求項である。そして、本件訂正は、請求項5~6について訂正することを求めるものであるから、特許法第120条の5第4項で規定する一群の請求項ごとに訂正の請求をするものである。
さらに、本件訂正前の請求項8~10は、請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する関係であるから、請求項7~10は、一群の請求項である。そして、本件訂正は、請求項7~10について訂正することを求めるものであるから、特許法第120条の5第4項で規定する一群の請求項ごとに訂正の請求をするものである。
(5)以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~4〕、〔5~6〕、〔7~10〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正後の請求項1~10に係る発明(以下、請求項順に「本件発明1」、「本件発明2」などといい、また、本件発明1~10を総称して「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
周方向に沿って形成された複数の磁石挿入孔を有する略円環形状のロータコアと、
前記複数の磁石挿入孔に挿入された複数の永久磁石と、を備え、
前記磁石挿入孔は、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、該内径側壁面の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面と、を有し、
前記永久磁石は、前記磁石挿入孔の前記内径側壁面と対向する内径面と、前記磁石挿入孔の前記外径側壁面と対向する外径面と、を有する、回転電機のロータであって、
前記永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間のみに、径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートのみを備え、
前記発泡層は、前記永久磁石に密着固定し、
前記接着層は、前記磁石挿入孔と対向し、
前記発泡層が発泡して、前記接着層が前記磁石挿入孔に密着し、前記永久磁石が前記磁石挿入孔に固定されている、回転電機のロータ。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機のロータであって、
加熱前の前記接着層は、加熱後の前記接着層よりも、前記磁石挿入孔との間の摩擦係数が小さい、回転電機のロータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の回転電機のロータであって、
前記発泡接着シートが配置された領域において、前記永久磁石と前記磁石挿入孔との距離は、略一定である、回転電機のロータ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の回転電機のロータであって、
前記発泡接着シートは、前記永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間に配置されている、回転電機のロータ。
【請求項5】
永久磁石と、該永久磁石の1つの側面のみに密着固定する発泡接着シートと、を備え、
略円環形状のロータコアに形成された磁石挿入孔に挿入される、永久磁石組立体であって、
前記側面に密着固定するのは、前記発泡接着シートのみであり、
前記磁石挿入孔は、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、該内径側壁面の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面と、を有し、
前記永久磁石は、前記磁石挿入孔の前記内径側壁面と対向する内径面と、前記磁石挿入孔の前記外径側壁面と対向する外径面と、を有し、
前記発泡接着シートは、
前記永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間のみに配置され、
発泡層と接着層とが積層しており、前記発泡層が前記永久磁石に密着固定している、永久磁石組立体。
【請求項6】
請求項5に記載の永久磁石組立体であって、
加熱前の前記接着層は、加熱後の前記接着層よりも、前記磁石挿入孔との間の摩擦係数が小さい、永久磁石組立体。
【請求項7】
周方向に沿って形成された複数の磁石挿入孔を有する略円環形状のロータコアと、
前記複数の磁石挿入孔に挿入された複数の永久磁石と、を備え、
前記磁石挿入孔は、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、該内径側壁面の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面と、を有し、
前記永久磁石は、前記磁石挿入孔の前記内径側壁面と対向する内径面と、前記磁石挿入孔の前記外径側壁面と対向する外径面と、を有する、回転電機のロータの製造方法であって、
前記永久磁石の前記外径面のみに、径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートのみを密着固定し、永久磁石組立体を形成する永久磁石組立体形成工程と、
前記永久磁石組立体を前記磁石挿入孔に挿入する、永久磁石組立体挿入工程と、
前記磁石挿入孔に挿入された前記永久磁石組立体の前記発泡層を発泡させることによって、前記永久磁石を前記磁石挿入孔に固定する、永久磁石固定工程と、を含み、
前記永久磁石組立体形成工程では、前記発泡層が前記永久磁石に密着固定するように、前記永久磁石に前記発泡接着シートを密着固定し、
前記永久磁石組立体挿入工程では、前記接着層が前記磁石挿入孔と対向するように、前記永久磁石組立体が前記磁石挿入孔に挿入され、
前記永久磁石固定工程では、前記磁石挿入孔に挿入された前記永久磁石組立体を加熱することにより前記発泡層が発泡し、前記接着層が前記磁石挿入孔に密着することによって、前記永久磁石が前記磁石挿入孔に固定される、回転電機のロータの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の回転電機のロータの製造方法であって、
加熱前の前記接着層は、加熱後の前記接着層よりも、前記磁石挿入孔との間の摩擦係数が小さい、回転電機のロータの製造方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の回転電機のロータの製造方法であって、
前記発泡接着シートが配置された領域において、前記永久磁石固定工程後の前記永久磁石と前記磁石挿入孔との距離は、略一定である、回転電機のロータの製造方法。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項に記載の回転電機のロータの製造方法であって、
前記永久磁石組立体形成工程では、前記永久磁石の前記外径面に前記発泡接着シートを密着固定し、
前記永久磁石組立体挿入工程では、前記接着層が前記磁石挿入孔の前記外径側壁面と対向するように、前記永久磁石組立体を前記磁石挿入孔に挿入する、回転電機のロータの製造方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~10に係る特許に対して、当審が令和5年3月8日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件発明1~10は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、本件発明1~10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<甲号証一覧>
甲第1号証:特開2012-16237号公報
甲第2号証:特開2017-52950号公報
(以下、各甲号証を証拠番号に従って、「甲1」などという。)
2 各証拠の記載
(1)甲1について
ア 甲1には、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。(なお、下線は当審において付与した。以下、同様。)
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に磁石を埋設したロータを有する回転電機であって、
積層した電磁鋼板を有し、前記ロータを構成するロータコアと、
前記ロータコア内で、前記ロータの回転軸方向に延在する磁石埋設孔と、
前記磁石埋設孔に挿入された前記磁石と、
前記磁石の表面と前記磁石埋設孔の表面との少なくとも一方の表面において、前記磁石の挿入方向に沿って塗布された接着剤と、
前記一方の表面において、前記接着剤の少なくとも片側に配置されるガイド部材と、を備えることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記磁石埋設孔における前記回転軸から遠い側の表面と、前記磁石における前記回転軸から遠い側の表面の少なくとも一方において、前記接着剤を備えることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
・・・
【請求項7】
前記接着剤が、非可逆に熱膨張する膨張シートであることを特徴とする請求項1から6に記載の回転電機。
・・・
【請求項11】
内部に磁石を埋設したロータを有する回転電機を製造する製造方法であって、
前記ロータの回転軸方向に延在する磁石埋設孔を有するロータコアを製作する工程と、
前記磁石埋設孔の表面と前記磁石の表面の少なくとも一方において、前記磁石の挿入方向に沿って、接着剤及び前記接着剤の少なくとも片側に位置するガイド部材を設置する工程と、
前記磁石を前記磁石埋設孔に挿入する工程と、を含むことを特徴とする製造方法。」
(イ)「【背景技術】
【0002】
特許文献1において、永久磁石埋め込み型モータの構造に関し、磁石を回転子(ロータ)に固定するために、磁石の全面に接着剤を塗布し、磁石埋設孔に挿入するモータ構造が知られている。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、磁石埋設孔と磁石のクリアランス(隙間)が小さく、磁石挿入時に接着剤が削り取られてしまい、挿入後の磁石表面に接着剤が残らないため、磁石を強固に固着することができないという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、磁石挿入後の磁石表面及び/又はロータコア表面に接着剤が残り、磁石とロータコアが強固に固着される回転電機を提供することを目的とする。」
(エ)「【0006】
本発明のある態様に係る回転電機は、内部に磁石を埋設したロータを有する。回転電機は、積層した電磁鋼板を有し前記ロータを構成するロータコアと、前記ロータコア内で前記ロータの回転軸方向に延在する磁石埋設孔と、前記磁石埋設孔に挿入された前記磁石と、を備える。また、回転電機は、前記磁石と前記磁石埋設孔との少なくとも一方の表面において、前記磁石の挿入方向に沿って塗布された接着剤を備える。さらに、回転電機は、前記一方の表面において、前記接着剤の少なくとも片側に配置されるガイド部材を備える。」
(オ)「【0007】
本発明の別の態様に係る製造方法は、内部に磁石を埋設したロータを有する回転電機を製造するために使用される。製造方法は、前記ロータの回転軸方向に延在する磁石埋設孔を有するロータコアを製作する工程を有する。また、製造方法は、前記磁石埋設孔の表面と前記磁石の表面の少なくとも一方において、前記磁石の挿入方向に沿って、接着剤及び前記接着剤の少なくとも片側に位置するガイド部材を設置する工程を有する。さらに、製造方法は、前記磁石を前記磁石埋設孔に挿入する工程を有する。」
(カ)「【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、磁石挿入時に接着剤が削りとられない。従って、接着剤が、磁石挿入後の磁石表面及び/又はロータコア表面に確実に残り、磁石とロータコアが確実に固着される。」
(キ)「【0011】
<第一実施形態>
図1は、本実施形態に係る回転電機1(モータ)を示す。回転電機1は、回転軸に対して同軸的に配置されたステータ2(固定子)とロータ3(回転子)を備える。ロータ3は、ステータ2に対して回転可能に保持される。ロータ3のロータコア4は、回転軸方向に積層された複数の略同形の電磁鋼板からなる。電磁鋼板は、一枚ずつ型抜きして作製される。ロータ3は、回転軸方向の複数の磁石埋設孔6を有し、各磁石埋設孔6内に板状の磁石10が埋設されている。
【0012】
図2(a)を参照すると、板状の磁石10は、その両端部(右端11a、左端11b側)の表面において、右端11a、左端11bに沿うように塗布された接着剤12と、接着剤12の両側に設置されるガイド部材14とを備える。ガイド部材14は、磁石10に接着剤やグリース等の接着手段により取り付けられる。接着剤12とガイド部材14は、磁石埋設孔6に挿入する方向(回転軸方向)に、前端11cから後端11dまで延在する。なお、代わりに、図2(b)のように、ガイド部材は、接着剤12の片側だけに配置されてもよい。即ち、磁石10は、図2(a)のガイド部材14の一方だけを有してもよい。
・・・
【0014】
