特許異議申立
2023-701012
めっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板及びその製造方法
- 審判番号
- 2023-701012
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-529848
- 登録番号
- 7244728
- 請求日
- 2023年09月22日
- 審決日
- 2024年04月30日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ポスコ カンパニー リミテッド
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【権利者代理人】原 裕子
- 【権利者代理人】大渕 一志
- 【権利者代理人】加藤 澄恵
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 粟野 正明
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1651.537-Y (C23C) / P1651.121-Y (C23C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7244728号発明「めっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7244728号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7244728号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願(特願2021-529848号。以下、「本願」という。)は、2019年(令和 1年)11月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:2018年11月28日、2019年11月21日 大韓民国(KR))を国際出願日とする出願であって、令和 5年 3月14日にその特許権の設定登録がされ、同年 3月23日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 5年 9月22日に、その請求項1~6(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である中川 賢治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年11月17日付けで取消理由が通知され、令和 6年 2月20日に特許権者から意見書が提出され、同年 3月 5日に特許権者から手続補正書(乙第2号証の抄訳を提出)が提出されたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~6に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の請求項1~6に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明6」といい、総称して「本件特許発明」という。
「【請求項1】
素地鋼板と、前記素地鋼板の少なくとも一面に形成された厚さ20~40μmの亜鉛めっき層と、を含み、
前記亜鉛めっき層は、重量%で、アルミニウム(Al):5.1~35.0%、マグネシウム(Mg):4.0~25.0%、残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含み、
前記素地鋼板と亜鉛めっき層との界面に、厚さ0.01~15μm、かつ、厚さの偏差0.01~3μmであるAl-Fe抑制層を含み、
前記亜鉛めっき層は、Feの含量が40~95%である第1領域と、Feの含量が0.01%以上~40%未満である第2領域と、を含み、
前記第2領域は、前記亜鉛めっき層の表層部に面積分率0.01~40%で形成されており、
前記亜鉛めっき層は表面粗さ(Ra)が3~4μmである、めっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記亜鉛めっき層は、重量%で、アルミニウム(Al):11~15%、マグネシウム(Mg):5.1~9.0%、残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含む、請求項1に記載のめっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
重量%で、アルミニウム(Al):5.1~35.0%、マグネシウム(Mg):4.0~25.0%、残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含む亜鉛めっき浴を準備する段階と、
前記亜鉛めっき浴に素地鋼板を浸漬し、めっきを行って亜鉛めっき鋼板を製造する段階と、
前記亜鉛めっき鋼板を、230~270℃まで0.01~5℃/sの冷却速度で1次冷却する段階、及び前記1次冷却された亜鉛めっき鋼板を、常温まで0.05~20℃/sの冷却速度で2次冷却する段階により冷却する段階と、を含み、
前記亜鉛めっき浴の温度は555℃超過~600℃未満であり、前記素地鋼板の引込温度は565℃超過~600℃未満であり、
前記素地鋼板の引込温度は前記亜鉛めっき浴の温度に比べて5~20℃高く、
前記2次冷却速度は、1次冷却速度より大きく、
