特許異議申立
2022-701128
ポリビニルアルコール樹脂フィルム、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの判別方法、及びポリビニルアルコール樹脂フィルムの製造方法
- 審判番号
- 2022-701128
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-508972
- 登録番号
- 7072129
- 請求日
- 2022年11月16日
- 審決日
- 2023年08月10日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社クラレ
- 【権利者代理人】弁理士法人ライトハウス国際特許事務所
- 【異議申立人】荒井 健之
- 【異議申立人】大村 豊
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 淺野 美奈
- 分類
- P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7072129号発明「ポリビニルアルコール樹脂フィルム、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの判別方法、及びポリビニルアルコール樹脂フィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7072129号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし11〕及び12について訂正することを認める。
特許第7072129号の請求項1ないし7及び9ないし12に係る特許を維持する。
特許第7072129号の請求項8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7072129号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)10月14日(優先権主張 令和2年10月15日)を国際出願日とする出願であって、令和4年5月11日にその特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、同年同月19日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年11月16日に特許異議申立人 荒井 健之(以下、「特許異議申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし12)がされ、同年同月18日に特許異議申立人 大村 豊(以下、「特許異議申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし12)がされ、同年2月24日付けで取消理由が通知され、同年4月28日に特許権者 株式会社クラレ(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされると共に意見書が提出され、同年5月15日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年6月16日に特許異議申立人A及びBそれぞれから意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和5年4月28日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムであり、該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である、ポリビニルアルコール樹脂フィルム。」と記載されているのを、「ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムであり、該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上であり、
前記ポリビニルアルコール樹脂(A)がポリビニルエステルに由来するものであり、前記ポリビニルエステルの全単量体単位に対する、ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマー単位の含有量が15モル%以下であり、
前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の1,2-グリコール結合の含有量が0.2モル%以上、2.0モル%未満である、ポリビニルアルコール樹脂フィルム。」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし7及び9ないし11も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8のいずれかに記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム。」と記載されているのを、「請求項1~7のいずれかに記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム。」に訂正する。
併せて、請求項9を引用する請求項10及び11も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1~9のいずれかに記載のポリビニルアルコール樹脂フィルムを用いた光学フィルム。」と記載されているのを、「請求項1、2、3、4、5、6、7又は9に記載のポリビニルアルコール樹脂フィルムを用いた光学フィルム。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1~9のいずれかに記載のポリビニルアルコール樹脂フィルムを用いた水溶性フィルム。」と記載されているのを、「請求項1、2、3、4、5、6、7又は9に記載のポリビニルアルコール樹脂フィルムを用いた水溶性フィルム。」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項12に「洗剤、農薬、又は殺菌剤を、請求項11に記載の水溶性フィルムにより包装した包装体。」と記載されているのを、「洗剤、農薬、又は殺菌剤を、ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムであり、該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である、ポリビニルアルコール樹脂フィルムを用いた水溶性フィルムにより包装した包装体。」に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「ポリビニルアルコール樹脂(A)」の由来、ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマー単位の含有量及び1,2-グリコール結合の含有量を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
なお、特許異議申立人Bは、令和5年6月16日に提出された意見書において、請求項1についての訂正について、次のとおり主張する。主張の摘記に際し、空白行は省略した。
「訂正請求により、請求項1に、「ポリビニルアルコール樹脂(A)がポリビニルエステルに由来するものであり、前記ポリビニルエステルの全単量体単位に対する、ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマー単位の含有量が15モル%以下」なる構成要件が追加された。
しかし、本件特許明細書には、「【0016】・・・ポリビニルエステルのけん化物である」という記載は存在するものの、「ポリビニルアルコール樹脂(A)がポリビニルエステルに由来する」なる記載は存在しない。
「ポリビニルアルコール樹脂(A)がポリビニルエステルに由来」という規定からすると、「由来」には、ポリビニルエステルに由来して(ポリビニルエステルを起源ないし原料として)ポリビニルアルコール樹脂となる、あらゆるケースが含まれることになるが、このようなケースには、けん化の他、その他の多様な態様(変性等)が含まれる。
とりわけ、「ポリビニルアルコール樹脂」であることを考慮しても、その態様(変性等)には、様々なものがある(例えば、アセタール化、グラフト化、末端封鎖等、ポリビニルアルコールにおいて、側鎖ないし末端を利用した様々な変性が知られている)。
このように、「由来」には、「けん化」以外のものも含まれるのであるから、当該「由来」を規定する訂正は明らかに新規事項を追加するものである。
また、本件特許明細書では、「【0016】・・・ポリビニルエステルのけん化物である」と断定されているのであるから、けん化以外の態様まで含むこととなる「由来」なる訂正は、本件特許請求の範囲を実質的に拡張ないし変更することになる。」(上記意見書第1及び2ページ)
そこで、該主張について検討する。
訂正事項1による請求項1についての訂正における「由来」が「けん化」のことを意味していることは、当業者に自明のことであり(なお、このように解釈することは、本件特許明細書の【0016】の記載とも整合する。)、新規事項の追加であるとはいえないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるともいえない。
したがって、特許異議申立人Bの上記主張は採用できない。
(2)請求項2ないし7についての訂正について
訂正事項1による請求項2ないし7についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項2ないし7についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項8についての訂正について
訂正事項2による請求項8についての訂正は、請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2による請求項8についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)請求項9についての訂正について
訂正事項1による請求項9についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3による請求項9についての訂正は、引用請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び3による請求項9についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)請求項10についての訂正について
訂正事項1による請求項10についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3による請求項10についての訂正は、請求項9についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4による請求項10についての訂正は、引用請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1、3及び4による請求項10についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)請求項11についての訂正について
訂正事項1による請求項11についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3による請求項11についての訂正は、請求項9についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項5による請求項11についての訂正は、引用請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1、3及び5による請求項11についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(7)請求項12についての訂正について
