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特許異議申立

2022-701110

塗装缶

審判番号
2022-701110
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-174330
登録番号
7066801
請求日
2022年11月14日
審決日
2024年05月14日
公報発行日
2024年08月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】アルテミラ製缶株式会社
  • 【権利者代理人】青山 正和
  • 【異議申立人】宮口 聡
審判長/審判官
  • 審判長 菊地 則義
  • 審判官 門前 浩一
  • 審判官 瀬下 浩一
分類
P1651.113-YAA(B05D) / P1651.121-YAA(B05D) / P1651.537-YAA(B05D) / P1651.55 -YAA(B05D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第113条第4号、特許法第113条第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第113条第1号、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7066801号発明「塗装缶」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7066801号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第7066801号の請求項1に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7066801号の請求項1の発明に係る特許についての出願は、平成28年4月8日の出願に係る特願2016-78326号の一部を、令和2年10月16日に新たな特許出願としたものであって、令和4年5月2日にその特許権の設定登録(請求項の数1)がなされ、同年同月13日にその特許掲載公報が発行されたものである。 その後、令和4年11月14日に特許異議申立人である宮口 聡(以下「申立人」ともいう。)によって、請求項1(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、当審は、令和5年3月7日付けで取消理由を通知し(発送は同年同月10日)、この取消理由通知に対し、特許権者は、その指定期間内である同年4月24日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正の内容を「本件訂正」という。)を行った。当審は、同年6月6日付けで申立人に訂正請求があった旨を通知し(発送は同年同月9日)、この通知に対し、申立人は、その指定期間内である同年7月7日に意見書を提出した。 第2 本件訂正請求について 1 請求の趣旨 本件訂正の請求の趣旨は、「特許第7066801号の特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求める。」というものである。 2 本件訂正 (1)本件訂正は、次の訂正事項1からなるものである。下線は、訂正箇所を示す。 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記重ね塗り状態の全体の塗膜は、その塗布量が65mg/dm2以上88mg/dm2以下であり、」と記載されているのを「前記重ね塗り状態の全体の塗膜は、ポリエステル系溶剤塗料、アクリル系水性塗料、アクリル系水性タクタイル塗料のうちのいずれかからなり、その塗布量が65mg/dm2以上88mg/dm2以下であり、」と訂正する。 (2)一群の請求項について 本件特許は、請求項1のみからなるものであり、訂正事項1は、請求項1に係るものであるから、本件訂正は、特許法120条の5第4項に規定する請求項ごとに請求されたものである。 3 訂正要件についての判断 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的について 訂正事項1は、「前記重ね塗り状態の全体の塗膜」の材質について特定がなかったところを新たに「ポリエステル系溶剤塗料、アクリル系水性塗料、アクリル系水性タクタイル塗料のうちのいずれか」からなるものに特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の追加の有無について 本件特許の明細書(以下、「本件特許明細書」ともいう。)の段落【0035】に「次に、本実施形態の缶の塗装方法及び塗装缶について、その結果を確認するために実験を行った。 (塗装の周回数の違いによる塗料の転移量及び塗膜の塗布量の変化) 表1に示すように塗料の原液と希釈剤とを混合した4種類の塗料を調整した。また、表1の通常塗料とは、一般的なインキよりも小さい表面張力を有する塗料を示しており、溶剤塗料はポリエステル系塗料、水性塗料はアクリル系塗料である。一方、凹凸塗料とは、タクタイル塗装に用いられるような、一般的なインキと同じか、それよりも大きい表面張力を有する水性タクタイル塗料を示しており、アクリル系塗料である。」と記載されているとともに、段落【0037】にこの記載と整合する【表1】(摘記を省略するが、必要であれば、後記第6の2(2)を参照。)が記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 上記アのとおり、訂正事項1は、訂正前の請求項1の「前記重ね塗り状態の全体の塗膜」について、新たにその材質を規定することによってその範囲を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことが明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合する。 (2)独立特許要件について 本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項により読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は課されない。 (3)申立人の主張について 申立人は、意見書において、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合しないと主張する。この主張は、後記第6の3(4)において検討する「補正が新規事項であること」と同旨の主張である。そして、後記第6の3(4)で検討するように、申立人の主張は採用することはできない。 (4)本件訂正の適否についての小括 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するものである。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正請求は認められたので、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」ともいう。)は、その特許の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。 「缶胴外面上の塗膜がアプリケーターロールにより前記缶胴の周方向に2周以上重ね塗り状態で形成されており、 前記重ね塗り状態の全体の塗膜は、ポリエステル系溶剤塗料、アクリル系水性塗料、アクリル系水性タクタイル塗料のうちのいずれかからなり、その塗布量が65mg/dm2以上88mg/dm2以下であり、前記缶胴の周方向で塗布量のばらつきが±10%の範囲内で形成されていることを特徴とする塗装缶。」 第4 特許異議の申立ての概要及び証拠の一覧 申立人は、下記1の理由を申し立てるとともに、下記2の証拠を提出した。なお、申立理由4は、主たる引用文献等として、下記2の甲第1号証を引用するものであり、申立理由5は、主たる引用文献等として、下記2の甲第1~3号証のいずれかを引用するものである。 1 申立の概要 (1)申立理由1 (新規事項) 令和3年12月24日付け手続補正書でした補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第113条第1号の規定により取り消されるべきものである。 (2)申立理由2 (サポート要件) 本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (3)申立理由3 (明確性) 本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (4)申立理由4 (新規性) 本件特許発明1は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 (5)申立理由5 (進歩性) 本件特許発明1は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、本件特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 2 証拠方法 (1)特許異議の申立て時に提示された証拠 甲第1号証:特開2005-60509号公報 甲第2号証:特開平5-277414号公報 甲第3号証:西独国特許出願公開第3039812号明細書 (2)意見書と共に提示された証拠 甲第4号証:特開2010-105713号公報 甲第5号証:特開2013-177571号公報 甲第6号証:特開2006-181727号公報 甲第7号証:特開2006-273386号公報 甲第8号証:特開2005-47951号公報 甲第9号証:特開2002-361172号公報 第5 証拠の記載事項 以下、甲第1号証~甲第9号証を、「甲1」~「甲9」という。 1 甲1に記載されている事項 申立人が提出した甲1には以下の事項が記載されている。 (1) 「【請求項1】 (A)顔料成分、及び(B)バインダー樹脂成分を含有するシームレス金属缶外面用水性塗料組成物において、 (A)顔料成分が、 二酸化ケイ素フレーク表面に金属酸化物を被覆し、さらにシランカップリング剤及びジルコニウム酸化物で表面処理を施したカラーフリップフロップ顔料を含有し、 (B)バインダー樹脂成分が、 (a)α、β-モノエチレン性不飽和カルボン酸(I)、炭素数1~4のアルコキシ基を含有するN-アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド(II)、及び芳香族ビニルモノマー又はアルキル(メタ)アクリレート(III)、を共重合させてなる水性樹脂、及び (b)活性水素を有するアミノ化合物、ホルムアルデヒド、及び炭素数1~4のアルコールの反応生成物であり、アミノ化合物の1構造単位当たり1以上のイミノ基を有するアミノ樹脂、 を含有する水性樹脂である、ことを特徴とするシームレス金属缶外面用水性塗料組成物。 ・・・ 【請求項4】 シームレス金属缶の側壁外面に、請求項1~3のいずれかに記載されたシームレス金属缶外面用水性塗料組成物の乾燥硬化塗膜層を有することを特徴とするシームレス金属缶。 