特許異議申立
2022-701129
インク組成物及びそれを用いたインクジェット記録方法
- 審判番号
- 2022-701129
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-200303外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7071049
- 請求日
- 2022年11月17日
- 審決日
- 2024年09月11日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社DNPファインケミカル
- 【権利者代理人】林 一好
- 【異議申立人】小松 一枝
- 【異議申立人】前田 知子
- 分類
- P1651.113-YAA(C09D) / P1651.121-YAA(C09D) / P1651.536-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項第3号、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7071049号発明「インク組成物及びそれを用いたインクジェット記録方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7071049号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
特許第7071049号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7071049の請求項1~9に係る特許(以下「本件特許」ともいう。)についての出願は、平成28年10月11日(優先権主張 平成28年3月31日 日本国)の出願であって、令和4年5月10日に特許権の設定登録(請求項の数9)がされた。その後の特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年11月17日 :特許異議申立書(全請求項)
特許異議申立人 小松一枝及び前田知子
(以下、あわせて「申立人」という。)
同年 6月 6日付け:取消理由通知書
同年 7月31日 :意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
同年 8月29日付け:訂正請求があった旨の通知書
同年 9月29日 :意見書(申立人)
同年12月12日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和6年 1月19日 :意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
同年 1月25日付け:訂正請求があった旨の通知書
同年 3月 1日 :意見書(申立人)
なお、令和5年7月31日の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
本件訂正請求の請求の趣旨は、「特許第7071049号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを求める。」というものである。
2 本件訂正
本件訂正は、以下の訂正事項1~8からなるものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「インク組成物。」を、「インク組成物の製造方法。」に訂正する(以下、「訂正事項1-1」ともいう。)。
また、特許請求の範囲の請求項2~7の「インク組成物。」を、「インク組成物の製造方法。」に訂正する(以下、「訂正事項1-2」ともいう。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「インクジェット記録用インク組成物であって、」を「インクジェット記録用インク組成物の製造方法であって、」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の「少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を含有し」を「少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程を含み、」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1の「前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満である」を、「前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満であり、
前記工程では、
前記インク組成物が水を含有する水性インクジェット記録用インク組成物である場合には、前記溶剤に由来する不純物の含有量が水性インクジェット記録用インク組成物全量中0.30質量%以下となるようにそれぞれの成分を混合し、
前記インク組成物が水を含有しない油性インクジェット記録用インク組成物である場合には、前記溶剤に由来する不純物の含有量が油性インクジェット記録用インク組成物全量中l.0質量%未満となるようにそれぞれの成分を混合する」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1の「但し、前記溶剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル又はジエチレングリコールジメチルエーテルを含有するものを除く。」を、「但し、前記溶剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、又はプロピレングリコールn-ブチルエーテルを含有するものを除く。」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1の「前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満」を、「前記一般式(1)で表される溶剤の沸点は、150℃以上300℃以下であり、前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項6の「水を含有する水性インクジェット記録用インク組成物である」を「前記工程により得られるインク組成物が、水を含有する水性インクジェット記録用インク組成物である」に訂正し、特許請求の範囲の請求項7の「水を含有しない油性インクジェット記録用インク組成物である」を「前記工程により得られるインク組成物が、水を含有しない油性インクジェット記録用インク組成物である」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8、9の「請求項1から7のいずれかに記載のインク組成物を、」を「請求項1から7のいずれかに記載のインク組成物の製造方法により得られるインク組成物を、」に訂正する。
(9)一群の請求項等について
訂正前の請求項1~9について、請求項2~9はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~9は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正は、一群の請求ごとに請求されたものである。
3 訂正要件についての判断
(1)訂正事項1-1、訂正事項2及び訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1-1、訂正事項2及び訂正事項3は、令和5年6月6日付けの取消理由(第4の1(4)の特に、ア、キ、クを参照。)で通知した、本件訂正前(本件特許の登録時)の請求項1の「前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0重量%未満である(インク組成物)」という発明特定事項は、インク組成物に含まれる個々の溶剤が、インク組成物として混合する前の原料の状態であれば、それぞれの溶剤に由来する不純物の含有量を個別に特定できたとしても、できあがったインク組成物についてそれを特定することは不可能であるから、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である、という明確性違反の取消理由を解消するためになされたものであって、具体的には、訂正事項1-1及び訂正事項2により、請求項1の発明のカテゴリーを物(インク組成物)から方法(インク組成物の製造方法)に変更するとともに、訂正事項3により、「少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程」を含むことを特定するものである。
そして、訂正事項1-1、訂正事項2及び訂正事項3による訂正により、「前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満であり」という記載が、混合前の「下記一般式(1)で表される溶剤」「に由来する不純物の含有量」として特定できることを明確に理解することができるようになったから、訂正事項1-1、訂正事項2及び訂正事項3による訂正は、全体として、特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
本件訂正後の請求項1の「少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程を含」む「インク組成物の製造方法」は、本件明細書の【0086】、【0108】の「色材と、樹脂と、精製工程後の下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合することによりインク組成物を調整するインク組成物調整工程と、を含むインク組成物の製造方法」との記載に基づくものである。
したがって、訂正事項1-1、訂正事項2、及び訂正事項3による訂正は、全体として、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
特許請求の範囲の拡張・変更の存否を、発明が解決しようとする課題及びその解決手段が変更されたか否か、並びに本件訂正が第三者に不測の不利益を与えるか否かという観点から検討する。
まず、発明が解決しようとする課題及びその解決手段の変更の有無について検討する。
本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0009】に「インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置の部材適性が良好でメンテナンス性に優れ、吐出安定性、印刷物の乾燥性、耐ブロッキング性が良好で、低臭気である、インクジェット記録用インク組成物を提供」することと記載され、訂正の前後で変わりがない。また、課題の解決手段については、同【0010】に「溶剤」「に由来する不純物の含有量が低減されたインク組成物であれば上記課題を解決することができる」と記載され、訂正後の請求項1においても同様の特定がされているから、訂正の前後で実質的な変更はされていない。
次に、訂正による第三者の不測の不利益について検討する。
訂正前の請求項1に係る発明と訂正後の請求項1に係る発明において、それぞれの「実施」に該当する行為が変更されたか否かという観点に着目すると、「物の発明」の実施(特許法第2条第3項第1号)とは、「その物の生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」であり、その「物を生産する方法」の実施(特許法第2条第3項第3号)とは、「その方法の使用をする行為」(第2号)のほか、その方法により生産した「物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」である。ここで、「物を生産する方法」の実施における「その方法の使用をする行為」とは、「その方法の使用により生産される物の生産をする行為」と解されることから、「物の発明」の実施における「その物の生産」をする行為に相当する。
すなわち、「物の発明」の実施においては、物の生産方法が特定されていないのに対して、「物を生産する方法の発明」の実施においては、物の生産方法を「その方法」に特定している点で相違するが、その実施行為の各態様については、全て対応するものとなっている。
そうすると、訂正後の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、本件訂正により、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはない。
以上のとおりであるから、訂正事項1-1、訂正事項2及び訂正事項3による訂正は、全体として、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否
(ア)訂正事項4は、特許請求の範囲の請求項1において、「前記インク組成物が水を含有する水性インクジェット記録用インク組成物である場合には、前記溶剤に由来する不純物の含有量が水性インクジェット記録用インク組成物全量中0.30質量%以下となるようにそれぞれの成分を混合し、前記インク組成物が水を含有しない油性インクジェット記録用インク組成物である場合には、前記溶剤に由来する不純物の含有量が油性インクジェット記録用インク組成物全量中1.0質量%未満となるようにそれぞれの成分を混合する」ことを特定するものである。
(イ)「不純物」の定義は、上記(1)ウ(ア)a、bのとおりであるから、インク組成物に含まれている前記溶剤に由来する不純物の含有割合は、前記溶剤に含まれている不純物の含有割合と、インク組成物に対する前記溶剤の含有割合の積で求められるものであり、例えば、前記溶剤に含まれている不純物の含有割合が0.008(0.8質量%)であり、インク組成物に対する前記溶剤の含有割合が0.15(15質量%)である場合には、0.12質量%(=0.008*0.15*100)と計算できる。
なお、本件明細書に記載されている実施例、比較例における「インク組成物全量中不純物」の量は、例えば、段落【0154】の【表1】の実施例1の場合「0.12」であり、「TEGMBE-A」の不純物の含有量(0.8質量%)とその含有割合(合計100部に対し15部)に基づいて上記計算方法で得た値と一致している。
また、請求項1のインク組成物は、前記溶剤の他に色材及び樹脂を必ず含む(インク組成物に対する前記溶剤の含有割合が1より小さい)から、インク組成物に含まれている前記溶剤に由来する不純物の含有割合は、必然的に、前記溶剤に含まれている不純物の含有割合よりも小さくなる。
(ウ)上記(イ)を踏まえると、「前記インク組成物が水を含有する水性インクジェット記録用インク組成物である場合には、前記溶剤に由来する不純物の含有量が水性インクジェット記録用インク組成物全量中0.30質量%以下となるようにそれぞれの成分を混合し」とは、「少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程」について、混合する全ての原料の合計に対する前記溶剤の割合を、前記溶剤に含まれている不純物の含有割合と、インク組成物に対する前記溶剤の含有割合の積が0.30質量%以下となるような割合にする、ということを特定する事項であり、例えば、前記溶剤に含まれている不純物の含有量がほぼ1質量%である場合には、インク組成物に対する前記溶剤の含有割合をほぼ30質量%以下にする、という事項であると認められる。
(エ)また、「前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満」であるから、油性インクジェット記録用インク組成物全量中における前記溶剤に由来する不純物の含有量が1.0質量%以上になることはない(上記(イ)を参照。)。したがって、「前記インク組成物が水を含有しない油性インクジェット記録用インク組成物である場合には、前記溶剤に由来する不純物の含有量が油性インクジェット記録用インク組成物全量中1.0質量%未満となるようにそれぞれの成分を混合する」という事項は、自明な事項を明示しているだけであって、新たな限定を付加しない事項であると認められる。
(エ)したがって、訂正事項4は、全体として、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アのとおり、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものとはいえず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合する。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項4は、本件明細書の【0034】の「一般式(1)で表される溶剤の溶剤に由来する不純物の含有量は、後述する水性インクジェット記録用インク組成物である場合には、インクジェット記録用インク組成物全量中0.30質量%以下であることが好ましく、0.25質量%以下であることがより好ましく、0.15質量%以下であることが更に好ましい。又、一般式(1)で表される溶剤の溶剤に由来する不純物の含有量は、後述する油性インクジェット記録用インク組成物である場合には、インクジェット記録用インク組成物全量中1.0質量%未満であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが更に好ましい。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でするものであるといえる。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。
(3)訂正事項5について
訂正事項5は、請求項1の「但し、前記溶剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル又はジエチレングリコールジメチルエーテルを含有するものを除く。」を、「但し、前記溶剤は、ジエチレングリコールモノプチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、又はプロピレングリコールn-ブチルエーテルを含有するものを除く。」に訂正するものであり、「前記溶剤」から除かれる具体的な溶剤として、新たに、「プロピレングリコールn-ブチルエーテル」を追加するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項により準用する第126条第5、6項に適合する。
(4)訂正事項6について
訂正事項6は、請求項1の「一般式(1)で表される溶剤」について、「前記一般式(1)で表される溶剤の沸点は、150℃以上300℃以下であり、」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項6は、本件明細書の【0045】の「又、一般式(1)で表される溶剤の沸点は、150℃以上300℃以下であることが好ましく、下限値は180℃以上であることがより好ましく、上限値は280℃以下であることがより好ましい。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項により準用する第126条第5、6項に適合する。
(5)訂正事項1-2、訂正事項7及び訂正事項8について
訂正事項1-2、訂正事項7及び訂正事項8は、訂正事項1-1、訂正事項2、訂正事項3、訂正事項4、訂正事項5及び訂正事項6によって請求項1の記載が訂正されることにともなって、請求項1を直接又は間接的に引用している請求項2~7(訂正事項1-2)、請求項6(訂正事項7)、及び、請求項8、9(訂正事項8)の記載が整合しなくなるので、整合するようにするためのものである。
したがって、訂正事項1-2、訂正事項7及び訂正事項8は、いずれも、特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項1-2、訂正事項7及び訂正事項8は、いずれも、記載を整合するようにするための訂正であり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではないことが明らかであるから、特許法第120条の5第9項により準用する第126条第5、6項に適合する。
(6)独立特許要件について
本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~9に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項により読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は課されない。
(7)本件訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1、3号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項により準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正請求は認められたので、本件特許の請求項1~9に係る発明は、その特許の特許請求の範囲の請求項1~9に記載された以下のとおりのものである(請求項1~9に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明9」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)。
「【請求項1】
インクジェット記録用インク組成物の製造方法であって、
少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程を含み、
前記一般式(1)で表される溶剤の沸点は、150℃以上300℃以下であり、
前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満であり、
前記工程では、
前記インク組成物が水を含有する水性インクジェット記録用インク組成物である場合には、前記溶剤に由来する不純物の含有量が水性インクジェット記録用インク組成物全量中0.30質量%以下となるようにそれぞれの成分を混合し、
前記インク組成物が水を含有しない油性インクジェット記録用インク組成物である場合には、前記溶剤に由来する不純物の含有量が油性インクジェット記録用インク組成物全量中1.0質量%未満となるようにそれぞれの成分を混合する
インク組成物の製造方法。但し、前記溶剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、又はプロピレングリコールn-ブチルエーテルを含有するものを除く。
R1-(OR2)n-O-R3 (1)
n:1以上4以下の整数、
R1:炭素数1以上8以下の分岐してもよいアルキル基
R2:炭素数1以上4以下の分岐してもよいアルキレン基
R3:水素又は炭素数1以上4以下の分岐してもよいアルキル基
【請求項2】
前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中0.5質量%以上1.0質量%未満である請求項1に記載のインク組成物の製造方法。
【請求項3】
前記溶剤に由来する不純物が前記溶剤の多量体、前記溶剤の副反応物及び前記溶剤の分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である請求項1又は2に記載のインク組成物の製造方法。
【請求項4】
沸点が300℃超の前記不純物の含有率が、前記溶剤全最中1.0質量%未満である請求項1から3のいずれかに記載のインク組成物の製造方法。
【請求項5】
沸点が150℃未満の前記不純物の含有量が、前記溶剤全量中1.0質量%末満である請求項1から4のいずれかに記載のインク組成物の製造方法。