図3は、ロータ3の一部端面図であり、磁石埋設孔6に磁石10が挿入された状態を示す。ガイド部材14は、磁石10の挿入時に接着剤12が磁石埋設孔6の入口や内壁で削り取られることを防止する。図3のように、接着剤12が、磁石10の挿入後においても磁石表面に確実に残り、磁石10とロータコア4を硬化後に強く接着できる。接着剤12とガイド部材14は、ロータ3の回転時に、磁石10が遠心力によって移動する側の表面、即ち、磁石10のロータ回転軸から離れている側の表面に取り付けられる。」
(ク)「【0020】
-作用・効果-
以上のように、回転電機1は、磁石10の表面と磁石埋設孔6の表面(壁面)との少なくとも一方において磁石10の挿入方向に沿って塗布された接着剤12を備える。さらに、回転電機1は、この少なくとも一方の表面において、接着剤12の少なくとも片側に配置されるガイド部材14を備える。この回転電機の構成により、磁石挿入時に接着剤12が削りとられない。従って、接着剤が、磁石挿入後の磁石表面及び/又はロータコア表面(磁石埋設孔6の表面)に確実に残り、磁石10とロータコア4を確実に固着できる。
【0021】
回転電機1は、磁石埋設孔6における回転軸から遠い側の表面と、磁石10における回転軸から遠い側の表面の少なくとも一方において、接着剤12を備える。これにより、回転電機1は、ロータ3の回転時に磁石10が遠心力によって移動する側において、接着剤12とガイド部材14を有することになる。従って、接着剤12及び/又はガイド部材14が、磁石10からロータコア4に加わる遠心力荷重に対するクッションとして機能し、ロータコア4の破損が防止できる。」
(ケ)「【0023】
<第二実施形態>
第二実施形態において、図6(a)のように、磁石10は、その表面に塗布される接着剤12の両側又は片側(少なくとも片側)にガイド部材14を有する。さらに、この接着剤12の線膨張係数は、ガイド部材14の線膨張係数より大きい。接着剤12は、熱硬化などにより、非可逆的な熱膨張をする材料(エポキシ樹脂などの熱硬化型の接着剤など)からなる。他の構成は、第一実施形態と同様である。
【0024】
接着剤12の片側もしくは両側にガイド部材14を設けることで、接着剤12は、磁石10の挿入時に削り取られず、挿入後の磁石表面に確実に残る。このとき、図6(a)のように積層ずれ等によりガイド部材14とロータコア4の間に空隙24が生じると、接着剤12がロータコア4に届かないので、このままでは磁石10とロータコア4を固定できない。しかし、接着剤12の線膨張係数が、ガイド部材14の線膨張係数よりも大きく、熱硬化後に空隙24の高さ以上となる。このため、図6(b)のように、熱硬化後に接着剤12がロータコア4に到達し、磁石10とロータコア4を確実に接着できる。
・・・
【0026】
図8のように、ガイド部材14に保護され磁石表面に残った接着剤12は、熱硬化時に膨張して、ロータコア4と磁石10の間を充填して、接着剤層26を形成する。その結果、磁石10とロータコア4の間に、ガイド部材14と接着剤12が確実に存在するため、磁石10の遠心力荷重が、ガイド部材14と接着剤層26を介してロータコア4に伝わる。その結果、図9のように、磁石10とロータコア4は、ガイド部材14と接着剤12との二種類の弾性体(バネ)によって直並列接続される状態になる。故に、ロータコア4の積ずれ凹凸による応力集中を、積層された電磁鋼板全体で緩和でき、ロータ3はより高回転まで動作できる。」
(コ)「【0028】
<第三実施形態>
第三実施形態において、図10のように、接着剤12とガイド部材14は、磁石両端部(右端11a、左端11b側)の表面に位置する。また、ガイド部材14の少なくとも一つは、接着剤12に対して、磁極10の中心側に位置する。他の構成は、第一実施形態と同様である。
【0029】
ロータ3の高回転時に、磁石埋設孔6の半径方向外側に位置するロータコア4の部分30は、磁石10の遠心力荷重によって、半径方向外側に力を受ける。なお、部分30は、磁石埋設孔6の半径方向外側の角に位置する二つのブリッジ部32に挟まれた領域である。仮に、図11のように、接着剤12とガイド部材14が、磁石中央部の表面に位置してロータコア4と接していると、磁石10の全遠心力荷重が、磁石埋設孔6の中央に対向するロータコア4の部分に加わる。そのため、ロータコア4のブリッジ部32には、大きな曲げモーメントが発生してロータコア4の破断につながる。」
(サ)「【0032】
<第四実施形態>
第四実施形態において、図12のように、接着剤12として、非可逆に熱膨張する膨張シート40(たとえば、発砲シートなど)を用いる。図12のように、膨張シート40の両端にガイド部材14を設けたものをあらかじめ作成しておき、膨張シート40とガイド部材14を磁石10の表面に一緒に転写する。例えば、シート状の基材等の上に、膨張シート40とガイド部材14を設けることができる。膨張シート40の粘着性により、膨張シート40とガイド部材14を接続することもできる。他の構成は、第一実施形態と同様である。
【0033】
以上のように、本実施形態によると、あらかじめガイド部材14と接着剤を一緒にしたものを一度に磁石表面に転写することで、接着剤塗布作業が簡略化でき、コストが削減できる。」
(シ)「【図1】
[図:0001409083000004.jpg]
【図2】
[図:0001409083000005.jpg]
【図3】
[図:0001409083000006.jpg]
【図6】
[図:0001409083000007.jpg]
【図8】
[図:0001409083000008.jpg]
【図9】
[図:0001409083000009.jpg]
【図10】
[図:0001409083000010.jpg]
【図12】
[図:0001409083000011.jpg]
」
(ス)上記(ア)、(イ)、(エ)及び(キ)並びに図1の記載から、磁石埋設孔6は、周方向に沿って形成されているといえ、更に、ロータコア4が複数の磁石埋設孔6を有するといえ、ロータコア4は、略円環形状といえる。また、当該磁石埋設孔6に磁石10が挿入されているといえ、当該磁石10が永久磁石であるといえる。
(セ)上記(ク)及び(コ)の記載から、磁石埋設孔6は、半径方向外側において、角を有し、当該角の間に、磁石10の遠心力荷重による力を受けるための回転軸から遠い側の面を有しているといえ、また、上記(キ)、(ク)及び(コ)並びに図1の記載から、板状の磁石10が挿入される磁石埋設孔6は、ロータ3の回転軸に近い側にもまた面を有しているといえる。そうすると、磁石埋設孔6は、ロータ3の径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、ロータ3の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面とを有しているといえる。さらに、板状の磁石10は、回転軸に近い側の面と、回転軸から遠い側の面であって、磁石10におけるロータ3の内径側の内径面、及び、外径側の外径面を有しているといえ、そうすると、磁石10は、磁石埋設孔6の内径側壁面と対向する内径面と、磁石埋設孔6の外径側壁面と対向する外径面とを有しているといえる。
(ソ)上記(キ)及び(ク)の記載から、ロータ3が回転電機1のロータであるいえる。また、上記(ク)の記載から、ロータ3の回転時に磁石10が遠心力によって移動する側において、設けられた接着剤12及びガイド部材14は、遠心力荷重に対するクッションとして機能することがいえる。そして、上記(ク)及び(サ)並びに図3及び図12の記載から、磁石10の外径面と磁石埋設孔6の外径側壁面の間のみに膨張シート40とガイド部材14とを備えたものが示されているといえる。さらに、上記(ク)、(ケ)及び(サ)の記載から、当該接着剤12としての膨張シート40によって、磁石10が磁石埋設孔6に固定されているといえる。
(タ)上記(ア)及び(オ)の記載から、ロータ3の製造方法は、回転電機のロータの製造方法であるといえる。
(チ)上記(ア)、(オ)、(ケ)及び(サ)並びに図2(a)、(b)、図6及び図12の記載から、磁石10の外径面のみにおいて、膨張シート40とガイド部材14を磁石10に転写する工程を備えているといえる。そして、そのような転写により、磁石10の外径面のみに膨張シート40とガイド部材14を転写した磁石組立体が形成されているといえる。すなわち、磁石10の外径面のみに、膨張シート40とガイド部材14を転写し、磁石組立体を形成する磁石組立体形成工程を備えているといえる。
(ツ)上記(ア)及び(オ)の記載から、磁石10を磁石埋設孔6に挿入する工程を有するといえる。また、上記(ア)、(オ)及び(ケ)の記載から、磁石埋設孔6に挿入され、熱硬化後に接着剤12がロータコア4に到達し、磁石10とロータコア4を確実に接着させる工程を含むといえる。さらに、上記(ア)、(オ)、(ケ)及び(サ)の記載から、接着剤12としての膨張シート40を熱硬化するときに空隙24の高さ以上になるといえることから、膨張シート40を膨張させることによって磁石10が磁石埋設孔6に固定される工程を含むといえる。
イ 甲1に記載された発明
上記ア(ア)~(ソ)の記載によれば、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明A」という。)が記載されていると認められる。
「周方向に沿って形成された複数の磁石埋設孔6を有する略円環形状のロータコア4と、
前記複数の磁石埋設孔6に挿入された複数の磁石10と、を備え、
前記磁石埋設孔6は、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、該内径側壁面の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面と、を有し、
前記磁石10は、前記磁石埋設孔6の前記内径側壁面と対向する内径面と、前記磁石埋設孔6の前記外径側壁面と対向する外径面とを有する、回転電機1のロータ3であって、
前記磁石10の前記外径面と前記磁石埋設孔6の前記外径側壁面との間のみに、膨張シート40とガイド部材14とを備え、
前記磁石10が前記磁石埋設孔6に固定されている、
回転電機1のロータ3。」
また、上記ア(ア)~(ソ)、(チ)の記載によれば、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明B」という。)が記載されていると認められる。
「磁石10と、該磁石10の外径面のみに転写される膨張シート40とガイド部材14と、を備え、
略円環形状のロータコア4に形成された磁石埋設孔6に挿入される、磁石組立体であって、
前記磁石埋設孔6は、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、該内径側壁面の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面と、を有し、
前記磁石10は、前記磁石埋設孔6の前記内径側壁面と対向する内径面と、前記磁石埋設孔6の前記外径側壁面と対向する外径面と、を有し、
前記膨張シート40と前記ガイド部材14は、
前記磁石10の前記外径面と前記磁石埋設孔6の前記外径側壁面との間のみに配置されている、磁石組立体。」
さらに、上記ア(ア)~(ツ)の記載によれば、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明C」という。)が記載されていると認められる。
「周方向に沿って形成された複数の磁石埋設孔6を有する略円環形状のロータコア4と、
前記複数の磁石埋設孔6に挿入された複数の磁石10と、を備え、
前記磁石埋設孔6は、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、該内径側壁面の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面と、を有し、
前記磁石10は、前記磁石埋設孔6の前記内径側壁面と対向する内径面と、前記磁石埋設孔6の前記外径側壁面と対向する外径面とを有する、回転電機1のロータ3の製造方法であって、
前記磁石10の前記外径面のみに、膨張シート40とガイド部材14を転写し、磁石組立体を形成する磁石組立体形成工程と、
前記膨張シート40とガイド部材14が転写された前記磁石10を前記磁石埋設孔6に挿入する工程と、
前記磁石埋設孔6に挿入された前記磁石10に転写された前記膨張シート40を熱膨張させることによって、前記磁石10を前記磁石埋設孔6に固定する工程とを含み、
前記磁石10を前記磁石埋設孔6に固定する工程では、前記磁石10が前記磁石埋設孔6に固定される、回転電機1のロータ3の製造方法。」
(2)甲2について
ア 甲2には、以下の事項が記載又は示されている。
(ア)「【請求項5】
接着剤層(A)の片面に、直接または他の層を介して、接着剤層(B)を有する接着テープであって、前記接着テープを130℃の環境下に1時間放置した後の、前記接着剤層(A)の厚さ方向の膨張率〔前記放置後の接着剤層(A)の厚さ/前記放置前の接着剤層(A)の厚さ〕×100が200%以上であり、かつ、前記接着剤層(B)の厚さ方向の膨張率〔前記放置後の接着剤層(B)の厚さ/前記放置前の接着剤層(B)の厚さ〕×100が120%以下である接着テープを構成する接着剤層(A)と、磁石の一部とを予め接着させたものを、モーターを構成するコア部材が有する空隙に載置した後、少なくとも前記接着剤層(A)を刺激し膨張させることによって、前記磁石が前記空隙内で固定された構成を有することを特徴とするモーター。」
(イ)「【0003】
