特許異議申立
2022-701040
トイレットロール
- 審判番号
- 2022-701040
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-132409
- 登録番号
- 7060045
- 請求日
- 2022年10月20日
- 審決日
- 2023年06月09日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】王子ホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人特許事務所サイクス
- 【異議申立人】金山 愼一
- 審判長/審判官
- 審判長 居島 一仁
- 審判官 有家 秀郎
- 審判官 佐藤 史彬
- 分類
- P1651.841-YAA(A47K) / P1651.851-YAA(A47K) / P1651.121-YAA(A47K) / P1651.536-YAA(A47K) / P1651.537-YAA(A47K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7060045号発明「トイレットロール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7060045号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、〔6-7〕について訂正することを認める。
特許第7060045号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7060045号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成28年8月9日に出願された特願2016-156380号の一部を新たな特許出願とした特願2020-118216号の一部を、令和2年8月4日に新たな特許出願としたものであり、令和4年4月18日にその特許権の設定登録がされ、同月26日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許について、同年10月20日(差出日)に、特許異議申立人 金山 愼一(以下、「申立人」という。)より、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出され、請求項1ないし7に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。
その後の経緯は、次のとおりである。
令和4年12月19日付け: 取消理由通知書
令和5年 2月16日: 特許権者による意見書及び訂正請求書
の提出
同年 3月30日: 申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年2月16日になされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許第7060045号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし7について訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は以下のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「1プライのトイレットペーパーを巻き取ってロール状としたトイレットロールであって、
前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下であり、
巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上16g/m2以下であり、
前記トイレットペーパーは、エンボス加工により形成されたエンボスパターンを有し、
前記エンボスパターンにおける、前記エンボス密度は10個/cm2以上30個/cm2以下であり、
前記トイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上300μm以下である、トイレットロール。」
と記載されているのを、
「1プライのトイレットペーパーを巻き取ってロール状としたトイレットロールであって、
前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下であり、
巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が14g/m2以上16g/m2以下であり、
前記トイレットペーパーは、エンボス加工により形成されたエンボスパターンを有し、
前記エンボスパターンにおける、前記エンボス密度は10個/cm2以上30個/cm2以下であり、
前記トイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上300μm以下である、トイレットロール。」
に訂正する。
(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する訂正後の請求項2ないし5も、同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6に、
「1プライのトイレットペーパーにエンボス加工を施す工程と、
エンボス加工を施したトイレットペーパーをロール状に巻き取る工程とを含むトイレットロールの製造方法であって、
前記エンボス加工を施す工程は、1プライのトイレットペーパーに、エンボスパターンを構成する複数の凸構造が設置されたエンボスロールでエンボスを形成する工程であり、
前記エンボス加工を施す工程では、前記エンボスロールを8kgf/cm以上20kgf/cm以下の圧力で型押しし、
前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下であり、
巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上16g/m2以下であり、
前記エンボスロールにおける前記凸構造の密度は10個/cm2以上30個/cm2以下であり、
前記トイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上300μm以下である、トイレットロールの製造方法。」
と記載されているのを、
「1プライのトイレットペーパーにエンボス加工を施す工程と、
エンボス加工を施したトイレットペーパーをロール状に巻き取る工程とを含むトイレットロールの製造方法であって、
前記エンボス加工を施す工程は、1プライのトイレットペーパーに、エンボスパターンを構成する複数の凸構造が設置されたエンボスロールでエンボスを形成する工程であり、
前記エンボス加工を施す工程では、前記エンボスロールを8kgf/cm以上20kgf/cm以下の圧力で型押しし、
前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下であり、
巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が14g/m2以上16g/m2以下であり、
前記エンボスロールにおける前記凸構造の密度は10個/cm2以上30個/cm2以下であり、
前記トイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上300μm以下である、トイレットロールの製造方法。」
に訂正する。
(請求項6の記載を引用する訂正後の請求項7も、同様に訂正する。)
2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無、訂正の単位、及び独立特許要件について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明について、トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が「10g/m2以上16g/m2以下」と特定されていたのを、「14g/m2以上16g/m2以下」へと限定する訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記アで説示したとおり、訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明について限定を行うものであり、発明のカテゴリーや対象又は目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 新規事項の有無について
願書に添付された明細書の段落【0019】には、「本発明のトイレットロールを構成するトイレットペーパーの1プライ当たりの坪量は、10g/m2以上16g/m2以下である。」と記載されており、同段落【0062】の【表1】には、「実施例1」、「実施例2」及び「実施例3」における「坪量(1枚あたり)」の「g/m2」の値が、それぞれ「15.2」、「14.0」及び「15.3」であることが示されている。
上記段落【0019】の記載及び【表1】から、「トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量」について、「10g/m2以上16g/m2以下」の範囲のうち、実施例2の数値を下限として実施例1ないし3の数値を含む範囲である、「14g/m2以上16g/m2以下」の範囲とすることは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「願書に添付した明細書等」という。)に記載されたすべての事項に対して、新たな技術的事項を追加するものではなく、願書に添付した明細書等に記載された事項を総合することにより導出される事項ということができる。
したがって、訂正事項1において、トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量を「14g/m2以上16g/m2以下」へと限定した点は、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
エ 独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項1ないし7について、特許異議の申立てがされているので、訂正事項1において、請求項1ないし5について、特許請求の範囲の減縮が行われていても、訂正の適否の要件として、訂正後の請求項1ないし5に係る発明について、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項6に係る発明について、トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が「10g/m2以上16g/m2以下」と特定されていたのを、「14g/m2以上16g/m2以下」へと限定する訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記アで説示したとおり、訂正事項2は、訂正前の請求項6に係る発明について限定を行うものであり、発明のカテゴリーや対象又は目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 新規事項の有無について
願書に添付された明細書の段落【0019】には、「本発明のトイレットロールを構成するトイレットペーパーの1プライ当たりの坪量は、10g/m2以上16g/m2以下である。」と記載されており、同段落【0062】の【表1】には、「実施例1」、「実施例2」及び「実施例3」における「坪量(1枚あたり)」の「g/m2」の値が、それぞれ「15.2」、「14.0」及び「15.3」であることが示されている。
上記段落【0019】の記載及び【表1】から、「トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量」について、「10g/m2以上16g/m2以下」の範囲のうち、実施例2の数値を下限として実施例1ないし3の数値を含む範囲である、「14g/m2以上16g/m2以下」の範囲とすることは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「願書に添付した明細書等」という。)に記載されたすべての事項に対して、新たな技術的事項を追加するものではなく、願書に添付した明細書等に記載された事項を総合することにより導出される事項ということができる。
したがって、訂正事項2において、トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量を「14g/m2以上16g/m2以下」へと限定した点は、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
エ 独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項1ないし7について、特許異議の申立てがされているので、訂正事項2において、請求項6及び7について、特許請求の範囲の減縮が行われていても、訂正の適否の要件として、訂正後の請求項6及び7に係る発明について、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。
(3)訂正の単位について
本件訂正前の請求項1ないし5について、請求項2ないし5はそれぞれ請求項1を直接又は間接に引用しているから、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正がされるものである。そのため、訂正前の請求項1ないし5に対応する訂正後の請求項1ないし5は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当する。
訂正前の請求項6及び7について 請求項7は請求項6を引用しているから、訂正事項2によって記載が訂正される請求項6に連動して訂正がされるものである。そのため、訂正前の請求項6及び7に対応する訂正後の請求項6及び7は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当する。
したがって、訂正事項1に係る訂正、及び、訂正事項2に係る訂正は、それぞれ、一群の請求項〔1-5〕、及び、一群の請求項〔6-7〕に対して、一群の請求項ごとに請求されたものである。
(4)申立人の意見書における主張について
申立人は、令和5年3月30日提出の意見書において、本件訂正の適否について、特に意見を述べていない。
3 小括