前記冷却された亜鉛めっき鋼板は20~40μmの亜鉛めっき層の厚さを有する、めっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記冷却はガスを噴射して行う、請求項3に記載のめっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記冷却を行う前に、前記亜鉛めっき鋼板をガスワイピングする段階をさらに含む、請求項3に記載のめっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記亜鉛めっき浴は、重量%で、アルミニウム(Al):11~15%、マグネシウム(Mg):5.1~9.0%、残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含む、請求項3に記載のめっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板の製造方法。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記4の甲第1号証(以下、「甲1」という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1(サポート要件;取消理由として不採用)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、下記(1)~(3)の点で、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(1)本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0008】の記載からすると、本件特許発明が解決しようとする課題は、一定水準のFeの溶出によりめっき層の摩擦特性が向上し、優れた耐腐食性を有する亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を提供することにあるところ、合金においては、含有成分とその含有割合によって得られる特性が大きく異なるという技術常識を考慮すると、Al、Mg、Zn及び不可避的不純物に加えて、他の元素をさらに含有する亜鉛めっき浴が含まれる本件特許発明3~6は、上記課題を解決できるものとはいえない。
(2)本件特許発明3~6には、Al、Mg、Zn及び不可避的不純物に加えて、さらにFeを含有するめっき浴が含まれることから、該Feを含有するめっき浴中に鋼板を浸漬することによって製造される亜鉛めっき層には、めっき浴に由来するFeと、鋼板に由来するFeの両方が含まれ得るところ、このような亜鉛めっき層において、Feの含量が0.01%以上40%未満である第2領域の面積分率が40%以下となるかは、実験例によって証明する必要があるが、本件明細書の発明の詳細な説明には、Feを含むめっき浴を用いて製造された亜鉛めっき鋼板の摩擦特性および耐腐食性を評価した試験例は記載されていない。
(3)本件明細書の【表1】に記載された「発明例2」について、めっき浴において4%の割合で含まれていたMgは、鋼板から拡散(溶出)して混入したFeによって、亜鉛めっき層における含有量が4%未満になるため、上記「発明例2」の亜鉛めっき鋼板は、請求項1を満足しない蓋然性があるから、本件特許発明が解決しようとする課題を解決できない可能性がある。
2 申立理由2(明確性;取消理由として採用)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2の記載は、Al-Fe抑制層の厚さおよび厚さの偏差の測定方法が不明であり、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(進歩性;取消理由として不採用)
本件特許発明1、3~5は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
4 証拠方法
甲1:韓国公開特許第10-2015-0074975号公報
第4 取消理由の概要
当審は、上記第3の各申立理由のうち、申立理由2を採用して、令和 5年11月17日付けで以下の取消理由1を通知した。
1 取消理由1(明確性)
本件特許の請求項1に記載された「Al-Fe抑制層」について、「厚さ0.01~15μm」、「厚さの偏差0.01~3μm」の意味するところを当業者が明確に把握することは、困難であるといえる。請求項1を引用する請求項2の記載についても同様である。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないものであり、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
第5 当審の判断
1 取消理由1(明確性)、及び申立理由2(明確性)について
(1)請求項1の「Al-Fe抑制層」の「厚さ」、及びその「偏差」について
ア 上記第2に摘記したとおり、本件特許の請求項1には、「前記素地鋼板と亜鉛めっき層との界面に、厚さ0.01~15μm、かつ、厚さの偏差0.01~3μmであるAl-Fe抑制層を含み」との記載がある。
イ そして、本件明細書には、亜鉛めっき鋼板におけるAl-Fe抑制層の厚さ、及びその偏差に関して、以下の記載がある。
(ア)「【0029】
本発明の亜鉛めっき鋼板は、上記素地鋼板と亜鉛めっき層との界面に厚さ0.01~15μmのAl-Fe抑制層を含むことができ、上記Al-Fe系抑制層はFeAl3合金相であることが好ましい。
【0030】
