特許異議申立
2022-701053
亜鉛合金めっき鋼材及びその製造方法
- 審判番号
- 2022-701053
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-535239
- 登録番号
- 7060693
- 請求日
- 2022年10月25日
- 審決日
- 2024年03月04日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ポスコ カンパニー リミテッド
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【権利者代理人】原 裕子
- 【権利者代理人】大渕 一志
- 【権利者代理人】加藤 澄恵
- 【権利者代理人】弁理士法人共生国際特許事務所
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 池渕 立
- 審判官 相澤 啓祐
- 審判官 土屋 知久
- 分類
- P1651.121-Y (C23C) / P1651.536-Y (C23C) / P1651.537-Y (C23C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7060693号発明「亜鉛合金めっき鋼材及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7060693号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7060693号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願(特願2020-535239号。)は、2018年(平成30年)12月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2017年12月26日、2018年12月19日 大韓民国(KR))を国際出願日とする出願であって、令和 4年 4月18日にその特許権の設定登録がされ、同年 4月26日にその特許掲載公報が発行されたものである。
本件は、その後、令和 4年10月25日差出で特許異議申立人 中川 賢治(以下、「申立人」という。)により請求項1~5(全請求項)に係る特許に対してなされた特許異議申立事件である。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 4年10月25日提出 特許異議申立書(申立人)
令和 5年 3月 6日付け 取消理由通知書
同年 6月 7日提出 意見書(特許権者)
同年 8月 4日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年 8月16日提出 上申書(申立人)
同年10月20日 面接審理
同年11月 8日提出 意見書(特許権者)
同年12月 5日提出 上申書(申立人)
第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項1~5に係る発明をそれぞれ「本件発明1」~「本件発明5」といい、これらを総称して「本件発明」という。)。
「【請求項1】
素地鉄、及び前記素地鉄上に形成された亜鉛合金めっき層を含み、
前記亜鉛合金めっき層は、重量%で、Al:10~25%、Mg:5~20%、残りはZn及び不可避不純物を含み、
前記亜鉛合金めっき層は、Al固溶相、Zn固溶相、MgZn2合金相、Mg2Zn11合金相、及びAl-Mg-Zn共晶相のうち1つ以上を含み、
前記MgZn2合金相及びMg2Zn11合金相のうち1つ以上を面積分率で20~50%含み、
前記Zn固溶相は面積分率で31~47%であり、
前記Al固溶相及びAl-Mg-Zn共晶相の合計量は面積分率で80%以下である亜鉛合金めっき鋼材。
【請求項2】
前記亜鉛合金めっき層は、追加的に、Sr、Be、Ca、及びLiのうち1種以上を0.0005~0.009%含む、請求項1に記載の亜鉛合金めっき鋼材。
【請求項3】
素地鉄を設ける段階と、
前記設けられた素地鉄の表面歪度(Rsk)が-0.2~-1.2になるように調整する段階と、
前記素地鉄を、重量%で、Al:10~25%、Mg:5~20%、残りはZn及び不可避不純物を含むめっき浴に浸漬してめっきする段階と、
前記めっきされた素地鉄をワイピングして冷却する段階と、を含み、
前記素地鉄の浸漬温度は、前記めっき浴の温度の-10℃~+10℃の範囲を満たす、亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項4】
前記めっき浴は、追加的に、Sr、Be、Ca、及びLiのうち1種以上を0.0005~0.009%含む、請求項3に記載の亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項5】
前記めっき浴の温度は、融点よりも20~100℃高い、請求項3又は4に記載の亜鉛合金めっき鋼材の製造方法。」
第3 特許異議申立理由
申立人は、証拠方法として、次の甲第1~4号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲4」という。)を提出し、以下の申立理由1~4により、請求項1~5に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2010-100897号公報
甲第2号証:国際公開第2016/162982号
甲第3号証:特開2017-66523号公報
甲第4号証:本田和彦 外2名、「溶融Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Siめっき鋼板のめっき凝固組織」、日本金属学会誌、2008年、第72巻、第1号、p.51-56
1 申立理由1(サポート要件)
本件特許は、次の理由により、特許請求の範囲の記載が不備であるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(1)請求項1、2に記載の「亜鉛合金めっき層」、請求項3~5に記載の「めっき浴」は、「重量%で、Al:10~25%、Mg:5~20%、残りはZn及び不可避不純物を含」むものであれば、又は上記成分に加えて「追加的に、Sr、Be、Ca、及びLiのうち1種以上を0.0005~0.009%含む」ものであれば、上記成分以外に他の成分をさらに含有する「亜鉛合金めっき層」あるいは「めっき浴」を含むものであるが、耐食性や表面平滑性に悪影響を及ぼす元素を含む場合には、本件発明の課題を解決できないから、本件発明1~5は発明の課題を解決する手段が反映されていない。
(2)請求項1、2に記載の「亜鉛合金めっき層」は、「Al固溶相、Zn固溶相、MgZn2合金相、Mg2Zn11合金相、及びAl-Mg-Zn共晶相のうち1つ以上を含み、前記MgZn2合金相及びMg2Zn11合金相のうち1つ以上を面積分率で20~50%含み、前記Zn固溶相は面積分率で31~47%であり、前記Al固溶相及びAl-Mg-Zn共晶相の合計量は面積分率で80%以下である」ものであれば、他の構成相をさらに含有する「亜鉛合金めっき層」を含むものであるが、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明には、他の構成相を含む試験例は何ら記載されていないから、本件発明1、2は発明の詳細な説明に記載したものではない。
2 申立理由2(明確性要件)
本件特許は、次の理由により、特許請求の範囲の記載が不備であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(1)請求項1、2に記載の「亜鉛合金めっき層」、請求項3~5に記載の「めっき浴」は、「重量%で、Al:10~25%、Mg:5~20%、残りはZn及び不可避不純物を含」むものであれば、又は上記成分に加えて「追加的に、Sr、Be、Ca、及びLiのうち1種以上を0.0005~0.009%含む」ものであれば、上記成分以外に他の元素をさらに含有する「亜鉛合金めっき層」あるいは「めっき浴」を含むものであるが、他の元素としてどのような元素をどの程度含み得るのか明確でない。
(2)請求項1、2に記載の「亜鉛合金めっき層」は、「Al固溶相、Zn固溶相、MgZn2合金相、Mg2Zn11合金相、及びAl-Mg-Zn共晶相のうち1つ以上を含み、前記MgZn2合金相及びMg2Zn11合金相のうち1つ以上を面積分率で20~50%含み、前記Zn固溶相は面積分率で31~47%であり、前記Al固溶相及びAl-Mg-Zn共晶相の合計量は面積分率で80%以下である」ものであれば、他の構成相をさらに含有する「亜鉛合金めっき層」を含むものであるが、他の構成相としてどのような構成相をどの程度含み得るのか明確でない。
(3)請求項1に記載の「Al固溶相」、「Zn固溶相」、「Al-Mg-Zn共晶相」は、相互に判別する方法又は判別基準が不明であるから、「Al固溶相」、「Zn固溶相」、「Al-Mg-Zn共晶相」の面積分率は、どのような相や共晶相を特定することによって求めるのか明確でない。
