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特許異議申立

2022-701045

炭素質材料及びその製造方法、並びに、含フッ素有機化合物除去材、浄水用フィルター及び浄水器

審判番号
2022-701045
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-507412
登録番号
7060772
請求日
2022年10月21日
審決日
2023年09月26日
公報発行日
2023年12月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社クラレ
  • 【権利者代理人】小谷 昌崇
  • 【権利者代理人】宇佐美 綾
  • 【異議申立人】後藤 奈美
  • 【異議申立人】服部 桃子
  • 【異議申立人】佐藤 徹
審判長/審判官
  • 審判長 宮澤 尚之
  • 審判官 立木 林
  • 審判官 金 公彦
分類
P1651.113-YAA(C01B) / P1651.121-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B) / P1651.538-YAA(C01B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第2条第3項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7060772号発明「炭素質材料及びその製造方法、並びに、含フッ素有機化合物除去材、浄水用フィルター及び浄水器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7060772号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~14について訂正することを認める。 特許第7060772号の請求項1~14に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7060772号の請求項1~14に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)10月14日(優先権主張 2020年(令和2年)10月23日(JP)日本国)を国際出願日とする特許出願であって、令和4年4月18日にその特許権の設定登録がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行されたものである。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和4年10月21日 :特許異議申立人 後藤奈美(以下、「申立人 1」という。)による、請求項1~14に係 る特許に対する特許異議の申立て 同年 同月 同日 :特許異議申立人 服部桃子(以下、「申立人 2」という。)による、請求項1~14に係 る特許に対する特許異議の申立て 同年 同月26日 :特許異議申立人 佐藤徹(以下、「申立人3 」という。)による、請求項1~14に係る 特許に対する特許異議の申立て 令和5年 1月24日付け:取消理由通知 同年 3月28日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年 4月12日 :特許権者による手続補正書の提出 なお、令和5年4月26日付けで訂正請求があった旨の通知をし、申立人1~3に意見を求めたが、申立人1~3から応答はなかった。 第2 訂正の適否について 1 訂正の内容 令和5年4月12日提出の手続補正書により補正された本件訂正請求書による請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、「特許第7060772号の特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし14について訂正することを求める。」であり、その内容は以下のとおりである。(なお、下線は当審が付加した。以下同様。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「ベンゼン吸着量が30~60%であり、ビタミンB12吸着量が50.0mg/g超であり、かつ、窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積が0.13~0.30cm3/gである」と記載されているのを、「ベンゼン吸着量が45.7~53.3%であり、ビタミンB12吸着量が183.0mg/g~405.0mg/gであり、かつ、窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積が0.131~0.164cm3/gである」に訂正する。請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~14についても同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7に記載の炭素質材料」と記載されているのを、「請求項1~7のいずれかに記載の炭素質材料」に訂正する。請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8、9についても同様に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更について 訂正事項1は、炭素質材料の「ベンゼン吸着量」を「30~60%」から「45.7~53.3%」に限定し、「ビタミンB12吸着量」を「50.0mg/g超」から「183.0mg/g~405.0mg/g」に限定し、かつ、「窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積」が「0.13~0.30cm3/g」から「0.131~0.164cm3/g」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、炭素質材料のベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量、及び窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積を限定する補正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 イ 新規事項の有無について 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、それぞれ「本件特許明細書」などといい、まとめて「本件特許明細書等」という。)には、「炭素質材料のベンゼン吸着量は、30~60%の範囲にあり、上限は、好ましくは58%以下、より好ましくは56%以下、さらに好ましくは55%以下であり、下限は、好ましくは40%以上、より好ましくは42%以上、さらに好ましくは44%以上である。」(【0019】)、「炭素質材料のビタミンB12吸着量は、50mg/g超であり、好ましくは60mg/g以上、より好ましくは70mg/g以上、さらに好ましくは80mg/g以上である。ビタミンB12吸着量の上限は、特に限定はされないが、ベンゼン吸着量等の他の物性値とのバランスから、通常、500mg/g以下であることが好ましく、より好ましくは460mg/g以下、さらに好ましくは420mg/g以下である。」(【0022】)、及び「炭素質材料のメソ孔容積は、0.130~0.300cm3/gの範囲にあり、下限は、好ましくは0.140cm3/g以上、より好ましくは0.145cm3/g以上である。また、上限は、好ましくは0.280cm3/g以下、より好ましくは0.250cm3/g以下である。」(【0024】)と記載されており、訂正事項1により訂正されたベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量、及びメソ孔の細孔容積は本件特許明細書に記載された範囲内のものであるし、他に新たな技術的事項を追加するものでもないから、訂正事項1は本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものである。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的の適否について 訂正事項2は、「請求項1~7に記載の炭素質材料」と記載されているのを、「請求項1~7のいずれかに記載の炭素質材料」とする訂正であって、他の請求項を択一的に引用するようにするものである。 ここで、訂正前の記載は、どういった炭素質材料を意味するのか不明(択一的に引用しようとするのか、請求項1~7全てを引用するのかなど)であるため、誤りであることが明らかである。そして、他の2以上の請求項の記載を引用して請求項を記載するときは、原則としてこれらを択一的に引用するのであり、訂正前の請求項3等も択一的に引用するよう記載されていることも踏まえれば、「請求項1~7のいずれかに記載の炭素質材料」が正しい記載であったことは自明であったといえる。 したがって、当該訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更について 上記アのとおりであるから、訂正事項2は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 一群の請求項について 訂正前の請求項2~14は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項1~14は一群の請求項である。