訂正事項6による請求項12についての訂正は、訂正前の請求項12が請求項1を直接又は間接的に引用する請求項11を引用していたのを、請求項1を直接引用する請求項11を引用する請求項12について、請求項1及び11の記載を引用しない独立形式に書き下したものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
そして、訂正事項6による請求項12についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし6による請求項1ないし12についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1又は4号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし6による請求項1ないし12についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし12は一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1ないし6による請求項1ないし12についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし12に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
さらに、訂正後の請求項12については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することの求めがされている。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし11〕及び12について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムであり、該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上であり、
前記ポリビニルアルコール樹脂(A)がポリビニルエステルに由来するものであり、前記ポリビニルエステルの全単量体単位に対する、ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマー単位の含有量が15モル%以下であり、
前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の1,2-グリコール結合の含有量が0.2モル%以上、2.0モル%未満である、ポリビニルアルコール樹脂フィルム。
【請求項2】
炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cが-20‰以上である、請求項1に記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム。
【請求項3】
炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cが-20‰未満である、請求項1に記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の全部又は一部が、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)である、請求項1~3のいずれかに記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコール樹脂(A)がエチレン単位を含有し、前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の全単量体単位に対するエチレン単位の含有量が1モル%以上、15モル%未満である、請求項1~4のいずれかに記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコール樹脂(A)のけん化度が80モル%以上である、請求項1~5のいずれかに記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム。
【請求項7】
前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の重合度が200以上、8,000未満である、請求項1~6のいずれかに記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム。
【請求項8】 (削除)
【請求項9】
前記ポリビニルアルコール樹脂(A)が重合体末端にアルコキシル基を有し、前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の全単量体単位に対するアルコキシル基の含有量が0.0005モル%以上、1モル%未満である、請求項1~7のいずれかに記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、5、6、7又は9に記載のポリビニルアルコール樹脂フィルムを用いた光学フィルム。
【請求項11】
請求項1、2、3、4、5、6、7又は9に記載のポリビニルアルコール樹脂フィルムを用いた水溶性フィルム。
【請求項12】
洗剤、農薬、又は殺菌剤を、ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムであり、該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である、ポリビニルアルコール樹脂フィルムを用いた水溶性フィルムにより包装した包装体。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
1 特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年11月16日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由A1(甲第A1-1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1及び4は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A1-1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし12は、甲第A1-1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由A2(甲第A5号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1及び4は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし12は、甲第A5号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由A3(明確性要件)
本件特許の請求項1、2及び4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 14Cの半減期が5730年であるから、5730年を1クール半減期すれば、たとえ石油が100万年前に生成されたとしても、100万年は100万÷5730=約175クール半減期であり、(1/2)175は約10-53であり、一方、1千万年は1千万÷5730=約1742クール半減期であり、(1/2)1742は約10-526であって、何れでも限りなく零に近いから石油由来のポリビニルアルコールの14Cの量は無視できる程度である。
そうすると、本件特許発明1の「該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である」という構成中、全炭素が全て生物由来であったとしても大気中と同じく1.2×10-10%(即ち、1.2×10-12)を超えることはあり得ないはずであるのに、上限の記載がないのは、不明確である。
イ 本件特許発明1の「該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である」という数値限定は、石油由来のポリビニルアルコールの14Cの量は無視できるから、この14C/Cの下限値1.0×10-14となるためには、1-{(1.0×10-14)/1.2×10-12}=1-1/120=0.9917=99.17%が化石資源由来で、0.83%が生物資源由来ということになるが、このような僅か0.83%という1%にも満たない生物資源由来の微量な14C存在比を特定したとしても、数値限定に臨界的意義を有しないので、この数値限定による発明特定事項が不明確である。
ウ 0.83%しかない生物資源由来のポリビニルアルコールが、C3植物由来であれば、本件特許発明2の「炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cが-20‰以上である」という構成のようにδ13Cが-20‰以上となることが、あり得ないから、内部矛盾を生じており、不明確である。
エ 本件特許発明4の「前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の全部又は一部が、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)である」という構成は、「ポリビニルアルコール樹脂(A)の全部又は一部」と「炭素の全部又は一部」とが交錯しており、矛盾しているから、不明確である。
(4)証拠方法
甲第A1-1号証:米国特許出願公開第2011/0287204号明細書
(甲第A1―2号証として、甲第A1-1号証の訳文が提出されている。)
甲第A2号証:国際公開第2011/136238号
甲第A3号証:国際公開第2020/004608号
甲第A4号証:特開2017-78166号公報
甲第A5号証:https://sugar.alic.go.jp/japan/example_03/example0808a.htm、最終更新日2010年3月6日、独立行政法人農畜産業振興機構
甲第A6号証:「AMSを用いた炭素14測定によるバイオプラスチックのバイオマス由来度の評価」、 Netsu Sokutei、Vol.39、No.4、p143-150(2012)
甲第A7号証:科学大辞典 昭和60年3月5日丸善株式会社発行、第1321頁
甲第A8号証:カーク・オスマー化学大辞典 昭和63年9月20日丸善株式会社発行、第1127頁
甲第A9号証:化学大辞典5 昭和55年9月15日縮刷版第24刷 共立出版株式会社発行、第312-314頁
甲第A10号証:「ポリビニルアルコールの構造と反応」、高分子、Vol.14、NO.164、p1084-1087
甲第A10号証は、令和5年6月16日に提出された意見書に添付されたものである。また、証拠の表記は、特許異議申立書A及び上記意見書の記載におおむね従った。以下、順に「甲A1-1」のようにいう。