3 申立理由3(委任省令要件)
本件特許は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、次の理由により特許法第36条第4項第1号の規定による委任省令で定めるところにより記載されたものではないから、取り消されるべきものである。
(1)請求項1、2に記載の「亜鉛合金めっき層」は、「Zn固溶相」を「面積分率で31~47%」含むものの、本件特許明細書の発明の詳細な説明からは、「Zn固溶相」の含有割合を「面積分率で31~47%」とする技術的意義が不明である。
(2)請求項3~5に記載の「素地鉄の表面歪度(Rsk)」は「-0.2~-1.2」であるものの、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、Rskが-0.01である発明例1について、表面平滑性に優れた亜鉛合金めっき鋼材が得られたことが開示されているから、「素地鉄の表面歪度(Rsk)」を「-0.2~-1.2」とする技術的意義が不明である。
4 申立理由4(進歩性)
本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明2は、甲1に記載された発明及び甲2、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許を受けることができないから、取り消されるべきものである。
第4 令和 5年 3月 6日付けで通知した取消理由の概要
当審は、上記第3の申立理由1(1)、(2)及び申立理由2(3)を採用し、また、申立理由4の判断を留保して、以下の取消理由1、2を通知した。取消理由の概要は以下のとおりである。
1 取消理由1(特許法第36条第6項第1号)
(1)亜鉛合金めっき層及びめっき浴の組成について
請求項1に記載の「亜鉛合金めっき層」は、「重量%で、Al:10~25%、Mg:5~20%、残りはZn及び不可避不純物を含」むものであれば、他の成分をさらに含有する「亜鉛合金めっき層」を含むものである。しかしながら、上記成分以外にSr、Be、Ca、Liを総量で0.0200重量%含有する比較例3は、本件発明1の発明特定事項を全て満たす例であるものの、本件発明が解決しようとする課題である「優れた耐食性を確保するとともに、表面平滑性に優れた亜鉛合金めっき鋼材及びその製造方法を提供すること」を解決できていないから、本件発明1は、上記課題を解決できるとはいえない態様を含むものである。
さらに、本件発明1~5は、上記のとおり、Al、Mg、Zn以外の他の成分をさらに含有し得る「亜鉛合金めっき層」又は「めっき浴」を含むものであるが、合金は含有成分とその含有割合によって得られる特性が大きく異なるという技術常識を考慮すると、Al、Mg、Zn以外に、どのような成分(Sr、Be、Ca、Li以外の成分も含む)をどのような含有割合で有する亜鉛合金めっき層又はめっき浴であっても上記課題を解決できるとは認められない。
したがって、本件発明1~5は、当業者が発明の詳細な説明の記載により発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。
(2)亜鉛合金めっき層の金属組織について
請求項1に記載の「亜鉛合金めっき層」は、「Al固溶相、Zn固溶相、MgZn2合金相、Mg2Zn11合金相、及びAl-Mg-Zn共晶相のうち1つ以上を含み、前記MgZn2合金相及びMg2Zn11合金相のうち1つ以上を面積分率で20~50%含み、前記Zn固溶相は面積分率で31~47%であり、前記Al固溶相及びAl-Mg-Zn共晶相の合計量は面積分率で80%以下である」ものであれば、他の構成相をさらに含有し得る「亜鉛合金めっき層」を含むものであるが、上記(1)で述べたとおり、「亜鉛合金めっき層」がAl、Mg、Zn以外の他の成分を含有する場合には、他の成分によってもたらされる他の構成相が含まれることとなり、耐食性、表面平滑性に影響を及ぼすことも考えられるため、Al、Mg、Zn以外の他の成分に起因するどのような他の構成相が形成された場合にも、「MgZn2合金相及びMg2Zn11合金相のうち1つ以上を面積分率で20~50%含み、前記Zn固溶相は面積分率で31~47%であり、前記Al固溶相及びAl-Mg-Zn共晶相の合計量は面積分率で80%以下」であれば、上記(1)の課題を解決できるとは認められない。
したがって、本件発明1、2は、当業者が発明の詳細な説明の記載により発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。
2 取消理由2(特許法第36条第6項第2号)
(1)請求項1の「Al固溶相」、「Zn固溶相」について
本件特許明細書には、他の成分がどの程度含まれるものまでを「Al固溶相」あるいは「Zn固溶相」とするのかについて記載がなく、Al、Mgを含有する溶融亜鉛めっき層において、Al初晶とはZnが含まれる組織であり、Znが50質量%より多く含まれる場合があることが知られているという技術常識を踏まえると、「Al固溶相」、「Zn固溶相」とは、それぞれAl、Zn以外に他の成分がどの程度の割合まで含まれるものを意味するのか明らかでない。
したがって、「Al固溶相」、「Zn固溶相」がどのような組織であるのか不明であるから、「Zn固溶相は面積分率で31~47%」、「Al固溶相及びAl-Mg-Zn共晶相の合計量は面積分率で80%以下」である事項がどのように確認されるのか不明である。
(2)請求項1の「Al-Mg-Zn共晶相」について
本件特許明細書には、「Al-Mg-Zn共晶相」の組織形状や含まれる成分について何ら記載はなく、Al-Mg-Zn共晶相と他の組織とを具体的にどのように区別するのか不明であるため、「Al固溶相及びAl-Mg-Zn共晶相の合計量は面積分率で80%以下」である事項がどのように確認されるのか不明である。
第5 令和 5年 8月 4日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
当審は、令和 5年 6月 7日提出の意見書によっても、上記第4の2に示した取消理由2(1)が解消していないため、本件発明1、2に係る特許を取り消すべきと判断し、以下の取消理由2を通知した。取消理由の概要は以下のとおりである。
なお、上記意見書における主張を踏まえ、上記第4の取消理由通知で判断を留保した上記第3の申立理由4(進歩性)については採用しないと判断した。
1 取消理由2(特許法第36条第6項第2号)
(1)請求項1の「Al固溶相」、「Zn固溶相」について
上記意見書の「5 意見の内容(4)特許法第36条第6項第2号」(第5~7頁)において、特許権者は、「本件特許明細書の記載から、出願時の技術常識を参酌し、当業者であれば、「Al固溶相」はAlを過剰に含むものであり、「Zn固溶相」はZnを過剰に含むものであることから、「Al固溶相」と「Zn固溶相」とは明確に区別し得る概念であると、理解することができる」と主張している。
しかしながら、どの程度の含有割合であれば「過剰に含む」と判断されるのか、「過剰」の基準が不明であり、依然として、「Al固溶相」、「Zn固溶相」がどのような組織であるのか不明であるから、「Zn固溶相は面積分率で31~47%」、「Al固溶相及びAl-Mg-Zn共晶相の合計量は面積分率で80%以下」である事項がどのように確認されるのかが不明である。
第6 当審の判断
当審は、以下のとおり、特許異議申立理由、令和 5年 3月 6日付けで通知した取消理由及び令和 5年 8月 4日付けで通知した取消理由(決定の予告)のいずれによっても、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 申立理由1(1)、(2)及び取消理由1(1)、(2)(サポート要件)について
(1)亜鉛合金めっき層及びめっき浴の組成について
ア 本件特許明細書には、「亜鉛合金めっき鋼材及びその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある(なお、下線は当審で付したものであり、「・・・」は記載の省略を示す。以下同様。)。
(ア)「【背景技術】
【0002】
鉄は、産業において最も多く用いられる素材のうちの一つであって、優れた物理的及び機械的な特性を有しているが、容易に酸化されて物理的及び機械的特性が低下するという問題がある。そのため、昔から鉄の酸化を防止する技術に対する研究がなされてきた。鉄の酸化を防止する方法のうちの一つとして、鉄よりも酸素との反応性が高い金属を保護膜として素材表面にコーティングすることにより、保護膜が鉄よりも先に酸化されて不動態を形成することで腐食を遅らせる方法が挙げられ、亜鉛又は亜鉛系皮膜を形成した亜鉛めっき鋼材を製造する方法が代表的である。
【0003】
