特許異議申立
2022-700014
活性炭、並びにそれを用いた吸着フィルターおよび浄水器
- 審判番号
- 2022-700014
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-518191
- 登録番号
- 6902536
- 請求日
- 2022年01月12日
- 審決日
- 2022年10月31日
- 公報発行日
- 2023年02月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社クラレ
- 【権利者代理人】小谷 悦司
- 【権利者代理人】小谷 昌崇
- 【権利者代理人】宇佐美 綾
- 【異議申立人】後藤 奈美
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 原 和秀
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.161-YAA(B01J) / P1651.121-YAA(B01J) / P1651.537-YAA(B01J) / P1651.851-YAA(B01J) / P1651.857-YAA(B01J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条の2、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6902536号発明「活性炭、並びにそれを用いた吸着フィルターおよび浄水器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6902536号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2~7〕について訂正することを認める。
特許第6902536号の請求項2~7に係る特許を維持する。
特許第6902536号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6902536号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)4月26日(優先権主張 2016年(平成28年)5月17日(JP)日本国)を国際出願日とする特許出願であって、令和3年6月23日にその特許権の設定登録がされ、同年7月14日に特許掲載公報が発行された。
そして、本件特許の請求項1~7に係る特許に対して、令和4年1月12日に特許異議申立人後藤奈美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後の経緯(提出書類等)は、概略、以下のとおりである。
令和 4年 4月20日付け 取消理由通知
同年 6月22日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 9月12日 意見書(申立人)
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和4年6月22日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下、この訂正の請求による訂正を「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に記載されている「比表面積が1000~1350m2/gである、請求項1記載の活性炭。」を、「有機化合物除去用活性炭であって、
窒素吸着法により算出されたBET式比表面積と、HK法から算出された細孔容積とを用いて、下記式により得られる平均細孔径が1.619~1.625nmであり、
D=4000×V/S
(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)、
比表面積が1000~1350m2/gである、活性炭。」に訂正する(請求項2の記載を直接的または間接的に引用する請求項4~7も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に記載されている「ヤシガラを原料とする活性炭である、請求項1又は2に記載の活性炭。」を、「有機化合物除去用活性炭であって、
窒素吸着法により算出されたBET式比表面積と、HK法から算出された細孔容積とを用いて、下記式により得られる平均細孔径が1.615~1.625nmであり、
D=4000×V/S
(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)、
比表面積が1000~1350m2/gであり、
ヤシガラを原料とする活性炭である、活性炭。」に訂正する(請求項3の記載を直接的または間接的に引用する請求項4~7も同様に訂正する。)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に記載されている「請求項1~3のいずれかに記載の活性炭」を、「請求項2または3に記載の活性炭」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5、7も同様に訂正する。)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に記載されている「請求項1~3のいずれかに記載の活性炭」を、「請求項2または3に記載の活性炭」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。)。
ここで、訂正前の請求項2~7は、訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用するから、訂正前の請求項1~7は一群の請求項を構成するところ、上記訂正事項1~5に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項1~7を訂正の単位として請求されたものである。
また、訂正後の請求項2~7に係る訂正について、特許権者は、当該訂正が認められるときに、請求項1に係る訂正と別の訂正単位として扱われることを求めている。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2において、同請求項1を引用する部分を独立した形に書き下して引用関係を解消するとともに、同請求項1に記載された「1.615~1.625nm」を「1.619~1.625nm」に、平均細孔径の数値範囲に係る下限を減縮し、当該数値範囲を狭くするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3において、同請求項2(同請求項1を間接的に引用)を引用する部分のみを独立した形に書き下して引用関係を解消するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4及び5について
訂正事項4及び5は、それぞれ、訂正前の請求項4及び6における選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、上記別の訂正単位とする求めに照らし、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2~7〕について訂正することを認める。
第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
上記第2で検討したとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項2~7に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項2~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて、それぞれ「本件発明2」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項2】
有機化合物除去用活性炭であって、
窒素吸着法により算出されたBET式比表面積と、HK法から算出された細孔容積とを用いて、下記式により得られる平均細孔径が1.619~1.625nmであり、
D=4000×V/S
(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)、