具体的に、上記Al-Fe系抑制層は、素地鉄とめっき層との間に介在し、素地鉄と合金めっき層との密着力を与える役割を果たすことができる。特に、亜鉛めっき鋼板の加工時に、上記Al-Fe系抑制層がめっき層の剥離を予防することで、加工性をより向上させる効果も得られる。
【0031】
一方、上記Al-Fe抑制層は、厚さ偏差が0.01~3μmを満たすことが好ましい。Al-Fe抑制層の厚さ偏差が3μmを超える場合には、抑制層が不連続的に形成され、抑制層によるめっき密着性の効果が十分に得られない。上記Al-Fe抑制層の厚さ偏差は0であることが最も好ましいが、本発明は、後述のように素地鉄からめっき層中にFeが拡散されるため、これを考慮して、上記厚さ偏差の下限を0.01μmに制限することができる。」
(イ)「【0034】
図1を参照して説明すると、発明例を示す図面において、素地鉄とめっき層との界面において連続的に暗く見える部分が第1領域であり、それを除いためっき層の表層までの残りの領域が第2領域である。」
(ウ)「【0059】
【表1】
[図:0001410233000001.jpg]
」
(エ)「【0066】
図1に示したように、発明例1と比較例5は、いずれも素地鉄とめっき層との間にFe-Al抑制層が存在し、めっき層中へのFe拡散が起こったことが確認できる。ところが、上記比較例5は、Feの拡散が起こると同時に、Fe-Al抑制層が不連続的に形成されることにより、めっき密着力が低下するものと予測される。」
ウ ここで、上記イ(ア)~(エ)に摘記した本件明細書の記載を参照しても、上記Al-Fe抑制層の厚さ及びその偏差の測定方法、並びに上記偏差を算出するための基準値(例えば、平均値、中央値)は、明らかではない。
エ この点、特許権者は、令和 6年 2月20日提出の意見書において、亜鉛めっき鋼板における層の厚さを求める方法として、「金属材料を切断し、その断面においてSEM観察を行って、SEM観察像から特定の層の厚さを複数箇所で測定し、当該層の算術平均厚さを求め」(意見書第5頁第6~8行)ることが、本願出願時の技術常識であることを示すために下記(ウ)の乙第1号証~乙第6号証(以下、「乙1」等という。)を提出するとともに、概ね以下のとおり主張している。
(ア)Al-Fe抑制層の厚さについて
本件特許に係る亜鉛めっき鋼板の「Al-Fe抑制層」の厚さは、本願出願時の技術常識に従って、亜鉛めっき鋼板の断面形状を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて画像観察し、画像からAl-Fe抑制層の厚さを層の複数の測定箇所で測定し、その算術平均値として求められるものであり、上記測定箇所は、測定対象の有効面全体に均一に分散するように選択されるものである(乙1~乙6、及びJIS H8501:1999「めっきの厚さ試験方法」「8.平均厚さの決定」の「8.2他の方法」の記載参照)。
具体的には、本件明細書の実施例では、図1に示すめっき層の断面を観察した写真を用いて、この写真の視野において、5点の測定箇所でAl-Fe抑制層の厚さを測定し、その算術平均値として、Al-Fe抑制層の厚さを求めている(意見書第3頁下から9行~第4頁第13行)。
(イ)Al-Fe抑制層の厚さの偏差について
本件明細書において、厚さの偏差は、厚さの標準偏差(分散の正の平方根)を意味する(意見書第4頁下から7行~下から1行)。
(ウ)証拠方法
乙1:特許第5292927号公報
乙2:C. Menchaca-Campos, et al., “An ABS Recycled Coating for Corrosion Protection and Conservation of Copper and Alloys of Cultural or Historic Value”, Developments in Corrosion Protection, 2014, pp.319-340
乙3:特許第5873465号公報
乙4:特許第4782246号公報
乙5:特開2018-150593号公報
乙6:特開2017-145503号公報
オ そこで、上記エの主張を加味して検討する。
(ア)上記ウのとおり、本件明細書の記載を参照しても、本件特許の請求項1の「Al-Fe抑制層」の厚さ及びその偏差の測定方法、並びに上記偏差を算出するための基準値(例えば、平均値、中央値)は、明らかではない。
(イ)一方、特許権者が提出した乙1~乙6の記載、及び上記エの主張を考慮すれば、亜鉛めっき鋼板における層の厚さを求める方法として、「金属材料を切断し、その断面においてSEM観察を行って、SEM観察像から特定の層の厚さを複数箇所で測定し、当該層の算術平均厚さを求め」ることが、本願出願時の技術常識であったことが認められる。
(ウ)そして、そのような技術常識の存在を前提とすれば、本件明細書に明記はなくても、本件特許の請求項1の「Al-Fe抑制層」の「厚さ」が、「金属材料を切断し、その断面においてSEM観察を行って、SEM観察像から特定の層の厚さを複数箇所で測定し、当該層の算術平均厚さを求め」ることにより測定されるものであり、また、当該「Al-Fe抑制層」の「厚さの偏差」が、上記「算術平均厚さ」を基準値として、複数箇所で測定した値から算出された標準偏差を意味することは、明らかであるといえる。
(エ)したがって、本件特許の請求項1に記載された「Al-Fe抑制層」について、「厚さ0.01~15μm」、「厚さの偏差0.01~3μm」の意味するところを当業者が明確に把握すること可能である。
カ 請求項1を引用する請求項2の記載についても同様である。