上記亜鉛めっき鋼材、特に溶融亜鉛めっき鋼材は、製造工程が単純であり、且つ安価な製造コストにより、自動車、家電、建築用などとして多く用いられている。亜鉛は、鉄の一部が露出した場合、酸化電位がさらに高い亜鉛が先に溶解して犠牲防食作用を介して鉄を保護し、亜鉛の腐食生成物が緻密に形成されて腐食を抑制する作用をする。
【0004】
最近、腐食環境が日増しに悪化し、資源及びエネルギー節約の面から高度な耐食性の向上に多くの努力を傾けている。また、ここ最近、かかる努力の成果として、Mgを添加して耐食性を大幅に向上させる成果を得ている。代表的には、亜鉛を基本成分とするZn-Alの組成にMgを追加したZn-Al-Mg亜鉛合金めっき鋼材に関する研究が進められている。例えば、耐食性を改善させることを提案する特許文献1や、加工部耐食性を向上させることを提案する特許文献2などがある。
【0005】
しかし、上記のような亜鉛合金めっき鋼材の場合にも、水分との接触が常時懸念されたり、又は塩水環境などの劣化した環境では耐食性に限界があり、より優れた耐食性が要求されているのが実情である。
【0006】
一方、めっき鋼材の外観として、表面平滑性は、外側に露出したり、又は表面外観によって付加価値が上昇した場合には重要な価値を有する。めっき鋼材は、製造過程において発生する欠陥や凝固過程の自然的な現象など、様々な原因によって表面平滑性が劣化する。めっき鋼材の表面平滑性は、後続工程の製品にまで影響を与える。すなわち、めっき鋼材の表面平滑性が不良であると、塗装又はラミネート製品に凹凸を形成させる可能性がある。
【0007】
特許文献3では、Mgの酸化によって生成されるヘアラインによる表面平滑性の問題をめっき浴の成分組成及び酸素濃度を用いて調整するが、別の成分添加又は別の設備が必要とされるため、コストが高くなり、工程が複雑になるという問題がある。また、特許文献4は、Al系金属間化合物がめっき表面に構成されるようにすることで表面平滑性を向上させるものであるが、金属間化合物を形成するための様々な元素添加が原因となってドロスが形成され、金属間化合物が凹凸として作用して、逆に表面平滑性を阻害するという問題がある。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一課題は、めっき層の組成及び微細組織を最適化することにより、優れた耐食性を確保するとともに、表面平滑性に優れた亜鉛合金めっき鋼材及びその製造方法を提供することである。」
(イ)「【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の亜鉛合金めっき鋼材は、素地鉄、及び上記素地鉄上に形成された亜鉛合金めっき層を含む。上記素地鉄の種類は特に限定せず、本発明が属する技術分野において適用することができる素地鉄であれば十分である。例えば、熱延鋼板、冷延鋼板、線材、鋼線などが挙げられる。
【0015】
上記亜鉛合金めっき層は、亜鉛(Zn)をベースにし、Mg及びAlを含む。上記亜鉛合金めっき層は、重量%で、Al:10~25%、Mg:5~20%、残りはZn及び不可避不純物を含むことが好ましい。また、追加的に、Sr、Be、Ca、及びLiのうち1種以上が0.0005~0.009%含まれることができる。以下、各成分の組成範囲について詳細に説明する。
【0016】
アルミニウム(Al):10~25重量%(以下、%)
上記Alは、めっき浴の溶湯を製造する際に、Mg成分を安定化し、且つ腐食環境における初期腐食を抑制する腐食障壁としての役割を果たすものであって、Mgの含有量に応じてAlの含有量が異なり得る。上記Alの含有量が10%未満では、めっき浴の溶湯を製造する際に、Mgを安定化することができず、溶湯表面にMgの酸化物が生成されてその使用が難しくなる。これに対し、25%を超えると、めっき温度を上昇させ、めっき浴中に設置された各種設備の溶食が激しく発生するため好ましくない。
【0017】
マグネシウム(Mg):5~20%
上記Mgは、耐食性を発現する組織を形成する主成分であって、5%未満では耐食性の発現が十分でなく、20%を超えると、めっき浴のMg酸化物が多量に形成されるという問題があり、2次的に材質劣化及びコスト上昇などの様々な問題が発生する可能性があるため、上記Mgは5~20%を含むことが好ましい。
【0018】
一方、上記Al及びMgに加えて、Mg成分をさらに安定化させるために、追加的に、ストロンチウム(Sr)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、リチウム(Li)などを0.0005~0.009%さらに含むことが好ましい。0.0005%未満では、実質的なMg安定化効果を期待することが難しく、0.009%を超えると、めっき末期に凝固されて、先ず腐食が起こって耐食性を阻害する可能性があり、コスト上昇の問題もあるため好ましくない。
【0019】
上記合金組成に加えて、残りは亜鉛(Zn)及び不可避不純物を含む。但し、上記組成に加えて、有効な成分の添加を排除するものではない。」
(ウ)「【0020】
本発明の上記亜鉛合金めっき層は、MgZn2合金相、Mg2Zn11合金相、Al固溶相、Zn固溶相、Al-Zn-Mg共晶相などを含むことができる。上記固溶相とは、他の成分が固溶された相を意味するが、固溶されていない単相(single phase)も含む。
【0021】
本発明の亜鉛合金めっき層は、初晶として、MgZn2合金相又はAl固溶相が生成されることができる。その後続として、残りのMgZn2合金相、Mg2Zn11合金相、Al固溶相、Zn固溶相、Al-Zn-Mg共晶相などが発生することができる。すなわち、初晶がMgZn2合金相の場合には、後続として、Al固溶相、Mg2Zn11合金相、Zn固溶相、及びAl-Zn-Mg共晶相が生成され、初晶がAl固溶相の場合には、後続として、MgZn2合金相、Al固溶相、Mg2Zn11合金相、Zn固溶相、及びAl-Zn-Mg共晶相が生成される。上記相は、実質的に形成される非平衡状態で生成されるものであることができる。
【0022】
上記亜鉛合金めっき層は、上記MgZn2合金相及びMg2Zn11合金相を面積分率で20~50%含むことが好ましく、上記Al固溶相及びAl-Zn-Mg共晶相が面積分率で80%以下であること好ましい。残りはZn固溶相であることが好ましい。
【0023】
上記MgZn2合金相及びMg2Zn11合金相は、実質的に耐食性を発現する相であって、20%未満では、水分環境及び塩水環境においても優れた耐食性を常時確保するのに十分でなく、50%を超えると、耐食性が増加するものの、上記MgZn2合金相及びMg2Zn11合金相が硬質であるため、めっき層のクラックが発生する可能性が高くなる。
【0024】
一方、上記Al共晶相は、初期腐食障壁を形成し、凝固末期に形成されると推定されるAl-Zn-Mg共晶相は耐食性が発現されるが、その効果が大きくない。したがって、上記Al固溶相及びAl-Zn-Mg共晶相は、その合計量が80%を超えないことが好ましい。上記Al固溶相及びAl-Zn-Mg共晶相の合計量が80%を超えると、相対的にMgZn2合金相及びMg2Zn11合金相が減少して耐食性が低下する可能性がある。一方、上記Al固溶相及びAl-Zn-Mg共晶相は、組成又は非平衡状態の凝固により生成されなくてもよい。」
(エ)「【0025】
以下、本発明の亜鉛合金めっき鋼材を製造する一実施形態について詳細に説明する。
【0026】
本発明の亜鉛合金めっき鋼材を製造する方法は、素地鉄を設けた後、設けられた素地鉄の表面に核生成が有利な形状を付与してからめっき浴に浸漬し、ワイピング及び冷却を行うことで製造する。以下、各過程について説明する。
【0027】
上記素地鉄を設けた後、設けられた素地鉄の表面に核生成に有利な形状を付与する。上述した本発明の亜鉛合金めっき鋼材のめっき層を確保し、平滑な表面を確保するためには、めっきをする前に、素地鉄の表面に核生成に有利な形状を付与する。液相の合金金属が冷却されながら凝固核が生成される。上記凝固核は、熱力学的にギブス自由エネルギーが最も低い部位に形成される。凝固に伴うギブス自由エネルギーは、均一核生成よりも不均一核生成である際に有利であり、不均一核生成サイトの面積が大きいほど、核生成が有利であって多くの数の核生成となる。したがって、不均一核生成サイトを調整することにより、核生成の数を調整することができる。
【0028】
かかる面から、本発明は、素地鉄の表面に核生成に有利な形状を付与する必要がある。これは、表面歪度(Rsk)として表すことができる。上記Rskが0未満の場合には谷(valley)が支配的であり、Rskが0を超えると山(peak)が支配的な表面になる。本発明の亜鉛合金めっき鋼材は、MgZn2合金相及びMg2Zn11合金相の核生成数を増加させるために、上記素地鉄の表面歪度(Rsk)が-0.2~-1.2になるように調整する。上記Rsk(Roughness skewness)は、粗さパラメータのうちの一つであって、平均線に対するプロファイルの非対称性の方向とその程度を示す特性値であり、粗さを測定する装置を用いて確認することができる。
【0029】