比表面積が1000~1350m2/gである、活性炭。
【請求項3】
有機化合物除去用活性炭であって、
窒素吸着法により算出されたBET式比表面積と、HK法から算出された細孔容積とを用いて、下記式により得られる平均細孔径が1.615~1.625nmであり、
D=4000×V/S
(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)、
比表面積が1000~1350m2/gであり、
ヤシガラを原料とする活性炭である、活性炭。
【請求項4】
請求項2または3に記載の活性炭及び高分子バインダーを含む、吸着フィルター。
【請求項5】
空間速度(SV)が2000~5000/hrの場合に、クロロホルムろ過能力が、吸着フィルター1ccあたり25L以上である、請求項4に記載の吸着フィルター。
【請求項6】
請求項2または3に記載の活性炭を用いる浄水器。
【請求項7】
請求項4または5に記載の吸着フィルターを用いる浄水器。」
第4 特許異議の申立てについて
1 特許異議の申立ての理由の概要
特許異議の申立ての理由(以下、「申立理由」という。)の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(特許法第29条の2に係る申立理由)
訂正前の請求項1~7に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲第1号証に係る特許出願(以下、「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者が先願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が先願の出願人と同一でもないので、同請求項1~7に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(特許法第29条第2項に係る申立理由)
訂正前の請求項1に係る発明は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明ないし技術的事項に基いて、同請求項2、3に係る発明は、甲第2号証及び甲第4号証~甲第6号証に記載された発明ないし技術的事項に基いて、同請求項4に係る発明は、甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明ないし技術的事項に基いて、同請求項5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明ないし技術的事項に基いて、同請求項6に係る発明は、甲第2号証~甲第6号証に記載された発明ないし技術的事項に基いて、同請求項7に係る発明は、甲第2号証~甲第5号証に記載された発明ないし技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同請求項1~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(特許法第36条第6項第1号に係る申立理由)
訂正前の請求項1に係る発明は、比表面積や細孔容積の数値範囲に係る特定がなく、比表面積や細孔容積の実施例1~3に係る範囲以外も含むものであるから、D=4000×V/Sの式によって本件発明の課題が解決できるとは認識できず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるため、同請求項1、3~7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものといえないから、同請求項1、3~7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(証拠方法)
甲第1号証 特願2015-213673号(特開2017-81799
号)
甲第2号証 特開2015-112518号公報
甲第3号証 特開2003-340445号公報
甲第4号証 特開2013-220413号公報
甲第5号証 特開2000-281325号公報
甲第6号証 特開2001-162269号公報
2 取消理由の概要について
訂正前の請求項1~7に係る発明に対して、令和4年4月20日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(特許法第29条の2に係る取消理由)
訂正前の請求項1、2、4、6、7に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた先願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者が先願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が先願の出願人と同一でもないので、同請求項1、2、4、6、7に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2(特許法第36条第6項第1号に係る取消理由)
本件特許の願書に添付された明細書の発明の詳細な説明(以下、「本件明細書」という。)の【0009】~【0010】、【0012】等の記載を踏まえ、本件発明の課題は、クロロホルムと1,1,1-トリクロロエタンの吸着除去を両立させることができる活性炭並びにそれを用いた吸着フィルター及び浄水器の提供であると認められるところ、活性炭の窒素吸着法により算出されるBET比表面積が1000~1350m2/gでない場合に本件発明の課題を解決し得るとは、当業者が認識できない。
よって、訂正前の請求項1に係る発明及びこれを直接的又は間接的に引用する同請求項3~7に係る発明は、上記課題を解決できる手段を反映したものといえず、発明の詳細な説明に記載されたものといえないから、同請求項1、3~7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 甲号証の記載内容について
(1)先願(甲第1号証)明細書の記載内容
先願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、下記の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した(以下同じ)。
ア 「【請求項2】
前記多孔質炭素の窒素BET法による比表面積が10(m2/g)以上である請求項1に記載の多孔質炭素。
・・・
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の多孔質炭素からなるフィルターを有することを特徴とする、有機ハロゲン化合物除去装置。」
イ 「【背景技術】
【0002】
活性炭に代表される多孔質炭素は、吸着性能に優れているため従来から悪臭の除去、液中の不純物除去、溶剤蒸気の回収、除去などの各種用途に広く使用されている。特に、水を浄化するための浄水器には、活性炭が使用されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
しかし、一般的に使用されるヤシ殻活性炭では、有機ハロゲン化合物等の低分子量化合物を十分に吸着させることは困難であった。
また、このような従来の浄水器にあっては、通液倍率が大きいと、即ち、浄水器中を流れる水の総量が大きくなると、浄水機能を十分に発揮できない場合があるといった問題があった。
そこで、有機ハロゲン化合物等の低分子量化合物の吸着性能に優れ、かつ通液倍率が大きい場合でも吸着性能の低下が生じにくい浄水器に使用可能な多孔質炭素の提供が望まれていた。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、有機ハロゲン化合物等の低分子量化合物の吸着性能に優れ、かつ通液倍率が大きい場合でも吸着性能の低下が生じにくい多孔質炭素を提供することを目的とする。」
エ 「【発明を実施するための形態】
・・・
【0009】
<特性の測定方法>
前記多孔質炭素の特性は、例えば、以下の装置を使用して測定することができる。
マイクロメリテックスジャパン合同会社製の3FLEXを使用して、窒素吸着等温線を測定し、比表面積はBET法で、全細孔容積は一点吸着法で、メソ孔容積はBJH法で、マイクロ孔容積はHK法で、マイクロ孔領域の細孔分布はDFT法で、それぞれ算出することができる。またDFT法によりマイクロ孔領域の細孔分布を求め、細孔径0.4nm~0.6nmの最大微分容積値を算出することができる。