一方、接着テープの使用範囲がさらに拡大するなかで、前記接着テープとしては、例えば一方の被着体が有する空隙に、他方の被着体を固定する際に使用できることが求められている。具体的には、ハイブリッド自動車等に搭載されるモーターとしては、一般に、コア部(ローターコア)の所定の位置に空隙が設けられ、その空隙に磁石が埋め込まれた構成を有するものが知られている。前記コア部が有する空隙に前記磁石を固定する際、接着テープを使用することが検討されている。」
(ウ)「【0015】
前記接着テープを構成する前記接着剤層(A)は、例えば熱や光等の刺激を与えることによって膨張しうる層である。
前記接着剤層(A)としては、前記接着テープを130℃の環境下に1時間放置した場合に、前記接着剤層(A)の厚さ方向の膨張率〔前記放置後の接着剤層(A)の厚さ/前記放置前の接着剤層(A)の厚さ〕×100が200%以上となるものを使用する。
前記膨張率は、250%以上であることが好ましく、250%~1000%であることがより好ましい。前記膨張率の接着剤層(A)を有する接着テープであれば、例えば一方の被着体が有する空隙の高さ(厚さ)が大きい場合であっても、前記空隙内に他方の被着体を好適に固定したり、前記空隙内を前記接着テープで充填することができる。」
(エ)「【0019】
一方、前記接着剤層(A)が膨張することによって形成された接着剤層(A’)の厚さは、20μm~2500μmの範囲であることが好ましく、40μm~1500μmの範囲であることが、より一層優れた接着強度を得るうえで好ましい。また、前記接着剤層(A’)は、多孔構造を有するものであることが好ましい。」
(オ)「【0021】
前記接着剤層(A)としては、前記したとおり熱や光等の刺激を与えることによって膨張しうるものを使用することができ、具体的には各種樹脂及び膨張剤を含有する層を使用することができる。」
(カ)「【0029】
前記膨張剤としては、前記膨張後の接着剤層(A’)として多孔構造を形成できるものを使用することが好ましく、例えば炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素アンモニウム、アジド等の無機化合物、トリクロロモノフルオロメタン等のフッ化アルカン、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、パラトルエンスルホニルヒドラジド等のヒドラジン化合物、p-トルエンスルホニルセミカルバジド等のセミカルバジド化合物、5-モルホリル-1,2,3,4-チアトリアゾール等のトリアゾール化合物、N,N’-ジニトロソテレフタルアミド等のN-ニトロソ化合物を使用することができる。」
(キ)「【0042】
また、前記接着剤層(B)としては、粘着性または接着性を有する層が挙げられ、例えば熱硬化性接着剤層や感圧接着剤層等が挙げられる。」
(ク)「【0043】
前記接着剤層(B)は、例えば粘着性または接着性を有する層を形成可能な接着剤組成物(b)を用いて形成することができる。」
(ケ)「【0055】
本発明の接着テープは、前記接着剤層(A)または前記接着テープ全体に刺激を与えることによって膨張させることができる。前記刺激としては、前記したとおり、熱や光等が挙げられる。刺激を与える方法としては、加熱または光照射等の方法が挙げられ、加熱する方法を採用することが好ましい。」
(コ)「【0056】
前記加熱温度は、例えば前記膨張剤が膨張する温度(膨張開始温度)に対応した温度であることが好ましく、具体的には、80℃~300℃であることが好ましく、100℃~200℃であることが好ましい。」
(サ)「【0061】
前記物品としては、例えばハイブリッド自動車等に搭載されるモーターが挙げられる。前記モーターは、具体的には、前記接着テープを構成する接着剤層(A)と、磁石等の部品の一部とを予め接着させたものを、モーターを構成するコア部材が有する空隙に載置した後、少なくとも前記接着剤層(A)を刺激し膨張させることによって製造することができる。」
(シ)「【0092】
[せん断接着力1の測定方法]
脱脂処理した平滑な表面を有するアルミニウム板(幅15mm×長さ70mm×厚さ0.5mm)の表面に、10mm×10mmの大きさに裁断した接着テープの前記接着剤層(A)に相当する面を貼付し、2kgのハンドローラーを用いて圧着した。」
(ス)「【0093】
次に、前記接着テープの上面(前記接着剤層(B)に相当する面)に、脱脂処理した平滑な表面を有する他のアルミニウム板(幅15mm×長さ70mm×厚み0.5mm)を載置し、これらをクリップで固定した。」
(セ)「【0101】
なお、実施例1~6及び比較例1で得た接着テープは、それを構成する膨張性の接着剤層(A)に相当する面が前記アルミニウム板の上面(C1-1)に貼付されるようにして上記試験を行った。また、比較例2で得た接着テープは、接着剤層(B)に相当する面が前記アルミニウム板の片面(C1-1)に貼付されるようにして上記試験を行った。」
(ソ)上記(ア)及び(コ)の記載から、膨張剤が膨張する温度に対応した温度において、接着剤層(A)の膨張率は200パーセント以上であり、接着剤層(B)の膨張率が、120パーセント以下であることが理解でき、また、上記(イ)~(カ)及び(ケ)の記載から、接着剤層(A)は、膨張開始温度において加熱された後に、多孔構造を有する層と理解できることから、接着剤層(A)は、発泡層といえる。
(タ)上記の(ア)及び(コ)の記載から、接着剤層(B)の膨張率が、120パーセント以下であることに加え、更に、上記(キ)及び(ク)の記載から、接着剤層(B)は、接着剤組成物からなる接着性を有する層であることが理解できるから、接着剤層(B)は、接着層といえる。
(チ)上記(ア)の記載によれば、接着テープは、接着剤層(A)の片面に直接接着剤層(B)を有する接着テープであり、通常テープはシートからなることから、接着テープは、積層した発泡接着シートといえる。
(ツ)上記(サ)の記載によれば、モーターの製造の際に、接着テープを構成する接着剤層(A)は、磁石などの部品の一部と予め接着させたものを、コア部材が有する空隙に載置されることから、接着剤層(A)は、磁石に接着しているといえる。
(テ)上記(イ)及び(サ)の記載によれば、モーターのローターコアの空隙に接着剤層(A)により接着された磁石を埋め込むことが理解でき、また、上記(シ)~(セ)の記載によれば、アルミニウム板C1-1に貼付された接着剤層(A)が加熱により膨張し、結果として、接着剤層(B)が対向する面を備えるアルミニウム板C2に接着することが理解でき、それらの理解によれば、モーターのローターコアの空隙に接着剤層(A)により接着された磁石を埋め込んだ後に、接着剤層(A)の膨張により、接着剤層(B)が空隙に接着することによりローターコアを製造することが理解できる。
イ 甲2に記載された発明
上記ア(ア)~(テ)の記載によれば、甲2には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「積層した接着剤層(A)と接着剤層(B)とを有する接着テープにより、接着剤層(A)は、磁石に接着し、接着剤層(B)は、空隙と対向し、接着剤層(A)が膨張により多孔構造を形成して、接着剤層(B)が空隙に接着することにより、製造されたモーターのローターコア。」
第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)本件発明1と甲1発明Aの対比
本件発明1と甲1発明Aとをその機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲1発明Aの「磁石埋設孔6」は、本件発明1の「磁石挿入孔」に相当し、同様に、「ロータコア4」は「ロータコア」に、「磁石10」は「永久磁石」に、「回転電機1」は「回転電機」に、「ロータ3」は「ロータ」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明Aの「前記磁石10の前記外径面と前記磁石埋設孔6の前記外径側壁面との間のみに」備えられる「膨張シート40とガイド部材14」と、本件発明1の「前記永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間のみに」備えられる「径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シート」とは、「前記永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間のみに」備えられる「シート」の限りにおいて、両者は共通する。
そうすると、本件発明1と甲1発明Aとは、以下の「一致点1-1」で一致し、以下の「相違点1-1」、「相違点1-2」で相違する。
(一致点1-1)
「周方向に沿って形成された複数の磁石挿入孔を有する略円環形状のロータコアと、
前記複数の磁石挿入孔に挿入された複数の永久磁石と、を備え、
前記磁石挿入孔は、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、該内径側壁面の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面と、を有し、
前記永久磁石は、前記磁石挿入孔の前記内径側壁面と対向する内径面と、前記磁石挿入孔の前記外径側壁面と対向する外径面と、を有する、回転電機のロータであって、
前記永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間のみに、シートを備え、
前記永久磁石が前記磁石挿入孔に固定されている、回転電機のロータ。」
(相違点1-1)
本件発明1は、「径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シート」を備え、「前記発泡層は、前記永久磁石に密着固定し、前記接着層は、前記磁石挿入孔と対向し、前記発泡層が発泡して、前記接着層が前記磁石挿入孔に密着し」固定されるのに対して、
甲1発明Aは、膨張シートが「径方向に積層した発泡層と接着層」を備えるのか否か不明であり、また、永久磁石が磁石挿入孔に固定される際に、発泡層は永久磁石に密着固定し、接着層は磁石挿入孔と対向し、前記発泡層が発泡して、前記接着層が前記磁石挿入孔に密着するものか否か不明である点。
(相違点1-2)
永久磁石の外径面と磁石挿入孔の外径側壁面との間のみに備えるシートに関し、本件発明1は、「径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートのみを備え」るのに対して、
甲1発明Aは、膨張シート40とガイド部材14とを備える点。
(2)判断
事案に鑑み、まず、相違点1-2について検討する。
ア 甲1の段落0004~0005に「磁石埋設孔と磁石のクリアランス(隙間)が小さく、磁石挿入時に接着剤が削り取られてしまい、挿入後の磁石表面に接着剤が残らないため、磁石を強固に固着することができないという問題点があった。本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、磁石挿入後の磁石表面及び/又はロータコア表面に接着剤が残り、磁石とロータコアが強固に固着される回転電機を提供することを目的とする。」(第4の2(1)(ウ)を参照)と記載され、また、甲1の段落0020に「磁石10の表面と磁石埋設孔6の表面(壁面)との少なくとも一方において磁石10の挿入方向に沿って塗布された接着剤12を備える。さらに、回転電機1は、この少なくとも一方の表面において、接着剤12の少なくとも片側に配置されるガイド部材14を備える。この回転電機の構成により、磁石挿入時に接着剤12が削りとられない。従って、接着剤が、磁石挿入後の磁石表面及び/又はロータコア表面(磁石埋設孔6の表面)に確実に残り、磁石10とロータコア4を確実に固着できる。」(第4の2(1)(ク)を参照)と記載されるように、甲1に開示されるロータにおいて、ガイド部材14を備えることは、「磁石埋設孔と磁石のクリアランス(隙間)が小さく、磁石挿入時に接着剤が削り取られてしまい、挿入後の磁石表面に接着剤が残らないため、磁石を強固に固着することができない」という課題を解決するための必須の事項であると理解できる。
そうすると、甲1発明Aにおいて、上記課題を解決するための事項であるガイド部材14を、取り除くといった改変は行わない。
イ また、甲2には、上記第4の2(2)で示したとおり、「積層した接着剤層(A)と接着剤層(B)とを有する接着シートにより、接着剤層(A)は、磁石に接着し、接着剤層(B)は、空隙と対向し、接着剤層(A)が膨張により多孔構造を形成して、接着剤層(B)が空隙に接着することにより、製造されたモーターのローターコア。(甲2発明)」が記載されているといえるところ、仮に、甲1発明Aの永久磁石の外径面と磁石挿入孔の外径側壁面との間のみに備えるシートに、甲2発明に開示される積層した接着剤層(A)と接着剤層(B)とを有する接着テープを適用し得たとしても、甲1発明Aの膨張シート40が、積層した接着剤層(A)と接着剤層(B)とを有する接着テープに変わるものの、依然としてガイド部材14は、存在することになる。
したがって、甲1発明Aにおいて、甲2発明を適用し得たとしても、本件発明1の上記相違点1-2に係る構成には至らない。
ウ 以上によれば、相違点1-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明A及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