上記表面歪度(Rsk)が-0.2未満の場合には、合金相の核生成が少なく、大きく形成されて表面凹凸が激しくなる。これに対し、表面歪度(Rsk)が-1.2を超えると、合金相の核生成がさらに微細になるか、又は増加しない。上記表面歪度(Rsk)が-0.2~-1.2となる形は、粗さの谷(valley)が深く、山(peak)は平坦な構造である。
【0030】
上記表面歪度(Rsk)を得るための方法は多様であり、直接成形法及び間接成形法に区別することができる。直接成形法は、素材表面に上記のような形を直接製作するものであって、一例として、酸(acid)を用いた溶解を挙げることができる。間接成形法は、代表的に粗さが付与された調質圧延ロールを用いて鋼材に圧力をかけて製作することができる。調質圧延ロールの粗さは、粗さを付与した後、山(peak)を研削するか、又は最初から谷(valley)が平坦になるようにすることができる。
【0031】
上記素地鉄は、めっき浴に浸漬して素地鉄の表面に亜鉛合金めっき層を形成する。上記めっき浴の組成は、重量%で、Al:10~25%、Mg:5~20%、残りはZn及び不可避不純物を含むことが好ましく、追加的に、Sr、Be、Ca、及びLiのうち1種以上を0.0005~0.009%含むことができる。上記めっき浴の合金組成範囲は、上述した亜鉛合金めっき層の合金組成範囲についての説明と変わらない。
【0032】
上記めっき浴の温度は融点に応じて異なり、上記融点はめっき浴の組成に依存する物理化学的特性である。上記めっき浴の温度を決定する要素は、作業利便性、加熱コスト、及びめっき品質など様々である。このような点を総合して考慮すると、上記めっき浴の温度は、融点よりも高くし、好ましくは融点より20~100℃高くする。
【0033】
一方、めっき浴に浸漬される素地鉄は、作業利便性や熱バランスなどを考慮して設定する。好ましくは、上記めっき浴温度の-10~+10℃とする。」
(オ)「【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。下記実施例は、本発明の理解のためのものに過ぎず、本発明の権利範囲を解釈するためのものではない。
【0035】
(実施例)
試験片として厚さ0.8mm、幅120mm、長さ200mmの低炭素鋼板(C:0.0014wt%、Mn:0.15wt%、P:0.05wt%、S:0.005wt%、Si:0.05wt%、残部Fe及び不可避不純物を含む)を設けた後、その表面の歪度(Rsk)を下記表1に示すように調整した。上記歪度(Rsk)は、鋼板表面の粗さを付与する方法により調整し、具体的には、ロール(roll)に粗さを付与し、上記ロール(roll)に上記鋼板を通過させるようにして鋼板に粗さが転写されるようにする方法を適用した。上記歪度(Rsk)は、ロールに粗さを付与する際に、粗さの谷(valley)及び山(peak)の形状及び形態を変更しながら調整した。
【0036】
設けられた試験片をめっき浴に浸漬し、下記表1のめっき層の組成を有する亜鉛合金めっき鋼材を製造した。このとき、めっき浴の温度は、めっき組成の融点に応じて異なるため、480~570℃の範囲に設定し、鋼板の浸漬温度は上記めっき浴の温度よりも10℃高くした。上記浸漬後に、めっき浴から上がってきた亜鉛合金めっき鋼材の表面をガスワイピングして、めっき付着量を片面70g/m3に調整し、常温までの平均冷却速度10℃/sで冷却して、亜鉛合金めっき鋼材を製造した。
【0037】
このように製造された亜鉛合金めっき鋼材試験片をEDS(energy dispersive x-ray spectroscopy)分析を介して相を同定し、XRD(X-ray diffraction)分析を介して相分率を測定した。その結果を下記表1に併せて示した。
【0038】
上記試験片に対して、耐食性、表面クラックの有無、及び凝固収縮深さを測定し、その結果を下記表2に示した。
【0039】
上記耐食性は、塩水噴霧試験を介して赤錆発生時間を付着量に分けて無次元化して耐食性指数として示した。上記塩水噴霧試験は、塩分5%、温度35℃、pH6.8、塩水噴霧量2ml/80cm2・1Hrの条件下で噴霧して行った。
【0040】
上記表面クラックは、180°屈曲して外側のめっき層をSEMで観察し、クラックが発生するか否かを確認した。一方、凝固収縮深さは、表面平滑性を確認するためのものであって、凝固収縮による深さを3次元形状で測定し、次の基準で評価した。
○:凝固収縮深さ0~2μm未満
△:凝固収縮深2~4μm未満
×:凝固収縮深4μm以上
【0041】
【表1】
[図:0001409078000001.jpg]
【0042】
【表2】
[図:0001409078000002.jpg]
【0043】
上記表2の結果から分かるように、本発明の条件を満たす発明例の場合には、優れた耐食性を有するとともに、表面クラックの発生がなく、表面平滑性に優れることが分かる。
【0044】
しかし、比較例1,2、及び5は、本発明のめっき層の組成は満たしているものの、素地鋼板の表面歪度を満たさない場合である。結果として、本発明で要求されるめっき層の組織を確保できず、耐食性及び表面平滑性が劣化したことが分かる。一方、比較例3及び4は、素地鋼板の条件は満たしているものの、めっき組成を外れた場合であって、耐食性が劣化しただけでなく、表面クラックが発生し、表面平滑性が劣化したことが分かる。」
イ 本件発明が解決しようとする課題は、上記ア(ア)の摘記事項によると、「めっき層の組成及び微細組織を最適化することにより、優れた耐食性を確保するとともに、表面平滑性に優れた亜鉛合金めっき鋼材及びその製造方法を提供すること」であると認められる(以下、単に「課題」という。)。
ウ これに対し、上記課題を解決するためには、上記ア(イ)、(ウ)の摘記事項(特に【0014】、【0016】、【0017】、【0019】、【0020】、【0022】、【0023】参照)からみて、亜鉛合金めっき鋼材の発明については、「亜鉛合金めっき鋼材」に含まれる「素地鉄、及び前記素地鉄上に形成された亜鉛合金めっき層」が、「重量%で、Al:10~25%、Mg:5~20%、残りはZn及び不可避不純物を含み、」かつ、「Al固溶相、Zn固溶相、MgZn2合金相、Mg2Zn11合金相、及びAl-Mg-Zn共晶相のうち1つ以上を含」んだ上で、「MgZn2合金相及びMg2Zn11合金相のうち1つ以上を面積分率で20~50%含」むという要件を備える必要があると認められる。
エ また、上記ア(エ)の摘記事項(特に【0026】~【0029】、【0031】参照)からみて、亜鉛合金めっき鋼材の製造方法の発明については、「亜鉛合金めっき鋼材の製造方法」が、「素地鉄を設ける段階と、前記設けられた素地鉄の表面歪度(Rsk)が-0.2~-1.2になるように調整する段階と、前記素地鉄を、重量%で、Al:10~25%、Mg:5~20%、残りはZn及び不可避不純物を含むめっき浴に浸漬してめっきする段階と、前記めっきされた素地鉄をワイピングして冷却する段階と、を含」むという要件を備える必要があると認められる。
オ そこで、本件発明について検討すると、本件発明1、2は上記ウに示した要件を備えているし、本件発明3~5は上記エに示した要件を備えているから、本件発明1~5は上記課題を解決できるものであり、上記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。
カ 一方、申立人は、令和 5年 8月16日提出の上申書の「3 上申の内容(2) サポート要件違反について(特許法第36条第6項第1号)」(第2、3頁)において、以下のとおり主張する。
(ア)令和 5年 3月 6日付け取消理由通知において審判官合議体が、本件発明1には、本件発明の課題を解決できるとはいえない比較例3を含むことを根拠にしてサポート要件違反を指摘したところ、特許権者は、令和 5年 6月 7日提出の意見書の第3頁第22行~第4頁第10行において、比較例3は他の比較例に比べて、耐食指数及び凝固収縮深さが良好な結果であり、耐食性及び表面平滑性を改善し得るものであるから、比較例3が請求項1に係る発明が解決しようとする課題を解決し得ることが裏付けられている主張をした。
(イ)しかし、そもそも、比較例3が、請求項1に係る発明が解決しようとする課題を解決し得ることを裏付けているかどうかは、比較例3と他の比較例とを対比するのではなく、本件の請求項1に係る発明を充足する発明例と対比することによって検討すべきであって、特許権者の主張は誤った主張というべきである。
キ 申立人の上記主張について検討すると、上記ア(オ)に摘記した表2に示されているとおり、比較例3の凝固収縮深さの評価は「△」であり、「×」ではない。凝固収縮深さの評価が「△」であるものは評価が「×」のものよりも優れているということができるから、凝固収縮深さの評価が「△」であることが直ちに表面平滑性に優れていないことを意味するとまでいうことはできない。