【請求項6】
前記工程により得られるインク組成物が、水を含有する水性インクジェット記録用インク組成物である
請求項1から5のいずれかに記載のインク組成物の製造方法。
【請求項7】
前記工程により得られるインク組成物が、水を含有しない油性インクジェット記録用インク組成物である
請求項1から5のいずれかに記載のインク組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のインク組成物の製造方法により得られるインク組成物を、インクジェット方式にて記録媒体の表面に吐出するインクジェット記録方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載のインク組成物の製造方法により得られるインク組成物を、インクジェット方式にて記録媒体の表面に吐出する工程を含む、印刷物の製造方法。」
第4 特許異議の申立ての理由及び提出した証拠について
特許異議の申立ての理由は、下記1のとおりであり、提出した証拠は、下記2のとおりである。なお、申立理由1~5については、引用する証拠との対応をカッコ書きで付した。
1 申立理由
(1)申立理由1
本件発明1、3~5は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(引用する証拠:甲第1~3、5~9号証のいずれか。)
(2)申立理由2
本件発明2は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(引用する証拠:甲第1~3号証のいずれか。)
(3)申立理由3
本件発明6は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(引用する証拠:甲第1、2、5、7~9号証のいずれか。)
(4)申立理由4
本件発明7は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(引用する証拠:甲第1~3、6号証のいずれか。)
(5)申立理由5
本件発明1~9は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(引用する証拠:甲第1~34号証。なお、主たる証拠は、甲第1~3、5~9号証のいずれか。)
(6)申立理由6
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を充足しない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(7)申立理由7
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を充足しない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(8)申立理由8
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしてないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を充足しない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2 提出した証拠
(1)特許異議申立書に添付して提出した証拠
甲第1号証:特開2009-132845号公報
甲第2号証:特開2009-132846号公報
甲第3号証:特開2009-132847号公報
甲第4号証:「試験成績表 御中」と題するA4で1頁の書類であって、右上に「2016年8月10日」、左上部に「品名 ヘキシジルグリコール(HEDG)」、「LOT 6H02AA」、「検査日 2016年8月2日」、右上部に「日本乳化剤株式会社」という記載がある書類、作者及び作成日不明
甲第5号証:米国特許第7696262号明細書
甲第6号証:米国特許第6412939号明細書
甲第7号証:特開2002-235023号公報
甲第8号証:特開2015-515510号公報
甲第9号証:国際公開第2009/156035号
甲第10号証:A4で1頁の書類であって、左側の上から2番目の欄に「検査成績書」、「製品番号/Product Number 00000039113」、「製品名/Product Name ダノワールTM PnB グリコールエーテル」と記載があり、上から3番目の欄に「バッチナンバー/Batch Number F815F5KXD1」、「製造日/Manufacturing Date 2015-05-20」という記載がある書類
甲第11号証:A4で1頁の書類であって、左側の上から2番目の欄に「検査成績書」、「製品番号/Product Number 00000039113」、「製品名/Product Name ダノワールTM PnB グリコールエーテル」と記載があり、上から3番目の欄に「バッチナンバー/Batch Number F815F8IXD1」、「製造日/Manufacturing Date 2015-08-18」という記載がある書類
甲第12号証:A4で1頁の書類であって、左側の上から2番目の欄に「検査成績書」、「製品番号/Product Number 00000039113」、「製品名/Product Name ダノワールTM PnB グリコールエーテル」と記載があり、上から3番目の欄に「バッチナンバー/Batch Number F815F8JXD1」、「製造日/Manufacturing Date 2015-08-19」という記載がある書類
甲第13号証:A4で1頁の書類であって、左側の上から2番目の欄に「検査成績書」、「製品番号/Product Number 00000039113」、「製品名/Product Name ダノワールTM PnB グリコールエーテル」と記載があり、上から3番目の欄に「バッチナンバー/Batch Number F815FACXD2」、「製造日/Manufacturing Date 2015-10-12」という記載がある書類
甲第14号証:A4で1頁の書類であって、左側の上から2番目の欄に「検査成績書」、「製品番号/Product Number 00000039113」、「製品名/Product Name ダノワールTM PnB グリコールエーテル」と記載があり、上から3番目の欄に「バッチナンバー/Batch Number F815FBBXD1」、「製造日/Manufacturing Date 2015-11-11」という記載がある書類
甲第15号証:「試験成績表 御中」と題するA4で1頁の書類であって、左上に「見本」(字は、長方形の線で囲われている)、右上に「2015年7月16日」と記載があり、左上部に「品名 ブチルプロピレングリコール(BFG)」、「LOT 5E18KA」、「検査日 2015年5月18日」、右上部に「日本乳化剤株式会社」という記載がある書類、作者及び作成日不明
甲第16号証:「NIPPON NYUKAZAI CO.、LTD. CERTIFICATE OF ANALYSIS」と題するA4で1頁の書類であって、左上に「TEL:81-3-5651-5640」、右上に「FAX:81-3-5651-5646」と記載があり、左上部に「Commodity : BFG=PNB」、「Lot No. : 6K29KE」、「Analysis Day : 2016/11/29」と記載があり、右上部に「Date : 2017/01/11」と記載がある書類
甲第17号証:特開2015-166412号公報
甲第18号証:特開2015-166413号公報
甲第19号証:特開平11-124524号公報
甲第20号証:特開平11-256087号公報
甲第21号証:特許第3274788号公報
甲第22号証:特開2001-329193号公報
甲第23号証:特開平8-311379号公報
甲第24号証:特許第5588322号公報
甲第25号証:特表2012-531012号公報
甲第26号証:特開2016-150986号公報
甲第27号証:特開2016-41809号公報
甲第28号証:特開2016-26936号公報
甲第29号証:特開2016-176016号公報
甲第30号証:特開2015-224322号公報
甲第31号証:特開2015-160945号公報
甲第32号証:特開2012-240300号公報
甲第33号証:化学工業日報社、「15308の化学商品」、436~437、460頁、2008年1月22日
甲第34号証:ビックケミー・ジャパン株式会社、「ビックケミー・ジャパン株式会社 製品ガイド 2015.05(第7版)」、3頁
(2)令和5年9月29日提出の意見書に添付して提出したもの
甲第35号証:「試験成績表 御中」と題するA4で1頁の書類であって、左上に「見本」(字は、長方形の線で囲われている)、右上に「2023年9月22日」、左上部に「品名 ヘキシジルグリコール(HEDG)」、「LOT 5L16AA」、「検査日 2015年12月16日」、右上部に「日本乳化剤株式会社」という記載がある書類
甲第36号証:「試験成績表 御中」と題するA4で1頁の書類であって、左上に「見本」(字は、長方形の線で囲われている)、右上に「2023年9月22日」、左上部に「品名 ヘキシジルグリコール(HEDG)」、「LOT 3I21AA」、「検査日 2023年9月21日」、右上部に「日本乳化剤株式会社」という記載がある書類
甲第37号証:「試験成績表 御中」と題するA4で1頁の書類であって、左上に「見本」(字は、長方形の線で囲われている)、右上に「2023年9月22日」、左上部に「品名 ヘキシジルグリコール(HEDG)」、「LOT 3I22AA」、「検査日 2023年9月22日」、右上部に「日本乳化剤株式会社」という記載がある書類
第5 証拠方法の記載事項
以下、甲号証の記載を摘記する。なお、甲第17号証~甲第19号証は、インクジェット記録用インク組成物の溶媒として、グリコールエーテルを用いることが周知技術であることを示すものとして提示され、甲第20号証~甲第25号証は、インク組成物中に不純物が多くあるとインク性能を低下させることが周知技術であることを示すものとして提示され、甲第33号証には、エチレングリコールジメチルエーテル及びエチレングリコールモノエチルエーテルが記載され、甲第34号証には、DISPERBYK(R)-184((R)は○の中にR、以下同じ。)及びDISPERBYK(R)-190が記載されているが、挙証する事項は、それぞれ前記したとおりであるので、摘記を省略した。
また、以下、甲第1号証等を、番号順に甲1等ともいう。
1 甲1には次の記載がある。
「【0017】
本発明においては、前記塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂を溶解させる溶剤として、下記一般式で表される溶剤から選ばれるいずれか1種、又は2種以上を混合した、溶剤を用いることが好ましい(構成5)。
他の溶剤を用いる場合に比べ、ヘッド部材の浸食、メディアへの浸食が少なく、特性が良好だからである。
【化3】
[図:0001417588000001.jpg]
【0018】
本発明において、上記式(1)に含まれる溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(例えば(株)日本乳化剤社製:商品名ヘキシルジグリコール(HeDG))や、
ジエチレングリコールヘキシルエーテルや、
ジプロピレングリコールジメチルエーテル(例えば(株)日本乳化剤社製:商品名ジメチルプロピレングリコール(DMFDG))や、
ジエチレングリコールジエチルエーテル(例えば(株)日本乳化剤社製:商品名ジエチルジグリコール(DEDG)、
などのポリオキシエチレンアルキルエーテルが挙げられる。
発明において、上記式(2)に含まれる溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(略号PMA)や、
ジプロピレングリコール(モノ)メチルエーテルアセテート(ジプロピレングリコールモノメチルエーテルモノメチルアセテート)(略号DPMA)や、
エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(略号BMGAC)
などのポリオキシエチレンアルキルエーテルアセテートが挙げられる。
【0019】
(発明を実施するための最良の形態)
本発明のインクジェット用油性インクは、例えば、色材、バインダー樹脂が分散剤と共に溶剤中に適宜、溶解または分散されてなるものであることが好ましい(例えば、国際公開番号WO2004/007626参照)。
このようなインクジェット用油性インクの調製法としては、溶媒、または、混合溶媒を、インク組成物における溶媒とする。その溶媒の一部に、顔料と分散剤を添加し、ボールミル、ビーズミル、超音波、又はジェットミル等で混合・分散させて顔料分散液を調製する。得られた顔料分散液に、上記で得た溶媒の残部とバインダー樹脂、その他の添加剤を攪拌下に添加することにより得られる。
上記インク組成物にいおて、バインダー樹脂は、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂が好ましい。バインダー樹脂は、ロジン系、アクリル系、ポリエステル系、ウレタン系を併用してもよい。
上記インク組成物には、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、界面活性剤等を添加してもよい。酸化防止剤としてはBHA(2,3-ブチル-4-オキシアニソール)、BHT(2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール)等が例示され、油性インク組成物中0.01~3.0重量%である。また、紫外線吸収剤としてはベンゾフェノン系化合物、又はベンゾトリアゾール系化合物を用いることができ、油性インク組成物中0.01~0.5重量%である。
また、界面活性剤としてはアニオン系、カチオン系、両性又は非イオン系のいずれの界面活性剤も用いることができ、油性インク組成物中0.5~4.0重量%である。」
「【0020】
(実施例)
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0021】
(樹脂溶液Iの作製)
溶媒として下記の混合溶剤を使用した。
(i)プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(略号PMA):20重量部
(ii)ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル((株)日本乳化剤社製:商品名ヘキシルジグリコール(HeDG)):20重量部
(iii)エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート:60重量部
上記混合溶剤に塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂(塩酢ビ樹脂)を攪拌しながら加え、ウオーターバスで約50℃で1hr温めながら攪拌装置(新東科学(株)社製スリーワンモータ)で樹脂を溶解して、樹脂濃度5wt%の樹脂溶液Iを作製した。塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂としては、日信化学工業(株)社製:ソルバインC5R,又は、ダウケミカル社製:VYHDを使用した。
【0022】
(樹脂溶液IIの作製)
次いで、この樹脂溶液Iに、
(1)塩ビ安定剤として、(株)ADEKA社製:0-130P、又は日東化成(株)社製:#8102、(いずれも有機スズ系とエポキシ変性植物油)
(2)アミノアルコール系溶剤として、下記のいずれか1つ、
(i)N,N-ジn-ブチルエタノールアミン((株)日本乳化剤社製:商品名アミノアルコール2B)(表1においてA-2Bと表記する)
(ii)N,N-ジメチルエタノールアミン((株)日本乳化剤社製:商品名アミノアルコール2Mabs)(表1においてA-2Mabsと表記する)
(iii)N-メチルジエタノールアミン((株)日本乳化剤社製:商品名アミノアルコールMDA)(表1においてA-MDAと表記する),
(iv)N-tert-ブチルジエタノールアミン((株)日本乳化剤社製:商品名アミノアルコールtBDEA)、
(3)水
を表1に示すように、加えて攪拌して、樹脂溶液IIを作製した。同様に、表1に示すように上記(1)~(3)の一部又は全部を加えないものを比較として用いた。
添加量は樹脂溶液量に対して,安定剤が0.1wt%、アミノアルコール系溶剤が0.5wt%,水が2wt%とした。
【0023】
(評価)
樹脂溶液IIのpHをpH試験紙にて確認後、60℃恒温槽へ入れてlケ月間放置する。放置日数0日(作製直後)、放置日数14日、放置日数30日、においてpHをpH試験紙にて確認下結果を表1に示す。
表1に示すように、塩酢ビ樹脂溶液Iのみや塩酢ビ樹脂溶液Iに安定剤を加えただけではpHは酸性にシフトしてしまう(比較例)。しかし、アミノアルコ-ル系溶剤を加えることで、水が混入していても、pH変化を中性~弱アルカリ性のまま保つことができた(実施例)。
【0024】
上記実施例及び比較例に係る樹脂溶液(又はこれに色材等を加えて作製したインクジェット用インク)を用い、インクジェットヘッドへのダメージを調べた。
その結果、比較例に係る樹脂溶液を用いた場合、ヘッドノズル部材が浸食されてインクの不吐出や飛行曲がりの原因となることがわかった。これに対し、実施例に係る樹脂溶液を用いた場合、ヘッドノズル部材の浸食は確認されなかった。
【0025】
【表1】
[図:0001417588000002.jpg]
」
2 甲2には次の記載がある。
「【0017】
(実施例)
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0018】
(樹脂溶液Iの作製)
溶媒として下記の混合溶剤を使用した。
(i)プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(略号PMA):45重量部
(ii)ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル((株)日本乳化剤社製:商品名ヘキシルジグリコール(HeDG)):10重量部
(iii)エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BMGAC):45重量部
上記3種の溶剤を混合した混合溶剤に塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂(塩酢ビ樹脂)を攪拌しながら加え、ウオーターバスで約50℃で1hr温めながら攪拌装置(新東科学(株)社製スリーワンモータ)で樹脂を溶解して、樹脂濃度5wt%の樹脂溶液Iを作製した。塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂としては、日信化学工業(株)社製:ソルバインC5R、又は、ダウケミカル社製:VYHDを使用した。
【0019】
(樹脂溶液IIの作製)
次いで、上記の樹脂溶液Iに、
安定剤として、(1)エポキシ変性植物油の安定剤として(株)ADEKA社製:0-130P、(2)有機スズ系の安定剤として日東化成(株)社製:#8102、#8105、#8832、又は、(3)上記(1)と(2)の混合を表1、表2に示すように、加えて攪拌して、樹脂溶液IIを作製した。同様に、表1、表2に示すように安定剤を加えない無添加の樹脂溶液Iを比較として用いた。
また、保管中の吸湿の影響を見るために、安定剤を加えた樹脂溶液IIと安定剤を加えない無添加の樹脂溶液Iのそれぞれに水を2wt%添加した試料を作製した。
安定剤の添加量は樹脂溶液量に対して、表1では0.1wt%、表2では0.1wt%又は0.4wt%とした。
【0020】
(評価)
樹脂溶液IIの粘度を粘度計(東機産業製:RE-115L)で確認後、60℃恒温槽へ入れて1ヶ月間放置する。放置日数0日(樹脂溶液IIの作製直後)、放置日数14日、放置日数30日、において粘度を粘度計(東機産業製:RE-115L)にて確認した結果を表1に示す。
表1、表2に示すように、60℃で1ヶ月放置後の結果では、塩酢ビ樹脂(C5R、VYHD)のみの無添加の樹脂溶液Iでは粘度変化率が10~25%であるのに対し(比較例)、安定剤及び/又は水を加えた樹脂溶液IIでは粘度変化率は5%以下であった(実施例)。尚、表2の試料a~fは、表1の下段(VYHDの6試料)と対応している。
上記のように、塩酢ビ樹脂(C5R、VYHD)に安定剤(0-130P、#8102、#8105、#8832)を加える事で樹脂溶液(樹脂溶剤)の粘度を安定に保つことができた。
【0021】
上記実施例及び比較例に係る樹脂溶液に、色材等を加えて作製したインクジェット用インクを用い、インクジェットプリンターでの吐出安定性や擦過性、乾燥性等の性能の経時変化について調べた。
その結果、比較例に係る樹脂溶液Iを用いた場合、粘度の増加(増粘)などによってインクの不吐出や飛行曲がりの原因となり、塩酢ビ樹脂の経時分解などによって擦過性、乾燥性等の性能の低下の原因となることがわかった。これに対し、実施例に係る樹脂溶液IIを用いた場合、問題なく印宇可能であり、インクの不吐出や飛行曲がりや、擦過性、乾燥性等の性能の低下、は確認されなかった。
【0022】
【表1】
[図:0001417588000003.jpg]
【表2】
[図:0001417588000004.jpg]
」
3 甲3には次の記載がある。
「【0018】
(実施例)
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0019】
(溶剤の準備)
溶媒として下記の溶剤を使用した。
(I-1)ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル((株)日本乳化剤社製:商品名ヘキシルジグリコール(HeDG))
(I-2)ジプロピレングリコールジメチルエーテル((株)日本乳化剤社製:商品名ジメチルプロピレングリコール(DMFDG))
(II-1)プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(略号PMA)
(II-2)ジプロピレングリコール(モノ)メチルエーテルアセテート(ジプロピレングリコールモノメチルエーテルモノメチルアセテート)(略号DPMA)
(II-3)プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート(略号PMP)
(樹脂溶液Iの作製及び評価)
HeDG+DPMA(1:1)(実施例1)、HeDG+PMP(1:1)(実施例2)、HeDG+PMA(1:1)(実施例3)、に混合した溶剤90重量部に、塩酢ビ樹脂(ダウケミカル社製:VYHH、VYHD、VAGH、日信化学工業(株)社製:ソルバインTA5R、C5R)10重量部を攪拌しながら加え、ウオータバスで約50℃で温めながら攪拌装置(新東科学(株)社製スリーワンモータ)で1hr樹脂を溶解する操作を行う。
1hr後、溶解したかどうか確認したところ、全ての組み合わせ(混合溶剤-塩酢ビ樹脂)で溶解させることが出来た。
さらに、上記の樹脂溶液を用い、色材等を加えてインクを作製し、インクジェットプリンターで吐出を行ったが、問題なく印宇可能であり、メディアへの侵食もほとんどなく、乾燥性能(にじみ発生無く巻き取り可、耐ブロッキング適正)も良好であった。
溶解性、メディアの侵食、巻き取り、ブロッキング、インク詰まり、の各評価結果を表1にまとめて示す。
【0020】
(比較例1)
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)+DMFDG+DPMA(10:45:45)、に混合した溶剤を用い、たこと以外は実施例と同様とした。