キ 小括
よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が明確であり、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、取消理由1及び申立理由2によっては、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由1(サポート要件)について
(1)本件明細書の【0008】の記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、「めっき密着性に優れるだけでなく、一定水準のFeの溶出によりめっき層の摩擦特性が向上し、優れた耐腐食性を有する亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を提供する」ことにあると認められる。
(2)そして、本件明細書の【0029】~【0037】の記載によれば、上記(1)の課題は、亜鉛めっき鋼板が、素地鋼板と亜鉛めっき層との界面に厚さ0.01~15μmで厚さ偏差が0.01~3μmを満たすAl-Fe抑制層を含み(【0029】~【0031】)、かつ、亜鉛めっき層が、その内部に素地鉄からめっき層中に拡散(溶出)したものを主に含むFeの含量が40~95%である第1領域と、Feの含量が0.01%以上~40%未満である第2領域とを含み(【0032】)、上記第2領域は、上記亜鉛めっき層の表層部に面積分率で0.01~40%形成される(【0033】)ことで、「亜鉛めっき層は、素地鉄からめっき層中へのFeの拡散が起こるにもかかわらず、素地鉄とめっき層との界面にAl-Fe抑制層が連続的に形成され、めっき密着性に優れるだけでなく、Feの拡散(溶出)によりめっき層の表面特性が改善し、3~4μmの表面粗さ(Ra)を有することができ」(【0036】)、解決できることを当業者が認識できるといえる。
(3)また、本件明細書の【0042】~【0056】の記載によれば、上記(1)の課題は、亜鉛めっき浴に素地鋼板を浸漬して亜鉛めっき鋼板を製造する際に、亜鉛めっき浴の温度を555℃超過~600℃未満とし、素地鋼板の引込温度を565℃超過~600℃未満とする(【0042】)ことにより、「素地鋼板を亜鉛めっき浴内に浸漬してめっきを行う際、素地鉄とめっき層との界面にAl-Fe抑制層を形成すると同時に、素地鉄中のFeがめっき層中に拡散できるように、熱的エネルギーを十分に提供する」(【0044】)ことを可能とし、加えて、亜鉛めっき浴内でめっきを完了した後、第1領域及び第2領域を有する亜鉛めっき層を得るために、230~270℃まで0.01~5℃/sの冷却速度で冷却する第1冷却段階と、常温まで0.05~20℃/sの冷却速度で冷却する第2冷却段階とを含むように段階的に冷却を行う(【0048】~【0049】)ことで、「第1冷却工程により、単相の凝固を十分に進行させながら固体-液体相を適宜形成させた後、第2冷却時に、冷却速度を第1冷却に比べて相対的に上昇させて行うことで、完全に固相化させることができ」(【0050】)、解決できることを当業者が認識できるといえる。
(4)一方、上記第2のとおり、本件特許発明1に係る「亜鉛めっき鋼板」は、「素地鋼板と亜鉛めっき層との界面に、厚さ0.01~15μm、かつ、厚さの偏差0.01~3μmであるAl-Fe抑制層を含み」、「亜鉛めっき層」が「Feの含量が40~95%である第1領域と、Feの含量が0.01%以上~40%未満である第2領域と、を含み」、「第2領域」が、「亜鉛めっき層の表層部に面積分率0.01~40%で形成されており」、「表面粗さ(Ra)が3~4μmである」ものであって、「めっき密着性及び耐腐食性に優れた」ものであることが特定されているから、上記(2)において検討したとおりの、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものとはいえない。
そして、このことは、請求項1を引用する本件特許発明2についても同様である。
(5)また、上記第2のとおり、本件特許発明3に係る「亜鉛めっき鋼板の製造方法」は、「亜鉛めっき鋼板を、230~270℃まで0.01~5℃/sの冷却速度で1次冷却する段階、及び前記1次冷却された亜鉛めっき鋼板を、常温まで0.05~20℃/sの冷却速度で2次冷却する段階により冷却する段階と、を含み」、「亜鉛めっき浴の温度は555℃超過~600℃未満であり、前記素地鋼板の引込温度は565℃超過~600℃未満であ」るものであって、「めっき密着性及び耐腐食性に優れた」ものであることが特定されているから、上記(3)において検討したとおりの、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものとはいえない。
そして、このことは、請求項3を引用する本件特許発明4~6についても同様である。
(6)この点、申立人は、特許異議申立書第7頁第2行~第8頁下から1行において、亜鉛めっき浴の化学成分について、以下のア、イの主張をしている。
ア 合金においては、含有成分とその含有割合によって得られる特性が大きく異なるという技術常識を考慮すると、Al、Mg、Zn及び不可避的不純物に加えて、他の元素をさらに含有する亜鉛めっき浴が含まれる本件特許発明3~6は、上記(1)の課題を解決できるものとはいえない。