ク また、耐食指数の評価についても、合格となる基準は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていないものの、比較例3の耐食指数「28」は全ての発明例及び比較例の中で比較例2の「19」ほど悪くはないから、耐食指数が「28」であることをもって直ちに優れた耐食性を確保していないとまでいうことはできない。
ケ 申立人は、上記カの上申書において、「本件明細書の段落【0044】には、「比較例3及び4は、素地鋼板の条件は満たしているものの、めっき組成を外れた場合であって、耐食性が劣化しただけでなく、表面クラックが発生し、表面平滑性が劣化したことが分かる。」と記載されていることから、本件明細書は、比較例3が本件発明の課題を解決できていないことを示唆していると解釈できる。」とも主張する。
コ しかしながら、上記ア(オ)に摘記した表1、2から明らかなように、比較例3は本件発明1に含まれるため「めっき組成を外れた」ものではないし、「表面クラックが発生し」たものでもない。
そうすると、【0044】の比較例3に関する上記記載内容が、表1、2の比較例3の記載内容と整合していないことは明らかであり、【0044】の記載に錯誤が存在する可能性も否定できないから、比較例3が上記イに示した課題を解決できないことの根拠として【0044】の上記記載を採用することはできない。
以上のとおりであるから、申立人の主張はいずれも採用できない。
サ よって、本件特許の請求項1~5の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、取消理由1(1)及び申立理由1(1)によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
(2)亜鉛合金めっき層の金属組織について
ア 上記(1)ウに示したとおり、亜鉛合金めっき鋼材の発明が上記(1)イに示した課題を解決するためには、亜鉛合金めっき層の金属組織に関していえば、「Al固溶相、Zn固溶相、MgZn2合金相、Mg2Zn11合金相、及びAl-Mg-Zn共晶相のうち1つ以上を含」んだ上で、「MgZn2合金相及びMg2Zn11合金相のうち1つ以上を面積分率で20~50%含」むという要件を備える必要がある。
イ 上記(1)オで検討したとおり、本件発明1、2は上記アに示した要件を備えているから、本件発明1、2は上記課題を解決できるものであり、上記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。
ウ よって、本件特許の請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、取消理由1(2)及び申立理由1(2)によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(1)、(2)(明確性要件)について
(1)亜鉛合金めっき層及びめっき浴の組成について
ア 請求項1、2に記載の「亜鉛合金めっき層」、請求項3~5に記載の「めっき浴」は、少なくとも「重量%で、Al:10~25%、Mg:5~20%、残りはZn及び不可避不純物を含」むものであって、特定しない他の成分を含み得るという発明であるか、又は上記成分に加えて「追加的に、Sr、Be、Ca、及びLiのうち1種以上を0.0005~0.009%含む」ものであって、特定しない他の成分を含み得るという発明であるから、含み得る他の成分が特定されていないからといって、本件発明1~5は明確でないとはいえない。
イ 上記1(1)ア(イ)、(エ)の摘記事項(特に【0019】及び【0031】参照)からみても、請求項1、2に記載の「亜鉛合金めっき層」、請求項3~5に記載の「めっき浴」の組成が、請求項1~5に明示的には記載されていない成分を含み得ることは明らかであるから、本件発明1~5は明確でないとはいえない。
ウ よって、本件特許の請求項1~5の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえ、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、申立理由2(1)によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
(2)亜鉛合金めっき層の金属組織について
ア 請求項1、2に記載の「亜鉛合金めっき層」は、少なくとも「Al固溶相、Zn固溶相、MgZn2合金相、Mg2Zn11合金相、及びAl-Mg-Zn共晶相のうち1つ以上を含み、前記MgZn2合金相及びMg2Zn11合金相のうち1つ以上を面積分率で20~50%含み、前記Zn固溶相は面積分率で31~47%であり、前記Al固溶相及びAl-Mg-Zn共晶相の合計量は面積分率で80%以下である」ものであって、特定しない他の構成相を含み得るという発明であるから、本件発明1、2は明確でないとはいえない。
イ 上記1(1)ア(ウ)の摘記事項(特に【0020】参照)からみても、請求項1、2に記載の「亜鉛合金めっき層」の金属組織が、請求項1に記載のない構成相を含み得ることは明らかであるから、本件発明1、2は明確でないとはいえない。
ウ よって、本件特許の請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえ、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、申立理由2(2)によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由2(3)及び取消理由2(1)、(2)(明確性要件)について
(1)まず、請求項1に記載の「Al固溶相」、「Zn固溶相」について、特許権者は、令和 5年11月 8日提出の意見書(第2~5頁)において、「最も多く含まれる元素がAlであれば「Al固溶相」となる。「Zn固溶相」も「Al固溶相」と同趣旨の基準となる。」(5(3)ウ参照)及び「固溶相について説明する。本件特許明細書の段落【0020】には、「上記固溶相とは、他の成分が固溶された相を意味するが、固溶されていない単相(single phase)も含む。」と記載される。この記載から、請求項1の「Al固溶相」は、Alに他の成分が固溶された相、又はAlに他の成分が固溶されていない単相であるといえる。」(同オ参照)と主張しており、当該主張によって「Al固溶相」、「Zn固溶相」の定義が明確となった。
(2)次に、請求項1に記載の「Al-Mg-Zn共晶相」について、特許権者は、令和 5年 6月 7日提出の意見書(第7、8頁)において、「請求項1に記載の「Al-Mg-Zn共晶相」は、Zn、Al、MgZn2の3つの組織が互いに共存する形態のラメラ構造を有する相である。」と主張しており、当該主張によって「Al-Mg-Zn共晶相」の定義が明確となった。
(3)そして、「Al固溶相」、「Zn固溶相」、「Al-Mg-Zn共晶相」の定義が明確となったことにより、当業者であれば「Al固溶相」、「Zn固溶相」、「Al-Mg-Zn共晶相」の面積分率を求めることが可能となったといえるから、請求項1の「Zn固溶相は面積分率で31~47%」、「Al固溶相及びAl-Mg-Zn共晶相の合計量は面積分率で80%以下」という事項も確認できることとなった。
(4)一方、申立人は、令和 5年12月 5日提出の上申書の「3(2)(2-1)請求項1の「Al固溶相」、「Zn固溶相」について」(第2、3頁)において、上記(1)の特許権者の主張について、「その根拠は本件の当初明細書に何ら記載されていないし、また、(C)(当審注:「最も多く含まれる元素がAlであれば「Al固溶相」となる。「Zn固溶相」も「Al固溶相」と同趣旨の基準となる。」)を選択すること自体、これを技術常識ということはできない。」と主張する。
(5)そこで、甲4の記載事項を参照しつつ、上記(4)の申立人の主張について検討する。甲4には、「溶融Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Siめっき鋼板のめっき凝固組織」に関して、次の記載がある。
ア 「
[図:0001409078000003.jpg]
」(第53頁)
イ 「
[図:0001409078000004.jpg]
」(第53頁)
(6)上記(5)アの摘記事項に「Alの強度が強い組織は初晶として晶出したAl相組織・・・であると考えられる」とあるように、「Alの強度が強い組織」、すなわちAlが最も多く含まれる組織をAl相組織とすることは、従来から行われている事項であり、技術常識であるといえる。
(7)そして、Alに他の成分が含まれていても、Alの結晶構造が変化しない限りは「Al固溶相」であるといえるから、Al固溶相におけるAlの含有量はAlの結晶構造を維持できる量であればよく、最低限の基準として「最も多く含まれる元素がAlであ」ることを定めることには一定の合理性が認められる。
(8)したがって、上記(6)の技術常識を考慮すれば、上記(1)での特許権者の主張は是認できるから、上記(4)での申立人の主張を採用することはできない。