その結果、強力な溶剤であるN-メチル-2-ピロリドンを使用しているため、ヘッドの部材を侵しヘッド寿命の低下や印字品質の低下といった問題を引き起こすことがわかった。また、N-メチル-2-ピロリドン等の溶剤はメディア内に残留しやすく、メディアの侵食、および乾燥性能の低下といった問題が生じることがわかった。
溶解性、メディアの侵食、巻き取り、ブロッキング、インク詰まり、の各評価結果を表1にまとめて示す。
【0021】
(比較例2)
γ-ブチロラクトン+DMFDG+DPMA(10:45:45)、に混合した溶剤を用いたこと以外は実施例と同様とした。
溶解性、メディアの侵食、巻き取り、ブロッキング、インク詰まり、の各評価結果を表1にまとめて示す。
表1に示すように、メディアの侵食、ブロッキング、が認められた。
【0022】
(比較例3)
DMFDG+DPMA(1:1)、に混合した溶剤を用いたこと以外は実施例と同様とした。
溶解性、メディアの侵食、巻き取り、ブロッキング、インク詰まり、の各評価結果を表1にまとめて示す。
表1に示すように、インク詰まりが認められた。
【0023】
【表1】
[図:0001417588000005.jpg]
」
4 甲4には次の記載がある。
「
[図:0001417588000006.jpg]
」
5 甲5には次の記載がある。なお、甲5は英語で記載されているので、その翻訳(申立人が提出した抄訳を採用する。)で示す。
「例示的な形成方法
1つの例示的な方法によれば、上述の成分を選択的に組み合わせて、インクジェット可能なインクを形成する。インクジェット可能なインクの形成は、一実施形態によれば、最初に顔料担持ビヒクルを形成することから始まる。攪拌環境下で、1、2アルカンジオールを、2-ピロリドン及びDowanol PnB等のグリコールエーテル等の多数の湿潤共溶媒と組み合わせることによって、ビヒクルを形成する。更に、水、続いてフルオロ界面活性剤を溶液に添加して、ビヒクルを形成してもよい。」(欄11の38~48行)
「更に多数のラテックス含有インク配合物を生成させ、非多孔質メディア上に印刷して、非多孔質メディア上での湿潤効果を評価した。例示的なシアン及びマゼンタのインク配合を表3に示す。
[図:0001417588000007.jpg]
」(欄14の25~45行)
6 甲6には次の記載がある。なお、甲6は英語で記載されているので、その翻訳(申立人が提出した抄訳を採用する。)で示す。
「実施例
ポリスチロールの黒色基板に、白色顔料として二酸化チタン、溶媒としてn-ブタノール及びアセトンを含む白色アクリルワニス(Dupli Color Auto Acryl Spray Classic、0-75)をスプレーし、室温で乾燥させて、密閉されたワニス層を形成した。乾燥後、200dpiのMIT印刷ヘッド(Piezo technology、128ジェット)を具えたCodent Printerを用いて黒色インクジェットインクで印刷を行った。採用したインクジェットインクの調製のために、顔料に関連する濃縮配合物を、最初にアジテーターボールミルで粉砕し、その後、以下の組成(質量%)まで薄めた。
5% ブラックビーズ880(Cabot Corporation製) 2%Mowital B-20H(Clariant製のポリビニルブチラール) 31% Dowanol PnP(Dow Chemical製のプロピレングリコール-モノプロピル-エーテル) 59% Dowanol PnB(Dow Chemical製のプロピレングリコール-モノブチル-エーテル) 3% Beckopox-EM460(Vianova Resins製)」(欄3の65行~欄4の15行)
7 甲7には次の記載がある。
「【請求項1】両面印刷機構を備え、両面がともに、ベック平滑度80s以下、pHが6.5以下の普通用紙に10ips(inch/s)以上の記録速度で印刷を行うインクジェットプリンタにおいて、
使用するインク組成物が、少なくとも水と顔料およびウレタン樹脂エマルジョンを含有し、裏面の影響による色差が△Eで15以下であることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】請求項1記載のインクジェットプリンタにおいて、
記録された普通用紙およびインクを乾燥させる機構を具備することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項3】請求項1または2記載のインクジェットプリンタにおいて、
前記インク組成物はウレタン樹脂エマルジョンを10~60重量パーセント含むことを特徴とするインクジェットプリンタ用インク組成物。
【請求項4】請求項1ないし3記載のインクジェットプリンタにおいて、
前記ウレタン樹脂エマルジョンは固形分を30%以上含むことを特徴とするインクジェットプリンタ用インク組成物。
【請求項5】請求項1ないし4記載のインクジェットプリンタにおいて、
前記ウレタン樹脂エマルジョンの固形分がアクリル樹脂を0~90重量パーセント含有することを特徴とするインクジェットプリンタ用インク組成物。
【請求項6】請求項1ないし5記載のインクジェットプリンタにおいて、
前記顔料がカーボンブラックであることを特徴とするインクジェットプリンタ用インク組成物。
【請求項7】請求項1ないし5記載のインクジェットプリンタにおいて、
前記インク組成物は顔料としてカーボンブラックを含む黒インクと、有機顔料を含むカラーインクの少なくとも2色からなるインクセットであることを特徴とするインクジェットプリンタ用インク組成物。」
「【0038】例えば、メチルグリコール、メチルジグリコール、メチルトリグリコール、メチルポリグリコール、イソプロピルグリコール、ブチルグリコール、ブチルジグリコール、ブチルトリグリコール、イソブチルグリコール、イソブチルジグリコール(以上、日本乳化剤製)等のエチレングリコール系エーテルおよびメチルプロピレングリコール、メチルプロピレンジグリコール、メチルプロピレントリグリコール、プロピルプロピレングリコール、 プロピルプロピレンジグリコール、ブチルプロピレングリコール、ブチルプロピレンジグリコール、フェニルプロピレングリコール(以上、日本乳化剤製)等のプロピレングリコール系エーテル等のエーテルを添加できる。」
「【0056】次に本発明を実施例により具体的に説明するが、記載例に限定されるものではない。
〔実施例1~12〕10~95wt%の精製水と、5~90wt%のウレタン樹脂エマルジョン(大成化工製WEM-202U)、これに対して黒顔料水分散液(オリエント化学製Micropigmo WMBK-5、顔料含有量20wt%)、マゼンタ顔料水分散体(御国色素製GA Magenta1、顔料含有量15wt%)、イエロ顔料水分散体(御国色素製GA Yellow1、顔料含有量15wt%)シアン顔料水分散体(御国色素製GA Cyan2、顔料含有量15重量%)をそれぞれ顔料濃度を全量に対して4wt%になるように混合し、各組成物全300gをホモジナイザ(日立工機製HG30)を用いて、回転数2,000rpmで均質な混合物が得られるまで分散し、続いてろ過を行い不純物等を除去し、均質なインク組成物12種を得た。
・・・
【0058】評価用に55kg紙(小林記録紙製、NIP紙)を記録媒体として、ダイレクト刷版作成機(日立工機製SJ02A)のヘッド部分を摘出して固定した印刷試験機を使用し、まず用紙表面にインク吐出速度3kHz、用紙送り速度を10ipsとして、解像度300(×600)dpiでイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)、ブラック(K)各色の印刷を行った。裏面に対しても同様に印刷し、各色の汚染が測定可能なサンプルを得た。該記録媒体のベック平滑度は表面が46.5sおよび裏面が41sであった。pHは両面ともに2.8であった。
【0059】本実施例の各インク組成物の成分と、印刷サンプルの評価結果について、表1に示す。
【0060】
【表1】
[図:0001417588000008.jpg]
」
8 甲8には次の記載がある。
「【請求項1】
15℃~50℃の操作温度でインクジェットマーキングデバイスから吐出されるのに好適なインク組成物であって、前記インク組成物は、以下:
- 1~40重量%の水分散性樹脂;
- 0.5~15重量%の水分散性着色剤;
- 20~80重量%の水;
- 0~75重量%の共溶媒;
- 0.01~3重量%の界面活性剤の混合物であって、前記混合物は、アセチレングリコールおよびエトキシル化アセチレングリコールからなる群から選択される第1タイプの少なくとも1種の界面活性剤、ならびにシリコーン界面活性剤およびフッ素系界面活性剤からなる群から選択される第2タイプの少なくとも1種の界面活性剤を含み、界面活性剤の前記混合物が、共に前記第1タイプの界面活性剤であるアセチレングリコールおよびエトキシル化アセチレングリコールを含む場合には、界面活性剤の前記混合物における前記第2タイプの前記少なくとも1種の界面活性剤の存在は任意である、混合物;
を含み、
ここで、全ての量は前記インク組成物合計量に対するものであり、前記インク組成物は、泡圧法により操作温度で共に決定された、10Hzで測定された35mN/mよりも低い動的表面張力および0.1Hzで測定された21mN/mよりも高い静的表面張力を有し、界面活性剤の前記混合物の量は、該動的および静的表面張力を得るのに十分である、
インク組成物。
・・・
【請求項3】
前記水分散性樹脂が:ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂、アクリル-シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリビニルアセテート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、不飽和カルボン酸系樹脂および例えば、スチレン-アクリレートコポリマー樹脂、スチレン-ブタジエンコポリマー樹脂などのコポリマーからなる群から選択される、請求項1または2に記載のインク組成物。
・・・
【請求項5】
前記インク組成物が、水溶性有機溶媒の混合物を含み、前記各水溶性有機溶媒が、前記インク組成物合計量に対して、1重量%~50重量%の量で存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項6】
水溶性有機溶媒の前記混合物が、第1比誘電率を有する第1水溶性有機溶媒および第2比誘電率を有する第2水溶性有機溶媒を含み、ここで、前記第1比誘電率および前記第2比誘電率間の差は、5より大きく、好ましくは、10~50である、請求項5に記載のインク組成物。
」
「【0021】
態様において、界面活性剤の前記混合物は、第3タイプの界面活性剤を、特に例えば、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(AOT)などのジアルキルスルホコハク酸塩をさらに含む。」
「【0091】
溶媒
水は環境に優しいものとして挙げられるため、望ましい溶媒である。本発明において、インク全体に対する水の含量は、好ましくは、20重量%~80重量%である。水の含量が、30重量%~75重量%であることがより好ましく、40重量%~70重量%であることがなおより好ましい。
【0092】
共溶媒
前記インクの溶媒として、前記インクの吐出特性または前記インク物性を調整する目的のために、前記インクは、好ましくは、水に加えて、水溶性有機溶媒を含有する。本発明の効果が損なわれない限り、特に前記水溶性有機溶媒のタイプについての制限は全くない。」
「【0113】
本発明の意味において、前記水溶性有機溶媒の前記比誘電率(すなわち、真空の誘電率、ε0≒8.85×10-12C/(V*m)に対するもの)は、それらの極性の尺度である。・・・プロピレングリコールn-ブチルエーテル(例えば、DOWANOL PnB、εr=7.97)」
「【0244】
画像形成
画像形成を、インクジェットインクを負荷したインクジェットプリンタを用いるやり方で行い、インク液滴を、デジタル信号に基づいて前記インクジェットヘッドからプリント媒体上に吐出する。」
「【0277】
実験
実験1:ラテックスインク組成物の調製
113.6グラムのNeoCryl A-1127ラテックス(DSMから得たもの、44重量% ラテックス、前記ラテックス粒子は、±60nmの平均粒径D50を有する。)、285.7グラムのPro-Jet Cyan APD 1000顔料分散体(14重量% 顔料分散体、FujiFilm Imaging Colorantsから得たもの)、190グラムのグリセリン(Sigma Aldrichから得たもの)、190グラムの1,2-プロパンジオール(Sigma Aldrichから得たもの)、10グラムのジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、AOT(Sigma Aldrichから得たもの)および210.7グラムの脱塩水を、容器中で混合し、約60分間撹拌し、1μmの孔サイズを有するPall Profile Star absoluteガラスフィルターでろ過した。
【0278】
得られたインク組成物は、以下:
- 5重量% NeoCryl A-1127 ラテックス(前記インク組成物合計量に対しての固体の量);
- 4重量% Pro-jet Cyan APD 1000顔料(前記インク組成物合計量に対しての固体の量);
- 19重量% グリセロール;
- 19重量% 1,2 プロパンジオール(プロピレングリコール);
- 1重量% AOT;および
- 52重量% 水、
を含む。」
9 甲9には次の記載がある。なお、甲9は英語で記載されているので、その翻訳(申立人が提出した抄訳を採用する。)で示す。
「請求項1.色材としての約5から9重量%の染料又は約2から5重量%の顔料と、約23~27重量%のグリセロール及び1以上のグリコールの形態の保湿剤であって、グリセロールが11重量%以下3重量%以上を構成する保湿剤と、約0.1から0.5重量%の界面活性剤と、約0.25から2重量%の湿潤剤と、残りの水と、任意にさらなる添加剤とを含む、インクジェット製品。」
「請求項7.インクジェット液滴の均一な放出を促進するポリマーを最大2重量%含み、それによって、インクジェットインク中の湿潤剤の量が約20~30重量%であり得ることを特徴とする、請求項1~6の少なくとも1項に記載のインクジェットインク。」
「用紙を迅速に処理する産業用プリンターには、速乾性のインクジェットインクが必要である。これは、印刷された紙の上でできるだけ早く乾く必要があり、この目的のために最大で数秒を必要とする。」(第1頁第8-10行)
「しかしながら、既に述べたように、本発明によるインクジェットインクは、約0.25から2重量%の湿潤剤を含み、ここで、約0.5から1.5重量%が前記目的に特に有利である。本発明の文脈において、ブチルジグリコールが、特に適していることが証明された。しかしながら、市販品のDowanol PnP(沸点149℃;グリコールn-プロピルエーテル)及びDowanol PnB(沸点1 7 1℃;プロピレングリコールn-ブチルエーテル)も適している。本発明により考慮される湿潤剤は、紙などへのインクジェットインクの浸透を制御できる。この機能は、特に前述のブチルジグリコールだけでなく、Dowanolでも満たす。」(第4頁第20-28行)
「Disperbyk 190oyobi 184」(第5頁第24-25行)
10 甲10には次の記載がある。
「
[図:0001417588000009.jpg]
」
11 甲11には次の記載がある。
「
[図:0001417588000010.jpg]
」
12 甲12には次の記載がある。
「
[図:0001417588000011.jpg]
」
13 甲13には次の記載がある。
「
[図:0001417588000012.jpg]
」
14 甲14には次の記載がある。
「
[図:0001417588000013.jpg]
」
15 甲15には次の記載がある。
「
[図:0001417588000014.jpg]
」
16 甲16には次の記載がある。
「
[図:0001417588000015.jpg]
」
17 甲26には次の記載がある。
「【0013】
従来、溶剤系インク組成物に低沸点溶剤を多量に配合することにより乾燥性を向上させていたが、低沸点溶剤を多量に配合するとノズルメニスカスの乾燥が進行しやすく、目詰まりを誘発しやすくなるという問題があった。適用例1のインクジェットインク組成物によれば、上記一般式(1)で示される化合物を主溶剤として使用しながらも、上記一般式(1)で示される低水溶性溶剤を所定量配合することにより、インク全体における水溶性(吸水性)を低減することができる。その結果、印刷物の乾燥性が改善されるだけでなく、印刷物のムラを防ぎつつ光沢性を確保することができる。また、低沸点溶剤を多量に配合せずに済むため、メニスカスの目詰まりなどの信頼性(すなわち印字安定性)が向上する。」
18 甲27には次の記載がある。
「【0062】
インク組成物に含まれるアルキルポリオール類の1気圧下での沸点が180℃未満であるとインク組成物の乾燥性が高まることにより、インクジェット記録用ヘッドのノズルの目詰まりが発生する場合がある。1気圧下での沸点が230℃より大きくなると、インク組成物の乾燥性が低下することで、特にインク非吸収性の記録媒体上に記録した印刷画像の濃淡ムラが目立ち、画像の定着性が低下する場合がある。」
19 甲28には次の記載がある。
「【0006】
しかしながら、高沸点有機溶媒を含有するインク組成物によって被記録媒体に記録された画像は、被記録媒体を加熱する機構を用いても十分に乾燥されず、耐擦性に優れない場合があった。被記録媒体としてインク非吸収性またはインク低吸収性のものを用いると、記録される画像の耐擦性の低下が顕著に生じる傾向にあった。
【0007】
上記不具合を解消するために、例えば、高沸点有機溶媒に代えて沸点の低い溶媒を含有させたインク組成物を使用すると、被記録媒体に付着したインク組成物は、上記の被記録媒体を加熱する機構によって十分乾燥される。しかし、インク組成物中に高沸点溶媒を含有させないと、インクジェット記録装置のノズルは、被記録媒体を加熱する機構によって乾燥して、詰まり等を生じる場合があった。」
20 甲29には次の記載がある。
「【0059】
溶剤が水溶性有機溶剤を含む場合、水溶性有機溶剤として水よりも沸点の高いものを含むもの、すなわち、沸点が100℃より高いものを含むことが好ましく、なかでも、沸点が150℃以上のものを含むことが好ましく、特に、沸点が180℃以上のものを含むことが好ましい。ノズルに付着したインク組成物や、インクジェットヘッド内部の微細なチューブ内で、インク組成物中の水溶性有機溶剤が揮発してインク組成物の粘度が高くなることを抑制でき、ノズルやチューブが詰まってインクジェットヘッドが破損することを防ぐことができるからである。またその結果、流動性が良好で、連続吐出性や放置後吐出性が良好なインク組成物とすることができるからである。水よりも沸点の高い水溶性有機溶剤は全ての水溶性有機溶剤中に50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに80質量%以上含むものであると好ましい。
【0060】
また、溶剤の沸点が高い場合、乾燥に多くのエネルギーが必要となり、また、乾燥に要する時間が長く必要になるため、高速連続印刷に対応することが困難になる。そのため、溶剤の沸点は300℃以下であることが好ましい。」
21 甲30には次の記載がある。
「【0015】
本発明で用いられる溶媒としては、有機溶剤であることを前提とする。有機溶剤であると沸点の選択範囲も広く、合成樹脂の溶解性も高いため、粘度調整も水と比較して容易である。溶媒が水であると高濃度の顔料インクが調製できないので好ましくない。さらに、ヘッドの乾燥によって吐出不良を起こしやすい。
本発明では、有機溶剤の沸点を200℃以上とする。沸点が200℃以上であれば、ノズル周辺での乾燥を抑えることができ、安定吐出に優れる。なお、有機溶剤はインクに対して30~89重量%の範囲で含有することがより好ましい。30重量%未満であると、乾燥性が十分に得られず、ノズル詰まりが起こるおそれがある。また、89重量%より多いとインク中に顔料を高濃度で含有出来ず発色性に劣るおそれがある。」
22 甲31には次の記載がある。
「【0126】
インクは、沸点が150℃以上の水溶性有機溶媒をさらに含むことが好ましい。これにより、インクの乾燥を抑制することができ、その結果、インクジェット装置のノズルを詰まりにくくすることができる。」
23 甲32には次の記載がある。
「【0006】
しかしながら、高沸点有機溶媒を含有するインク組成物によって被記録媒体に記録された画像は、被記録媒体を加熱する機構を用いても十分に乾燥されず、耐擦性に優れない場合があった。被記録媒体としてインク非吸収性またはインク低吸収性のものを用いると、記録される画像の耐擦性の低下が顕著に生じる傾向にあった。
【0007】
上記不具合を解消するために、例えば、高沸点有機溶媒に代えて沸点の低い溶媒を含有させたインク組成物を使用すると、被記録媒体に付着したインク組成物は、上記の被記録媒体を加熱する機構によって十分乾燥される。しかし、インク組成物中に高沸点溶媒を含有させないと、インクジェット記録装置のノズルは、被記録媒体を加熱する機構によって乾燥して、詰まり等を生じる場合があった。」
24 甲35には次の記載がある。
「
[図:0001417588000016.jpg]
」
25 甲36には次の記載がある。
「
[図:0001417588000017.jpg]
」
26 甲37には次の記載がある。
「
[図:0001417588000018.jpg]
」
第6 当審の判断
1 取消理由(決定の予告)について
(1)概要
当審が令和5年12月12日付けで通知した取消理由(決定の予告)は、上記第4の1の申立理由7である。
(2)申立理由7(サポート要件違反)について
ア 判断手法
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである〔知財高裁、平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。
イ 本件明細書の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には以下の記載がある。下線は当審が付した。
(ア)「【0008】
本発明者らの見解によれば、インク組成物に含有される溶剤の不純物によっては、近年のインクジェットインクに求められる性能を必ずしも満たすことができないことが見出された。特に、溶剤に高沸点成分の不純物が含有された場合、インクジェットインクの乾燥性が低下し、印刷面にベタツキやタックが発生する。又、溶剤に低沸点成分の不純物が含有された場合、インクジェットインクから臭気が発生し、更にインクジェットヘッド等のプリンター部材に使用されているプラスチックや接着剤に対して溶解や膨潤等の不具合が発生する場合がある。又、不純物自体が高沸点又は低沸点のものではない場合であっても、本来の溶剤の純度が低いことによって、近年のインクジェット記録方式に求められる上記の性能を満たすことができなくなることもある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置の部材適性が良好でメンテナンス性に優れ、吐出安定性、印刷物の乾燥性、耐ブロッキング性が良好で、低臭気である、インクジェット記録用インク組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねたところ、溶剤としてアルキレングリコールアルキルエーテルを用いたインクジェット記録用インク組成物において、アルキレングリコールアルキルエーテルに由来する不純物の含有量が低減されたインク組成物であれば上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。」