・・・
【0012】
(有機ハロゲン化合物除去装置)
本発明の有機ハロゲン化合物除去装置は、前記多孔質炭素からなるフィルターを有する。
本発明の有機ハロゲン化合物除去方法は、前記有機ハロゲン化合物除去装置用いて有機ハロゲン化合物を前記多孔質炭素に吸着させて除去する方法である。
より具体的には、水浄化用フィルターとして前記多孔質炭素材料を用い、フィルター中に有機ハロゲン化合物の不純物を含む水を通液することにより、有機ハロゲン化合物を除去する。
この際、フィルター内に充填する前記多孔質炭素材料の充填密度としては、0.2g/cm3以上であることが好ましい。
本発明の有機ハロゲン化合物除去装置によれば、有機ハロゲン化合物の効果的な除去が可能となるため、通液倍率が大きい場合でも高い吸着性能を維持することができる。本発明の有機ハロゲン化合物除去装置を用いると、通液倍率が1,000倍、より好ましくは通液倍率が3,000倍、さらに好ましくは通液倍率が6,000倍の条件下でも有機ハロゲン化合物を高い除去率で除去することができる。
具体的には、本発明の有機ハロゲン化合物除去装置を用いて、有機ハロゲン化合物を濃度0.06mg/Lで含有する水に対し、通液倍率1,000倍の条件で有機ハロゲン化合物を除去すると、除去率は90%以上を示す。通液倍率3,000倍の条件では、除去率は65%以上、より好ましくは70%以上を示す。また、通液倍率6,000倍の条件では、除去率は50%以上、より好ましくは65%以上を示す。
本発明では、除去し得る対象の化合物として、前記有機ハロゲン化合物がクロロホルムであることがより好ましい。本発明の有機ハロゲン化合物除去装置は、クロロホルムの除去効果に優れている。」
オ 「【実施例】
・・・
【0014】
(実施例1)
原材料として籾殻を用いた。炭素化した籾殻(エコー商会製)に対し、酸又はアルカリ処理し、その後、960℃で1時間、水蒸気による賦活処理を行ない活性炭1を得た。
活性炭1の製造条件を下記表1に示す。また、3FLEX(マイクロメリテックスジャパン合同会社製)の装置を使用し、上述した測定方法により、活性炭1の各種特性を計測した。その結果を下記表2-1に示す。
<クロロホルム除去試験>
試料水は、クロロホルムを0.06±0.006mg/Lの濃度に調製した。そして、内径4mmのチューブに活性炭1を1mL(長さ80mm)充填した。試料水を温度20℃で、通液倍率1,000倍の条件で活性炭充填カラムに通水した。活性炭充填カラムから流出した試料水を採取し、クロロホルム濃度をガスクロマトグラフィーを用いて定量測定した。カラム通過前の試料水とカラムの活性炭層を通過した試料水を比較し、除去率を求めた。
ここで、通液倍率(倍)とは、一定時間において、活性炭の体積に対し通過した試料水の体積の割合をいう。通液倍率1,000倍時のクロロホルム除去率とは、空間速度SV=2,000(単位:1/h)で、クロロホルム水溶液を通液倍率(通液体積/活性炭体積)1,000倍で通過させた時、つまり、活性炭1mLに対し、クロロホルム水溶液を1,000mL流した時の除去率をいう。
さらに、通液倍率1,000倍と同様の方法で、通液倍率3,000倍、及び6,000倍における除去率も求めた。結果を下記表2に示す。
【0015】
(実施例2)
原材料として中国産の竹を用いた。炭素化した竹のチップ(有限会社綜合製)に対し、900℃で1時間、水蒸気による賦活処理を行ない活性炭2を得た。
活性炭2の製造条件を下記表1に示す。実施例1と同様の方法により、活性炭2の各種特性を計測した。また、クロロホルムの除去率を求めた。結果を下記表2-1に示す。
・・・
【0020】
(比較例1)
原材料としてヤシ殻を用いた。ヤシ殻の比較用活性炭1(CN240G、フタムラ化学社製)を用い、実施例1と同様の方法により、比較用活性炭1の各種特性を計測した。また、クロロホルムの除去率を求めた。結果を下記表2-2に示す。
【0021】
(比較例2)
原材料としてヤシ殻を用いた。ヤシ殻の比較用活性炭2(クラレコールGW、クラレケミカル株式会社製)を用い、実施例1と同様の方法により、比較用活性炭2の各種特性を計測した。また、クロロホルムの除去率を求めた。結果を下記表2-2に示す。
・・・
【0023】
【表2ー1】
[図:0001393997000001.jpg]
【0024】
【表2ー2】
[図:0001393997000002.jpg]
」
(2)甲第2号証の記載内容
甲第2号証には、下記の事項が記載されている。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2に記載された成形吸着体のように、吸着材として粒子状活性炭を用いる場合、成形吸着体からの活性炭粒子の脱落が問題となる。活性炭粒子の脱落を抑制するには、繊維状バインダーの使用量を増加させる方法があるが、この場合、成形吸着体内部の空隙が減少し、通水時の圧力損失が大きくなるという問題がある。本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、吸着性能に優れ、かつ、通水圧力損失が小さい成形吸着体を提供することを目的とする。」
イ 「【発明を実施するための形態】
・・・
【0013】
前記粒子状活性炭の比表面積(BET法)は、900m2/g以上が好ましく、より好ましくは950m2/g以上、さらに好ましくは1000m2/g以上であり、1200m2/g以下が好ましく、より好ましくは1150m2/g以下、さらに好ましくは1100m2/g以下である。比表面積が900m2/g以上であれば、活性炭自体の吸着性能が高く、得られる成形吸着体の吸着性能がより向上する。比表面積が1200m2/g以下であれば、細孔径が比較的大きく、除去対象物質を素早く吸着できるため、得られる成形吸着体の吸着性能がより向上する。
【0014】
前記粒子状活性炭の細孔容積(BET法)は、0.40ml/g以上が好ましく、より好ましくは0.45ml/g以上、さらに好ましくは0.50ml/g以上であり、0.70ml/g以下が好ましく、より好ましくは0.65ml/g以下、さらに好ましくは0.60ml/g以下である。細孔容積が0.40ml/g以上であれば、クロロホルム等の揮発性有機化合物を吸着し得る容量が大きくなり、得られる成形吸着体の吸着性能がより向上する。細孔容積が0.70ml/g以下であれば、成形吸着体の密度が高くなり、活性炭単位質量当たりの吸着性能が向上する。
【0015】
前記粒子状活性炭の平均細孔径(BJH法)は、1.0nm以上が好ましく、より好ましくは1.3nm以上、さらに好ましくは1.5nm以上であり、2.5nm以下が好ましく、より好ましくは2.2nm以下、さらに好ましくは2.0nm以下である。平均細孔径(BJH法)が1.0nm以上であれば、除去対象物質が細孔内に拡散しやすくなり、吸着速度がより向上し、2.5nm以下であれば、除去対象物質と細孔内壁との距離が近くなり、分子間力が強くなるため、吸着力がより高くなる。
・・・
【0020】
前記活性炭は、炭素原料を炭化した後、水蒸気賦活、アルカリ賦活することで得られる。炭素原料としては、フェノール樹脂などの合成樹脂、ヤシ殻、木質、もみ殻、石炭などを用いることができる。これらの中でも、成形した際の充填密度を高くできることから、合成樹脂、ヤシ殻、石炭が好ましい。特に、不純物が少なく、粉砕後にも良好な吸着性能を有することからフェノール樹脂などの合成樹脂やヤシ殻が好ましい。」
ウ 「【0051】
2.粒子状活性炭の準備
表1に示す物性を有する粒子状活性炭を準備した。粒子状活性炭AおよびBには、市販されている粒子状活性炭を使用し、粒子状活性炭Hには市販の銀添着粒子状活性炭を使用した。粒子状活性炭C、F、Gは、粒子状活性炭Aを原料として、超音波篩分級装置(セイシン社製、型式「KSFR-800」)を用いて調製した。篩(目開き25μm)のふるい上を粒子状活性炭C、篩(目開き25μm)のふるい下を粒子状活性炭F、篩(目開き53μm)のふるい上を粒子状活性炭Gとした。粒子状活性炭D、Eは、粒子状活性炭Aを原料として、気流分級装置(ホソカワミクロン社製、型式「100ATP」)を用いて調製した。分級条件は、粒子状活性炭Dは、ローター回転速度5000rpm、風量4.0Nm3/min、2次風量2.0Nm3/minとし、粒子状活性炭Eは、ローター回転速度7000rpm、風量4.0Nm3/min、2次風量2.0Nm3/minとした。粒子状活性炭Iは、粒子状活性炭Dと粒子状活性炭Hとを、質量比で98:2で混合して調製した。粒子状活性炭A、D、F、GおよびIの粒子径分布を図3に示した。