(9)また、申立人は、上記(4)の上申書の「3(2)(2-2)請求項1の「Al-Mg-Zn共晶相」について」(第3~5頁)において、「「Al-Mg-Zn共晶相」を他の相と区別する方法、具体的には、「Al-Mg-Zn共晶相」をZn含有相およびMgZn2と区別する方法が不明であるから、依然として、「Al固溶相およびAl-Mg-Zn共晶相の合計量は面積分率で80%以下」である事項がどのように確認されるかが不明であるとする取消理由は、解消されていない。」とも主張する。
(10)しかしながら、上記(3)において述べたとおり、「Al固溶相」、「Zn固溶相」、「Al-Mg-Zn共晶相」の定義は明確となったし、上記1(1)ア(オ)の摘記事項(特に【0037】参照)に記載のEDSは一般にSEMに付属されるものであるから、SEM像を適宜用いることにより、上記(5)イの摘記事項から明らかなように、ラメラ構造を有するか否かの点で、「Al-Mg-Zn共晶相」とその他の相とを区別することは可能である。
(11)したがって、各相の定義が明確となり、各相を区別することも可能であることを踏まえると、当業者であれば、EDS分析やXRD分析にSEM像を併用することによって各相の面積分率を求めることは可能であり、「Al固溶相およびAl-Mg-Zn共晶相の合計量は面積分率で80%以下」である事項を確認できるから、上記(9)での申立人の主張を採用することはできない。
(12)よって、本件特許の請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえ、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、申立理由2(3)及び取消理由2(1)、(2)によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由3(1)、(2)(委任省令要件)について
(1)委任省令要件は、請求項に係る発明の各発明特定事項の全てについて技術的意義を求めるものではなく、請求項に係る発明全体として技術的意義が認められればよい。
(2)上記1(1)イ~オにおいて検討したとおり、「Zn固溶相は面積分率で31~47%であり」という発明特定事項を備えるか否かにかかわらず、本件発明1、2は、「優れた耐食性を確保するとともに、表面平滑性に優れた亜鉛合金めっき鋼材」「を提供する」という課題を解決できるものであるし、「設けられた素地鉄の表面歪度(Rsk)が-0.2~-1.2になるように調整する段階」という発明特定事項を備える本件発明3~5も同様に課題を解決できるものであるから、本件発明1~5に技術的意義が認められることは明らかである。
(3)なお、上記1(1)ア(ウ)、(エ)の摘記事項(特に【0023】、【0027】~【0029】参照)からみて、「素地鉄の表面歪度(Rsk)が-0.2~-1.2になるように調整する」ことには、亜鉛合金めっき鋼材において、実質的に耐食性を発現する相であるMgZn2合金相及びMg2Zn11合金相の核生成数を増加させ、平滑な表面を確保するという技術的意義が存在すると認められる。また、Rskが-0.01である発明例1は、素地鉄の表面歪度(Rsk)が「-0.2~-1.2」の範囲内にない場合であっても、優れた耐食性を確保するとともに、表面平滑性に優れた亜鉛合金めっき鋼材を提供し得ることを示しているにすぎない。
(4)よって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえ、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるから、申立理由3(1)、(2)によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由4(進歩性)について
(1)甲1の記載
甲1には、「Zn-Al-Mg系めっき鋼板及びその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
ア 「【請求項1】
鋼板の少なくとも片面に、Alが4~15質量%、Mgが2~8質量%、残部が亜鉛および不可避的不純物からなるめっき層を有し、該めっき層に含有されるMg-Zn系化合物は、塊状で存在せず、めっき層と地鉄との界面近傍からめっき表層方向に柱状に成長して、めっき層表面に露出した柱状で存在し、そのめっき層表面における露出面積率が15~60%であることを特徴とするZn-Al-Mg系めっき鋼板。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、未塗装もしくは塗装して使用する建材、家電製品、自動車などに好適に用いることができ、特に、現実的な腐食環境である乾湿繰り返し環境において優れた耐食性を有する溶融Zn-Al-Mg系めっき鋼板及びその製造方法に関する。」
ウ 「【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛系めっき鋼板は優れた耐食性が比較的安価に得られることから、建材、家電製品、自動車などに幅広く用いられてきた。近年になって、耐食性の要求レベルが高度化するにつれて、亜鉛にAl、Mg、Siなどを添加した多元系合金めっきが開発された。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0005】
すなわち、従来技術においては、亜鉛にAl、Mg、Siなどを添加した多元系合金めっきでは、Mg-Zn化合物等が存在することで耐食性に優れるということが知られてきたが、現実的な腐食環境である乾湿繰り返し環境において、最も優れた耐食性を長期にわたって変動なく安定的に発現させるためには、耐食性に影響するMg-Zn系化合物をどのような存在形態でめっき層中に存在させることが最適であるかの公知技術や発明はなく、これまで耐食性に最適なめっき相設計には至っていなかったと言わざるを得ない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
Zn-Al-Mg系めっきは凝固の過程でAl初晶が発生成長し、続いてMg-Zn系化合物やZn-Mg-Alの三元共晶の析出が起こることが知られている。めっき層中でのMgは柱状および塊状のMg-Zn系化合物、またはラメラ構造を有するZn-Mg-Alの三元共晶中に存在している。
本発明者らは、従来技術の有する課題を抜本的に解決すべく、Zn-Al-Mg系めっきのめっき相構造と耐食性との関係について考察した。その結果、耐食性を最も長期にわたって変動なく安定的に発現させるためには、めっき層中におけるMg-Zn系化合物の存在形態を適切に制御すべきであることを知見した。」
エ 「【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、乾湿繰り返しの現実的な腐食環境において優れた耐食性を有する溶融Zn-Al-Mg系めっき鋼板を提供できる。」
オ 「【0014】
以下、本発明における各条件の限定理由について述べる。
本発明に至る過程で、まず種々のZn-Al-Mg系めっき鋼板を乾湿繰り返し試験(0.5%NaCl-35℃塩水噴霧試験:2時間→60℃30%RH乾燥:4時間→50℃-98%RH湿潤:2時間を1サイクルとする。以下、CCTという)環境で錆びさせた後で取り出し、めっき腐食断面および脱錆後の表面をSEM-EDX、X線回折(XRD)等の物理分析機器を用いた詳細観察を行った結果、めっき表層から腐食が進行する際に、明確なめっき相成分による腐食序列(以下、相間腐食序列という)が存在することに気づいた。この知見は本発明の骨子となるものである。
確認された相間腐食序列は、Zn-Mg相(Mg-Zn系化合物)>Al相(晶)>Al-Zn相>Zn-Al相>Zn相の順となっており、めっき表層にこれらのいくつかの相が混在して露出していると、上記相間腐食序列に沿って腐食が始まることがわかった。特にSST(塩水噴霧試験)環境下ではZn-Mg相の溶解(腐食)速度は速く、めっき表層にZn-Mg相が露出していると顕著であった。
ここでZn-Mg相とは、MgZn2もしくはMg2Zn11よりなる金属間化合物であり、何れか一方もしくはその両方であってもかまわないが、Mg含有率の高いMgZn2がより望ましい。」
カ 「【0018】
本発明のZn-Al-Mg系めっき鋼板は、図1に例示したようにAl晶(2)が、めっき層と地鉄との界面からめっき表層に向けて縦に析出し、Al晶(2)の周辺でMg-Zn系化合物(1)の柱状晶が形成されている。ただし、残部はZn-Al相やZn相等の混相からなる。図1において、白点線はMg-Zn化合物の柱状晶の外郭、矢印は柱状晶の太さを示している。
Zn-Al-Mg系めっきは凝固の過程で、まず、初期にAl晶が析出し、その後、遅れてAl晶の周辺にMg-Zn系化合物が析出するが、従来技術のZn-Al-Mg系めっき鋼板は、図2に示したようにAl晶(2)がめっき層と平行方向に樹枝状に析出するため、先に析出したAl晶に遮られて、Mg-Zn系化合物はめっき表層まで露出できず塊状晶(1)として存在する。