イ Al、Mg、Zn及び不可避的不純物に加えて、さらにFeを含有するめっき浴が含まれる本件特許発明3~6について、該Feを含有するめっき浴中に鋼板を浸漬することによって製造される亜鉛めっき層には、めっき浴に由来するFeと、鋼板に由来するFeの両方が含まれ得るところ、このような亜鉛めっき層において、Feの含量が0.01%以上40%未満である第2領域の面積分率が40%以下となるかは、実験例によって証明する必要があるが、本件明細書の発明の詳細な説明には、Feを含むめっき浴を用いて製造された亜鉛めっき鋼板の摩擦特性および耐腐食性を評価した試験例は記載されていない。
ウ そこで、上記ア、イの主張について検討する。
(ア)確かに、本件特許発明3~6に係る「亜鉛めっき浴」は、「重量%で、アルミニウム(Al):5.1~35.0%、マグネシウム(Mg):4.0~25.0%、残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含む」ものと特定されているから、Al、Mg、Zn及び不可避的不純物に加えて、Feを含む他の元素を含有するものが含まれるとはいえる。
(イ)しかしながら、「亜鉛めっき浴」というからには、主要な成分が亜鉛であることは明らかであるし、Feを含む他の元素が含有されていたとしても、上記(3)において検討したとおりの機序により、上記(1)の課題が解決できることは、当業者であれば十分認識できるといえるし、申立人は、この点に疑義が生じる程度の具体的な根拠を何ら示していない。
(ウ)したがって、上記ア、イの主張は、採用しない。
(7)また、申立人は、特許異議申立書第9頁下から12行~第11頁第21行において、本件明細書の【表1】に記載された「発明例2」について、めっき浴において4%の割合で含まれていたMgは、鋼板から拡散(溶出)して混入したFeによって、亜鉛めっき層における含有量が4%未満になるため、上記「発明例2」の亜鉛めっき鋼板は、請求項1を満足しない蓋然性があるから、本件特許発明が解決しようとする課題を解決できない可能性がある旨主張している。
しかしながら、そもそも「発明例」として記載される態様が請求項に係る発明に包含されていなければならないということはなく、仮に「発明例2」において、めっき浴において4%の割合で含まれていたMgが、鋼板から拡散(溶出)して混入したFeによって、亜鉛めっき層における含有量が4%未満になっていたとすれば、当該「発明例2」は単に本件特許発明1、2に包含されない態様であるというにすぎない。そして、そのような「発明例2」が、本件特許発明1、2に包含されない態様であるとしても、そのことによって、本件特許発明1、2が発明の詳細な説明に記載したものではないとする根拠にはならない。
したがって、この主張も採用しない。
(8)小括
よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由1によっては、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(進歩性)について
(1)甲1の記載事項、及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項
本願の優先日前に公知となった甲1には、「溶接性が優れた溶融合金系めっき鋼板及びその製造方法」(発明の名称)に関し、以下の事項が記載されている。なお、甲1の記載事項は、申立人が提出した甲1の抄訳文に基づいて認定した。また、「・・・」は記載の省略を表す。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材及びZn-Al-Mgの3元系合金めっき層を含み、
前記めっき層は界面にFe2Al5またはFe3AlのFe-Al金属間化合物を含む界面層が形成され、
前記界面層は20ないし100nmの厚さを有する溶接性が優れたZn-Al-Mgの3元系合金めっき鋼板。
・・・
【請求項3】
第1項または第2項において、前記めっき層は1-15重量%のAl、1-5重量%のMg及び残部亜鉛及び不可避不純物を含む溶接性が優れたZn-Al-Mgの3元系合金めっき鋼板。
・・・
【請求項5】
鋼板をアルミニウム、マグネシウム及び亜鉛及び不可避な不純物を含んで、温度が400-700℃である溶融亜鉛合金めっき浴に浸漬して鋼板表面にめっき液を付着させるめっき段階;
及び前記めっき液が付着した鋼板をガスワイピングして付着量を調節して、冷却する冷却段階を含む溶接性が優れたZn-Al-Mgの3元系合金めっき鋼板の製造方法。
・・・
【請求項7】
第5項または第6項において、前記めっき液は重量%で、アルミニウム(Al):0.5~5.0%、マグネシウム(Mg):1~5%を含んで、残部亜鉛(Zn)及び不可避な不純物を含む溶接性が優れたZn-Al-Mgの3元系合金めっき鋼板の製造方法。」
(イ)「【技術分野】
【0001】本発明はZn-Mg-Al3元系合金めっき鋼板の溶接性を改善する方法及び溶接性が改善した鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】Zn-Al-Mgの溶融合金めっき鋼板は高い耐食性を有する。
これに、高耐食性が要求される製品を製造することにおいてZn-Al-Mg溶融合金めっき鋼板が使われている。
【0003】一般的な溶接は素材が溶融した後に凝固する時収縮や拘束応力などによって溶接部に素材の亀裂が発生する場合がある。
このような母材の亀裂部位に溶融めっき層が浸透する場合には亀裂部位で浸透しためっき層がブリトルした上になってLME(Liquid metal embrittlment)による亀裂を発生させる恐れがある。