2 本件発明2~4について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4は、本件発明1を特定するための事項を全て含み、本件発明1をさらに減縮したものである。したがって、その余の事項を検討するまでもなく、前記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2~4は、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 本件発明5について
(1)本件発明5と甲1発明Bの対比
本件発明5と甲1発明Bとをその機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲1発明Bの「磁石10」は、本件発明5の「永久磁石」に相当する。
甲1発明Bの「該磁石10の外径面のみに転写される膨張シート40とガイド部材14と、を備え、」との事項と、本件発明5の「該永久磁石の1つの側面のみに密着固定する発泡接着シートと、を備え、」との事項とは、「永久磁石の1つの側面のみに設けられるシートと、を備え」との限りにおいて、両者は共通する。
甲1発明Bの「ロータコア4」は「ロータコア」に相当し、同様に、「磁石埋設孔6」は「磁石挿入孔」に、「磁石組立体」は「永久磁石組立体」にそれぞれ相当する。そうすると、甲1発明Bの「略円環形状のロータコア4に形成された磁石埋設孔6に挿入される、磁石組立体」は、本件発明5の「略円環形状のロータコアに形成された磁石挿入孔に挿入される、永久磁石組立体」に相当する。
甲1発明Bの「前記磁石埋設孔6は、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、該内径側壁面の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面と、を有し、」との事項は、本件発明5の「前記磁石挿入孔は、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、該内径側壁面の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面と、を有し、」との事項に相当する。
甲1発明Bの「前記磁石10は、前記磁石埋設孔6の前記内径側壁面と対向する内径面と、前記磁石埋設孔6の前記外径側壁面と対向する外径面と、を有し、」との事項は、本件発明5の「前記永久磁石は、前記磁石挿入孔の前記内径側壁面と対向する内径面と、前記磁石挿入孔の前記外径側壁面と対向する外径面と、を有し、」との事項に相当する。
甲1発明Bの「前記膨張シート40と前記ガイド部材14は、前記磁石10の前記外径面と前記磁石埋設孔6の前記外径側壁面との間のみに配置されている」との事項と、本件発明5の「前記発泡接着シートは、前記永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間のみに配置され、発泡層と接着層とが積層しており、前記発泡層が前記永久磁石に密着固定している」との事項とは、「シートは、永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間のみに配置され」ているとの限りにおいて、両者は共通する。
そうすると、本件発明5と甲1発明Bとは、以下の「一致点1-2」で一致し、以下の「相違点1-3」、「相違点1-4」で相違する。
(一致点1-2)
「永久磁石と、該永久磁石の1つの側面のみに設けられるシートと、を備え、
略円環形状のロータコアに形成された磁石挿入孔に挿入される、永久磁石組立体であって、
前記磁石挿入孔は、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、該内径側壁面の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面と、を有し、
前記永久磁石は、前記磁石挿入孔の前記内径側壁面と対向する内径面と、前記磁石挿入孔の前記外径側壁面と対向する外径面と、を有し、
前記シートは、
前記永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間のみに配置されている、永久磁石組立体。」の点で一致する。
(相違点1-3)
永久磁石の1つの側面のみに設けられるシートに関して、本件発明5では、「永久磁石の1つの側面のみに密着固定する発泡接着シート」であり、また、「前記発泡接着シートは、」「発泡層と接着層とが積層しており、前記発泡層が前記永久磁石に密着固定している」のに対して、
甲1発明Bでは、磁石10の外径面のみに転写される膨張シート40とガイド部材14であり、「永久磁石の1つの側面のみに密着固定する発泡接着シート」であるか否か不明であり、また、膨張シート40とガイド部材14は、「発泡層と接着層とが積層しており、前記発泡層が前記永久磁石に密着固定している」ものであるのか否か不明である点。
(相違点1-4)
永久磁石の1つの側面のみに設けられるシートに関し、本件発明5は、「前記側面に密着固定するのは、前記発泡接着シートのみ」であるのに対して、
甲1発明Bは、膨張シート40とガイド部材14である点。
(2)判断
事案に鑑み、まず、相違点1-4について検討する。
ア 上記1(2)アで検討したように、甲1に開示されるロータにおいて、ガイド部材14を備えることは、課題を解決するための必須の事項であると理解できる。
そうすると、甲1発明Bにおいて、課題を解決するための事項であるガイド部材14を、取り除くといった改変は行わない。
イ また、甲2には、上記1(2)イで示したとおり、甲2発明が記載されているといえるところ、仮に、甲1発明Bの永久磁石の1つの側面のみに設けられるシートに、甲2発明に開示される積層した接着剤層(A)と接着剤層(B)とを有する接着テープを適用し得たとしても、甲1発明Bの膨張シート40が、積層した接着剤層(A)と接着剤層(B)とを有する接着テープに変わるものの、依然としてガイド部材14は、存在することになる。
したがって、甲1発明Bにおいて、甲2発明を適用し得たとしても、本件発明5の上記相違点1-4に係る構成には至らない。
ウ 以上によれば、相違点1-3について検討するまでもなく、本件発明5は、甲1発明B及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
4 本件発明6について
本件発明5を直接的に引用する本件発明6は、本件発明5を特定するための事項を全て含み、本件発明5をさらに減縮したものである。したがって、その余の事項を検討するまでもなく、前記本件発明5についての判断と同様の理由により、本件発明6は、甲1発明B及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
5 本件発明7について
(1)本件発明7と甲1発明Cの対比
本件発明7と甲1発明Cとをその機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲1発明Cの「磁石埋設孔6」は、本件発明7の「磁石挿入孔」に相当し、同様に、「ロータコア4」は「ロータコア」に、「磁石10」は「永久磁石」に、「回転電機1」は「回転電機」に、「ロータ3」は「ロータ」に、それぞれ相当する。
そして、甲1発明Cの「周方向に沿って形成された複数の磁石埋設孔6を有する略円環形状のロータコア4と、前記複数の磁石埋設孔6に挿入された複数の磁石10と、を備え、前記磁石埋設孔6は、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、該内径側壁面の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面と、を有し、前記磁石10は、前記磁石埋設孔6の前記内径側壁面と対向する内径面と、前記磁石埋設孔6の前記外径側壁面と対向する外径面とを有する」との事項は、本件発明7の「周方向に沿って形成された複数の磁石挿入孔を有する略円環形状のロータコアと、前記複数の磁石挿入孔に挿入された複数の永久磁石と、を備え、前記磁石挿入孔は、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、該内径側壁面の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面と、を有し、前記永久磁石は、前記磁石挿入孔の前記内径側壁面と対向する内径面と、前記磁石挿入孔の前記外径側壁面と対向する外径面と、を有する」との事項に相当する。
また、甲1発明Cの「前記磁石10の前記外径面のみに、膨張シート40とガイド部材14を転写し、磁石組立体を形成する磁石組立体形成工程」は、本件発明7の「前記永久磁石の前記外径面のみに、径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートのみを密着固定し、永久磁石組立体を形成する永久磁石組立体形成工程」と、「前記永久磁石の前記外径面のみに、シートを密着固定し、永久磁石組立体を形成する永久磁石組立体形成工程」の限りにおいて、両者は共通する。
また、甲1発明Cの「前記膨張シート40とガイド部材14が転写された前記磁石10を前記磁石埋設孔6に挿入する工程」は、本件発明7の「前記永久磁石組立体を前記磁石挿入孔に挿入する、永久磁石組立体挿入工程」に相当する。
甲1発明Cの「前記磁石埋設孔6に挿入された前記磁石10に転写された前記膨張シート40を熱膨張させることによって、前記磁石10を前記磁石埋設孔6に固定する工程とを含み、前記磁石10を前記磁石埋設孔6に固定する工程では、前記磁石10が前記磁石埋設孔6に固定される」との事項は、本件発明7の「前記磁石挿入孔に挿入された前記永久磁石組立体の前記発泡層を発泡させることによって、前記永久磁石を前記磁石挿入孔に固定する、永久磁石固定工程と、を含み、」「前記永久磁石固定工程では、前記磁石挿入孔に挿入された前記永久磁石組立体を加熱することにより前記発泡層が発泡し、前記接着層が前記磁石挿入孔に密着することによって、前記永久磁石が前記磁石挿入孔に固定される」との事項と、「前記永久磁石を前記磁石挿入孔に固定する、永久磁石固定工程」の限りにおいて、両者は共通する。
そうすると、本件発明7と甲1発明Cとは、以下の「一致点1-3」で一致し、以下の「相違点1-5」、「相違点1-6」で相違する。
(一致点1-3)
「周方向に沿って形成された複数の磁石挿入孔を有する略円環形状のロータコアと、
前記複数の磁石挿入孔に挿入された複数の永久磁石と、を備え、
前記磁石挿入孔は、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、該内径側壁面の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面と、を有し、
前記永久磁石は、前記磁石挿入孔の前記内径側壁面と対向する内径面と、前記磁石挿入孔の前記外径側壁面と対向する外径面と、を有する、回転電機のロータの製造方法であって、
前記永久磁石の前記外径面のみに、シートを密着固定し、永久磁石組立体を形成する永久磁石組立体形成工程と、
前記永久磁石組立体を前記磁石挿入孔に挿入する、永久磁石組立体挿入工程と、
前記永久磁石を前記磁石挿入孔に固定する、永久磁石固定工程と、を含む、回転電機のロータの製造方法。」
(相違点1-5)
本件発明7では、シートが「径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シート」であり、また、「前記磁石挿入孔に挿入された前記永久磁石組立体の前記発泡層を発泡させることによって、前記永久磁石を前記磁石挿入孔に固定する、永久磁石固定工程」を含み、更に、「前記永久磁石組立体形成工程では、前記発泡層が前記永久磁石に密着固定するように、前記永久磁石に前記発泡接着シートを密着固定し、」「前記永久磁石組立体挿入工程では、前記接着層が前記磁石挿入孔と対向するように」し、「前記永久磁石固定工程では、前記磁石挿入孔に挿入された前記永久磁石組立体を加熱することにより前記発泡層が発泡し、前記接着層が前記磁石挿入孔に密着する」のに対して、
甲1発明Cでは、膨張シート40とガイド部材14が「発泡層と接着層とを有する発泡接着シート」であるのか否か不明であり、また、磁石10を磁石埋設孔6に固定する工程において、「発泡層を発泡させることによって、」磁石10を磁石挿入孔6に固定するものであるのか否か不明であり、更に、「前記発泡層が前記永久磁石に密着固定するように、前記永久磁石に前記発泡接着シートを密着固定し、」「前記接着層が前記磁石挿入孔と対向するように」し、「加熱することにより前記発泡層が発泡し、前記接着層が前記磁石挿入孔に密着する」のか否か不明である点。
(相違点1-6)
永久磁石の外径面のみに密着固定するシートに関し、本件発明7は、「径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートのみを密着固定」するのに対して、
甲1発明Cは、膨張シート40とガイド部材14を密着固定する点。
(2)判断
事案に鑑み、まず、相違点1-6について検討する。
ア 上記1(2)アで検討したように、甲1に開示されるロータにおいて、ガイド部材14を備えることは、課題を解決するための必須の事項であると理解できる。
そうすると、甲1発明Cにおいて、課題を解決するための事項であるガイド部材14を、取り除くといった改変は行わない。