以上のとおりであるから、訂正事項1及び2からなる本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、かつ、同条9項で準用する同法126条5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕、及び訂正後の請求項〔6-7〕について、本件訂正を全て認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は全て認められたので、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、各々を「本件発明1」等といい、請求項1ないし7に係る発明をまとめて「本件発明」という。)は、令和5年2月16日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の、請求項1ないし7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
1プライのトイレットペーパーを巻き取ってロール状としたトイレットロールであって、
前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下であり、
巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が14g/m2以上16g/m2以下であり、
前記トイレットペーパーは、エンボス加工により形成されたエンボスパターンを有し、
前記エンボスパターンにおける、前記エンボス密度は10個/cm2以上30個/cm2以下であり、
前記トイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上300μm以下である、トイレットロール。
【請求項2】
前記エンボスパターンでは、1個のエンボス直径は0.5mm以上2.0mm以下である請求項1に記載のトイレットロール。
【請求項3】
前記エンボスパターンでは、エンボス深さが0.85mm以下である請求項1又は2に記載のトイレットロール。
【請求項4】
前記トイレットペーパーの表面及び裏面のハンドフィール値の平均が65.0以上である請求項1~3のいずれか1項に記載のトイレットロール。
【請求項5】
前記トイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが75μm以上110μm以下である請求項1~4いずれか1項に記載のトイレットロール。
【請求項6】
1プライのトイレットペーパーにエンボス加工を施す工程と、
エンボス加工を施したトイレットペーパーをロール状に巻き取る工程とを含むトイレットロールの製造方法であって、
前記エンボス加工を施す工程は、1プライのトイレットペーパーに、エンボスパターンを構成する複数の凸構造が設置されたエンボスロールでエンボスを形成する工程であり、
前記エンボス加工を施す工程では、前記エンボスロールを8kgf/cm以上20kgf/cm以下の圧力で型押しし、
前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下であり、
巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が14g/m2以上16g/m2以下であり、
前記エンボスロールにおける前記凸構造の密度は10個/cm2以上30個/cm2以下であり、
前記トイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上300μm以下である、トイレットロールの製造方法。
【請求項7】
前記凸構造の高さが0.85mm以下である請求項6に記載のトイレットロールの製造方法。」
第4 証拠一覧、特許異議申立理由の要旨、及び取消理由通知に記載した取消理由の要旨
1 証拠一覧
申立人により提出された証拠は、以下のとおりである。なお、以下では甲第1号証、甲第2号証等を、それぞれ「甲1」、「甲2」等という。
・甲1:
特開2014-233363号公報(平成26年12月15日公開)
・甲2:
特開2009-34278号公報(平成21年2月19日公開)
・甲3:
特開2003-70678号公報(平成15年3月11日公開)
・甲4:
特開平7-268800号公報(平成7年10月17日公開)
・甲5:
特開2006-284366号公報(平成18年10月19日公開)
・甲6:
特表2006-524093号公報(平成18年10月26日公表)
・甲7:
特開2009-28457号公報(平成21年2月12日公開)
・甲8:
特開2013-202346号公報(平成25年10月7日公開)
・甲9:
特開平2-167695号公報(平成2年6月28日公開)
・甲10:
特開2013-189728号公報(平成25年9月26日公開)
・甲11:
特開2013-217004号公報(平成25年10月24日公開)
・甲12:
「ティシューソフトネス測定装置 Tissue Softness Analyzer Model TSA ティシューの柔らかさを分析するための新しくて客観的な測定技術」、2010年9月24日、独国emtec社日本総代理店 日本ルフト株式会社
・甲13:
「JIS P4501-1993 トイレットペーパー」、JISハンドブック2009 ○32 紙・パルプ、第791頁-第795頁、2009年1月30日発行、財団法人日本規格協会(当審注;「○32」は「○」の中に「32」を示す。)
・甲14:
特開2003-61860号公報(平成15年3月4日公開)
・甲15:
特開2015-66250号公報(平成27年4月13日公開)
・甲16:
特開2014-198090号公報(平成26年10月23日公開)
・甲17:
特開2013-208297号公報(平成25年10月10日公開)
・甲18:
特開平10-234614号公報(平成10年9月8日公開)
・甲19:
特開平5-278909号公報(平成5年10月26日公開)
・甲20:
「コラム(70)<資料>巻取紙に関する算式(2007年10月1日)」、2013年1月28日公開、株式会社吉田印刷所、インターネットURL https://dtp-bbs.com/road-to-the-paper/column/formula-about-rolling-up-paper.html
・甲21:
異議2021-700100号の異議の決定(起案日 令和3年12月20日)
・甲22:
異議2021-700100号の取消理由通知書(決定の予告)(起案日 令和3年9月13日)
・甲23:
異議2021-700100号の取消理由通知書(起案日 令和3年3月31日)
2 特許異議申立理由の要旨
申立人が申立書において主張する特許申立理由の要旨は、次のとおりである。
(1)進歩性欠如
ア 甲1に記載された比較例2ないし4に係る発明を主たる引用発明として
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲1に記載された比較例2ないし4に係る発明、甲2に記載された技術的事項、及び甲3ないし甲20に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 甲1に記載された実施例及び請求項1に係る発明を主たる引用発明として
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲1に記載された実施例及び請求項1に係る発明、甲2に記載された技術的事項、及び甲3ないし甲20に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)実施可能要件違反
本件特許の請求項1ないし7に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載をしたものではないから、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしておらず、それらの発明に係る特許は同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)サポート要件違反
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしておらず、それらの発明に係る特許は同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)明確性要件違反
本件特許の請求項3及び7に係る発明は、明確でないから、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしておらず、それらの発明に係る特許は同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 取消理由通知に記載した取消理由の要旨
本件訂正前の請求項1ないし7に係る特許に対して、当審が令和4年12月19日付けの取消理由通知(以下、単に「取消理由通知」という。)により特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
・進歩性欠如;
甲1に記載された比較例2ないし4に係る発明を主たる引用発明として
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲1に記載された比較例2ないし4に係る発明及び甲2に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
1 主な証拠の記載
(1)甲1
ア 記載事項
取消理由通知に記載した取消理由において主たる引用例として引用し(上記第3の3)、申立人による特許異議申立理由において進歩性欠如の主たる引用例とされている(上記第4の2(1)ア及びイ)、甲1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。以下、同様。)。
(ア)「【請求項1】
1枚の衛生薄葉紙をロール状に巻き取った衛生薄葉紙ロールであって、前記衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が16.5~21.5g/m2、かつ紙厚が0.6~1.1mm/10枚以下であり、
当該衛生薄葉紙ロールの巻長が120~185m、巻直径が100~132mmである衛生薄葉紙ロール。」
(イ)「【0001】
この発明は、トイレットティシュー等のロール状をなす衛生薄葉紙ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トイレットペーパーは、主に4ロール又は12ロール等を単位として包装されたものが市販されている。これらの包装体は嵩張るため、購入時に持ち運べる量は限られており、一度に購入できる量は自ずと限度がある。また、家庭や職場、公共施設などにおいても保管スペースが限られている。
このようなことから、ロール製品を構成する衛生薄葉紙の1枚当りの坪量を13g/m2未満に下げ、さらに紙厚を60μm未満に薄くすることで、巻長を長くしたロール製品が開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-87703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ロール製品を構成する紙の坪量を下げると、強度が低下すると共に使用感や嵩高さが低下する。一方、これらの不具合を補うために紙の嵩を高くするため、カレンダー処理を弱めると、柔らかさや滑らかさが劣ったり、ロール径が大きくなってトイレットペーパーホルダーに収まり難くなる問題がある。また、エンボス処理を強めると、紙厚が高くなりすぎたり、紙の表裏の使用感の差が大きくなるなどの問題がある。また、坪量を下げずに、カレンダー処理を強くして紙厚を薄くすると、ロール径を小さくすることはできるが、柔らかさがなく、品質が劣る問題がある。
従って本発明は、坪量を下げずに風合いや使用感に優れると共に1ロール当りの巻長を長くし、持ち運びや保管時の省スペース性に優れた衛生薄葉紙ロールの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、衛生薄葉紙ロールは、1枚の衛生薄葉紙をロール状に巻き取った衛生薄葉紙ロールであって、前記衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が16.5~21.5g/m2、かつ紙厚が0.6~1.1mm/10枚以下であり、当該衛生薄葉紙ロールの巻長が120~185m、巻直径が100~132mmである。」
(ウ)「【0011】
以下に本発明の好ましい実施形態につき説明するが、これらは例示の目的で掲げたものでこれらにより本発明を限定するものではない。
図1に示すように、本発明の実施形態に係る衛生薄葉紙ロール10は、1枚の衛生薄葉紙10xをロール状に巻き取ってなり、衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が16.5~21.5g/m2、かつ紙厚が0.6~1.1mm/10枚以下であり、ロールの巻長(巻き取り長さ)が120~185m、巻直径DRが100~132mmである。巻長は、好ましくは145~185mmである。巻直径DRは、好ましくは100~125mmである。
1枚当りの衛生薄葉紙の坪量及び紙厚を上記範囲に調整する方法としては、詳しくは後述するが、衛生薄葉紙の原紙ウェブのカレンダー条件(カレンダー処理後の紙厚及び比容積、カレンダー処理前後の紙厚差)及びエンボス条件(エンボス処理後の紙厚及び比容積、エンボス処理前後の紙厚差)を規定する。
【0012】
衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が16.5g/m2未満であるか、又は紙厚が0.6mm/10枚未満であると、強度が低下すると共に使用感(嵩高さ)も低下する。衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が21.5g/m2を超えるか、又は紙厚が1.1mm/10枚を超えると、積層体が厚くなり、これを120m以上巻いたロールの巻直径が132mmを超え、トイレットペーパーホルダーに収まり難くなったり、紙の表裏の使用感の差が大きくなる。
ロールの巻長が120m未満であると、1ロール当りの巻長が短くなり、保管時の省スペースが図れない。ロールの巻長が185mを超えるものは、巻直径DR(ロールの外径)が132mmを超えてしまい、トイレットペーパーホルダー等に収まり難くなる。
衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が好ましくは17.5~20.5g/m2であり、紙厚が好ましくは0.60~0.80mm/10枚である。」
(エ)「【0013】