【請求項5】 シームレス金属缶外面用水性塗料組成物層の乾燥塗膜量が30~70mg/100cm2であることを特徴とする請求項4に記載のシームレス金属缶。 ・・・」 (2) 「【0026】 本発明の水性塗料組成物は、ロールコート、スプレーコート、刷毛塗り等公知の手段により電気錫メッキ鋼板、クロム処理鋼板、アルミニウム板等の金属基材から絞りしごき成形等により作製されたシームレス金属缶外面に塗装することが出来る。 好ましい例としては、例えば2ピースコーターにてアルミニウム製DI缶に塗装することにより、アルミニウム下地の光沢、平滑性を活かし強いカラーフリップフロップ性を呈する塗膜を形成することができる。 【0027】 本発明の水性塗料組成物は、シームレス金属缶外面に塗付した後に、150~200℃-10分程度の条件から250℃-10秒程度の高温短時間条件までの広範な乾燥条件に於いて、性能良好な硬化塗膜を形成することが出来る。好ましい乾燥条件としては、例えばアルミニウム製DI缶の場合には、一般的な焼付条件である200℃-15秒である。 【0028】 本発明の水性塗料組成物は、シームレス金属缶外面に形成する塗膜の乾燥質量が30~70mg/100cm2、特に35~60mg/100cm2となるようにシームレス金属缶外面に塗布することが好ましい。乾燥質量が30mg/100cm2未満の場合には、カラーフリップフロップ性が低下する傾向があり、一方乾燥質量が70mg/100cm2を超えた場合には、耐レトルト性が低下する傾向が認められる。 この塗膜は、シームレス金属缶の側壁外面にベースコート層又はトップコート層として形成することができる。また、この塗膜は外面全面に形成する以外に、ロゴマーク等の印刷模様を形成するために使用してもよい。そして、この塗膜の下地として、濃色又は不透明なインキ層を設けた場合には、下地層により光が反射されて、カラーフリップフロップ効果が一段と高められたものとなる。」 (3) 「【実施例】 【0029】 以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。なお、特に指定のない限り、実施例中の、部、%は質量部、質量%を表す。」 (4) 「【0051】 (実施例11~16) 合成例1で得た水性アクリル樹脂溶液、合成例3で得たアミノ樹脂溶液、及びBA-8グリコール(日本乳化剤社製、ビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物)を、一定の固形分比に調整し、これにエチレングリコールモノイソプロピレンエーテル、水、及びp-トルエンスルフォン酸、更にはカラーフリップフロップ顔料(メルク社製、Color stream T20-01WNT)の添加量を5質量部とした塗料(不揮発分40%、有機溶剤含有量15%、触媒量0.2PHR)を調製した。 得られた塗料を、アルミニウム製DI缶の側壁外面に、9インチテストコーターとマンドレルを使用して塗布することにより、乾燥後の塗膜質量が表5に記載したものとなる塗装板を作製した。 【0052】 【表5】 [図:0001413283000001.jpg] 【0053】 実施例11~16で作製した塗装板について、上記の塗膜物性試験を行ない、その結果を表6に記載した。 【0054】 【表6】 [図:0001413283000002.jpg] 【0055】 上記各例にみられるように、本発明のシームレス金属外面用水性塗料組成物からなるベースコート層又はトップコート層を有するシームレス金属缶は、光源の位置や見る角度により反射光の色調が大きく変化する強いカラーフリップフロップ性を呈する真珠光沢様の高められた意匠性を有し、(a)アクリル樹脂中のN-アルコキシメチル基と(b)アミノ樹脂中のイミノ基の架橋反応により、飲料缶・食品缶殺菌処理の加圧蒸気処理工程に耐えうる耐熱性、耐水性ならびに各種缶形態に加工し得る密着性・加工性を有する。」 2 甲2に記載されている事項 (1) 「【請求項1】 ラッカー薄膜を有する塗布装置上で円筒形の中空体をころがすことによってこの中空体に幾層かのラッカー被膜を塗布する方法において、塗布装置としてアプリケータ・ロールを用い、少なくとも第1層のラッカー被膜を塗布するために、いくつかの中空体を前後に並べてラッカー薄膜上でころがし、先行の中空体へのラッカーの塗布でラッカーが分離することによって漸次低減するラッカー内を各中空体がころがることを特徴とする方法。 ・・・ 【請求項4】 請求項1~3のうちのいずれかに記載の方法において、中空体として缶を被覆することを特徴とする方法。 【請求項5】 請求項1~4のうちのいずれかに記載の方法において、少なくとも3層のラッカー被膜を中空体に塗布することを特徴とする方法。」 (2) 「【0001】本発明は、ラッカー薄膜を有する塗布装置上で円筒形の中空体をころがすことによって中空体の全周被覆を行う方法に関する。 【0002】ラッカー薄膜を有する装置上でころがすことによって缶を被覆できることは公知である。そのためには、比較的厚くて新しいラッカー薄膜に缶を挿入し、その中で缶を1回転あるいはそれ以上、幅の狭いオーバーラップ領域を残しながらころがす(要約すると、1+、2+、3+など)。目的とするラッカー層の約80%が1回目の回転で既に缶に移行しているので、2回目以降の回転は、実質的にラッカーの分配あるいは均等化を行うにすぎない。」 (3) 「【0014】上記目的を達成すべく、本発明の方法においては、ラッカー薄膜上でいくつかの中空体を前後に並べてころがし、少なくとも最初(最内方)のラッカー被膜の塗布のために、各中空体を先行の中空体へのラッカーの塗布の際に被膜が分離することによって漸次減るラッカー薄膜内でころがす。従来技術と対照的に、本発明の方法では、いくつかの円筒形中空体、たとえば缶は、ペイント薄膜を再生する前にこのペイント薄膜上で前後に並べて(おそらくは、同時に)ころがる。いわゆるペイント層剥離/分離により、ラッカー薄膜に膜厚が徐々に減じる領域が生じる。最も広範囲にわたって減った厚さを有するラッカー薄膜領域に中空体を挿入し、ころがすことによって中空体上に第1(最内方)ラッカー被膜が形成される。それ以上のラッカー被膜は、徐々に厚くなるラッカー薄膜領域において形成され得、最後(最外方)のラッカー被膜が、まだ先行の中空体がころがることによって、ラッカー層剥離が生じていない新しいラッカー薄膜によって形成される。 【0015】一般的に、この手段によって異なった厚さのラッカー被膜が中空体に塗布され、これらのラッカー被膜の厚さが最内方ラッカー被膜から最外方ラッカー被膜まで増大し得る。 【0016】これは、少なくとも3層のラッカー被膜を中空体に塗布する場合に、特に有利である。しかしながら、それ以上の層、たとえば12層のラッカー被膜を塗布することもできる。 【0017】さらに、厚さを徐々に減じるラッカー薄膜領域のそれぞれで何回か中空体をころがすことが特に有利である。この場合、被膜の分布および厚さを均一に制御することができる。」 (4) 「【0031】被膜は、普通の装置、たとえばドクタロールまたは計量ロール(13)を備えたグラビアシリンダによってアプリケータ・ロール(2)の表面に塗布され、アプリケータ・ロールと一緒に経路(10)に沿って矢印Bの方向に回転する。缶(9)は、この新しくて厚いラッカー薄膜内をころがり、層剥離によってアプリケータ・ロール(2)上のラッカー薄膜の一部を、たとえば50%奪い取り、最終的なラッカー塗布(図示実施例では、3回目の塗布である)を受ける。しかしながら、被膜層全体が缶(9)に移行するわけではないので、アプリケータ・ロール(2)の表面には、経路(11)に沿ってなお薄くなった被膜層が残っている。缶(8)が、この被膜層内をころがり、この実施例では、中間被膜厚さの2回目のラッカー塗布を受ける。この缶(8)も、アプリケータ・ロール(2)上にまだ存在しているラッカー薄膜を全部奪い取ることはなく、経路(11)に比べてさらに薄くなったラッカー薄膜が残っている。このラッカー薄膜は、アプリケータ・ロール(2)と共に、経路(12)に沿って矢印Bの方向に移動する。缶(7)が、この薄いラッカー薄膜内をころがり、その最初の薄いラッカー被膜を受け取る。その最初の薄いラッカー被膜を受けたばかりで矢印Aの方向に経路(5)に沿って缶(7)が移動する場合、この缶は缶(8)の位置に移動し、そこで2回目に中間厚さの被膜を受け取り、次いで缶(9)の位置へ移動し、そこにおいて最終的な最も厚いラッカー塗布を受ける。こうして経路(5)に沿って移動する缶は、全部で幾層かのラッカー被膜(図示の場合には、全部で3層)を受け取り、これらの層が徐々に厚くなって行くのである。 【0032】本発明の方法は、公知の装置を用いて実施することができ、単に、マンドレル・ホイール(1)がアプリケータ・ロール(2)と同じ方向に回転し、マンドレル・ホイール(1)とアプリケータ・ロール(2)がそれらの接触点で互いに反対の方向に動くようにするだけである。したがって、たとえばマンドレル・ホイールに対するラッカーステーションの回転方向を変えるだけで通常の装置を用いることができる。 【0033】ラッカーが漸次蓄積して行く状態が図2に示してある。最初の新しく厚いラッカー層(16)は領域(10)では変わらず、缶がころがった後の薄くなったラッカー層が領域(11)に示してあり、別の缶、ここでは缶(8)がころがって被膜層(14)は領域(12)に示すように非常に薄くなっている。この薄さでもまだ被覆されていない缶(7)へ1回目のラッカー被膜を与えるにはなお充分である。缶(7)の位置から缶(8)の位置を経て缶(9)の位置へ進む缶は、3層の被膜からなる漸次増大するラッカー被膜を受け取ることになる。缶(7)がころがった後のアプリケータ・ロール(2)の表面に残っているラッカーは、グラビアシリンダの計量ロール(13)によってラッカーを塗布することによって補給される。 【0034】本発明による方法によって得ることのできる利点は次の通りである。 【0035】被覆をより良好に分布させることができる。これにより、目で見ても改良された結果が得られ、ラッカーが10~30%減り、これはさらにコストの低減に通じる。」 (5) 「【図1】 [図:0001413283000003.jpg] 【図2】 [図:0001413283000004.jpg] 」 3 甲3に記載されている事項(日本語訳は、特許異議申立書の3(4)イ(ウ)(第10~12頁)に記載された日本語訳を採用した。) (1)「 [図:0001413283000005.jpg] [図:0001413283000006.jpg] [図:0001413283000007.jpg] 」(第4頁第1行~第5頁第9行) (日本語訳: 本発明は、缶体のような円筒状中空体の全周コーティングのためのプロセスおよび装置に関し、この場合、中空体は、その長手方向軸を中心に駆動可能な駆動マンドレルホイールのマンドレル上に保持され、マンドレルホイールと軸方向に平行に走るコーティングユニットの駆動コーティングローラーに押し付けられるとともに、コーティングローラーとの接触領域では、ローラーの輪郭に沿ってマンドレルとともにガイドされる。 円筒形中空体、例えば缶体の全周コーティングは、回転マンドレルホイールの駆動マンドレルに保持された中空体がマンドレルとともに回転するように、上述の公知のプロセスに従って行われる。