(イ)「【0027】
又、本発明に関する一般式(1)で表される溶剤は、当該溶剤に由来する不純物の含有量が一般式(1)で表される溶剤全量中1.0質量%未満である。一般式(1)で表される溶剤の不純物の含有量が溶剤全量中1.0質量%未満とすることで、近年のインクジェット記録方式に求められる上記の要求を同時に満たすインクジェット記録用インク組成物とすることができる。尚、本明細書において、「一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物」とは、一般式(1)で表される溶剤の製造時に発生した不純物を意味し、不純物の含有量とは、インク組成物に含有される溶剤全体に対する含有量ではなく、一般式(1)で表される溶剤中の不純物の含有量を意味する。」
(ウ)「【0028】
一般式(1)で表される溶剤は、製造の際に多量体や副反応物、分解物等の不純物が発生しやすく、その不純物を取り除くための精製には工程や時間が多くかかるため高コストとなり、一般式(1)で表される溶剤の純度を99.0質量%以上(不純物の含有量が一般式(1)で表される溶剤全量中1.0質量%未満)の高純度にするような精製は一般的には行われていない。一般に市販されている一般式(1)で表される溶剤の純度は、例えば、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(和光純薬工業株式会社製の和光特級)では規格値として、98.0質量%以上(不純物の含有量が2.0質量%未満)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(和光純薬工業株式会社製の和光一級)では規格値として、97.0質量%以上(不純物の含有量が3.0質量%未満)である。しかしながら、本発明者によって、一般に市販され、使用されている一般式(1)で表される溶剤の不純物の含有量は、実際には、一般式(1)で表される溶剤全量中1.0質量%以上3.0質量%以下程度であることがガスクロマトグラフィーによる溶剤組成分析によって確認されており、一般に市販され、使用されている一般式(1)で表される溶剤の不純物の含有量は、一般式(1)で表される溶剤全量中1.0質量%を上回るものである。
【0029】
しかしながら、本発明者らの見解によれば、一般式(1)で表される溶剤に含有される不純物によっては、求められる要求を必ずしも満たすことができなくなる場合がある。例えば、溶剤に高沸点成分の不純物が含有された場合、インクジェット記録用インク組成物の乾燥性が低下し、印刷面にベタツキやタックが発生する。又、溶剤に低沸点成分の不純物が含有された場合、インクジェット記録用インク組成物の臭気が強くなったり、インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置の部材に不具合が発生する場合がある。又、不純物自体が一般式(1)で表される溶剤であったとしても、溶剤の純度が99.0質量%未満(不純物の含有量が1.0質量%以上)となることにより、目的とするインク設計とは異なるものになるため、求められる性能を満たすことができなくなることもある。
【0030】
本発明のインク組成物は、従来行われていなかった一般式(1)で表される溶剤の不純物の含有量を調整することにより近年のインクジェット記録方式に求められる上記の要求を同時に満たすことを可能とした点に特徴がある。従来のインクジェット記録用インク組成物においても、一般式(1)で表される溶剤を用いたインク組成物は開発されてきたが、その溶剤に由来する不純物の含有量に着目し、溶剤に由来する不純物の含有量が一般式(1)で表される溶剤全量中1.0質量%未満とした溶剤を含有するインク組成物は従来にはない新規のインク組成物である。」
(エ)「【0031】
尚、溶剤に由来する不純物の含有量が一般式(1)で表される溶剤全量中1.0質量%未満とした溶剤を製造する方法は、後述するが、例えば、従来の市販されている一般式(1)で表される溶剤について更に精製することにより実現することができる。例えば、従来の市販されている一般式(1)で表される溶剤について蒸留を繰り返し行ったり、極力不純物が含有されないように蒸留の温度の刻み幅を小さくしたり、抽出を繰り返す等によって、又、工業的製造工程においては、上述の工程に加えて、更にコンタミネーションを抑制する処置を施す等によって、実現することができる。
【0032】
又、本発明に関する一般式(1)で表される溶剤は、当該溶剤に由来する不純物の含有量が一般式(1)で表される溶剤全量中0.5質量%以上であってもよい。一般式(1)で表される溶剤の不純物の含有量が溶剤全量中0.5質量%以上とすることにより、一般式(1)で表される溶剤について蒸留や抽出等の精製による製造コストが大幅に増加することを抑制することが可能となる。そのため、実使用上問題ない程度の良好な物性のインク組成物の生産が低コストの範囲で可能となる。
【0033】
一般式(1)で表される溶剤の溶剤に由来する不純物の含有量は、一般式(1)で表される溶剤全量中0.9質量%以下であることが好ましく、一般式(1)で表される溶剤全量中0.8質量%以下であることがより好ましく、一般式(1)で表される溶剤全量中0.7質量%以下であることが更に好ましく、一般式(1)で表される溶剤全量中0.6質量%以下であることが尚好ましく、一般式(1)で表される溶剤全量中0.1質量%以下であることが更により好ましい。又、一般式(1)で表される溶剤の不純物の含有量は、例えば、JIS K0114 に基づいて、ガスクロマトグラフィーによって測定することができる。
【0034】
一般式(1)で表される溶剤の溶剤に由来する不純物の含有量は、後述する水性インクジェット記録用インク組成物である場合には、インクジェット記録用インク組成物全量中0.30質量%以下であることが好ましく、0.25質量%以下であることがより好ましく、0.15質量%以下であることが更に好ましい。又、一般式(1)で表される溶剤の溶剤に由来する不純物の含有量は、後述する油性インクジェット記録用インク組成物である場合には、インクジェット記録用インク組成物全量中1.0質量%未満であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが更に好ましい。」
(オ)「【0035】
溶剤に由来する不純物として含まれる、多量体、副反応物、分解物等の例としては、例えば、一般式(1)で表される溶剤のnの値、R1、R2、R3が目的とするものとは異なるもの、インク組成物中に意図的に含まれる一般式(1)で表される溶剤の成分よりも高沸点のもの(例えば、沸点が300℃超のもの)、インク組成物中に意図的に含まれる一般式(1)で表される溶剤の成分よりも低沸点のもの(例えば、沸点が150℃未満のもの)、アルコール類及びエステル類、アルデヒド類、ケトン類、酸、等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。」
(カ)「【0036】
溶剤に由来する不純物として含まれる、多量体、副反応物、分解物の具体的な例としては、一般式(1)で表される溶剤が、例えば、ジエチレングリコールジエチルエーテルの場合には、トリエチレングリコール(沸点285℃)、テトラエチレングリコール(沸点327℃)、ポリエチレングリコール(沸点330℃以上)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)、エチレングリコールジエチルエーテル(沸点121℃)、エトキシエタノール(沸点135℃)、エタノール(沸点:78℃)、アセトアルデヒド(沸点20℃)、ジエチルエーテル(沸点35℃)、ジエチルケトン(沸点101℃)、エチルアセテート(沸点77℃)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
一般式(1)で表される溶剤が、トリエチレングリコールモノブチルエーテルの場合には、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:304℃)、トリエチレングリコール(沸点285℃)、テトラエチレングリコール(沸点327℃)、ポリエチレングリコール(沸点330℃以上)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点:135℃)、エトキシエタノール(沸点135℃)、ジブチルエーテル(沸点142℃)、ブチルエチルエーテル(沸点92℃)、エタノール(沸点78℃)、1-ブタノール(沸点117℃)、等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
一般式(1)で表される溶剤が、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルの場合には、ポリプロピレングリコール(沸点300℃以上)、テトラプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:330℃)、プロピレングリコールジメチルエーテル(沸点97℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃)、メタノール(沸点:65℃)、1-プロパノール(沸点:98℃)、2-プロパノール(沸点:82℃)、メトキシプロパノール(沸点119℃)、ジイソプロピルエーテル(沸点69℃)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
一般式(1)で表される溶剤が、ジエチレングリコールメチルエチルエーテルの場合には、トリエチレングリコール(沸点285℃)、テトラエチレングリコール(沸点327℃)、ポリエチレングリコール(沸点330℃以上)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)、エチレングリコールジエチルエーテル(沸点121℃)、エチレングリコールジメチルエーテル(沸点98℃)、ジエチルエーテル(沸点35℃)、エチルメチルエーテル(沸点12℃)、ジエチルケトン(沸点101℃)、ジメチルケトン(沸点57℃)、エチルメチルケトン(沸点80℃)、エトキシエタノール(沸点135℃)、エタノール(沸点78℃)、等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
一般式(1)で表される溶剤が、テトラエチレングリコールジメチルエーテルの場合には、トリエチレングリコール(沸点285℃)、テトラエチレングリコール(沸点327℃)、ポリエチレングリコール(沸点330℃以上)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点300℃以上)、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)、エチレングリコールジエチルエーテル(沸点121℃)、エチレングリコールジメチルエーテル(沸点98℃)、ジエチルエーテル(沸点35℃以上)、エトキシエタノール(沸点135℃)、エタノール(沸点78℃)、メタノール(沸点65℃)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。」
(キ)「【0041】
一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物は、一般式(1)で表される溶剤に由来し、且つ、溶剤全量中1.0質量%未満であれば特に制限はされないが、一般式(1)で表される溶剤以外の不純物が溶剤全量中0.9質量%未満であることが好ましく、0.8質量%未満であることがより好ましく、0.7質量%未満であることが更に好ましく、0.6質量%未満であることが尚好ましい。又、一般式(1)で表される溶剤以外の不純物及び/又は150℃未満若しくは300℃超の不純物が溶剤全量中0.9質量%未満であることがより好ましく、0.8質量%未満であることが更に好ましく、0.7質量%未満であることが尚好ましく、0.6質量%未満であることが更に尚好ましい。一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物が一般式(1)で表される溶剤以外の不純物が溶剤全量中1.0質量%未満であれば、不純物によるインク組成物への影響を軽減することができる。
【0042】
一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物が一般式(1)で表される溶剤以外の溶剤、及び/又は沸点が300℃超若しくは150℃未満の溶剤である場合には、一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物の含有量が、一般式(1)で表される溶剤全量中1.0質量%未満であることが好ましく、0.9質量%未満であることがより好ましく、0.8質量%未満であることが更に好ましく、0.7質量%未満であることが尚好ましく、0.6質量%未満であることが更に尚好ましい。
【0043】
又、沸点が300℃超の一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物の含有量が、一般式(1)で表される溶剤全量中1.0質量%未満であることが好ましく、0.8質量%未満であることがより好ましく、0.6質量%未満であることが更に好ましく、0.5質量%未満であることが尚好ましく、0.3質量%未満であることが更に尚好ましい。又、一般式(1)で表される溶剤の不純物には、沸点が300℃超の不純物が実質的に含有しない(一般式(1)で表される溶剤全量中0.1質量%未満)ことがよりいっそう好ましい。沸点が300℃超の一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物の含有量が、一般式(1)で表される溶剤全量中1.0質量%未満であることにより、インクジェット記録用インク組成物の乾燥性が向上し、印刷物の耐ブロッキング性が向上する。
【0044】
又、沸点が150℃未満の一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物の含有量が、一般式(1)で表される溶剤全量中1.0質量%未満であることが好ましく、0.8質量%未満であることがより好ましく、0.6質量%未満であることが更に好ましく、0.5質量%未満であることが尚好ましく、0.3質量%未満であることが更に尚好ましい。又、一般式(1)で表される溶剤の不純物には、沸点が150℃未満の不純物が実質的に含有しない(一般式(1)で表される溶剤全量中0.1質量%未満)ことがよりいっそう好ましい。沸点が150℃未満の一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物の含有量が、一般式(1)で表される溶剤全量中1.0質量%未満であることにより、溶剤の揮発性が高くなることによるインクジェット記録用インク組成物の臭気を抑制することができ、又、低沸点成分の不純物によるインクジェットヘッドやインクジェット記録装置の樹脂部材の膨潤あるいは溶解を軽減することができる。
【0045】
又、一般式(1)で表される溶剤の沸点は、150℃以上300℃以下であることが好ましく、下限値は180℃以上であることがより好ましく、上限値は280℃以下であることがより好ましい。一般式(1)で表される溶剤の沸点が150℃以上であることにより、インクジェット記録用インク組成物の臭気を低減することができる。又、インク組成物中の溶剤が揮発してインク組成物の粘度が高くなることを抑制し、インクジェット記録用インク組成物の吐出安定性を向上させることができる。一般式(1)で表される溶剤の沸点が300℃以下であることにより、インクジェット記録用インク組成物の乾燥性を向上させ、印刷面にベタツキやタックの発生を抑制し印刷物の耐ブロッキング性を向上させることができる。」
(ク)「【0047】
本発明のインクジェット記録用インク組成物に含有することのできる一般式(1)で表される溶剤は、例えば、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-イソブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、2-エチルヘキシル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、2-エチルヘキシル)エーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーエル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-イソブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、2-エチルヘキシル)エーテル、トリプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル)エーテル、テトラプロピレングリコールモノメチルエーエル、等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチル-2-エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールエチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールメチルプロピルエーテル、プロピレングリコールメチルブチルエーテル、プロピレングリコールメチル-2-エチルヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルメチルエーテル等の多価アルコールのジアルキルエーテル類を挙げることができる。又、これらを2種以上混ぜた混合した溶剤であってもよい。尚、上記溶剤は、水性インクジェット記録用インク組成物及び油性インクジェット記録用インク組成物双方において使用することができる。
・・・
【0050】
[色材]
本発明のインクジェット記録用インク組成物に含有される色材は、特に限定されるものではなく、染料系であってもよいし、顔料系であってもよいが、印刷物の耐水性や耐光性等の耐性が良好である顔料系インクを使用することが好ましい。本発明のインクジェット記録用インク組成物において、用いることのできる顔料は特に限定されず、従来のインクジェット記録用インク組成物に使用されている有機顔料又は無機顔料等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
・・・
【0070】
本実施形態の水性インクジェット記録用インク組成物に含有される樹脂は、所望の耐水性を示すことができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン(シリコン)樹脂、アクリルアミド樹脂、エポキシ樹脂、あるいはこれらの共重合樹脂や混合物を用いることができる。これらのものは耐水性に加えて耐溶剤性も向上させることができる点で好ましい。中でも、吐出安定性、耐水性及び耐溶剤性に優れたものとすることができることから、アクリル樹脂を含むものであることが好ましい。」
(ケ)「【0086】
[水性インクジェット記録用インク組成物の製造方法]
本実施形態の水性インクジェット記録用インク組成物を製造する方法は、例えば、一般式(1)で表される溶剤を精製することにより、不純物の含有量が溶剤全量中1.0質量%未満の下記一般式(1)で表される溶剤を得る精製工程と、色材と、樹脂と、精製工程後の下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合することによりインク組成物を調整するインク組成物調整工程と、を含むインク組成物の製造方法を挙げることができる。
【0087】
<精製工程>
本実施形態に関する精製工程において、不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満の下記一般式(1)で表される溶剤を得る精製方法は、例えば、従来の市販されている一般式(1)で表される溶剤について蒸留を繰り返し行ったり、極力不純物が含有されないように蒸留の温度の刻み幅を小さくしたり、抽出を繰り返す等によって、又、工業的製造工程においては、上述の工程に加えて、更にコンタミネーションを抑制する処置を施す等によって、実現することができる。
・・・
【0108】
[油性インクジェット記録用インク組成物の製造方法]
本実施形態の油性インクジェット記録用インク組成物を製造する方法は、例えば、一般式(1)で表される溶剤を精製することにより、不純物の含有量が溶剤全量中1.0質量%未満の下記一般式(1)で表される溶剤を得る精製工程と、色材と、樹脂と、精製工程後の下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合することによりインク組成物を調整するインク組成物調整工程と、を含むインク組成物の製造方法を挙げることができる。」
(コ)「【0121】
3.一般式(1)で表される溶剤の精製
市販のトリエチレングリコールモノブチルエーテル(不純物の含有量:2.4質量%)、以後、TEGMBE-Bと表記)を蒸留して精製することにより精製し、精製したトリエチレングリコールモノブチルエーテル(以後、TEGMBE-Aと表記)を得た。
【0122】
尚、TEGMBE-AをJIS K0114 に基づいて、ガスクロマトグラフィー(装置名:アジレント・テクノロジー(株)製 Agilent 7890B/5977A GC/MSD:(検出限界0.1質量%)以下、溶剤組成分析の方法は同じ)によって溶剤組成分析を行ったところ、不純物として、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:230℃)が0.4質量%、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:304℃)が0.2質量%、ジエチレングリコール(沸点245℃)が0.2質量%、それぞれ含有されていることが確認された(一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物は、一般式(1)で表される溶剤全量中0.8質量%)。
【0123】
TEGMBE-Bの溶剤組成分析を行ったところ、不純物として、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:230℃)が0.5質量%、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:304℃)が0.7質量%、ジエチレングリコール(沸点245℃)が0.3質量%、トリエチレングリコール(沸点:285℃)が0.4質量%、エチレングリコール(沸点:198℃)が0.2質量%、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点:135℃)が0.1質量%、ジブチルエーテル(沸点142℃)0.1質量%、1-ブタノール(沸点:117℃)が0.1質量%、それぞれ含有されていることが確認された(一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物は、一般式(1)で表される溶剤全量中2.4質量%)。
【0124】
市販のトリプロピレングリコールモノメチルエーテル(不純物の含有量:2.5質量%、以後、TPGMME-Bと表記)を上記のTEGMBEと同様に精製し、精製したトリプロピレングリコールモノメチルエーテル(以後、TPGMME-Aと表記)を得た。
【0125】