ティシューソフトネス測定装置TSA(Tissue Softness Analyzer)により、試料台に設置した1枚の衛生薄葉紙10xのロール外側の表面10aを上にしたサンプルに対し、ブレード付きロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0(/sec)で回転させ、試料台の振動を振動センサで測定したとき、TSA上のソフトウェアにて自動的に取得した、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度(TS750)が好ましくは12~30dBV2rms、より好ましくは12~25dBV2rmsであり、6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)が好ましくは14~26dBV2rms、より好ましくは14~23dBV2rmsである。又、衛生薄葉紙の表面を上にした上記TS750の値(これを「TS750t」と表記する)を1とした時、衛生薄葉紙10xのロール内側の裏面10bを上にして試料台に設置したときのTS750の値(これを「TS750b」と表記する)で表される比R(TS750b/TS750t)が好ましくは1.06~2.30、より好ましくは1.06~1.70である。
衛生薄葉紙の表面を上にしたサンプルについて、TS7の数値が上記範囲より高いと、十分なやわらかさが得られず、上記範囲より低いと、柔らかさだけが際立ち、良好な触感を得ることができない場合がある。TS750(TS750t)の数値が上記範囲より高いと、滑らかさに劣り、上記範囲より低いと、滑らかではあっても、エンボス処理が十分ではなく、比容積が小さくなる場合がある。
【0014】
衛生薄葉紙にはエンボスが付与され、ロール外側となる表面のTS750tは、ロール内側となる裏面のTS750bより低くなる。これは、表面のエンボスが凹になっており、裏面のエンボスが凸になっているため、裏面の方が粗く感じてTS750の値が高くなるためである。
そして、上記比Rは衛生薄葉紙の表裏面の触感の差を表し、比Rが2.30を超えると、表裏面の触感の差(滑らかさの表裏差)が大きくなり過ぎる。一方、比Rが1.06未満であると、エンボス深さが浅くなってエンボスが弱くなり、エンボスの見た目が悪くなる。
【0015】
剛性(D)は、TSAにより、試料台に設置したサンプルに対し、ブレード付きロータを回転させずに100mNと600mNの押し込み圧力でそれぞれ上から押し込んだとき、それぞれ押し込み圧力100mNと600mNの間での前記サンプルの上下方向の変形変位量で表される。
Dが2.4~3.5mm/Nであることが好ましく、2.7~3.5mm/Nであることがより好ましい。
Dが上記範囲の下限値より低いと、しなやかさに劣り、上記範囲の上限値より高いとしなやかさが際立ちすぎる一方、DMDTが低くて破れやすく、又、滑らかさが劣り、全体の品質のバランスを欠く。」
(オ)「【0017】
なお、試料台205はベースプレート201上に設置され、試料台205とベースプレート201の間には、力センサ202が配置されている。そして、力センサ202の検出値により、ブレード付きロータ204の押し込み圧力を制御する。又、ブレード付きロータ204はモータ209によって回転する。
又、振動解析してパラメータ化(TS値)するソフトウェアは、emtec measurement systemを用いる。本ソフトウェアには、各種アルゴリズム(例えば、Base Tissue、Facial、TP等)が備えられ、TS7、TS750、D(剛性)をソフトウェア上で自動的に取得し、これらTS7、TS750、Dおよび、坪量、厚さ、Ply数等から各種アルゴリズムの種類によって、HF(ハンドフィール)値が計算される。本発明では、HF値ではなく、TS7、TS750、Dのみを規定しており、上記測定条件を満たせば、アルゴリズムは何を使用しても良く、TS7、TS750、Dの値はアルゴリズムの種類によって変わることはない。」
(カ)「【0024】
衛生薄葉紙は、例えば以下のように、(1)抄紙及びクレーピング、(2)マシンワインダーによるカレンダー処理、(3)エンボス処理及びロール巻取り加工、の順で製造することができる。」
(キ)「【0030】
カレンダー処理後でエンボス処理前の原反4のウェブの坪量を1枚当たり17.5~22.0g/m2とすることが好ましい。後述するロール巻取り加工においてウェブは若干伸びて坪量も低くなるので、最終形態の衛生薄葉紙ロール10の目標坪量より若干高い17.5~22.0g/m2とすると好ましく、より好ましくは18.5~21.0g/m2とする。
【0031】
(3)エンボス処理及びロール巻取り加工
図6はロール巻取り加工機150の一例を示す。原反4は、ロール巻取り加工機150にセットされ、エンボスユニット(エンボスロール)151によってエンボス処理された後、巻取り機構153によって巻直径が100~132mmの幅広衛生薄葉紙原ロール10Wに巻き取られる。その後、原ロール10Wを所定幅(114mm等)に切り、衛生薄葉紙ロール10となる。
ロール巻取り加工機150は、大別するとサーフェイス方式とセンター方式の2種類がある。サーフェイス方式は巻取るロールを外側から別の複数の駆動ロールで支持しながら巻取る方法であり、巻取られた衛生薄葉紙ロール10は、巻き径のコントロールがし易く、生産速度がより高速となる。センター方式は巻取りロールの中心に通したシャフトの駆動により巻取る方法で、巻取られた衛生薄葉紙ロール10は、比較的柔らかな製品となり、デリケートなエンボスを施した製品に適している。本発明においては、いずれの方法でも巻き取ることができるが、好ましくはサーフェイス方式である。
なお、ロール巻取り加工機150にマシンワインダー100を組み込み、ロール巻取り加工機にて、カレンダー処理、エンボス処理をこの順で行ってもよい。
【0032】
ロール巻取り加工機150においてエンボスを施すことで、衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が16.5~21.5g/m2の範囲であっても、嵩を高くして柔らかさと、ほぐれ易さを向上させることができる。
エンボス処理前後の衛生薄葉紙の紙厚の差ΔE(エンボス処理前の紙厚-エンボス処理後の紙厚)を好ましくは-0.20~0.15mm/10枚、より好ましくは-0.10~0.10mm/10枚とする。ΔEが上記範囲を超えると、エンボス処理が十分でなく、柔らかさが劣る場合がある。ΔEが上記範囲未満であると、エンボス処理が強すぎて、滑らかさの表裏差が大きくなる場合がある。ここで、エンボス処理前とは、カレンダー処理後と同じ意味である。
なお、エンボス処理を行うと、エンボス処理後の紙厚は、エンボス処理前より高くなり、ΔEはマイナスになる。しかし、ロール加工機では、紙を引っ張りながら巻き取るため、紙が伸びて紙厚が低くなる。従って、ロール加工機では、エンボスと紙の伸びの影響を考慮しながら、ΔEが-0.20~0.15mm/10枚となるよう、巻き取ることが好ましい。
エンボスの強さは、エンボスロールとゴムロールのニップ幅を適宜調整して制御することができる。ニップ幅は、ロールの特性によっても異なるが、好ましくは20~40mm、より好ましくは25~35mmである。ニップ幅が40mmを超えると、エンボスが強くなりすぎて表裏差が大きくなったり、紙厚が高くなってロールの巻直径DRが大きくなってしまう。一方、ニップ幅が20mm以下であると、エンボスが弱くなって見た目が悪くなったり、比容積が小さくなる場合がある。ニップ幅は、カーボン紙を用いて測定することができる。測定方法としては、まず、エンボスロールのニップを逃がし、カーボン紙と一般的なコピー用紙を重ねてセットする。次に、エンボスロールにニップをかける。その後、ニップを逃がし、カーボン紙とコピー用紙を取り外す。エンボスロールでニップがかかっていた部分のカーボン紙の色がコピー用紙に転写されるので、ニップ幅を測定することができる。」
(ク)「【0035】
パルプ組成(質量%)をNBKP10%、LBKP90%とし、この原料に対して、牛乳パック由来の古紙原料を35%配合し、図5、図6に示す装置により、表1に示す衛生薄葉紙及びそのロールを製造した。
【0036】
以下の評価を行った。
乾燥時の縦方向引張り強さDMDTと乾燥時の横方向引張り強さDCDT:JIS P8113に基づいて、1枚の衛生薄葉紙につき、破断までの最大荷重をN/25mmの単位で測定した。
坪量:JISP8124に基づいて測定し、衛生薄葉紙1枚当たりに換算した。
紙厚:シックネスゲージ(尾崎製作所製のダイヤルシックネスゲージ「PEACOCK」)を用いて測定した。測定条件は、測定荷重3.7kPa、測定子直径30mmで、測定子と測定台の間に試料を置き、測定子を1秒間に1mm以下の速度で下ろしたときのゲージを読み取った。なお、カレンダー処理前のウェブについては、衛生薄葉紙を10枚重ねて測定を行い、カレンダー処理後およびロールについては、衛生薄葉紙を10枚重ねて行った。又、測定を10回繰り返して測定結果を平均した。そして、得られた1回当りの平均値を枚数で割って衛生薄葉紙1枚当りの紙厚とした。
比容積:衛生薄葉紙1枚当たりの厚さを1枚当たりの坪量で割り、単位gあたりの容積cm3で表した。
吸水度:旧JIS-S3104法に従い、温度23±1℃、湿度50±2%の状態で、0.01ml精製水を滴下し、水滴が1枚の衛生薄葉紙に吸収される時間(秒)を測定した。
ほぐれ易さ:JISP4501に従い、衛生薄葉紙1枚のほぐれやすさを測定した。
ロールの巻直径DR:ムラテックKDS株式会社製ダイヤメータールールを用いて測定した。測定は、10個のロールを測定し、測定結果を平均した。
【0037】
DTS7、TS750の測定は、上記ティシューソフトネス測定装置TSAを用いて行った。測定条件も上記のとおりである。
官能評価は、モニター20人によって行った。評価基準は5点満点で行った。評価基準が3点以上であれば良好である。なお、「エンボスの見た目」は、モニターの目視により、エンボスの形状が視認できるか否かの評価である。
なお、坪量、引張強さ、厚さ、比容積、及びティシューソフトネス測定装置TSAによる測定は、JIS-P8111に規定する温湿度条件下(23±1℃、50±2%RH)で平衡状態に保持後に行った。
【0038】
得られた結果を表1、表2に示す。」
(ケ)「【0039】
【表1】
[図:0001401667000001.jpg]
」
(コ)「【0040】
【表2】
[図:0001401667000002.jpg]
」
(サ)「【0041】
表1、表2から明らかなように、衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が16.5~21.5g/m2、かつ紙厚が0.60~1.1mm/10枚以下である各実施例の場合、衛生薄葉紙ロールの巻長が120~185m、巻直径が100~132mmの範囲となり、坪量を下げずに風合いや使用感に優れると共に1ロール当りの巻長を長くすることができた。
【0042】
一方、紙厚が0.6mm/10枚未満である比較例1の場合、柔らかさに劣った。これは、カレンダーの線圧が8.5kg/cmを超えると共に、カレンダー処理前後の紙厚差ΔCが0.40mm/10枚を超え、比容積が3.0cm3/g未満となったためと考えられる。又、比較例1の場合、エンボス処理前後の紙厚差ΔEが0.18mm/10枚以上であったため、エンボス処理が弱くなった。
衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が16.5g/m2未満である比較例2~4の場合、破れにくさが劣った。
衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が21.5g/m2を超えた比較例5,6の場合、ロールの巻直径が132mmを超え、ペーパホルダに装着し難くなった。なお、比較例5は、エンボス処理前後の紙厚差ΔEが0.15mm/10枚を超え、エンボス処理が弱いため、柔らかさが劣った。又、比較例6は、カレンダー処理前後の紙厚差ΔCが0.40mm/10枚を超え、カレンダー処理が強すぎたために柔らかさが劣った。」
イ 技術分野及び課題
上記ア(イ)に摘記した段落【0001】の記載より、甲1は、トイレットティシュー等のロール状をなす衛生薄葉紙ロールの技術分野に関する。
上記ア(イ)に摘記した段落【0002】-【0004】の記載より、甲1では、持ち運びや保管時の省スペース性に優れ、かつ巻長を長くしたロール製品とするために、衛生薄葉紙の1枚当たりの坪量を下げると、強度が低下すると共に使用感や嵩高さが低下し、カレンダー処理を弱めたりエンボス処理を強めても、紙厚が高くなりすぎたり紙の表裏の使用感の差が大きくなること、また坪量を下げずに紙厚を薄くすると、品質が劣ることを、問題点として取り上げている。
そして、同段落【0004】の最終文の記載より、甲1における課題は、坪量を下げずに、使用感に優れると共に、巻長が長く持ち運びや保管時の省スペース性に優れた衛生薄葉紙ロールを提供することであると、理解される。
ウ 実施例及び比較例の位置づけ
(ア)実施例の位置づけ
甲1において、【表1】には、実施例1ないし9の衛生薄葉紙ロールが示されている。
実施例1ないし9の衛生薄葉紙ロールは、上記ア(ア)に摘記した【請求項1】及び同(イ)に摘記した段落【0005】の記載を踏まえると、坪量を下げずに、使用感に優れると共に、巻長が長く持ち運びや保管時の省スペース性に優れた衛生薄葉紙ロールを提供するという、上記イに示した甲1における課題を解決するために、坪量については16.5~21.5g/m2の範囲内とし、紙厚、巻長及び巻直径についても、それぞれ所定の数値範囲としたものであると、理解される。
実施例1ないし9のうち、坪量について最も小さい値をとる実施例は、坪量を17.0g/m2とする、実施例1である。
(イ)比較例2ないし4の位置づけ
甲1において、【表2】には、比較例1ないし6の衛生薄葉紙ロールが示されている。
比較例1ないし6の衛生薄葉紙ロールは、いずれも甲1における「実施例」という位置づけではない。
しかしながら、【表2】に示される比較例1ないし6に関する各パラメータは、【表1】に示される実施例1ないし9に関するパラメータと同程度に詳細である。また、段落【0005】及び【0011】に記載される、「1枚の衛生薄葉紙」を「ロール状に」巻き取ったという「衛生薄葉紙ロール」の基本構成についても、【表1】に示される実施例1ないし9と【表2】に示される比較例1ないし6とで変更したことを示す記載はない。
そのため、比較例1ないし6は、「1枚の衛生薄葉紙」を「ロール状に」巻き取ったという「衛生薄葉紙ロール」の基本構成について、実施例と同様であり、甲1における「衛生薄葉紙ロール」として、実施例1ないし9と同程度に、具体的構成を把握し得る記載がされているものである。
比較例1ないし6のうち、比較例1、比較例5及び比較例6は、坪量について、上記(ア)でみた好適範囲より高い値とした、比較例である。
比較例2ないし4は、坪量について、上記(ア)でみた好適範囲より低い値とした、比較例である。比較例2ないし4は、坪量を下げるとともに「エンボス処理」を行っており、上記ア(イ)に摘記した段落【0004】の記載を踏まえると、「ロール製品を構成する紙の坪量を下げると、強度が低下すると共に使用感や嵩高さが低下する」という従来技術の不具合を、「エンボス処理」によって少なくとも一部補ったものと理解される。ただし、比較例2ないし4は、【表2】における「破れにくさ」の評価については、5段階中の「1」または「2」であるから、「強度が低下する」という不具合については、補われないままのものという、位置づけである。