そして、上記訂正事項1、2は、その一群の請求項においてなされたものであるから、特許法第120条の5第4項で規定する当該一群の請求項ごとに請求されているものである。 4 独立特許要件について 特許異議の申立ては、請求項1~14についてされているので、訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 5 小括 上記のとおり、訂正事項1、2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 よって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1~14に係る発明(以下、項番に合わせて「本件発明1」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 ベンゼン吸着量が45.7~53.3%であり、ビタミンB12吸着量が183.0mg/g~405.0mg/gであり、かつ、窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積が0.131~0.164cm3/gである、炭素質材料。 【請求項2】 窒素吸着等温線からBET法で算出した比表面積が1200~2000m2/gである、請求項1に記載の炭素質材料。 【請求項3】 窒素吸着等温線から算出した平均細孔径が1.85~1.90nmである、請求項1または2に記載の炭素質材料。 【請求項4】 荷重12kNにおける粉体抵抗測定による導電率が3~9S/cmである、請求項1~3のいずれかに記載の炭素質材料。 【請求項5】 植物系の炭素質前駆体に由来する、請求項1~4のいずれかに記載の炭素質材料。 【請求項6】 植物系の炭素質前駆体がヤシ殻である、請求項5に記載の炭素質材料。 【請求項7】 以下の測定条件により得られる含フッ素有機化合物の除去性能がBed Volumeで12000以上である、請求項1~6のいずれかに記載の炭素質材料。 測定条件:炭素質材料を充填した直径6.2mm、高さ25.4mm、内容積0.77mLのステンレス製カラムに、PFOA濃度50±10ppt、PFOS濃度50±10pptに調整した水(TOC1.2ppmを含有)を試験水として用い、7.2mL/分、空間速度(SV)=560hr-1の条件にて、アップフローで通水し除去率80%を下回った点を破過点とした際に得られる、通水開始時から破過点までの通水量(Bed Volume)を除去性能とする。 【請求項8】 流動炉を用いた炭素質材料の製造方法であって、炉床から導入する流動ガスとは別に、酸素含有ガスを、流動ガスと酸素含有ガスを合計したガス中の酸素濃度が0.004~1容量%となるように流動炉に導入することを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の炭素質材料の製造方法。 【請求項9】 前記炉床から導入する流動ガス中の水蒸気濃度が10~40容量%である、請求項8に記載の炭素質材料の製造方法。 【請求項10】 前記流動炉が、流動ガスの流れ主方向Zでみて流動炉内の上流側にガス分散部を備えており、 前記方向Zにおけるガス分散部の上流端位置を0(m)、下流端位置をt1(m)とし、前記酸素含有ガスを導入する位置をt2(m)としたとき、0.5t1≦t2の関係を満たすように、前記酸素含有ガスを導入する、請求項8又は9に記載の炭素質材料の製造方法。 【請求項11】 請求項1~7のいずれかに記載の炭素質材料と繊維状バインダーを含む浄水用フィルターであって、前記繊維状バインダーのCSF値が10~150mLであり、炭素質材料100質量部に対して、繊維状バインダーを4~10質量部含む、浄水用フィルター。 【請求項12】 請求項1~7のいずれかに記載の炭素質材料を含む、浄水器。 【請求項13】 請求項11に記載の浄水用フィルターを含む、浄水器。 【請求項14】 請求項1~7のいずれかに記載の炭素質材料からなる、含フッ素有機化合物除去材。」 第4 特許異議の申立について 1 特許異議申立理由の概要 申立人1は、甲第1号証~甲第8号証を証拠として、下記(1)のとおりの申立理由を主張し、申立人2は、甲第1号証~甲第6号証を証拠として、下記(2)のとおりの申立理由を主張し、申立人3は、下記(3)のとおりの申立理由を主張している。 ここで、申立人1、2がそれぞれ提出した証拠は、次のとおりに整理できる。 なお、申立人1が提出した甲第1号証~甲第8号証は、それぞれ、甲1、甲2(甲2-2を含む)、甲3、甲4、甲5(甲5-2を含む)、甲6~8であり、申立人2が提出した甲1号証~甲第6号証は、それぞれ、甲9、甲4、甲6、甲7、甲10、甲1である。 甲1:特開2015-93257号公報 甲2:島崎, “メソポアの発達したポリアクリロニトリル系活性炭素繊維 の製造に関する研究”, 日本化学会誌, 1993年, 7号, p.807-812 (甲2-2より、発行日は1993年7月10日) 甲2-2:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/nikkashi/1993/7/_con tents/-char/ja(甲2のダウンロード元のページ) 甲3:特開2020-49451号公報 甲4:国際公開第2020/096008号 甲5:M. Park, et al., “Adsorption of perfluoroalkyl substances(P FAS) in groundwater by granular activated carbons: Roles of hydrophobicity of PFAS and carbon characteristics”, Water R esearch, 2020, Vol.170, 115364 (甲5-2より、発行日は2020年3月1日) 甲5-2:https://www.sciencedirect.com/journal/water-research/vol /170/suppl/C(甲5のダウンロード元のページ) 甲6:特開2020-23420号公報 甲7:特開2020-19016号公報 甲8:特開平8-26711号公報 甲9:特開昭61-282430号公報 甲10:特開2020-281325号公報 (1)申立人1の申立理由について <申立理由1-1(甲1を主たる証拠とした新規性欠如)> 請求項1、2、5、6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2、5、6に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。 <申立理由1-2(甲2を主たる証拠とした新規性欠如)> 請求項1に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。 <申立理由1-3(甲1を主たる証拠とした進歩性欠如)> 請求項1~14に係る発明は、上記甲1に記載された発明及び甲2~8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであって、請求項1~14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 <申立理由1-4(サポート要件違反)> 請求項1~14に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)申立人2の申立理由について <申立理由2-1(甲9を主たる証拠とした進歩性欠如)> 請求項1~6、8~13に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された、甲9に記載された発明並びに甲1、4、6、7、10に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであって、請求項1~6、8~13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 <申立理由2-2(サポート要件違反)> 請求項1~14に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (3)申立人3の申立理由について <申立理由3-1(実施可能要件違反)> 請求項1~14に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 <申立理由3-2(サポート要件違反)> 請求項1~14に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 取消理由通知に記載した取消理由の概要 <取消理由1> 設定登録時の請求項1~14に係る発明は、浄水器用途でも使用できる、PFOA+PFOSろ過能力試験におけるろ過能力が12000(Bed Volumes)以上である炭素質材料を提供することを課題とするところ、例えばビタミンB12吸着量が50.1mg/gである炭素質材料のPFAS吸着能力は8305.7と推測され、この値は、比較例よりもかなり低く、上記課題に係るPFAS除去能力の基準値(12000)を大きく下回るものであるから、当該発明は発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 3 本件特許明細書の記載 (1)「【0008】 したがって、本発明の主な課題は、浄水器用途でも使用できる、PFAS(PFOS、PFOA等)除去性能の高い炭素質材料を提供することにある。」 (2)「【0016】 [炭素質材料] 本発明の一実施形態に係る炭素質材料は、ベンゼン吸着量が30~60%であり、ビタミンB12吸着量が50.0mg/g超であり、かつ、窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積が0.13~0.30cm3/gであることを特徴とする。 【0017】 上記構成によれば、浄水器用途でも使用できる、PFAS(PFOS、PFOA等)除去性能の高い炭素質材料を提供することができる。 【0018】 (ベンゼン吸着量) ベンゼン吸着量は、炭素質材料の賦活の進行度合いを示す指標である。本実施形態に係る炭素質材料は、ベンゼン吸着量が30~60%の範囲であることによって、PFASの吸着に適している。 【0019】 優れたPFAS吸着性能を有するという観点から、炭素質材料のベンゼン吸着量は、30~60%の範囲にあり、上限は、好ましくは58%以下、より好ましくは56%以下、さらに好ましくは55%以下であり、下限は、好ましくは40%以上、より好ましくは42%以上、さらに好ましくは44%以上である。 【0020】 炭素質材料のベンゼン吸着量は、後述の[ベンゼン吸着量の測定]に記載の方法により測定することができる。 【0021】 (ビタミンB12吸着量) ビタミンB12(シアノコバラミン)は分子量が約1355と大きく、ビタミンB12吸着量は、分子サイズの大きい物質に対する吸着特性の指標となる。本実施形態に係る炭素質材料は、ビタミンB12吸着量が50mg/g超であることにより、PFASの吸着に適した炭素質材料となる。 【0022】 優れたPFAS吸着性能を実現する観点から、炭素質材料のビタミンB12吸着量は、50mg/g超であり、好ましくは60mg/g以上、より好ましくは70mg/g以上、さらに好ましくは80mg/g以上である。ビタミンB12吸着量の上限は、特に限定はされないが、ベンゼン吸着量等の他の物性値とのバランスから、通常、500mg/g以下であることが好ましく、より好ましくは460mg/g以下、さらに好ましくは420mg/g以下である。 【0023】 炭素質材料のビタミンB12吸着量は、後述の[ビタミンB12吸着量の測定]に記載の方法により測定することができる。 【0024】 (メソ孔容積) 炭素質材料が有する細孔は、その直径に応じて、ミクロ孔(直径2nm未満)、メソ孔(直径2~50nm)、マクロ孔(直径50nm超)に分類することができる(括弧内はIUPACの分類基準を示す)。メソ孔はミクロ孔に比して大きく、メソ孔の容積は、主として、分子サイズの大きい物質の吸着特性の指標となり得る。本実施形態に係る炭素質材料は、メソ孔容積が0.130~0.30cm3/gの範囲であり、それによりPFASの吸着により適した炭素質材料となる。 【0025】 優れたPFAS吸着性能を実現する観点から、炭素質材料のメソ孔容積は、0.130~0.300cm3/gの範囲にあり、下限は、好ましくは0.140cm3/g以上、より好ましくは0.145cm3/g以上である。また、上限は、好ましくは0.280cm3/g以下、より好ましくは0.250cm3/g以下である。 【0026】 炭素質材料のメソ孔容積は、窒素吸着等温線からBJH(Barrett-Joyner-Halenda)法を用いて算出することができる。窒素吸着等温線の測定及びメソ孔容積の算出は、後述の[窒素吸着等温線の測定]及び[BJH法によるメソ孔細孔容積の測定]に記載の方法により実施することができる。 【0027】 以上、本実施形態におけるベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量、及び、メソ孔細孔容積の各々について技術的意義の説明を試みたが、炭素質材料(吸着媒)の構造と吸着質に対する吸着特性の関係は複雑であり、ベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量、及び、メソ孔細孔容積は別個独立に吸着質に対する吸着特性と直ちに相関しない場合もある。PFASを効率よく除去することが可能な炭素質材料を実現するには、これらベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量、及び、メソ孔容積のバランスが重要であることと考えられる。後述のとおり、本実施形態においては、流動炉を用いた特定の製造方法によって、上記特性を兼ね備えた炭素質材料の製造に成功した。 ・・・ 【0041】 [炭素質材料の製造方法] 本発明の一実施形態に係る炭素質材料は、先述の炭素質前駆体を賦活することによって製造される。なお、賦活に先立ち、炭化を必要とする場合、通常、酸素又は空気を遮断して、例えば、400~800℃(好ましくは500~800℃、さらに好ましくは550~750℃)で炭化すればよい。この場合、炭素質前駆体の炭化により得られた原料炭を賦活して炭素質材料を製造する。 【0042】 ベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量及びメソ孔細孔容積(さらに、必要に応じて、任意で満たすとよい、比表面積、平均細孔径、導電率等の特性)が特定範囲にある炭素質材料を実現するにあたって、賦活の方法が重要である。本実施形態に係る炭素質材料の製造方法(以下、単に「本実施形態の製造方法」ともいう。)は、賦活炉として流動炉(流動賦活炉)を用い、炉床から導入する流動ガスとは別に、酸素含有ガスを流動炉に導入することを特徴とする。これにより、賦活炉としてロータリーキルンを用いる従来法や、流動炉に専ら流動ガスを炉床から導入する従来法では実現困難であった、ベンゼン吸着量が40~60%であり、かつ、ビタミンB12吸着量が50mg/g超である、炭素質材料を実現することができる。 【0043】 流動ガスは、原料炭を流動賦活する作用を有する限り特に限定されず、従来公知のものを用いてよい。例えば、流動ガスとしては、水蒸気および/または二酸化炭素を含有するガスが挙げられる。工業的には、水蒸気や二酸化炭素を適度に含むことから、炭化水素(例えば、メタン、プロパン、ブタン等の軽質ガス、軽油、灯油、重油等の液体燃料)の燃焼ガスが好ましく用いられる。 【0044】 原料炭を効率よく賦活し得る観点から、流動ガス中の水蒸気濃度は、10~40容量%であることが好ましい。上限は、より好ましくは35容量%以下、又は30容量%以下であり、下限は、より好ましくは12容量%以上、14容量%以上、又は15容量%以上である。また、流動ガス中に二酸化炭素を含有する場合、流動ガス中の二酸化炭素濃度は、15容量%以下であることが好ましい。上限は、より好ましくは14容量%以下、又は13容量%以下であり、下限は、より好ましくは8容量%以上、9容量%以上、又は10容量%以上である。 【0045】 本実施形態の製造方法において、炉床から導入する流動ガスとは別に、酸素含有ガスが流動炉に導入される。酸素含有ガスは、流動ガスと酸素含有ガスを合計したガス中の酸素濃度が0.004~1容量%となるように流動炉に導入される。PFASをより一層効率よく除去し得る炭素質材料を得る観点から、流動ガスと酸素含有ガスを合計したガス中の酸素濃度は、好ましくは0.005容量%以上、0.01容量%以上、0.02容量%以上、0.03容量%以上、0.04容量%以上、又は0.05容量%以上である。該酸素濃度の上限は、好ましくは0.95容量%以下、0.9容量%以下、0.85容量%以下、又は0.8容量%以下である。本実施形態において、流動ガスと酸素含有ガスを合計したガス中の酸素濃度は、流動ガスの組成と導入量、酸素含有ガスの組成と導入量に基づき算出される仕込み換算の濃度である。 【0046】 酸素含有ガスは、酸素を含有する限りにおいて特に限定されず、例えば、空気、及び、空気を他のガス(例えば、窒素等の不活性ガス)で希釈したガスを用いることができる。酸素含有ガス中の酸素濃度は、流動ガスと酸素含有ガスを合計したガス中の酸素濃度が0.004~1容量%の範囲となる限りにおいて特に限定されないが、好ましくは20容量%以下、より好ましくは15容量%以下、10容量%以下、8容量%以下、6容量%以下、5容量%以下、4容量%以下、3容量%以下、又は2容量%以下である。酸素含有ガス中の酸素濃度の下限は、通常、0.1容量%以上、0.2容量%以上などとすることができる。なお、炉床から導入する流動ガス中に酸素が含まれていてもよいが、流動ガスに燃焼ガスを用いる場合、燃焼ガス中の微量の酸素濃度を制御することは一般的に困難であるため、酸素含有ガス由来の酸素により、酸素濃度を制御することが好適である。 【0047】 以下、図面を参照しつつ、本実施形態の製造方法を説明する。 【0048】 図1に、本実施形態の製造方法に用いられる流動炉(流動賦活炉)100の模式図を示す。なお、以下の説明において、各符号はそれぞれ、1流動ガス入口、2酸素含有ガス入口、3ガス出口、4ガス分散層、5原料炭、6原料炭(流動賦活時)、7流動ガス、8酸素含有ガス、9排出ガス、10ガス分散部、20流動床部、100流動炉(流動賦活炉)を示す。 【0049】 流動炉100は、流動ガス入口1、酸素含有ガス入口2、ガス出口3、ガス分散層4を含む。流動ガス入口1は、一般に炉床に配置され、流動炉100に導入された流動ガス(図示せず)は、ガス分散層4を通過して、原料炭5と接触し原料炭の流動賦活に供される。その後、流動ガスは、一般に炉天井に配置されるガス出口3から炉外に排出される。図1では、前記流動ガスの流れ主方向(すなわち、炉床から炉天井への流れ方向)を方向Zとして表している。 【0050】 ガス分散層4は、流動ガス入口1から導入された流動ガスの流れを分散させて原料炭5に均一に流動ガスを接触させる機能を有する限り特に限定されず、従来公知のものを使用してよい。例えば、孔空き板を用いて流動ガスを分散させる場合、炉床から孔空き板までの緩衝領域を含めてガス分散層4と称する。