2 特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年11月18日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由B1(甲第B1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし4、6及び10ないし12は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし12は、甲第B1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由B2(甲第B2号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし12は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由B3(甲第B3号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし12は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B3号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(4)申立理由B4(甲第B4号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし12は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B4号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(5)申立理由B5(甲第B5号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし11は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B5号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(6)申立理由B6(甲第B6号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし12は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B6号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(7)申立理由B7(甲第B12号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし11は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B12号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(8)申立理由B8(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 「14C/Cが1.0×10-14以上」という範囲は生物由来のエチレンを原料(酢酸ビニル、エチレン)として「ごく少量」使用するだけでも充足する極めて広範な範囲であり、「二酸化炭素を増加させない、あるいは増加量が少ない」というレベルで二酸化炭素の低減に寄与するものとは認められない(発明全体において当該課題を実現できない)。
イ 「PVAフィルムの製造者を、容易かつ確実に判別する方法を提供する」という課題についても、上記アのとおり、「14C/Cが1.0×10-14以上」という範囲は極めて少量であり、測定精度等の観点からバイオ原料を使用しているか否かを全範囲において確認できるものとも認められない(発明全体において当該課題を実現できない)。
(9)申立理由B9(明確性要件)
本件特許の請求項8ないし12に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明8では、「1,2-グリコール結合の含有量が0.2モル%以上、2.0モル%未満である」ことを規定するが、当該含有量をどのようにして測定するのか規定されていない。しかし、「1、2-グリコール結合の含有量」は、その測定(分析)方法によっては値が変動するもの(そしてそのことが技術常識)であり、測定(分析)方法が決まらなければ、一義的に「1,2-グリコール結合の含有量」を確定できない。
なお、本件特許明細書の実施例(【0090】)には、NMR測定条件について記載があるが、あくまでも実施例における測定条件に過ぎず、本件特許発明8における測定条件ではないし、仮に、NMR法を利用した上記測定条件であっても、【0090】に記載の無いその他の条件をどのように設定するかによって、値は変動する。
従って、本件特許発明8、さらには、請求項8を引用する本件特許発明9ないし12は明確でない。
(10)証拠方法
甲第B1号証:米国特許出願公開第2011/0287204号明細書
甲第B2号証:国際公開第2020/004608号
甲第B3号証:特開2001-253993号公報
甲第B4号証:国際公開第2011/132592号
甲第B5号証:国際公開第2012/063954号
甲第B6号証:https://sugar.alic.go.jp/japan/example 03/example0808a.htm、「砂糖の多目的利用について~発酵で得られる中間化学原料への利用」、最終更新日2010年3月6日、独立行政法人農畜産業振興機構
甲第B7号証:特開2017-219428号公報
甲第B8号証:国際公開第2011/136238号
甲第B9号証:コンバーテック(2009年8月)63~67頁
甲第B10号証:プラスチックエージ(2003年 Vol.49)、101~106頁
甲第B11号証:バイオマス・ニッポン総合戦略(平成18年3月31日策定)
甲第B12号証:特開平3-175404号公報
甲第B13号証:https://www.a-yoshitomi.co.jp/catalog-1.html、重合開始剤
甲第B14号証:ポバール 改訂新版 193~194頁(発行日 1989年10月1日)
甲第B14号証は、令和5年6月16日に提出された意見書に添付されたものである。また、証拠の表記は、特許異議申立書B及び上記意見書の記載におおむね従った。以下、順に「甲B1」のようにいう。
第5 取消理由の概要
令和5年2月24日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。
1 取消理由1(甲A1-1(甲B1と同じ文献である。)に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A1-1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、甲A1-1に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由1は、申立理由A1を包含し、申立理由B1のうちの本件特許発明1ないし4に対する新規性及び本件特許発明1ないし12に対する進歩性とおおむね同旨である。
2 取消理由2(甲A5(甲B6と同じ文献である。)に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A5に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由2は、申立理由A2のうちの進歩性及び申立理由B6とおおむね同旨である。
第6 取消理由についての当審の判断
本件訂正により請求項8は削除され、請求項8に記載された事項が請求項1に追加されたため、本件特許の請求項8に対する取消理由は本件特許の請求項1に対する取消理由として扱う。
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲A1-1に記載された事項等
ア 甲A1-1に記載された事項
甲A1-1(甲B1と同じ文献である。)には、「再生可能材料からのエチレン/カルボン酸ビニルエステルコポリマーの製造、得られたコポリマーおよび使用法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲A1-1は外国語文献のため訳文を摘記する。また、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。
・「[0004] 本発明による方法は、化石起源の出発原料を少なくとも部分的に省き、それらを再生可能な出発原料で置き換えることを可能にする。」
・「[0006] 本発明の主題は、エチレンと、少なくとも1種のカルボン酸ビニルエステルとのコポリマーであって、エチレンが少なくとも部分的に再生可能な出発原料から得られるコポリマーである。」
・「[0139] 本発明によるコポリマーは、好ましくは、40~99重量%のエチレンおよび1~60%のカルボン酸ビニルエステルを含む。より好ましくは、55~90重量%のエチレンおよび10~45重量%のカルボン酸ビニルエステルである。」
・「[0143] 本発明の特定の形態によれば、コポリマーは部分的または完全にケン化される、すなわち、コポリマーのビニルエステル官能基が加水分解されアルコール官能基を形成する。このケン化は、当業者に知られている技術によって行うことができる。エチレン/酢酸ビニル(EVA)コポリマーのケン化を行うと、ケン化されたエチレン/酢酸ビニル(EVOH)コポリマーが得られる。すなわち、コポリマーの酢酸ビニル官能基の少なくとも一部が反応して、ビニルアルコールを形成する。
[0144] これらのケン化されたコポリマーは、ガスに対し優れたバリア特性を有し、多層構造、特に食品包装において有利に使用することができる。」
・「[0148] コポリマーからフィルム、例えばソーラーパネル用の封入フィルム、農業用フィルム、包装用フィルム、熱接着フィルム、保護フィルムを形成することも可能である。」
・「[請求項1] エチレンと少なくとも1種のカルボン酸ビニルエステルとのコポリマーであって、エチレンが少なくとも部分的に再生可能な出発原料から得られるコポリマー。」
・「[請求項6] 部分的または完全にケン化されている、請求項1に記載のコポリマー。」
・「[請求項7] 少なくとも0.24×10-10重量%の14Cを含有し、14Cのこの量が標準ASTM D6866-06に記載された方法のいずれか1つによって決定される、請求項1に記載のコポリマー。」
・「[請求項17] ソーラーパネル用の封入フィルム、可撓性カバー、石油または燃料中の添加剤、防音体、可撓性部品、パイプ、ボトル、電気ケーブルシース、インク、織布、不織布、アスファルトまたはホットメルト接着剤を含む、請求項1に記載のコポリマーの使用。」
イ 甲A1-1に記載された発明
甲A1-1に記載された事項を、特に請求項1、6、7及び17に関して整理すると、甲A1-1には次の発明(以下、「甲A1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲A1発明>
「少なくとも部分的に再生可能な出発原料から得られるエチレンと少なくとも1種のカルボン酸ビニルエステルとのコポリマーであって、部分的または完全にケン化されたコポリマーを使用した、少なくとも0.24×10-10重量%の14Cを含有する、ソーラーパネル用の封入フィルム。」
(2)甲A5に記載された事項等
ア 甲A5に記載された事項
甲A5(甲B6と同じ文献である。)には、おおむね次の事項が記載されている。
・「
[図:0001403660000001.jpg]
[図:0001403660000002.jpg]
[図:0001403660000003.jpg]
[図:0001403660000004.jpg]
[図:0001403660000005.jpg]
[図:0001403660000006.jpg]
[図:0001403660000007.jpg]
」(第1ないし7ページ)
イ 甲A5に記載された発明
甲A5に記載された事項を、特に第2及び3ページに記載された事項に関して整理すると、甲A5には次の発明(以下、「甲A5発明」という。)が記載されていると認める。
<甲A5発明>
「バイオエタノールから生産されたエチレン及び酢酸を原料として製造されたポリビニルアルコール樹脂。」
2 取消理由1(甲A1-1に基づく新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲A1発明を対比する。
甲A1発明における「少なくとも部分的に再生可能な出発原料から得られるエチレンと少なくとも1種のカルボン酸ビニルエステルとのコポリマーであって、部分的または完全にケン化されたコポリマー」は本件特許発明1における「ポリビニルアルコール樹脂(A)」に相当する。
甲A1発明における「少なくとも0.24×10-10重量%の14Cを含有する」は本件特許発明1における「該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である」に相当する。