エ 記載された発明
(ア)実施例1の「衛生薄葉紙ロール」に着目して
【表1】に示される実施例のうち、「衛生薄葉紙」の「坪量」が最も小さい「17.0g/m2」である「実施例1」の「衛生薄葉紙ロール」に着目すると、甲1には、上記アより、次の発明(以下、「甲1実施例発明」という。)が 記載されている。
<甲1実施例発明>
「(1)抄紙及びクレーピング、(2)マシンワインダーによるカレンダー処理、(3)エンボス処理及びロール巻取り加工、の順で製造される、1枚の衛生薄葉紙をロール状に巻き取ってなる、トイレットティシュー等のロール状をなす衛生薄葉紙ロールであって、
エンボス処理及びロール巻取り加工において、カレンダー処理後の原反がエンボスユニット(エンボスロール)によってエンボス処理された後、巻取り機構によって巻き取られ、その後、所定幅に切られた衛生薄葉紙ロールであり、
エンボスの強さを制御するエンボスロールとゴムロールのニップ幅は、33mmであり、
衛生薄葉紙の坪量は、17.0g/m2であり、
衛生薄葉紙の紙厚は、測定荷重3.7kPaで、0.71mm/10枚であり、
衛生薄葉紙ロールの巻長は、148mであり、
衛生薄葉紙ロールの巻直径は、117mmであり、
風合は、HF(ハンドフィール)値を計算するティシューソフトネス測定装置TSAのソフトウェア上で自動的に取得され、アルゴリズムの種類によって変わることはない、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度(TS750)、6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)、押し込み圧力100mNと600mNの間でのサンプルの上下方向の変形変位量で表される剛性(D)について、
TS7(表面)が15.1dBV2rms、TS750t(表面)が18.3dBV2rms、TS750b(裏面)が26.4dBV2rms、D(表面)が3.4mmNである、
衛生薄葉紙ロール。」
(イ)実施例1の「衛生薄葉紙ロール」の製造に着目して
上記(ア)において、実施例1に着目して甲1の記載から認定した甲1実施例発明は、「(1)抄紙及びクレーピング、(2)マシンワインダーによるカレンダー処理、(3)エンボス処理及びロール巻取り加工、の順で製造」される「衛生薄葉紙ロール」であるから、甲1には、実施例1の「衛生薄葉紙ロール」の「製造」に着目すると、次の方法の発明(以下、「甲1実施例方法発明」という。)が記載されている。
<甲1実施例方法発明>
「甲1実施例発明の衛生薄葉紙ロールを製造する方法。」
(ウ)比較例2ないし4の「衛生薄葉紙ロール」に着目して
【表2】に示される比較例のうち、「衛生薄葉紙」の「坪量」が小さい「比較例2」ないし「比較例4」の「衛生薄葉紙ロール」に着目すると、甲1には、上記アより、次の発明(以下、「甲1比較例発明」という。)が 記載されている。
<甲1比較例発明>
「(1)抄紙及びクレーピング、(2)マシンワインダーによるカレンダー処理、(3)エンボス処理及びロール巻取り加工、の順で製造される、1枚の衛生薄葉紙をロール状に巻き取ってなる、トイレットティシュー等のロール状をなす衛生薄葉紙ロールであって、
エンボス処理及びロール巻取り加工において、カレンダー処理後の原反がエンボスユニット(エンボスロール)によってエンボス処理された後、巻取り機構によって巻き取られ、その後、所定幅に切られた衛生薄葉紙ロールであり、
エンボスの強さを制御するエンボスロールとゴムロールのニップ幅は、比較例2で18mm、比較例3で45mm、比較例4で18mmであり、
衛生薄葉紙の坪量は、比較例2で13.0g/m2、比較例3で12.2g/m2、比較例4で12.2g/m2であり、
衛生薄葉紙の紙厚は、測定荷重3.7kPaで、比較例2で0.50mm/10枚、比較例3で0.95mm/10枚、比較例4で0.30mm/10枚であり、
衛生薄葉紙ロールの巻長は、比較例2、比較例3、比較例4とも150mであり、
衛生薄葉紙ロールの巻直径は、比較例2で107mm、比較例3で109mm、比較例4で102mmであり、
風合は、HF(ハンドフィール)値を計算するティシューソフトネス測定装置TSAのソフトウェア上で自動的に取得され、アルゴリズムの種類によって変わることはない、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度(TS750)、6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)、押し込み圧力100mNと600mNの間でのサンプルの上下方向の変形変位量で表される剛性(D)について、
比較例2においてTS7(表面)が16.0dBV2rms、TS750t(表面)が28.8dBV2rms、TS750b(裏面)が30.2dBV2rms、D(表面)が3.5mmNであり、
比較例3においてTS7(表面)が13.3dBV2rms、TS750t(表面)が33.2dBV2rms、TS750b(裏面)が61.2dBV2rms、D(表面)が3.7mmNであり、
比較例4においてTS7(表面)が23.9dBV2rms、TS750t(表面)が11.5dBV2rms、TS750b(裏面)が12.0dBV2rms、D(表面)が2.9mmNである、
衛生薄葉紙ロール。」
(エ)比較例2ないし4の「衛生薄葉紙ロール」の「製造」に着目して
上記(ウ)において、比較例2ないし4に着目して甲1の記載から認定した甲1比較例発明は、「(1)抄紙及びクレーピング、(2)マシンワインダーによるカレンダー処理、(3)エンボス処理及びロール巻取り加工、の順で製造」される「衛生薄葉紙ロール」であるから、甲1には、比較例2ないし4の「衛生薄葉紙ロール」の「製造」に着目すると、次の方法の発明(以下、「甲1比較例方法発明」という。)が記載されている。
<甲1比較例方法発明>
「甲1比較例発明の衛生薄葉紙ロールを製造する方法。」
(2)甲2
甲2には、次の記載がある。
ア 「【0017】
本実施形態のエンボス10におけるエンボス凸部11は、平面視形状が楕円形であり、平面視面積が0.3~2.0mm2の範囲にある。なお、エンボス凸部は円形であってもよい。平面視面積とは真上から見たときのエンボス凸部の面積を示す。
楕円形とする場合、長辺と短辺の比率(長辺L1:短辺L2)を1:1~3:1とするのがよい。エンボス10が明瞭となる。また、一方の辺が長くなりすぎると形状が線に近づき、長辺の端が尖ってくるため、肌触りが悪くなる。
本実施形態の衛生薄葉紙X1では、この楕円形のエンボス凸部11が1cm2あたり10~30個の範囲で規則的に配されている。
なお、本実施形態はシングルエンボスであるから、対応するエンボス凹部12も同形状、同個数である。」
イ 「【0021】
本発明では、プライ数については特に限定されないが、ティシュペーパー用途であれば1~3プライ程度、好適には2プライである。図示の形態は2プライである。
他方、本発明では衛生薄葉紙の坪量は、特に限定されない。ただし、本発明はティシュペーパーのような比較的低坪量の衛生薄葉紙において特に効果的であり、JIS P 8124による坪量が、プライ数に関係なく、全体として10~40g/m2である場合により効果的となる。なお、複数プライ数とする場合には、前記坪量の範囲内に収まるように、各プライの坪量を調整する。」
ウ 「【0028】
エンボス付与は、図4に示されるように、ニップロール30とエンボスパターンを有するエンボスロール40とで構成される一対のエンボス付与ロール間に被加工衛生薄葉紙Y1を通し、前記エンボスパターンを被加工衛生薄葉紙Y1に押しつけて付与する。
本実施形態のエンボロール40は、図5に示すような楕円錐台の頂縁が面取りされた立体形状のエンボス付与凸部4,4…が、1cm2あたり10~30個形成されている。図5中、面取り部分は符号4rで示す。エンボス付与凸部4の個数が、10個/cm2未満であると、付与されるエンボスが少なくなり嵩高とならず、厚さを感じにくいものとなり。さらに、非エンボス部分との差が感じられやすく肌触りが悪いものとなる。30個/cm2を超えると、所望の高さのエンボスを得ることが困難となり嵩高さを発現させ難くなる。
【0029】
なお、エンボス付与凸部4は、頂縁が面取りされている円錐台、頂縁が面取りされていない円錐台及び楕円錐台をも採用できる。好適な例は、図示例の楕円錐台の頂縁を面取りした立体形状である。頂縁が面取りされていると、付与されるエンボス凸部にエッジが形成されなくなり、似半球状のエンボス凸部が形成される。これにより、エンボス凸部形成面の滑らかさの発現性が向上する。なお、面取り部分4rの曲率半径Rは、0.1~0.8であるのが望ましい。
【0030】
さらに、エンボス付与凸部4は、頂面部4tの面積が0.2~1.0mm2、テーパー角θが10~50度、より好ましくはθが13~45度、高さ4hが0.3~1.5mmであるのがよい。これらの範囲とすると厚さ感、嵩高感の発現性に優れる。なお、面取りした形状の場合の頂面部の面積は、面取り前の頂面の面積とする。
他方、本実施の形態におけるエンボス付与凸部4は、その一つの平面視面積、すなわちエンボス付与凸部の底面部4bの面積は、付与するエンボスの大きさと同等又はそれ以上の大きさを基本とするが、特に限定されない。ニップ圧に応じて適宜定めることができる。」
エ 「【0033】
エンボス付与するにあたってのニップ圧(エンボス圧、線圧とも言われる)は、5~30kgf/cm、好ましくは10~25kgf/cmとなるように行う。ニップ圧が低すぎると、エンボスが薄くなりすぎ厚み感、嵩高さ感が十分に得られないおそれがある。他方、ニップ圧が高すぎると、被加工衛生薄葉紙がちぎれてしまうおそれがある。
他方、エンボス付与するにあたっては、2プライでこれを1組とし5組重ねたときの厚さが、エンボス付与後に1.1~1.8倍となるように、ニップ圧の調整と被加工衛生薄葉紙の厚さを選択するのがよい。嵩高感、厚さ感がより感じられるようになる。」
2 取消理由通知に記載した取消理由について
取消理由通知に記載した取消理由は、本件訂正前の請求項1ないし7に係る発明について、甲1に記載された比較例2ないし4に係る発明及び甲2に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである、というものである(上記第4の3)。
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と、甲1における比較例2ないし4を基礎として上記1(1)エ(ウ)に認定した甲1比較例発明とを対比する。
甲1比較例発明における、「1枚の衛生薄葉紙をロール状に巻き取ってなる、トイレットティシュー等のロール状をなす衛生薄葉紙ロール」は、本件発明1における、「1プライのトイレットペーパーを巻き取ってロール状としたトイレットロール」に相当する。
甲1比較例発明において、「衛生薄葉紙ロールの巻長」が「比較例2、比較例3、比較例4とも150m」である点は、本件発明1において、「前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下で」ある構成に相当する。
甲1比較例発明において、「衛生薄葉紙ロール」が、「比較例2」ないし「比較例4」のいずれについても、「エンボス処理及びロール巻取り加工において、カレンダー処理後の原反がエンボスユニットによってエンボス処理された後、巻取り機構によって巻き取られ、その後、所定幅に切られた」ものである構成は、「エンボス処理」された「衛生薄葉紙ロール」にはエンボス処理によるパターンが形成されることが技術常識から明らかであることをふまえると、本件発明1において、「前記トイレットペーパーは、前記エンボス加工により形成されたパターンを有」する構成に相当する。
以上を整理すると、本件発明1と甲1比較例発明とは、
「1プライのトイレットペーパーを巻き取ってロール状としたトイレットロールであって、
前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下であり、
前記トイレットペーパーは、前記エンボス加工により形成されたエンボスパターンを有する、トイレットロール。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
「巻径」に関し、
本件発明1においては、「巻径が110mm以上120mm以下」と特定されているのに対し、
甲1比較例発明においては、そうなっていない点。
<相違点2>
「坪量」に関し、
本件発明1においては、「前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が14g/m2以上16g/m2以下」と特定されているのに対し、
甲1比較例発明においては、「1枚の衛生薄葉紙をロール状に巻き取って」なる「衛生薄葉紙ロール」をなす「衛生薄葉紙」の「坪量」が、「比較例2で13.0g/m2、比較例3で12.2g/m2、比較例4で12.2g/m2」である点。
<相違点3>
「エンボスパターン」に関し、
本件発明1においては、「前記エンボス密度は10個/cm2以上30個/cm2以下」であると特定されているのに対し、
甲1比較例発明においては、エンボス密度が特定されていない点。
<相違点4>
「トイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚み」に関し、
本件発明1においては、「180μm以上300μm以下」と特定されているのに対し、
甲1比較例発明においては、そうなっているか不明な点。
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点2から、判断する。
(ア)相違点2について
上記相違点2について判断する。
甲1には、衛生薄葉紙の坪量を17.0g/cm2とした実施例1(【表1】参照)が記載されるとともに、衛生薄葉紙の1枚当たりの坪量として16.5g/m2未満または21.5g/m2を超えることは避けるべきことが、記載されている(段落【0012】)。
甲1において、甲1比較例発明を認定する基礎とした比較例2ないし4は、坪量については16.5~21.5g/m2の範囲が好ましいことを前提として、当該好適範囲より坪量を下げると、破れにくさが劣ることを示す趣旨で(段落【0041】及び【0042】参照)、実施例と同程度の具体的構成が説明されているものである。
そのため、比較例2ないし4について特定されたパラメータを、坪量も含めて維持したうえで、特に詳細に特定されていないエンボス密度等について、採用するであろう蓋然性が高い適宜の値とする程度のことは別として、比較例としての性質を示すために採用された具体的パラメータである坪量について、変更する動機付けが、比較例2ないし4に内在されていたということはできない。