イ また、甲2には、上記1(2)イで示したとおり、甲2発明が記載されているといえるところ、仮に、甲1発明Cの永久磁石の外径面のみに密着固定するシートに、甲2発明に開示される積層した接着剤層(A)と接着剤層(B)とを有する接着テープを適用し得たとしても、甲1発明Cの膨張シート40が、積層した接着剤層(A)と接着剤層(B)とを有する接着テープに変わるものの、依然としてガイド部材14は、存在することになる。
したがって、甲1発明Cにおいて、甲2発明を適用し得たとしても、本件発明7の上記相違点1-6に係る構成には至らない。
ウ 以上によれば、相違点1-5について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1発明C及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
6 本件発明8~10について
本件発明7を直接又は間接的に引用する本件発明8~10は、本件発明7を特定するための事項を全て含み、本件発明7をさらに減縮したものである。したがって、その余の事項を検討するまでもなく、前記本件発明7についての判断と同様の理由により、本件発明8~10は、甲1発明C及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
7 異議申立人の主張に対して
異議申立人は、特許異議申立書で、本件発明1、3、4、5、7、9、10は、甲1に記載された発明である旨主張する(特許異議申立書の40頁2~4行)。
しかし、上記1~6で検討したように、少なくとも、上記相違点1-2、1-4、1-6は、実質的な相違点であることは明らかである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1、3、4、5、7、9、10は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
第6 取消理由通知において採用しなかった異議申立人の申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった異議申立人の申立理由の概要は、次のとおりである。
(1)理由A(甲2を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1~10は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲2に記載された発明及び甲1、3~4に記載された事項に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、本件発明1~10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<証拠方法>
甲1:特開2012-16237号公報
甲2:特開2017-52950号公報
甲3:特開2015-35888号公報
甲4:特開2019-193413号公報
(2)理由B(実施可能要件違反)
本件発明1~10に係る特許は、以下のアの点で、また、本件発明2、6、8に係る特許は、以下のイの点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ア 接着層に熱硬化型接着剤を用い、発泡層が加熱により発泡する前に接着層が熱硬化すると、接着層は、磁石挿入孔の外径側壁面の凹凸に食い込んで密着するのは困難である。よって上記のような場合については実施できないことがある。(特許異議申立書の36頁20~23行)
イ 接着層が発泡層と同様に接着性を有すると、接着層の摩擦係数は高くなる傾向がある。そうすると、永久磁石組立体を磁石挿入孔に挿入する際に、永久磁石組立体が磁石挿入孔に引っ掛かり、発泡接着シートが剥がれてしまう。よって、上記のような場合については実施できないことがある。(特許異議申立書の38頁6~9行)
(3)理由C(サポート要件違反)
本件発明1~10に係る特許は、以下のアの点で、また、本件発明2、6、8に係る特許は、以下のイの点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ア 磁石挿入孔の内径側壁面及び外径側壁面が径方向に凹凸を有する場合、接着層に熱硬化型接着剤を用い、発泡層が加熱により発泡する前に接着層が熱硬化すると、接着層は、磁石挿入孔の外径側壁面の凹凸に食い込んで密着するのは困難である。よってこのような場合は発明の課題を解決することができない。(特許異議申立書の39頁3~6行)
イ 接着層が発泡層と同様に接着性を有すると、接着層の摩擦係数は高くなる傾向がある。そうすると、永久磁石組立体を磁石挿入孔に挿入する際に、永久磁石組立体が磁石挿入孔に引っ掛かり、発泡接着シートが剥がれてしまう。よって、このような場合は発明の課題を解決することができない。(特許異議申立書の39頁20~23行)
2 理由A(甲2を主引用例とする進歩性欠如)について
(1)各証拠の記載
ア 甲3について
甲3には、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に使用する永久磁石付きの回転電機用ロータとその製造方法に関し、特に、磁石を収容したロータコアの磁石収容孔に樹脂を注入し、磁石を樹脂で固定するに好適な回転電機用ロータとその製造方法に関するものである。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来例では、各磁石収容孔への樹脂の流入圧力により磁石を磁石収容孔の内径側へ押圧するものであるが、この押圧力によっても磁石が磁石収容孔内で傾いた取付け姿勢で固定される場合があった。また、上記従来例では、全ての磁石収容孔内の磁石の取付け姿勢を、ばらつきなく均一とすることを補償できるものでもない。
【0005】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、ロータコアにおける各磁石の取付け姿勢をバラツキなく均一にするに好適な回転電機用ロータとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、発泡剤を含む発泡層を備える発泡シートを、磁石の表面に貼付ける貼付け工程と、発泡シートを貼付けた磁石を、ロータコアに複数形成された軸方向に貫通する磁石収容孔に、収容する磁石挿入工程と、を備える。次いで、ロータコアを加熱することにより発泡シートを加熱し、発泡シートの発泡層を膨張させて、磁石を磁石収容孔の壁面に押付ける加熱工程と、そして、磁石収容孔に溶融樹脂を注入して磁石を樹脂でモールドする固定工程と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
したがって、本発明では、発泡シートの膨張力によって、各磁石収容孔内の磁石は、同じ方向に押圧されて固定されるため、樹脂の注入前において、磁石位置のばらつきを低減できる。このため、固定工程により磁石収容孔に溶融樹脂を注入して磁石を樹脂でモールドすると、全ての磁石収容孔内の磁石の取付け姿勢を、ばらつきなく均一とすることを補償することができる。」
(ウ)「【0016】
次に、磁石30の固定方法について説明する。図3は本実施形態における回転電機用ロータ20の製造方法を示す工程図である。即ち、先ず、発泡シート貼付け工程S1において、磁石30に発泡シート31を貼付ける。次いで、磁石挿入工程S2において、発泡シート31を貼付けた磁石30をロータコア21の磁石収容孔22へ挿入する。次いで、加熱工程S3において、ロータコア21を加熱して発泡シート31の膨張による磁石30の位置決めを実施する。そして、樹脂による固定工程S4において、ロータコア21の磁石収容孔22へ樹脂40を注入して磁石30を固定するようにしている。
【0017】
発泡シート貼付け工程S1では、磁石30の上面若しくは下面に発泡シート31を貼付ける。発泡シート31は、図4に示すように、発泡層31Aを粘着層31Bと保護フィルム31Cとにより挟んでシート状にしたものである。発泡層31Aは、発泡層31Aを構成する樹脂素材に未発泡の発泡剤を混合して、シート状に成形したものである。そして、発泡層31Aの表面となる一方の面に保護フィルム31Cを貼付け、裏面となる他方の面に粘着材(接着材等)からなる粘着層31Bを形成する。保護フィルム31Cは、磁石収容孔22への磁石30挿入時に、磁石収容孔22の入口角部や収容孔表面との接触時に引っ掛からないように、滑らかな表面を備えて摩擦係数の小さく、すべり性がよいことが望ましい。粘着層31Bの発泡層31Aとは反対の面には、図示しないが離型シートなどを貼付けて粘着層31Bを保護して供給される。」
(エ)「【0021】
磁石挿入工程S2では、図6に示すように、ロータコア21の磁石収容孔22へ発泡シート31を貼付けた磁石30を挿入する。図6に示す例では、ロータコア21に4個の磁石収容孔22が設けられており、夫々の磁石収容孔22に発泡シート31を貼付けた磁石30が、発泡シート31を半径方向外側に位置させて挿入した状態を示している。
【0022】
この磁石挿入工程S2においては、発泡シート31は貼付け工程S1において貼付けられたままの状態(薄肉状態)であり、磁石収容孔22への挿入が容易である。また、磁石収容孔22への磁石30の挿入時に、発泡シート31が磁石収容孔22の入口角部や収容孔表面に接触しても、発泡シート31の表面の保護フィルム31Cにより、引っ掛かることを防止できる。その際、保護フィルム31Cの表面を、滑らかな表面を備えて摩擦係数の小さく、すべり性がよいようにしておくことで、より一層挿入性を向上できる。
【0023】
この状態においては、磁石収容孔22の半径方向内側に各磁石30が位置し、磁石収容孔22の半径方向外側に各発泡シート31が位置することは、挿入された全ての磁石30において共通している。しかし、磁石30と発泡シート31との合計厚さ寸法が、磁石収容孔22の厚さ方向の空間寸法より小さくなっているため、各磁石30は磁石収容孔22内で夫々傾いたりして取付け姿勢が均一とはなっていない。
【0024】
加熱工程S3では、加熱炉を通過させる等により、ロータコア21を外部より加熱する。ロータコア21を外部より加熱することにより、磁石収容孔22に挿入した磁石30に貼付けた発泡シート31が、発泡層31Aに含まれる発泡剤の発泡により、厚さ方向に膨張する。この発泡シート31の膨張により、図7に示すように、保護フィルム31Cが磁石収容孔22の半径方向外側の内壁面に接触し、その反力により磁石30を磁石収容孔22の反対側の半径方向内側の内壁面に押付ける。また、磁石30が磁石収容孔22内で傾いて位置していたとしても、発泡シート31の膨張により、位置矯正されて、磁石収容孔22の反対側の半径方向内側の内壁面に押付けられる。
【0025】
結果として、各磁石30は磁石収容孔22の反対側の半径方向内側の内壁面に接触した状態で、発泡シート31によりガタツキなく位置決めされる。即ち、発泡シート31の膨張力によって磁石30が径方向の磁石収容孔22の内壁面へ押付けられて仮固定されるため、磁石30位置のばらつきに起因するアンバランスが生じない状態とできる。」
(オ)「【0038】
(ア)本実施形態に係る回転電機用ロータの製造方法では、発泡剤を含む発泡層31Aを備える発泡シート31を、磁石30の表面に貼付ける貼付け工程S1と、発泡シート31を貼付けた磁石30を、ロータコア21に複数形成された軸方向に貫通する磁石収容孔22に、収容する磁石挿入工程S2と、ロータコア21を加熱することにより発泡シート31を加熱し、発泡シート31の発泡層31Aを膨張させて、磁石30を磁石収容孔22の壁面に押付ける加熱工程S3と、を備える。即ち、発泡シート31の膨張力によって、各磁石収容孔22内の磁石30は、同じ方向に押圧されて固定されるため、樹脂40の注入前において、磁石位置のばらつきを低減できる。このため、固定工程S4により磁石収容孔22に溶融した樹脂40を注入して磁石30を樹脂40でモールドすると、全ての磁石収容孔22内の磁石30の取付け姿勢を、ばらつきなく均一とすることを補償することができる。」
(カ)「【図3】
[図:0001409083000012.jpg]
【図4】
[図:0001409083000013.jpg]
【図6】 【図7】
[図:0001409083000014.jpg]
」
イ 甲4について
甲4には、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石及びモータの製造方法に関する。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示されるように、収容穴の開口部から収容穴内部の所望の位置へ到達するまでの永久磁石の移動の過程では、接着剤と収容穴との接触を防止するために、接着剤の表面が収容穴の内壁を向きながら、接着剤の表面が収容穴の内壁から常に離れていることが望ましい。しかしながら、硬化する前の接着剤は、粘着性を有するため、永久磁石の移動の過程で収容穴の開口部又は内壁に引っ掛かり易い。つまり、永久磁石が収容穴内の所望の位置へ到達する前に接着剤が収容穴と誤って接触してしまう。例えば、ロータコアは、積層された複数のケイ素鋼板から作製されており、一部のケイ素鋼板の端部がロータコアの収容穴の内壁から突出しているため、接着剤が収容穴の内壁に引っ掛かり易い。また硬化する前の接着剤は柔らかいため、収容穴の内壁との接触により、接着剤が変形したり、接着剤の少なくとも一部が永久磁石から剥離したり、永久磁石から剥離した接着剤が誤って収容穴の開口部又は内壁へ付着したりする。その結果、永久磁石が収容穴内の所望の位置に十分に固定されない可能性がある。接着剤と収容穴の開口部又は内壁との接触に起因するこれらの問題は、以下では「接着不良」と表記される。