甲A1-1発明における「ソーラーパネル用の封入フィルム」は本件特許発明1における「フィルム」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムであり、該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である、ポリビニルアルコール樹脂フィルム。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A1-1>
本件特許発明1においては、「前記ポリビニルアルコール樹脂(A)がポリビニルエステルに由来するものであり、前記ポリビニルエステルの全単量体単位に対する、ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマー単位の含有量が15モル%以下であり」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A1-2>
本件特許発明1においては、「前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の1,2-グリコール結合の含有量が0.2モル%以上、2.0モル%未満である」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
そこで、相違点A1-1について検討する。
甲A1-1には、甲A1発明が相違点A1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有することは記載されていないから、相違点A1-1は実質的な相違点である。
また、甲A1-1の[0139]の「本発明によるコポリマーは、好ましくは、40~99重量%のエチレンおよび1~60%のカルボン酸ビニルエステルを含む。より好ましくは、55~90重量%のエチレンおよび10~45重量%のカルボン酸ビニルエステルである。」という記載によると、甲A1発明において、相違点A1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けがあるとはいえないし、他の証拠にもない。
したがって、甲A1発明において、甲A1-1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点A1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人A及びBの主張について
特許異議申立人Aの令和5年6月16日に提出された意見書における主張及び特許異議申立人Bの令和5年6月16日に提出された意見書における主張について検討する。
(ア)特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aは、令和5年6月16日に提出された意見書において、甲A1発明において、他のモノマー単位の含有量を15モル%以下とすることは排斥されていないことは明らかであり、甲A1発明に甲A3の【請求項2】の「ポリビニルアルコールがさらにエチレン単位を含有し、その含有率が1~12モル%」を適用する動機付けがある旨主張する(上記意見書第3ないし5ページ)。
そこで、検討する。
甲A1-1の[0139]の記載からみて、甲A1発明は「40~99重量%」の「エチレン」を含むことが好ましいとされるものであるから、甲A1発明において、「エチレン」の含有量を「15モル%以下」とすることは排斥されていないとしても、そうする動機付けがあるとはいえないし、甲A1発明において、甲A3の【請求項2】の「ポリビニルアルコールがさらにエチレン単位を含有し、その含有率が1~12モル%」を適用する動機付けがあるともいえないし、他の証拠からも、甲A1発明において、「エチレン」の含有量を「15モル%以下」とすることは動機付けられない。
したがって、特許異議申立人Aの上記主張は採用できない。
(イ)特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bは、令和5年6月16日に提出された意見書において、甲A1発明には、エチレン単位(本件特許発明1における他のモノマー単位に相当)の含有量が40質量%未満のものを否定しているわけではなく、ましてや、阻害要因などではありえず、また、フィルム用途で、他のモノマー単位が15モル%以下のものは周知である(甲B2の請求項2、【0022】及び実施例等)であるから、甲A1発明において、他のモノマー単位の含有量を15モル%以下とすることは容易に想到し得たことである旨主張する(上記意見書第10及び11ページ)。
そこで、検討する。
甲A1-1の[0139]の記載からみて、甲A1発明は「40~99重量%」の「エチレン」を含むことが好ましいとされるものであるから、甲A1発明において、「エチレン」の含有量を「15モル%以下」とすることに対して阻害要因があるとはいえないものの、そうする動機付けがあるとはいえないし、甲A1発明において、甲B2に記載された周知技術を適用する動機付けがあるともいえない。
したがって、特許異議申立人Bの上記主張は採用できない。
エ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A1発明であるとはいえないし、甲A1発明並びに甲A1-1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲A1-1発明であるとはいえないし、甲A1発明並びに甲A1-1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明5ないし7及び9ないし11について
本件特許発明5ないし7及び9ないし11は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲A1発明並びに甲A1-1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明12について
ア 対比
本件特許発明12と甲A1発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムであり、該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である、ポリビニルアルコール樹脂フィルム。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A1-3>
本件特許発明12においては、「洗剤、農薬、又は殺菌剤を」、「ポリビニルアルコール樹脂フィルムを用いた水溶性フィルムにより包装した包装体」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
そこで、相違点A1-3について検討する。
甲A1-1の[0148]に「コポリマーからフィルム、例えばソーラーパネル用の封入フィルム、農業用フィルム、包装用フィルム、熱接着フィルム、保護フィルムを形成することも可能である。」と記載されているが、該記載における「農業用フィルム」は、特許権者から令和5年4月28日に提出された意見書に添付した乙第1号証(Amazon,co.jp:農業用フィルム-農業・園芸用資材:DIY・工具・ガーデン、https://www.amazin.co.jp/b?ie=UTF8&node=5842456051、令和5年4月26日出力、アマゾンジャパン合同会社)及び乙第2号証(農業用ビニールフィルム|農業用フィルム|三菱ケミカルアグリドリーム(株)、https://www.mc-agri.co.jp/agri_div/vinyl/、令和5年4月26日出力、三菱ケミカルアグリドリーム株式会社)によると、「洗剤、農薬、又は殺菌剤」を包装する「水溶性フィルム」であるとはいえないし、該記載における「包装用フィルム」が「洗剤、農薬、又は殺菌剤」を包装する「水溶性フィルム」であることが甲A1-1に記載されているともいえない。
また、甲A1発明における「ソーラーパネル用の封入フィルム」を「水溶性フィルム」とし、「洗剤、農薬、又は殺菌剤」を包装するために用いることは、他の証拠にも記載されていない。
したがって、甲A1発明において、甲A1-1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点A1-3に係る本件特許発明12の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明12は甲A1発明並びに甲A1-1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)取消理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし7及び9ないし12は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし7及び9ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由1によっては取り消すことはできない。
3 取消理由2(甲A5に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲A5発明を対比する。
甲A5発明における「バイオエタノールから生産されたエチレン及び酢酸を原料として製造されたポリビニルアルコール樹脂」は本件特許発明1における「ポリビニルアルコール樹脂(A)」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール樹脂(A)。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A5-1>
本件特許発明1においては、「ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルム」と特定されているのに対し、甲A5発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A5-2>
本件特許発明1においては、「該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である」と特定されているのに対し、甲A5発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A5-3>
本件特許発明1においては、「前記ポリビニルアルコール樹脂(A)がポリビニルエステルに由来するものであり、前記ポリビニルエステルの全単量体単位に対する、ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマー単位の含有量が15モル%以下であり」と特定されているのに対し、甲A5発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A5-4>
本件特許発明1においては、「前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の1,2-グリコール結合の含有量が0.2モル%以上、2.0モル%未満である」と特定されているのに対し、甲A5発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点A5-3について検討する。
甲A5には、甲A5発明において、相違点A5-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載があるとはいえないし、他の証拠にもない。
したがって、甲A5発明において、甲A5及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点A5-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人A及びBの主張について
特許異議申立人A及びBの令和5年6月16日に提出された意見書における主張について検討する。
(ア)特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aは、令和5年6月16日に提出された意見書において、甲A5発明には、他のモノマー単位の含有量を15モル%以下とするという構成の特定はないが、このような構成は、甲A1-1及びA3により当業者が容易に想到できるものである旨主張する(上記意見書第9ページ)。