塗布ローラとの接触部における中空体の周速が塗布ローラの周速と同じになるように、中空体と塗布ローラが互いに転がり、中空体と塗布ローラとの圧力の作用で、ローラから中空体へ塗膜の転写が行われるようにする。中空体へのラッカーの塗布をできるだけ均一に密にするために、中空体がラッカーローラーで2回転する間と短いオーバーラップエリアが接触するように維持される。) (2)「 [図:0001413283000008.jpg] 」(第18頁第3~7行) (日本語訳: 中空体4の全周ラッカー塗布における、図1による配置で説明された動作モードによるラッカー塗布プロセス中の2周のラッカー塗装と追加のオーバーラップゾーンは、図4に示されるようなラッカー塗布を結果としてもたらす。) (3)「 [図:0001413283000009.jpg] [図:0001413283000010.jpg] 」(第18頁第20行~第19頁第14行) (日本語訳: 図4の展開図にD1として示す中空体4の1回転目には、拡大して示すラッカー23が施され、これが2回転目D2における2回目のラッカーの下地23’として機能する。この塗布は、図4に24と記した。ラッカー24の厚さは、対応する中空体が周回ラッカー塗装工程の終了に向けて再び駆動されるまで増加する。この時点、あるいは中空体4の周面のこの部分を、図4の展開図では25で示す。今度は差動速度が増加した結果、中空体4が浮き上がるまで、対応する表面26のラッカーの厚さが再び減少する。その結果、図4にハッチングで示したようなラッカー塗布が行われる。このラッカー塗布は、比較的一定の厚さを有し、それはまた、上述のオーバーラップ領域にわたって延び、それによって、この均一性は、中空体4の記述されたタイプの駆動と同様に、図3の図示に従ったラッカー分割の記述されたタイプから生じることが分かる。) (4)「 [図:0001413283000011.jpg] ・・・ [図:0001413283000012.jpg] 」 4 甲4に記載されている事項 (1) 「【請求項2】 容器本体の外面に下地塗装、印刷及びトップコート塗装を施して製造される金属容器において、少なくともトップコート層の樹脂に、アクリル系樹脂を用いることを特徴とする金属容器。」 (2) 「【0002】 ・・・又従来、下地塗装であるサイジングニスの上に印刷される印刷インクを保護するために、透明なトップコート層が塗装されているが、このトップコート層の樹脂には、同様にポリエステル樹脂を主成分とする樹脂が使用されている。」 5 甲5に記載されている事項 「【0008】 本発明によればまた、円筒形容器のインク非吸収性表面に、上記インクジェット印刷用インクを用いてインクジェット印刷して成る印刷円筒形容器であって、インクジェット印刷層の上に仕上げニス層が形成されていることを特徴とする印刷円筒形容器が提供される。 本発明の印刷円筒形容器においては、 1.仕上げニス層が、アクリルエポキシ系樹脂、アクリルアミノ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルアミノ系樹脂の何れかをベース樹脂とする水性仕上げニスから成ること、 2.インクジェット印刷層の下に、ホワイトコート層及び/又はアンカーコート層が形成されていること、 が好適である。」 6 甲6に記載されている事項 「【0014】 外面塗装膜7は、缶基体5の上面に形成されたサイズコート膜(図示略)と、サイズコート膜の上面に形成された印刷膜(図示略)と、印刷膜の上面に形成されたオーバーバーニッシュ膜(図示略)とによって構成されている。 ・・・ オーバーバーニッシュ膜は、インク膜の保護や、表面のすべりを良好にして加工性を向上させるために形成された塗装膜である。そして、オーバーバーニッシュ膜の原料は、例えば硬化したエポキシ/フェノール系樹脂または硬化したポリエステル/アミノ系樹脂を溶剤で溶かし、これにワックスを添加することによって構成される。」 7 甲7に記載されている事項 「【0018】 外面塗装膜13は、缶基体11の上面に形成されたサイズコート膜(図示略)と、サイズコート膜の上面に形成された印刷膜(図示略)と、印刷膜の上面に形成されたオーバーバーニッシュ膜(図示略)とによって構成されている。・・・そして、オーバーバーニッシュ膜の原料は、例えばエポキシ/フェノール系樹脂またはポリエステル/アミノ系樹脂を溶剤で溶かし、これにワックスを添加することによって構成される。」 8 甲8に記載されている事項 (1) 「【0006】 すなわち、本発明は第一に、バインダー樹脂(A)及びシリコーン樹脂(B)を有するDI缶用外面水性塗料組成物であって、該シリコーン樹脂の重量平均分子量が100,000~700,000であることを特徴とするDI缶用外面水性塗料組成物を提供する。」 (2) 「【0008】 【発明の実施の形態】 バインダー樹脂(A)として好ましく使用される水性樹脂(a)は、水性アクリル樹脂であって、例えば、以下の方法で製造される。・・・」 (3) 「【0016】 塗料を調整するには、上記水性樹脂(a)、アミノ樹脂(b)及びポリオール類を混合し、更に必要に応じて、p-トルエンスルフォン酸、ドデシルベンゼンスルフォン酸、ジノニルジナフタレンジスルフォン酸、或はこれらのアミン塩を硬化触媒として、バインダー樹脂(A)100質量部に対し、0.02~0.2質量部添加する。更に塗膜に凹凸感の意匠性を付与する為、分子量Mw100,000~700,000のシリコーン樹脂(B)を添加する。・・・」 9 甲9に記載されている事項 (1) 「【0007】 【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、缶体の外面に、下地インキが印刷されてなる下地層と、この下地層の印刷面に上地塗料が塗装されてなる上地層とが形成された塗装缶であって、上地塗料は、下地層を露出させずに全体を被覆する上地層を形成するとともに、下地層の表面で斑状に凝集して凹凸模様を形成することを特徴としている。この発明に係る塗装缶では、上地塗料が下地層全体を覆いながら下地層の表面で凝集するため、凝集部分同士が完全に分離することによる下地層の露出を防ぎ、凹凸模様を形成することができる。」 (2) 「【0011】ところで、上地塗料が凹凸模様を形成するのは、下地層との界面における上地塗料の表面張力によって上地塗料が下地層にはじかれて表面で斑状に凝集するためであって、この表面張力の大きさによって、形成される凹凸模様の大きさが変化する。」 (3) 「【0021】 【実施例】下地インキには、アルキド樹脂系(親油性)のインキに3~5重量%のシリコン系ワックスを添加した単独では硬化しない非自己硬化型のものを使用し、上地塗料には、アクリル系(親水性)のものを使用する。・・・」 第6 当審合議体の判断 1 令和5年3月7日付けで通知した取消理由 当審が令和5年3月7日付けで通知した取消理由は、前記第4の1における申立理由1、3、4、5を採用したものであり、以下のとおりである。 (1)取消理由1 (新規事項) 令和3年12月24日付け手続補正書でした補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第1号の規定により取り消されるべきものである。 (2)取消理由2 (明確性) 本件特許発明1は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (3)取消理由3 (新規性) 本件特許発明1は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 (4)取消理由4 (進歩性) 本件特許発明1は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 2 本件発明について 事案に鑑み、まず、本件発明の認定を行う。 (1)請求項1の記載 本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載を再掲すると、以下のとおり(上記第3参照。)である。 「缶胴外面上の塗膜がアプリケーターロールにより前記缶胴の周方向に2周以上重ね塗り状態で形成されており、 前記重ね塗り状態の全体の塗膜は、ポリエステル系溶剤塗料、アクリル系水性塗料、アクリル系水性タクタイル塗料のうちのいずれかからなり、その塗布量が65mg/dm2以上88mg/dm2以下であり、前記缶胴の周方向で塗布量のばらつきが±10%の範囲内で形成されていることを特徴とする塗装缶。」 (2)本件特許明細書の記載 本件特許明細書には、以下の記載がある。 「【背景技術】 【0002】 飲料缶等の缶の缶胴外面への塗装は、デザインとなるインキを印刷して印刷膜を形成した後、この印刷膜や缶の基材を保護したり、缶胴外面の滑り性を向上させたりするために、印刷膜が未乾燥の状態で、オーバーバーニッシュ(OV)塗料を塗装して塗膜を形成する。そして、その後工程において、印刷膜と塗膜とは缶胴外面に焼き付けられて、缶胴外面に塗装が施された塗装缶が製造される。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 ところで、従来において缶の缶胴外面に施される塗膜は、コスト面や剥離防止の観点から、極力薄く、また必要な箇所のみに塗装することが行われていた。ところが、美粧性向上の観点から、塗料に機能性物質(添加剤)を添加して缶の外観の差別化を図ることへの要求が高まっている。しかし、このように塗料に機能性物質を添加した場合には、従来と同様の塗装方法では、塗料の塗布量が缶胴の円周方向に不均一となり、一様な外観を得られないことから、要求する美粧性が得られない場合があった。また、缶の外観の差別化のために、通常よりも塗膜の塗布量を多くすることも要求されており、缶胴の円周上に均一に、かつ要求量の塗膜を塗装することが求められている。 【0006】 本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、缶胴の円周上に均一に、かつ要求塗布量の塗膜を塗装する缶の塗装方法及び塗装缶を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明の缶の塗装方法は、缶の缶胴外面に塗膜を形成する缶の塗装方法であって、塗料供給部から供給された塗料を、グラビアロールを用いてアプリケーターロールの外周面に付着させ、前記外周面と前記缶胴外面とを当接させた状態で前記アプリケーターロールと前記缶とを互いに逆方向に転動させて、前記外周面上で前記缶を2周以上回転移動させることにより、前記外周面上に付着した前記塗料を前記缶胴外面に付着させて前記塗膜を形成する。 【0008】 缶胴外面への塗装を、缶の回転移動の1周目で完了させようとした場合には、アプリケーターロールの外周面上に付着させる塗料の塗布量を、少なくとも缶胴外面に付着させる塗膜の塗布量と同等かそれ以上に設けておく必要がある。ところが、アプリケーターロールに供給する塗料の塗布量を多くした場合には、アプリケーターロールの回転時の遠心力や、缶の缶胴外面とアプリケーターロールの外周面との接触時及び離間時の衝撃により、塗料がアプリケーターロールの外周面上から飛散してミストが発生することで、生産設備を汚し、これに起因して生産設備から落下した塗料の塊が缶胴外面の塗装面に付着して汚れを生じることで、缶の外観が損なわれることがある。