【0005】
永久磁石を用いる各種機器の精密化、小型化又は性能の向上に伴い、接着剤の表面と収容部の内壁との間のクリアランスは狭まる傾向にあり、クリアランスの減少に伴って接着不良が起き易くなる。接着不良は、各種機器の歩留まり率及び性能の低下、並びに故障の原因になる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、接着不良を抑制する永久磁石、及びモータの製造方法を提供することを目的とする。」
(ウ)「【0017】
一方、少なくとも一部の発泡剤8が樹脂6の表面から突出していることにより、樹脂6でなく発泡剤8が収容穴の内壁に直接接触し易く、樹脂6自体は収容穴の内壁に直接接触し難い。つまり、発泡剤8が樹脂6の表面から突出していることにより、接着層4と収容穴との点接触が起き易く、接着層4と収容穴との面接触は起き難い。例えば、発泡剤8が球状である場合、樹脂6の表面から突出した発泡剤8の球面がガイドとして機能するため、永久磁石10が収容穴内へ挿入され易い。また粘着性を有しない発泡剤8自体が収容穴の内壁に直接接触することにより、接着層4は収容穴の開口部及び内壁に引っ掛かり難い。仮に樹脂6から突出した発泡剤8の表面に微量の樹脂6が付着していたとしても、樹脂6自体と収容穴との面接触は起き起き難いため、接着層4は収容穴の開口部及び内壁に引っ掛かり難い。以上の理由により、接着層4の変形及び剥離が抑制される。つまり、本実施形態によれば、接着不良が抑制される。接着不良が抑制されるので、永久磁石10と収容穴の内壁との間のクリアランスを小さくすることができる。」
(エ)「【0034】
(モータの製造方法)
図5に示されるように、本実施形態に係る永久磁石10は、モータ100に用いられてよい。図5に示されるモータ100は、IPMモータ(Interior Permanent Magnet Motor)である。モータ100は、円筒状のロータ20(回転子)と、ロータ20を囲むようにロータ20の外側に配置されるステータ30(固定子)とを備えている。図5は、ロータ20の回転軸方向(Z軸方向)におけるモータ100の内部構造を示している。ロータ20は、円筒状のロータコア22と複数の永久磁石10とを有する。ロータコア22の外周面に沿って、所定の間隔で複数の収容穴24が形成されており、永久磁石10は各収容穴24に収容されている。
【0035】
ロータ20の円周方向に沿って隣り合う永久磁石10は、N極とS極の位置が互いに逆になるように収容穴24に収容されている。つまり、円周方向に沿って隣り合う永久磁石10は、ロータ20の径方向に沿って互いに逆の方向の磁力線を発生する。図5に示されるロータ20は6個の永久磁石10を有しているが、ロータ20が有する永久磁石10の数(極数)は限定されない。
【0036】
ステータ30は、ロータ20の外周面に沿って、所定の間隔で設けられた複数のコイル部32を有している。コイル部32と永久磁石10とは互いに対面するように配置されている。ステータ30は、電磁気的作用によってロータ20にトルクを与え、ロータ20は円周方向に回転する。図5に示されるステータ30は8個のコイル部32を有しているが、ステータ30が有するコイル部32の数(スロット数)は限定されない。
【0037】
本実施形態に係るモータ100の製造方法は、上述された調整工程、印刷工程及び第一加熱工程に加えて、収容工程及び第二加熱工程を備える。収容工程は第一加熱工程後に実施され、第二加熱工程は収容工程後に実施される。
【0038】
図6に示されるように、収容工程では、永久磁石10を、ロータコア22に形成された各収容穴24へ挿入する。上述の通り、少なくとも一部の発泡剤8が樹脂6の表面から突出していることにより、発泡剤8が収容穴24の開口部及び内壁に直接接触し易く、樹脂6自体は収容穴24の開口部及び内壁に直接接触し難い。つまり、発泡剤8が樹脂6の表面から突出していることにより、接着層4と収容穴24との点接触が起き易く、接着層4と収容穴24との面接触は起き難い。また粘着性を有しない発泡剤8自体が収容穴24の開口部又は内壁に直接接触することにより、接着層4は収容穴24の内壁に引っ掛かり難い。仮に樹脂6から突出した発泡剤8の表面に樹脂6が付着していたとしても、樹脂6と収容穴24との面接触が起き難いため、接着層4は収容穴24の開口部及び内壁に引っ掛かり難い。以上の理由により、接着層4の変形及び剥離が抑制される。つまり、本実施形態によれば、接着不良が抑制される。接着不良が抑制されるので、永久磁石10と収容穴24の内壁との間のクリアランスを小さくすることができる。
【0039】
図7に示されるように、収容工程において永久磁石10が収容穴24内の所望の位置へ到達した後、第二加熱工程が実施される。第二加熱工程では、接着層4の加熱により、接着層4に含まれる発泡剤8を発泡させ、且つ接着層4に含まれる熱硬化性樹脂を更に硬化させる。図7及び図8に示されるように、発泡剤8の発泡により、接着層4全体が膨張し、接着層4の膨張により、接着層4が磁石部材2と収容穴24の内壁との間の隙間(クリアランス)を埋める。発泡剤8の発泡及び接着層4の膨張と並行して、樹脂6が更に硬化することにより、磁石部材2が、樹脂6の硬化物(Cステージの樹脂)を介して、収容穴24の内壁に接着される。つまり、永久磁石10が、収容穴24内の所望の位置に固定される。
【0040】
第二加熱工程では、発泡剤8が発泡し、且つ樹脂6が硬化する温度で、接着層4を加熱してよい。第二加熱工程では、接着層4を100℃以上200℃以下で加熱してよい。第二加熱工程において接着層4を上記の温度で加熱する時間は、10分以上120分以下であってよい。第二加熱工程では、接着層4を含むロータコア22全体を加熱してよい。
【0041】
以上の工程により、ロータ20が完成する。ロータ20とステータ30とを組み合わせることにより、モータ100が完成する。」
(オ)「【図5】
[図:0001409083000015.jpg]
【図6】 【図7】 【図8】
[図:0001409083000016.jpg]
」
(2)当審の判断
ア 本件発明1について
(ア)上記第4の2(2)イに示したように、甲2には、甲2発明が記載されているところ、上記第4の2(2)アの記載によれば、更に、以下の発明が記載されていると認められる。
(甲2発明A)
「空隙を有するローターコアと、
前記空隙に載置された磁石と、を備えた、
モーターのローターであって、
前記空隙に、積層した接着剤層(A)と接着剤層(B)とを有する接着テープを備え、
前記接着剤層(A)は、前記磁石に接着し、
前記接着剤層(B)は、前記空隙と対向し、
前記接着剤層(A)が膨張により多孔構造を形成して、前記接着剤層(B)が前記空隙に接着し、磁石が空隙に固定される、モーターのローター。」
(イ)本件発明1と甲2発明Aとを対比すると、甲2発明Aの「空隙」は本件発明1の「磁石挿入孔」に相当し、同様に、「ローターコア」は「ロータコア」に、「載置され」は「挿入され」に、「磁石」は「永久磁石」に、「モーター」は「回転電機」に、「接着剤層(A)」は「発泡層」に、「接着剤層(B)」は「接着層」に、「接着テープ」は「発泡接着シート」にそれぞれ相当する。
また、甲2発明Aの「前記接着剤層(A)は、前記磁石に接着し、」は、本件発明1の「前記発泡層は、前記永久磁石に密着固定し、」に相当し、同様に、「前記接着剤層(A)が膨張により多孔構造を形成して」は「前記発泡層が発泡して」に、「前記接着剤層(B)が前記空隙に接着し」は「前記接着層が前記磁石挿入孔に密着し」にそれぞれ相当する。
さらに、甲2発明Aの「前記空隙に、積層した接着剤層(A)と接着剤層(B)とを有する接着テープを備え」との事項と、本件発明1の「前記永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間のみに、径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートのみを備え」との事項とは、「前記永久磁石と前記磁石挿入孔との間に、積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートを備え」る限りにおいて、両者は共通する。
そうすると、本件発明1と甲2発明Aとは、以下の「一致点2-1」で一致し、以下の「相違点2-1」、「相違点2-2」、「相違点2-3」で相違する。
(一致点2-1)
「磁石挿入孔を有するロータコアと、
前記磁石挿入孔に挿入された永久磁石と、を備えた、
回転電機のロータであって、
前記永久磁石と前記磁石挿入孔との間に、積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートを備え、
前記発泡層は、前記永久磁石に密着固定し、
前記接着層は、前記磁石挿入孔と対向し、
前記発泡層が発泡して、前記接着層が前記磁石挿入孔に密着し、前記永久磁石が前記磁石挿入孔に固定されている、回転電機のロータ。」
(相違点2-1)
本件発明1では、「周方向に沿って形成された複数の磁石挿入孔を有する略円環形状のロータコア」を備えるのに対し、
甲2発明Aでは、ローターコアの構造や形状が特定されていない点。
(相違点2-2)
本件発明1では、「前記磁石挿入孔は、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、該内径側壁面の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面と、を有し、
前記永久磁石は、前記磁石挿入孔の前記内径側壁面と対向する内径面と、前記磁石挿入孔の前記外径側壁面と対向する外径面と、を有する」のに対し、
甲2発明Aでは、空隙の構造や形状が特定されておらず、また、磁石の構造や形状が特定されていない点。
(相違点2-3)
本件発明1は、「前記永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間のみに、径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートのみを備え」るのに対し、
甲2発明Aは、空隙に、積層した接着剤層(A)と接着剤層(B)とを有する接着テープを、どのように設けるのか特定されていない点。
(ウ)判断
事案に鑑み、まず、相違点2-3について検討する。
甲1には、上記第4の2(1)イで示したように、甲1発明A~C(以下、「甲1発明」という。)が記載されているところ、上記第5の1(2)でも検討したように、甲1発明において、ガイド部材14を備えることは、「磁石埋設孔と磁石のクリアランス(隙間)が小さく、磁石挿入時に接着剤が削り取られてしまい、挿入後の磁石表面に接着剤が残らないため、磁石を強固に固着することができない」という課題を解決するための必須の事項であると理解できる。
したがって、甲1において、ガイド部材14が取り除かれ膨張シート40のみを備えたロータ技術を抽出することはできない。
また、甲2発明Aは、上記課題を解決したものではないため、甲2発明Aにおいて、甲1発明と同様の課題を有しているともいえるから、甲2発明Aに甲1発明からガイド部材14を取り除いた技術を適用する理由もない。
そうすると、甲2発明Aにおいて、仮に、甲1発明を適用し得たとしても、その結果導出されるものは、ガイド部材14も有したものとなり、本件発明1の上記相違点2-3に係る構成には至らない。
さらに、上記2(1)に示される甲3~4をみても、甲3は、そもそも本件の従来技術として提示された文献であり、磁石挿入孔に永久磁石を固定するために磁石挿入孔に樹脂を注入するものであり、また、甲4は、収容穴24に接着層4をどのように設けるか特定されたものではなく、甲3~4には、上記相違点2-3に係る「前記永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間のみに、径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートのみを備え」ることは、記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2発明Aにおいて、甲3~4に記載された事項を適用し得たとしても、本件発明1の上記相違点2-3に係る構成には至らない。
以上によれば、相違点2-1、2-2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明A及び甲1、3~4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明2~4について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4は、本件発明1を特定するための事項を全て含み、本件発明1をさらに減縮したものである。したがって、その余の事項を検討するまでもなく、前記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2~4は、甲2発明A及び甲1、3~4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明5について
(ア)上記第4の2(2)イに示したように、甲2には、甲2発明が記載されているところ、上記第4の2(2)アの記載によれば、更に、以下の発明が記載されていると認められる。