そこで、検討する。
甲A1-1の[0139]には、「40~99重量%」の「エチレン」を含むことが好ましいことが記載されているから、甲A1-1の記載からは、甲A5発明において、「エチレン」の含有量を「15モル%以下」と少なくする動機付けがあるとはいえない。
また、甲A5発明に甲A3の【請求項2】の「ポリビニルアルコールがさらにエチレン単位を含有し、その含有率が1~12モル%」を適用する動機付けがあるともいえない。
したがって、特許異議申立人Aの上記主張は採用できない。
(イ)特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bは、令和5年6月16日に提出された意見書において、甲A5発明は、「ポリビニルエステルの全単量体単位に対する、ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマー単位の含有量が15モル%以下であり」において実質的に相違しないし、仮に相違するとしても、甲A5発明における「ポリビニルアルコール」として、ビニルエステルの単独重合体に代表されるような「ポリビニルエステルの全単量体単位に対する、ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマー単位の含有量が15モル%以下」のけん化物を選択することは、極めて容易に想到し得たことである旨主張する(上記意見書第2及び3ページ)。
そこで、検討する。
甲A5に、「ポリビニルエステルの全単量体単位に対する、ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマー単位の含有量が15モル%以下」とすることが記載されていない以上、甲A5発明は、「ポリビニルエステルの全単量体単位に対する、ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマー単位の含有量が15モル%以下であり」において実質的に相違しないとはいえない。
また、甲A5発明における「ポリビニルアルコール」として、ビニルエステルの単独重合体に代表されるような「ポリビニルエステルの全単量体単位に対する、ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマー単位の含有量が15モル%以下」のけん化物を選択することの動機付けとなる記載が、甲A5及び他の証拠にない以上、甲A5発明における「ポリビニルアルコール」として、ビニルエステルの単独重合体に代表されるような「ポリビニルエステルの全単量体単位に対する、ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマー単位の含有量が15モル%以下」のけん化物を選択することは、極めて容易に想到し得たことであるともいえない。
したがって、特許異議申立人Bの上記主張は採用できない。
エ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A5発明並びに甲A5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし7及び9ないし11について
本件特許発明2ないし7及び9ないし11は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲A5発明並びに甲A5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明12について
ア 対比
本件特許発明12と甲A5発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール樹脂(A)。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A5-5>
本件特許発明12においては、「ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルム」と特定されているのに対し、甲A5発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A5-6>
本件特許発明12においては、「該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である」と特定されているのに対し、甲A5発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A5-7>
本件特許発明12においては、「ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルム」であり、「洗剤、農薬、又は殺菌剤を」、「ポリビニルアルコール樹脂フィルムを用いた水溶性フィルムにより包装した包装体」と特定されているのに対し、甲A5発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点A5-7について検討する。
甲A5には、甲A5発明において、相違点A5-7に係る本件特許発明12の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載があるとはいえないし、他の証拠にもない。
したがって、甲A5発明において、甲A5及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点A5-7に係る本件特許発明12の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明12は甲A5発明並びに甲A5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)取消理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし7及び9ないし12は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし7及び9ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由2によっては取り消すことはできない。
第7 取消理由に採用しなかった特許異議申立書A及びBに記載した申立ての理由について
取消理由に採用しなかった特許異議申立書A及びBに記載した申立ての理由は、次のとおりである。
・申立理由A2(甲A5に基づく新規性・進歩性)のうち本件特許発明1及び4に対する新規性
・申立理由A3(明確性要件)
・申立理由B1(甲B1に基づく新規性・進歩性)のうち本件特許発明6及び10ないし12に対する新規性
・申立理由B2(甲B2に基づく進歩性)
・申立理由B3(甲B3に基づく進歩性)
・申立理由B4(甲B4に基づく進歩性)
・申立理由B5(甲B5に基づく進歩性)
・申立理由B7(甲B12に基づく進歩性)
・申立理由B8(サポート要件)
・申立理由B9(明確性要件)
以下、申立理由A2(甲A5に基づく新規性・進歩性)のうちの本件特許発明1及び4に対する新規性、申立理由B1(甲B1に基づく新規性・進歩性)のうちの本件特許発明6及び10ないし12に対する新規性、申立理由B2(甲B2に基づく進歩性)、申立理由B3(甲B3に基づく進歩性)、申立理由B4(甲B4に基づく進歩性)、申立理由B5(甲B5に基づく進歩性)、申立理由B7(甲B12に基づく進歩性)、申立理由A3(明確性要件)、申立理由B9(明確性要件)及び申立理由B8(サポート要件)の順に検討する。
なお、本件訂正により請求項8は削除され、請求項8に記載された事項が請求項1に追加されたため、本件特許の請求項8に係る特許に対する申立ては、本件特許の請求項1に係る特許及び請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項に係る特許に対する申立てとして扱う。
1 申立理由A2(甲A5に基づく新規性・進歩性)のうちの本件特許発明1及び4に対する新規性について
上記第6 3(1)のとおり、本件特許発明1と甲A5発明の間には相違点A5-1ないしA5-4があることから、本件特許発明1は甲A5発明であるとはいえない。
また、本件特許発明4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲A5発明であるとはいえない。
したがって、本件特許発明1及4は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由A2のうちの本件特許発明1及び4に対する新規性によっては取り消すことはできない。
2 申立理由B1(甲B1に基づく新規性・進歩性)のうちの本件特許発明6及び10ないし12に対する新規性について
上記第6 2(1)のとおり、本件特許発明1は、甲A1発明、すなわち甲B1に記載された発明であるとはいえないところ、本件特許発明6、10及び11は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲B1に記載された発明であるとはいえない。
また、上記第6 2(4)のとおり、本件特許発明12と甲A1発明の間には相違点A1-3があることから、本件特許発明12は、甲A1発明、すなわち甲B1に記載された発明であるとはいえない。
したがって、本件特許発明6及び10ないし12は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項6及び10ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由B1のうちの本件特許発明6及び10ないし12に対する新規性によっては取り消すことはできない。
3 申立理由B2(甲B2に基づく進歩性)について
(1)甲B2に記載された発明
甲B2に記載された事項を、特に請求項1、2及び4に関して整理すると、甲B2には、次の発明(以下、「甲B2発明」という。)が記載されていると認める。
<甲B2発明>
「アルコキシル基含有率0.0005~1モル%、けん化度85モル%以上のポリビニルアルコール及びノニオン系界面活性剤を含有し、前記ポリビニルアルコール100質量部に対する前記ノニオン系界面活性剤の含有量が0.001~1質量部であり、前記ポリビニルアルコールがさらにエチレン単位を含有し、その含有率が1~12モル%であり、前記ポリビニルアルコールの1,2-グリコール結合の含有量が0.2~1.5モル%である、ポリビニルアルコールフィルム。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲B2発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムであり、
前記ポリビニルアルコール樹脂(A)がポリビニルエステルに由来するものであり、前記ポリビニルエステルの全単量体単位に対する、ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマー単位の含有量が15モル%以下であり、
前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の1,2-グリコール結合の含有量が0.2モル%以上、2.0モル%未満である、ポリビニルアルコール樹脂フィルム。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B2-1>
本件特許発明1においては、「該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である」と特定されているのに対し、甲B2発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点B2-1について検討する。
甲B2には、甲B2発明において、相違点B2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載があるとはいえないし、他の証拠にもない。