なお、塗膜の塗布量を多くするにつれて塗料の飛散は生じ易くなるため、アプリケーターロールの回転時の遠心力や缶とアプリケーターロールとの接触時及び離間時の衝撃を低減するため、アプリケーターロールや缶の回転速度を減速することも考えられるが、この場合には、生産性が低下することとなる。また、缶の回転移動の1周目だけでは塗料の塗布が行われない未塗装部ができたり、缶胴の円周上で塗膜の塗布量にばらつきが生じるおそれがある。 この点、本発明の缶の塗装方法においては、アプリケーターロールの外周面上で缶の缶胴外面を2周以上回転移動させて重ね塗りしているので、アプリケーターロールの外周面上から缶の缶胴外面への塗料の移動を2回以上に分けて行うことができる。このため、アプリケーターロールに供給する塗料を過剰に増やすことなく、また著しく缶の回転速度を低下させることなく塗装を行うことができ、ミストの発生や塗装面の汚れの発生を防止できる。また、缶胴外面に少なくとも2回塗装を施すことから、塗り残しを生じさせることもない。 なお、このように複数の周回に分けて塗装を行う場合において、缶の回転移動におけるアプリケーターロールから缶胴外面への塗料の転移量(塗布量)は、1周目が一番多く、周回を重ねて塗料を重ね塗りするごとに転移量が徐々に少なくなり、周回を重ねていくことで転移量が0に近づいて収束する。したがって、缶の回転移動の周回数を増やして、複数回に分けて缶胴外面に塗料を付着させることで、缶胴の円周上に均一に、かつ要求塗布量(膜厚)の塗膜を形成でき、美粧性の高い塗装缶を得ることができる。 【0009】 本発明の缶の塗装方法において、前記塗料供給部から供給されて前記アプリケーターロールの前記外周面上に付着される前記塗料の塗布量をt0とし、前記外周面上で前記缶を1周回転移動させた後の前記缶胴外面上に付着した塗膜の塗布量をt1とし、前記外周面上で前記缶を2周回転移動させた後の前記缶胴外面上に付着した塗膜の塗布量をt2とした場合に、前記塗布量t1が前記塗布量t0よりも小さく、前記塗布量t2が前記塗布量t0よりも大きくするとよい。 【0010】 アプリケーターロールの外周面上の塗料の塗布量t0よりも、缶胴外面に付着した塗膜の塗布量が大きくなった後においては、アプリケーターロールから缶胴外面への塗料の転移量が少なくなり、缶胴外面の塗膜の塗布量が均一化される。 そこで、上記のようにアプリケーターロールの外周面上の塗料の塗布量t0と、1周目の塗膜の塗布量t1と、2周目の塗膜の塗布量t2との関係を考慮して、塗料の粘度を調整することで、缶の回転移動におけるアプリケーターロールから缶胴外面への塗料の塗装を2周で完了することができ、塗装効率と塗膜の塗布量の均一性とのバランスを図ることができる。そして、このようにして2周塗装した塗装缶の塗膜の塗布量t2は、アプリケーターロールの外周面上の塗料の塗布量t0よりも大きく(厚く)なっており、塗膜の塗布量t2(膜厚)が均一化されている。なお、塗装を2周未満で行うと、塗膜の塗布量の均一化が不十分であり、缶胴の円周上に塗膜の薄い部分が存在するため、外観差が生じやすくなる。 【0011】 本発明の缶の塗布方法において、前記塗料の粘度を30秒以上100秒以下とするとよい。 塗装時における塗料の粘度が下限よりも低いと、塗料を目的する塗布量で缶胴外面に塗装することが困難となったり、ミストが発生しやすくなる。また、塗料の粘度が上限を超える場合は、アプリケーターロールから缶胴外面への塗料の転移性が低下し、少ない周回数で缶胴外面上に目的とする塗布量を付着させることができなくなる。 ・・・ 【0015】 本発明の塗装缶は、缶胴外面上の塗膜が前記缶胴の周方向で塗布量の±10%の範囲内で形成されている。 焼き付け後の塗膜の塗布量(膜厚)が±10%の範囲内で形成されていると、外観差がなく、美粧性に優れた塗装缶とできる。 【発明の効果】 【0016】 本発明によれば、作業効率を低下させることなく、ミストの発生等を防止して、缶胴の円周上に均一に、かつ要求塗布量(膜厚)の塗膜を塗装できる。」 「【発明を実施するための形態】 【0018】 以下、本発明に係る缶の塗装方法及び塗装缶の実施形態を、図面を参照しながら説明する。 本実施形態において、塗装が施される飲料缶等の缶は、例えばアルミニウム製の板を成形してなるものであり、缶の缶胴外面への塗装は、この缶胴外面に施された印刷膜や缶の基材を保護したり、缶胴外面の滑り性を向上させたりするために行われる。そして、缶の缶胴外面への塗装は、図1(a)に示すように、缶胴外面11aにデザインとなるインキを印刷して印刷膜21を形成した後、図1(c)に示すように印刷膜21が未乾燥の状態で、塗料を塗布することにより塗膜32を形成して行われる。また、その後工程において、印刷膜21と塗膜32とを缶胴外面11aに焼き付けることで、缶胴外面11aに塗装が施された塗装缶が得られる。なお、塗装缶に施された印刷膜21及び塗膜32の全体の膜厚は、焼き付け後の膜厚で3μm~10μm程度に設けられる。」 「【0032】 このように設定して缶胴外面11aに2周塗装を行うことで、缶胴外面11a上に形成された塗膜32の塗布量t2は、アプリケーターロール43の外周面43a上の塗料Pの塗布量t0よりも大きく(厚く)形成されるので、缶胴外面11aの2周目の塗装の際には、1周目に形成された塗膜32の塗布量t1の上から十分な量の塗料Pが重ねられ、塗布量t1のばらつきを均しながら重ねられる。したがって、最終的な塗膜32の塗布量t2を缶胴の周方向で±10%の範囲内に形成でき、焼き付け後の塗膜32の塗布量(膜厚)も缶胴の周方向で±10%の範囲内に均一化できる。 【0033】 なお、図示は省略するが、印刷膜21と塗膜32の乾燥は、これら印刷膜21及び塗膜32が塗布された缶11をオーブン等を通過させながら、熱風を吹き付けることにより行われ、印刷膜21と塗膜32とを缶胴外面11aに焼き付けて、缶胴外面11aに塗装が施された塗装缶が得られる。」 「【実施例】 【0035】 次に、本実施形態の缶の塗装方法及び塗装缶について、その結果を確認するために実験を行った。 (塗装の周回数の違いによる塗料の転移量及び塗膜の塗布量の変化) 表1に示すように塗料の原液と希釈剤とを混合した4種類の塗料を調整した。また、表1の通常塗料とは、一般的なインキよりも小さい表面張力を有する塗料を示しており、溶剤塗料はポリエステル系塗料、水性塗料はアクリル系塗料である。一方、凹凸塗料とは、タクタイル塗装に用いられるような、一般的なインキと同じか、それよりも大きい表面張力を有する水性タクタイル塗料を示しており、アクリル系塗料である。また、溶剤塗料の希釈剤はブタノール/エチレングリコールモノブチルエーテル、水性塗料の希釈剤はイオン交換水を用いた。なお、塗料の粘度は、塗装時(塗装温度)における粘度を、JIS K5600‐2‐2に準じて、フォードカップNo.4を用いて測定されるものである。つまり、溶剤の通常塗料では、塗装温度30℃~34℃における粘度を示し、水性の通常塗料では、35℃~36℃における粘度を示す。また、凹凸塗料(水性タクタイル塗料)では、38℃における粘度を示す。 そして、表1に示すように、アプリケーターロール(APロール)の外周面上の塗料の塗布量を設定し、表2に示すように、缶の缶胴外面上への塗装を1周行った塗装缶(1周目)と、塗装を2周行った塗装缶(2周目)と、塗装を3周行った塗装缶(3周目)とを作製した。 【0036】 表2の「焼付後の塗膜の塗布量」は、それぞれの塗装完了後に形成された塗膜を、缶胴外面に焼き付けた後に、各塗装缶を切り開いて平板状にし、塗膜の塗布量(膜厚)を測定したものである。塗膜の塗布量の測定は、電気抵抗値から塗布量を測定するストランドゲージ(Strand Electronics.LTD Model No.105)を用いて行った。 表2の「塗料の転移量」と「焼付前の塗膜の塗布量」は、アプリケーターロールの外周面上から缶胴外面上に転移した塗料の量を示している。そして、これらの「塗料の転移量」と「焼付前の塗膜の塗布量」の値は、それぞれ缶の缶胴外面上への塗装を1周行った塗装缶(1周目)と、塗装を2周行った塗装缶(2周目)と、塗装を3周行った塗装缶(3周目)とについて、いずれも塗膜の焼付前の状態で重量を測定し、この塗装缶全体の重量から素缶(缶単体)の重量を差し引くことにより算出した。なお、1周目の塗料の転移量は、1周の塗装完了後に形成された1周分の塗膜の塗布量の値を示しているが、2周目の塗料の転移量は、2周の塗装完了後に形成された2周分の塗膜の塗布量から1周分の塗膜の塗布量を減じることにより算出した。また同様に、3周目の塗料の転移量は、3周の塗装完了後に形成された3周分の塗膜の塗布量から2周分の塗布量を減じることにより算出した。また、「塗料の転移率」は、アプリケーターロールの外周面上から転移された塗料の比率であり、「APロール上の塗料の塗布量」と「塗料の転移量」との比率である。 【0037】 【表1】 [図:0001413283000013.jpg] 【0038】 【表2】 [図:0001413283000014.jpg] 【0039】 表2からわかるように、アプリケーターロールから缶胴外面への塗料の転移量は、1周目が一番多く、周回を重ねて塗料を重ね塗りするごとに徐々に少なくなる。また、アプリケーターロールの外周面上の塗料の塗布量よりも、缶胴外面に付着した塗膜の塗布量が大きくなった2周目以降(3周目)においては、アプリケーターロールから缶胴外面への塗料の転移量が大幅に少なくなることが確認できた。 【0040】 (塗装の周回数の違いによる塗膜の塗布量差の目視確認) 次に、No.5の塗料を用い、アプリケーターロールの外周面上の塗料の塗布量を166(mg/dm2)に設定して、缶の缶胴外面上への塗装を1.4周行った塗装缶と、塗装を1.8周行った塗装缶と、塗装を2.0周行った塗装缶と、塗装を2.2周行った塗装缶とを、それぞれ24缶ずつ作製した。そして、各条件の24缶の塗装缶について目視検査を実施し、缶胴の円周上に塗膜の塗布量差(境目)が確認されたものが24缶中1缶でもあったものを不合格「×」、24缶全てに塗膜の塗布量差が確認できなかったものを合格「○」とした。表3に結果を示す。 【0041】 【表3】 [図:0001413283000015.jpg] 【0042】 表3からわかるように、塗装を少なくとも2周重ねた2.0周と2.2周の塗装缶においては、塗膜の塗布量差が確認できず、缶胴の円周上に均一に塗膜を形成できた。一方、塗装の周回数が2周未満の1.4周と1.8周の塗装缶においては、塗膜の塗布量差が顕著に表れた。 【0043】 (缶胴外面上の塗膜の塗布量のばらつき) No.5の塗料を用い、アプリケーターロールの外周面上の塗料の塗布量を166(mg/dm2)に設定して、無地缶の缶胴外面上への塗装を1.3周行った塗装缶と、塗装を2.0周行った塗装缶とを作製した。そして、各塗装缶を切り開いて平板状にし、塗装面の全体を等間隔で12点測定して、各点における塗膜の塗布量を測定した。 塗膜の塗布量の測定は、電気抵抗値から塗布量を測定するストランドゲージ(Strand Electronics.LTD Model No.105)を用いて行った。表4に結果を示す。 