(甲2発明B)
「磁石と、磁石に接着する接着テープと、を備え、
ローターコアの空隙に載置される、接着テープと磁石等の部品の一部とを予め接着させたものであって、
接着テープは、
空隙に配置され、
接着剤層(A)と接着剤層(B)とが積層しており、前記接着剤層(A)が前記磁石に接着している、前記接着テープと磁石等の部品の一部とを予め接着させたもの。」
(イ)本件発明5と甲2発明Bとを対比すると、甲2発明Bの「磁石」は本件発明5の「磁石挿入孔」に相当し、同様に、「接着テープ」は「発泡接着シート」に、「ローターコア」は「ロータコア」に、「空隙」は「磁石挿入孔」に、「載置される」は「挿入される」に、「接着テープと磁石等の部品の一部とを予め接着させたもの」は「永久磁石組立体」に、「接着剤層(A)」は「発泡層」に、「接着剤層(B)」は「接着層」にそれぞれ相当する。
また、甲2発明Bの「磁石と、磁石に接着する接着テープと、を備え」という事項と、本件発明5の「永久磁石と、該永久磁石の1つの側面のみに密着固定する発泡接着シートと、を備え」という事項とは、「永久磁石と、該永久磁石に密着固定する発泡接着シートと、を備え」る限りにおいて、両者は共通する。に相当する。
また、甲2発明Bの「前記接着剤層(A)が前記磁石に接着している」は、本件発明5の「前記発泡層が前記永久磁石に密着固定している」に相当する。
そうすると、本件発明5と甲2発明Bとは、以下の「一致点2-2」で一致し、以下の「相違点2-4」、「相違点2-5」、「相違点2-6」で相違する。
(一致点2-2)
「永久磁石と、該永久磁石に密着固定する発泡接着シートと、を備え、
ロータコアに形成された磁石挿入孔に挿入される、永久磁石組立体であって、
前記発泡接着シートは、
発泡層と接着層とが積層しており、前記発泡層が前記永久磁石に密着固定している、永久磁石組立体。」
(相違点2-4)
発泡接着シートに関して、本件発明5では、「永久磁石の1つの側面のみに密着固定」され、また、「前記側面に密着固定するのは、前記発泡接着シートのみであり、」更に、「前記永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間のみに配置され」るのに対し、
甲2発明Bでは、接着テープがどこに接着されるか特定されておらず、また、接着テープのみが接着されることが特定されておらず、更に、磁石及び空隙に対する接着テープの配置が特定されていない点。
(相違点2-5)
ロータコアに関して、本件発明5では、「略円環形状」であるのに対し、
甲2発明Bでは、その構造や形状が特定されていない点。
(相違点2-6)
本件発明5では、「前記磁石挿入孔は、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、該内径側壁面の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面と、を有し、
前記永久磁石は、前記磁石挿入孔の前記内径側壁面と対向する内径面と、前記磁石挿入孔の前記外径側壁面と対向する外径面と、を有」するのに対し、
甲2発明Bでは、空隙の構造や形状が特定されておらず、また、磁石の構造や形状が特定されていない点。
(ウ)判断
まず、相違点2-4について検討する。
甲1には、上記第4の2(1)イで示したように、甲1発明が記載されているところ、上記第5の1(2)でも検討したように、甲1発明において、ガイド部材14を備えることは、「磁石埋設孔と磁石のクリアランス(隙間)が小さく、磁石挿入時に接着剤が削り取られてしまい、挿入後の磁石表面に接着剤が残らないため、磁石を強固に固着することができない」という課題を解決するための必須の事項であると理解できる。
したがって、甲1において、ガイド部材14が取り除かれ膨張シート40のみを備えたロータ技術を抽出することはできない。
また、甲2発明Bは、上記課題を解決したものではないため、甲2発明Bにおいて、甲1発明と同様の課題を有しているともいえるから、甲2発明Bに甲1発明からガイド部材14を取り除いた技術を適用する理由もない。
そうすると、甲2発明Bにおいて、仮に、甲1発明を適用し得たとしても、その結果導出されるものは、ガイド部材14も有したものとなり、本件発明5の上記相違点2-4に係る構成には至らない。
さらに、上記2(1)に示される甲3~4をみても、上記ア(ウ)で検討したとおり、甲3~4には、上記相違点2-4に係る「永久磁石の1つの側面のみに密着固定」され、また、「前記側面に密着固定するのは、前記発泡接着シートのみであり、」更に、「前記永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間のみに配置され」ることは、記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2発明Bにおいて、甲3~4に記載された事項を適用し得たとしても、本件発明5の上記相違点2-4に係る構成には至らない。
以上によれば、相違点2-5、2-6を検討するまでもなく、本件発明5は、甲2発明B及び甲1、3~4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 本件発明6について
本件発明5を直接的に引用する本件発明6は、本件発明5を特定するための事項を全て含み、本件発明5をさらに減縮したものである。したがって、その余の事項を検討するまでもなく、前記本件発明15ついての判断と同様の理由により、本件発明6は、甲2発明B及び甲1、3~4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
オ 本件発明7について
(ア)上記第4の2(2)イに示したように、甲2には、甲2発明が記載されているところ、上記第4の2(2)アの記載によれば、更に、以下の発明が記載されていると認められる。
(甲2発明C)
「空隙を有するローターコアと、
前記空隙に載置された磁石と、を備えた、
モーターのローターの製造方法であって、
磁石に、積層した接着剤層(A)と接着剤層(B)とを有する接着テープを接着し、接着テープと磁石等の部品の一部とを予め接着させたものを形成し、
接着テープと磁石等の部品の一部とを予め接着させたものを空隙に載置し、
空隙に載置された接着テープと磁石等の部品の一部とを予め接着させたものの接着剤層(A)を膨張させて多孔構造を形成させることによって、磁石を空隙に固定させ、
接着テープと磁石等の部品の一部とを予め接着させたものを形成する際に、接着剤層(A)が磁石に接着するように、磁石に接着テープを接着し、
接着テープと磁石等の部品の一部とを予め接着させたものを空隙に載置した際に、接着剤層(B)は、空隙と対向するようにし、
磁石を空隙に固定させる際に、空隙に載置された、接着テープと磁石等の部品の一部とを予め接着させたものを加熱することより接着剤層(A)が膨張し多孔構造を形成し、接着剤層(B)が空隙に接着し、磁石が空隙に固定される、モーターのローターの製造方法。」
(イ)本件発明7と甲2発明Cとを対比すると、甲2発明Cの「空隙」は本件発明7の「磁石挿入孔」に相当し、同様に、「ローターコア」は「ロータコア」に、「載置され」は「挿入され」、「磁石」は「永久磁石」に、「モーター」は「回転電機」に、「接着剤層(A)」は「発泡層」に、「接着剤層(B)」は「接着層」に、「接着テープ」は「発泡接着シート」に、「接着テープと磁石等の部品の一部とを予め接着させたもの」は「永久磁石組立体」に、それぞれ相当する。
甲2発明Cの「磁石に、積層した接着剤層(A)と接着剤層(B)とを有する接着テープを接着し、接着テープと磁石等の部品の一部とを予め接着させたものを形成し、」との事項と、本件発明7の「前記永久磁石の前記外径面のみに、径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートのみを密着固定し、永久磁石組立体を形成する永久磁石組立体形成工程」との事項とは、「前記永久磁石に、積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートを密着固定し、永久磁石組立体を形成する永久磁石組立体形成工程」の限りにおいて、両者は共通する。
甲2発明Cの「接着テープと磁石等の部品の一部とを予め接着させたものを空隙に載置し、」との事項と、本件発明7の「前記永久磁石組立体を前記磁石挿入孔に挿入する、永久磁石組立体挿入工程」との事項に相当する。
甲2発明Cの「空隙に載置された接着テープと磁石等の部品の一部とを予め接着させたものの接着剤層(A)を膨張させて多孔構造を形成させることによって、磁石を空隙に固定させ、」との事項は、本件発明7の「前記磁石挿入孔に挿入された前記永久磁石組立体の前記発泡層を発泡させることによって、前記永久磁石を前記磁石挿入孔に固定する、永久磁石固定工程」との事項に相当する。
甲2発明Cの「接着テープと磁石等の部品の一部とを予め接着させたものを形成する際に、接着剤層(A)が磁石に接着するように、磁石に接着テープを接着し、」との事項は、本件発明7の「前記永久磁石組立体形成工程では、前記発泡層が前記永久磁石に密着固定するように、前記永久磁石に前記発泡接着シートを密着固定し、」との事項に相当する。
甲2発明Cの「接着テープと磁石等の部品の一部とを予め接着させたものを空隙に載置した際に、接着剤層(B)は、空隙と対向するようにし、」との事項は、本件発明7の「前記永久磁石組立体挿入工程では、前記接着層が前記磁石挿入孔と対向するように、前記永久磁石組立体が前記磁石挿入孔に挿入され、」との事項に相当する。
甲2発明Cの「磁石を空隙に固定させる際に、空隙に載置された、接着テープと磁石等の部品の一部とを予め接着させたものを加熱することより接着剤層(A)が膨張し多孔構造を形成し、接着剤層(B)が空隙に接着し、磁石が空隙に固定される、」との事項は、本件発明7の「前記永久磁石固定工程では、前記磁石挿入孔に挿入された前記永久磁石組立体を加熱することにより前記発泡層が発泡し、前記接着層が前記磁石挿入孔に密着することによって、前記永久磁石が前記磁石挿入孔に固定される、」との事項に相当する。
そうすると、本件発明7と甲2発明Cとは、以下の「一致点2-3」で一致し、以下の「相違点2-7」、「相違点2-8」、「相違点2-9」で相違する。
(一致点2-3)
「磁石挿入孔を有するロータコアと、
前記磁石挿入孔に挿入された永久磁石と、を備えた、
回転電機のロータの製造方法であって、
前記永久磁石に、積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートを密着固定し、永久磁石組立体を形成する永久磁石組立体形成工程と、
前記永久磁石組立体を前記磁石挿入孔に挿入する、永久磁石組立体挿入工程と、
前記磁石挿入孔に挿入された前記永久磁石組立体の前記発泡層を発泡させることによって、前記永久磁石を前記磁石挿入孔に固定する、永久磁石固定工程と、を含み、
前記永久磁石組立体形成工程では、前記発泡層が前記永久磁石に密着固定するように、前記永久磁石に前記発泡接着シートを密着固定し、
前記永久磁石組立体挿入工程では、前記接着層が前記磁石挿入孔と対向するように、前記永久磁石組立体が前記磁石挿入孔に挿入され、
前記永久磁石固定工程では、前記磁石挿入孔に挿入された前記永久磁石組立体を加熱することにより前記発泡層が発泡し、前記接着層が前記磁石挿入孔に密着することによって、前記永久磁石が前記磁石挿入孔に固定される、回転電機のロータの製造方法。」
(相違点2-7)
本件発明7では、「周方向に沿って形成された複数の磁石挿入孔を有する略円環形状のロータコア」を備えるのに対し、
甲2発明Cでは、ローターコアの構造や形状が特定されていない点。
(相違点2-8)
本件発明7では、「前記磁石挿入孔は、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面と、該内径側壁面の径方向外側で周方向に延びる外径側壁面と、を有し、
前記永久磁石は、前記磁石挿入孔の前記内径側壁面と対向する内径面と、前記磁石挿入孔の前記外径側壁面と対向する外径面と、を有する」のに対し、
甲2発明Cでは、空隙の構造や形状が特定されておらず、また、磁石の構造や形状が特定されていない点。
(相違点2-9)
本件発明7は、「前記永久磁石の前記外径面のみに、径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートのみを密着固定」するのに対し、
甲2発明Cは、磁石に対して積層した接着剤層(A)と接着剤層(B)とを有する接着テープを、どのように設けるのか特定されていない点。
(ウ)判断
事案に鑑み、まず、相違点2-9について検討する。
甲1には、上記第4の2(1)イで示したように、甲1発明が記載されているところ、上記第5の1(2)でも検討したように、甲1発明において、ガイド部材14を備えることは、「磁石埋設孔と磁石のクリアランス(隙間)が小さく、磁石挿入時に接着剤が削り取られてしまい、挿入後の磁石表面に接着剤が残らないため、磁石を強固に固着することができない」という課題を解決するための必須の事項であると理解できる。
したがって、甲1において、ガイド部材14が取り除かれ膨張シート40のみを備えたロータ技術を抽出することはできない。
また、甲2発明Cは、上記課題を解決したものではないため、甲2発明Cにおいて、甲1発明と同様の課題を有しているともいえるから、甲2発明Cに甲1発明からガイド部材14を取り除いた技術を適用する理由もない。