【0004】しかし、従来はこのような3元系溶融合金めっき鋼板におけるめっき層クラック発生に対しては研究されていない。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】本発明はZn-Mg-Al3元系めっき層の溶融点が底さによって溶接の時母材に発生する亀裂部位に溶融めっき層が浸透することで発生するLME(Liquid metal embrittlment)亀裂を抑制しようとする。
【0006】これに、本発明は前記のようなLME発生を抑制することができるZn-Al-Mg合金溶融めっき鋼板を提供する。
【0007】さらに、このようなLME発生を抑制することができるZn-Al-Mg合金溶融めっき鋼板を製造する方法を提供しようとする。」
(ウ)「【0022】よって、前記のようなめっき層の溶融によったLMEによる母材の亀裂発生を抑制するためにはZn-Mg-Al3元系の合金めっき層形成の時に溶融点が高いめっき組織が生成されるようにすることが望ましい。
特にこのような高い溶融点を有するめっき組織が母材とめっき層の界面に形成される場合にLMEによる亀裂をより効果的に抑制することができる。
【0023】Zn-Mg-Al3元系の合金めっきから生成されうるより高い溶融点を有する組織ではFe-Al金属間化合物などをあげることができる。
前記Fe-Al金属間化合物では特別に限定することではないが、Fe2Al5またはFe3AlなどのFe-Al金属間化合物を挙げることができる。
・・・
【0025】このような金属間化合物は母材の鉄とめっき成分との合金化によって形成されることとして、めっき層と母材の間の界面層に形成されて、このような溶融点が高いFe関連合金上は厚く形成されるほどめっき組織の溶融によってブリトルした決定組織に変化されることを抑制することができて、溶融されためっき層が母材の亀裂部で浸透してLME亀裂を発生させることを抑制することができる。
【0026】このために前記界面層は20nm以上、例えば、20ないし100nmの範囲の厚さを有することが望ましい。
界面層の厚さが20nm未満の場合には溶接の時母材のクラックを十分に防止することができない。
このような界面層は厚く形成されるほど母材のLMEクラック防止のために望ましいが、100nm程度ならLMEクラック防止に十分な効果を提供して、100nmを超過する場合には界面層形成のための処理に過度な費用増大をもたらすだけで、むしろ界面がブリトルされて加工の時めっき層が脱落される問題が発生する。・・・」
(エ)「【0027】このような融点が高いFe関連合金層の形成のためにはZn-Mg-Al3元系の合金めっき層を形成する時母材の表面をさらに活性化させることで母材の鉄とめっき組成の間の合金化を誘導するのが望ましい。
このためにめっきの時めっき浴の温度を高く設定するのが望ましい。
【0028】望ましくはめっき浴は540-700℃範囲の温度でめっきを実行するのが望ましい。
・・・
より望ましくは600-700℃であることがある。
・・・
【0031】本発明において、前記めっき層を形成することにおいてはFe及びAlを含んで、残部Znと不可避不純物を含むZn-Al-Mg系合金溶融めっき液なら本発明に適合するように適用することができる。
例えば、前記めっき液は1-15重量%のAl、1-5重量%のMgを含むめっき液を使用することができる。」
(オ)「【0035】実施例1
【0036】Al2.5重量%、Mg3重量%及び残部亜鉛とその他微量の不可避不純物を含むZn-Mg-Al合金溶融液を表1に示したところのような温度で維持した後めっき浴と等しい温度の冷延鋼板を前記めっき浴に浸漬して、3秒間維持してめっきした。
・・・
【0039】続いて、前記めっき浴から取り出して、ガスワイピングによって鋼板表面に付着しためっき液の付着量を70g/m2で調節して、冷却してめっき液を凝固させた。」
イ 甲1に記載された発明
(ア)上記アに摘記した甲1の記載事項を総合勘案し、特に、【請求項1】及び【請求項3】に記載された「溶接性が優れたZn-Al-Mgの3元系合金めっき鋼板」に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「母材及び1-15重量%のAl、1-5重量%のMg及び残部亜鉛及び不可避不純物を含むZn-Al-Mgの3元系合金めっき層を含み、
前記めっき層は界面にFe2Al5またはFe3AlのFe-Al金属間化合物を含む界面層が形成され、
前記界面層は20ないし100nmの厚さを有する溶接性が優れたZn-Al-Mgの3元系合金めっき鋼板。」(以下、「甲1めっき鋼板発明」という。)
(イ)また、上記アに摘記した甲1の記載事項を総合勘案し、特に、【請求項5】及び【請求項7】に記載された「溶接性が優れたZn-Al-Mgの3元系合金めっき鋼板の製造方法」に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「鋼板を、重量%でアルミニウム:0.5~5.0%、マグネシウム:1~5%を含んで、残部亜鉛及び不可避な不純物を含んで、温度が400-700℃である溶融亜鉛合金めっき浴に浸漬して鋼板表面にめっき液を付着させるめっき段階;
及び前記めっき液が付着した鋼板をガスワイピングして付着量を調節して、冷却する冷却段階を含む溶接性が優れたZn-Al-Mgの3元系合金めっき鋼板の製造方法。」(以下、「甲1製造方法発明」という。)
(2)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1めっき鋼板発明との対比
(ア)甲1めっき鋼板発明の「母材」は、本件特許発明1の「素地鋼板」に相当する。