坪量に関し、甲1には、衛生薄葉紙の坪量を17.0g/cm2とした実施例1を含む実施例1ないし9(【表1】参照)が記載されるとともに、衛生薄葉紙の1枚当たりの坪量として16.5g/m2未満または21.5g/m2を超えることは避けるべきことが、記載されている(段落【0012】)。
しかしながら、甲1のこれらの記載を考慮して、坪量について好適な値を採用するのであれば、その他のパラメータも含めて実施例1ないし9で特定される値とするか、少なくとも好適範囲とされる16.5g/m2~21.5g/m2の範囲とすることが、甲1の記載に基づく自然な選択である。これに反し、比較例2ないし4を出発点としながら、坪量の値について、比較例2ないし4で特定される値を離れ、かつ、甲1において避けるべきとされる範囲の中から、相違点2に係る「14g/m2以上16g/m2以下」に該当する値へと変更することは、甲1における全ての記載を総合しても、動機付けがあったということができない。
坪量に関し、甲2には、エンボス密度について上記1(2)アないしエに摘記した事項が記載されており、同イに摘記した段落【0021】には、甲2に記載されるエンボス密度が効果的に適用される対象として、「ティシュペーパーのような比較的低坪量の衛生薄葉紙」であり「坪量が、プライ数に関係なく、全体として10~40g/m2である場合」と記載されている。
しかしながら、甲2における上記記載は、「ティシュペーパー」も含む「比較的低坪量の衛生薄葉紙」として、坪量について「10~40g/m2」という数値範囲があり得ることを一般的に示すにとどまる。そして、ティシュペーパーも含む各種の衛生薄葉紙について、一般的に広い坪量の範囲をとることがあり得るからといって、甲1の比較例2ないし4を出発点として、同比較例において採用された具体的な坪量を離れ、かつ甲1において好適とされた坪量の範囲とも異なる特定の坪量を採用することについて、動機付けがあったということはできない。
摘記を省略するが、甲3ないし甲20にも、トイレットロールに関する各種の記載がされており、坪量に関する記載を総合すれば、トイレットロールの坪量として一般論としては種々の値があり得ると理解される。
しかしながら、甲2について上述したと同様に、トイレットロールの坪量として、一般論としては種々の値があり得るからといって、甲1の比較例2ないし4を出発点として、同比較例において採用された具体的な坪量を離れ、かつ甲1において好適とされた坪量の範囲とも異なる特定の坪量を採用することについて、動機付けがあったということはできない。
したがって、甲1比較例発明において、坪量の値を変更して上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、たとえ甲1における実施例の記載、及び甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、当業者にとって容易であったものではない。
(イ)小括
上記(ア)のとおり、甲1比較例発明を出発点として、上記相違点2に係る本件発明1の構成をとることは、たとえ甲1における実施例の記載、及び甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、当業者にとって容易であったものではない。
したがって、その余の相違点1、相違点3及び相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1比較例発明において、たとえ甲1における実施例の記載、及び甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1の構成を全て有し、さらに構成を付加したものである。
そして、上記(1)に示したとおり、本件発明1は、甲1比較例発明において、たとえ甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明2ないし5における付加的構成について検討するまでもなく、本件発明2ないし5は、甲1比較例発明において、たとえ甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明6について
ア 対比
本件発明6と甲1比較例方法発明とを対比する。
甲1比較例方法発明が、「衛生薄葉紙ロールを製造する方法」である点は、本件発明6が、「トイレットロールの製造方法」である点に相当する。
甲1比較例方法発明が、「1枚の衛生薄葉紙」をロール状に巻き取ってなる、「トイレットティシュー」等のロール状をなす衛生薄葉紙ロールを製造するうえで、「エンボスユニット(エンボスロール)」による「エンボス処理」を含む構成は、「エンボス処理」を行った衛生薄葉紙にはエンボスのパターンが形成されることが技術常識であることをふまえると、本件発明6が、「1プライのトイレットペーパー」に、「エンボスパターンを構成する複数の凸構造が設置されたエンボスロールでエンボスパターンを形成する工程」である「エンボス加工を施す工程」を含む構成に相当する。
甲1比較例方法発明における「巻長」については、上記(1)アで甲1比較例発明と本件発明1とを対比したと同様に、本件発明6における「前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下で」ある構成に相当する。
以上を整理すると、本件発明6と甲1比較例方法発明とは、
「1プライのトイレットペーパーにエンボス加工を施す工程と、
エンボス加工を施したトイレットペーパーをロール状に巻き取る工程とを含むトイレットロールの製造方法であって、
前記エンボス加工を施す工程は、1プライのトイレットペーパーに、エンボスパターンを構成する複数の凸構造が設置されたエンボスロールでエンボスパターンを形成する工程であり、
前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下である、
トイレットロールの製造方法。」
の点で一致し、次の点で相違する。
<相違点5>
「エンボス加工」における「圧力」に関し、
本件発明6では、「エンボスロールを8kgf/cm以上20kgf/cm以下の圧力で型押し」すると特定されているのに対し、
甲1比較例方法発明では、「エンボスの強さを制御するエンボスロールとゴムロールのニップ幅」が「比較例2で18mm、比較例3で45mm、比較例4で18mm」と特定されているものの、「エンボスロール」に加える「圧力」は不明である点。
<相違点6>
「巻径」に関し、
本件発明6においては、「巻径が110mm以上120mm以下」と特定されているのに対し、
甲1比較例方法発明においては、そうなっていない点。
<相違点7>
「エンボスパターン」に関し、
本件発明6においては、「前記エンボス密度は10個/cm2以上30個/cm2以下」であると特定されているのに対し、
甲1比較例方法発明においては、エンボス密度が特定されていない点。
<相違点8>
「坪量」に関し、
本件発明6においては、「前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が14g/m2以上16g/m2以下」と特定されているのに対し、
甲1比較例方法発明においては、「1枚の衛生薄葉紙をロール状に巻き取って」なる「衛生薄葉紙ロール」をなす「衛生薄葉紙」の「坪量」が、「比較例2で13.0g/m2、比較例3で12.2g/m2、比較例4で12.2g/m2」である点。
<相違点9>
「トイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚み」に関し、
本件発明6においては、「180μm以上300μm以下」と特定されているのに対し、
甲1比較例方法発明においては、そうなっているか不明な点。
イ 判断
事案に鑑み、上記相違点8から、判断する。
(ア)相違点8について
上記相違点8について、判断する。
本件発明6と甲1比較例方法発明との上記相違点8は、本件発明1と甲1比較例発明との相違点2と、実質的に同じ相違点である。
そして、上記(1)イ(ア)において、相違点2について検討したと同様の理由から、甲1比較例方法発明を出発点として、上記相違点8に係る本件発明6の構成をとることは、当業者にとって、たとえ甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、動機付けがあったということができない。
したがって、その余の相違点5ないし7及び相違点9について検討するまでもなく、本件発明6は、甲1比較例方法発明において、たとえ甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明7について
本件発明7は、本件発明6の構成を全て有し、さらに構成を付加したものである。
そして、上記(3)に示したとおり、本件発明6は、甲1比較例方法発明において、たとえ甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明7における付加的構成について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1比較例方法発明において、たとえ甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)取消理由通知に記載した取消理由についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし7は、取消理由通知に記載した取消理由によって、取り消されるべきものではない。
3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)甲1に記載された実施例に係る発明を主たる引用発明とした、進歩性欠如
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由のうち、進歩性欠如に係る特許異議申立理由は、上記第4の2(1)イに示したとおりである。
なお、進歩性に係る特許異議申立理由のうち、上記第4の2(1)アに示した理由については、上記2に判断したとおりである。
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と、甲1の実施例1に着目して上記1(1)エ(ア)に認定した甲1実施例発明とを、対比する。
甲1実施例発明における、「1枚の衛生薄葉紙をロール状に巻き取ってなる、トイレットティシュー等のロール状をなす衛生薄葉紙ロール」は、本件発明1における、「1プライのトイレットペーパーを巻き取ってロール状としたトイレットロール」に相当する。
甲1実施例発明において、「衛生薄葉紙ロールの巻長」が「148m」である点は、本件発明1において、「前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下で」ある構成に相当する。
甲1実施例発明において、「衛生薄葉紙ロールの巻直径」が「117mm」である点は、本件発明1において、「巻径が110mm以上120mm以下で」ある構成に相当する。
甲1実施例発明において、「衛生薄葉紙ロール」が、「エンボス処理及びロール巻取り加工において、カレンダー処理後の原反がエンボスユニットによってエンボス処理された後、巻取り機構によって巻き取られ、その後、所定幅に切られた」ものである構成は、「エンボス処理」された「衛生薄葉紙ロール」にはエンボス処理によるパターンが形成されることが技術常識から明らかであることをふまえると、本件発明1において、「前記トイレットペーパーは、前記エンボス加工により形成されたパターンを有」する構成に相当する。
以上を整理すると、本件発明1と甲1実施例発明とは、
「1プライのトイレットペーパーを巻き取ってロール状としたトイレットロールであって、
前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下であり、
巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーは、前記エンボス加工により形成されたエンボスパターンを有する、トイレットロール。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点10>
「坪量」に関し、
本件発明1においては、「前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が14g/m2以上16g/m2以下」と特定されているのに対し、
甲1実施例発明においては、「1枚の衛生薄葉紙をロール状に巻き取って」なる「衛生薄葉紙ロール」をなす「衛生薄葉紙」の「坪量」が、「17.0g/m2」である点。
<相違点11>
「エンボスパターン」に関し、
本件発明1においては、「前記エンボス密度は10個/cm2以上30個/cm2以下」であると特定されているのに対し、
甲1実施例発明においては、エンボス密度が特定されていない点。
<相違点12>
「トイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚み」に関し、
本件発明1においては、「180μm以上300μm以下」と特定されているのに対し、
甲1実施例発明においては、そうなっているか不明な点。
(イ)相違点についての判断
a 相違点10について
上記相違点10について判断する。
甲1には、衛生薄葉紙の1枚当たりの坪量として16.5g/m2未満または21.5g/m2を超えることは避けるべきことが、記載されている(段落【0012】)。甲1の請求項1においても、衛生薄葉紙の1枚当たりの坪量の範囲は、「16.5~21.5g/m2」とされている。
甲1には、坪量を「13.0g/m2」又は「12.2g/m2」とした、比較例2ないし4も記載されている。しかしながら、比較例2ないし4は、坪量については16.5~21.5g/m2の範囲が好ましいことを前提として、当該好適範囲より坪量を下げると、破れにくさが劣ることを示す趣旨で(段落【0041】及び【0042】参照)、実施例と同程度の具体的構成が説明されているものであるから、甲1実施例発明において、比較例2ないし4の記載があるからといって、坪量について、実施例1で特定される値、及び請求項1に記載される範囲を離れて、甲1では避けるべきとされる範囲の中から、相違点10に係る「14g/m2以上16g/m2以下」に該当する値へと変更することは、甲1における全ての記載を総合しても、動機付けがあったということができない。
上記2(1)イ(ア)において、本件発明1と甲1比較例発明との相違点2に関して言及したように、甲2ないし甲20には、トイレットロールの坪量として、一般論としては種々の値があり得ることが示されている。
しかしながら、トイレットロールの坪量として、一般論としては種々の値があり得るからといって、甲1の実施例1を出発点として、同実施例において採用された具体的な坪量を離れ、かつ甲1において好適とされた坪量の範囲とも異なる特定の坪量を採用することについて、動機付けがあったということはできない。