TPGMME-Aの溶剤組成分析を行ったところ、一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物は、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点187℃)が0.4質量%、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点215℃)が0.5質量%、それぞれ含有されていることが確認された(一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物は、一般式(1)で表される溶剤全量中0.9質量%)。
【0126】
TPGMME-Bの溶剤組成分析を行ったところ、一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物として、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点187℃)が1.0質量%、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点215℃)が0.8質量%、テトラプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:330℃)が0.2質量%、プロピレングリコールジメチルエーテル(沸点97℃)が0.2質量%、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃)が0.2質量%、メタノール(沸点:65℃)が0.1質量%それぞれ含有されていることが確認された(一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物は、溶剤全量中2.5質量%)。
【0127】
4.水性インクジェット記録用インク組成物の調製
顔料分散体、樹脂エマルジョン、プロピレングリコール、一般式(1)で表される溶剤、ポリシロキサン化合物(日信化学工業(株)製 シルフェイスSAG503A )、水(イオン交換水 表1中、水と表記)を用いて下記表1のように実施例及び比較例のインク組成物を調整した。なお、表中の「顔料分散剤」及び「樹脂エマルジョン」の数値は、固形分としての量を表す。又、表中の数字は特に記載のない限り質量(単位は質量部)を意味するが、表中の「インク組成物全量中不純物」については、インク組成物全量中における一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物の質量%を意味する。
【0128】
<油性インクジェット記録用インク組成物の調整>
【0129】
1.一般式(1)で表される溶剤の精製
(1)3種の市販のジエチレングリコールジエチルエーテル
ジエチレングリコールジエチルエーテル1(一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物の含有量:1.9質量%、以後、DEGDEE-Dと表記)
ジエチレングリコールジエチルエーテル2(一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物の含有量:2.3質量%、以後、DEGDEE-Eと表記)
ジエチレングリコールジエチルエーテル3(一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物の含有量:2.5質量%、以後、DEGDEE-Fと表記)
【0130】
(2)市販のジエチレングリコールジエチルエーテルを上記のTEGMBEと同様に精製したジエチレングリコールジエチルエーテル
ジエチレングリコールジエチルエーテル4(以後、DEGDEE-Aと表記)
ジエチレングリコールジエチルエーテル5(以後、DEGDEE-Bと表記)
ジエチレングリコールジエチルエーテル6(以後、DEGDEE-Cと表記)
を得た。
【0131】
DEGDEE-Aの溶剤組成分析を行ったところ、一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物は検出されなかった(一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物は溶剤全量中0.1質量%未満)。
【0132】
尚、DEGDEE-Bの溶剤組成分析を行ったところ、一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物として、エチレングリコールジエチルエーテル(沸点121℃)が0.1質量%、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(沸点176℃)が0.2質量%、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)が0.2質量%、エトキシエタノール(沸点135℃)が0.1質量%含有されていることが確認された(一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物は、一般式(1)で表される溶剤全量中0.6質量%)。
【0133】
尚、DEGDEE-Cの溶剤組成分析行ったところ、一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物として、ジエチレングリコール(沸点245℃)が0.2質量%、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)が0.2質量%、トリエチレングリコール(沸点285℃)が0.1質量%、含有されていることが確認された(一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物は、一般式(1)で表される溶剤全量中0.5質量%)。
【0134】
尚、DEGDEE-Dの溶剤組成分析を行ったところ、一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物として、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)が0.6質量%、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)が0.5質量%、エチレングリコールジエチルエーテル(沸点121℃)が0.6質量%、エトキシエタノール(沸点135℃)が0.2質量%、それぞれ含有されていることが確認された(一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物は、一般式(1)で表される溶剤全量中1.9質量%)。
【0135】
尚、DEGDEE-Eの溶剤組成分析を行ったところ、一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物として、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)が1.0質量%、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)が1.0質量%、エトキシエタノール(沸点135℃)が0.3質量%含有されていることが確認された(一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物は、一般式(1)で表される溶剤全量中2.3質量%)。
【0136】
尚、DEGDEE-Fの溶剤組成分析を行ったところ、不純物として、テトラエチレングリコールジエチルエーテル(沸点300℃)が1.0質量%、トリエチレングリコール(沸点285℃)が1.0質量%、ジエチレングリコール(沸点245℃)が0.5質量%、含有されていることが確認された(一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物は、一般式(1)で表される溶剤全量中2.5質量%)。
【0137】
市販のジエチレングリコールメチルエチルエーテル(以後、DEGMEE-Cと表記)を上記のTEGMBEと同様に精製し、精製したジエチレングリコールメチルエチルエーテル(以後、DEGMEE-A、DEGMEE-Bと表記)を得た。
【0138】
尚、DEGMEE-Aの溶剤組成分析を行ったところ、一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物は検出されなかった(一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物は溶剤全量中0.1質量%未満)。
【0139】
尚、DEGMEE-Bの溶剤組成分析を行ったところ、一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物として、ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点189℃)が0.3質量%、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)が0.3質量%、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)が0.1質量%、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)が0.2質量%含有されていることが確認された(一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物は溶剤全量中0.9質量%)。
【0140】
尚、DEGMEE-Cの溶剤組成分析を行ったところ、一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物として、トリエチレングリコール(沸点285℃)が0.2質量%、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)が0.2質量%、エチレングリコールジメチルエーテル(沸点98℃)が0.2質量%、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)が0.2質量%、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)が0.5質量%、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)が0.3質量%、エトキシエタノール(沸点135℃)が0.2質量%、エタノール(沸点78℃)が0.1質量%含有されていることが確認された(一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物は溶剤全量中1.9質量%)。
【0141】
2.樹脂の調整
(1)アクリル樹脂1
100℃に保たれたDEGDEE-A300g中に、メタクリル酸メチル200gとt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート6.3gとの混合物を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃で2時間反応させた後冷却して、無色透明のメタクリル酸メチルの重合体溶液(固形分39.5%)を得た。得られた重合体(表中、アクリル樹脂1と表記)のTgは105℃であった。GPC測定を行ったところ、質量平均分子量は18000であった。
【0142】
(2)アクリル樹脂2
メタクリル酸メチル180gとメタクリル酸n-ブチル20gとt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート3.6gとの混合物を使用し、アクリル樹脂1と同様の合成方法により、無色透明のメタクリル酸メチルとメタクリル酸n-ブチルとの共重合体溶液(固形分39.8%)を得た。得られた重合体(表中、アクリル樹脂2と表記)のTgは94℃、質量平均分子量は30000であった。
【0143】
(3)塩化ビニル-酢酸ビニル樹脂
塩化ビニル-酢酸ビニル樹脂として、商品名ソルバインCLL(質量平均分子量18000、日信化学工業株式会社製)を用いた(表中、塩酢ビ樹脂と表記)。
【0144】
3.油性インクジェット記録用インク組成物の調製
樹脂(アクリル樹脂1、2、塩化ビニル-酢酸ビニル樹脂)、Bk顔料(カーボンブラック(MA-8、三菱化学(株)製、表2、表3中Bk顔料と表記)、C顔料(P.B.15:4)(シアニンブルー、大日精化工業(株)製、表2、表3中C顔料と表記)、M顔料(P.Y.155)(FASTGEN SUPER MAGENTA RG、DIC(株)製、表2、表3中M顔料と表記))、上記一般式(1)で表される溶剤、アミド系溶剤(エクアミドM100(出光興産(株)製、表2、表3中EM100と表記)、ラクトン系溶剤(γ-ブチロラクトン、表2、表3中、GBLOと表記)、添加剤A(フローレンD-90(共栄社化学(株)製ノニオン系界面活性剤))、添加剤B(BYK-333(ビックケミー社製ポリシロキサン系界面活性剤))を用いて下記表2、表3のように実施例及び比較例のインク組成物を調整した。なお、表中の顔料(Bk顔料、C顔料、M顔料)及び樹脂(アクリル樹脂1、アクリル樹脂2、塩酢ビ樹脂)の数値は、固形分としての量を表す。又、単位は、インク組成物100質量部中における質量部である。
【0145】
<評価>
上記の実施例及び比較例のインク組成物について各評価を行った。評価基準において、評価Aは、従来のものより優れているか実用上問題のない範囲であり、評価Bは従来のものと比べて優位性が見られないか実用上問題があるものである。
【0146】
(1)臭気試験
実施例及び比較例のインク組成物について、臭気試験を行った。具体的には、インク組成物をプリンターとしてインクジェットプリンター(商品名 VersaArt RE-640、ローランドDG(株)製)を使用)を用いたインクジェット方式にて記録媒体(ポリ塩化ビニルフィルム(IMAGin JT5829R:MACtac社製))にて印刷した直後の印刷物について、被験者5人に臭いを嗅いでもらい、下記基準によって官能評価した。過半数の評価がAの場合は評価Aとし、同様に評価B、評価Cとした(表中、「臭気」と表記)。
評価A :不快な臭気がしない又は弱い臭気があるが実用上問題がない程度である。
評価B :不快な強い臭気がある。
【0147】
(2)プリンター部材適性試験1(ヘッド用接着剤)
インクジェットヘッドの部材に使用されるエポキシ接着剤(2液硬化型エポキシ接着剤「1500」、セメダイン(株)製)を60℃1日乾燥させた硬化物、0.2gを、実施例及び比較例のインク組成物に浸漬して、60℃で1週間放置して、浸漬試験を行い、硬化物の重量変化を測定した(表中、「部材適性1」と表記)。
評価A :重量変化率が8%未満で、材質の劣化がない。
評価B :重量変化率が8%以上又は、材質が劣化している。
【0148】
(3)プリンター部材適性試験2(ヘッドキャップ用吸収体)
インクジェットヘッドのヘッドキャップ部材に使用されるインク吸収体PVAスポンジ(「ベルイーター(A)」、冨士ケミカル(株)製)1cm×2cm×1mmを7日間、実施例及び比較例のインク組成物に浸漬して、乾燥後、吸収体の変形、劣化を確認した(表中、「部材適性2」と表記)。
評価A :体積変化率が20%未満で、材質の劣化がない。
評価B :体積変化率が20%以上若しくは、材質が劣化している。
【0149】
(4)吐出安定性試験
上記プリンターにより、実施例及び比較例のインク組成物を用いて、双方向の高速印刷モード(360x360dpi)にて細線を上記記録媒体に印刷し、目視で確認して評価した(表中、「吐出安定性」と表記)。
評価A :細線が正しく再現できている。
評価B :着弾位置が大きくずれ、曲がりがみられる。
【0150】
(5)間欠吐出性試験
上記プリンターに実施例及び比較例のインク組成物を充填して、長期間に亘り、常温下で、上記記録媒体に断続的な印刷を実施し、ドット抜け、飛行曲がり及びインクの飛び散りの有無を観察し、発生回数を計数し評価した(表中、「間欠吐出性」と表記)。
評価A :24時間の試験期間内で、ドット抜け、飛行曲がり又はインクの飛び散りの発生が30回未満であった。
評価B :24時間の試験期間内で、ドット抜け、飛行曲がり又はインクの飛び散りの発生が30回以上であった。
【0151】
(6)クリーニング回復性試験
メンテナンス性の1つの評価として、ヘッドでのノズル詰まりが発生した際に、プリンターのクリーニング動作によりノズル詰まりの解消が行えるかを評価した。
具体的には、クリーニングシステムを備えた上記プリンターを用いて、実施例及び比較例のインク組成物を充填して1.80m2印刷後、室温25℃にて1週間放置し、その後評価を行った(表中、「クリーニング回復性」と表記)。
評価A :ノーマルクリーニング5回以内でノズル詰まりを解消する。
評価B :ノーマルクリーニング5回でもノズル詰まりを解消しない。
【0152】
(7)耐ブロッキング性試験
上記プリンターに、油性インクジェット記録用インク組成物の実施例及び比較例のインク組成物を充填して、上記記録媒体に高品質印刷モードでベタ部の印刷を行い、印刷物を巻き取り後24時間放置し、その後広げて、フィルムの印刷物表面と重なっていた背面への裏移り及び印刷物表面を評価した(表中、「耐ブロッキング性」と表記)。
評価A :巻き取り後に背面への裏移りは見られない、または印刷物表面への影響が少なく実質的に影響がない。
評価B :巻き取り後に背面への裏移りが大きくみられ、印刷物表面が大きく荒れている。
【0153】
(8)乾燥性試験
上記プリンターにより、実施例及び比較例のインク組成物を用いて、高品質印刷モード(1440x720dpi)でベタ部の印刷を行い、40℃で乾燥するまでの時間を計測した(表中、「乾燥性」と表記)。
評価A :10分未満で乾燥する。
評価B :10分以上で乾燥する。
【0154】
【表1】
[図:0001417588000019.jpg]
【0155】
【表2】
[図:0001417588000020.jpg]
【0156】
【表3】
[図:0001417588000021.jpg]
【0157】
表1~3から、本発明のインクジェット記録用インク組成物は、臭気性試験、プリンター部材適性試験、吐出安定性試験、間欠吐出性試験、クリーニング回復性試験、耐ブロッキング性試験、乾燥性試験いずれにおいても優れており、近年のインクジェット記録方式に求められる上記の要求を同時に満たすことのできるインク組成物であることが分かる。」
ウ 本件発明が解決しようとする課題
本件明細書の記載は、上記イのとおりであり、その段落【0009】(上記イ(ア))の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置の部材適性が良好でメンテナンス性に優れ、吐出安定性、印刷物の乾燥性、耐ブロッキング性が良好で、低臭気である、インクジェット記録用インク組成物を提供すること」であると認められる。
エ 検討
本件明細書の段落【0010】(上記イ(ア))には、本件発明がその課題を解決する手段は「溶剤としてアルキレングリコールアルキルエーテルを用いたインクジェット記録用インク組成物において、アルキレングリコールアルキルエーテルに由来する不純物の含有量が低減されたインク組成物」とすることであると記載されている。
また、上記手段について段落【0008】(上記イ(ア))には、溶剤の不純物に含まれている高沸点成分が、インクジェットインクの乾燥性を低下し、印刷面にベタツキやタックが発生させる原因であり、又、溶剤の不純物に含まれている低沸点成分が、インクジェットインクから臭気が発生し、更にインクジェットヘッド等のプリンター部材に使用されているプラスチックや接着剤に対して溶解や膨潤等の不具合が発生させる原因であると記載されているから、上記手段は、本件発明の課題を解決する手段として合理的なものであると理解できる。
加えて、本件明細書には、この理解を裏付ける具体的な記載として実施例が10例記載され(上記イ(コ))、いずれも、「臭気性試験、プリンター部材適性試験、吐出安定性試験、間欠吐出性試験、クリーニング回復性試験、耐ブロッキング性試験、乾燥性試験いずれにおいても優れており、近年のインクジェット記録方式に求められる上記の要求を同時に満たすことのできるインク組成物である」(段落【0157】)ことが確認されている。
なお、令和5年12月12日付け取消理由通知書の第4の4(1)で指摘したとおり、本件発明の「一般式(1)で表される溶剤」の沸点が150~300℃の範囲にない場合には、上記課題を解決できないと判断されるところ、本件発明は、そのような態様を含んでいない。
以上のとおりであるから、本件発明は、本件明細書の記載によりその課題を解決することができるものであると認められる。
オ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張の概要
a 申立人は、特許異議申立書(160~164頁)において、「本件特許発明1には、一般式(1)で表される溶剤の含有量が特定されておらず、一般式(1)で表される溶剤以外の溶剤も特定されていない。よって、本件特許発明1には、一般式(1)で表される溶剤以外に、多種多様な溶剤を含有するインクジェット記録用インク組成物も包含される。・・・甲第26号証に・・・甲第27号証に・・・甲第28号証に・・・甲第29号証に・・・甲第30号証に・・・甲第31号証に・・・甲第32号証に・・・溶剤に由来する不純物の他に、インク組成物に含有される高沸点の溶剤がインク組成物の乾燥性低下、印刷面のベタツキ等の発生の原因となり、低沸点の溶剤がインク組成物の臭気、インクジェット記録装置の部材の不具合の原因となることは出願当時の技術常識である。よって、本件特許発明の課題(インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置の部材適性、メンテナンス性、吐出安定性、印刷物の乾燥性、耐ブロッキング性、臭気の低減等)を解決するためには、一般式(1)で表される溶剤以外の溶媒も含有する場合に、その溶媒の沸点も重要であることが理解される。・・・よって、本件特許発明1-9には、課題を解決するための手段が反映されていないため、本件特許発明1-9は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求している。」と主張(以下、「主張1」ともいう。)している。
b また、申立人は、令和5年9月29日に提出した意見書(7~9頁)においても、「・・・依然として、本件訂正発明1では、一般式(1)で表される溶剤の含有割合が特定されておらず、一般式(1)で表される溶剤以外の(高沸点あるいは低沸点の)溶剤とその含有割合について規定されていない。・・・よって、出願時の技術常識に照らしても、本件訂正発明1の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することもできない。」と主張(以下、「主張2」ともいう。)している。
c また、申立人は、令和6年3月1日に提出した意見書において、一般式(1)で表される溶剤の含有量が実施例より少量であり、かつ、不純物の含有量が1.0質量%以上の場合の比較例が存在しないとか(意見書の、特に48頁24~28行)、そもそも本件訂正発明1は一般式(1)で表される溶剤に関して、インク組成物全量中での含有量(使用量)を特定しておらず、本件訂正発明1の全範囲で実施例1~10と同様の優れた効果を有することを認識できない(意見書の、特に49頁11~16行)等と主張(以下、「主張3」ともいう。)する。
(イ)主張の検討
本件発明に係るインク組成物は、いわゆるオープンクレーム形式で特定されているため、「色材」と、「樹脂」と、「一般式(1)で表される溶剤」以外に「その他の溶剤」(本件明細書の段落【0061】、【0096】)や「その他の添加剤」(段落【0056】)等(以下、「任意成分」ともいう。)を含むことができるものであり、したがって、本件発明に係るインク組成物中に、本件発明が解決しようとする課題を損なうような様々な成分が含まれている場合を想定することも可能である。