(イ)甲1めっき鋼板発明の「1-15重量%のAl、1-5重量%のMg及び残部亜鉛及び不可避不純物を含むZn-Al-Mgの3元系合金めっき層」と、本件特許発明1の「亜鉛めっき層」とは、「素地鋼板の少なくとも一面に形成された」、「アルミニウム(Al)」、「マグネシウム(Mg)」、「残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含む」「亜鉛めっき層」である点で共通する。
(ウ)甲1めっき鋼板発明の「界面にFe2Al5またはFe3AlのFe-Al金属間化合物を含む」「20ないし100nmの厚さを有する」「界面層」と、本件特許発明1の「Al-Fe抑制層」とは、「前記素地鋼板と亜鉛めっき層との界面に」含まれる、「厚さ0.01~15μmである」「Al-Fe抑制層」である点で共通する。
(エ)甲1めっき鋼板発明の「溶接性が優れたZn-Al-Mgの3元系合金めっき鋼板」と、本件特許発明1の「めっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板」とは、「亜鉛めっき鋼板」である点で共通する。
(オ)そうすると、本件特許発明1と甲1めっき鋼板発明とは、
「素地鋼板と、前記素地鋼板の少なくとも一面に形成された亜鉛めっき層と、を含み、
前記亜鉛めっき層は、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含み、
前記素地鋼板と亜鉛めっき層との界面に、厚さ0.01~15μmであるAl-Fe抑制層を含む、亜鉛めっき鋼板。」
である点で一致し、次の各点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1の「亜鉛めっき層」は、「厚さ20~40μmの」ものであって、「重量%で、アルミニウム(Al):5.1~35.0%、マグネシウム(Mg):4.0~25.0%、残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含み」、「Feの含量が40~95%である第1領域と、Feの含量が0.01%以上~40%未満である第2領域と、を含み」、「第2領域は、前記亜鉛めっき層の表層部に面積分率0.01~40%で形成されており」、「表面粗さ(Ra)が3~4μmである」のに対して、甲1めっき鋼板発明の「Zn-Al-Mgの3元系合金めっき層」は、厚さ、アルミニウム及びマグネシウムの含有量、「Feの含量が40~95%である」領域と「Feの含量が0.01%以上~40%未満である」領域の存否、及び表面粗さ(Ra)がいずれも不明である点。
<相違点2>
本件特許発明1の「Al-Fe抑制層」は、「厚さの偏差0.01~3μm」であるのに対して、甲1めっき鋼板発明の「界面層」の厚さの偏差の値が不明である点。
<相違点3>
本件特許発明1の「亜鉛めっき鋼板」は、「めっき密着性及び耐腐食性に優れた」ものであるのに対して、甲1めっき鋼板発明の「Zn-Al-Mgの3元系合金めっき鋼板」は、「溶接性が優れたもの」である点。
イ 相違点についての検討
(ア)事案に鑑みて、まず、上記相違点1について検討する。
a 上記(1)アに摘記した甲1の記載事項を参照しても、甲1には、上記「溶接性が優れたZn-Al-Mgの3元系合金めっき鋼板」における「Zn-Al-Mgの3元系合金めっき層」について、「Feの含量が40~95%である第1領域」と、「Feの含量が0.01%以上~40%未満である第2領域」とを含むものであることや、「表面粗さ(Ra)が3~4μm」であることについての記載も示唆もなく、本願優先日当時の技術常識を考慮しても、甲1めっき鋼板発明において、上記相違点1に係る特定事項のうち、少なくとも「Feの含量が40~95%である第1領域と、Feの含量が0.01%以上~40%未満である第2領域と、を含む」点と、「表面粗さ(Ra)が3~4μmである」点とを備えようとする動機付けがあるとはいえない。
b そうすると、甲1めっき鋼板発明において、上記相違点1に係る特定事項を備えようとすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(イ)したがって、上記相違点2、3、及び本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1めっき鋼板発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件特許発明3について
ア 本件特許発明3と甲1製造方法発明とを対比する。
(ア)甲1製造方法発明の「鋼板」は、本件特許発明3の「素地鋼板」に相当する。
(イ)甲1製造方法発明の「重量%でアルミニウム:0.5~5.0%、マグネシウム:1~5%を含んで、残部亜鉛及び不可避な不純物を含んで、温度が400-700℃である溶融亜鉛合金めっき浴」と、本件特許発明3の「亜鉛めっき浴」とは、「アルミニウム(Al)」、「マグネシウム(Mg)」、「残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含む亜鉛めっき浴」である点で共通する。
(ウ)甲1製造方法発明の「溶接性が優れたZn-Al-Mgの3元系合金めっき鋼板」と、本件特許発明3の「めっき密着性及び耐腐食性に優れた亜鉛めっき鋼板」とは、「亜鉛めっき鋼板」である点で共通する。