図1に示すように、ガス分散層4は、流動ガスの流れ主方向Zでみて、流動炉内の上流側に配置される。本実施形態において、ガス分散層4からなる領域をガス分散部10と称する。したがって、流動炉100は、流動ガスの流れ主方向Zでみて流動炉内の上流側にガス分散部10を備える。 【0051】 流動炉100はまた、流動ガスの流れ主方向Zでみて流動炉内の下流側に、流動床部20を備える。流動床部20において、原料炭5と流動ガスとが接触して原料炭5の流動賦活が行われる。 【0052】 先述のとおり、本実施形態の製造方法は、炉床から導入する流動ガスとは別に、酸素含有ガスを流動炉に導入することを特徴とする。そしてベンゼン吸着量及びビタミンB12吸着量が特定範囲にある炭素質材料を実現するにあたって、酸素含有ガスの導入位置が重要である。すなわち、流動ガスの流れ主方向Zにおけるガス分散部の上流端位置を0(m)、下流端位置をt1(m)とし(t1>0である。)、酸素含有ガスを導入する位置をt2(m)としたとき、0.5t1≦t2の関係を満たすことが好ましい。0.5t1>t2の場合、ベンゼン吸着量及びビタミンB12吸着量が特定範囲にある本実施形態に係る炭素質材料を実現することは困難である。好ましくは0.7t1≦t2、より好ましくは0.8t1≦t2、0.9t1≦t2、又はt1≦t2、特に好ましくはt1<t2、1.2t1≦t2、1.4t1≦t2、又は1.5t1≦t2である。t2の上限は、酸素含有ガスが流動賦活中の原料炭と接触し得る限り特に限定されず、炉天井までの任意の位置とし得るが、方向Zでみて流動床部20の高さ(厚さ)をT(m)とした場合(すなわち、T=(炉天井高さ-t1))、t2≦0.8T、t2≦0.7T、t2≦0.6T、又はt2≦0.5Tであることが好ましい。なお、酸素含有ガスの導入位置t2とは、方向Zでみて酸素含有ガス入口2が幅(厚さ)を有する場合、その幅(厚さ)の中心位置を指す。 【0053】 図2に、図1記載の流動炉を用いて原料炭を流動賦活する様子を表す模式図を示す。図2において、図1と同じ符号で表した部材・部分は図1と同じ部材・部分を表す。 【0054】 図2において、炉床から流動ガス7が、炉側部から酸素含有ガス8がそれぞれ流動炉100に導入される。流動ガス7は、ガス分散層4からなるガス分散部10を通過して、流動床部20において原料炭と接触し原料炭の流動賦活に供される。また、酸素含有ガス8(詳細には、ガス中の酸素)は、流動賦活中の原料炭6と接触し原料炭の局所的な賦活に供される。このような酸素含有ガスによる原料炭の局所的な賦活によりミクロ孔を保ったまま局所的にメソ孔を発達させることが可能となり、その結果、ベンゼン吸着量及びビタミンB12吸着量が特定範囲にある炭素質材料が有利に製造されると推察される。 【0055】 原料炭の賦活の条件は、流動ガスとは別に酸素含有ガスを導入する点を除いて、従来公知の条件を採用してよい。例えば、賦活時の温度は700~1000℃(好ましくは800~1000℃、さらに好ましくは850~950℃)であってよく、賦活の時間は所期のベンゼン吸着量(所期の賦活の進行度合い)が達成される任意の時間としてよい。 【0056】 本実施形態の製造方法では、流動ガスとは別に導入した酸素含有ガスの作用によって、ベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量及びメソ孔細孔容積が特定範囲にある所期の炭素質材料を製造できることは先述のとおりである。ここで、流動ガス中の水蒸気や二酸化炭素による原料炭の賦活が吸熱反応であるのに対し、酸素含有ガス中の酸素による原料炭の賦活は急激な発熱反応である。したがって、流動賦活中の原料炭に酸素含有ガスを接触させる本実施形態の製造方法では、原料炭の賦活を維持するのに必要となる外部からの熱供給を減少させることができ、エネルギーバランスの観点からも、極めて有利である。 【0057】 原料炭の賦活に供された後、流動ガス7と酸素含有ガス8は、ガス出口より炉外に排出される(図2における排出ガス9)。排出ガスの一部または全部を循環したり、熱交換したりすることより、排出ガスの熱エネルギーを再利用してもよい。 【0058】 図1及び図2には、流動ガス入口1、酸素含有ガス入口2、ガス出口3をそれぞれ1つ備えた流動炉を示したが、図1及び図2は模式図にすぎず、流動炉は、流動ガス入口1、酸素含有ガス入口2、ガス出口3をそれぞれ複数備えてもよい。酸素含有ガス入口2を複数備える場合、流動ガスの流れ主方向Zでみて、互いに同じ位置(高さ)に配置してもよく、異なる位置(高さ)に配置してもよい。 【0059】 賦活後の炭素質材料は、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び遷移金属などの不純物を含むヤシ殻などの植物系の炭素質前駆体や鉱物系の炭素質前駆体を用いた場合、灰分や薬剤を除去するために洗浄する。したがって一実施形態において、本発明の製造方法は、賦活後の炭素質材料を洗浄する工程を含んでもよい。その場合、洗浄には鉱酸や水が用いられ、鉱酸としては洗浄効率の高い塩酸が好ましい。塩酸等の鉱酸を用いて炭素質材料を洗浄(酸洗)する場合には、酸洗後に水洗等を行い、脱酸処理をすることが好ましい。 【0060】 洗浄の後、得られた炭素質材料に対して乾燥、必要に応じて粉砕・篩分を実施して、炭素質材料の製品を得ることができる。」 (3)「【実施例】 ・・・ 【0084】 <評価方法> 実施例における各物性値は、以下に示す方法により測定した。 ・・・ 【0089】 [窒素吸着等温線の測定] マイクロトラック・ベル(株)製のBELSORP-miniを使用し、炭素質材料を窒素気流下(窒素流量:50mL/分)にて300℃で3時間加熱した後、77Kにおける炭素質材料の窒素吸脱着等温線を測定した。 ・・・ 【0092】 [BJH法によるメソ孔細孔容積の測定] 上記方法により得られた窒素吸着等温線に対し、BJH法を適用し、メソ孔の細孔容積を算出した。なお、BJH法での解析にあたってはマイクロトラック・ベル(株)から提供された基準曲線『NGCB-BEL.t』を用いた。 ・・・ 【0094】 <実施例1> フィリピン産のヤシ殻を炭化したヤシ殻炭を30mesh(0.5mm)から60mesh(0.25mm)に粒度調整した。このヤシ殻炭1kgを900℃に加熱した流動賦活炉に投入し、炉床から水蒸気15容量%、二酸化炭素11容量%の流動ガス50L/分、炉側部から酸素0.5容量%、窒素99.5容量%の酸素含有ガス5L/分を導入し、ベンゼン吸着量が約53.3重量%となるまで賦活処理を行った(流動賦活炉に導入する合計ガス中の酸素濃度は約0.045容量%)。流動賦活炉には、流動ガスの流れ主方向Zでみて炉内の上流側にガス分散層を備える炉を用いた。また、方向Zにおける酸素含有ガスの導入位置t2とガス分散層の下流端t1とはt1<t2の関係を満たした。すなわち、酸素含有ガスは流動賦活炉の流動床部に導入した。 【0095】 得られた賦活処理炭を希塩酸で洗浄し、次いで残留した塩酸を除去するためイオン交換水で十分に洗浄、乾燥させることにより、炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性値を表1に示す。 【0096】 <実施例2> 賦活処理時に導入する酸素含有ガスの濃度を、酸素1.0容量%、窒素99.0容量%に変更し、ベンゼン吸着量が45.7重量%となるまで賦活処理を行った以外は、実施例1と同様にして炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性値を表1に示す。 【0097】 <実施例3> 賦活処理時に導入する酸素含有ガスの濃度を、酸素3.0容量%、窒素97.0容量%に変更し、ベンゼン吸着量が52.6重量%となるまで賦活処理を行った以外は、実施例1と同様にして炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性を表1に示す。 【0098】 <比較例1> ベンゼン吸着量が約34.4重量%となるまで賦活処理を行った以外は、実施例1と同様にして炭素材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性を表1に示す。 【0099】 <比較例2> フィリピン産のヤシ殻を炭化したヤシ殻炭を30mesh(0.5mm)から60mesh(0.25mm)に粒度調整した。このヤシ殻炭5gを内径42mmの石英管をセットした横型電気管状炉に投入した。酸素0.5容量%、窒素99.5%のガス1L/minで水をバブリングすることで、水蒸気を炉内に導入し、900℃に加熱して、ベンゼン吸着量が32.3重量%となるまで賦活処理を行った。得られた賦活処理炭を希塩酸で洗浄し、次いで残留した塩酸を除去するためイオン交換水で十分に洗浄、乾燥させることにより、炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性を表1に示す。 【0100】 <比較例3> 賦活処理時に導入する酸素含有ガスの濃度を、酸素0.1容量%、窒素99.9容量%に変更し、ベンゼン吸着量が46.6重量%となるまで賦活処理を行った以外は、実施例1と同様にして炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性値を表1に示す。 【0101】 <比較例4> 賦活処理時に導入する酸素含有ガスの濃度を、酸素10.0容量%、窒素90.0容量%に変更し、ベンゼン吸着量が53.0重量%となるまで賦活処理を行った以外は、実施例1と同様にして炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性値を表1に示す。 