したがって、甲1実施例発明において、坪量の値を変更して上記相違点10に係る本件発明1の構成とすることは、たとえ甲1における比較例を含む全ての記載、及び甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、当業者にとって容易であったものではない。
b 小括
上記aのとおり、甲1実施例発明を出発点として、上記相違点10に係る本件発明1の構成をとることは、たとえ甲1における比較例を含む全ての記載、及び甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、当業者にとって容易であったものではない。
したがって、その余の相違点11及び相違点12について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1実施例発明において、たとえ甲1における比較例を含む全ての記載、甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1の構成を全て有し、さらに構成を付加したものである。
そして、上記アに示したとおり、本件発明1は、甲1実施例発明において、たとえ甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明2ないし5における付加的構成について検討するまでもなく、本件発明2ないし5は、甲1実施例発明において、たとえ甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明6について
(ア)対比
本件発明6と甲1実施例方法発明とを対比する。
甲1実施例方法発明が、「衛生薄葉紙ロールを製造する方法」である点は、本件発明6が、「トイレットロールの製造方法」である点に相当する。
甲1実施例方法発明が、「1枚の衛生薄葉紙」をロール状に巻き取ってなる、「トイレットティシュー」等のロール状をなす衛生薄葉紙ロールを製造するうえで、「エンボスユニット(エンボスロール)」による「エンボス処理」を含む構成は、「エンボス処理」を行った衛生薄葉紙にはエンボスのパターンが形成されることが技術常識であることをふまえると、本件発明6が、「1プライのトイレットペーパー」に、「エンボスパターンを構成する複数の凸構造が設置されたエンボスロールでエンボスパターンを形成する工程」である「エンボス加工を施す工程」を含む構成に相当する。
甲1実施例方法発明における「巻長」については、上記ア(ア)で甲1実施例発明と本件発明1とを対比したと同様に、本件発明6における「前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下で」ある構成に相当する。
甲1実施例方法発明における「巻直径」については、上記ア(ア)で甲1実施例発明と本件発明1とを対比したと同様に、本件発明6における「巻径が110mm以上120mm以下で」ある構成に相当する。
以上を整理すると、本件発明6と甲1実施例方法発明とは、
「1プライのトイレットペーパーにエンボス加工を施す工程と、
エンボス加工を施したトイレットペーパーをロール状に巻き取る工程とを含むトイレットロールの製造方法であって、
前記エンボス加工を施す工程は、1プライのトイレットペーパーに、エンボスパターンを構成する複数の凸構造が設置されたエンボスロールでエンボスパターンを形成する工程であり、
前記トイレットロールの巻長が95m以上150m以下であり、
巻径が110mm以上120mm以下である、
トイレットロールの製造方法。」
の点で一致し、次の点で相違する。
<相違点13>
「エンボス加工」における「圧力」に関し、
本件発明6では、「エンボスロールを8kgf/cm以上20kgf/cm以下の圧力で型押し」すると特定されているのに対し、
甲1実施例方法発明では、「エンボスの強さを制御するエンボスロールとゴムロールのニップ幅」が「33mm」と特定されているものの、「エンボスロール」に加える「圧力」は不明である点。
<相違点14>
「エンボスパターン」に関し、
本件発明6においては、「前記エンボス密度は10個/cm2以上30個/cm2以下」であると特定されているのに対し、
甲1実施例方法発明においては、エンボス密度が特定されていない点。
<相違点15>
「坪量」に関し、
本件発明6においては、「前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が14g/m2以上16g/m2以下」と特定されているのに対し、
甲1実施例方法発明においては、「1枚の衛生薄葉紙をロール状に巻き取って」なる「衛生薄葉紙ロール」をなす「衛生薄葉紙」の「坪量」が、「17.0g/m2」である点。
<相違点16>
「トイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚み」に関し、
本件発明6においては、「180μm以上300μm以下」と特定されているのに対し、
甲1実施例方法発明においては、そうなっているか不明な点。
(イ)判断
事案に鑑み、上記相違点15から、判断する。
a 相違点15について
上記相違点15について、判断する。
本件発明6と甲1実施例方法発明との上記相違点15は、本件発明1と甲1実施例発明との相違点10と、実質的に同じ相違点である。
そして、上記ア(イ)aにおいて、上記相違点10について検討したと同様の理由から、甲1実施例方法発明を出発点として、上記相違点15に係る本件発明6の構成をとることは、当業者にとって、たとえ甲1におけるその余の記載、及び甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、動機付けがあったということができない。
したがって、甲1実施例方法発明において、坪量の値を変更して上記相違点15に係る本件発明6の構成とすることは、たとえ甲1における比較例を含む全ての記載、及び甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、当業者にとって容易であったものではない。
b 小括
上記aのとおり、甲1実施例方法発明を出発点として、上記相違点15に係る本件発明6の構成をとることは、たとえ甲1における比較例を含む全ての記載、及び甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、当業者にとって容易であったものではない。
したがって、その余の相違点13、相違点14及び相違点16について検討するまでもなく、本件発明6は、甲1実施例方法発明において、たとえ甲1における比較例を含む全ての記載、及び甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明7について
本件発明7は、本件発明6の構成を全て有し、さらに構成を付加したものである。
そして、上記ウに示したとおり、本件発明6は、甲1実施例方法発明において、たとえ甲1における比較例を含む全ての記載、及び甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明7における付加的構成について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1実施例方法発明において、たとえ甲1における比較例を含む全ての記載、及び甲2ないし甲20に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)実施可能要件違反について
ア 申立人の具体的主張
申立人は申立書において、トイレットロールの発明である本件発明1の実施可能要件に関し、発明の詳細な説明には実施例が3つしかなく、実施例において採用した具体的エンボス条件も説明されていないから、本件発明1において特定されるパラメータの条件を満たすトイレットロールのうち、実施例と異なるトイレットロールを製造するには、たとえ当業者であっても過度の試行錯誤を要する旨を主張している。
また、申立人は申立書において、本件発明2ないし5の実施可能要件に関し、実施例に示される製造条件のうち、どの製造条件を如何に調整すれば本件発明2ないし5において付加的に特定される構成を満たすことができるのか、具体的に説明されていないから、本件発明2ないし5に係るトイレットロールを製造するには、たとえ当業者であっても過度の試行錯誤を要する旨を主張している。
また、申立人は申立書において、トイレットロールの製造方法の発明である本件発明6の実施可能要件に関し、製造方法の発明としてみても、トイレットロールの発明である本件発明1と同様に、実施例と異なるトイレットロールの製造方法を実施するには、たとえ当業者であっても過度の試行錯誤を要する旨を主張している。
また、申立人は申立書において、本件発明7の実施可能要件に関し、本件発明7においてはエンボスロールの凸構造の高さが特定されているものの、凸構造の高さの下限値は特定されておらず、実施例において採用した具体的なエンボス条件も説明されていないから、本件発明7に係るトイレットロールの製造方法を実施するには、たとえ当業者であっても過度の試行錯誤を要する旨を主張している。(申立書第131頁下から10行~第138頁下から7行)
イ 具体的主張についての当審の判断
(ア)判断基準
本件発明1ないし5は物の発明であるところ、物の発明の実施とは、その物の生産及び使用等をする行為であるから、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
本件発明6及び7は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用し、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
(イ)発明の詳細な説明における記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
a 「【背景技術】
【0002】
トイレットペーパー製品は、トイレットペーパーウェブを1枚又は2枚以上に重ねたトイレットペーパーを所定の大きさに切断して製造される。一般的には長尺のトイレットペーパーがロール状に巻回されてなるトイレットロール(ロール状トイレットペーパー)が多用されている。1枚のトイレットペーパーウェブからなるトイレットペーパーは1プライのトイレットペーパーと称され、2枚重ねのトイレットペーパーウェブからなるトイレットペーパーは2プライのトイレットペーパーと称されている。
【0003】
トイレットペーパーは、例えば、12ロールや16ロールといった単位で包装されたものが広く流通している。しかし、これらの包装体は嵩張るため、持ち運べる量は限られている。また、公共施設等においてはトイレットロールの保管スペースも不足しがちである。このため、トイレットロールを構成するトイレットペーパーの紙厚を調整したり、ロール状に巻き取る際の巻き締め力を強くすることで巻長を長くしたロール製品の利用も進んでいる(例えば、特許文献1及び2)。
【0004】
特許文献1には、1枚の衛生薄葉紙をロール状に巻き取った衛生薄葉紙ロールであって、衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が16.5~21.5g/m2、かつ紙厚が0.6~1.1mm/10枚以下であり、衛生薄葉紙ロールの巻長が120~185m、巻直径が100~132mmである衛生薄葉紙ロールが開示されている。ここでは、坪量を下げずに、風合いや使用感を向上させることが検討されている。
また、特許文献2には、フィルムからなる包装袋にロール製品を複数個収納してなるロール製品パッケージが開示されている。特許文献2には、ロール製品が1プライの場合、坪量が16.5~21.5g/m2であることが好ましいと記載されている。」
b 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の巻長を長くしたトイレットロールにおいては、巻長を長くするために、トイレットペーパーをきつく巻き締めるため、トイレットペーパーの強度を高める必要があった。しかしながら、巻き締めに耐え得るトイレットペーパーにおいては、強度が高められている一方で、それ自体の柔らかさや肌触りが悪化する傾向にあった。
【0007】
また、1プライのトイレットロールにおいては、巻長を長くするために、巻き取り工程で得られる巻取が固くなり、所定の幅に断裁する際に、コア芯(紙管)が潰れる場合があった。コア芯(紙管)が潰れたトイレットロールは、外観が悪化するだけでなく、使用時にトイレットペーパーをスムーズに引き出すことができないという問題も引き起こす。
【0008】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、良好な肌触りを有するトイレットペーパーから構成されたトイレットロールを提供することを目的として検討を進めた。また、本発明者らは、コア芯潰れのないトイレットロールを提供することも目的として検討を進めた。」
c 「【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、1プライのトイレットロールにおいて、トイレットロールを構成するトイレットペーパーの坪量を所定の範囲とし、かつトイレットペーパーにエンボスを形成することで、巻長の長いトイレットロールを構成するトイレットペーパーにおいてもその肌触りを高め得ることを見出した。さらに、本発明者らは、このようなトイレットロールにおいては、コア芯潰れの発生がないことを発見し、本発明を完成するに至った。」
d 「【0017】
本発明のトイレットロールの巻長(巻き長さ)は95m以上150m以下である。このような巻長を有するトイレットロールは、いわゆる長巻トイレットロールと呼ばれることもある。また、2倍巻トイレットロールもしくは3倍巻トイレットロールと称されることもある。
【0018】
本発明のトイレットロールの巻径(外径)は、110mm以上120mm以下であることが好ましい。ここで、トイレットロールの巻径は、図2においてRで表される長さである。トイレットロールの巻径を上記範囲内とすることにより、あらゆるトイレットロールホルダーにトイレットロールを設置することができ、使用場面が制限されることはない。
【0019】
本発明のトイレットロールを構成するトイレットペーパーの1プライ当たりの坪量は、10g/m2以上16g/m2以下である。トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量は、10g/m2以上であればよく、11g/m2以上であることが好ましく、12g/m2以上であることがより好ましい。また、トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量は、16g/m2以下であればよく、15.5g/m2以下であることが好ましい。