したがって、甲B2発明において、甲B2及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点B2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bは、特許異議申立書Bにおいて、甲B1及びB6ないしB12を挙げて、ポリビニルアルコールの原料となる、エチレン、カルボン酸ビニルエステル(酢酸ビニル)等を生物由来のものとすることは周知であり、本件特許の出願時において、化石原料の枯渇や二酸化炭素発生等の課題を解決すべく、生物由来のものを使用する動機は非常に強いといえ、とりわけ、本件特許の出願時において、国策として生物由来のものを使用する流れが強くできており、しかも、ポリビニルアルコールは、プラスチックの中でも、生分解性のプラスチックであり、生物由来のものとする要求(動機)はより一層強いといえるから、甲B2発明において、ポリビニルアルコールとして、生物由来のものを使用し、「該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である」とすることは極めて容易に想到し得たことといえる旨主張する(特許異議申立書B第87ページ)。
そこで、検討する。
甲B2には、ポリビニルアルコールの原料を生物由来のものとすること及び「該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である」とすることは記載も示唆もされていない。
また、甲B2発明において、ポリビニルアルコールの原料を生物由来のものとした場合に、甲B2発明における発明の課題を解決し、その効果を奏するものとなるかは不明である。
そうすると、特許異議申立人Bが主張する上記事情を考慮しても、甲B2発明において、ポリビニルアルコールとして、生物由来のものを使用し、「該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である」とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、特許異議申立人Bの上記主張は採用できない。
エ まとめ
したがって、本件特許発明1は甲B2発明並びに甲B2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし7及び9ないし11について
本件特許発明2ないし7及び9ないし11は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲B2発明並びに甲B2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明12について
ア 対比
本件特許発明12と甲B2発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルム。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B2-2>
本件特許発明12においては、「該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である」と特定されているのに対し、甲B2発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B2-3>
本件特許発明12においては、「洗剤、農薬、又は殺菌剤を」、「ポリビニルアルコール樹脂フィルムを用いた水溶性フィルムにより包装した包装体」と特定されているのに対し、甲B2発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
そこで、相違点B2-2について検討する。
甲B2には、甲B2発明において、相違点B2-2に係る本件特許発明12の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載があるとはいえないし、他の証拠にもない。
したがって、甲B2発明において、甲B2及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点B2-2に係る本件特許発明12の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明12は甲B2発明並びに甲B2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由B2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし7及び9ないし12は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし7及び9ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由B2によっては取り消すことはできない。
4 申立理由B3(甲B3に基づく進歩性)について
(1)甲B3に記載された発明
甲B3に記載された事項を、特に請求項1に関して整理すると、甲B3には、次の発明(以下、「甲B3発明」という。)が記載されていると認める。
<甲B3発明>
「ポリビニルアルコール系樹脂に、ノニオン系界面活性剤を含有せしめてなるポリビニルアルコール系フィルム。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲B3発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルム。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B3-1>
本件特許発明1においては、「該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である」と特定されているのに対し、甲B3発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B3-2>
本件特許発明1においては、「前記ポリビニルアルコール樹脂(A)がポリビニルエステルに由来するものであり、前記ポリビニルエステルの全単量体単位に対する、ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマー単位の含有量が15モル%以下であり」と特定されているのに対し、甲B3発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B3-3>
本件特許発明1においては、「前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の1,2-グリコール結合の含有量が0.2モル%以上、2.0モル%未満である」と特定されているのに対し、甲B3発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点B3-1について検討する。
甲B3には、甲B3発明において、相違点B3-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載があるとはいえないし、他の証拠にもない。
したがって、甲B3発明において、甲B3及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点B3-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bは、特許異議申立書Bにおいて、上記3(2)ウと同様の主張をする(特許異議申立書B第91ページ)が、該主張についても、上記3(2)ウと同様に採用できない。
エ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲B3発明並びに甲B3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし7及び9ないし11について
本件特許発明2ないし7及び9ないし11は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲B3発明並びに甲B3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明12について
ア 対比
本件特許発明12と甲B3発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルム。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B3-4>
本件特許発明12においては、「該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である」と特定されているのに対し、甲B3発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B3-5>
本件特許発明12においては、「洗剤、農薬、又は殺菌剤を」、「ポリビニルアルコール樹脂フィルムを用いた水溶性フィルムにより包装した包装体」と特定されているのに対し、甲B3発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
そこで、相違点B3-4について検討する。
甲B3には、甲B3発明において、相違点B3-4に係る本件特許発明12の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載があるとはいえないし、他の証拠にもない。
したがって、甲B3発明において、甲B3及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点B3-4に係る本件特許発明12の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明12は甲B3発明並びに甲B3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由B3についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし7及び9ないし12は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし7及び9ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由B3によっては取り消すことはできない。
5 申立理由B4(甲B4に基づく進歩性)について
(1)甲B4に記載された発明
甲B4に記載された事項を、特に請求項1に関して整理すると、甲B4には、次の発明(以下、「甲B4発明」という。)が記載されていると認める。
<甲B4発明>
「ポリビニルアルコール系重合体(A)、および当該ポリビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して界面活性剤(B)を0.001~1質量部含むポリビニルアルコール系重合体フィルムであって、水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0~8.0であるポリビニルアルコール系重合体フィルム。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲B4発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルム。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B4-1>
本件特許発明1においては、「該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である」と特定されているのに対し、甲B4発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B4-2>