【0044】 【表4】 [図:0001413283000016.jpg] 【0045】 表4からわかるように、塗装を少なくとも2周重ねた2.0周の塗装缶においては、塗膜の塗布量のばらつきを±10%の範囲内とでき、缶胴の円周上に均一に塗膜を形成できた。一方、塗装の周回数が2周未満の1.3周の塗装缶においては、塗膜の塗布量のばらつきが大きくなり(‐21.9%~39.5%)、缶胴の円周上に均一に塗膜を形成できなかった。」 (3)検討 ア 請求項1の記載(上記(1))によれば、本件発明の「塗装缶」は、「缶胴外面上」に「塗膜」を備えるものであって、当該「塗膜」について、「アプリケーターロールにより前記缶胴の周方向に2周以上重ね塗り状態で形成」されたものであること、「ポリエステル系溶剤塗料、アクリル系水性塗料、アクリル系水性タクタイル塗料のうちのいずれか」からなること、「その塗布量が65mg/dm2以上88mg/dm2以下」であること、「前記缶胴の周方向で塗布量のばらつきが±10%の範囲内で形成されている」こと(以下、「4つの特定事項」ともいう。)が特定されている。 イ 本件特許明細書(上記(2))には、「飲料缶等の缶の缶胴外面への塗装は、デザインとなるインキを印刷して印刷膜を形成した後、この印刷膜や缶の基材を保護したり、缶胴外面の滑り性を向上させたりするために、印刷膜が未乾燥の状態で、オーバーバーニッシュ(OV)塗料を塗装して塗膜を形成する。そして、その後工程において、印刷膜と塗膜とは缶胴外面に焼き付けられて、缶胴外面に塗装が施された塗装缶が製造される。」(段落【0002】)と記載されていて、「塗装缶」とは、印刷膜と塗装して形成した塗膜とが後工程において缶胴外面に焼き付けられて製造されたものであると理解できるとともに、本件発明の「塗装缶」の製造方法について、「なお、図示は省略するが、印刷膜21と塗膜32の乾燥は、これら印刷膜21及び塗膜32が塗布された缶11をオーブン等を通過させながら、熱風を吹き付けることにより行われ、印刷膜21と塗膜32とを缶胴外面11aに焼き付けて、缶胴外面11aに塗装が施された塗装缶が得られる。」(段落【0033】)と記載されているから、本件発明の「塗装缶」は、塗膜を塗布した後、焼き付けを行って得るものを意味していると認められる。 また、本件発明の「塗膜」も、塗膜を塗布し焼き付けを行った後のものを意味していると認められる。 ウ 本件発明の「塗装缶」は、塗膜を塗布した後、焼き付けを行って得るものであるから、塗布した直後(焼き付けを行う前)の塗膜の形状や構造や材質は、焼き付けを行うことによって変化する。 エ したがって、本件発明の「アプリケーターロールにより前記缶胴の周方向に2周以上重ね塗り状態で形成」は、本件発明の「塗膜」の形状や構造について、「アプリケーターロールにより前記缶胴の周方向に2周以上重ね塗り状態で形成」に由来する形状や構造を備えていることを特定する事項であると認められる。 同様に、「ポリエステル系溶剤塗料、アクリル系水性塗料、アクリル系水性タクタイル塗料のうちのいずれか」は、本件発明の「塗膜」の材質について、「ポリエステル系溶剤塗料、アクリル系水性塗料、アクリル系水性タクタイル塗料のうちのいずれか」に由来する物質からなるものであることを特定する事項であると認められる。 オ 「塗布量」という用語は、本件特許明細書中において例えば「焼付後の塗膜の塗布量」(段落【0038】の【表2】)などのようにも用いられているから、焼き付けを行った後の塗膜に対しても用いられている用語である。また、上記イのとおり、本件発明の「塗膜」は、塗膜を塗布し焼き付けを行った後のものを意味している。 したがって、「その塗布量が65mg/dm2以上88mg/dm2以下」という事項は、本件発明の「塗膜」(塗膜を塗布し焼き付けを行った後のもの)の単位面積あたりの重さの範囲が「65mg/dm2以上88mg/dm2以下」であることを特定する事項であると認められる。 また、「前記缶胴の周方向で塗布量のばらつきが±10%の範囲内で形成されていること」は、本件発明の「塗膜」(塗膜を塗布し焼き付けを行った後のもの)の単位面積あたりの重さの「前記缶胴の周方向」における「ばらつきが±10%の範囲内」あることを特定する事項であると認められる。 カ 以上の認定を踏まえて、以下検討する。 3 取消理由1(新規事項)について (1)判断手法 特許法は、特許請求の範囲等の補正については、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない旨規定(特許法第17条の2第3項)している。ここでいう「事項」とは明細書又は図面によって開示された発明に関する技術的事項であることが前提となるところ、上記「最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるときは当該補正は明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものということができる(知財高裁平成18年(行ケ)第10563号、平成20年5月30日言渡)、とされている。 (2)令和3年12月24日付け手続補正書でした補正の内容 令和3年12月24日付け手続補正書でした補正は、請求項1に係る発明を、「缶胴外面上の塗膜がアプリケーターロールにより前記缶胴の周方向に2周以上重ね塗り状態で形成されており、 前記重ね塗り状態の全体の塗膜は、前記缶胴の周方向で塗布量のばらつきが±10%の範囲内で形成されていることを特徴とする塗装缶。」から「缶胴外面上の塗膜がアプリケーターロールにより前記缶胴の周方向に2周以上重ね塗り状態で形成されており、 前記重ね塗り状態の全体の塗膜は、その塗布量が65mg/dm2以上88mg/dm2以下であり、前記缶胴の周方向で塗布量のばらつきが±10%の範囲内で形成されていることを特徴とする塗装缶。」へと補正するもの(以下、「当該補正」ともいう。)であり、「前記重ね塗り状態の全体の塗膜」について、当該補正前にはその塗布量が特定されていなかったものを、「65mg/dm2以上88mg/dm2以下であり、」に特定するものである。 (3)明細書等の記載 本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」ともいう。)には、上記2(2)に摘記した事項が記載されている。なお、本件特許の審査、審判の過程において、明細書及び図面の記載は補正されていない。 (4)検討 ア 上記2(3)オのとおり、本件発明の「前記重ね塗り状態の全体の塗膜は」、「その塗布量が65mg/dm2以上88mg/dm2以下であり」は、本件発明の「塗膜」(塗膜を塗布し焼き付けを行った後のもの)の単位面積あたりの重さの範囲が「65mg/dm2以上88mg/dm2以下」であることを特定する事項であると認められる。 イ 当初明細書等(上記(3)及び2(2))には、本件発明の「塗膜」(塗膜を塗布し焼き付けを行った後のもの)について、その単位面積あたりの重さを特定の範囲に限定する旨を具体的に説明している記載はない。しかし、本件発明が解決しようとする課題について、「通常よりも塗膜の塗布量を多くすること」や「缶胴の円周上に均一に、かつ要求量の塗膜を塗装すること」が求められていること(段落【0005】)や、発明の効果について、缶胴の円周上に均一に、かつ要求塗布量(膜厚)の塗膜を塗装できることが記載されている(段落【0016】)。 したがって、本件発明の「塗膜」(塗膜を塗布し焼き付けを行った後のもの)の単位面積あたりの重さの範囲は、自ずと所定の範囲内となるようにすることが求められているものであるといえる。 ウ 本件発明の「塗膜」について、当初明細書等には、その【実施例】の項に、「缶の缶胴外面上への塗装を1周行った塗装缶(1周目)と、塗装を2周行った塗装缶(2周目)と、塗装を3周行った塗装缶(3周目)とを作製した」こと(段落【0035】)、「それぞれの塗装完了後に形成された塗膜を、缶胴外面に焼き付けた後に、各塗装缶を切り開いて平板状にし、塗膜の塗布量(膜厚)を測定した」こと(段落【0036】)、及び、「「焼付前の塗膜の塗布量」の値は、それぞれ缶の缶胴外面上への塗装を1周行った塗装缶(1周目)と、塗装を2周行った塗装缶(2周目)と、塗装を3周行った塗装缶(3周目)とについて、いずれも塗膜の焼付前の状態で重量を測定し、この塗装缶全体の重量から素缶(缶単体)の重量を差し引くことにより算出した」こと(段落【0036】)が記載されているとともに、【表2】(段落【0038】)が記載されている。 また、【表2】によれば、塗装を2周行った塗装缶(2周目)の焼付後の塗膜の塗布量(mg/dm2)の具体的な値として、72、64、65、58、80、70という値が、また、塗装を3周行った塗装缶(3周目)の焼付後の塗膜の塗布量の具体的な値として、81、72、72、65、88、78という値(以下、これらの値を合わせて「12個の値」ともいう。)が記載されている。 エ そうすると、12個の値そのものや、12個の値のうち、その最大値と最小値を上下限値とする範囲内の間の値(58mg/dm2以上88mg/dm2以下の値)は、いずれも「所定の範囲内」であるといえる値である。 また、本件発明の「65mg/dm2以上88mg/dm2以下」という範囲は、上記範囲に含まれているとともに、その上下限値は、ともに12個の値の中から選ばれたものであるから、当該範囲も記載されていたといえるものである。 オ したがって、当該補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内でしたものであると認められる。 (5)申立人の主張について 申立人は、令和5年7月7日提出の意見書(7頁24~9頁23行)において、「表2は、単に実施例で測定された塗膜の塗布量の離散的な値を羅列しているだけであり、塗布量の数値範囲の上限、下限などの境界値を特定したものではない」、「表2では、2周の重ね塗り状態で形成された焼付後の塗膜の塗布量が88mg/dm2に到達した例は存在しない。」と主張している。 しかし、表2だけではなく、当初明細書等のすべての記載を総合すると、当該補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内でしたものであると認められることは上記(4)のとおりであるから、申立人の主張は、採用することができない。 (6)取消理由1についてのまとめ 取消理由1によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。 4 取消理由2(明確性)について (1)取消理由2の概要 取消理由2は、請求項1の「缶胴外面上の塗膜がアプリケーターロールにより前記缶胴の周方向に2周以上重ね塗り状態で形成されており」という記載は、製造方法によって生産物を特定する記載であり、また、「その塗布量」という記載は、焼付前、焼付後のいずれの時点のものを指すのかが不明確であるから、本件発明は明確ではないというものである。 (2)判断手法 一般に「法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,仮に,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきことはいうまでもない。」