しかし、そのような成分のうち、技術常識に基づき本件発明が解決しようとする課題を損なうことが明らかな成分については、そのような成分が含まれていないことを特許請求の範囲において明示的に除く旨の特定をしていなくても、本件発明は、そのような成分を含む態様を包含していないと解することが合理的である。
すなわち、インク組成物に含有される高沸点の溶剤がインク組成物の乾燥性低下、印刷面のベタツキ等の発生の原因となり、低沸点の溶剤がインク組成物の臭気、インクジェット記録装置の部材の不具合の原因となることが、申立人が主張するとおり、甲26~32に基づいて出願当時の技術常識であるといえるのであれば、本件発明に係るインク組成物は、そのような高沸点の溶剤や低沸点の溶剤を含まないものであると解することが合理的であるから、主張1、2は、採用できない。
そして、本件発明が、本件明細書の記載によりその課題を解決することができるものであると認められることは、上記エのとおりである。
カ 申立理由7についての小括
以上のとおりであるから、本件発明は、本件明細書の記載によりその課題を解決することができるものであると理解できるものであり、申立理由7によって、本件発明に係る特許を取り消すべきものとすることはできない。
2 取消理由について
(1)取消理由の概要
令和5年6月6日付けの取消理由は、上記第4の1の申立理由6、7、申立理由1~4のうち、請求項1~7を対象とし甲1、2を主たる証拠として引用するもの、請求項1~5、7を対象とし甲3を主たる証拠として引用するもの、請求項1、3~6を対象とし甲5を主たる証拠として引用するもの、請求項1、3~5、7を対象とし甲6を主たる証拠として引用するもの、及び、申立理由5のうち、請求項8、9を対象とし甲1~3、5、6を主たる証拠として引用するものである。
なお、申立理由7(サポート要件違反)についての判断は、上記1(2)で説示したとおりである。
(2)申立理由6(明確性要件違反)について
ア 申立理由6の概要
申立人は、本件訂正前の請求項1の「前記溶剤に由来する不純物」について、本件の特許明細書の段落【0027】に「尚、本明細書において、「一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物」とは、一般式(1)で表される溶剤の製造時に発生した不純物を意味し」と定義されているが、製造方法等が特定されていないから、どのような物質が上記不純物に含まれるのか、出願時の技術常識を考慮しても当業者は理解できない。また、水が反応生成物として生じる場合(水が不純物である場合)と、水性インクジェット組成物の場合(水が不純物ではない場合)があるため、水が不純物に該当するのか否か理解できないから、請求項1の記載は明確ではない、との趣旨の主張をしている。
イ 判断手法
一般に「法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきことはいうまでもない。」とされているところ(知財高裁平成21年(行ケ)第10434号、平成22年8月31日判決言渡)、このような観点に基づいて、本件特許の明確性要件の適否を以下に検討する。
ウ 本件明細書の記載
本件明細書の記載は、上記1(2)イのとおりである。
エ 検討
本件発明1の「前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0重量%未満であり、・・・インク組成物」という発明特定事項は、本件発明1のインク組成物に含まれている物質の種類と含有量について特定する事項であり、具体的には、本件発明1のインク組成物には「前記溶剤に由来する不純物」が含まれていること、及び、その含有量が「前記溶剤全量中1.0重量%未満である」ことを特定する事項である。
また、上記第2、3(1)ウ(ア)a、bのとおり、「不純物」の定義は、インク組成物を調製する際に、原料として用いた一般式(1)で表される溶剤に含まれている物質のうち、意図する溶剤以外の全ての物質であり、意図する溶剤の他に、仮に一般式(1)で表される別の物質が含まれていたとしても、それも不純物に含める、というものであり、例えば、水が「前記溶剤」に含まれている場合、水は不純物に該当するが、水性インクジェットインク組成物を製造する場合に原料として用いる水は、「前記溶剤」に含まれているものではないので不純物には該当しないし、色材や樹脂に含まれている水も不純物には該当しない。つまり、上記定義は、同じ物質であっても、「前記溶剤」に含まれていたものなのか否かに応じて不純物とするかしないかを区別する、というものでもあることを明確に理解できる。
したがって、上記発明特定事項の意味は明確であるから、申立人の主張は採用できず、申立理由6によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
(3)申立理由1のうち、請求項1を対象とするものについて
申立理由1は、新規性欠如に係るものであるが、事案に鑑み、進歩性欠如についても検討する。
なお、上記第4の1のとおり、申立理由1~4(新規性欠如)のうち、請求項1を対象とするものは、申立理由1のみである。
ア 甲1を主たる証拠として引用するものについて
(ア)甲1に記載された発明
上記第5の1に摘記した甲1の段落【0025】の【表1】には、樹脂溶剤が「C5R5%」又は「VYHD5%」であり、添加物のうちアミノアルコールが「無」、「A-2B」、「A-2Mabs」、「A-MDA」又は「t-BDEA」であり、安定剤が「無」、「#8102」又は「O-130P」であり、その他が「無」又は「水」である実施例(合わせて44の具体例)が記載されている。また、これらの実施例の製造工程(段落【0021】、【0022】、【0024】)は、概略、溶剤に樹脂や色材等を加えるというものである。そこで、【表1】の上から10番目、及び、7番目の行の実施例に着目しつつ、その記載を総合すると、甲1には以下の発明(以下、それぞれ、「甲1発明1」、及び、「甲1発明2」といい、両者をまとめて「甲1発明」ともいう。)が記載されていると認められる。
<甲1発明1>
「(i)プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(略号PMA):45重量部
(ii)ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル((株)日本乳化剤社製:商品名ヘキシルジグリコール(HeDG)):10重量部
(iii)エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BMGAC):45重量部
上記3種の溶剤を混合した混合溶剤に、
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂(日信化学工業(株)社製:ソルバインC5R)を溶解して得た樹脂濃度5wt%の樹脂溶液Iに、
(1)塩ビ安定剤として、(株)ADEKA社製:0-130P
(2)アミノアルコール系溶剤として、N,N-ジn-ブチルエタノールアミン((株)日本乳化剤社製:商品名アミノアルコール2B)
(3)水
を加えて攪拌して、樹脂溶液IIを作製し、
これに色材等を加える、
インクジェット用インクの作製方法。」
<甲1発明2>
「(i)プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(略号PMA):45重量部
(ii)ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル((株)日本乳化剤社製:商品名ヘキシルジグリコール(HeDG)):10重量部
(iii)エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BMGAC):45重量部
上記3種の溶剤を混合した混合溶剤に、
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂(日信化学工業(株)社製:ソルバインC5R)を溶解して得た樹脂濃度5wt%の樹脂溶液Iに、
(2)アミノアルコール系溶剤として、N,N-ジn-ブチルエタノールアミン((株)日本乳化剤社製:商品名アミノアルコール2B)
を加えて攪拌して、樹脂溶液IIを作製し、
これに色材等を加える、
インクジェット用インクの作製方法。」
(イ)本件発明1と甲1発明の対比
甲1発明の「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」は、本件発明1の「下記一般式(1)で表される溶剤」、「但し、前記溶剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、又はプロピレングリコールn-ブチルエーテルを含有するものを除く。」、「R1-(OR2)n-O-R3 (1)
n:1以上4以下の整数、
R1:炭素数1以上8以下の分岐してもよいアルキル基
R2:炭素数1以上4以下の分岐してもよいアルキレン基
R3:水素又は炭素数1以上4以下の分岐してもよいアルキル基」に相当する。
また、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルの沸点は258℃である(必要であれば、https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/D0501等を参照。)から、甲1発明の「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」は、本件発明1の「前記一般式(1)で表される溶剤の沸点は、150℃以上300℃以下であり、」を充足する。
また、甲1発明の「インクジェット用インクの作製方法」は、「上記3種の溶剤を混合した混合溶剤に、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂(日信化学工業(株)社製:ソルバインC5R)を溶解し」、「これに色材等を加え」て作製するものであるから、甲1発明は、本件発明1の「インクジェット記録用インク組成物の製造方法であって、
少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程を含み、」、「インク組成物の製造方法。」を充足する。
以上によれば、本件発明1と甲1発明の一致点相違点は、以下のとおりである。
一致点
「インクジェット記録用インク組成物の製造方法であって、
少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程を含み、
前記一般式(1)で表される溶剤の沸点は、150℃以上300℃以下である、
インク組成物の製造方法。但し、前記溶剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、又はプロピレングリコールn-ブチルエーテルを含有するものを除く。
R1-(OR2)n-O-R3 (1)
n:1以上4以下の整数、
R1:炭素数1以上8以下の分岐してもよいアルキル基
R2:炭素数1以上4以下の分岐してもよいアルキレン基
R3:水素又は炭素1以上4以下の分岐してもよいアルキル基」
相違点1
「一般式(1)で表される溶剤」について、本件発明1は、「前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満であり」と特定されているのに対し、甲1発明の「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」は、溶剤に含まれている不純物の含有量が不明である点
相違点2
「少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程」について、本件発明1は、「前記工程では、
前記インク組成物が水を含有する水性インクジェット記録用インク組成物である場合には、前記溶剤に由来する不純物の含有量が水性インクジェット記録用インク組成物全量中0.30質量%以下となるようにそれぞれの成分を混合し、
前記インク組成物が水を含有しない油性インクジェット記録用インク組成物である場合には、前記溶剤に由来する不純物の含有量が油性インクジェット記録用インク組成物全量中1.0質量%未満となるようにそれぞれの成分を混合する」と特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定を備えていない点
(ウ)判断
a 上記(イ)のとおり、本件発明1と甲1発明を対比すると、少なくとも相違点1で相違している。また、甲4は、本件特許の優先日以前において、不純物の含有量が1.0質量%未満であるジエチレングリコールモノヘキシルエーテルが市販されていたことを示すだけであって、甲1発明の「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」に含まれている不純物の含有量を示すものではないから、甲1発明の「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」に含まれている不純物の含有量は不明であるという他ない。
また、甲4によれば、「純度」や「水分」に関する試験項目についてそれぞれ「規格値」が設定されており、これを満たすものを合格としている(販売している)ことがうかがえるところ、「純度」に関する規格値は「95.0以上」である。
そうすると、例えば純度が96%程度であったとしても合格とされるのであるから、甲4に基づいていえることは、せいぜい、甲1発明の「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」の不純物の含有量が95.0質量%以上であろうという程度に過ぎない。
したがって、相違点1は、実質的な相違点であり、相違点2について検討するまでもなく、甲1発明は、本件発明1ではない。
b また、甲1には、甲1発明の「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」に含まれている不純物の含有量に着目した記載はないし、甲第20号証~甲第25号証に基づいて、インク組成物中に不純物が多くあるとインク性能を低下させることが周知技術であるといえるとしても、当該周知技術は、せいぜい、インク組成物の製造に用いる全ての材料についてその不純物を少なくするべきであると教示するのみであって、特にジエチレングリコールモノヘキシルエーテルのみに着目して、その不純物の含有量を1.0質量%未満に限定しさえすればインク性能が向上することを教示するものではないから、甲1発明の「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」に含まれている不純物の含有量を1.0質量%未満に限定することを動機づけるものではない。また、甲2~19、26~37にも甲1発明の「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」に含まれている不純物の含有量を1.0質量%未満に限定することを動機付けるような記載はない。したがって、当業者といえども甲1発明の「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」に含まれている不純物の含有量を1.0質量%未満に限定することを容易になし得たとはいえない。
また、本件発明1は、「臭気性試験、プリンター部材適性試験、吐出安定性試験、間欠吐出性試験、クリーニング回復性試験、耐ブロッキング性試験、乾燥性試験いずれにおいても優れており、近年のインクジェット記録方式に求められる上記の要求を同時に満たすことのできるインク組成物」(本件明細書の段落【0157】)を提供することができるという効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)申立人の主張について
a 申立人の主張の概要
申立人は、令和6年3月1日提出の意見書において、下記の主張をしている。
(a)甲1発明の「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル((株)日本乳化剤社製:商品名ヘキシルジグリコール(HeDG))」は、甲第4号証、甲第35号証、甲第36号証によれば、対応する製品の純度が安定して99.0質量%以上であると言えるから、2015年に甲1発明に係るインクジェット用インクを製造すれば、甲1発明の「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル((株)日本乳化剤社製:商品名ヘキシルジグリコール(HeDG))」の不純物の含有量は「1.0質量%未満」を充足するし、その余の事項も全て充足するので、本件発明1は甲1に記載された発明である(4頁1行~6頁1行)。
(b)本件特許の優先権の基礎とされた特願2016-073313号の明細書の段落【0025】、【0118】、【0121】、【0124】の記載や、甲第4号証、甲第35号証、甲第36号証や、甲第10~16号証によると、本件発明の「一般式(1)で表される溶剤」について、その不純物の含有量が1.0質量%未満の市販品が多数存在するから、その不純物の含有量が1.0質量%未満のものを採用することは当業者にとって困難性を伴うものではない(14頁26行~24頁12行のうち、特に、16頁下から2行~20頁8行)。
(c)本件発明は、一般式(1)で表される溶剤に由来する不純物の含有量の数値限定を特徴とする数値限定発明であるから、進歩性が認められるためには、証拠に開示されていない有利で異質で顕著で予測できない効果を奏するものであることを要するが、甲第26~32号証によれば、インク組成物に含有される高沸点の溶剤成分がインク組成物の乾燥性低下、印刷面のベタツキ等の発生の原因となり、低沸点の溶剤成分がインクの臭気、インクジェット記録装置の部材の不具合の原因となることは、当該技術分野において周知であるから、これらの効果は当業者であれば予測することができたものである(14頁26行~24頁12行のうち、特に、20頁9行~23頁11行)。
(d)その余の構成についても当業者であれば容易に想到し得たものであるといえるので、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1、4、10~16、26~32、35、36号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである(14頁26行~24頁12行)。
b 主張の検討
(a)しかし、仮に、当業者が甲1発明に係るインクジェット用インクに着目してこれを2015年に製造したとしても、当該2015年に製造したインクは、甲1に記載された発明ではないから、甲1発明と本件発明1が同一であるというためには、当該2015年に製造したインクが甲1発明と同一であることを立証する必要があるといえる。しかし、主張(a)は、当該立証を欠くものであるから、採用できない。
(b)また、甲4等の証拠に基づいて、不純物の含有量が1.0質量%未満の市販品が多数存在するといえるとしても、そもそも、不純物として本件発明が解決しようとする課題を阻害する物質が含まれており、かつ、その含有量を1.0質量%未満に減らせば本件発明が解決しようとする課題を解決することできることを知らない当業者が、不純物の含有量が1.0質量%未満の市販品が多数存在し、かつ、特に区別することなく販売・使用されていたという状況において、単に、不純物の含有量が1.0質量%未満の市販品が多数存在するということのみに基づいて、不純物の含有量を1.0質量%未満のものに限定することを着想し得たとはいえない。したがって、主張(b)も採用できない。
(c)また、甲1発明は、そもそも「一般式(1)で表される溶剤」に含まれている不純物の含有量を特定する事項を備えていないのであるから、数値限定発明の審査基準を当てはめるべき場合に該当しない。また、仮に当てはめることができる場合であるとしても、効果の顕著性の判断手法(平成30年(行ヒ)第69号)は、まず甲1発明において相違点1に係る構成を備えた場合に奏される効果を具体的に予測し、これと、本件発明が現に奏している効果とを比較した結果に基づいてなすべきところ、当該予測及び比較をいずれも欠くものである。したがって、主張(c)も採用できない。
(d)主張(d)は、主張(b)、(c)が採用できるものであることを前提とするものであるが、上記のとおりであるから、その余の構成について検討するまでもなく主張(d)(本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1、4、10~16、26~32、35、36号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである)も採用できない。
(オ)甲1を主たる証拠として引用するにものについての小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当しない。したがって、本件発明1に係る特許を申立理由1のうち、甲第1号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできない。
また、本件発明1は、甲1発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
イ 甲2を主たる証拠として引用するものについて
(ア)甲2に記載された発明
上記第5の2に摘記した甲2の段落【0022】の【表1】には、樹脂溶剤が「C5R5%」又は「VYHD5%」であり、添加物が「無添加」、「水」、「#8102」、「O-130P」、「#8102+水」又は「O-130P+水」である実施例(合わせて12の具体例)が記載されている。また、これらの実施例の製造工程(段落【0018】、【0019】、【0021】)は、概略、溶剤に樹脂や色材等を加えるというものである。そこで、【表1】の上から6番目、及び、4番目の行の実施例に着目しつつ、その記載を総合すると、甲2には以下の発明(以下、「甲2発明1」及び「甲2発明2」ともいい、両者をまとめて「甲2発明」ともいう。)が記載されていると認められる。
<甲2発明1>
「(i)プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(略号PMA):45重量部
(ii)ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル((株)日本乳化剤社製:商品名ヘキシルジグリコール(HeDG)):10重量部
(iii)エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BMGAC):45重量部
上記3種の溶剤を混合した混合溶剤に、
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂(日信化学工業(株)社製:ソルバインC5R)を溶解して得た、樹脂濃度5wt%の樹脂溶液Iに、
安定剤として、(1)(株)ADEKA社製:0-130P、及び、
添加剤として水を加えて攪拌して、樹脂溶液IIを作製し、
これに色材等を加える、
インクジェット用インクの作製方法。」
<甲2発明2>
「(i)プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(略号PMA):45重量部
(ii)ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル((株)日本乳化剤社製:商品名ヘキシルジグリコール(HeDG)):10重量部
(iii)エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BMGAC):45重量部
上記3種の溶剤を混合した混合溶剤に、
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂(日信化学工業(株)社製:ソルバインC5R)を溶解して得た、樹脂濃度5wt%の樹脂溶液Iに、