本発明においては、トイレットペーパーの坪量を上記範囲内とすることにより、所望の巻径を有するトイレットロールを製造しやすくなる。通常、巻長の長いトイレットロールを製造する際には、ロール状に巻き取る際の巻き締め力を強くすることによって巻径をコントロールしている。しかし、本発明においては、ロール状に巻き取る際の巻き締め力を従来法における強さまで強くしなくても所望の巻径を有するトイレットロールを製造することができる。また、巻取の固さを抑えることで所定の幅に断裁する際にコア芯(紙管)潰れの発生をより効果的に抑制することができる。
【0020】
本発明のトイレットロールを構成する1プライのトイレットペーパーにはエンボス加工が施されている。本発明においては、1プライのトイレットペーパーの幅方向に略均一にエンボスが形成される。ここで、幅方向に略均一にエンボスが形成された場合、長さ方向の任意点から±0.5cm(長さ1cm)の長さを有する領域において、幅方向に略均一密度のエンボスが観測される。また、本発明においては、エンボスは長さ方向にも略均一にエンボスが形成されることが好ましい。すなわち、1プライのトイレットペーパーの全領域にわたって、略均一にエンボスが形成される。図1に示されたトイレットロールにおいて、巻きとかれたトイレットペーパーに施されているエンボスの様子は黒点で図示されている。図1のトイレットペーパーのエンボス加工の様子からもわかるように、本発明においては、トイレットペーパーの全領域にわたって、略均一にエンボスが形成されている。
【0021】
ここで、トイレットペーパーを幅方向に3分割した際に、隣り合う領域のエンボス密度の差は、それぞれ10%以下であることが好ましい。具体的には、長さ方向の任意点から±0.5cm(長さ1cm)の長さを有する領域をサンプルとして切り出し、このサンプルを幅方向に3分割する。この場合、端縁から順に第1領域、第2領域、第3領域とに分割される。本発明においては、第1領域と第2領域のエンボス密度の差が10%以下であることが好ましく、第2領域と第3領域のエンボス密度の差も10%以下であることが好ましい。なお、第1領域と第3領域のエンボス密度の差も10%以下であることが好ましい。
【0022】
トイレットペーパーのエンボスパターンでは、1個のエンボス直径は0.5mm以上2mm以下が好ましく、0.7mm以上1.3mm以下がより好ましい。またエンボス密度は10個/cm2以上30個/cm2以下が好ましく、15個/cm2以上25個/cm2以下がより好ましい。
【0023】
エンボス加工は、エンボスの付与されたエンボスロールを幅方向の全域に当てて、加圧することで行う。エンボスロールの押し込み量は、トイレットペーパーの厚みが後述する条件を満たすように調整することが好ましい。
【0024】
本発明のトイレットロールを構成する1プライのトイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚み(Tm)は75μm以上であることが好ましく、80μm以上であることがより好ましい。また、厚み(Tm)は110μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。厚み(Tm)を上記範囲内とすることにより、トイレットペーパーの厚み感をしっかりと感じとることができ、肌触りや使用感に優れたトイレットペーパーを得ることができる。
【0025】
また、本発明のトイレットロールを構成する1プライのトイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚み(T0)は180μm以上であることが好ましく、190μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることがさらに好ましく、210μm以上であることが特に好ましい。また、厚み(T0)は300μm以下であることが好ましく、280μm以下であることがより好ましく、260μm以下であることがさらに好ましく、240μm以下であることが特に好ましい。厚み(T0)を上記範囲内とすることによっても、トイレットペーパーの肌触りを高めることができる。
【0026】
ここで、上述した厚み(T0)及び厚み(Tm)の値はKES FB3-AUTO-A自動化圧縮試験機(カトーテック株式会社製)を用いて測定することができる。具体的には、KES FB3-AUTO-A自動化圧縮試験機の2cm2の加圧板と受圧板間に10cm×20cmの大きさにカットしたサンプルを設置し、50秒/mmの速さで加圧板を下降させ、その際に変化する圧力とその時のサンプルの厚みを測定する。T0は圧力が0.5gf/cm2におけるサンプルの厚み(mm)であり、Tmは圧力が50gf/cm2におけるサンプルの厚み(mm)である。T0及びTmの値はエンボスの凹面(エンボスロールを押し当てた面)を加圧板側として10回の測定を行い、得られた測定データからHampel identifierの方法で異常値を除外し、平均値として算出した値である。なお、上記サンプルの測定はISO187に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±2%)で行う。」
e 「【0048】
エンボス加工を施す工程では、1プライのトイレットペーパーウェブにエンボス加工が施される。エンボス加工は、エンボスパターンを構成する凸構造が設置されたエンボスロールとラバーロールとの間に1プライのトイレットペーパーウェブを通し、エンボスパターンを型押しすることによって行われる。エンボスロールのエンボス高さや、押し込み量、押し込み圧を変更することによって、所望のエンボス高さを有するエンボスを形成することができる。
ここで、エンボス加工に用いるエンボスロールには凸構造高さ0.75mm以上0.85mm以下の凸構造が設置されていることが好ましい。また、エンボスロールには凸構造密度(エンボス密度)が10個/cm2以上30個/cm2以下の略均一な凸構造が設置されていることが好ましい。そして、エンボス加工では、上記のエンボスロールを8kgf/cm以上20kgf/cm以下の圧力で型押しすることが好ましい。」
f 「【実施例】
【0051】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0052】
(実施例1)
針葉樹クラフトパルプ(NKP)23質量部、広葉樹クラフトパルプ(LKP)77質量部となるように混合したパルプスラリーを、ダブルディスクリファイナーを用いて叩解電力200Kwで叩解した。上記パルプスラリーに柔軟剤(星光PMC株式会社製)0.02質量部、湿潤紙力剤(星光PMC株式会社製)0.05質量部を添加して、抄紙用パルプスラリーを調製した。
調製した抄紙用パルプスラリーを、ツインワイヤーヤンキーマシンにより抄紙し、トイレットペーパーウェブ巻取を得た。なお、トイレットペーパーの坪量(1プライ)が表1に記載の通りとなるように抄紙条件を調整した。
得られた原紙巻取を加工機にかけ、巻き解いた後、エンボス加工を施した。その後、コア芯径39mmのコア芯に、サーフェイス方式で上記トイレットペーパーを巻き取った。サーフェイス方式の巻き取り工程では、表1の巻径になるようにライダーロールの押し付け圧を調整し、表1の長さになるように再度巻き取った。得られた巻取を所定の幅に断裁することで1プライのトイレットロールを得た。
【0053】
(実施例2)
坪量が表1に記載の通りとなるように、針葉樹クラフトパルプ(NKP)15質量部、広葉樹クラフトパルプ(LKP)85質量部となるように混合したパルプスラリーを叩解電力150Kwで叩解した以外は、実施例1と同様にして1プライのトイレットロールを得た。
【0054】
(実施例3)
坪量が表1に記載の通りとなるように、針葉樹クラフトパルプ(NKP)20質量部、広葉樹クラフトパルプ(LKP)75質量部となるように混合したパルプスラリーを叩解電力150Kwで叩解した以外は実施例1と同様にして1プライのトイレットロールを得た。
【0055】
(比較例1)
坪量が表1に記載の通りとなるように、針葉樹クラフトパルプ(NKP)23質量部、広葉樹クラフトパルプ(LKP)77質量部となるように混合したパルプスラリーを叩解電力250Kwで叩解し、柔軟剤の添加量を0.05質量部に変更した以外は実施例1と同様にして1プライのトイレットロールを得た。
(比較例2及び3)
比較例2及び3は、市販されている既知の製品である。
【0056】
(評価)
(坪量)
実施例及び比較例で得たトイレットペーパーの坪量はJIS P 8124に準拠して測定した。
【0057】
(引張強度)
実施例及び比較例で得たトイレットペーパーの引張強度は、サンプル幅15mm、引張速度50mm/分、スパン長100mmの条件で、横型引張試験機(熊谷理器社製)を用いて測定した。なお、引張強度は、1プライのトイレットペーパーの縦方向と横方向の両方向の強度を測定した。各々の方向について6サンプルの平均値を算出してそれぞれの引張強度とした。また、引張強度の測定は、ISO187に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±2%)で行った。」
g 「【0060】
(加工適性)
エンボス加工工程の後には、巻き取り工程が設けられる。巻き取り工程においては、所定長さ分の巻き取りを行い、その後、得られた巻取を所定の幅に断裁する。この断裁後の断面の状態を50ロール分観察し、トイレットロールのコア芯(紙管)の状態について3段階で評価を行った。表1に示した記号は下記の意味を示す。
<コア芯潰れ>
○:コア芯の潰れが発生せず正常
△:コア芯の潰れが1個以上10個未満において発生
×:コア芯の潰れが10個以上で発生
【0061】
(官能評価)
実施例及び比較例で得たトイレットペーパーについて、水準を隠した状態で官能評価を実施した。50人に製品を触ってもらい、製品の肌触りについて3段階で評価を行った。表1に示した記号は下記の意味を示す。
<肌触り>
○:優れている
△:やや劣る
×:劣る
【0062】
【表1】
[図:0001401667000003.jpg]
」
(ウ)判断基準に基づく判断
上記(ア)の判断基準に基づいて、判断する。
本件特許明細書の発明の詳細な説明において、上記(イ)に摘記した段落【0020】-【0022】には、エンボス加工に関し、エンボス直径及びエンボス密度の好適範囲が説明されている。また、同段落【0023】には、エンボスロールにより加圧を行う際の押し込み量について、「トイレットペーパーの厚みが後述する条件を満たすように調整する」ことが記載され、後続する段落【0024】-【0026】には、トイレットペーパーの厚みが満たすべき条件について、異なる2種類の圧力をかけた際の厚みTm及びT0について、それぞれ満たすべき範囲が、Tm及びT0の測定方法とともに、具体的に説明されている。
そして、同段落【0019】には、上記段落【0020】-【0022】に記載されるエンボス加工の前提となる好適な坪量の範囲が説明されているところ、本件発明1ないし7において、「トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量」は、段落【0019】に説明される「10g/m2以上16g/m2以下」のうち、【表1】に示される「実施例2」の「14.0」g/m2を下限とした、「14g/m2以上16g/m2以下」であると特定されている。
さらに、同段落【0048】には、エンボスロールの凸構造の好適な高さ、及びエンボスロールにより型押しを行う際の好適な圧力について、説明されている。
これら発明の詳細な説明における記載からすれば、トイレットロールという物の発明である本件発明1ないし5について、当業者がその物を生産し、使用するうえで、エンボス加工に関し、過度の試行錯誤を要する程に、発明の詳細な説明における記載が不足しているものではない。
また、トイレットロールの製造方法の発明である本件発明6及び7について、当業者がその物を生産する方法を使用し、その物を生産する方法により生産した物の使用をするうえで、過度の試行錯誤を要する程に、発明の詳細な説明における記載が不足しているものではない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1ないし5に係るトイレットロールを生産し、使用することができる程度の記載があるものである。
また、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明6及び7に係るトイレットロールの製造方法を使用し、当該製造方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるものである。
(エ)実施可能要件のまとめ
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1ないし7について、特許法36条4項1号に規定する実施可能要件を、充足する。
(3)サポート要件違反について
ア 申立人の具体的主張
申立人は申立書において、上記(2)アに示した実施可能要件に関する主張とあわせて、本件発明の課題である肌触りに大きく影響するエンボス条件について、実施例で採用する具体的条件が不明であるとともに、3つしかない実施例を離れた範囲まで本件発明1ないし7において特定されるパラメータ範囲は広がっているから、本件発明1ないし7は、発明の課題が解決できているとは認識できず、特許法36条6項1号に規定するサポート要件を満たしていない旨を主張している。(申立書第131頁下から10行~第138頁下から7行)
イ 具体的主張についての当審の判断
(ア)判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(イ)判断基準に基づく判断
上記(ア)の判断基準に基づいて、判断する。
a 解決しようとする課題
上記(2)イ(イ)に摘記した本件特許明細書の段落【0002】-【0009】の記載より、本件特許明細書において解決しようとする課題は、1プライのトイレットロールにおいて、巻長を長いものとしながら、巻き締めあるいは所定の幅に切断する際にコア芯潰れの発生がなく、肌触りもよいトイレットロール、及びその生産方法を提供することであると認められる。
b 課題を解決できると認識されるか否か
本件特許明細書の段落【0017】及び【0018】には、いわゆる長巻トイレットロールと呼んでよいトイレットロールの巻長として、「95m以上150m以下」であることが記載され、巻長及び巻締めの際にかける力と関係する巻径について、使用範囲が制限されることはない範囲として、「110mm以上120mm以下であることが好ましい」と記載されている。
本件特許明細書の段落【0019】には、巻長を長いものとしながら巻き締め力を従来ほど強くする必要がなく、所定の幅に断裁する際にもコア芯潰の発生を抑制することができる坪量の範囲として、「10g/m2以上16g/m2以下」とすることが、説明されている。