また、Al晶がめっき層と地鉄との界面近傍からめっき表層に向けて縦に析出する場合においても、Al晶があまり密に析出し過ぎると、遅れて析出するMg-Zn系化合物は、Al晶に遮られてめっき表層まで十分に析出できずに、めっき層中に析出してしまい、めっき表層の露出面積率が少なくなる。従って、Mg-Zn系化合物の柱状晶生成には先行して起きるAl晶の生成の仕方を制御する必要がある。
【0019】
本発明のZn-Al-Mg系めっきの組成をAl:4~15質量%の範囲に限定した理由は、Alが4質量%未満では、めっき層と地鉄との界面近傍からめっき表層方向へ向かって凝固したAl晶が十分に形成されず、めっき層中にMg-Zn系化合物が形成されるため、めっき表層に露出するMg-Zn系化合物の面積率が15%未満となり耐食性が不足するためである。一方、Alが15質量%超では、Al晶が多く析出し過ぎてAl晶に邪魔され、めっき表層に露出するMg-Zn系化合物の面積率が15%未満となるためである。Alのより好適な範囲は4.2~14.8質量%である。
Mgを2~8質量%の範囲に限定した理由は、Mgが2質量%未満では、Mg-Zn系化合物の析出量そのものが少な過ぎてめっき表層に露出するMg-Zn系化合物の面積率が15%未満となり、Mgが8質量%超では、Mg-Zn系化合物は必要量に十分な量が形成されるが、Mg-Zn系化合物のめっき表面に露出した面積率が60%超となってしまい、好ましくないためである。更に本発明のZn-Al-Mg系めっきのより好適なMgの範囲は3~7質量%である。」
キ 「【実施例】
【0029】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
板厚1.6mmの熱延鋼板を塩酸を用いて脱スケールし、25質量%硫酸ニッケル浴を用いて、電気めっきにてNiめっきの付着量を変化させた。その後で所定の酸水溶液処理を行い、続いて、水素濃度6%の窒素雰囲気下で酸水溶液処理後のNiめっき鋼板を所定の板温に加熱して、所定温度の溶融Zn-Al-Mg系めっき浴に3秒間浸漬し、めっき付着量を窒素ガスワイピング方式で制御して所定量の付着量とし、直後にエアーワイピング方式で冷却して作製し、サンプル材とした。
【0030】
1)Zn-Al-Mg系めっき層中のMg-Zn系化合物の結晶成長状態の観察:
Zn-Al-Mg系めっき層中のMg-Zn系化合物の結晶形態は、事実上めっき層と地鉄との界面近傍からめっき表層に向かって成長した柱状晶(図1-aの符号1で示した結晶形状のもの、および柱状晶が斜めに切り出されたものは図1-bの太線で示した六角状のもの)ないし、めっき層内に点在した塊状晶(図2の符号1に示した結晶形状のもの)のどちらかに分類される。
めっき層の300倍の電子顕微鏡写真を断面から、めっき層の長さ方向に1mm分連続して撮影した写真を連続に繋ぎ合わせて、Mg-Zn系化合物の存在状態がめっき層と地鉄との界面近傍からめっき表層に向かって成長した柱状晶か、または柱状晶とめっき層内に点在した塊状晶の混在かを目視で確認した。
【0031】
2)めっき層表面に露出したMg-Zn系化合物の測定法:
i )めっき層表面に露出したMg-Zn系化合物の同定
めっき表面に露出したMg-Zn系化合物の同定およびその面積測定は、SST:1~3日の脱錆後が好適である。腐食時間が3日を越すと、Mg-Zn系化合物に加え、Al初晶の腐食も起こりだすため、面積測定精度が低下する。したがって、SST:3日後に25℃の2%クロム酸アンモニウム-5%アンモニア水溶液に2分浸漬して腐食層を除去し、めっき層表面に露出したMg-Zn系化合物を表面から電子顕微鏡を用いて、100倍で写真撮影した。
ii)めっき層表面に露出したMg-Zn系化合物面積率の算出方法
前述の100倍の電子顕微鏡写真を各サンプルでN5用いて、市販の画像解析ソフトを用いて、めっき表面に露出したMg-Zn化合物の面積を測り、平均値を求める。面積率は下記で算出した。
面積率=Mg-Zn化合物の露出面積のN5平均値/観察視野面積×100(%)
【0032】
3)乾湿繰り返し環境での耐食性の評価:
めっき材を70×15mmに切断し、端面を防錆塗料でシールし、(0.5%NaCl-35℃塩水噴霧試験:2時間→60℃30%RH乾燥:4時間→50℃-98%RH湿潤:2時間を1サイクルとする)複合腐食サイクル試験を150サイクル実施した後、めっき層の腐食層を25℃の2%クロム酸アンモニウム-5%アンモニア水溶液に2分浸漬して除去し、前後の重量差から腐食重量を各サンプルでN3試験し測定した。
評点記号と耐食性の良否の関係は○、◎が良好、×、△が不良。
◎:腐食減量≦25g/m2
○:25g/m2超~50g/m2以下
△:50g/m2超~75g/m2以下
X:75g/m2超
【0033】
結果を次の表1(表1-1~表1-4)のように示す。この表1から明らかなように、本発明の実施例(No.1~54)は、いずれも乾湿繰り返し環境での耐食性が良好な結果を示した。一方、比較例(No.55~84)の場合は、いずれの例も乾湿繰り返し環境での耐食性で良好な評価結果が得られなかった。
【0034】
【表1ー1】
[図:0001409078000005.jpg]
【0035】
【表1ー2】
[図:0001409078000006.jpg]
【0036】
【表1ー3】
[図:0001409078000007.jpg]
【0037】
【表1ー4】
[図:0001409078000008.jpg]
」
ク 「【図1】
[図:0001409078000009.jpg]
」
(2)甲1に記載の発明
上記(1)ア、オの摘記事項によれば、甲1には次の発明が記載されていると認められる。
「鋼板の少なくとも片面に、Alが4~15質量%、Mgが2~8質量%、残部が亜鉛および不可避的不純物からなるめっき層を有し、該めっき層に含有される、MgZn2もしくはMg2Zn11よりなる金属間化合物であるMg-Zn系化合物は、塊状で存在せず、めっき層と地鉄との界面近傍からめっき表層方向に柱状に成長して、めっき層表面に露出した柱状で存在し、そのめっき層表面における露出面積率が15~60%であることを特徴とするZn-Al-Mg系めっき鋼板。」(甲1発明)
(3)甲2の記載
ア 「[請求項1]
Alを4~22質量%、Mgを1.0~6.5質量%かつ質量%でAlの1/2以下、Siを0.001~1.000質量%、並びに、残部としてZnおよび不純物を含むめっき層を有し、
前記めっき層の組織は、面積率が30~70%で、かつ第二軸間隔が0.5~2.0μmのセルラーデンドライト状の第1のAl初晶と、合計した面積率が30~70%であり、主軸長さが5~10μm、第二軸間隔が0.5~2.0μmの微小等軸デンドライト状の第2のAl初晶及び主軸長さが0.5~3.0μmの花弁状の第3のAl初晶と、を含むAl初晶を有し、前記Al初晶以外の組織が、AlとZnとMg2Zn11との三元共晶組織で構成されているZn-Al-Mg系めっき鋼板。」
イ 「[0001]
本発明は、Zn-Al-Mg系めっき鋼板、及びZn-Al-Mg系めっき鋼板の製造方法に関する。」
ウ 「[0024]
・・・そして、本発明の目的とするところは、従来の組成でありながら、上記特許文献1~2、4~12に代表される従来製品よりも、耐食性に優れ、かつ加工性に優れた微細結晶構造からなり、さらに耐食性が安定的に維持されるZn-Al-Mg系めっき鋼板、及びZn-Al-Mg系めっき鋼板の製造方法を提供することである。また、上記特許文献3における、特殊な前処理と設備構成で得られる耐食性と同等な耐食性を、一般的なめっきライン構成により、容易に得ることが可能で、さらに耐食性が安定的に維持されるZn-Al-Mg系めっき鋼板、及びZn-Al-Mg系めっき鋼板の製造方法を提供することである。」
エ 「[0032]
本発明によれば、耐食性に優れ、耐食性が安定的に維持されるZn-Al-Mg系めっき鋼板、及びZn-Al-Mg系めっき鋼板の製造方法を提供することができる。そして、本発明のめっき鋼板を、家庭電気製品、建材等に使用することで、長期間の使用に耐える製品とすることができる。」
オ 「[0042]
不純物は、鋼板自体に含まれていたり、めっき前の工程で鋼板に付着し、めっき後にめっき層に拡散して混入したりする成分、または、めっき浴中に含まれ、めっきの過程でそのままめっき層に残存する成分であって、意図的にめっき層に含有させたものではない成分を指す。具体的に、不純物としては、例えば、Pb、Sb、Co、Cu、In、Bi、Be、Zr、Ca、Sr、Y、Ce、Hfが例示される。そして、不純物の含有量は、0.0010質量%以下であることがよい。」
(4)甲3の記載
ア 「【請求項1】
鋼材と、前記鋼材の表面に配されたAl-Fe合金層及びAl-Mg合金層を含むめっき層とが備えられ、
前記Al-Fe合金層は、前記鋼材表面に形成され、厚さが100nm以上15μm以下であり、
前記Al-Mg合金層は、前記Al-Fe合金層上に形成され、平均円相当径が1μm超の準結晶相と、前記準結晶相内に分散した結晶粒径2μm以下のAl相とを含む共晶組織が5体積%以上含有され、