本件特許発明1においては、「前記ポリビニルアルコール樹脂(A)がポリビニルエステルに由来するものであり、前記ポリビニルエステルの全単量体単位に対する、ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマー単位の含有量が15モル%以下であり」と特定されているのに対し、甲B4発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B4-3>
本件特許発明1においては、「前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の1,2-グリコール結合の含有量が0.2モル%以上、2.0モル%未満である」と特定されているのに対し、甲B4発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点B4-1について検討する。
甲B4には、甲B4発明において、相違点B4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載があるとはいえないし、他の証拠にもない。
したがって、甲B4発明において、甲B4及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点B4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bは、特許異議申立書Bにおいて、上記3(2)ウと同様の主張をする(特許異議申立書B第95及び96ページ)が、該主張についても、上記3(2)ウと同様に採用できない。
エ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲B4発明並びに甲B4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし7及び9ないし11について
本件特許発明2ないし7及び9ないし11は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲B4発明並びに甲B4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明12について
ア 対比
本件特許発明12と甲B4発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルム。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B4-4>
本件特許発明12においては、「該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である」と特定されているのに対し、甲B4発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B4-5>
本件特許発明12においては、「洗剤、農薬、又は殺菌剤を」、「ポリビニルアルコール樹脂フィルムを用いた水溶性フィルムにより包装した包装体」と特定されているのに対し、甲B4発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
そこで、相違点B4-4について検討する。
甲B4には、甲B4発明において、相違点B4-4に係る本件特許発明12の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載があるとはいえないし、他の証拠にもない。
したがって、甲B4発明において、甲B4及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点B4-4に係る本件特許発明12の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明12は甲B4発明並びに甲B4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由B4についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし7及び9ないし12は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし7及び9ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由B4によっては取り消すことはできない。
6 申立理由B5(甲B5に基づく進歩性)について
(1)甲B5に記載された発明
甲B5に記載された事項を、特に[0105]に関して整理すると、甲B5には、次の発明(以下、「甲B5発明」という。)が記載されていると認める。
<甲B5発明>
「クラレ(株)より販売されている完全けん化ポリビニルアルコール樹脂(商品名:PVA124)の粉末を90℃の温水に溶解させて、固形分濃度10wt%のポリビニルアルコール樹脂水溶液を作製し、得られたポリビニルアルコール樹脂水溶液を離型処理が施されたPET基材上にリップコート法によって、およそ400μm厚で塗布し、50℃で10分乾燥した後、PET基材からポリビニルアルコール系樹脂フィルムを剥がし取り、さらに80℃で5分乾燥させて得たカールの無いポリビニルアルコール系樹脂フィルム。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲B5発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルム。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B5-1>
本件特許発明1においては、「該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である」と特定されているのに対し、甲B5発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B5-2>
本件特許発明1においては、「前記ポリビニルアルコール樹脂(A)がポリビニルエステルに由来するものであり、前記ポリビニルエステルの全単量体単位に対する、ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマー単位の含有量が15モル%以下であり」と特定されているのに対し、甲B5発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B5-3>
本件特許発明1においては、「前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の1,2-グリコール結合の含有量が0.2モル%以上、2.0モル%未満である」と特定されているのに対し、甲B5発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点B5-1について検討する。
甲B5には、甲B5発明において、相違点B5-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載があるとはいえないし、他の証拠にもない。
したがって、甲B5発明において、甲B5及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点B5-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bは、特許異議申立書Bにおいて、上記3(2)ウと同様の主張をする(特許異議申立書B第100及び101ページ)が、該主張についても、上記3(2)ウと同様に採用できない。
エ まとめ
したがって、本件特許発明1は甲B5発明並びに甲B5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし7及び9ないし11について
本件特許発明2ないし7及び9ないし11は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲B5発明並びに甲B5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由B5についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし7及び9ないし11は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし7及び9ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由B5によっては取り消すことはできない。
7 申立理由B7(甲B12に基づく進歩性)について
(1)甲B12に記載された発明
甲B12に記載された事項を、特に請求項1及び第2ページ左下欄第7ないし14行に関して整理すると、甲B12には、次の発明(以下、「甲B12発明」という。)が記載されていると認める。
<甲B12発明>
「1,2-グリコール結合量が0.5モル%以上、1.5モル%以下のポリビニルアルコール系重合体からなる一軸延伸フィルムを基材とする偏光フィルム。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲B12発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール樹脂(A)を含むポリビニルアルコール樹脂フィルムであり、
前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の1,2-グリコール結合の含有量が0.2モル%以上、2.0モル%未満である、ポリビニルアルコール樹脂フィルム。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B12-1>
本件特許発明1においては、「該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である」と特定されているのに対し、甲B12発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B12-2>
本件特許発明1においては、「前記ポリビニルアルコール樹脂(A)がポリビニルエステルに由来するものであり、前記ポリビニルエステルの全単量体単位に対する、ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマー単位の含有量が15モル%以下であり」と特定されているのに対し、甲B12発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点B12-1について検討する。
甲B12には、甲B12発明において、相違点B12-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載があるとはいえないし、他の証拠にもない。
したがって、甲B12発明において、甲B12及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点B12-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bは、特許異議申立書Bにおいて、上記3(2)ウと同様の主張をする(特許異議申立書B第108及び109ページ)が、該主張についても、上記3(2)ウと同様に採用できない。
エ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲B12発明並びに甲B12及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし7及び9ないし11について
本件特許発明2ないし7及び9ないし11は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲B12発明並びに甲B12及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由B7についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし7及び9ないし11は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし7及び9ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由B7によっては取り消すことはできない。