【0052】
【表1】
[図:0001393997000003.jpg]
」
(3)甲第3号証の記載内容
甲第3号証には、下記の事項が記載されている。
ア 「【請求項5】 平均細孔半径が1nm以下の活性炭が80%以上、1nm以上の活性炭が20%以下の混合割合とした請求項1、2、4のいずれか1項に記載の浄水カートリッジ。」
イ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来の浄水カートリッジは、通常、1種類の活性炭のみを使用していた。活性炭は、細孔に有機物などを吸着するのであるが、細孔の大きさにより有機物の吸着性能が大きく異なる。
・・・
【0009】本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、小さな分子サイズの物質と大きな分子サイズの物質の両方を有効に除去することができ寿命の長い浄水カートリッジを実現することを目的とするものである。」
ウ 「【発明の実施の形態】
・・・
【0016】請求項5に記載の発明は、平均細孔半径が1nm以下の活性炭が80%以上、1nm以上の活性炭が20%以下の混合割合とした請求項1、2、4のいずれか1項に記載の浄水カートリッジとすることにより、トリハロメタンなどの比較的小さな分子サイズの物質が多い水でも除去寿命の長い浄水カートリッジが実現できる。」
(4)甲第4号証の記載内容
甲第4号証には、下記の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
比表面積を900~1100m2/gとし、
MP法による細孔分布の測定において、細孔直径0~2.0nmの細孔の全細孔容積に占める細孔直径0.6nm以下の細孔の総細孔容積を全細孔容積の40~45%とし、
DH法による細孔分布の測定において、細孔直径1~100nmの細孔の全細孔容積に占める細孔直径2.0nm以下の細孔の総細孔容積を全細孔容積の20~23%とし、
表面酸化物量を0.05~0.14meq/gとした活性炭からなる
ことを特徴とする浄水器用活性炭。
【請求項2】
請求項1に記載の浄水器用活性炭にバインダーを添加して所定形状に成形してなることを特徴とする活性炭カートリッジ。
【請求項3】
請求項1に記載の浄水器用活性炭を所定形状の通水容器内に充填してなることを特徴とする活性炭カートリッジ。」
イ 「【実施例】
【0034】
〔浄水器用活性炭の調製〕
発明者らは椰子殻を原料とし活性炭を調製した。原料の椰子殻(焼成された椰子殻も含まれる。)を800℃ないし900℃前後まで加熱して保持し、水蒸気を導入して賦活を進めた。賦活後、室温付近まで自然放冷した。冷却後、60~120meshの篩により篩別し、粒径約0.1mmないし0.3mmの実施例1,2,3,4、及び比較例1,2,3,4の浄水器用活性炭を得た。
【0035】
〔浄水器用活性炭の測定項目〕
浄水器用活性炭の物性、性能について次の項目を測定した。結果は表1及び表2である。具体的に、比表面積(m2/g)、全細孔容積(cc/g)、平均細孔直径(nm)、MP法による細孔直径0nmないし2.0nmの範囲の細孔の全細孔容積(cc/g)と細孔直径0.6nm以下の細孔容積(cc/g)、DH法による細孔直径1.0nmないし100nmの範囲の細孔の全細孔容積(cc/g)と細孔直径2.0nm以下の細孔容積(cc/g)、表面酸化物量(meq/g)、よう素吸着性能(mg/g)、充填密度(g/cc)、ベンゼン吸着力(%)、60~120meshの篩別残量(%)、1,1,1-トリクロロエタン濾過能力(L/cc)、クロロホルム濾過能力(L/cc)である。以下、詳細を述べる。
【0036】
比表面積(m2/g)は、日本ベル株式会社製の高精度全自動ガス吸着装置BELSORP-miniを使用して77Kにおける窒素吸着等温線を測定し、BET法により求めた。
【0037】
全細孔容積(cc/g)は、細孔直径0.6nmないし100nmの範囲は、日本ベル株式会社製BELSORPminiを使用し、Gurvitschの法則を適用して相対圧0.953における窒素吸着量(V)を下記の数式(i)により液体窒素の体積(Vp)に換算して求めた。・・・
【0039】
平均細孔直径(nm)は、細孔の形状を円筒形と仮定し、前述の測定から得た細孔容積(cc/g)及び比表面積(m2/g)の値を用いて数式(ii)より求めた。
【0040】
【数2】
[図:0001393997000004.jpg]
・・・
【0051】
【表2】
[図:0001393997000005.jpg]
」
(5)甲第5号証の記載内容
甲第5号証には、下記の事項が記載されている。
「【0019】トリハロメタン吸着用には活性炭の賦活度はその比表面積が 300m2/g以上、1500m2/g以下の範囲が好ましく、700m2/g以上、1200m2/g以下がより好ましい。比表面積が1500m2/g程度以上になると、トリハロメタン吸着性が低下する傾向が認められるためであり、また平均細孔径もやや大きくなることが認められる。フミン酸吸着用では活性炭の賦活度はその比表面積が1000m2/g以上、3000m2/g以下の範囲が好ましく、1500m2/g以上、2800m2/g以下がより好ましい。」
(6)甲第6号証の記載内容
甲第6号証には、下記の事項が記載されている。
ア 「【請求項2】前記粒状活性炭Aの比表面積が800~1350m2/gであり、前記粒状活性炭Bの比表面積が1500~2300m2/gであることを特徴とする請求項1に記載の活性炭充填材。
・・・
【請求項5】請求項1乃至4に記載の活性炭充填材を備えて構成されていることを特徴とする活性炭充填材を用いた浄水カートリッジ。」
イ 「【0047】実施の形態1では、活性炭原料として椰子ガラを主材とし、賦活ガスを用い常法により反応させて得られた活性炭を用いた。この賦活時には温度、圧力、処理時間等の条件を変えて、比表面積を1200m2/g、1800m2/gに調整し、これらをそれぞれ粒状活性炭A及び粒状活性炭Bとして使用した。」
4 当審の判断
事案に鑑み、上記1の申立理由及び上記2の取消理由をまとめて検討する。
(1)特許法第29条の2に係る申立理由及び取消理由について
ア 特許法第29条の2(拡大先願)の要件の判断手法
特許出願に係る発明(以下、「後願発明」という。)と、当該特許出願の優先日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされたものの願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明(以下、「先願発明」という。)とが、特許法第29条の2における「同一」であるというためには、後願発明と先願発明とを対比した結果、後願発明と先願発明との間に相違点がない場合、又は、後願発明と先願発明との間に相違点がある場合であっても、両者が実質同一である場合であることを要すると解される。
そして、両者が実質同一であるとは、後願発明と先願発明との間の相違点が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)である場合をいう(審査基準第III部第3章3.2参照)。
以下、この観点に立って検討する。
イ 先願明細書に記載された発明
先願明細書には、クロロホルム除去用活性炭が記載されている(上記3(1)オ【0014】、【0015】)。
また、先願明細書には、実施例2の活性炭について、窒素BET法により算出された比表面積が1132m2/gであり(同ア【請求項2】、エ【0009】及びオ【表2ー1】)、HK法から算出されたマイクロ孔容積が0.458cm3/gであり(同エ【0009】及びオ【表2ー1】)、原材料が竹であること(同オ【0015】、【表2ー1】)が記載されている。
さらに、先願明細書には、比較例1の活性炭について、窒素BET法により算出された比表面積が1093m2/gであり(同ア【請求項2】、エ【0009】及びオ【表2ー2】)、HK法から算出されたマイクロ孔容積が0.44cm3/gであり(同エ【0009】及びオ【表2ー2】)、原材料がヤシ殻であること(同オ【0020】、【表2ー2】)が記載されている。