前記Al-Mg合金層の化学成分組成が、質量%で、
Zn:5%~83%、
Mg:2.5%~35%、
Ca:0%~5%、
Y :0%~3.5%、
La:0%~3.5%、
Ce:0%~3.5%、
Si:0%~10%、
Cr:0%~2.5%、
Ti:0%~2.5%、
Ni:0%~2.5%、
Co:0%~0.5%、
V :0%~0.5%、
Nb:0%~0.5%、
Cu:0%~2.5%、
Sn:0%~2.5%、
Fe:0%~3%、
Mn:0%~2.5%、
Sr:0%~0.5%、
Sb:0%~0.5%、
Pb:0%~0.5%
を含有し、Ca+Y+La+Ce≦5を満たし、残部がAl及び不純物からなるAl-Mg系溶融めっき鋼材。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性及び加工性に優れたAl-Mg系溶融めっき鋼材に関する。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、耐食性及び加工性を飛躍的に向上させたAl-Mg系溶融めっき鋼材を提供することである。」
エ 「【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐食性及び加工性に優れたAl-Mg系溶融めっき鋼材を提供できる。」
オ 「【0033】
<Ca>0~5%
CaはAlと同様に準結晶の形成に大きく影響を与える元素である。CaはMgと原子半径が近いことから、準結晶相中でMgの位置に置換する。Caは添加しなくても準結晶相は形成できるが、好ましくは0.1%以上は添加するとよい。また、Caが5%を超えると、耐食性が劣る金属間化合物相が形成する。また、めっき層の凝固時の冷却速度が速い場合は、非平衡相の一種であるアモルファス相が形成する。さらに、平面耐食性、Zn系塗料に対しての適性も低下する傾向にある。よって、Caの上限濃度を5%以下とする。」
カ 「【0046】
<Sr:0%~0.5%、Sb:0%~0.5%、Pb:0%~0.5%>
Sr、Sb、Pbは、めっき外観を向上させる元素である。この効果を得るために、めっき層のSr含有量を0%~0.5%とし、Sb含有量を0%~0.5%とし、Pb含有量を0%~0.5%としてもよい。Sr含有量、Sb含有量、およびPb含有量が上記範囲である場合、耐食性への影響はほとんどない。」
(5)本件発明1と甲1発明との対比・判断
ア 対比
(ア)甲1発明の「鋼板の少なくとも片面に、Alが4~15質量%、Mgが2~8質量%、残部が亜鉛および不可避的不純物からなるめっき層を有」「するZn-Al-Mg系めっき鋼板。」は、本件発明1の「素地鉄、及び前記素地鉄上に形成された亜鉛合金めっき層を含」む「亜鉛合金めっき鋼材」に相当する。
(イ)甲1発明の「MgZn2もしくはMg2Zn11よりなる金属間化合物であるMg-Zn系化合物」が「めっき層に含有される」は、本件発明1の「前記亜鉛合金めっき層は、Al固溶相、Zn固溶相、MgZn2合金相、Mg2Zn11合金相、及びAl-Mg-Zn共晶相のうち1つ以上を含み、」に相当する。
(ウ)上記(ア)、(イ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点において一致するとともに、以下の相違点において相違する。
<一致点>
「素地鉄、及び前記素地鉄上に形成された亜鉛合金めっき層を含み、前記亜鉛合金めっき層は、Al固溶相、Zn固溶相、MgZn2合金相、Mg2Zn11合金相、及びAl-Mg-Zn共晶相のうち1つ以上を含む亜鉛合金めっき鋼材。」である点。
<相違点1>
亜鉛合金めっき層の組成に関して、本件発明1は、「重量%で、Al:10~25%、Mg:5~20%、残りはZn及び不可避不純物を含」むものであるのに対し、甲1発明は、「Alが4~15質量%、Mgが2~8質量%、残部が亜鉛および不可避的不純物からなる」ものである点。
<相違点2>
亜鉛合金めっき層に含まれる相の面積分率に関して、本件発明1は、「MgZn2合金相及びMg2Zn11合金相のうち1つ以上を面積分率で20~50%含み、」「Zn固溶相は面積分率で31~47%であり、」「Al固溶相及びAl-Mg-Zn共晶相の合計量は面積分率で80%以下である」のに対し、甲1発明は、各相の面積分率が不明である点。
イ 判断
(ア)まず、相違点1について検討する。上記(1)キに摘記した表1-1には、「Alが11mass%、Mgが5mass%、残部が亜鉛および不可避的不純物からなるめっき層」(No.34)及び「Alが11mass%、Mgが8mass%、残部が亜鉛および不可避的不純物からなるめっき層」(No.35)を有するZn-Al-Mg系めっき鋼板が記載されている。
(イ)そうすると、甲1発明において、「Alが4~15質量%、Mgが2~8質量%、残部が亜鉛および不可避的不純物からなるめっき層」の組成の中から、「Alが11質量%、Mgが5質量%、残部が亜鉛および不可避的不純物からなるめっき層」又は「Alが11質量%、Mgが8質量%、残部が亜鉛および不可避的不純物からなるめっき層」の組成を選択し、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を備えるものとする動機付けはあるといえる。
(ウ)次に、相違点2について検討する。上記(1)クに摘記した図1(a)について、申立人は、特許異議申立書(第26~29頁)において、市販の画像処理ソフトを用いてAl晶及びZn-Mg相の面積分率を求め、Al晶及びZn-Mg相以外の残りの領域(Zn-Al相やZn相の混相)の面積分率を、100(%)-(Al晶(%)+Zn-Mg相(%))により求め、結果を以下の表Aに示している。
(エ)「
[図:0001409078000010.jpg]
」
(オ)しかしながら、甲1には、上記(1)クに摘記した図1(a)の電子顕微鏡写真が、No.1~54の実施例のうち、いずれのものであるかについては記載されていない。
そうすると、上記(ア)、(イ)での検討に基いて、甲1発明におけるめっき層の組成として、No.34又はNo.35のものを選択したとしても、めっき層に含まれる各相の面積分率が上記(エ)に摘記した表Aのとおりとなるかは不明である(なお、上記(1)カの摘記事項(特に【0018】参照)には、「残部はZn-Al相やZn相等の混相からなる」と記載されているため、「Zn-Al相やZn相の混相」の面積分率が38.5%であるといえるかは不明である。)。
(カ)また、甲1には、めっき層に含まれる各相(特に上記(エ)に摘記した表Aに示される「Al晶」、「Zn-Mg相」、「Zn-Al相やZn相の混相」)の面積分率を、それぞれ特定の範囲に設定することは記載されていないから、甲1発明において、当該面積分率を上記表Aに示されたものとする動機付けはないというべきである。
(キ)仮に、甲1発明において、当該面積分率を上記表Aに示されたものとする動機付けがあるとしても、本件発明1は、上記1(1)ア(オ)に摘記したとおり、凝固収縮深さが4μm未満の優れた表面平滑性を有するという、当業者が予測できる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
(ク)したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を備えるものとすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(ケ)よって、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件発明2について
ア 本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
イ 上記(5)で検討したとおり、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、甲2、3にも、上記(5)ア(ウ)に示した、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項に関する記載は存在しないから、本件発明2は、甲1発明及び甲2、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)まとめ
よって、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件発明2は、甲1発明及び甲2、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、いずれも特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由4によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立理由及び取消理由によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-701053