【0102】 <比較例5> フィリピン産のヤシ殻を炭化したヤシ殻炭を10mesh(1.7mm)から30mesh(0.5mm)に粒度調整した。このヤシ殻炭1kgを900℃に加熱したロータリーキルンに投入し、水蒸気15容量%、二酸化炭素11容量%の賦活ガス10L/分と酸素0.5容量%、窒素99.5容量%の追加ガス1L/分を導入し、ベンゼン吸着量が約62.3重量%となるまで賦活処理を行った。 【0103】 得られた賦活処理炭を希塩酸で洗浄し、次いで残留した塩酸を除去するためイオン交換水で十分に洗浄、乾燥させることにより、炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性を表1に示す。 【0104】 <比較例6> 塩化カルシウム0.28gとクエン酸0.96gを18.8mLのイオン交換水に溶解した水溶液に、Evoqua社製粒状活性炭AquaCarb1240C 10gを浸漬し、12時間静置した。その後、吸引ろ過により水溶液を取り除き、得られたカルシウム/クエン酸含浸活性炭の約半量をWet状態のまま、アルミナボートに投入したものを、内径42mmの石英管をセットした横型電気管状炉に投入した。酸素0.5容量%、窒素99.5%のガス1L/minで水をバブリングすることで、水蒸気を炉内に導入し、900℃に加熱して、にてベンゼン吸着量が56.0重量%になるまで賦活処理を行った。 【0105】 得られた賦活処理炭を希塩酸で洗浄し、次いで残留した塩酸を除去するためイオン交換水で十分に洗浄、乾燥させることにより、炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性を表1に示す。 【0106】 <比較例7> フィリピン産のヤシ殻を炭化したヤシ殻炭を10mesh(1.7mm)から30mesh(0.5mm)に粒度調整した。このヤシ殻炭1kgを900℃に加熱したロータリーキルンに投入し、水蒸気15容量%、二酸化炭素11容量%の賦活ガス10L/分と酸素0.5容量%、窒素99.5容量%の追加ガス1L/分を導入し、ベンゼン吸着量が約31.0 重量%となるまで賦活処理を行った。 得られた賦活処理炭を希塩酸で洗浄し、次いで残留した塩酸を除去するためイオン交換水で十分に洗浄、乾燥させることにより、炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性を表1に示す。 【0107】 【表1】 [図:0001404771000001.jpg] 【0108】 [炭素質材料のろ過能力評価] 実施例1~3及び比較例1~7で調製した炭素質材料を直径6.2mm、高さ25.4mm、内容積0.77mLのステンレス製カラムに充填し、ASTM D6586-03(2014)に規定されたthe Prediction Of Contaminant Adsorption On GAC In Aqueous Systems Using Rapid Small-Scale Column Testsに準拠して、下記に示す手順に従い、PFOA+PFOSのろ過能力試験を実施した。なお、本試験に用いた炭素質材料については、120mesh(125μm)~200mesh(74μm)に粒度調製した後に本試験を実施した。 【0109】 [PFOA+PFOSろ過能力試験] PFOA濃度50±10ppt、PFOS濃度50±10pptに調整した水(TOC1.2ppmを含有)を試験水に用い、7.2mL/分、空間速度(SV)=560hr-1の条件にて、アップフローで通水し、除去率80%を下回った点を破過点として、ろ過能力試験を実施した。本試験では、ろ過能力が12000(Bed Volumes)以上であるものを合格とした。通水試験条件及び結果を表2及び図3に示す。 【0110】 【表2】 [図:0001404771000002.jpg] 【0111】 (考察) 表2及び図3の結果から明らかなように、本発明に関する実施例の炭素質材料はいずれも、浄水器用途として使用でき、優れたPFAS除去能を有することが確認できた。特に、平均細孔径が1.85nm以上の実施例1および3では、より優れた除去能を示すこともわかった。 【0112】 これに対し、ベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量及びメソ孔細孔容積の少なくともいずれかが本発明の規定を満たしていない比較例1~7では、PFASを十分に除去できなかった。とりわけ、ビタミンB12吸着量及びメソ孔細孔容積のいずれも本発明の規定を満たしていない比較例2及び比較例7では、通水開始の時点から除去率が80%を大きく下回っており、PFAS除去能は0を示した。」 (4)「【図3】 [図:0001404771000003.jpg] 」 4 各証拠の記載事項 (1)甲1の記載事項 甲1は、「植物系球状活性炭の再生方法及び再生した植物系球状活性炭の浄水処理における再利用方法」(発明の名称)に関するものであって、以下の事項が記載されている。 「【実施例】 【0027】 以下の実施例において、植物系球状活性炭として2種類(活性炭A及びBと称す)を用いて、再生処理を行った。 【0028】 植物系球状活性炭Aは、ヤシ殻粉末活性炭100重量部、ノボラック型粉末状フェノール樹脂20重量部、水90重量部を混練、球状成形機で球状に造粒成形後、170℃でゲル化処理、還元雰囲気900℃で30分間炭化処理して炭化処理物とし、さらに、還元雰囲気900℃、水蒸気濃度40% as molの条件下において水蒸気賦活処理を3時間以上行うことにより製造したもので、粒径0.85~2.0mm、有効径1.1~1.3mm、均等係数1.3以下に粒度調整したものである。 【0029】 植物系球状活性炭Bは、大鋸屑系粉末活性炭100重量部、ノボラック型粉末状フェノール樹脂20重量部、水90重量部を混練、球状成形機で球状に造粒成形後、170℃でゲル化処理、還元雰囲気900℃で30分間炭化処理して炭化処理物とし、さらに、還元雰囲気900℃、水蒸気濃度40%asmolの条件下において水蒸気賦活処理を3時間以上行うことにより製造したもので、粒径0.5~2.0mm、平均径0.9~1.1mm、均等係数1.5~1.9に粒度調整したものである。 【0030】 表1に、活性炭A、活性炭Bの製品仕様例を従来の石炭系粒状破砕活性炭、ヤシ殻系粒状破砕活性炭の仕様例と共に示す。ここで、BET比表面積、マイクロポア及びメソポアの細孔容積はマイクロメトリックス社(販売:島津製作所(株))製の比表面積・細孔分布測定装置ASAP2010型により、マクロポアの細孔容積は島津製作所(株)製の水銀ポロシメータ装置オートポアIV9500型により測定したものである。 【0031】 【表1】 [図:0001404771000004.jpg] 」 (2)甲2の記載事項 甲2は、「メソポアの発達したポリアクリロニトリル系活性炭素繊維の製造に関する研究」(タイトル)に関するものであって、以下の事項が記載されている。 ア 「 2.3 比表面積、細孔容積の測定20)21) ・・・ なお全細孔容積(Vp1),細孔半径20~100Å(メソポア)の累積細孔容積(Vp2)はカルボエルバ社(イタリア)のソープトマチック1800型にて、自動的にN2吸脱着曲線を測定し,算出した。 ・・・ 2.5 気相、液相系での吸着能の測定 ベンゼン吸着量は、JIS-K-1474により測定した。・・・ビタミンB12は溶液濃度300ppm,100ml中に活性炭素繊維50mgを入れ25℃,24時間ふりまぜ,残留濃度を比色計で(波長330nm 10mm石英セル)測定した15)~18)。」(807ページ右欄下から4行~808ページ右欄2行) イ 「 3.1 原糸中の配分の細孔および吸着能への影響について 紡糸原料の段階で粒径0.05~0.1μmの酸化チタン微粒子を0.1%分散させ,酸化チタンが分散した原糸を作成し,分散しない原糸と2種類について,空気中で酸化温度225~260℃にして酸化し,平衡水分率11%の酸化繊維を作成した。これらの酸化繊維を水蒸気中にて8~20分間,900℃で賦活を行い,各比表面積の活性炭素繊維を作成した。得られた活性炭素繊維の全細孔容積(Pv1)及びメソポア容積(Pv2:細孔直径20~100Å),単繊維性能,メチレンブルー吸着能,ビタミンB12およびトリプトファンメラノイジン吸着能を測定した結果を表1に示す。 表中試料No.1~3は酸化チタンを含有する酸化繊維を賦活した活性炭素繊維,No.4~7は酸化チタンを含有しない酸化繊維を賦活した場合の活性炭素繊維の特性の賦活時間にともなう変化を示した。」(808ページ12~25行) ウ 「 [図:0001404771000005.jpg] 」(809ページ) エ 「 3.4 活性炭素繊維の二酸化炭素による再賦活化19) 水蒸気により賦活していく場合,賦活化度(比表面積)を向上させるにつれ単繊維強度の低下および灰分の増加にともない賦活むらを生じ,高い賦活化度(比表面積)でかつメソポア容積の大きい活性炭素繊維が得にくくなる。これらの改善を目的として下記の如きプロセスにより詳細を検討した。すなわちまず酸化チタンを含有しないポリアクリロニトリル酸化繊維を水蒸気により900℃で賦活し,得られた比表面積950m2/gの活性炭素繊維を二酸化炭素中にて950℃で再賦活を行い全細孔容積,比表面積およびベンゼン吸着能,メチレンブルー吸着能,ビタミンB12吸着能を測定した。これらを表6に示す。」(810ページ右欄7行~811ページ左欄5行) オ 「 [図:0001404771000006.jpg] 」(811ページ) (3)甲3の記載事項 甲3は、「活性炭、及び該活性炭の製造方法」(発明の名称)に関するものであって、当該活性炭のBET比表面積650m2/g以上、細孔容積が0.25cm3/g以上、平均細孔径が1.8nm以上、4.0nm以下であることが記載されている(【0018】、【0023】)。 (4)甲4の記載事項 甲4は、「炭素質材料、その製造方法、電気化学デバイス用電極活物質、電気化学デバイス用電極および電気化学デバイス」(発明の名称)に関するものであって、比表面積1686m2/g、平均細孔径1.89nm、粉体導電率が8S/cmの炭素質材料が記載されており([0080][表1]の実施例1)、また炭素質材料の炭素前駆体が椰子殻由来であることが記載されている([請求項6])。 (5)甲5の記載事項 甲5は、「粒状活性炭による地下水中のパーフルオロアルキル(PFAS)物質の吸着:PFASの疎水性の役割と炭素の特性」(タイトルの当審訳)に関するものであって、以下の事項が記載されている。 「 [図:0001404771000007.jpg] 」(3ページ) (6)甲6の記載事項 甲6は、「活性炭および活性炭の製造方法、ならびに脱色方法」(発明の名称)に関するものであって、顆粒炭を、外熱式ロータリーキルンに投入し、内部温度200~250℃の温度で、酸素濃度15%の酸素雰囲気で60分間、酸化処理を実施し、その後、外熱式ロータリーキルンに酸化処理後の顆粒炭を投入し、最高温度500℃の酸素濃度1%以下の雰囲気で炭化処理することが記載されている(【0061】)。 (7)甲7の記載事項 甲7は、「吸着フィルター」(発明の名称)に関するものであって、炭化された炭素質材料を賦活ガスと反応させる際に、安全性と反応性を考慮して水蒸気を10~40容量%含有する水蒸気含有ガスを用いることが好ましい旨が記載されている(【0023】)。 また、フィブリル化繊維状バインダーのCSF値が10~150mlであり、活性炭100質量部に対して、フィブリル化繊維状バインダーを4~10質量部含む浄水フィルター(請求項1、【0055】)、及び当該浄水フィルターを浄水器に使用すること(【0056】)ことも記載されている。 (8)甲8の記載事項 甲8は、「トリハロメタン除去用活性炭」に関するものであって、活性炭を浄水器に使用することが記載されている(【0047】)。 (9)甲9の記載事項 甲9は、「活性炭素繊維の製造法」に関するものであって、以下の事項が記載されている。 ア 「(産業上の利用分野) 本発明は、比表面積1200m2/g以上、細孔容積0.6cc/g以上、平均細孔直径25Å以上で、なおかつ高強度を有する活性炭素繊維(繊維状活性炭とも呼ばれる。以下ACFと略記する。)の製造法に関するものである。 (従来技術及び問題点) 活性炭は古くから広く使用されてきたが、最近開発されたACFは、取扱性、吸着特性の点で従来の粒状、粉状の活性炭に比較し多くの優れた面を有し、その利用範囲も拡大しつつある。このACFは、レーヨン、フェノール系繊維、アクリル系繊維などの有機繊維から製造されており、特にアクリル系繊維を原料とした、いわゆるアクリル系ACFは繊維強度が高く、加工性が優れているためフェルト状、紙状のみならず、紡績糸、織物に加工でき、その需要は拡大しつつある。 このようなACFの吸着能力は、ガス成分の吸着の場合、ACFの比表面積の大きさで吸着量が決まることがある。 ベンゼンやアセトンなどの蒸気の吸着がその例である。 一方、液相成分だけでなく、ACFの細孔容積や平均細孔直径の大きさが吸着量に少なからず影響を与える。例えば、モデル物質として用いられるメチレンブルーやビタミンB12のような分子量の高い物質のACFへの吸着は、その比表面積よりも細孔容積や平均細孔直径の大小に強く影響される。このように多方面にわたる用途に充分に対応するためには、比表面積が大きく、なおかつ、細孔容積や平均細孔直径も大きいようなACFが要求される。しかしがら、通常市場に出ているアクリル系ACFは、比表面積 700~1100m2/g、細孔容積 0.25~0.6cc/g、平均細孔直径18~24Åであり、このものは優れた機械的特性に基ずく加工性を有するにもかかわらず、高い分子量の物質を含む液相系での処理などには不向きであった。従来、アクリル系ACFにおいても、比表面積1200~2000m2/gのものも造られているが、本発明者らの検討によれば、それらは微粉末の発生等の問題があり、商品価値の乏しいものであった。また、ACFの細孔容積、平均細孔直径を拡大するための方法として、特定の構造特性を有するACFに水溶性塩類なとを添着してのち賦活ガスにて処理する方法(特開昭58-18418号公報)が提案されている。しかしながら、この方法で得られたACFは、細孔容積や平均細孔直径が拡大するものの、添着賦活後、ACFの繊維強度が著しく低下し、本来のアクリル系ACFの優れた機械的特性が生かされにくかった。 本発明者らは、これらの事情に鑑み、鋭意研究の結果、比表面積、細孔容積、平均細孔直径いずれもが大きな値をもち、しかも機械的強度の面でも優れた活性炭素繊維を得る製造法を見出し、本発明に到達した。」(第1ページ左下欄15行~第2ページ右上欄14行) イ 「 以上の条件において、1次賦活及び2次賦活を行い、本発明の目的とする構造特性を有するACFを得る。このようにして得られたACFは、下表に示す通り、低分子量の物質の気相での吸着(例としベンゼン吸着を示す)のみならず、ビタミンB12のような比較的高い分子量を有する物質の液相吸着においても優れた吸着能を示す。 [図:0001404771000008.jpg] 」(第4ページ左上欄4行~右上欄の表) (10)甲10の記載事項 甲10は、「活性炭の製法及び水処理方法」に関するものであって、活性炭を大型或いは小型の各種浄水器に適用することが記載されている(【0021】)。 5 当審の判断 事案に鑑み、取消理由1、申立理由1-4、申立理由2-2及び申立理由3-2(サポート要件違反)、申立理由1-1及び申立理由1-3(甲1を主たる証拠とする新規性欠如、進歩性欠如)は、それぞれまとめて検討する。 (1)取消理由1、申立理由1-4、申立理由2-2及び申立理由3-2(サポート要件違反)について ア サポート要件の判断手法について 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。 イ サポート要件適合性について (ア) 本件発明の課題は、上記3(1)のとおり、「浄水器用途でも使用できる、PFAS(PFOS、PFOA等)除去性能の高い炭素質材料を提供すること」と認められる。 (イ) これに対し、上記3(2)(特に【0018】、【0021】、【0024】、【0027】)には、ベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量及びメソ孔容積の各々が炭素質材料の賦活の進行度合いや分子サイズの大きい物質の吸着指標となるものであり、かつ、PFASを効率よく除去するためには、ベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量及びメソ孔容積のバランスが重要と考えられ、ベンゼン吸着量が30~60%、ビタミンB12吸着量が50mg/g超、メソ孔容積が0.130~0.30cm3/gの範囲がPFASの吸着に好適であることが理解できる。 (ウ) さらに、上記3(3)の表1、表2によれば、実施例として、実施例1の炭素質材料は、ベンゼン吸着量が53.3%、ビタミンB12吸着量が183.0mg/g、メソ孔容積が0.149cm3/g、PFAS除去能力(BV)が24000であること、実施例2の炭素質材料は、ベンゼン吸着量が45.7%、ビタミンB12吸着量が405.0mg/g、メソ孔容積が0.131cm3/g、PFAS除去能力(BV)が17500であること、実施例3の炭素質材料は、ベンゼン吸着量が52.6%、ビタミンB12吸着量が205.0mg/g、メソ孔容積が0.164cm3/g、PFAS除去能力(BV)が20000であることが記載されている。 そして、上記(イ)も踏まえれば、各実施例におけるPFAS除去能力は、ベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量及びメソ孔容積の何れかが多少変動すると、当該変動に伴って細孔の状態や吸着能力も多少変動すると考えるのが自然であるから、本件特許明細書の実施例1~3という特定の組み合わせに留まらず、ベンゼン吸着量を45.7~53.3%、ビタミンB12吸着量を183.0~405.0mg/g及びメソ孔細孔容積を0.131~0.164cm3/gの範囲において、上記(ア)における本件発明の課題を解決できると認識できるといえる。 (エ) 他方、本件発明1は、上記第3のとおりの発明であって、「ベンゼン吸着量が45.7~53.3%であり、ビタミンB12吸着量が183.0mg/g~405.0mg/gであり、かつ、窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積が0.131~0.164cm3/gである」ことを特定しているから、上記(イ)、(ウ)で検討した発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるといえる。 (オ) 次に、上記取消理由1(上記2)に倣った観点からも、当業者において本件発明1が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるか検討する。 上記3(3)の表1、表2の記載事項において、ベンゼン吸着量及びメソ孔容積の値が同程度である実施例2(ビタミンB12吸着量:405.0mg/g、PFAS除去能力:17500)及び比較例3(ビタミンB12吸着量:38.3mg/g、PFAS吸着量:8000)の炭素質材料に着目すると、両炭素質材料のPFAS除去能力の違いは、ビタミンB12吸着量の違いに起因するものと推測される。 