これらの記載を実施例2及び比較例1に注目して整理すると、先願明細書には、以下の発明(以下、実施例2に注目したものを「先願発明A」といい、比較例1に注目したものを「先願発明B」という。)が記載されていると認められる。
先願発明A
「クロロホルム除去用活性炭であって、
窒素BET法により算出された比表面積が1132m2/g、HK法から算出されたマイクロ孔容積が0.458cm3/gであり、
竹を原材料とする活性炭である、活性炭。」
先願発明B
「クロロホルム除去用活性炭であって、
窒素BET法により算出された比表面積が1093m2/g、HK法から算出されたマイクロ孔容積が0.44cm3/gであり、
ヤシ殻を原材料とする活性炭である、活性炭。」
ウ 対比、判断
(ア)本件発明2
a 本件発明2と先願発明Aとを対比すると、先願発明Aの「クロロホルム除去用活性炭」、「窒素BET法により算出された比表面積」、「HK法から算出されたマイクロ孔容積」及び「cm3/g」は、本件発明2の「有機化合物除去用活性炭」、「窒素吸着法により算出されたBET式比表面積」、「HK法から算出された細孔容積」及び「mL/g」にそれぞれ相当し、また、先願発明Aの「比表面積が1132m2/g」は、本件発明2の「比表面積が1000~1350m2/g」に含まれるものであるから、両者は、
「有機化合物除去用活性炭であって、
比表面積が1000~1350m2/gである、活性炭。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
活性炭の平均細孔径に関して、本件発明2では、「窒素吸着法により算出されたBET式比表面積と、HK法から算出された細孔容積とを用いて、」「式」「D=4000×V/S(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)」「により得られる平均細孔径が1.619~1.625nmである」のに対して、先願発明Aでは、「窒素BET法により算出された比表面積が1132m2/g、HK法から算出されたマイクロ孔容積が0.458cm3/gであ」ることが特定されている点
b 相違点1について検討する。
(a)先願発明Aの活性炭について、窒素BET法により算出された比表面積(S)とHK法から算出されたマイクロ孔容積(V)を用いて、本件発明2の式により得られる平均細孔径(D)は、
D=4000×V/S=4000×0.458/1132
=1.6183・・・≒1.618
となるから、本件発明2の平均細孔径の数値範囲(1.619~1.625nm)を満足しない。
そうしてみると、先願発明Aの活性炭は、「窒素吸着法により算出されたBET式比表面積と、HK法から算出された細孔容積とを用いて、」「式」「D=4000×V/S(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)」「により得られる平均細孔径が1.619~1.625nm」を満たしていないから、相違点1は実質的なものであって、本件発明2と先願発明Aは同一であるということはできない。
(b)また、本件発明2の課題は、クロロホルムと1,1,1-トリクロロエタンの吸着除去を両立させることができる活性炭並びにそれを用いた吸着フィルター及び浄水器の提供であると認められる(上記2(2))。
他方、先願明細書では、上記3(1)ウによれば、「本発明は、有機ハロゲン化合物等の低分子量化合物の吸着性能に優れ、かつ通液倍率が大きい場合でも吸着性能の低下が生じにくい多孔質炭素を提供することを目的」とした上で、同イによれば、「一般的に使用されるヤシ殻活性炭では、有機ハロゲン化合物等の低分子量化合物を十分に吸着させることは困難であった」とされていること、同エ【0012】によれば、「除去し得る対象の化合物として、前記有機ハロゲン化合物がクロロホルムであることがより好ましい」とされていること、同オ【0014】によれば、実施例として、「クロロホルム水溶液」を使って除去率を求めていることを踏まえると、先願発明Aの課題は、クロロホルムの吸着性能に優れ、かつ通液倍率が大きい場合でも吸着性能の低下が生じにくい、ヤシ殻を使用しない多孔質炭素を提供することであると認められる。
そして、本件発明2は、クロロホルムと1,1,1-トリクロロエタンの吸着除去を両立させるという課題を解決するための具体化手段として、「窒素吸着法により算出されたBET式比表面積と、HK法から算出された細孔容積とを用いて、」「式」「D=4000×V/S(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)」「により得られる平均細孔径が1.619~1.625nm」とするのに対して、先願発明Aは、クロロホルムの吸着性能に優れ、かつ通液倍率が大きい場合でも吸着性能の低下が生じにくい、ヤシ殻を使用しない多孔質炭素を提供するという課題を解決するための具体化手段として、「窒素BET法により算出された比表面積が1132m2/g、HK法から算出されたマイクロ孔容積が0.458cm3/g」とするのであるから、両者の課題を解決するための具体化手段の相違(相違点1)は、両者の解決しようとする課題の違いに起因するものということができる。
しかも、有機化合物除去用活性炭の技術分野において、平均細孔径の数値範囲を1.619~1.625nmとすることが、本件特許に係る出願の優先日時点において、周知技術又は慣用技術であるという証拠もない。
したがって、相違点1が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるとはいえない。
(c)以上を踏まえると、相違点1は実質的な相違点であって、課題解決のための具体化手段における微差でもない。
c 小括
以上のとおり、本件発明2と先願発明Aは同一ではない。
d 本件発明2と先願発明Bとを対比すると、上記aと同様に対比されるから、両者は、
「有機化合物除去用活性炭であって、
比表面積が1000~1350m2/gである、活性炭。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点2)
活性炭の平均細孔径に関して、本件発明2では、「窒素吸着法により算出されたBET式比表面積と、HK法から算出された細孔容積とを用いて、」「式」「D=4000×V/S(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)」「により得られる平均細孔径が1.619~1.625nmである」のに対して、先願発明Bでは、「窒素BET法により算出された比表面積が1093m2/g、HK法から算出されたマイクロ孔容積が0.44cm3/gであ」ることが特定されている点
e 相違点2について検討する。
(a)先願発明Bの活性炭について、窒素BET法により算出された比表面積(S)とHK法から算出されたマイクロ孔容積(V)を用いて、本件発明2の式により得られる平均細孔径(D)は、
D=4000×V/S=4000×0.44/1093
=1.6102・・・≒1.610
となるから、本件発明2の平均細孔径の数値範囲(1.619~1.625nm)を満足しない。
そうしてみると、先願発明Bの活性炭は、「窒素吸着法により算出されたBET式比表面積と、HK法から算出された細孔容積とを用いて、」「式」「D=4000×V/S(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)」「により得られる平均細孔径が1.619~1.625nm」を満たしていないから、相違点2は実質的なものであって、本件発明2と先願発明Bは同一であるということはできない。
(b)また、上記b(b)で検討したとおり、本件発明2が解決しようとする課題と先願明細書における解決しようとする課題は異なっているし、有機化合物除去用活性炭の平均細孔径の数値範囲を1.619~1.625nmとすることが、本件特許に係る出願の優先日時点において、周知技術又は慣用技術であるともいえない。
加えて、先願発明Bは、先願明細書において比較例として示されたものである。
これらのことを併せ考えれば、上記b(b)で検討したのと同様に、相違点2が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるということもできない。