安定剤として、(1)(株)ADEKA社製:0-130Pを加えて攪拌して、樹脂溶液IIを作製し、
これに色材等を加える、
インクジェット用インクの作製方法。」
(イ)本件発明1と甲2発明の対比
甲2発明の「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」は、本件発明1の「下記一般式(1)で表される溶剤」、「但し、前記溶剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、又はプロピレングリコールn-ブチルエーテルを含有するものを除く。」、「R1-(OR2)n-O-R3 (1)
n:1以上4以下の整数、
R1:炭素数1以上8以下の分岐してもよいアルキル基
R2:炭素数1以上4以下の分岐してもよいアルキレン基
R3:水素又は炭素数1以上4以下の分岐してもよいアルキル基」に相当する。
また、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルの沸点は258℃である(必要であれば、https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/D0501等を参照。)から、甲2発明の「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」は、本件発明1の「前記一般式(1)で表される溶剤の沸点は、150℃以上300℃以下であり、」を充足する。
また、甲2発明の「インクジェット用インクの作製方法」は、「上記3種の溶剤を混合した混合溶剤に、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂(日信化学工業(株)社製:ソルバインC5R)を溶解し」、「これに色材等を加え」て作製するものであるから、甲2発明は、本件発明1の「インクジェット記録用インク組成物の製造方法であって、
少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程を含み、」、「インク組成物の製造方法。」を充足する。
以上によれば、本件発明1と甲2発明の一致点相違点は、以下のとおりである。
一致点
「インクジェット記録用インク組成物の製造方法であって、
少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程を含み、
前記一般式(1)で表される溶剤の沸点は、150℃以上300℃以下である、
インク組成物の製造方法。但し、前記溶剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、又はプロピレングリコールn-ブチルエーテルを含有するものを除く。
R1-(OR2)n-O-R3 (1)
n:1以上4以下の整数、
R1:炭素数1以上8以下の分岐してもよいアルキル基
R2:炭素数1以上4以下の分岐してもよいアルキレン基
R3:水素又は炭素1以上4以下の分岐してもよいアルキル基」
相違点3
「一般式(1)で表される溶剤」について、本件発明1は、「前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満であり」と特定されているのに対し、甲2発明の「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」は、溶剤に含まれている不純物の含有量が不明である点
相違点4
「少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程」について、本件発明1は、「前記工程では、
前記インク組成物が水を含有する水性インクジェット記録用インク組成物である場合には、前記溶剤に由来する不純物の含有量が水性インクジェット記録用インク組成物全量中0.30質量%以下となるようにそれぞれの成分を混合し、
前記インク組成物が水を含有しない油性インクジェット記録用インク組成物である場合には、前記溶剤に由来する不純物の含有量が油性インクジェット記録用インク組成物全量中1.0質量%未満となるようにそれぞれの成分を混合する」と特定されているのに対し、甲2発明ではそのような特定を備えていない点
(ウ)判断
まず、相違点3について検討すると、相違点3は、実質的に上記ア(イ)の相違点1と同じものである。
そうすると、上記ア(ウ)と同様の理由により、相違点3は、実質的な相違点であり、相違点4について検討するまでもなく、甲2発明は、本件発明1ではない。
また、上記ア(ウ)と同様の理由により、本件発明1は、甲2発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)申立人の主張について
申立人は、令和6年3月1日提出の意見書において、甲1を主たる証拠として引用するに場合と同旨の主張(11頁17~25行、29頁24行~33頁23行)をしているが、上記ア(エ)で説示しているとおりであり、採用できない。
(オ)甲2を主たる証拠として引用するものについての小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当しない。したがって、本件発明1に係る特許を申立理由1のうち、甲第2号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできない。
また、本件発明1は、甲2発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
ウ 甲3を主たる証拠として引用するものについて
(ア)甲3に記載された発明
上記第5の3に摘記した甲3の段落【0018】、【0019】に記載されている実施例1のインク組成物の原料及びその製造工程に関する記載を総合すると、甲3には以下の発明(以下、「甲3発明」ともいう。)が記載されていると認められる。
<甲3発明>
「(I-1)ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル((株)日本乳化剤社製:商品名ヘキシルジグリコール(HeDG)))と、
(II-2)ジプロピレングリコール(モノ)メチルエーテルアセテート(ジプロピレングリコールモノメチルエーテルモノメチルアセテート))を
1:1に混合した溶剤90重量部に、
塩酢ビ樹脂(ダウケミカル社製:VYHH)10重量部を溶解し、
さらに、上記の樹脂溶液を用い、色材等を加えて作製する
インクジェット用インクの作製方法。」
(イ) 本件発明1と甲3発明の対比
甲3発明の「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」は、本件発明1の「下記一般式(1)で表される溶剤」、「但し、前記溶剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、又はプロピレングリコールn-ブチルエーテルを含有するものを除く。」、「R1-(OR2)n-O-R3 (1)
n:1以上4以下の整数、
R1:炭素数1以上8以下の分岐してもよいアルキル基
R2:炭素数1以上4以下の分岐してもよいアルキレン基
R3:水素又は炭素数1以上4以下の分岐してもよいアルキル基」に相当する。
また、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルの沸点は258℃である(必要であれば、https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/D0501等を参照。)から、甲2発明の「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」は、本件発明1の「前記一般式(1)で表される溶剤の沸点は、150℃以上300℃以下であり、」を充足する。
また、甲3発明の「インクジェット用インクの作製方法」は、「溶剤90重量部に、塩酢ビ樹脂(ダウケミカル社製:VYHH)10重量部を溶解し、さらに、上記の樹脂溶液を用い、色材等を加えて作製する」ものであるから、甲3発明は、本件発明1の「インクジェット記録用インク組成物の製造方法であって、
少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程を含み、」、「インク組成物の製造方法。」を充足する。
以上によれば、本件発明1と甲3発明の一致点相違点は、以下のとおりである。
一致点
「インクジェット記録用インク組成物の製造方法であって、
少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程を含み、
前記一般式(1)で表される溶剤の沸点は、150℃以上300℃以下である、
インク組成物の製造方法。但し、前記溶剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、又はプロピレングリコールn-ブチルエーテルを含有するものを除く。
R1-(OR2)n-O-R3 (1)
n:1以上4以下の整数、
R1:炭素数1以上8以下の分岐してもよいアルキル基
R2:炭素数1以上4以下の分岐してもよいアルキレン基
R3:水素又は炭素1以上4以下の分岐してもよいアルキル基」
相違点5
「一般式(1)で表される溶剤」について、本件発明1は、「前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満であり」と特定されているのに対し、甲3発明の「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」は、溶剤に含まれている不純物の含有量が不明である点
相違点6
「少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程」について、本件発明1は、「前記工程では、
前記インク組成物が水を含有する水性インクジェット記録用インク組成物である場合には、前記溶剤に由来する不純物の含有量が水性インクジェット記録用インク組成物全量中0.30質量%以下となるようにそれぞれの成分を混合し、
前記インク組成物が水を含有しない油性インクジェット記録用インク組成物である場合には、前記溶剤に由来する不純物の含有量が油性インクジェット記録用インク組成物全量中1.0質量%未満となるようにそれぞれの成分を混合する」と特定されているのに対し、甲2発明ではそのような特定を備えていない点
(ウ)判断
まず、相違点5について検討すると、相違点5は、実質的に上記ア(イ)の相違点1と同じものである。
そうすると、上記ア(ウ)と同様の理由により、相違点5は、実質的な相違点であり、相違点6について検討するまでもなく、甲3発明は、本件発明1ではない。
また、上記ア(ウ)と同様の理由により、本件発明1は、甲3発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)申立人の主張について
申立人は、令和6年3月1日提出の意見書において、甲1を主たる証拠として引用するに場合と同旨の主張(13頁6~14行、39頁1行~43頁1行)をしているが、上記ア(エ)で説示しているとおりであり、採用できない。
(オ)甲3を主たる証拠として引用するものについての小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲3に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当しない。したがって、本件発明1に係る特許を申立理由1のうち、甲第3号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできない。
また、本件発明1は、甲3発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
エ 甲5を主たる証拠として引用するものについて
(ア)甲5に記載された発明
上記第5の5に摘記した甲5には、「攪拌環境下で、1、2アルカンジオールを、2-ピロリドン及びDowanol PnB等のグリコールエーテル等の多数の湿潤共溶媒と組み合わせることによって、ビヒクルを形成」し、「更に多数のラテックス含有インク配合物を生成させ」たことが記載されている。そこで、この記載を、「インク1」に着目して総合すると、甲5には以下の発明(以下、「甲5発明」ともいう。)が記載されていると認められる。
<甲5発明>
「攪拌環境下で、1、2アルカンジオールを、2-ピロリドン及びDowanol PnB等のグリコールエーテル等の多数の湿潤共溶媒と組み合わせることによって形成したビヒクルと、その他の原料を配合してインク1を作製する方法であって、
前記インク1が、
アリルラテックス 4.0%、
顔料 2.0%、
1,2-ヘキサンジオール 6.0%、
MPDipl 5.0%、
Dowanol PnB 2.0%、
Zonyl FSO 0.5%、
水 74.3%、
からなる、
インクジェット用インクの製造方法。」
(イ)本件発明1と甲5発明の対比
甲5発明の「Dowanol PnB」は、プロピレングリコールn-ブチルエーテル(沸点1 7 1℃)である(上記第5の8の甲8を参照。)から、本件発明1の「下記一般式(1)で表される溶剤」、「前記一般式(1)で表される溶剤の沸点は、150℃以上300℃以下であり、」、「R1-(OR2)n-O-R3 (1)
n:1以上4以下の整数、
R1:炭素数1以上8以下の分岐してもよいアルキル基
R2:炭素数1以上4以下の分岐してもよいアルキレン基
R3:水素又は炭素数1以上4以下の分岐してもよいアルキル基」に相当する。
また、甲5発明の「インクジェット用インクの製造方法」は、「攪拌環境下で、1、2アルカンジオールを、2-ピロリドン及びDowanol PnB等のグリコールエーテル等の多数の湿潤共溶媒と組み合わせることによって形成したビヒクルと、その他の原料を配合してインク1を作製する」ものであるから、甲5発明は、本件発明1の「インクジェット記録用インク組成物の製造方法であって、
少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程を含み、」、「インク組成物の製造方法。」を充足する。
以上によれば、本件発明1と甲5発明の一致点相違点は、以下のとおりである。
一致点
「インクジェット記録用インク組成物の製造方法であって、
少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程を含み、
前記一般式(1)で表される溶剤の沸点は、150℃以上300℃以下である、
インク組成物の製造方法。
R1-(OR2)n-O-R3 (1)
n:1以上4以下の整数、
R1:炭素数1以上8以下の分岐してもよいアルキル基
R2:炭素数1以上4以下の分岐してもよいアルキレン基
R3:水素又は炭素1以上4以下の分岐してもよいアルキル基」
相違点7
「一般式(1)で表される溶剤」について、本件発明1は、「前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満であり」と特定されているのに対し、甲5発明の「Dowanol PnB」は、溶剤に含まれている不純物の含有量が不明である点
相違点8
「少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程」について、本件発明1は、「前記工程では、
前記インク組成物が水を含有する水性インクジェット記録用インク組成物である場合には、前記溶剤に由来する不純物の含有量が水性インクジェット記録用インク組成物全量中0.30質量%以下となるようにそれぞれの成分を混合し、
前記インク組成物が水を含有しない油性インクジェット記録用インク組成物である場合には、前記溶剤に由来する不純物の含有量が油性インクジェット記録用インク組成物全量中1.0質量%未満となるようにそれぞれの成分を混合する」と特定されているのに対し、甲5発明ではそのような特定を備えていない点
相違点9
「一般式(1)で表される溶剤」について、本件発明1は、「但し、前記溶剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、又はプロピレングリコールn-ブチルエーテルを含有するものを除く。」と特定されているのに対し、甲5発明は、「Dowanol PnB」(プロピレングリコールn-ブチルエーテル)である点
(ウ)判断
まず、相違点7について検討すると、相違点7は、実質的に上記ア(イ)の相違点1と同じものである。
そうすると、上記ア(ウ)と同様の理由により、相違点7は、実質的な相違点であり、その余の相違点について検討するまでもなく、甲5発明は、本件発明1ではない。
また、上記ア(ウ)と同様の理由により、本件発明1は、甲5発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)甲5を主たる証拠として引用するものについての小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲5に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当しない。したがって、本件発明1に係る特許を申立理由1のうち、甲第5号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできない。
また、本件発明1は、甲5発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
オ 甲6を主たる証拠として引用するものについて
(ア)甲6に記載された発明
上記第5の6に摘記した甲6には、その実施例において「インクジェットインクの調製のために、顔料に関連する濃縮配合物を、最初にアジテーターボールミルで粉砕し、その後、以下の組成(質量%)まで薄めた」ことが記載されている。そこで、この記載及び関連する記載を総合すると、甲6には以下の発明(以下、「甲6発明」ともいう。)が記載されていると認められる。
<甲6発明>
「5% ブラックビーズ880(Cabot Corporation製)、
2% Mowital B-20H(Clariant製のポリビニルブチラール)、
31% Dowanol PnP(Dow Chemical製のプロピレングリコールモノプロピル-エーテル)、
59% Dowanol PnB(Dow Chemical製のプロピレングリコールモノブチル-エーテル)、
3% Beckopox-EM460(Vianova Resins製)、
からなる黒色インクジェットインクの調製方法であって、
顔料に関連する濃縮配合物を、最初にアジテーターボールミルで粉砕し、その後、薄める工程を備えている、
方法。」
(イ)本件発明1と甲6発明の対比
甲6発明の「Dowanol PnB」は、プロピレングリコールn-ブチルエーテル(沸点1 7 1℃)である(上記第5の8の甲8を参照。)から、本件発明1の「下記一般式(1)で表される溶剤」、「前記一般式(1)で表される溶剤の沸点は、150℃以上300℃以下であり、」、「R1-(OR2)n-O-R3 (1)
n:1以上4以下の整数、
R1:炭素数1以上8以下の分岐してもよいアルキル基
R2:炭素数1以上4以下の分岐してもよいアルキレン基
R3:水素又は炭素数1以上4以下の分岐してもよいアルキル基」に相当する。
また、甲6発明の「黒色インクジェットインクの調製方法」は、「顔料に関連する濃縮配合物を、最初にアジテーターボールミルで粉砕し、その後、薄める工程を備えている」から、本件発明1の「インクジェット記録用インク組成物の製造方法であって、
少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程を含み、」、「インク組成物の製造方法。」を充足する。
以上によれば、本件発明1と甲6発明の一致点相違点は、以下のとおりである。
一致点
「インクジェット記録用インク組成物の製造方法であって、
少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程を含み、
前記一般式(1)で表される溶剤の沸点は、150℃以上300℃以下である、
インク組成物の製造方法。
R1-(OR2)n-O-R3 (1)
n:1以上4以下の整数、
R1:炭素数1以上8以下の分岐してもよいアルキル基
R2:炭素数1以上4以下の分岐してもよいアルキレン基
R3:水素又は炭素1以上4以下の分岐してもよいアルキル基」
相違点10
「一般式(1)で表される溶剤」について、本件発明1は、「前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満であり」と特定されているのに対し、甲6発明の「Dowanol PnB(Dow Chemical製のプロピレングリコールモノブチル-エーテル)」は、溶剤に含まれている不純物の含有量が不明である点
相違点11
「少なくとも、色材と、樹脂と、下記一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る工程」について、本件発明1は、「前記工程では、
前記インク組成物が水を含有する水性インクジェット記録用インク組成物である場合には、前記溶剤に由来する不純物の含有量が水性インクジェット記録用インク組成物全量中0.30質量%以下となるようにそれぞれの成分を混合し、
前記インク組成物が水を含有しない油性インクジェット記録用インク組成物である場合には、前記溶剤に由来する不純物の含有量が油性インクジェット記録用インク組成物全量中1.0質量%未満となるようにそれぞれの成分を混合する」と特定されているのに対し、甲6発明ではそのような特定を備えていない点
相違点12
「一般式(1)で表される溶剤」について、本件発明1は、「但し、前記溶剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、又はプロピレングリコールn-ブチルエーテルを含有するものを除く。」と特定されているのに対し、甲6発明は、「Dowanol PnB(Dow Chemical製のプロピレングリコールモノブチル-エーテル)」である点
(ウ)判断
まず、相違点10について検討すると、相違点10は、実質的に上記ア(イ)の相違点1と同じものである。
そうすると、上記ア(ウ)と同様の理由により、相違点10は、実質的な相違点であり、その余の相違点について検討するまでもなく、甲6発明は、本件発明1ではない。
また、上記ア(ウ)と同様の理由により、本件発明1は、甲6発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)甲6を主たる証拠として引用するものについての小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲6に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当しない。したがって、本件発明1に係る特許を申立理由1のうち、甲第6号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできない。
また、本件発明1は、甲6発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
(4)申立理由1~4のうち、請求項2~7を対象とするものについて
本件発明2~7は、いずれも、本件発明1を直接または間接的に引用しさらに限定した発明に該当する。また、本件発明1は、上記(3)のア(オ)、イ(オ)、ウ(オ)、エ(エ)、オ(エ)、で説示したとおり、甲1~3、5、6のいずれを主たる証拠として引用する場合についても、これらの証拠のいずれか記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当しない。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件発明2~7も、甲1~3、5、6のいずれを主たる証拠として引用する場合についても、これらの証拠のいずれに記載された発明でもないから、特許法第29条第1項第3号には該当しない。