とされている〔知財高裁平成21年(行ケ)第10434号、平成22年8月31日判決言渡。〕。 また、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である(最二小判平成27年6月5日 平成24年(受)1204号、同2658号)。 以下、このような観点に基づいて、本件特許の明確性要件の適否を検討する。 (3)製造方法によって生産物を特定する記載について ア 上記2(3)エのとおり、請求項1の「缶胴外面上の塗膜がアプリケーターロールにより前記缶胴の周方向に2周以上重ね塗り状態で形成されており」という記載は、本件発明の「塗膜」(塗膜を塗布し焼き付けを行った後のもの)の形状や構造について、「アプリケーターロールにより前記缶胴の周方向に2周以上重ね塗り状態で形成」したことに由来する形状や構造を備えていることを特定する事項である。 イ 上記「形状や構造」としては、例えば、一般にアプリケーターロールを用いて塗膜を塗布する際に、塗布を開始した位置や終了した位置に塗膜の厚さが異なる部分(以下、「段差」ともいう。)を生じたり、これら2つの位置の間に重ね塗り回数が他の部分とは異なる部分(重ね塗り回数が1回多い、あるいは、1回少ない部分。以下、「重ね塗り回数が異なる部分」ともいう。)を生じたり、アプリケーターロールを圧着することによるインクの潰れが生じるから、塗膜にはこれらに由来する形状や構造が存在する可能性があるといえる。 ウ そして、例えば、段差の形状(高さや角度)は、塗布条件に応じて様々であり、かつ、焼き付け時に変化するため、その形状を具体的に特定することは事実上不可能である。また、重ね塗り回数が異なる部分やインクの潰れの形状や構造についても同様である。 エ そうすると、請求項1の「缶胴外面上の塗膜がアプリケーターロールにより前記缶胴の周方向に2周以上重ね塗り状態で形成されており」という記載について、この記載に対応する形状や構造を、直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情があるといえる。 (4)「その塗布量」という記載について 上記2(3)イで説示したとおり、本件発明の「その塗布量が65mg/dm2以上88mg/dm2以下」における「塗布量」という記載が、焼き付けを行った後のものを意味していることは明らかであり、他の解釈をする余地はないから、この記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 (5)取消理由2についてのまとめ 上記(3)、(4)のとおりであるから、取消理由2によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。 5 取消理由3(新規性)、取消理由4(進歩性)について (1)甲号証の記載 各甲号証に記載されている事項は、上記第5のとおりである。 (2)甲1を主引例とした取消理由 ア 甲1発明の認定 (ア)甲1には、シームレス金属缶の側壁外面に、シームレス金属缶外面用水性塗料組成物の乾燥硬化塗膜層を有する、シームレス金属缶が記載されている(前記第5の1(1)の【請求項4】参照)。 (イ)甲1の実施例15、16では、アクリル樹脂a-1 45質量部、アミノ樹脂b-1 40質量部、BA-8グリコール(日本乳化剤社製、ビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物)15質量部、カラーフリップフロップ顔料(メルク社製、Color stream T20-01WNT)5質量部、エチレングリコールモノイソプロピレンエーテル、水、及びp-トルエンスルフォン酸からなる塗料(不揮発分40%、有機溶剤含有量15%、触媒量0.2PHR)を、アルミニウム製DI缶の側壁外面に、9インチテストコーターとマンドレルを使用して塗布することにより、アルミニウム製DI缶を作製している。ここで、乾燥後の塗膜質量は、実施例15で70mg/100cm2、実施例16で80mg/100cm2である(前記第5の1(4)の段落【0051】~【0052】、【表5】参照)。 (ウ)甲1には、本発明のシームレス金属外面用水性塗料組成物からなるベースコート層又はトップコート層を有するシームレス金属缶は、光源の位置や見る角度により反射光の色調が大きく変化する強いカラーフリップフロップ性を呈する真珠光沢様の高められた意匠性を有する旨が記載されている(前記第5の1(4)の段落【0055】)参照)。 (エ)そうすると、甲1の実施例15、16で作製されるアルミニウム製DI缶を中心として、甲1から次の発明(以下、「甲1発明1」、「甲1発明2」といい、まとめて「甲1発明1及び2」ともいう。)が認定できる。 (オ)甲1発明1 「シームレス金属缶の側壁外面に、シームレス金属缶外面用水性塗料組成物の乾燥硬化塗膜層を有する、シームレス金属缶であって、 前記乾燥硬化塗膜層は、アクリル樹脂a-1 45質量部、アミノ樹脂b-1 40質量部、BA-8グリコール(日本乳化剤社製、ビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物)15質量部、カラーフリップフロップ顔料(メルク社製、Color stream T20-01WNT)5質量部、エチレングリコールモノイソプロピレンエーテル、水、及びp-トルエンスルフォン酸からなる塗料(不揮発分40%、有機溶剤含有量15%、触媒量0.2PHR)を、アルミニウム製DI缶の側壁外面に、9インチテストコーターとマンドレルを使用して塗布することにより形成されたものであり、 乾燥後の塗膜質量が70mg/100cm2であり、 光源の位置や見る角度により反射光の色調が大きく変化する強いカラーフリップフロップ性を呈し、真珠光沢様の高められた意匠性を有する、 シームレス金属缶。」 (カ)甲1発明2 「シームレス金属缶の側壁外面に、シームレス金属缶外面用水性塗料組成物の乾燥硬化塗膜層を有する、シームレス金属缶であって、 前記乾燥硬化塗膜層は、アクリル樹脂a-1 45質量部、アミノ樹脂b-1 40質量部、BA-8グリコール(日本乳化剤社製、ビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物)15質量部、カラーフリップフロップ顔料(メルク社製、Color stream T20-01WNT)5質量部、エチレングリコールモノイソプロピレンエーテル、水、及びp-トルエンスルフォン酸からなる塗料(不揮発分40%、有機溶剤含有量15%、触媒量0.2PHR)を、アルミニウム製DI缶の側壁外面に、9インチテストコーターとマンドレルを使用して塗布することにより形成されたものであり、 乾燥後の塗膜質量が80mg/100cm2であり、 光源の位置や見る角度により反射光の色調が大きく変化する強いカラーフリップフロップ性を呈し、真珠光沢様の高められた意匠性を有する、 シームレス金属缶。」 イ 甲1発明1及び2と本件発明の対比 甲1発明1及び2と本件発明を対比する。 (ア)甲1発明1及び2の「シームレス金属缶」は、「乾燥硬化塗膜層を有する」ものであるから、本件発明の「塗装缶」に相当する。 (イ)甲1発明1及び2の「シームレス金属缶の側壁外面」は、本件発明の「缶胴外面」に相当し、そこに形成される甲1発明及び2の「乾燥硬化塗膜層」は、本件発明の「塗膜」に相当する。 (ウ)甲1発明及び2における乾燥硬化塗膜層は、「乾燥後の塗膜質量」がそれぞれ「70mg/100cm2」、「80mg/100cm2」であるから、いずれも本件発明の「全体の塗膜は、その塗布量が65mg/dm2以上88mg/dm2以下であり」を充足する。 ウ 一致点及び相違点 そうすると、甲1発明1及び2と本件発明は、 「缶胴外面上の塗膜が形成されており、 全体の塗膜は、その塗布量が65mg/dm2以上88mg/dm2以下である、塗装缶。」 の点で一致し、以下の点で一応相違する。 <相違点1> 本件発明の塗膜は、「アプリケーターロールにより」形成されたものであるのに対し、甲1発明1及び2の乾燥硬化塗膜層は、「9インチテストコーターとマンドレルを使用して」形成されたものである点。 <相違点2> 本件発明の塗膜は、缶胴の周方向に「2周以上重ね塗り状態」で形成された、重ね塗り状態の全体の塗膜であるのに対し、甲1発明1及び2の乾燥硬化塗膜層は、「2周以上重ね塗り状態」で形成されたものであるか不明である点。 <相違点3> 本件発明の塗膜は、「缶胴の周方向で塗布量のばらつきが±10%の範囲内で形成されている」のに対し、甲1発明1及び2の乾燥硬化塗膜層は、缶胴の周方向における塗膜質量のばらつきが不明である点。 <相違点4> 本件発明の塗膜は、「ポリエステル系溶剤塗料、アクリル系水性塗料、アクリル系水性タクタイル塗料のうちのいずれかからなり」と特定されているのに対し、甲1発明1及び2の乾燥硬化塗膜層は、「アクリル樹脂a-1 45質量部、アミノ樹脂b-1 40質量部、BA-8グリコール(日本乳化剤社製、ビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物)15質量部、カラーフリップフロップ顔料(メルク社製、Color stream T20-01WNT)5質量部、エチレングリコールモノイソプロピレンエーテル、水、及びp-トルエンスルフォン酸からなる塗料(不揮発分40%、有機溶剤含有量15%、触媒量0.2PHR)」を「塗布することにより形成されたもの」である点。 エ 相違点1、2の検討 前記2(3)エで認定したとおり、本件発明の「塗膜」は「アプリケーターロールにより前記缶胴の周方向に2周以上重ね塗り状態で形成」するという製造方法で得られたものであることに由来する形状や構造を備えているものであって、具体的には、前記4(3)イで説示したとおり、段差や重ね塗り回数が異なる部分やインクの潰れ等の形状や構造を有するのに対し、甲1発明1及び2は、そのような形状や構造を有しているものではないから、相違点1、2は、実質的な相違点である。 また、甲1の段落【0026】には、「本発明の水性塗料組成物は、ロールコート、スプレーコート、刷毛塗り等公知の手段により・・・シームレス金属缶外面に塗装することが出来る。」との記載があり(前記第5の1(2)参照)、甲2には、アプリケーターロールが円筒形の缶に対する周知慣用の一般的な塗装手段であることが記載されており(前記第5の2(1)、(2)、(4)参照)、甲2及び甲3によれば、形成される塗膜の均一性を考慮して、缶への塗装を2周以上行うことは一般に行われていること(前記第5の2(1)~(5)(特に請求項5、段落【0002】、【0017】、【0031】、【0033】、【0035】、図2)、前記第5の3(1)~(3)参照)ではあるが、「アプリケーターロールにより前記缶胴の周方向に2周以上重ね塗り状態で形成」することによって、段差や重ね塗り回数が異なる部分やインクの潰れ等の形状や構造を有する塗膜を形成することについては、甲1~3のいずれにも記載も示唆もない。 そうすると、当業者といえども、甲1発明1及び2において、相違点1及び2に係る構成を備えるものとすることを容易になし得たとは認められない。 オ 相違点3の検討 (ア)甲1発明1及び2のシームレス金属缶は、「光源の位置や見る角度により反射光の色調が大きく変化する強いカラーフリップフロップ性を呈し、真珠光沢様の高められた意匠性を有する」ものであるが、このことから直ちに、缶胴周方向での塗膜質量がほぼ均一であるとはいえない。