(c)以上を踏まえると、相違点2は実質的な相違点であって、課題解決のための具体化手段における微差でもない。
f 小括
以上のとおり、本件発明2と先願発明Bは同一ではない。
g 申立人の主張について検討する。
申立人は、令和4年9月12日付け意見書において、活性炭の平均細孔径(D)は、活性炭原料の性質(個体差)や燃焼温度、賦活温度等様々な条件が影響するため、0.001の単位で物性をコントロールすることが現実的には不可能であり、また、平均細孔径の数値が「1.6183・・・」と「1.619」との間に臨界的意義があることを見出すことができないから、本件発明2と先願明細書に記載された発明との間には実質的な差異はないため、両者は実質同一であるといえる(3イ(ア)参照)と主張している。
申立人の当該主張について検討する。
上記アに記載したとおり、「両者が実質同一であるとは、後願発明と先願発明との間の相違点が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)である場合をいう。」から、申立人が主張するような、数値上の誤差や臨界的意義の有無のみに依拠して、両者が実質同一であるかどうかを判断するものではない。
したがって、申立人の当該主張は採用できない。
h 小括
以上のとおり、本件発明2と先願明細書に記載された発明は同一ではない。
(イ)本件発明3
a 本件発明3と先願発明Aとを対比すると、両者は、上記(ア)と同様に対比されるとともに、先願発明Aの「原材料」が本件発明3の「原料」に相当するから、両者は、
「有機化合物除去用活性炭であって、
比表面積が1000~1350m2/gである、活性炭。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点3)
活性炭の平均細孔径に関して、本件発明3では、「窒素吸着法により算出されたBET式比表面積と、HK法から算出された細孔容積とを用いて、」「式」「D=4000×V/S(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)」「により得られる平均細孔径が1.615~1.625nmである」のに対して、先願発明Aでは、「窒素BET法により算出された比表面積が1132m2/g、HK法から算出されたマイクロ孔容積が0.458cm3/gであ」ることが特定されている点
(相違点4)
活性炭の原料に関して、本件発明3では、「ヤシガラ」であるのに対して、先願発明Aでは、「竹」である点
b 相違点3について検討する。
先願発明Aの活性炭について、窒素BET法により算出された比表面積(S)とHK法から算出されたマイクロ孔容積(V)を用いて、本件発明3の式により得られる平均細孔径(D)は、
D=4000×V/S=4000×0.458/1132
=1.6183・・・≒1.618
となるから、本件発明3の平均細孔径の数値範囲(1.615~1.625nm)を満足する。
そうしてみると、先願発明Aの活性炭は、「窒素吸着法により算出されたBET式比表面積と、HK法から算出された細孔容積とを用いて、」「式」「D=4000×V/S(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)」「により得られる平均細孔径が1.615~1.625nm」を満たしているから、相違点3は実質的な相違点といえない。
c 相違点4について検討する。
(a)本件発明3は、活性炭という物の発明であるから、本件発明3の活性炭の原料に関する特定は、活性炭という物自体の有機化合物除去性能などの物性の違いをその原料によって特定しようとしたものと解される。
(b)そして、先願明細書には、原材料に「竹」を使用した活性炭2(実施例2)のクロロホルムの除去率(上記3(1)オ【0014】、【0015】、【表2ー1】)の方が、原材料に「ヤシ殻」(本件発明3の「ヤシガラ」に相当)を使用した比較用活性炭1、2(比較例1、2)のクロロホルム除去率(同【0020】、【0021】、【表2ー2】)よりも高いことが記載されていて、「竹」を原料とする活性炭と「ヤシ殻」を原料とする活性炭を比較すると、両者の有機化合物除去性能が異なるから、本件発明3と先願発明Aは同一であるということはできない。
(c)次に、本件発明3の課題は、クロロホルムと1,1,1-トリクロロエタンの吸着除去を両立させることができる活性炭並びにそれを用いた吸着フィルター及び浄水器の提供であると認められる(上記2(2))。
他方、先願発明Aの課題は、クロロホルムの吸着性能に優れ、かつ通液倍率が大きい場合でも吸着性能の低下が生じにくい、ヤシ殻を使用しない多孔質炭素を提供することであると認められる(上記(ア)b(b))。
そして、本件発明3は、クロロホルムと1,1,1-トリクロロエタンの吸着除去を両立させるという課題を解決するための具体化手段として、活性炭の原料として「ヤシガラ」を用いるのに対して、先願発明Aは、クロロホルムの吸着性能に優れ、かつ通液倍率が大きい場合でも吸着性能の低下が生じにくい、ヤシ殻を使用しない多孔質炭素を提供するという課題を解決するための具体化手段として、活性炭の原料として「竹」を用いるのであるから、両者の課題を解決するための具体化手段の相違(相違点4)は、両者の解決しようとする課題の違いに起因するものということができる。
そうしてみると、本件発明3と先願発明Aとは、そもそも解決しようとする課題が異なるのであるから、相違点4が課題解決のための具体化手段における微差であるということもできない。
(d)以上を踏まえると、相違点4は実質的な相違点であって、課題解決のための具体化手段における微差でもない。
d 小括
以上のとおり、本件発明3と先願発明Aは同一ではない。
e 本件発明3と先願発明Bとを対比すると、両者は、上記aと同様に対比されるとともに、先願発明Bの「ヤシ殻」が本件発明3の「ヤシガラ」に相当するから、両者は、
「有機化合物除去用活性炭であって、
比表面積が1000~1350m2/gであり、
ヤシガラを原料とする活性炭である、活性炭。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点5)
活性炭の平均細孔径に関して、本件発明3では、「窒素吸着法により算出されたBET式比表面積と、HK法から算出された細孔容積とを用いて、」「式」「D=4000×V/S(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)」「により得られる平均細孔径が1.615~1.625nmである」のに対して、先願発明Bでは、「窒素BET法により算出された比表面積が1093m2/g、HK法から算出されたマイクロ孔容積が0.44cm3/gであ」ることが特定されている点
f 相違点5について検討する。
上記(ア)e(b)で検討した相違点2と同様に、相違点5は実質的な相違点であって、課題解決のための具体化手段における微差でもない。
g 小括
以上のとおり、本件発明3と先願発明Bは同一ではない。
h 申立人の主張について検討する。
申立人は、特許異議申立書において、先願明細書には「一般的に使用されるヤシ殻活性炭」(【0002】)と記載されているから、本件発明3と先願明細書に記載された発明は同一である(3(4)ウ(ウ)参照)と主張している。
しかしながら、上記e~gで検討したとおり、本件発明3と先願発明B(原材料が「ヤシ殻」のもの)が同一であるということはできないし、また、上記a~dで検討したとおり、本件発明3と先願発明A(原材料が「竹」のもの)が同一であるということもできない。
したがって、申立人の当該主張は採用できない。
i 小括
以上のとおり、本件発明3と先願明細書に記載された発明は同一ではない。
(ウ)本件発明4~7
本件発明4~7は、本件発明2又は3を引用するものであって、本件発明2又は3の特定事項の全てを含むものであるから、上記(ア)又は(イ)に示した理由と同様の理由により、先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。
エ まとめ
以上の検討のとおりであるから、上記アの判断手法に従えば、特許法第29条の2に係る申立理由及び取消理由に理由はない。
(2)特許法第29条第2項に係る申立理由について
ア 甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術的事項