したがって、本件発明2~7に係る特許についても申立理由1~4(甲1~3、5、6のいずれかを主たる証拠として引用するもの)によって取り消すべきものとすることはできない。
(5)申立理由5について
令和5年6月6日付けで通知した申立理由5は、請求項8、9を対象とし、甲1~3、5、6のいずれかを主たる証拠として引用するものである(上記(1)参照。)。
また、本件発明8、9は、本件発明1を直接または間接的に引用するインクジェット記録方法」、あるいは、「印刷物の製造方法」の発明である。
また、上記(3)のア(オ)、イ(オ)、ウ(オ)、エ(エ)、オ(エ)、で説示したとおり、本件発明1は、甲1~3、5、6のいずれを主たる証拠として引用する場合についても、証拠に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、証拠に記載された発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件発明8、9も、甲1~3、5、6のいずれを主たる証拠として引用する場合についても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
したがって、本件発明8、9に係る特許を申立理由5(甲1~3、5、6のいずれかを主たる証拠として引用するもの)によって取り消すべきものとすることはできない。
3 取消理由通知で採用しなかった特許異議の申立理由について
(1)取消理由通知で採用しなかった特許異議の申立理由の概要
取消理由通知で採用しなかった特許異議の申立理由は、ア:申立理由1~4のうち、請求項1~7を対象とし甲7~9のいずれかを主たる証拠として引用するもの、イ:申立理由5のうち、請求項1~7を対象とし甲1~3、5、6のいずれかを主たる証拠として引用するもの、ウ:請求項1~9を対象とし甲7~9のいずれかを主たる証拠として引用するもの、及びエ:申立理由8である。
(2)申立理由1~4のうち請求項1~7を対象とし甲7~9のいずれかを主たる証拠として引用するもの、及び、申立理由5のうち請求項1~9を対象とし甲7~9のいずれかを主たる証拠として引用するものについて
ア 甲7を主たる証拠として引用するものについて
(ア)甲7に記載された発明
上記第5の7に摘記した甲7の段落【0056】には、実施例1~12のインク組成物を製造したことが記載されている。そして、実施例1のインク組成物に着目し、その製造工程及び成分に関する記載を総合すると、甲7には以下の発明(以下、「甲7発明」ともいう。)が記載されていると認められる。
<甲7発明>
「10wt%の精製水と、90wt%のウレタン樹脂エマルジョン(大成化工製WEM-202U)、これに対して黒顔料水分散液(オリエント化学製Micropigmo WMBK-5、顔料含有量20wt%)を、顔料濃度を全量に対して4wt%になるように混合し、各組成物全300gをホモジナイザ(日立工機製HG30)を用いて、回転数2,000rpmで均質な混合物が得られるまで分散し、続いてろ過を行い不純物等を除去し、均質なインク組成物を得る方法。」
(イ)本件発明1と甲7発明の対比
本件発明1と甲7発明を対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
相違点13
溶剤について、本件発明1は、「一般式(1)で表される溶剤」を含むとともに、「前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満であり」と特定されているのに対し、甲7発明は、そもそも、「一般式(1)で表される溶剤」を含んでいないため、「前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満であり」を備えていない点
(ウ)判断
上記(イ)のとおり、本件発明1と甲7発明を対比すると、少なくとも相違点13で相違している。また、相違点13は、実質的に相違点1と同じものを包含している。
そうすると、上記2(3)ア(ウ)と同様の理由により、相違点13は、実質的な相違点であり、その余の相違点について検討するまでもなく、甲7発明は、本件発明1ではない。
また、上記ア(ウ)と同様の理由により、本件発明1は、甲7発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)申立人の主張について
a 申立人の主張の概要
申立人は、特許異議申立書において、下記の主張をしている。
甲7には、「少なくとも水と顔料およびウレタン樹脂意エマルジョンを含む、インク組成物(以下、「甲7A発明」ともいう。)」及び「少なくとも水と顔料およびウレタン樹脂エマルジョンを含み、ブチルプロピレングリコール(日本乳化剤製)を添加した、インク組成物(以下、「甲7B発明」ともいう。)」が記載されている(37頁7~13行)。
また、本件特許発明1は、甲7B発明と同一であり(124頁19行~125頁7行)、容易に発明をすることができたものである(126頁19~128頁末行)。
また、本件特許発明1は、甲7A発明及び甲7、4、10~32号証に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものである(129頁1行~131頁15行)。
b 主張の検討
申立人の主張は、甲7に、甲7A発明及び甲7B発明が記載されているといえることを前提とするものであるが、甲7にはこれらの発明と一致する記載がないし、甲7に記載されている事項からこれらの発明を導き出せるといえる理由について申立人は何も説明をしていない。また、これらの発明が記載されているといえることが明らかであるともいえない。
また、仮にこれらの発明が記載されているといえるとしても、本件発明1と対比すると少なくとも相違点13で相違している。
そして、相違点13については上記(ウ)のとおりである。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(オ)本件発明1についての小括
上記(ウ)、(エ)のとおり、本件発明1は、甲7に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当しない。したがって、本件発明1に係る特許を申立理由1~4のうち、甲第7号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできない。
また、本件発明1は、甲7に記載された発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。したがって、本件発明1に係る特許を申立理由5のうち、甲第7号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできない。
(カ)本件発明2~9について
本件発明2~9は、いずれも、本件発明1を直接または間接的に引用しさらに限定した発明に該当する。また、本件発明1は、上記(オ)のとおり、甲7に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、したがって、本件発明1に係る特許を申立理由1~4のうち、甲第7号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできないものであり、また、甲7に記載された発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないので、本件発明1に係る特許を申立理由5のうち、甲第7号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできないものである。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~7に係る特許についても申立理由1~4(甲7を主たる証拠として引用するもの)によって取り消すべきものとすることはできず、また、本件発明2~9に係る特許を申立理由5のうち、甲第7号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできない。
イ 甲8を主たる証拠として引用するものについて
(ア)甲8に記載された発明
上記第5の8に摘記した甲8の実験1(段落【0277】~【0278】)記載を総合すると、甲8には以下の発明(以下、「甲8発明」ともいう。)が記載されていると認められる。
<甲8発明>
「NeoCryl A-1127 ラテックスを5重量%の(前記インク組成物合計量に対しての固体の量)、Pro-jet Cyan APD 1000顔料を4重量%(前記インク組成物合計量に対しての固体の量)、19重量%のグリセロール、19重量%の1,2 プロパンジオール(プロピレングリコール)、1重量%のジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(AOT)、および、52重量%の水を、容器中で混合し、約60分間撹拌し、1μmの孔サイズを有するPall Profile Star absoluteガラスフィルターでろ過して、インク組成物を得る方法。」
(イ)本件発明1と甲8発明の対比
本件発明1と甲8発明を対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
相違点14
溶剤について、本件発明1は、「一般式(1)で表される溶剤」を含むとともに、「前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満であり」と特定されているのに対し、甲8発明は、そもそも、「一般式(1)で表される溶剤」を含んでいないため、「前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満であり」を備えていない点
(ウ)判断
上記(イ)のとおり、本件発明1と甲8発明を対比すると、少なくとも相違点14で相違している。また、相違点14は、実質的に相違点1と同じものを包含している。
そうすると、上記2(3)ア(ウ)と同様の理由により、相違点14は、実質的な相違点であり、その余の相違点について検討するまでもなく、甲8発明は、本件発明1ではない。
また、上記ア(ウ)と同様の理由により、本件発明1は、甲8発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)申立人の主張について
a 申立人の主張の概要
申立人は、特許異議申立書において、下記の主張をしている。
甲8には、「水分散性樹脂、水分散性着色剤、水、及び水溶性有機溶媒の混合物を含む、インク組成物」(以下、「甲8A発明」ともいう。)及び「水分散性樹脂、水分散性着色剤、水、及び水溶性有機溶媒の混合物を含み、水溶性有機溶媒として、プロピレングリコールn-ブチルエーテル(DOWANOL PnB)を含む、インク組成物。」(以下、「甲8B発明」ともいう。)」が記載されている(39頁22~末行)。
また、本件特許発明1は、甲8B発明と同一であり(136頁4~23行)、容易に発明をすることができたものである(138頁10~16行)。
また、本件特許発明1は、甲8A発明及び甲8、4、10~32号証に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものである(140頁13行~143頁10行)。
b 主張の検討
申立人の主張は、甲8に、甲8A発明及び甲8B発明が記載されているといえることを前提とするものであるが、甲8にはこれらの発明と一致する記載がないし、甲8に記載されている事項からこれらの発明を導き出せるといえる理由について申立人は何も説明をしていない。また、これらの発明が記載されているといえることが明らかであるともいえない。
また、仮にこれらの発明が記載されているといえるとしても、本件発明1と対比すると少なくとも相違点14で相違している。
そして、相違点14については上記(ウ)のとおりである。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(オ)本件発明1についての小括
上記(ウ)、(エ)のとおり、本件発明1は、甲8に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当しない。したがって、本件発明1に係る特許を申立理由1~4のうち、甲第8号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできない。
また、本件発明1は、甲8に記載された発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。したがって、本件発明1に係る特許を申立理由5のうち、甲第8号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできない。
(カ)本件発明2~9について
本件発明2~9は、いずれも、本件発明1を直接または間接的に引用しさらに限定した発明に該当する。また、本件発明1は、上記(オ)のとおり、甲8に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、したがって、本件発明1に係る特許を申立理由1~4のうち、甲第8号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできないものであり、また、甲8に記載された発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないので、本件発明1に係る特許を申立理由5のうち、甲第8号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできないものである。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~7に係る特許についても申立理由1~4(甲8を主たる証拠として引用するもの)によって取り消すべきものとすることはできず、また、本件発明2~9に係る特許を申立理由5のうち、甲第8号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできない。
ウ 甲9を主たる証拠として引用するものについて
(ア)甲9に記載された発明
上記第5の9に摘記した甲9の請求項1及び7に関する記載を総合すると、甲9には以下の発明(以下、「甲9発明」ともいう。)が記載されていると認められる。
<甲9発明>
「色材としての約5から9重量%の染料又は約2から5重量%の顔料と、約23~27重量%のグリセロール及び1以上のグリコールの形態の保湿剤であって、グリセロールが11重量%以下3重量%以上を構成する保湿剤と、約0.1から0.5重量%の界面活性剤と、約0.25から2重量%の湿潤剤と、残りの水と、任意にさらなる添加剤と、
インクジェット液滴の均一な放出を促進するポリマーを最大2重量%含み、それによって、インクジェットインク中の湿潤剤の量が約20~30重量%であり得る、インクジェットインクの製造方法。」
(イ)本件発明1と甲9発明の対比
本件発明1と甲9発明を対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
相違点15
溶剤について、本件発明1は、「一般式(1)で表される溶剤」を含むとともに、「前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満であり」と特定されているのに対し、甲9発明は、そもそも、「一般式(1)で表される溶剤」を含んでいないため、「前記溶剤に由来する不純物の含有量が前記溶剤全量中1.0質量%未満であり」を備えていない点
(ウ)判断
上記(イ)のとおり、本件発明1と甲9発明を対比すると、少なくとも相違点15で相違している。また、相違点15は、実質的に相違点1と同じものを包含している。
そうすると、上記2(3)ア(ウ)と同様の理由により、相違点15は、実質的な相違点であり、その余の相違点について検討するまでもなく、甲9発明は、本件発明1ではない。
また、上記ア(ウ)と同様の理由により、本件発明1は、甲9発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)申立人の主張について
a 申立人の主張の概要
申立人は、特許異議申立書において、下記の主張をしている。
甲7には、「色材としての染料または顔料と、保湿剤と、界面活性剤と、湿潤剤と、水と、インクジェット液滴の均一な放出を促進するポリマーとを含む、インクジェット製品。」(以下、「甲9A発明」ともいう。)及び「色材としての染料または顔料と、保湿剤と、界面活性剤と、湿潤剤と、水と、インクジェット液滴の均一な放出を促進するポリマーとを含み、前記湿潤剤として、Dowanol PnB(プロピレングリコールn-ブチルエーテル)を含む、インクジェット製品。」(以下、「甲7B発明」ともいう。)」が記載されている(42頁7~16行)。
また、本件特許発明1は、甲9B発明と同一であり(147頁19行~148頁9行)、容易に発明をすることができたものである(149頁25~150頁2行)。
また、本件特許発明1は、甲9A発明及び甲9、4、10~32、34号証に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものである(151頁末行~154頁24行)。
b 主張の検討
申立人の主張は、甲9に、甲9A発明及び甲9B発明が記載されているといえることを前提とするものであるが、甲9にはこれらの発明と一致する記載がないし、甲9に記載されている事項からこれらの発明を導き出せるといえる理由について申立人は何も説明をしていない。また、これらの発明が記載されているといえることが明らかであるともいえない。
また、仮にこれらの発明が記載されているといえるとしても、本件発明1と対比すると少なくとも相違点15で相違している。
そして、相違点15については上記(ウ)のとおりである。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(オ)本件発明1についての小括
上記(ウ)、(エ)のとおり、本件発明1は、甲9に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当しない。したがって、本件発明1に係る特許を申立理由1~4のうち、甲第9号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできない。
また、本件発明1は、甲9に記載された発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。したがって、本件発明1に係る特許を申立理由5のうち、甲第9号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできない。
(カ)本件発明2~9について
本件発明2~9は、いずれも、本件発明1を直接または間接的に引用しさらに限定した発明に該当する。また、本件発明1は、上記(オ)のとおり、甲9に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、したがって、本件発明1に係る特許を申立理由1~4のうち、甲第9号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできないものであり、また、甲9に記載された発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないので、本件発明1に係る特許を申立理由5のうち、甲第9号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできないものである。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~7に係る特許についても申立理由1~4(甲9を主たる証拠として引用するもの)によって取り消すべきものとすることはできず、また、本件発明2~9に係る特許を申立理由5のうち、甲第9号証を主たる証拠として引用するものによって取り消すべきものとすることはできない。
(3)申立理由5のうち、請求項1~7を対象とし、甲1~3、5、6のいずれかを主たる証拠として引用するものについて
上記2(3)のア(オ)、イ(オ)、ウ(オ)、エ(エ)、オ(エ)、で説示したとおり、本件発明1は、甲1~3、5、6のいずれを主たる証拠として引用する場合についても、当該証拠に記載された発明及び甲1~37に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
また、本件発明2~7は、いずれも、本件発明1を直接または間接的に引用しさらに限定した発明に該当するから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。。
そうすると、本件発明1~7に係る特許を申立理由5(甲1~3、5、6のいずれかを主たる証拠として引用するもの)によって取り消すべきものとすることはできない。
(4)申立理由8(実施可能要件違反)について
ア 申立理由8の概要
申立人が主張する申立理由8(実施可能要件違反)は、本件特許発明1には、一般式(1)で表される溶剤以外に、多種多様な溶剤を含有するインクジェット記録用インク組成物も包含されるところ、一般式(1)で表される溶剤以外に含有される溶媒が、高沸点(例えば、沸点が300℃超)又は低沸点(例えば、沸点が150℃未満)の溶媒であるインク組成物についての実験データは実施例に記載が無く、当業者は、如何にしてそのようなインク組成物を実施例1~10と同様の効果を有するように製造するかを理解することができない、という趣旨のものである(特許異議申立書164頁8行~165頁2行)。
イ 判断手法
発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たすためには、発明の詳細な説明は、請求項に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていなければならない。
本願発明は、「物の製造方法の発明」であるところ、「物の製造方法の発明」について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえるためには、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、請求項に係る発明の物を製造できるように記載されていることが必要である
ウ本件明細書の記載
本件明細書の記載は、上記1(2)イのとおりである。
エ 検討
本件発明1は、上記第3のとおりのインク組成物の製造方法の発明であって、少なくとも、色材と、樹脂と、一般式(1)で表される溶剤と、を混合してインク組成物を得る方法であるから、本件明細書の記載及び当業者の技術常識に基づき、本件発明1に係るインク組成物の製造方法を実施してインク組成物を製造することができると認められる。
また、本件発明2~7は、本件発明1を直接または間接的に引用しさらに限定したインク組成物の製造方法の発明であり、本件発明8は、本件発明1を直接または間接的に引用するインクジェット記録方法の発明であり、本件発明9は、本件発明1を直接または間接的に引用する印刷物の製造方法の発明であるが、いずれも、本件発明1と同様の理由により、実施可能要件違反が存在するとはいえない。
以上のとおりであるから、本件発明に係る特許を申立理由8によって取り消すべきものとすることはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-701129