そして、PFAS除去能力とビタミンB12吸着量との間に相関があると仮定し、ベンゼン吸着量及びメソ孔容積が、実施例2及び比較例3の炭素質材料と同程度であって、ビタミンB12吸着量が、本件発明1のビタミンB12吸着量の数値範囲に含まれる、183.0mg/gである炭素質材料について、そのPFAS除去能力を線形補間によって求めると、以下のとおりとなる。 8000+(17500-8000)/(405-38.3)×(183.0-38.3)=約11748.7 そして、このPFAS除去能力の値(11748.7)は、比較例1(9500)、比較例6(10000)よりも大きく、また本件特許明細書における実施例の合格基準であるPFAS除去能力12000(上記3(3)の【0109】)に概ね一致するから、ベンゼン吸着量及びメソ孔容積が実施例2の炭素質材料と同程度であり、ビタミンB12吸着量が183.0mg/gである、本件発明1に含まれる炭素質材料も、当業者が上記(ア)の本件発明の課題を解決できると認識できるといえる。 (カ) 以上の検討のとおり、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 また、本件発明2~14は、いずれも本件発明1の全ての構成を有するものであるから、本件発明1と同様に、発明の詳細な説明に記載されたものであり、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 したがって、上記アの判断手法に従えば、本件発明1~14は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。 ウ 申立人の主張について (ア)申立理由の具体的な内容 申立理由1-4、申立理由2-2及び申立理由3-2における具体的な理由は、概略、以下のとおりである。 a 推定される課題解決メカニズムが記載されているとはいえず、またベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量及びメソ孔の細孔容積が実施例より広く、裏付けを欠く(申立理由1-4、申立理由2-2、申立理由3-2)。 b 本件発明の課題は、PFASと水道水中の有害物質の除去と認められるところ、PFAS以外の除去能力に対する十分な裏付けがない(申立理由2-2)。 c 実施例の組合せ以外で課題解決できるとは、直ちには認められない(申立理由3-2)。 (イ)当審の判断 a 上記(ア)aについて、上記第3のとおり、本件発明1に係るベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量及びメソ孔の細孔容積の上限値及び下限値は、実施例で裏付けられた範囲に訂正されている。 したがって、上記(ア)aに係る主張は採用できない。 b 上記(ア)bについて、上記イ(ア)で検討したとおり、本件発明の課題は「浄水器用途でも使用できる、PFAS(PFOS、PFOA等)除去性能の高い炭素質材料を提供すること」と認められるものであって、水道水中の有害物質の除去まで課題とするものとはいえない。 したがって、上記(ア)bに係る主張は採用できない。 c 上記(ア)cについて、上記イ(ウ)で検討したとおり、ベンゼン吸着量を45.7~53.3%、ビタミンB12吸着量を183.0~405.0mg/g及びメソ孔細孔容積を0.131~0.164cm3/gとしたものは、当業者であれば、上記(ア)における本件発明の課題を解決できると認識できるといえる。また、実施例の組合せ以外で本件発明の課題が解決できないという具体的理由も見出せないから、上記(ア)cに係る主張は採用できない。 エ まとめ 以上のとおりであるから、特許法第36条第6項第1号に係る取消理由1、申立理由1-4、申立理由2-2、及び申立理由3-2に理由はない。 (2)申立理由3-1(実施可能要件違反)について ア 実施可能要件の判断手法について 物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきであるので、以下、この観点に立って検討する。 イ 実施可能要件適合性について 上記3(2)(【0042】~【0060】)によれば、本件発明1の炭素質材料の製造方法は、「賦活炉として流動炉(流動賦活炉)を用い、炉床から導入する流動ガスとは別に、酸素含有ガスを流動炉に導入することを特徴」とし、当該酸素含有ガスの導入位置は、「流動ガスの流れ主方向Zにおけるガス分散部の上流端位置を0(m)、下流端位置をt1(m)とし(t1>0である。)、酸素含有ガスを導入する位置をt2(m)としたとき、0.5t1≦t2の関係を満たすことが好まし」く、かつ、「方向Zでみて流動床部20の高さ(厚さ)をT(m)とした場合(すなわち、T=(炉天井高さ-t1))、t2≦0.8T・・・であることが好ましい」ことが理解でき、加えて、使用する流動ガスの種類、流動ガス中の水蒸気濃度/二酸化炭素濃度、流動ガスと酸素含有ガスを合計したガス中の酸素濃度、酸素含有ガスの種類/酸素濃度、及び賦活時の温度/時間の具体的な物質や数値範囲も理解できる。 さらに、上記3(3)(【0094】~【0097】、【0107】【表1】、【0110】【表2】)によれば、例えば、実施例1の製造方法に関して、「フィリピン産のヤシ殻を炭化したヤシ殻炭を30mesh(0.5mm)から60mesh(0.25mm)に粒度調整した。このヤシ殻炭1kgを900℃に加熱した流動賦活炉に投入し、炉床から水蒸気15容量%、二酸化炭素11容量%の流動ガス50L/分、炉側部から酸素0.5容量%、窒素99.5容量%の酸素含有ガス5L/分を導入し、ベンゼン吸着量が約53.3重量%となるまで賦活処理を行った(流動賦活炉に導入する合計ガス中の酸素濃度は約0.045容量%)。流動賦活炉には、流動ガスの流れ主方向Zでみて炉内の上流側にガス分散層を備える炉を用いた。また、方向Zにおける酸素含有ガスの導入位置t2とガス分散層の下流端t1とはt1<t2の関係を満たした。すなわち、酸素含有ガスは流動賦活炉の流動床部に導入した。・・・得られた賦活処理炭を希塩酸で洗浄し、次いで残留した塩酸を除去するためイオン交換水で十分に洗浄、乾燥させることにより、炭素質材料を得た。処理条件及び得られた炭素質材料の物性値を表1に示す。」(【0094】、【0095】)と記載されており、実施例2、3の製造方法に関しても、実施例1と同等の製造条件が記載されている(【0096】、【0097】、【表1】の合計ガス中の酸素濃度)。 加えて、上記実施例1~3は、本件発明1に係るベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量及びメソ孔の細孔容積を満足するものであることも記載されている(【表2】)。 そうすると、実施例1~3を参考に、各製造条件(例えば、賦活時間)を調整すれば、実施例以外の所定の要件を満たす炭素質材料を製造できることが理解できるから、本件発明1に係る炭素質材料は、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基いて、過度の試行錯誤を要することなく製造できるものといえる。 よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記アの判断手法に従えば、特許法第36条第4項第1号の規定に適合する。 ウ 申立人の主張について 要するに、申立人3は、(i)本件明細書の【0042】、【0052】、【0054】~【0056】に記載された製造方法に従っても、比較例1のように本件発明1の炭素質材料が製造できるとは限らないこと、(ii)酸素ガス導入位置を設定する以外の条件が不明なため、本件発明の製造方法が理解できないこと、(iii)本件発明におけるビタミンB12吸着量の上限、下限について、どのように製造条件を調整すればできるのか不明であること、及び(iv)実施例以外の態様をどのように調整すればできるのか不明であることを論拠として、本件発明が実施可能要件に適合しない旨を主張する。 以下、上記(i)~(iv)の点について検討する。 (i)、(ii)について、上記イで検討したとおり、発明の詳細な説明には、本件発明に係る炭素質材料の製造方法として、酸素ガス導入位置以外の製造条件も開示されており、例えば実施例1~3に従えば本件発明に係る炭素質材料が製造できると認められるから、当該(i)、(ii)を論拠とする主張は採用できない。 (iii)について、上記第3のとおり、本件発明は訂正によりベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量及びメソ孔の細孔容積の数値範囲における上限、下限が実施例と同じ値であるから、当該(iii)を論拠とする主張は採用できない。 (iv)について、上記イで検討したとおり、実施例1~3を参考に、各製造条件(例えば、賦活時間)を調整すれば、実施例以外の所定の要件を満たす炭素質材料を製造できることが理解できるから、当該(iv)を論拠とする主張は採用できない。 エ まとめ 以上のとおりであるから、特許法第36条第4項第1号に係る申立理由3-1に理由はない。 (3)申立理由1-1、申立理由1-3(甲1を主たる証拠とした新規性、進歩性欠如)について ア 甲1に記載された発明 甲1の実施例における活性炭A(上記4(1))に注目して整理すると、甲1には以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)。 「メソポア細孔容積が0.15±0.05cm3/gである、 ヤシ殻系球状活性炭A。」 