8 申立理由A3(明確性要件)及び申立理由B9(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項1ないし7及び9ないし12の記載は、上記第3のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
したがって、本件特許発明1ないし7及び9ないし12に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)特許異議申立人A及びBの主張について
特許異議申立人Aの申立理由A3における主張及び特許異議申立人Bの申立理由B9について検討する。
ア 申立理由A3における主張について
(ア)申立理由A3のアの主張について
本件特許発明1の「該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上であり」という発明特定事項は、単に、「炭素14(14C)の存在比率14C/C」の下限を特定しているだけであり、上限の特定がないとしても、その範囲は明確であるから、本件特許発明1は明確である。
したがって、申立理由A3のアの主張は採用できない。
(イ)申立理由A3のイの主張について
本件特許発明1の「該ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の炭素14(14C)の存在比率14C/Cが1.0×10-14以上である」という発明特定事項は、単に、「炭素14(14C)の存在比率14C/C」の下限を特定しているだけであり、仮に、「1.0×10-14」という数値に臨界的意義がなかったとしても、その範囲は明確であるから、本件特許発明1は明確である。
したがって、申立理由A3のイの主張は採用できない。
(ウ)申立理由A3のウの主張について
本件特許発明2の「炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cが-20‰以上である」という発明特定事項は、単に、「炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13C」の下限を特定しているだけであり、その範囲は明確であるから、本件特許発明2は明確である。また、内部矛盾を生じているともいえない。
したがって、申立理由A3のウの主張は採用できない。
(エ)申立理由A3のエの主張について
本件特許発明4の「前記ポリビニルアルコール樹脂(A)の全部又は一部が、炭素の全部又は一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)である」という発明特定事項における「ポリビニルアルコール樹脂(A)の全部又は一部」と「炭素の全部又は一部」という記載は、次の4つの場合を意味するものである。
・ポリビニルアルコール樹脂(A)の全部が、炭素の全部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)である。
・ポリビニルアルコール樹脂(A)の全部が、炭素の一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)である。
・ポリビニルアルコール樹脂(A)の一部が、炭素の全部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)である。
・ポリビニルアルコール樹脂(A)の一部が、炭素の一部が生物由来のエチレン(Bb)を由来とするポリビニルアルコール樹脂(Ab)である。
そして、それぞれの場合において、「全部」と「一部」という用語が交錯しているとはいえないし、矛盾しているともいえない。
したがって、申立理由A3のエの主張は採用できない。
イ 申立理由B9における主張について
本件特許発明1で特定される「1,2-グリコール結合の含有量が0.2モル%以上、2.0モル%未満である」という発明特定事項に関して、請求項1に「1,2-グリコール結合の含有量」の測定方法の記載がないとしても、本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0089】及び【0090】に「1,2-グリコール結合の含有量」の測定方法が記載されていることから、当業者であれば、上記【0089】及び【0090】に記載された「1,2-グリコール結合の含有量」の測定方法で測定するものと理解するし、上記【0089】及び【0090】に記載されていない条件については当業者の技術常識で適宜補うものである。
したがって、本件特許発明1は明確であるし、請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし7及び9ないし11も明確である。
よって、申立理由B9における主張は採用できない。
(4)申立理由A3及びB9についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし7及び9ないし12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A3及びB9によっては取り消すことはできない。
9 申立理由B8(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
他方、発明の詳細な説明の【0011】の「そこで、本発明は、第一に、生分解処理あるいは焼却処理して二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させない、あるいは増加量が少ないPVAを用いたPVAフィルムを提供することを目的とする。」という記載によると、本件特許発明1ないし7及び9の解決しようとする課題は、「生分解処理あるいは焼却処理して二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させない、あるいは増加量が少ないPVAを用いたPVAフィルム」を提供することであり、本件特許発明10の解決しようとする課題は、該「PVAフィルム」を用いた「光学フィルム」を提供することであり、本件特許発明11の解決しようとする課題は、該「PVAフィルム」を用いた「水溶性フィルム」を提供することであり、本件特許発明12の解決しようとする課題は、該「水溶性フィルム」により包装した「包装体」を提供することである(以下、総称して「発明の課題」という。)
そして、発明の詳細な説明の【0013】及び【0038】には、本件特許発明1ないし7及び9ないし12に対応する記載がある。
また、発明の詳細な説明の【0005】には「特に植物は、地球環境内で循環する二酸化炭素を吸収し、二酸化炭素と水とを原料とする光合成反応を行い、有機体として同化・固定化する生物であることから、炭素源として注目されている。例えば、サトウキビやトウモロコシ等の植物原料から抽出する糖の発酵物又はセルロース発酵物からアルコール成分、特にエチルアルコールを蒸留分離し、その脱水反応によりアルケンであるエチレンを得ることができる。この生物由来のエチレン(以下、バイオエチレンと記することがある)を原料としてビニルエステルモノマー(以下、バイオビニルエステルモノマーと記することがある)を合成し、このバイオビニルエステルモノマーを重合させて得られるポリビニルエステルをけん化することにより得られるPVA(以下、バイオPVAと記することがある)を製造すれば、このバイオPVAを生分解処理あるいは焼却処理して二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させることはなく、地球温暖化の原因となる事はない。」と記載され、同【0016】には「本発明のPVAフィルムは、ポリビニルエステルのけん化物であるPVA(A)を含み、当該PVA(A)を構成する全炭素中の14Cの存在比率14C/C(以下、14C/Cと記することがある)が1.0×10-14以上である。全炭素とは全ての炭素の同位体を合算したものであり、14C/Cとは全炭素に対する14Cの比である。14C/Cが1.0×10-14未満である場合、ASTM D6866に準拠した測定方法の測定下限に近くなり、精度の良い測定が困難になり、PVAフィルムに含まれるPVA(A)がバイオPVAであるかの判別が困難になる。また14C/Cが小さいということは、PVA(A)を製造する際の、生物由来原料の使用割合が少ないことを示しており、地球環境内に存在する二酸化炭素の増加量の削減効果が不十分となる。」と記載されている。
そうすると、当業者は、「ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する全炭素中の14Cの存在比率14C/Cが1.0×10-14以上」の「ポリビニルアルコール樹脂フィルム」、該「ポリビニルアルコール樹脂フィルム」を用いた「光学フィルム」、該「ポリビニルアルコール樹脂フィルム」を用いた「水溶性フィルム」及び該「水溶性フィルム」により包装した「包装体」は、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし7及び9は、発明の課題を解決できると認識できる上記「ポリビニルアルコール樹脂フィルム」をさらに限定したものであり、本件特許発明10は、発明の課題を解決できると認識できる上記「光学フィルム」をさらに限定したものであり、本件特許発明11は、発明の課題を解決できると認識できる上記「水溶性フィルム」をさらに限定したものであり、本件特許発明12は、発明の課題を解決できると認識できる上記「包装体」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし7及び9ないし12は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえ、本件特許発明1ないし7及び9ないし12に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bの申立理由B8における主張について検討する。
ア 申立理由B8のアについて
仮に、「14C/Cが1.0×10-14以上」という範囲が生物由来のエチレンを原料(酢酸ビニル、エチレン)として「ごく少量」使用するだけでも充足する極めて広範な範囲であるとしても、生物由来のエチレンを原料として使用しないものと比べれば、多少は二酸化炭素の低減に寄与するものであり、発明の課題を解決できることは当業者に明らかである。
したがって、申立理由B8のアの主張は採用できない。
イ 申立理由B8のイについて
本件特許発明1ないし7及び9ないし12の発明の課題は、上記(2)のとおり、「生分解処理あるいは焼却処理して二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させない、あるいは増加量が少ないPVAを用いたPVAフィルム」を提供することであり、「PVAフィルムの製造者を、容易かつ確実に判別する方法を提供する」ことではない。
したがって、申立理由B8のイの主張は発明の課題の認定から誤っており、採用できない。
(4)申立理由B8についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし7及び9ないし12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由B8によっては取り消すことはできない。
第8 結語
以上のとおり、本件特許発明1ないし7及び9ないし12に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし7及び9ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項8に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人A及びBによる請求項8に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-701128