また、仮にいえるとしても、そのばらつきが±10%の範囲内とは限らず、例えば±20%かもしれないのであるから、不明であるといわざるを得ない。したがって、相違点3は実質的な相違点である。 (イ)本件特許明細書には、本件発明の「缶胴の周方向で塗布量のばらつき」の定義(測定方法)について、説明している記載はないが、段落【0036】、【0043】~【0044】(上記2(2)参照。)に以下の記載がある。 「表2の「焼付後の塗膜の塗布量」は、それぞれの塗装完了後に形成された塗膜を、缶胴外面に焼き付けた後に、各塗装缶を切り開いて平板状にし、塗膜の塗布量(膜厚)を測定したものである。塗膜の塗布量の測定は、電気抵抗値から塗布量を測定するストランドゲージ(Strand Electronics.LTD Model No.105)を用いて行った。」 「(缶胴外面上の塗膜の塗布量のばらつき) No.5の塗料を用い、アプリケーターロールの外周面上の塗料の塗布量を166(mg/dm2)に設定して、無地缶の缶胴外面上への塗装を1.3周行った塗装缶と、塗装を2.0周行った塗装缶とを作製した。そして、各塗装缶を切り開いて平板状にし、塗装面の全体を等間隔で12点測定して、各点における塗膜の塗布量を測定した。 塗膜の塗布量の測定は、電気抵抗値から塗布量を測定するストランドゲージ(Strand Electronics.LTD Model No.105)を用いて行った。表4に結果を示す。 【表4】 [図:0001413283000017.jpg] 」 以上の記載によると、本件発明の「缶胴の周方向で塗布量のばらつき」は、塗装缶を切り開いて平板状にし、塗装面の全体を等間隔で12点測定して、各点における塗膜の塗布量を、電気抵抗値から塗布量を測定するストランドゲージ(Strand Electronics.LTD Model No.105)を用いて行ったものであるが、上記塗膜の塗布量を電気抵抗値から塗布量を測定するストランドゲージを用いて測定する方法について、段落【0036】の記載を参照すると、この方法は缶胴外面に焼き付けた塗膜の塗布量(膜厚)の測定に用いるものであり、また、上記「等間隔で12点」について、どことどこが等間隔なのかは不明であるが、表4の記載によれば、結局のところ、缶胴の特定の円周上で等間隔に4点測定を行って得た4つの塗布量(膜厚)の平均値を100%としたときのそれぞれの測定点の塗布量(膜厚)の平均値からの差(%)をばらつきとしているものと認められる。 したがって、本件発明の「缶胴の周方向で塗布量のばらつき」とは、「缶胴外面に焼き付けた塗膜の塗布量(膜厚)を、電気抵抗値から塗布量を測定するストランドゲージを用いて、缶胴の特定の円周上で等間隔に4点測定を行い、得られた4つの測定値の平均値を100%としたときのそれぞれの測定点における測定値の平均値からの差を%で表したもの」(以下、「本件発明の特定のばらつき」ともいう。)であると認められる。 (ウ) 甲1には、本件発明の特定のばらつきについても記載も示唆もない。また、甲2、3についても、同様である。 そうすると、当業者といえども、甲1発明において、相違点3に係る事項を充足するものとすることを容易になし得たとはいえない。 カ 小括 以上のとおりであるから、相違点4について検討するまでもなく、本件発明は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明及び甲1~甲3の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもない。 したがって、取消理由3または4(主たる引用文献等が甲1であるもの)によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。 (3) 甲2を主引例とした取消理由 ア 甲2発明の認定 (ア)甲2の請求項1、4、5には、ラッカー薄膜を有する塗布装置上で、円筒形の中空体をころがすことによって、この中空体に幾層かのラッカー被膜を塗布する方法において、塗布装置としてアプリケータ・ロールを用いること、中空体として缶を被覆すること、少なくとも3層のラッカー被膜を中空体に塗布することが記載されている(前記第5の2(1)参照)。 (イ)甲2の段落【0015】~【0017】には、異なった厚さのラッカー被膜が中空体に塗布され、これらのラッカー被膜の厚さが最内方ラッカー被膜から最外方ラッカー被膜まで増大し得ること、これは、少なくとも3層のラッカー被膜を中空体に塗布する場合に、特に有利であること、さらに、厚さを徐々に減じるラッカー薄膜領域のそれぞれで何回か中空体をころがすことが特に有利であり、この場合、被膜の分布および厚さを均一に制御することができることが記載されている(前記第5の2(3)参照)。 (ウ)甲2の段落【0031】、【0033】、図2には、缶をころがしながら、缶の外周表面上に3層のラッカー被膜を塗布、形成させる態様が記載されている(前記2(2)の摘記エ、オ参照)。 (エ)そうすると、甲2から次の発明(以下、「甲2発明」という。)が認定できる。 (オ)甲2発明 「ラッカー薄膜を有するアプリケータ・ロールを用いた塗布装置上で、円筒形の中空体である缶をころがすことによって、この缶の外周表面上に少なくとも3層のラッカー被膜が塗布され、さらに、厚さを徐々に減じるラッカー薄膜領域のそれぞれで何回か缶をころがすことにより、被膜の分布および厚さが均一に制御された、缶。」 イ 甲2発明と本件発明の対比 甲2発明と本件発明を対比する。 (ア)甲2発明の「缶」は、「ラッカー被膜が塗布され」たものであるから、本件発明の「塗装缶」に相当する。 (イ)甲2発明では、「アプリケータ・ロールを用いた塗布装置上で、円筒形の中空体である缶をころがすことによって、この缶の外周表面上に少なくとも3層のラッカー被膜が塗布され」ているから、本件発明の「缶胴外面上の塗膜がアプリケーターロールにより前記缶胴の周方向に2周以上重ね塗り状態で形成されており」を充足する。 ウ 一致点及び相違点 そうすると、甲2発明と本件発明は、 「缶胴外面上の塗膜がアプリケーターロールにより前記缶胴の周方向に2周以上重ね塗り状態で形成されている、塗装缶。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点5> 本件発明では、「重ね塗り状態の全体の塗膜は、その塗布量が65mg/dm2以上88mg/dm2以下であ」るのに対し、甲2発明では、被膜の塗布量が不明である点。 <相違点6> 本件発明では、「缶胴の周方向で塗布量のばらつきが±10%の範囲内で形成されている」のに対し、甲2発明では、缶胴の周方向における被膜の塗布量のばらつきが不明である点。 <相違点7> 本件発明の塗膜は、「ポリエステル系溶剤塗料、アクリル系水性塗料、アクリル系水性タクタイル塗料のうちのいずれかからなり」と特定されているのに対し、甲2発明の乾燥硬化塗膜層は、「ラッカー被膜が塗布され」たものである点。 エ 相違点6の検討 事案に鑑み相違点6から検討する。 甲2発明の缶は、「被膜の分布および厚さが均一に制御された」ものであるから、「缶胴の周方向で塗布量のばらつき」は、被膜の分布および厚さが均一になるように制御しない場合と比べればそのばらつきが小さいといえるが、その程度が±10%の範囲内であるか否かは不明であり、そのばらつきが±10%の範囲内とは限らず、例えば±20%かもしれないのであるから、相違点6は、実質的な相違点である。 また、甲2発明は、すでに「被膜の分布および厚さが均一に制御され」ているのだから、それにも関わらず、さらに均一にすることを動機づけるような記載や示唆は、甲1~3のいずれにもない。 また、仮にさらに均一にすることを動機づけられたとしても、甲2には、本件発明の特定のばらつきについても記載も示唆もないし、甲1、3についても、同様である。 そうすると、当業者といえども、甲2発明において、相違点6に係る事項を充足するものとすることを容易になし得たとはいえない。 オ 甲4~甲9の記載事項についての検討 甲4~甲9の記載から、ポリエステル系溶剤塗料やアクリル系水性塗料などを用いることが周知技術であるといえたとしても、甲2発明において、相違点6に係る事項を充足するものとすることを容易になし得たとはいえない。 カ 小括 以上のとおりであるから、相違点5、7について検討するまでもなく、本件発明は、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明及び甲1~甲9の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもない。 したがって、取消理由3または4(主たる引用文献等が甲2であるもの)によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。 (4)甲3を主引例とした取消理由 ア 甲3発明の認定 (ア)甲3には、円筒状中空体、例えば缶体の全周コーティングに当たり、中空体と塗布ローラを互いに転がし、ローラから中空体へ塗膜の転写を行うこと、中空体へのラッカーの塗布をできるだけ均一に密にするために、中空体がラッカーローラーで2回転する間と短いオーバーラップエリアが接触するように維持されること、中空体の全周ラッカー塗布におけるラッカー塗布プロセスでは、2周のラッカー塗装がもたらされること、ラッカー塗布は、比較的一定の厚さを有することが記載されている(前記第5の3の摘記(1)~(3)参照)。 (イ)そうすると、甲3から次の発明(以下、「甲3発明」という。)が認定できる。 (ウ)甲3発明 「円筒状中空体である缶体の全周がコーティングされており、前記コーティングは、中空体と塗布ローラを互いに転がし、ローラから中空体へ塗膜の転写を行うことにより形成され、中空体へのラッカーの塗布をできるだけ均一に密にするために、中空体はラッカーローラーで2回転され、2周のラッカー塗装がもたらされたものであり、ラッカー塗布は比較的一定の厚さを有するものである、缶体。」 イ 甲3発明と本件発明の対比 甲3発明と本件発明を対比する。 (ア)甲3発明の「缶体」は、「全周がコーティングされて」いるから、本件発明の「塗装缶」に相当する。 (イ)甲3発明において、「缶体の全周」に形成された「コーティング」は、本件発明の「缶胴外面上の塗膜」に相当する。 (ウ)甲3発明の「塗布ローラ」は、本件発明の「アプリケーターロール」に相当する。 (エ)甲3発明において、「前記コーティングは、・・・2周のラッカー塗装がもたらされたものであ」るから、本件発明の「前記缶胴の周方向に2周以上重ね塗り状態で形成されており」を充足する。 ウ 一致点及び相違点 そうすると、甲3発明と本件発明は、 「缶胴外面上の塗膜がアプリケーターロールにより前記缶胴の周方向に2周以上重ね塗り状態で形成されている、塗装缶。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点8> 本件発明では、「重ね塗り状態の全体の塗膜は、その塗布量が65mg/dm2以上88mg/dm2以下であ」るのに対し、甲3発明では、コーティングの塗布量が不明である点。 <相違点9> 本件発明では、「缶胴の周方向で塗布量のばらつきが±10%の範囲内で形成されている」のに対し、甲3発明では、缶胴の周方向におけるコーティングの塗布量のばらつきが不明である点。 <相違点10> 本件発明の塗膜は、「ポリエステル系溶剤塗料、アクリル系水性塗料、アクリル系水性タクタイル塗料のうちのいずれかからなり」と特定されているのに対し、甲3発明の「コーティング」は、「ラッカー」が塗布されたものである点。 エ 相違点9の検討 事案に鑑み相違点9から検討する。 甲3発明の缶は、「ラッカー塗布は比較的一定の厚さを有する」ものであるから、「缶胴の周方向で塗布量のばらつき」は、小さいといえるが、その程度が±10%の範囲内であるか否かは不明であり、そのばらつきが±10%の範囲内とは限らず、例えば±20%かもしれないのであるから、相違点9は、実質的な相違点である。 また、甲3発明において、すでに「ラッカー塗布は比較的一定の厚さを有する」にも関わらず、さらに均一にすることを動機づけるような記載や示唆は、甲1~3のいずれにもない。 また、仮にさらに均一にすることを動機づけられたとしても、甲3には、本件発明の特定のばらつきについても記載も示唆もないし、甲2、3についても、同様である。 そうすると、当業者といえども、甲3発明において、相違点9に係る事項を充足するものとすることを容易になし得たとはいえない。 オ 甲4~甲9の記載事項についての検討 甲4~甲9の記載から、ポリエステル系溶剤塗料やアクリル系水性塗料などを用いることが周知技術であるといえたとしても、甲3発明において、相違点9に係る事項を充足するものとすることを容易になし得たとはいえない。 カ 小括 以上のとおりであるから、相違点8、10について検討するまでもなく、本件発明は、甲3に記載された発明ではないし、甲3に記載された発明及び甲1~甲9の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもない。 したがって、取消理由3または4(主たる引用文献等が甲3であるもの)によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。 第7 取消理由通知で採用しなかった特許異議の申立理由について 取消理由通知で採用しなかった特許異議の申立理由は、申立理由2(サポート要件)である(上記第4参照。)。 1 申立理由2(サポート要件)の概要 申立理由2の概要は、以下のとおりである(特許異議申立書14頁4行~15頁7行)。 本件特許明細書には、本件発明の「塗膜」の「塗布量」を「65mg/dm2以上88mg/dm2以下」にすることについて記載がないし、焼き付け後の塗膜の塗布量を一定の数値範囲にする思想すら記載されていない。したがって、本件発明は、「前記重ね塗り状態の全体の塗膜は」、「その塗布量が65mg/dm2以上88mg/dm2以下であり、」という発明の詳細な説明に記載されていない構成を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものではない(以下、「申立理由2-1」ともいう。)。 また、表2によれば、周回数2回目のときの焼付後の塗膜の塗布量の最大値は80mg/dm2であってこれを超える値は記載されていないにも関わらず、本件発明の塗膜の塗布量の範囲(65mg/dm2以上88mg/dm2以下)には、これを超える値が含まれている。そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されていない態様を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものではない(以下、「申立理由2-2」ともいう。)。 2 判断手法 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである〔知財高裁、平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。 3 本件特許明細書の記載 本件特許明細書には、上記第6の2(2)に摘記した事項が記載されている。 4 検討 (1)本件発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落【0006】の記載によれば、「缶胴の円周上に均一に、かつ要求塗布量の塗膜を塗装する缶の塗装方法及び塗装缶を提供すること」であると認められる。 (2)また、上記課題を解決するための手段は、本件特許明細書の段落【0007】の記載によれば、「塗料供給部から供給された塗料を、グラビアロールを用いてアプリケーターロールの外周面に付着させ、前記外周面と前記缶胴外面とを当接させた状態で前記アプリケーターロールと前記缶とを互いに逆方向に転動させて、前記外周面上で前記缶を2周以上回転移動させることにより、前記外周面上に付着した前記塗料を前記缶胴外面に付着させて前記塗膜を形成する」ことである。 (3)また、上記手段によって課題を解決することができる理由について、「本発明の缶の塗装方法においては、アプリケーターロールの外周面上で缶の缶胴外面を2周以上回転移動させて重ね塗りしているので、アプリケーターロールの外周面上から缶の缶胴外面への塗料の移動を2回以上に分けて行うことができる。このため、アプリケーターロールに供給する塗料を過剰に増やすことなく、また著しく缶の回転速度を低下させることなく塗装を行うことができ、ミストの発生や塗装面の汚れの発生を防止できる。また、缶胴外面に少なくとも2回塗装を施すことから、塗り残しを生じさせることもない。」(段落【0008】)、「このように複数の周回に分けて塗装を行う場合において、缶の回転移動におけるアプリケーターロールから缶胴外面への塗料の転移量(塗布量)は、1周目が一番多く、周回を重ねて塗料を重ね塗りするごとに転移量が徐々に少なくなり、周回を重ねていくことで転移量が0に近づいて収束する。したがって、缶の回転移動の周回数を増やして、複数回に分けて缶胴外面に塗料を付着させることで、缶胴の円周上に均一に、かつ要求塗布量(膜厚)の塗膜を形成でき、美粧性の高い塗装缶を得ることができる。」(段落【0008】)、「アプリケーターロールの外周面上の塗料の塗布量t0よりも、缶胴外面に付着した塗膜の塗布量が大きくなった後においては、アプリケーターロールから缶胴外面への塗料の転移量が少なくなり、缶胴外面の塗膜の塗布量が均一化される。」(段落【0010】)、と記載されている。 (4)そして、上記記載のうち、「アプリケーターロールの外周面上の塗料の塗布量t0よりも、缶胴外面に付着した塗膜の塗布量が大きくなった後においては、アプリケーターロールから缶胴外面への塗料の転移量が少なくなり、」とは、周回を重ねていくことで缶胴外面の塗膜の塗布量が均一化されていく理由について、1周目に缶胴外面に付着した塗膜の塗布量が多いほど2周目に新たに付着する塗料の量が少なくなり(1周目に缶胴外面に付着した塗膜の塗布量が少ないほど2周目に新たに付着する塗料の量が多くなり)、また、2周目までに缶胴外面に付着した塗膜の塗布量が多いほど3周目に新たに付着する塗料の量が少なくなり(2周目までに缶胴外面に付着した塗膜の塗布量が少ないほど3周目に新たに付着する塗料の量が多くなり)、以下同様であるので、1周目の塗布の際に塗布量が不均一であったとしても、周回を重ねていくことでその差が縮まっていくことになるので、缶胴外面の塗膜の塗布量が均一化されることを説明しているものと理解できる。 (5)また、この説明は、一般に、アプリケーターロールの外周面上の塗料の量が多いほど缶胴外面に転移する塗料の量が多くなると予想でき、また、逆に、缶胴外面にすでに付着している塗料の量が多ければ多いほど缶胴外面にすでに付着している塗料がアプリケーターロールの外周面上に戻ってしまう傾向が強くなると予測できることを勘案すると、合理的なものであるといえる。 (6)そして、本件特許明細書(【表1】、【表2】参照)には、No.1~6の塗料を用いた実施例が記載されており、それぞれ、「APロール上の塗料の塗布量(mg/dm2)」が95、80、134、117、166、140であるところ、「1周目の塗料の転移量(mg/dm2)」は、75、67、107、95、133、116であって、1周目の塗料の転移量の多い順番とAPロール上の塗料の塗布量が多い順番とが一致していることや、段落【0039】の「表2からわかるように、アプリケーターロールから缶胴外面への塗料の転移量は、1周目が一番多く、周回を重ねて塗料を重ね塗りするごとに徐々に少なくなる。また、アプリケーターロールの外周面上の塗料の塗布量よりも、缶胴外面に付着した塗膜の塗布量が大きくなった2周目以降(3周目)においては、アプリケーターロールから缶胴外面への塗料の転移量が大幅に少なくなることが確認できた。」と記載されていることから、上記(4)で指摘した記載について上記(5)の理解が合理的なものであることが裏付けられている。 (7)また、本件特許明細書(【表3】、段落【0042】、【表4】、段落【0045】)には、「塗装の周回数の違いによる塗膜の塗布量差の目視確認」を行った結果や「缶胴外面上の塗膜の塗布量のばらつき」を評価した結果が記載されており、また、周回数が多いほど塗布量のばらつきが少なくなることが示されているから、上記(3)で指摘した記載も裏付けられている。 (8)そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。 5 申立人の主張について (1)申立理由2-1について 上記第6の3(4)イで説示したとおり、当初明細書等(本件特許の審査、審判の過程において、補正(訂正)されていないので、本件特許明細書及び図面の記載と一致する。)の記載に基づき、本件発明の「塗膜」(塗膜を塗布し焼き付けを行った後のもの)の塗布量の範囲は、自ずと所定の範囲内となるようにすることが求められているものである。したがって、焼き付け後の塗膜の塗布量を一定の数値範囲にする思想が記載されていないとはいえない。 また、上記第6の3(4)エで説示したとおり、当該所定の範囲として「65mg/dm2以上88mg/dm2」も記載されていたといえるものである。 そうすると、本件発明の「前記重ね塗り状態の全体の塗膜は」、「その塗布量が65mg/dm2以上88mg/dm2以下であり、」という構成が発明の詳細な説明に記載されていないとはいえないから、申立理由2-1は採用できない。 (2)申立理由2-2について 申立理由2-2は、サポート要件違反の理由として、周回数2回目のときに塗膜の塗布量が80mg/dm2以上88mg/dm2以下である場合について具体例が記載されていないことを指摘しているが、本件特許明細書には具体例以外の記載もあるから、具体例が記載されていないというだけでは、上記の場合が本件特許明細書に記載されていないと結論づけることはできない。 また、上記4(8)のとおり、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 そうすると、さらに検討するまでもなく、申立理由2-2も採用できない。 第8 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-701110

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