そうすると、甲2発明Cにおいて、仮に、甲1発明を適用し得たとしても、その結果導出されるものは、ガイド部材14も有したものとなり、本件発明7の上記相違点2-9に係る構成には至らない。
さらに、上記2(1)に示される甲3~4をみても、上記ア(ウ)で検討したとおり、甲3~4には、上記相違点2-9に係る「前記永久磁石の前記外径面のみに、径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートのみを密着固定」することは、記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2発明Cにおいて、甲3~4に記載された事項を適用し得たとしても、本件発明7の上記相違点2-9に係る構成には至らない。
以上によれば、相違点2-7、2-8を検討するまでもなく、本件発明7は、甲2発明C及び甲1、3~4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
カ 本件発明8~10について
本件発明7を直接又は間接的に引用する本件発明8~10は、本件発明7を特定するための事項を全て含み、本件発明7をさらに減縮したものである。したがって、その余の事項を検討するまでもなく、前記本件発明7についての判断と同様の理由により、本件発明8~10は、甲2発明C及び甲1、3~4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 理由B(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件の判断基準
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない旨規定するところ、実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。
(2)本件発明について
ア 本件発明1、5について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落0012~0029には、本件発明1の回転電機のロータ、また、本件発明5の永久磁石組立体について、その一実施形態が記載され、即ち、その具体的構造が示されており、また、段落0025に、「発泡層312aが発泡して、永久磁石311の内径面311aが、第1磁石挿入孔221の内径側壁面221aに押し付けられ、接着層312bが第1磁石挿入孔221の外径側壁面221bに押し付けられて密着することによって、永久磁石311が第1磁石挿入孔221に固定されている」と記載され、磁石挿入孔に固定するための樹脂を注入することなく、永久磁石を磁石挿入孔に固定する機序が理解できる。
そうすると、当業者は、本件特許明細書の記載を参考にして、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1、5を実施することができるといえる。
以上によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。
イ 本件発明2~4、6について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4は、本件発明1を特定するための事項を全て含み、本件発明1をさらに減縮したものであるところ、本件発明1と同様の理由により、当業者は、本件発明2~4を実施することができる。
同様に、本件発明5を直接的に引用する本件発明6は、本件発明5を特定するための事項を全て含み、本件発明5をさらに減縮したものであるところ、本件発明5と同様の理由により、当業者は、本件発明6を実施することができる。
以上によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明2~4、6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。
ウ 本件発明7について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落0046~0054には、本件発明7の回転電機のロータの製造方法について、その一実施形態が記載され、即ち、その具体的製造方法が示されており、また、段落0054の記載から、磁石挿入孔に固定するための樹脂を注入することなく、永久磁石を磁石挿入孔に固定する機序が理解できる。
そうすると、当業者は、本件特許明細書の記載を参考にして、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明7を実施することができるといえる。
以上によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明7を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。
エ 本件発明8~10について
本件発明7を直接又は間接的に引用する本件発明8~10は、本件発明7を特定するための事項を全て含み、本件発明7をさらに減縮したものであるところ、本件発明7と同様の理由により、当業者は、本件発明8~10を実施することができる。
以上によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明8~10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。
(3)異議申立人の主張について
異議申立人は、特許異議申立書において、上記1(2)で示した旨の主張している。
しかしながら、上記(1)~(2)で検討したように、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということができるものである。また、本件発明1~10を実施することができないとする証拠もない。よって、異議申立人の主張は採用できない。
4 理由C(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題
本件発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」ということもある。)の段落0005の記載から、「回転電機のロータでは、磁石挿入孔に永久磁石を固定するために、樹脂を磁石挿入孔に注入する必要がある。そのため、樹脂を磁石挿入孔に注入する工程及び設備が必要となり、工数が増加し、製造コストが高くなる、」というものである。
(3)本件発明について
ア 請求項1、5、7の記載
(ア)本件発明1は、「永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間のみに、径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートのみを備え、前記発泡層は、前記永久磁石に密着固定し、前記接着層は、前記磁石挿入孔と対向し、前記発泡層が発泡して、前記接着層が前記磁石挿入孔に密着し、前記永久磁石が前記磁石挿入孔に固定されている」との事項(以下、「事項A」という。)を備えたものである。
(イ)本件発明5は、「永久磁石と、該永久磁石の1つの側面のみに密着固定する発泡接着シートと、を備え、」「前記側面に密着固定するのは、前記発泡接着シートのみであり、」「前記発泡接着シートは、前記永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間のみに配置され、発泡層と接着層とが積層しており、前記発泡層が前記永久磁石に密着固定している、」との事項(以下、「事項B」という。)を備えたものである。
(ウ)本件発明7は、「永久磁石の前記外径面のみに、径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートのみを密着固定し、永久磁石組立体を形成する永久磁石組立体形成工程と、前記永久磁石組立体を前記磁石挿入孔に挿入する、永久磁石組立体挿入工程と、前記磁石挿入孔に挿入された前記永久磁石組立体の前記発泡層を発泡させることによって、前記永久磁石を前記磁石挿入孔に固定する、永久磁石固定工程と、を含み、前記永久磁石組立体形成工程では、前記発泡層が前記永久磁石に密着固定するように、前記永久磁石に前記発泡接着シートを密着固定し、前記永久磁石組立体挿入工程では、前記接着層が前記磁石挿入孔と対向するように、前記永久磁石組立体が前記磁石挿入孔に挿入され、前記永久磁石固定工程では、前記磁石挿入孔に挿入された前記永久磁石組立体を加熱することにより前記発泡層が発泡し、前記接着層が前記磁石挿入孔に密着することによって、前記永久磁石が前記磁石挿入孔に固定される」という事項(以下、「事項C」という。)を備えたものである。
イ 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明の段落0052~0054に「<永久磁石固定工程>
図5に示すように、永久磁石固定工程では、第1磁石挿入孔221に挿入された第1永久磁石組立体31の発泡層312aを発泡させることによって、永久磁石311を第1磁石挿入孔221に固定する。永久磁石固定工程では、第1磁石挿入孔221に挿入された第1永久磁石組立体31を加熱することによって、発泡層312aを発泡させる。
図5の(a)に示すように、加熱前の第1永久磁石組立体31は、発泡層312aが発泡していない。そのため、第1永久磁石組立体31は、永久磁石311の内径面311aと第1磁石挿入孔221の内径側壁面221aとの間、及び接着層312bと第1磁石挿入孔221の外径側壁面221bとの間に隙間を有して第1磁石挿入孔221に挿入されている。これにより、永久磁石組立体挿入工程において、第1永久磁石組立体31を第1磁石挿入孔221に容易に挿入することができる。
図5の(b)に示すように、第1磁石挿入孔221に挿入された第1永久磁石組立体31を加熱すると、発泡層312aが発泡し、発泡層312aが径方向に膨張する。発泡層312aが径方向に膨張すると、永久磁石311の内径面311aが、第1磁石挿入孔221の内径側壁面221aに押し付けられ、接着層312bが第1磁石挿入孔221の外径側壁面221bに押し付けられる。このとき、ロータコア2を構成する軸方向に積層した電磁鋼板200の製造誤差によって、第1磁石挿入孔221の内径側壁面221a及び外径側壁面221bが径方向に凹凸を有する場合であっても、発泡層312aが発泡し、発泡層312aが径方向に膨張することによって、接着層312bは、第1磁石挿入孔221の外径側壁面221bに押し付けられて外径側壁面221bの凹凸に食い込んで密着する。これにより、第1永久磁石組立体31は、永久磁石311の内径面311aが、第1磁石挿入孔221の内径側壁面221aに押し付けられ、接着層312bが、第1磁石挿入孔221の外径側壁面221bの凹凸に食い込んで密着することによって、永久磁石311が第1磁石挿入孔221に固定される。したがって、第1磁石挿入孔221に永久磁石311を固定するための樹脂を注入することなく、永久磁石311を第1磁石挿入孔221に固定できる。」との記載がある。
これらの記載によれば、当業者は、磁石挿入孔に永久磁石を固定するための樹脂を注入することなく、永久磁石を磁石挿入孔に固定できることを理解することができる。
ウ 以上によれば、当業者は、発明の詳細な説明の記載に基づき、請求項1に記載のとおり、事項Aを備えることによって、また、請求項5に記載のとおり、事項Bを備えることによって、また、請求項7に記載のとおり、事項Cを備えることによって、本件発明の課題を解決できると認識することができる。
そうすると、本件発明1、5、7は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができ、本件発明1、5、7についてサポート要件の違反はない。
また、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4は、本件発明1を特定するための事項を全て含み、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~4についてサポート要件の違反はない。
同様に、本件発明5を直接的に引用する本件発明6は、本件発明5を特定するための事項を全て含み、本件発明5をさらに減縮したものであるから、本件発明5と同様の理由により、本件発明6についてサポート要件の違反はない。
同様に、本件発明7を直接又は間接的に引用する本件発明8~10は、本件発明7を特定するための事項を全て含み、本件発明7をさらに減縮したものであるから、本件発明7と同様の理由により、本件発明8~10についてサポート要件の違反はない。
エ 異議申立人の主張について
異議申立人は、特許異議申立書において、上記1(3)で示した旨の主張している。
しかしながら、上記ア~ウで検討したように、本件発明は「永久磁石の前記外径面と前記磁石挿入孔の前記外径側壁面との間のみに、径方向に積層した発泡層と接着層とを有する発泡接着シートのみを備え、前記発泡層は、前記永久磁石に密着固定し、前記接着層は、前記磁石挿入孔と対向し、前記発泡層が発泡して、前記接着層が前記磁石挿入孔に密着し、前記永久磁石が前記磁石挿入孔に固定されている」という事項により課題を解決するものであるから、異議申立人の主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1~10に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-701181