(エ)甲1製造方法発明において、「鋼板を」「溶融亜鉛合金めっき浴に浸漬して鋼板表面にめっき液を付着させるめっき段階」に先立って、上記「溶融亜鉛合金めっき浴」を準備する段階が必要であることは、明らかであるから、甲1製造方法発明と本件特許発明3とは、「亜鉛めっき浴を準備する段階」を含むものである点で共通する。
(オ)甲1製造方法発明の「鋼板を」「溶融亜鉛合金めっき浴に浸漬して鋼板表面にめっき液を付着させるめっき段階」は、本件特許発明3の「前記亜鉛めっき浴に素地鋼板を浸漬し、めっきを行って亜鉛めっき鋼板を製造する段階」に相当する。
(カ)甲1製造方法発明の「前記めっき液が付着した鋼板を」「冷却する冷却段階」と、本件特許発明3の「前記亜鉛めっき鋼板を、230~270℃まで0.01~5℃/sの冷却速度で1次冷却する段階、及び前記1次冷却された亜鉛めっき鋼板を、常温まで0.05~20℃/sの冷却速度で2次冷却する段階により冷却する段階」とは、「亜鉛めっき鋼板を」「冷却する段階」である点で共通する。
(キ)そうすると、本件特許発明3と甲1製造方法発明とは、
「アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含む亜鉛めっき浴を準備する段階と、
前記亜鉛めっき浴に素地鋼板を浸漬し、めっきを行って亜鉛めっき鋼板を製造する段階と、
前記亜鉛めっき鋼板を冷却する段階と、を含む、
亜鉛めっき鋼板の製造方法。」
である点で一致し、次の各点で相違する。
<相違点4>
本件特許発明3の「亜鉛めっき浴」は、「重量%で、アルミニウム(Al):5.1~35.0%、マグネシウム(Mg):4.0~25.0%、残部亜鉛(Zn)及びその他の不可避不純物を含む」ものであり、その「温度は555℃超過~600℃未満であ」るのに対して、甲1製造方法発明の「溶融亜鉛合金めっき浴」は、「重量%でアルミニウム:0.5~5.0%、マグネシウム:1~5%を含んで、残部亜鉛及び不可避な不純物を含」むものであり、「温度が400-700℃である」点。
<相違点5>
本件特許発明3の「前記亜鉛めっき浴に素地鋼板を浸漬し、めっきを行って亜鉛めっき鋼板を製造する段階」は、「前記素地鋼板の引込温度は565℃超過~600℃未満であり」、「前記素地鋼板の引込温度は前記亜鉛めっき浴の温度に比べて5~20℃高」いものであるのに対して、甲1製造方法発明の「鋼板を」「溶融亜鉛合金めっき浴に浸漬して鋼板表面にめっき液を付着させるめっき段階」における鋼板の引込温度、及び亜鉛めっき浴の温度との関係が不明である点。
<相違点6>
本件特許発明3の「前記亜鉛めっき鋼板を」「冷却する段階」は、「前記亜鉛めっき鋼板を、230~270℃まで0.01~5℃/sの冷却速度で1次冷却する段階、及び前記1次冷却された亜鉛めっき鋼板を、常温まで0.05~20℃/sの冷却速度で2次冷却する段階」を含むものであって、「前記2次冷却速度は、1次冷却速度より大き」いものであるのに対して、甲1製造方法発明の「前記めっき液が付着した鋼板を」「冷却する冷却段階」は、上述の1次冷却及び2次冷却の段階を含むものか否かが不明である点。
<相違点7>
本件特許発明3の「亜鉛めっき鋼板」は、「20~40μmの亜鉛めっき層の厚さを有し」、「めっき密着性及び耐腐食性に優れた」ものであるのに対して、甲1製造方法発明の「Zn-Al-Mgの3元系合金めっき鋼板」は、亜鉛めっき層の厚さが不明であり、「溶接性が優れたもの」である点。
イ 相違点についての検討
(ア)事案に鑑みて、まず、上記相違点5、6についてまとめて検討する。
a 上記(1)アに摘記した甲1の記載事項を参照しても、甲1には、めっき段階、及び冷却段階を経て、上記「溶接性が優れたZn-Al-Mgの3元系合金めっき鋼板」を製造する際に、上記めっき段階における素地鋼板の引込温度、及び当該引込温度と亜鉛めっき浴の温度との関係、並びに上記冷却段階を冷却速度が小さい1次冷却と、冷却速度が大きい2次冷却の2段階で行うことについての記載も示唆もなく、本願優先日当時の技術常識を考慮しても、甲1製造方法発明において、上記相違点5、6に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
b そうすると、甲1製造方法発明において、上記相違点5、6に係る特定事項を備えようとすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(イ)したがって、上記相違点4、7、及び本件特許発明3によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲1製造方法発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件特許発明4、5について
本件特許発明4、5は、請求項3を引用することにより、本件特許発明3の発明特定事項をすべて備えたものであるから、上記(3)イ(イ)のとおり、本件特許発明3が甲1製造方法発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、甲1製造方法発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)小括
よって、本件特許発明1、3~5は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由3によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、令和 5年11月17日付けで通知した取消理由、及び申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-701012