イ 本件発明1について (ア) 本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1が「ベンゼン吸着量が45.7~53.3%であり、ビタミンB12吸着量が183.0mg/g~405.0mg/gであ」ることを特定するのに対し、甲1発明におけるベンゼン吸着量及びビタミンB12吸着量が不明である点。 (イ) 相違点1について検討する。 甲1には、上記ヤシ殻系球状活性炭Aのベンゼン吸着量及びビタミンB12吸着量について記載も示唆もない。 甲2には、細孔半径20~100Åのメソポアの細孔容積Vp2が0.20cm3/g、ビタミンB12吸着量が195mg/gの活性炭素繊維(上記4(2)ウのNo.6)、ベンゼン吸着量が37%、ビタミンB12吸着量が144mg/gの活性炭素繊維(上記4(2)オのNo.3)及びベンゼン吸着量が43%、ビタミンB12吸着量が305mg/gの活性炭素繊維(上記4(2)オのNo.4)等が記載されているものの、当該物性は、甲1発明のヤシ殻系球状活性炭Aの物性を示すものでないし、また、甲1発明において、当該物性(相違点1に係る本件発明1のベンゼン吸着量及びビタミンB12吸着量)とすることの動機付けとなる記載も示唆もない。 甲3~甲8をみても、本件発明1に係るベンゼン吸着量及びビタミンB12吸着量について記載も示唆もない。 よって、相違点1は実質的な相違点であるし、また、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得るものであったということはできない。 したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明でなく、また、甲1発明及び甲2~8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 甲1の実施例における「大鋸屑系球状活性炭B」に注目して、甲1に記載された発明を認定しても事情は同じである。 ウ 本件発明2~14について 本件発明1に係る請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~14についても、上記イと事情は同じであるから、本件発明2~14は、甲1に記載された発明でなく、また、甲1に記載された発明及び甲2~8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到し得るものであったということはできない。 エ まとめ よって、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項に係る申立理由1-1、申立理由1-3に理由はない。 (4)申立理由1-2(甲2を主たる証拠とした新規性欠如)について ア 甲2に記載された発明 甲2のTable1におけるNo.6(上記4(2)イ、ウ)に着目して整理すると、甲2には以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲2発明」という。)。 「酸化チタンを含有しない酸化繊維を水蒸気中にて14分間、900℃で賦活して作成した活性炭素繊維であって、 全細孔容積が0.78cm3/g、 細孔直径20~100Åの細孔容積が0.20cm3/g、 比表面積が1230m2/g、 ビタミンB12吸着量が195mg/gである、活性炭素繊維。」 イ 本件発明1について (ア) 本件発明1と甲2発明とを対比すると、本件発明1と甲2発明とは少なくとも以下の点で相違する。 <相違点2> 本件発明1は、「窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積が0.131~0.164cm3/g」であることを特定するのに対し、甲2発明は、「細孔直径20~100Åの細孔容積が0.20cm3/g」である点。 (イ) 相違点2について検討するにあたり、まず本件発明1に係る「窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積」の意義について検討する。 本件明細書の【0024】(上記3(2))によれば、本件発明1における「メソ孔」とは直径2~50nmを意味するのであるから、上記「窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積」とは、窒素吸着等温線からBJH法により算出した直径2~50nm(20~500Å)の孔の細孔容積を意味するものと解される。 そうすると、本件発明1における「メソ孔の細孔容積」と甲2発明における「細孔直径20~100Åの細孔容積」とは、測定対象が異なるのであり、両者の数値を一概に比較することはできないから、この点は実質的な相違点である。 よって、本件発明1は、その余の点を検討するまでもなく、甲2発明でない。 甲2のTable1におけるNo.3、No.7に注目して甲2に記載された発明を認定しても事情は同じである。 ウ 本件発明2~14について 本件発明1に係る請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~14についても、上記イと事情は同じであるから、本件発明2~14は、甲2に記載された発明でない。 エ まとめ したがって、特許法第29条第1項第3号に係る申立理由1-2は理由がない。 (5)申立理由2-1(甲9を主たる証拠とする進歩性欠如)について ア 甲9に記載された発明 上記4(9)アによれば、甲9には「通常市場に出ているアクリル系ACFは、比表面積 700~1100m2/g、細孔容積 0.25~0.6cc/g、平均細孔直径18~24Åであり」と記載されている。そこで、当該「通常市場に出ているアクリル系ACF」に着目すると、甲9には以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲9発明」という。)。 「比表面積 700~1100m2/g、 細孔容積 0.25~0.6cc/g、 平均細孔直径18~24Åである、アクリル系活性炭素繊維。」 イ 本件発明1について (ア) 本件発明1と甲9発明とを対比すると、甲9発明の「アクリル系活性炭素繊維」は、本件発明1の「炭素質材料」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲9発明とは、「炭素質材料」の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点3> 本件発明1が「ベンゼン吸着量が45.7~53.3%であり、ビタミンB12吸着量が183.0mg/g~405.0mg/gであり、かつ、窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積が0.131~0.164cm3/gである」のに対し、甲9発明は「比表面積 700~1100m2/g、細孔容積 0.25~0.6cc/g、平均細孔直径18~24Å」であって、ベンゼン吸着量、ビタミンB12吸着量及び窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積が不明である点。 (イ) 当該相違点3について検討するに、甲9には、ベンゼン吸着量を45.7~53.3%、ビタミンB12吸着量を183.0mg/g~405.0mg/g、かつ、窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積を0.131~0.164cm3/gとすることは記載も示唆もないし、このような物性とすることが技術常識であることを示す証拠もない。 したがって、甲9発明において、上記相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得たものということはできない。 (ウ) 申立人2は、特許異議申立書において、甲9において、ガス成分の吸着はACFの比表面積の大きさで決まり、液相成分の吸着は比表面積よりも細孔容積や平均細孔直径の大小に強く影響される点や、甲9における本発明ACFの比表面積等を挙げた上で縷々主張するが(特許異議申立書の第7ページ下から4行~第8ページ22行)、少なくとも本件発明1に係る「窒素吸着等温線からBJH法により算出したメソ孔の細孔容積を0.131~0.164cm3/g」に関しては記載も示唆もないから、当該主張を参酌しても、甲9発明において、上記相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得たものということはできない。 (エ) 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものでない。 ウ 本件発明2~14について 本件発明1に係る請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~14についても、上記イと事情は同じであるから、本件発明2~14は、甲9に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得るものであったということはできない。 エ まとめ 以上の検討のとおり、特許法第29条第2項に係る申立理由2-1に理由はない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本件発明1~14に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に本件発明1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-701045

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