本件特許明細書の段落【0020】-【0026】には、トイレットペーパーの肌触りを優れたものとするためのエンボス加工に関して説明され、好適なエンボス密度について「10個/cm2以上30個/cm2以下」であること、及び、エンボスロールの押し込み量に関して調整するトイレットペーパーの厚みについて、「1プライのトイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚み(T0)」を「180μm以上」「300μm以下」とすることによって「トイレットペーパーの肌触りを高めることができる」ことが記載されている。
そして、本件特許明細書の段落【0051】-【0055】及び【表1】には、巻長及び巻径を「120m」及び「114mm」とし、坪量及び紙厚(T0)についてそれぞれ「15.2g/m2」及び「222μm」、「14.0g/m2」及び「230μm」、「15.3g/m2」及び「219μm」とした実施例1,実施例2及び実施例3について、コア芯潰れが発生せず肌触りが優れていたのに対し、坪量を「16.1g/m2」とした以外は実施例1と同様に製造し、巻長、巻径及び紙厚(T0)をそれぞれ「120m」、「114mm」及び「226μm」とした比較例1では、肌触りは実施例と同様に優れていたがコア芯潰が10以上で発生したことが示されている。
これら本件特許明細書の記載からすれば、1プライのトイレットペーパーを巻き取ったトイレットロールに関し、巻長、巻径、エンボスパターンの好適な密度、及び0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みである紙厚(T0)について、明細書に記載された好適な数値範囲とし、坪量について、明細書に記載された好適範囲のうち下限を実施例2に示される「14.0g/m2」とした、本件発明1ないし7は、上記aに示した発明の課題を解決できると、合理的に認識することができる。
したがって、本件発明1ないし7は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
c サポート要件のまとめ
よって、本件発明1ないし7は、特許法36条6項1号に規定するサポート要件を、充足する。
(4)明確性要件違反について
ア 申立人の具体的主張
申立人は申立書において、本件特許の請求項3は、エンボス深さの数値範囲について、「0.85mm以下である」ことのみを規定しており、エンボス深さの下限値が特定されていないから、発明の範囲が不明確であって、特許法36条6項2号の規定を満たしていない旨を主張している。
また、申立人は申立書において、本件特許の請求項7は、エンボスロールが有する凸構造の高さの数値範囲について、「0.85mm以下である」ことのみを規定しており、凸構造の高さの下限値が特定されていないから、発明の範囲が不明確であって、特許法36条6項2号の規定を満たしていない旨を主張している(申立書第138頁下から6行-第139頁第12行)。
イ 具体的主張についての当審の判断
(ア)判断基準
特許法36条6項2号の趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合に、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となることにより生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(イ)判断基準に基づく判断
上記(ア)の判断基準に基づいて、判断する。
a 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1が有する構成を全て有しているから、「1プライ当たりの坪量が14g/m2以上16g/m2以下」である「トイレットペーパー」に、「エンボス加工により形成されたエンボスパターン」であって、「エンボス密度は10個/cm2以上30個/cm2以下」である「エンボスパターン」について、「エンボス深さが0.85mm以下である」ことを特定しているものである。
また、本件発明3が有する本件発明1の構成のうち、「前記トイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上300μm以下である」という構成は、本件特許明細書の段落【0023】-【0025】の記載を踏まえると、エンボス加工の際にエンボスロールの押し込み量によって調整するエンボス加工後のトイレットペーパーの厚みのうち、比較的弱い圧力を加えた際の紙厚(T0)を、「180μm以上300μm以下」と特定するものである。
そうすると、本件発明3において、「エンボス深さ」について、「0.85mm以下」であることのみが特定されていても、エンボスの有無やエンボス密度が認識されない程極端に浅いエンボスや、「トイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚み」が「180μm以上」とならない深さのエンボスを有するトイレットロールについては、本件発明3の構成要件を充足しないと、明確に理解される。
したがって、本件発明3「エンボス」の構成は、明確に理解されるものであり、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確なものではない。
そして、本件発明3が有するその余の構成についても、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確な点はない。
b 本件発明7について
本件発明7は本件発明6の構成を全て有しているから、「エンボスロールを8kgf/cm以上20kgf/cm以下の圧力で型押し」することで、「1プライ当たりの坪量が14g/m2以上16g/m2以下」である「トイレットペーパー」に対して、エンボス加工後のトイレットペーパーの厚みのうち、比較的弱い圧力を加えた際の厚みとして、「0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上300μm以下である」ようにする、エンボスロールの「凸構造の高さ」について、「0.85mm以下である」ことを特定しているものである。
そうすると、本件発明7において、エンボスロールが有する「凸構造の高さ」について、「0.85mm以下」であることのみが特定されていても、エンボス加工後の「1プライ当たりの坪量が14g/m2以上16g/m2以下」であるトイレットペーパーに対して、「0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚み」が「180μm以上」とならないような、浅い高さの「凸構造」を有するエンボスロールを用いることは、本件発明7の構成要件を充足しないと、明確に理解される。
したがって、本件発明7の「凸構造」の構成は、明確に理解されるものであり、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確なものではない。
そして、本件発明7が有するその余の構成についても、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確な点はない。
c 明確性要件のまとめ
よって、本件発明3及び7は明確であり、特許法36条6項2号の規定を充足する。
4 申立人の意見書における主張について
(1)進歩性の欠如について
ア 申立人の主張
申立人は、令和5年3月30日付けの意見書において、本件発明1において特定される坪量の数値範囲である「14g/m2以上16g/m2以下」には格別の技術的意義がなく、とりわけ本件訂正により特定された下限値である「14g/m2以上」という境界値に臨界的意義がないから、坪量が本件発明より低い甲1の比較例2ないし4、及び、坪量が本件発明1より高い甲1の実施例または請求項1のいずれを出発点としても、坪量を変更して「14g/m2以上16g/m2以下」とすることは動機付けがあり、本件発明1は進歩性を有さない旨を主張している(同意見書第2頁第1行-第19頁最終行)。
また申立人は、本件発明2ないし7についても、本件発明1と同様の理由で、進歩性を有さない旨を主張している(同意見書第25頁第15行-第24行)。
イ 申立人の主張についての判断
(ア)本件発明1における坪量の数値範囲が、技術的意義のない構成であるか否かについて
本件特許明細書の段落【0019】には、巻長を長いものとしながら巻き締め力を従来ほど強くする必要がなく、所定の幅に断裁する際にもコア芯潰れの発生を抑制することができる坪量の範囲として、「10g/m2以上16g/m2以下」とすることが、説明されている。
そして、本件特許明細書の段落【0051】-【0057】及び【表1】には、坪量を「15.2g/m2」、「14.0g/m2」及び「15.3g/m2」実施例1、実施例2及び実施例3において、コア芯潰れが発生しなかったのに対し、坪量を「16.1g/m2」とした以外は実施例1と同様に製造した比較例1では、コア芯潰れが10以上で発生したことが示されている。なお、比較例2及び3については、市販品であるから、製造段階におけるコア芯潰れの有無についての評価対象となっていないことが明らかである。
そうすると、本件発明1において特定される坪量の数値範囲のうち、「16.0g/m2以下」の部分については、比較例1との対比より、コア芯潰れの発生を抑制するうえで、所定の技術的意義を有するものと理解される。
また、実施例1ないし3について、段落【0019】においてコア芯潰れの発生を抑制する観点から好適範囲と説明される「10g/m2以上16g/m2以下」のうち、比較的高い坪量であること、及び、「引張強度」についても試験を行ったうえで実施例としており、「引張強度」の結果についてより坪量が高い比較例1ないし3と大きな相違がないことをふまえると、本件発明1において特定される坪量の数値範囲のうち、実施例の最低値に対応する「14.0g/m2以上」の部分については、坪量を極端に下げることによる強度の低下といった不都合を生じないという点で、所定の技術的意義を有するものと理解される。
したがって、本件発明1において、坪量の数値範囲に係る「14.0g/m2以上16.0g/m2以下」という構成は、特定の引用発明と対比して相違点となった際には、当該特定の引用発明を出発点として、当該相違点に係る構成をとることについて、動機付けの有無も含めて、判断されるべき構成である。
(イ)甲1の比較例2ないし4に記載された発明を主たる引用発明とした、本件発明1の進歩性
上記2(1)イ(ア)において、本件発明1と甲1比較例発明との相違点2について判断したとおり、甲1における比較例2ないし4は、実施例と同程度の具体的構成は記載されているが、甲1に示される坪量の好適範囲を離れた比較例であって、低い坪量を採用したことにより破れにくさが劣ることを示すという位置づけである。
そして、甲1において、衛生薄葉紙の1枚当たりの坪量として、16.5g/m2未満または21.5g/m2を超えることは避けるべきことが、記載されている以上(段落【0012】)、坪量の値について、比較例2ないし4で特定される値を離れ、かつ、甲1において避けるべきとされる範囲の中から、相違点2に係る「14g/m2以上16g/m2以下」に該当する値へと変更することは、甲1における全ての記載を総合しても、動機付けがあったということができない。
また、トイレットロールの坪量として、一般論としては種々の値があり得るからといって、甲1の比較例2ないし4を出発点として、同比較例において採用された具体的な坪量を離れ、かつ甲1において好適とされた坪量の範囲とも異なる特定の坪量を採用することについて、動機付けがあったということはできない。
したがって、申立人による上記アの主張について検討しても、甲1比較例発明を主たる引用発明とした本件発明1の進歩性について、上記2(1)と異なる判断をすべき事情は見いだせない。
(ウ)甲1の実施例または請求項1に記載された発明を主たる引用発明とした、本件発明1の進歩性
上記3(1)ア(イ)aにおいて、本件発明1と甲1実施例発明との相違点10において判断したとおり、甲1実施例発明を出発点として、坪量について、実施例で特定される値、及び請求項1に記載される範囲のいずれからも離れて、甲1では避けるべきとされる範囲の中から、相違点10に係る「14g/m2以上16g/m2以下」に該当する値へと変更することは、甲1における全ての記載を総合しても、動機付けがあったということができない。
トイレットロールの坪量として、一般論としては種々の値があり得るからといって、甲1の実施例1を出発点として、同実施例において採用された具体的な坪量を離れ、かつ甲1において好適とされた坪量の範囲とも異なる特定の坪量を採用することについて、動機付けがあったということはできない。
甲1において、実施例1とは別の実施例、または請求項1を出発点とした場合にも、同様である。
したがって、申立人による上記アの主張について検討しても、甲1実施例発明を主たる引用発明とした本件発明1の進歩性について、上記3(1)アと異なる判断をすべき事情は見いだせない。
(エ)本件発明2ないし7の進歩性
本件発明2ないし7についても、坪量の数値範囲について、本件発明1に関して上記(ア)ないし(ウ)に指摘したと同様である。
したがって、申立人による上記アの主張について検討しても、甲1を主たる引用文献とした本件発明2ないし7の進歩性について、上記2(2)ないし(4)及び上記3(1)イないしエと異なる判断をすべき事情は見いだせない。
(2)実施可能要件違反及びサポート要件違反について
ア 申立人の主張
申立人は、令和5年3月30日付けの意見書において、本件発明1において特定される坪量の数値範囲である「14g/m2以上16g/m2以下」について、訂正前の「10g/m2以上16g/m2以下」の数値範囲との比較において新たな臨界的意義を有していることが、実施例によって検証されていなければ、実施可能要件違反及びサポート要件違反となる旨を、仮に臨界的意義がなければ設計事項として進歩性欠如となる旨に付言しつつ、主張している(同意見書第20頁第1行-第25頁第14行)。
また申立人は、本件発明2ないし7についても、本件発明1と同様の理由で、実施可能要件違反及びサポート要件違反となる旨進歩性を有さない旨を主張している(同意見書第25頁第25行-第26頁第2行)。
イ 申立人の主張についての判断
本件発明1における坪量の数値範囲が、所定の技術的意義を有することについては、上記(1)イ(ア)に示したとおりであり、申立人が実施可能要件違反及びサポート要件違反の主張と組み合わせる進歩性欠如の主張については、上記2、上記3(1)及び上記イ(イ)ないし(エ)に判断したとおりである。
実施可能要件、及びサポート要件については、上記3(2)イ(ア)、及び上記3(3)イ(ア)に示した判断基準によって判断されるべきものであり、当該判断基準に基づく判断は、上記3(2)イ(ウ)、及び上記3(3)イ(イ)に示したとおりである。
そして、申立人による上記アの主張について検討しても、当該判断を変更すべき事情は見いだせない。
第6 むすび
以上のとおり、本件訂正は全て認められるとともに、本件発明1ないし7に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701040