(ア)甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、上記3(2)イ【0014】によれば、活性炭がクロロホルム等の揮発性有機化合物を吸着することが記載されている。
また、甲第2号証には、上記3(2)イ【0013】~【0015】及びウ【表1】によれば、同ウ【表1】の「粒子状活性炭B」について、比表面積(BET法)が950~1050m2/g、細孔容積(BET法)が0.43~0.48ml/g、平均細孔径(BJH法)が1.60~1.82nmであることが記載されている。
さらに、甲第2号証には、上記3(2)イ【0020】によれば、ヤシ殻を原料とする活性炭であることが記載されている。
これらの記載を整理すると、甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
甲2発明
「揮発性有機化合物を吸着する活性炭であって、
比表面積(BET法)が950~1050m2/g、細孔容積(BET法)が0.43~0.48ml/g、平均細孔径(BJH法)が1.60~1.82nmであり、
ヤシ殻を原料とする活性炭である、活性炭。」
(イ)甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には、上記3(3)イによれば、浄水カートリッジに使用される活性炭が有機物を吸着することが記載されている。
また、甲第3号証には、上記3(3)アによれば、平均細孔半径が1nm以下の活性炭が80%以上、1nm以上の活性炭が20%以下の混合割合とする浄水カートリッジが記載されている。
これらの記載を整理すると、甲第3号証には、以下の技術的事項(以下、「甲3技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
甲3技術的事項
「有機物を吸着する浄水カートリッジに使用される活性炭に関して、平均細孔半径が1nm以下の活性炭が80%以上、1nm以上の活性炭が20%以下の混合割合とすること」
イ 対比、判断
事案に鑑み、本件発明3から検討する。
(ア)本件発明3
a 本件発明3と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「揮発性有機化合物を吸着する活性炭」、「比表面積(BET法)」、「ヤシ殻」及び「ml/g」は、本件発明3の「有機化合物除去用活性炭」、「窒素吸着法により算出されたBET式比表面積」、「ヤシガラ」及び「mL/g」にそれぞれ相当し、また、甲2発明の「比表面積(BET法)」が「950~1050m2/g」は、本件発明3の「比表面積が1000~1350m2/g」と重複する部分を有するものであるから、両者は、
「有機化合物除去用活性炭であって、
比表面積が1000~1350m2/gであり、
ヤシガラを原料とする活性炭である、活性炭。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点6)
活性炭の平均細孔径に関して、本件発明3では、「窒素吸着法により算出されたBET式比表面積と、HK法から算出された細孔容積とを用いて、」「式」「D=4000×V/S(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)」「により得られる平均細孔径が1.615~1.625nmである」のに対して、甲2発明では、「比表面積(BET法)が950~1050m2/g、細孔容積(BET法)が0.43~0.48ml/g、平均細孔径(BJH法)が1.60~1.82nmであ」ることが特定されている点
b 相違点6について検討する。
(a)本件発明3の平均細孔径の算出方法(窒素吸着法により算出されたBET式比表面積と、HK法から算出された細孔容積とを用いて、式 D=4000×V/S(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)により算出する方法)と甲2発明の平均細孔径の算出方法(BJH法)は異なるものであるところ、算出方法の違いによって例え同一の細孔分布を有する活性炭であっても算出された数値が異なることは、当業者にとって技術常識である(本件特許に係る特許出願の審査段階における令和2年12月22日付け意見書のII.(2)参照)。
したがって、本件発明3と甲2発明では、平均細孔径の評価方法が異なっているため、当該数値を対比し、異同を判断できない。
(b)また、本件発明3の細孔容積の算出方法(HK法)と甲2発明の細孔容積の算出方法(BET法)は異なるものであるところ、上記(a)で検討したように、算出方法の違いによって例え同一の細孔分布を有する活性炭であっても算出された数値が異なることは、当業者にとって技術常識である(本件特許に係る特許出願の審査段階における令和2年12月22日付け意見書のII.(2)参照)。
そうしてみると、本件発明3と甲2発明では、細孔容積の評価方法が異なっているため、本件発明3の式 D=4000×V/Sを使って算出した平均細孔径の数値を対比し、異同を判断できない。
(c)仮に、本件発明3と甲2発明との間で、平均細孔径の数値を対比し異同を判断できるとしても、甲2発明の「1.60~1.82nm」の数値範囲から1.615~1.625nmの数値範囲を選択しようとする動機付けは見当たらない。
(d)また、本件明細書の【0090】及び【表1】には、実施例として、平均細孔径が1.619nm(実施例1)と1.620nm(実施例2、3)のものが記載され、比較例として、平均細孔径が1.614nm(比較例1)、1.627nm(比較例5)のもの等が記載されるとともに、実施例に係る活性炭は、比較例の活性炭に比べて、クロロホルム及び1,1,1-トリクロロエタンの両方に対して優れた吸着性能を示すことが記載されている。
本件発明3の平均細孔径の数値範囲は上限値と下限値の差が0.01nmしかなく、また、当該数値範囲に含まれる実施例と当該数値範囲に含まれない比較例との間で、クロロホルム及び1,1,1-トリクロロエタンの両方に対する吸着性能に差があるとのことであるから、本件発明3は、平気細孔径の数値範囲を1.615~1.625nmとすることにより、当業者が予測し得ない格別な効果を奏するものといえる。
(e)さらに、甲2発明において、平均細孔径の算出方法を、甲2発明の算出方法に代えて本件発明3の算出方法とする動機付けも見当たらない。
c 以上を踏まえると、相違点6は実質的なものであって、容易に想到し得るものでもない。
したがって、甲2発明において、活性炭の平均細孔径について、窒素吸着法により算出されたBET式比表面積と、HK法から算出された細孔容積とを用いて、式 D=4000×V/S(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)により得られる平均細孔径が1.615~1.625nmであるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
d 申立人の主張について検討する。
申立人は、特許異議申立書において、本件発明3の平均細孔径は、甲第2号証、甲第3号証に記載の平均細孔径の数値範囲に含まれていることから、平均細孔径を1.615~1.625nmとすることは設計的事項に過ぎないし、また、どのような手法で平均細孔径を導くかも設計的事項に過ぎないものである(3(4)エ(ア)参照)と主張している。
しかしながら、上記a~cで検討したとおり、甲第2号証に記載された発明に基いて容易であるということはできず、いわゆる設計的事項ということはできない。
また、甲第3号証には、上記ア(イ)で記載したとおり、「有機物を吸着する浄水カートリッジに使用される活性炭に関して、平均細孔半径が1nm以下の活性炭が80%以上、1nm以上の活性炭が20%以下の混合割合とすること」が記載されているが、当該混合割合に関する特定のみでは、平均細孔径は活性炭の細孔径分布に応じてあらゆる値を取り得るから、申立人が主張するように、必ずしも平均細孔径が2nm以下を示しているということはできないため、甲第3号証に記載された技術的事項を踏まえても、設計的事項ということはできない。
したがって、申立人の当該主張は採用できない。
e 小括
以上のとおり、本件発明3は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
(イ)本件発明2
a 本件発明2と甲2発明とを対比すると、両者は、上記(ア)と同様に対比されるから、両者は、
「有機化合物除去用活性炭であって、
比表面積が1000~1350m2/gである、活性炭。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点7)
活性炭の平均細孔径に関して、本件発明2では、「窒素吸着法により算出されたBET式比表面積と、HK法から算出された細孔容積とを用いて、」「式」「D=4000×V/S(式中、D:平均細孔径(nm),V:細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)」「により得られる平均細孔径が1.619~1.625nmである」のに対して、甲2発明では、「比表面積(BET法)が950~1050m2/g、細孔容積(BET法)が0.43~0.48ml/g、平均細孔径(BJH法)が1.60~1.82nmであ」ることが特定されている点
b 相違点7について検討する。
本件発明2の活性炭の平均細孔径の数値範囲(1.619~1.625nm)は、本件発明3の活性炭の平均細孔径の数値範囲(1.615~1.625nm)をより減縮したものであるといえる。
そして、本件発明3と甲2発明との間の平均細孔径の数値範囲に係る相違点6は、上記(ア)b及びcで検討したとおり、実質的なものであって、容易に想到し得るものでもないから、本件発明3よりも減縮した平均細孔径の数値範囲を有する本件発明2と甲2発明との間の相違点7も、相違点6と同様に、実質的なものであって、容易に想到し得るものでもない。
c 小括
以上のとおり、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
(ウ)本件発明4~7
本件発明4~7は、本件発明2又は3を引用するものであって、本件発明2又は3の特定事項の全てを含むものであるから、上記(イ)又は(ア)に示した理由と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
ウ まとめ
以上の検討のとおりであるから、特許法第29条第2項に係る申立理由に理由はない。
(3)特許法第36条第6項第1号に係る申立理由及び取消理由について
ア 本件発明の課題は、本件明細書の【0009】~【0010】、【0012】等の記載を踏まえ、クロロホルムと1,1,1-トリクロロエタンの吸着除去を両立させることができる活性炭並びにそれを用いた吸着フィルター及び浄水器の提供であると認められる。
そして、本件明細書の実施例1~3には、比表面積が1122~1231m2/gの範囲、細孔容積が0.4541~0.4986mL/gの範囲、平均細孔径が1.619~1.620nmの範囲である活性炭が具体的に記載されるとともに、当該活性炭は、比較例の活性炭と比べて、クロロホルム及び1,1,1-トリクロロエタンの吸着量が向上していることから、上記実施例の活性炭は、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものといえる。
イ 次に、実施例の活性炭から本件発明2及び3への拡張又は一般化について検討する。
本件明細書の【0024】には、活性炭の窒素吸着法により算出されるBET比表面積が1000~1350m2/g程度であることが好ましいことが記載されている。
そうしてみると、窒素吸着法により算出されるBET比表面積が1000~1350m2/g程度である活性炭は、実施例の活性炭と同様に、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
また、本件明細書の【0022】には、活性炭の平均細孔径が1.615未満又は1.625nmを超えると、所望の揮発性有機化合物に対する吸着除去能力が低下することが記載されている。
そうしてみると、平均細孔径が1.615~1.625nmである活性炭は、実施例の活性炭と同様に、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、本件発明2及び3は、実施例の活性炭から拡張又は一般化できたものと当業者が認識できるものである。
ウ 申立人の主張について検討する。
(ア)申立人は、令和4年9月12日付け意見書において、以下を主張している。
a 本件明細書の比較例2には比表面積が1345m2/g、比較例6には比表面積が1057m2/gの活性炭を用いた例が記載されており、これらのクロロホルムの吸着性能は、比表面積1122~1231m2/gの活性炭を用いた実施例1~3よりも劣るから、本件発明3で特定される比表面積の範囲のうち、「1000~1121m2/g」及び「1232~1350m2/g」の範囲の活性炭を用いたときに、本件発明の課題を解決し得ると当業者は認識することができないこと(3ウ(ア)(b)参照)(以下、「主張点a」という。)。
b 活性炭の平均細孔径(D)について、実施例としては、1.619nmと1.620nmのものが示されているに過ぎないから、本件発明3で特定される平均細孔径の範囲のうち、「1.615~1.618nm」及び「1.621~1.625nm」の範囲の活性炭を用いたときに、本件発明の課題を解決し得ると当業者は認識することができないこと(3イ(イ)及び3ウ(ア)(a)参照)(以下、「主張点b」という。)。
(イ)申立人の当該主張について検討する。
a 主張点aについて
本件明細書の【表1】によれば、比較例2の活性炭の平均細孔径は1.612nm、比較例6の活性炭の平均細孔径は1.882nmであって、本件発明3の平均細孔径の数値範囲(1.615~1.625nm)に含まれないものである。
そして、本件明細書の【0022】によれば、平均細孔径が1.615未満又は1.625nmを超えると、所望の揮発性有機化合物に対する吸着除去能力が低下すると記載されている。
そうしてみると、比較例2及び比較例6の活性炭のクロロホルムの吸着特性が実施例1~3の活性炭に比べて劣る要因は、活性炭の比表面積の違いではなく平均細孔径の違いにあるといえる。
したがって、比較例2及び比較例6の活性炭のクロロホルムの吸着性能が実施例の活性炭に比べて劣ることは、実施例の活性炭から本件発明2又は本件発明3への拡張又は一般化を否定する根拠とはいえない。
b 主張点bについて
確かに、本件明細書には、平均細孔径が「1.615~1.618nm」及び「1.621~1.625nm」の範囲に含まれる実施例は記載されていない。
しかしながら、本件明細書には、上記アで検討したとおり、平均細孔径が1.619nmと1.620nmの実施例があり、また、上記イで検討したとおり、本件明細書の【0022】には、活性炭の平均細孔径が1.615未満又は1.625nmを超えると、所望の揮発性有機化合物に対する吸着除去能力が低下することが記載されている。
他方、平均細孔径が「1.615~1.618nm」及び「1.621~1.625nm」の範囲に含まれる活性炭では、本件課題を解決できないことを示す具体的な証拠はない。
以上を踏まえると、平均細孔径が1.615~1.625nmである活性炭は、実施例の活性炭と同様に、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、申立人の主張はいずれも採用できない。
エ まとめ
以上のとおり、本件発明2及び3は、本件特許の願書に添付された明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
また、本件発明4~7は、当該本件発明2又は3に係る活性炭を含む吸着フィルターないし浄水器であることから、同様に判断することができる。
したがって、特許法第36条第6項第1号に係る申立理由及び取消理由に理由はない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項2~7に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項2~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項1に係る発明は、上記第2のとおり、訂正により削除された。これにより、請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700014